説明

ポリイミド溶液およびその製造方法

【課題】特定の割合の混合溶媒中にて可溶性透明ポリイミドを製造することにより、保存安定性に優れ、各種電気・電子部品の製造に好適なポリイミド溶液を提供する。
【解決手段】下記一般式(1)


(上記一般式(1)において、Arは炭素数4から24の4価の芳香族基であり、Rは炭素数2〜20の脂肪族基または炭素数3〜20の脂環族基である。)にて表される還元粘度(ηsp/C)が0.2〜6.0dL/gの範囲にあるポリイミドが、1種類以上の芳香族アルコールと1種類以上の炭素数9〜12の芳香族炭化水素との質量比90:10〜10:90の混合溶媒に溶解していることを特徴とするポリイミド溶液。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、保存安定性に優れた透明ポリイミド溶液およびその製造方法に関する。より詳しくは、特定な割合の混合溶媒種の中でポリイミド溶液を製造することにより、優れた保存安定性を有する透明ポリイミド溶液およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、ディスプレー基板や太陽電池基板、携帯電話などに用いられているガラス及びセラミックスの代替材料としてフレキシブル性と透明性を併せ持ち、かつ、有機溶剤に可溶な透明耐熱性樹脂の技術開発が急務となっている。KAPTON(登録商標)に代表される、芳香族テトラルカルボン酸無水物と芳香族ジアミンを原料として、これらの縮合反応により合成されるポリアミド酸を閉環反応して得られる芳香族ポリイミドは耐熱性に優れており各種電子材料に用いられているが、成形体が透明でなく、殆どの有機溶媒に不溶なため、上記目的には使用できない。
【0003】
有機溶媒への溶解性や透明性と、芳香族ポリイミドの耐熱性とを併せ持つ樹脂として、芳香族テトラカルボン酸無水物とイソホロンジアミンのような非芳香族ジアミンとを反応させて得られるポリイミド(以下、可溶性透明ポリイミドと称することがある)が報告されており(例えば特許文献1〜4)、ベンジルアルコールを含む混合溶媒中で重合反応を行うことを特徴とする当該ポリイミドの製造方法も報告されている(例えば特許文献5〜6)。しかし、このポリイミド溶液の保存安定性について着目し検討することはされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭49−34598号公報
【特許文献2】特開2000−319388号公報
【特許文献3】特開2000−336009号公報
【特許文献4】米国特許第5614607号明細書
【特許文献5】特開2000−327776号公報
【特許文献6】特開2000−169579号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、保存安定性に優れ、各種電気・電子部品の製造に好適なポリイミド溶液を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明者らは鋭意検討を行い、
芳香族テトラカルボン酸無水物とジアミンとを、1種類以上の芳香族アルコール類と1種類以上の炭素数9〜12の芳香族炭化水素とからなる特定な割合の混合溶媒種の中で反応させることにより、該アミン塩の形成が著しく抑制されて、高分子量のポリイミド溶液が得られること、
当該ポリイミド溶液は、製造方法が容易で生産性よく、低コストで製造することが可能であること、
当該ポリイミド溶液は、有機溶剤可溶であり、室温(本願において、20〜30℃をさす)は勿論、低温での保存安定性にも優れたものであること、
当該ポリイミド溶液は、ポリイミド重合時に使用する反応溶媒を除去しないそのまま用いてもよく、また貧溶媒中に添加することによって固体状に析出させた後に溶媒に再溶解して用いることもできること、
当該ポリイミド溶液をワニスとして用いて、ガラス基板、汎用樹脂、金属板にスクリーン印刷、スピンコート、一般的なコーティング方法により製膜することにより、高剥離性を有するポリイミド膜が得られ、かつ、当該ポリイミド膜は太陽電池基板、電気絶縁膜、フレキシブル基板、ガラス基板、ガラス基板代替材料などのプラスチック基板に好適な材料であることを見出し、本発明を完成した。本発明の構成を、以下に示す。
【0007】
1. 下記一般式(1)
【化1】

(上記一般式(1)において、Arは炭素数4から24の4価の芳香族基であり、Rは炭素数2〜20の脂肪族基または炭素数3〜20の脂環族基である。)
にて表される還元粘度(ηsp/C)が0.2〜6.0dL/gの範囲にあるポリイミドが、1種類以上の芳香族アルコールと1種類以上の炭素数9〜12の芳香族炭化水素との質量比90:10〜10:90の混合溶媒に溶解していることを特徴とするポリイミド溶液。
2. 該混合溶媒中の芳香族アルコールがベンジルアルコールである、上記項1.に記載のポリイミド溶液。
3. 該混合溶媒中の、炭素数9〜12の芳香族炭化水素が炭素数9の芳香族炭化水素である上記項1.または2.に記載のポリイミド溶液。
4. 炭素数9の芳香族炭化水素がトリメチルベンゼン類である上記項3.に記載のポリイミド溶液。
5. トリメチルベンゼン類がプソイドクメンまたはメシチレンである上記項4.に記載のポリイミド溶液。
【0008】
6. 下記一般式(2)
【化2】

(上記一般式(2)において、Rは炭素数2〜20の脂肪族基または炭素数3〜20の脂環族基である。)
で表される1級ジアミンと、下記一般式(3)、(4)及び(5)
【化3】

【化4】

【化5】

(上記一般式(3)、(4)及び(5)において、Arは炭素数4〜24の芳香族基である。上記一般式(4)において、X、X、X、およびXはそれぞれ独立にヒドロキシ基またはクロロ基である。上記一般式(5)において、XおよびXはそれぞれ独立にヒドロキシ基またはクロロ基である。)
で表される芳香族テトラカルボン酸類からなる群より選ばれる少なくとも1種を、1種類以上の芳香族アルコールと1種類以上の炭素数9〜12の芳香族炭化水素との混合溶媒中で重合反応させることを特徴とする、上記項1.〜5.のいずれかに記載のポリイミド溶液の製造方法。
【0009】
7. 上記項1.〜5.のいずれかに記載のポリイミド溶液を成形して得られるポリイミド成形体。
8. ポリイミド成形体が膜、フィルム又はシートの形態である上記項7.に記載のポリイミド成形体。
9. 上記項1.〜5.のいずれかに記載のポリイミド溶液を基材上に塗布し、溶媒を除去することを特徴とする上記項8.に記載のポリイミド成形体の製造方法。
10. 上記項7.または8.に記載のポリイミド成形体よりなる電気・電子部品。
11. 電気絶縁膜である上記項10.に記載の電気・電子部品。
12. 上記項1.〜5.のいずれかに記載のポリイミド溶液を含む接着剤。
13. 上記項12.に記載の接着剤により、電気・電子部品が接着されている電気・電子部品装置。
14. 電気・電子部品が半導体ウェハである上記項13.に記載の電気・電子部品装置。
15. 重合反応物からポリイミドを単離し、単離したポリイミドを1種類以上の芳香族アルコールと1種類以上の炭素数9〜12の芳香族炭化水素との質量比90:10〜10:90の混合溶媒に再溶解させることを特徴とする上記項6.記載のポリイミド溶液の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、保存安定性に優れた可溶性透明ポリイミドの溶液が得られる。本発明のポリイミド溶液は室温でも当該ポリイミド成分の溶解性が良好であり、沈殿しないため、加温することなく塗膜などの成形に用いることができ、電気・電子分野で使用されているガラス代替用としてのプラスチック基板の形成に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】実施例6、及び比較例3〜5にて作成した、電気絶縁膜を有する電子デバイスの構成を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための形態について例示するが、本発明は以下の例に限定されるものではない。
【0013】
<ポリイミド溶液>
本発明のポリイミド溶液の成分であるポリイミドは、前記一般式(1)で表される構造を有するものである。前記一般式(1)中の炭素数2〜20の脂肪族基または炭素数3〜20の脂環族基であるRは、該ポリイミドの原料である1級ジアミンを表す前記一般式(2)におけるRと同じであり、後述の該ポリイミドの製造方法において好ましい1級ジアミンとして列挙されている1級ジアミンに由来する残基が好ましく、炭素数3〜15の脂環族1級ジアミンに由来する残基がより好ましく、炭素数4〜15の脂環族1級ジアミンに由来する残基であるとより一層好ましく、炭素数6〜15の脂環族1級ジアミンに由来する残基が更に好ましく、イソホロンジアミン(以下、IPDAと略称することがある)、1,3−シクロヘキサンジアミン、1,4−シクロヘキサンジアミン、1,4−シクロヘキサンジメチルアミン、2−メチル−1,3−シクロヘキサンジアミン、ノルボルナンジアミン、ビス(4−アミノシクロヘキシル)メタン、ビス(4−アミノ−3−メチルシクロヘキシル)メタン、ヘキサヒドロ−4,7−メタノインダニレンジメチレンジアミン、トリシクロ[6.2.1.02,7]−ウンデシレンジメチルジアミンなどからなる群より選ばれる少なくとも1種の1級ジアミンに由来する残基がより一層好ましく、なかでもイソホロンジアミンに由来する下記式(6)に示す残基が際立って好ましい。
【0014】
【化6】

【0015】
前記一般式(1)中の炭素数4から24の4価の芳香族基であるArは、該ポリイミドの原料である芳香族テトラカルボン酸、又はその誘導体(以下、併せて芳香族テトラカルボン酸類と称することがある)を表す前記一般式(3)におけるArと同じであり、後述の該ポリイミドの製造方法において好ましい芳香族テトラカルボン酸類として列挙されている芳香族テトラカルボン酸類に由来する残基が好ましく、なかでも、以下の式(7)に示す、ピロメリット酸類、3,3′,4,4′−ビフェニルテトラカルボン酸類(以下、s−BPDAと略することがある)、2,3,3′,4′−ビフェニルテトラカルボン酸類、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エーテル類、3,3′,4,4′−ベンゾフェノンテトラカルボン酸類、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)スルホン類からなる群より選ばれる1種類以上の芳香族テトラカルボン酸類に由来する残基がより好ましい。
【0016】
【化7】

【0017】
本発明のポリイミド溶液に含まれるポリイミドは、その0.12gをEゾール溶媒(40質量部の1,1,2,2−テトラクロルエタンと、60質量部のフェノールとの混合物)10mLに溶解させ、30℃においてウベローデ粘度計を用いて測定された還元粘度(ηsp/C)が0.2〜6.0dL/gの範囲にあるものであり、0.5dL/g以上であると好ましく、1.0dL/g以上であるとより好ましい。0.2未満では製膜性が悪くなったり、キャスト膜にひび割れ等が生じたりする恐れがある。上限は特に制限はないが、有機溶剤に可溶である範囲であれば問題ないが実用的には6dL/g以下が好ましい。
【0018】
本発明のポリイミド溶液は、上記のポリイミドが1種類以上の芳香族アルコールと1種類以上の炭素数9〜12の芳香族炭化水素との質量比90:10〜10:90の混合溶媒に溶解したものである。混合溶媒中の、炭素数9〜12の芳香族炭化水素の量が混合溶媒中の90質量%を超えると、ポリイミドが溶けにくくなり、10質量%以下になるとポリイミド溶液の保存安定性が悪くなる。当該混合溶媒における、1種類以上の芳香族アルコールと1種類以上の炭素数9〜12の芳香族炭化水素との質量比は80:20〜30:70であると好ましく、60:40〜40:60であるとより好ましい。混合溶媒を用いることにより、保存安定性に優れた高分子量のポリイミドを得ることができる。
【0019】
本発明のポリイミド溶液において、ポリイミドの含有量は5〜50質量%(ポリイミド溶液を100質量%とする)であると好ましく、7〜40質量%であるとより好ましく、10〜30質量%であると特に好ましい。
【0020】
本発明のポリイミド溶液に用いられる上記の芳香族アルコールとしてはベンジルアルコール、α−アミルシンナミルアルコール、シンナミルアルコール、クミニルアルコール、p−シメン−8−オール、デヒドロクミンアルコール、ジヒドロシンナミルアルコール、2,4−ジメチルベンジルアルコール、ジメチルベンジルカルビノール、p−α−ジメチルベンジルアルコール、2−エトキシベンジルアルコール、4−エトキシベンジルアルコール、フルフリルアルコール、ヒドラトロピルアルコール、4−ヒドロキシベンジルアルコール、p−ヒドロキシフェネチルアルコール、α−イソブチルフェネチルアルコール、2−メトキシベンジルアルコール、3−(4−メトキシフェニル)プロパン−1−オール、メチルp−ヒドロキシフェニルカルビノール、4−メチル−2−フェニルペンタノール、2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)プロパノール、2−メチル−4−フェニル−2−ブタノール、2−メチル−5−ヒドロキシメチルピラジン、4−メチルベンジルアルコール、5−メチルフルフリルアルコール、フェネチルアルコール、フェネチルメチルエチルカルビノール、2−フェノキシエタノール、フェニルエチルカルビノール、2−フェニル−2−プロパノール、4−フェニルブタン−2−オール、ピペロニルアルコール、スチラリルアルコール、スルフロール、テニルアルコール、バニリルアルコール、バニリルアルコールメチルエーテル、1−ベンジル−2−メチル−2−プロパノール、2,3−ジメトキシベンジルアルコールよりなる群から選ばれる少なくとも1種以上が好ましく、特にベンジルアルコールが好ましい。
【0021】
本発明のポリイミド溶液に用いられる上記の炭素数9〜12の芳香族炭化水素としてはプソイドクメン(1,2,4−トリメチルベンゼン)、ヘミメリテン(1,2,3−トリメチルベンゼン)、メシチレン(1,3,5−トリメチルベンゼン)のトリメチルベンゼン類、クメン、n−プロピルベンゼン、エチルトルエン類、インデン、インダン、シメン、ジエチルベンゼン類、エチルキシレン類などよりなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましく、トリメチルベンゼン類、クメン、n−プロピルベンゼン、エチルトルエン類、インダン、およびインデンよりなる炭素数が9の芳香族炭化水素の群から選ばれる少なくとも1種であるとより好ましく、トリメチルベンゼン類であると更に好ましく、プソイドクメンまたはメシチレンであると特に好ましい。
【0022】
本発明のポリイミド溶液に含まれるポリイミドは、上記の混合溶媒以外にも、上記の芳香族アルコール類、ジクロロメタン、クロロホルム、テトラクロロエタン、ジクロロベンゼンなどのハロゲン化溶剤、N−メチルピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド等の高沸点高極性溶媒、ジオキサン、ジオキソラン、テトラヒドロフラン等の環状エーテル溶剤、フェノール、クレゾール等のフェノール性溶剤といった種々の有機溶剤に対して溶解性が良好である。ここでいう溶解性が良好とは、当該ポリイミドが有機溶剤100gに対し5g以上、好ましくは10g以上溶解することをいう。
【0023】
本発明のポリイミド溶液において、上記の1種類以上の芳香族アルコールと1種類以上の炭素数9〜12の芳香族炭化水素からなる混合溶媒が、N−メチルピロリドンなど、ポリイミドが可溶な溶媒として前記したものを、ポリイミド溶液の保存安定性に支障がでない程度に含んだものであってもよい。
【0024】
<ポリイミド溶液の製造方法>
本発明のポリイミド溶液の製造方法は、前記一般式(2)で表される1級ジアミンと、前記一般式(3)で表される芳香族テトラカルボン酸二無水物等とを、1種類以上の芳香族アルコールと1種類以上の炭素数9〜12の芳香族炭化水素との混合溶媒中で重合反応させることを特徴とするものである。
【0025】
本発明のポリイミド溶液の製造方法に用いられる1級ジアミンは前記一般式(2)で表されるものである。そのような1級ジアミンとしては、エチレンジアミン、1,2−プロパンジアミン、1,3−プロパンジアミン、1,2−シクロプロパンジアミン、1,4−ブタンジアミン、1,2−シクロブタンジアミン、1,3−シクロブタンジアミン、1,2−シクロペンタンジアミン、1,3−シクロペンタンジアミン、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジアミン、1,6−ヘキサメチレンジアミン、1,8−オクタメチレンジアミン、1,9−ノナメチレンジアミン、1,10−デカメチレンジアミン、1,11−ウンデカメチレンジアミン、1,12−ドデカメチレンジアミン、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジアミン、2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジアミン、イソホロンジアミン、1,3−シクロヘキサンジアミン、1,4−シクロヘキサンジアミン、1,4−シクロヘキサンジメチルアミン、2−メチル−1,3−シクロヘキサンジアミン、ノルボルナンジアミン、ビス(4−アミノシクロヘキシル)メタン、ビス(4−アミノ−3−メチルシクロヘキシル)メタン、ヘキサヒドロ−4,7−メタノインダニレンジメチレンジアミン、トリシクロ[6.2.1.02,7]−ウンデシレンジメチルジアミン、ジアミノシロキサン、アミン基を表面修飾したジアミノクレイ、ジアミノシリカ、ジアミノセラミックスナノファイバー、ジアミノセルロース、変性ジアミノセルロース等よりなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましいものとして挙げられる。これらの1級ジアミンのうち、より好ましいのは2,2−ジメチル−1,3−プロパンジアミン、1,6−ヘキサメチレンジアミン、1,8−オクタメチレンジアミン、1,9−ノナメチレンジアミン、1,10−デカメチレンジアミン、1,11−ウンデカメチレンジアミン、1,12−ドデカメチレンジアミン、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジアミン、2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジアミン、イソホロンジアミン、1,3−シクロヘキサンジアミン、1,4−シクロヘキサンジアミン、1,4−シクロヘキサンジメチルアミン、2−メチル−1,3−シクロヘキサンジアミン、ノルボルナンジアミン、ビス(4−アミノシクロヘキシル)メタン、ビス(4−アミノ−3−メチルシクロヘキシル)メタン、ヘキサヒドロ−4,7−メタノインダニレンジメチレンジアミン、トリシクロ[6.2.1.02,7]−ウンデシレンジメチルジアミンよりなる群から選ばれる1種類以上の1級ジアミンであり、前記一般式(2)中のRが炭素数3〜15の脂環族基である1級ジアミンであると更に好ましく、該Rが炭素数4〜15の脂環族基である1級ジアミンであるとより好ましい。なかでも、前記一般式(2)中のRが炭素数6〜15の脂環族基である1級ジアミンが好ましく、イソホロンジアミン、1,3−シクロヘキサンジアミン、1,4−シクロヘキサンジアミン、1,4−シクロヘキサンジメチルアミン、2−メチル−1,3−シクロヘキサンジアミン、ノルボルナンジアミン、ビス(4−アミノシクロヘキシル)メタン、ビス(4−アミノ−3−メチルシクロヘキシル)メタン、ヘキサヒドロ−4,7−メタノインダニレンジメチレンジアミン、トリシクロ[6.2.1.02,7]−ウンデシレンジメチルジアミンなどよりなる群から選ばれる少なくとも1種の1級ジアミンが特に好ましい。
【0026】
本発明のポリイミド溶液の製造方法に用いられる芳香族テトラカルボン酸類は前記一般式(3)、(4)及び(5)で表されるものからなる群より選ばれる少なくとも1種のものである。そのような芳香族テトラカルボン酸類としては、ピロメリット酸、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸、1,2,5,6−ナフタレンテトラカルボン酸、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸、2,3,6,7−アントラセンテトラカルボン酸、1,2,5,6−アントラセンテトラカルボン酸、3,3′,4,4′−ビフェニルテトラカルボン酸、2,3,3′,4′−ビフェニルテトラカルボン酸、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エーテル、3,3′,4,4′−ベンゾフェノンテトラカルボン酸、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)スルホン(以下、ジフェニルスルホン酸と略称することがある)、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)メタン、2,2−ビス(3,4 −ジカルボキシフェニル)プロパン、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)ジメチルシラン、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)ジフェニルシラン、2,3,4,5−ピリジンテトラカルボン酸、2,3,5,6−ピリジンテトラカルボン酸、2,3,4,5−チオフェンテトラカルボン酸、2,6−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)ピリジンなどの芳香族テトラカルボン酸(複素芳香族テトラカルボン酸を含む)といいた各種芳香族テトラカルボン酸、以上列挙した各種芳香族テトラカルボン酸の二無水物、該各種芳香族テトラカルボン酸の塩化物(一カルボン酸三酸塩化物、ニカルボン酸二酸塩化物、三カルボン酸一酸ハロゲン化物、四塩素化物)、該各種芳香族テトラカルボン酸の一無水物、該各種芳香族テトラカルボン酸の一無水物一酸塩化物、及び該各種芳香族テトラカルボン酸の一無水二酸塩化物よりなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましいものとして挙げられる。なお、上記から明らかなとおり、本願において芳香族テトラカルボン酸類との語が包含する芳香族テトラカルボン酸誘導体とは、該芳香族テトラカルボン酸の二無水物(前記一般式(3))、下記式(8)にて示される塩化物
【0027】
【化8】

【0028】
下記式(9)にて示される一無水物
【化9】

【0029】
下記式(10)にて示される一無水物一酸塩化物
【化10】

【0030】
下記式(11)にて示される及び、一無水物二酸塩化物
【化11】

(上記の芳香族テトラカルボン酸の塩化物〜一無水物二酸塩化物の各一般式において、Arの定義は一般式(3)、(4)及び(5)におけるArに同じである)
を含むものである。
【0031】
上記の芳香族テトラカルボン酸類のうち、ピロメリット酸類、3,3′,4,4′−ビフェニルテトラカルボン酸類、2,3,3′,4′−ビフェニルテトラカルボン酸類、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エーテル類、3,3′,4,4′−ベンゾフェノンテトラカルボン酸類、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)スルホン類からなる群より選ばれる少なくとも1種の芳香族テトラカルボン酸類が好ましく、芳香族これらテトラカルボン酸の二無水物からなる群より選ばれる少なくとも1種がより好ましく、ピロメリット酸二無水物または、3,3′,4,4′−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物が特に好ましい。
【0032】
なお、本発明のポリイミド溶液に必要な物性に支障が出ない程度であれば、テトラカルボン酸類として上記の芳香族テトラカルボン酸類のほか、1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸、1,2,3,4 −シクロペンタンテトラカルボン酸、1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸、2,3,5−トリカルボキシシクロペンチル酢酸、3,4−ジカルボキシ−1,2,3,4−テトラヒドロ-1-ナフタレンコハク酸などの脂環族テトラカルボン酸、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸などの脂肪族テトラカルボン酸といった非芳香族テトラカルボン酸類も用いた共重合ポリイミドの溶液としても良い。
【0033】
本発明の製造方法における重合反応にて、芳香族テトラカルボン酸類の全モル数と、1級ジアミンの全モル数との比率は、1:0.9〜1.1であると好ましく、1:0.95〜1.05であるとより好ましく、1:0.98〜1.02であると特に好ましい。
【0034】
本発明の製造方法において、ポリイミドを得る重合反応は、1種類以上の芳香族アルコールと1種類以上の炭素数9〜12の芳香族炭化水素との混合溶媒中にて行われる。該混合溶媒を構成する芳香族アルコールと、炭素数9〜12の芳香族炭化水素、およびそれらの混合比については、本発明のポリイミド溶液の混合溶媒に関して好ましいものとして前述したものが、同様に好適である。この際、N−メチルピロリドンなど、本発明のポリイミド溶液に含まれるポリイミドが可溶な溶媒として前記したものを、重合反応性やポリイミド溶液の保存安定性に支障がでない程度に混合しても良い。
【0035】
本発明のポリイミド製造方法において、重合反応は、前記の一級ジアミンと前記の芳香族テトラカルボン酸類とを、室温または氷冷下にて上記混合溶媒に溶解させ、必要に応じて混合溶媒を過熱還流させながら、所定の時間反応をさせることによって実施される。反応温度としては150℃〜400℃が好ましく、180℃〜350℃であるとより好ましい。反応時間としては0.1時間〜72時間であると好ましく、0.2時間〜12時間であるとより好ましく、0.3時間〜5時間であると特に好ましい。なお、加熱することなく室温のまま上記反応時間にて反応させてポリイミド前駆体(ポリアミド酸)溶液とし、当該ポリイミド前駆体溶液を用いて後述のような成形体としたのち、好ましくは150℃〜400℃、より好ましくは180℃〜350℃で加熱脱水してイミド化を進めることによりポリイミド成形体を得ることも可能である。
【0036】
上記重合反応の際のモノマー濃度(反応溶液全量に対する、前記の一級ジアミンと前記の芳香族テトラカルボン酸類との合計量の割合)は、好ましくは5〜50質量%、より好ましくは10〜30質量%である。このモノマー濃度の範囲で重合を行うことにより、より均一で高重合度のポリイミドの溶液を得ることができる。モノマー濃度5質量%以下で重合を行う場合、ポリイミドの重合度が上がらずポリイミド重合体が脆くなることがあり好ましくない。また、モノマー濃度50質量%を超えて重合反応を行う場合、アミン塩が形成され、アミン塩が溶解、消失するまでにより長い反応時間を必要とし、生産性が低下するなどの問題が生じることがあり好ましくない。
【0037】
上記の重合反応の際、反応によって生成する水を反応溶液中から除去することが高分子量のポリイミドを効率的に得る上で好ましい。水の除去方法としては、反応系中にモレキュラーシーブを存在させる方法、加熱還流蒸気をモレキュラーシーブなどと接触させ反応溶液中に戻す方法、加熱還流蒸気を冷却して生成する凝縮液をモレキュラーシーブなどと接触させ反応溶液中に戻す方法、加熱還流蒸気を冷却後分離槽またはディーンスターク装置等により水を分離し溶媒だけを反応溶液中に戻す方法などが挙げられる。
【0038】
上記重合反応の反応液をそのまま本発明のポリイミド溶液とすることができるが、該重合反応液を加熱などにより濃縮しても良く、また、該重合反応液に溶媒を加えて希釈して本発明のポリイミド溶液としてもよい。この希釈用の溶媒としては、1種類以上の芳香族アルコールと1種類以上の炭素数9〜12の芳香族炭化水素との混合溶媒で重合反応に用いた混合溶媒と同じ組成ものが好ましいが、異なる組成のものであってもよい。そして、希釈後の混合溶媒の組成が、1種類以上の芳香族アルコールと1種類以上の炭素数9〜12の芳香族炭化水素との質量比90:10〜10:90に入るようにすれば、1種類以上の芳香族アルコールだけ、または1種類以上の炭素数9〜12の芳香族炭化水素だけで希釈してもよい。更に、ポリイミド溶液の保存安定性に支障がでない程度であれば、N−メチルピロリドンなど、本発明のポリイミド溶液に含まれるポリイミドが可溶な溶媒として前記したもので希釈しても良い。
【0039】
また、上記重合反応の反応液を、その成分であるポリイミドが溶解し難い、水、アセトン、メタノール、エタノールまたはこれらより選ばれる2つ以上の混合物などの貧溶媒と混合してポリイミドを析出させて単離し、この単離されたポリイミドを、1種類以上の芳香族アルコールと1種類以上の炭素数9〜12の芳香族炭化水素との質量比90:10〜10:90の混合溶媒に再溶解して本発明のポリイミド溶液とすることも可能である。この再溶解において用いる混合溶媒は重合反応において用いた混合溶媒と同じものであっても、異なるものであってもよい。
【0040】
さらに、本発明のポリイミド溶液には、必要に応じて例えば、金属粒子、金属化合物、有機金属化合物、金属ガラス、又は各種金属複合化合物、窒化ホウ素、又は各種窒化ホウ素複合化合物、窒化アルミ、アルミとセラミックス複合材、セラミックス粒子、各種セラミックス複合化合物、カーボンナノチューブ、グラフェン、黒鉛、カーボンナノファイバー、又は各種導電性炭素材料、ガラス繊維、アルミナ繊維、各種繊維又はナノファイバー、有機シラン、シリコン、又は各種シリコン複合化合物、天然・合成粘土(クレイ)、セルロース又はセルロースナノファイバー、テクノーラ(登録商標)などのアラミド、ポリアクリロニトリル、セラミックス又はセラミックスミクロファイバーなどの繊維形成高分子化合物、顔料、染料、界面活性材、分散材、充填材、誘電体、潤滑材などの他、公知の添加物を本発明の効果を損なわない範囲で添加することができ、それら添加物を混合して用いることもできる。また、溶解性、耐熱性など用途に併せ、前記のポリイミド以外のポリマーを本発明の効果を損なわない範囲で添加することもできる。
【0041】
本発明のポリイミド溶液を製造する方法として、前記の重合反応後の混合液を加熱、減圧、または加熱及び減圧下で溶媒を留去して単離したポリイミドを減圧下で更に溶融熱処理することことにより、ポリイミドをさらに高重合度のものとし、これを再度前記の混合溶媒に溶解する方法も挙げられる。このときの溶融熱処理温度はポリイミドの熱分解温度以下であり、結晶性ポリイミドの場合は融点の10℃以上、非晶性ポリイミドの場合はガラス転移温度の10℃以上の温度が好ましい。より好ましくは結晶性ポリイミドの場合は融点の30℃以上、非晶性ポリイミドの場合はガラス転移温度の30℃以上の温度である。上記温度差が10℃未満である場合、ポリイミドの粘度が高すぎて熱処理による高重合度化の効果が得られにくく好ましくない。
本発明のポリイミド溶液は、以下に述べるように成形体などの用途に好適に用いることができ、特にポリイミドワニスとして塗膜やプラスチック基板の形成に好適である。
【0042】
<ポリイミド成形体および成形体の製造方法>
上記のポリイミド溶液を成形し、本発明のポリイミド成形体を得ることができる。成形する方法としては、特に制限なく従来公知の方法が使用でき、溶液成形、溶液キャスティング、乾式紡糸、湿式紡糸などが代表的なものとして挙げられる。
【0043】
成形体の形態には、特に限定はないが、膜、フィルム、シート、繊維、中空繊維、チューブ、パイプ、ボトル等が例示される。なお、膜、フィルム、およびシートのそれぞれの定義は、用途毎に多少違いがあるが、一般的には、厚さが0.25mm未満の薄い成形体をフィルム、厚さが0.25mm以上の板状の成形体をシート、成形体が基板の面を被った状態になっているものや、複数の層や物体の間を仕切る状態になっているものや、物体の開口部を被う状態になっているものを膜と称することが多い。
【0044】
本発明のポリイミド成形体は、液晶ディスプレー用、有機エレクトロルミネッセンスディスプレー用、電子ペーパー用、太陽電池用、電子デバイスの電気絶縁膜用などのガラス基板代替用プラスチック基板、更には、太陽電池保護膜、カラーフィルター用保護膜などガラス基板代替プラスチック、透明伝導フィルム基板、TFT基板、光ディスク基板、光ファイバー、レンズ、タッチパネルなどの電気・電子部品や光学材料として好適である。これら電気・電子部品や光学材料への使用には、膜、フィルム、又はシートの形態である本発明のポリイミド成形体が好適であり、本願発明のポリイミド成形体よりなる電気・電子部品としては電気絶縁膜が特に有用である。
【0045】
上記の膜、フィルム、又はシートの形態の成形体を製造する方法としては、ポリイミド溶液を基材上に塗布し、溶媒を除去することを特徴とする製造方法が好ましく、具体的には、
・ ポリイミド溶液を、基材にスクリーン印刷、スピンコート法、スプレイコート法スピンコート等で塗布した(塗布工程)後、乾燥させることにより(乾燥工程)、膜であるポリイミド成形体を得る方法、
・ ポリイミド溶液を、スリット状ノズルから押し出したり、バーコーターを用いたりして基材に塗布し(塗布工程)、乾燥させ(乾燥工程)、次いでその基材からポリイミド成形体を剥離させる(剥離工程)ことにより、フィルム又はシートであるポリイミド成形体を得る方法、
などが例示される。
【0046】
上記の塗布工程において、本発明のポリイミド溶液が塗布される厚みは、目的とする成形体の寸法に応じて適宜調整されるものであるが、通常0.01〜1000μm程度であり、より好ましくは0.1〜500μmであり、更に好ましくは0.3〜100μmであり、特に好ましくは0.5〜50μmである。塗布工程は、通常室温で実施されるが、粘度を下げて操作性を良くする目的でポリイミドワニスを40〜80℃の範囲で加温して実施してもよい。
【0047】
上記の乾燥工程において、乾燥温度は、混合溶媒の種類にもよるが、通常50〜250℃、好ましくは60〜230℃、より好ましくは100〜190℃が推奨され、複数の温度設定にて段階的に乾燥してもよい。尚、250℃を超える乾燥温度は、本発明のポリイミド成形体の黄変や透明性の低下を招くことがある。乾燥工程で使用される加熱方法としては、温風加熱、赤外線加熱、マイクロ波加熱、EB加熱などの方法が挙げられる。乾燥工程は空気雰囲気下でも行えるが、安全性及び酸化防止の観点から、不活性ガス雰囲気下で行うことが推奨される。不活性ガスとしては窒素、アルゴンなどが挙げられる。また、減圧下に乾燥を行うことも可能である。
【0048】
上記の剥離工程は、通常、基材上の該成形体を室温〜50℃程度まで冷却後に実施される。本発明のポリイミド溶液は接着性が高いので、剥離作業を容易に実施するため、本発明のポリイミド溶液を塗布する前に、必要に応じて基材へ離型剤を塗布してもよい。係る離型剤としては、植物油系、シリコン系、フッ素系などを挙げることができる。
【0049】
本発明のポリイミド溶液を用いて、上記のように形成された膜は基材に接着した状態になっている。このように、本発明のポリイミド溶液は、接着剤の成分としても有効であり、本発明のポリイミド溶液を含む接着剤は、電気・電子部品を接着して電気・電子部品装置とするのに好適であり、特に、半導体3次元実装時に使用される半導体ウェハ間の接着剤として好適である。
【実施例】
【0050】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明はこれにより何等限定を受けるものではない。各実施例及び比較例における測定は以下の方法により求めた。
【0051】
[還元粘度:ηsp/C
30℃においてウベローデ粘度計を用いて、Eゾール溶媒(40質量部の1,1,2,2−テトラクロルエタンと、60質量部のフェノールとの混合物)10mLにポリマー0.12gを溶解させ、ポリイミド溶液の30℃における還元粘度(ηsp/C)を求めた。
【0052】
[室温保存安定性]
室温(20〜30℃)でポリイミド溶液を30日間保存して、保存安定性試験前後の外観の変化(沈殿、相分離、ゲル化、増粘)を、下記の判定基準で保存安定性を目視で判定した。
◎:変化なし。
○:極微少の変化(微白濁)が認められた。
△:微量の沈殿や増粘が認められた。
×:ゲル化や2相層分離が認められた。
【0053】
[低温保存安定性]
低温(0〜3℃)の防爆冷蔵庫中にポリイミド溶液を30日間保持して、保存安定性試験前後の外観の変化(沈殿、相分離、ゲル化、増粘)を、下記の判定基準で保存安定性を目視で判定した。
◎:変化なし。
○:極微少の変化(微白濁)が認められた。
△:微量の沈殿や増粘が認められた。
×:ゲル化や2相層分離が認められた。
【0054】
[実施例1]
0.5Lのセパラタブルフラスコ中にイソホロンジアミン(IPDA)14.30質量部(0.084mol部)のベンジルアルコール66.94質量部/プソイドクメン(丸善石油化学製)13.99質量部(質量比82.7:17.3)混合溶媒にビフェニルテトラカルボン酸二無水物(s−BPDA)24.706質量部(0.084mol部)を仕込んだ。まず、室温において窒素雰囲気下、50rpmで0.5hr攪拌しがら反応の発熱を確認し、その反応溶液を190℃まで3.5hrかけて加温し、留出する水はディーンスターク装置を用いて系外に除去した。反応中に留出した水の量は理論量どおりであった。その後、150rpmで200℃まで0.5hrかけて昇温し、同温度で0.5hr保持させた後放冷し、反応溶液が150℃に下がったところで反応溶液中にベンジルアルコール200.8質量部/プソイドクメン41.98質量部(質量比82.7:17.3)混合溶媒を追加しポリイミド溶液を作製した。このようにして得られたポリイミド溶液のポリマー濃度は10質量%であった。同温度で1hr保持した後放冷し、ポリイミド溶液とした。得られたポリイミド溶液の測定及び評価結果を表1に示した。
【0055】
[実施例2]
ベンジルアルコール/プソイドクメン混合溶液の比率を質量比73.6:26.4に変更した以外は実施例1と同様に操作を行った。得られたポリイミド溶液の測定及び評価結果を表1に示した。
【0056】
[実施例3]
ベンジルアルコール/プソイドクメン混合溶液の比率を質量比64.2:35.8に変更した以外は実施例1と同様に操作を行った。得られたポリイミド溶液の測定及び評価結果を表1に示した。
【0057】
[実施例4]
ベンジルアルコール/プソイドクメン混合溶液の比率を質量比54.5:45.5に変更した以外は実施例1と同様に操作を行った。得られたポリイミド溶液の測定及び評価結果を表1に示した。
【0058】
[実施例5]
ベンジルアルコール/プソイドクメン混合溶液の比率を質量比44.4:55.6に変更した以外は実施例1と同様に操作を行った。得られたポリイミド溶液の測定及び評価結果を表1に示した。
【0059】
[比較例1]
混合溶媒をベンジルアルコールとトルエンとの質量比54.7:45.3の混合溶媒とした以外は、実施例1と同様に操作を行った。得られたポリイミド溶液の測定及び評価結果を表1に示した。
【0060】
[比較例2]
混合溶媒をベンジルアルコールとトルエンとの質量比79.4:20.6の混合溶媒とした以外は、実施例1と同様に操作を行った。得られたポリイミド溶液の測定及び評価結果を表1に示した。
【0061】
[実施例6]
透明導電膜(ITO)付きガラス基板をアセトン、イソプロピルアルコールにて各5分ずつ超音波洗浄した後、UVオゾン洗浄を30分行い、基板を準備した。
実施例4にて得られたポリイミド溶液を、実施例4で重合反応に用いたものと同じ組成の混合溶媒にて希釈し、固形分6.6質量%とした。このポリイミド溶液を、上記のITO付きガラス基板上に、数滴滴下して500rpmにて5秒間、更に1500rpmにて30秒間スピンコートすることにより、塗布を行った。
このポリイミド溶液が塗布されたITO付きガラス基板をファーネス中、80℃で5分、更に180℃で30分(いずれも大気中)加熱して乾燥させ、その後室温まで冷却した。このようにしてITO付きガラス基板に積層する形態にて厚さ1200nmのポリイミド膜を得た。このポリイミド膜に、Au(金)電極を真空蒸着法により金の膜を形成することにより設け、電気絶縁膜としてポリイミド膜を有する電子デバイス(図1)を作成した。なお、当該ポリイミド膜はITO付きガラス基板に良好に接着していて、以下の操作において剥離などは全く起きなかった。
この電子デバイスにおいて、下部電極(ITO)を共通電極とし、上部電極(Au電極)に0〜2MV/cmの電界強度を印加し、比抵抗、絶縁破壊開始電圧およびリーク電流を測定した。結果を表2に示すとおり、本願発明のポリイミド溶液を用いて得られた電気絶縁膜は、下記の比較例3〜5と比べ極めて優れた絶縁性を持つことが確認された。
【0062】
[比較例3]
電気絶縁膜として、ポリイミド膜の代わりにポリシルセスキオキサン(誘電率3.5)よりなる厚さ900nmの膜を用いた以外は、実施例6と同様に操作を行った。結果を表2に示す。
【0063】
[比較例4]
電気絶縁膜として、ポリイミド膜の代わりにポリメチルシルセスキオキサン(誘電率3.1)よりなる厚さ900nmの膜を用いた以外は、実施例6と同様に操作を行った。結果を表2に示す。
【0064】
[比較例5]
電気絶縁膜として、ポリイミド膜の代わりに、有機無機ハイブリッドポリマー(誘電率約2.8)よりなる厚さ900nmの膜を、ポリマーの溶液が塗布されたITO付きガラス基板をファーネス中、80℃で5分、更に180℃で30分加熱して乾燥させることを大気中ではなくアルゴン中で行って形成して用いた以外は、実施例6と同様に操作を行った。結果を表2に示す。
【0065】
[実施例7]
混合溶媒をベンジルアルコールとメシチレンとの質量比86.4:13.6の混合溶媒とした以外は、実施例1と同様に操作を行った。得られたポリイミド溶液の測定及び評価結果を表3に示した。
【0066】
[実施例8]
混合溶媒をベンジルアルコールとメシチレンとの質量比76.3:23.7の混合溶媒とした以外は、実施例1と同様に操作を行った。得られたポリイミド溶液の測定及び評価結果を表3に示した。
【0067】
[実施例9]
混合溶媒をベンジルアルコールとメシチレンとの質量比66.7:33.3の混合溶媒とした以外は、実施例1と同様に操作を行った。得られたポリイミド溶液の測定及び評価結果を表3に示した。
【0068】
[実施例10]
混合溶媒をベンジルアルコールとメシチレンとの質量比57.2:42.8の混合溶媒とした以外は実施例1と同様に操作を行った。得られたポリイミド溶液の測定及び評価結果を表3に示した。
【0069】
[実施例11]
実施例4において得られたポリイミド溶液100gを40vol%アセトン水溶液(水/アセトン=体積比3/2)1.0Lにあけ、白色固体であるポリイミドを析出させた。得られたポリイミド2gをベンジルアルコールとメシチレンとの質量比86.4:13.6の混合溶媒10g中に再溶解させて調製したポリイミド溶液について室温保存安定性および低温保存安定性の評価を行った。この評価結果を表4に示した。
【0070】
[実施例12]
ポリイミドを再溶解させる際に用いる混合溶媒を、ベンジルアルコールとメシチレンとの質量比76.3:23.7の混合溶媒に変更した以外は実施例11と同様に操作を行った。得られたポリイミド溶液の評価結果を表4に示した。
【0071】
[実施例13]
ポリイミドを再溶解させる際に用いる混合溶媒を、ベンジルアルコールとメシチレンとの質量比66.7:33.3の混合溶媒に変更した以外は実施例11と同様に操作を行った。得られたポリイミド溶液の評価結果を表4に示した。
【0072】
[実施例14]
ポリイミドを再溶解させる際に用いる混合溶媒を、ベンジルアルコールとメシチレンとの質量比57.2:42.8の混合溶媒に変更した以外は実施例11と同様に操作を行った。得られたポリイミド溶液の評価結果を表4に示した。
【0073】
[実施例15]
ポリイミドを再溶解させる際に用いる混合溶媒を、ベンジルアルコールとメシチレンとの質量比47.7:52.3の混合溶媒に変更した以外は実施例11と同様に操作を行った。得られたポリイミド溶液の評価結果を表4に示した。
【0074】
【表1】

【0075】
【表2】

【0076】
【表3】

【0077】
【表4】

【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明のポリイミド溶液は、電気・電子部品分野で使用されているガラス基板の代替用としてのプラスチック基板の材料として有用であり、液晶ディスプレー用、有機エレクトロルミネッセンスディスプレー用、電子ペーパー用、太陽電池用などのガラス基板代替用プラスチック基板、電子デバイスの電気絶縁膜、光学材料、太陽電池パネル等の保護フィルム、光導波路など種々の用途に使用できる。また、本発明のポリイミド溶液は、接着剤としても有用であり、電気・電子部品を接着して電気・電子部品装置とするのに好適であり、特に、半導体3次元実装時に使用される半導体ウェハ間の接着剤として好適である。
【符号の説明】
【0079】
1 Au(金)電極
2 電気絶縁膜
3 透明導電膜(ITO)
4 ガラス基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)
【化1】

(上記一般式(1)において、Arは炭素数4から24の4価の芳香族基であり、Rは炭素数2〜20の脂肪族基または炭素数3〜20の脂環族基である。)
にて表される還元粘度(ηsp/C)が0.2〜6.0dL/gの範囲にあるポリイミドが、1種類以上の芳香族アルコールと1種類以上の炭素数9〜12の芳香族炭化水素との質量比90:10〜10:90の混合溶媒に溶解していることを特徴とするポリイミド溶液。
【請求項2】
該混合溶媒中の芳香族アルコールがベンジルアルコールである、請求項1に記載のポリイミド溶液。
【請求項3】
該混合溶媒中の、炭素数9〜12の芳香族炭化水素が炭素数9の芳香族炭化水素である請求項1または2に記載のポリイミド溶液。
【請求項4】
炭素数9の芳香族炭化水素がトリメチルベンゼン類である請求項3に記載のポリイミド溶液。
【請求項5】
トリメチルベンゼン類がプソイドクメンまたはメシチレンである請求項4に記載のポリイミド溶液。
【請求項6】
下記一般式(2)
【化2】

(上記一般式(2)において、Rは炭素数2〜20の脂肪族基または炭素数3〜20の脂環族基である。)
で表される1級ジアミンと、下記一般式(3)、(4)及び(5)
【化3】

【化4】

【化5】

(上記一般式(3)、(4)及び(5)において、Arは炭素数4〜24の芳香族基である。上記一般式(4)において、X、X、X、およびXはそれぞれ独立にヒドロキシ基またはクロロ基である。上記一般式(5)において、XおよびXはそれぞれ独立にヒドロキシ基またはクロロ基である。)
で表される芳香族テトラカルボン酸類からなる群より選ばれる少なくとも1種とを、1種類以上の芳香族アルコールと1種類以上の炭素数9〜12の芳香族炭化水素との混合溶媒中で重合反応させることを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載のポリイミド溶液の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれかに記載のポリイミド溶液を成形して得られるポリイミド成形体。
【請求項8】
ポリイミド成形体が膜、フィルム又はシートの形態である請求項7に記載のポリイミド成形体。
【請求項9】
請求項1〜5のいずれかに記載のポリイミド溶液を基材上に塗布し、溶媒を除去することを特徴とする請求項8に記載のポリイミド成形体の製造方法。
【請求項10】
請求項に7または8に記載のポリイミド成形体よりなる電気・電子部品。
【請求項11】
電気絶縁膜である請求項10に記載の電気・電子部品。
【請求項12】
請求項1〜5のいずれかに記載のポリイミド溶液を含む接着剤。
【請求項13】
請求項12に記載の接着剤により、電気・電子部品が接着されている電気・電子部品装置。
【請求項14】
電気・電子部品が半導体ウェハである請求項13に記載の電気・電子部品装置。
【請求項15】
重合反応物からポリイミドを単離し、単離したポリイミドを1種類以上の芳香族アルコールと1種類以上の炭素数9〜12の芳香族炭化水素との質量比90:10〜10:90の混合溶媒に再溶解させることを特徴とする請求項6記載のポリイミド溶液の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2011−225820(P2011−225820A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−34689(P2011−34689)
【出願日】平成23年2月21日(2011.2.21)
【出願人】(000003001)帝人株式会社 (1,209)
【Fターム(参考)】