説明

ポリイミド樹脂ワニス及びそれを用いた絶縁電線、電機コイル、モータ

【課題】層間密着力及び導体との密着力が高く耐加工性に優れる絶縁層を形成可能なポリイミド樹脂ワニスを提供する。また耐加工性、耐熱性、機械的特性に優れる絶縁電線を提供する。
【解決手段】芳香族ジアミンと芳香族テトラカルボン酸二無水物とを反応して得られるポリイミド前駆体樹脂を主成分とするポリイミド樹脂ワニスであって、前記ポリイミド前駆体樹脂のイミド化後のイミド基濃度が28.0%以上33.0%以下である、ポリイミド樹脂ワニス。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は導体に塗布、焼付けして絶縁皮膜を形成することができるポリイミド樹脂ワニス、及びこのポリイミド樹脂ワニスを用いて形成された絶縁層を有する絶縁電線およびそれを用いた電機コイル、モータに関する。
【背景技術】
【0002】
モータ等のコイル用巻線として用いられる絶縁電線において、導体を被覆する絶縁層(絶縁皮膜)には、優れた絶縁性、導体に対する密着性、耐熱性、機械的強度等が求められている。絶縁層を形成する樹脂としてはポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエステルイミド樹脂等がある。
【0003】
また適用電圧が高い電気機器、例えば高電圧で使用されるモータ等では、電気機器を構成する絶縁電線に高電圧が印加され、その絶縁皮膜表面で部分放電(コロナ放電)が発生しやすくなる。コロナ放電の発生により局部的な温度上昇やオゾンやイオンの発生が引き起こされやすくなり、その結果絶縁電線の絶縁被膜に劣化が生じることで早期に絶縁破壊を起こし、電気機器の寿命が短くなる。高電圧で使用される絶縁電線には上記の理由によりコロナ放電開始電圧の向上も求められており、そのためには絶縁層の誘電率を低くすることが有効であることが知られている。
【0004】
ポリイミド樹脂は絶縁電線の絶縁層として汎用されている樹脂の中では特に耐熱性に優れている。また誘電率が低く機械特性にも優れるため、要求特性の高い絶縁電線の絶縁層として用いられている。たとえば特許文献1には耐熱区分がC種(180℃以上のクラス)のエナメル線として、導体直上にポリイミド樹脂エナメル皮膜層が塗布焼付けされているエナメル線が開示されている。
【0005】
また特許文献2には芳香族エーテル構造を有するポリイミド樹脂が記載されている。具体的には、4,4’−オキシジフタル酸二無水物(ODPA)等の芳香族エーテル構造を有する酸無水物と、芳香族エーテル構造を有するジアミン及びフルオレン構造を有するジアミンとを反応させてポリイミド前駆体を合成している。芳香族エーテル構造を有する酸無水物及びジアミンを用いることで可とう性を向上している。またこのような構造のポリイミド樹脂は低誘電率でありコロナ発生抑制に優れた絶縁皮膜を得ることができる、と記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平9−198932号公報
【特許文献2】特開2010−67408号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のようにポリイミド樹脂は耐熱性、機械的特性、電気特性に優れる材料であるが、耐加工性、特に耐摩耗性が悪いという問題がある。絶縁電線をコイルとして使用する際には、コイルの占積率を上げるために絶縁電線を大きく変形させる加工を行う。例えば絶縁電線を捲線してコイルを形成した後にコイルをスロット中に挿入したり、あらかじめ変形させた絶縁電線同士を溶接してコイルを形成したりする。絶縁層の耐摩耗性が悪いと、加工時に絶縁層が損傷を受けやすく、絶縁皮膜の割れやピンホールが発生して電気特性が不良となるおそれがある。
【0008】
特に最外層にポリイミド皮膜を有する絶縁電線で耐加工性が低下することが知られている。そのためポリイミドを絶縁層として用いる場合、最外層には別の樹脂からなる層を設けることが多い。特許文献1ではポリイミド皮膜層上にポリベンズイミダゾール樹脂からなる皮膜層を設けて耐熱性と耐摩耗性を両立している。
【0009】
ポリイミドの耐加工性が低下する一つの要因は、ポリイミド皮膜の耐溶剤性が高いことである。ポリイミド皮膜は、ポリイミド前駆体樹脂を溶剤に溶解したワニス(ポリイミド樹脂ワニス)を導体上に塗布、焼付けして形成する。焼付け時の熱によってポリイミド前駆体であるポリアミック酸がイミド化してポリイミドとなる。一度の塗布、焼付け工程では数μm程度の薄い皮膜しか形成できないため、塗布、焼付け工程を複数回繰り返して所定の厚み(数10μm程度)のポリイミド皮膜を形成する。そのため2回目以降の工程では前回の工程で形成されたポリイミド層の上にポリイミドワニスを塗布することとなる。この時、ポリイミドワニスに含まれる溶剤が下層(前回の工程で形成されたポリイミド層)を若干溶解することで層間のなじみが良くなり層間の密着力が得られる。しかし焼付けてイミド化したポリイミドはポリアミドイミド等の他の樹脂と比べると耐溶剤性が高すぎるためワニスを塗布した際に下層がほとんど溶解しない。従って層間の密着力(接着力)が低下し、皮膜に大きな変形を起こすような加工を行うと層間の剥離に起因して皮膜が破壊される。
【0010】
また耐加工性には絶縁層と導体との密着力も必要である。導体と絶縁層との密着力が低いと、捲線工程や絶縁電線を変形させる工程で導体と絶縁層との間に浮きが発生して電気特性が悪化する。
【0011】
本発明は上記の問題に鑑みてなされたものであり、層間密着力及び導体との密着力が高く耐加工性に優れる絶縁層を形成可能なポリイミド樹脂ワニスを提供することを課題とする。また本発明は上記のポリイミド樹脂ワニスを用いて形成された絶縁層を有し、耐加工性、耐熱性、機械的強度等の要求特性を満たすことのできる絶縁電線及びそれを用いた電機コイル、モータを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記のようにポリイミド皮膜の層間密着力はポリイミドの溶剤への溶解性と相関する。本発明者らはポリイミドのイミド基濃度に着目し、極性の高いイミド基の濃度を下げることで溶剤への溶解性を向上できることを見いだした。なお絶縁電線の皮膜に汎用されている一般的なポリイミド樹脂はピロメリット酸二無水物と4,4’−ジアミノジフェニルエーテルとを重合して得られるポリイミド前駆体(ポリアミック酸)をイミド化して得られるもので、イミド基濃度は36.6%である。
【0013】
本発明は、芳香族ジアミンと芳香族テトラカルボン酸二無水物とを反応して得られるポリイミド前駆体樹脂を主成分とするポリイミド樹脂ワニスであって、
前記ポリイミド前駆体樹脂のイミド化後のイミド基濃度が28.0%以上33.0%以下である、ポリイミド樹脂ワニスである(請求項1)。
【0014】
イミド基濃度は、ポリイミド前駆体をイミド化した後のポリイミド樹脂において、
(イミド基部分の分子量)/(全ポリマーの分子量)×100 (%)
で計算される値である。ポリイミド前駆体は芳香族ジアミンと芳香族テトラカルボン酸二無水物とを反応して得られるので、各モノマー(芳香族ジアミン又は芳香族テトラカルボン酸二無水物)の分子量が大きくなるとイミド基濃度は低くなる。
【0015】
イミド基濃度を低くするとイミド化後のポリイミドの溶解性が向上し、層間密着力が向上する。しかし極性の高いイミド基は導体との密着力に寄与しており、イミド基濃度が低下すると導体との密着力が低下する。イミド基濃度を28.0%以上33.0%以下とすることで、層間密着力と導体との密着力とを両立できる。ポリイミド前駆体を構成する芳香族ジアミンと芳香族テトラカルボン酸二無水物とを、イミド基濃度が28.0%以上33.0%以下となるように任意に選択してイミド基濃度を調整する。
【0016】
前記芳香族テトラカルボン酸二無水物はピロメリット酸二無水物(PMDA)であると好ましい(請求項2)。ピロメリット酸二無水物は比較的分子量が小さく剛直な構造である。イミド基濃度を調整するためには、芳香族ジアミン、芳香族テトラカルボン酸二無水物のいずれかを分子量の大きいものとすることが考えられるが、分子量の大きい芳香族テトラカルボン酸二無水物を使用すると耐熱性が低下するため、酸成分は分子量の小さいPMDAを選択し、分子量の大きい芳香族ジアミンを用いてイミド基濃度を調整する方が耐熱性が向上し、好ましい。
【0017】
前記芳香族ジアミンとして、2,2−ビス[4−(アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、及び1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼンからなる群から選択される1種以上を含有することが好ましい(請求項3)。これらの芳香族ジアミンは分子量が大きく、イミド基濃度を低くすることができる。特に芳香族テトラカルボン酸二無水物としてPMDAを選択した場合には耐熱性と密着力とのバランスが取れて好ましい。なお芳香族ジアミンは複数併用しても良い。この場合、上記の分子量の大きい芳香族ジアミンと、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル(ODA)等の分子量の小さい芳香族ジアンとを組み合わせてイミド基濃度を調整することが好ましい。
【0018】
請求項4に記載の発明は、導体及び該導体を直接又は他の層を介して被覆する絶縁層を有する絶縁電線であって、前記絶縁層は上記のポリイミド樹脂ワニスを塗布、焼付けして形成されたものである絶縁電線である。層間密着力に優れたポリイミドで形成された絶縁層を有するため、耐加工性及び耐熱性に優れた絶縁電線が得られる。また絶縁層の誘電率が低いため、コロナ放電開始電圧の高い絶縁電線が得られる。
【0019】
請求項5に記載の発明は、導体を直接被覆する絶縁層を有する絶縁電線であって、前記絶縁層は上記のポリイミド樹脂ワニスを塗布、焼付けする工程を複数回繰り返して形成されたものである絶縁電線である。本発明のポリイミド樹脂ワニスは導体との密着力と層間密着力に優れているため、このような態様により複数層のポリイミド樹脂からなる絶縁層を備えた絶縁電線であっても、導体との密着力及び層間密着力が優れているため耐加工性が向上する。また耐熱性に優れるポリイミドのみで絶縁層を形成することが可能であるので、絶縁電線の耐熱性をより向上することができる。
【0020】
請求項6に記載の発明は、上記の絶縁電線を捲線してなる電機コイルである。また請求項7に記載の発明は、請求項8に記載の電機コイルを有するモータである。耐加工性及び耐熱性に優れた絶縁電線を使用していることから占積率の高いコイルが得られ、コイル及びモータの小型化が可能となる。また高電圧が印加された場合でも絶縁皮膜の劣化が起こりにくいので、寿命を長くすることが可能である。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、層間密着力及び導体との密着力が高く耐加工性に優れる絶縁層を形成可能なポリイミド樹脂ワニスを提供することができる。また本発明の絶縁電線は耐加工性に優れ、耐熱性、機械強度等の要求特性を満たすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の絶縁電線の一例を示す断面模式図である。
【図2】本発明のコイルの一例を示す模式図である。
【図3】本発明のモータの一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明のポリイミド樹脂ワニスの主成分であるポリイミド前駆体樹脂(ポリアミック酸)は、芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミンとの縮合重合によって得られる。この縮合重合反応は従来のポリイミド前駆体の合成と同様な条件にて行うことができる。
【0024】
芳香族テトラカルボン酸二無水物としては、ピロメリット酸二無水物(PMDA)、4,4’−オキシジフタル酸二無水物(ODPA)、3,4,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(BTDA)、3,3’,4,4’−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、ビシクロ(2,2,2)−オクト−7−エン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物、1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボンキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン二無水物、5−(2,5−ジオキソテトラヒドロフリル)−3−メチル−3−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸二無水物等が例示される。
【0025】
この中でもピロメリット酸二無水物(PMDA)は低分子量で剛直な構造を持つため、ポリイミド樹脂の耐熱性を向上できる点で好ましい。
【0026】
芳香族ジアミンとしては、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル(ODA)、4,4’−メチレンジアニリン(MDA)、2,2−ビス[4−(アミノフェノキシ)フェニル]プロパン(BAPP)、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン(TPE−Q)、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン(TPE−R)、1,1−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]シクロヘキサン(4−APBZ)、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン(3−APB)、1,5−ビス(3−アミノフェノキシ)ナフタレン(1,5−BAPN)等が例示される。
【0027】
この中でも2,2−ビス[4−(アミノフェノキシ)フェニル]プロパン(BAPP)、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン(TPE−R)、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン(TPE−Q)は分子量が大きく、イミド基濃度を低減できるため好ましく使用できる。これらの芳香族ジアミンとODA、MDA等の分子量の小さい芳香族ジアミンとを組み合わせて使用することで、イミド基濃度を調整できる。
【0028】
芳香族テトラカルボン酸二無水物、芳香族ジアミンは、イミド化後のイミド基濃度が28.0%以上33.0%以下となるように選択する。イミド基濃度はポリイミド前駆体をイミド化した後のポリイミド樹脂において、
(イミド基部分の分子量)/(全ポリマーの分子量)×100
で計算される値である。具体的には以下の方法でイミド基濃度を計算する。
【0029】
芳香族テトラカルボン酸二無水物、芳香族ジアミンの分子量からユニット単位でのイミド基濃度を計算する。例えば下記式(1)で示されるポリイミドの場合、イミド基濃度は
イミド基分子量=70.03×2=140.06
ユニット分子量=894.96となるため、
イミド基濃度(%)=(140.06)/(894.96)×100=15.6%
となる。
【0030】
【化1】

【0031】
上記の芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミンを混合して反応させる。芳香族ジアミンの合計量(当量)と、芳香族テトラカルボン酸二無水物の合計量(当量)を約1:1とすると反応が良好に進行して好ましい。それぞれの材料を混合し、有機溶媒中で加熱して反応させてポリイミド前駆体樹脂を得る。
【0032】
有機溶媒としては、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、γ−ブチロラクトン等の非プロトン性極性有機溶媒が使用できる。これらの有機溶媒は単独で用いても2種以上を組み合わせても良い。
【0033】
有機溶媒の量は、芳香族テトラカルボン酸二無水物、芳香族ジアミンを均一に分散させることができる量であれば良く特に制限されないが、通常これらの成分の合計量100質量部あたり100質量部〜1000質量部(樹脂濃度で10%〜50%程度となるように)使用する。有機溶媒量を少なくするとできあがったポリイミド樹脂ワニスの固形分量が多くなりコスト低減に有効である。
【0034】
ポリイミド樹脂ワニスには顔料、染料、無機又は有機のフィラー、潤滑剤、密着向上剤等の各種添加剤や反応性低分子、相溶化剤等を添加しても良い。密着向上剤としてメラミンを添加すると、導体との密着力を向上できる。さらに本発明の趣旨を損ねない範囲で他の樹脂を混合して使用することもできる。
【0035】
ポリイミド樹脂ワニスを導体上に直接又は他の層を介して塗布、焼き付けして絶縁層を形成する。焼付け工程でポリイミド前駆体樹脂がイミド化してポリイミドとなる。塗布、焼付けは通常の絶縁電線の製造と同様に行うことができる。例えば、導体に樹脂ワニスを塗布した後、設定温度を350〜500℃とした炉内を1パス当たり5〜10秒間通過させて焼付ける作業を数回繰り返して絶縁層を形成する。絶縁層の厚みは10μm〜150μmとする。
【0036】
導体としては、銅や銅合金、アルミニウム等を使用できる。導体の大きさやその断面形状は特に限定されないが、丸線の場合は導体径が100μm〜5mmのものが、平角線の場合は一辺の長さが500μm〜5mmのものが一般に使用される。
【0037】
絶縁層は単層であっても多層であっても良い。絶縁層が単層である場合は上記のポリイミド樹脂ワニスを塗布、焼き付けして形成された絶縁層のみが絶縁層となる。絶縁層を多層にする場合は、上記のポリイミドからなる絶縁層の形成前又は形成後に他の絶縁層を形成する。他の絶縁層を形成する樹脂としてはポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエステルイミド、ポリウレタン、ポリエーテルイミド等任意の樹脂を使用できる。
【0038】
さらに、絶縁層として、最外層に表面潤滑層を有するとさらに加工性が向上して好ましい。また絶縁電線の外側に表面潤滑油を塗布しても良い。この場合はさらにインサート性や加工性が向上する。
【0039】
図1は本発明の絶縁電線の一例を示す断面模式図である。導体3の外側に多層の絶縁層があり、絶縁層は導体側から第1の絶縁層1、第2の絶縁層2としている。第1の絶縁層1、第2の絶縁層2を全て本発明のポリアミドイミド樹脂ワニスを塗布焼き付けして形成すると、耐熱性に優れると共に導体との密着力、層間密着力に優れた絶縁電線が得られる。また導体との密着力をさらに向上するために、第1の絶縁層1としてポリアミドイミド等の他の樹脂を使用しても良い。なお本発明の絶縁電線はこの形状に限定されるものではない。
【0040】
図3(a)は本発明の電機コイルの一例を示す模式図であり、図3(b)は図3(a)のA−A’断面図である。磁性材料からなるコア13の外側に絶縁電線11を捲線して電機コイル12が形成される。コアと電機コイルからなる部材は、モータのロータやステータとして使用される。例えば、図4に示すように、コア13と電機コイル12とからなる分割ステータ14を複数組み合わせて環状に配置したステータ15を、モータの構成部材として使用する。
【実施例】
【0041】
次に、本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明する。なお本発明の範囲はこの実施例のみに限定されるものではない。
【0042】
(実施例1〜6、比較例1〜5)
(ポリイミド前駆体樹脂の作製)
表1、表2に示す種類と量の芳香族ジアミン(ODA、BAPP、TPE−Q)をN−メチルピロリドンに溶解させた後、表1に示す種類と量の芳香族テトラカルボン酸無水物(PMDA)を加えて窒素雰囲気下室温で1時間撹拌した。その後60℃で20時間撹拌し反応を終え、室温まで冷却し、密着向上剤としてメラミン(日本サイテックインダストリーズ(株)製、商品名:サイメル303)を混合してポリイミド樹脂ワニスを得た。各成分の分子量から計算したイミド基濃度を表1中に記載している。
【0043】
(絶縁電線の作製)
厚み1.5mm、幅3.0mmの平角導体の表面に、作製したポリイミド樹脂ワニスを常法によって塗布、焼付けする工程を複数回繰り返して厚み約40μmの絶縁層を形成し、実施例1〜6、比較例1〜5の絶縁電線を作製した。
【0044】
(導体密着力)
得られた絶縁電線の絶縁層に導体と絶縁層との境界面まで0.5mm幅の切れ込みを入れ、180°剥離試験により導体と絶縁層との密着力を測定した。
【0045】
(層間密着力)
得られた絶縁電線の絶縁層に、絶縁層の途中まで0.5mm幅の切れ込みを入れ、180°剥離試験により層間密着力を測定した。










【0046】
【表1】

【0047】
【表2】

【0048】
実施例1〜3、比較例1〜3は、芳香族ジアミンとして分子量の小さいODAと分子量の大きいBAPPを併用し、BAPPの比率を0%〜100%まで変えてイミド基濃度を調整したものである。BAPPの比率を高くしてイミド基濃度が低くなるほど層間密着力が高くなっている。また導体密着力はイミド基濃度が低くなるほど低くなっている。イミド基濃度が28.0%以上33.0%以下である実施例1〜3では導体密着力、層間密着力ともに50g/mm以上であり、耐加工性が良好であると推測される。
【0049】
実施例4〜6、比較例4〜5は、芳香族ジアミンとして分子量の小さいODAと分子量の大きいTPE−Qを併用し、TPE−Qの比率を25%〜100%まで変えてイミド基濃度を調整したものである。TPE−Qの比率を高くしてイミド基濃度が低くなるほど層間密着力が高くなっている。また導体密着力はイミド基濃度が低くなるほど低くなっている。イミド基濃度が28.0%以上33.0%以下である実施例4〜6では導体密着力、層間密着力ともに50g/mm以上であり、耐加工性が良好であると推測される。
【符号の説明】
【0050】
1 第1の絶縁層
2 第2の絶縁層
3 導体
11絶縁電線
12電機コイル
13コア
14分割ステータ
15ステータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族ジアミンと芳香族テトラカルボン酸二無水物とを反応して得られるポリイミド前駆体樹脂を主成分とするポリイミド樹脂ワニスであって、
前記ポリイミド前駆体樹脂のイミド化後のイミド基濃度が28.0%以上33.0%以下である、ポリイミド樹脂ワニス。
【請求項2】
前記芳香族テトラカルボン酸二無水物が、ピロメリット酸二無水物である、請求項1に記載のポリイミド樹脂ワニス。
【請求項3】
前記芳香族ジアミンが、2,2−ビス[4−(アミノフェノキシ)フェニル]プロパン(BAPP)、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、及び1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼンからなる群から選択される1種以上を含有する、請求項1又は2に記載のポリイミド樹脂ワニス。
【請求項4】
導体及び該導体を直接又は他の層を介して被覆する絶縁層を有する絶縁電線であって、前記絶縁層は、請求項1〜3のいずれか1項に記載のポリイミド樹脂ワニスを塗布、焼付けして形成されたものである絶縁電線。
【請求項5】
導体及び該導体を直接被覆する絶縁層を有する絶縁電線であって、前記絶縁層は、請求項1〜3のいずれか1項に記載のポリイミド樹脂ワニスを塗布、焼付けする工程を複数回繰り返して形成されたものである絶縁電線。
【請求項6】
請求項4又は5に記載の絶縁電線を捲線してなる電機コイル。
【請求項7】
請求項6に記載の電機コイルを有するモータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−233123(P2012−233123A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−103948(P2011−103948)
【出願日】平成23年5月9日(2011.5.9)
【出願人】(309019534)住友電工ウインテック株式会社 (67)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】