説明

ポリエステル樹脂の製造方法、ポリエステルフィルム、ポリエステルフィルムの製造方法、太陽電池用バックシート、及び太陽電池モジュール

【課題】末端カルボキシル基量を効果的に低減し、耐加水分解性に優れたポリエステルフィルムが得られるポリエステル樹脂の製造方法、並びに長期耐久性を具えた太陽電池用バックシート及び太陽電池モジュールを提供する。
【解決手段】芳香族ジカルボン酸と脂肪族ジオールとの重縮合反応により得られた、固有粘度が0.40dL/g以上1.0dL/g以下のポリエステルを反応槽内に供給して固体状態のまま加熱処理するとともに、前記反応槽内にエチレングリコールと水と不活性ガスとを含み、エチレングリコールと水とのモル分圧比(エチレングリコールのモル分圧/水のモル分圧)が0.2〜5000である混合ガスを供給することにより前記ポリエステルの固相重合を行い、該固相重合により得られたポリエステル樹脂を前記反応槽から排出する固相重合工程を含む、ポリエステル樹脂の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエステル樹脂の製造方法、ポリエステルフィルム、ポリエステルフィルムの製造方法、太陽電池用バックシート、及び太陽電池モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
太陽電池モジュールは、一般に、太陽光が入射するガラスの上に(封止剤)/太陽電池素子/封止剤/バックシートがこの順に積層された構造を有している。この太陽電池のバックシートとして、ポリエステルフィルムを使用することが提案されている。
【0003】
一般にポリエステルは、ジカルボン酸又はエステル形成性を持つその誘導体とグリコール類などのジオール成分との縮合重合プロセスによって製造される。例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)であれば、テレフタル酸又はその誘導体とエチレングリコールとの縮合重合によって製造される。
【0004】
一般にポリエステルの表面には、カルボキシル基や水酸基が多く存在しており、水分が存在する環境下では加水分解反応が起きやすく、経時とともに著しく劣化する傾向にある。そのため、屋外等の常に風雨に曝されるような環境に置かれる太陽電池モジュールに用いられるポリエステルは、高い耐候性が要求され、特に加水分解に対する耐性(耐加水分解性)を有していることが求められる。
【0005】
高い耐候性(耐加水分解性)を有するPETフィルムを製造するためには、低末端カルボキシル基量のPET樹脂が必要であり、一般的に溶融重合したPET樹脂を固相重合することにより得ることができる。
例えば、特許文献1には、グリコール成分が少なくとも100ppmの割合で含有される不活性ガスを加圧条件下で流通させながら、180℃以上から該粗製ポリエステルの融点以下の温度範囲で固相重合することが開示されている。
例えば、特許文献2には、不活性ガス並びに水および/又はエチレングリコールを含有する混合ガス中で熱処理し、水又はエチレングリコールを50〜280ppm含む不活性ガスで熱処理を200℃以上、該ポリエステルプレポリマーの溶融温度以下の温度で固相重合することが開示されている。
例えば、特許文献3には、Sb原子を100〜300ppmの範囲で含有するポリエチレンテレフタレートを、特定量のエチレングリコール(モル比で0.2×10−3〜2.5×10−3mol/molの範囲、数百〜5500ppm程度)を含む気体中において固相重合することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平8−120062号公報
【特許文献2】特開2004−123917号公報
【特許文献3】特開2006−335839号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来の固相重合技術では末端カルボキシル基の低減効果が十分でなく、必要な末端カルボキシル基量にまで低減することが困難であった。
【0008】
本発明は、末端カルボキシル基量を効果的に低減し、耐加水分解性に優れたポリエステルフィルムが得られるポリエステル樹脂の製造方法、並びに長期耐久性を備えた太陽電池用バックシート及び太陽電池モジュールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するため、以下の発明が提供される。
<1> 芳香族ジカルボン酸と脂肪族ジオールとの重縮合反応により得られた、固有粘度が0.40dl/g以上1.0dl/g以下のポリエステルを反応槽内に供給して固体状態のまま加熱処理するとともに、前記反応槽内に、エチレングリコールと水と不活性ガスとを含み、エチレングリコールと水とのモル分圧比(エチレングリコールのモル分圧/水のモル分圧)が0.2〜5000である混合ガスを供給することにより前記ポリエステルの固相重合を行い、該固相重合により得られたポリエステル樹脂を前記反応槽から排出する固相重合工程を含む、ポリエステル樹脂の製造方法。
<2> 前記反応槽に供給する混合ガス中のエチレングリコールの濃度が10ppm以上1000ppm以下であり、かつ水の濃度が0.01ppm以上50ppm以下である<1>に記載のポリエステル樹脂の製造方法。
<3> 前記固相重合工程の前に、前記芳香族ジカルボン酸と前記脂肪族ジオールを、チタン化合物を含む触媒下で重縮合反応させて、前記固有粘度が0.40dl/g以上1.0dl/g以下のポリエステルを生成する重縮合工程を含む<1>又は<2>に記載のポリエステル樹脂の製造方法。
<4> 前記反応槽から排出される1時間あたりのポリエステル樹脂に対して、前記反応槽に供給する混合ガス量が0.05〜3m/kgである<1>〜<3>のいずれか1つに記載のポリエステル樹脂の製造方法。
<5> 前記反応槽から排出されたガスをスクラバー内に導入し、少なくともエチレングリコールを含む洗浄液によって洗浄し、該スクラバーから排出されたガスを前記混合ガスの少なくとも一部として前記反応槽内に供給する<1>〜<4>のいずれか1つに記載のポリエステル樹脂の製造方法。
<6> 前記反応槽から排出されたガスを燃焼し、該燃焼したガスに少なくともエチレングリコールを添加し、該少なくともエチレングリコールを添加した後のガスを前記混合ガスの少なくとも一部として前記反応槽内に供給する<1>〜<4>のいずれか1つに記載のポリエステル樹脂の製造方法。
<7> 前記反応槽から排出されたガスを、ロジウムを含む触媒を用いて燃焼させる<6>に記載のポリエステル樹脂の製造方法。
<8> 前記固相重合工程の前に、前記芳香族ジカルボン酸と前記脂肪族ジオールの他に、カルボン酸基と水酸基との合計が3以上である多官能モノマーを添加して重縮合反応させて、前記固有粘度が0.40dl/g以上1.0dl/g以下のポリエステルを生成する重縮合工程を含む<1>〜<7>のいずれかに記載のポリエステル樹脂の製造方法。
<9> 前記多官能モノマーを、ポリエステル樹脂中の全構成単位に対して、0.005モル%以上2.6モル%以下の範囲で添加する<8>に記載のポリエステル樹脂の製造方法。
<10> 固有粘度が0.70dl/g以上0.9dl/g以下、かつ末端カルボキシル基濃度が20当量/トン以下のポリエステル樹脂を得る、<1>〜<9>のいずれか1つに記載のポリエステル樹脂の製造方法。
<11> <1>〜<10>のいずれか1つに記載のポリエステル樹脂の製造方法により得られたポリエステル樹脂に、オキサゾリン系化合物、カルボジイミド化合物、及びエポキシ化合物から選ばれる少なくとも1種の末端封止剤を添加した原料をフィルム状に溶融押出し、冷却ロール上で冷却して未延伸フィルムに成形する成形工程と、
前記未延伸フィルムを長手方向及び該長手方向に直交する幅方向に延伸する延伸工程と、
を含む、ポリエステルフィルムの製造方法。
<12> 前記末端封止剤を、前記ポリエステル樹脂に対して、0.1質量%以上6質量%以下の範囲で添加する<11>に記載のポリエステルフィルムの製造方法。
<13> <1>〜<10>のいずれか1つに記載の製造方法によって製造したポリエステル樹脂を用いて成形したポリエステルフィルム。
<14> カルボン酸基と水酸基との合計が3以上である多官能モノマーに由来する構成成分を含む<13>に記載のポリエステルフィルム。
<15> 前記多官能モノマーに由来する構成成分の含有比率が、ポリエステル樹脂中の全構成単位に対して、0.005モル%以上2.6モル%以下である<14>に記載のポリエステルフィルム。
<16> オキサゾリン系化合物、カルボジイミド化合物、及びエポキシ化合物から選ばれる少なくとも1種の末端封止剤に由来する構造部分を含む<11>〜<15>のいずれか1つに記載のポリエステルフィルム。
<17> 前記末端封止剤に由来する構造部分の含有比率が、ポリエステル樹脂に対して、0.1質量%以上6質量%以下である<16>に記載のポリエステルフィルム。
<18> オキサゾリン系化合物、カルボジイミド化合物、及びエポキシ化合物から選ばれる少なくとも1種の末端封止剤に由来する構造部分を含み、且つ結晶化度分布が5〜50%である<13>に記載のポリエステルフィルム。
<19> <13>〜<18>のいずれか1つに記載のポリエステルフィルムを備えた太陽電池用バックシート。
<20> 太陽光が入射する透明性の基板と、太陽電池素子と、<19>に記載の太陽電池用バックシートとを備えた太陽電池モジュール。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、末端カルボキシル基量が効果的に低減されて、耐加水分解性に優れたポリエステルフィルムが得られるポリエステル樹脂の製造方法、並びに長期耐久性を備えた太陽電池用バックシート及び太陽電池モジュールが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明のポリエステルの製造方法に係る固相重合を行う装置の構成の一例を示す概略図である。
【図2】太陽電池モジュールの構成例を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付の図面を参照しながら本発明について、詳細に説明する。
ポリエステルの固相重合を行う場合、通常、末端カルボキシル基量の低下とともに固有粘度が上昇するが、固有粘度が必要以上に高くなると、製膜時、つまり溶融混練して押出する際の加熱や剪断応力がかかることに伴う発熱(剪断発熱)でカルボン酸基が増加し、結果として耐加水分解性が低下してしまう。また、ポリエステル樹脂の固有粘度が高いと、溶融押出の際に樹脂が押し出され難いため、剪断発熱の影響を受けやすくなる。
本発明者は、研究及び検討を重ねた結果、ポリエステル樹脂の固相重合によりエチレングリコールと水が抜ける反応を選択的に行うことによって、不必要に固有粘度を上げることなく、末端カルボキシル基量を有効に低減出来ることを見出した。具体的には、固相重合に用いる供給ガス(循環ガス)中の微量成分であるエチレングリコールと水の分圧の比率を特定の範囲に制御して脱EG反応よりも脱HO反応を促進することにより、固有粘度(IV)の上昇を抑制しつつ、末端カルボキシル基量(AV)を低減することができる。
【0013】
<ポリエステル樹脂の製造方法>
本発明のポリエステル樹脂の製造方法は、芳香族ジカルボン酸と脂肪族ジオールとの重縮合反応により得られた、固有粘度が0.40dl/g以上のポリエステルを反応槽内に供給して固体状態のまま加熱処理するとともに、前記反応槽内に、エチレングリコールと水と不活性ガスとを含み、エチレングリコールと水とのモル分圧比(エチレングリコールのモル分圧/水のモル分圧)が0.2〜5000である混合ガスを供給することにより前記ポリエステルの固相重合を行い、該固相重合により得られたポリエステル樹脂を前記反応槽から排出する固相重合工程を含む、ポリエステル樹脂の製造方法である。
【0014】
−重縮合工程−
本発明では、固相重合させるポリエステル樹脂として、芳香族ジカルボン酸と脂肪族ジオールとの重縮合反応により得られた、固有粘度(IV)が0.40dL/g以上のポリエステルを用いる。このようなIV値を有するポリエステルは、好ましくはチタン化合物を含む触媒下で、芳香族ジカルボン酸と脂肪族ジオールとを重縮合させて得ることができる。
【0015】
本工程では、次の固相重合工程で用いるポリエステルを、その固有粘度(IV)が0.40dL/g以上となるように生成する。生成される重縮合生成物の固有粘度が0.40dL/g未満であると、後の固相重合工程でポリエステル樹脂を得る際に、樹脂の分子量が低くなり過ぎ、固相重合時に粉末状の樹脂が多量に発生する。この粉末状の樹脂は固相重合速度が速いために、高IVとなりフィルムのフィッシュアイとなり好ましくない。また、経済的にも固相重合時間が長時間となり好ましくない。
本発明においては、重縮合生成物の固有粘度は、固相重合時の粉の発生防止と固相重合時間の観点から、0.45dl/g以上が好ましく、0.48dl/g以上がより好ましい。ここでの固有粘度の上限値としては、溶融重合中の溶融粘度上昇による剪断発熱による熱分解でAV値が増加し易くなるのを回避する観点から、1.0dl/g以下が好ましく、更に好ましくは0.90dl/g以下、特に好ましくは0.80dl/g以下である。
IV値の調節は、用いる触媒のほか、液相重合時の重合温度や時間、真空度の調節により行なうことができる。
【0016】
なお、固有粘度(IV:Intrinsic Viscosity)は、溶液粘度(η)と溶媒粘度(η0)の比ηr(=η/η0;相対粘度)から1を引いた比粘度(ηsp=ηr−1)を濃度で割った値を濃度がゼロの状態に外挿した値である。IVは、1,1,2,2−テトラクロルエタン/フェノール(=2/3[質量比])混合溶媒中の25℃での溶液粘度から求められる。
【0017】
(a)エステル化反応
芳香族ジカルボン酸と脂肪族ジオールとを重縮合する際のエステル化反応において、触媒としては、チタン(Ti)化合物、アンチモン化合物、ゲルマニウム化合物、アルミニウム化合物等を使用できる。触媒の詳細については後述する。
固相重合させるポリエステル原料のAV値を下げる観点から、触媒としてTi化合物を用いるのが好ましい。この場合、Ti化合物の添加量は、Ti元素換算値が1ppm以上30ppm以下となる量が好ましく、より好ましくは2ppm以上20ppm以下となる量、さらに好ましくは3ppm以上15ppm以下の範囲となる量で重合を行なうことが好ましい。
Ti系化合物の量がTi元素換算で1ppm以上であると、重合速度が速くなり、好ましいIVが得られる。また、Ti化合物の量がTi元素換算で30ppm以下であると、溶融重合ポリエステルの末端COOH量を、好ましくは35eq/t以下、より好ましくは30eq/t以下、特に好ましく25eq/t以下の範囲を満足するように調節することが可能であり、また良好な色調が得られる。尚、本明細書において、「eq/t」は1トン当たりのモル当量を表す。
【0018】
このようなTi化合物を用いたTi系ポリエステルの合成には、例えば、特公平8−30119号公報、特許第2543624号、特許第3335683号、特許第3717380号、特許第3897756号、特許第3962226号、特許第3979866号、特許第399687号1号、特許第4000867号、特許第4053837号、特許第4127119号、特許第4134710号、特許第4159154号、特許第4269704号、特許第4313538号、特開2005−340616号公報、特開2005−239940号公報、特開2004−319444号公報、特開2007−204538号公報、特許第3436268号、特許第3780137号等に記載の方法を適用することができる。
【0019】
固相重合させるポリエステルは、(A)テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、1,8−ナフタレンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、4,4’−ジフェニルエーテルジカルボン酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、フェニルエンダンジカルボン酸、アントラセンジカルボン酸、フェナントレンジカルボン、9,9’−ビス(4−カルボキシフェニル)フルオレン酸等の芳香族ジカルボン酸と、(B)エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール等の脂肪族ジオール類と、を周知の方法でエステル化反応及び/又はエステル交換反応させることによって得ることができる。
【0020】
脂肪族ジオール(例えばエチレングリコール)の使用量は、前記芳香族ジカルボン酸(例えばテレフタル酸)及び必要に応じそのエステル誘導体の1モルに対して、1.015〜1.50モルの範囲であるのが好ましい。該使用量は、より好ましくは1.02〜1.30モルの範囲であり、更に好ましくは1.025〜1.10モルの範囲である。該使用量は、1.015モル以上の範囲であると、エステル化反応が良好に進行し、1.50モル以下の範囲であると、例えばエチレングリコールの2量化によるジエチレングリコールの副生が抑えられ、融点やガラス転移温度、結晶性、耐熱性、耐加水分解性、耐候性など多くの特性を良好に保つことができる。
【0021】
PETは、テレフタル酸とエチレングリコールとを、PETを構成する全モノマー成分に対して、合計90モル%以上含むものが好ましく、より好ましくは95モル%以上、さらに好ましくは98モル%以上含むものである。
【0022】
(カルボン酸基と水酸基との合計が3以上である多官能モノマー)
また、本発明では、芳香族ジカルボン酸と脂肪族ジオールの他に、カルボン酸基と水酸基との合計が3以上である多官能モノマー(以下、「3官能以上の多官能モノマー」又は「多官能モノマー」と記す場合がある。)を添加して重縮合反応させたポリエステルを用いることができる。
ここで、カルボン酸基の数(a)と水酸基の数(b)との合計(a+b)が3以上である多官能モノマーとしては、カルボン酸基の数(a)が3以上のカルボン酸並びにこれらのエステル誘導体や酸無水物等、水酸基数(b)が3以上の多官能モノマー、並びに「一分子中に水酸基とカルボン酸基の両方を有し、カルボン酸基の数(a)と水酸基の数(b)との合計(a+b)が3以上であるオキシ酸類」などを挙げることができる。
【0023】
カルボン酸基数(a)が3以上のカルボン酸の例としては、三官能の芳香族カルボン酸として、トリメシン酸、トリメリット酸、ナフタレントリカルボン酸、アントラセントリカルボン酸等が、三官能の脂肪族カルボン酸として、メタントリカルボン酸、エタントリカルボン酸、プロパントリカルボン酸、ブタントリカルボン酸等が、四官能の芳香族カルボン酸としてベンゼンテトラカルボン酸、ピロメリット酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸、ナフタレンテトラカルボン酸、アントラセンテトラカルボン酸、ペリレンテトラカルボン酸等が、四官能の脂肪族カルボン酸として、エタンテトラカルボン酸、エチレンテトラカルボン酸、ブタンテトラカルボン酸、シクロペンタンテトラカルボン酸、シクロヘキサンテトラカルボン酸、アダマンタンテトラカルボン酸等が、五官能以上の芳香族カルボン酸として、ベンゼンペンタカルボン酸、ベンゼンヘキサカルボン酸、ナフタレンペンタカルボン酸、ナフタレンヘキサカルボン酸、ナフタレンヘプタカルボン酸、ナフタレンオクタカルボン酸、アントラセンペンタカルボン酸、アントラセンヘキサカルボン酸、アントラセンヘプタカルボン酸、アントラセンオクタカルボン酸等が、五官能以上の脂肪族カルボン酸として、エタンペンタカルボン酸、エタンヘキサカルボン酸、ブタンペンタカルボン酸、ブタンヘプタカルボン酸、シクロペンタンペンタカルボン酸、シクロヘキサンペンタカルボン酸、シクロヘキサンヘキサカルボン酸、アダマンタンペンタカルボン酸、アダマンタンヘキサカルボン酸等が挙げられ、並びにこれらのエステル誘導体や酸無水物等が例として挙げられるがこれらに限定されない。
【0024】
また、上述のカルボン酸のカルボキシ末端に、l−ラクチド、d−ラクチド、ヒドロキシ安息香酸などのオキシ酸類、およびその誘導体、そのオキシ酸類が複数個連なったもの等を付加させたものも好適に用いられる。また、これらは単独で用いても、必要に応じて、複数種類用いても構わない。
【0025】
また、水酸基数(b)が3以上の多官能モノマーの例としては、三官能の芳香族化合物として、トリヒドロキシベンゼン、トリヒドロキシナフタレン、トリヒドロキシアントラセン、トリヒドロキシカルコン、トリヒドロキシフラボン、トリヒドロキシクマリン、三官能の脂肪族アルコールとして、グリセリン、トリメチロールプロパン、プロパントリオール、四官能の脂肪族アルコールとして、ペンタエリスリトール等の化合物が上げられる。また、上述の化合物の水酸基末端にジオール類を付加させた化合物も好ましく用いられる。これらは単独で用いても、必要に応じて、複数種類用いても構わない。
【0026】
また、上記以外の他の多官能モノマーとして、一分子中に水酸基とカルボン酸基の両方を有し、かつカルボン酸基数(a)と水酸基数(b)との合計(a+b)が3以上であるオキシ酸類が挙げられる。このようなオキシ酸類の例としては、ヒドロキシイソフタル酸、ヒドロキシテレフタル酸、ジヒドロキシテレフタル酸、トリヒドロキシテレフタル酸などを挙げることができる。
また、上述の多官能モノマーのカルボキシ末端に、l-ラクチド、d−ラクチド、ヒドロキシ安息香酸などのオキシ酸類及びその誘導体、そのオキシ酸類が複数個連なったもの等を付加させたものも好適に用いられる。また、これらは単独で用いても、必要に応じて、複数種類併用しても構わない。
【0027】
前記多官能モノマーの含有比率は、ポリエステル中の全構成単位に対して、0.005モル%以上2.5モル%以下であることが好ましく、より好ましくは0.020モル%以上1モル%以下、更に好ましくは0.025モル%以上1モル%以下、更に好ましくは0.035モル%以上0.5モル%以下、更に好ましくは0.05モル%以上0.5モル%以下、特に好ましくは0.1モル%以上0.25モル%以下である。
【0028】
エステル化反応及び/又はエステル交換反応には、従来から公知の反応触媒を用いることができる。該反応触媒としては、アルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物、亜鉛化合物、鉛化合物、マンガン化合物、コバルト化合物、アルミニウム化合物、アンチモン化合物、チタン化合物、ゲルマニウム化合物、リン化合物などを挙げることができる。通常、ポリエステルの製造方法が完結する以前の任意の段階において、重合触媒としてアンチモン化合物、ゲルマニウム化合物、チタン化合物を添加することが好ましい。このような方法としては、例えば、ゲルマニウム化合物を例に挙げると、ゲルマニウム化合物粉体をそのまま添加することが好ましい。
【0029】
これらの中でより好ましいポリエステルは、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレン−2,6−ナフタレート(PEN)であり、さらに好ましいのはPETである。また、前記PETとしては、ゲルマニウム(Ge)系触媒、アンチモン(Sb)系触媒、アルミニウム(Al)系触媒、及びチタン(Ti)系触媒から選ばれる1種又は2種以上を用いて重合されるPETが好ましく、より好ましくは、耐加水分解性が良好な点で、Ti系触媒を用いたものである。
【0030】
前記Ti系触媒は、反応活性が高く、重合温度を低くすることができる。そのため、特に重合反応中にPETが熱分解し、COOHが発生するのを抑制することが可能であり、本発明のポリエステルフィルムにおいて、末端COOH量を所定の範囲に調整するのに好適である。
【0031】
前記Ti系触媒としては、酸化物、水酸化物、アルコキシド、カルボン酸塩、炭酸塩、蓚酸塩、有機キレートチタン錯体、及びハロゲン化物等が挙げられる。Ti系触媒は、本発明の効果を損なわない範囲であれば、二種以上のチタン化合物を併用してもよい。
Ti系触媒の例としては、テトラ−n−プロピルチタネート、テトラ−i−プロピルチタネート、テトラ−n−ブチルチタネート、テトラ−n−ブチルチタネートテトラマー、テトラ−t−ブチルチタネート、テトラシクロヘキシルチタネート、テトラフェニルチタネート、テトラベンジルチタネート等のチタンアルコキシド、チタンアルコキシドの加水分解により得られるチタン酸化物、チタンアルコキシドと珪素アルコキシドもしくはジルコニウムアルコキシドとの混合物の加水分解により得られるチタン−珪素もしくはジルコニウム複合酸化物、酢酸チタン、蓚酸チタン、蓚酸チタンカリウム、蓚酸チタンナトリウム、チタン酸カリウム、チタン酸ナトリウム、チタン酸−水酸化アルミニウム混合物、塩化チタン、塩化チタン−塩化アルミニウム混合物、チタンアセチルアセトナート、有機酸を配位子とする有機キレートチタン錯体、等が挙げられる。
【0032】
前記Ti系触媒の中でも、有機酸を配位子とする有機キレートチタン錯体の少なくとも1種を好適に用いることができる。有機酸としては、例えば、クエン酸、乳酸、トリメリット酸、リンゴ酸等を挙げることができる。中でも、クエン酸又はクエン酸塩を配位子とする有機キレート錯体が好ましい。
【0033】
例えばクエン酸を配位子とするキレートチタン錯体を用いた場合、微細粒子等の異物の発生が少なく、他のチタン化合物に比べ、重合活性と色調の良好なポリエステル樹脂が得られる。更に、クエン酸キレートチタン錯体を用いる場合でも、エステル化反応の段階で添加することにより、エステル化反応後に添加する場合に比べ、重合活性と色調が良好で、末端カルボキシル基の少ないポリエステル樹脂が得られる。この点については、チタン触媒はエステル化反応の触媒効果もあり、エステル化段階で添加することでエステル化反応終了時におけるオリゴマー酸価が低くなり、以降の重縮合反応がより効率的に行なわれること、またクエン酸を配位子とする錯体はチタンアルコキシド等に比べて加水分解耐性が高く、エステル化反応過程において加水分解せず、本来の活性を維持したままエステル化及び重縮合反応の触媒として効果的に機能するものと推定される。
また、一般に、末端カルボキシル基量が多いほど耐加水分解性が悪化することが知られており、チタン、マグネシウム、リンを用い、これらをこの順に添加する構成にすると末端カルボキシル基量が少なくなることで、耐加水分解性の向上が期待される。
前記クエン酸キレートチタン錯体としては、例えば、ジョンソン・マッセイ社製のVERTEC AC−420など市販品として容易に入手可能である。
【0034】
芳香族ジカルボン酸と脂肪族ジオールは、これらが含まれたスラリーを調製し、これをエステル化反応工程に連続的に供給することにより導入することができる。
【0035】
本発明においては、芳香族ジカルボン酸と脂肪族ジオールとを、好ましくはチタン化合物を含有する触媒の存在下で重縮合するとともに、チタン化合物の少なくとも一種が有機酸を配位子とする有機キレートチタン錯体であって、有機キレートチタン錯体とマグネシウム化合物と置換基として芳香環を有しない5価のリン酸エステルとをこの順序で添加する過程を少なくとも含むエステル化反応工程を設けて構成されるのが好ましい。この場合、エステル化反応工程に加え、該エステル化反応工程で生成されたエステル化反応生成物を重縮合反応させて重縮合物を生成する重縮合工程を設けて構成される製造方法によりポリエステル樹脂を作製する態様がより好ましい。
【0036】
この場合、エステル化反応の過程において、チタン化合物として有機キレートチタン錯体を存在させた中に、マグネシウム化合物を添加し、次いで特定の5価のリン化合物を添加する添加順とすることで、チタン触媒の反応活性を適度に高く保ち、マグネシウムによる静電印加特性を付与しつつ、かつ重縮合における分解反応を効果的に抑制することができるため、結果として着色が少なく、高い静電印加特性を有するとともに高温下に曝された際の黄変色が改善されたポリエステル樹脂が得られる。
これにより、重合時の着色及びその後の溶融製膜時における着色が少なくなり、従来のアンチモン(Sb)触媒系のポリエステル樹脂に比べて黄色味が軽減され、また、透明性の比較的高いゲルマニウム触媒系のポリエステル樹脂に比べて遜色のない色調、透明性を持ち、しかも耐熱性に優れたポリエステル樹脂を提供できる。また、コバルト化合物や色素などの色調調整材を用いずに高い透明性を有し、黄色味の少ないポリエステル樹脂が得られる。
【0037】
このポリエステル樹脂は、透明性に関する要求の高い用途(例えば、光学用フィルム、工業用リス等)に利用が可能であり、高価なゲルマニウム系触媒を用いる必要がないため、大幅なコスト低減が図れる。加えて、Sb触媒系で生じやすい触媒起因の異物の混入も回避されるため、製膜過程での故障の発生や品質不良が軽減され、得率向上による低コスト化も図ることができる。
【0038】
上記において、芳香族ジカルボン酸及び脂肪族ジオールを、マグネシウム化合物及びリン化合物の添加に先立って、チタン化合物である有機キレートチタン錯体を含有する触媒と混合する場合、有機キレートチタン錯体等はエステル化反応に対しても高い触媒活性を持つので、エステル化反応を良好に行なわせることができる。このとき、ジカルボン酸成分及びジオール成分を混合した中にチタン化合物を加えてもよい。また、ジカルボン酸成分(又はジオール成分)とチタン化合物を混合してからジオール成分(又はジカルボン酸成分)を混合してもよい。また、ジカルボン酸成分とジオール成分とチタン化合物とを同時に混合するようにしてもよい。混合は、その方法に特に制限はなく、従来公知の方法により行なうことが可能である。
【0039】
エステル化反応させるに当たり、チタン化合物である有機キレートチタン錯体と添加剤としてマグネシウム化合物と5価のリン化合物とをこの順に添加する過程を設ける。このとき、有機キレートチタン錯体の存在下、エステル化反応を進め、その後はマグネシウム化合物の添加を、リン化合物の添加前に開始する。
【0040】
(リン化合物)
リン化合物としては、置換基として芳香環を有しない5価のリン酸エステルの少なくとも一種が好適に用いられる。本発明における5価のリン酸エステルとしては、例えば、リン酸トリメチル、リン酸トリエチル、リン酸トリ−n−ブチル、リン酸トリオクチル、リン酸トリス(トリエチレングリコール)、リン酸メチルアシッド、リン酸エチルアシッド、リン酸イソプロピルアシッド、リン酸ブチルアシッド、リン酸モノブチル、リン酸ジブチル、リン酸ジオクチル、リン酸トリエチレングリコールアシッド等が挙げられる。
【0041】
5価のリン酸エステルの中では、炭素数2以下の低級アルキル基を置換基として有するリン酸エステル〔(OR)−P=O;R=炭素数1又は2のアルキル基〕が好ましく、具体的には、リン酸トリメチル、リン酸トリエチルが特に好ましい。
【0042】
特に、前記チタン化合物として、クエン酸又はその塩が配位するキレートチタン錯体を触媒として用いる場合、5価のリン酸エステルの方が3価のリン酸エステルよりも重合活性、色調が良好であり、更に炭素数2以下の5価のリン酸エステルを添加する態様の場合に、重合活性、色調、耐熱性のバランスを特に向上させることができる。
【0043】
リン化合物の添加量としては、P元素換算値が50ppm以上90ppm以下の範囲となる量が好ましい。リン化合物の量は、より好ましくは60ppm以上80ppm以下となる量であり、さらに好ましくは65ppm以上75ppm以下となる量である。
【0044】
(マグネシウム化合物)
マグネシウム化合物を含めることにより、静電印加性が向上する。この場合に着色がおきやすいが、本発明においては、耐熱性が改善され着色を抑えられているため、マグネシウム化合物を配合しても、色調の悪化の小さいものが得られる。
【0045】
マグネシウム化合物としては、例えば、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、マグネシウムアルコキシド、酢酸マグネシウム、炭酸マグネシウム等のマグネシウム塩が挙げられる。中でも、エチレングリコールへの溶解性の観点から、酢酸マグネシウムが最も好ましい。
【0046】
マグネシウム化合物の添加量としては、高い静電印加性を付与するためには、Mg元素換算値が50ppm以上となる量が好ましく、50ppm以上100ppm以下の範囲となる量がより好ましい。マグネシウム化合物の添加量は、静電印加性の付与の点で、好ましくは60ppm以上90ppm以下の範囲となる量であり、さらに好ましくは70ppm以上80ppm以下の範囲となる量である。
【0047】
触媒としてチタン化合物、マグネシウム化合物、及びリン化合物を用いる場合、高い静電印加性を付与するとともに耐加水分解性を有し、黄着色を抑えたポリエステルとする点で、チタン元素(Ti)、マグネシウム元素(Mg)、及びリン元素(P)の元素換算比で下記式を満たす場合が好ましい。
3ppm≦Ti元素量≦20ppm
50ppm≦P元素量 ≦90ppm
50ppm≦Mg元素量≦100ppm
【0048】
本発明におけるエステル化反応工程においては、触媒成分である前記チタン化合物と、添加剤である前記マグネシウム化合物及びリン化合物とを、下記式(i)から算出される値Zが下記の関係式(ii)を満たすように、添加して溶融重合させる場合が特に好ましい。ここで、P含有量は芳香環を有しない5価のリン酸エステルを含むリン化合物全体に由来するリン量であり、Ti含有量は、有機キレートチタン錯体を含むTi化合物全体に由来するチタン量である。このように、チタン化合物を含む触媒系でのマグネシウム化合物及びリン化合物の併用を選択し、その添加タイミング及び添加割合を制御することによって、チタン化合物の触媒活性を適度に高く維持しつつも、黄色味の少ない色調が得られ、重合反応時やその後の製膜時(溶融時)などで高温下に曝されても黄着色を生じ難い耐熱性を付与することができる。
(i)Z=5×(P含有量[ppm]/P原子量)−2×(Mg含有量[ppm]/Mg原子量)−4×(Ti含有量[ppm]/Ti原子量)
(ii)0≦Z≦5.0
これは、リン化合物はチタンに作用のみならずマグネシウム化合物とも相互作用することから、3者のバランスを定量的に表現する指標となるものである。
前記式(i)は、反応可能な全リン量から、マグネシウムに作用するリン分を除き、チタンに作用可能なリンの量を表現したものである。値Zが正の場合は、チタンを阻害するリンが余剰な状況にあり、逆に負の場合はチタンを阻害するために必要なリンが不足する状況にあるといえる。反応においては、Ti、Mg、Pの各原子1個は等価ではないことから、式中の各々のモル数に価数を乗じて重み付けを施してある。
【0049】
本発明においては、特殊な合成等が不要であり、安価でかつ容易に入手可能なチタン化合物、リン化合物、マグネシウム化合物を用いて、反応に必要とされる反応活性を持ちながら、色調及び熱に対する着色耐性に優れたポリエステル樹脂を得ることができる。
【0050】
前記式(ii)において、重合反応性を保った状態で、色調及び熱に対する着色耐性をより高める観点から、1.0≦Z≦4.0を満たす場合が好ましく、1.5≦Z≦3.0を満たす場合がより好ましい。
【0051】
本発明における好ましい態様として、エステル化反応が終了する前に、芳香族ジカルボン酸及び脂肪族ジオールに、Ti元素換算量で3ppm以上20ppm以下のクエン酸又はクエン酸塩を配位子とするキレートチタン錯体を添加後、該キレートチタン錯体の存在下に、Mg元素換算量で50ppm以上100ppm以下の弱酸のマグネシウム塩を添加し、該添加後にさらに、P元素換算量で50ppm以上90ppm以下の、芳香環を置換基として有しない5価のリン酸エステルを添加する態様が挙げられる。
【0052】
エステル化反応は、少なくとも2個の反応器を直列に連結した多段式装置を用いて、エチレングリコールが還流する条件下で、反応によって生成した水又はアルコールを系外に除去しながら実施することができる。
【0053】
また、上記したエステル化反応は、一段階で行なってもよいし、多段階に分けて行なうようにしてもよい。
エステル化反応を一段階で行なう場合、エステル化反応温度は230〜260℃が好ましく、240〜250℃がより好ましい。
エステル化反応を多段階に分けて行なう場合、第一反応槽のエステル化反応の温度は230〜260℃が好ましく、より好ましくは240〜250℃であり、圧力は1.0〜5.0kg/cmが好ましく、より好ましくは2.0〜3.0kg/cmである。第二反応槽のエステル化反応の温度は230〜260℃が好ましく、より好ましくは245〜255℃であり、圧力は0.5〜5.0kg/cm、より好ましくは1.0〜3.0kg/cmである。さらに3段階以上に分けて実施する場合は、中間段階のエステル化反応の条件は、前記第一反応槽と最終反応槽の間の条件に設定するのが好ましい。
【0054】
(b)重縮合
重縮合は、エステル化反応で生成されたエステル化反応生成物を重縮合反応させて重縮合物を生成する。重縮合反応は、1段階で行なってもよいし、多段階に分けて行なうようにしてもよい。
【0055】
エステル化反応で生成したオリゴマー等のエステル化反応生成物は、引き続いて重縮合反応に供される。この重縮合反応は、多段階の重縮合反応槽に供給することにより好適に行なうことが可能である。
【0056】
例えば、3段階の反応槽で行なう場合の重縮合反応条件は、第一反応槽は、反応温度が255〜280℃、より好ましくは265〜275℃であり、圧力が13.3×10−3〜1.3×10−3MPa(100〜10torr)、より好ましくは6.67×10−3〜2.67×10−3MPa(50〜20torr)であって、第二反応槽は、反応温度が265〜285℃、より好ましくは270〜280℃であり、圧力が2.67×10−3〜1.33×10−4MPa(20〜1torr)、より好ましくは1.33×10−3〜4.0×10−4MPa(10〜3torr)であって、最終反応槽内における第三反応槽は、反応温度が270〜290℃、より好ましくは275〜285℃であり、圧力が1.33×10−3〜1.33×10−5MPa(10〜0.1torr)、より好ましくは6.67×10−4〜6.67×10−5MPa(5〜0.5torr)である態様が好ましい。
【0057】
本発明においては、上記のエステル化反応工程及び重縮合工程を設けることにより、チタン原子(Ti)、マグネシウム原子(Mg)、及びリン原子(P)を含むと共に、下記式(i)から算出される値Zが、下記の関係式(ii)を満たすポリエステル樹脂組成物を生成することができる。
(i)Z=5×(P含有量[ppm]/P原子量)−2×(Mg含有量[ppm]/Mg原子量)−4×(Ti含有量[ppm]/Ti原子量)
(ii)0≦Z≦5.0
【0058】
ポリエステル樹脂組成物は、0≦Z≦5.0を満たすものであることで、Ti、P、及びMgの3元素のバランスが適切に調節されているので、重合反応性を保った状態で、色調と耐熱性(高温下での黄着色の低減)とに優れ、かつ高い静電印加性を維持することができる。また、本発明では、コバルト化合物や色素などの色調調整材を用いずに高い透明性を有し、黄色味の少ないポリエステル樹脂を得ることができる。
【0059】
前記式(i)は既述のように、リン化合物、マグネシウム化合物、及びリン化合物の3者のバランスを定量的に表現したものであり、反応可能な全リン量から、マグネシウムに作用するリン分を除き、チタンに作用可能なリンの量を表したものである。値Zが未満、つまりチタンに作用するリン量が少な過ぎると、チタンの触媒活性(重合反応性)は高まるが、耐熱性が低下し、得られるポリエステル樹脂の色調は黄色味を帯び、重合後の例えば製膜時(溶融時)にも着色し、色調が低下する。また、値Zが5.0を超える、つまりチタンに作用するリン量が多過ぎると、得られるポリエステルの耐熱性及び色調は良好なものの、触媒活性が低下しすぎ、生成性に劣る。
本発明においては、上記同様の理由から、前記式(ii)は、1.0≦Z≦4.0を満たす場合が好ましく、1.5≦Z≦3.0を満たす場合がより好ましい。
【0060】
Ti、Mg、及びPの各元素の測定は、高分解能型高周波誘導結合プラズマ−質量分析(HR-ICP-MS;SIIナノテクノロジー社製AttoM)を用いてPET中の各元素を定量し、得られた結果から含有量[ppm]を算出することにより行なうことができる。
【0061】
また、生成されるポリエステル樹脂組成物は、更に、下記の関係式(iii)で表される関係を満たすものであることが好ましい。
重縮合後にペレットとしたときのb値 ≦ 4.0 ・・・(iii)
重縮合して得られたポリエステル樹脂をペレット化し、該ペレットのb値が4.0以下であることにより、黄色味が少なく、透明性に優れる。b値が3.0以下である場合、Ge触媒で重合したポリエステル樹脂と遜色ない色調になる。
【0062】
b値は、色味を表す指標となるものであり、ND−101D(日本電色工業(株)製)を用いて計測される値である。
【0063】
また更に、ポリエステル樹脂組成物は、下記の関係式(iv)で表される関係を満たしていることが好ましい。
色調変化速度[Δb/分]≦ 0.15 ・・・(iv)
重縮合して得られたポリエステル樹脂ペレットを、300℃で溶融保持した際の色調変化速度[Δb/分]が0.15以下であることにより、加熱下に曝された際の黄着色を低く抑えることができる。これにより、例えば押出機で押し出して製膜する等の場合に、黄着色が少なく、色調に優れたフィルムを得ることができる。
【0064】
前記色調変化速度は、値が小さいほど好ましく、0.10以下であることが特に好ましい。
【0065】
色調変化速度は、熱による色の変化を表す指標となるものであり、下記方法により求められる値である。すなわち、
ポリエステル樹脂組成物のペレットを、射出成形機(例えば東芝機械(株)製のEC100NII)のホッパーに投入し、シリンダ内(300℃)で溶融保持させた状態で、その保持時間を変更してプレート状に成形し、このときのプレートb値をND−101D(日本電色工業(株)製)により測定する。b値の変化をもとに変化速度[Δb/分]を算出する。
【0066】
−固相重合工程−
固相重合工程では、反応槽内で固有粘度が0.40dl/g以上のポリエステル(エステル化反応生成物)を、固体状態のまま加熱処理するとともに、反応槽内にエチレングリコールと水と不活性ガスとを含み、エチレングリコールと水とのモル分圧比(エチレングリコールのモル分圧/水のモル分圧)が0.2〜5000である混合ガスを供給することによりポリエステルの固相重合を行い、該固相重合したポリエステルを反応槽から排出する。固相重合は、例えば、既述のエステル化反応により得たポリエステル又は市販のポリエステルをペレット状などの小片形状にし、これを用いて好適に行なえる。
【0067】
本発明では、固相重合を行う際、エチレングリコールと水と不活性ガスとを含み、混合ガスに含まれるエチレングリコールと水とのモル分圧比(エチレングリコールのモル分圧/水のモル分圧)が0.2〜5000である混合ガスを反応槽に供給する。エチレングリコールと水のモル分圧比(以下、PEG/PH2Oと記す場合がある。)が0.2未満では、水に対するエチレングリコールの比率が少な過ぎて固相重合を行なう際に末端カルボキシル基を効率的に低減させることが困難となってしまう。一方、PEG/PH2Oが5000を超えると、混合ガス中の水を除去することが困難となり経済性に劣るため好ましくない。
上記のような観点から、PEG/PH2Oは、好ましくは0.5〜2000、更に好ましくは1〜1000である。
【0068】
混合ガスに含まれる不活性ガスとしては、窒素、ヘリウム、ネオン、アルゴンなどが挙げられるが窒素が最も好ましい。
混合ガス中のエチレングリコールの濃度は10ppm以上1000ppm以下であり、かつ水の濃度は0.01ppm以上50ppm以下であることが好ましい。混合ガス中のエチレングリコールの濃度が上記範囲であれば、効率的にポリエステル樹脂の末端カルボキシル基を低減させることが可能な固相重合速度が得られ、水の濃度が上記範囲であれば、ポリエステル樹脂の末端カルボキシル基を効率的に低減させることが可能となる。
このような観点から、混合ガス中のエチレングリコールの濃度は、より好ましくはエチレングリコールの濃度が15ppm以上800ppm以下であり、かつ水の濃度が0.03ppm以上40ppm以下、更に好ましくはエチレングリコールの濃度が20ppm以上600ppm以下であり、かつ水の濃度が0.05ppm以上30ppm以下である。
【0069】
混合ガス中のPEG/PH2O、エチレングリコールの濃度、水の濃度を制御する方法は限定されないが、例えば、反応槽から排出されたガスをスクラバー内に導入し、少なくともエチレングリコールを含む洗浄液によって洗浄し、該スクラバーから排出されたガスを前記混合ガスの少なくとも一部として反応槽に供給する方法が挙げられる。
【0070】
図1は、本発明のポリエステルの製造方法に係る固相重合を行う装置の構成の一例を概略的に示している。この装置は、固相重合を行うための反応槽10、スクラバー12、冷却手段14、加熱手段16等を備えている。反応槽10内のポリエステルを通って反応槽10の上方から排出された高温のガス(例えば、200〜210℃)をスクラバー12内に導入する。スクラバー12内では少なくともエチレングリコールを含む(必要に応じて水を含む)洗浄液によってシャワー洗浄し、該スクラバー12から排出されたガスを反応槽10に供給する。
【0071】
このように固相重合に用いる混合ガスを循環させる際、スクラバー12内で、例えば、高純度(好ましくは、99.9%〜99.9999%)のエチレングリコールを噴霧して循環ガスを洗浄することにより循環ガスに含まれるエチレングリコールと水が溶解し、スクラバー12の排液口13から液体として排出されるとともに、エチレングリコールを高濃度に含むガスが排出される。スクラバー12から排出されたガスは、水冷又は空冷などの冷却手段によって一旦冷却されて主に水が除去される。次いで、加熱手段16によって所定の温度(例えば、190〜215℃)まで加熱された後、必要に応じて不活性ガスとして窒素ガスを添加し、反応槽10内に供給する。洗浄液中のエチレングリコール及び水の濃度を調整することで、反応槽10に供給する混合ガス中のPEG/PH2Oを0.2〜5000の範囲にすることができる。
【0072】
また、反応槽に供給する循環ガス中のPEG/PH2Oを制御する他の方法としては、反応槽10から排出されたガスを燃焼し、該燃焼したガスに少なくともエチレングリコールを添加し、該少なくともエチレングリコールを添加した後のガスを混合ガスの少なくとも一部として反応槽10に供給する方法が挙げられる。
上記燃焼時には、ロジウムを含む触媒、例えば、ロジウム−白金触媒を好適に用いることができる。
この場合は、燃焼後のガスに添加するエチレングリコール及び水の濃度を調整することで、反応槽10に供給する混合ガス中のPEG/PH2Oを0.2〜5000の範囲にすることができる。
【0073】
固相重合工程において、ポリエステルを固体状態で行なう加熱処理温度は、215℃以下の温度領域が好ましく、より好ましくは150℃以上215℃以下であり、更に好ましくは170℃以上215℃以下である。上記のうち、熱処理は、190℃以上215℃以下で5時間以上100時間以下の条件にて行なうのがより好ましく、更には190℃以上215℃以下で10時間以上80時間以下、特には190℃以上215℃以下で15時間以上60時間以下の条件にて行なうのが好ましい。
【0074】
なお、固相重合を行う前に、原料ポリエステルの結晶化(例えば、140〜160℃)、乾燥(150〜180℃)、予備加熱(200〜210℃)を行ってもよい。
【0075】
反応槽から排出される1時間あたりのポリエステル樹脂に対して、反応槽へ供給する混合ガス量が0.05〜3m/kgであることが好ましく、より好ましくは0.1〜2.5m/kg、更に好ましくは0.2〜2m/kgである。
反応槽から排出される1時間あたりのポリエステル樹脂に対して、反応槽へ供給する混合ガス量が0.05m/kg以上であれば、効率的にポリエステル樹脂の末端カルボキシル基を低減させることが可能な固相重合速度が得られ、3m/kg以下であれば、固相重合に必要なリアクター(反応槽)内のプラグフロー性が確保可能である。
【0076】
また、反応槽における空塔速度は、固相重合速度と末端カルボキシル基の効率的な低減性能両立の観点から、0.01〜0.2m/秒が好ましく、0.05〜0.15m/秒がより好ましい。
【0077】
本発明によれば、反応槽内に供給したポリエステルを固体状態で熱処理して固相重合(固相重合反応)させることで、固有粘度(IV)が0.60〜0.1.2dL/g、末端カルボン酸量(AV)が20当量/トン以下のポリエステル樹脂を得ることができる。 なお、本明細書中において、「当量/トン」は1トンあたりのモル当量を表す。
固相重合後のポリエステル樹脂のIVが0.60dL/g以上であれば、分子量が低くなり過ぎず、密着界面で凝集破壊を起こして密着が低下することが抑制される。またIVが1.2dl/g以下であれば、製膜中の溶融粘度の上昇が抑制され、剪断発熱を受けても熱分解し難くなり、また球晶の生成が抑制される。そのため、AV値が効果的に低減して、末端COOH基の濃度を20当量/トン以下に抑えることができ、溶融押出時の押出特性の悪化や耐加水分解性を向上させることができる。
IVは、既述した方法と同様の方法で測定することができる。
【0078】
固相重合により、その後の末端カルボン酸の量(末端COOH量)を20当量/トン以下とする。末端COOH量が20当量/トンを超えると、耐加水分解性が低下し、例えば太陽電池用バックシートとして長期使用に耐える耐久性能を確保することはできない。ポリエステル樹脂の末端COOH量としては、中でも5当量/トン以上20当量/トン以下であるのが好ましく、より好ましくは7当量/トン以上20当量/トン以下であり、更に好ましくは10当量/トン以上20当量/トン以下である。
【0079】
なお、末端COOH量は、ポリエステルをベンジルアルコール/クロロホルム(=2/3;体積比)の混合溶液に完全溶解させ、指示薬としてフェノールレッドを用い、これを基準液(0.01N KOH−ベンジルアルコール混合溶液)で滴定し、その滴定量から算出される値である。
【0080】
<ポリエステルフィルムの製造方法>
本発明では、上記のようにして固相重合工程後に得られたポリエステル樹脂をフィルム状に成形して耐加水分解性に優れたポリエステルフィルムを得ることができる。本発明のポリエステルフィルムは、固相重合工程で得られたポリエステル樹脂を延伸してフィルム状にする延伸工程を設けて得られた(一軸又は二軸)延伸フィルムであることが好ましい。
【0081】
−成形工程−
前記固相重合工程後には、固相重合を終えたポリエステル樹脂を、所望の溶融押出機に投入して溶融押出し、例えば、厚みが50μm〜350μmであるフィルム状に成形する成形工程が設けられている態様が好ましい。
ここで、製膜時の温度条件としては、樹脂の温度が290℃以下であることが好ましく、樹脂の温度は特に好ましくは285℃以下である。
【0082】
(末端封止剤)
成形工程では、固相重合を終えたポリエステル樹脂に末端封止剤を添加して溶融押出しを行なうことが好ましい。末端封止剤とは、ポリエステルの末端のカルボキシル基と反応し、ポリエステルのカルボキシル末端量を減少させる添加剤である。
【0083】
好ましい末端封止剤として、オキサゾリン化合物、カルボジイミド化合物、エポキシ化合物を挙げることができる。これらは単独で用いてもよく、組合せて用いても良い。末端封止剤を添加し、特に5%以上50%以下の結晶化度分布を持つポリエステルフィルムを製造することで、相乗効果が得られる。即ち、上記範囲の結晶化度分布を持つポリエステルフィルム中に前記末端封止剤が含有されていると、相乗効果により、塗布層との密着性が促進される。即ち、ポリエステルフィルムの結晶化度の低い部分に塗布液が浸透し、相互貫入し密着を向上させるが、その時、ポリエステルフィルムの末端が上記封止剤と反応し嵩高くなることで、塗布液成分から引き抜き難くなる(アンカー効果)。この結果相互作用力が高まり密着が強くなると考えられる。
【0084】
これらの末端封止剤は、ポリエステル樹脂に対して0.1質量%以上6質量%以下添加することが好ましく、より好ましくは0.3質量%以上4質量%以下、さらに好ましくは0.5質量%以上2質量%以下である。ポリエステル樹脂に対する末端封止剤の添加量が0.1質量%以上であれば、上記アンカー効果が発現し易くなり、密着力がさらに向上し易い。一方、6質量%以下であれば嵩張った末端のためにポリエステル分子が配列し難くなることが抑制され、結晶を形成し易くなる。この結果、高結晶領域が増加し、結晶化度の分布を形成し易くなり密着力が向上する。
【0085】
カルボジイミド基を有するカルボジイミド化合物は、一官能性カルボジイミドと多官能性カルボジイミドがあり、一官能性カルボジイミドとしては、ジシクロヘキシルカルボジイミド、ジイソプロピルカルボジイミド、ジメチルカルボジイミド、ジイソブチルカルボジイミド、ジオクチルカルボジイミド、t−ブチルイソプロピルカルボジイミド、ジフェニルカルボジイミド、ジ−t−ブチルカルボジイミドおよびジ−β−ナフチルカルボジイミドなどが挙げられる。特に好ましくは、ジシクロヘキシルカルボジイミドやジイソプロピルカルボジイミドである。
【0086】
また、多官能性カルボジイミドとしては、重合度3〜15のポリカルボジイミドが好ましく用いられる。ポリカルボジイミドは、一般に、「−R−N=C=N−」等で表される繰り返し単位を有し、前記Rは、アルキレン、アリーレン等の2価の連結基を表す。このような繰り返し単位としては、例えば、1,5−ナフタレンカルボジイミド、4,4’−ジフェニルメタンカルボジイミド、4,4’−ジフェニルジメチルメタンカルボジイミド、1,3−フェニレンカルボジイミド、2,4−トリレンカルボジイミド、2,6−トリレンカルボジイミド、2,4−トリレンカルボジイミドと2,6−トリレンカルボジイミドの混合物、ヘキサメチレンカルボジイミド、シクロヘキサン−1,4−カルボジイミド、キシリレンカルボジイミド、イソホロンカルボジイミド、ジシクロヘキシルメタン−4,4’−カルボジイミド、メチルシクロヘキサンカルボジイミド、テトラメチルキシリレンカルボジイミド、2,6−ジイソプロピルフェニルカルボジイミドおよび1,3,5−トリイソプロピルベンゼン−2,4−カルボジイミドなどを例示することができる。
【0087】
カルボジイミド化合物は、熱分解によるイソシアネート系ガスの発生が抑えられる点で、耐熱性の高いカルボジイミド化合物が好ましい。耐熱性を高めるためには、分子量(重合度)が高いほど好ましく、より好ましくはカルボジイミド化合物の末端を耐熱性の高い構造にすることが好ましい。また、ポリエステル原料樹脂を溶融押出する温度を下げることで、カルボジイミド化合物による耐候性の向上効果及び熱収縮の低減効果がより効果的に得られる。
【0088】
カルボジイミド化合物を添加した本発明のポリエステルフィルムは、300℃の温度で30分間保持した際のイソシアネート系ガスの発生量が0〜0.02質量%であることが好ましい。イソシアネート系ガスとはイソシアネート基をもつガスであり、例えば、ジイソプロピルフェニルイソシアネート、1,3,5−トリイソプロピルフェニルジイソシアネート、2−アミノ−1,3,5−トリイソプロピルフェニル−6−イソシアネート、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネートおよびシクロヘキシルイソシアネートなどが挙げられる。イソシアネート系ガスが0.02質量%以下であると、ポリエステルフィルム中に気泡(ボイド)が生成され難く、応力集中する部位が形成されにくいため、ポリエステルフィルム内に生じやすい破壊や剥離を防ぐことができる。これにより、隣接する材料との間の密着が良好になる。
【0089】
また、エポキシ化合物の好ましい例としては、グリシジルエステル化合物やグリシジルエーテル化合物などが挙げられる。
グリシジルエステル化合物の具体例としては、安息香酸グリシジルエステル、t−Bu−安息香酸グリシジルエステル、P−トルイル酸グリシジルエステル、シクロヘキサンカルボン酸グリシジルエステル、ペラルゴン酸グリシジルエステル、ステアリン酸グリシジルエステル、ラウリン酸グリシジルエステル、パルミチン酸グリシジルエステル、ベヘン酸グリシジルエステル、バーサティク酸グリシジルエステル、オレイン酸グリシジルエステル、リノール酸グリシジルエステル、リノレイン酸グリシジルエステル、ベヘノール酸グリシジルエステル、ステアロール酸グリシジルエステル、テレフタル酸ジグリシジルエステル、イソフタル酸ジグリシジルエステル、フタル酸ジグリシジルエステル、ナフタレンジカルボン酸ジグリシジルエステル、メチルテレフタル酸ジグリシジルエステル、ヘキサヒドロフタル酸ジグリシジルエステル、テトラヒドロフタル酸ジグリシジルエステル、シクロヘキサンジカルボン酸ジグリシジルエステル、アジピン酸ジグリシジルエステル、コハク酸ジグリシジルエステル、セバシン酸ジグリシジルエステル、ドデカンジオン酸ジグリシジルエステル、オクタデカンジカルボン酸ジグリシジルエステル、トリメリット酸トリグリシジルエステルおよびピロメリット酸テトラグリシジルエステルなどを挙げられ、これらは1種または2種以上を用いることができる。
【0090】
また、オキサゾリン化合物としては、オキサゾリン基を有する化合物の中から適宜選択して用いることができるが、その中ではビスオキサゾリン化合物が好ましい。具体的には、2,2’−ビス(2−オキサゾリン)、2,2’−ビス(4−メチル−2−オキサゾリン)、2,2’−ビス(4,4−ジメチル−2−オキサゾリン)、2,2’−ビス(4−エチル−2−オキサゾリン)、2,2’−ビス(4,4’−ジエチル−2−オキサゾリン)、2,2’−ビス(4−プロピル−2−オキサゾリン)、2,2’−ビス(4−ブチル−2−オキサゾリン)、2,2’−ビス(4−ヘキシル−2−オキサゾリン)、2,2’−ビス(4−フェニル−2−オキサゾリン)、2,2’−ビス(4−シクロヘキシル−2−オキサゾリン)、2,2’−ビス(4−ベンジル−2−オキサゾリン)、2,2’−p−フェニレンビス(2−オキサゾリン)、2,2’−m−フェニレンビス(2−オキサゾリン)、2,2’−o−フェニレンビス(2−オキサゾリン)、2,2’−p−フェニレンビス(4−メチル−2−オキサゾリン)、2,2’−p−フェニレンビス(4,4−ジメチル−2−オキサゾリン)、2,2’−m−フェニレンビス(4−メチル−2−オキサゾリン)、2,2’−m−フェニレンビス(4,4−ジメチル−2−オキサゾリン)、2,2’−エチレンビス(2−オキサゾリン)、2,2’−テトラメチレンビス(2−オキサゾリン)、2,2’−ヘキサメチレンビス(2−オキサゾリン)、2,2’−オクタメチレンビス(2−オキサゾリン)、2,2’−デカメチレンビス(2−オキサゾリン)、2,2’−エチレンビス(4−メチル−2−オキサゾリン)、2,2’−テトラメチレンビス(4,4−ジメチル−2−オキサゾリン)、2,2’−9,9’−ジフェノキシエタンビス(2−オキサゾリン)、2,2’−シクロヘキシレンビス(2−オキサゾリン)および2,2’−ジフェニレンビス(2−オキサゾリン)等を例示することができる。これらの中では、ポリエステルとの反応性が良好で耐候性の向上効果が高い観点から、2,2’−ビス(2−オキサゾリン)が最も好ましく用いられる。さらに、上記で挙げたビスオキサゾリン化合物は、本発明の効果を損なわない限り、一種を単独で用いても、二種以上を併用してもどちらでも良い。
【0091】
成形工程では、前記固相重合工程を経た後のポリエステル樹脂に、好ましくは上記のような末端封止剤添加して溶融混練し、口金(押出ダイ)からフィルム状に溶融押出し、キャスティングドラム上で冷却することにより、未延伸のポリエステルフィルムに成形することができる。
このとき、帯状に吐出された溶融樹脂(メルト)の延伸前の厚みは、500μm以上6000μm以下の範囲であることが好ましい。この場合、その後の延伸処理を経ることで、厚手のポリエステルフィルムを作製することができる。ポリエステルフィルムの厚みは、50μm以上350μm以下が好ましい。延伸前の厚みが6000μm以下であることで、メルト押出し中に皺が発生し難くムラの発生が抑えられる。
また、延伸前の厚みが500μm以上であることで、必要なフィルムの剛性を得ることができる。
メルトの延伸前の厚みについては、500μm以上6000μm以下の範囲が好ましく、より好ましくは600μm以上5000μm以下の範囲であり、さらに好ましくは700μm以上4500μm以下の範囲である。
【0092】
この場合、上記の固相重合工程で得られたポリエステル樹脂を乾燥し、残留水分を100ppm以下にした後、押出し機を用いて溶融することができる。溶融温度は、250℃以上320℃以下が好ましく、260℃以上310℃以下がより好ましく、270℃以上300℃以下がさらに好ましい。押出し機は、1軸でも多軸でもよい。熱分解による末端COOHの発生をより抑制できる点で、押出し機内を窒素置換して行なうのがより好ましい。
溶融された溶融樹脂(メルト)は、ギアポンプ、濾過器等を通して、押出ダイから押出す。このとき、単層で押出してもよいし、多層で押出してもよい。
【0093】
−延伸工程−
上記工程の後には、押出成形されたポリエステルフィルム(未延伸フィルム)を2軸延伸することにより、延伸フィルムを好適に作製することができる。
【0094】
具体的には、未延伸のポリエステルフィルムを、70℃以上140℃以下の温度に加熱されたロール群に導き、長手方向(縦方向、すなわちフィルムの進行方向)に3倍以上5倍以下の延伸率で延伸し、10℃以上50℃以下の温度のロール群で冷却することが好ましい。続いて、フィルムの両端をクリップで把持しながらテンターに導き、80℃以上150℃以下の温度に加熱された雰囲気中で、長手方向に直角な方向(幅方向)に3倍以上5倍以下の延伸率で延伸する。
【0095】
延伸率は、長手方向と幅方向それぞれ3倍以上5倍以下とするのが好ましい。また、その面積倍率(縦延伸倍率×横延伸倍率)は、9倍以上15倍以下であることが好ましい。面積倍率が9倍以上であると、得られる二軸延伸積層フィルムの反射率や隠蔽性、フィルム強度が良好であり、また面積倍率が15倍以下であると、延伸時の破れを回避することができる。
【0096】
フィルムの耐加水分解性の点では、フィルム延伸倍率の高い方が良好であり、また、面配向度としては、0.15以上が好ましく、より好ましくは0.16以上であり、更に好ましくは0.165以上である。面配向度が前記範囲内であると、耐加水分解性の点で有利である。
ここで、面配向度は、ポリエステルフィルムの表面の結晶配向の度合いを示し、MD方向(横方向;Transverse Direction)とTD方向(縦方向;Machine Direction)の平均屈折率(n)と厚み方向の屈折率(n)との差(n−nの絶対値)により求められる値である。
また、面配向度の制御は、延伸時の縦及び又は横延伸倍率や延伸温度、熱固定温度、緩和率を調整することにより行なうことができる。
【0097】
二軸延伸する方法としては、上述のように、長手方向(TD方向)と幅方向(MD方向)の延伸とを分離して行なう逐次二軸延伸方法のほか、長手方向と幅方向の延伸を同時に行なう同時二軸延伸方法のいずれであってもよい。
【0098】
得られた二軸延伸フィルムの結晶配向を完了させて、平面性と寸法安定性を付与するために、引き続きテンター内にて、好ましくは原料となる樹脂のガラス転移温度(Tg)以上融点(Tm)未満の温度で1秒以上30秒以下の熱処理を行ない、均一に徐冷後、室温まで冷却する。一般に、熱処理温度(Ts)が低いとフィルムの熱収縮が大きいため、高い熱寸法安定性を付与するためには、熱処理温度は高い方が好ましい。しかしながら、熱処理温度を高くし過ぎると配向結晶性が低下し、その結果形成されたフィルムが耐加水分解性に劣ることがある。そのため、本発明のポリエステルフィルムの熱処理温度(Ts)としては、30℃≦(Tm−Ts)≦90℃であるのが好ましい。より好ましくは、熱処理温度(Ts)を40℃≦(Tm−Ts)≦80℃、更に好ましくは45℃≦(Tm−Ts)≦75℃とすることが好ましい。
【0099】
<ポリエステルフィルム>
上記固相重合工程を経たポリエステル樹脂を用い、成形工程及び延伸工程を経ることで、耐加水分解性が高いポリエステルフィルムが得られる。また、上記固相重合工程を経たポリエステル樹脂を用い、特に、末端カルボン酸基量(AV)が3eq/ton以上20eq/ton以下のポリエステルフィルムを作製することによって、耐加水分解性が高く、かつ、表面の結晶化度分布が5%以上50%以下のポリエステルフィルムを製造することができる。ポリエステルフィルムの表面における結晶化度分布が5%以上であると、フィルムと塗布層との密着力を向上させることができ、50%以下であれば、フィルム中に弾性率分布が発現し難く、弾性率の弱い箇所に応力が集中して剥離することを抑制することができる。本発明のポリエステルフィルムの表面の結晶化度分布は、好ましくは7%以上30%以下、さらに好ましくは8%以上20%以下である。
【0100】
なお、ポリエステルフィルムの表面における結晶化度分布はATR−IR法で測定される。例えば30cm角のポリエステルフィルムを2cm×5cmのサイズに10箇所裁断して結晶化度を測定し、それらの結晶化度から分布を求める。
本発明のポリエステルフィルムを例えば太陽電池用バックシートに用いる場合は、上記のように大きな測定領域間で結晶化度の分布を有することが特に有効となる。太陽電池は通常1m程度の大きなサイズで使用されるため、この領域全般に亘って密着力を向上させることが必要であり、これには小さな周期の結晶化度分布よりも、大きな周期の結晶化度分布の方がバックシート全体における密着力の向上に有効となる。
なお、ポリエステルフィルムのサイズが30cm角未満であれば、均等に10箇所裁断してサンプルを採取し、各サンプルの結晶化度を測定して結晶化度分布を求めればよい。
【0101】
上記のようにポリエステルフィルムの表面に結晶化度分布を付与することで塗布層との密着性が向上する。即ち、結晶化の低い部分は塗布層の素材が浸透、貫入し易く密着力を増大させる。一方、結晶層はポリエステルフィルムの力学強度を向上させ、ポリエステルフィルム内での凝集破壊による密着力の低下を抑制する効果を有する。
【0102】
特に長期経時に相当する加速テストの際、ポリエステルフィルムは加水分解を受けるが、易接着層等の塗布層を設けていない状態では、外気と接触するポリエステルフィルムの表面の加水分解が特に顕著である。フィルム表面のポリエステルが加水分解によって低分子量化し、塗布層との密着強度が低下する。これに対し、ポリエステルフィルムの塗布層を形成する側の表面に結晶化度分布を持たせ、非晶部の多い部分と結晶部の多い部分を形成することで塗布層の密着性を向上させることができる。
【0103】
表面において5%以上50%以下の結晶化度分布を持つポリエステルフィルムを製造するには、前記固相重合工程を経て、結晶融解前ピーク(Tm’)の温度分布が1℃以上10℃以下のポリエステル樹脂を用い、末端カルボン酸基量(AV)が3eq/ton以上20eq/ton以下のポリエステルフィルムを作製する方法が挙げられる。
【0104】
ポリエステルフィルムのAVを3eq/ton以上20eq/ton以下にすることで結晶化度の高い部分と低い部分を形成することができ、前記のような結晶化度分布を形成することができる。末端カルボン酸は極性が高い上、嵩張るため、ポリエステルの結晶化を阻害する。このため、AVを小さくすることで結晶化度を高めることができる。そして、ポリエステルフィルムのAVを3eq/ton以上20eq/ton以下にすることで、結晶化度の低い箇所を所々に形成することができ、上記結晶化度を測定する際に検出できる程度に結晶化度分布を形成することができる。
【0105】
ポリエステルフィルムのAVが20eq/tonを超えると低結晶化領域の発現頻度を超え、分布の周期が上記測定範囲より小さくなり、見かけ上均一となり5%以上の結晶化度分布が形成されない。一方、ポリエステルフィルムのAVが3eq/ton未満では結晶化度の低い領域が少なくなりすぎ、ほぼ均一な結晶化度となり、塗布層の密着力が低下し易い。
【0106】
また、本発明に係るポリエステルフィルムの固有粘度(IV、単位dl/g)は0.70以上0.90以下が好ましく、より好ましくは0.73以上0.87以下、さらに好ましくは0.75以上0.85以下である。
このように高IVの樹脂を用いることにより上記結晶化度分布の形成を促す効果がある。即ち、高IVの樹脂は分子量が大きいことを意味し、このような分子は運動性が低下し、結晶形成速度が低下する。塗布層形成用塗布液の塗布後の乾燥による温度分布で結晶化度に分布を形成させる場合、温度が低い領域でも時間があれば結晶化し、温度が高い領域と同程度の結晶化度に達する。この際、ポリエステルフィルムのIVが0.70よりも低いと分子の運動性が高く結晶形成速度が速いため、延伸に伴う結晶形成時間中に低温領域でも結晶化が高温領域と同じ程度に結晶が生成し、結晶化度分布を形成し難い。一方、ポリエステルフィルムのIVが0.90を超えると、分子の運動性が低下し過ぎて、高温領域においても結晶化が生成し難くなり、高温領域と低温領域とで結晶形成に差ができ難くなる。
【0107】
末端カルボン酸基量(AV)が3eq/ton以上20eq/ton以下となるポリエステルフィルムの製膜に使用する原料樹脂としては、結晶融解前ピーク(Tm’)の温度分布が1℃以上10℃以下、好ましくは1.5℃以上8℃以下、さらに好ましくは2℃以上6℃以下のポリエステル樹脂を用いる。
Tm’は結晶の一部が融解し再編成する温度を示している。この温度が異なる、即ち結晶状態が異なるポリエステル樹脂を用いることで、結晶化度分布を形成し易くなる。Tm’の分布が10℃を超えると前記結晶化度分布が50%を超え易く、Tm’の分布が1℃未満であると結晶化度分布が5%未満になり易い。
なお、平均Tm’は230℃以上263℃以下が好ましく、より好ましくは240℃以上260℃以下、さらに好ましくは245℃以上255℃以下である。
このようなTm’と、上記AVとによって相乗効果が得られ、より一層の密着力向上の効果が得られる。
【0108】
上記結晶融解前ピーク(Tm’)の異なる原料樹脂の効果を有効に発現させるには、好ましくは直径140mm以上、より好ましくは直径150mm以上300mm以下、さらに好ましくは直径160mm以上260mm以下のスクリューを用いた2軸押出し機により製膜することが好ましい。これにより原料樹脂の結晶の融解を抑制し、結晶構造を残すことができ、上記結晶化度分布を形成し易くなる。
【0109】
なお、結晶融解前ピーク(Tm’)は以下の方法によって測定される。
・サンプル10mgをサンプルパンに入れ、10℃/分で昇温しながら300℃まで昇温する。
・200℃以上265℃の間に出現する吸熱ピークのうち、最高温度の吸熱量を示すピーク(Tm)の次に高い温度に現れるピークを結晶融解前ピーク(Tm’)とする。
・上記測定を任意に選んだ10粒のペレットに対して実施し、Tm’の最高温度と最低温度の差をTm’の温度分布とする。なお、Tm’の平均値は10点のTm’の平均値を示す。
【0110】
なお、単軸押出し機ではバレルと樹脂、スクリューと樹脂の間の摩擦により樹脂が輸送されるため強い摩擦力が発生し、これにより結晶構造が破壊され易い。一方、2軸押出し機ではスクリュー上を樹脂が輸送され摩擦力が低いため結晶構造が残りやすく、上記Tm’の分布による結晶化度分布を付与し易く好ましい。
さらに、スクリューの直径を140mm以上とすることで、1回転あたりの吐出量を多くできるため、回転数を低減することができ、摩擦力による結晶の破壊をより低減することができる。スクリュー直径が140mmを下回ると摩擦力が低減し難く、ポリエステルフィルムの結晶化度分布が5%を下回るおそれがある。一方、スクリュー直径が300mmを上回ると、結晶構造が残存しすぎて結晶化度分布が50%を上回るおそれがある。
【0111】
また、ポリエステルフィルム中にカルボン酸基と水酸基との合計が3以上である多官能モノマーに由来する構成成分が存在することで、重縮合に使用されなかった官能基が、フィルム表面に塗布して形成された塗布層中の成分と水素結合、または共有結合することでより密着力を向上させることができる。このような効果は、多官能モノマーを、結晶化度分布が5%以上50%以下のポリエステルフィルムと併用することで得られる相乗効果によるものである。即ち、結晶化度の低いところに貫入した塗布層の成分が、上記官能基と結合を形成し密着力を向上するためである。塗布層の素材が貫入することで、表面のみでの反応に比べ、より一層上記官能基と反応する数が増えて密着力が増加し易い。
このため多官能モノマーに由来する構成成分の含有比率が、ポリエステル中の全構成単位に対して、0.005モル%以上であれば、密着力がさらに向上し易い。一方、多官能モノマーに由来する構成成分の上記含有比率が2.6モル%以下であれば、ポリエステル中で結晶形成し、強度が低下し難く、その結果、凝集破壊を発現し難く、密着力を向上させることができる。
【0112】
また、本発明のポリエステルフィルムは、前記末端封止剤に由来する構造部分を含むことが好ましく、好ましい末端封止剤として、前記した、オキサゾリン化合物、カルボジイミド化合物、エポキシ化合物を挙げることができる。これらは単独で用いてもよく、組合せて用いても良い。末端封止剤を、結晶化度分布が5%以上50%以下の発明のポリエステルフィルムと併用することで、相乗効果が得られる。即ち、上記範囲の結晶化度分布を有する本発明のポリエステルフィルム中に上記末端封止剤の構造部分が含有されると、前記したように塗布層との密着が相乗効果で促進される。
【0113】
本発明のポリエステルフィルムは、太陽電池モジュールを構成するバックシートとして好適に用いることができるが、モジュール使用時には雰囲気温度が100℃程度まで上昇することがある。そのため、熱処理温度(Ts)としては、160℃以上Tm−40℃(但し、Tm−40℃>160℃)以下であるのが好ましい。より好ましくは170℃以上Tm−50℃(但し、Tm−50℃>170℃)以下、更に好ましくはTsが180℃以上Tm−55℃(但し、Tm−55℃>180℃)以下である。
【0114】
また必要に応じて、幅方向あるいは長手方向に1〜10%の弛緩処理を施してもよい。
上記の弛緩処理の値は以下の方法によって算出される。
幅方向:横延伸時のテンター間最大幅(A)に対する熱固定ゾーン終了時のテンター幅
(B)、つまり100(A−B)/A(%)
長手方向:横延伸ゾーン終了時のフィルム速度(C)に対する熱固定ゾーン終了時のフ ィルム速度(D)、つまり100(C−D)/D(%)
【0115】
また、本発明のポリエステルフィルムは、光安定化剤、酸化防止剤などの添加剤を更に含有することができる。
【0116】
本発明のポリエステルフィルムは、光安定化剤を含有することが好ましい。光安定化剤を含有することで、紫外線劣化を防ぐことができる。光安定化剤とは、紫外線などの光線を吸収して熱エネルギーに変換する化合物、フィルム等が光吸収して分解して発生したラジカルを捕捉し、分解連鎖反応を抑制する材料などが挙げられる。
【0117】
光安定化剤として好ましくは、紫外線などの光線を吸収して熱エネルギーに変換する化合物である。このような光安定化剤をフィルム中に含有することで、長期間継続的に紫外線の照射を受けても、フィルムによる部分放電電圧の向上効果を長期間高く保つことが可能になったり、フィルムの紫外線による色調変化、強度劣化等が防止される。例えば紫外線吸収剤は、ポリエステルの他の特性が損なわれない範囲であれば、有機系紫外線吸収剤、無機系紫外線吸収剤、及びこれらの併用のいずれも、特に限定されることなく好適に用いることができる。一方、紫外線吸収剤は、耐湿熱性に優れ、フィルム中に均一分散できることが望まれる。
【0118】
前記紫外線吸収剤の例としては、有機系の紫外線吸収剤として、サリチル酸系、ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、シアノアクリレート系等の紫外線吸収剤及びヒンダードアミン系等の紫外線安定剤などが挙げられる。具体的には、例えば、サリチル酸系のp−t−ブチルフェニルサリシレート、p−オクチルフェニルサリシレート、ベンゾフェノン系の2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシ−5−スルホベンゾフェノン、2,2’,4,4’−テトラヒドロキシベンゾフェノン、ビス(2−メトキシ−4−ヒドロキシ−5−ベンゾイルフェニル)メタン、ベンゾトリアゾール系の2−(2’−ヒドロキシ−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2,2’−メチレンビス[4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−6−(2Hベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール]、シアノアクリレート系のエチル−2−シアノ−3,3’−ジフェニルアクリレート)、トリアジン系として2−(4,6−ジフェニル−1,3,5−トリアジン−2−イル)−5−[(ヘキシル)オキシ]−フェノール、ヒンダードアミン系のビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート、コハク酸ジメチル・1−(2−ヒドロキシエチル)−4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン重縮合物、そのほかに、ニッケルビス(オクチルフェニル)サルファイド、及び2,4−ジ・t−ブチルフェニル−3’,5’−ジ・t−ブチル−4’−ヒドロキシベンゾエート、などが挙げられる。
これらの紫外線吸収剤のうち、繰り返し紫外線吸収に対する耐性が高いという点で、トリアジン系紫外線吸収剤がより好ましい。なお、これらの紫外線吸収剤は、上述の紫外線吸収剤単体でフィルムに添加してもよいし、有機系導電性材料や、非水溶性樹脂に紫外線吸収剤能を有するモノマーを共重合させた形態で導入してもよい。
【0119】
光安定化剤のポリエステルフィルム中における含有量は、ポリエステルフィルムの全質量に対して、0.1質量%以上10質量%以下が好ましく、より好ましくは0.3質量%以上7質量%以下であり、さらに好ましくは0.7質量%以上4質量%以下である。これにより、長期経時での光劣化によるポリエステルの分子量低下を抑止でき、その結果発生するフィルム内の凝集破壊に起因する密着力低下を抑止できる。
【0120】
更に、本発明のポリエステルフィルムは、前記光安定化剤の他にも、例えば、易滑剤(微粒子)、着色剤、熱安定剤、核剤(結晶化剤)、難燃化剤などを添加剤として含有することができる。
【0121】
<太陽電池用バックシート>
本発明の太陽電池用バックシートは、既述の本発明のポリエステルフィルムを設けて構成したものであり、被着物に対して易接着性層、紫外線吸収層、光反射性のある白色層などの機能性層を少なくとも1層設けて構成することができる。既述のポリエステルフィルムを備えるので、長期使用時において安定した耐久性能を示す。
【0122】
本発明の太陽電池用バックシートは、例えば、1軸延伸後及び/又は2軸延伸後のポリエステルフィルムに前記の機能性層を塗設してもよい。塗設には、ロールコート法、ナイフエッジコート法、グラビアコート法、カーテンコート法等の公知の塗布技術を用いることができる。
また、これらの塗設前に表面処理(火炎処理、コロナ処理、プラズマ処理、紫外線処理等)を実施してもよい。さらに、粘着剤を用いて貼り合わせることも好ましい。
【0123】
<太陽電池モジュール>
本発明の太陽電池モジュールは、太陽光の光エネルギーを電気エネルギーに変換する太陽電池素子を、太陽光が入射する透明性の基板と既述の本発明のポリエステルフィルム(太陽電池用バックシート)との間に配置して構成されている。基板とポリエステルフィルムとの間は、例えばエチレン−酢酸ビニル共重合体等の樹脂(いわゆる封止材)で封止して構成することができる。
【0124】
太陽電池モジュール、太陽電池セル、バックシート以外の部材については、例えば、「太陽光発電システム構成材料」(杉本栄一監修、(株)工業調査会、2008年発行)に詳細に記載されている。
本発明に係る太陽電池モジュールは、例えば、図2に示されるように、電気を取り出す金属配線(不図示)で接続された発電素子(太陽電池素子)3をエチレン・酢酸ビニル共重合体系(EVA系)樹脂等の封止材2で封止し、これを、ガラス等の透明基板4と、本発明のポリエステルフィルムを備えたバックシート1とで挟んで互いに張り合わせることにより構成されてもよい。
【0125】
透明基板は、太陽光が透過し得る光透過性を有していればよく、光を透過する基材から適宜選択することができる。発電効率の観点からは、光の透過率が高いものほど好ましく、このような基板として、例えば、ガラス基板、アクリル樹脂などの透明樹脂などを好適に用いることができる。
【0126】
太陽電池素子としては、単結晶シリコン、多結晶シリコン、アモルファスシリコンなどのシリコン系、銅−インジウム−ガリウム−セレン、銅−インジウム−セレン、カドミウム−テルル、ガリウム−砒素などのIII−V族やII−VI族化合物半導体系など、各種公知の太陽電池素子を適用することができる。
【実施例】
【0127】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明はその主旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」は質量基準である。
【0128】
(実施例1)
以下に示すように、テレフタル酸及びエチレングリコールを直接反応させて水を留去し、エステル化した後、減圧下で重縮合を行なう直接エステル化法を用いて、連続重合装置によりポリエステル樹脂を得た。
【0129】
[エステル化工程]
(1)エステル化反応
第一エステル化反応槽に、高純度テレフタル酸4.7トンとエチレングリコール1.8トンを90分かけて混合してスラリー形成させ、3800kg/hの流量で連続的に第一エステル化反応槽に供給した。更にクエン酸がTi金属に配位したクエン酸キレートチタン錯体(VERTEC AC−420、ジョンソン・マッセイ社製)のエチレングリコール溶液を連続的に供給し、反応槽内温度250℃、攪拌下で平均滞留時間約4.3時間で反応を行なった。このとき、クエン酸キレートチタン錯体を、Ti添加量がTi元素換算で9ppmとなるように連続的に添加した。このとき、得られたオリゴマーの酸価は600eq/トンであった。
【0130】
この反応物を第二エステル化反応槽に移送し、攪拌下、反応槽内温度250℃で、平均滞留時間で1.2時間反応させ、酸価が200eq/トンのオリゴマーを得た。第二エステル化反応槽は内部が3ゾーンに仕切られており、第2ゾーンから酢酸マグネシウムのエチレングリコール溶液を、Mg添加量が元素換算値で67ppmになるように連続的に供給し、続いて第3ゾーンから、リン酸トリメチルのエチレングリコール溶液を、P添加量が元素換算値で65ppmになるように連続的に供給した。
【0131】
(2)重縮合反応
上記で得られたエステル化反応生成物を連続的に第一重縮合反応槽に供給し、攪拌下、反応温度270℃、反応槽内圧力2.67×10−3MPa(20torr)で、平均滞留時間約1.8時間で重縮合させた。
【0132】
更に、第二重縮合反応槽に移送し、この反応槽において攪拌下、反応槽内温度276℃、反応槽内圧力6.67×10−4MPa(5torr)で滞留時間約1.2時間の条件で反応(重縮合)させた。
【0133】
次いで、更に第三重縮合反応槽に移送し、この反応槽では、反応槽内温度278℃、反応槽内圧力2.0×10−4MPa(1.5torr)で、滞留時間1.5時間の条件で反応(重縮合)させ、反応生成物(ポリエチレンテレフタレート;以下、PETと略記する。)を得た。
【0134】
得られたPET(反応生成物)について、高分解能型高周波誘導結合プラズマ−質量分析(HR-ICP-MS;SIIナノテクノロジー社製AttoM)を用いて、以下に示すように測定を行なった。その結果、Ti=9ppm、Mg=67ppm、P=58ppmであった。Pは当初の添加量に対して僅かに減少しているが、重合過程において揮発したものと推定される。
また、後述する方法により、固相重合前での固有粘度(IV)及び末端COOH量を測定した。測定結果は、下記表1に示す。なお、表1中、「中部品温」とは、反応槽中央部における樹脂温度を意味する。
【0135】
[固相重合工程]
上記で重合したPETをペレット化(直径3mm、長さ7mm)し、得られた樹脂ペレット(IV=0.60dl/g、末端カルボキシル基濃度=25当量/トン)を、以下のようにして固相重合を実施した。
−予備結晶化工程−
固相重合は、既述のエステル化反応により重合したポリエステルを露点温度−30℃の窒素により140℃で7分間加熱し、固相重合時の固着を防止する目的で予備結晶化を行なった。
−乾燥工程−
次に露点温度−30℃の加熱窒素を用いて165℃で4時間乾燥させ、樹脂中の水分率を50ppm以下にした。
−予備加熱〜反応工程−
次に、乾燥させたポリエステル樹脂を205℃に予備加熱した後、図1に示すような構成を有する装置を用い、207℃で25時間窒素循環させることにより固相重合を進行させた。窒素循環条件としては、ガス比(排出する樹脂量に対する循環させる窒素ガス量)を1.5m3/kg、空塔速度0.08m/秒、エチレングリコール濃度240ppm、水濃度12ppm、エチレングリコールと水とのモル分圧比(エチレングリコールのモル分圧/水のモル分圧)20の窒素を用いることにより固相重合を進行させた。上記混合ガス組成とするため、エチレングリコールスクラバーには含水率100ppmの高純度なエチレングリコールを用い、また、スクラバーの温度を35℃とした。スクラバー内の圧力は、0.1MPa〜0.11MPaの範囲とした。
−冷却工程−
次に反応工程から排出される樹脂(500kg/h)を60℃まで冷却した。得られた樹脂はIV=0.78dl/g、末端カルボキシル基濃度=9当量/トンであった。
【0136】
[押出成形]
上記のように固相重合を終えた樹脂ペレットを、再び含水率50ppm以下に乾燥させた後、直径50mmの1軸混練押出機のホッパーに投入し、N気流下、285℃で溶融して40m/分の速度で押出した。この溶融体(メルト)をギアポンプ、濾過器(孔径20μm)を通した後、下記条件のもとに、幅0.8mのダイから押出すと共に、10℃に温調された直径1.5mのキャストロール(冷却ロール)上でキャストした。
<条件>
[1]キャストロール上での冷却速度
キャストロール上のメルトが250℃から120℃に冷却するまでの間を、溶融ポリマーを表面温度20℃のキャスティングドラムにキャストし、エアー面を15℃のエアーを吹き付けて冷却する方法により強制冷却した。
[2]ダイから押出されたメルト(未延伸フィルム)の厚み
押出し機の吐出量、ダイのスリット高さを調整することにより、メルト厚みを3300μmに調節した。なお、メルト厚は、ダイ出口に設置したカメラで撮影し測定した。
【0137】
[延伸、巻取り]
上記方法で冷却ロール上に押出し、固化した未延伸フィルムに対し、以下の方法で逐次2軸延伸を施し、250μmの厚みのフィルムを得た。なお、延伸は、縦延伸を95℃で、横延伸を140℃で縦延伸、横延伸の順に行なった。その後、210℃で12秒間熱固定した後、205℃で横方向に3%緩和した。延伸後、両端を10cmずつトリミングした後、両端に厚み出し加工を施した後、直径30cmの樹脂製巻芯に3000m巻き付けた。なお、幅は1.5mであった。
<延伸方法>
(a)縦延伸
未延伸フィルムを周速の異なる2対のニップロールの間に通し、縦方向(搬送方向)に延伸した。なお、予熱温度を95℃、延伸温度を95℃、延伸倍率を3.5倍、延伸速度を3000%/秒として実施した。
(b)横延伸
縦延伸した前記フィルムに対し、テンターを用いて下記条件にて横延伸した。
<条件>
・予熱温度:110℃
・延伸温度:120℃
・延伸倍率:3.9倍
・延伸速度:70%/秒
【0138】
以上のようにして、PETフィルムを作製した。次に、作製したPETフィルムを用いて、以下の評価を行なった。
【0139】
[測定・評価]
上記で得られた固相重合前後のPETに対して、下記の測定、評価を行なった。測定、評価の結果は、下記表1に示す。
【0140】
(1)IV
PETを、1,1,2,2−テトラクロルエタン/フェノール(=2/3[質量比])の混合溶液に溶解させ、ウベローデ型粘度計を用いて25℃での相対粘度ηを測定し、この相対粘度から求めた比粘度(ηsp)と濃度cからηsp/cを求め、3点法により固有粘度(IV)を算出した。
【0141】
(2)末端COOH量
PET0.1gをベンジルアルコール10mlに溶解後、クロロホルムを加えた混合溶液にフェノールレッド指示薬を滴下し、これを基準液(0.01N KOH−ベンジルアルコール混合溶液)で滴定した。滴下量から末端カルボキシル基の濃度[当量/トン]を算出した。
【0142】
(3)結晶配向度(フィルム面の配向度)
PETフィルムをXD測定し、下記式からPETフィルムの表面における結晶配向度を求めた。
結晶配向度={2θ=23°((110)面)のピーク強度}/{2θ=25.8°((100)面)のピーク強度}
(4)結晶化度
ポリエステルシートの結晶化度は、ポリエステルの完全非晶時の密度dA=1.335、完全結晶時の密度dC=1.501、ポリエステルシート1の密度をdとして下記式により求めた。
結晶化度(%)={(d−dA)/(dC−dA)}×100
(5)結晶化度分布
サンプル中から任意に30cm角のフィルムを切り出した。
一辺(A辺)の端から5cm、15cm、25cmのところにA辺に平行に引いた線上と、直交するもう一辺(B辺)の端から7.5cm、22.5cmのところにB辺に平行に引いた線の交点を中心に2cm×5cmのサンプルを切り出す。この時5cmの辺がA辺と平行になるようにした。
この6枚のサンプルを多重反射型ATR−IR結晶子(KRS−5、入射角45度)に装着し、FT−IRを用い100回積算測定した。
下記式を用い各6サンプルの結晶バンド強度を求めた。
結晶バンド強度=1341cm−1の吸光度/1410cm−1の吸光度
※1341cm−1はエチレングリコール残基のトランス構造に由来し、結晶化度に比例する。1410cm−1のピークはベンゼン環に帰属し、これで割ることで規格化した。
6つの測定点のうち、結晶バンド強度の最大値と最小値の差を平均値で割り、百分率で表したものを結晶化度分布とした。
【0143】
(6)製膜性
得られたPETペレットについて、スクリュー直径250mmの単軸押出機を用いて製膜温度285℃で2000kg/時間の吐出量で製膜を行なった。製膜時の状態を下記の評価基準にしたがって評価した。
<評価基準>
◎:膜揺れや静電印加ムラが無く、目視でフィルム面状の良好なものであった。
○:膜揺れや静電印加ムラは殆どみられず、目視でフィルム面状もほぼ良好なものであった。
△:膜揺れや静電印加ムラが僅かにみられ、目視でフィルム面状の悪化が見られるが、実使用上は問題ない程度であった。
×:膜揺れや静電印加ムラがみられ、目視でフィルム面状の悪化がみられた。
【0144】
(7)耐加水分解性
製膜〜延伸加工により得られたフィルムについて、120℃で100%の湿熱条件で所定の時間処理を行ない、その後JIS−K7127法により破断伸度測定を行なって、下記の評価基準にしたがって評価した。
<評価基準>
◎:破断伸度が未処理フィルムの50%にまで減少する時間が100時間を超えるもの
○:破断伸度が未処理フィルムの50%にまで減少する時間が90時間を超え100時間以下のもの
△:破断伸度が未処理フィルムの50%にまで減少する時間が80時間を超え90時間以下のもの
×:破断伸度が未処理フィルムの50%にまで減少する時間が80時間以下のもの
【0145】
(8)密着性
密着性は、以下のようにして評価した。フィルム表面を727J/m条件下でコロナ放電処理を行った。そして、この処理面に、下記組成からなる塗布液をバーコート法により塗布して下塗り層を形成した。ここで、塗布量は4.4cc/mとし、180℃で1分乾燥した。
【0146】
−下塗り層用塗布液−
・バインダ(ポリエステル樹脂、大日本インキ化学工業(株)製、ファインテックス ES−650、固形分29%) 44.9質量部
・架橋剤(日清紡(株)製、カルボジライトV−02−L2) 1.3質量部
・滑り剤(中京油脂(株)製、セロゾール524、固形分3%) 8.5質量部
・界面活性剤1(日本油脂(株)、ラピゾールB−90、アニオン性) 1.2質量部
・界面活性剤2(三洋化成工業(株)、ナロアクティー HN−100、ノニオン性)
0.1質量部
上記の各種材料を混合した液の中に、総量が1000質量部となるように蒸留水を添加して下塗り層用の塗布液とした。
【0147】
JIS−K5400の方法に準じて、積層膜に1mm2のクロスカットを100個入れ、積水化学製、#252 25mm幅 SP粘着力:750g/25mm テープをその上に貼り付け、指で強く押し付けた後、90度方向に急速に剥離し、残存した個数により評価を行った。(◎)を密着性良好、(○)を実用上問題ないレベル、(△)を実用上使用限度、(×)実用上問題有りとした。
◎:100/100(残存個数/測定個数)
○:90/100以上、100/100未満
△:70/100以上、90/100未満
×:70/100未満。
【0148】
(実施例2)
実施例1と溶融重合条件が同一の樹脂を用いて、下記固相重合を実施した。
−予備結晶化工程−
固相重合は、既述のエステル化反応により重合したポリエステルを露点温度−25℃の窒素により140℃で10分間加熱し、固相重合時の固着を防止する目的で予備結晶化を行なった。
−乾燥工程−
次に露点温度−40℃の加熱窒素を用いて170℃で5時間乾燥させ、樹脂中の水分率を50ppm以下にした。
−予備加熱〜反応工程−
次に、乾燥させたポリエステル樹脂を210℃に予備加熱した後、205℃で20時間窒素循環させることにより固相重合を進行させた。窒素循環条件としては、ガス比(排出する樹脂量に対する循環させる窒素ガス量)を1.0m3/kg、空塔速度0.05m/秒、エチレングリコール濃度100ppm、水濃度2ppm、エチレングリコールと水とのモル分圧比(エチレングリコールのモル分圧/水のモル分圧)50の窒素を用いることにより固相重合を進行させた。上記混合ガス組成とするため、反応槽から排出された窒素ガスを白金ロジウム触媒を用いて燃焼させた後にモレキュラーシーブによる脱湿度処理を行いガス中の水を排除した後、含水率10ppmの高純度エチレングリコールを窒素ガス中にミスト状に噴霧させた。
−冷却工程−
次に反応工程から排出される樹脂(450kg/h)を60℃まで冷却した。得られた樹脂はIV=0.76dl/g、末端カルボキシル基濃度=8当量/トンであった。
【0149】
(実施例3〜27及び比較例1〜3)
固相重合前樹脂及び固相重合条件を表1に示すように変更したこと以外は、実施例1と同様の条件で固相重合を行い、固有粘度(IV)及び末端COOH(AV)を測定した。
測定結果に基づき、以下のように評価した。
◎:末端COOH基濃度が15eq/t未満かつIV=0.70〜1.00dl/g
○:末端COOH基濃度が15〜20eq/tかつIV=0.70〜1.00dl/g
△:末端COOH基濃度が20eq/t以下であるがIV=1.00dl/gを超えるものあるいは0.70dl/g未満のもの
×:末端COOH基濃度が20eq/t以下あるいはIV=0.60〜1.20dl/gの何れか一方でも満たさないもの
【0150】
また、実施例2〜27及び比較例1〜3で作製したポリエステル樹脂をそれぞれ用い、実施例1と同様の条件により、ポリエステルフィルムの製膜を行った。
【0151】
(実施例28〜35)
実施例1の押出成形工程において、下記の末端封止剤から選定して下記表2に記載の量を添加したこと以外は、実施例1と同様の条件により、ポリエステルフィルムの製膜を行った。末端封止剤を添加する場合には、含水率50ppm以下とした後、下記の末端封止剤から選定し表2記載の量を二軸押し出し機のフィード部分に添加した。なお、ここでいう添加量とはポリエステル樹脂に対する質量%を指す。
(a)カルボジイミド系化合物:ラインケミー社製スタバクゾールP100(表中に「CI」と記載)
(b)エポキシ系化合物:Hexion Speciality Cnemicals社製「カージュラE10P」(表中に「EP」と記載)
(c)オキサゾリン系化合物:日本触媒社製「エポクロスRPS−1005」(表中にOXと記載)
【0152】
直径50mmの2軸押し出し機(2ベントタイプ 真空度0.5トル)を用いて、窒素気流下、285℃で溶融混練し、この溶融体(メルト)をギアポンプ、ろ過器、ダイを通してチルロール上に押出し、未延伸フィルムを作製した。
【0153】
(実施例36〜48)
実施例1のエステル化工程において、原料組成中のテレフタル酸とエチレングリコールに加えて、下記から選定した多官能モノマーを下記表1に記載の量だけ添加したこと以外は、実施例1と同様にして固相重合を行い、それぞれ得られたペレットを用いてポリエステルフィルムを製膜した。なお、ここでいう添加量とは、ポリエステル樹脂中の全構成単位に対するモル%で示した。
3官能カルボン酸型:トリメリット酸(表1にTMAと記載)
4官能カルボン酸型:ベンゼンテトラカルボン酸(表1にBTCと記載)
5官能カルボン酸型:エタンペンタカルボン酸(表1にEPCと記載)
6官能カルボン酸型:シクロヘキサンヘキサカルボン酸(表1にCHCと記載)
3官能水酸基型:トリヒドロキシベンゼン(表1にTHBと記載)
4官能水酸基型:ペンタエリスリトール(表1にPEと記載)
【0154】
(実施例49〜51)
実施例1のエステル化工程において、原料組成中のテレフタル酸とエチレングリコールに加えて、表1に記載の多官能ポリマーを添加したこと以外は実施例1と同様の条件により重縮合を行ってペレット(PET)を製造し、実施例1と同様の条件により固相重合を行った。次いで、押出成形工程において、PETペレットに対して表2に記載の末端封止剤を添加したこと以外は実施例1と同様の条件でポリエステルフィルムを製膜した。
【0155】
実施例2〜51、比較例1〜3で製膜したポリエステルフィルムについても実施例1と同様に評価を行った。固相重合の条件、固相重合前後の樹脂物性及び評価を表1に、ポリエステルフィルムとした後の評価を表2にそれぞれ示した。表2の結果から、ポリエステルフィルムとした後の耐加水分解性と密着性が、本発明による実施例1〜51の方が比較例1〜3に比べて顕著に改良されていることが分かる。
【0156】
【表1】

【0157】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0158】
本発明のポリエステル樹脂の製造方法及びポリエステルフィルムは、例えば、太陽電池モジュールを構成する裏面シート(太陽電池素子に対し太陽光の入射側と反対側に配置されるシート;いわゆるバックシート)の用途に好適に用いられる。
【符号の説明】
【0159】
1・・・バックシート
2・・・封止剤
3・・・太陽電池素子
4・・・透明基板
10・・・反応槽
12・・・スクラバー
14・・・冷却手段
16・・・加熱手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族ジカルボン酸と脂肪族ジオールとの重縮合反応により得られた、固有粘度が0.40dL/g以上1.0dL/g以下のポリエステルを反応槽内に供給して固体状態のまま加熱処理するとともに、前記反応槽内に、エチレングリコールと水と不活性ガスとを含み、エチレングリコールと水とのモル分圧比(エチレングリコールのモル分圧/水のモル分圧)が0.2〜5000である混合ガスを供給することにより前記ポリエステルの固相重合を行い、該固相重合により得られたポリエステル樹脂を前記反応槽から排出する固相重合工程を含む、ポリエステル樹脂の製造方法。
【請求項2】
前記反応槽に供給する混合ガス中のエチレングリコールの濃度が10ppm以上1000ppm以下であり、かつ水の濃度が0.01ppm以上50ppm以下である請求項1に記載のポリエステル樹脂の製造方法。
【請求項3】
前記固相重合工程の前に、前記芳香族ジカルボン酸と前記脂肪族ジオールを、チタン化合物を含む触媒下で重縮合反応させて、前記固有粘度が0.40dL/g以上1.0dL/g以下のポリエステルを生成する重縮合工程を含む請求項1又は請求項2に記載のポリエステル樹脂の製造方法。
【請求項4】
前記反応槽から排出される1時間あたりのポリエステル樹脂に対して、前記反応槽に供給する混合ガス量が0.05〜3m/kgである請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載のポリエステル樹脂の製造方法。
【請求項5】
前記反応槽から排出されたガスをスクラバー内に導入し、少なくともエチレングリコールを含む洗浄液によって洗浄し、該スクラバーから排出されたガスを前記混合ガスの少なくとも一部として前記反応槽内に供給する請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載のポリエステル樹脂の製造方法。
【請求項6】
前記反応槽から排出されたガスを燃焼し、該燃焼したガスに少なくともエチレングリコールを添加し、該少なくともエチレングリコールを添加した後のガスを前記混合ガスの少なくとも一部として前記反応槽内に供給する請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載のポリエステル樹脂の製造方法。
【請求項7】
前記反応槽から排出されたガスを、ロジウムを含む触媒を用いて燃焼させる請求項6に記載のポリエステル樹脂の製造方法。
【請求項8】
前記固相重合工程の前に、前記芳香族ジカルボン酸と前記脂肪族ジオールの他に、カルボン酸基と水酸基との合計が3以上である多官能モノマーを添加して重縮合反応させて、前記固有粘度が0.40dL/g以上1.0dL/g以下のポリエステルを生成する重縮合工程を含む請求項1〜請求項7のいずれか一項に記載のポリエステル樹脂の製造方法。
【請求項9】
前記多官能モノマーを、ポリエステル中の全構成単位に対して、0.005モル%以上2.6モル%以下の範囲で添加する請求項8に記載のポリエステル樹脂の製造方法。
【請求項10】
固有粘度が0.70dL/g以上0.9dL/g、かつ末端カルボキシル基濃度が20当量/トン以下のポリエステル樹脂を得る、請求項1〜請求項9のいずれか一項に記載のポリエステル樹脂の製造方法。
【請求項11】
請求項1〜請求項10のいずれか一項に記載のポリエステル樹脂の製造方法により得られたポリエステル樹脂に、オキサゾリン系化合物、カルボジイミド化合物、及びエポキシ化合物から選ばれる少なくとも1種の末端封止剤を添加した原料をフィルム状に溶融押出し、冷却ロール上で冷却して未延伸フィルムに成形する成形工程と、
前記未延伸フィルムを長手方向及び該長手方向に直交する幅方向に延伸する延伸工程と、
を含む、ポリエステルフィルムの製造方法。
【請求項12】
前記末端封止剤を、前記ポリエステル樹脂に対して、0.1質量%以上6質量%以下の範囲で添加する請求項11に記載のポリエステルフィルムの製造方法。
【請求項13】
請求項1〜請求項12のいずれか一項に記載の製造方法によって製造したポリエステル樹脂を用いて成形したポリエステルフィルム。
【請求項14】
オキサゾリン系化合物、カルボジイミド化合物、及びエポキシ化合物から選ばれる少なくとも1種の末端封止剤に由来する構造部分を含み、且つ結晶化度分布が5〜50%である請求項13に記載のポリエステルフィルム。
【請求項15】
請求項13又は請求項14に記載のポリエステルフィルムを備えた太陽電池用バックシート。
【請求項16】
太陽光が入射する透明性の基板と、太陽電池素子と、請求項15に記載の太陽電池用バックシートとを備えた太陽電池モジュール。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−57046(P2013−57046A)
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−256991(P2011−256991)
【出願日】平成23年11月25日(2011.11.25)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】