説明

ポリエステルフィルムの解重合方法

【課題】本発明の目的はポリエステル基材フィルム上に機能層が積層されているポリエステルフィルムからフィルム状のままで予め離型層を分離除去することなく、効率的なエステルモノマーを回収する方法を提供することである。
【解決手段】上記課題は、ポリエステルフィルムの表面及び裏面の少なくとも片面にシリコン含有離型剤が塗布された層が積層されているポリエステルフィルムを解重合槽内にて解重合を行い解重合液を得る方法であって、該解重合槽が少なくとも1以上の攪拌翼を有し、解重合液の液面となる位置から10mm〜100mmの深さに攪拌翼が設置されており、該ポリエステルフィルムをグリコール成分及び解重合触媒の存在下解重合し、得られた解重合液上に浮遊しているシリコン含有離型剤が塗布された層を解重合液から分離除去することを特徴とするポリエステルフィルムの解重合方法によって解決することが出来る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリエステルフィルムからポリエステル原料を回収する方法に関し、更に詳しくはポリエステル基材フィルムの少なくともの片面に機能層が形成されているポリエステルフィルムから機能層を分離し、効率よくポリエステル原料を回収する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステル、特にポリエチレンテレフタレートは化学特性、熱安定性、物理特性に優れ、フィルムとして種々の用途に使用されている。ポリエステルフィルムは、通常、その少なくとも片面に機能層(要求特性に応える機能を発揮する層)を設けた機能フィルム(複合フィルム)として使用されている。
【0003】
離型フィルムはポリエステル基材フィルムの少なくとも片面に下塗り層を介して離型層(主としてシリコン樹脂系離型層など)を設けた複合フィルムとして使用されている。ポリエステルフィルムは、従来、ポリエステルの自然環境での分解、たとえば光分解や微生物分解などがほとんど進まないことから、発生する廃棄物は償却するか埋め立て処分にするのがほとんどであった。しかし近年、これらの処分では資源の再利用ができない他、自然環境が悪化することが問題となり、その対策が求められている。
【0004】
かかる状況にあって、離型フィルムは、ポリエステル基材フィルムの少なくとも片面に下塗り層を介して離型層を設けた構造をとっている。この下塗り層や離型層を構成する成分は離型フィルムの用途によって違ったものとなっている。例えば、ポリエステル基材フィルムの少なくとも片面に易溶解性樹脂層を介して離型層が形成されてなる離型フィルムを、易溶解性樹脂が溶解可能な溶媒中に浸漬して、易溶解性樹脂を溶媒中に溶解させることにより、フィルム表面の離型層を分離除去し、基材フィルムのみを回収する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。具体例としては易溶解性樹脂として水溶性樹脂を、溶媒として温水又は熱水を用いる態様が記載されている。しかし、易溶解性樹脂層が設けられていないような場合にはフィルム状のままで予め離型層を分離除去することは容易ではない。ポリエステル複合フィルムをアルカリ化合物の水溶液に浸漬し、50〜100℃の温度で加温処理し、機能層成分を溶解・剥離させる方法が記載されている(例えば、特許文献2参照。)。しかし、発明者らの知見によれば本方法でも機能層成分を完全に除去しえるものではなく、また、アルカリ化合物を用いた処理によりポリエステルフィルムそのものが加水分解し、有用成分が大きくロスするという問題があった。
【0005】
【特許文献1】特開2002−265665号公報
【特許文献2】特開2005−298354号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的はポリエステル基材フィルム上に機能層が積層されているポリエステルフィルムからフィルム状のままで予め離型層を分離除去することなく、効率的なエステルモノマーを回収する方法を提供することを目的とする。また、本発明は分離した機能層による機械トラブルなどを抑制し、安定処理可能なポリエステルフィルムからエステルモノマーを回収する方法を提供することも同時に目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、ポリエステル基材フィルム上に機能層が積層されているポリエステルフィルムからエステルモノマーを効率よく回収する方法を開発すべく鋭意検討をおこなった。その結果、シリコン含有離型剤はシリコン樹脂の特性上、熱的又は有機溶媒などに対し極めて安定である。このため、離型剤が積層されたポリエステルフィルムにアルキレングリコール及び解重合触媒を添加し、高温下で直接解重合処理に付すと、反応に影響を及ぼすことなく、解重合液中に離型剤層成分が分離して浮遊する。また、シリコン系離型剤は融点が非常に高いため、ポリエチレンなどの低融点物と異なり解重合液中にて溶融状態を形成しない。しかしながら、離型剤層成分は薄膜状に剥離し、更に時には筒状に丸まった状態となり、アルキレングリコール或いは解重合液にぬれた状態でその薄膜状(又は筒状)の形態同士が接触すると連結された状態を形成し浮遊物のサイズが大きくなること、更に、装置内壁部及び攪拌軸などにこれらの離型剤層成分が付着、絡みつくなどして解重合装置外に排出することができず、機械的トラブルを発生させるなどの問題があった。これに対し、本現象の原因が液面上にて、複数の薄膜状(又は筒状)の離型剤層が連結することにあること、又は液面上に浮遊する離型剤層成分を滞留させないことにより離型剤層成分の連結を抑制可能であることを見出し、最終的に本発明の完成に至った。
【0008】
すなわち本発明の目的は、ポリエステルフィルムの表面及び裏面の少なくとも片面にシリコン含有離型剤が塗布された層が積層されているポリエステルフィルムを解重合槽内にて解重合を行い解重合液を得る方法であって、該解重合槽が少なくとも1以上の攪拌翼を有し、解重合液の液面となる位置から10mm〜100mmの深さに攪拌翼が設置されており、該ポリエステルフィルムをグリコール成分及び解重合触媒の存在下解重合し、得られた解重合液上に浮遊しているシリコン含有離型剤が塗布された層を解重合液から分離除去することを特徴とするポリエステルフィルムの解重合方法によって達成することができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によりシリコン含有塗布剤が塗布されたような離型フィルムが積層されているポリエステルフィルムを、その離型フィルムとポリエステルフィルムを分離することなく、直接解重合反応することが可能となり、フィルム状態での離型剤除去のための前処理が不要となる上、ポリエステル基材のロスを最小限に抑えた効率的なエステルモノマーを回収する方法が可能となる。また、分離した機能層による機械トラブルなどを抑制し、安定処理可能なポリエステルフィルムの解重合が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
本発明は、ポリエステルフィルムの表面及び裏面の少なくとも片面にシリコン含有離型剤が塗布された層が積層されているポリエステルフィルムを用いるが、そのシリコン含有離型剤が塗布された層が離型フィルムとして利用されているものであることが好ましい。その離型フィルム中の離型剤が塗布された層としては、シリコン含有離型剤が塗布された層であることが本発明の態様である。シリコン含有の材料としては、シリコン系材料、シリコン樹脂含有材料等からなるものであれば限定されるものではないが、硬化型シリコン樹脂を主成分とするもの、あるいはウレタン樹脂、エポキシ樹脂等とのグラフト重合等による変性シリコン樹脂等を好ましく上げることができる。中でも硬化型シリコン樹脂を主成分とするものがより好ましく用いられる。またシリコン含有離型剤が塗布された層の基材の素材としては、シリコン含有離型剤と同一又は類似の素材で構成されている態様が通常想定されるが、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン等のポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル等のシリコン含有離型剤と同一でない材料で構成されていても良い。
【0011】
ポリエステルフィルムを構成している部分の素材となるポリエステル樹脂としては、ジカルボン酸成分とジオール成分の縮重合体が好ましい。そのポリエステル樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリテトラメチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリトリメチレンナフタレート、ポリテトラメチレンナフタレートをあげることができるが、中でもポリエチレンテレフタレートが好ましい。解重合反応で使用するグリコール成分は特に限定されるものではないが、用いるポリエステル樹脂を構成しているジオール成分を用いることが好ましく、エチレングリコールであることが好ましい。
【0012】
解重合反応に供するポリエステルフィルムのサイズは装置サイズにより異なるが、50mm角以下であることが好ましい。サイズが50mm角を越える場合、浮遊する離型剤層を伴って解重合液を排出する際に排出配管での閉塞や、弁などへの閉塞を発生させる可能性がある。
【0013】
本発明においてはそのような少なくとも片面にシリコン含有離型剤が塗布された層が積層されているポリエステルフィルムを解重合槽内にて解重合触媒の存在下で解重合を行う方法である。以下、シリコン含有離型剤が塗布され層部分を「離型剤層」と呼称することがある。その際に用いる解重合槽には少なくとも1以上の攪拌翼を有している。解重合反応は公知の解重合触媒、公知の触媒濃度で120〜210℃の温度下、過剰のグリコール成分中で解重合反応させることにより達成できる。中でも、解重合触媒としてはアルカリ金属の炭酸塩、水酸化物などが好ましい。具体的には、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムである。解重合触媒を用いる量は、解重合槽に投入するポリエステルフィルム及びグリコール成分の全重量に対して0.01〜10.0重量%となるように用いるのが好ましい。0.1〜5重量%となるように用いることがより好ましく、0.5〜3.0重量%となるように用いることが更により好ましい。
【0014】
解重合反応が進行すると共に離型剤層は薄膜状に剥離し、解重合液からで浮上する。解重合反応を進行させるには解重合槽内の攪拌は不要であるが、離型剤層の解重合液の液面付近への滞留による連結を防止するために、少なくとも1つ以上の攪拌翼を有することが必要である。また該攪拌翼の設置位置は解重合液の液面となる位置から10mm〜100mmの深さに設置されていることが必要である。攪拌翼の設置位置が解重合液の液面となる位置から10mm未満の浅い位置であると攪拌翼部にて離型層の連結を発生させ、トラブルを発生させる可能性がある。また、解重合液の液面となる位置から100mmを超える深い位置に攪拌翼を設置すると攪拌翼による離型層の連結防止効果を十分に得ることができない。攪拌翼のタイプとしてはパドル翼、タービン翼、平板翼などが使用可能であり、攪拌の効果としては掻き上げ、掻き下げいずれでも本発明の効果を得ることが可能である。
【0015】
離型剤層成分の連結による大型化を抑制しながら解重合反応を行い得られるポリエステルモノマーを含有する解重合液は反応完了後、固液分離装置に供給され、解重合液上に浮遊している離型剤層成分とエステルモノマーを含有する解重合液とに分離される。離型剤層成分の固液分離方法は公知の方法が使用可能であるが、200メッシュ以上の金網フィルターを用いるろ過を行うことで解重合液から十分分離除去が可能である。本発明により離型フィルムを直接解重合反応することが可能となり、離型剤除去のための前処理が不要となる上、ポリエステル基材のロスを最小限に抑えた効率的なエステルモノマーを回収する方法を達成可能となる。
【実施例】
【0016】
以下実施例により本発明の内容を更に具体的に説明するが、本発明はこれによりなんら限定を受けるものではない。
【0017】
[実施例1]
解重合槽に45°パドル翼を2段装備した攪拌装置を設置し、上段の45°パドル翼は解重合液の液面となる位置から20mmの深さとなる位置に、一方、下段の45°パドル翼は液面となる位置から500mmの位置に設定した。シリコン系離型剤が裏面のみに付いたポリエステルフィルム(ポリエチレンテレフタレート製)を20mm角にカットし、そのカットしたフィルム100重量部、エチレングリコール400重量部、及び解重合触媒として炭酸ナトリウム3重量部を該解重合槽に投入した。次に解重合槽の攪拌装置を50rpmで攪拌下、185℃に昇温し、1時間保持したところ、ポリエチレンテレフタレートの一部が解重合し、薄膜状の離型剤の浮遊が確認された。以後もその条件にて解重合反応を継続し、185℃に保持してから4時間後、解重合反応が完結した。この時点で該解重合液を200mesh相当の金網を装備した加圧ろ過装置にてろ過し、浮遊成分を除去し、離型剤を含有しないエステルモノマーを含有する解重合液を得た。解重合槽内を点検した結果、内部及び2組の45°パドル翼その他の攪拌装置などへの離型剤の付着は認められなかった。
【0018】
[実施例2]
実施例1において攪拌翼タイプを2段の45°パドル翼から2段の平板翼にし、同じ位置に設置したこと及び解重合槽へ投入するシリコン系離型剤付ポリエステルフィルム(ポリエチレンテレフタレート製)のサイズを50mm角にカットしたものを使用したことを除き、実施例1と同様に操作をおこなった結果、解重合槽内部及び平板翼その他の攪拌装置などへの離型剤の付着は認められなかった。
【0019】
[比較例1]
実施例1において上段の45°パドル翼を取り外し、下段の45°パドル翼のみ設置した攪拌装置を用いる以外は実施例1と同様に操作した結果、解重合反応後の該解重合液をろ過した金網上には離型剤はほとんど確認されなかった。しかし解重合槽内部を点検した結果、攪拌軸に離型剤が絡み付いていた。
【産業上の利用可能性】
【0020】
本発明により離型フィルムを直接解重合反応することが可能となり、フィルム状態での離型剤除去のための前処理が不要となる上、ポリエステル基材のロスを最小限に抑えた効率的なエステルモノマーを回収する方法を達成可能となる。また、分離した機能層による機械トラブルなどを抑制し、安定処理可能なポリエステルフィルムの解重合が可能となる。その産業上の意義は大きい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステルフィルムの表面及び裏面の少なくとも片面にシリコン含有離型剤が塗布された層が積層されているポリエステルフィルムを解重合槽内にて解重合を行い解重合液を得る方法であって、該解重合槽が少なくとも1以上の攪拌翼を有し、解重合液の液面となる位置から10mm〜100mmの深さに攪拌翼が設置されており、該ポリエステルフィルムをグリコール成分及び解重合触媒の存在下解重合し、得られた解重合液上に浮遊しているシリコン含有離型剤が塗布された層を解重合液から分離除去することを特徴とするポリエステルフィルムの解重合方法。
【請求項2】
解重合液上に浮遊しているシリコン含有離型剤が塗布された層を分離除去する方法がろ過による分離除去方法である請求項1に記載のポリエステルフィルムの解重合方法。
【請求項3】
解重合反応に供するポリエステルフィルムのサイズが50mm角以下の大きさである請求項1又は2記載のポリエステルフィルムの解重合方法。
【請求項4】
ポリエステルがポリエチレンテレフタレートである請求項1〜3のいずれか1項記載のポリエステルフィルムの解重合方法。
【請求項5】
グリコール成分がエチレングリコールである請求項1〜4のいずれか1項記載のポリエステルフィルムの解重合方法。

【公開番号】特開2009−167266(P2009−167266A)
【公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−5576(P2008−5576)
【出願日】平成20年1月15日(2008.1.15)
【出願人】(302011711)帝人ファイバー株式会社 (1,101)
【Fターム(参考)】