説明

ポリカーボネート樹脂組成物製の成形品及びその射出成形方法

【課題】高級感があり、高い光沢と深みのある色調を有し、ウェルドラインや反りの無いポリカーボネート樹脂組成物製の成形品を提供する。
【解決手段】係る成形品は、(A)第1金型部11、第2金型部12、溶融樹脂射出部14、キャビティ13を備えた金型、並びに、(B)入れ子20A,20Bを備えており、入れ子20A,20Bは、(a)金属製ブロック31A,31B、(b)厚さ0.03mm乃至1mmの金属下地層32A,32B、及び、(c)金属下地層32A,32B上に形成された、セラミックスから成る溶射皮膜33A,33Bから構成されており、溶射皮膜は厚さ方向に変化した気孔率を有し、気孔率は溶射皮膜表面に近い側ほど低い値である金型組立体を用いて成形され、Rzが0.2μm以下であり、RSmが25μm以下であり、且つ、分光光度計で測定した400nm乃至650nmでの反射率が0.7%以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリカーボネート樹脂組成物製の成形品及びその射出成形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話、PDA、携帯型ミュージックプレイヤー、ゲーム機、パーソナルコンピュータ等に代表される電子機器の外装材や筐体といった成形品には、通常、塗装が施されている。成形品全体を薄くし、軽量化しているため、成形品の厚さも薄く設計している。従って、係る成形品の射出成形においては、例えば、多点ピンポイントゲートを有する金型組立体を用い、キャビティ内に射出された溶融熱可塑性樹脂の流動距離を短くすることで、キャビティ内を溶融熱可塑性樹脂で完全に充填している。それ故、溶融熱可塑性樹脂のキャビティ内における合流点にウェルドラインが発生し、また、熱を逃がすための穴や開口部が設けられた成形品の部分にもウェルドラインが発生する。そして、これらのウェルドラインを覆うために、成形品の表面に厚い塗装を施している。
【0003】
しかしながら、成形品の製造コストの低減といった観点からは、塗装を施すことは好ましくない。また、塗装の厚さが厚くなると、塗装表面が柚子肌となるため、高級感を損ねる原因となる。厚さの薄い透明な塗装を施すことで柚子肌や外観を損ねることを防ぐことは可能であるが、ウェルドラインを覆うといった当初の目的を達成できなくなる。
【0004】
無塗装化することで製造コストを低減することが試みられている。しかしながら、成形品には上述したとおり、ウェルドラインが発生するので、屡々、肉眼で観察した際に目立ち難いシボを成形品表面に形成している。しかしながら、シボを形成すると、成形品に高級感が欠けてしまうといった問題がある。また、成形品には、屡々、高い光沢性が要求されるが、そのなかでも、高級感があり、落ち着いた雰囲気のある黒色、更には、漆黒感のある黒色に対する強い要求がある。
【0005】
成形材料としては、成形性や強度、外観といった観点からポリカーボネート(PC)樹脂を使用することが望ましいが、通常の射出成形では、ウェルドラインの発生による外観不良が発生し易い。また、通常、着色剤として用いる顔料(黒色の場合、例えば、カーボンブラック)を添加したポリカーボネート樹脂組成物を用いて射出成形を行うと、成形品を所望の色に着色できるものの、深みのない色調になってしまうため、高級感を得ることができない。
【0006】
更には、高い光沢性を有する黒色の成形品にあっては、成形品に僅かな反りがあっても目視されてしまうといった問題もある。射出成形法を採用したとき、成形品に屡々反りが生じるが、反りの発生を抑制するためには成形品の歪みを低減させることが重要である。
【0007】
上記の成形不良が発生する要因の1つに、金型のキャビティを構成する面(金型のキャビティ面と呼ぶ)と接触した溶融熱可塑性樹脂が急冷、固化されることが挙げられる。そして、このような溶融熱可塑性樹脂の急冷、固化の原因は、金型が鋼材から作製されていることに起因している。
【0008】
例えば、特開平8−318534号公報には、入れ子に熱伝導率の低い素材を使用して、キャビティ内に射出された溶融熱可塑性樹脂の急冷、固化を抑制して、優れた外観を有する成形品を成形する方法が提案されている。ここで、入れ子は、セラミックスやガラスから作製されている。
【0009】
また、金型のキャビティ面に、セラミックスあるいはサーメットから成る薄層が形成された合成樹脂成形用金型が、特開平5−38721号公報に開示されている。この薄層は、断熱性を高める目的で、意図的に空隙が多く発生する溶射法にて形成されている。尚、このような薄層を、便宜上、以下、セラミックス溶射層と呼ぶ。このセラミックス溶射層は、緻密で無いこともあり、熱や圧力によって破損し難い。
【0010】
特開2004−175112の実施例5には、ステンレス鋼から成る入れ子本体26と、断熱層27と、封口層28とから構成された入れ子25が開示されている。尚、断熱層27は、ジルコニアセラミック材料粉末を使用したプラズマパウダースプレー溶射法にて入れ子本体26上に形成されている。一方、断熱層27の表面に、封口層28がNi−P無電解メッキ法にて形成されている。
【0011】
【特許文献1】特開平8−318534号公報
【特許文献2】特開平5−38721号公報
【特許文献3】特開2004−175112
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
ところで、特開平8−318534号公報に開示された技術にあっては、入れ子は緻密であるが脆性な材料から作製されており、入れ子を破損すること無く金型に配設するために、金属プレートを用いて特定のクリアランスで押さえ込み、特に、破損し易い入れ子のエッジ部を保護する対策を講じている。しかしながら、金型の構造、キャビティや成形品の形状等から、金属プレートを配置することが困難な場合がある。また、焼成法によって得られる焼結体から成る入れ子は、緻密な構造であるが故に、ラップ加工を行うと、表面粗さ(輪郭曲線の算術平均高さ)Raが0.05μm以下の状態を得ることは非常に容易である。しかしながら、入れ子の密度が高いため、引っ張り応力が加わるような部位において入れ子を用いると、入れ子に破損が生じ易いといった欠点がある。
【0013】
キャビティ内の溶融熱可塑性樹脂の冷却を抑制する方法として、熱伝導率の低い樹脂系素材を金型の内部に配設する方法も提案されているが、樹脂圧力や熱によって、樹脂系素材に設けられた微細な凹凸部が変形してしまい、耐久性に乏しいといった問題を有する。このような樹脂系素材の表面に金属膜を成膜して変形を防ぐことも提案されているが、やはり、樹脂系素材自体が変形を起こしたり、金属膜と樹脂系素材との界面に傷が発生し、その傷までが成形品表面に転写されるといった問題がある。
【0014】
特開平5−38721号公報に開示された技術にあっては、キャビティ内に射出された溶融熱可塑性樹脂の急冷を抑制することができるものの、セラミックス溶射層の表面に空隙が多く存在するので、空隙内に溶融熱可塑性樹脂が侵入し、金型から成形品を離型する際、セラミックス溶射層を破壊したり、成形品表面に凹凸が多く転写され、高品質な成形品が得られないといった問題を有する。尚、セラミックス溶射層の表面を平坦化するために、非常に薄い(数μm)のシリコーン系塗料を塗布する旨も開示されているが、耐久性に問題が生じ易い。
【0015】
特開2004−175112の実施例5に開示された入れ子25にあっては、封口層28を無電解メッキ法にて形成しているが、一般的に、溶射法にて形成された断熱層27には空隙が多く存在するので、無電解メッキ法にて封口層28を形成したとき、以下の問題が生じ易い。即ち、断熱層27に深い空隙が多く存在する場合、メッキ工程で発生した水素の泡を巻き込みながらメッキ層が成長する結果、封口層28にピンホールが多発し易い。特に、空隙の大きな部分で発生した大きなピンホール又はその影響で、封口層28の断熱層27に対する密着力が低下する。そして、封口層28に生じたピンホールが成形品の表面に転写されてしまうといった問題や、封口層28に生じたピンホールに成形品の一部分が侵入し、金型から成形品を離型する際、封口層28に損傷が生じるといった問題が発生し易い。
【0016】
従って、本発明の目的は、高級感があり、高い光沢と深みのある色調を有し、ウェルドラインや反りの無いポリカーボネート樹脂組成物製の成形品及びその射出成形方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記の目的を達成するための本発明の第1の態様に係るポリカーボネート樹脂組成物製の成形品(以下、便宜上、『本発明の第1の態様に係る成形品』と呼ぶ)は、
(A)第1金型部、第2金型部、及び、第1金型部に設けられた溶融樹脂射出部を備え、第1金型部と第2金型部との型締めによってキャビティが形成される金型、並びに、
(B)第1金型部及び/又は第2金型部に配置された入れ子、
を備え、
入れ子は、
(a)金属製ブロック、
(b)金属製ブロックの少なくともキャビティに面した表面に形成された、厚さ0.03mm乃至1mmの金属下地層、及び、
(c)金属下地層上に形成された、セラミックスから成る溶射皮膜、
から構成されており、
溶射皮膜は、厚さ方向に変化した気孔率を有し、
該気孔率は、溶射皮膜表面に近い側ほど、低い値である金型組立体を用いて成形されたポリカーボネート樹脂組成物製の成形品であって、
輪郭曲線の最大高さRzが0.2μm以下であり、輪郭曲線要素の平均長さRSmが25μm以下であり、且つ、分光光度計で測定した400nm乃至650nmでの反射率が0.7%以下であることを特徴とする。
【0018】
尚、輪郭曲線の最大高さRz、輪郭曲線要素の平均長さRSm、輪郭曲線の算術平均高さRaは、JIS B0601:2001に規定されている。反射率として、自記分光光度計(島津UV−3100PC)を用いて400nm乃至650nmでの反射率を測定した。反射率が小さいほど黒色に深みがあり、漆黒感が増して見える。
【0019】
上記の目的を達成するための本発明の第2の態様に係るポリカーボネート樹脂組成物製の成形品(以下、便宜上、『本発明の第2の態様に係る成形品』と呼ぶ)は、
(C)キャビティを構成する面を形成し、入れ子の表面上に配設された厚さ0.03mm乃至0.5mmの金属膜、
を更に備えている、本発明の第1の態様に係る成形品を成形するための上述の金型組立体を用いて成形されたことを特徴とする。
【0020】
上記の目的を達成するための本発明の第1の態様あるいは第2の態様に係る射出成形方法は、輪郭曲線の最大高さRzが0.2μm以下であり、輪郭曲線要素の平均長さRSmが25μm以下であり、且つ、分光光度計で測定した400nm乃至650nmでの反射率が0.7%以下であるポリカーボネート樹脂組成物製の成形品の射出成形方法である。
【0021】
そして、本発明の第1の態様に係る射出成形方法にあっては、上述した本発明の第1の態様に係る成形品を成形するための金型組立体を用い、本発明の第2の態様に係る射出成形方法にあっては、上述した本発明の第2の態様に係る成形品を成形するための金型組立体を用い、
(イ)第1金型部と第2金型部とを型締めしてキャビティを形成した後、溶融樹脂射出部から溶融ポリカーボネート樹脂組成物をキャビティ内に射出し、次いで、
(ロ)キャビティ内のポリカーボネート樹脂組成物を冷却、固化し、その後、得られた成形品を金型から離型する、
工程を具備することを特徴とする。
【0022】
尚、本発明の第1の態様に係る成形品あるいは本発明の第1の態様に係る射出成形方法にて得られるポリカーボネート樹脂組成物製の成形品において、上記の輪郭曲線の最大高さRz、輪郭曲線要素の平均長さRSm、反射率の規定を満足する部分は、その射出成形時、溶射皮膜と接していた部分である。また、本発明の第2の態様に係る成形品あるいは本発明の第2の態様に係る射出成形方法にて得られるポリカーボネート樹脂組成物製の成形品において、上記の輪郭曲線の最大高さRz、輪郭曲線要素の平均長さRSm、反射率の規定を満足する部分は、その射出成形時、金属膜と接していた部分である。
【0023】
本発明の第1の態様に係る成形品あるいは本発明の第2の態様に係る成形品を総称して、以下、『本発明の成形品』と呼ぶ場合があるし、本発明の第1の態様あるいは第2の態様に係る射出成形方法を総称して、以下、『本発明の射出成形方法』と呼ぶ場合があるし、本発明の成形品及び本発明の射出成形方法を総称して、以下、『本発明』と呼ぶ場合がある。また、本発明の第1の態様に係る成形品あるいは本発明の第1の態様に係る射出成形方法を総称して、以下、『本発明の第1の態様』と呼ぶ場合があるし、本発明の第2の態様に係る成形品あるいは本発明の第2の態様に係る射出成形方法を総称して、以下、『本発明の第2の態様』と呼ぶ場合がある。
【0024】
本発明の射出成形方法にあっては、中実の成形品を成形することができる。
【0025】
あるいは又、本発明の射出成形方法にあっては、キャビティに連通した加圧流体注入ノズルを更に備えた金型組立体を用い、前記工程(イ)において、溶融樹脂射出部から溶融ポリカーボネート樹脂組成物をキャビティ内に射出中に、あるいは、射出完了と同時に、あるいは、射出完了後、キャビティ内に射出された溶融ポリカーボネート樹脂組成物内に加圧流体注入ノズルから加圧流体の注入を開始する形態とすることができる。加圧流体を注入するこのような射出成形方法をガスアシスト成形法と呼ぶ場合がある。ガスアシスト成形法を採用することで、中空部を有する成形品を得ることができる。ガスアシスト成形法を採用する場合、キャビティ内に射出する溶融ポリカーボネート樹脂組成物の量は、キャビティを完全に充填する量であってもよいし(所謂、フルショット法)、不完全に充填する量であってもよい(所謂、ショートショット法)が、厚さの薄い成形品を成形する場合には、フルショット法を採用することが好ましい。加圧流体は、常温及び常圧で気体の物質であり、使用するポリカーボネート樹脂組成物と反応や混合しないものが望ましい。具体的には、窒素ガス、空気、炭酸ガス、ヘリウム等が挙げられるが、安全性及び経済性を考慮すると、窒素ガスやヘリウムガスが好ましい。加圧流体注入ノズルは、例えば、第1金型部に配設してもよいし、第2金型部に配設してもよいし、第1金型部と第2金型部の両方に配設してもよい。そして、加圧流体注入ノズルの先端が、キャビティ内、あるいは、第1金型部又は第2金型部のキャビティを構成する面近傍に位置するように、加圧流体注入ノズルを第1金型部又は第2金型部に配設することが好ましい。加圧流体注入ノズルの後端部は、例えば配管を介して加圧流体源に接続されている。また、加圧流体注入ノズルの後部に移動手段が取り付けられている。あるいは又、加圧流体注入ノズルの先端部が溶融樹脂射出部内に配置されるように、加圧流体注入ノズルを配設する構成としてもよいし、金型組立体は射出用シリンダーを備えた射出成形機に取り付けられており、射出用シリンダーと溶融樹脂射出部とは連通しており、加圧流体注入ノズルが射出用シリンダーの先端部(ノズル部)に配置されるように、加圧流体注入ノズルを配設する構成としてもよい。
【0026】
上記の好ましい構成を含む本発明においては、キャビティに面した金属製ブロックの表面の全てに溶射皮膜が形成されている形態とすることができるし、あるいは又、キャビティに面した金属製ブロックの表面の一部に溶射皮膜が形成されている形態とすることもできる。
【0027】
以上に説明した好ましい構成、形態を含む本発明において、溶射によって形成された皮膜である溶射皮膜は、組成の観点から、同一組成から構成されていてもよいし(便宜上、同一組成皮膜と呼ぶ)、溶射材料の組成を積層間で連続的に変化させた漸変皮膜とすることもできる。また、溶射皮膜は、気孔率の変化状態の観点から、単層(単層溶射皮膜と呼ぶ)から構成されていてもよいし、複数層の積層構造(便宜上、各層を単位層と呼ぶ)から構成されていてもよい。複数の単位層のそれぞれの組成は、同一であってもよいし、異なっていてもよい。また、上述したとおり、溶射皮膜は厚さ方向に変化した気孔率を有するが、気孔率の変化の状態は、金属下地層と溶射皮膜との界面から溶射皮膜表面に向かって、徐々に(連続的に)減少する形態とすることもできるし、段階的に減少する形態とすることもできるし、徐々に(連続的に)、且つ、段階的に減少する形態とすることもできる。尚、溶射皮膜を同一組成皮膜あるいは漸変皮膜の単層溶射皮膜から構成する場合、溶射条件等によって、厚さ方向に変化した気孔率を有する溶射皮膜を得ることができる。また、溶射皮膜を複数の単位層の積層構造から構成する場合、溶射条件等によって、複数層の積層構造を構成する単位層のそれぞれにおける気孔率を異ならせることができる。
【0028】
また、以上に説明した好ましい構成、形態を含む本発明にあっては、溶射皮膜の熱伝導率は1W/(m・K)乃至4W/(m・K)であり、溶射皮膜の平均厚さは0.3mm乃至2.0mmである構成とすることが好ましい。
【0029】
溶射皮膜の熱伝導率の値が上記の範囲の下限を下回る場合、溶射皮膜の所望の気孔率を得ることが困難となる虞がある。一方、溶射皮膜の熱伝導率の値が上記の範囲の上限を越える場合、例えば、溶射皮膜と接する、あるいは、金属膜を介して溶射皮膜と接する溶融ポリカーボネート樹脂組成物の急冷を抑制することが困難となり、成形品の外観改良効果が低減する虞がある。溶射皮膜の熱伝導率は、レーザーフラッシュ法、熱線法といった方法に基づき測定することができる。
【0030】
また、例えば、溶射皮膜と接する、あるいは、金属膜を介して溶射皮膜と接する溶融ポリカーボネート樹脂組成物の急冷を抑制し、成形品の外観を改良するために、溶射皮膜を単層溶射皮膜から構成する場合、溶射皮膜の平均厚さを、上述のとおり、0.3mm乃至2.0mm、好ましくは0.3mm乃至1.0mmとすることが望ましい。一方、溶射皮膜を複数の単位層の積層構造から構成する場合、溶射皮膜の平均厚さ(総厚平均)を、0.5mm乃至1.8mm、好ましくは1.0mm乃至1.5mmとすることが望ましく、溶射皮膜表面を構成する単位層(トップコートと呼ばれる場合もある)の平均厚さを、0.05mm乃至0.3mm、好ましくは0.1mm乃至0.2mmとすることが望ましく、その他の単位層(中間層と呼ばれる場合もある)の平均厚さを、0.1mm乃至0.5mm、好ましくは0.2mm乃至0.4mmとすることが望ましく、単位層の層数を、2乃至4、好ましくは2乃至3とすることが望ましい。溶射皮膜の厚さ(膜厚)は、切断加工した断面に必要に応じて研磨加工やラップ加工を施し、係る断面をデジタル顕微鏡、光学顕微鏡、走査型電子顕微鏡(SEM)、レーザー顕微鏡等にて観察し、厚さを計測するといった方法に基づき測定することができる。
【0031】
更には、以上に説明した好ましい構成、形態を含む本発明にあっては、溶射皮膜表面から溶射皮膜内部に向かって厚さ0.05mmまでの部分(便宜上、溶射皮膜の表面領域と呼ぶ)における気孔率平均値は0.4%以上5%未満であり、金属下地層と溶射皮膜との界面から溶射皮膜内部に向かって厚さ0.2mmまでの部分(便宜上、溶射皮膜の底部領域と呼ぶ)における気孔率平均値は5%以上10%以下である構成とすることが好ましい。尚、見掛け密度から計算した気孔率平均値に換算すると、溶射皮膜の表面領域における気孔率平均値は3%以上10%未満であり、溶射皮膜の底部領域における気孔率平均値は10%以上20%以下となる。あるいは又、以上に説明した好ましい構成、形態を含む本発明にあっては、溶射皮膜表面から溶射皮膜内部に向かって厚さ0.05mmまでの部分(溶射皮膜の表面領域)における溶射皮膜を構成する材料の平均粒径は2×10-6m(2μm)乃至5×10-5m(50μm)であり、金属下地層と溶射皮膜との界面から溶射皮膜内部に向かって厚さ0.2mmまでの部分(溶射皮膜の底部領域)における溶射皮膜を構成する材料の平均粒径は2×10-5m(20μm)乃至1×10-4m(100μm)であることが好ましい。
【0032】
溶射皮膜の表面領域における溶射皮膜を構成する材料の平均粒径は、可能な限り小さいことが望ましいが、小さすぎると、溶射皮膜を形成する溶射工程で原料粉体(セラミックス粒子)の搬送が困難となる虞がある。従って、溶射皮膜の形成を容易としたり、あるいは又、溶射皮膜にクラックが発生することを防止するといった観点から、上述した範囲の平均粒径を有する原料粉体(セラミックス粒子)から溶射皮膜の表面領域を構成することが好ましい。一方、溶射皮膜の底部領域における溶射皮膜を構成する材料の平均粒径が上記の範囲にあることが、所望の気孔率を達成して断熱性を向上させ、溶射皮膜表面に与える凹凸の影響を少なくし、更には、溶射皮膜にクラックを発生させないといった観点から好ましい。
【0033】
ここで、平均粒径とは、粉末の粒径累積度数が50%となる粒径であると定義され、例えば、光透過沈降法に基づき測定することができる。
【0034】
また、以上に説明した各種の好ましい構成、形態を含む本発明において、溶射皮膜表面の表面粗さ(輪郭曲線の最大高さ)Rzは0.15μm以下であることが望ましい。尚、輪郭曲線の最大高さRzは、溶射皮膜表面に対して細かいダイヤモンド砥粒等で鏡面ラップ処理を行い、係る溶射皮膜表面を表面粗さ計を用いて、少なくとも倍率20000倍、基準長さ0.8mm、カットオフ0.8mm、測定速度0.05mm/秒の条件にて、数回スキャニングさせて、得られた粗さ曲線データより最大粗さ(高さ)を選択して、その平均値を求めるといった方法に基づき測定することができる。ここで、上述したように、溶射皮膜の表面領域における気孔率平均値を上記の範囲とすることで、溶射皮膜表面が非常に緻密な表面状態となり、例えばラップ仕上げを行った後の溶射皮膜表面の輪郭曲線の最大高さRzを容易に0.15μm以下にすることができる。気孔率が上記の範囲の上限を超えると、ラップ仕上げをしても溶射皮膜表面に細かい凹凸が残存してしまい、例えば、成形品表面に凹凸が転写され、成形品の外観に若干ヘーズが生じる虞がある。一方、気孔率を上記の範囲の下限を下回る値にすることは技術的に困難である。ラップ加工は、例えば、ダイヤモンド粉末や化学研磨液等を用いて行うことができ、研磨粒子の番手としては最終仕上げとして5000番以上の物を使用すればよい。また、溶射皮膜表面の輪郭曲線の最大高さRzを0.15μm以下とすることで、例えば、金属膜を入れ子の表面上に(より具体的には、溶射皮膜表面上に)着脱自在に配設(載置)した場合、キャビティ内に射出された溶融ポリカーボネート樹脂組成物の圧力によって金属膜が変形すること(例えば、凹むこと)を確実に防止することができる。
【0035】
本発明において、気孔率とは、皮膜断面内の或る領域において、その面積に対して気孔が占める面積の割合と定義され、気孔率平均値の測定は、例えば、溶射皮膜を厚さ方向に切断して、デジタル顕微鏡、光学顕微鏡、走査型電子顕微鏡(SEM)、レーザー顕微鏡等にて断面の画像を得た後、画像解析装置を用いて係る画像のコントラスト差から気孔率を求め、更には、得られた気孔率から平均値を求めるといった方法に基づき行うことができる。また、本発明において、溶射皮膜に含まれる空隙である気孔とは、開口気孔(開孔)及び密閉気孔(閉孔)の両者を含む。
【0036】
以上に説明した各種の好ましい構成、形態を含む本発明において、素材の溶射される面である金属製ブロック(素地とも呼ばれる)を構成する材料として、炭素鋼やステンレス鋼を例示することができる。尚、金属製ブロックという用語には、合金から成る金属製ブロックが包含される。
【0037】
金属下地層は、溶射皮膜を金属製ブロックに強固に密着させるために必要とされ、その組成として、Ni−Cr、より具体的な組成として、Ni−20%Cr、Ni−50%Cr、Ni−16%Cr−20%Fe、Ni−19%Cr−6%Al、Ni−55%Cr−2.5%Mo−0.5%B等を例示することができる。尚、金属下地層という用語には、合金から成る下地層が包含される。金属下地層の厚さが0.03mm未満では金属製ブロックに対する強固な密着力が得られ難く、一方、1mmを超えると皮膜の溶射中に金属下地層と金属製ブロックの界面で剥離が発生する虞がある。金属下地層の厚さ上限値として、好ましくは0.5mm、更に好ましくは0.3mmを挙げることができ、これによって、皮膜の溶射中に金属下地層と金属製ブロックの界面で剥離が発生することを確実に防止することができ、溶射皮膜の耐久性を向上させることができる。金属下地層は、例えば、プラズマ溶射法やHVOF法、ワイヤーを用いた溶射法等の各種溶射法に基づき形成することができる。尚、溶射法に基づき形成された金属下地層は、下地溶射皮膜あるいはアンダーコートあるいはボンドコートとも呼ばれる。
【0038】
溶射皮膜を構成するセラミックスとして、酸化ジルコニウム、及び、酸化アルミニウムを例示することができる。ここで、酸化ジルコニウムの組成として、より具体的には、CaO安定化ジルコニア(5%CaO−ZrO2,8%CaO−ZrO2,31%CaO−ZrO2)、MgO安定化ジルコニア(20%MgO−ZrO2,24%MgO−ZrO2)、Y23安定化ジルコニア(6%Y23−ZrO2,7%Y23−ZrO2,8%Y23−ZrO2,10%Y23−ZrO2,12%Y23−ZrO2,20%Y23−ZrO2)、ジルコン(ZrO2−33%SiO2)、CeO安定化ジルコニアを挙げることができるし、酸化アルミニウムの組成として、より具体的には、ホワイトアルミナ(Al23)、グレイアルミナ(Al23−1.5〜4%TiO2)、アルミナ・チタニア(Al23−13%TiO2,Al23−20%TiO2,Al23−40%TiO2,Al23−50%TiO2)、アルミナ・イットリア(3Al23・5Y23)、アルミナ・マグネシア(Mg・Al24)、アルミナ・シリカ(3Al23・2SiO2)を挙げることができるが、特に好ましいのは、気孔率を制御し易い酸化ジルコニウムである。但し、「%」は重量%を意味する。
【0039】
溶射皮膜は溶射法によって形成されるが、溶射法として、具体的には、プラズマパウダースプレー法あるいはHVOF法を挙げることができる。尚、溶射皮膜表面から溶射皮膜内部に向かって、少なくとも厚さ0.05mmまでの部分を形成するために、セラミックス粒子(粉末)の飛行速度が2×102m/秒以上であることが望ましい。また、溶射時の膜厚は、緻密な皮膜を得るために、1×10-4m(100μm)/パス以下にすることが望ましい。溶射装置として、飛行速度を早くすることが可能なプラズマ溶射装置、若しくは、高速フレーム溶射装置の一種であるHVOF(High Velocity Oxygen Fuel Spraying)用装置を用いることが好ましい。
【0040】
溶射時、発生する熱による熱膨張に起因して皮膜にクラックが発生することを防止するために、溶射物の表面及び裏面から強制的に溶射物を冷却することが望ましい。冷却には、圧縮空気を用いることができる。尚、溶射物の裏面からの冷却には、水冷ブロック等を用いることもできる。そして、クラックの発生状態を確認しながら、適宜、冷却条件を変更して試験を行い、最適な冷却条件を決定すればよい。
【0041】
更には、以上に説明した好ましい構成、形態を含む本発明の第2の態様において、金属膜は、クロム、クロム化合物、ニッケル、及び、ニッケル化合物から成る群から選択された少なくとも1種類の材料から成ることが好ましい。そして、この場合、金属膜は、メッキによって溶射皮膜上に形成されていることが望ましい。尚、メッキ法として、電気メッキ、無電解メッキ、化学メッキ等、あるいは、これらの組合せを挙げることができる。この場合、金属膜は、溶射皮膜のキャビティ面に成膜されていればよく、例えば、溶射皮膜の全表面に成膜されていてもよい。あるいは又、以上に説明した好ましい構成、形態を含む本発明の第2の態様にあっては、金属膜の表面の輪郭曲線の最大高さRzは0.03μm以下であり、金属膜の表面は平坦あるいは平滑(例えば、鏡面)である構成とすることができる。尚、金属膜を設ける場合にも、溶射皮膜表面の表面粗さ(輪郭曲線の最大高さ)Rzは0.15μm以下であることが望ましい。あるいは又、以上に説明した各種の好ましい構成、形態を含む本発明の第2の態様において、金属膜は、ニッケル−リン合金又はニッケルから成り、入れ子の表面上に着脱自在に配設されている形態とすることもでき、この場合、金属膜を、例えば、平滑なガラス面をマザー型として使用し、電鋳法により作製すればよい。
【0042】
本発明の第2の態様においては、入れ子の表面上(より具体的には溶射皮膜上)に金属膜を配設するが、どのような金属膜を配設するかは、例えば、成形品に依存して決定すればよい。例えば、金属膜を入れ子の表面上に着脱自在に配設する構造(所謂スタンパ構造)とすれば、平面部にのみ、本発明の成形品において規定された外観を有する成形品を得ることができる。従って、成形品の平面部のみにしか適用することができないものの、金属膜の配設を低コストで実現することができる。一方、金属膜をメッキによって溶射皮膜上に形成すれば、3次元形状(立体的な曲面を有する形状)を備えた成形品に適用することができる。金属膜を入れ子のキャビティ面に着脱自在に配設(載置)する場合、成形時、キャビティ内に射出された溶融ポリカーボネート樹脂組成物の流動によって金属膜が動かないように、金属膜を、入れ子の周辺部における真空吸着によって入れ子のキャビティ面に固定する構成としてもよい。具体的には、入れ子の周辺部に貫通孔部を設け、かかる貫通孔部を塞ぐように金属膜を入れ子のキャビティ面に配設(載置)し、貫通孔部を真空吸引装置に接続すればよい。
【0043】
以上に説明した各種の好ましい構成、形態を含む本発明の第2の態様において、上述したとおり、金属膜は、Cr、Cr化合物、Ni及びNi化合物から成る群から選択された少なくとも1種類の材料から成ることが好ましい。金属膜は、1層から構成してもよいし、複数層から構成してもよい。Cr化合物として、具体的には、ニッケル−クロム合金を挙げることができる。また、Ni化合物として、具体的には、ニッケル−鉄合金、ニッケル−コバルト合金、ニッケル−錫合金、ニッケル−リン合金(Ni−P系)、ニッケル−鉄−リン合金(Ni−Fe−P系)、ニッケル−コバルト−リン合金(Ni−Co−P系)を挙げることができる。
【0044】
金属膜の厚さは、0.01mm乃至0.5mm、好ましくは0.1mm乃至0.3mmであることが望ましい。金属膜の厚さが0.01mm未満では、転写性が向上する傾向にはあるが、金属膜の耐久性が乏しくなるために、金属膜の破損や変形、形態にも依るが、溶射皮膜の表面からの金属膜の剥離を引き起こす虞がある。一方、金属膜の厚さが0.5mmを超えると、キャビティ内に射出された溶融ポリカーボネート樹脂組成物の冷却が促進されるために、転写性が劣る傾向になる。
【0045】
本発明においては、溶射皮膜表面に硬質の薄膜を形成してもよい。これによって、キャビティ内に射出された溶融ポリカーボネート樹脂組成物の熱による金属膜の伸縮に起因する溶射皮膜表面への摩擦によって溶射皮膜表面に傷が発生することを防止することが可能になる。更に、金型の取り扱いの際に、溶射皮膜表面に傷が付くことを防止することができる。この場合、薄膜を構成する材料として、TiN、TiAlN、TiC、CBN、BN、アモルファスダイヤモンド、CrN及びCrから成る群から選択された材料を挙げることができ、特に、アモルファスダイヤモンド又はTiN、CrNが好ましい。また、薄膜は、少なくとも1層形成されていればよく、多層であってもよい。例えば、TiNから成る薄膜を溶射皮膜表面に形成し、その上にアモルファスダイヤモンドやCrN等の薄膜を形成してもよい。あるいは又、下地層としてSiO2層を溶射皮膜表面に形成し、その上にアモルファスダイヤモンドやTiN、CrN等の薄膜を形成してもよい。溶射皮膜表面に薄膜を形成する方法としては、常圧CVD法や減圧CVD、熱CVD法、プラズマCVD法、光CVD法、レーザーCVD法等の化学的気相成長法(CVD法)、真空蒸着法やスパッタ法、イオンプレーティング法、イオンビーム蒸着法、IVD法(イオン・ベーパー・デポジション法)等の物理的気相成長法(PVD法)を挙げることができる。
【0046】
薄膜の厚さは、5×10-7m乃至2×10-5m、好ましくは1×10-6m乃至1.5×10-5m、一層好ましくは2×10-6m乃至1.0×10-5mであることが望ましい。また、薄膜表面の表面粗さ(輪郭曲線の最大高さ)Rzは、1nm乃至19nm、好ましくは1nm乃至10nmであることが望ましい。薄膜の厚さが5×10-7m未満の場合、薄膜の強度の低下を招き、成形中に薄膜が入れ子から剥離する場合がある。一方、薄膜の厚さが2×10-5mを越えると、断熱性が低下し、転写性が低下し始めると共に、薄膜の形成に要するコストが上昇する。更には、薄膜表面の表面粗さを上記のとおりに規定することによって金属膜の溶射皮膜表面に対する密着性が向上し、例えば、成形品の成形中、入れ子から金属膜がずれることを防止し得るし、転写性も向上する。
【0047】
第1金型部や第2金型部は、炭素鋼、ステンレス鋼、アルミニウム合金、銅合金等の金属材料から作製することができる。また、溶融樹脂射出部の構造として、ピンポイントゲート構造、サイドゲート構造、フィルムゲート構造、あるいは、ホットランナーによる多点ゲート構造を採用することが、キャビティ内に射出された溶融ポリカーボネート樹脂組成物の流動性の向上といった観点から望ましい。溶融樹脂射出部は、第1金型部に設けられているが、構造によっては、第1金型部と第2金型部とに設けられていてもよい。尚、本発明においては、例えば、第1金型部を固定金型部とし、第2金型部を可動金型部とする構成とすることもできる。
【0048】
本発明の成形品は、以上に説明した各種の好ましい構成、形態を含む本発明の第1の態様あるいは第2の態様に係る射出成形方法によって成形されたポリカーボネート樹脂組成物製の成形品である。ここで、入れ子に対向した部分の形状が、少なくとも平面又は曲面を有する形態とすることができる。更には、このような形態を含む本発明の成形品にあっては、入れ子に対向した部分に穴や開口部が形成されている形態とすることができる。
【0049】
本発明の成形品として、具体的には、携帯電話筐体、PDA筐体、携帯型ミュージックプレイヤー筐体、ゲーム機筐体、ノート型パーソナルコンピュータ筐体を挙げることができる。係る成形品は、携帯して持ち歩くものであり、成形材料として、強度に優れたポリカーボネート樹脂組成物の要求が高い。
【0050】
本発明における成形材料は、2種以上の染料の組合せから成る着色剤、又は、カーボンナノチューブ、又は、2種以上の染料の組合せから成る着色剤及びカーボンナノチューブをポリカーボネート樹脂に添加したポリカーボネート樹脂組成物から成ることを特徴とする。即ち、以上に説明した各種の好ましい構成、形態を含む本発明の第1の態様あるいは第2の態様に係る成形品あるいは射出成形方法におけるポリカーボネート樹脂組成物は、係るポリカーボネート樹脂組成物から成る。
【0051】
2種以上の染料の好ましい配合量としては、染料の合計量で0.005重量%乃至1重量%、更に好ましくは、0.02重量%乃至0.5重量%である。このような配合量より少ないと漆黒性に劣り、多すぎると黒色に色むらを生じたり、成形時に金型を汚染する等の問題を生じる。また、カーボンナノチューブの好ましい配合量は、0.005重量%乃至5重量%、更に好ましくは、0.02重量%乃至1重量%である。このような配合量より少ないと漆黒性に劣り、多すぎると黒色に色むらを生じたりする。また必要以上の添加は、高価であるためにコストが増加するので、好ましくない。
【0052】
このような成形材料を用いることで、例えば、高級感のある漆黒性を得ることができる。しかも、黒色顔料として、通常、使用されるカーボンブラックと比較して、このような成形材料に基づき得られた本発明の成形品は、格段に優れた高級感のある漆黒性を得ることができる。
【0053】
ポリカーボネート樹脂組成物を構成するポリカーボネート樹脂として、芳香族ポリカーボネート樹脂、脂肪族ポリカーボネート樹脂、芳香族−脂肪族ポリカーボネート樹脂を用いることができるが、中でも芳香族ポリカーボネート樹脂が好ましい。ここで、係るポリカーボネート樹脂は、芳香族ジヒドロキシ化合物をホスゲン又は炭酸のジエステルと反応させることによって得られる熱可塑性芳香族ポリカーボネート重合体又は共重合体である。
【0054】
原料の芳香族ジヒドロキシ化合物として、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン[=ビスフェノールA]、テトラメチルビスフェノールA、ビス(4−ヒドロキシフェニル)−p−ジイソプロピルベンゼン、ハイドロキノン、レゾルシノール、及び、4,4’−ジヒドロキシジフェニル等から選ばれる1種又は2種以上を挙げることができ、好ましくは、ビスフェノールAである。更には、難燃性を更に高める目的で、上記の芳香族ジヒドロキシ化合物にスルホン酸テトラアルキルホスホニウムが1つ以上結合した化合物や、シロキサン構造を有する両末端フェノール性OH基含有のポリマーあるいはオリゴマーを使用することができる。
【0055】
そして、ポリカーボネート樹脂として、好ましくは、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンから誘導されるポリカーボネート樹脂、又は、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンと他の芳香族ジヒドロキシ化合物とから誘導されるポリカーボネート共重合体が挙げられる。更には、2種以上のポリカーボネート樹脂を併用してもよい。
【0056】
ポリカーボネート樹脂の分子量は、溶媒としてメチレンクロライドを使用し、温度25゜Cで測定された溶液粘度から換算した粘度平均分子量(Mv)で、1.4×104乃至〜3.0×104の範囲、好ましくは1.5×104乃至2.8×104、より好ましくは1.6×104乃至2.6×104である。粘度平均分子量が1.4×104未満である場合には機械的強度が不足し、3.0×104を越えると成形性に難を生じ易く、好ましくない。
【0057】
このようなポリカーボネート樹脂の製造方法については、限定されるものではなく、ホスゲン法(界面重合法)、あるいは、溶融法(エステル交換法)等で製造することができる。更には、溶融法で製造された、末端基のOH基量を調整したポリカーボネート樹脂を使用することもできる。
【0058】
芳香族ポリカーボネート樹脂として、バージン樹脂だけでなく、使用済みの製品から再生された芳香族ポリカーボネート樹脂、所謂マテリアル・リサイクルされた芳香族ポリカーボネート樹脂を使用してもよい。使用済みの製品としては、例えば、光学ディスク等の光記録媒体、導光板、自動車用窓ガラス相当品、自動車用ヘッドランプ用レンズ、風防等の車両透明部材、水ボトル等の容器、メガネレンズ、防音壁、ガラス窓相当品、波板等の建築部材を挙げることができる。また、製品の不適合品、スプルー、ランナー等から得られた粉砕品、又は、これらを溶融して得たペレット等も使用可能である。再生された芳香族ポリカーボネート樹脂の使用割合は、バージン樹脂に対し、通常80重量%以下、好ましくは50重量%以下である。
【0059】
2種以上の染料の組合せから成る着色剤を構成する染料として、アンスラキノン系、ペリノン系、ペリレン系、アゾ系、メチン系、キノリン系染料等が挙げられ、特に深みと清澄感が高く、漆黒性に優れているという観点から、着色剤が少なくとも1種のアンスラキノン系染料を含むことが好ましい。着色剤を構成する染料は、熱安定性が良好で、2種以上の原色(例えば、赤、 紫、緑、青、黄色)の染料を混合することで、特に深みと清澄感が高く、優れた漆黒性を発現する染料であれば、特に制限されないが、具体的には次のような染料を例示することができる。
【0060】
アンスラキノン系染料として、Solvent Red 52、Solvent Red 111、Solvent Red 149、Solvent Red 150、Solvent Red 151、Solvent Red 168、Solvent Red 191、Solvent Red 207、Disperse Red 22、Disperse Red 60、Solvent Blue 35、Solvent Blue 36、Solvent Blue 63、Solvent Blue 78、Solvent Blue 83、Solvent Blue 87、Solvent Blue 94、Solvent Blue 97、Solvent Green 3、Solvent Green 20、Solvent Green 28、Disperse Violet 28、Solvent Violet 13、Solvent Violet 14、Disperse Violet 31、Solvent Violet 36等のカラーインデックスで市販されている染料を挙げることができる。
【0061】
ペリノン系染料として、Solvent Orange 60、Solvent Orange 78、Solvent Orange 90、Solvent Violet 29、Solvent Red 135、Solvent Red 162、Solvent Red 179等のカラーインデックスで市販されている染料を挙げることができる。
【0062】
ペリレン系染料として、Solvent Green 5、Solvent Orange 55、Vat Red 15、Vat Orange 7、F Orange 240、F Red 305、F Red 339、F Yellow 83等のカラーインデックスで市販されている染料を挙げることができる。
【0063】
アゾ系染料として、Solvent Yellow 14、Solvent Yellow 16、Solvent Yellow 21、Solvent Yellow 61、Solvent Yellow 81、Solvent Red 8、Solvent Red 23、Solvent Red 24、Solvent Red 27、Solvent Red 83、Solvent Red 84、Solvent Red 121、Solvent Red 132、Solvent Violet 21、Solvent Black 21、Solvent Black 23、Solvent Black 27、Solvent Black 28、Solvent Black 31、Solvent Orange 37、Solvent Orange 40、Solvent Orange 45等のカラーインデックスで市販されている染料を挙げることができる。
【0064】
メチン系染料として、Solvent Orange 80、Solvent Yellow 93等のカラーインデックスで市販されている染料を挙げることができ、キノリン系染料として、Solvent Yellow 33、Solvent Yellow 98、Solvent Yellow 157、Disperse Yellow 54、Disperse Yellow 160等のカラーインデックスで市販されている染料を挙げることができる。
【0065】
カーボンナノチューブは、規則的に配列された炭素原子の本質的に連続的な多数層から成る外側領域と、内部中空領域とを有し、各層と中空領域とがフィブリルの円柱軸の周囲に実質的に同心に配置されている本質的に円柱状のフィブリルである。更に、外側領域の規則的に配列された炭素原子が黒鉛状であり、中空領域の直径が2nm〜20nmであることが好ましい。係るカーボンナノチューブは、特表昭62−500943号や米国特許第4,663,230号明細書に詳しく記載されている。その製法については、これらの特許公報や米国特許明細書に記載されているように、遷移金属含有粒子(例えばアルミナを支持体とする鉄、コバルト、ニッケル含有粒子)をCO、炭化水素等の炭素含有ガスと850゜C〜1200゜Cの高温で接触させ、熱分解により生じた炭素を遷移金属を起点として繊維状に成長させる方法が挙げられる。係るカーボンナノチューブは、例えば、ハイペリオン・カタリシス社より、「グラファイト・フィブリル」の商品名で市販されている。
【0066】
尚、以上に説明したポリカーボネート樹脂組成物に、添加剤や、充填剤、強化剤を加えることもできる。
【0067】
添加剤として、可塑剤;安定剤;酸化防止剤:紫外線吸収剤;ニッケルビス(オクチルフェニル)サルファイド等の有機ニッケル化合物、ヒンダードアミン系化合物等の紫外線安定剤;帯電防止剤;難燃剤;バイナジン、プリベントール、チアベンダゾール等の防かび剤;流動パラフィン、ポリエチレンワックス、脂肪酸アマイド等の滑剤;ADCA等の有機発泡剤;透明核剤;有機顔料、無機顔料、有機染料といった各種の着色剤;架橋剤;アクリルグラフトポリマー、MBS等の耐衝撃強化剤を挙げることができる。
【0068】
安定剤として、ジ−n−オクチルスズ化合物、ジ−n−ブチルスズ化合物、ジメチルスズ化合物等の有機スズ系安定剤;三塩基性硫酸鉛、二塩基性亜リン酸鉛、ケイ酸鉛等の鉛化合物系安定剤;カドミウム石けん、鉛石けん、亜鉛石けん等の金属石けん系安定剤;リン酸トリスノニル;リン酸トリスノニルフェニル等を挙げることができる。
【0069】
酸化防止剤として、ジブチルクレゾール、ブチルヒドロキシアニソール等のフェノール系酸化防止剤;メチレンビス(メチルブチルフェノール)、チオビス(メチルブチルフェノール)等のビスフェノール系酸化防止剤;トリス(メチルヒドロキシブチルフェニル)ブタン、トコフェノール等のポリフェノール系酸化防止剤;ジミリスチルチオジプロピオネート等の有機イオウ化合物;トリス(モノ/ジノニルフェニル)ホスファイト等の有機リン化合物を挙げることができる。
【0070】
紫外線吸収剤として、サリチル酸フェニル、サリチル酸ブチルフェニル等のサリチル酸系紫外線吸収剤;ジヒドロキシベンゾフェノン等のベンゾフェノン系紫外線吸収剤;(ヒドロキシメチルフェニル)ベンゾトリアゾール等のベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤;アクリル酸エチルヘキシルシアノジフェノニル等のシアノアクリレート系紫外線吸収剤を挙げることができる。
【0071】
帯電防止剤として、ポリ(オキシエチレン)アルキルアミン、ポリ(オキシエチレン)アルキルフェニルエーテル等の非イオン界面活性剤系帯電防止剤;アルキルスルホン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルリン酸塩等の陰イオン界面活性剤系帯電防止剤;第4級アンモニウムクロライド等の陽イオン界面活性剤系帯電防止剤;両性系界面活性剤;電導性樹脂を挙げることができる。
【0072】
難燃剤として、テトラブロモビスフェノールA、ポリブロモビフェノール、ビス(ヒドロキシジブロモフェニル)プロパン、塩化パラフィン等のハロゲン系難燃剤;リン酸アンモニウム、リン酸トリクレジル等のリン系難燃剤;三酸化アンチモン;赤リン;酸化スズ等を挙げることができる。
【0073】
また、充填剤、強化剤として、無機系材料;ステンレス鋼繊維、高強度アモルファス金属繊維、ステンレス箔、スチール箔、銅箔等の金属系材料;高分子ポリエチレン繊維、高強力ポリアレート繊維、パラ系全芳香族ポリアミド繊維、アラミド繊維、PEEK繊維、PEI繊維、PPS繊維、フッ素樹脂繊維、フェノール樹脂繊維、ビニロン繊維、ポリアセタール繊維等の有機系材料;粉系を挙げることができる。
【0074】
無機系の充填剤、強化剤として、ガラス繊維、ガラス長繊維、石英ガラス繊維等のガラス系材料;PAN系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維、グラファイトウィスカ等の炭素系材料;炭化ケイ素繊維、炭化ケイ素連続繊維、炭化ケイ素ウィスカ、炭化ケイ素ウィスカシート等の炭化ケイ素系材料;ボロン繊維といったボロン系材料;Si−Ti−C−O繊維といったSi−Ti−C−O系材料;チタン酸カリウム繊維、チタン酸カリウムウィスカ、チタン酸カリウム系導電性ウィスカ等のチタン酸カリウム系材料;窒化ケイ素ウィスカ、窒化ケイ素ウィスカシート等の窒化ケイ素系材料;硫酸カルシウムウィスカといった硫酸カルシウム系材料を挙げることができる。
【0075】
粉系の充填剤、強化剤として、マイカフレーク、マイカ粉、シラスバルーン、シリカ微粉、タルク粉、水酸化アルミニウム粉、水酸化マグネシウム粉末、マグネシウムシリケート粉末、硫酸カルシウム微粉、球状中空ガラス粉、金属化粉、高純度合成シリカ微粉、二硫化タングステン粉末、タングステンカーバイト粉、ジルコニア微粉、ジルコニア系微粉末、部分安定化ジルコニア粉末、アルミナ-ジルコニア複合粉末、複合金属粉末、鉄粉、アルミニウム粉、モリブデン金属粉、タングステン粉、窒化アルミニウム粉末、ナイロン微粒子粉、シリコーン樹脂微粉末、スピネル粉末、アモルファス合金粉末、アルミフレーク、ガラスフレークを挙げることができる。
【0076】
鋼材から作製された金型を用い、このような強化剤の添加された成形材料にて成形を行うと、通常、成形品表面に強化剤が浮き出てしまうために、成形品の表面粗さが粗くなり、光沢感及び漆黒感を得ることができない。然るに、本発明の射出成形方法を採用することで、このような強化剤が添加された成形材料を用いて成形を行った場合でも、光沢感及び漆黒感を有するポリカーボネート樹脂組成物製の成形品を得ることができる。尚、充填剤や強化剤の添加量としては、多量に添加すると成形品の表面粗さが粗くなり、漆黒感を得られなくなる虞があるので、好ましくは5重量%以下、更に好ましくは3重量%以下とすることが望ましく、これによって、表面性を犠牲にせずとも剛性を向上させた漆黒感のあるポリカーボネート樹脂組成物製の成形品を得ることができる。
【0077】
また、最終的に成形品表面の表面硬度を高める目的で、本発明のポリカーボネート樹脂組成物製の成形品に対して、アクリル系、ウレタン系、エポキシ系、ウレタンアクリレート系、シリコーン系のクリアー塗装を施してもよいし、ワックスを塗布してもよい。クリアー塗装しても、成形不良が存在しないので問題が生じないし、薄い膜厚で構わないので成形品の表面状態を保ったまま表面硬度のみ向上させることができる。膜厚としては10μm以下が好ましい。
【発明の効果】
【0078】
本発明の成形品にあっては、輪郭曲線の最大高さRz、輪郭曲線要素の平均長さRSmが規定されており、係る規定を満足する本発明の成形品は、非常に高級感を有し、高い光沢性を備えている。また、本発明の成形品にあっては、分光光度計で測定した400nm乃至650nmでの反射率が規定されており、係る規定を満足する本発明の成形品は、深み感があり、漆黒感に優れている。
【0079】
高級感のある高光沢、深み感のある色調を有する成形品を得るためには、ウェルドラインや反りが無いことは勿論のこと、成形品表面の表面粗さや反射率も重要なファクターである。成形品の表面粗さが、輪郭曲線の最大高さRzで0.2μmを越えたり、輪郭曲線要素の平均長さRSmが25μmを越える場合、成形品は曇った感じに見え、深み感が得られないことを見出した。特に、成形品の色が黒色の場合、係る現象が顕著に認識される。尚、色調的に深み感が有るか無いかの表面外観判断は、観察者の感覚によって判断される。要求として多い色調の黒色に関しては、分光光度計による反射率が400nm乃至650nmの可視域において0.7%以下でないと、深い漆黒感を得られないことが分かった。また、同じ黒色であっても、400nm乃至650nmの可視域における反射率が0.7%を超えると、人の目の感性よりグレーがかった色調に感じてしまい、また、深み感を感じず、高級感を損ねてしまう。尚、成形品を10mm×25mm角程度に切断して、分光光度計にて測定することによって、波長域毎の反射率を求めればよい。
【0080】
また、本発明にあっては、断熱皮膜としての溶射皮膜が溶射法によって形成されている。従って、入れ子を焼結体といった緻密であるが脆性な材料から作製したときの種々の問題(焼成炉の問題、製造時の割れの問題、使用時の破損の問題、製造コストが非常に高いといった問題等)が発生することがないし、入れ子は、例えば、金型の構造、キャビティや成形品の形状等からの種々の制約を受けることが無い。また、断熱性を有し、破損し難い溶射皮膜は、厚さ方向に変化した気孔率を有し、この気孔率は、溶射皮膜表面に近い側ほど、低い値である。即ち、溶射皮膜の表面は緻密である。従って、溶射皮膜表面に凹凸が少なく、溶射皮膜表面は平滑性に優れている。それ故、例えば、溶射皮膜表面に配設された金属膜の表面状態は溶射皮膜表面の状態に反映されるが、金属膜の表面状態も平滑性に優れている。従って、転写不良等によって高品質な成形品が得られないといった問題が発生することが無いし、溶射皮膜の耐久性に問題が生じることも無い。
【0081】
また、溶射皮膜の表面は緻密であるが故に、例えば、メッキ法にて金属膜を成膜したとき、金属膜にピンホールが発生し難いし、金属膜の膜厚を薄くすることができる。あるいは又、溶射皮膜の表面は緻密であるが故に、スタンパ構造を採用した場合にあっても、成形中に溶射粒子が入れ子表面から脱落することが無く、成形中に金属膜の裏面が磨耗して金属膜の金属粉が成形品中に混入したり、金属膜の表面側に細かいうねりが発生するといった問題の発生を確実に防止することができる。しかも、成形品の成形コスト削減、成形品の設計から実際の製品としての成形品を成形までに要する時間[TAT(Turn Around Time)]の短縮化を図ることができる。
【0082】
溶射皮膜の気孔率が非常に小さい場合、ラップ仕上げを行った後の溶射皮膜表面の粗さは小さくなるものの、熱伝導率は大きくなる。また、そのような溶射皮膜は、製造時にクラックが発生し易く、膜厚を厚くすることが困難である。そこで、気孔率を溶射皮膜の厚さ方向に変化させ、表面付近を緻密とし、金属製ブロック付近を粗くすることで、溶射皮膜全体の熱伝導率が低く、しかも、ラップ仕上げを行った後の表面の粗さが小さい溶射皮膜を得ることができる。また、熱伝導率が低く、しかも、厚さの厚い溶射皮膜を得ることができるので、例えば、射出成形工程において、溶融ポリカーボネート樹脂組成物が急冷されることによって、成形品に外観不良や転写不良が発生することを確実に防止することができる。更には、ウェルドラインやフローマークの発生、反りやヒケの発生が無く、転写性が非常に優れ、非常に高い光沢性を有し、内部に歪の非常に少ない成形品を得ることができる。また、成形品に穴や開口部を形成する場合にあっても、後述するように、ウェルドラインの発生を確実に防止することができる。
【0083】
従って、全てが緻密であるセラミックス焼結体から作製された入れ子を使用し、しかも、入れ子の破損防止対策として複雑な型組を採用した従来の金型組立体を用いること無く、表面が同等の品質を有する、即ち、外観特性に優れた成形品を提供することが可能となる。
【0084】
また、得られた成形品においては、ガラス繊維等の充填剤が配合されたポリカーボネート樹脂組成物を用いて成形した場合であっても、キャビティ内での溶融ポリカーボネート樹脂組成物の急冷を防止できるために、充填剤の浮きを防止することができ、また、キャビティ内に射出された溶融ポリカーボネート樹脂組成物における固化層の急速な発達を抑制できるために、キャビティ内の溶融ポリカーボネート樹脂組成物の流動性を、通常の鋼材から作製された入れ子の場合と比較して、1〜3割ほど高められる効果もあり、特に薄肉の成形品を容易に成形することができる。また、三次元曲率を有する成形品にまで応用できるため、応用範囲を大幅に広げることが可能となる。
【0085】
成形品に穴や開口部を設ける場合、第1金型部に金属製の第1コア部材を配設し、第2金型部に金属製の第2コア部材を配設する。そして、第1金型部と第2金型部とを型締めすることでキャビティを形成する。尚、第1金型部と第2金型部とを型締めした状態において、第1コア部材の先端面と第2コア部材の先端面とは接触した状態、あるいは、対向した状態となる。そして、キャビティ内に溶融ポリカーボネート樹脂組成物を射出するが、コア部材の周囲を溶融ポリカーボネート樹脂組成物が流動し、表層が冷えかけたポリカーボネート樹脂組成物同士が合流する結果、合流部位にウェルドラインと呼ばれる筋状のラインが屡々発生する。このような現象を解決する方法として、環状の焼結体(環状焼結体と呼ぶ)を作製し、環状焼結体をコア部材に挿入し、接着剤等でコア部材に接着する方法を挙げることができる。しかしながら、このような方法では、ウェルドラインは消失できるが、キャビティ面を構成する入れ子とは別部品として環状焼結体を作製する必要があるし、環状焼結体を精度良く加工しないと、第1金型部と第2金型部との型締め時に破損する虞が高い。特に、キャビティが複雑な三次元形状や球の一部を構成している場合、環状焼結体を固定すべき第1金型部や第2金型部の部分に精度良く加工、接着ができない可能性が高い。更には、環状焼結体と入れ子との間には、破損防止のために若干のクリアランスが必要であり、環状焼結体や入れ子の作製が困難となる。
【0086】
本発明にあっては、溶射処理で入れ子の表面に溶射皮膜を形成するので、複雑な三次元形状や球面から成るキャビティ面の一部を入れ子が構成する場合にあっても、入れ子を容易に作製することができる。また、ウェルドラインの発生を確実に防止することができる。更には、成形品に穴や開口部を設けるために、入れ子に突起部(コア部材に相当する)を設ける場合、係る突起部の表面に厚さ0.03mm乃至1mmの金属下地層を形成し、金属下地層上にセラミックスから成る溶射皮膜を形成すればよい。但し、突起部の当たり面あるいは対向面には、金属下地層及び溶射皮膜を形成する必要はない。また、この場合には、突起部に設けられた溶射皮膜の上に金属膜を配設してもよいし、配設しなくともよい。尚、以上の場合にあっても、溶射皮膜は厚さ方向に変化した気孔率を有し、気孔率は、溶射皮膜表面に近い側ほど、低い値であるといった要件を満たす必要がある。係る要件を満たしていない場合、第1金型部と第2金型部とを離型するときに、空隙に入り込んだポリカーボネート樹脂組成物によって溶射皮膜自体が破損するといった問題が生じる虞がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0087】
以下、図面を参照して、実施例に基づき本発明を説明する。
【実施例1】
【0088】
実施例1は、本発明の第1の態様に係るポリカーボネート樹脂組成物製の成形品、本発明の第1の態様に係る射出成形方法に関する。
【0089】
実施例1のポリカーボネート樹脂組成物製の成形品(以下、ポリカーボネート樹脂組成物製の成形品を、単に、『成形品』と呼ぶ場合がある)は、実施例1の射出成形方法によって成形された成形品であり、具体的には、実施例1においては、成形品を箱型形状の筐体モデルとした。ここで、より具体的には、成形品は、携帯電話用筐体である。このような成形品には、強度と光沢が求められるため、成形材料としてポリカーボネート樹脂組成物が使用されている。
【0090】
ここで、実施例1、あるいは、後述する実施例2〜実施例3にあっては、成形品の原料であるポリカーボネート樹脂組成物として、表1に示すポリカーボネート樹脂組成物を用いた。また、後述する実施例4〜実施例6にあっては、成形品の原料であるポリカーボネート樹脂組成物として、表2に示すポリカーボネート樹脂組成物を用いた。尚、ポリカーボネート樹脂として、三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社製「ユーピロンS−3000FN」を使用したが、係るポリカーボネート樹脂は、界面重合法で製造されたビスフェノールA型芳香族ポリカーボネート樹脂であり、粘度平均分子量(Mv)は約22500である。また、安定剤として、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト(旭電化工業株式会社製「アデカスタブAS2112」)を使用した。更には、カーボンナノチューブとして、具体的には、ポリカーボネート樹脂85重量%と、外径15nm、内径5nm、長さ0.1μm〜10μmの中空炭素フィブリル(商品名:グラファイト・フィブリルBN)15重量%とを含有するマスターバッチ(ハイペリオン・カタリシス社の商品名:PC/15BN)を使用した。また、表1及び表2における染料の欄においては、上段に商品名、下段にカラーインデックスを表記した。
【0091】
[表1]

【0092】
[表2]

【0093】
尚、実施例1、あるいは、後述する実施例2〜実施例6、及び、各種比較例にあっては、以下の組成物を使用した。
実施例1 :組成物−A
実施例2 :組成物−B
実施例3 :組成物−C
実施例4 :組成物−E
実施例5 :組成物−F
実施例6 :組成物−G
比較例1A〜1D:組成物−A
比較例2A :組成物−B
比較例2B :組成物−D
比較例4A〜4D:組成物−E
比較例5A :組成物−F
比較例5B :組成物−H
【0094】
成形品自体も、軽量化やコストダウン等の影響で厚さが薄くなってきているために、従来の技術では、成形、特に、キャビティ内を溶融ポリカーボネート樹脂組成物(以下、便宜上、『溶融樹脂組成物』と呼ぶ)で完全に充填させることが難しくなってきている。そこで、キャビティ内を溶融樹脂組成物で完全に充填させるために、キャビティ内の溶融樹脂組成物の流動距離の短縮を目的として多点ゲート構造を採用すると、ウェルドラインが発生するし、充填圧力(射出圧力)を高くすると、得られた成形品に大きな反りが発生したり、フローマーク等の外観不良が発生するといった問題が生じる。また、材料面では、流動性の向上を目的として、分子量を低下させたり、流動性改良剤等を併用して対策しているが、成形品自体の強度低下によって、落下時の破損を招くといった問題がある。
【0095】
また、成形品外観の向上のために成形品を塗装すると、塗装の歩留りが悪いといった問題が生じる。従って、コストダウン、塗装による肌荒れ解消を目的として、無塗装タイプの成形品が検討されている。即ち、成形品の外観面は鏡面磨きが施されている。ところで、成形品の射出成形にあっては、鏡面の転写性を高くしないと高光沢が出ないので、転写性を高くする必要がある。そして、そのために金型温度を高くすると、その結果、成形サイクルが長くなってしまうといった問題が生じる。また、高い光沢を有しているが故に、反りが目立ち易い。このように、従来の技術は、種々の問題を有している。
【0096】
実施例1の成形品は、100mm×50mm、高さ5mmの箱型形状を有する。
【0097】
実施例1の金型組立体10は、概念図を図2に示すように、
(A)第1金型部(固定金型部)11、第2金型部(可動金型部)12、及び、第1金型部11に設けられた溶融樹脂射出部14を備え、第1金型部11と第2金型部12との型締めによってキャビティ13が形成される金型、並びに、
(B)第1金型部11及び第2金型部12に配置され、キャビティ13を構成する面を形成する入れ子20A,20B、
を備えている。尚、溶融樹脂射出部14は、ゲート点数が1点のサイドゲート構造を有する。
【0098】
そして、図1の(A)に模式的な断面図を示し、図1の(B)に拡大した模式的な一部断面図を示すように、入れ子20A,20Bは、
(a)金属製ブロック31A,31B、
(b)金属製ブロック31A,31Bの少なくともキャビティ13に面した表面(金属製ブロック31A,31Bの頂面)に形成された、厚さ0.03mm乃至1mmの金属下地層32A,32B、及び、
(c)金属下地層32A,32B上に形成された、セラミックスから成る溶射皮膜33A,33B、
から構成されている。そして、入れ子20A,20Bは、図示しないボルトを用いて、第1金型部(固定金型部)11及び第2金型部(可動金型部)12に固定されている。
【0099】
ここで、溶射皮膜33A,33Bは、厚さ方向に変化した気孔率を有し、この気孔率は、溶射皮膜33A,33Bの表面に近い側ほど(溶射皮膜33A,33Bの表面に近い部分ほど)、低い値である。尚、図1の(B)、あるいは又、後述する図1の(C)においては、気孔が整列しているように図示しているが、実際には、気孔はランダムに形成されている。また、専ら、密閉気孔(閉孔)を図示しているが、当然であるが、開口気孔(開孔)も存在する。
【0100】
具体的には、金属製ブロック31A,31Bは、20゜C乃至200゜Cにおける線膨張係数が11.5×10-6/゜CであるSUS420J2(日立金属株式会社製HPM38)から作製されている。また、厚さ0.08mmの金属下地層32A,32Bは、溶射皮膜33A,33Bを金属製ブロック31A,31Bに強固に密着させるために必要とされ、その組成は、Ni−Cr(より具体的には、Ni−20%Cr)であり、溶射法に基づき金属製ブロック31A,31Bの頂面に形成されている。実施例2〜実施例6にあっても同様である。
【0101】
ここで、成形品を成形するための入れ子20A,20Bにあっては、第1金型部11に配置された入れ子20Aの形状は直方体であり、外形寸法(縦×横×厚さ)は、140mm×90mm×30mmであり、成形品の外面を成形する入れ子20Aの部分(凹部)の寸法縦×横×深さは、100mm×50mm×5mmである。一方、第2金型部12に配置された入れ子20Bの形状は直方体であり、外形寸法(縦×横×厚さ)は、140mm×90mm×30mmである。また、成形品の外面を成形するための入れ子20Bの部分(凸部)の寸法(縦×横×深さ)は、96mm×46mm×3mmである。
【0102】
実施例1においては、溶射皮膜33A,33Bは組成が異なる2層の単位層から構成されており、プラズマ溶射装置にて形成されている。具体的には、溶射皮膜33A,33Bを構成する第1層目(下層)33’はZrO2から成り、第2層目(上層)33”はAl23から成る。また、溶射皮膜33A,33Bの表面は、鏡面仕上げとなっている。第2層目(上層)33”の表面粗さ(輪郭曲線の最大高さ)Rzは0.1μmである。
【0103】
表3に、実施例1、あるいは又、後述する実施例2における金属下地層の組成、厚さ;溶射皮膜33A,33B全体の組成、層構成、総厚、熱伝導率;溶射皮膜33A,33Bを構成する第2層目(上層)の単位層33”又は溶射皮膜33A,33Bの組成、厚さ、気孔率平均値、平均粒径、表面粗さ;溶射皮膜33A,33Bを構成する第1層目(下層)の単位層33’の組成、厚さ、気孔率平均値、平均粒径;表面領域の気孔率平均値、平均粒径;底部領域の気孔率平均値、平均粒径を示す。
【0104】
比較のため、表4に、比較例1A、比較例1B、比較例1Cにおける金属下地層の組成、厚さ;溶射皮膜全体の組成、層構成、総厚、熱伝導率;溶射皮膜を構成する第2層目(上層)の単位層又は溶射皮膜の組成、厚さ、気孔率平均値、平均粒径、表面粗さ;溶射皮膜を構成する第1層目(下層)の単位層の組成、厚さ、気孔率平均値、平均粒径;表面領域の気孔率平均値、平均粒径;底部領域の気孔率平均値、平均粒径を示す。
【0105】
ここで、比較例1A、比較例1B、比較例1Cにおいては、金属下地層は形成されていない。また、比較例1Aにおいては、溶射皮膜は組成が異なる2層の単位層から構成されており、比較例1Bにおいては、溶射皮膜は組成が同じである2層の単位層から構成されており、比較例1Cにおいては、溶射皮膜は単層溶射皮膜から構成されている。尚、比較例1Cにおいては、1層の溶射皮膜全体の気孔率の値が同じとなるように、溶射皮膜を形成した。
【0106】
[表3]

【0107】
[表4]

【0108】
実施例1における射出成形条件を表5に例示する。尚、射出成形機として、実施例1〜実施例3にあっては、ソディックプラステック株式会社製TR100EHを使用した。そして、実施例1にあっては、金型組立体10Aの概念図を図2に示すように、第1金型部(固定金型部)11と第2金型部(可動金型部)12とを型締めしてキャビティ13を形成する。そして、組成物−Aであるポリカーボネート樹脂組成物(以下、便宜上、『樹脂組成物』と呼ぶ)を射出用シリンダー16内で可塑化・溶融、計量した後、射出用シリンダー16からランナー部及びスプルー部15、溶融樹脂射出部(ゲート部)14を介して、表5に示した射出成形条件で、キャビティ13内に溶融樹脂組成物を射出して、キャビティ13内を溶融樹脂組成物で完全に充填した。次いで、キャビティ13内の樹脂組成物を冷却、固化し、その後、得られた成形品を金型から離型した。
【0109】
実施例1の成形品の評価結果を表5に示す。実施例1にあっては、ゲート点数が1点のサイドゲート構造を有する溶融樹脂射出部14であったが、成形品は、転写性が非常に優れており、ウェルドラインの発生もなく、非常に高い光沢性と深い漆黒性を有していた。また、成形品には反りの発生もなく、非常に高級感にあふれていた。更には、5万回の成形を行ったが、入れ子20A,20Bに損傷等は生じなかった。
【0110】
尚、島津製作所製のUV−3100PC型分光高度計を用いて、成形品の平面部分において、450nm〜650nmの拡散反射率を測定した。表中に、450nmの反射率を記載する。
【0111】
比較のために、鋼材から作製した入れ子を用いて射出成形したところ、キャビティ13内に溶融樹脂組成物(組成物−A)を完全に充填させることができなかった。そこで、樹脂温度を320゜C、金型温度を120゜Cに変更して、射出成形を行ったところ、キャビティ13内に溶融樹脂組成物を完全に充填させることはできたが、成形品にウェルドラインが発生しており、また、ウェルドラインの周囲や溶融樹脂射出部14近傍にフローマークが発生しており、成形品の外観は非常に醜く、成形品に漆黒感は得られなかった。しかも、樹脂組成物を無理やりキャビティ13内に充填させたので、成形品が反り上がっていた。係る比較例を、比較例1Dとして、成形品の評価結果を表5に示す。
【0112】
実施例1、あるいは又、後述する実施例2〜実施例3によって得られた溶射皮膜の表面を目視観察したところ、高光沢を有しており、表面は平滑であり、クラックの発生は認められなかった。一方、比較例1Aにおいては、溶射皮膜の表面がざらつき、表面粗さが非常に粗くなっていた。また、比較例1Bによって得られた溶射皮膜の表面を目視観察したところ、クラックが発生していた。更には、比較例1Cによって得られた溶射皮膜の表面を目視観察したところ、表面に大きな凹凸が認められた。しかも、比較例で得られたサンプルには、金属製ブロックとの界面で剥離も生じていた。比較例1A、比較例1B、比較例1Cにて得られた成形品の評価結果を表5に示す。
【実施例2】
【0113】
実施例2は、実施例1の変形であり、本発明の第1の態様に係る射出成形方法に関するが、中空部を有する成形品を成形するためにガスアシスト成形法を採用した。
【0114】
実施例2においては、実施例1で用いた金型を用いて、第1金型部11に配置された入れ子20Aに対向する成形品の部分におけるヒケを実施例1よりも更に低減できるように、第2金型部12に配置された入れ子20Bの外周部に、係る外周部に対向する成形品の部分に肉厚が2mmのリブ部が形成されるように、凹部を設けた。
【0115】
更には、中空部を形成するために、加圧流体として窒素ガスを用いたガスアシスト成形法を実行するが、そのために、第2金型部(可動金型部)12に加圧流体導入用の配管と加圧流体注入ノズル17を設置した。尚、加圧流体注入ノズル17の後部には、油圧シリンダーから成る移動手段18が取り付けられている。
【0116】
実施例2における射出成形条件を表5に例示する。実施例2にあっても、金型組立体10Bの概念図を図3に示すように、第1金型部(固定金型部)11と第2金型部(可動金型部)12とを型締めしてキャビティ13を形成する。そして、移動手段18の動作によって、加圧流体注入ノズル17をキャビティ13に向かう方向に移動させ、前進端に位置させた(図3参照)。この状態にあっては、加圧流体注入ノズル17はキャビティ13に連通している。そして、樹脂組成物(組成物−B)を射出用シリンダー16内で可塑化・溶融、計量した後、射出用シリンダー16からランナー部及びスプルー部15、溶融樹脂射出部(ゲート部)14を介して、表5に示した射出成形条件で、キャビティ13内に溶融樹脂組成物を射出して、キャビティ13内を溶融樹脂組成物で不完全に充填した。即ち、キャビティ13の一部を溶融樹脂組成物で充填した。尚、実施例2にあっては、キャビティ容積の約99%を満たす容量の溶融樹脂組成物をキャビティ13内に射出した。そして、射出完了後、直ちに、加圧流体注入ノズル17から1.5×107Pa(15MPa)の窒素ガスをキャビティ13内の溶融樹脂組成物に注入した。次いで、キャビティ13内の樹脂組成物を冷却、固化し、その後、得られた成形品を金型から離型した。尚、実施例2にあっては、金型にキャビティ13に連通したオーバーフローキャビティを設けなかったが、キャビティ13に射出された溶融樹脂組成物の一部が成形中に流入し得るオーバーフローキャビティ構造を用いることもできる。この場合、キャビティ13に射出された溶融樹脂組成物の一部は、オーバーフローキャビティに流入するため、より中空部を形成し易くなる。
【0117】
実施例2の成形品の評価結果を表5に示す。ガスアシスト成形法を採用したので、成形品、特に、リブ部の近傍にヒケの発生は認められず、転写性も優れているために、成形品は非常に高い光沢性と深い漆黒感を有していた。また、実施例1と同様に、溶融樹脂組成物同士が合流することによって発生するウェルドラインの発生や、ガスアシスト成形特有の現象である「色むら」現象の発生もなかった。尚、「色むら」とは、注入された加圧流体が、キャビティ面近傍の溶融樹脂組成物と混合される結果生じる色むらである。更には、5万回の成形を行ったが、入れ子20A,20Bに損傷等は生じなかった。
【0118】
比較のために、鋼材から作製した入れ子を用いて射出成形したところ、キャビティ13内に溶融樹脂組成物(組成物−B)を完全には充填させることができず、窒素ガスをキャビティ13内の溶融樹脂組成物に注入したところ、得られた成形品には欠陥部としての穴が開いていた。そこで、射出圧力を1.5×108Pa(150MPa)に変更して、ガスアシスト成形を行ったところ、キャビティ13内に溶融樹脂組成物を完全に充填させることができ、得られた成形品に欠陥部としての穴が開いてはいなかったものの、光沢性や深い漆黒感が実施例2よりも悪く、また、ウェルドラインが発生しており、更には、「色むら」現象が発生しており、外観的に優れた成形品を得ることはできなかった。係る比較例を、比較例2Aとして、成形品の評価結果を表5に示す。また、ポリカーボネート樹脂組成物として、組成物−Dを使用して、比較例2Aと同じ射出成形条件で射出成形をして得られた成形品を、比較例2Bとして、成形品の評価結果を表5に示す。
【実施例3】
【0119】
実施例3においては、実施例1において説明した金型組立体を使用し、表1に示した組成物−Cを用いて、実施例1と同じ射出成形条件に基づき、実施例1と同じ形状の成形品を得た。成形品の評価結果を表5に示すが、成形品は、転写性が非常に優れており、ウェルドラインの発生もなく、非常に高い光沢性と深い漆黒性を有していた。
【0120】
[表5]

【実施例4】
【0121】
実施例4も、実施例1の変形であるが、本発明の第2の態様に係る成形品、本発明の第2の態様に係る射出成形方法に関する。
【0122】
実施例4の成形品は、実施例4の射出成形方法によって成形された成形品であり、具体的には、実施例4においては、成形品を携帯電話用の筐体とした。ここで、成形品は、より具体的には、小型の液晶表示装置を有するアウターカバー(筐体)である。
【0123】
実施例4の成形品は、100mm×50mmの緩やかな曲面と平面とが組み合わされた箱型形状を有し、中心部に小型の液晶表示装置を配置するために40mm×20mmの穴(開口部)が空いており、肉厚は1.5mmであり、外縁には高さ8mmの側壁が設けられた箱型(凹状)の形状を有する。尚、反射率は平面の部分で測定した。
【0124】
実施例4の金型組立体10は、概念図を図2に示したと同様に、
(A)第1金型部(固定金型部)11、第2金型部(可動金型部)12、及び、第1金型部11に設けられた溶融樹脂射出部14を備え、第1金型部11と第2金型部12との型締めによってキャビティ13が形成される金型、並びに、
(B)第1金型部11及び第2金型部12に配置され、キャビティ13を構成する面を形成する入れ子20A,20B、
を備えている。尚、溶融樹脂射出部14は、実施例1と同様に、ゲート点数が1点のサイドゲート構造を有する。そして、実施例4の金型組立体は、更に、図4に示すように、
(C)キャビティ13を構成する面を形成し、入れ子の表面上に配設された厚さ0.03mm乃至0.5mmの金属膜40A,40B、
を備えている。
【0125】
そして、図4に模式的な断面図を示し、図1の(C)に拡大した模式的な一部断面図を示すように、入れ子20A,20Bは、実施例1と同様に、
(a)金属製ブロック31A,31B、
(b)金属製ブロック31A,31Bの少なくともキャビティ13に面した表面(金属製ブロック31A,31Bの頂面)に形成された、厚さ0.03mm乃至1mmの金属下地層32A,32B、及び、
(c)金属下地層32A,32B上に形成された、セラミックスから成る溶射皮膜33A,33B、
から構成されている。そして、入れ子20A,20Bは、図示しないボルトを用いて、第1金型部(固定金型部)11及び第2金型部(可動金型部)12に固定されている。
【0126】
溶射皮膜33A,33Bは、実施例1と同様に、厚さ方向に変化した気孔率を有し、この気孔率は、溶射皮膜33A,33Bの表面に近い側ほど(溶射皮膜33A,33Bの表面に近い部分ほど)、低い値である。
【0127】
ここで、実施例4においては、成形品を成形するための入れ子20A,20Bにあっては、第1金型部11に配置された入れ子20Aの形状は「凹」状であり、外形寸法(縦×横×厚さ)は、120mm×70mm×40mmであり、成形品の外面を成形する入れ子20Aの部分(凹部)の寸法縦×横×深さは、100mm×50mm×8mmである。一方、第2金型部12に配置された入れ子20Bの形状は「凸」状であり、外形寸法(縦×横×厚さ)は、97mm×47mm×6.5mmである。更には、全体に緩やかな1000mm程度の曲率を有し、側壁との境界領域(コーナー部)において、外面側には直径3.0mmの曲率が付されている。また穴(開口部)を形成するために、中心付近に40mm×20mmの金属コアが設けてある。
【0128】
実施例4においては、溶射皮膜33A,33Bは、図1の(C)に入れ子20A,20Bの拡大した模式的な一部断面図を示すように、1層の単位層(ZrO2から成る)から構成されており、プラズマ溶射装置にて形成されている。具体的には、溶射皮膜33A,33BはZrO2から成る。尚、溶射皮膜33A,33Bの表面は、鏡面仕上げとなっている。溶射皮膜33A,33Bの表面の表面粗さ(輪郭曲線の最大高さ)Rzは0.13μmである。ここで、第2層目(上層)33”の表面には、図4に示すように、金属膜40A,40Bが配設されている。具体的には、第2層目(上層)33”の表面を酸を用いてエッチングした後、無電解メッキ法にて、Ni−Pから成る厚さ100μmの金属膜40A,40Bを第2層目(上層)33”の表面に形成し、次いで、鏡面仕上げを施す。こうして、表面粗さ(輪郭曲線の最大高さ)Rzが0.05μmであり、鏡面仕上げ後の厚さが80μmである金属膜40A,40Bを得ることができる。
【0129】
表6に、実施例4、あるいは又、後述する実施例5における金属下地層の組成、厚さ;溶射皮膜33A,33B全体の組成、層構成、総厚、熱伝導率;溶射皮膜33A,33Bを構成する第2層目(上層)の単位層33”又は溶射皮膜33A,33Bの組成、厚さ、気孔率平均値、平均粒径、表面粗さ;溶射皮膜33A,33Bを構成する第1層目(下層)の単位層33’の組成、厚さ、気孔率平均値、平均粒径;表面領域の気孔率平均値、平均粒径;底部領域の気孔率平均値、平均粒径を示す。
【0130】
比較のため、表7に、比較例4A、比較例4B、比較例4Cにおける金属下地層の組成、厚さ;溶射皮膜全体の組成、層構成、総厚、熱伝導率;溶射皮膜を構成する第2層目(上層)の単位層又は溶射皮膜の組成、厚さ、気孔率平均値、平均粒径、表面粗さ;溶射皮膜を構成する第1層目(下層)の単位層の組成、厚さ、気孔率平均値、平均粒径;表面領域の気孔率平均値、平均粒径;底部領域の気孔率平均値、平均粒径を示す。
【0131】
ここで、比較例4A、比較例4B、比較例4Cにおいては、金属下地層は形成されていない。また、比較例4Aにおいては、溶射皮膜は組成が異なる2層の単位層から構成されており、比較例4Bにおいては、溶射皮膜は組成が同じである2層の単位層から構成されており、比較例4Cにおいては、溶射皮膜は単層溶射皮膜から構成されている。尚、比較例4Cにおいては、1層の溶射皮膜全体の気孔率の値が同じとなるように、溶射皮膜を形成した。
【0132】
[表6]

【0133】
[表7]

【0134】
実施例4における射出成形条件を表8に例示する。尚、射出成形機として、実施例4〜実施例6にあっては、友重機械工業株式会社SG75を使用した。そして、実施例4にあっては、金型組立体10Aの概念図を図2に示したと同様に、第1金型部(固定金型部)11と第2金型部(可動金型部)12とを型締めしてキャビティ13を形成する。そして、樹脂組成物(組成物−E)を射出用シリンダー16内で可塑化・溶融、計量した後、射出用シリンダー16からランナー部及びスプルー部15、溶融樹脂射出部(ゲート部)14を介して、表8に示した射出成形条件で、キャビティ13内に溶融樹脂組成物を射出して、キャビティ13内を溶融樹脂組成物で完全に充填した。次いで、キャビティ13内の樹脂組成物を冷却、固化し、その後、得られた成形品を金型から離型した。
【0135】
実施例4の成形品の評価結果を表8に示す。実施例4にあっても、ゲート点数が1点のサイドゲート構造を有する溶融樹脂射出部14であったが、成形品は、転写性が非常に優れており、ウェルドラインの発生もなく、非常に高い光沢性と深い漆黒性を有していた。また、成形品には反りの発生もなく、非常に高級感にあふれていた。更には、5万回の成形を行ったが、入れ子20A,20Bに損傷等は生じなかった。
【0136】
比較のために、鋼材から作製した入れ子を用いて射出成形したところ、キャビティ13内に溶融樹脂組成物(組成物−E)を完全に充填させることができなかった。そこで、樹脂温度を310゜C、金型温度を120゜Cに変更して、射出成形を行ったところ、キャビティ13内に溶融樹脂組成物を完全に充填させることはできたが、成形品にウェルドラインが発生しており、また、ウェルドラインの周囲や溶融樹脂射出部14近傍にフローマークが発生しており、成形品の外観は非常に醜く、成形品に漆黒感は得られなかった。しかも、樹脂組成物を無理やりキャビティ13内に充填させたので、成形品が反り上がっていた。係る比較例を、比較例4Dとして、成形品の評価結果を表8に示す。
【0137】
実施例4、あるいは又、後述する実施例5〜実施例6によって得られた溶射皮膜の表面を目視観察したところ、高光沢を有しており、表面は平滑であり、クラックの発生は認められなかった。一方、比較例4Aにおいては、溶射皮膜の表面がざらつき、表面粗さが非常に粗くなっていた。また、比較例4Bによって得られた溶射皮膜の表面を目視観察したところ、クラックが発生していた。更には、比較例4Cによって得られた溶射皮膜の表面を目視観察したところ、表面に大きな凹凸が認められた。しかも、比較例で得られたサンプルには、金属製ブロックとの界面で剥離も生じていた。比較例4A、比較例4B、比較例4Cにて得られた成形品の評価結果を表8に示す。
【実施例5】
【0138】
実施例5は、実施例4の変形であり、本発明の第2の態様に係る射出成形方法に関するが、中空部を有する成形品を成形するためにガスアシスト成形法を採用した。
【0139】
実施例5においては、実施例4で用いた金型を用いて、第1金型部11に配置された入れ子20Aに対向する成形品の部分におけるヒケを実施例4よりも更に低減できるように、第2金型部12に配置された入れ子20Bの外周部に、係る外周部に対向する成形品の部分に肉厚が6mmのリブ部が形成されるように、凹部を設けた。
【0140】
更には、リブ部に中空部を形成するために、実施例2において説明した金型組立体と同様に、第2金型部(可動金型部)12に加圧流体導入用の配管と加圧流体注入ノズル17、移動手段18を設置した。
【0141】
実施例5における射出成形条件を表8に例示する。実施例5にあっても、金型組立体10Bの概念図を図3に示し、実施例3において説明したと同様に、第1金型部(固定金型部)11と第2金型部(可動金型部)12とを型締めしてキャビティ13を形成する。そして、移動手段18の動作によって、加圧流体注入ノズル17をキャビティ13に向かう方向に移動させ、前進端に位置させた(図3参照)。この状態にあっては、加圧流体注入ノズル17はキャビティ13に連通している。そして、樹脂組成物(組成物−F)を射出用シリンダー16内で可塑化・溶融、計量した後、射出用シリンダー16からランナー部及びスプルー部15、溶融樹脂射出部(ゲート部)14を介して、表8示した射出成形条件で、キャビティ13内に溶融樹脂組成物を射出して、キャビティ13内の一部を溶融樹脂組成物で充填した。尚、実施例5にあっては、キャビティ容積の約99%を満たす容量の溶融樹脂組成物をキャビティ13内に射出した。そして、射出完了後、直ちに、加圧流体注入ノズル17から150MPaの窒素ガスをキャビティ13内の溶融樹脂組成物に注入した。次いで、キャビティ13内の樹脂組成物を冷却、固化し、その後、得られた成形品を金型から離型した。尚、実施例5にあっても、金型にキャビティ13に連通したオーバーフローキャビティを設けなかったが、キャビティ13に射出された溶融樹脂組成物の一部が成形中に流入し得るオーバーフローキャビティ構造を用いることができる。この場合、キャビティ13に射出された溶融樹脂組成物の一部は、オーバーフローキャビティに流入するため、より中空部を形成し易くなる。
【0142】
実施例5の成形品の評価結果を表8に示す。ガスアシスト成形法を採用したので、成形品の外周にヒケの発生は認められず、転写性も優れているために、非常に高い光沢性と深い漆黒感を有していた。また、実施例4と同様に、溶融樹脂組成物同士が合流することによって発生するウェルドラインの発生や、ガスアシスト成形特有の現象である「色むら」現象の発生もなかった。更には、5万回の成形を行ったが、入れ子20A,20Bに損傷等は生じなかった。
【0143】
比較のために、鋼材から作製した入れ子を用いて射出成形したところ、キャビティ13内に溶融樹脂組成物(組成物−F)を完全には充填させることができず、窒素ガスをキャビティ13内の溶融樹脂組成物に注入したところ、得られた成形品には欠陥部としての穴が開いていた。そこで、射出圧力を150MPaに変更して、ガスアシスト成形を行ったところ、キャビティ13内に溶融樹脂組成物を完全に充填させることができ、得られた成形品に欠陥部としての穴が開いてはいなかったものの、光沢性や深い漆黒感が実施例5よりも悪く、また、金属コア付近の樹脂の合流点の周りにはウェルドラインが発生しており、更には、「色むら」現象が発生しており、外観的に優れた筐体を得ることはできなかった。係る比較例を、比較例5Aとして、成形品の評価結果を表8に示す。また、ポリカーボネート樹脂組成物として、組成物−Hを使用して、比較例5Aと同じ射出成形条件で射出成形をして得られた成形品を、比較例5Bとして、成形品の評価結果を表8に示す。
【実施例6】
【0144】
実施例6においては、実施例4において説明した金型組立体を使用し、表2に示した組成物−Gを用いて、実施例4と同じ射出成形条件に基づき、実施例4と同じ形状の成形品を得た。成形品の評価結果を表8に示すが、成形品は、転写性が非常に優れており、ウェルドラインの発生もなく、非常に高い光沢性と深い漆黒性を有していた。
【0145】
[表8]

【0146】
以上、本発明を好ましい実施例に基づき説明したが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。実施例において説明した入れ子の構造、構成、使用した材料、金型組立体の構成、構造、射出成形条件等は例示であり、適宜変更することができる。実施例にあっては、第1金型部及び第2金型部に入れ子を配設したが、成形すべき成形品に依っては、第1金型部にのみ入れ子を配設してもよいし、第2金型部にのみ入れ子を配設してもよい。また、成形すべき成形品に依存して、キャビティに面した入れ子の表面の全てが溶射皮膜から構成されている構成とすることもできるし、一部が溶射皮膜から構成されており、残部には金属製ブロックが露出している構成とすることもできる。実施例においては、入れ子20A,20Bを同じ構成としたが、必要に応じて、異なる構成とすることもできる。また、一部の入れ子にのみ、その表面上に金属膜を配設してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0147】
【図1】図1の(A)は、実施例1における入れ子の模式的な断面図であり、図1の(B)及び(C)は、入れ子を拡大した模式的な一部断面図である。
【図2】図2は、実施例1の金型組立体の概念図である。
【図3】図3は、実施例2の金型組立体の概念図である。
【図4】図4の(A)は、実施例4における入れ子の模式的な断面図である。
【符号の説明】
【0148】
10・・・金型組立体、11・・・第1金型部(固定金型部)、12・・・第2金型部(可動金型部)、13・・・キャビティ、14・・・溶融樹脂射出部(ゲート部)、15・・・ランナー部及びスプルー部、16・・・射出用シリンダー、17・・・加圧流体注入ノズル、18・・・移動手段、20A,20B・・・入れ子、31A,31B・・・金属製ブロック、32A,32B・・・金属下地層、33A,33B・・・溶射皮膜、33’,33”・・・単位層、40A,40B・・・金属膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)第1金型部、第2金型部、及び、第1金型部に設けられた溶融樹脂射出部を備え、第1金型部と第2金型部との型締めによってキャビティが形成される金型、並びに、
(B)第1金型部及び/又は第2金型部に配置された入れ子、
を備え、
入れ子は、
(a)金属製ブロック、
(b)金属製ブロックの少なくともキャビティに面した表面に形成された、厚さ0.03mm乃至1mmの金属下地層、及び、
(c)金属下地層上に形成された、セラミックスから成る溶射皮膜、
から構成されており、
溶射皮膜は、厚さ方向に変化した気孔率を有し、
該気孔率は、溶射皮膜表面に近い側ほど、低い値である金型組立体を用いて成形されたポリカーボネート樹脂組成物製の成形品であって、
輪郭曲線の最大高さRzが0.2μm以下であり、輪郭曲線要素の平均長さRSmが25μm以下であり、且つ、分光光度計で測定した400nm乃至650nmでの反射率が0.7%以下であることを特徴とするポリカーボネート樹脂組成物製の成形品。
【請求項2】
(C)キャビティを構成する面を形成し、入れ子の表面上に配設された厚さ0.03mm乃至0.5mmの金属膜、
を更に備えている金型組立体を用いて成形されたことを特徴とする請求項1に記載のポリカーボネート樹脂組成物製の成形品。
【請求項3】
キャビティに面した金属製ブロックの表面の全てに溶射皮膜が形成されていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のポリカーボネート樹脂組成物製の成形品。
【請求項4】
キャビティに面した金属製ブロックの表面の一部に溶射皮膜が形成されていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のポリカーボネート樹脂組成物製の成形品。
【請求項5】
溶射皮膜の熱伝導率は、1W/(m・K)乃至4W/(m・K)であり、
溶射皮膜の平均厚さは、0.3mm乃至2.0mmであることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載のポリカーボネート樹脂組成物製の成形品。
【請求項6】
溶射皮膜表面から溶射皮膜内部に向かって厚さ0.05mmまでの部分における気孔率平均値は0.4%以上5%未満であり、金属下地層と溶射皮膜との界面から溶射皮膜内部に向かって厚さ0.2mmまでの部分における気孔率平均値は5%以上10%以下であることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載のポリカーボネート樹脂組成物製の成形品。
【請求項7】
溶射皮膜表面から溶射皮膜内部に向かって厚さ0.05mmまでの部分における溶射皮膜を構成する材料の平均粒径は2×10-6m乃至5×10-5mであり、金属下地層と溶射皮膜との界面から溶射皮膜内部に向かって厚さ0.2mmまでの部分における溶射皮膜を構成する材料の平均粒径は2×10-5m乃至1×10-4mであることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載のポリカーボネート樹脂組成物製の成形品。
【請求項8】
金属膜は、クロム、クロム化合物、ニッケル、及び、ニッケル化合物から成る群から選択された少なくとも1種類の材料から構成されていることを特徴とする請求項2に記載のポリカーボネート樹脂組成物製の成形品。
【請求項9】
金属膜は、メッキによって溶射皮膜上に形成されていることを特徴とする請求項8に記載のポリカーボネート樹脂組成物製の成形品。
【請求項10】
金属膜の表面の輪郭曲線の最大高さRzは0.03μm以下であり、金属膜の表面は平坦であることを特徴とする請求項2に記載のポリカーボネート樹脂組成物製の成形品。
【請求項11】
2種以上の染料の組合せから成る着色剤、又は、カーボンナノチューブ、又は、2種以上の染料の組合せから成る着色剤及びカーボンナノチューブをポリカーボネート樹脂に添加したポリカーボネート樹脂組成物から成ることを特徴とする請求項1乃至請求項10のいずれか1項に記載のポリカーボネート樹脂組成物製の成形品。
【請求項12】
輪郭曲線の最大高さRzが0.2μm以下であり、輪郭曲線要素の平均長さRSmが25μm以下であり、且つ、分光光度計で測定した400nm乃至650nmでの反射率が0.7%以下であるポリカーボネート樹脂組成物製の成形品の射出成形方法であって、
(A)第1金型部、第2金型部、及び、第1金型部に設けられた溶融樹脂射出部を備え、第1金型部と第2金型部との型締めによってキャビティが形成される金型、並びに、
(B)第1金型部及び/又は第2金型部に配置された入れ子、
を備え、
入れ子は、
(a)金属製ブロック、
(b)金属製ブロックの少なくともキャビティに面した表面に形成された、厚さ0.03mm乃至1mmの金属下地層、及び、
(c)金属下地層上に形成された、セラミックスから成る溶射皮膜、
から構成されており、
溶射皮膜は、厚さ方向に変化した気孔率を有し、
該気孔率は、溶射皮膜表面に近い側ほど、低い値である金型組立体を用いた射出成形方法であって、
(イ)第1金型部と第2金型部とを型締めしてキャビティを形成した後、溶融樹脂射出部から溶融ポリカーボネート樹脂組成物をキャビティ内に射出し、次いで、
(ロ)キャビティ内のポリカーボネート樹脂組成物を冷却、固化し、その後、得られた成形品を金型から離型する、
工程を具備することを特徴とする射出成形方法。
【請求項13】
(C)キャビティを構成する面を形成し、入れ子の表面上に配設された厚さ0.03mm乃至0.5mmの金属膜、
を更に備えている金型組立体を用いることを特徴とする請求項12に記載の射出成形方法。
【請求項14】
キャビティに連通した加圧流体注入ノズルを更に備えた金型組立体を用い、
前記工程(イ)において、溶融樹脂射出部から溶融ポリカーボネート樹脂組成物をキャビティ内に射出中に、あるいは、射出完了と同時に、あるいは、射出完了後、キャビティ内に射出された溶融ポリカーボネート樹脂組成物内に加圧流体注入ノズルから加圧流体の注入を開始することを特徴とする請求項12又は請求項13に記載に射出成形方法。
【請求項15】
ポリカーボネート樹脂組成物は、2種以上の染料の組合せから成る着色剤、又は、カーボンナノチューブ、又は、2種以上の染料の組合せから成る着色剤及びカーボンナノチューブをポリカーボネート樹脂に添加したポリカーボネート樹脂組成物から成ることを特徴とする請求項12乃至請求項14のいずれか1項に記載の射出成形方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−131969(P2009−131969A)
【公開日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−307846(P2007−307846)
【出願日】平成19年11月28日(2007.11.28)
【出願人】(594137579)三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社 (609)
【Fターム(参考)】