説明

ポリビニルアルコールフィルムの膨潤方法と装置及び偏光フィルムの製造方法と装置

【課題】 液晶ディスプレーの主要部材である偏光フィルムの製造時に、基材としてのポリビニルアルコールフィルムに対して施す膨潤水による膨潤方法として、ポリビニルアルコールフィルムの全体をより均一に膨潤して、偏光フィルムの収率をより一層アップ可能なものを提供する。
【解決手段】 膨潤槽11の膨潤水12中に、ポリビニルアルコールフィルム10の搬送案内方向に、軸方向の両半に対称に開口する加圧水吐出孔を有する複数個の加圧水吐出ローラ15からなるガイドローラを、上部と下部に千鳥状に設置し、ポリビニルアルコールフィルム10を順次表面と裏面が交互に加圧水吐出ローラ15に対向するように上下に千鳥状に搬送案内する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、液晶ディスプレー(LCD)の主要部材である偏光フィルム(偏光子)の製造の際に、基材としてのポリビニルアルコールフィルム(以下「PVAフィルム」と略称する)に対して施す膨潤水による膨潤の方法の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
周知のように、この種のPVAフィルムの膨潤は、PVAフィルムを膨潤水中に設置した複数のガイドローラを介して膨潤水中を搬送案内する方式で行っている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
しかしこの周知のPVAフィルムの膨潤方式は、PVAフィルムに対する膨潤水の自然な浸透による膨潤であるため、特に最近のようにPVAフィルムが広幅になればなる程、膨潤水の浸透にむらが生じ、全体を均一に膨潤することが難しく、この結果膨潤後における処理(染色、延伸など)も均一に行われにくく、偏光フィルムとしての光学特性にもむらが生じやすく、偏光フィルムとしての収率(歩留まり)が約75%以下のように比較的低い値に留まっている状況にある。
【特許文献1】特開平10−153709号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この発明は、上記のような状況に鑑み、PVAフィルムを膨潤液中に設置した複数のガイドローラを介して膨潤水中を案内するPVAフィルムの膨潤方法として、PVAフィルムの全体がほぼ均一に膨潤され、これにより偏光フィルムの収率をより一層アップ可能なものを提供することを主要な課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この発明によれば、上記の課題は、特許請求の範囲の請求項1に記載のように、基本的には、PVAフィルムを膨潤水中に設置した複数のガイドローラを介して膨潤水中を案内するPVAフィルムの膨潤方法において、少なくとも一つのガイドローラを、軸方向の両半に対称に多数の加圧水吐出孔を形成したシリンダ(ドラム)形の加圧水吐出ローラで構成することによって解決する。
【0006】
この発明の請求項1に記載のシートのPVAフィルムの膨潤方法においては、請求項2に記載のごとく、少なくとも二つのガイドロールを構成する加圧水吐出ローラに、PVAフィルムを、表面と裏面が対向するように転向案内することが望ましい。
【0007】
またこの発明に係る請求項1又は請求項2に記載のPVAフィルムの膨潤方法は、請求項3に記載のように、加圧水吐出ローラの加圧水吐出孔を、加圧水吐出ローラの表面部に軸周りに間隔をおいて形成した複数条の軸方向にのびる加圧水案内溝のそれぞれに開口するように形成することが望ましい。
【0008】
さらにこの発明の請求項3に記載のPVAフィルムの膨潤方法においては、請求項4に記載のごとく、加圧水吐出ローラの隣接する加圧水案内溝における加圧水吐出孔の軸方向の位置を相互にずらすことが好ましい。この場合の位置のずらし量は一般には半ピッチとすることができる。
【0009】
さらにまた請求項1〜4に記載のPVAフィルムの膨潤方法においては、請求項5に記載のように、加圧水吐出ローラは、加圧水供給管系の給水端部(先端部)で支持することが望ましい。
【発明の効果】
【0010】
特許請求の範囲の請求項1に記載のこの発明に係るPVAフィルムの膨潤方法の基本構成によれば、全体にわたって均一に近い膨潤が行われ、偏光フィルムの収率が90%を越える程度までアップされることを確認した。このような高収率は、膨潤水中に導入されるPVAフィルムが、加圧水吐出ローラからなるガイドローラ以外の部分では、周知の方式と同様の膨潤水の自然な浸透による膨潤作用を受ける一方、加圧水吐出ローラからなるガイドローラ部では、多数の加圧水吐出孔から吐出されてローラ表面部に沿って流動する加圧水の加圧浸透による強制的な膨潤作用を受け、これらの両膨潤作用が相乗的に作用するためであると推定される。
【0011】
また請求項2に記載の二以上の加圧膨潤水吐出ローラに対するPVAフィルムの表裏両面の対向案内構成によれば、PVAフィルムが、表裏の両面から加圧水の加圧浸透による強制的な膨潤作用を受け、より均一に近い膨潤が行われる。
【0012】
請求項3に記載の加圧水吐出ローラの加圧水吐出孔の加圧水案内溝に対する開口構成によれば、加圧水が加圧水案内溝に沿って軸方向の各端に向かって流動するので、PVAフィルムが拡幅作用を受け、しわやたるみの無い状態になるので、一段と均一に近い膨潤が行われる。
【0013】
さらに請求項4に記載の隣接する加圧水案内溝における加圧水吐出孔の半ピッチのような軸方向の位置ずらし構成によれば、加圧水の吐出部がより均衡した状態になるので、加圧水の流動層が均一になり、PVAフィルムが一様の拡幅作用を受けるので、均一に近い膨潤が確保される。
【0014】
さらにまた請求項5に記載の加圧水吐出ローラの加圧水供給管系の給水端部による支持構成によれば、独立した支持軸を設ける必要がないため、構造をコンパクトにすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下図面に基づいて、この発明に係るPVAフィルムの膨潤方法の好適な実施形態について説明する。
【0016】
図1は、この発明に係るPVAフィルムの膨潤方法の好適な一実施形態の構成概要を示したもので、膨潤槽11内の膨潤水12中に、PVAフィルム10の導入側の左方から右方に向かって複数個(ここでは4個)の加圧水吐出ローラ15と1個の標準的な慣用のガイドローラ16を下部と上部に千鳥状に設置するとともに、膨潤槽11外の左方部と右方部には、フィルム導入ローラ17と、標準的なガイドローラ18及びフィルム導出ローラ19が設置し、フィルム導入ローラ17を通して簿潤槽11内の膨潤水12中に導入するPVAフィルム10を、順次表面と裏面が交互に加圧水吐出ローラ15に対向するように上下に千鳥状に案内した後、ガイドローラ16を通して、膨潤槽11外の標準的なガイドローラ18、フィルム導出ローラ19へと導出するように構成したものである。
【0017】
図2及び図3に示すように、各加圧水吐出ローラ15は、表面部に、軸周りに等間隔をおいて形成した複数の加圧水案内溝20を有しており、各加圧水案内溝20には、軸方向の中心に対して左右対称な位置に、複数の外開き状の加圧水吐出孔21が実質上等間隔をおいて開口している。この加圧水吐出孔21は、隣接する加圧水案内溝20において半ピッチずつずれた位置に開口しており、全体として千鳥状の配置になっている。
【0018】
また各加圧水吐出ローラ15は、左右の両端壁22が、その内部を同心的にのびる給水端管25とともに加圧水供給管系24の給水端部を構成する左右一対の給水端管コネクタ(給水端管接続管)26に軸受27を介して回転可能に支持されている。
【0019】
給水端管25には、図1において下側に位置する加圧水吐出ローラ15に関するものについては、図2、図3に示すごとく下半部に、また上側に位置する加圧水吐出ローラ15に関するものについては上半部(図2、図3の上下を逆転した状態に対応する)に、軸周り及び軸方向に間隔をおいて多数の給水孔28が形成してあるとともに、前後の各側部には、給水孔28が形成されていない上半部(図2、図3参照)と下半部のそれぞれへの加圧水の流入を抑制するために、軸方向の全長にわたってのびる前後一対の加圧水流入抑制フランジ29が付設してある。
【0020】
この図示の実施形態においては、フィルム導入ローラ17を介して膨潤槽11内の膨潤水12中に導入されるPVAフィルム10は、最初の加圧水吐出ローラ15に到るまでの間及び隣接する上下の加圧水吐出ローラ15の間においては、膨潤槽11内の膨潤水12の自然の浸透による膨潤作用を受け、また各加圧水吐出ローラ15の部分においては、加圧水吐出孔21を通して外方に吐出する加圧水の加圧水案内溝20に沿う流動により、拡幅作用を受けながら、表面及び裏面のそれぞれから、加圧浸透による強制的な膨潤作用を受け、これにより慣用のガイドローラ16を通して膨潤槽11から導出するまでに的確に膨潤される。
【0021】
この発明に係るPVAフィルムの膨潤方法においては、加圧水吐出ローラ15の加圧水吐出孔21を通して吐出する加圧水は、一般には、PVAフィルム10を加圧水吐出ローラ15の表面から微小量(例えば約1mm程度)離間させて、無接触状態にするのに適した条件(圧力、流量、流速等)、すなわちPVAフィルムと加圧水吐出ローラの表面との間に微小な厚さ(例えば約1mm程度)の加圧水流層が形成されるのに適した条件で吐出することができる(特に図4参照)。
【0022】
これらの加圧水の吐出条件は、PVAフィルム10のサイズ(厚さ、幅)や搬送条件(張力、速度等)、膨潤槽11内の膨潤水12の温度などによって適当に設定することができるとともに、これらのPVAフィルム10の搬送条件、膨潤水12の温度などは、自動制御によって調整可能にすることができる。
【0023】
この発明に係るPVAフィルムの膨潤方法は、このほか、加圧水吐出ローラを回転駆動可能に構成する(例えば加圧水吐出ローラの端壁に同心的に従動ギアを取付け、該従動ギアに隣接して設置する駆動ギアを係合する)など、種々の形態で実施することができるもので、上記の形態に限定されるものでないことはもちろんである。
【実施例】
【0024】
膨潤水(25℃)中にほぼ図2、3に示すような構造の加圧水吐出ローラをほぼ図1に準じて配置した膨潤槽とともに、染色槽、延伸槽、定着槽、乾燥装置を用いて、幅2600mm、厚さ80μのPVAフィルムを、その張力や速度等を制御しながら、膨潤、染色、延伸、染色剤定着、乾燥の処理を行って、複数枚の偏光フィルムを製造したところ、偏光フィルムの平均収率として、約90%が得られた。
【0025】
なお比較のために、加圧水吐出ローラに代えて、標準的なガイドローラを配置した膨潤槽とともに、上記と同一の染色槽、延伸槽等を用いて、上記と同一のサイズのPVAフィルムを上記とほぼ同等の条件で膨潤、染色、延伸等の処理を行って、複数枚の偏光フィルムを製造したところ、偏光フィルムの平均収率は約70%であった。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】この発明に係るPVAフィルムの膨潤方法の一実施形態の構成概要図である。
【図2】図1に示す実施形態において下側に位置する加圧水吐出ローラと該加圧水ローラを支持する加圧水供給管系の給水端部の一実施形態の略拡大正面図である。
【図3】図2に示す実施形態の略側断面図で、PVAフィルムが併示してある。
【図4】図2に示す加圧水吐出ローラの軸方向中央部の表層部の拡大正断面図で、加圧水の吐出、流動状態とPVAフィルムの加圧水吐出ローラの表面部から離間状態が併せて示してある。
【符号の説明】
【0027】
10 PVAフィルム
11 膨潤槽
12 膨潤水
15 加圧水吐出ローラ
16 ガイドローラ
17 フィルム導入ローラ
18 ガイドローラ
19 フィルム導出ローラ
20 加圧水案内溝
21 加圧水吐出孔
22 端壁
24 加圧水供給管系
25 給水端管
26 給水端管コネクタ
27 軸受
28 給水孔
29 加圧水流入抑制フランジ
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、液晶ディスプレー(LCD)の主要部材である偏光フィルム(偏光子)の製造の際に、基材としてのポリビニルアルコールフィルム(以下「PVAフィルム」と略称する)に対して施す膨潤水による膨潤の方法と装置及び該膨潤方法と装置により膨潤したPVAフィルムに染色、延伸などの処理を施して偏光フィルムを製造する方法と装置に関する。
【背景技術】
【0002】
周知のように、この種のPVAフィルムの膨潤は、PVAフィルムを膨潤水中に設置した複数のガイドローラを介して膨潤水中を搬送案内する方式で行っている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
しかしこの周知のPVAフィルムの膨潤方式は、PVAフィルムに対する膨潤水の自然な浸透による膨潤であるため、特に最近のようにPVAフィルムが広幅になればなる程、膨潤水の浸透にむらが生じ、全体を均一に膨潤することが難しく、この結果膨潤後における処理(染色、延伸など)も均一に行われにくく、偏光フィルムとしての光学特性にもむらが生じやすく、偏光フィルムとしての収率(歩留まり)が約75%以下のように比較的低い値に留まっている状況にある。
【特許文献1】特開平10−153709号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この発明は、上記のような状況に鑑み、PVAフィルムを膨潤液中に設置した複数のガイドローラを介して膨潤水中を案内するPVAフィルムの膨潤方式(方法と装置)として、PVAフィルムの全体がほぼ均一に膨潤され、これにより偏光フィルムの収率をより一層アップ可能なものを提供すること、及びこの膨潤方式により膨潤したPVAフィルムを処理して偏光フィルムを製造する方式(方法と装置)を提供することを主要な課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この発明によれば、上記の課題は、特許請求の範囲の請求項1と6に記載のように、基本的には、PVAフィルムを膨潤水中に設置した複数のガイドローラを介して膨潤水中を案内するPVAフィルムの膨潤方法と装置において、少なくとも一つのガイドローラを、軸方向の両半に対称に多数の加圧水吐出孔を形成したシリンダ(ドラム)形の加圧水吐出ローラで構成 することによって解決する。
【0006】
この発明の請求項1と6に記載のPVAフィルムの膨潤方法と装置においては、請求項2と7に記載のごとく、少なくとも二つのガイドロールを構成する加圧水吐出ローラに、PVAフィルムを、表面と裏面が対向するように転向案内することが望ましい。
【0007】
またこの発明に係る請求項1又は2と請求項6又は7に記載のPVAフィルムの膨潤方法と装置は、請求項3と8に記載のように、加圧水吐出ローラの加圧水吐出孔を、加圧水吐出ローラの表面部に軸周りに間隔をおいて形成した複数条の軸方向にのびる加圧水案内溝のそれぞれに開口するように形成することが望ましい。
【0008】
さらにこの発明の請求項3と8に記載のPVAフィルムの膨潤方法と装置においては、請求項4と9に記載のごとく、加圧水吐出ローラの隣接する加圧水案内溝における加圧水吐出孔の軸方向の位置を相互にずらすことが好ましい。この場合の位置のずらし量は一般には半ピッチとすることができる。
【0009】
さらにまた請求項1〜4と請求項6〜9のいずれかに記載のPVAフィルムの膨潤方法と装置においては、請求項5と10に記載のように、加圧水吐出ローラは、加圧水供給管系の給水端部(先端部)で支持することが望ましい。
【0010】
この発明は、さらに、請求項11に記載のように、PVAフィルムを、請求項1〜5のいずれかに記載のPVAフィルムの膨潤方法により膨潤する工程と、染色する工程と、延伸する工程を含む、偏光フィルムの製造方法を提供する。
【0011】
この発明は、さらにまた、請求項12に記載のごとく、請求項6〜10のいずれかに記載のPVAフィルムの膨潤装置と、染色槽と、延伸槽を含む、偏光フィルムの製造装置を提供する。
【発明の効果】
【0012】
特許請求の範囲の請求項1と6に記載のこの発明に係るPVAフィルムの膨潤方法と装置の基本構成によれば、全体にわたって均一に近い膨潤が行われ、偏光フィルムの収率が90%を越える程度までアップされることを確認した。このような高収率は、膨潤水中に導入されるPVAフィルムが、加圧水吐出ローラからなるガイドローラ以外の部分では、周知の方式と同様の膨潤水の自然な浸透による膨潤作用を受ける一方、加圧水吐出ローラからなるガイドローラ部では、多数の加圧水吐出孔から吐出されてローラ表面部に沿って流動する加圧水の加圧浸透による強制的な膨潤作用を受け、これらの両膨潤作用が相乗的に作用するためであると推定される。
【0013】
また請求項2と7に記載の二以上の加圧膨潤水吐出ローラに対するPVAフィルムの表裏両面の対向案内構成によれば、PVAフィルムが、表裏の両面から加圧水の加圧浸透による強制的な膨潤作用を受け、より均一に近い膨潤が行われる。
【0014】
請求項3と8に記載の加圧水吐出ローラの加圧水吐出孔の加圧水案内溝に対する開口構成によれば、加圧水が加圧水案内溝に沿って軸方向の各端に向かって流動するので、PVAフィルムが拡幅作用を受け、しわやたるみの無い状態になるので、一段と均一に近い膨潤が行われる。
【0015】
さらに請求項4と9に記載の隣接する加圧水案内溝における加圧水吐出孔の半ピッチのような軸方向の位置ずらし構成によれば、加圧水の吐出部がより均衡した状態になるので、加圧水の流動層が均一になり、PVAフィルムが一様の拡幅作用を受けるので、均一に近い膨潤が確保される。
【0016】
さらにまた請求項5と10に記載の加圧水吐出ローラの加圧水供給管系の給水端部による支持構成によれば、独立した支持軸を設ける必要がないため、構造をコンパクトにすることができる。
【0017】
請求項11と12に記載の偏光フィルムの製造方法と装置によれば、染色、延伸がほぼ均一に近い形で行われ、この結果光学特性のむらが無に近い偏光フィルムを高収率で製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下図面に基づいて、この発明に係るPVAフィルムの膨潤方法と装置の好適な実施形態について説明する。
【0019】
図1は、この発明の特徴であるPVAフィルムの膨潤方法と装置の好適な一実施形態の構成概要を示したもので、膨潤槽11内の膨潤水12中に、PVAフィルム10の導入側の左方から右方に向かって複数個(ここでは4個)の加圧水吐出ローラ15と1個の標準的な慣用のガイドローラ16を下部と上部に千鳥状に設置するとともに、膨潤槽11外の左方部と右方部には、フィルム導入ローラ17と、標準的なガイドローラ18及びフィルム導出ローラ19が設置し、フィルム導入ローラ17を通して簿潤槽11内の膨潤水12中に導入するPVAフィルム10を、順次表面と裏面が交互に加圧水吐出ローラ15に対向するように上下に千鳥状に案内した後、ガイドローラ16を通して、膨潤槽11外の標準的なガイドローラ18、フィルム導出ローラ19へと導出するように構成したものである。なおこの後PVAフィルム10は、染色槽、延伸槽等に誘導して、偏光フィルムを製造する。
【0020】
図2及び図3に示すように、各加圧水吐出ローラ15は、表面部に、軸周りに等間隔をおいて形成した複数の加圧水案内溝20を有しており、各加圧水案内溝20には、軸方向の中心に対して左右対称な位置に、複数の外開き状の加圧水吐出孔21が実質上等間隔をおいて開口している。この加圧水吐出孔21は、隣接する加圧水案内溝20において半ピッチずつずれた位置に開口しており、全体として千鳥状の配置になっている。
【0021】
また各加圧水吐出ローラ15は、左右の両端壁22が、その内部を同心的にのびる給水端管25とともに加圧水供給管系24の給水端部を構成する左右一対の給水端管コネクタ(給水端管接続管)26に軸受27を介して回転可能に支持されている。
【0022】
給水端管25には、図1において下側に位置する加圧水吐出ローラ15に関するものについては、図2、図3に示すごとく下半部に、また上側に位置する加圧水吐出ローラ15に関するものについては上半部(図2、図3の上下を逆転した状態に対応する)に、軸周り及び軸方向に間隔をおいて多数の給水孔28が形成してあるとともに、前後の各側部には、給水孔28が形成されていない上半部(図2、図3参照)と下半部のそれぞれへの加圧水の流入を抑制するために、軸方向の全長にわたってのびる前後一対の加圧水流入抑制フランジ29が付設してある。
【0023】
この図示の実施形態においては、フィルム導入ローラ17を介して膨潤槽11内の膨潤水12中に導入されるPVAフィルム10は、最初の加圧水吐出ローラ15に到るまでの間及び隣接する上下の加圧水吐出ローラ15の間においては、膨潤槽11内の膨潤水12の自然の浸透による膨潤作用を受け、また各加圧水吐出ローラ15の部分においては、加圧水吐出孔21を通して外方に吐出する加圧水の加圧水案内溝20に沿う流動により、拡幅作用を受けながら、表面及び裏面のそれぞれから、加圧浸透による強制的な膨潤作用を受け、これにより慣用のガイドローラ16を通して膨潤槽11から導出するまでに的確に膨潤される。
【0024】
この発明に係るPVAフィルムの膨潤方法と装置においては、加圧水吐出ローラ15の加圧水吐出孔21を通して吐出する加圧水は、一般には、PVAフィルム10を加圧水吐出ローラ15の表面から微小量(例えば約1mm程度)離間させて、無接触状態にするのに適した条件(圧力、流量、流速等)、すなわちPVAフィルムと加圧水吐出ローラの表面との間に微小な厚さ(例えば約1mm程度)の加圧水流層が形成されるのに適した条件で吐出することができる(特に図4参照)。
【0025】
これらの加圧水の吐出条件は、PVAフィルム10のサイズ(厚さ、幅)や搬送条件(張力、速度等)、膨潤槽11内の膨潤水12の温度などによって適当に設定することができるとともに、これらのPVAフィルム10の搬送条件、膨潤水12の温度などは、自動制御によって調整可能にすることができる。
【0026】
この発明に係るPVAフィルムの膨潤方法と装置は、このほか、加圧水吐出ローラを回転駆動可能に構成する(例えば加圧水吐出ローラの端壁に同心的に従動ギアを取付け、該従動ギアに隣接して設置する駆動ギアを係合する)など、種々の形態で実施することができるもので、上記の形態に限定されるものでないことはもちろんである。
【実施例】
【0027】
膨潤水(25℃)中にほぼ図2、3に示すような構造の加圧水吐出ローラをほぼ図1に準じて配置した膨潤槽とともに、染色槽、延伸槽、定着槽、乾燥装置を用いて、幅2600mm、厚さ80μのPVAフィルムを、その張力や速度等を制御しながら、膨潤、染色、延伸、染色剤定着、乾燥の処理を行って、複数枚の偏光フィルムを製造したところ、偏光フィルムの平均収率として、約90%が得られた。
【比較例】
【0028】
比較のために、加圧水吐出ローラに代えて、標準的なガイドローラを配置した膨潤槽とともに、上記と同一の染色槽、延伸槽等を用いて、上記と同一のサイズのPVAフィルムを上記とほぼ同等の条件で膨潤、染色、延伸等の処理を行って、複数枚の偏光フィルムを製造したところ、偏光フィルムの平均収率は約70%であった。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】この発明に係るPVAフィルムの膨潤方法と装置の好適な一実施形態の構成概要図である。
【図2】図1に示す実施形態において下側に位置する加圧水吐出ローラと該加圧水ローラを支持する加圧水供給管系の給水端部の一実施形態の略拡大正面図である。
【図3】図2に示す実施形態の略側断面図で、PVAフィルムが併示してある。
【図4】図2に示す加圧水吐出ローラの軸方向中央部の表層部の拡大正断面図で、加圧水の吐出、流動状態とPVAフィルムの加圧水吐出ローラの表面部から離間状態が併せて示してある。
【符号の説明】
【0030】
10 PVAフィルム
11 膨潤槽
12 膨潤水
15 加圧水吐出ローラ
16 ガイドローラ
17 フィルム導入ローラ
18 ガイドローラ
19 フィルム導出ローラ
20 加圧水案内溝
21 加圧水吐出孔
22 端壁
24 加圧水供給管系
25 給水端管
26 給水端管コネクタ
27 軸受
28 給水孔
29 加圧水流入抑制フランジ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリビニルアルコールフィルムを膨潤水中に設置した複数のガイドローラを介して膨潤水中を案内するポリビニルアルコールフィルムの膨潤方法であって、少なくとも一つのガイドローラを、軸方向の両半に対称に多数の加圧水吐出孔を形成したシリンダ形の加圧水吐出ローラで構成してなる、ポリビニルアルコールフィルムの膨潤方法。
【請求項2】
少なくとも二つのガイドロールを構成する加圧水吐出ローラに、ポリビニルアルコールフィルムを、表面と裏面が対向するように転向案内する、請求項1記載のポリビニルアルコールフィルムの膨潤方法。
【請求項3】
加圧水吐出ローラの加圧水吐出孔を、加圧水吐出ローラの表面部に軸周りに間隔をおいて形成した複数条の軸方向にのびる加圧水案内溝のそれぞれに開口する、請求項1又は2記載のポリビニルアルコールフィルムの膨潤方法。
【請求項4】
加圧水吐出ローラの隣接する加圧水案内溝における加圧水吐出孔の軸方向の位置を相互にずらす、請求項3に記載のポリビニルアルコールフィルムの膨潤方法。
【請求項5】
加圧水吐出ローラを、加圧水供給管系の給水端部で支持する、請求項1〜4のいずれかに記載のポリビニルアルコールフィルムの膨潤方法。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリビニルアルコールフィルムを膨潤水中に設置した複数のガイドローラを介して膨潤水中を案内するポリビニルアルコールフィルムの膨潤方法であって、少なくとも一つのガイドローラを、軸方向の両半に対称に多数の加圧水吐出孔を形成したシリンダ形の加圧水吐出ローラで構成してなる、ポリビニルアルコールフィルムの膨潤方法。
【請求項2】
少なくとも二つのガイドロールを構成する加圧水吐出ローラに、ポリビニルアルコールフィルムを、表面と裏面が対向するように転向案内してなる、請求項1記載のポリビニルアルコールフィルムの膨潤方法。
【請求項3】
加圧水吐出ローラの加圧水吐出孔を、加圧水吐出ローラの表面部に軸周りに間隔をおいて形成した複数条の軸方向にのびる加圧水案内溝のそれぞれに開口する、請求項1又は2記載のポリビニルアルコールフィルムの膨潤方法。
【請求項4】
加圧水吐出ローラの隣接する加圧水案内溝における加圧水吐出孔の軸方向の位置を相互にずらす、請求項3記載のポリビニルアルコールフィルムの膨潤方法。
【請求項5】
加圧水吐出ローラは、加圧水供給管系の給水端)で支持する、請求項1〜4のいずれかに記載のポリビニルアルコールフィルムの膨潤方法。
【請求項6】
ポリビニルアルコールフィルムを膨潤水中に設置した複数のガイドローラを介して膨潤水中を案内するポリビニルアルコールフィルムの膨潤装置であって、少なくとも一つのガイドローラを、軸方向の両半に対称に多数の加圧水吐出孔を形成したシリンダ形の加圧水吐出ローラで構成してなる、ポリビニルアルコールフィルムの膨潤装置。
【請求項7】
少なくとも二つのガイドロールを構成する加圧水吐出ローラに、ポリビニルアルコールフィルムを、表面と裏面が対向するように転向案内してなる、請求項6記載のポリビニルアルコールフィルムの膨潤装置。
【請求項8】
加圧水吐出ローラの加圧水吐出孔を、加圧水吐出ローラの表面部に軸周りに間隔をおいて形成した複数条の軸方向にのびる加圧水案内溝のそれぞれに開口する、請求項6又は7記載のポリビニルアルコールフィルムの膨潤装置。
【請求項9】
加圧水吐出ローラの隣接する加圧水案内溝における加圧水吐出孔の軸方向の位置を相互にずらす、請求項8記載のポリビニルアルコールフィルムの膨潤装置。
【請求項10】
加圧水吐出ローラは、加圧水供給管系の給水端)で支持する、請求項6〜9のいずれかに記載のポリビニルアルコールフィルムの膨潤装置。
【請求項11】
ポリビニルアルコールフィルムを、請求項1〜5のいずれかに記載のポリビニルアルコールフィルムの膨潤方法により膨潤する工程と、染色する工程と、延伸する工程を含む、偏光フィルムの製造方法。
【請求項12】
請求項6〜10のいずれかに記載のポリビニルアルコールフィルムの膨潤装置と、染色槽と、延伸槽を含む、偏光フィルムの製造装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2006−199722(P2006−199722A)
【公開日】平成18年8月3日(2006.8.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−9746(P2005−9746)
【出願日】平成17年1月18日(2005.1.18)
【出願人】(504446766)
【Fターム(参考)】