説明

ポリエステル混繊糸およびポリエステル布帛

【課題】極細繊維が奏するスエード調のピーチタッチな風合いを有しながら、光沢が少なく、かつ濃色に染色することが可能なポリエステル混繊糸、および該ポリエステル混繊糸を含むポリエステル布帛を提供する。
【解決手段】含金属リン化合物(a)およびアルカリ土類金属化合物(b)を含み、構成フィラメントの単繊維繊度が1.0dtex以下、伸度が70〜200%のポリエステルマルチフィラメントAと、該ポリエステルマルチフィラメントAよりも沸水収縮率の大きいポリエステルマルチフィラメントBとを混繊させた後、織編物を製編織し、該織編物にアルカリ減量加工と染色加工を施す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、極細繊維が奏するスエード調のピーチタッチな風合いを有しながら、光沢が少なく、かつ濃色に染色することが可能なポリエステル混繊糸、および該ポリエステル混繊糸を含むポリエステル布帛に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、分割型コンジュゲート糸から製造された、単繊維繊度が0.6dtex未満のいわゆる極細ポリエステル繊維が知られており、該極細ポリエステル繊維が奏する、スエード調のピーチタッチな独特の風合いが市場に受け入れられている。
しかしながら、これら極細ポリエステル繊維は、光沢が強い上、染料が繊維中に入り難いため濃色に染色することができないという欠点を有していた。
【0003】
かかる問題を解消するため、例えば特許文献1では、単繊維繊度が0.6dtex以上のポリエステル繊維中に結晶化抑制剤を含ませることにより、極細ポリエステル繊維の風合いと濃色性とを両立させることが提案されている。しかるに、かかる繊維を用いて得られた布帛では、ある程度のソフトでかつヌメリ感のある風合いが得られるものの、スエード調のピーチタッチな風合いとまでは言えないものであった。
【0004】
他方、深色性を有する織編物としては、含金属リン化合物およびアルカリ土類金属化合物を含むポリエステル繊維で織編物を織編成した後、該織編物にアルカリ減量加工を施すことにより、ポリエステル繊維の表面に微細孔を形成させたもの(例えば、特許文献4参照)などが知られている。
【0005】
【特許文献1】特開2002−161447号公報
【特許文献2】特公昭62−44064号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記の背景に鑑みなされたものであり、その目的は、極細繊維が奏するスエード調のピーチタッチな風合いを有しながら、光沢が少なく、かつ濃色に染色することが可能なポリエステル混繊糸、および該ポリエステル混繊糸を含むポリエステル布帛を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は上記の課題を達成するため鋭意検討した結果、ポリエステル繊維の結晶化を抑制し、かつ繊維表面にボイドを形成することにより、単繊維繊度が1.0dtex以下の細繊度であっても、光沢が少なくかつ濃色に染色可能となり、極細繊維が奏するスエード調のピーチタッチな風合いと濃色性とが両立することを見出し、さらに鋭意検討を重ねることにより本発明を完成するに至った。
【0008】
かくして、本発明によれば「下記一般式で表される含金属リン化合物(a)およびアルカリ土類金属化合物(b)を含み、構成フィラメントの単繊維繊度が1.0dtex以下、伸度が70〜200%のポリエステルマルチフィラメントAと、該ポリエステルマルチフィラメントAよりも沸水収縮率の大きいポリエステルマルチフィラメントBとが混繊されてなることを特徴とするポリエステル混繊糸。」が提供される。
【0009】
【化1】

(式中、RおよびRは一価の有機基であって、RおよびRは同一でも異なってもよく、Mはアルカリ金属またはアルカリ土類金属であって、mはMがアルカリ金属の場合は1、Mがアルカリ土類金属の場合は1/2である。)
【0010】
その際、前記ポリエステルマルチフィラメントAにおいて、含金属リン化合物(a)が、ポリエチレンテレフタレートを構成する酸成分に対して0.5〜3.0モル%添加され、一方アルカリ土類金属化合物(b)が、該含金属リン化合物(a)の0.5〜1.2倍モル添加されていることが好ましい。また、前記ポリエステルマルチフィラメントAの単繊維繊度が0.1dtex以上かつ0.6dtex未満であることが好ましい。さらに、前記ポリエステルマルチフィラメントAが加熱下で自己伸長性を有する未延伸糸であることが好ましい。
【0011】
本発明のポリエステル混繊糸は、前記ポリエステルマルチフィラメントAとポリエステルマルチフィラメントBとが空気交絡ノズルにより空気交絡されたものであることが好ましい。
【0012】
また、本発明によれば、「前記のポリエステル混繊糸を含む織編物であり、該織編物に含まれるポリエステル混繊糸は、前記ポリエステルマルチフィラメントAが鞘部に位置し、前記ポリエステルマルチフィラメントBが芯部に位置する芯鞘構造を有しており、前記ポリエステルマルチフィラメントAの繊維表面にボイドが形成されているポリエステル布帛。」が提供される。
【0013】
その際、前記ボイドのサイズが、長さ10〜500nm、巾10〜500nmの範囲内であることが好ましい。また、ポリエステル布帛に染色加工が施されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、極細繊維が奏するスエード調のピーチタッチな風合いを有しながら、光沢が少なく、かつ濃色に染色することが可能なポリエステル混繊糸、および該ポリエステル混繊糸を含むポリエステル布帛が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
まず、ポリエステルマルチフィラメントAを形成するポリエステルとしては、テレフタル酸を主たる酸成分とし、炭素数2〜6のアルキレングリコール、すなわちエチレングリコール、トリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、ペンタメチレングリコール、ヘキサメチレングリコールからなる群より選ばれた少なくとも1種のグリコール、特に好ましくはエチレングリコールを主たるグリコール成分とするポリエステルが例示される。
【0016】
かかるポリエステルには、必要に応じて少量(通常30モル%以下)の共重合成分を有していてもよい。
その際、使用されるテレフタル酸以外の二官能性カルボン酸としては、例えばイソフタル酸、ナフタリンジカルボン酸、ジフェニルジカルボン酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸、β−ヒドロキシエトキシ安息香酸、P−オキシ安息香酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、アジピン酸、セバシン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸のごとき芳香族、脂肪族、脂環族の二官能性カルボン酸をあげることができる。また、上記グリコール以外のジオール化合物としては、例えばシクロヘキサン−1,4−ジメタノール、ネオペンチルグリコール、ビスフェノールA、ビスフェノールSのごとき脂肪族、脂環族、芳香族のジオール化合物およびポリオキシアルキレングリコール等をあげることができる。
【0017】
かかるポリエステルは任意の方法によって合成したものでよい。例えばポリエチレンテレフタレートの場合について説明すると、テレフタル酸とエチレングリコールとを直接エステル化反応させるか、テレフタル酸ジメチルのごときテレフタル酸の低級アルキルエステルとエチレングリコールとをエステル交換反応させるかまたはテレフタル酸とエチレンオキサイドとを反応させるかしてテレフタル酸のグリコールエステルおよび/またはその低重合体を生成させる第1段階の反応と、第1段階の反応生成物を減圧下加熱して所望の重合度になるまで重縮合反応させる第2段階の反応によって製造されたものでよい。
【0018】
また、ポリエステル中には、各種安定剤、紫外線吸収剤、増粘分枝剤、艶消し剤、着色剤、その他各種改良剤等が必要に応じて配合されていてもよい。
かかるポリエステル中には、下記一般式で表される含金属リン化合物(a)およびアルカリ土類金属化合物(b)が含まれることが肝要である。
【0019】
【化2】

式中、RおよびRは一価の有機基である。この一価の有機基は具体的にはアルキル基、アリール基、アラルキル基または[(CH]R(ただし、Rは水素原子、アルキル基、アリール基またはアラルキル基、lは2以上の整数、kは1以上の整数)等が好ましく、RとRとは同一でも異なっていてもよい。Mはアルカリ金属またはアルカリ土類金属であり、Li、Na、K、Mg、Ca、Sr、Baが好ましく、特にCa、Sr、Baが好ましい。mはMがアルカリ金属のとき1であり、Mがアルカリ土類金属のとき1/2である。
【0020】
上記含金属リン化合物(a)に代えてRおよび/またはRが金属(特にアルカリ金属、アルカリ土類金属)で置き換えたリン化合物を使用したのでは、得られるポリエステルマルチフィラメントの繊維表面に形成されるボイド(微細孔)が大きくなって、目的とする濃色性が得られず、また耐フィブリル性にも劣るようになる。
【0021】
上記含金属リン化合物(a)を製造するには、通常対応する正リン酸エステル(モノ、ジまたはトリ)と所定量の対応する金属の化合物とを溶媒の存在下加熱反応させることによって容易に得られる。なお、この際溶媒として、ポリエステルの原料として使用するグリコールを使用するのが最も好ましい。
【0022】
上記含金属リン化合物(a)と併用するアルカリ土類金属化合物(b)としては、上記含金属リン化合物(a)と反応してポリエステルに不溶性の塩を形成するものであれば特に制限はなく、アルカリ土類金属の酢酸塩、しゅう酸塩、安息香酸塩、フタル酸塩、ステアリン酸塩のような有機カルボン酸塩、ホウ酸塩、硫酸塩、珪酸塩、炭酸塩、重炭酸塩のごとき無機酸塩、塩化物のようなハロゲン化物、エチレンジアミン4酢酸錯塩のようなキレート化合物、水酸化物、酸化物、メチラート、エチラート、グリコラート等のアルコラート類、フェノラート等をあげることができる。特にエチレングリコールに可溶性である有機カルボン酸塩、ハロゲン化物、キレート化合物、アルコラートが好ましく、なかでも有機カルボン酸塩が特に好ましい。上記のアルカリ土類金属化合物(b)は1種のみ単独で使用しても、2種以上併用してもよい。
【0023】
上記含金属リン化合物(a)およびアルカリ土類金属化合物(b)を添加するにあたって、得られるポリエステルマルチフィラメントに濃色性を与えるために、含金属リン化合物(a)の使用量および該含金属リン化合物(a)の使用量に対するアルカリ土類金属(b)の使用量の比を特定することが好ましい。すなわち、含金属リン化合物(a)の添加量があまりに少ないと濃色性が不十分になり、この量を多くするに従って濃色性は増加するが、あまりに多くなるともはや濃色性は著しい向上を示さず、かえって耐摩擦耐久性が悪化し、その上十分な重合度と軟化点を有するポリエステルを得ることが困難となり、さらに紡糸時に糸切れが多発するというトラブルを発生するおそれがある。このため、含金属リン化合物(a)の添加量はポリエステルを構成する酸成分に対して0.5〜3モル%の範囲が好ましく、特に0.6〜2モル%の範囲がより好ましい。また、アルカリ土類金属化合物(b)の添加量が含金属リン化合物(a)の添加量に対して0.5倍モルより少ない量では、得られるポリエステルマルチフィラメントの濃色性が不十分となるおそれがあり、その上重縮合速度が低下し高重合度のポリエステルを得ることが困難となり、また、生成ポリエステルの軟化点が大巾に低下するおそれがある。逆に含金属リン化合物(a)に対して1.2倍モルを超える量のアルカリ土類金属化合物(b)を添加すると、粗大粒子が生成し、濃色性が改善されるどころか、かえって視感濃度が低下するおそれがある。このため、含金属リン化合物に対するアルカリ土類金属化合物の添加量は、0.5〜1.2倍モルの範囲が好ましく、特に0.5〜1.0倍モルの範囲がより好ましい。
【0024】
上記含金属リン化合物(a)とアルカリ土類金属化合物(b)とは予め反応させることなくポリエステル反応系に添加する必要がある。こうすることによって、不溶性粒子をポリエステル中に均一な超微粒子状態で生成せしめることができるようになる。予め外部で上記含金属リン化合物(a)とアルカリ土類金属化合物(b)とを反応させて不溶性微粒子とした後にポリエステル反応系に添加したのでは、ポリエステル中での不溶性粒子の分散性が悪くなり、かつ粗大凝集粒子が含有されるようになるため、得られるポリエステルマルチフィラメントの濃色性を改善する効果は認められなくなるので好ましくない。
【0025】
上記の含金属リン化合物(a)およびアルカリ土類金属化合物(b)の添加は、それぞれポリエステルの合成が完了するまでの任意の段階において、任意の順序で行うことができる。しかし、含金属リン化合物(a)のみを第1段階の反応が未終了の段階で添加したのでは、第1段階の反応の完結が阻害されることがあり、またアルカリ土類金属化合物(b)のみを第1段階の反応終了前に添加すると、この反応がエステル化反応のときは、この反応中粗大粒子が発生したり、エステル交換反応のときは、その反応が異常に早く進行し突沸現象を引き起こすことがあるので、この場合、その20重量%程度以下にするのが好ましい。アルカリ土類金属化合物(b)の少なくとも80重量%および含金属リン化合物(a)全量の添加時期は、ポリエステルの合成の第1段階の反応が実質的に終了した段階以降であることが好ましい。また、含金属リン化合物(a)およびアルカリ土類金属化合物(b)の添加時期が、第2段階の反応があまりに進行した段階では、粒子の凝集、粗大化が生じ易くポリエステルマルチフィラメントの濃色性が不十分となる傾向があるので、第2段階の反応における反応混合物の極限粘度が0.3に到達する以前であることが好ましい。
【0026】
上記の含金属リン化合物(a)およびアルカリ土類金属化合物(b)はそれぞれ一時に添加しても、2回以上に分割して添加しても、または連続的に添加してもよい。
また、第1段階の反応に任意の触媒を使用することができるが、上記アルカリ土類金属化合物(b)のなかで第1段階の反応、特にエステル交換反応の触媒能を有するものがあり、かかる化合物を使用する場合は別に触媒を使用することを要さず、このアルカリ土類金属化合物を第1段階の反応前または反応中に添加して、触媒としても兼用することができるが、前述したように突沸現象を引き起こすことがあるので、その使用量は添加するアルカリ土類金属化合物の全量の20重量%未満にとどめるのが好ましい。
【0027】
以上のように、上記の含金属リン化合物(a)とアルカリ土類金属化合物(b)とを予め反応させることなくポリエステル反応系に添加し、しかる後ポリエステルの合成を完了することによって、高重合度、高軟化点および良好な製糸化工程通過性を有し、かつ最終的に濃色製とその摩擦耐久性に優れた繊維を与えることのできるポリエステルを得ることができる。
【0028】
前記ポリエステルマルチフィラメントAの伸度は、70〜200%の範囲内であることが肝要である。該伸度が70%未満の場合は、結晶化が抑制されておらず、本発明の効果が奏されない。逆に、該伸度が200%を越える場合は、後の加工工程等での熱処理により風合いが硬化してしまう。
【0029】
さらに、前記ポリエステルマルチフィラメントAは、熱処理されたとき、混繊糸の鞘成分として配されることが肝要であるため、その沸水収縮率が8%以下(より好ましくは−2〜4%)であることが好ましい。
【0030】
上記のポリエステルマルチフィラメントAは、上記の含金属リン化合物(a)とアルカリ土類金属化合物(b)とを含むポリエステルを、常法により紡糸し、2000〜4300m/分の速度で未延伸糸(中間配向糸)として一旦巻き取ったものでもよいし、さらに180〜200℃に加熱されたヒーターを用いて、弛緩状態(オーバーフィード1.5〜10%)で熱処理することにより、加熱下で自己伸長性を有する未延伸糸(中間配向糸)であってもよい。なかでも、後者のほうがスエード調のピーチタッチな風合いが得られやすく好ましい。
【0031】
前記ポリエステルマルチフィラメントAの単繊維繊度は、1.0dtex以下(好ましくは0.1dtex以上かつ0.6dtex未満)であることが肝要である。該単繊維繊度が1.0dtexよりも大であると、スエード調のピーチタッチな風合いが得られず好ましくない。
【0032】
かかるポリエステルマルチフィラメントAの総繊度とフィラメント数は特に限定されないが、総繊度33〜330dtex、フィラメント数100〜300の範囲が好ましい。なお、ポリエステルマルチフィラメントAの単繊維の断面形状は特に限定されず、丸、三角、扁平など公知の断面形状が選択できる。
【0033】
本発明のポリエステル混繊糸は、前記ポリエステルマルチフィラメントAと、該ポリエステルマルチフィラメントAよりも沸水収縮率の大きいポリエステルマルチフィラメントBとが混繊されたものである。
【0034】
ここで、沸水収縮率の大きいポリエステルマルチフィラメントBとしては、従来公知のものが任意に使用でき、ポリエステルの種類、総繊度、単繊維繊度、フィラメント数など特に限定されないが、混繊糸の芯成分として機能するためには、前記前記ポリエステルマルチフィラメントAよりも沸水収縮率が5%以上大きいことが好ましい。
【0035】
このように沸水収縮率の大きいポリエステルマルチフィラメントとしては、通常のジカルボン酸成分及びアルキレングリコール成分に加えて、第3成分としてイソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸などのジカルボン酸類、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコールなどのグリコール類、ビスフェノールA及びビスフェノールスルフォンなどからなる群から選ばれた1種以上を共重合させた共重合ポリエステル樹脂を、常法により紡糸、延伸することにより得られる。
【0036】
本発明のポリエステル混繊糸において、前記のポリエステルマルチフィラメントAとポリエステルマルチフィラメントBとの重量比が、A:Bで80:20〜30:70の範囲内であることが好ましい。
なお、本発明のポリエステル混繊糸には、混繊糸全体の30重量%以下であれば、他の繊維が含まれていてもさしつかえない。
【0037】
本発明のポリエステル混繊糸を製造する方法は特に限定されず、通常の空気交絡ノズルを用いた空気混繊方法や複合仮撚加工などが例示される。なかでも、空気混繊方法が好ましい。複合仮撚加工では、複合仮撚加工の際の熱処理により、繊維の配向結晶化が進み、本発明の効果が奏されないおそれがある。
【0038】
なお、ポリエステルマルチフィラメントAに前記のように弛緩状態で熱処理を施す場合は、熱処理後、ポリエステルマルチフィラメントBと混繊してもよいし、ポリエステルマルチフィラメントAとポリエステルマルチフィラメントBとを混繊させたのち、該混繊糸として弛緩状態で熱処理を施してもよい。
【0039】
次に本発明のポリエステル布帛は、前記の混繊糸を含む織編物であり、該織編物に含まれるポリエステル混繊糸は、前記ポリエステルマルチフィラメントAが鞘部に位置し、前記ポリエステルマルチフィラメントBが芯部に位置する芯鞘構造を有しており、前記ポリエステルマルチフィラメントAの繊維表面には、ボイドが形成されている。
【0040】
その際、前記ボイドのサイズが、長さ10〜500nm、巾10〜500nmの範囲内であり、ボイドの長軸が繊維軸方向であることが好ましい。ボイドのサイズがこのサイズよりも小さい場合には十分な濃色性が得られないおそれがある。また、ボイドのサイズがこのサイズよりも大きいと繊維強度が低下するおそれがある。
【0041】
かかる織編物の組織は特に限定されず、通常の方法で製編織されたものでよい。例えば、織物の織組織としては、平織、綾織、朱子織等の三原組織、変化組織、たて二重織、よこ二重織等の片二重組織、たてビロードなどが例示される。編物の種類は、よこ編物であってもよいしたて編物であってもよい。よこ編組織としては、平編、ゴム編、両面編、パール編、タック編、浮き編、片畔編、レース編、添え毛編等が好ましく例示され、たて編組織としては、シングルデンビー編、シングルアトラス編、ダブルコード編、ハーフトリコット編、裏毛編、ジャガード編等が例示される。層数も単層でもよいし、2層以上の多層でもよい。
該織編物には、前記のポリエステル混繊糸が、織編物の総重量に対して30%以上(より好ましくは40%以上、特に好ましくは100%)含まれていることが好ましい。
【0042】
このようなポリエステル布帛は、以下の製造方法で容易に得られる。すなわち、前記のポリエステル混繊糸を用いて織編物を製編織したのち、アルカリ減量加工を施すことにより、ポリエステルマルチフィラメントAの繊維表面にボイド(微細孔)が形成される。その際、アルカリ減量率としては、布帛全体として5〜40%(より好ましくは10〜30%)の範囲内であることが好ましい。
【0043】
次いで該織編物に染色加工を施すと、その際の熱により、該織編物に含まれるポリエステル混繊糸は、前記ポリエステルマルチフィラメントAが鞘部に位置し、前記ポリエステルマルチフィラメントBが芯部に位置する芯鞘構造を有することになる。
【0044】
かくして得られたポリエステル布帛において、ポリエステル布帛の表面には、ボイドが形成された前記ポリエステルマルチフィラメントAが主として現れるため、極細繊維が奏するスエード調のピーチタッチな風合いを有しながら、光沢が少なく、かつ濃色を呈することとなる。
【0045】
なお、かかるポリエステル布帛には、常法の撥水加工、起毛加工、紫外線遮蔽あるいは抗菌剤、消臭剤、防虫剤、蓄光剤、再帰反射剤、マイナスイオン発生剤等の機能を付与する各種加工を付加適用してもよい。
【実施例】
【0046】
次に本発明の実施例及び比較例を詳述するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。なお、実施例中の各測定項目は下記の方法で測定した。
<固有粘度>
オルソクロロフェノールを溶媒として使用し35℃で測定した。
<沸水収縮率(BWS)>
供試フィラメント糸条を、周長1.125mの検尺機のまわりに10回巻きつけて、かせを調製し、このかせを、スケール板の吊るし釘に懸垂し、懸垂しているかせの下端に、かせの総重量の1/30の荷重をかけて、かせの収縮処理前の長さL1を測定した。
このかせから荷重を除き、かせを木綿袋に入れ、このかせを収容している木綿袋を沸騰水から取り出し、この木綿袋からかせを取り出し、かせに含まれる水をろ紙により吸収除去した後、これを室温において24時間風乾した。この風乾されたかせを、前記スケール板の吊し釘に懸垂し、かせの下部分に、前記と同様に、かせの総質量の1/3の荷重をかけて、収縮処理後のかせの長さL2を測定した。
供試フィラメント糸条の沸水収縮率(BWS)を、下記式により算出した。
BWS(%)=((L1−L2)/L1)×100
<明度指数L>
明度指数Lとして、JIS Z 8729(L*a*b*表色系およびL*u*v*表色系による物体色の表示方法)に示すL*a*b*表示系で表示した。
<ボイドのサイズ>
電子顕微鏡を用いて、布帛表面を15000倍に拡大して写真撮影し、ボイドのサイズを測定した。なお、n数は10で平均値を求めた。
<風合い>
3人のパネラーが布帛を手触りして風合いを評価し、以下の3段階に評価した。「スエード調のピーチタッチな風合いである。」「スエード調のピーチタッチな風合いにやや近い。」「スエード調のピーチタッチな風合いではない。」
【0047】
[実施例1]
テレフタル酸ジメチル100部、エチレングリコール60部、酢酸カルシウム1水塩0.06部(テレフタル酸ジメチルに対して0.066モル%)をエステル交換缶に仕込み、窒素ガス雰囲気下4時間かけて140℃から230℃まで昇温して生成するメタノールを系外に留居しながらエステル交換反応を行った。続いて得られた反応生成物に、0.5部のリン酸トリメチル(テレフタル酸ジメチルに対して0.693モル%)と0.31部の酢酸カルシウム1水塩(リン酸トリメチルに対して1/2倍モル)とを8.5部のエチレングリコール中での120℃の温度において全還流下60分間反応せしめて調整したリン酸ジエステルカルシウム塩の透明溶液9.31部に室温下0.57部の酢酸カルシウム1水塩(リン酸トリメチルに対して0.9倍モル)を溶解せしめて得たリン酸ジエステルカルシウム塩と酢酸カルシウムとの混合透明溶液9.88部を添加し、次いで三酸化アンチモン0.04部を添加して重合缶に移した。次いで1時間かけて760mmHgから1mmHgまで減圧し、同時に1時間30分かけて230℃から285℃まで昇温した。1mmHg以下の減圧下、重合温度285℃で更に3時間、合計4時間30分重合して固有粘度0.641、軟化点259℃のポリマーを得た。反応終了後ポリマーを常法に従いチップ化した。
【0048】
このチップを常法により乾燥し、通常の紡糸方法により、紡糸速度3300m/分で紡糸し、含金属リン化合物およびアルカリ土類金属化合物を含む、伸度135%、熱水(65℃)収縮率22%のポリエチレンテレフタレート未延伸糸(中間配向糸)70dtex/144フィラメント(ポリエステルマルチフィラメントA、単繊維繊度0.48dtex)を得た。
【0049】
一方、酸成分がモル比93/7のテレフタル酸及びイソフタル酸からなり、グリコール成分がエチレングリコールからなり、固有粘度1.45を有する共重合ポリエステルを調製した。この共重合ポリエステル樹脂を、通常の紡糸方法により、伸度36%、沸水収縮率39%の延伸糸30dtex/12フィラメント(ポリエステルマルチフィラメントB、単繊維繊度2.5dtex)を得た。
【0050】
次いで、前記ポリエステルマルチフィラメントAおよびポリエステルマルチフィラメントBを用い、図1に示す装置で混繊糸を製造した。すなわち、両糸を引き揃えて、供給ロール1と第1引取りロール(表面温度が120℃の加熱ロール)2との間に設けたインターレースノズル(空気交絡ノズル)3に、600m/分の速度、1.2%のオーバーフィード率で供給し、0.2MPa(2kgf/cm)の圧空により交絡させ、65ケ/mの交絡を付与した。
【0051】
次いで、1.2%のオーバーフィード率のままで、表面温度が120℃の加熱ロール2に糸条を8回巻回し、弛緩熱処理を施して、未延伸糸(A)に自己伸長性を付与した。その後、加熱ロール2と第2引取りロール4との間に設けたスリットヒーター5により、230℃で、1.8%のオーバーフィード率にて0.05秒間、第2の弛緩熱処理を施して熱固定を行い、第2引取ロール(冷ロール)4に2回巻回した後、パッケージ6に巻き取った。得られた混繊糸において、ポリエステルマルチフィラメントAの沸水収縮率は1.5%であり、一方ポリエステルマルチフィラメントBの沸水収縮率は18%であった。
【0052】
次いで、かかるポリエステル混繊糸に、S方向に600T/Mの撚りを付与し、経密度:200本/2.54cm、緯密度:90本/2.54cmのサテン織物を織成した。この織物を、常法により減量率20%でアルカリ減量加工し、Dianix Black HG−FS(三菱化成工業(株)製)15%owfで130℃×60分間染色後、水酸化ナトリウム1g/リットルおよびハイドサルファイト1g/リットルを含む水溶液にて70℃で20分間還元洗浄して黒染布を得た。
【0053】
得られた黒染布は、スエード調のピーチタッチな風合いを呈し、光沢が少なく、L値が10.5で濃色に優れていた。また、得られた黒染布には、ポリエステルマルチフィラメントAが主として現れており、該ポリエステルマルチフィラメントAの繊維表面には、長さ10〜500nm、巾10〜500nmのボイドが形成されておりであった。
【0054】
[比較例1]
酸化チタンを2.5重量%含むポリエチレンテレフタレートポリマーを常法により紡糸して得た、伸度135%、90dtex/72(単繊維繊度1.25dtex)のポリエステルマルチフィラメントを、190℃のヒーターを用いて弛緩状態で熱処理し、沸水収縮率が2%のポリエステルマルチフィラメントを得た。
【0055】
次に、該ポリエステルマルチフィラメントと、沸水収縮率が18%、56dtex/12フィラメントのポリエチレンテレフタレートマルチフィラメントとをインターレースノズルを用い、ノズル圧245kPaの圧空で交絡させ、混繊糸を得た。
【0056】
該混繊糸を用いて、実施例1と同様にしてアルカリ減量および染色を施した。得られた黒染布は光沢が少なく、L値が12で濃色に優れていたものの、風合いはスエード調のピーチタッチな風合いにやや近いものではあるが、実施例1で得られたものよりも劣るものであった。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明によれば、極細繊維が奏するスエード調のピーチタッチな風合いを有しながら、光沢が少なく、かつ濃色に染色することが可能なポリエステル混繊糸、および該ポリエステル混繊糸を含むポリエステル布帛が得られる。かかる布帛は、紳士・婦人のファッション用途全般、ブラックフォーマル全般、中東諸国の民族衣装などの用途に使用でき、その工業的価値は極めて大である。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明の混繊糸を製造する際、用いることのできる装置の一例を示す模式図である。
【符号の説明】
【0059】
A ポリエステルマルチフィラメントA
B ポリエステルマルチフィラメントB
1 供給ロール
2 第1引取ロール(加熱ロール)
3 インターレースノズル
4 第2引取ロール
5 非接触ヒータ(スリットヒータ)
6 パッケージ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式で表される含金属リン化合物(a)およびアルカリ土類金属化合物(b)を含み、構成フィラメントの単繊維繊度が1.0dtex以下、伸度が70〜200%のポリエステルマルチフィラメントAと、該ポリエステルマルチフィラメントAよりも沸水収縮率の大きいポリエステルマルチフィラメントBとが混繊されてなることを特徴とするポリエステル混繊糸。
【化1】

(式中、RおよびRは一価の有機基であって、RおよびRは同一でも異なってもよく、Mはアルカリ金属またはアルカリ土類金属であって、mはMがアルカリ金属の場合は1、Mがアルカリ土類金属の場合は1/2である。)
【請求項2】
前記ポリエステルマルチフィラメントAにおいて、含金属リン化合物(a)が、ポリエチレンテレフタレートを構成する酸成分に対して0.5〜3.0モル%添加され、一方アルカリ土類金属化合物(b)が、該含金属リン化合物(a)の0.5〜1.2倍モル添加されてなる、請求項1に記載のポリエステル混繊糸。
【請求項3】
前記ポリエステルマルチフィラメントAの単繊維繊度が0.1dtex以上かつ0.6dtex未満である、請求項1または請求項2に記載のポリエステル混繊糸。
【請求項4】
前記ポリエステルマルチフィラメントAが加熱下で自己伸長性を有する未延伸糸である、請求項1〜3のいずれかに記載のポリエステル混繊糸。
【請求項5】
ポリエステル混繊糸が空気交絡ノズルにより空気交絡されたものである、請求項1〜4のいずれかに記載のポリエステル混繊糸。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載のポリエステル混繊糸を含む織編物であり、該織編物に含まれるポリエステル混繊糸は、前記ポリエステルマルチフィラメントAが鞘部に位置し、前記ポリエステルマルチフィラメントBが芯部に位置する芯鞘構造を有しており、前記ポリエステルマルチフィラメントAの繊維表面にボイドが形成されているポリエステル布帛。
【請求項7】
前記ボイドのサイズが、長さ10〜500nm、巾10〜500nmの範囲内である、請求項6に記載のポリエステル布帛。
【請求項8】
染色加工が施されてなる、請求項6または請求項7に記載のポリエステル布帛。

【図1】
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【公開番号】特開2006−124880(P2006−124880A)
【公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−315806(P2004−315806)
【出願日】平成16年10月29日(2004.10.29)
【出願人】(302011711)帝人ファイバー株式会社 (1,101)
【Fターム(参考)】