説明

ポリテトラフルオロエチレンシートおよびその製造方法

【課題】ポリテトラフルオロエチレンファインパウダーを含むペーストを用いて、ダイレクトシート法により強度の高いポリテトラフルオロエチレンシートを提供する。
【解決手段】ポリテトラフルオロエチレンファインパウダー、潤滑剤、および前記ポリテトラフルオロエチレンファインパウダー100重量部に対し0.10〜6重量部の酸化鉄を含有するペースト(2)を、2つのロール(1)間を通してシート化する工程を含む方法によってポリテトラフルオロエチレンシート(3)を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)ファインパウダーを含むペーストから、下記ダイレクトシート法によってPTFEシートを製造する方法に関する。本発明はまた、高い強度を有するPTFEシートに関する。
【背景技術】
【0002】
PTFEシートを連続して製造する方法として、PTFEを含む材料を、水平方向に並んだ2つのロール上に置き、この2つのロール間を通してシート化する方法がある(以下、この方法をダイレクトシート法と呼ぶ)。このダイレクトシート法においては、原料としてPTFEモールディングパウダーが使用可能である(例えば非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】A.R.Holmes、「Plastics」、1967、September、1079
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一方で、PTFEファインパウダーを用いてダイレクトシート法によりシート化する場合、ファインパウダーをそのまま使用すると、シートには多くの欠陥が発生し、その厚みも不均一になるという問題がある。
【0005】
一般的にPTFEファインパウダーは、適当な潤滑剤を配合して、ペースト状にした後、成形加工される。PTFEファインパウダーに潤滑剤を配合したペーストをダイレクトシート法に使用した場合には、シートの欠陥の発生、厚みの不均一性の問題は改善されるものの、得られるシートの強度が低く、ロールからシートを剥がす際に破断が起こる等の問題がある。
【0006】
そこで本発明は、PTFEファインパウダーを含むペーストを用いて、ダイレクトシート法により強度の高いPTFEシートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成した本発明は、PTFEファインパウダー、
潤滑剤、および
前記PTFEファインパウダー100重量部に対し0.10〜6重量部の酸化鉄を含有するペーストを、
2つのロール間を通してシート化する工程を含むPTFEシートの製造方法である。
【0008】
当該製造方法において、前記潤滑剤の含有量は、前記PTFEファインパウダー100重量部に対し5〜50重量部であることが好ましい。
【0009】
本発明の製造方法は、得られたPTFEシートから、前記潤滑剤を除去する工程をさらに含むことが好ましい。
【0010】
本発明はまた、上記の製造方法により得られるPTFEシートである。本発明はさらに、PTFE100重量部に対し0.10〜6重量部の酸化鉄を含有し、少なくとも一方向の引張強度が1.5MPa以上であるPTFEシートである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、PTFEファインパウダーを含むペーストを用いて、ダイレクトシート法により強度(特に引張強度)の高いシートが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】PTFEファインパウダーを含むペーストを、2つのロールを用いてダイレクトシート法によりシート化する方法を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明者が鋭意検討した結果、PTFEファインパウダーおよび潤滑剤を含むペーストに、特定量の酸化鉄を配合することにより、ダイレクトシート法により、強度の高いPTFEシートが得られることを見出した。
【0014】
本発明に用いられるPTFEファインパウダーは、乳化重合で得られるPTFE微粉末である限り特に制限はなく、市販品として入手可能である。市販品としては、例えば、フルオンCD−123(旭硝子社製)、ポリウロンF−104(ダイキン工業社製)、テフロン(登録商標)6J(三井・デュポンフロロケミカル社製)などが挙げられる。
【0015】
本発明において、PTFEは、本発明の効果を阻害しない範囲内で共重合成分を含む、変成PTFEであってもよい。
【0016】
本発明に用いられる潤滑剤は、PTFEファインパウダーの表面を濡らすことができ、シートを得た後に蒸発や抽出により除去できるものであれば特に制限されず、例えば、流動パラフィン、ナフサ、ホワイトオイル、トルエン、キシレンなどの炭化水素油の他、アルコール類、ケトン類、エステル類、およびこれらの2種以上の混合物などが使用できる。
【0017】
潤滑剤のPTFEファインパウダーへの添加量は、PTFEファインパウダーおよび潤滑剤の種類によって適宜決定されるが、通常、PTFEファインパウダー100重量部に対し5〜50重量部である。
【0018】
酸化鉄は、得られるPTFEシートの強度を上げる成分である。酸化鉄のPTFEファインパウダーへの添加量は、PTFEファインパウダーおよび潤滑剤の種類と割合によって適宜決定されるが、PTFEファインパウダー100重量部に対し0.10〜6重量部の範囲から選ばれる。酸化鉄の使用量が0.10重量部より少ないと、シートの強度の改善効果を得ることができない。一方、6重量部より多いと、酸化鉄が分散せず、結果、均質なシートが得られず、シートの強度が改善されなくなる。
【0019】
本発明においては、まず、PTFEファインパウダー、潤滑剤および酸化鉄を含有するペーストを作製する。ペーストは、公知方法に従い、これらの成分を混合することにより作製できる。このとき、酸化鉄を潤滑剤に分散させてから、PTFEファインパウダーと混合すると、酸化鉄がペースト中に高度に分散するため、好ましい。
【0020】
次に、得られたペーストを、2つのロール間を通してシート化する工程を行う。
【0021】
本発明において用いられるロールは、チルドロール、セラミックロール等が挙げられるが、これらに限定されない。ロールの表面粗さは、シート化が可能である限り特に制限がなく、様々な表面粗さのロールを用いることができる。ロール径についても、シート化が可能である限り特に制限がなく、様々なロール径を採用できる。材質、表面粗さ、ロール径の異なる2つのロールを用いることも可能である。
【0022】
ロールの温度は、シート化が可能である限り特に制限はなく、通常、30〜200℃である。2つのロールで、異なる温度を採用することもできる。
【0023】
ロールの外周の回転速度(周速度)は、シート化が可能である限り特に制限はなく、通常、1〜5m/分である。2つのロールで、異なる周速度を採用することもできる。
【0024】
2つのロール間のギャップは、目的とするシートの厚さに応じて適宜決定すればよい。
【0025】
図1に示すように、水平方向に並置された2つのロール1の間に、PTFEファインパウダー、潤滑剤、および酸化鉄を含むペースト2を置くと、ペーストがロール間を通ってシート状に加工され、PTFEシート3が得られる。
【0026】
通常は、次いで、上記のようにして得られたPTFEシートより、潤滑剤を除去する工程を行う。
【0027】
潤滑剤の除去は、そのままの状態で行ってもよいし、PTFE粒子の配列度合いを上げるために、対になったロールで圧延してさらに薄くした後、潤滑剤の除去を行ってもよい。潤滑剤の除去は、常法に従って行えばよく、例えば、加熱法、抽出法、またはこれらの組み合わせによって行えばよい。
【0028】
このようにして高い強度を有するPTFEシートを得ることができる。本発明において、強度が高いとは、特に、引張強度が高いことを意味する。なお、従来、PTFEファインパウダーと潤滑剤とを含むペーストを用いてPTFEシートを製造する際には、ペースト押出した後にロール成形していたが、ダイレクトシート法によれば、ペースト押出工程が不要となり、生産性に優れる。
【0029】
強度をさらに上げる目的で、得られたPTFEシートを、PTFEの融点以上の温度で熱処理する工程をさらに行ってもよい。
【0030】
また、シートの用途に応じ、得られたPTFEシートを少なくとも一軸方向に延伸して、PTFE多孔質シートとする工程をさらに行ってもよい。
【0031】
本発明は別の側面から、上記の製造方法によって得られるPTFEシートである。当該PTFEシートは、PTFE100重量部に対し0.10〜6重量部の酸化鉄を含有し、強度(引張強度)が高いという特徴を有する。この引張強度は、少なくとも一方向(シート製造時の長手方向)において1.5MPa以上となることも可能である。なお、この引張強度は、例えば、引張強度試験機により、サンプル幅:10mm、チャック間距離:20mm、測定温度:室温、引張速度:200mm/分の条件で測定される。
【0032】
本発明のPTFEシートの厚さは、用途に応じて適宜決定すればよい。
【0033】
本発明のPTFEシートは、ダイレクトシート法により製造されるため、生産性に優れるという利点を有する。本発明のPTFEシートは、PTFEファインパウダーを原料に用いたPTFEシートの従来公知の用途に用いることができる。
【実施例】
【0034】
以下、実施例および比較例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明は、これら実施例に限定されるものではない。
【0035】
実施例1
PTFEファインパウダー(商品名「フルオンCD−123」、旭硝子社製)100重量部、液状潤滑剤(炭化水素油;商品名「NSクリーン220」、村松石油製)18.3重量部、および酸化鉄(商品名「FCT A−5481 ブラウン1」、大日精化工業社製)0.5重量部を均一に混合し、得られたペーストを、2つのロール間を通してシート化した。シート化の条件は、ロール温度90℃、ロール周速度1m/分、シート厚さ150μmとした。このようにして得られたシートから、加熱法により液状潤滑剤を除去し、PTFEシートを得た。
【0036】
実施例2
実施例1と同じ、PTFEファインパウダー100重量部、液状潤滑剤18.3重量部、および酸化鉄0.10重量部を均一に混合し、得られたペーストを実施例1と同様にシート化し、液状潤滑剤を除去してPTFEシートを得た。
【0037】
実施例3
実施例1と同じ、PTFEファインパウダー100重量部、液状潤滑剤18.3重量部、および酸化鉄5重量部を均一に混合し、得られたペーストを実施例1と同様にシート化し、液状潤滑剤を除去してPTFEシートを得た。
【0038】
比較例1
実施例1と同じ、PTFEファインパウダー100重量部、および液状潤滑剤18.3重量部を均一に混合し、得られたペーストを実施例1と同様にシート化し、液状潤滑剤を除去してPTFEシートを得た。
【0039】
比較例2
実施例1と同じ、PTFEファインパウダー100重量部、液状潤滑剤18.3重量部、および酸化鉄0.05重量部を均一に混合し、得られたペーストを実施例1と同様にシート化し、液状潤滑剤を除去してPTFEシートを得た。
【0040】
比較例3
実施例1と同じ、PTFEファインパウダー100重量部、および液状潤滑剤18.3重量部、ならびに窒化ホウ素(商品名「HP−40」、水島合金鉄社製)0.5重量部を均一に混合し、得られたペーストを実施例1と同様にシート化し、液状潤滑剤を除去してPTFEシートを得た。
【0041】
比較例4
実施例1と同じ、PTFEファインパウダー100重量部、および液状潤滑剤18.3重量部、ならびにシリカ(商品名「アエロジルR7200」、日本アエロジル社製)0.5重量部を均一に混合し、得られたペーストを実施例1と同様にシート化し、液状潤滑剤を除去してPTFEシートを得た。
【0042】
上記で得られた実施例1〜3および比較例1〜4のPTFEシートについて、縦方向(長手方向)の強度と伸びを、引張強度試験機(「TENSILON/UTM−III−100」、オリエンテック社製)を用いて測定した。サンプルは幅10mmの短冊状とし、試験条件は、チャック間距離:20mm、測定温度:室温、引張速度:200mm/分とした。結果を表1に示す。なお、表1の伸びは、シートが破断するまで引張を行ったときの伸び率を示し、PTFEシートの元の大きさを基準とする。
【0043】
【表1】

【0044】
なお、比較例1〜4では、シートが潤滑剤を含んでいる状態では、強度が上記よりも低く、ロールから剥がす際や回収時に張力をかけた際に、シートが破断することがあった。
【0045】
以上の結果より、特定量の酸化鉄を、PTFEファインパウダーを含有するペーストに添加することによって、ダイレクトシート法により強度の高いPTFEシートが得られることがわかる。
【符号の説明】
【0046】
1 ロール
2 ペースト
3 PTFEシート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリテトラフルオロエチレンファインパウダー、
潤滑剤、および
前記ポリテトラフルオロエチレンファインパウダー100重量部に対し0.10〜6重量部の酸化鉄を含有するペーストを、
2つのロール間を通してシート化する工程を含むポリテトラフルオロエチレンシートの製造方法。
【請求項2】
前記潤滑剤の含有量が、前記ポリテトラフルオロエチレンファインパウダー100重量部に対し5〜50重量部である請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
得られたポリテトラフルオロエチレンシートから、前記潤滑剤を除去する工程をさらに含む請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の方法により得られるポリテトラフルオロエチレンシート。
【請求項5】
ポリテトラフルオロエチレン100重量部に対し0.10〜6重量部の酸化鉄を含有し、少なくとも一方向の引張強度が1.5MPa以上であるポリテトラフルオロエチレンシート。

【図1】
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【公開番号】特開2010−202787(P2010−202787A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−50444(P2009−50444)
【出願日】平成21年3月4日(2009.3.4)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】