説明

ポリエステルフィラメント糸

【課題】高い巻き取り速度で、ポリエステルフィラメントを製造する方法を提供する。
【解決手段】その鎖の90%超がエチレンテレフタレート単位から成るところのポリマーから、1段階紡糸プロセスを経て、技術的適用のための連続ポリエステルフィラメント糸を製造する方法であり、未延伸フィラメントは16%より小さい結晶化度を有し、糸は6000m/分より大きい速度で巻き取られる。このようにして得られる糸は、ゴム製品における強化物質、例えば車の空気式タイヤにおける強化物質としての使用に特に適している。 このポリエステルフィラメント糸は、並外れて高い寸法安定性および、切断強さ、収縮量および破壊靭性の独特の組合せを有するコードを作るのに使用できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、その鎖の90%超がエチレンテレフタレート単位から成るところのポリマーを紡糸することによる、技術的適用のためのポリエステルフィラメント糸の製造方法に関し、この紡糸プロセスは次の要素:
− 溶融状態のポリマーを紡糸口金プレートを通して押し出すこと、
− かくして形成されたフィラメントが、被加熱域および冷却域をこの順に通過されること、
− フィラメント速度を固定すること、
− フィラメントを、そのもともとの長さの1.5〜3.5倍の長さに延伸すること、および
− 得られたフィラメント糸を巻き取ること、
を含み、すべての要素は、一回の工程通過で扱われる。
【背景技術】
【0002】
そのようなプロセスはよく知られている。例えば、欧州特許出願公開第80 906号は、そのすべてのプロセス要素が一回の工程通過で扱われるところの、ポリエステル含有ポリマーを溶融紡糸することによる、技術的適用のためのポリエステルフィラメント糸の製造方法を記載する。そのようなプロセスはまた、1段階プロセスとして知られている。この公報中には、そのようなプロセスにおいては、より速い巻き取り速度はフィラメンテーション(filamentation)を引き起こし、かつ操作が難しいので、5500m/分未満の巻き取り速度を選択することが好ましいことが示されている。
【0003】
しかしながら、巻き取り速度の増加が望まれる。産業的規模で、技術的適用のためのポリエステルフィラメント糸を製造することきには、適当な装置において単位時間当たりの糸の最大可能な量を製造するのが有利である。単位時間当たりに製造される糸の量を増加させる方法の1つは、より高い巻き取り速度にある。
【0004】
米国特許第4,491,657号明細書はまた、最初の段落に記載したプロセスを開示する。この特許明細書は、そのような1段階プロセスにおいては糸の巻き取り速度は6.5km /分以上であることを述べている。しかしながら、この特許明細書には、そのような巻き取り速度でのそのような1段階プロセスにより作られた、技術的適用のためのポリエステルフィラメント糸についての実施例がないだけでなく、そのような巻き取り速度で、技術的適用のためのポリエステルフィラメント糸を作ったときに生じることがわかる問題をどのように解決するかについてのいかなる教示もない。
【0005】
国際特許出願WO 90/00638号は、1段階紡糸プロセスにおいて、紡糸速度の増加が、まだ未延伸のフィラメントの増加された結晶化度と関連して起こることを示す。約4800m/分の速度で巻かれた糸が、13〜18%の範囲の結晶化度を有する未延伸フィラメントから得ることができる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記した問題が生じることなく、高い巻き取り速度で、技術的適用のためのポリエステルフィラメント糸を製造することを可能にする方法に関する。ここで、巻き取り速度という語は、巻かれるパッケージの周囲の速度として定義される。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、最初の段落において記載したやり方で、技術的適用のためのポリエステルフィラメント糸を製造するときに、
− 延伸される前に、フィラメントが16%より小さい結晶化度を有し、かつ
− 糸の巻き取り速度が6000m/分より大きい
ことにある。
【0008】
驚くべきことに、技術的適用のためのポリエステル糸を製造するときに、ある程度までは普通に使われる速度より高い巻き取り速度を用いて、そのような糸を作ることが可能であるとわかった。選択されたプロセス条件は、6000m/分より上の糸巻き取り速度で、未延伸フィラメントの結晶化度が16%より小さいようにすべきである。
【0009】
そのような巻き取り速度において、未延伸フィラメントが16%を超える結晶化度を有すると、延伸された糸において大量のフィラメンテーションを伴う不安定な紡糸プロセスまたは、有利な使用特性を有する糸をもたらさないところのプロセスが結果として得られることがわかった。
【0010】
未延伸フィラメントの結晶化度は、例えばポリマーの粘度、紡糸温度、被加熱域の長さ、被加熱域の温度、冷却域の冷却度およびフィラメントの単位長さ当たりの質量(線密度)により影響され得る。
【0011】
本発明にしたがい、技術的適用のためのポリエステルフィラメント糸を製造するときに、そのポリマー鎖の90%以上がエチレンテレフタレート単位からなり、相対粘度(ηrel)2.04〜2.60、好ましくは2.04〜2.42、より特には2.15〜2.35を有するところのポリエステルポリマーを使用するのが好ましい。他のすべてのプロセス条件を変えずにそのままにすると、ポリマーのより低い相対粘度は一般に、未延伸フィラメントのより低い結晶化度をもたらす。本発明にしたがい、有利な使用特性を有するポリエステルフィラメント糸を製造するときに、DEG(ジエチレングリコール)含量2.5重量%未満、特には1重量%未満、より特には0.8重量%未満を有するポリエステルポリマーを使用するのが好ましい。これは、例えば重合反応における成分の1つとしてジメチルテレフタレートを使用することによって達成され得る。他のすべてのプロセス条件を変えずにそのままにすると、ポリマーにおけるDEG含量の減少は一般に、未延伸フィラメントの結晶化度の増加をもたらす。
【0012】
さらに、重合反応は好ましくは、得られるポリマーが低いカルボキシル末端基含量を有するように行われる。紡糸されるべきポリマーにおいて、この含量は好ましくは15ミリ当量/kg未満、より特には10ミリ当量/kg未満である。そのような含量は、例えば重合反応を穏やかな条件下で行うことにより達成され得る。
【0013】
紡糸プロセスの安定性のために、ポリマーが不純物例えばゴミおよび他の微細な粒子をできるだけ少なく含むのが好ましい。あるいは、二酸化チタンのようなアジュバントをポリマーに加えて、紡糸挙動を改善することができる。さらに、ポリマーはできるだけ完全に無水であるのが好ましい。ポリマーは好ましくは40ppm未満、より特には20ppm 未満の水を含む。
【0014】
ポリマーは、溶融状態で、例えば押出機によって紡糸口金プレートに送られる。このために、少しの部分のポリマー(いわゆるポリマーチップ)を押出機に仕込み、押出し機の温度がチップの溶融をもたらすことができる。押出機は紡糸ポンプに供給し、紡糸ポンプは、できるだけ最大の一定のポリマー流を紡糸口金プレートに運ぶ。紡糸口金プレートはTm〜Tm+100℃の範囲の温度に、好ましくはTm+20℃〜Tm+70℃の範囲の温度に加熱され、ここでTmはポリマーの溶融温度を示す。他のすべてのプロセス条件を変えないでおくと、紡糸温度の増加は一般に、未延伸フィラメントの結晶化度の減少をもたらす。
【0015】
好ましくは、単一の紡糸口金プレートを使用して、1束の全部の数のフィラメントを紡糸する。紡糸口金プレートは好ましくは、100〜1000の紡糸オリフィス、より特には200 〜400の紡糸オリフィスを有する。他のすべてのプロセス条件(例えばすべての紡糸オリフィスを通る全ポリマー処理量)を変えないでおくと、紡糸オリフィスの数の減少は一般に、未延伸フィラメントの結晶化度の減少をもたらす。
【0016】
所望なら、追加の部分、例えば微細な粒子を有するポリマー流をきれいにするためのフィルター、ポリマー流を均質にするための静的または動的ミキサー、またはポリマー流の温度を調節するための熱交換機を、押出機、紡糸ポンプおよび紡糸口金プレートの間に置くことができる。
【0017】
束の中のフィラメント間の差をできるだけ最小にするために、紡糸オリフィスを、規則的な模様で紡糸口金プレートの上に分布させることが好ましい。毛細管の入口開口は、種々に(例えばトランペットのような円錐形または当業者に公知の他の形に)形作られて、ポリマーの流入を促進することができる。毛細管の出口開口は好ましくは円筒形であり、長さ/直径比(L/D比)が0.5〜5、より特には1〜3である。あるいは、毛細管の形は、ポリマー流に流れの正の一定の伸長を働かせるようなものであり得る。紡糸オリフィス当たりの処理量は、延伸されたフィラメントの所望のフィラメント総数および紡糸速度に依存する。溶融紡糸工程において通例であるように、紡糸口金プレートの配置は、毛細管ができるだけフィラメントの解放方向に平行であるようにする。紡糸口金プレートにおける可能な温度差が紡糸工程中にできるだけ低く保持されることを確実にするために、紡糸口金プレートは、底から、例えば赤外線ヒーターによって加熱され得る。そのような放熱体の例は、オランダ国特許出願第NL 7001370およびNL 7001573に与えられている。
【0018】
紡糸口金プレートの直ぐ下には、被加熱域があり、そこでは、新たに形成されたフィラメントの塑性変形をもたらすことができるような温度が設定される。被加熱域は、十分に大きい寸法を有する被加熱管の形状をとって、フィラメントすべての妨げられない通行を確実にすることができる。被加熱管の選択された横断面は、例えば紡糸口金プレートの横断面と同じであり得る。この管を、管中では交差するようにできるだけ最大均一な温度を与え、一方、管の長手方向では、温度ができるだけ均一であるか、そうでなければ徐々に変化させるようなやり方で加熱するのが好ましい。紡糸口金プレートに沿った側の被加熱管中の温度は、Tm〜Tm+150℃の範囲、好ましくはTm+30℃〜Tm+100℃の範囲にある。管の長手方向に温度を徐々に変化させるなら、紡糸口金プレートに沿った管の側(上部)で、一般に温度が最高である。その場合、管の底の温度は好ましくは、Tm-100℃〜Tm の範囲にある。あるいは、管の上部の温度は、底の温度より低くあり得る。この区域の所望の温度は、管を加熱するだけでなく、加熱した気体、例えば加熱した窒素または空気を吹きつけることによって達成され得る。他のすべての工程条件が変わらずにそのままであるなら、被加熱域の温度の増加は、一般に、未延伸フィラメントの結晶化度の減少をもたらす。
【0019】
被加熱域の長さは、0.05〜1.00m、より特には0.15〜0.50mの範囲にある。他のすべてのプロセス条件が変わらずにそのままであるなら、被加熱域の延長は一般に、未延伸フィラメントの結晶化度の減少をもたらす。
【0020】
被加熱域の次には、冷却域がある。この区域において、フィラメントの温度は、ガラス転移温度Tgより下に下げられる。冷却は当業者に公知の種々の方法で行うことができる。例えば、フィラメントは、十分に低い温度の気体層を通過させられ、または十分に低い温度の気体をフィラメントの方向に吹きつけられることができる。この場合、フィラメントをできるだけ一様に冷却することが好ましく、好ましくは束の中のフィラメント間の最小の差を確保するように気を付ける。そのようなことは、例えばすべての方向からフィラメントの束に空気を吹き付けることによって成し遂げることができる。本発明の非常に適した実施態様は、フィラメントの束が、すべてのフィラメントの妨げられない通行のために十分に大きい横断面を有し、かつ穴をあけられたまたは多孔性の壁を有する管、例えば焼結した金属またはワイヤーメッシュの管を通過することにある。十分に高い温度を有する気体は、フィラメントの束の速度によって、外から管の中に吸い込まれる(「自己吸引」として知られる方法)ことができる。しかし、十分に高い温度を有する気体、例えば空気を、管を通してフィラメントの束に吹き付けるのが好ましく、好ましくは、すべての方向から糸に均一に吹き付けることに特別に注意が払われる。気体は、好ましくは10〜100 ℃の範囲、より特には20〜60℃の範囲の温度を有する。導入される気体の量は、紡糸速度に依存し、好ましくは50〜500 Nm3/時間の範囲にある。冷却域中の気流速度は、5〜100 cm/秒、より特には10〜45cm/秒の範囲にある。気流速度は、管の内部で、糸の流出方向に垂直な方向に、壁に沿って測定される。
【0021】
フィラメントの束の流出挙動をさらに改善するために、被加熱域と冷却域との間に小さな開口があって、空気が冷却域の上部から解放されることができる。本発明の方法の非常に適した実施態様においては、冷却域中の穴を開けられた管の壁の気体に対する流体抵抗は、管の全体の長さにわたって一定でなく、例えば管の壁の流体抵抗は底部よりも管の上部で低く、または管の中間での流体抵抗は、上部または底部での流体抵抗とは異なる。他のすべてのプロセス条件が変わらずにそのままであるなら、冷却域中の気流速度の増加は一般に、未延伸フィラメントの結晶化度の増加をもたらす。
【0022】
フィラメントの束が冷却域を去るとき、束の温度は、フィラメントまたは束が永久的に変形されることなしに、回転するまたは静止した誘導要素の上方をまたはそれに沿って通過するのに十分低くあるべきである。フィラメントの束のさらなる加工を容易にするために、フィラメントは冷却域を過ぎて仕上げられることができる。この仕上げは、例えばフィラメントの延伸を容易にするために、またはそれらの静的負荷を減らすために役立ち得る。この仕上げは、種々の仕上げアプリケーター、例えばキスロールまたは仕上げホイールを用いて適用され得る。
【0023】
フィラメントの束が冷却域を去り、所望ならフィラメントに仕上げを施与した後、束の速度(紡糸速度)は、例えば束が、1以上のゴデット(第1のゴデットの組)を数回横切ることによって固定される。糸がいくつかのゴデットを横切るなら、ゴデットの速度は好ましくは、ゴデットの間に引きがないようにされる。ゴデットは所望なら加熱され得る。紡糸速度は好ましくは、2500m/分より高く、特には3500m/分より高く、より特には4000m/分より高い。未延伸フィラメントの結晶化度を測定するために、糸を、束の速度が固定された後に巻かなくてはならない。未延伸フィラメント(いわゆるアズ‐スパン製品(as-spun product) )の結晶化度は、この記載中に示されたように測定され得る。先に述べたように、紡糸した製品の結晶化度は16%未満である。未延伸フィラメントの結晶化度が5〜14%、好ましくは7.5〜12%なら、本発明の方法に従って糸を得ることができ、それは、コードにし、そしてコードを当業者に公知の慣用の処理に供して、動的負荷に供せられるゴム製品例えば車の空気式タイヤにおける使用に適したものにした後、特性、例えば寸法安定性、破壊靭性(breaking toughness)および強度の独特の組合せを持つであろうことが分かった。またアズ‐スパン製品の他の特性、例えば複屈折(Δns )が測定できる。上記のやり方で得られたアズ‐スパン製品は、好ましくは0.030 〜0.120 の範囲、より特には0.040〜0.080の範囲の複屈折を有する。
【0024】
技術的適用のためのポリエステルフィラメント糸を製造するための本発明の方法において、アズ‐スパン製品は巻かれないが、紡糸速度が固定された後直ぐに延伸される。束は、第1の組のゴデットから次のゴデット(1つまたはいくつかのゴデット)、いわゆる第2の組のゴデットに誘導される。第2の組のゴデットの速度は、第1および第2のゴデット間で束が1.3〜3.5倍、好ましくは1.5〜2.5倍延伸されるように設定される。束の延伸を容易にするために、束は、第1および第2の組のゴデット間で、例えば延伸点ローカライザー(drawing point localizer) によって固定され得る。使用される延伸点ローカライザーは、送風機またはサイクロンであり得る。
【0025】
糸が1段階で延伸されるなら、束を、第1の組のゴデットの温度がTg+60℃より下であるような条件下で延伸するのが有利であることが分った。このやり方で束を延伸することは、好ましくは、50〜90℃の範囲で選ばれた第1の組のゴデットの温度で行われる。
【0026】
第2の組のゴデットの温度は、かくして得られた束のためのさらなる加工段階に依存する。束が、第2の組のゴデットから次のゴデット(1つまたはいくつかのゴデット)、いわゆる第3の組のゴデットに、第2と第3の組のゴデット間で延伸されることがなく、むしろ例えば弛緩されて、送られたなら、第2の組のゴデットの温度は、好ましくは200〜250℃の範囲、より特には235〜245℃の範囲で選択される。その場合、第3の組のゴデットのために選ばれる速度は、好ましくは第2の組のゴデットの速度より0.1〜10%低い。第3の組のゴデットの温度は、好ましくは140〜200℃の範囲で選ばれる。
【0027】
束が、第2の組と第3の組のゴデットの間で延伸されるなら、第2の組のゴデットの温度は、好ましくは50〜240℃の範囲で選ばれる。第3の組のゴデットの速度は、好ましくは第2の組のゴデットの速度より1〜100%高い。第3の組のゴデットは、好ましくは200〜250℃の範囲、より特には235〜245℃の範囲の温度を有する。第3の組のゴデットから、束を次のゴデット(1つまたはいくつかのゴデット)、いわゆる第4の組のゴデットに送ることができる。第4の組のゴデットの速度は、好ましくは第3の組のゴデットの速度より0.1〜10%低い。第4の組のゴデットの温度は、好ましくは140〜200℃の範囲で選ばれる。束が延伸され、任意的に弛緩され、そしてポリエステルフィラメント糸が形成された後、かくして得られた糸を巻くことができる。糸の巻き取り速度は、紡糸速度および束の延伸の全部にわたる度合いに依存し、6000m/分より大きく、より特には6500〜8000m/分の範囲である。糸を巻き取るのに使用される装置は、その巻き取り速度で管の上に糸を一様に巻き取り、一様に作られたパッケージを形成することを可能にするようにされなければならず、かつ良好なトランスファー テイル(transfer tail) を作らなければならない。
【0028】
本発明はまた、ポリエステルフィラメント糸およびそのようなポリエステルフィラメント糸を用いて得られるコードに関する。
【0029】
本発明の方法によって得られるポリエステルフィラメント糸は、技術的適用のための糸として、例えばホース、機械的負荷に耐えることができるゴム製品例えばV‐ベルト、コンベアベルトおよび空気式タイヤ、より特には車の空気式タイヤ、または防水シートにおいて、強化物質として使用されるのに非常に適している。それは、以下の有利な使用特性の組合せを有する:
− 糸強度≧650mN/tex、
− 破断点伸び>10%、および
− 破壊靭性>40J/g。
【0030】
糸の特に好ましい特性は、これらの糸から作られる処理されたコードにおいて示すことができる。これらのコードは、以下の特性の独特の組合せを有する:
− 切断強さ(BT)≧570mN/tex、
− 寸法安定性(DSF)>110、および
− キュー(Qf)>50。
【0031】
コードは好ましくは、100より上、特に125より上、より特には150より上のキューを有する。
【0032】
寸法安定性は、以下の等式により収縮量(HAS)から計算される:
寸法安定性(DSF)=185/HAS。
【0033】
キューQfは、これらのコードの切断強さ(BT)、寸法安定性(DSF)および破壊靭性(BTo)の独特の組合せの尺度である。
【0034】
キューQfは、以下の等式により計算される:
Qf=(BT-570)+(DSF-110)+8×(BTo-55)。
【0035】
この独特の特性の組合せを試験するために、比較の目的で非常に適していて、さらに、ゴム製品における強化物質として使用されるなら、そのような糸が供される処理とうまく合うところの手順を用いて、糸をより、コードにし、そして浸漬する。この手順は以下のように行う:
− レツェニ ねん糸機(Lezzeni twister) で、線密度約1100dtexを有する糸を、1100dtex×Z335×3S335のグレージ コード構造(greige cord construction)に加工する。
− 次に、得られたグレージ コードに、水分散させたブロックされたイソシアネート、例えば5.5重量%のブロックされたジイソシアネート、例えばカプロラクタムブロックされたメチレンジフェニルイソシアネートの、エポキシド例えば脂肪族エポキシドの水性溶液中の分散液を施与する。この後、コードを熱空気オーブン中で、150℃の温度で、20mN/texの負荷の下で、120秒間乾燥する。−第1の乾燥段階の後直ぐに、熱延伸段階を続ける。この熱延伸段階は、また熱空気オーブン中で、240℃の温度で、70mN/texの負荷の下で、45秒間行われる。
− 熱延伸段階の後、コードは20重量%のレゾルシノール ホルムアルデヒド ラテックスの水中分散液を入れた、第2の浸漬浴を通過させられ、その後、熱空気オーブン中で、220℃の温度で120秒間乾燥させられる。
− 糸のこの最後の乾燥処理中、選ばれる負荷は、形成されたコードに、TASE 5%=185mN/texを与えるようでなければならない。実際の実施において、この負荷は5〜20mN/texの範囲にあることが分かった。
【0036】
上記の3つのグレージ コード処理段階は、例えば単一コード リッツァー コンピュートリーター(single-cord Litzer Computreater) 浸漬ユニット中で行うことができる。このやり方で得られるコードの特性はまた、互いに比較して少し(最大で10%)高いかつ低いTASE 5%値を用いてそれぞれのコード特性の内挿によって達成することができる。かくして、TASE 5%=185mN/texへの線形内挿法によって、切断強さ、破断点伸び、線密度、収縮量および破壊靭性についての値を得ることができる。
【0037】
測定法
紡糸製品の複屈折Δns を、デ セナールモンツ(De Senarmont's)法にしたがって、斜めに切った10の異なるフィラメントについて、ジェナポール(Jenapol) U偏光顕微鏡で測定することができる。この方法は、とりわけJ.フィアーラベント(Feierabend)のMelliand Textilberichte 2/1976、138-144に記載されている。使用される浸漬液体は、ジブチルフタレートであり得る。ハロゲンランプおよび分散フィルター(波長558.5nm)を用いて、単色光が生成され得る。10のフィラメントの平均の複屈折が、試料の複屈折である。
【0038】
アズ‐スパン製品の結晶化度、Vcsは、アズ‐スパン製品の密度から計算できる。アズ‐スパン製品の密度、ρsは次のようにして測定できる:
アズ‐スパン製品の3片を結び、そして結び目の両側で切断し、0.5〜1cmの試料長さを与える。試料を石油エーテル中で洗浄して、もしあれば仕上げを除き、そして、23℃の温度のn-ヘプタンとテトラクロロメタンとの混合物を含むダベンポート カラム(Davenport column)に導入し、このカラムは、少なくとも60cmの高さの差にわたって、80kg/cm3 の範囲で実質的に線密度勾配を有する。密度が わかっているゲージ ボール(guage ball)をこの範囲にわたって一様に分配しておく。ゲージ ボールと試料の位置を、試料をカラムに導入して6時間後に読む。ゲージ ボールの位置を第3度のポリノーム(polynome)に合わせることによって、密度勾配が各測定をもって決定される。合わせた密度勾配を用いて、試料の密度を、カラム中の試料の位置から決定できる。3つの試料の平均密度が、アズ‐スパン製品の密度である。
【0039】
Vcsは、以下の式によって決定できる:
Vcs=(ρs−ρa)/(ρc−ρa)
【0040】
ここで、ρa は不定形ポリエステルの密度(1335kg/m3)であり、ρc は結晶ポリエステルの密度(1529kg/m3)である。
【0041】
ASTM D2256に従い、糸の機械的特性、例えば切断強さ(mN/texで表す)、破断点伸び(%で表す)および破壊靭性(J/gで表す)を、インストロン(Instron) 動力計を用いて、グリップ間の長さ50cmにて測定できる。クランプでの糸間の滑りを防ぐために、この測定においては、曲がったクランプの使用が好ましい。糸の線密度は好ましくは秤量によって決定される。
【0042】
コード特性を、ISO 139に従い、標準雰囲気中で少なくとも16時間調和させた後に測定する。コードの切断強さ(BT、mN/texで表す)、破壊靭性(BTo、J/gで表す)およびTASE 5%(mN/texで表す)は、ASTM D885M−85(「人造の有機ベースの繊維から作られたタイヤコード、タイヤコード織物および工業的フィラメント糸」)にしたがって測定でき、TASE 5%は、以下の式:
TASE 5%=(FASE 5(N)/力価(dtex))×104
によりFASE 5値から計算され、線密度はまた、ASTM D885M−85に従い測定され、その上ディップ ピック アップ(dip pick up)(DPU)について補正される。ディップ ピック アップは、BISFA(インターナショナリー アグリード メソズ フォー テス ティング ポリエステル フィラメント ヤーンズ(Internationally agreed methods for testing polyester filament yarns) 、1983年版)により詳述されるようにして測定できる。コードの収縮量(HAS、%で表す)は、ASTM D4974−89(テストライト(testrite)熱収縮オーブンを用いた糸およびコードの熱収縮)に従い測定できる。
【0043】
ポリマーの相対粘度は、2,4,6-トリクロロフェノールおよびフェノールの混合物(TCF/F,7:10(m/m))125g中ポリマー1gの溶液の流出時間を、ウッベローデ(DIN 51562)粘度計、タイプII(毛細管内径1.13mm)で、25℃にて測定することにより決定できる。溶液は、TCF/F中に試料を135℃で15分間溶解することにより調製できる。溶媒の流出時間を同じ条件下で測定する。次に、TCF/F中での相対粘度を、記録した流出時間の間の比として計算する。ポリマーのDEG含量は、R.ファン ウィーク(van Wijk)およびD.ヴィンク(Vink)による、ACS. Org. Coat. Plast. Chem.、32巻(1972年)、178-183 頁に記載の方法に従い測定できる。
【0044】
カルボキシル末端基含量は、ポリマー試料約0.8gをo-クレゾール50ml中に、125±2℃で15±2℃分間溶解することにより測定できる。室温に冷却した後、溶液をクロロホルム30mlで希釈する。指標溶液(エタノール250ml中にブロモクレゾールグリーン1g、クロロホルムで1リットルに希釈したもの)0.3mlを添加した後、この溶液を、エタノール性水酸化カリウム溶液(0.03モル/リットル)を用いて、波長620nm(透過)にて滴定する(単調)。当量点は、得られた滴定曲線の湾曲の点に対応する。同じようにして、対照の測定を行う。
【0045】
TgおよびTmは、パーキン エルマー(Perkin Elmer) DSC−7示差走査熱量計によって測定できる。このために、まず最初に、温度をインジウム(156.6℃)と亜鉛(419.5℃)の融解の開始値で較正する。次に、約4mgのポリエステル試料を含有するアルミニウムるつぼを、20℃/分の速度で290℃に加熱し、この温度に3分間保持する。次に、るつぼおよびその内容物を、液体窒素中で冷却することによって急速に冷却し、その後、10℃/分の速度で加熱する。このるつぼと、空の参照るつぼとの熱流量の差を、示差熱図の形に記録する。80℃付近での熱流量の突然の増加の中間点が、ガラス転移温度Tgであり、252℃付近でのピーク最大値が、ポリマーの融点Tmである。
【実施例】
【0046】
以下の実施例によって、本発明をさらに説明するが、これは本発明をよりよく理解するために提出されており、いかなるやり方でも限定されるものとして解釈されるべきでない。
【0047】
約253℃の溶融温度Tmを有するポリエステルポリマーチップを、紡糸口金プレートを通して紡糸した。紡糸口金プレートのすぐ下に、被加熱管を位置させた。この被加熱管を通過させた後、形成されたフィラメントを、穴をあけられた管からなる冷却域にて、空気で冷却した。冷却域を通過させた後、フィラメントを仕上げホィールによって仕上げた。次に、等しい直径および等しい回転速度を持つ2つのゴデット(1組)の回りに10回よることによって、フィラメント速度を固定した。得られた未延伸フィラメントを直ちに第2の組のゴデット(2組)に送った。バーマグ(Barmag)タイプCW8糸巻取機を用いて、得られた延伸された糸を次に、第3のゴデット(3組)のまわりに10巻きを経て巻き取った。
【0048】
異なった紡糸の試みについて、最も重要なプロセス条件を表Iに示す。
【0049】
【表1】

【0050】
表IIには、得られたポリエステルフィラメント糸の特性を示す。
【0051】
【表2】

【0052】
この糸を、本願明細書に記載したやり方でコードを作るのに使用した。これらのコードの特性を表III に示す。
【0053】
【表3】

【0054】
実施例4は比較例である。アズ‐スパン糸(as-spun yarn)の結晶化度は16%より大きい。アズ‐スパン糸のこの比較的高い結晶化度は、有利な使用特性の組合せを有する製品をもたらす延伸比(draw ratio)まで、物質が延伸されることを妨げた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
その鎖の90%超がエチレンテレフタレート単位から成るところのポリマーを紡糸することによる、技術的適用のためのフィラメント糸の製造方法であって、この紡糸プロセスが、以下の要素:
− 溶融状態のポリマーを紡糸口金プレートを通して押し出すこと、
− かくして形成されたフィラメントが、被加熱域および冷却域をこの順に通過されること、
− フィラメント速度を固定すること、
− フィラメントを、そのもともとの長さの1.5〜3.5倍の長さに延伸すること、および
− 得られたフィラメント糸を巻き取ること
を含み、すべての要素は一回の工程通過で扱われるところの方法において、
− 延伸される前に、フィラメントが16%より小さい結晶化度を有し、かつ
− 糸の巻き取り速度が6000m/分より大きい
ことを特徴とする方法。
【請求項2】
延伸される前に、フィラメントが5〜14%の結晶化度を有する請求項1記載の方法。
【請求項3】
延伸される前に、フィラメントが7.5〜12%の結晶化度を有する請求項1記載の方法。
【請求項4】
ポリマーが、2.5重量%未満のジエチレングリコール(DEG)含量を有する請求項1〜3のいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
ポリマーが、1重量%未満のジエチレングリコール(DEG)含量を有する請求項4記載の方法。
【請求項6】
ポリマーが、0.8重量%未満のジエチレングリコール(DEG)含量を有する請求項5記載の方法。
【請求項7】
紡糸口金プレートが、Tm+20℃〜Tm+70℃の範囲の温度(ここでTm はポリマーの融点である)を有する請求項1〜6のいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
紡糸口金プレートが100〜1000の紡糸オリフィスを有する請求項1〜7のいずれか1項記載の方法。
【請求項9】
紡糸口金プレートが200〜400の紡糸オリフィスを有する請求項8記載の方法。
【請求項10】
被加熱域が0.10〜1.00mの長さを有する請求項1〜9のいずれか1項記載の方法。
【請求項11】
被加熱域が0.15〜0.50mの長さを有する請求項10記載の方法。
【請求項12】
被加熱域が、Tm〜Tm+150℃の範囲の温度を有する被加熱管から成る請求項1〜11のいずれか1項記載の方法。
【請求項13】
被加熱域が、Tm+30℃〜Tm+100℃の範囲の温度を有する被加熱管から成る請求項12記載の方法。
【請求項14】
冷却域が、管の壁の流れに対する抵抗が管の底部よりも管の上部で高いところの、穴をあけられた管から成る請求項1〜13のいずれか1項記載の方法。
【請求項15】
延伸される前に、フィラメントが0.040〜0.080の複屈折を有する請求項1〜14のいずれか1項記載の方法。
【請求項16】
フィラメントが1以上の段階で延伸され、第1の延伸段階のためのゴデットの温度がTg +60℃より下である(ここで、Tgはポリマーのガラス転移温度である)請求項1〜15のいずれか1項記載の方法。
【請求項17】
糸が以下の特性:
− 切断強さ≧650mN/tex、
− 破断点伸び>10%、および
− 破壊靭性>40J/g
を有し、この糸は、570mN/texより上の切断強さ、110より上の寸法安定性および50より上のキュー(Qf)を有するコードを作るために使用できることを特徴とするポリエステルフィラメント糸。
【請求項18】
この糸が、100より上のキュー(Qf)を有するコードを作るために使用できる請求項17記載のポリエステルフィラメント糸。
【請求項19】
この糸が、125より上のキュー(Qf)を有するコードを作るために使用できる請求項18記載のポリエステルフィラメント糸。
【請求項20】
この糸が、150より上のキュー(Qf)を有するコードを作るために使用できる請求項19記載のポリエステルフィラメント糸。
【請求項21】
コードが、以下の特性:
− 切断強さ≧570mN/tex、
− 寸法安定性>110、および
− キュー>50
を有することを特徴とする、ポリエステルフィラメントを含むコード。
【請求項22】
キューが100より大きい請求項21記載のコード。
【請求項23】
キューが125より大きい請求項21記載のコード。
【請求項24】
キューが150より大きい請求項21記載のコード。
【請求項25】
請求項17〜20のいずれか1項記載のポリエステルフィラメント糸を、車の空気式タイヤにおける強化物質として使用する方法。
【請求項26】
請求項17〜20のいずれか1項記載のポリエステル強化糸を含む、機械的負荷に耐えることができるゴム製品。
【請求項27】
製品が車の空気式タイヤである請求項26記載の機械的負荷に耐えることができるゴム製品。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
糸が以下の特性:
− 切断強さ≧650mN/tex、
− 破断点伸び>10%、および
− 破壊靭性>40J/g
を有し、この糸は、570mN/texより上の切断強さ、110より上の寸法安定性および50より上のキュー(Qf)を有するコードを作るために使用できることを特徴とするポリエステルフィラメント糸。
【請求項2】
この糸が、100より上のキュー(Qf)を有するコードを作るために使用できる請求項記載のポリエステルフィラメント糸。
【請求項3】
この糸が、125より上のキュー(Qf)を有するコードを作るために使用できる請求項記載のポリエステルフィラメント糸。
【請求項4】
この糸が、150より上のキュー(Qf)を有するコードを作るために使用できる請求項記載のポリエステルフィラメント糸。
【請求項5】
コードが、以下の特性:
− 切断強さ≧570mN/tex、
− 寸法安定性>110、および
− キュー>50
を有することを特徴とする、ポリエステルフィラメントを含むコード。
【請求項6】
キューが100より大きい請求項記載のコード。
【請求項7】
キューが125より大きい請求項記載のコード。
【請求項8】
キューが150より大きい請求項記載のコード。
【請求項9】
請求項1〜4のいずれか1項記載のポリエステルフィラメント糸を、車の空気式タイヤにおける強化物質として使用する方法。
【請求項10】
請求項1〜4のいずれか1項記載のポリエステル強化糸を含む、機械的負荷に耐えることができるゴム製品。
【請求項11】
製品が車の空気式タイヤである請求項10記載の機械的負荷に耐えることができるゴム製品。

【公開番号】特開2006−312803(P2006−312803A)
【公開日】平成18年11月16日(2006.11.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−5369(P2006−5369)
【出願日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【分割の表示】特願平8−520218の分割
【原出願日】平成7年12月20日(1995.12.20)
【出願人】(506013771)ディオレン インダストリアル ファイバース ビー.ブイ. (1)
【Fターム(参考)】