説明

ポリイミド繊維、それから得られるポリイミド不織布およびそれらの製造方法

【課題】高温で使用するバグフィルターや燃焼排ガス用フィルターなど、過酷な環境下で使用できる耐熱性、強度、熱寸法安定性などを併せ持つポリイミド繊維およびポリイミド不織布の製造方法を提供する。
【解決手段】(1)PMDA2モル当量とHOAB・SO1モル当量とを反応させて、HOAB・SOの両アミノ基にPMDAが結合した低分子量イミド化合物を生成する、
(2)BCD 2モル当量、mDADE又は4,4’−DADE 4モル当量を反応させ、両末端にmDADEが結合した低分子量イミド化合物にする、及び
(3)BPDA又はBTDA 2モル当量及びmTPE 1モル当量を反応させ、重縮合することにより合成された、極性有機溶媒に可溶な耐熱性ポリイミドの有機極性溶媒溶液を、静電紡糸法によって高電圧を印加する荷電紡糸を行うことによって生成させた、繊維径が0.001〜1μmであるポリイミド繊維が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリイミドの繊維径が0.001〜1μmの繊維およびこれから得られる不織布の製造方法に関する。溶媒中でピロメリット酸ジ無水物(PMDA)、ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェ二ル)スルホン(HOAB・SO)、ビシクロオクテンテトラカルボン酸ジ無水物(BCD)、3, 4’−ジアミノジフェニルエーテル(mDADE)又は4,4’−ジアミノジフェニルエーテル(4,4’−DADE)、ビフェニルテトラカルボン酸ジ無水物(BPDA)又はベンゾフェノンテトラカルボン酸ジ無水物(BTDA)、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン(mTPE)をイミドオリゴマーを生成する第一段階及び第二段階、及び重縮合の3段階に分けて反応させたポリイミド溶液を、静電紡糸法によりポリイミド繊維およびポリイミド不織布を製造することに関する。
【背景技術】
【0002】
近年の電気・電子分野や航空・宇宙分野においての材料の進化には目覚しいものがあり、特に、耐熱性・機械特性・電気的特性からポリイミドが注目されている。ポリイミドは、電気絶縁性にすぐれた性質を利用し多くの電気回路・基板等の絶縁材料として使用されている。またポリイミドは、フィルム・膜・成型体などに加工され、広く産業界においても多用されている高分子材料である。近年の新たな方向として、発電や焼却炉等の高温排ガスのフィルターや運輸機械に代表されるディーゼル機関の排ガス用フィルターなど、高温に耐える繊維材料および不織布が求められており、ポリイミドも注目されている材料の一つである。このポリイミド繊維や不織布の製造方法は、ポリイミドの前駆体であるポリアミック酸を静電紡糸して、さらに高温に熱処理してイミド化する方法(特開2004-308031)や芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジイソシアネートを反応させてえられたポリイミド溶液を、貧溶媒中に注入して湿式紡糸する方法などが提案されている(EP0337597)。
【0003】
しかし、これらは常温で不安定なポリアミック酸を原料にすることや高温でのイミド化を必要にすることや、ジイソシアネート原料に制約があることからくるポリイミドの耐熱特性の低下など、工程が煩雑になることと共に物性的に満足できるものではない。
【0004】
本発明は、上述のような問題点を解決する為に行われたものであり、繊維への加工が容易でしかも耐熱性に優れた繊維径が0.001~1μmの繊維および不織布を与える方法を提供することである。
【0005】
本発明者の一人は、有機溶媒不溶の欠点を克服したポリイミドの製造法を新たに開発した(国際公開 2008/120398)。
【特許文献1】EP0337597
【特許文献2】特開2004−308031
【特許文献3】特開2008−2011
【特許文献4】国際公開 2008/120398
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
高温で使用するバグフィルターや燃焼排ガス用フィルターなど、過酷な環境下で使用できる耐熱性、強度、熱寸法安定性などを併せ持つポリイミド繊維およびポリイミド不織布の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明では、(1)PMDA2モル当量とHOAB・SO1モル当量とを反応させて、HOAB・SOの両アミノ基にPMDAが結合した低分子量イミド化合物を生成する、
(2)BCD 2モル当量、mDADE又は4,4’−DADE 4モル当量を反応させ、両末端にmDADEが結合した低分子量イミド化合物にする、及び
(3)BPDA又はBTDA 2モル当量及びmTPE 1モル当量を反応させ、重縮合することにより合成された、
極性有機溶媒に可溶な耐熱性ポリイミドの有機極性溶媒溶液を、静電紡糸法によって高電圧を印加する荷電紡糸を行うことによって生成させた、繊維径が0.001〜1μmであるポリイミド繊維が提供される。
【0008】
このポリイミド繊維を累積させることによりポリイミド不織布が生成する。このポリイミド繊維を累積させてポリイミド不織布を製造するには、捕集基板上にポリイミド繊維を捕集することにより行うことができる。
少なくとも芳香族テトラカルボン酸二無水物類と少なくとも芳香族ジアミンの特定の縮合反応で得られるポリイミド溶液を原料に、静電紡糸法(エレクトロスピニング法)にて紡糸することによる0.001〜1μmであるポリイミド繊維の製造方法。また、この静電紡糸法における捕集基板上に繊維を累積させることによるポリイミド繊維およびポリイミド不織布の製造方法。
【0009】
ここで使用するポリイミドとしては、ピロメリット酸ジ無水物(PMDA)、ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェ二ル)スルホン(HOAB・SO)、ビシクロ(2,2,2)オクト−7−エン−2,3,5,6−テトラカルボン酸ジ無水物(BCD、通称、ビシクロオクテンテトラカルボン酸ジ無水物という。)、3, 4’−ジアミノジフェニルエーテル(mDADE)又は4,4’−ジアミノジフェニルエーテル(4,4’−DADE)、ビフェニルテトラカルボン酸ジ無水物(BPDA)又はベンゾフェノンテトラカルボン酸ジ無水物(BTDA)、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン(mTPE)からなるものを用いた。
【0010】
HOAB・SOは、下記の化学式を有する。
【0011】
【化1】

【0012】
BCDは、下記の化学式を有する。
【0013】
【化2】

【0014】
mTPEは、下記の化学式を有する。
【0015】
【化3】

【0016】
本発明で使用するポリイミドは、下記の製造方法により製造され、下記に示した繰り返し単位を有する。
本発明で使用する極性有機溶媒に可溶なポリイミド共重合体であるSolpit A(商標)の製造方法
(1)PMDA、HOAB・SO、BCD、mDADE、BPDA及びmTPEを使用
(イ)ピロメリット酸ジ無水物(PMDA)2モル当量とビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェ二ル)スルホン(HOAB・SO)1モル当量とを有機極性溶媒中で、触媒の存在下に160〜200℃で反応させて、HOAB・SOの両アミノ基にPMDAが結合した低分子量イミド化合物を生成する、第一段階、
(ロ)前記第一段階で生成させた低分子量イミド化合物に、ビシクロオクテンテトラカルボン酸ジ無水物(BCD)2モル当量、3, 4’−ジアミノジフェニルエーテル(mDADE)4モル当量を反応させ、両末端にmDADEが結合した低分子量イミド化合物にする、第二段階、及び
(ハ)前記第二段階で生成させた低分子量イミド化合物に、ビフェニルテトラカルボン酸ジ無水物(BPDA)2モル当量及び1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン(mTPE)1モル当量を添加して反応させ、重縮合して有機極性溶媒に可溶なポリイミド共重合体を合成する第三段階からなる、
下記の式(I):
[(mDADE−BCD−mDADE)−(PMDA−HOAB・SO−PMDA)−(mDADE−BCD−mDADE)−(BPDA−mTPE−BPDA)]
(ここで、前記化合物間の結合は、イミド結合である。)
で表される繰り返し単位を有する、有機溶媒に可溶な耐熱性ポリイミドを製造した。
【0017】
(2)PMDA、HOAB・SO、BCD、4,4’−DADE、BPDA及びmTPEを使用
(イ)ピロメリット酸ジ無水物(PMDA)2モル当量とビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェ二ル)スルホン(HOAB・SO)1モル当量とを有機極性溶媒中で、触媒の存在下に160〜200℃で反応させて、HOAB・SOの両アミノ基にPMDAが結合した低分子量イミド化合物を生成する、第一段階、
(ロ)前記第一段階で生成させた低分子量イミド化合物に、ビシクロオクテンテトラカルボン酸ジ無水物(BCD)2モル当量、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル(4,4’−DADE)4モル当量を反応させ、両末端に4,4’−DADEが結合した低分子量イミド化合物にする、第二段階、及び
(ハ)前記第二段階で生成させた低分子量イミド化合物に、ビフェニルテトラカルボン酸ジ無水物(BPDA)2モル当量及び1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン(mTPE)1モル当量を添加して反応させ、重縮合して有機極性溶媒に可溶なポリイミド共重合体を合成する第三段階からなる。
下記の式(II):
[(4,4’−DADE−BCD−4,4’−DADE)−(PMDA−HOAB・SO−PMDA)−(4,4’−DADE−BCD−4,4’−DADE)−(BPDA−mTPE−BPDA)]
(ここで、前記化合物間の結合は、イミド結合である。)
で表される繰り返し単位を有する、極性有機溶媒に可溶な耐熱性ポリイミドを製造した。
【0018】
(3)PMDA、HOAB・SO、BCD、mDADE、BTDA及びmTPEを使用
(イ)ピロメリット酸ジ無水物(PMDA)2モル当量とビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェ二ル)スルホン(HOAB・SO)1モル当量とを有機極性溶媒中で、触媒の存在下に160〜200℃で反応させて、HOAB・SOの両アミノ基にPMDAが結合した低分子量イミド化合物を生成する、第一段階、
(ロ)前記第一段階で生成させた低分子量イミド化合物に、ビシクロオクテンテトラカルボン酸ジ無水物(BCD)2モル当量、3, 4’−ジアミノジフェニルエーテル(mDADE)4モル当量を反応させ、両末端にmDADEが結合した低分子量イミド化合物にする、第二段階、及び
(ハ)前記第二段階で生成させた低分子量イミド化合物に、ベンゾフェノンテトラカルボン酸ジ無水物(BTDA)2モル当量及び1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン(mTPE)1モル当量を添加して反応させ、重縮合して極性有機溶媒に可溶なポリイミド共重合体を合成する第三段階からなる、
下記の式(III):
[(mDADE−BCD−mDADE)−(PMDA−HOAB・SO−PMDA)−(mDADE−BCD−mDADE)−(BTDA−mTPE−BTDA)]
(ここで、前記化合物間の結合は、イミド結合である。)
で表される繰り返し単位を有する、有機溶媒に可溶な耐熱性ポリイミドを製造した。
【0019】
(4)PMDA、HOAB・SO、BCD、4,4’−DADE、BTDA及びmTPEを使用
(イ)ピロメリット酸ジ無水物(PMDA)2モル当量とビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェ二ル)スルホン(HOAB・SO)1モル当量とを有機極性溶媒中で、触媒の存在下に160〜200℃で反応させて、HOAB・SOの両アミノ基にPMDAが結合した低分子量イミド化合物を生成する、第一段階、
(ロ)前記第一段階で生成させた低分子量イミド化合物に、ビシクロオクテンテトラカルボン酸ジ無水物(BCD)2モル当量、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル(4,4’−DADE)4モル当量を反応させ、両末端に4,4’−DADEが結合した低分子量イミド化合物にする、第二段階、及び
(ハ)前記第二段階で生成させた低分子量イミド化合物に、ベンゾフェノンテトラカルボン酸ジ無水物(BTDA)2モル当量及び1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン(mTPE)1モル当量を添加して反応させ、重縮合して有機極性溶媒に可溶なポリイミド共重合体を合成する第三段階からなる。
下記の式(IV):
[(4,4’−DADE−BCD−4,4’−DADE)−(PMDA−HOAB・SO−PMDA)−(4,4’−DADE−BCD−4,4’−DADE)−(BTDA−mTPE−BTDA)]
(ここで、前記化合物間の結合は、イミド結合である。)
で表される繰り返し単位を有する、有機溶媒に可溶な耐熱性ポリイミドを製造した。 なお、本発明では、mDADEに代えて、4,4’−DADEを使用できる。また、BPDAに代えて、BTDAを使用できる。
【0020】
本発明で使用するポリイミドは、PMDA、DADE及びBPDAと共にビシクロオクテンテトラカルボン酸ジ無水物(BCDという)を含有する機能性を有し、極性有機溶媒に可溶である。BCDを付加することにより、ポリイミドに、PMDAと比べて有機溶媒への溶解性にすぐれ、高密着特性を示す特徴を更に付与した。 本発明で使用するポリイミドは、PMDAと結合して機能性を示し且つ溶媒可溶となる芳香族ジアミンとしてビス(3−アミノー4−ヒドロキシフェニル)スルホン(HOAB・SOという)、BCDと共存して接着性を強める1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン(mTPE)を採用している。
【0021】
本発明で使用するポリイミドは、PMDA、HOAB・SO、BCD、mDADE又は4,4’−DADE、BPDA又はBTDA、mTPEを使用して、3段階からなる反応により製造される。即ち、第一段階では、両末端がPMDAであるオリゴマーを製造し、第二段階では、両末端がmDADE又は4,4’−DADEであるオリゴマーを製造し、第三段階では、重縮合して極性有機溶媒に可溶なポリイミド共重合体を製造している。
【0022】
本発明で使用するポリイミドは、電着性、感光性、接着性等の機能をもつポリイミドとして利用することができる。
上記ポリイミドの重縮合に用いられる溶媒としては、例えばN-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、スルホランなどの非プロトン性の極性溶媒が用いられ、これらの溶剤は単独あるいは混合して使用することもできる。
【0023】
ポリイミドを溶解させるための極性有機溶媒としては、例えばN-メチルピロリドン、ジメチルアセトアミド、スルホラン、ジメチルホルムアミドなどが好適に使用できるが、これについても具体的な有機溶媒については限定されるものではない。
本発明によって得られるポリイミド繊維および不織布の用途は、耐熱性、機械的特性、熱安定性にすぐれるため、バッグフィルター、空気清浄機フィルター、精密機器フィルター、電池用セパレーター、不織布、メッシュ、その他各種エアフィルター用途等に用いることができる。本発明において、芳香族テトラカルボン酸ニ無水物および芳香族ジアミンは、ポリイミドを形成するものであれば特に限定されない。
【発明の効果】
【0024】
本発明では、新規の、有機溶媒に可溶な耐熱性ポリイミドを使用して、静電紡糸するため、ポリイミドの前駆体であるポリアミック酸を静電紡糸して、さらに高温に熱処理してイミド化する必要はない。これにより工程を簡素化でき、イミド化の必要がないため、イミド化による水の生成はなく、このため水を除去する必要もない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
このポリイミドにおいては必要により、通常の末端封止剤を用いることによって、ポリマーの末端を封止することも可能である。酸無水物過剰の縮合の場合にはアニリンやその類縁物質により、またアミン過剰の縮合の場合には、無水マレイン酸などの酸無水物基を持つ類縁物質により行うことが可能でもある。
ポリイミド溶液のポリマー濃度としては、固形分濃度として0.1-20重量%、特に好ましくは5-15%である。また、ポリイミド溶液からポリイミド粒子を分離乾燥後、新たに溶剤に溶解させたものでも使用可能である。ポリイミドの濃度が0.1%より小さいと不織布を形成することが困難となり、また20%よりも大きくなると繊維径が大きくなり好ましくない。
【0026】
本発明におけるポリイミド繊維および不織布は、平均繊維径が0.001~1μmである繊維により形成される。平均繊維径が更に小さくなると自己支持性が乏しくなり、またこの範囲以上に大きくなると表面積が小さくなり性能上好ましくない。通常不織布用途に好ましい平均繊維径は、0.005〜0.5μmである。
【0027】
本発明のポリイミド繊維および不織布を製造する方法としては、前述の繊維径が得られる方法であれば特に限定されないが、静電紡糸法が操作的に簡単であり好ましい。以下、静電紡糸法により製造する方法について説明する。
【0028】
一般的静電紡糸法は、ポリマー溶液にプラスの高電圧を与えて帯電噴霧し、例えばマイナスに帯電した捕集基板等に蓄積されて繊維や不織布を得る方法である。溶剤が有機可燃物の場合には、十分な量のN2などの不活性ガスによる希釈や有効な溶剤回収の為の設備の設置が必要となる。
【0029】
静電紡糸法による具体的方法は、ポリイミドの溶液を高電圧に保った電極間で形成された静電場中に吐出して行い、それにより形成される繊維状物質を捕集基板に累積することにより繊維および不織布とする。
【0030】
ポリイミド溶液を吐出する手段としては、ノズル式、マルチノズル式、フラットノズル式など、静電場にポリイミド溶液を噴霧できるものであれば特に制約はない。
また、ノズル式の場合のノズル径は通常0.1mm〜5mm程度が好ましいが、特に好ましくは0.3mm〜3mmである。またノズルの本数としては、断面積1cm2あたり1-20ノズルの範囲が好ましい。ノズル材質としては金属製でも非金属製でも良い。仮に金属製のノズルの場合には、そのノズルを一方の電極として使用可能であり、非金属製のものであればノズルの内部に電極を設置して吐出されるポリイミド溶液に電界を作用させるような方式が一般的である。
【0031】
電極間にかける電圧としては、一般に1-100KVが好ましく、ノズル形式の場合は特に10-30KVが好ましく、フラットノズルの場合にはやや高目の30-70KVが好ましい。操作温度としては、室温であれば問題ないが、通常0℃〜50℃の範囲で行う。溶剤の回収については、紡糸装置の上部または下部から排気を行い、その排気中の溶媒を回収するための装置などを設置することが好ましい。
電極間の距離は、ポリイミド溶液の濃度、ノズル形式などのよって変わるが、静電場の印加電圧が例えば5-30KVの場合には、5-20cmが好ましい。
ポリイミド繊維および不織布を製造する温度としては、通常の温度であれば問題ないが、溶剤蒸発挙動やポリイミド溶液の粘度にも依存する為、好ましくは0-50℃の範囲で行うのがよい。
【0032】
なお、今回の静電紡糸法に供するポリイミド溶液の粘度はノズル方式、印加電圧、電極間距離、などによって変わるが0.5-1,000Pa・sであり、より好ましくは1-100Pa・sである。
【実施例】
【0033】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
[製造例1]
(2PMDA+HOAB・SO)(2BCD+4mDADE)(2BPDA+mTPE)の組成を有する商品名:Solpit Aの製造
ステンレス製碇型攪拌機を取り付けた500ml容量のガラス製3つ口ガラスフラスコに、水分分離トラップを備えた蛇管式冷却器を取り付けた。窒素ガスを通しながら、上記フラスコをシリコン浴につけて、加熱、攪拌した。反応液中に加えられた少量のトルエンが還流し、生成した水は水分分離トラップにとどめられる。
【0034】
(1)ガラス製500ml容量の三つ口フラスコ中に、ピロメリット酸ジ無水物(以後PMDAという)4.36g(20ミリモル)、ビス(3−アミノー4−ヒドロキシフェニル)スルホン(以後HOAB・SOという)2.80g(10ミリモル)を、γ―バレロラクトン1.2g(12ミリモル)、ピリジン(MW79) 2.0g(14ミリモル)、Nーメチルピロリドン(以後 NMPという)80g、トルエン 25g の溶液中に加えた。反応器をシリコンオイル浴につけ、窒素を通しながら、オイルバス温度、180℃、回転数/分(以下、r.p.m.と略す。)180で50分間、加熱攪拌した。反応器をシリコン浴からはずして、30分間、空冷した。
【0035】
(2)3, 4’−ジアミノジフェニルエーテル(mDADE)8.00g(40ミリモル)にNMP 65gを加え10分間撹拌した。ついで、ビシクロオクテンテトラカルボン酸ジ無水物 (BCD) 4.96g(20ミリモル)をNMP 65gと共に加え、10分間撹拌し、再び、反応器をシリコン浴につけて、180℃、180r.p.m.で30分間反応させ、その後30分間空冷した。
【0036】
(3) BPDA 5.88g (20 ミリモル)を加え、ついで、mTPE 2.92g(10ミリモル)をNMP 80gと共に加えた。室温で20分間攪拌後、反応器をシリコン浴につけ、180℃、180r.p.m.で加熱攪拌し、重合反応を開始した。その後、1時間ごとにサンプリングを行ない、反応を6時間半行った。10%濃度のポリイミド溶液を得た。反応後の一部をNMPで希釈して、高速液体クロマトグラフ(GPC:HL8 320、東ソー(株)製)で、重合反応開始後、1時間、2時間、3時間、4時間、5時間、6時間、6時間半後の分子量及び分子分布を測定した。結果を表に示した。
【0037】
【表1】

【0038】
ポリイミド溶液をガラス板上に塗布し、150℃で30分間攪拌後、ポリイミドフイルムをガラス板より、はぎとり、金属枠に固定して、280℃ 1時間 加熱、攪拌して、試料とした。
【0039】
McScience社製TG−GTA装置で熱分析した。一次減量温度 405℃、Tm 545℃、Tg 330℃であった。製造例1により、繰り返し単位[(mDADE−BCD−mDADE)(PMDA−HOAB・SO−PMDA)(mDADE−BCD−mDADE)(BPDA−mTPE−BPDA)]を有するポリイミド(商品名:Solpit A)が生成された。
【実施例1】
【0040】
換気の良いドラフト内に設置した小型のエレクトロスピニング装置のノズルの片方に(プラス)電極をセットする。ノズルから15cm離れた位置で繊維捕集の為に20cm×30cmのアルミ箔をセットした。このアルミ箔にもう一方の電極を取り付け、この二つの電極間に10KVの電圧を印加する。この電場に向けて、内径1mmのシングルノズルから毎分2mlの割合で上記合成例で得たポリイミドのNMP溶液を噴霧する。このエレクトロスピニング装置周辺の温度は30℃であった。(図1参照)
ポリイミド溶液の送液開始と共に、アルミ箔上にポリイミドのナノファイバーが集積し、およそ30分後には捕集基板であるアルミ箔の大部分がポリイミドのナノファイバーにより淡黄色に変色していた。このナノファイバーを電子顕微鏡で観察の結果、添付の図2ようなナノ繊維が得られ、その繊維サイズとしては、概略0.2ミクロンから0.6ミクロンであった。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】エレクトロスピニング装置の模式的な断面図である。
【図2】本発明のポリイミドのナノファイバーの電子顕微鏡写真である。
【符合の説明】
【0042】
1.溶液槽およびポンプ
2.紡糸ノズル
3.ポリイミド溶液吹き出し口
4.高電圧電源
5.対向電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)ピロメリット酸ジ無水物(PMDA)2モル当量とビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェ二ル)スルホン(HOAB・SO)1モル当量とを有機極性溶媒中で、触媒の存在下に160〜200℃で反応させて、HOAB・SOの両アミノ基にPMDAが結合した低分子量イミド化合物を生成する、第一段階、
(2)前記第一段階で生成させた低分子量イミド化合物に、ビシクロオクテンテトラカルボン酸ジ無水物(BCD)2モル当量、3, 4’−ジアミノジフェニルエーテル(mDADE)又は4,4’−ジアミノジフェニルエーテル(4,4’−DADE)4モル当量を反応させ、両末端にmDADE又は4,4’−DADEが結合した低分子量イミド化合物にする、第二段階、及び
(3)前記第二段階で生成させた低分子量イミド化合物に、ビフェニルテトラカルボン酸ジ無水物(BPDA)2モル当量及び1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン(mTPE)1モル当量を添加して反応させ、重縮合して有機極性溶媒に可溶なポリイミド共重合体を合成する第三段階からなる、
下記の式(I):
[(mDADE−BCD−mDADE)−(PMDA−HOAB・SO−PMDA)−(mDADE−BCD−mDADE)−(BPDA−mTPE−BPDA)]又は、
下記の式(II):
[(4,4’−DADE−BCD−4,4’−DADE)−(PMDA−HOAB・SO−PMDA)−(4,4’−DADE−BCD−4,4’−DADE)−(BPDA−mTPE−BPDA)]
(ここで、前記化合物間の結合は、イミド結合である。)
で表される繰り返し単位を有し、極性有機溶媒に可溶でありガラス転移温度が300℃以上である耐熱性ポリイミドの有機極性溶媒溶液を、静電紡糸法によって荷電紡糸することによって生成させた、繊維径が0.001〜1μmであるポリイミド繊維。
【請求項2】
請求項1記載のポリイミド繊維を累積させることにより生成したポリイミド不織布。
【請求項3】
捕集基板上にポリイミド繊維を捕集することにより得られる請求項2記載のポリイミド不織布。
【請求項4】
(1)ピロメリット酸ジ無水物(PMDA)2モル当量とビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェ二ル)スルホン(HOAB・SO)1モル当量とを有機極性溶媒中で、触媒の存在下に160〜200℃で反応させて、HOAB・SOの両アミノ基にPMDAが結合した低分子量イミド化合物を生成する、第一段階、
(2)前記第一段階で生成させた低分子量イミド化合物に、ビシクロオクテンテトラカルボン酸ジ無水物(BCD)2モル当量、3, 4’−ジアミノジフェニルエーテル(mDADE)又は4,4’−ジアミノジフェニルエーテル(4,4’−DADE)4モル当量を反応させ、両末端にmDADE又は4,4’−DADEが結合した低分子量イミド化合物にする、第二段階、及び
(3)前記第二段階で生成させた低分子量イミド化合物に、ベンゾフェノンテトラカルボン酸ジ無水物(BTDA)2モル当量及び1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン(mTPE)1モル当量を添加して反応させ、重縮合して有機極性溶媒に可溶なポリイミド共重合体を合成する第三段階からなる、
下記の式(III):
[(mDADE−BCD−mDADE)−(PMDA−HOAB・SO−PMDA)−(mDADE−BCD−mDADE)−(BTDA−mTPE−BTDA)]又は、
下記の式(IV):
[(4,4’−DADE−BCD−4,4’−DADE)−(PMDA−HOAB・SO−PMDA)−(4,4’−DADE−BCD−4,4’−DADE)−(BTDA−mTPE−BTDA)]
(ここで、前記化合物間の結合は、イミド結合である。)
で表される繰り返し単位を有し、極性有機溶媒に可溶でありガラス転移温度が300℃以上である耐熱性ポリイミドの有機極性溶媒溶液を、静電紡糸法によって荷電紡糸することによって生成させた、繊維径が0.001〜1μmであるポリイミド繊維。
【請求項5】
請求項3記載のポリイミド繊維を累積させることにより生成したポリイミド不織布。
【請求項6】
捕集基板上にポリイミド繊維を捕集することにより得られる請求項5記載のポリイミド不織布。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−132611(P2011−132611A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−290303(P2009−290303)
【出願日】平成21年12月22日(2009.12.22)
【出願人】(503398118)双日株式会社 (9)
【Fターム(参考)】