説明

ポリエステル樹脂系パテ、塗装方法及び塗装物

【課題】 1回のパテ工程で10mm以上のパテ厚さを得ることができ、かつ、優れた耐久性能を確保できる塗装系で、かつ、安全性を考慮し、第5類の危険物を使用せずに被処理物に塗装を実施することのできるポリエステル樹脂系パテを提供する。
【解決手段】 不飽和ポリエステル樹脂、体質顔料、着色顔料、添加剤及び溶剤から構成される主剤と、前記主剤に混合される粉状の硫酸バリウムと、前記主剤と前記硫酸バリウムとの混合物に加えられて硬化させる硬化剤とを含有することを特徴とするポリエステル樹脂系パテ。硫酸バリウムの代わりに二酸化珪素を用いることもできる。このようなポリエステル樹脂系パテ3を表面に凹部を有する金属部材1の当該凹部に、直接又は下塗り塗膜2を介して形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、産業用機器や交通機器等のように、金属部材の表面に塗装が施される機器に適用され、美観を重視するために金属部材の表面を平滑化するためのポリエステル樹脂系パテ、このパテの形成工程を含めた塗装方法及びこのパテを有する塗装物に関すものである。
【背景技術】
【0002】
産業用機器や交通機器等のように金属部材の表面に塗装が施される機器においては、金属材料から構成される被塗装物の表面に凹凸が生じている場合がある。このような場合に、特に美観が重視されるときには、パテによる凹凸の修正を行い平滑な面を得ることが必要となる。例えば、溶接製缶においては、前加工である溶接の際の変形・歪みの影響を大きく受けることから、表面に大きな凹凸が生じる場合があり、したがって、パテによる凹凸の修正を行って表面に平滑な面を得て、その後に、この平滑化された表面上に仕上げ塗装を施すことが必要となる。
【0003】
このパテとしては、ポリエステル樹脂を有する主剤とスチレンモノマーなどを主体とする硬化剤とから構成されるポリエステル樹脂系パテがある。このパテは、主剤と硬化剤とを混合することにより硬化するものである。
【0004】
このような従来のポリエステル樹脂系パテを用いて凹凸部の平滑化を図る場合には、1回当たりのポリエステル樹脂系パテの厚みは、数mm以下に制限されていた。これは、従来のポリエステル樹脂系パテのような、タルクを体質顔料の主成分とするポリエステル樹脂系パテでは、1回のパテ厚さを3mm以上形成することは、作業性が悪いだけでなく、応力収縮緩和機能力が弱いために接着不良を生じたり、硬くて脆いために衝撃に対し割れたりする可能性があったためである。
【0005】
ここにおいて、産業用機器や交通機器等においては、塗装する表面の凹凸が10mm以上になる場合がある。このような凹凸が10mm以上の場合に、上述したポリエステル樹脂系パテを適用して美麗化するときには、パテ厚さが3mmを超えないように、パテ付け−乾燥−パテ研磨の工程(パテ工程)を繰り返し、平滑な状態になるまでパテを凹部に重ねて実施する。このようにして、現状、凹凸修正のために最も厚くパテを形成する場合は、4〜5回この工程を繰り返し、パテ厚さは10mm以上となる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このパテ工程は、塗装工程の大部分を占め、生産効率の悪化及び多大なリードタイムの発生主要因となっている。特に、パテ厚さを10mm以上とするときは、1回当たりのパテの厚さが制限されていることから、パテ付けの工程を繰り返し行う必要があり、生産効率のいっそうの悪化を招いていた。
【0007】
なお、1回のパテ工程で10mm以上のパテ厚さを得るために、ポリエステル樹脂系パテに第5類の危険物に該当する物質を含有させることも考えられるが、第5類の危険物は、自己反応性物質であって、加熱や衝撃で激しく燃えたり爆発したりする物質であるから、取り扱い、保管が難しく、また、保管量によっては、大掛かりな設備の改築を余儀なくされる。
【0008】
本発明は、上記の問題を有利に解決するもので、1回のパテ工程で10mm以上のパテ厚さを得ることができ、かつ、優れた耐久性能を確保できる塗装系で、更に、安全性を考慮し、第5類の危険物を使用せずに被処理物に塗装を実施することのできるポリエステル樹脂系パテを、このポリエステル樹脂系パテを用いた塗装方法及び塗装物とともに提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のポリエステル樹脂系パテは、不飽和ポリエステル樹脂、体質顔料、着色顔料、添加剤及び溶剤から構成される主剤と、前記主剤に混合される粉状の硫酸バリウムと、前記主剤と前記硫酸バリウムとの混合物に加えられて硬化させる硬化剤とを含有することを特徴とする。
【0010】
また、本発明のポリエステル樹脂系パテは、不飽和ポリエステル樹脂、体質顔料、着色顔料、添加剤及び溶剤から構成される主剤と、前記主剤に混合される粉状の二酸化珪素と、前記主剤と前記二酸化珪素との混合物に加えられて硬化させる硬化剤とを含有することを特徴とする。
【0011】
本発明のポリエステル樹脂系パテにおいて、粉状の硫酸バリウムを含有する場合には、前記主剤と前記硫酸バリウムとが、重量比で100:5ないし100:35の範囲の割合になり、かつ、前記主剤及び前記硫酸バリウムの混合物と、前記硬化剤とが、重量比で100:2ないし100:5の範囲の割合になることが好ましい。
【0012】
また、本発明のポリエステル樹脂系パテにおいて、粉状の二酸化珪素を含有する場合には、前記主剤と前記二酸化珪素とが、重量比で100:1ないし100:10の範囲の割合になり、かつ、前記主剤及び前記二酸化珪素の混合物と、前記硬化剤とが、重量比で100:2ないし100:5の範囲の割合になることが好ましい。
【0013】
また、本発明の塗装方法は、表面に凹部が形成されている金属部材の前記凹部に、ポリエステル樹脂系パテとして、不飽和ポリエステル樹脂、体質顔料、着色顔料、添加剤及び溶剤から構成される主剤と、前記主剤に混合される粉状の硫酸バリウム又は二酸化珪素と、前記主剤と前記硫酸バリウム又は二酸化珪素との混合物に加えられて硬化させる硬化剤とを含有するものであって、硬化前であるポリエステル樹脂系パテを形成する工程と、前記ポリエステル樹脂系パテの研磨後に、平滑化された前記凹部のポリエステル樹脂系パテと凹部以外の金属部材との表面を覆って、塗膜を形成する工程とを備えることを特徴とする。
【0014】
また、本発明の塗装方法は、表面に凹部が形成されている金属部材の前記表面に、下塗りの樹脂塗装物の塗膜を形成する工程と、前記下塗りの樹脂塗装物の塗膜が形成された前記金属部材の前記凹部に、ポリエステル樹脂系パテとして、不飽和ポリエステル樹脂、体質顔料、着色顔料、添加剤及び溶剤から構成される主剤と、前記主剤に混合される粉状の硫酸バリウム又は二酸化珪素と、前記主剤と前記硫酸バリウム又は二酸化珪素との混合物に加えられて硬化させる硬化剤とを含有するものであって、硬化前であるポリエステル樹脂系パテを、前記下塗りの樹脂塗装物の塗膜に重ねて形成する工程と、前記ポリエステル樹脂系パテの研磨後に、平滑化された前記凹部のポリエステル樹脂系パテと凹部以外の下塗りの樹脂塗装物の塗膜との表面を覆って、塗膜を形成する工程とを備えることを特徴とする。
【0015】
本発明の塗装方法においては、前記ポリエステル樹脂系パテを、1回の塗布工程により10mm以上の厚みに形成することができる。
【0016】
また、本発明の塗装物は、前述した本発明のポリエステル樹脂系パテを、金属部材の表面に形成されている凹部に、この凹部が平滑な状態になるように形成して備え、かつ、前記ポリエステル樹脂系パテと前記凹部以外の金属部材の表面を覆って、塗膜を備えることを特徴とする。
【0017】
また、本発明の塗装物は、表面に凹部が形成されている金属部材の前記表面に、下塗りの樹脂塗装物の塗膜を備え、前述した本発明のポリエステル樹脂系パテを、この下塗りの樹脂塗装物の塗膜を備える前記金属部材の表面に形成されている前記凹部に、この凹部が平滑な状態になるように形成して備え、かつ、前記ポリエステル樹脂系パテと前記凹部以外の下塗りの樹脂塗装物の塗膜の表面を覆って、塗膜を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明のポリエステル樹脂系パテによれば、1回の塗布工程により10mm以上の厚さのパテを、他の問題を生ずることなく成形させることができ、塗装物の生産効率を向上させることができる。
【0019】
本発明の塗装方法によれば、上記本発明のポリエステル樹脂系パテを用いることから、金属部材の表面に10mm以上の凹凸がある場合でも、パテを重ねて繰り返し形成する必要がなく、生産効率を向上させることができる。
【0020】
本発明の塗装物は、前記本発明のポリエステル樹脂系パテを備え、1回で塗布形成されたパテであっても、衝撃などを受けても割れが生じず、厳しい環境で使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明のポリエステル樹脂系パテは、主剤に硫酸バリウム又は二酸化珪素が加えられ、混合されたものと、硬化剤とを含有するものである。
【0022】
硫酸バリウム及び二酸化珪素は、いずれも、体質顔料の機能である増膜確保特性を有しており、パテ付け作業性が良好で、10mm以上の厚付けを可能にしている。また、両者とも均一分散性に優れており、一般の中塗り塗料(例えば本発明工程で使用している中塗り塗料)のように応力収縮緩和機能、衝撃等に対する緩衝機能も有する(クッションの役割)ようになる。このため、硫酸バリウム及び二酸化珪素を有しない従来のポリエステル樹脂系パテのように、硬くて脆い性質はなく、温度の影響による母材の膨張収縮にも追従することができ、良好な付着性を有し、割れが発生しなくなる。したがって優れた耐久性能を発揮する。
【0023】
更に、ポリエステル樹脂系パテの安全性確保を考えると、硬化反応を穏やかにすることが好ましく(発熱による発火要因をなくす)、この点、硫酸バリウム及び二酸化珪素は、主剤に加えても発熱して発火するようなことはない,安全性の高い物質であり、自己反応物質である第5類の危険物をポリエステル樹脂系パテに含有させことなく、目的を達成することができるものである。
【0024】
本発明のポリエステル樹脂系パテにおいて、硫酸バリウムを含有させる場合、不飽和ポリエステル樹脂、体質顔料、着色顔料、添加剤及び溶剤から構成される主剤と前記硫酸バリウムとが、重量比で100:5ないし100:35の範囲の割合になり、かつ、前記主剤及び前記硫酸バリウムの混合物と、スチレンモノマー等を主体とする前記硬化剤とが、重量比で100:2ないし100:5の範囲の割合になることが好ましい。
【0025】
主剤と硫酸バリウムとの重量比が100:5に満たないと硫酸バリウムの含有効果に乏しく、10mm以上の厚さのパテを1回で形成させるのが困難になる。一方、主剤と硫酸バリウムとの重量比が100:35を超えると、硫酸バリウムが粉状であるため主剤との混合物の伸びが劣化し、へらなどで所定の凹部に隙間なくパテを形成させ難くなる。
【0026】
また、主剤及び前記硫酸バリウムの混合物と、スチレンモノマー等を主体とする前記硬化剤とが、重量比で100:2に満たないと、ポリエステル樹脂系パテが十分に硬化せず、一方、重量比で100:5を超えると硬化時間が速すぎてパテの塗布する作業が難しくなり、作業性が劣化する。
【0027】
次に、本発明のポリエステル樹脂系パテにおいて、二酸化珪素を含有させる場合、不飽和ポリエステル樹脂、体質顔料、着色顔料、添加剤及び溶剤から構成される主剤と前記二酸化珪素とが、重量比で100:1ないし100:10の範囲の割合になり、かつ、前記主剤及び前記二酸化珪素の混合物と、前記硬化剤とが、重量比で100:2ないし100:5の範囲の割合になることが好ましい。
【0028】
主剤と前記二酸化珪素との重量比が100:1に満たないと、二酸化珪素の含有効果に乏しく、10mm以上の厚さのパテを1回で形成させるのが困難になる。一方、主剤と二酸化珪素との重量比が100:10を超えると、二酸化珪素が粉状であるため主剤との混合物の伸びが劣化し、へらなどで所定の凹部に隙間なくパテを形成させ難くなり、作業性が劣化する。
【0029】
また、主剤及び前記二酸化珪素の混合物と、スチレンモノマー等を主体とする前記硬化剤とが、重量比で100:2に満たないと、ポリエステル樹脂系パテが十分に硬化せず、一方、重量比で100:5を超えると硬化時間が速すぎてパテの塗布する作業が難しくなる。
【0030】
本発明で主剤に含有させる硫酸バリウム及び二酸化珪素は、通常入手可能な平均粒径を有する粉体を用いればよい。また、硫酸バリウムと二酸化珪素との両方を主剤に混合させることもできる。
【0031】
主剤及び硬化剤については、従来公知のものを用いることができ、硫酸バリウム又は二酸化珪素を含有させることに伴って、主剤及び硬化剤の成分調整をする必要はない。また、本発明のポリエステル樹脂系パテは、乾燥時間も従来のポリエステル樹脂系パテと同程度であり、作業性が変わらない。
【0032】
本発明のポリエステル樹脂系パテは、表面に凹部が形成されている金属部材に直接、又は下塗りの樹脂塗装物の塗膜上に重ねて形成させることができる。
【0033】
以下、本発明のポリエステル樹脂系パテ及び塗装物の実施形態について説明する。
【0034】
(実施形態1)
図1は、本発明の実施形態1として、凹部を有する金属部材の表面に下塗りの樹脂塗装物の塗膜を備え、この下塗りの樹脂塗装物の塗膜上に重ねてポリエステル樹脂系パテを備える塗装物を模式的に示す断面図である。同図において、表面に凹部を有する酸洗鋼板やSPCC材等の金属材料1を覆って、エポキシ樹脂系の下塗り塗膜2が形成され、前記凹部に本発明のポリエステル樹脂系パテのパテ膜3が形成され、表面が平滑化されている。この平滑化されたパテ膜3及び凹部以外の下塗りの樹脂塗装物の塗膜の表面を覆って、ウレタン樹脂系の中塗り塗膜4及びウレタン樹脂系の上塗り塗膜5が形成されている。
【0035】
このような塗装物を製造するための塗装方法の一例は、次のとおりである。まず、酸洗鋼板やSPCC材等の金属材料1に対して、下塗り塗装に適した表面状態にするため、リン酸亜鉛被膜等の化学的前処理やサンドブラスト処理等の機械的前処理を実施し、塗装を行うのに適した表面状態にする。次に、エポキシ樹脂系の下塗り塗膜2を30〜80μmの厚さで形成させる。乾燥後、前述した硫酸バリウム又は二酸化珪素を含有する本発明のポリエステル樹脂系パテを用い、そのパテ膜3を凹凸が平滑になるようにへら等を用いて厚さ10〜12mmで1回のパテ付け、1回の乾燥で形成させる。パテ研磨実施後、ウレタン樹脂系の中塗り塗膜4を30〜80μm形成させる。乾燥後、研磨を行い、その後ウレタン樹脂系上塗り塗膜5を30〜80μm形成させる。
【0036】
下塗り塗膜2の形成のために使用したエポキシ樹脂下塗り塗料の成分を表1に示す。このエポキシ樹脂下塗り塗料には、2液型ポリアミド硬化エポキシ樹脂下塗り塗料(関西ペイント製、エポマリンプライマーGタイプ)を用いた。この主剤と硬化剤とを6:1(重量比)の割合で混合して使用に供した。
【表1】

【0037】
パテ膜3の形成のために使用したパテ基剤(主剤)の成分を表2に示す。このパテ基剤には、不飽和ポリエステル樹脂系パテ(カシュー製、エステラック弾性パテ(1種))を用いた。
【表2】

【0038】
この主剤に、粉状の硫酸バリウム又は粉状の二酸化珪素を混合した。この混合物にスチレンモノマーなどを主体とする硬化剤を混合して使用に供した。
【0039】
パテ材(1)の不飽和ポリエステル樹脂系パテとして、粉状の硫酸バリウムを混合したものについては、基剤と硫酸バリウムとを重量比で100:10〜15の範囲で混合したものとスチレンモノマーなどを主体とする硬化剤とを、基剤及び硫酸バリウム:硬化剤=100:2〜5(重量比)で混合した。
【0040】
パテ材(2)の不飽和ポリエステル樹脂系パテとして、粉状の二酸化珪素を混合したものについては、基剤と二酸化珪素とを重量比で100:1〜3の範囲で混合したものとスチレンモノマーなどを主体とする硬化剤を、基剤及び二酸化珪素:硬化剤=100:2〜5(重量比)で混合した。
【0041】
中塗り塗膜4の形成のために使用したポリウレタン樹脂中塗り塗料の成分を表3に示す。このポリウレタン樹脂塗料には、2液型ポリイソシアネート硬化アルキド樹脂ポリオール中塗り塗料(関西ペイント製、NSレタンサフェーサー(改2))を用いた。この主剤と硬化剤とを4:1(重量比)の割合で混合して使用に供した。
【表3】

【0042】
ウレタン樹脂系上塗り塗膜5の形成のために使用したポリウレタン樹脂上塗り塗料の成分を表4に示す。このポリウレタン樹脂塗料には、2液型ポリイソシアネート硬化特殊変性ポリエステル樹脂ポリオール上塗り塗料(関西ペイント製、レタン2000)を用いた。このこの主剤と硬化剤とを5:1(重量比)の割合で混合して使用に供した。
【表4】

【0043】
本発明のパテ材(1)及び(2)を使用することにより、1回のパテ工程で10mm以上のパテ厚さを得ることができ、かつ、優れた耐久性能を確保できる塗装系で、かつ、安全性を考慮し、第5類の危険物(自己反応性物質)を使用せずに被処理物に塗装を実施することができる。
【0044】
(実施形態2)
図2は、本発明の実施形態2として、表面に凹部を有する金属部材の当該凹部に平滑化されたポリエステル樹脂系パテを備え、このポリエステル樹脂系パテ及び凹部以外の金属部材の表面に塗膜を備える塗装物を模式的に示す断面図である。同図において、酸洗鋼板やSPCC材等の金属材料1は、凹部を有している。この凹部に、前記凹部に本発明のポリエステル樹脂系パテのパテ膜3が形成され、表面が平滑化されている。このパテ膜3及び凹部以外の金属材料1を覆って、ウレタン樹脂系中塗り塗膜4が形成され、このウレタン樹脂系中塗り塗膜4に重ねて、ウレタン樹脂系上塗り塗膜5が形成されている。
【0045】
このような塗装物を製造するための塗装方法の一例は、次のとおりである。まず、酸洗鋼板やSPCC材等の金属材料1に対して、パテ膜3形成に適した表面状態にするため、リン酸亜鉛被膜等の化学的前処理やサンドブラスト処理等の機械的前処理を実施してから、本発明のポリエステル樹脂系パテ、すなわち、粉状の硫酸バリウムを含有するポリエステル樹脂系パテ、又は粉状の二酸化珪素を含有するポリエステル樹脂系パテを用い、パテ膜3を10〜12mmを1回のパテ付け、1回の乾燥で形成させる。パテ研磨実施後、エポキシ樹脂系下塗り塗膜2を30〜80μmの厚さで形成させる。次に研磨実施後、ウレタン樹脂系中塗り塗膜4を30〜80μm形成させる。乾燥後、研磨を行い、その後ウレタン樹脂系上塗り塗膜5を30〜80μm形成させる。
【0046】
下塗り塗膜2の形成のために使用したエポキシ樹脂下塗り塗料、パテ膜3の形成のために使用したパテ基剤(主剤)及び硫酸バリウム、二酸化珪素、硬化剤の混合割合、中塗り塗膜4の形成のために使用したポリウレタン樹脂中塗り塗料、ウレタン樹脂系上塗り塗膜5の形成のために使用したポリウレタン樹脂上塗り塗料については、実施形態1と同じである。
【0047】
実施形態2においても、本発明のパテ材(1)及び(2)を使用することにより、1回のパテ工程で10mm以上のパテ厚さを得ることができ、かつ、優れた耐久性能を確保できる塗装系で、かつ、安全性を考慮し、第5類の危険物(自己反応性物質)を使用せずに被処理物に塗装を実施することができる。
【0048】
なお、製品が厳しい環境で使用される場合は、実施形態2よりも実施形態1の塗装工程で実施するのが好ましい。一般に、母材とパテ塗膜との付着力よりも、母材と下塗り塗膜との付着力のほうが大きいことから、高防錆力・高付着力を有する(特にエポキシ樹脂系が優れている)下塗り塗装で最初に塗膜を形成することにより、母材との付着が非常に優れ、確実に保護することができるためである。
【実施例】
【0049】
前述した実施形態1及び実施形態2で説明した塗装物について、初期塗膜物性試験並びに耐久性試験として塩水噴霧試験、耐湿試験及び耐候試験を行った。各試験においては、硬度、付着力、耐衝撃性などを調べ、その試験条件は、次のとおりである。なお、これらの耐久性試験においては、実施形態1の塗装物について実施形態2よりも長時間の試験を行った。これは、実施形態1の塗装物が、より厳しい環境下に耐え得ることを確認するためのものである。
【0050】
1.初期塗膜物性試験
(1)硬度:JIS K5600 鉛筆引っかき試験
(2)付着力:ASTM3359(クロスカット+粘着テープ)A法
(3)耐衝撃性:JIS K5600耐衝撃試験(デュポン式)
2.耐久性試験
2−1塩水噴霧試験:JIS Z2371 塩水噴霧試験
実施形態1は1000時間後、実施形態2は500時間実施後のそれぞれ外観及び2次物性
(a)外観
(1)硬度:JIS K5600 鉛筆引っかき試験
(2)付着力:ASTM3359(クロスカット+粘着テープ)A法
(3)耐衝撃性:JIS K5600耐衝撃試験(デュポン式)
2−2耐湿試験:JIS K5600耐湿試験(結露発生50℃、95%RH)
実施例1は1000時間後、実施例2は500時間実施後の外観及び2次物性
(a)外観
(1)硬度:JIS K5600 鉛筆引っかき試験
(2)付着力:ASTM3359(クロスカット+粘着テープ)A法
(3)耐衝撃性:JIS K5400耐衝撃試験(デュポン式)
2−3耐候試験:JIS K5600促進耐候性(サンシャインウェザーメータ)
試験 実施例1は1000時間後、実施例2は500時間実施後の外観および2次物性
(a)外観
(1)硬度:JIS K5600 鉛筆引っかき試験
(2)付着力:ASTM3359(クロスカット+粘着テープ)A法
(3)耐衝撃性:JIS K5400耐衝撃試験(デュポン式)
これらの結果を表5に示す。
【表5】

【0051】
上記の試験結果から明らかように、本発明による塗装工程で塗装を実施すると、1回で10mm以上のパテを形成させた場合であっても、上塗り塗膜形成後の塗装物は、各種耐久試験に耐え得る、高品質な塗膜が得られることがわかる。また、実施形態1の塗装物は、実施形態2の塗装物よりも長時間の各種耐久試験に耐え得る、優れた耐久性を具備している。
【0052】
本実施例の結果から、本発明のポリエステル樹脂系パテを用いることにより、大幅な作業効率の向上、リードタイムの短縮が図れるだけではなく、安全面での配慮も考慮した工程となる。
【0053】
本発明のポリエステル樹脂系パテ及びこのポリエステル樹脂系パテを用いた塗装方法及び塗装物は、制御盤・配電盤に適用される金属材料である鋼板やSPCC材部品に対して適用することができるし、また、車両を構成する鋼板、SPCC材、アルミ材及びステンレス材等にも適用できるものである。更に、これらの材料に限定されず、産業用機器、交通機器としてパテによる平滑化が行われる金属部材に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明の実施形態1の塗装物の断面図である。
【図2】本発明の実施形態2の塗装物の断面図である。
【符号の説明】
【0055】
1…金属材料
2…下塗り塗膜
3…パテ膜
4…中塗り塗膜
5…上塗り塗膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
不飽和ポリエステル樹脂、体質顔料、着色顔料、添加剤及び溶剤から構成される主剤と、
前記主剤に混合される粉状の硫酸バリウムと、
前記主剤と前記硫酸バリウムとの混合物に加えられて硬化させる硬化剤と
を含有することを特徴とするポリエステル樹脂系パテ。
【請求項2】
不飽和ポリエステル樹脂、体質顔料、着色顔料、添加剤及び溶剤から構成される主剤と、
前記主剤に混合される粉状の二酸化珪素と、
前記主剤と前記二酸化珪素との混合物に加えられて硬化させる硬化剤と
を含有することを特徴とするポリエステル樹脂系パテ。
【請求項3】
前記主剤と前記硫酸バリウムとが、重量比で100:5ないし100:35の範囲の割合になり、かつ、
前記主剤及び前記硫酸バリウムの混合物と、前記硬化剤とが、重量比で100:2ないし100:5の範囲の割合になることを特徴とする請求項1記載のポリエステル樹脂系パテ。
【請求項4】
前記主剤と前記二酸化珪素とが、重量比で100:1ないし100:10の範囲の割合になり、かつ、
前記主剤及び前記二酸化珪素の混合物と、前記硬化剤とが、重量比で100:2ないし100:5の範囲の割合になることを特徴とする請求項2記載のポリエステル樹脂系パテ。
【請求項5】
表面に凹部が形成されている金属部材の前記凹部に、ポリエステル樹脂系パテとして、不飽和ポリエステル樹脂、体質顔料、着色顔料、添加剤及び溶剤から構成される主剤と、前記主剤に混合される粉状の硫酸バリウム又は二酸化珪素と、前記主剤と前記硫酸バリウム又は二酸化珪素との混合物に加えられて硬化させる硬化剤とを含有するものであって、硬化前であるポリエステル樹脂系パテを形成する工程と、
前記ポリエステル樹脂系パテの研磨後に、平滑化された前記凹部のポリエステル樹脂系パテと凹部以外の金属部材との表面を覆って、塗膜を形成する工程と
を備えることを特徴とする塗装方法。
【請求項6】
表面に凹部が形成されている金属部材の前記表面に、下塗りの樹脂塗装物の塗膜を形成する工程と、
前記下塗りの樹脂塗装物の塗膜が形成された前記金属部材の前記凹部に、ポリエステル樹脂系パテとして、不飽和ポリエステル樹脂、体質顔料、着色顔料、添加剤及び溶剤から構成される主剤と、前記主剤に混合される粉状の硫酸バリウム又は二酸化珪素と、前記主剤と前記硫酸バリウム又は二酸化珪素との混合物に加えられて硬化させる硬化剤とを含有するものであって、硬化前であるポリエステル樹脂系パテを、前記下塗りの樹脂塗装物の塗膜に重ねて形成する工程と、
前記ポリエステル樹脂系パテの研磨後に、平滑化された前記凹部のポリエステル樹脂系パテと凹部以外の下塗りの樹脂塗装物の塗膜との表面を覆って、塗膜を形成する工程と
を備えることを特徴とする塗装方法。
【請求項7】
前記ポリエステル樹脂系パテを、1回の塗布工程により10mm以上の厚みに形成することを特徴とする請求項5又は6記載の塗装方法。
【請求項8】
請求項3又は4に記載のポリエステル樹脂系パテを、金属部材の表面に形成されている凹部に、この凹部が平滑な状態になるように形成して備え、かつ、
前記ポリエステル樹脂系パテと前記凹部以外の金属部材の表面とを覆って、塗膜を備えることを特徴とする塗装物。
【請求項9】
表面に凹部が形成されている金属部材の前記表面に、下塗りの樹脂塗装物の塗膜を備え、
請求項3又は4に記載のポリエステル樹脂系パテを、この下塗りの樹脂塗装物の塗膜を備える前記金属部材の表面に形成されている前記凹部に、この凹部が平滑な状態になるように形成して備え、かつ、
前記ポリエステル樹脂系パテと前記凹部以外の下塗りの樹脂塗装物の塗膜の表面とを覆って、塗膜を備えることを特徴とする塗装物。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−91924(P2007−91924A)
【公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−284387(P2005−284387)
【出願日】平成17年9月29日(2005.9.29)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】