説明

ポリベンゾホスホール化合物とその製造方法

【課題】物理的性質、熱的安定性、および電気化学的安定性に優れた新規なポリベンゾホスホール化合物および、多様な置換基が導入可能な当該ポリベンゾホスホール化合物の製造方法を提供する。
【解決手段】下記一般式(I)


(式中、R1およびR2は芳香族炭化水素基などを示し、R3はn価の芳香族炭化水素残基などを示し、nは2〜6の整数を示す。a、b、c、およびdはそれぞれ独立に水素原子または置換基と結合した炭素原子または窒素原子を示す。)で表されるポリベンゾホスホール化合物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリベンゾホスホール化合物とその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ベンゾホスホール化合物の合成例が非特許文献1などに報告されている。
【非特許文献1】R. A. Aitken: Science of Synthesis; J. Thomas編; Thieme: Stuttgart, 10巻, 789頁, 2000年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、従来のベンゾホスホール化合物の合成法では、導入可能な置換基の種類が限られており、また、各種の分野への応用を考慮すると、物理的性質、熱的安定性、および電気化学的安定性をさらに改善することが望まれていた。
【0004】
本発明は、以上の通りの事情に鑑みてなされたものであり、物理的性質、熱的安定性、および電気化学的安定性に優れた新規なポリベンゾホスホール化合物および、多様な置換基が導入可能な当該ポリベンゾホスホール化合物の製造方法を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上記の課題を解決するために、以下のことを特徴としている。
【0006】
第1:下記一般式(I)
【0007】
【化1】

【0008】
(式中、R1およびR2はそれぞれ独立に炭素数1〜6の飽和または不飽和の脂肪族炭化水素基、アルコキシ基、芳香族炭化水素基、または芳香族複素環基を示し、R3はn価の芳香族炭化水素残基または芳香族複素環残基を示し、nは2〜6の整数を示す。a、b、c、およびdはそれぞれ独立に水素原子または置換基と結合した炭素原子または窒素原子を示す。)で表されるポリベンゾホスホール化合物。
【0009】
第2:下記一般式(II)
【0010】
【化2】

【0011】
(式中、R1およびR2はそれぞれ独立に炭素数1〜6の飽和または不飽和の脂肪族炭化水素基、アルコキシ基、芳香族炭化水素基、または芳香族複素環基を示し、R3はn価の芳香族炭化水素残基または芳香族複素環残基を示し、nは2〜6の整数を示す。a、b、c、およびdはそれぞれ独立に水素原子または置換基と結合した炭素原子または窒素原子を示す。Eは酸素、硫黄、セレン、またはテルルを示す。)で表されるポリベンゾホスホールカルコゲニド化合物。
【0012】
第3:下記一般式(III)
【0013】
【化3】

【0014】
(式中、R1およびR2はそれぞれ独立に炭素数1〜6の飽和または不飽和の脂肪族炭化水素基、アルコキシ基、芳香族炭化水素基、または芳香族複素環基を示し、R3はn価の芳香族炭化水素残基または芳香族複素環残基を示し、nは2〜6の整数を示す。a、b、c、およびdはそれぞれ独立に水素原子または置換基と結合した炭素原子または窒素原子を示す。Mは遷移金属原子を示し、Lは遷移金属原子Mの配位子を示し、mはMの価数から1を引いた整数を示す。m=0の場合、Lは存在しない。)で表されるポリベンゾホスホール金属錯体。
【0015】
第4:上記第1のポリベンゾホスホール化合物の製造方法であって、下記一般式(IV)
【0016】
【化4】

【0017】
(式中、R1およびR2はそれぞれ独立に炭素数1〜6の飽和または不飽和の脂肪族炭化水素基、アルコキシ基、芳香族炭化水素基、または芳香族複素環基を示し、a、b、c、およびdはそれぞれ独立に水素原子または置換基と結合した炭素原子または窒素原子を示す。)で表わされるアセチレン誘導体と有機金属試剤とを反応させて下記一般式(V)
【0018】
【化5】

【0019】
(式中、R1、R2、a、b、c、およびdは上記と同義である。Mは金属原子を示し、Yはハロゲン原子、アルキル基、アルコキシル基、アリール基、またはシリル基を示し、mはMの価数から1を引いた整数を示す。m=0の場合、Yは存在しない。)で表わされる中間体を合成し、次いで、一般式(V)の中間体と下記一般式(VI)
【0020】
【化6】

【0021】
(R3はn価の芳香族炭化水素残基または芳香族複素環残基を示し、Xはハロゲン原子を示し、nは2〜6の整数を示す。)で表わされる求電子試剤とを反応させて一般式(I)のポリベンゾホスホール化合物を得ることを特徴とするポリベンゾホスホール化合物の製造方法。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、物理的性質、熱的安定性、および電気化学的安定性に優れた新規なポリベンゾホスホール化合物が提供される。
【0023】
また本発明の製造方法によれば、ポリベンゾホスホール化合物に多様な置換基を導入することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0025】
本発明のポリベンゾホスホール化合物は、一般式(I)で表される。一般式(I)において、R1およびR2はそれぞれ独立に炭素数1〜6の飽和または不飽和の脂肪族炭化水素基、アルコキシ基、芳香族炭化水素基、または芳香族複素環基を示す。
【0026】
脂肪族炭化水素基の具体例としては、メチル基、エチル基等の炭素数1〜6の直鎖状または分岐状のアルキル基、ビニル基等の炭素数1〜6の直鎖状または分岐状のアルケニル基などが挙げられる。
【0027】
アルコキシ基の具体例としては、メトキシ基、エトキシ基等の炭素数1〜6の直鎖状または分岐状のアルコキシ基などが挙げられる。
【0028】
芳香族炭化水素基の具体例としては、フェニル基、ナフチル基等の炭素数6〜14のアリール基などが挙げられる。これらは、例えば炭素数1〜6の直鎖状または分岐状のアルキル基などの置換基を有していてもよい。
【0029】
芳香族複素環基の具体例としては、ピリジル基、キノリル基などが挙げられる。
【0030】
一般式(I)において、R3はn価の芳香族炭化水素残基または芳香族複素環残基を示す。nは2〜6の整数を示す。
【0031】
芳香族炭化水素残基の具体例としては、ベンゼン、ナフタレン、アントラセン、ビフェニル、ベンゾニトリル、ニトロベンゼン、1,4-ジシアノベンゼン、1,3,5-トリフルオロベンゼンの残基などが挙げられる。
【0032】
芳香族複素環残基の具体例としては、ピリジン、2,2'-ビピリジン、ピラジン、キノリン、キノキサリン、1,3,5-トリアジン、カルバゾールの残基などが挙げられる。
【0033】
一般式(I)において、a、b、c、およびdはそれぞれ独立に水素原子または置換基と結合した炭素原子または窒素原子を示す。炭素原子上の置換基の具体例としては、メチル基、エチル基等の炭素数1〜6の直鎖状または分岐状のアルキル基、ハロゲン原子、シアノ基、フェニル基等の炭素数6〜14のアリール基などが挙げられる。
【0034】
一般式(I)のポリベンゾホスホール化合物は、一般式(IV)のアセチレン誘導体と、ブチルリチウムなどの有機金属試剤とを反応させて一般式(V)の中間体を合成し、これを塩化亜鉛で処理した後、ヨウ素等のハロゲン原子が置換した芳香族環化合物である一般式(IV)の求電子試剤とパラジウム触媒の存在下で反応させることにより、高収率で得ることができる。この製造方法によれば、−40 ℃でほぼ定量的に芳香族環が縮合したベンゾホスホール骨格の形成が可能である。
【0035】
そして、3位にリチウムなどの金属原子を有する一般式(V)の中間体を形成することで、この中間体は適切な反応条件下において当該金属原子を他の官能基に変換することが容易であり、さらなる誘導化を可能としている。
【0036】
なお、一般式(IV)のアセチレン誘導体と反応させる有機金属試剤としてはジエチル亜鉛、亜鉛アート錯体などを用いることもできる。一般式(V)の中間体におけるMの具体例としては、Li、Mg、Cu、Zn、B、Siなどが挙げられる。
【0037】
一般式(II)のポリベンゾホスホールカルコゲニド化合物は、一般式(I)のポリベンゾホスホール化合物から、後述の実施例の方法や、硫黄粉末と共にテトラヒドロフラン中で常温にて攪拌する方法などにより得ることができる。
【0038】
一般式(III)のポリベンゾホスホール金属錯体は、一般式(I)のポリベンゾホスホール化合物から合成することができる。例えば、金錯体AuCl(ベンゾホスホール)は、AuCl(tht)と塩化メチレン中で室温にて反応させることで得ることができる(thtはテトラヒドロチオフェン)。
【0039】
以下、本発明に係る一般式(I)〜(III)のポリベンゾホスホール化合物、ポリベンゾホスホールカルコゲニド化合物、およびポリベンゾホスホール金属錯体の好ましい具体例を挙げるが、本発明はこれらの化合物に限定されるものではない。また、以下においては対称性の良い分子構造のものを主に例示しているが、これらの部分的な構造の組み合わせによる非対称構造のものであってもよい。
【0040】
【化7】

【0041】
【化8】

【実施例】
【0042】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
<実施例1> 例示化合物(1):1,4-ビス[2-フェニル-1-(2,4,6-トリ-tert-ブチルフェニル)ベンゾホスホール-3-イル]ベンゼンの合成
例示化合物(1)を下記に示すスキームに従って合成した。
【0043】
【化9】

【0044】
2-(フェニルエチニル)フェニル-(2,4,6-トリ-tert-ブチルフェニル)ホスフィン0.12 g(0.26 mmol)のテトラヒドロフラン(0.50 mL)溶液に、1.6 Mヘキサン溶液のブチルリチウム0.17 mL(0.27 mmol)を−78 ℃にて加えた後、反応混合物を−40 ℃で7時間撹拌した。
【0045】
得られた溶液に塩化亜鉛の1.0 Mテトラヒドロフラン溶液0.27 mL(0.27 mmol)を−78 ℃で加え、得られた黄色透明溶液を1時間室温にて撹拌した後、Pd2(dba)3・CHCl312 mg(0.013 mmol)、PPh3 13 mg(0.052 mmol)、および 1,4-ジヨードベンゼン31 mg(0.094 mmol)を反応溶液に加え、室温にてさらに19時間撹拌した。
【0046】
反応混合液に塩化メチレンと塩化アンモニウム水溶液を加え反応を停止した後、有機層を分離し、フロリジールカラムに通した。ここから揮発成分を減圧下にて除去し、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:ヘキサン)にて生成することで、目的物のジアステレオマー混合物を0.071 g(0.072 mmol, ジヨードベンゼン基準による収率77%)白色固体として得た。
【0047】
【表1】

【0048】
<実施例2> 例示化合物(3):1,4-ビス(1,2-ジフェニルベンゾホスホール-3-イル)ベンゼンの合成
例示化合物(3)を下記に示すスキームに従って合成した。
【0049】
【化10】

【0050】
金属リチウム粉末0.19 mg(28 mmol)のテトラヒドロフラン懸濁液に、-78℃にて例示化合物(1)を2.0 g(2.0 mmol)含むテトラヒドロフラン溶液を加えた。反応混合物を-40℃で4時間撹拌し、さらに1時間かけて0 ℃まで昇温させることで出発原料である例示化合物(1)の消失を確認した。
【0051】
過剰のリチウム粉末を濾過により除去した後、母液に1 Mの塩化水素エーテル溶液を14 mL(14 mmol)加えた。溶媒を減圧下にて留去して得られた白色固体に、ヨードベンゼン0.99 g(4.9 mmol)、N, N’-ジメチルエチレンジアミン(DMEDA)0.36 g(4.0 mmol)、ヨウ化第一銅0.77 g(4.0 mmol)、炭酸セシウム2.6 g(8.1 mmol)、およびトルエン20 mLを加え、80 ℃にて3時間撹拌した。得られた茶色懸濁液に10 %アンモニア水を約100 mL、ジクロロメタンを約100 mL加え、分液した後、水層をさらにジクロロメタン20 mLで抽出した。
【0052】
得られた有機層を全て集めて溶媒を留去することで得たオレンジ色固体をジクロロメタン50 mLに溶解し、ここへ30 %過酸化水素水20 mLを加え、室温で2時間撹拌した。反応終了後、分液し、水層を20 mLのジクロロメタンで抽出した。得られた有機層は水、飽和食塩水の順で洗い、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。硫酸ナトリウムを濾過にて除去した後、母液より減圧下で揮発成分を除去することで得た黄色固体をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル:ジクロロメタン=1:1にて溶出)にて精製、引き続き0.045 Torr、300 ℃にて昇華した後、酢酸エチル−ジクロロメタン−ヘキサンの混合溶媒で再結晶することで、例示化合物(3)のジアステレオマー混合物を白色固体として0.21 g(0.31 mmol, 収率16%)得た。
【0053】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)
【化1】

(式中、R1およびR2はそれぞれ独立に炭素数1〜6の飽和または不飽和の脂肪族炭化水素基、アルコキシ基、芳香族炭化水素基、または芳香族複素環基を示し、R3はn価の芳香族炭化水素残基または芳香族複素環残基を示し、nは2〜6の整数を示す。a、b、c、およびdはそれぞれ独立に水素原子または置換基と結合した炭素原子または窒素原子を示す。)で表されるポリベンゾホスホール化合物。
【請求項2】
下記一般式(II)
【化2】

(式中、R1およびR2はそれぞれ独立に炭素数1〜6の飽和または不飽和の脂肪族炭化水素基、アルコキシ基、芳香族炭化水素基、または芳香族複素環基を示し、R3はn価の芳香族炭化水素残基または芳香族複素環残基を示し、nは2〜6の整数を示す。a、b、c、およびdはそれぞれ独立に水素原子または置換基と結合した炭素原子または窒素原子を示す。Eは酸素、硫黄、セレン、またはテルルを示す。)で表されるポリベンゾホスホールカルコゲニド化合物。
【請求項3】
下記一般式(III)
【化3】

(式中、R1およびR2はそれぞれ独立に炭素数1〜6の飽和または不飽和の脂肪族炭化水素基、アルコキシ基、芳香族炭化水素基、または芳香族複素環基を示し、R3はn価の芳香族炭化水素残基または芳香族複素環残基を示し、nは2〜6の整数を示す。a、b、c、およびdはそれぞれ独立に水素原子または置換基と結合した炭素原子または窒素原子を示す。Mは遷移金属原子を示し、Lは遷移金属原子Mの配位子を示し、mはMの価数から1を引いた整数を示す。m=0の場合、Lは存在しない。)で表されるポリベンゾホスホール金属錯体。
【請求項4】
請求項1に記載のポリベンゾホスホール化合物の製造方法であって、下記一般式(IV)
【化4】

(式中、R1およびR2はそれぞれ独立に炭素数1〜6の飽和または不飽和の脂肪族炭化水素基、アルコキシ基、芳香族炭化水素基、または芳香族複素環基を示し、a、b、c、およびdはそれぞれ独立に水素原子または置換基と結合した炭素原子または窒素原子を示す。)で表わされるアセチレン誘導体と有機金属試剤とを反応させて下記一般式(V)
【化5】

(式中、R1、R2、a、b、c、およびdは上記と同義である。Mは金属原子を示し、Yはハロゲン原子、アルキル基、アルコキシル基、アリール基、またはシリル基を示し、mはMの価数から1を引いた整数を示す。m=0の場合、Yは存在しない。)で表わされる中間体を合成し、次いで、一般式(V)の中間体と下記一般式(VI)
【化6】

(R3はn価の芳香族炭化水素残基または芳香族複素環残基を示し、Xはハロゲン原子を示し、nは2〜6の整数を示す。)で表わされる求電子試剤とを反応させて一般式(I)のポリベンゾホスホール化合物を得ることを特徴とするポリベンゾホスホール化合物の製造方法。

【公開番号】特開2009−280512(P2009−280512A)
【公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−132426(P2008−132426)
【出願日】平成20年5月20日(2008.5.20)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成20年3月12日 社団法人日本化学会発行の「日本化学会第88春季年会(2008)講演予稿集」に発表
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【出願人】(506391093)
【Fターム(参考)】