説明

ポリフェニレンエーテル系樹脂製トレー及びその製造方法

【課題】寸法精度に優れ、色ムラが少なく、かつ、加熱環境下に放置した後に、成形品表面の荒れが少ない、即ち、表面外観に優れ、変形及び反りが少ないポリフェニレンエーテル系樹脂製トレー及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】1.0以上の比重を有するポリフェニレンエーテル系樹脂製トレーであって、170℃、1時間における長さ90mm間の片持ち自重撓み量が10mm以下であるポリフェニレンエーテル系樹脂製トレー及びその製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、寸法精度に優れ、色ムラが少なく、変形及び反りが少ないポリフェニレンエーテル系樹脂製トレー及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、樹脂性部品のアニール、架橋等の反応工程には、金属製のトレーが使用されている。しかしながら、形状の複雑化及び多様化に伴い、金属性トレーでは、生産性が満足できず、樹脂からなる加工性の良いトレーの開発が切望されている。一方、電子部品の生産ライン、包装に用いられるキャリアテープ、真空成形またはエンボス成形トレーには、ポリスチレン系樹脂やポリエチレンテレフタレート系樹脂からなるものが使用されている。しかしながら、近年、その生産工程、出荷工程の多様化から、耐熱性が求められてきているのに対し、これらの工程で用いられる樹脂製のトレーは、耐熱の要求を満足するに至っていない。また、アニール、架橋等を行う樹脂製部品を識別するという観点から求められるトレーの色ムラの少なさという要求も満足されていない。
【0003】
ここで、一般に、ポリフェニレンエーテルは耐熱性に優れている為、ポリフェニレンエーテル系樹脂製シートはこれらのトレーの材料として期待できる。しかしながら、その溶融粘度が高い為に、シート成形性が悪いという欠点を有している。一方、これらのシート成形性を改良するために、ポリフェニレンエーテルにポリスチレンなどをアロイされることがあるが、耐熱性が低下するという問題がある。
成形性を改良しつつ耐熱性を維持する方法として、ポリフェニレンエーテル(PPE)に液晶ポリエステル(LCP)になどの重合体を配合することが提案されているが、100〜1000(1/秒)の高いシェアレートがかかる射出成形に関するものであり、シェアレートの低い押出成形についての記載はなく、物性も十分とはいえない(特許文献1参照)。
【0004】
熱可塑性樹脂に液晶ポリマーを添加したシートについての記載があるが、実質ポリエステルやポリカーボネートをマトリクスにするものであり(特許文献2参照)、トレーに加工したとしても耐熱性や層はくりの無さや耐湿性については、十分ではない。
また、ポリフェニレンエーテルに液晶ポリエステルを配合したシートが提案されているが(特許文献3,特許文献4参照)、これもトレーに用いるには耐熱性と層はくりの無さにおいて十分ではない。
ポリフェニレンエーテルにポリスチレン樹脂、エラストマー、オルガノシロキサン系化合物を添加する耐熱性シートが提案されているが、充分な耐熱性を有するものではない(特許文献5参照)。
【0005】
LCPとPPEに金属化合物、シラン系カップリング剤を配合して、耐熱性に優れ、層剥離がなく、耐折り曲げ性、耐湿性に優れ、熱収縮率の小さいポリフェニレンエーテル系樹脂製シートが提案されているが(特許文献6参照)、トレーについての記載はなく、寸法精度、色ムラに関する記載もない。
また、PPEとLCPに金属化合物、有機化合物、潤滑剤を配合して、耐熱性に優れた樹脂組成物が提案されているが(特許文献7参照)、トレーに用いることには全く着目されていない。
【特許文献1】特開昭56−115357号公報
【特許文献2】特許第3117136号公報
【特許文献3】特開2002−241515号公報
【特許文献4】特開2002−241601号公報
【特許文献5】特許第3555697号公報
【特許文献6】特開2004−211084号公報
【特許文献7】WO2006/041023号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、寸法精度に優れ、色ムラが少なく、変形及び反りが少ないポリフェニレンエーテル系樹脂製トレー及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記課題を達成する技術を鋭意検討した結果、170℃の温度雰囲気下で1時間放置した後における長さ90mm間の片持ち自重撓み量が10mm以下であり、1.0以上の比重を有するポリフェニレンエーテル系樹脂製トレーは、寸法精度に優れ、色ムラが少なく、変形及び反りが少ないことを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、
(1)1.0以上の比重を有するポリフェニレンエーテル系樹脂製トレーであって、170℃の温度雰囲気下で1時間放置した後における長さ90mm間の片持ち自重撓み量が10mm以下であることを特徴とするポリフェニレンエーテル系樹脂製トレー、
(2)(A)ポリフェニレンエーテル系樹脂51〜99.9重量部と、(B)液晶ポリエステル0.1〜49重量部と、(A)及び(B)の合計量100重量部に対して(C)0.1〜10重量部のI価、II価、III価もしくはIV価の金属元素を含有する化合物、(D)0.1〜5重量部のシラン化合物、(E)0.1〜5重量部の融点が200℃以上である有機化合物及び(F)0.05〜5重量部の潤滑剤からなる群より選択された少なくとも一種とを含有するポリフェニレンエーテル系樹脂組成物からなる(1)記載のポリフェニレンエーテル系樹脂製トレー、
(3)(C)成分の金属元素がZn元素および/またはMg元素であることを特徴とする上記(2)に記載のポリフェニレンエーテル系樹脂製トレー、
(4)(C)成分がZnOおよび/またはMg(OH)2であることを特徴とする上記(3)に記載のポリフェニレンエーテル系樹脂製トレー、
【0009】
(5)(D)成分が官能基含有シラン化合物であることを特徴とする上記(2)〜(4)のいずれかに記載のポリフェニレンエーテル系樹脂製トレー、
(6)(D)成分の官能基が、アミノ基、ウレイド基、エポキシ基、イソシアネート基およびメルカプト基からなる群より選ばれる少なくとも一種の官能基であることを特徴とする上記(5)記載のポリフェニレンエーテル系樹脂製トレー、
(7)(E)成分が分子量400以上であり、(1分子中の水酸基数/分子量)で示される値が0.0035以上のフェノール系安定剤である、上記(2)〜(6)のいずれかに記載のポリフェニレンエーテル系樹脂製トレー、
(8)(F)成分が流動パラフィンである、上記(2)〜(7)のいずれかに記載のポリフェニレンエーテル系樹脂製トレー、
(9)ポリフェニレンエーテル系樹脂製トレーを形成するポリフェニレンエーテル系樹脂製シートの厚みが0.3〜2.0mmであることを特徴とする上記(2)〜(8)の何れかに記載のポリフェニレンエーテル系樹脂製トレー、
(10)(1)〜(9)の何れかに記載のポリフェニレンエーテル系樹脂製トレーの製造方法であって、吸水率が600ppm以下であるポリフェニレンエーテル系樹脂製シートを成形することを特徴とする方法、
である。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、寸法精度に優れ、色ムラが少なく、変形及び反りが少ないポリフェニレンエーテル系樹脂製トレーを提供することが可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明について具体的に説明する。
本発明におけるポリフェニレンエーテル系樹脂製トレーを170℃、1時間保持した後における長さ90mm間の片持ち自重撓み量は次のように測定できる。ポリフェニレンエーテル系樹脂製トレーから長さ97+Amm×幅5.0mmの大きさの試験片を切り出し、図1に示すように、片端からAmmの部分を固定して水平に設置し、もう一方の先端から3mmの位置(hb0)と93mm(hb1)の位置の高さを測定し、そのまま170℃の温度雰囲気下で1時間放置した後、それぞれの位置の高さ(ha0)と93mm(ha1)を測定する。ここで、Aは、10以上であるのが好ましい。尚、片持ち自重撓み量は、次式により、計算できる。
片持ち自重撓み量=(ha0−ha1)−(hb0−hb1)
【0012】
ポリフェニレンエーテル系樹脂製トレーの片持ち自重撓み量は10mm以下であり、好ましくは8mm以下、さらに好ましくは6mm以下である。10mm以下であると、高温下での反り・変形が抑制される。
ポリフェニレンエーテル系樹脂製シートは、ポリフェニレンエーテル系樹脂組成物を原料とし、押出シート成形により得ることもできるし、ポリフェニレンエーテル系樹脂とそれ以外の成分を押出シート成形機に直接投入し、ブレンドとシート成形を同時に実施して得ることもできる。
【0013】
ポリフェニレンエーテル系樹脂製シートは、Tダイ押出成形によって製造することができる。この場合、無延伸のまま用いてもよいし、1軸延伸してもよいし、2軸延伸することによっても得られる。シートの強度をより高めたい場合は、延伸するのが好ましい。
一方、ポリフェニレンエーテル系樹脂製シートは、押出しチューブラー法、場合によってはインフレーション法とも呼ばれる方法にて製造することもできる。円筒から出てきたパリソンがすぐに冷却してしまわないように、50〜290℃の温度範囲の中から適宜選択してパリソンの温度制御することは、シート厚みを均一にし、層剥離のないシートを作製する上で極めて重要である。
【0014】
ポリフェニレンエーテル系樹脂製シートは、耐熱性に優れ、層剥離が少なく、耐折り曲げ性、耐湿性に優れ、熱収縮率が小さいのが好ましい。具体的には、ポリフェニレンエーテル系樹脂製シートは150℃以上の温度に耐性を示すのが好ましく、160℃以上で使用可能であるのがより好ましい。また180℃に設定した熱風乾燥機中に30分間保持する前後の寸法変化から次のように求めた熱収縮率ΔLが0.5以下であるのが好ましく、0.3以下であるのがより好ましく、0.2以下であるのが特に好ましい。
熱収縮率(ΔL)(%)=(ΔLa+ΔLb)/2
ΔLx=(Lx1−Lx0)/Lx0×100
(ΔLa:長手方向の熱収縮率、ΔLb:短手方向の熱収縮率、x:a又はb、Lx1:加熱後の長さ、Lx0:加熱前の長さ)
また難燃性、機械的強度、絶縁性や誘電率や誘電正接などに代表される電気特性にも優れ、耐加水分解性にも優れているのが好ましい。
【0015】
ポリフェニレンエーテル系樹脂製トレーは、ポリフェニレン系樹脂製シートを真空成形、圧空成形、熱板成形等することによって得ることができる。トレーを得る為の真空成形、圧空成形、熱板成形では、ポリフェニレンエーテル系樹脂シートのガラス転移温度付近まで、シート温度を上昇させるのが好ましい。また、真空成形時の真空度、圧空成形時の圧力は、トレーの厚みに応じ、適当な真空度、圧力に設定する必要がある。例えばトレーの厚さが0.3〜2.0mmのとき、真空度500〜720mmHg、圧力0.01〜1MPaとするのが好ましい。また、真空成形、圧空成形、熱板成形時の各種時間も、トレーの厚みに応じ、適当な時間に設定する必要がある。例えばトレーの厚さが0.3〜2.0mmのとき、加熱時間は、10〜60秒、真空時間、圧空時間、プレス時間は5〜20秒、冷却時間は5〜20秒とするのが好ましい。
【0016】
ポリフェニレンエーテル系樹脂製トレーの比重は、1.0以上である。好ましくは、1.01〜1.50であり、さらに好ましくは、1.02〜1.40である。トレーの耐熱性の観点、および、表面外観の観点から、1.0以上であり、軽量化の観点から、1.5以下であるのが好ましい。
ポリフェニレンエーテル系樹脂シートの吸水率は、重量基準で600ppm以下であるのが好ましい。本発明者らは、ポリフェニレンエーテル系樹脂シートの吸水率を600ppm以下とすることが、トレーを発泡させないといった効果だけでなく、意外にも、トレーの優れた寸法精度、少ない色ムラといった優れた効果を奏することは予想していなかった。吸水率は、好ましくは、500ppm以下であり、さらに好ましくは400ppm以下である。
【0017】
本明細書における(A)ポリフェニレンエーテル系樹脂とは、下記(式1)の繰り返し単位構造からなり、還元粘度(0.5g/dl、クロロホルム溶液、30℃測定)が、0.15〜1.0dl/gの範囲にあるホモ重合体及び/または共重合体である。さらに好ましい還元粘度は、0.20〜0.70dl/gの範囲、最も好ましくは0.40〜0.60の範囲である。
【0018】
【化1】

【0019】
(R1、R4は、それぞれ独立して、水素、第一級もしくは第二級の低級アルキル、フェニル、アミノアルキル、炭化水素オキシを表わす。R2、R3は、それぞれ独立して、水素、第一級もしくは第二級の低級アルキル、フェニルを表わす。)
【0020】
このポリフェニレンエーテル系樹脂の具体例としては、ポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレンエーテル)、ポリ(2−メチル−6−エチル−1,4−フェニレンエーテル)、ポリ(2−メチル−6−フェニル−1,4−フェニレンエーテル)、ポリ(2,6−ジクロロ−1,4−フェニレンエーテル)が挙げられ、さらに、2,6−ジメチルフェノールと他のフェノール類(例えば、2,3,6−トリメチルフェノールや2−メチル−6−ブチルフェノール)との共重合体のようなポリフェニレンエーテル共重合体も挙げられる。中でもポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレンエーテル)、2,6−ジメチルフェノールと2,3,6−トリメチルフェノールとの共重合体が好ましく、さらにポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレンエーテル)が好ましい。
【0021】
ポリフェニレンエーテルの製造方法の例として、米国特許第3306874号明細書記載の第一銅塩とアミンのコンプレックスを触媒として用い、2,6−キシレノールを酸化重合する方法がある。
米国特許第3306875号、同第3257357号および同第3257358号の各明細書、特公昭52−17880号および特開昭50−51197号および同63−152628号の各公報等に記載された方法もポリフェニレンエーテルの製造方法として好ましい。
(A)ポリフェニレンエーテル系樹脂は、重合工程後のパウダーのまま用いてもよいし、押出機などを用いて、窒素ガス雰囲気下あるいは非窒素ガス雰囲気下、脱揮下あるいは非脱揮下にて溶融混練することでペレット化して用いてもよい。
【0022】
(A)ポリフェニレンエーテル系樹脂には、種々のジエノフィル化合物により官能化されたポリフェニレンエーテルも含まれる。種々のジエノフィル化合物としては、例えば無水マレイン酸、マレイン酸、フマル酸、フェニルマレイミド、イタコン酸、アクリル酸、メタクリル酸、メチルアリレート、メチルメタクリレート、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、ステアリルアクリレート、スチレンなどの化合物が挙げられる。さらにこれらジエノフィル化合物により官能化する方法としては、ラジカル発生剤存在下あるいは非存在下で押出機などを用い、脱揮下あるいは非脱揮下にて溶融状態で官能化してもよい。あるいはラジカル発生剤存在下あるいは非存在下で、非溶融状態、すなわち室温以上、かつ融点以下の温度範囲にて官能化してもよい。この際、ポリフェニレンエーテルの融点は、示差熱走査型熱量計(DSC)の測定において、20℃/分で昇温するときに得られる温度−熱流量グラフで観測されるピークのピークトップ温度で定義され、ピークトップ温度が複数ある場合にはその内の最高の温度で定義される。
【0023】
(A)ポリフェニレンエーテル系樹脂には、ポリフェニレンエーテル樹脂単独の他に、ポリフェニレンエーテル樹脂と芳香族ビニル系重合体との混合物であり、さらに他の樹脂が混合されたものも含まれる。芳香族ビニル系重合体としては、例えば、アタクティックポリスチレン、ハイインパクトポリスチレン、シンジオタクティックポリスチレン、アクリロニトリル−スチレン共重合体が挙げられる。ポリフェニレンエーテル樹脂と芳香族ビニル系重合体との混合物を用いる場合は、ポリフェニレンエーテル樹脂と芳香族ビニル系重合体との合計量に対して、ポリフェニレンエーテル樹脂が70wt%以上であるのが好ましく、より好ましくは80wt%以上である。
【0024】
(B)液晶ポリエステルはサーモトロピック液晶ポリマーと呼ばれるポリエステルで、公知のものでよい。例えば、p−ヒドロキシ安息香酸およびポリエチレンテレフタレートを主構成単位とするサーモトロピック液晶ポリエステル、p−ヒドロキシ安息香酸および2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸を主構成単位とするサーモトロピック液晶ポリエステル、p−ヒドロキシ安息香酸および4,4′−ジヒドロキシビフェニルならびにテレフタル酸を主構成単位とするサーモトロピック液晶ポリエステルが挙げられ、特に制限はない。本発明で使用される(B)液晶ポリエステルとしては、下記構造単位(イ)および/または(ロ)、並びに必要に応じて下記構造単位(ハ)および/または(ニ)からなるものが好ましい。
【0025】
【化2】

【0026】
【化3】

【0027】
【化4】

【0028】
【化5】

【0029】
ここで、構造単位(イ)、(ロ)はそれぞれ、p−ヒドロキシ安息香酸から生成したポリエステルの構造単位と、2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸から生成した構造単位である。構造単位(イ)および(ロ)を使用することで、優れた耐熱性、流動性や剛性などの機械的特性のバランスに優れた熱可塑性樹脂組成物を得ることができる。上記構造単位(ハ)、(ニ)中のXは、下記(式2)よりそれぞれ独立に1種あるいは2種以上選択することができる。
【0030】
【化6】

【0031】
構造式(ハ)において好ましいのは、エチレングリコール、ハイドロキノン、4,4′−ジヒドロキシビフェニル、2,6−ジヒドロキシナフタレンおよびビスフェノールAのそれぞれから生成した構造単位であり、さらに好ましいのは、エチレングリコール、4,4′−ジヒドロキシビフェニルおよびハイドロキノンのそれぞれから生成した構造単位であり、特に好ましいのは、エチレングリコール、4,4′−ジヒドロキシビフェニルのそれぞれから生成した構造単位である。
構造式(ニ)において好ましいのは、テレフタル酸、イソフタル酸および2,6−ジカルボキシナフタレンのそれぞれから生成した構造単位であり、さらに好ましいのは、テレフタル酸およびイソフタル酸のそれぞれから生成した構造単位である。
【0032】
構造式(ハ)および構造式(ニ)は、それぞれ上記に挙げた構造単位を少なくとも1種あるいは2種以上を用いることができる。具体的には、2種以上用いる場合、構造式(ハ)においては、1)エチレングリコールから生成した構造単位/ハイドロキノンから生成した構造単位、2)エチレングリコールから生成した構造単位/4,4′−ジヒドロキシビフェニルから生成した構造単位、3)ハイドロキノンから生成した構造単位/4,4′−ジヒドロキシビフェニルから生成した構造単位、などを挙げることができる。
また、構造式(ニ)においては、1)テレフタル酸から生成した構造単位/イソフタル酸から生成した構造単位、2)テレフタル酸から生成した構造単位/2,6−ジカルボキシナフタレンから生成した構造単位、などを挙げることができる。ここでテレフタル酸量は2成分中、好ましくは40wt%以上、さらに好ましくは60wt%以上、特に好ましくは80wt%以上である。テレフタル酸量を2成分中40wt%以上とすることで、比較的に流動性、耐熱性が良好な樹脂組成物となる。液晶ポリエステル(B)成分中の構造単位(イ)、(ロ)、(ハ)、(ニ)の使用割合は特に限定されない。ただし、構造単位(ハ)と(ニ)は基本的にほぼ等モル量となる。
【0033】
また、構造単位(ハ)、(ニ)からなる下記構造単位(ホ)を、(B)成分中の構造単位として使用することもできる。具体的には、1)エチレングリコールとテレフタル酸から生成した構造単位、2)ハイドロキノンとテレフタル酸から生成した構造単位、3)4,4′−ジヒドロキシビフェニルとテレフタル酸から生成した構造単位、4)4,4′−ジヒドロキシビフェニルとイソフタル酸から生成した構造単位、5)ビスフェノールAとテレフタル酸から生成した構造単位、などを挙げることができる。
【0034】
【化7】

【0035】
(B)液晶ポリエステル成分には、必要に応じて本発明の特徴と効果を損なわない程度の範囲で、他の芳香族ジカルボン酸、芳香族ジオール、芳香族ヒドロキシカルボン酸から生成する構造単位を導入することができる。
(B)成分の溶融時での液晶状態を示し始める温度(以下、液晶開始温度という)は、好ましくは150〜350℃、さらに好ましくは180〜320℃である。液晶開始温度をこの範囲にすることは、得られる樹脂製シート中に黒色異物を少なくする観点で好ましい。
【0036】
(C)I価、II価、III価またはIV価の金属元素を含有する化合物は、金属を含有する無機化合物または有機化合物である。(C)成分は、本質的に金属元素を主たる構成成分とする化合物である。(C)成分におけるI価、II価、III価またはIV価をとりうる金属元素の具体例として、Li、Na、K、Zn、Cd、Sn、Cu、Ni、Pd、Co、Fe、Ru、Mn、Pb、Mg、Ca、Sr、Ba、Al、Ti、Ge、Sbが挙げられる。中でもZn、Mg、Ti、Pb、Cd、Sn、Sb、Ni、Al、Ge元素が好ましく、Zn、Mg、Ti元素がより好ましい。層剥離がなく、シートの靱性を大きく向上させる観点から、I価、II価、III価もしくはIV価の金属元素がZn元素および/またはMg元素であることが更に好ましく、Zn元素であることが特に好ましい。
【0037】
(C)I価、II価、III価またはIV価の金属元素を含有する化合物として、上記金属元素の酸化物、水酸化物、アルコキサイド塩、脂肪族カルボン酸塩、酢酸塩が好ましい。好ましい酸化物の例としては、ZnO、MgO、TiO4、TiO、PbO、CdO、SnO、SbO、Sb、NiO、Al、GeOが挙げられる。好ましい水酸化物の例としては、Zn(OH)、Mg(OH)、Ti(OH)、Ti(OH)、Pb(OH)、Cd(OH)、Sn(OH)、Sb(OH)、Sb(OH)、Ni(OH)、Al(OH)、Ge(OH)が挙げられる。好ましいアルコキサイド塩の例としては、Ti(OPr)、Ti(OBu)が挙げられる。好ましい脂肪族カルボン酸塩の例としては、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸チタニウム、ステアリン酸鉛、ステアリン酸カドニウム、ステアリン酸すず、ステアリン酸アンチモン、ステアリン酸ニッケル、ステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸ゲルマニウムが挙げられる。好ましい酢酸塩の例としては、酢酸亜鉛、酢酸マグネシウム、酢酸チタニウム、酢酸鉛、酢酸カドニウム、酢酸すず、酢酸アンチモン、酢酸ニッケル、酢酸アルミニウム、酢酸ゲルマニウム、酢酸チタニウムが挙げられる。
【0038】
これらの中でより好ましい例としては、ZnO、Mg(OH)、Ti(OPr)、Ti(OBu)、酢酸亜鉛、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸アルミニウム、が挙げられる。さらに層剥離の無さの観点から、ZnOおよび/またはMg(OH)が好ましく、特にZnOが好ましい。またこれらの(C)成分は、本発明の効果を損なわない範囲で、不純物を含んでいてもよい。
【0039】
(D)シラン化合物とは、官能基含有シラン化合物のことであり、アミノ基、ウレイド基、エポキシ基、イソシアネート基およびメルカプト基からなる群より選ばれる少なくとも一種を含有するシラン化合物である。官能基含有シラン化合物は、通常、これらの官能基のうちのいずれか1個を分子中に含有するものであればよいが、場合によっては、これらの官能基の2種以上を分子中に含有するものであっても良い。また、シラン化合物は、通常、前記のような官能基を分子中に含有するアルコキシシランである。官能基含有シラン化合物の具体例としては、γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、γ-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-(β-アミノエチル)-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-(β-アミノエチル)-γ-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ-フェニル-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、などのアミノ基を含有するシラン化合物;γ-ウレイドプロピルトリメトキシシラン、γ-ウレイドプロピルメチルトリメトキシシラン、γ-ウレイドプロピルトリエトキシシラン、γ-ウレイドプロピルメチルトリエトキシシラン、γ-(2-ウレイドエチル)アミノプロピルトリメトキシシランなどのウレイド基を含有するシラン化合物;γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルジメチルメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシランなどのエポキシ基を含有するシラン化合物;γ-イソシアネートプロピルトリメトキシシラン、γ-イソシアネートプロピルメチルジメトキシシラン、γ-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、γ-イソシアネートプロピルメチルジエトキシシラン、γ-イソシアネートプロピルエチルジメトキシシラン、γ-イソシアネートプロピルエチルジエトキシシラン、γ-イソシアネートプロピルトリクロロシランなどのイソシアネート基を含有するシラン化合物;γ-メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、γ-メルカプトプロピルトリエトキシシラン、γ-メルカプトプロピルエチルジエトキシシラン、γ-メルカプトプロピルメチルジエトキシシラン、β-メルカプトエチルトリメトキシシラン、β-メルカプトエチルトリエトキシシラン、β-メルカプトエチルジメトキシシランなどのメルカプト基を含有するシラン化合物;が挙げられる。
【0040】
(E)融点が200℃以上である有機化合物とは、主に、炭素元素、水素元素、酸素元素、から構成される有機化合物であるが、窒素元素、硫黄元素を含有していてもよい。この(E)成分は、異物低減の観点から、フェノール系安定剤であることが好ましい。特に、このフェノール系安定剤は、融点が200℃以上、かつ分子量が400以上であり、かつ(1分子中の水酸基数)/(分子量)で示される値が0.0035以上であることがより好ましい。樹脂組成物の耐熱性保持とモールドデポジットの少なさの観点から、(E)成分の融点は200℃以上であり、好ましくは220℃以上であり、より好ましくは230℃以上であり、さらに好ましくは240℃以上である。融点の上限については、分散性の観点から350℃以下が好ましく、330℃以下がより好ましく、310℃以下がさらに好ましい。(E)成分の溶融混練時の組成物中への残存しやすさやモールドデポジットの少なさの観点から、分子量は400以上であり、好ましくは450以上、より好ましくは500以上800以下であり、さらに好ましくは650以上780以下である。さらに、(E)成分の重要な特性として、(1分子中の水酸基数/分子量)の式で示される値が0.0035以上であり、好ましくは0.0036以上であり、より好ましくは0.0037以上であり、さらに好ましくは0.0038以上であり、特に好ましくは0.00385以上である。この値が上記の範囲にあることは、本発明に係る樹脂組成物中の異物数を激減させ、モールドデポジットの少なさと成形時の計量安定性の観点から重要である。
【0041】
なお、前述の(1分子中の水酸基数/分子量)における「水酸基」とは、フェノール性水酸基を指す。
また、ポリフェニレンエーテル系樹脂組成物中の異物数を激減させ、かつ、耐熱性と流動性の高いバランスを両立し、モールドデポジットの少なくし、かつ計量安定性を良好にする観点から、(E)成分は、下記の式(8)の構造を有することが好ましい。
【0042】
【化8】

【0043】
(式(8)において、R、R、Rは、各々、独立に水素と炭素数1〜5個までのアルキル基の中から選ばれる基である。式(8)において、R、R、R、R、R、Rは各々、独立に水素と炭素数1〜6個までのアルキル基の中から選ばれる基である。)
また、フェノール性水酸基の両隣の置換基同士は同じでも異なっても良いが、製造容易性の観点から同じことが好ましい。さらにブリードアウトや異物の少なさの観点から、R、R、Rは、水素、メチル基、エチル基、イソプロピル基が好ましいが、より好ましくはメチル基である。R、R、R、R、R、Rは、異物を激減させることができることから、水素、メチル基、イソプロピル基、ターシャリーブチル基が好ましく、イソプロピル基、ターシャリーブチル基がより好ましく、ターシャリーブチル基がさらに好ましい。
【0044】
フェノール系安定剤の具体例としては、1,3,5-トリメチル-2,4,6-トリス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)ベンゼン、1,3,5-トリメチル-2,4,6-トリス(3,5-ジ-i-プロピル-4-ヒドロキシベンジル)ベンゼン、1,3,5-トリメチル-2,4,6-トリス(3,5-ジメチル-4-ヒドロキシベンジル)ベンゼン、1,3,5-トリメチル-2,4,6-トリス(4-ヒドロキシベンジル)ベンゼン、1,3,5-トリス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)ベンゼン、1,3,5-トリス(3,5-ジ-i-プロピル-4-ヒドロキシベンジル)ベンゼン、1,3,5-トリス(3,5-ジメチル-4-ヒドロキシベンジル)ベンゼン、1,3,5-トリス(4-ヒドロキシベンジル)ベンゼン、4,4‘-ブチリデンビス(3-メチル-6-t-ブチルフェノール)が挙げられる。この中でも特に色むらの観点で、1,3,5-トリメチル-2,4,6-トリス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)ベンゼンが好ましい。この化合物として、イルガノックス1330(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)製、登録商標)やアデカスタブ330(旭電化工業(株)製、登録商標)やANOX330(Chemtura(株)製、登録商標)が好適である。
【0045】
(F)潤滑剤とは、一般的に滑剤と呼ばれるものである。例えば、ペレットの表面にコーティングされる外部潤滑剤や、溶融混練されることによりペレットの内部に分散されている内部潤滑剤のことである。潤滑剤の具体例として、炭化水素系の滑剤(流動パラフィン、天然パラフィン、低分子量ポリエチレンなど)、脂肪酸系の滑剤(高級脂肪酸、オキシ脂肪酸など)、脂肪酸アミド系滑剤(脂肪酸アミド、アルキレンビス脂肪酸アミドなど)、エステル系滑剤(脂肪酸の低級アルコールエステル、脂肪酸の多価アルコールエステル、脂肪酸のポリグリコールエステル、脂肪酸の脂肪アルコールエステルなど)、アルコール系滑剤(脂肪アルコール、多価アルコール、ポリグリコール、ポリグリセロールなど)、金属石けん系滑剤が挙げられる。これらの中でも、異物低減と流動性付与の観点から、炭化水素系の滑剤が好ましく、さらに流動パラフィンがより好ましい。
【0046】
流動パラフィンとは、常温で液状であり、パラフィン系炭化水素を含むオリゴマー状及び重合体である。パラフィン炭化水素とアルキルナフテン炭化水素の混合物である。ミネラルオイルと呼ばれることもある。芳香族を含むものは、トレーの耐薬品の観点から、好ましくない。15℃における比重が0.8494以下のものも、15℃における比重が0.8494を超えるものも含む。例えば、代表的なものでは、エクソンモービル有限会社製のクリストール(登録商標)N352、プライモール(登録商標)N382、出光興産(株)製のダイアナプロセスオイル(登録商標)PW-380、PW-150、PW-100、PW-90が好適である。
【0047】
(A)ポリフェニレンエーテル系樹脂の配合量は、(A)ポリフェニレンエーテル系樹脂と(B)液晶ポリエステルの合計100重量部に対して51〜99.9重量部であるのが好ましく、より好ましくは60〜99重量部で、さらに好ましくは70〜98重量部である。流動性を向上させ、押出機を低温で設定できることから、シート中の黒色異物発生を抑制する観点から99.9重量部以下であり、シートの厚みむらの少なさや、層剥離し難さの観点から、51重量部以上である。ここで、黒色異物は、黒点、こげ、チャーと呼ばれるものであり、シートの外観に好ましからざる影響を与えるものである。
(B)成分の液晶ポリエステルの配合量は、(A)成分と(B)成分の合計100重量部に対して0.1〜49重量部であるのが好ましく、より好ましくは1〜40重量部で、さらに好ましくは2〜30重量部である。液晶ポリマーの異方性により生じるシートの厚みむらを抑える観点から、49重量部以下であり、流動性を向上し、シートの黒色異物を抑制する観点から0.1重量部以上である。
【0048】
ポリフェニレンエーテル系樹脂製トレーが(A)及び(B)に加えて、(C)、(D)、(E)及び(F)からなる群より選択された少なくとも一種を含有すると、トレーを高温で保持しても、表面に荒れが生じ難いので好ましい。
(C)成分の配合量は、(A)と(B)の合計100重量部に対して、0.1〜10重量部であるのが好ましく、より好ましくは0.2〜5重量部であり、さらに好ましくは0.4〜3重量部である。この(C)成分の含有量は、シートの層剥離を抑制する観点から0.1重量以上であるのが好ましく、軽量性、耐熱性向上の観点から10重量部以下であるのが好ましい。
【0049】
本発明における(D)成分の配合量は、(A)と(B)の合計100重量部に対して、0.1〜5重量部であるのが好ましく、より好ましくは0.2〜3重量部であり、さらに好ましくは0.3〜1重量部である。この(D)成分の含有量は、シートの層剥離を抑制する観点から0.1重量以上であるのが好ましく、組成物を安定して得ることや耐湿性向上の観点から5重量部以下であるのが好ましい。
(E)成分の配合量は、(A)と(B)の合計100質量部に対して、0.1〜5質量部であるのが好ましく、より好ましくは0.2〜4重量部、さらに好ましくは0.3〜3重量部である。流動性付与とモールドデポジットを抑制する観点から、0.1重量部以上であるのが好ましく、耐熱性向上と異物低減の観点から、5質量部以下であるのが好ましい。
【0050】
(F)成分の配合量は、(A)と(B)の合計100質量部に対して、0.05〜5質量部であるのが好ましく、より好ましくは0.1〜4重量部、さらに好ましくは0.2〜3重量部である。流動性向上の観点から0.05重量部以上であるのが好ましく、異物低減の観点から5重量部以下であるのが好ましい。
(C)成分、(D)成分、(E)成分、(F)成分を併用することもでき、それぞれを併用することは、好ましい形態である。
【0051】
上記の成分の他に、本発明の特徴および効果を損なわない範囲で必要に応じて他の附加的成分、例えば、酸化防止剤、難燃剤(有機リン酸エステル系化合物、フォスファゼン系化合物)、エラストマー(エチレン/プロピレン共重合体、エチレン/1−ブテン共重合体、エチレン/プロピレン/非共役ジエン共重合体、エチレン/アクリル酸エチル共重合体、エチレン/メタクリル酸グリシジル共重合体、エチレン/酢酸ビニル/メタクリル酸グリシジル共重合体およびエチレン/プロピレン−g−無水マレイン酸共重合体、ABSなどのオレフィン系共重合体、ポリエステルポリエーテルエラストマー、ポリエステルポリエステルエラストマー、ビニル芳香族化合物−共役ジエン化合物ブロック共重合体、ビニル芳香族化合物−共役ジエン化合物ブロック共重合体の水素添加物)、可塑剤(低分子量ポリエチレン、エポキシ化大豆油、ポリエチレングリコール、脂肪酸エステル類等)、難燃助剤、耐候(光)性改良剤、ポリオレフィン用造核剤、各種着色剤を添加してもかまわない。
【0052】
(A)、(B)、(C)、(D)、(E)、(F)を混練する場合、混練する順番は特に限定はないが、一括して混練することが、プロセスの簡略性や物性向上の観点から望ましい。ただし、(C)と(D)を併用する場合は、(A)と(B)に対し、(C)と(D)を同時に混練してもよいが、よりシートの層剥離を抑制する観点から、(C)を混練してから(D)を混練するか、もしくは(D)を混練してから(C)を混練することが望ましい。
ポリフェニレンエーテル系樹脂組成物は種々の方法で製造することができる。例えば、単軸押出機、二軸押出機、ロール、ニーダー、ブラベンダープラストグラフ、バンバリーミキサー等による加熱溶融混練方法が挙げられるが、中でも二軸押出機を用いた溶融混練方法が最も好ましい。この際の溶融混練温度は特に限定されるものではないが、通常150〜350℃の中から任意に選ぶことができる。
【0053】
ポリフェニレンエーテル系樹脂製トレーを形成するポリフェニレンエーテル系樹脂製シートは、高温下で放置した場合の反りが少ないという観点から、0.3mm以上であるのが好ましく、成形性、軽量性の観点から、2.0mm以下であるのがより好ましく、特に好ましくは0.4〜1.0mmであり、さらに好ましくは0.5〜0.8mmである。ポリフェニレンエーテル系樹脂製シートの厚さが0.3mm以上であることは、10mm以下の片持ち自重撓み量を有するポリフェニレンエーテル系樹脂製トレーを得易いという点でも有利である。
ポリフェニレンエーテル系樹脂製トレーは、樹脂製品、ゴム製品、IC部品の熱処理、乾燥処理、架橋化反応処理、その他反応処理に好適に用いることができる。
【実施例】
【0054】
本発明を以下、実施例に基づいて説明する。但し本発明はその主旨を越えない限り以下の実施例に限定されるものではない。
[製造例1]
<ポリフェニレンエーテル(PPE−1)の製造例>
2,6−ジメチルフェノールを酸化重合して得た還元粘度0.42のパウダー状のポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレンエーテル)である。
[製造例2]
<液晶ポリエステル(LCP−1)の製造例>
窒素雰囲気下において、p−ヒドロキシ安息香酸、2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸、無水酢酸を仕込み、加熱溶融し、重縮合することにより、以下の理論構造式を有する液晶ポリエステル(LCP−1))を得た。なお、組成の成分比はモル比を表す。
【0055】
【化9】

【0056】
各樹脂組成物のシート成形、真空成形と物性評価を、以下の方法に従って実施した。
(1)シート成形
各ポリフェニレンエーテル系樹脂組成物ペレットを、シリンダー温度300℃、Tダイス温度300℃に設定したスクリュー径65mmの単軸押出機を用い、厚みが0.5±0.05mmになるように、吐出量60kg/時間、引き取り速度4.2〜4.8m/分、ダイクリアランス0.5〜0.7mm、圧延ローラークリアランス0.45〜0.55mm、圧延ローラ表面温度130℃、の条件下にて押出シート成形を実施し、ポリフェニレンエーテル系樹脂製シートを得た。
【0057】
(2)真空成形
得られたポリフェニレンエーテル系樹脂製シート、および各シートを、120℃で3時間乾燥させ、図2に示す様な、幅20mm×長さ20mm×高さ10mmの凹部が10mm間隔で、3行、4列並んだ金型を用い、上下ヒーター温度400℃、ヒーターからシートまでの距離60mm、上下金型温度30℃、加熱時間40秒、真空度750mmHg、真空時間5秒、冷却時間10秒、の条件下にて真空成形を実施し、樹脂製トレー模擬成形品を得た。
【0058】
(3)片持ち自重撓み量
(2)の方法で得られた樹脂製トレー模擬成形品から、長さ127×幅5.0mmの大きさの試験片を切り出し、片端から30mmの部分を固定して水平に設置し、もう一方の先端から3mmの位置(hb0)と93mm(hb1)の位置の高さを測定し、そのまま170℃の温度雰囲気下で1時間放置した後、それぞれの位置[自由端から3mmの位置(ha0)と93mm(ha1)の位置]の高さを測定し、その差を計算した。
片持ち自重撓み量=(ha0−ha1)−(hb0−hb1)
【0059】
(4)成形前シート吸水率
内筒溶液はアクアミクロンCXU(三菱化学株式会社製)、滴定セル溶液はアクアミクロンAX(同社製)としたカールフィッシャー水分系(MKC−210:京都電子工業(株)製)、窒素流量200ml/分、気化温度185℃、気化時間90秒とした水分気化装置(ADP−351:京都電子工業(株)製)を用いて、各樹脂製シート0.1〜0.5gの吸水率を測定した。
【0060】
(5)比重
電子比重計(SD−200L:アルファーミラージュ(株)製)を用いて、(2)の方法で得られた樹脂製トレー模擬成形品の比重を測定した。
【0061】
(6)寸法精度、色ムラ
3次元測定機(AE122:(株)ミツトヨ製)を用いて(2)の方法で得られた樹脂製トレー模擬成形品の凹部12箇所内部のそれぞれ任意点におけるX、Y、Z軸方向の位置を測定し、基準面からのズレを最低位置と最高位置の差として算出高さを測定し、1mm以下のものを○、2mmを超えるものを×とした。また、トレー上の色ムラが目立たないものを○、目立つものを×とした。
【0062】
(7)加熱後、反り・変形、表面外観
(2)真空成形工程で得られた樹脂製トレー模擬成形品を、160℃の熱風乾燥機に48時間放置し、トレーの反り・変形、表面外観を確認した。目視で変形しているものを×、変形していないものを○、成形品表面が荒れていないもの、浮きがないものを○、荒れているもの、浮きがあるものを×とした。
【0063】
(8)熱収縮率
(2)真空成形工程で得られた樹脂製トレー模擬成形品を、180℃に設定した熱風乾燥機中に30分間セットし、取り出して放冷した。加熱前後の寸法を測定し、以下の式によって求めた。
熱収縮率(ΔL)(%)=(ΔLa+ΔLb)/2
ΔLx=(Lx1−Lx0)/Lx0×100
(ΔLa:長手方向の熱収縮率、ΔLb:短手方向の熱収縮率、x:a又はb、Lx1:加熱後の長さ、Lx0:加熱前の長さ)
【0064】
[実施例1]
ポリフェニレンエーテル(PPE−1)と液晶ポリエステル(LCP−1)と酸化亜鉛(ZnO、特級グレード、和光純薬(株)製)を、表1に示す割合(重量部)で、250〜310℃に設定したベントポート付き二軸押出機(ZSK−25;WERNER&PFLEIDERER社製)を用いて溶融混練し、ペレットとして得た。このペレットを用い、上述したシート成形加工方法に因り、シート平均厚み0.51mmのシートを得、上述した真空成形方法に因り、樹脂製トレー模擬成形品を作製し、シート評価、トレー評価を実施した。その結果を表1に示した。
【0065】
[実施例2]
(D)成分として、アミノ基を含有するシラン化合物(シラン1、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、KBM−603、信越化学工業(株)製)を用い、各成分を表1に示す割合(重量部)で配合したこと以外は、実施例1と同様に実施して、ペレットを得て、上述したシート成形加工方法に因り、シート平均厚み0.50mmのシートを得、上述した真空成形方法に因り、樹脂製トレー模擬成形品を作製し、シート評価、トレー評価を実施した。その結果を表1に示した。
【0066】
[実施例3]
(E)成分として、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製、イルガノックス1330(登録商標)(融点=244℃、分子量=775、(1分子中の水酸基数)/(分子量
)=0.00387 構造は、下記式(8)において、R1=R2=R3=メチル基、R4=R5=R6=R7=R8=R9=ターシャリーブチル基、に相当する。)
【0067】
【化10】

【0068】
を用い、各成分を表1に示す割合(重量部)で配合したこと以外は、実施例1、2と同様に実施して、ペレットを得て、上述したシート成形加工方法に因り、シート平均厚み0.50mmのシートを得、上述した真空成形方法に因り、樹脂製トレー模擬成形品を作製し、シート評価、トレー評価を実施した。その結果を表1に示した。
【0069】
[実施例4]
(F)成分として、クリストール(登録商標)N352(エクソンモービル有限会社
製、常温で無色液体)を用い、各成分を表1に示す割合(重量部)で配合したこと以外は、実施例1〜3と同様に実施して、ペレットを得て、上述したシート成形加工方法に因り、シート平均厚み0.50mmのシートを得、上述した真空成形方法に因り、樹脂製トレー模擬成形品を作製し、シート評価、トレー評価を実施した。その結果を表1に示した。
【0070】
[実施例5]
(A)成分として、ポリフェニレンエーテル(PPE−1)に加え、ハイインパクトポリスチレン(HIPS、H9405、PSジャパン(株)製)を用い、各成分を表1に示す割合(重量部)で配合したこと以外は、実施例1〜4と同様に実施して、ペレットを得て、上述したシート成形加工方法に因り、シート平均厚み0.50mmのシートを得、上述した真空成形方法に因り、樹脂製トレー模擬成形品を作製し、シート評価、トレー評価を実施した。その結果を表1に示した。
【0071】
[実施例6]
実施例3と同様の配合量で、上述したシート成形加工方法により、シート平均厚み0.33mmのシートを得、上述の真空成形方法に因り、樹脂製トレー模擬成形品を作製し、シート評価、トレー評価を実施した。その結果を表1に示した。
【0072】
[実施例7]
実施例4と同様の配合量で、上述したシート成形加工方法に因り、シート平均厚み1.10mmのシートを得、上述の真空成形方法に因り、樹脂製トレー模擬成形品を作製し、シート評価、トレー評価を実施した。その結果を表1に示した。
【0073】
[実施例8]
(C)成分を用いなかったこと以外は、実施例1と同様に、上述したシート成形加工方法に因り、シート平均厚み0.51mmのシートを得、上述の真空成形方法に因り、樹脂製トレー模擬品を作製し、シート評価、トレー評価を実施した。その結果を表1に示した。
【0074】
[比較例1]
ペレット原料として、耐熱難燃性の変性ポリフェニレンエーテル(ザイロン640Z(登録商標)、旭化成ケミカルズ(株)製)を用いたこと以外は、実施例1と同様に、上述したシート成形加工方法に因り、シート平均厚み0.49mmのシートを得、上述した真空成形方法に因り、樹脂製トレー模擬成形品を作製し、シート評価、トレー評価を実施した。その結果を表1に示した。熱収縮率に関しては、トレーの変形が大きく、測定できなかった。
【0075】
[比較例2]
シートとして、ポリイミドシート(PI、カプトン500H(登録商標)、東レ・デュポン(株)製、厚み0.125mm)を、上述した真空成形方法に因り、樹脂製トレー模擬成形品の作製を試みたが、シートに破れが発生し、トレーの作製はできなかった。
【0076】
[比較例3]
シートとして、ポリエチレンテレフタレートシート(PET、ルミラーS10(登録商標)、東レ(株)製、厚み0.3mm)を、上下ヒーター温度150〜200℃、加熱時間5〜30秒にした以外は、上述した真空成形方法に因り、樹脂製トレー模擬成形品を作製し、シート評価、トレー評価を実施した。その結果を表1に示した。単一ポリマーであるPET製シートであっても寸法精度が悪く、加熱後の反り・変形が大きかった。
【0077】
[比較例4]
実施例1と同様の配合量で、上述したシート成形加工方法に因り、シート平均厚み0.13mmのシートを得、上述した真空成形方法に因りトレー作製を試みたが、シートに破れが発生し、トレーの作製はできなかった。
【0078】
[比較例5]
実施例5と同様の配合量で、上述したシート成形加工方法に因り、シート平均厚み0.50mmのシートを得、40℃×80RH%の恒温恒湿装置に時間放置し、表1に記載の吸水率を有するシートを得た後、上述した真空成形方法に因り、樹脂製トレー模擬成形品を作製し、シート評価、トレー評価を実施した。その結果を表1に示した。吸水率の高いポリフェニレンエーテル系樹脂製シートを用いた場合の寸法精度は悪く、色ムラも発生した。
【0079】
【表1】

【0080】
表1から、本発明により得られるポリフェニレンエーテル系樹脂製トレーは、寸法精度に優れ、色ムラが少なく、反り・変形が少なく、層剥離がなく、熱収縮率が小さいことがわかる。本発明のポリフェニレンエーテル系樹脂製トレーは、単一ポリマーであるポリエチレンテレフタレート製トレーと比べても、驚くべきことに、反り・変形が小さく、また、吸水率の高いポリフェニレンエーテル系樹脂製シートを用いて作製したポリフェニレンエーテル系樹脂製トレーと比べても、驚くべきことに、寸法精度に優れ、色ムラが少ないことが判る。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明のポリフェニレンエーテル系樹脂製トレーは、寸法精度に優れ、色ムラが少なく、変形及び反りが少ない為、例えば、樹脂製品、ゴム製品、IC部品の熱処理、乾燥処理、架橋反応処理に好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】片持ち自重反り量の測定位置を示すポリフェニレンエーテル系樹脂製トレーの側面図である。
【図2】ポリフェニレンエーテル系樹脂製トレー模擬成形品の上面図及び側面図である。
【符号の説明】
【0083】
1 成形片固定用ジグ
2 成形片
3 先端から3mmの位置の高さha0、またはhb0
4 先端から93mmの位置の高さha1、またはhb1

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1.0以上の比重を有するポリフェニレンエーテル系樹脂製トレーであって、170℃の温度雰囲気下で1時間放置した後における長さ90mm間の片持ち自重撓み量が10mm以下であることを特徴とするポリフェニレンエーテル系樹脂製トレー。
【請求項2】
(A)ポリフェニレンエーテル系樹脂51〜99.9重量部と、(B)液晶ポリエステル0.1〜49重量部と、(A)及び(B)の合計量100重量部に対して(C)0.1〜10重量部のI価、II価、III価もしくはIV価の金属元素を含有する化合物、(D)0.1〜5重量部のシラン化合物、(E)0.1〜5重量部の融点が200℃以上である有機化合物及び(F)0.05〜5重量部の潤滑剤からなる群より選択された少なくとも一種とを含有するポリフェニレンエーテル系樹脂組成物からなることを特徴とする請求項1に記載のポリフェニレンエーテル系樹脂製トレー。
【請求項3】
(C)成分の金属元素がZn元素および/またはMg元素であることを特徴とする請求項2に記載のポリフェニレンエーテル系樹脂製トレー。
【請求項4】
(C)成分がZnOおよび/またはMg(OH)2であることを特徴とする請求項3に記載のポリフェニレンエーテル系樹脂製トレー。
【請求項5】
(D)成分が官能基含有シラン化合物であることを特徴とする請求項2〜4のいずれかに記載のポリフェニレンエーテル系樹脂製トレー。
【請求項6】
(D)成分の官能基が、アミノ基、ウレイド基、エポキシ基、イソシアネート基およびメルカプト基からなる群より選ばれる少なくとも一種の官能基であることを特徴とする請求項5に記載のポリフェニレンエーテル系樹脂製トレー。
【請求項7】
(E)成分が分子量400以上であり、(1分子中の水酸基数/分子量)で示される値が0.0035以上のフェノール系安定剤である、請求項2〜6のいずれかに記載のポリフェニレンエーテル系樹脂製トレー。
【請求項8】
(F)成分が流動パラフィンである、請求項2〜7のいずれかに記載のポリフェニレンエーテル系樹脂製トレー。
【請求項9】
ポリフェニレンエーテル系樹脂製トレーを形成するポリフェニレンエーテル系樹脂製シートの厚みが0.3〜2.0mmであることを特徴とする請求項2〜8の何れかに記載のポリフェニレンエーテル系樹脂製トレー。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれかに記載のポリフェニレンエーテル系樹脂製トレーの製造方法であって、吸水率が600ppm以下であるポリフェニレンエーテル系樹脂製シートを成形することを特徴とするポリフェニレンエーテル系樹脂製トレーの製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2008−174248(P2008−174248A)
【公開日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−7503(P2007−7503)
【出願日】平成19年1月16日(2007.1.16)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】