説明

ポリテトラフルオロエチレン多孔体の製造方法

【課題】PTFEの水性分散液を出発原料として用い、生産性に優れ、低コスト化が期待できる、PTFE多孔体の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明のポリテトラフルオロエチレン多孔体の製造方法は、(i)ポリテトラフルオロエチレン粒子と、界面活性剤と、発泡剤と、分散媒である水とを含むポリテトラフルオロエチレン粒子の分散液に、ポリテトラフルオロエチレン粒子が互いに接近または接触する力を加えることにより、水、界面活性剤および発泡剤を内包する、ポリテトラフルオロエチレン粒子の凝集物を得る工程と、(ii)凝集物を成形する工程と、(iii)凝集物からなる成形体に含まれる水の量を低減させる工程と、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリテトラフルオロエチレン多孔体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)多孔体の代表的な製品として、エアフィルタやバグフィルタに用いられるPTFE多孔質膜がある。
【0003】
PTFEは、特殊な溶媒を除き、ほとんどの溶媒に溶解せず、その溶融粘度も、380℃において1010〜1011Pa・s(1011〜1012P)程度と高い。このため、PTFE成形体の製造に、一般的な熱可塑性樹脂の成形に用いられる各種の成形法(押出成形、射出成形など)を応用することが困難である。これらの成形法では、成形時の樹脂の溶融粘度は、通常、102〜103Pa・s程度である。
【0004】
PTFE多孔質膜は、下記特許文献1に開示されているように、ペースト押出法と呼ばれる方法によって製造するのが一般的である。ペースト押出法では、PTFEファインパウダーにオイルなどの有機溶媒を成形助剤として加えてロッド状に成形した後、ロッド状成形体を押出機によりペースト押出してシート状成形体を作る。成形助剤が揮散しないうちにこれをロールで圧延する。圧延されたシート状成形体は、乾燥、二軸延伸、焼成などの工程を行うことにより、PTFE多孔質膜となる。
【0005】
しかしながら、上記ペースト押出法は、ファインパウダーと成形助剤とを馴染ませるため、ロッド状成形体を押出機にかける前に長時間(例えば十数時間)の熟成が不可欠であり、このことが、生産性向上の妨げとなっている。さらに、成形助剤として有機溶媒を使用するので環境面で問題がある。こうした事情を受けて、今日、有機溶媒を使用せず、かつ生産性に優れる製造方法の開発が急務となっている。
【0006】
有力候補として、PTFEの水性分散液を出発原料として用い、PTFE多孔体を製造する方法が考えられる。例えば、キャスト法と呼ばれる方法は、PTFE粒子の水性分散液を金属板などの支持体上に塗布し、塗膜を乾燥および焼成した後に、支持体から剥離して、PTFEシートを得る方法として知られているが、生産性やコスト面でペースト押出法に劣るので、工業的には普及していない。
【特許文献1】特開平10−30031号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記の問題に鑑み、本発明は、PTFEの水性分散液を出発原料に用い、生産性に優れ、低コスト化が期待できる、PTFE多孔体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明は、
(i)ポリテトラフルオロエチレン粒子と、界面活性剤と、発泡剤と、分散媒である水とを含むポリテトラフルオロエチレン粒子の分散液に、ポリテトラフルオロエチレン粒子が互いに接近または接触する力を加えることにより、水、界面活性剤および発泡剤を内包する、ポリテトラフルオロエチレン粒子の凝集物を得る工程と、
(ii)凝集物を成形する工程と、
(iii)凝集物からなる成形体に含まれる水の量を低減させる工程と、
を含む、ポリテトラフルオロエチレン多孔体の製造方法を提供する。
【0009】
他の側面において、本発明は、
(i)ポリテトラフルオロエチレン粒子と、界面活性剤と、分散媒である水とを含むポリテトラフルオロエチレン粒子の分散液に、ポリテトラフルオロエチレン粒子が互いに接近または接触する力を加えることにより、水および界面活性剤を内包する、ポリテトラフルオロエチレン粒子の凝集物を得る工程と、
(ii)凝集物をロッド状に成形するサブ工程Aと、凝集物からなるロッド状成形体を長さ方向に交差する方向に切断してペレットを得るサブ工程Bと、ペレットを圧縮してシート状に成形するサブ工程Cとを含む、凝集物を成形する工程と、
(iii)凝集物からなる成形体に含まれる水の量を低減させる工程と、
を含む、ポリテトラフルオロエチレン多孔体の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0010】
上記本発明の製造方法によれば、成形可能な凝集物をPTFE粒子の分散液から直接得ることができる。つまり、PTFE粒子の水性分散液を出発原料に用いてPTFE多孔体を連続的に製造することが可能であり、従来のペースト押出法と同等またはそれ以上の生産性および低コスト化を期待できる。また、有機溶媒を使用せずに済むので、環境負荷も小さい。
【0011】
また、上記本発明の製造方法の前者によれば、工程(i)で得られるPTFE粒子の凝集物は、発泡剤を内包する。したがって、成形体を効率的に多孔化することができる。従来のペースト押出法において発泡剤を用いると、ペースト中の発泡剤の分散が不十分となり、発泡剤を発泡させた後の成形体の形状が不均一となりやすい。しかしながら、本発明のごとく、水性分散液を出発原料として用いる場合には、PTFE粒子の凝集物中に発泡剤を十分かつ均一に分散させることが可能であり、成形体の形状不均一の問題が生じにくい。また、本発明の製造方法を応用してPTFE多孔質膜を製造する場合には、従来のペースト押出法では不可欠であった延伸工程を省略することも可能である。
【0012】
また、上記本発明の製造方法の後者では、凝集物を成形する工程として、PTFE粒子の凝集物をロッド状に成形する工程と、ロッド状成形体を切断してペレットを得る工程と、ペレットを圧縮してシート状に成形する工程とを実施する。成形可能な凝集物を連続的に生産可能なので、これらの工程を一貫した生産ライン上で行うことができ、ひいては高い生産性および低コスト化を期待できる。
【0013】
本発明の製造方法によれば、水および界面活性剤(本発明の製造方法の前者では、さらに、発泡剤が加わる)を内包する、PTFE粒子の凝集物(以下、単に「凝集物」ともいう)を形成することができる。このような凝集物は、従来のPTFE成形体の製造方法では、中間生成物としても得ることができない。例えば、本発明の製造方法と同様、PTFE粒子の分散液(以下、単に「分散液」ともいう)を出発物質とするキャスト法では、PTFE粒子が分散した状態で、乾燥により水が除去されるため、水および界面活性剤を内包する凝集物は形成されない。
【0014】
本発明の製造方法の工程(i)によれば、付与された形状が保持される(自己形状保持性を有する)程度にPTFE粒子が凝集し、かつ、当該形状が変形可能である(変形性を有する)程度に水を内包した凝集物を得ることができる。この凝集物は、基本的に、乾燥または焼成されるまでは任意の形状に変形可能である。例えば、得られた凝集物をシート状やロッド状に成形した後に(工程(ii))、乾燥および/または焼成することにより水の量を減じて多孔化を促進し(工程(iii))、PTFE多孔体を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、上記した各工程(i)(ii)(iii)について詳細に説明する。
【0016】
工程(i)において、このような凝集物が得られる理由は必ずしも明らかではないが、おそらく、分散液中の界面活性剤の作用により、PTFE相と水相とが互いに入り混じった構造が形成されるためではないかと考えられる。凝集物の詳細な構造の解明には今後の検討を要するが、PTFE粒子が互いに接合して形成されたPTFE相が、ある程度連続することにより、凝集物の自己形状保持性が発現する機構が考えられる。場合によっては、より強固な結着構造がPTFE粒子間に形成されていたり、PTFE粒子の一部がフィブリル化することにより、PTFEの網目構造が形成されている可能性もある。また、疎水性であるPTFE相間に、界面活性剤を介して安定的に水相が存在することにより、凝集物の変形性が発現する機構が考えられる。
【0017】
分散液に、PTFE粒子が互いに接近または接触する力を加える方法は特に限定されず、例えば、以下に示す方法を用いればよい。
A.分散液をチャンバーに供給し、当該チャンバー内において上記力を加える。
B.分散液をターゲットに噴射することにより、上記力を加える。
C.分散液を、分散液の流路に配置された、分散液の流れを妨げるバリアに接触させることで、上記力を加える。
【0018】
方法Aでは、分散液の供給に伴ってチャンバー内に生じる圧力を、PTFE粒子同士をより接近または接触させる力に利用でき、また、後述するように、チャンバー内で形成された凝集物を排出する管体(第1の管体)を接続できる。
【0019】
方法Aでは、チャンバーに供給した分散液を、チャンバー内で噴射したり(方法A1)、チャンバー内に設けられた狭窄部を通過させたり(方法A2)すればよい。
【0020】
方法A1では、分散液を、例えば、チャンバーの内壁またはチャンバー内に配置された部材に向けて噴射すればよい。分散液が当該内壁または部材に衝突する際に、PTFE粒子が互いに接近または接触する力が加えられる。
【0021】
方法A1では、チャンバーの構造や形状、分散液の噴射条件などによっては、PTFE粒子を互いに衝突させることができ、また、チャンバー内で形成された凝集物に分散液を衝突させて、PTFE粒子が互いに接近または接触する力を加えることも可能である。
【0022】
分散液の噴射は、噴射口を有するノズルから行えばよく、ノズルの構造や形状、例えば、噴射口の形状は、自由に設定できる。方法Bにおいても同様に、噴射口を有するノズルから分散液を噴射すればよい。なお、方法Bにおけるターゲットは自由に設定できるが、噴射した分散液の飛散を抑制し、噴射する分散液の量に対する得られる凝集物の量の割合を多くするためには、ターゲットが配置される空間の密閉度が高い方が好ましい。
【0023】
分散液の噴射圧は、分散液におけるPTFE粒子の含有率、界面活性剤の含有率、チャンバーの形状や内容積などにより自由に設定すればよいが、噴射圧が過小である場合、凝集物を得ることが困難となることがある。したがって、分散液の噴射圧は、例えば40MPa以上、好ましくは100MPa以上、より好ましくは150MPa以上に設定するとよい。
【0024】
なお、本発明者らの知見によれば、PTFE粒子の凝集初期には比較的高い噴射圧、例えば100MPa以上とすることにより、凝集物の生成を直ちに開始させることが可能である。そして、チャンバー内に凝集物が生成したあとは、100MPa未満、例えば、40MPa〜50MPaに噴射圧を下げても、生成した凝集物に分散液を噴射することにより、安定かつ連続して凝集物を生成することができる。このように、凝集物の生成を開始する時点と、その開始時点から一定時間経過後の凝集物が連続生成している時点とで、分散液の噴射圧を異ならせることができる。具体的には、前者の噴射圧を高くし、後者の噴射圧を低くすることができ、こうすることにより無駄なエネルギーを消費せずに済む。
【0025】
方法A2では、分散液を通過させる狭窄部の形状は特に限定されず、例えば、スリット状であればよい。分散液がスリットを通過する際に、PTFE粒子が互いに接近または接触する力が加えられる。
【0026】
分散液を2以上の供給路を経由させてチャンバーに供給し、当該2以上の供給路から供給される分散液を、チャンバー内で互いに衝突させることにより、分散液に上記力を加えてもよい(方法A3)。方法A3では、チャンバーの構造や形状、衝突させる方法などによっては、PTFE粒子を互いに衝突させることができる。
【0027】
分散液をチャンバー内で互いに衝突させるためには、例えば、分散液を、上記2以上の供給路における各々の末端に配置されたノズルから噴射すればよい。このとき、少なくとも2つのノズルを、各々の噴射方向が交わるようにチャンバー内に配置することにより、より効率よく、分散液を互いに衝突させることができる。
【0028】
方法Cでは、分散液を、例えば、上記バリアを有する管体(第2の管体)に供給して上記力を加えればよい。分散液が、その流路(第2の管体)に配置されたバリアを通過する際に、分散液の流れが乱されたり、部分的に分散液が滞留したりして、分散液中に圧力の不均衡が生じ、PTFE粒子が互いに接近または接触する力が加えられる。
【0029】
バリアは、例えば、第2の管体の内部に配置されていればよい。また、バリアは、第2の管体の屈曲部または狭窄部であってもよく、この場合、方法Cは、分散液を屈曲部または狭窄部を有する第2の管体に供給し、当該屈曲部または狭窄部においてPTFE粒子が互いに接近または接触する力を加える方法である、ともいえる。
【0030】
分散液を上記第2の管体に供給する場合、分散液をノズルから噴射して供給してもよく、この場合、PTFE粒子に上記力を効率よく加えることができる。噴射に用いるノズルは方法A1と同様であればよく、分散液の噴射圧は、分散液におけるPTFE粒子の含有率、界面活性剤の含有率、第2の管体の形状などにより自由に設定すればよい。
【0031】
方法Cでは、第2の管体の構造や形状、分散液の供給条件などによっては、PTFE粒子を互いに衝突させることができる。また、分散液と、第2の管体内で形成された凝集物とを衝突させて、PTFE粒子が互いに接近または接触する力を加えることも可能である。
【0032】
第2の管体の形状、内径、長さ、ならびに、屈曲部および狭窄部の形状などは特に限定されない。
【0033】
方法A1〜A3、方法Bおよび方法Cは、PTFE粒子の分散液に、分散液に含まれるPTFE粒子が互いに接近または接触する力を加える方法の一例であり、本発明の製造方法は、上記各例に示す方法を用いる場合に限定されない。
【0034】
形状や内容積を含め、分散液に上記力を加えるためのチャンバーの構成は特に限定されないが、市販の装置、例えば、スギノマシン社製アルティマイザーを応用してもよい。アルティマイザーは、本来、顔料、フィラー、触媒などの各種材料の粉砕、微粒化を行う微粒化分散装置であり、PTFE粒子の凝集物を得るための応用は、本発明者が見出したものである。
【0035】
チャンバーの一例を図1に示す。図1に示すチャンバー1Aは、その内部空間2の形状が、底面付近の周縁部が切り取られた略円錐状であり、当該周縁部に、分散液を噴射する一対のノズル3a、3bが、その噴射口が内部空間2に面するように配置されている。ノズル3a、3bは、各々の噴射方向4a、4bが互いに交わる位置関係にある。ノズル3a、3bには、チャンバー1Aの構造体5の内部に形成された供給路6a、6bを経由して、供給口7から分散液を供給できる。略円錐状である内部空間2の頂点付近には、チャンバー1A内(内部空間2内)で形成された凝集物を排出する排出口8が形成されている。排出口8の形状は特に限定されず、例えば、円形状であればよい。
【0036】
図1に示すチャンバー1Aでは、加圧した分散液を供給口7および供給路6a、6bを介してノズル3a、3bに供給することにより、分散液を内部空間2内に噴射し、互いに衝突させることができる(方法A3を実施できる)。また、同様の構造を有するチャンバー1を用い、配置するノズルを1つにしたり、あるいは、ノズル3a、3bの噴射方向4a、4bを制御することにより、分散液を内部空間2内に噴射し、チャンバー1Aの内壁(内部空間2の壁面)に衝突させることができる(方法A1を実施できる)。ノズル3a、3bの噴射方向が可変になっていると、そうした操作を自由に行うことができるので好ましい。
【0037】
チャンバー1Aは、内部空間2を加圧雰囲気とすることが可能な構造を有していることが好ましい。すなわち、チャンバー1Aは、大気圧よりも高い圧力の雰囲気中で凝集物を形成することが可能になっているとよい。例えば、内部空間2の圧力を調整するための圧力調整機構をチャンバー1Aに設けることができる。チャンバー1A内を加圧することにより、PTFE粒子が互いに接近または接触する力を、より効率的に分散液に加えることができる。また、圧力調整機構を設けない場合であっても、排出口8の断面積、排出口8に接続される配管の長さや本数などの条件を適切に調整するとともに、ノズル3a、3bから分散液を高圧で噴射することを利用すれば、チャンバー1A内を加圧雰囲気とすることができる。こうした点は、以降の図2〜図5に示すチャンバー1B、1C、1D、1Eにおいても同様である。
【0038】
加圧した分散液をノズル3a、3bに供給する方法は特に限定されず、例えば、高圧ポンプによって加圧した分散液を供給口7から供給すればよい。図2に示すようなチャンバー1Bを用い、分散液とポンプにより加圧した水(加圧水)とを、ノズル3a、3bの直前に設けられた混合弁9へ、互いに異なる供給路を経由して供給し、混合弁9で両者を混合した後に、ノズル3a、3bに供給してもよい。図2に示すチャンバー1Bでは、分散液は供給口7および供給路6a、6bを介して、加圧水は供給口17a、17bおよび供給路16a、16bを介して、混合弁9に供給される。
【0039】
チャンバーの別の一例を図3に示す。図3に示すチャンバー1Cでは、その内部空間2の一方の端部に、自在に回転可能な球体10が配置されており、他方の端部に、分散液を噴射するノズル3が、その噴射口が内部空間2に面するように配置されている。ノズル3と球体10とは、ノズル3の噴射方向4が球体10と交わる位置関係にある。ノズル3には、チャンバー1Cの構造体5の内部に形成された供給路6を経由して、供給口7から分散液を供給できる。内部空間2におけるノズル3と球体10との間の壁面には、チャンバー1C内(内部空間2内)で形成された凝集物をチャンバー1Cの外に排出するための排出口8が形成されている。
【0040】
図3に示すチャンバー1Cでは、加圧した分散液を供給口7および供給路6を介してノズル3に供給することにより、分散液を内部空間2内に噴射して、チャンバー1C内に配置された部材である球体10に衝突させることができる(方法A1を実施できる)。このとき、ノズル3の噴射方向4が球体10の中心から外れるようにノズル3および球体10を配置することにより、分散液の噴射によって球体10を回転させることができ、排出口8からの凝集物の排出を効率よく行うことができる。
【0041】
球体10には、分散液の衝突によって変形しない材料を用いることが好ましく、例えば、セラミック、金属(高い硬度を有する合金類が好ましい)、ダイヤモンドなどからなる球体10とすればよい。
【0042】
チャンバーの別の一例を図4に示す。図4に示すチャンバー1Dでは、円筒状の外周体11の内部に、一対の中子12a、12bが収容されている。中子12a、12bは、各々、円柱体の一方の端面に円錐台が接合された形状を有しており、各々の中子における円錐台の上面13a、13bが、一定の間隔dを置いて互いに対向するように配置されている。外周体11および中子12a、12bの中心軸は、ほぼ同一である。外周体11の一端には、分散液を供給する供給口7が形成されており、供給口7に近い中子12aの外径は、外周体11の内径よりも小さく、供給口7から遠い中子12bの外径は、外周体11の内径と同一である。また、中子12bには、その上面13bにおける中央部から中子12bの内部を通り、チャンバー1Dの外部へ通じる排出路14が形成されている。中子12aは、支持部材(図示せず)を介して、外周体11により支持されている。
【0043】
中子12a、12bの位置を調整し、間隔dの値を適切に制御することにより、上面13a、13b間の空隙15をスリット状の狭窄部とすることができ、加圧した分散液を供給口7からチャンバー1Dに供給することにより、分散液を、チャンバー内に配置された狭窄部(空隙15)を通過させることができる(方法A2を実現できる)。分散液は空隙15を通過した後に排出路14に流入し、チャンバー1Dの排出口8から、PTFE粒子の凝集物として排出される。
【0044】
供給する分散液の圧力(供給圧)は、チャンバーの形状や内容積、間隔dの大きさ、供給する分散液の量などにより自由に設定すればよいが、供給圧が過小である場合、凝集物を得ることが困難となることがある。
【0045】
図1〜図4に示す各チャンバー1A〜1Dにおいて、排出口8に管体(第1の管体)を接続し、当該接続された管体から、管体の内壁全体と接触させながら凝集物を排出することが好ましい。排出口8から排出された凝集物が第1の管体を通過する際に、PTFE粒子を互いに接近または接触する力をさらに加えることができ、より自己形状保持性に優れ、強度などの機械的特性が向上した凝集物を得ることができる。また、このような凝集物は、強度などの機械的特性が向上した成形体とすることができ、例えば、第1の管体の形状、内径、長さなどを選択することにより、乾燥後におけるMD方向(流れ方向:この場合、管体から排出される方向)の引張強度が、1MPa以上、場合によっては、2MPa以上、あるいは、2.5MPa以上の成形体を得ることができる。凝集物および成形体の強度が向上する原因としては、第1の管体の通過により、凝集物および成形体の表面に、PTFE粒子同士がより強固に接合したスキン層が形成されることが考えられる。また、第1の管体と凝集物の表面との間に生じた摩擦力により、凝集物の内部に剪断力が生じ、PTFE粒子同士のさらなる結着、接合が促進されることも考えられる。なお、管体の内壁全体と接触させながら凝集物を排出するためには、排出口8の形状や径、管体の形状や内径、長さなどを選択すればよい。
【0046】
接続する第1の管体の形状、内径、長さなどは特に限定されず、チャンバー1A〜1Dの形状や内容積、チャンバー1A〜1Dに供給する分散液の量などに応じて、自由に設定できる。基本的に、管体が長いほど、得られる凝集物の自己形状保持性や機械的特性が向上する傾向を示すため、管体の最小内径よりも、管体の長さが大きいことが好ましい。一例として、分散液の処理速度が0.1〜0.5L/min程度の場合、チャンバー1A〜1Dに接続する管体の内径は1mm〜10mm程度の範囲、管体の長さは1mm〜5000mm程度の範囲であってもよい。なお、図4に示すチャンバー1Dでは、排出路14の形状によっては、排出路14が上記管体の役割を担うこともできる。
【0047】
より効率よく凝集物に力を加えるためには、第1の管体の最小内径が、排出口8の径以下であることが好ましい。また、排出口8から離れるに従い、内径が次第に変化する(即ち、内面がテーパー状の)管体であってもよく、この場合、内径が、排出口8から離れるに従い次第に小さくなることが好ましい。
【0048】
また、PTFE粒子が互いに接近または接触する力を加えるために、図5に示すようなチャンバー1Eを用いることもできる。図5に示すチャンバー1Eは、ノズル3が配置された構造体5(チャンバー本体)と、一端が構造体5に接続され、他端が分散液の排出口8を形成し、ノズル3から噴射された分散液が衝突しうる壁面を有するアダプタ18とを備えている。アダプタ18は、屈曲管18(L字管)でありうる。ノズル3は、噴射した分散液が屈曲管18の内壁面、より正確には、屈曲部18aの内壁面に衝突するように噴射方向4が調整されている。このような屈曲管18を、図1〜図4に示すチャンバー1A〜1Dに接続することも可能である。
【0049】
図6に示すように、屈曲管18の屈曲部18aに分散液Pを噴射することにより、その屈曲部18aにおいて凝集物19の生成が始まる(ステップS1)。そして、屈曲管18で生成を開始した凝集物19に分散液Pを噴射し続けることにより、その凝集物19が次第に大きく成長して屈曲管18の内部を満たす(ステップS2)。やがて凝集物19は、屈曲管18の排出口8からチャンバー1Eの外部に排出される(ステップS3)。このように、図5のチャンバー1Eによれば、凝集物の形成開始時は屈曲部18aに分散液を衝突させ、適度な量の凝集物が形成された後は屈曲部18aに存在する凝集物自身に分散液を衝突させることによって、PTFE粒子が互いに接近または接触する力を加えることができる。このようにすれば、凝集物を連続して生成することができる。
【0050】
なお、アダプタ18は、ノズル3から噴射された分散液が衝突する壁と、該衝突によって生成した凝集物が排出される排出口とを含むものであればよく、屈曲管18に限定されない。ただし、屈曲管18のように、凝集物が押し進められる部分が十分に長くなっていると、凝集物がその部分を進む最中にせん断力を受け、前述したスキン層が形成されるので好ましい。
【0051】
また、ノズル3の噴射方向4は、上記に限定されるわけではない。例えば、噴射された分散液が構造体5の内壁面5pに衝突するように、ノズル3の噴射方向を調整することができる。その場合、構造体5の内壁面5pが、ノズル3と構造体5との接続部に向かって滑らかに傾斜したテーパー面となっていることが好ましい。このようにすれば、構造体5内で形成された凝集物が屈曲管18に向かってスムーズに移動する。
【0052】
図1〜図5に示すチャンバー1A〜1Eの温度、および、チャンバー1A〜1Eに供給する分散液の温度(処理温度)は、通常、0℃〜100℃の範囲であり、25℃〜80℃の範囲が好ましく、25℃〜50℃の範囲がより好ましい。処理温度を上記温度に保つために、必要に応じて、チャンバー1A〜1Eが温度調整機構を備えていてもよい。特に、分散液を内部空間2または屈曲管18の屈曲部18aに噴射するチャンバー1A〜1Eの場合、噴射により系の温度が上昇するため、冷却機構を備えることが好ましい。系の温度が高すぎると、凝集物に内包される水が蒸発し、十分な柔軟性および自立性を有した凝集物を得ることが困難となるおそれがある。ただし、PTFE粒子の凝集のしやすさという観点においては、適度に温度が高い方が優位なので、あらゆる温度条件を実現できるように、冷却機構だけでなく、加熱機構もあった方がよい。
【0053】
次に、凝集物を成形する工程(ii)は、製造するべき多孔体の形状に応じて実施することができる。例えば、製造するべき多孔体が多孔質膜である場合、工程(ii)は、凝集物をシート状に成形する工程となる。凝集物をシート状に成形する方法は、特に限定されず、角状またはスリット状の断面を有する流路、例えばTダイを通過させることによる方法を例示できる。この場合、流路の断面形状に対応した断面形状を有するシート状成形体を得ることができる。また、この方法によれば、先に説明した工程(i)と相俟って、長尺なシート状成形体を容易に得ることができる。なお、ここでいう流路の断面形状とは、凝集物の進行方向に直交する方向の断面を意味する。
【0054】
次に、シート状成形体に含まれる水の量を低減させる工程(iii)を実施する。この工程(iii)は、シート状成形体をPTFEの融点未満の温度域で乾燥させる工程を含むものでありうる。乾燥工程の具体的な方法は特に限定されず、例えば、シート状成形体を50℃〜200℃に昇温し、1分〜60分程度保持すればよい。場合によっては、シート状成形体を風乾してもよい。
【0055】
シート状成形体が発泡剤を含む場合、上記乾燥工程において、成形体に含まれる水の量を減じつつ発泡剤を発泡させることができる。つまり、シート状成形体をPTFEの融点未満かつ発泡剤が発泡する温度域で乾燥させる。このようにすれば、水の量の減少と、発泡剤の発泡とが相俟って、効率的に多孔化が進行する。適切な乾燥温度の範囲は、発泡剤の種類にもよるが、例えば130℃〜200℃である。こうした効果は、発泡剤を含む他の形状の成形体についても同様に得ることができる。
【0056】
なお、分散液をノズルから噴射することによって得られる凝集物は、通常、室温を超える温度を帯びている。このときの凝集物の温度が、例えば80℃程度であれば、凝集物に含まれる発泡剤がほとんど発泡しないので好ましい。
【0057】
また、乾燥工程を経たシート状成形体を、さらに焼成してもよい(焼成工程)。つまり、工程(iii)が乾燥工程と焼成工程とを含んでいてもよい。焼成工程の具体的な方法は特に限定されず、例えば、乾燥工程を経たシート状成形体を、電気炉中に収容し、PTFEの融点以上の温度(327℃〜400℃程度、好ましくは360℃〜380℃)にまで加熱し、1分〜60分程度保持すればよい。なお、乾燥、焼成の時間は、シート状成形体の厚さなどに応じて適宜設定すればよい。
【0058】
ただし、成形体が発泡剤を含み、かつ、その発泡剤がマイクロカプセルの形態でPTFE多孔質膜中に残るタイプのものである場合、発泡剤が加熱により消失または離脱することがある。したがって、発泡剤が消失または離脱する可能性がある場合は、焼成工程を実施しないことが好ましい。
【0059】
また、乾燥工程と焼成工程とを区別せずに実施することもできる。例えば、シート状成形体を収容する炉の雰囲気温度を経時変化させることによって、PTFEの融点未満で行う乾燥工程と、PTFEの融点以上で行う焼成工程とを連続して実施することができる。PTFEの融点未満の温度域で水を成形体から離脱させることにより、成形体の多孔化を促進することができる。このように、シート状成形体を乾燥および焼成することにより、十分な通気性能および強度を有したPTFE多孔質膜が得られる。
【0060】
乾燥工程、あるいは、乾燥および焼成工程を経て形成されたシート状成形体は、そのまま製品(PTFE多孔質膜)としてもよいし、必要に応じて、圧延、延伸などの工程をさらに加えてもよい。ただし、乾燥工程を経て水の量が低減されたシート状成形体、特に、発泡剤を含むものは、延伸を行うまでもなく、十分に多孔化された膜となりうる。
【0061】
また、凝集物を成形する工程(ii)は、凝集物をロッド状に成形する工程であってもよい。ロッド状成形体は、図6で説明した屈曲管18のような流路に凝集物を通すことによって得ることができる。そして、そのロッド状成形体をローラで圧延することにより、シート状成形体を得ることができる。こうして得られたシート状成形体を乾燥させる、あるいは、乾燥および焼成することにより、十分な通気性能および機械強度を有したPTFE多孔質膜を得ることができる。
【0062】
さらに、図7に示す方法により、ロッド状成形体からシート状成形体を得ることもできる。図7に示す方法では、まず、図6で説明した屈曲管18のような流路を通すことによって凝集物をロッド状に成形し、凝集物からなるロッド状成形体19を得る(サブ工程A)。次に、ロッド状成形体19を長さ方向に交差する方向(好ましくは直交する方向)に切断して多数のペレット191を得る(サブ工程B)。次に、ペレット191をプレス機21で断面と直交する方向に押し固めてシート状に成形する(サブ工程C)。さらに、得られたシート状成形体193を電気炉23内で乾燥させ、それに含まれる水の量を低減させる工程(iii)を実施する。この工程(iii)は、乾燥工程であってもよいし、乾燥工程と焼成工程とを含んでいてもよい。
【0063】
先に説明したように、工程(i)で得られる凝集物の形状の自由度は大きい。したがって、断面積が大きいロッド状成形体19を容易に得ることができる。分散液の組成や噴射圧などの条件にもよるが、例えば、断面積が7mm2〜7900mm2(丸棒状であれば直径3mm〜100mm)のロッド状成形体19を得ることができる。そして、このロッド状成形体19を輪切りにすれば、多孔質膜195を製造するためのペレット191を準備することができる。ペレット191の厚さは、製造するべき多孔質膜195に必要とされる厚さに応じて調整することができる。例えば、厚さ0.5mm〜3mmの多孔質膜195を製造しようとする場合には、厚さ1mm〜6mmのペレット191が好適である。ペレット191を圧縮成形することにより、ペレット191よりも厚さの小さいシート状成形体193が得られる。さらに、シート状成形体193を乾燥させる、あるいは、乾燥および焼成することにより、シート状成形体193よりも厚さの小さいPTFE多孔質膜195が得られる。
【0064】
例えば、従来のペースト押出法によって製造された長尺のPTFE多孔質膜から円形状のPTFE多孔質膜を切り取りする場合、捨て代の発生が不可避である。これに対し、図7に示す本実施形態によれば、捨て代をほとんど生じさせることなく、場合によっては全く生じさせることなく、PTFE多孔質膜195を製造することができるので、材料費の削減に資する。
【0065】
また、有機溶媒を用いた従来のペースト押出法によって製造されるPTFE多孔質膜は、高い気孔率および高い捕集性能を有するが、PTFE粒子の結着が内部まで進行した緻密な構造を有する。したがって、フィルタとして一定の通気量を確保するために膜厚は非常に薄くなる。つまり、大孔径かつ高通気でありながら厚さも必要とされる用途に対して、ペースト押出法で製造されるPTFE多孔質膜は適用が難しい。また、ペースト押出法で製造されるPTFE多孔質膜、特に、2軸延伸により多孔化させたPTFE多孔質膜は非常に薄いので、ハンドリングが難しく、歩留まりを向上させにくい。
【0066】
これに対し、本発明の製造方法によれば、表層部ではPTFE粒子が緻密に結着し、内部では表層部よりも結着が粗である構造のPTFE多孔質膜を得ることができる。すなわち、本発明の製造方法によれば、厚さが大きく(例えば0.5mm以上)、十分な強度を有しながらも通気性能が高いPTFE多孔質膜を容易かつ生産性よく製造することができる。そして、発泡剤の添加により、通気性能のさらなる向上を期待できる。
【0067】
また、ロッド状成形体19の形状は、図7に示すような丸棒状に限定されない。つまり、凝集物を、前述のチャンバー1A〜1Eに接続された、またはチャンバー1A〜1E自身が有する円形、矩形または多角形の断面を有する流路を通過させることにより、ロッド状に成形することができる。このように、本実施形態によれば、製造するべきPTFE多孔質膜がどのような形状であっても、材料の無駄を極力省くことが可能である。
【0068】
ロッド状成形体19を経由してPTFE多孔質膜195を製造する図7の方法は、発泡剤を含まない分散液を用いる場合にも適用できるが、より高い通気性能のPTFE多孔質膜195を得るために、発泡剤を含む分散液の使用が推奨される。
【0069】
本発明の製造方法では、分散液に連続的に上記力を加えることにより、連続的に凝集物を得ることができる。すなわち、バッチ生産法ではなく、連続生産法とすることができる。例えば、分散液を、図1〜図5に示すチャンバー1A〜1Eに連続的に供給し、チャンバー1A〜1Eから凝集物を連続的に排出すればよい。このとき、チャンバー1A〜1Eの構成によっては、チャンバー1A〜1Eに供給される分散液の質量と、チャンバー1A〜1Eから排出される凝集物の質量とを、実質的に同一とすることができる。
【0070】
例えば、分散液を、図5に示すチャンバー1Eに連続的に供給することにより、ロッド状に成形された凝集物が屈曲管18のような流路から連続的に排出される。このとき、流路18の構成によっては、屈曲管18に供給される分散液の質量と、屈曲管18から排出される凝集物の質量とを、実質的に同一とすることができ、非常に高い収率でPTFE粒子の凝集物を得る、ひいてはロッド状成形体を得ることができる。
【0071】
また、図7の例では、ペレット191を圧縮成形するサブ工程Cの後で、水の量を低減させる工程(iii)を実施している。しかしながら、工程(iii)のうち、乾燥工程を実施する時期に限っていえば、図7の例に限定されず、凝集物をロッド状に成形するサブ工程Aより後の任意の期間に実施することができる。具体的には、下記の期間に乾燥工程を実施することができる。つまり、シート状成形体を得るための予備成形体であるロッド状成形体またはペレットを乾燥させてもよい。ロッド状成形体19の状態で乾燥工程を実施すると、ペレット191を作るための切断が容易となる利点がある。
【0072】
・工程(ii)における、凝集物をロッド状に成形するサブ工程Aと、ロッド状成形体19を切断してペレット191を作るサブ工程Bとの間の期間
・工程(ii)における、ロッド状成形体19を切断してペレット191を作るサブ工程Bと、ペレット191を圧縮してシート状成形体193を得るサブ工程Cとの間の期間
【0073】
次に、分散液について説明する。
【0074】
分散液におけるPTFE粒子の含有率は特に限定されないが、自己形状保持性と変形性とのバランスに優れる凝集物を得るためには、40質量%〜70質量%の範囲とすることができる。PTFE粒子の含有率の好ましい下限値は、50質量%であり、さらに好ましくは55質量%である。PTFE粒子の含有率の好ましい上限値は、65質量%である。分散液に力を加える方法、条件などにもよるが、基本的に、分散液におけるPTFE粒子の含有率が大きくなるに従い、得られる凝集物の自己形状保持性が向上し、PTFE粒子の含有率が小さくなるに従い、得られる凝集物の変形性が向上する傾向を示す。
【0075】
PTFE粒子の平均粒径は、通常、0.1μm〜40μmの範囲であり、0.2μm〜1μmの範囲が好ましい。
【0076】
分散液における界面活性剤の含有率は特に限定されないが、自己形状保持性と変形性とのバランスに優れる凝集物を得るためには、0.01質量%〜15質量%の範囲が好ましく、0.1質量%〜10質量%の範囲、1質量%〜9質量%の範囲、および、2質量%〜7質量%の範囲の順に、より好ましい。界面活性剤の含有率が過小になると、PTFE相と水相とが分離して、水、界面活性剤および発泡剤を均一に内包する凝集物を得ることが困難である。界面活性剤の含有率が過大になると、PTFE粒子同士が衝突したときの凝集作用が低下し、PTFE相自体を形成することが困難となる。
【0077】
界面活性剤の種類は特に限定されず、例えば、炭化水素系骨格を有するカルボン酸塩などのアニオン系界面活性剤、フッ素系界面活性剤などのノニオン系界面活性剤、シリコーン系界面活性剤などを用いればよい。PTFEの融点以下の温度(例えば100℃以上融点以下)において分解する界面活性剤を用いることが好ましく、この場合、得られた凝集物を焼成する際に界面活性剤が分解され、焼成により形成されたPTFE成形体中に残留する界面活性剤の量を低減できる。
【0078】
分散液として、市販されているPTFEディスパージョンを用いてもよい。市販のPTFEディスパージョンとしては、例えば、旭硝子社製(元:旭硝子フロロポリマーズ社製)AD938、AD911、AD912、AD1、AD639、AD936などのADシリーズ、ダイキン工業社製D1、D2、D3などのDシリーズを用いればよい。これら市販のPTFEディスパージョンは、通常、界面活性剤を含んでいる。これらのPTFEディスパージョンに適切な量の発泡剤を混入させ、本発明に用いることができる。
【0079】
発泡剤としては、例えば、大日精化工業社製H750D、H755、H770Dなどを用いることができる。これらの発泡剤は、100℃〜200℃で発泡させることができるので、本発明に好適に使用できる。また、加熱により膨張する熱膨張性微小球は、多孔化の効果が高いので、発泡剤の形態として好ましい。
【0080】
分散液における発泡剤の含有率も特に限定されないが、例えば、5質量%〜35質量%の範囲とすることができ、好ましくは10質量%〜20質量%の範囲である。発泡剤が多すぎると、成形が不安定となるおそれがあり、少なすぎると発泡が不十分となるおそれがある。
【0081】
なお、分散液は、PTFE粒子、水、界面活性剤および発泡剤以外の物質、例えば、ガラス、カーボン、金属、セラミックなどの無機材料からなるフィラーを含んでいてもよい。
【実施例】
【0082】
以下、実施例により、本発明をより詳細に説明する。本発明は、以下に示す実施例に限定されない。
【0083】
(実施例1)
まず、市販のPTFEディスパージョンである旭硝子社製AD938(PTFE粒子の含有率60質量%)に対し、発泡剤として大日精化工業社製H750Dを含有率が13質量%となるように添加し、出発原料となる水性分散液を調製した。
【0084】
調製した分散液からPTFE粒子の凝集物を得るために、図5に示すチャンバー1Eを用いた。チャンバー本体5の内部空間2の容積は30cm3とし、チャンバー本体5内に、円形の噴射口(0.15mmφ)を有するノズル3を配置した。屈曲管18として、円筒状のL字管(内径φ7mm、長さ200mm(屈曲部18aは略中央))を用いた。
【0085】
チャンバー1Eに上記分散液を供給し、噴射圧を230MPaとして、ノズル3から分散液を噴射させた。分散液の噴射量は、約0.5リットル/分とした。
【0086】
噴射開始から約20秒後、屈曲管18の先端から丸棒状の凝集物、つまり、PTFE粒子の凝集物からなるロッド状成形体(直径7mm)が排出され始めた。分析により、ロッド状成形体が水、界面活性剤および発泡剤を内包しているのを確認した。
【0087】
次に、得られたロッド状成形体を130℃に設定した炉で30分乾燥させた。さらに、図7で説明したように、ロッド状成形体を輪切りにして、ペレットを得た。次に、このペレットをプレス機で圧縮成形し、直径20mm厚さ2mmのPTFEシートを合計5枚得た。得られたPTFEシートの表面のSEM像を図8に示す。球状の物体が発泡剤であり、PTFE粒子が結着することによって太い繊維状の部分が形成されている。繊維と繊維の間を押し拡げるように発泡剤が分散している状態を確認できる。
【0088】
(実施例2)
発泡剤を含まない分散液(旭硝子社製AD938)を用い、その他の条件を実施例1と同様にして、PTFEシートを製造した。
【0089】
(比較例)
市販のPTFEファインパウダー(ダイキン工業社製、ポリフロンファインパウダーF104)に、成形助剤としてn−ドデカンを20質量%の含有率となるように添加および混練し、PTFEファインパウダーと成形助剤とを含むペーストを得た。ペーストを12時間熟成させた後、断面積減衰率40の縮流ダイ(予備成形管内径77mm、出口内径6.1mm)に流し込み、直径5mmのロッド状成形体を得た。ロッド状成形体を輪切りにして厚さ3mmのペレットを作り、このペレットを圧縮成形および乾燥させて、厚さ0.28mmのPTFEシートを合計5枚得た。
【0090】
(透気度測定)
実施例および比較例のPTFEシートの透気度を、JIS P 8117(1998)に規定された方法により、自動ガーレー式デンソメーターで測定した。測定の結果は、実施例1のPTFEシート(発泡剤を含む)が1〜5秒、実施例2のPTFEシート(発泡剤を含まず)が15秒〜50秒、比較例のPTFEシートが95秒〜240秒であった。本実施例1,2のPTFEシートは、比較例のPTFEシートよりも厚いにも関わらず、透気度が大きかった。
【図面の簡単な説明】
【0091】
【図1】図1は、本発明のPTFE多孔体の製造方法に用いることができるチャンバーの第1具体例を示す模式図である。
【図2】図2は、本発明のPTFE多孔体の製造方法に用いることができるチャンバーの第2具体例を示す模式図である。
【図3】図3は、本発明のPTFE多孔体の製造方法に用いることができるチャンバーの第3具体例を示す模式図である。
【図4】図4は、本発明のPTFE多孔体の製造方法に用いることができるチャンバーの第4具体例を示す模式図である。
【図5】図4は、本発明のPTFE多孔体の製造方法に用いることができるチャンバーの第5具体例を示す模式図である。
【図6】図6は、図5に示すチャンバーで凝集物が生成する様子を連続的に示す模式図である。
【図7】図7は、ロッド状成形体からPTFE多孔質膜を得るまでを説明する工程図である。
【図8】図8は、本発明の方法によって製造されたPTFEシートのSEM像である。
【符号の説明】
【0092】
1A,1B,1C,1D,1E チャンバー
3,3a,3b ノズル
19 凝集物
P 分散液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)ポリテトラフルオロエチレン粒子と、界面活性剤と、発泡剤と、分散媒である水とを含むポリテトラフルオロエチレン粒子の分散液に、前記ポリテトラフルオロエチレン粒子が互いに接近または接触する力を加えることにより、前記水、前記界面活性剤および前記発泡剤を内包する、前記ポリテトラフルオロエチレン粒子の凝集物を得る工程と、
(ii)前記凝集物を成形する工程と、
(iii)前記凝集物からなる成形体に含まれる前記水の量を低減させる工程と、
を含む、ポリテトラフルオロエチレン多孔体の製造方法。
【請求項2】
前記分散液をチャンバーに供給し、前記チャンバー内において前記力を加える請求項1に記載のポリテトラフルオロエチレン多孔体の製造方法。
【請求項3】
前記分散液を、前記チャンバーの内壁または前記チャンバー内に配置された部材に向けて噴射することにより、前記力を加える請求項2に記載のポリテトラフルオロエチレン多孔体の製造方法。
【請求項4】
前記凝集物に、前記分散液を噴射することにより前記力を加える請求項1に記載のポリテトラフルオロエチレン多孔体の製造方法。
【請求項5】
前記分散液をノズルから噴射する請求項3または請求項4に記載のポリテトラフルオロエチレン多孔体の製造方法。
【請求項6】
前記分散液を2以上の供給路を経由させて前記チャンバーに供給し、
前記2以上の供給路から供給される前記分散液を、前記チャンバー内で互いに衝突させることにより、前記力を加える請求項2に記載のポリテトラフルオロエチレン多孔体の製造方法。
【請求項7】
前記分散液を、前記2以上の供給路における各々の末端に配置されたノズルから噴射して、前記チャンバー内で互いに衝突させる請求項6に記載のポリテトラフルオロエチレン多孔体の製造方法。
【請求項8】
前記工程(iii)は、前記凝集物からなる成形体をポリテトラフルオロエチレンの融点未満かつ前記発泡剤が発泡する温度域で乾燥させる工程である請求項1に記載のポリテトラフルオロエチレン多孔体の製造方法。
【請求項9】
前記工程(ii)は、前記凝集物をシート状に成形する工程であり、
前記工程(iii)は、前記凝集物からなるシート状成形体をポリテトラフルオロエチレンの融点未満の温度域で乾燥させる工程を含む請求項1に記載のポリテトラフルオロエチレン多孔体の製造方法。
【請求項10】
前記工程(ii)は、前記凝集物をロッド状に成形する工程であり、
前記工程(iii)は、前記凝集物からなるロッド状成形体をポリテトラフルオロエチレンの融点未満の温度域で乾燥させる工程を含む請求項1に記載のポリテトラフルオロエチレン多孔体の製造方法。
【請求項11】
前記工程(ii)は、前記凝集物をロッド状に成形するサブ工程Aと、前記凝集物からなるロッド状成形体を長さ方向に交差する方向に切断してペレットを得るサブ工程Bと、前記ペレットを圧縮してシート状に成形するサブ工程Cとを含む請求項1に記載のポリテトラフルオロエチレン多孔体の製造方法。
【請求項12】
前記工程(iii)は、前記凝集物からなる成形体をポリテトラフルオロエチレンの融点未満の温度域で乾燥させる工程であり、
前記工程(iii)を、前記工程(ii)における前記サブ工程A以降に実施する、請求項11に記載のポリテトラフルオロエチレン多孔体の製造方法。
【請求項13】
前記分散液をチャンバーに供給し、前記チャンバー内において前記力を加え、
前記凝集物を、前記チャンバーに接続されたまたは前記チャンバー自身が有する円形、矩形または多角形の断面を有する流路を通過させることにより、ロッド状に成形する請求項10または請求項11に記載のポリテトラフルオロエチレン多孔体の製造方法。
【請求項14】
前記チャンバーに供給される前記分散液と、実質的に同じ質量の前記凝集物を、前記流路から排出する請求項13に記載のポリテトラフルオロエチレン多孔体の製造方法。
【請求項15】
前記分散液を前記チャンバーに連続的に供給し、ロッド状に成形した前記凝集物を前記流路から連続的に排出する請求項13に記載のポリテトラフルオロエチレン多孔体の製造方法。
【請求項16】
前記分散液における前記ポリテトラフルオロエチレン粒子の含有率が、40質量%〜70質量%の範囲である請求項1に記載のポリテトラフルオロエチレン多孔体の製造方法。
【請求項17】
製造するべき前記ポリテトラフルオロエチレン多孔体が、厚さ0.5mm以上のポリテトラフルオロエチレン多孔質膜である請求項1に記載のポリテトラフルオロエチレン多孔体の製造方法。
【請求項18】
(i)ポリテトラフルオロエチレン粒子と、界面活性剤と、分散媒である水とを含むポリテトラフルオロエチレン粒子の分散液に、前記ポリテトラフルオロエチレン粒子が互いに接近または接触する力を加えることにより、前記水および前記界面活性剤を内包する、前記ポリテトラフルオロエチレン粒子の凝集物を得る工程と、
(ii)前記凝集物をロッド状に成形するサブ工程Aと、前記凝集物からなるロッド状成形体を長さ方向に交差する方向に切断してペレットを得るサブ工程Bと、前記ペレットを圧縮してシート状に成形するサブ工程Cとを含む、前記凝集物を成形する工程と、
(iii)前記凝集物からなる成形体に含まれる前記水の量を低減させる工程と、
を含む、ポリテトラフルオロエチレン多孔体の製造方法。
【請求項19】
前記分散液が、発泡剤をさらに含む請求項18に記載のポリテトラフルオロエチレン多孔体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−120964(P2008−120964A)
【公開日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−308969(P2006−308969)
【出願日】平成18年11月15日(2006.11.15)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】