説明

ポリウレタン樹脂製造用触媒及びポリウレタン樹脂の製造方法

【課題】 ポリウレタン樹脂の製造方法において、低温領域での反応性に優れ、なおかつ環境的負荷の高い重金属を含まない触媒が望まれていた。
【解決手段】 下記式(1)で示されるヒドロキシルアミンのアルコール残基が、チタニウムと結合した構造を有するチタニウム化合物をポリウレタン製造用触媒として用いる。
【化1】


[上記式(1)中、R〜Rは各々独立して、水素原子又は炭素数1〜10の炭化水素基を表す。また、Rは炭素数1〜10の炭化水素基を表す。]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリウレタン樹脂の製造に有用な触媒として用いられるチタニウム化合物に関する。
【0002】
また、本発明は、ポリオールとイソシアネート成分とを前記触媒の存在下に反応させ、ポリウレタン樹脂を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
ポリウレタン樹脂は、ポリオールと有機ポリイソシアネートを触媒及び必要に応じて発泡剤、界面活性剤、架橋剤等の添加剤の存在下に反応させて製造され、例えば、塗料、接着剤、エラストマー、シーラント、硬質又は軟質フォームとして広く利用されている。
【0004】
ポリウレタン樹脂製造用の触媒としては、金属触媒や第3級アミン類が使用されているが、第3級アミン類は、ポリオールと有機ポリイソシアネートからウレタン結合を生成する反応を促進すると同時に、水と有機ポリイソシアネートとの反応を促進し、炭酸ガスを発生させる作用も有しているため、通常発泡ウレタン用途に使用される。一方、金属触媒は主にウレタン化反応を促進するため、非発泡ウレタン分野に使用される。
【0005】
金属触媒としては、スズ、鉛、ビスマス、水銀、チタニウム、ジルコニウム、鉄、アルミニウム等の化合物が知られている。これらの中で、スズ、鉛及び水銀の化合物は、触媒活性が高く、実用性に優れるため、広く用いられてきた。しかしながら、これらの化合物は毒性が高いものが多く、近年の環境意識の高まりに伴って、使用が控えられる傾向がある。ビスマス化合物は、比較的毒性が低いとされるが、ビスマスは重金属であるため十分に安全とは言えない。
【0006】
チタニウム化合物やジルコニウム化合物は、比較的高いウレタン化活性を有しており新規な触媒の開発が活発化している。これらの例としては、炭素数が7以上のβ−ジケトン配位子を含むジルコニウムのテトラジケトン錯体(例えば、特許文献1参照)、特定のβ−ジケトン配位子とアリロキシ基を有するジルコニウム化合物、(例えば、特許文献2参照)、ケトアミド配位子を有するジルコニウム化合物(例えば、特許文献3参照)、チタニウムアルコキシドとケトン、アルデヒド、カルボン酸等の配位性化合物との混合物(たとえば、特許文献4参照)等が挙げられる。
【0007】
しかしながら、これらの触媒は従来の金属触媒と比較すると反応性が十分に高くないため、代替触媒として用いるのは難しいのが現状である。
【0008】
このように、ポリウレタン樹脂の製造方法において、低温領域での反応性に優れ、なおかつ環境的負荷の高い重金属を含まない触媒が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特表2001−524142号公報
【特許文献2】特開2007−197506号公報
【特許文献3】特表2008−545058号公報
【特許文献4】特許第4041459号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
チタニウム化合物やジルコニウム化合物からなるウレタン製造用金属触媒は、加熱した場合には比較的高い活性を示すが、室温付近又はこれ以下の低温領域では十分な活性を有していない。例えば、ポリウレタンシーラントの硬化触媒として使用すると、特に低温領域では長い硬化時間を要し、樹脂硬度も十分に高くないという問題があった。また、ウレタンコーティング用途では、長い乾燥時間を要するという問題があった。
【0011】
本発明は、上記の背景技術に鑑みてなされたものであり、その目的は、低温領域でのウレタン化反応性に優れ、なおかつ環境的負荷の高い金属を使用しないポリウレタン樹脂製造用触媒として有用なチタニウム化合物、当該触媒及びこれを用いたポリウレタン樹脂の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は前記の事情に鑑み、新規なポリウレタン樹脂製造用触媒について鋭意検討した結果、特定のヒドロキシルアミン構造を分子中に有するチタニウム化合物を含む触媒組成物が前記課題を解決するために極めて有効であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち本発明は、以下に示すとおりの、チタニウム化合物、ポリウレタン樹脂製造用触媒組成物及びポリウレタン樹脂の製造方法である。
【0014】
[1]下記式(1)で示されるヒドロキシルアミンのアルコール残基が、チタニウムと結合した構造を有するチタニウム化合物。
【0015】
【化1】

[上記式(1)中、R〜Rは各々独立して、水素原子又は炭素数1〜10の炭化水素基を表す。また、Rは炭素数1〜10の炭化水素基を表す。]
[2]下記一般式(2)で示されるチタニウム化合物。
【0016】
Ti(L)(L)(L)(L) (2)
[上記式(2)中、L〜Lは各々独立して、下記一般式(1)で示されるヒドロキシルアミンのアルコール残基、アルキルオキシ基、アリールオキシ基、β−ジケトネート、又はカルボン酸アニオンを表す。ただし、L〜Lの少なくとも1つは下記一般式(1)で示されるヒドロキシルアミンのアルコール残基である。]
【0017】
【化2】

[上記式(1)中、R〜Rは各々独立して、水素原子又は炭素数1〜10の炭化水素基を表す。また、Rは炭素数1〜10の炭化水素基を表す。]
[3]一般式(2)中のアルキルオキシ基が、ブトキシ基、ジエチレングリコールのアルコール残基、及び1,4−ブタンジオールのアルコール残基からなる群より選択されることを特徴とする上記[2]に記載のチタニウム化合物。
【0018】
[4]一般式(2)中のβ−ジケトネートが、2,4−ペンタンジオン、3、5−ヘプタンジオン、アセト酢酸エチル、及びマロン酸ジエチルからなる群より選ばれる少なくとも1種のβ−ジケトン化合物のアニオンであることを特徴とする上記[2]又は[3]に記載のチタニウム化合物。
【0019】
[5]上記[1]乃至[4]のいずれかに記載のチタニウム化合物を含有することを特徴とするポリウレタン樹脂製造用触媒。
【0020】
[6]ポリオール成分とイソシアネート成分とを、触媒として、上記[5]に記載のポリウレタン樹脂製造用触媒の存在下、反応させることを特徴とするポリウレタン樹脂の製造方法。
【0021】
[7]さらに、希釈剤、顔料、架橋剤、安定剤、及び充填剤からなる群より選ばれる少なくとも一種の添加剤の存在下で反応させることを特徴とする上記[6]に記載のポリウレタン樹脂の製造方法。
【発明の効果】
【0022】
本発明のポリウレタン樹脂製造用触媒は、従来のチタニウム化合物又はジルコニウム化合物からなるウレタン製造用金属触媒と比較して、室温又はこれ以下の低温領域におけるに反応性に優れているため、反応促進のために加熱しない非加熱条件下で良好な硬化速度が得られる。また、毒性の高い金属を含まないため、取扱いが容易であり、環境にやさしい特性を有する。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明のチタニウム化合物は、上記式(1)で示されるヒドロキシルアミンのアルコール残基が、チタニウムと結合した構造を有することをその特徴とするものであって、具体的には、上記一般式(2)で示される。
【0024】
上記一般式(1)で表される置換基は、下記式(3)
【0025】
【化3】

[上記式(3)中、R〜Rは各々独立して、水素原子又は炭素数1〜10の炭化水素基を表す。また、Rは炭素数1〜10の炭化水素基を表す。]
で示されるヒドロキシルアミン化合物のアルコール残基であって、トリエチレンジアミン(TEDA)骨格を有することをその特徴とする。対応するヒドロキシルアミン化合物としては、特に限定するものではないが、具体的には、2−メトキシ−1,4−ジアザビシクロ[2,2,2]オクタン(ヒドロキシメチルTEDA)、2−エトキシ−1,4−ジアザビシクロ[2,2,2]オクタン、2−プロポキシ−1,4−ジアザビシクロ[2,2,2]オクタン、2−イソプロポキシ−1,4−ジアザビシクロ[2,2,2]オクタン、2−エトキシ−3−メチル−1,4−ジアザビシクロ[2,2,2]オクタン、2−エトキシ−5−メチル−1,4−ジアザビシクロ[2,2,2]オクタン、2−エトキシ−6−メチル−1,4−ジアザビシクロ[2,2,2]オクタン、2−エトキシ−3−エチル−1,4−ジアザビシクロ[2,2,2]オクタン、2−エトキシ−5−エチル−1,4−ジアザビシクロ[2,2,2]オクタン、2−エトキシ−6−エチル−1,4−ジアザビシクロ[2,2,2]オクタン等が例示される。これらの化合物の中で、2−メトキシ−1,4−ジアザビシクロ[2,2,2]オクタン及び2−エトキシ−1,4−ジアザビシクロ[2,2,2]オクタンがチタニウム化合物の触媒活性の観点から、好適に用いられる。
【0026】
上記一般式(2)において、L〜Lの少なくとも1つは、上記一般式(1)で示されるヒドロキシルアミンのアルコール残基であるが、上記式(1)で示されるヒドロキシルアミンのアルコール残基以外に、アルキルオキシ基、アリールオキシ基、β−ジケトネート又はカルボン酸アニオンから選択される。
【0027】
アルキルオキシ基としては、特に限定するものではないが、具体的には、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、i−プロポキシ基、n−ブトキシ基、sec−ブトキシ基、ペントキシ基、ヘキトキシ基、2−エチルヘキトキシ基等が例示される。また、アルコキシ基としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、トリメチロールプロパン等の多価アルコールからのアルコール残基も含まれる。これらのアルコキシ基の中で、ブトキシ基や、ジエチレングリコール又は1,4−ブタンジオールのアルコール残基が触媒活性の観点から好ましい。
【0028】
アリールオキシ基としては、特に限定するものではないが、具体的には、フェニルオキシ基、2−メチルフェニルオキシ基、3−メチルフェニルオキシ基、4−メチルフェニルオキシ基、2,3−ジメチルフェニルオキシ基、3,4−ジメチルフェニルオキシ基、3,5−ジメチルフェニルオキシ基、2,6−ジメチルフェニルオキシ基、2−メトキシフェニルオキシ基、3−メトキシフェニルオキシ基、4−メトキシフェニルオキシ基、2−アセチルフェニルオキシ基、3−アセチルフェニルオキシ基、4−アセチルフェニルオキシ基、1−ナフチルオキシ基、2−ナフチルオキシ基、2−メトキシカルボニルフェニルオキシ基、2−エトキシカルボニルフェニルオキシ基等が例示される。これらのうち、フェニルオキシ基、2−メチルフェニルオキシ基、3−メチルフェニルオキシ基及び4−メチルフェニルオキシ基は工業的に入手しやすいため、好適に使用できる。
【0029】
β−ジケトネートとしては、特に限定するものではないが、具体的には、2、4−ペンタンジオン(アセチルアセトン)、2,4−ヘキサンジオン、3,5−ヘプタンジオン、2−メチルヘキサン−3,5−ジオン、6−メチルヘプタン−2,4−ジオン、2,6−ジメチルヘプタン−3,5−ジオン、2,2−ジメチルヘキサン−3,5−ジオン、2,2,6,6−テトラメチルヘプタン−3,5−ジオン、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、アセト酢酸イソプロピル、アセト酢酸tert−ブチル、プロピオニル酢酸メチル、プロピオニル酢酸エチル、プロピオニル酢酸イソプロピル、プロピオニル酢酸tert−ブチル、イソブチリル酢酸メチル、イソブチリル酢酸エチル、イソブチリル酢酸イソプロピル、イソブチリル酢酸tert−ブチル、4,4−ジメチル−3−オキソペンタン酸メチル、4,4−ジメチル−3−オキソペンタン酸エチル、4,4−ジメチル−3−オキソペンタン酸イソプロピル、4,4−ジメチル−3−オキソペンタン酸tert−ブチル等のβ−ジケトン化合物のアニオンが例示される。
【0030】
カルボン酸アニオンとしては、特に限定するものではないが、具体的には、ギ酸、酢酸、2−ケトエタン酸(グリオキシル酸)、プロパン酸、2−ケトプロパン酸(ピルビン酸)、ブタン酸、イソブタン酸、2−ケトブタン酸、ペンタン酸、イソペンタン酸、ヘキサン酸、2−メチルペンタン酸、2−エチルブタン酸、ヘプタン酸、カプリル酸、2−エチルヘキサン酸、ノナン酸、ウンデシル酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸等のカルボン酸のアニオンが例示される。
【0031】
また、カルボン酸アニオンとしては、水酸基を有するヒドロキシカルボン酸のアニオンも含まれる。具体的には、2−ヒドロキシエタン酸(グリコール酸)、2−フェニル−2−ヒドロキシエタン酸(マンデル酸)、2−ヒドロキシプロパン酸(乳酸)、3−ヒドロキシプロパン酸、2−ヒドロキシ−1,2,3−プロパントリカルボン酸(クエン酸)、1−ヒドロキシ−1,2,3−プロパントリカルボン酸(イソクエン酸)、2−ヒドロキシブタン酸、3−ヒドロキシブタン酸、2,2−ビス(ヒドロキシメチル)ブタン酸、2−ヒドロキシブタン−1,4−二酸(リンゴ酸)、2,3−ジヒドロキシブタン−1,4−二酸(酒石酸)、2−ヒドロキシ−2−メチルブタン−1,4−二酸(シトラマル酸)、サリチル酸、3−メチルサリチル酸、4−メチルサリチル酸、5−メチルサリチル酸、3−メトキシサリチル酸、4−メトキシサリチル酸、5−メトキシサリチル酸等の化合物のアニオンが例示される。
【0032】
本発明のチタニウム化合物は、従来公知の一般的な方法で製造することができ、特に限定するものではないが、例えば、以下の方法により、製造することができる。
【0033】
すなわち、チタニウムアルコキシドを溶媒に溶解し、続いて、上記一般式(3)で示されるヒドロキシルアミン化合物、及び必要に応じてアルコール、β―ジケトン化合物、カルボン酸等の上記一般式(2)中のL〜Lで表される原子団を形成する化合物を添加した後、これらを反応させる。次に、副生したアルコール及び溶媒を減圧下で留去することで、本発明のチタニウム化合物を得ることができる。
【0034】
上記反応において、チタニウムアルコキシドとしては、特に限定するものではないが、具体的には、チタニウムテトラエトキシド、チタニウムテトラn−プロポキシド、チタニウムテトライソプロポキシド、チタニウムテトラn−ブトキシド、チタニウムテトラヘキソキシド、チタニウムテトラ2−エチルヘキソキシド及びチタニウムテトラオクトキシドを例示できる。これらのチタニウムアルコキシドの中で、チタニウムテトラn−プロポキシド、チタニウムテトライソプロポキシド及びチタニウムテトラn−ブトキシドは工業的に入手しやすいため、好適に使用できる。
【0035】
上記反応において、溶媒としては、例えば、塩化メチレン、トルエン、酢酸エチル等が挙げられる。また、上記反応において、反応温度は通常0〜100℃の範囲、反応時間は通常1〜24時間の範囲である。チタニウムテトラアルコキシドは、容易に加水分解するため、反応は不活性ガス中で行い、溶媒は脱水したものを使用することが望ましい。
【0036】
また、本発明のポリウレタン樹脂製造用触媒は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、上記反応で副生したアルコールや溶媒を含んでいてもよい。
【0037】
本発明のポリウレタン樹脂の製造方法は、ポリオール成分とイソシアネート成分とを、本発明のポリウレタン樹脂製造用触媒の存在下、反応させることをその特徴とする。
【0038】
本発明の方法において、ポリオール成分として使用されるポリオールは、特に限定するものではないが、例えば、従来公知のポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリカーボネート系ポリオール、アクリル系ポリオール、ポリブタジエン系ポリオール、ポリオレフィン系ポリオール、カプロラクトン変性ポリオール、ポリエステルアミドポリオール、ポリウレタンポリオール、エポキシポリオール、エポキシ変性ポリオール、アルキド変性ポリオール、ひまし油、フッ素含有ポリオール等が挙げられる。これらのポリオールは単独で使用することもできるし、適宜混合してポリオール成分とすることもできる。
【0039】
ポリエーテルポリオールとしては、例えば、少なくとも2個以上の活性水素基を有する化合物を出発原料としてこれにエチレンオキシドやプロピレンオキシドに代表されるアルキレンオキサイドの付加反応により、例えば、Gunter Oertel,“Polyurethane Handbook”(1985年版)Hanser Publishers(ドイツ),p.42〜53に記載の方法により製造することができる。少なくとも2個以上の活性水素基を有する化合物としては、特に限定するものではないが、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングルコール、テトラメチレングルコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ソルビトール、シュークロース等の多価アルコール類、エチレンジアミン等の脂肪族アミン化合物類、トルエンジアミン、ジフェニルメタン−4,4−ジアミン等の芳香族アミン化合物類、エタノールアミン、ジエタノールアミン等のアルカノールアミン類等が挙げられる。
【0040】
ポリエステルポリオールとしては、例えば、多価アルコールと無水マレイン酸、フマール酸、無水イタコン酸、イタコン酸、アジピン酸、イソフタル酸等の多塩基酸との縮合物や、ナイロン製造時の廃物、トリメチロールプロパン、ペンタエリストールの廃物、フタル酸系ポリエステルの廃物、廃品を処理し誘導したポリエステルポリオール[岩田敬治、「ポリウレタン樹脂ハンドブック」(1987年初版)日刊工業新聞社、p.117参照]等が挙げられる。
【0041】
アクリル系ポリオールとしては、例えば、水酸基含有不飽和モノマーとラクトン変性不飽和モノマーの両方又はいずれか一方のモノマーと、不飽和モノマーとを重合反応させて得られるポリオールが挙げられる。ここで、水酸基含有不飽和モノマーとしては、例えば、アクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタアクリル酸2−ヒドロキシエチル等が挙げられる。また、ラクトン変性不飽和モノマーとしては、例えば、水酸基含有不飽和モノマーにε−カプロラクタム等のラクトン類を付加して得られるものが挙げられる。さらに、不飽和モノマーとしては、例えば、スチレン、アクリル酸メチル、メタアクリル酸メチル、アクリル酸ブチル、メタアクリル酸ブチル等が挙げられる。
【0042】
ポリオールの数平均分子量は、特に限定するものではないが、200〜10,000の範囲のものが好ましい。平均分子量が200未満では樹脂中のウレタン基の濃度が高くなりすぎ、樹脂の柔軟性が損なわれるおそれがある。また、平均分子量が10,000を超えると、樹脂中のウレタン基の濃度が低すぎて、十分な機械物性が得られないおそれがある。
【0043】
本発明の方法において、イソシアネート成分は、有機ポリイソシアネート、ウレタンプレポリマー、又はそれらの両方からなる。
【0044】
本発明の方法において、有機ポリイソシアネートとしては、特に限定するものではないが、例えば、トルエンジイソシアネート(TDI)、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、ナフチレンジイシシアネート、キシリレンジイソシアネート等の芳香族ポリイソシアネート類、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、水添化ジフェニルメタンジイソシアネート(H−MDI)、水添化キシリレンジイソシアネート(H−XDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、ノルボルナンジイソシアネート(NBDI)、1,3−ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン(H6XDI)、L−リシンジイソシアネート(LDI)、1,6,11−ウンデカントリイソシアネート等の脂肪族ポリイソシアネート類が挙げられる。
【0045】
また、本発明の方法においては、有機ポリイソシアネートとして、これらの有機ポリイソシアネートの二量体変性体、三量体変性体、ビュレット変性体、アロファネート変性体、更にこれら有機ポリイソシアネート化合物のブロックイソシアネートも含まれる。ブロックイソシアネートとしては、例えばエタノール、イソプロパノール、1−ブタノール等のアルコール類、フェノール、p−ニトロフェノール等のフェノール類、ε−カプロラクタム等のラクタム類、アセトオキシム、メチルエチルケトオキシム等のオキシム類、マロン酸ジエチル、アセト酢酸エチル、アセチルアセトン等の活性メチレン含有化合物で活性なイソシアネート基をブロックしたものがあげられる。
【0046】
さらに、本発明の方法においては、イソシアネート成分として、有機ポリイソシアネートの全部又は一部に換えて、ウレタンプレポリマーを使用することもできる。
【0047】
ウレタンプレポリマーは、上記したポリオールとポリイソシアネートとを反応させることにより得られる。ここで、該反応は高温で行うことが望ましく、例えば、60℃〜150℃の範囲間で反応を行うことが望ましい。ポリオールに対するポリイソシアネートの当量比は、約0.8〜約3.5の範囲間に設定するのが望ましい。
【0048】
本発明の方法において、イソシアネートインデックス(イソシアネート基/イソシアネート基と反応しうる活性水素基)は特に限定するものではないが、通常は50〜250の範囲であり、更に好ましくは70〜150の範囲である。イソシアネートインデックスが50未満では架橋密度が低くなり樹脂強度が低下するおそれがあり、また、150を超えると未反応イソシアネート基が残存するため塗膜乾燥性が悪化するおそれがある。
【0049】
本発明の方法において、上記した本発明の触媒の添加方法については特に制限はないが、例えば、ポリオール成分又はイソシアネート成分に予め添加する、ポリオール成分とイソシアネート成分を混合した後添加する等の方法が挙げられる。
【0050】
本発明の方法において、本発明のポリウレタン樹脂製造用触媒の使用量としては、特に限定するものではないが、生成するポリウレタン樹脂に対して、チタニウム金属として通常5〜1000重量ppmの範囲である。
【0051】
また、本発明の方法において、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、その他の金属触媒や第3級アミン触媒を併用しても良い。
【0052】
その他の有機金属触媒としては、特に限定するものではないが、具体的には、スタナスジアセテート、スタナスジオクトエート、スタナスジオレエート、スタナスジラウレート、ジブチル錫オキサイド、ジブチル錫ジアセテート、ジブチル錫ジラウレート、ジブチル錫ジクロライド、ジオクチル錫ジラウレート等の有機スズ触媒や、オクチル酸ニッケル、ナフテン酸ニッケル、オクチル酸コバルト、ナフテン酸コバルト、オクチル酸ビスマス、ナフテン酸ビスマス等が例示される。これらのうち、好ましい化合物は、有機スズ触媒であり、更に好ましくはスタナスジオクトエートまたはジブチルスズジラウレートである。
【0053】
また、その他の第3級アミン触媒としては、特に限定するものではないが、具体的には、トリエチレンジアミン、2−メチルトリエチレンジアミン、N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン、N,N,N’,N’−テトラメチルプロピレンジアミン、N,N,N’,N”,N”−ペンタメチルジエチレントリアミン、N,N,N’,N”,N”−ペンタメチル−(3−アミノプロピル)エチレンジアミン、N,N,N’,N”,N”−ペンタメチルジプロピレントリアミン、N,N,N’,N’−テトラメチルヘキサメチレンジアミン、ビス(2−ジメチルアミノエチル)エーテル、ジメチルエタノールアミン、ジメチルイソプロパノールアミン、ジメチルアミノエトキシエタノール、N,N−ジメチル−N’−(2−ヒドロキシエチル)エチレンジアミン、N,N−ジメチル−N’−(2−ヒドロキシエチル)プロパンジアミン、ビス(ジメチルアミノプロピル)アミン、ビス(ジメチルアミノプロピル)イソプロパノールアミン、3−キヌクリジノール、N,N,N’,N’−テトラメチルグアニジン、1,3,5−トリス(N,N−ジメチルアミノプロピル)ヘキサヒドロ−S−トリアジン、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン−7、N−メチル−N’−(2−ジメチルアミノエチル)ピペラジン、N,N’−ジメチルピペラジン、ジメチルシクロヘキシルアミン、N−メチルモルホリン、N−エチルモルホリン、1−メチルイミダゾール、1,2−ジメチルイミダゾール、1−イソブチル−2−メチルイミダゾール、1−ジメチルアミノプロピルイミダゾール、N,N−ジメチルヘキサノールアミン、N−メチル−N’−(2−ヒドロキシエチル)ピペラジン、1−(2−ヒドロキシエチル)イミダゾール、1−(2−ヒドロキシプロピル)イミダゾール、1−(2−ヒドロキシエチル)−2−メチルイミダゾール、1−(2−ヒドロキシプロピル)−2−メチルイミダゾール、キヌクリジン、2−メチルキヌクリジン等が例示される。
これらのうち、好ましい化合物は、トリエチレンジアミン、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン−7および1,2−ジメチルイミダゾールである。
【0054】
本発明の方法において、上記した本発明の触媒以外にさらに添加剤を使用することができる。このような添加剤としては、架橋剤又は鎖延長剤、顔料、着色剤、難燃剤、老化防止剤、抗酸化防止剤、充填剤、増粘剤、減粘剤、可塑剤、タレ防止剤、沈殿防止剤、消泡剤、UV吸収剤、溶媒、チキソトロープ剤、吸着剤、その他公知の添加剤等が挙げられる。これらの中でも、希釈剤、顔料、架橋剤、安定剤、及び、充填剤等の添加剤の使用が好ましい。
【0055】
本発明の方法において、架橋剤又は鎖延長剤としては、低分子量の多価アルコール(例えば、エチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、グリセリン等が挙げられる。)、低分子量のアミンポリオール(例えば、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等が挙げられる。)、ポリアミン(例えば、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、ピペラジン、N−アミノエチルピペラジン、キシリレンジアミン、メチレンビスオルソクロルアニリン等が挙げられる。)等が例示される。
【0056】
本発明の方法においては、イソシアネート成分やポリオール成分等の原料を溶解、希釈するため、溶剤を使用することができる。このような溶剤としては、トルエン、キシレン、ミネラルターペン等の炭化水素類、酢酸エチル、酢酸ブチル、メチルグリコールアセテート、酢酸セルソルブ等のエステル類、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等のアミド類の有機溶媒が挙げられる。
【実施例】
【0057】
以下、実施例、比較例に基づいて説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
【0058】
実施例1.
チタニウムテトラn−ブトキシド(アルドリッチ社試薬)5.00gを窒素置換したシュレンク管に入れ、脱水塩化メチレン10.00gを加えた。この溶液に、2−ヒドロキシメチル−1,4−ジアザビシクロ[2,2,2]オクタン2.09gを加え常温で1時間攪拌した。続いて、ジエチレングリコール6.00gを加え、さらに12時間反応させた。反応終了後、80℃で1時間減圧乾燥し、不揮発成分として粘調の淡黄色の液体8.79gを得た。これを触媒1とする。触媒1中のチタニウム濃度は8.0重量%と計算された。以上の結果を表1に示した。
【0059】
溶媒を除く仕込み成分の合計重量は13.09gであり、4.30gの重量減が認められることから、原料であるチタニウムテトラn−ブトキシドのブトキシ基が2−ヒドロキシメチル−1,4−ジアザビシクロ[2,2,2]オクタン及びジエチレングリコールとアルコール交換し、n−ブタノールとして遊離したことがわかった。
【0060】
ポリプロピレングリコール(サンニックPP2000、三洋化成社製)100.0gをフラスコに入れ、減圧、130℃の条件で1時間脱水した。液温を80℃に調整した後、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(日本ポリウレタン社製、ミリオネートMTF)24.4gを加え(イソシアネート基と水酸基のモル比が、イソシアネート基/水酸基=2.00)、6時間反応させ、イソシアネートプレポリマーを調製した。ジブチルアミン逆滴定法で測定したNCO濃度は3.3%であった。
【0061】
減圧下130℃の条件で1時間脱水したポリプロピレングリコール(サンニックPP2000、三洋化成社製)25.0gに対して触媒1を35mg添加し、溶解させた。この溶液を10℃に冷却し、同様に10℃に冷却した31.1gの上記イソシアネートプレポリマーをよく混合した。系中の金属(チタニウム)濃度は50ppmであった。この液を10℃に保ちながら粘度の変化を測定した(スピンドル#7、回転数6rpm)。経時にともなって、粘度は上昇し、500Pa.sに達するまでの時間は16分であった。この時間を硬化性を表す指標としてゲルタイムと定義する。
【0062】
上記反応液を20℃で24時間放置した後、樹脂表面の触感から、ベトツキの有無を硬化性を表す別の指標(タック性)として評価したところ、ベトツキはなかった、以上の結果を表3にまとめて示す
実施例2〜実施例4.
実施例1と同様にして、表1に示す触媒2〜触媒4を調製した。
【0063】
次いで、実施例1と同様に、触媒2〜触媒4のゲルタイム及びタック性の評価を行った。結果を表3にあわせて示す。
【0064】
比較例1〜比較例4.
実施例1と同様にして、表2に示す触媒5〜触媒8を調製した。
【0065】
次いで、実施例1と同様に、触媒5〜触媒8のゲルタイム及びタック性の評価を行った。結果を表3にあわせて示す。
【0066】
【表1】

【0067】
【表2】

【0068】
【表3】

比較例1〜比較例4は、触媒として、トリエチレンジアミン(TEDA)骨格を有さないヒドロキシルアミン化合物を用いた例であるが、いずれも実施例と比較してゲルタイムが長いことから、触媒反応性が低いことがわかる。
【0069】
比較例5.
実施例の触媒組成物に替えて、ジブチルスズジラウレート(キシダ化学社試薬)を用い、実施例1と同様にしてその硬化性を評価した。結果を表3に示す。ゲルタイムは、比較的短く、触媒反応性は良好であることがわかるが、タック性は必ずしも良好ではなかった。また、DBTDLは不純物としてトリブチルスズを含有しており環境衛生上、安全に使用できるものではない。
【0070】
比較例6.
実施例の触媒組成物に替えて、オクチル酸鉛(ニッカオクチックス鉛、日本化学産業社製)を用い、実施例1と同様にしてその硬化性を評価した。結果を表3に示す。比較例10は、実施例と比較して、触媒反応性は高いことがわかるが、タック性は必ずしも良好ではなった。また、鉛化合物は毒性が高いため、環境衛生上、安全に使用できるものではない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で示されるヒドロキシルアミンのアルコール残基が、チタニウムと結合した構造を有するチタニウム化合物。
【化1】

[上記式(1)中、R〜Rは各々独立して、水素原子又は炭素数1〜10の炭化水素基を表す。また、Rは炭素数1〜10の炭化水素基を表す。]
【請求項2】
下記一般式(2)で示されるチタニウム化合物。
Ti(L)(L)(L)(L) (2)
[上記式(2)中、L〜Lは各々独立して、下記一般式(1)で示されるヒドロキシルアミンのアルコール残基、アルキルオキシ基、アリールオキシ基、β−ジケトネート、又はカルボン酸アニオンを表す。ただし、L〜Lの少なくとも1つは下記一般式(1)で示されるヒドロキシルアミンのアルコール残基である。]
【化2】

[上記式(1)中、R〜Rは各々独立して、水素原子又は炭素数1〜10の炭化水素基を表す。また、Rは炭素数1〜10の炭化水素基を表す。]
【請求項3】
一般式(2)中のアルキルオキシ基が、ジエチレングリコール及び1,4−ブタンジオールからなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物のアルコール残基であることを特徴とする請求項2に記載のチタニウム化合物。
【請求項4】
一般式(2)中のβ−ジケトネートが、2,4−ペンタンジオン、3、5−ヘプタンジオン、アセト酢酸エチル、及びマロン酸ジエチルからなる群より選ばれる少なくとも1種のβ−ジケトン化合物のアニオンであることを特徴とする請求項2又は請求項3に記載のチタニウム化合物。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれかに記載のチタニウム化合物を含有することを特徴とするポリウレタン樹脂製造用触媒。
【請求項6】
ポリオール成分とイソシアネート成分とを、触媒として、請求項5に記載のポリウレタン樹脂製造用触媒の存在下、反応させることを特徴とするポリウレタン樹脂の製造方法。
【請求項7】
さらに、希釈剤、顔料、架橋剤、安定剤、及び充填剤からなる群より選ばれる少なくとも一種の添加剤の存在下で反応させることを特徴とする請求項6に記載のポリウレタン樹脂の製造方法。

【公開番号】特開2013−1679(P2013−1679A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−134538(P2011−134538)
【出願日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【Fターム(参考)】