説明

ポリヒドロキシアルカノエート系樹脂の分解方法

ポリヒドロキシアルカノエート系樹脂およびそれらを含むプラスチックを直接生物学的に分解処理する新規微生物およびその方法を提供する。
ポリヒドロキシアルカノエート系樹脂をストレプトマイセス属に属する好熱菌で分解することを特徴とするポリヒロキシアルカノエート系樹脂の分解方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な生物学的処理法によるポリヒドロキシアルカノエートの分解方法に関する。
【背景技術】
【0002】
最近、プラスチック廃棄物の処理が問題になっている。プラスチック廃棄物の処理方法としては焼却や埋め立てが主であるが、焼却は地球温暖化の促進、埋め立ては埋立地の減少等の問題を抱え、生物学的分解処理法が注目されている。ポリヒドロキシアルカノエート系樹脂は生分解性を有し、次世代のプラスチックとして種々の用途開発が進められているが、近い将来、現在使用されているプラスチック同様廃棄物問題がクローズアップされることが十分に予想される。
【0003】
ポリヒドロキシアルカノエートは土壌中や水系の中で加水分解する高分子であり、環境分解が困難である汎用プラスチックに代わる生分解性プラスチックの素材として注目されている。ポリヒドロキシアルカノエート系樹脂はその構成モノマーの種類によりポリヒドロキシ酪酸、ポリヒドロキシ吉草酸、ポリヒドロキシヘキサン酸、ポリヒドロキシヘプタン酸、ポリヒドロキシオクタン酸、ポリヒドロキシノナン酸、ポリヒドロキシデカン酸等あるいはそれらの共重合体が存在している。
【0004】
ポリヒドロキシアルカノエートの一種であるポリヒドロキシ酪酸は様々な微生物のエネルギー源として細胞内で合成され、貯蔵されることが知られている(非特許文献1及び2参照)。また、好気性の微生物(非特許文献3〜5)や嫌気性の微生物(特許文献1、非特許文献6及び7)によってポリヒドロキシ酪酸が分解されることが知られている。
【特許文献1】特許第2889953号公報
【非特許文献1】「ジャーナル オブ バクテリオロジー(Journal of Bacteriology)」、(米国) 1965年、第90巻、p1455−1466
【非特許文献2】「マクロモレキュール バイオサイエンス(Macromolecule Bioscience)」、2001年、第1巻、p1−24
【非特許文献3】「ジャーナル オブ エンバイロメンタル ポリマー デグラデーション(Journal of environmental polymer degradation)」、(米国) 1993年、第1巻、p53−63
【非特許文献4】「ジャーナル オブ エンバイロメンタル ポリマー デグラデーション(Journal of environmental polymer degradation)」、(米国) 1993年、第1巻、p227−233
【非特許文献5】「アーカイブズ オブ マイクロバイオロジー(Archives of microbiology)」 (ドイツ) 1996年、第154巻、p253−259
【非特許文献6】「高分子論文集」 1993年 第50巻、p745−746
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の報告はほとんどが25〜30℃での分解反応に限定されており、コンポストなどの高温条件でポリヒドロキシアルカノエート系樹脂を積極的に分解させるための技術の検討はまだ十分なされているとは言えなかった。そこで、本発明は、ポリヒドロキシアルカノエート系樹脂およびそれらを含むプラスチックを40〜60℃付近で分解処理する新規微生物およびその方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、前記課題を解決するべく広範にスクリーニングを行い、鋭意研究を重ねた結果、微生物学的手段により優れたポリヒドロキシアルカノエート分解活性を有するストレプトマイセス属放線菌および放線菌が生産する酵素を新たに見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
即ち、本発明は、以下の(1)〜(9)を提供する。
【0008】
(1) ポリヒドロキシアルカノエート系樹脂の分解能を有し、分子量が約47000〜56000、至適pHが4〜10、至適温度が40〜55℃である、ストレプトマイセス属放線菌由来の酵素。
【0009】
(2) ポリヒドロキシアルカノエート、ヒドロキシ酪酸、ポリヒドロキシ酪酸塩、及び/またはヒドロキシ酪酸エステルにより誘導生産される上記(1)に記載の酵素。
【0010】
(3) ストレプトマイセス属放線菌が、ストレプトマイセス・サーモブルガリス(Streptomyces thermovulgaris)、ストレプトマイセス・サーモオリバシウス(Streptomyces thermoolivaceus)、ストレプトマイセス・サーモハイグロスコピクス(Streptomyces thermohygroscopicus)、またはストレプトマイセス・サーモカーボキシドボランス(Streptomyces thermocarboxydovorans)である、上記(1)または(2)に記載の酵素。
【0011】
(4) ストレプトマイセス属放線菌が、受託番号FERM P−19578である、上記(1)または(2)に記載の酵素。
【0012】
(5) ポリヒドロキシアルカノエート系樹脂を上記(1)〜(4)のいずれかに記載の酵素と接触させ、反応させることを特徴とする、ポリヒドロキシアルカノエート系樹脂の分解方法。
【0013】
(6) ポリヒドロキシアルカノエート系樹脂をストレプトマイセス属放線菌と接触させ、40〜55℃で反応させることを特徴とする、ポリヒドロキシアルカノエート系樹脂の分解方法。
【0014】
(7) ストレプトマイセス属放線菌が、ストレプトマイセス・サーモブルガリス、ストレプトマイセス・サーモオリバシウス、ストレプトマイセス・サーモハイグロスコピクス、またはストレプトマイセス・サーモカーボキシドボランスである、上記(6)に記載の方法。
【0015】
(8) ストレプトマイセス属放線菌が、受託番号FERM P−19578である、上記(6)に記載の方法。
【0016】
(9) ポリヒドロキシアルカノエート系樹脂の分解能を有する、受託番号FERM P−19578である、ストレプトマイセス属放線菌。
【発明の効果】
【0017】
本発明のポリヒドロキシアルカノエート系樹脂の分解方法は、ポリヒドロキシアルカノエート系樹脂及びそれを含む廃棄物の処理方法であり、これまでの焼却処理方法のように排ガスも生じず、埋立処理に比べて極めて省時間な技術であり、廃棄物処理上で極めて価値の高い方法である。特に、生分解性プラスチックであるポリヒドロキシアルカノエート系樹脂に対し、単に土壌中での自然な分解を待つのではなく、分解活性を有する微生物や酵素を使用して積極的に分解することによって、環境により良い処理方法が提供される。また、コンポスト化施設で本発明の処理方法を用いることにより、ポリヒドロキアルカノエート系樹脂を有機酸等の有用物質や堆肥に転換することも可能である。更にまた、本発明の方法を用い、ポリヒドロキシアルカノエート系樹脂のリサイクル利用が容易なものとなる。
【0018】
本明細書は本願の優先権の基礎である日本国特許出願2003-376263号の明細書および/または図面に記載される内容を包含する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】MG2株によるポリヒドロキシ酪酸樹脂粉末の分解の経時変化を示す。●及び○:残留PHB量(mg)、■及び□:水溶性全有機炭素量(TOC、mg)、◆:乾燥細胞重量(mg)、○及び□は対照サンプルの結果を示す。
【図2】本発明の酵素のpH安定性を示す。
【図3】本発明の酵素の温度安定性を示す。各記号はそれぞれの温度におけるプレインキュベーションの時間を示す。■:15分間、●:30分間、◆:45分間、▲:60分間
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明は、ポリヒドロキシアルカノエート系樹脂の分解能を有するストレプトマイセス属放線菌由来の新規酵素を提供する。本発明の酵素は、分子量が約47000〜56000、至適pHが4〜10、好ましくは7〜8、至適温度が40〜55℃である。また、本発明の酵素は、ポリヒドロキシアルカノエート、ヒドロキシ酪酸、ポリヒドロキシ酪酸塩、及び/またはヒドロキシ酪酸エステルの存在下で誘導生産されることが見出された。
【0021】
本発明でいうポリヒドロキシアルカノエート系樹脂とは、ポリヒドロキシ酪酸、ポリヒドロキシ吉草酸、ポリヒドロキシヘキサン酸、ポリヒドロキシヘプタン酸、ポリヒドロキシオクタン酸、ポリヒドロキシノナン酸、ポリヒドロキシデカン酸等あるいはそれらの共重合体である。さらに、γ−ブチロラクトンに化学触媒を使ってβ−プロピオラクトン、β−ブチロラクトン、β−ブチロラクトン、ε−カプロラクトン、ω−ペンタデカラクトン等の他の成分を共重合させたポリヒドロキシ酸共重合体、そして上記ポリマー間、および他の成分ポリマーとのブレンド体を含み、重合体中のヒドロキシアルカノエート成分の重量比率が10%以上のものをいう。また、本発明の分解方法において適用し得るポリヒドロキシアルカノエートの数平均分子量は10,000〜106、好ましくは50,000〜300,000程度のものであるが、本発明はこれらに特に限定されるものではない。ポリヒドロシキアルカノエートの市販品は、ポリヒドロキシ酪酸、ポリヒドロキシ酪酸とポリヒドロキシ吉草酸の共重合体がアルドリッチ社の製品として知られているが、本発明の方法はこれらに限定されるものではない。
【0022】
本発明の酵素は、例えば、ストレプトマイセス・サーモブルガリス(Streptomyces thermovulgaris)、ストレプトマイセス・サーモオリバシウス(Streptomyces thermoolivaceus)、ストレプトマイセス・サーモハイグロスコピクス(Streptomyces thermohygroscopicus)、またはストレプトマイセス・サーモカーボキシドボランス(Streptomyces thermocarboxydovorans)等のストレプトマイセス属放線菌から得ることができる。
【0023】
上記のストレプトマイセス属放線菌は、独立行政法人 理化学研究所(埼玉県和光市広沢2-1)等の微生物系統保存施設に保存されており、入手することができる。本発明において、特に限定するものではないが、好ましくはストレプトマイセス・サーモブルガリス(JCM4338)、ストレプトマイセス・サーモオリバシウス菌株(JCM4921)、ストレプトマイセス・サーモハイグロスコピクス(JCM4917)、ストレプトマイセス・サーモカーボキシドボランス(JCM10367)の中から一種、または複数の菌株を選択して用いることが望ましい。
【0024】
本発明者等はまた、上記酵素を産生する新規ストレプトマイセス属放線菌を土壌中から見出した。この新規ストレプトマイセス属放線菌は、寒天培地にポリヒドロキシ酪酸(数平均分子量Mn:2.1×10)を分散させたシャーレを使用し、つくば市内の土を接種、50℃で培養し、クリアーゾーンを形成した菌の中から取得した。分解活性の認められた株から、24時間以内の培養で明瞭なクリアーゾーンを形成し、特に活性の高いものをMG2株と命名し、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センター(茨城県つくば市東1丁目1番地1 中央第6)にブタペスト条約の規定下で2003年11月4日付けで受託番号FERM P−19578(FERM ABP−10158)として国際寄託した。上記放線菌株(MG2)は、25〜60℃の温度条件下で培養が可能であり、50℃で特に良好な増殖を示した。系統発生学的分析の結果、MG2株はStreptomyces thermocarboxydovorans及びStreptomyces thermodiastaticusとそれぞれ97.0%及び96.5%の配列類似性を示す新規菌種であることが見出された。
【0025】
上記のストレプトマイセス属放線菌は、培地中(菌体外)に上記本発明の酵素を分泌し得ることが明らかとなった。SDS−PAGE電気泳動分析による測定の結果、本発明の酵素の分子量は約47000〜56000の範囲である。
【0026】
本発明はまた、ポリヒドロキシアルカノエート系樹脂を上記本発明の酵素と接触させ、反応させることを特徴とする、ポリヒドロキシアルカノエート系樹脂の分解方法を提供する。
【0027】
本発明はまた、ポリヒドロキシアルカノエート系樹脂をストレプトマイセス属放線菌と接触させ、40〜55℃で反応させることを特徴とする、ポリヒドロキシアルカノエート系樹脂の分解方法を提供する。
【0028】
本発明の方法は、ポリヒドロキシアルカノエート系樹脂の分解をストレプトマイセス属放線菌あるいは該放線菌由来の酵素により行うことで、ポリヒドロキシアルカノエート系樹脂の分解処理を可能にするものである。
【0029】
本発明の方法において使用される好ましいストレプトマイセス属放線菌は、ストレプトマイセス・サーモブルガリス、ストレプトマイセス・サーモオリバシウス、ストレプトマイセス・サーモハイグロスコピクス、またはストレプトマイセス・サーモカーボキシドボランスである。
【0030】
本発明の方法において使用される更なる好ましいストレプトマイセス属放線菌は、受託番号FERM P−19578として国際寄託されている菌株の属する放線菌である。
【0031】
特に好ましい放線菌としては、受託番号FERM P−19578として本発明者等が寄託したMG2株が挙げられる。
【0032】
本発明の方法は、無機塩類を含む培地を用いてポリヒドロキシアルカノエートと上記ストレプトマイセス属のMG2株、ストレプトマイセス・サーモブルガリス株、ストレプトマイセス・サーモオリバシウス株、ストレプトマイセス・サーモハイグロスコピクス株、ストレプトマイセス・サーモカーボキシドボランス株の放線菌またはこれら放線菌由来の酵素をインキュベートすることにより分解することを特徴とする。
【0033】
上記の菌株は、その培養に好適な基本培地、例えば窒素源を含む無機塩類培地に酵母エキス50〜500ppmを添加した培地中で生育培養させた培養液と共に、液状でポリヒドロキシアルカノエート系樹脂の処理に提供しても良いが、必要に応じて、菌体を定法により凍結乾燥した粉末状、その粉末と各種ビタミンやミネラル、必要な栄養源、例えば酵母エキス、カザミノ酸、ペプトン等を配合した後に打錠した錠剤等固形状の形態の調製物としてポリヒドロキシアルカノエート系樹脂の処理に提供しても良い。
【0034】
本発明における培養において使用される基本培地は、無機塩類を含み、窒素源として例えば、硫酸アンモニウム、リン酸アンモニウム、炭酸アンモニウム等が使用され、その他無機塩としてリン酸一カリウム、リン酸二カリウム、硫酸マグネシウム、塩化ナトリウム、硫酸第一鉄、モリブデン酸ナトリウム、タングステン酸ナトリウムおよび硫酸マンガン等の通常利用される培養源が使用される。通常の菌の培地と異なり、少量の酵母エキス、カザミノ酸、ペプトン、マルトエキス等の添加が有効な場合がある。また、粉末状のポリヒドロキシアルカノエートを分散させるために、界面活性剤であるプライサーフ(第一工業製薬)やオクチルグルコシドを使用しても良い。さらに、ポリヒドロキシアルカノエート系樹脂の分解能を有する酵素の生産を誘導するために、ポリヒドロキシアルカノエート、ヒドロキシ酪酸、ポリヒドロキシ酪酸塩、および、ヒドロキシ酪酸エステルを培地に添加することが有効である。培地のpHは4.0〜10.0であり、好ましく5.0〜8.0である。また、培養温度は25〜70℃であり、好ましくは40〜55℃である。
【0035】
ポリヒドロキシアルカノエート系樹脂を本発明の方法に従ってストレプトマイセス属放線菌のMG2株、ストレプトマイセス・サーモブルガリス株、ストレプトマイセス・サーモオリバシウス株、ストレプトマイセス・サーモハイグロスコピクス株、ストレプトマイセス・サーモカーボキシドボランス株が生産する酵素で分解する場合、酵素にpH調節剤、安定剤、賦形剤、界面活性剤などを適時添加して使用することができる。
【0036】
本発明のポリヒドロキシアルカノエート系樹脂の生物学的分解方法は、培養槽に先に示した基本培地、処理されるべきポリヒドロキシアルカノエート系樹脂、上記菌株および菌株を配合した粉末、錠剤、または培養液を添加することで行われることが望ましいが、上記菌株を活性汚泥およびコンポストに組み込んでも良い。分解効率からすれば、ポリヒドロキシアルカノエート系樹脂は粉末状に粉砕しておくことが最も好ましいが、フィルム状でも良い。なお、基本培地に対するポリヒドロキシアルカノエート系樹脂の投入量は、0.01〜10重量%が望ましい。添加する微生物量は極小量であっても構わないが、投入量が処理時間に影響を及ぼさないためにポリヒドロキシアルカノエート系樹脂に対して0.01重量%以上が好ましい。
【0037】
分解に要する時間はポリヒドロキシアルカノエート系樹脂の組成、形状及び量、使用した微生物の種類やその酵素及び樹脂に対する相対量、その他種々の培養条件等に応じて変化し、一概に特定できるものではないが、かかる条件下に数分から数週間、数ヶ月間維持することにより、ポリヒドロキシアルカノエート系樹脂の分解が達成される。
【実施例】
【0038】
以下に実施例を挙げて本発明を更に説明するが、本発明はこれら実施例に何ら限定されるものではない。
【0039】
(実施例1)新規ストレプトマイセス属放線菌の取得
寒天培地(表2の組成の培地に寒天を添加)にポリヒドロキシ酪酸(数平均分子量Mn:2.1×10、三菱ガス化学株式会社製「ビオグリーン」)を1%分散させたシャーレを使用し、つくば市内の土を接種、50℃で培養し、クリアーゾーンを形成した菌の中から取得した。
【0040】
得られた新規ストレプトマイセス属放線菌の生物学的な特徴を表1に示す。
【表1】

【0041】
得られた菌株から常法により16S-rRNAを得、その配列を特定した。配列を配列番号1に示す。
【0042】
この配列を種々の従来公知の菌と比較した結果、この菌はStreptomyces thermocarboxydovorans及びStreptomyces thermodiastaticusとそれぞれ97.0%及び96.5%の配列同一性を有しており、従来知られていない新規放線菌であることが明らかとなった。本発明者等はこの新規放線菌をMG2株と命名した。
【0043】
(実施例2)ポリヒドロキシ酪酸樹脂粉末の分解活性
実施例1で得られたMG2株によるPHB粉末の分解を検討した。
【0044】
下記表2の組成の基本培地100ml及び200mgのPHB粉末(数平均分子量Mn:2.1×10、三菱ガス化学株式会社製「ビオグリーン」、250μmのワイヤースクリーンを通過した均一な粒子径のもの)を入れた500mlのエルレンマイヤーフラスコにMG2株の培養液5mlを入れ、ロータリーシェーカー(180rpm)中で50℃でインキュベートした。
【表2】

【0045】
12時間ごとに培地をクロロホルムで抽出して未分解のポリマーを回収し、ロータリーエバポレーターで乾燥させた。一方、細胞も回収し、遠心分離し、乾燥させた後、水溶性の有機炭素(TOC)をTOC-5000分析装置(島津製作所)で測定すると共に、スルホネートポリスチレンゲルカラムによるHPLCで、4mM過塩素酸を移動相(0.6ml/分)として40℃で分解産物を分析した。同時に、Enzymatic Bioanalysis kit(Boehringer Mannheim/R-Biopharm)を用いてD-3ヒドロキシ酪酸を検出した。
【0046】
その結果、24時間のインキュベーションで、PHB粉末の50%の分解が認められ、それと共に水溶性全有機炭素(TOC)が細胞中に蓄積した(図1)。培養液中には、D-3ヒドロキシ酪酸、アジピン酸及びコハク酸の蓄積が検出された。PHB粉末は3日間のインキュベーションで完全に分解された。
【0047】
(実施例3)ポリヒドロキシ酪酸フィルムの分解
実施例1で得られたMG2株によるPHBフィルム(三菱ガス化学株式会社製「ビオグリーン」を用いてキャストフィルムを作製)の分解を、走査型電子顕微鏡(JEOL model JSM-T220、15kV)で検討した。
【0048】
実施例2と同様の条件下でインキュベーションを行ったところ、フィルム上に付着した細胞の作用により、フィルム上に半球形の穴が形成され、6日間のインキュベーションによってフィルムは完全に分解された。
【0049】
(実施例4)種々のストレプトマイセス属放線菌における分解活性
寒天培地にポリヒドロキシ酪酸(数平均分子量Mn:2.1×10)を分散させたシャーレを使用し、種々のストレプトマイシン属放線菌の菌株を接種、50℃で培養した。クリアーゾーンの形成度合いは+++(1−2日間で形成)、++(5−7日間で形成)、+(8−14日間で形成)、−(形成なし)で示した。
【表3】

【0050】
表3の結果から明らかなように、実施例1で得られたMG2株、ストレプトマイセス・サーモブルガリス、ストレプトマイセス・サーモオリバシウス、ストレプトマイセス・サーモハイグロスコピクス、及びストレプトマイセス・サーモカーボキシドボランスではっきりとしたクリアーゾーンが形成し、ポリヒドロキシ酪酸分解活性を有することが確認された。
【0051】
(実施例5)種々のストレプトマイセス属放線菌における分解活性
表4の組成の培地(pH7.0)100mlに対し、180ミクロン以下に粉末加工したポリヒドロキシ酪酸(数平均分子量Mn:2.1×10)を炭素源として200mg添加したものを用意し、表5に示す各菌株を接種、50℃で4日間、180rpm回転型振とう機で培養した。
【0052】
添加した粉末加工ポリヒドロキシ酪酸の分解に伴い、水溶性全有機炭素(TOC、ppm)を算出した。その結果は表5に示したように、本発明に係る分解能を有する菌を添加したものでは、全有機炭素が16〜937ppm生成した。
【表4】

【表5】

【0053】
以上のことから、放線菌ストレプトマイセス属のMG2株、ストレプトマイセス・サーモブルガリス株、ストレプトマイセス・サーモオリバシウス株、ストレプトマイセス・サーモハイグロスコピクス株、ストレプトマイセス・サーモカーボキシドボランス株は高分子のポリヒドロキシ酪酸を分解できることが確認された。
【0054】
(実施例6)酵素活性のpH安定性
実施例1で得たMG2株を用い、ポリヒドロキシアルカノエート分解酵素活性のpH安定性を検討した。
【0055】
100mgのPHB粉末を含む表4の組成の培地100mlにMG2株を入れ、50℃で48時間振とう培養し、ろ過後、ろ液を0.01Mリン酸緩衝液(pH 7.0)に対して透析した。透析された酵素液1mlに種々のpHの緩衝液(pH 3.0、3.5、4.0及び5.0のクエン酸緩衝液及びpH 5.5、6.0、6.5、7.0、7.5及び8.0のリン酸緩衝液、それぞれ0.1M、3.9ml)を添加し、5℃で24時間インキュベーションした後、PHB 10mg及び0.5%(w/v)オクチルグルコピラノシドを含有する緩衝液中で50℃で16時間反応させ、培地中の水溶性全有機炭素量及びDL-ヒドロキシ酪酸ナトリウム塩を実施例2と同様にして測定した。DL-ヒドロキシ酪酸ナトリウム塩の検出の結果を図2に示す。
【0056】
図2の結果から、本発明の酵素は、pH4〜10の範囲で安定であり、特にpH5〜8の範囲で高い活性を維持し得ることが確認された。
【0057】
(実施例7)酵素活性の温度安定性
MG2株のポリヒドロキシアルカノエート分解酵素活性の温度安定性を検討した。
【0058】
菌株を48時間培養した後、培地5mlをとり、50℃、60℃、70℃、80℃または90℃で60分間、振とうしながらインキュベートした後、50℃で4時間インキュベートして培地中の水溶性全有機炭素量を測定した。反応混合液の組成は、PHB粉末10mg、0.1Mリン酸緩衝液(pH7.0)、0.5%(w/v)オクチルグルコピラノシド0.1ml、及び菌体をポアサイズ0.2μmのミリポアフィルターでろ過した培地1mlである。結果を図3に示す。
【0059】
この結果から、本発明の酵素は、60℃までの範囲で安定であることが確認された。
【0060】
(実施例8)基質による分解活性の誘導
種々の反応基質の存在下で、酵素活性の誘導が見られるか否かを検討した。
【0061】
表6及び7に示す種々の基質の存在下で、水溶性全有機炭素(TOC)の生成及びヒドロキシ酪酸の生成を検出した。反応混合液の組成は実施例6と同じとし、50℃で16時間反応させた。その結果、表に示すように、ポリヒドロキシアルカノエート、ヒドロキシ酪酸、ポリヒドロキシ酪酸塩、及び/またはヒドロキシ酪酸エステルの存在下で、可溶性TOC量及びヒドロキシ酪酸量の有意な増加が検出された。
【表6】

【表7】

【0062】
(参考例1)
実施例1で得られたMG2株を用い、種々のポリマーに対する分解活性の有無を実施例4と同様にして検討した。
【0063】
ポリマー粉末として、ポリ(エチレンスクシネート)(PES、数平均分子量5.92×10、日本触媒社製)、ポリ(エステルカーボネート)(PEC、カーボネート含量18モル%、数平均分子量2.4×10、三菱ガス化学株式会社製)、ポリカプロラクトン(PCL、商品名Tone P-767、数平均分子量6.73×10、ユニオンカーバイド社製)、ポリ(ブチレンスクシネート)(PBS、商品名Bionolle 1020、数平均分子量4.8×10、昭和ハイポリマー社製)、ポリ(L-ラクチド)(PLA、商品名Lacty 1012、数平均分子量1.88×10、島津製作所製)を用い、各ポリマーを含有する寒天培地上においてMG2株を50℃で培養した。結果を表8に示す。
【表8】

【0064】
表8の結果から明らかなように、MG2株との接触によって、ポリヒドロキシ酪酸樹脂だけでなく、ポリエチレンスクシネート及びポリエステルカーボネートも分解され、また弱い活性ではあるが、ポリカプロラクトン及びポリブチレンスクシネートも分解されることが見出された。この傾向は、MG2株の培養液を用い、水溶性分解産物の蓄積を測定した場合も同様であった。
【0065】
本明細書で引用した全ての刊行物、特許および特許出願をそのまま参考として本明細書にとり入れるものとする。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリヒドロキシアルカノエート系樹脂の分解能を有し、分子量が約47000〜56000、至適pHが4〜10、至適温度が40〜55℃である、ストレプトマイセス属放線菌由来の酵素。
【請求項2】
ポリヒドロキシアルカノエート、ヒドロキシ酪酸、ポリヒドロキシ酪酸塩、及び/またはヒドロキシ酪酸エステルにより誘導生産される請求項1に記載の酵素。
【請求項3】
ストレプトマイセス属放線菌が、ストレプトマイセス・サーモブルガリス(Streptomyces thermovulgaris)、ストレプトマイセス・サーモオリバシウス(Streptomyces thermoolivaceus)、ストレプトマイセス・サーモハイグロスコピクス(Streptomyces thermohygroscopicus)、またはストレプトマイセス・サーモカーボキシドボランス(Streptomyces thermocarboxydovorans)である、請求項1または2に記載の酵素。
【請求項4】
ストレプトマイセス属放線菌が、受託番号FERM P−19578である、請求項1または2に記載の酵素。
【請求項5】
ポリヒドロキシアルカノエート系樹脂を請求項1〜4のいずれか1項に記載の酵素と接触させ、反応させることを特徴とする、ポリヒドロキシアルカノエート系樹脂の分解方法。
【請求項6】
ポリヒドロキシアルカノエート系樹脂をストレプトマイセス属放線菌と接触させ、40〜55℃で反応させることを特徴とする、ポリヒドロキシアルカノエート系樹脂の分解方法。
【請求項7】
ストレプトマイセス属放線菌が、ストレプトマイセス・サーモブルガリス、ストレプトマイセス・サーモオリバシウス、ストレプトマイセス・サーモハイグロスコピクス、またはストレプトマイセス・サーモカーボキシドボランスである、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
ストレプトマイセス属放線菌が、受託番号FERM P−19578である、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
ポリヒドロキシアルカノエート系樹脂の分解能を有する、受託番号FERM P−19578である、ストレプトマイセス属放線菌。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【国際公開番号】WO2005/045017
【国際公開日】平成17年5月19日(2005.5.19)
【発行日】平成19年5月24日(2007.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−515320(P2005−515320)
【国際出願番号】PCT/JP2004/016436
【国際出願日】平成16年11月5日(2004.11.5)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】