説明

ポリプロピレン系難燃繊維、及びその織編物、並びにそのロールスクリーン

【課題】ノンハロゲンで十分な難燃性能を有し、且つ、分解臭を発生しないポリプロピレン系難燃繊維、及びその織編物、並びにそのロールスクリーンを得ること。
【解決手段】リン含有ポリエステル組成物を1質量%から8質量%及びチバ・スペシャルティ・ケミカルズ株式会社製EB44−69又はFLAMESTAB NOR116を0.5質量%から3質量%の範囲で含有するポリプロピレン系難燃繊維、及びその織編物、並びにそのロールスクリーン。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難燃性に優れ、難燃剤の熱分解臭気が少ないポリプロピレン系難燃繊維、及びその繊維を用いてなる織編物、並びにその織編物を用いてなるロールスクリーンに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリプロピレン繊維の難燃化は、難燃効果の高いハロゲン系難燃剤、中でも臭素系難燃剤を使用した技術が開発されてきた。例えば、プロピレンを主体とする重合体とテトラブロモビスフェノールA誘導体等の臭素系難燃剤とからなる組成物を芯とし、エチレンを主体とする重合体と当該臭素系難燃剤とからなる組成物を鞘として構成された難燃性複合繊維が提案されている(例えば、特許文献1参照)。このような臭素系難燃剤を使用した繊維は、ポリプロピレン繊維が耐光性に劣るため、長期に屋外で使用することは難しいとされている。
【0003】
臭素系難燃剤の使用によるポリプロピレン繊維の耐光性能はヒンダードアミン系耐光剤を併用することにより改善されるとされている(例えば、特許文献2参照)。しかし、ヒンダードアミン系耐光剤を併用することにより、耐光性能の改善効果がみられるものの、基本的にはハロゲン系難燃剤の使用による難燃化にあるので、耐光性の問題解消には限界がある。また、ハロゲン系難燃剤の使用は、ハロゲン系化合物が燃焼時に有害なガスを発生するという問題もある。
【0004】
ハロゲン系化合物を用いない難燃化技術として、不溶性のポリリン酸アンモニウムを添加した難燃性繊維が提案されている(例えば、特許文献3参照)。しかしながら、ポリリン酸アンモニウムは、ポリプロピレン繊維の延伸温度の温度範囲では熱可塑性に乏しく、製造する際に繊維に欠陥が生じ易いと言った問題があった。
このために、フォスファゼン等のリン系難燃剤、例えば、環状フォスファゼン誘導体とヒンダードアミン誘導体との併用による難燃性繊維が開発されている(例えば、特許文献4参照)。しかし、この繊維は、紡糸温度である220℃付近では十分な耐熱性が得られず、繊維から難燃剤の分解臭が発生すると言う問題があった。
【0005】
【特許文献1】特開平3−130414号公報
【特許文献2】特開平7−126913号公報
【特許文献3】特開平9−310272号公報
【特許文献4】特開2004−339677号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、ノンハロゲンで十分な難燃性能を有するポリプロピレン系繊維を得ることであり、さらに溶融紡糸工程或いは製糸後の熱加工工程において、難燃剤の分解臭を発生しないポリプロピレン系難燃繊維、及びその織編物、並びにそのロールスクリーンを得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の要旨は、リン含有ポリエステル組成物を1質量%から8質量%及びチバ・スペシャルティ・ケミカルズ株式会社製EB44−69又はFLAMESTAB NOR116を0.5質量%から3質量%の範囲で含有するポリプロピレン系難燃繊維、及びその織編物、並びにそのロールスクリーンにある。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、顔料原着で耐光安定性が高く、耐薬品性を有し、軽量なポリプロピレン繊維素材としての特徴を活かしながら、難燃性が特に要求されるカーテンやスクリーン等の屋内用途に、ポリプロピレン系難燃繊維素材として期待される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明のポリプロピレン系難燃繊維の原料となるポリプロピレンは、プロピレンを主成分とする共重合体であればよく、公知のポリプロピレン系ポリマーが制限なく使用される。例えば、ホモポリプロピレン、或いはエチレン、ブテン−1などの他のモノマーとの共重合体が挙げられる。これらのポリプロピレン系ポリマーを単独或いは2種以上の組合せで使用してもよい。
【0010】
さらに、ポリプロピレンのメルトフローレート(以下、MFRと標記する)は、7gから60g/10分にあることが好ましい。ここで示されているMFRは、JIS K 7210に準拠し、測定温度230℃、測定荷重2.16kgにより測定される。該ポリプロピレンのMFRが7g/10分以上であると、製糸可能な紡糸温度が低くなるために、顔料や添加剤が熱分解することがないために好ましい。またMFRが60g/10分以下の場合には、紡糸工程でのドローダウンが大きくならず、製糸安定性を損なわないために好ましい。製糸安定性の面から20g/10分以上40g/10分以下の範囲であることが好適である。
【0011】
本発明のポリプロピレン系繊維に添加される難燃剤は、リン含有ポリエステル組成物である。リン含有ポリエステル組成物とは、リン化合物が共重合されたポリエステル組成物であり、下記式(1)或いは式(2)で表される構造を含むポリエステル組成物である。その添加量は1〜8質量%である。
【0012】
【化1】

(式中、R1及びR2はそれぞれ水素原子または炭化水素基であり、R3はエステル形成性官能基を有する炭化水素基を表す。)
【0013】
【化2】

(式中、R4、R5、R7はそれぞれ炭化水素基を表し、R6は炭素数1〜6の2価の炭化水素基を表す。)
【0014】
前記ポリエステル組成物は主鎖或いは側鎖にリン化合物が重合されたポリマーであり、従来のリン酸エステル系難燃剤とは異なる。例えばトリフェニルホスフェートやトリキシレニルホスフェート等のリン酸エステル系難燃剤では、200℃以上の温度で溶融紡糸された場合、エステル基が加水分解または熱分解し、フェノールや2,6−キシレノールなどの特有の臭気を有する揮発成分を発生するが、本発明の前記リン含有ポリエステル組成物は、200℃以上の温度で溶融紡糸しても、揮発成分を発生しない。
【0015】
リン含有ポリエステル組成物のポリエステル鎖の化学構造については特に限定されない。ポリエステル組成物はジカルボン酸類又はそのエステル形成誘導体とジオール又はそのエステル形成誘導体を原料として重縮合反応によって製造される線状飽和ポリエステルであり、特にポリエチレンテレフタレートを主体とするものが好ましい。このポリエチレンテレフタレートを主体とするポリエステルは、ホモポリエステルであってもコポリエステルであってもよく、共重合成分としてアジピン酸、セバシン酸、フタル酸、イソフタル酸、ナフタレン−2,6−ジカルボン酸、ジフェニルジカルボン酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、ジフェニルスルホンジカルボン酸、p−オキシエトキシ安息香酸等のジカルボン酸類またはそのエステル形成誘導体成分及びテトラメチレングリコール、ヘキサンメチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、ポリオキシアルキレングリコール、p−キシレングリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール等のジオール又はそのエステル形成誘導体成分を含んでいてもよい。これらの共重合成分は互いに1種ずつ用いてもよいし、2種以上用いることもできる。
【0016】
また、本発明におけるポリエステル組成物にはポリエステルが実質上線状である範囲で、トリメリット酸、トリメシン酸、無水トリメリット酸、ピロメリット酸、トリメリット酸モノカリウム塩等の多価カルボン酸成分、グリセリン、トリメチロールプロパン、ジメチロールエチルスルホン酸ナトリウム、ジメチロールプロピオン酸カリウム等の多価ヒドロキシ化合物を少量共重合させてもよい。
前記リン含有ポリエステル組成物のリン含有率は0.3質量%以上であることが好ましく、低濃度の添加量で十分な難燃効果を得るためには、1から10質量%の範囲にあることが好ましい。さらに高濃度であると低い添加量で難燃効果が得られるが、ポリエステルそのものの耐熱性が低下するために好ましくない。ポリプロピレンに添加されて十分な製糸安定性が得られるポリエステルとして、適当量のリン化合物を含有していればよい。
【0017】
本発明のリン含有ポリエステルの融点についても特に限定されない。ポリプロピレン繊維中での分散性を考慮した場合、リン含有ポリエステル組成物の融点はポリプロピレン成分の融点に近いことが好ましく、150℃から220℃の範囲にあることが好ましい。
上記特徴を有するリン含有ポリエステル組成物のポリプロピレン系繊維中への添加量は、1質量%から8質量%の範囲にあることが好ましく、難燃性能と製糸安定性の点から、さらに3質量%から5質量%の範囲が好ましい。添加量が1質量%以上である場合には、十分な難燃性能を得ることができるために好ましい。また、添加量が8質量%以下である場合には、製糸性が高くなるために好ましい。
【0018】
ポリプロピレンにリン含有ポリエステル組成物を添加する際に、リン含有ポリエステル組成物の分散性を向上させるために、相溶化剤として塩素化PPや無水マレイン酸或いはその他の化合物がグラフト重合されたポリオレフィン等が同時に添加されていてもよい。
また、リン含有ポリエステル組成物が溶融紡糸工程で熱分解することを抑制するために、リン系加工安定剤やフェノール系加工安定剤、或いはラクトン系加工安定剤、ヒドロキシルアミン系加工安定剤などの有機化合物やハイドロタルサイト類や水酸化マグネシウム等の無機系受酸剤などが単独或いは同時に添加されていてもよい。
【0019】
本発明のポリプロピレン系難燃繊維では、さらに高い難燃性能を得るために、以下の特定のヒンダードアミン系難燃剤を使用する。チバ・スペシャルティ・ケミカルズ株式会社製EB44−69又は同社製のFLAMESTAB NOR116である。
【0020】
本発明では先のヒンダードアミン系難燃剤の添加量は、0.5質量%から3質量%の範囲であることが必要である。0.5質量%以上とすることにより難燃性が十分となる。また、3質量%以下とすることにより、添加量に比例した難燃効果が得られ経済的である。さらに、ヒンダードアミン系難燃剤そのものの熱分解により、臭気が発生することもない。
【0021】
また、リン含有ポリエステル組成物とヒンダードアミン系難燃剤の添加量の比は、特に限定されることはないが、原糸物性や添加効果を考慮しリン含有ポリエステル組成物/ヒンダードアミン系難燃剤で表した場合、16/1から1/1の範囲が好適である。
また、難燃性能をさらに上げるために、水酸化アルミニウム等の水和金属化合物である無機系難燃剤又はポリリン酸アンモニウムなどのリン系難燃剤、シリコーン系難燃剤などを製糸安定性が維持され、臭気を伴わない範囲で添加してもよい。
【0022】
本発明の難燃繊維を製糸するにあたり、顔料を配合していても何ら問題はない。配合される顔料は特に限定されず、一般の無機顔料や有機顔料を使用することができる。有機顔料としてはβナフトール系化合物等のアゾレーキ顔料、フタロシアニン系顔料、塩基性染料レーキ及び酸性染料レーキ等の染付レーキ顔料、または蛍光顔料、金属塩系の顔料等が挙げられ、無機顔料としてはクロム酸塩、硫化物、酸化物、珪酸塩、リン酸塩、シアン化物、金属酸化物、水酸化物及びカーボンブラック等が挙げられる。また、繊維の風合いや後工程を改善するために、酸化チタン、シリカ又はカオリン等の粒子を製糸性が阻害されない範囲で配合してもよい。
【0023】
本発明の難燃繊維を得るために、以下のような一般的な溶融紡糸工程及び延伸工程が採用される。溶融紡糸工程では、まず紡糸口金から溶融押出した該ポリマーを巻き取ることにより未延伸糸を得る。溶融押出温度は、製糸安定性が得られる範囲で出来るかぎり低い温度が好ましい。溶融温度が280℃より高くなった場合、ヒンダードアミン系難燃剤の熱分解が大きくなるために好ましくない。ホモポリプロピレンを原料とする場合には、190〜220℃の温度範囲で溶融紡糸されることが好ましい。未延伸糸は紡糸されてから連続で延伸を行ってもよく、一旦巻取った後、独立して延伸を行ってもよい。延伸工程は1段或いは2段以上の多段であってもよく、接触或いは非接触型の熱源を用いても何ら問題ない。延伸倍率についても溶融紡糸されたフィラメントの破断伸度の範囲で任意に設定することが可能である。
【0024】
前記操作により得られたフィラメントの繊度及びフィラメント数に関しては用途に応じて任意に設定されても何ら問題は無い。フィラメントの断面形状は円形または楕円、三角或いは四角等の多角形であってもよく、トリローバル等の多葉形状であってもよい。繊維は中実であっても中空形状であってもよい。
【0025】
本発明の難燃繊維は、単1成分からなる繊維でも、2成分あるいはそれ以上の成分からなる複合型繊維であっても構わないが、2成分或いはそれ以上の成分からなる芯鞘型複合型繊維であることがより好ましい。複合成分の組合せは、ホモポリプロピレンのMFRの異なるものの組合せ、またはホモポリプロピレンとエチレン共重合ポリプロピレンとの組合せなど特に限定されるものではない。また芯鞘或いはその他の複合において各成分の配置、割合などについても特に限定されるものではない。
【0026】
芯鞘型複合繊維において、難燃剤が添加される部位は芯成分であることが好ましく、添加されている難燃剤が被覆されていることが好ましい。リン含有ポリエステル組成物が表面に露出している場合、原糸を仮撚り等の糸加工をした際に、ポリプロピレン繊維から剥離などの問題を起こすために好ましくない。また、油剤の付着性の低下や繊維中への油剤の含浸の問題が発生し、ガイド等との摩擦が増加するために、製織や製編等の加工工程の通過性に悪化することもある。最終的な繊維製品を得る各工程を安定に通過させるためには、リン含有ポリエステル組成物を芯部に添加されていることが好ましい。
【0027】
本発明の難燃繊維を含む織編物は、本発明の難燃繊維単独で構成したものでもよく、また、前記難燃繊維を60質量%以上含み、他繊維と交編織した織編物でもよい。また、他繊維としては、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維等の熱可塑性繊維が好ましく、難燃性能を損なわないためには、前記他繊維が難燃性能を有することが更に好ましい。また、前記他繊維を複合することで、後染めが可能となり、染色性の優れた織編物を得ることが可能となる。
本発明の難燃繊維を含むロールスクリーンは、織物、編物の両方を使用することが可能である。織物であれば、平、綾、朱子織といった三原組織でも、絡み組織等でも構成することが出来る。また、編物であれば、たて編み、よこ編みとが考えられるが、目ずれが発生しにくいたて編みがより好ましい。但し、織物と編物を比較する場合は、織物は経糸と緯糸により交点が形成されるため、寸法安定性が良いことから織物で構成することが好ましい。
【0028】
また、本発明の難燃繊維を含むロールスクリーンは、前記芯鞘複合難燃糸を使用していれば良く、ロールスクリーンに使用する糸の形態は、原糸、仮撚加工糸、エア加工糸等を用いることが出来る。尚、商品性の面から、スパンライク調の嵩高性を有した加工糸がより好ましい。ここで、その手法の一例として、流体撹乱ノズルを用いた嵩高加工糸の製法について説明する。
まず流体撹乱ノズルを使用して、本発明の難燃繊維を芯糸、同様の難燃繊維を鞘糸成分とし、芯糸よりも鞘糸を2〜5%過剰供給した加工糸、あるいは5〜12%過剰供給した加工糸を作成する。そして引き続きそれぞれに追撚を加えた追撚糸とするのであるが、2〜5%に設定した加工糸は商品性と整経、製織工程の通過性を重視しており、主として織物の経糸として使用され、5〜12%に設定した加工糸はスパンライク性能を強調することを重視しており、主として織物の緯糸として使用される。
なお、本発明のポリプロピレン系難燃繊維の各種評価は、下記の方法によった。
【0029】
1)難燃性評価
評価試験器として、スガ試験株式会社製の燃焼試験器、形式「FL−45M」を使用し、繊維製品の燃焼性試験方法:JIS L−1091 D法の接炎試験、45°コイル法にて評価した。具体的には次のように実施した。
本発明の難燃性ポリオレフィン繊維を使用して作成した織編物1gを試料として準備し、直径10mmのコイル内に試料1gを挿入し、長さを100mmに調整した。試料を挿入したコイルを45°に傾斜した後に試料の最下部にミクロバーナーで着火し、試料の90mmの所が燃焼するまでの回数を接炎回数とした。5度の測定で接炎回数が全て3回以上である場合、難燃性があるといえる。
2)リン含有ポリエステル組成物の固有粘度[η]
ポリマーをフェノールとテトラクロロエタンの1:1の混合溶媒に溶解し、ウベローデ粘度計により25℃において測定した。
【0030】
3)官能テスト
任意に抽出したモニターにより、各延伸糸の筒編地約30cmの臭気を判定した。臭気は全く感じない。=3,臭気を感じる。=2,明らかに臭気がある。=1の3段階評価とした。官能テストは5人のモニターにより実施し、点数の合計をモニター数で割った平均点を示した。
4)摩擦抵抗テスト
編成性測定器 MODEL KS−2(杉原計器株式会社製)により、GROZ−BECKERT社製編み針:G043 3本を30m/分で走行する際の張力を測定した。
【実施例】
【0031】
次に、実施例をあげて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
[実施例1〜2]
リン含有ポリエステル組成物(三洋化成工業株式会社製、製品名:ファイヤータード B−5(以下B−5と標記)、固有粘度[η]0.458、リン含有率:6質量%)20質量%、ヒドロキシルアミン系加工熱安定剤を含む加工熱安定剤(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ株式会社製、製品名:IRGASTAB FS 301 FF(以下、FS301と標記))0.3質量%及びホモポリプロピレン(プライムポリマー株式会社製、製品名:Y−3005G MFR=30g/10分、融点160℃(以下、Y−3005Gと標記))79.7質量%を直径20mmの二軸押出機を使用して220℃で溶融混練して、リン含有ポリエステル組成物を20質量%含むマスターバッチを作成した。さらに、ヒンダードアミン系難燃剤A(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ株式会社製、製品名:FLAMESTAB NOR 116(以下、NOR116と標記))を20質量%含むマスターバッチとを、上と同様の方法で表1の添加量になるように希釈して以下の条件で製糸した。
【0032】
押出機温度及び紡糸ノズル温度を210℃とし、ホール直径が0.6mm、ホール数30である紡糸ノズルより吐出量22.8g/分でポリマーを吐出し、ポリエーテル成分を主体とするエマルジョン紡糸油剤をオイリングローラーで付与しながら、巻取り速度400m/分で巻取って、未延伸糸を得た。
前記未延伸糸をローラー温度80℃で最終延伸速度400m/分にて、4.0倍に延伸を行い、繊度140dtex/30フィラメントの繊維を得た。
【0033】
[実施例3〜6]
実施例1で使用したリン含有ポリエステル組成物を20質量%含むマスターバッチと、ヒンダードアミン系難燃剤B(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ株式会社製、試験サンプル名:EB44−69(以下、EB44と標記))を20質量%含むマスターバッチを、実施例1と同様の方法で表1の添加量になるように調製して製糸した。
【0034】
[比較例1〜7]
実施例1と同様の方法により、リン酸エステル系難燃剤トリフェニルホスフェート(大八化学工業株式会社製、製品名:TPP)を5質量%含むマスターバッチ、及びリン酸エステル系難燃剤 芳香族縮合リン酸エステル(大八化学工業株式会社製、製品名:PX200)を10質量%含むマスターバッチを作成し、実施例1と同様の方法で表2の添加量になるように調整して製糸した。
【0035】
実施例1〜6、及び比較例1〜7の原糸の各評価結果を表1及び2に記載した。
リン酸エステル系難燃剤とヒンダードアミン系難燃剤を併用した比較例6、7では、同様に難燃剤併用効果が得られたが、リン系難燃剤の持つ芳香臭が確認された。
【0036】
[実施例7]
実施例3と同様の方法により作成されたマスターバッチを使用して、芯鞘複合糸を製糸した。芯成分と鞘成分の割合は1:1とした。芯成分はホモポリプロピレン(Y−3005G)に、難燃剤B−5及びEB44が繊維全体に対して2質量%及び0.5質量%となるように調整した。鞘成分はホモポリプロピレン(Y−3005G)を使用した。
押出機温度及び紡糸ノズル温度を210℃とし、ホール直径が0.6mm、ホール数30である紡糸ノズルより、芯鞘成分の合計吐出量を22.8g/分とし、ポリエーテル成分を主体とするエマルジョン紡糸油剤をオイリングローラーで付与しながら、巻取り速度400m/分で巻取り、未延伸糸を得た。
上記未延伸糸をローラー温度80℃で最終延伸速度400m/分にて、4.0倍に延伸を行い、繊度140dtexの繊維を得た。
前記繊維の難燃性能を測定したところ、接炎回数は、4,4,4,4,4となった。官能評価を行ったところ、3.0という値を得た。
【0037】
[実施例8]
実施例3と同様の方法により作成されたマスターバッチを使用して、芯鞘複合糸を製糸した。芯成分と鞘成分の割合は1:1とした。芯成分はMFR20g/10分のホモポリプロピレン(プライムポリマー株式会社製、製品名:2000GV)に、難燃剤B−5及びEB44が繊維全体に対して3質量%となるように調整した。鞘成分はMFR25g/10分のエチレンランダム共重合ポリプロピレン(日本ポリプロ株式会社製、製品名:ウィンテックXK1183)を使用して、さらに着色顔料(大日精化工業株式会社製 グレー系色MBPPMMZ 4Y97)を繊維中2.5質量%となるようチップブレンドして、上記芯鞘複合溶融紡糸機台の鞘成分の一軸押出機に投入した。
押出機温度及び紡糸ノズル温度を210℃とし、ホール直径が0.8mm、ホール数60である紡糸ノズルより吐出量93.8g/分(芯成分吐出量46.9g/分、鞘成分吐出量46.9g/分)でポリマーを吐出、30フィラメントずつに分繊し、ポリエーテル成分を主体とするエマルジョン紡糸油剤をオイリングローラーで付与しながら、巻取速度800m/minで巻取って、未延伸糸を得た。
前記未延伸糸をローラー温度80℃で最終延伸速度400m/minにて、3.2倍に延伸を行い、繊度189dtex/30フィラメントの繊維を得た。
得られた延伸糸の筒編地を作成し、前記繊維の難燃性能を測定したところ、接炎回数は、4,4,4,3,4となった。官能評価を行ったところ、3.0という値を得た。
【0038】
[実施例9]
難燃剤B−5添加量を5質量%と変更した以外は実施例8と同様の方法により、繊度189dtex/30フィラメントの繊維を得た。
得られた延伸糸の筒編地を作成し、前記繊維の難燃性能を測定したところ、接炎回数は、4,4,4,4,4となった。官能評価を行ったところ、3.0という値を得た。
流体撹乱ノズルを用いて、得られた繊度189dtex/30フィラメントの繊維を芯糸と鞘糸とし、鞘糸を3%過剰供給してエア加工を行い、220T/m(Z撚り)で追撚を行い加工糸Aを作成した。また鞘糸を9%過剰供給してエア加工を行い、190T/m(Z撚り)で追撚を行い加工糸Bを作成した。これらの加工糸を用い、加工糸Aを経糸とし、加工糸Bを緯糸として織物(経糸密度38羽/2.54cm、緯糸密度81本/2.54cm、ナナコ組織)を作成し、染色加工(拡布精錬、仕上げセット)を行った。
得られた織物の難燃性能を測定したところ、接炎回数は、4,4,4,4,4となった。
【0039】
実施例4及び7及び比較例1の延伸糸について摩擦抵抗テストを実施した。比較例1では42−45g/yarnという値が得られたのに対して、実施例4の繊維表面にもリン含有ポリエステル組成物が露出している繊維においては、55−70g/yarnと編み針に対して高い摩擦が確認できる値が得られた。実施例7では、43−46g/yarnと比較例1と同等の値が得られた。
【0040】
【表1】

【0041】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
リン含有ポリエステル組成物を1質量%から8質量%及びチバ・スペシャルティ・ケミカルズ株式会社製EB44−69又はFLAMESTAB NOR116を0.5質量%から3質量%の範囲で含有するポリプロピレン系難燃繊維。
【請求項2】
請求項1に記載のポリプロピレン系難燃繊維を使用した織編物。
【請求項3】
請求項2に記載の織編物を使用したロールスクリーン。

【公開番号】特開2008−266870(P2008−266870A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−74402(P2008−74402)
【出願日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】