説明

ポリビニルアセタール樹脂及びその製造方法、製造装置、並びにこのポリビニルアセタール樹脂を用いた接着剤、回路基板

【課題】塩素含有量の少ないポリビニルアセタール樹脂を提供すること。
【解決手段】塩素含有量が8ppm以下であるポリビニルアセタール樹脂。該ポリビニルアセタール樹脂は、(1)アセタール化反応工程:反応温度20〜50℃、単位体積当りの撹拌動力0.3kW/m以上、平均滞留時間10分以上で、ポリビニルアルコールとアルデヒドとを酸触媒下でアセタール化反応させる工程、(2)一次洗浄工程:前記アセタール化反応の反応物を、予備脱水し、40℃以下の水を加えてスラリー化して洗浄し、脱水することでポリビニルアセタール樹脂の一次ケーキを得る工程、(3)リスラリー洗浄工程:前記一次ケーキに40℃以下の水を加えて再度スラリー化して洗浄し、脱水し、乾燥する工程、を少なくとも行う製造方法等により得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリビニルアセタール樹脂及びその製造方法、製造装置、並びにこのポリビニルアセタール樹脂を用いた接着剤、回路基板に関する。より詳しくは、特定の製造方法によって得られる塩素含有量が少ないポリビニルアセタール樹脂に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリビニルアセタール樹脂は、アルコールや種々の有機溶剤に対する溶解性が良好であるという性質等から、塗料、接着剤、セラミック等に対するバインダー剤、あるいは種々の電子材料や成型体として幅広く用いられている。
【0003】
このようなポリビニルアセタール樹脂の製造方法としては、例えば、水溶液中のポリビニルアルコールとアルデヒドを酸触媒存在下でアセタール化反応させた後、後処理として、アルカリ中和処理し、洗浄・脱水・乾燥処理することで、粉粒状のポリビニルアセタール樹脂を得る方法等が挙げられる(例えば、特許文献1)。
【0004】
この製造方法の後処理の手段として、例えば、前記アルカリ中和処理されたポリビニルアセタールのスラリーを、予備脱水、洗浄・脱水・乾燥する際に、連続水洗層と連続脱水機を用い、該連続脱水機に導入する乾燥温度を別々に調整する方法等が提案されている(例えば、特許文献2)。
【0005】
【特許文献1】国際公開WO03/066690号パンフレット。
【特許文献2】特開平5−155915号公報。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ポリビニルアセタール樹脂を、塗料や接着剤、各種電子材料等に用いる際には、樹脂中の塩素含有量が問題となる。つまり、塩素含有量が高いポリビニルアセタール樹脂を用いると、樹脂に残留する中和塩等の塩素含有不純物により、電子部品の腐蝕や短絡等(以下、マイグレーションという)を引き起こし、品質上の問題が生じる。
【0007】
そこで、本発明は、塩素含有量の少ないポリビニルアセタール樹脂を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明では、まず、塩素含有量が8ppm以下であるポリビニルアセタール樹脂を提供する。ポリビニルアセタール樹脂中の塩素含有量を8ppm以下とすることで、塗料や接着剤、各種電子材料等に用いた際に、マイグレーションの発生を低減できる。
【0009】
次に、本発明では、以下の(1)〜(3)の工程を有するポリビニルアセタール樹脂の製造方法を提供する。(1)アセタール化反応工程:反応温度20〜50℃、単位体積当りの撹拌動力0.3kW/m以上、平均滞留時間10分以上で、ポリビニルアルコールとアルデヒドとを酸触媒存在下でアセタール化反応させる工程、(2)一次洗浄工程:前記アセタール化反応の反応物を、予備脱水し、40℃以下の水を加えてスラリー化して洗浄し、脱水することでポリビニルアセタール樹脂の一次ケーキを得る工程、(3)リスラリー洗浄工程:前記一次ケーキに、40℃以下の水を加えて再度スラリー化して洗浄、脱水して二次ケーキとし、該二次ケーキを乾燥する工程。かかる製造方法によれば塩素含有量が低いポリビニルアセタール樹脂を効率よく製造することができる。
【0010】
続いて、本発明では、前記リスラリー洗浄工程が、前記一次ケーキの塩素含有量に応じて、洗浄水量を制御しながら行われるポリビニルアセタール樹脂の製造方法を提供する。これによって、より少ない洗浄水量でありながら、ポリビニルアセタール樹脂の塩素含有量をより効果的に低減させることができる。
【0011】
また、本発明では、前記アセタール化反応工程のアルデヒドの使用量が、前記アセタール化反応に理論上必要とする質量の1.0〜2.0倍量であるポリビニルアセタールの製造方法を提供する。これにより、アセタール化反応をより効率よく進行させることができる。
【0012】
更に、本発明では、前記アセタール化反応工程において、前記ポリビニルアルコールの平均重合度が1500〜2500であり、酸触媒の添加濃度が前記反応物の全体量に対して3質量%以下であり、アセタール化反応を、得られるポリビニルアセタールのアセタール化度が80モル%以上となるまで行うポリビニルアセタールの製造方法を提供する。これにより、接着剤として配合する際の配合物との相溶性を向上させることができる。
【0013】
そして、本発明では、前記アセタール化反応工程において、前記アセタール化反応により得られる前記反応物を熟成反応させて中和処理するポリビニルアセタール樹脂の製造方法を提供する。熟成反応を行うことにより、アセタール化反応の反応率を所定の割合にまで効率的に増加させることができる。
【0014】
また、本発明では、単位体積当りの撹拌動力が0.3kW/m以上の攪拌機を有し、ポリビニルアルコールとアルデヒドをアセタール化反応させて反応物を得る反応缶と、前記アセタール化反応の反応物を熟成反応させる熟成缶と、前記熟成缶から取り出した反応物を予備脱水して一次ケーキを得る第1脱水機と、前記一次ケーキに水を加えてスラリーとし、該スラリーを洗浄するリスラリー缶と、前記リスラリー缶で得たスラリーを脱水し、二次ケーキとする第2脱水機と、前記二次ケーキを乾燥させる乾燥機と、を少なくとも有するポリビニルアセタール樹脂の製造装置を提供する。これにより、塩素含有量が低いポリビニルアセタール樹脂を効率よく製造することができる。
【0015】
そして、本発明では、前記ポリビニルアセタール樹脂を含有する接着剤を提供する。塩素含有量が8ppm以下のポリビニルアセタール樹脂を用いることで、マイグレーションの発生を低減させた接着剤を得ることができる。更に、本発明では前記接着剤を用いた回路基板を提供する。これにより、マイグレーションの発生を低減させた回路基板を得ることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、塗料や接着剤、各種電子材料等に用いた際にマイグレーションの発生を低減させたポリビニルアセタール樹脂を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の好適な実施形態について説明する。なお、添付図面に示された各実施形態は、本発明に係わる代表的な実施形態の一例を示したものであり、これにより本発明の範囲が狭く解釈されることはない。
【0018】
塩素含有量が8ppm以下、好適には5ppm以下、より好適には3ppm以下であるポリビニルアセタール樹脂とすることで、マイグレーションの発生を低減できる。このようなポリビニルアセタール樹脂は幅広い電子材料等に好適に使用することができ、特に、RCC(Resin Coated Cupper;樹脂付き銅箔)等の電子材料に用いる際に有効である。
【0019】
本発明において塩素含有量の測定は、以下に示す測定方法により行えばよい。まず、前処理として測定対象であるポリビニルアセタール樹脂3gをエタノール150mLに溶解させる。このエタノール溶液に35%硝酸2mLを添加した後、0.003mol/Lの塩化ナトリウム水溶液5mLを添加した。このようにして得た溶液を、電位差滴定装置を用いて、0.01mol/L AgNO標準液で滴定する。同様に、ブランクとしてポリビニルアセタール樹脂を溶解しない溶液についても同様に滴定を行い、以下の式に基づいて塩素量を求める。
【0020】
【数1】

【0021】
ポリビニルアセタール樹脂の製造方法は、例えば、水媒法や溶媒法や均一化法等によりポリビニルアルコールとアルデヒドとを酸触媒存在下でアセタール化反応させ、水洗、脱水及び乾燥を行う。本発明のような塩素含有量を低減させたポリビニルアセタール樹脂を得るには、アセタール化反応させて得られるポリビニルアセタール樹脂を、さらに特定の方法で水洗、脱水すればよい。以下に本発明における各工程を説明する。
【0022】
(1)アセタール化反応工程
アセタール化反応工程は、ポリビニルアルコールとアルデヒドとを酸触媒存在下でアセタール化させる工程である。本発明の要旨を変更しない範囲において適宜好適な方法によることができ、例えば、水媒法や溶媒法や均一化法等を用いることができる。
【0023】
水媒法とは、例えば、ポリビニルアルコールを熱水に溶解させ、得られたポリビニルアルコール水溶液を低温(例えば20℃以下)に保持しておき、これに酸触媒を添加し、撹拌しながらアルデヒドを添加してアセタール化反応を進行させ、次いで反応温度を高温(例えば40℃以上)に上げて熟成させる方法である。そして、反応終了後、適宜、中和・水洗・脱水・乾燥処理等を行なう方法である。
【0024】
溶媒法とは、例えば、ポリビニルアルコール粉末をメタノール等の溶媒に懸濁させ、これに酸触媒の存在下でアルデヒドを添加してアセタール化反応を進行させる方法である。このアセタール化反応の進行とともに反応物は溶媒に溶解していくため、反応は均一系で進行させることができる。反応終了後、中和処理し、水を添加して目的物を析出させた後、適宜、水洗・脱水・乾燥処理等を行なう。
【0025】
均一化法とは、例えば、ポリビニルアルコール水溶液に酸触媒を添加し、撹拌しながらアルデヒドを添加することでアセタール化反応を進行させる方法である。アセタール化反応が進行するに伴って沈殿物が発生するが、その前に、水およびポリビニルアセタールと相溶性のある溶媒を添加し、沈殿物の析出を防止して反応を進行させる。反応終了後、中和処理し、水を添加して目的物を析出させた後、適宜、水洗・脱水・乾燥処理等を行なう。
【0026】
なお、水媒法、溶媒法、均一化法等のいずれにおいても、アセタール化反応後の後処理として、水洗、脱水及び乾燥処理を行なう。
【0027】
本発明において原料として用いるポリビニルアルコールについては、反応目的物(ポリビニルアセタール樹脂)やアルデヒドの種類等を考慮して、適宜好適なものを使用できる。そして、ポリビニルアルコールの平均重合度について特に限定されないが、好適には1500〜2500であることが望ましい。ポリビニルアルコ−ルのケン化度についても特に限定されないが、好適には80モル%以上であることが望ましい(JIS K 6728に準拠)。
【0028】
ポリビニルアルコールの濃度については重合可能な範囲であれば特に限定されないが、好適には8〜12質量%の範囲が望ましい。かかる条件のポリビニルアルコールとすることは、幅広いアルデヒド化合物と効率的にアセタール化反応を進行させることができる点等で望ましい。
【0029】
本発明において原料として用いるアルデヒドについては、反応目的物やポリビニルアルコールの種類等を考慮して、適宜好適なものを使用でき、例えば、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、パラアセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、n−ブチルアルデヒド、ヘキシルアルデヒド、ヘプチルアルデヒド、2−エチルヘキシルアルデヒド等の脂肪族アルデヒド類や、シクロヘキシルアルデヒド、フルフラール等の脂環族アルデヒド類や、ベンズアルデヒド、2−メチルベンズアルデヒド、3−メチルベンズアルデヒド、4−メチルベンズアルデヒド、フェニルアセトアルデヒド、β−フェニルプロピオンアルデヒド等の芳香族アルデヒド類等を用いることができる。また、前記アルデヒドは単独で使用しても良いし、必要に応じ2種以上を併用しても良い。そして、前記アルデヒドのなかでも、好適には、アセトアルデヒドとブチルアルデヒドの少なくともいずれかを用いることが望ましい。
【0030】
また、アルデヒドのアセタール化反応の使用量等については、本発明では特に限定されないが、好適には、理論上必要とする質量の1.0〜2.0倍量の使用量であることが望ましい。かかる使用量とすることで、より効率的にアセタール化反応を進行させることができる点で望ましい。この「理論上必要とする質量」とは、前記アセタール化反応において、ポリビニルアルコールを完全にアセタール化させるために必要な最低限の量をいう。
【0031】
アセタール化反応の酸触媒としては特に限定されず、例えば、塩酸、硫酸、硝酸、燐酸等の無機酸類や、酢酸、p−トルエンスルホン酸、リンゴ酸、コハク酸等の有機酸等を使用できる。これらの中でも、重合反応の反応性や経済性等も考慮して、塩酸を用いることが好ましい。
【0032】
また、酸触媒の添加量については、特に限定されないが、ポリビニルアルコールとアルデヒドとの反応溶液がpH2.0以下となる添加量とすることが望ましく、酸触媒の添加濃度については、好適には、反応物の全体量に対する添加濃度が3質量%以下であることが望ましい。
【0033】
本発明の製造方法において、前記アセタール化反応の反応温度については、20〜50℃であればよく、より好適には30〜40℃であることが望ましく、かかる温度範囲であればアセタール化反応を効率よく促進できるため好ましい。
【0034】
本発明において、ポリビニルアセタール樹脂のアセタール化度は好適には80モル%以上とすることが好ましい。なお、アセタール化度の測定はJIS K 6728に準拠して行う。そして、好適には全アセタール化度部分のうち50モル%以上が、より好適には70モル%以上が、アセトアセタールであることが望ましい。これにより、接着剤の耐熱性を向上できる。
【0035】
本発明の製造方法の前記アセタール化反応において、単位体積あたりの撹拌動力の下限値は0.3kW/m以上であればよく、より好適には0.5kW/m以上であることが望ましい。
【0036】
原料の均一な混合や高粘度化した際でも十分に熱伝導させるためには、本発明では最低限の攪拌動力として0.3kW/mが必要である。これより小さい攪拌動力下では原料が反応液と均一に混合しなかったり、熱伝導が不十分で、反応缶壁等での過冷却によるポリビニルアセタール樹脂のゲル化が生起し、生成するポリビニルアセタール樹脂の透明度不良などの品質不良を招いてしまう。
【0037】
また、単位体積あたりの撹拌動力の上限値は、好適には2.0kW/m以下、より好適には1.0kW/m以下であることが望ましい。かかる撹拌動力とすることで、ポリビニルアルコールとアルデヒドとを効率よく反応させることができる。
【0038】
即ち、反応中の攪拌については、攪拌動力を少なくとも0.3kW/m以上2.0kW/mに制御して行うことが必要である。この反応では攪拌数を小さくするほど、生成するポリビニルアセタール樹脂の比表面積が大で、残留塩素が小とすることができる。従って、攪拌数が小さいほど、粒径の小さい洗浄性の良いポリビニルアセタール樹脂が得られる。また、攪拌動力が2.0kW/mより大きいと得られるポリビニルアセタール樹脂の残留塩素量が大きく、洗浄性が良くないものとなる。
【0039】
アセタール化反応は、通常、溶媒中に反応液が分散している液液の状態から溶媒中にポリビニルアセタール樹脂が分散している固液の状態への相変化を伴って進行する。このような反応系では撹拌が反応速度等に重要な影響を与えるが、本願発明者らは、そのための指標として撹拌動力を前記範囲とすることで、比表面積が大きく、洗浄性にも優れた粒子を得ることができる。更に、これらの反応物をリスラリーすることで、塩素含有率を低減化できる。
【0040】
本発明の製造方法の前記アセタール化反応において、反応に供給される原料が反応系から排出されるまでの時間(平均滞留時間)は10分以上であればよく、長くとも2時間以下であることが望ましい。かかる平均滞留時間であればポリビニルアセタール樹脂の塩素含有量をより効果的に低減できる点で好ましい。
【0041】
また、アセタール化反応工程において、ポリビニルアルコールとアルデヒドとのアセタール化反応を進行させた後、適宜熟成する工程を設けることもできる。この熟成工程の熟成条件等は、アセタール化反応の反応温度以上であればよく、好適な熟成条件を適宜決定できる。
【0042】
アセタール化反応には酸触媒を用いるため、反応後にはアルカリ中和剤等を加えて中和反応を行う。前記アルカリ中和剤の種類等は特に限定されず、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア、酢酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム等のアルカリ中和剤や、エチレンオキサイド等のアルキレンオキサイド類や、エチレングリコールグリシジルエーテル等のグリシジルエーテル等を使用できるが、好適には、水洗によりスラリー粒子から容易に分離・除去できるものが望ましく、例えば、水酸化ナトリウムや水酸化カリウム等が望ましい。また、中和剤の添加濃度については、特に限定されないが、より好適には、中和処理により、反応物のpHが7〜10となるように調整することが望ましい。
【0043】
(2)一次洗浄工程
一次洗浄工程は、前記アセタール化反応で得られた反応物を、予備脱水し、40℃以下の水で洗浄し、脱水することで、ポリビニルアセタール樹脂の一次ケーキを得る工程である。
【0044】
前記予備脱水は、ポリビニルアセタールと母液とを固液分離し、スラリー中の水溶解成分である中和塩、酸、アルカリ、アルデヒド等を除去することを目的としたものである。該固液分離する方法としては、特に限定されないが、例えば、加圧ろ過、遠心ろ過等により行うことができる。
【0045】
前記予備脱水を行う際の温度は、特に限定されないが、好適には、20℃〜40℃の範囲内であることが望ましい。かかる温度範囲で予備脱水を行うことで、効率よく脱水することができ、含水量の少ない一次洗浄スラリーを得ることができる。20℃より低い温度で実施した場合には、十分に不純物を溶解させることができない。40℃より高い温度で実施した場合には、樹脂の膨潤もしくは硬化を招き、後段の脱水工程での液切れが不十分である等の不具合を招き、水溶解成分の除去が十分に行われない。
【0046】
予備脱水後の洗浄は水洗浄等により行うことができ、特に、40℃以下の水で洗浄することで、良質なスラリーを得ることができる。即ち、40℃以下の水で洗浄することで、生成目的物であるポリビニルアセタール樹脂の膨潤や硬化を防止でき、更には、脱水時の液切れが不良となる等の不具合も防止でき、水溶解成分の不純物除去を効率よく行うことができる。
【0047】
(3)リスラリー洗浄工程
リスラリー洗浄工程は、前記一次ケーキを、40℃以下の水に加えて再度スラリー化し、続いて水で洗浄(以下、リスラリー洗浄という)し、脱水・乾燥する工程であり、これにより塩素含有量が低いポリビニルアセタール樹脂が得る工程である。
【0048】
前記(2)の一次洗浄工程の洗浄・脱水のみでは、ポリビニルアセタール樹脂の空隙に残留する水溶解成分、特に中和塩等を十分に除去できない。このため、得られた一次ケーキを乾燥して得られるポリビニルアセタール樹脂を、回路基板やこれに用いる接着剤等に使用すると、中和塩等のポリビニルアセタール樹脂中に残留する水溶解成分によりマイグレーションが発生して、品質上の問題が生じる場合がある。
【0049】
このような問題に対して、本発明では、一次洗浄工程で得られた一次ケーキを、更に、40℃以下の水で洗浄することにより前記問題を効果的に解決できることを見出した。
【0050】
リスラリー洗浄工程では、好適には、ポリビニルアセタール樹脂の塩素含有量に応じて洗浄水量を制御しながら洗浄を行うことが望ましい。これにより、最小限の洗浄水量でありながら、前記水溶解成分を効率よく除去することができる。即ち、リスラリーとした状態で、その塩素含有量を測定し、その塩素含有量値に基づいて、添加する水量を決定する工程を行なうことである。塩素含有量値が高い場合には使用する洗浄水を多く、塩素含有量値が低い場合には使用する洗浄水を少なくするように制御する。
【0051】
前記洗浄水量の下限値については、特に限定されないが、好適には、ポリビニルアセタール樹脂の質量の5倍以上、より好ましくは15倍以上、更に好ましくは20倍以上であることが望ましい。そして、洗浄水量の上限値についても、特に限定されないが、好適には、ポリビニルアセタール樹脂の30倍以下、より好ましくは20倍以下であることが望ましい。かかる洗浄水量の範囲内で使用量を制御することで、より効率よく前記水溶解成分を除去できる。
【0052】
前記リスラリー洗浄を行う方法等については、特に限定されず、適宜、好適な方法を選択できるが、例えば、撹拌機を備えた洗浄槽を使用するバッチ式や、撹拌機を備えない洗浄槽にスラリーを連続供給し、一定の滞留時間後にオーバーフローさせる半連続式等によることができる。そして、前記洗浄時間については、特に限定されないが、好適には10〜300秒、より好適には60〜300秒であることが望ましい。かかる洗浄時間内でリスラリー洗浄することで、ポリビニルアセタール樹脂の物性に影響を与えずに、水溶解成分を効率よく除去できる。
【0053】
前記リスラリー洗浄により得られたポリビニルアセタール樹脂は、後段の乾燥工程に供するため脱水する。該脱水方法等については、例えば、セントル脱水機や、サイホンピラー型遠心ろ過器や、水平ベルトフィルターを備えた連続式の洗浄方法等により行うことができる。
【0054】
以上より、本発明に係る製造方法によれば、塩素含有量が低いポリビニルアセタール樹脂を効率よく製造でき、特に、8ppm以下の塩素含有量のポリビニルアセタール樹脂を効率よく製造することができる。
【0055】
このようにして得られたポリビニルアセタール樹脂は、例えば、RCC(Resin Coated Cupper;樹脂付き銅箔)等の電子材料に用いる際に、マイグレーションの発生を低減できる。そして、本発明のポリビニルアセタール樹脂はマイグレーションの発生を低減できるものであり、接着剤として好適に用いることができる。そして、前記接着剤を用いた回路基板も、マイグレーションの発生を低減させた基板となる。
【0056】
図1は、本発明の製造装置の概念図である。
【0057】
図1中の符号1は、ポリビニルアセタール樹脂の製造装置を示している。該製造装置1は、反応缶11と、熟成缶12と、第1脱水機13と、リスラリー缶14と、第2脱水機15と、乾燥機16とを有している。
【0058】
まず、反応缶11は撹拌機を有しており、原料Mを前記反応缶に投入してアセタール化反応を行なう。原料Mは、ポリビニルアルコールやアルデヒドや酸触媒をいい、投入する順序等については特に限定されないが、例えば、ポリビニルアルコールに酸触媒を添加し、撹拌機で撹拌しながらアルデヒドを投入する方法等によりアセタール化反応を行なうことができる(前記アセタール化反応工程参照)。
【0059】
なお、前記撹拌機の単位体積あたりの撹拌動力は0.3kW/m以上であればよいが、好適には0.5kW/m以上であることが望ましい。また、単位体積あたりの撹拌動力は、好適には2.0kW/m以下、より好適には1.0kW/m以下であることが望ましい。かかる撹拌動力を有することで、比表面積が大きく、洗浄性に優れた粒子を得ることができ、最終的に得られるポリビニルアセタール樹脂の塩素含有量を低減させることができる。
【0060】
撹拌機の撹拌翼の形状等は、特に限定されず、例えば、三枚後退翼、パドル翼、アンカー翼、マックスブレンド翼、ブルゾーン翼等を用いることができるが、好適にはマックスブレンド翼等の大型翼を使用すること望ましい。前記大型翼を用いることで、反応物を効率よく混合できる。
【0061】
反応缶11は、前記アセタール化反応を進行させることができる反応缶であればよく、その種類や構造等については特に限定されないが、好適には、撹拌機を備えた槽型反応器や、管状のループ型反応器と撹拌機を備えた槽型反応器とからなる複合反応器等が挙げられる。
【0062】
更に、反応缶11は、前記アセタール化反応の反応温度や原料Mの平均滞留時間を制御する機能を付加させることが望ましい。即ち、前記反応缶11は、反応温度を制御する温度制御機能と、原料Mの平均滞留時間を制御する滞留時間制御機能とを備えることが望ましい。より好適には、前記反応温度を20〜50℃、前記平均滞留時間を10分以上となるように制御することを望ましい。
【0063】
そして、反応缶11から取り出した反応物は、熟成缶12に移動して熟成反応に供される。なお、本発明に係る製造装置1は、前記熟成缶12を有しなくてもよいが、前記熟成缶12を設けることで、より効率よく熟成反応を行なうことができる点で望ましい。また、前記熟成缶12に撹拌機を設けることで、スラリー粒子の沈降や付着を防止することができ、反応をより効率よく進行させることもできる。
【0064】
また、前記熟成缶12において熟成反応終了後、引き続き中和処理を行うこともできる。これにより、中和処理用の装置を別途設ける必要がなく、そして、撹拌機を有することで中和剤を効率よく混合させることができ、これにより前記中和処理を効率よく行うことができる。
【0065】
熟成缶12から取り出した反応物は、第1脱水機13に移動させて、該第1脱水機内で1次洗浄を行なう。そして、脱水液Dを排出して1次ケーキを得る。そして1次ケーキを第1脱水機13内で更に脱水する(前記一次洗浄工程参照)。
【0066】
前記第1脱水機13では、スラリー中の水溶解成分である中和塩・酸、アルカリ、アルデヒド等の不純物を一次除去できればよく、その種類・構造等については限定されず、好適には、セントル脱水機、サイホンピラー型遠心ろ過機、水平ベルトフィルターを用いた連続式等を用いることができる。これにより、スラリーから予備脱水を含めて効率よく実施できる。前記第1脱水機13により脱水することでポリビニルアセタール樹脂の一次ケーキを得ることができる。
【0067】
前記一次ケーキをリスラリー缶14に移し、該一次ケーキに40℃以下の水を加えて再度スラリー化して洗浄し、第2脱水機15で脱水し、乾燥機16で乾燥することで、塩素含有量が低いポリビニルアセタール樹脂Pを得ることができる(前記リスラリー洗浄工程参照)。
【0068】
リスラリー缶14では、前記一次ケーキに水を加えることでリスラリーする。前記リスラリー缶14は、撹拌機を装備した洗浄槽を使用するバッチ式や、撹拌機を装備しない洗浄槽に前記リスラリーを連続供給し、一定滞留時間後にオーバーフローさせる半連続式等の方法であってもよい。そして、前記滞留時間は、好ましくは10〜300秒、より好適には60〜300秒であるように時間制御機能を有する洗浄槽とすることが好ましい。
【0069】
第2脱水機は、その種類・構造等については限定されず、好適には、セントル脱水機、サイホンピラー型遠心ろ過機、水平ベルトフィルターを用いた連続式等を用いることができる。これにより、前記リスラリー洗浄したリスラリーを脱水した二次ケーキを得ることができる。
【0070】
乾燥機16では前記二次ケーキを乾燥させることで、塩素含有量が低いポリビニルアセタール樹脂Pを得ることができる。乾燥機16の構造・種類等については、特に限定されないが、例えば、真空乾燥法、熱風流動乾燥法等の公知の方法を採用できる。
【実施例】
【0071】
本発明の効果を確かめることを目的に実験を行った。具体的には、本発明に係るポリビニルアセタール樹脂の製造装置に関して、種々の条件でポリビニルアセタール樹脂を製造し、その物性について検証した。
【0072】
<実施例1>
まず、撹拌機を備えた反応缶11(槽型ガラス製反応缶)内で、純水3480g、ポリビニルアルコール560g(平均重合度2100、ケン化度98モル%)を投入し、加温して溶解させた後、純水を追加して10質量%ポリビニルアルコール水溶液を調製した。
【0073】
次に、前記反応缶11内を純水で満液とした後、マックスブレンド翼により撹拌動力0.5kW/mで撹拌しながら、液温を40℃に維持した。撹拌状態を維持しながら、前記10%ポリビニルアルコール水溶液と、アセトアルデヒド(純度99.5%)と、酸触媒として35%塩酸を添加してアセタール化反応を進行させた。なお、各物質の供給速度は、ポリビニルアルコールが2770g/h、136g/h、85g/hとなるように供給した。そして、反応缶11内で反応を2時間行なった。
【0074】
前記アセタール化反応により得られた反応物は熟成缶12へ供給して、その後4時間熟成反応させた。次いで、前記熟成缶12に水酸化ナトリウムを添加して、反応物(スラリー)の酸性度をpH8となるように中和処理した。この中和スラリーの固形分濃度は約8%であった。
【0075】
続いて、中和スラリーを予備洗浄し、脱水機5(セントル脱水機)にバッチ的に供給し、20℃の水を前記中和スラリーの10倍質量供給して洗浄した後、100Gの遠心効果をかけて脱水することで、ポリビニルアセタール樹脂の一次ケーキを得た。なお、ここで得られた一次ケーキの含有塩素量は105ppmであった。
【0076】
そして、前記一次ケーキをリスラリー缶14へ供給し、20℃の水を前記一次ケーキの15倍質量供給し、3分間混合撹拌しることでスラリーを得た。
【0077】
次に、スラリーを連続的に第2脱水機15(セントル脱水機)に供給し、100Gの遠心効果をかけて脱水することで二次ケーキを得た。続いて、二次ケーキを乾燥機16(気流乾燥機)で乾燥してポリビニルアセタール樹脂Pを得た。
【0078】
得られたポリビニルアセタール樹脂のアセタール化度は82モル%であり、塩素含有量5ppmであった。アセタール化度の測定は、JIS K 6728に準拠して行った。塩素含有量の測定は、前処理として得られたポリビニルアセタール樹脂3gをエタノール150mLに溶解させ、これに35%の硝酸を2mL加えた後、0.003mol/Lの塩化ナトリウム水溶液5mLを添加した。この試料を、自動滴定装置(京都電子製、AT−400)を用いて塩素含有量を測定した。
【0079】
<実施例2>
予備脱水終了後の一次ケーキをリスラリー缶14に供給し、20℃の水を前記一次ケーキの5倍質量供給した以外は、実施例1と同様に実施した。得られたポリビニルアセタール樹脂中の塩素含有量は8ppmであった。
【0080】
<実施例3>
予備脱水終了後の一次ケーキをリスラリー缶14に供給し、20℃の水を前記一次ケーキの20倍質量供給した以外は、実施例1と同様に実施した。得られたポリビニルアセタール樹脂中の塩素含有量は3ppm以下であった。
【0081】
<実施例4>
10%ポリビニルアルコール水溶液と、アルデヒドとしてアセトアルデヒドとn−ブチルアルデヒド(いずれも純度99.5%)の混合液と、酸触媒として35%塩酸とを用いて、各物質の供給速度を2770g/h,136g/h,85g/hとなるように供給した点以外は、実施例3と同様に実施した。得られたポリビニルアセタール樹脂中の塩素含有量は3ppm以下であった。
【0082】
<比較例1>
予備脱水終了後の一次ケーキを別の洗浄槽に導入し、20℃の水を前記一次ケーキの2倍質量を供給した以外は、実施例1と同様に実施した。得られたポリビニルアセタール樹脂の塩素含有量は、10ppmであった。
【0083】
<比較例2>
予備脱水終了後の一次ケーキを別の洗浄槽に導入し、15℃の水を前記一次ケーキの5倍量加え、3分間混合攪拌した以外は、実施例1と同様に実施した。得られたポリビニルアセタール樹脂中の塩素含有量は12ppmであった。
【0084】
<比較例3>
予備脱水終了後の一次ケーキを別の洗浄槽に導入し、50℃の水を前記一次ケーキの20倍量加え、3分間混合攪拌することでスラリーを得た。実施例1と同様にスラリーを第2脱水機15(セントル脱水機)に供給して処理したところ、二次ケーキが脱水機内で固まってしまい、製品を得ることができなかった。
【0085】
<マイグレーション試験>
実施例1〜4、比較例1、2について、以下の条件で絶縁抵抗促進試験を行なうことでマイグレーション性を評価した。
絶縁フィルム(ポリイミドフィルム)の表面に、各実施例、比較例で用いたポリビニルアセタール樹脂20質量%、ブチル化メラミン樹脂(大日本インキ化学社製「スーパーベッカミン」)22質量%(固形分)及びエポキシ樹脂(油化シェルエポキシ社製「エピコート1001」)2質量%(固形分)を、メタノール/メチルエチルケトン/トルエン(重量比2:2:1)の混合溶剤56質量%に溶解して得た接着剤を塗布し、銅箔を積層させた。前記銅箔をエッチングして配線ピッチが30μmの回路基板を作成し、得られた回路基板を2気圧、120℃、90%RHの環境で、40Vの電圧を印加して600時間の同通試験を行ない、絶縁抵抗値を測定した。絶縁抵抗値が高いものほど、マイグレーションを低減させる効果を有する。本発明では、絶縁抵抗値が1×10Ω以上を示したものを合格とした。
【0086】
以上の実施例1〜4、比較例1〜3のそれぞれの結果を表1に示す。
【0087】
【表1】

【0088】
<考察>
実施例1〜4はいずれも塩素含有量が8ppm以下、かつ絶縁抵抗値が1×10Ω以上であり、本発明の目的を達することができた。
【図面の簡単な説明】
【0089】
【図1】本発明の製造装置の概念図である。
【符号の説明】
【0090】
1 ポリビニルアセタール樹脂の製造装置
11 反応缶
12 熟成缶
13 第1脱水機
14 リスラリー缶
15 第2脱水機
16 乾燥機
M 原料
W 先浄水
D 脱水液
P 製造目的物(ポリビニルアセタール樹脂)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩素含有量が8ppm以下であるポリビニルアセタール樹脂。
【請求項2】
以下の(1)〜(3)の工程を有するポリビニルアセタール樹脂の製造方法。
(1)アセタール化反応工程
反応温度20〜50℃、単位体積当りの撹拌動力0.3kW/m以上、平均滞留時間10分以上で、ポリビニルアルコールとアルデヒドとを酸触媒存在下でアセタール化反応させる工程、
(2)一次洗浄工程
前記アセタール化反応終了後の反応物を、予備脱水し、40℃以下の水を加えてスラリー化して洗浄し、脱水することでポリビニルアセタール樹脂の一次ケーキを得る工程、
(3)リスラリー洗浄工程
前記一次ケーキに、40℃以下の水を加えて再度スラリー化して洗浄、脱水して二次ケーキとし、該二次ケーキを乾燥する工程。
【請求項3】
リスラリー洗浄工程が、前記一次ケーキの塩素含有量に応じて、洗浄水量を制御しながら行われることを特徴とする請求項2記載のポリビニルアセタールの製造方法。
【請求項4】
アセタール化反応工程におけるアルデヒドの使用量が、前記アセタール化反応に理論上必要とする質量の1.0〜2.0倍量であることを特徴とする請求項2または3に記載のポリビニルアセタールの製造方法。
【請求項5】
アセタール化反応工程において、前記ポリビニルアルコールの平均重合度が1500〜2500であり、酸触媒の添加濃度が前記反応物の全体量に対して3質量%以下であり、アセタール化反応を、得られるポリビニルアセタールのアセタール化度が80モル%以上となるまで行うことを特徴とする請求項2〜4のいずれか一項に記載したポリビニルアセタール樹脂の製造方法。
【請求項6】
アセタール化反応工程において、前記アセタール化反応により得られる前記反応物を熟成反応させた後、中和処理することを特徴とする請求項2〜5のいずれか一項に記載したポリビニルアセタール樹脂の製造方法。
【請求項7】
単位体積当りの撹拌動力が0.3kW/m以上の攪拌機を有し、ポリビニルアルコールとアルデヒドをアセタール化反応させて反応物を得る反応缶と、
前記アセタール化反応の反応物を熟成反応させる熟成缶と、
前記熟成缶から取り出した反応物を予備脱水して一次ケーキを得る第1脱水機と、
前記一次ケーキに水を加えてスラリーとし、該スラリーを洗浄するリスラリー缶と、
前記リスラリー缶で得たスラリーを脱水し、二次ケーキとする第2脱水機と、
前記二次ケーキを乾燥させる乾燥機と、
を少なくとも有するポリビニルアセタール樹脂の製造装置。
【請求項8】
請求項1記載のポリビニルアセタール樹脂を含有する接着剤。
【請求項9】
請求項8記載の接着剤を用いた回路基板。

【図1】
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【公開番号】特開2008−222938(P2008−222938A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−66018(P2007−66018)
【出願日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【出願人】(000003296)電気化学工業株式会社 (1,539)
【Fターム(参考)】