説明

ポリマー合成に関する装置および方法

【課題】乳酸オリゴマーを解重合し、得られたラクチドを開環重合することによるポリ乳酸の製造において、ラクチドを効率よく得る手段を提供する。
【解決手段】本発明は、ラクチドを連続的または間欠的に製造するためのラクチド製造装置であって、乳酸オリゴマーを解重合反応するための解重合装置11、解重合装置内の残渣を解重合反応に付して残渣に含まれる乳酸オリゴマーの分子量を低下するための触媒再生装置27、および解重合装置において気相に生成したラクチドを凝縮するための蒸留塔29を有する、前記装置に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラクチドを製造するための方法および装置、ならびにこれを用いてポリ乳酸を製造するための方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリ乳酸は乳酸を原料として作られる脂肪族ポリエステルである。ポリ乳酸を合成する方法の一つとして、乳酸を濃縮して含有水分を低下させた後に縮合させることで乳酸オリゴマーを生成させ、これに酸化アンチモン等の触媒を添加して一度解重合させることにより環状二量体(ラクチド)を生成させ、必要に応じて晶析等による精製を行った後、ラクチドにオクチル酸スズ等の触媒を添加して開環重合する方法がある。
【0003】
濃縮工程ではモノマーである乳酸に不純物として10〜15%程度の水分が含まれている場合があり、モノマー間におけるエステル化処理を起こりやすくさせるためにこの水分の除去が実施される。この濃縮工程では、120〜250℃での加熱および、必要に応じて真空ポンプ等を用いた減圧により水分の除去が実施される。
【0004】
縮合工程は、乳酸モノマー間のエステル化反応によって生成する水を120〜250℃での加熱および真空ポンプ等による減圧環境下、望ましくは10Torr以下での減圧により気化して除去する。ここでの減圧は濃縮工程におけるものとは異なり、エステル化反応を進展させるための必須条件である。この縮合工程によりモノマーである乳酸から乳酸オリゴマーが生成する。
【0005】
縮合工程で生成した乳酸オリゴマーは解重合工程に送られ、120〜250℃での加熱および真空ポンプ等による減圧環境下、望ましくは100Torr以下での減圧環境下においてオクチル酸スズ、三酸化アンチモン等の解重合触媒との接触により、乳酸環状二量体(ラクチド)が生成する。生成したラクチドは解重合工程での環境下では通常気体であることが多く、冷却・凝縮により回収される。
【0006】
ポリ乳酸合成におけるラクチドの製造方法として種々の技術が開発されている。例えば乳酸オリゴマーを含むプレポリマーを解重合させるラクチド反応器を有するラクチド製造装置であって、ラクチド反応器内の非反応性の高沸点ポリ乳酸またはその他の不揮発性不純物のパージ流の一部を、ラクチド反応器の前段で再利用するか、あるいは後段の重合用に供給することができる装置が報告されている(特許文献1)。この装置では、ラクチド反応器から排出される反応液(乳酸オリゴマーと触媒を含む、以下残渣と称する)を、解重合工程に還流させる、解重合工程前段の濃縮工程もしくは縮合工程に還流させる、または解重合工程後段の開環重合工程に送るということが可能である。
【0007】
特許文献1に記載される装置では、残渣をラクチド反応器入口に戻すことで原料収率が向上するが、逆反応の開環重合反応が同時に起こることにより分子量が増大し残渣の粘度が乳酸オリゴマーの初期状態より高くなっている。このため、残渣に含まれる触媒の活性が拡散律速となって見かけ上低下し、解重合反応速度が低下する。その結果、プラントの運転が不安定になるという問題がある。濃縮工程もしくは縮合工程に還流させる場合、残渣には触媒が含まれているため縮合反応が阻害され、乳酸オリゴマーの分子量が低下するという問題がある。開環重合工程に送った場合には、ポリ乳酸に分子量の低い乳酸オリゴマーが混入することになり、分子量分布が広がり、結晶性が低下するなどポリマー物性が劣化するという問題がある。
【0008】
【特許文献1】特許第3258324号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上記問題に鑑みてなされたものであり、乳酸オリゴマーを解重合し、得られたラクチドを開環重合することによるポリ乳酸の製造において、ラクチドを効率よく得る方法および装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意検討した結果、解重合装置内に残った粘度の高い残渣を再度解重合反応に付し残渣に含まれる乳酸オリゴマーの分子量を低下させることにより、残渣の粘度が低下し、解重合反応が効率よく進むことを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は以下の発明を包含する。
(1)乳酸オリゴマーを解重合することによりラクチドを連続的または間欠的に製造する方法であって、
a)解重合装置において乳酸オリゴマーを解重合反応させてラクチドを合成する工程、
b)解重合装置内の残渣を、解重合装置の反応容器よりも単位液量あたりの蒸発面積が大きい反応容器で解重合反応に付し、残渣に含まれる乳酸オリゴマーの分子量を低下させる工程、および
c)解重合反応により気体として生成したラクチドを凝縮して回収する工程、
を含む、前記ラクチド製造方法。
(2)bの工程において生成した分子量が低下した乳酸オリゴマーを解重合装置に戻す工程をさらに含む、(1)に記載の方法。
(3)bの工程において、外力を用いて溶融物である残渣を薄層化させる、(1)または(2)に記載の方法。
(4)bの工程において、遠心薄膜蒸発器を用いて解重合反応を行う、(1)〜(3)のいずれかに記載の方法。
(5)乳酸を縮合することにより乳酸オリゴマーを合成する工程をさらに含む、(1)〜(4)のいずれかに記載の方法。
(6)(1)〜(5)のいずれかに記載の方法を用いて乳酸オリゴマーを解重合することによりラクチドを製造し、得られたラクチドを開環重合することを含む、ポリ乳酸の製造方法。
(7)ラクチドを連続的または間欠的に製造するためのラクチド製造装置であって、
乳酸オリゴマーを解重合反応するための解重合装置、
解重合装置内の残渣を解重合反応に付して残渣に含まれる乳酸オリゴマーの分子量を低下するための、解重合装置の反応容器よりも単位液量あたりの蒸発面積が大きい反応容器を有する触媒再生装置、および
解重合反応により気体として生成したラクチドを凝縮するための蒸留塔
を有する、前記装置。
(8)触媒再生装置で生成した分子量が低下した乳酸オリゴマーを解重合装置に送るための液送ポンプをさらに有する、(7)に記載の装置。
(9)触媒再生装置が、溶融物である残渣を薄層化させる手段を有する、(7)または(8)に記載の装置。
(10)触媒再生装置が遠心薄膜蒸発器である、(7)〜(9)のいずれかに記載の装置。
(11)乳酸を縮合して乳酸オリゴマーを製造するための乳酸縮合装置をさらに有する、(7)〜(10)のいずれかに記載の装置。
(12)ポリ乳酸を連続的または間欠的に製造するためのポリ乳酸製造装置であって、
(7)〜(11)のいずれかに記載のラクチド製造装置、および
ラクチドを開環重合するための開環重合装置を有する、
前記装置。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、触媒の利用効率を向上させ、解重合反応速度が向上しラクチドを効率的に製造することができ、さらにポリ乳酸の品質を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明において乳酸オリゴマーとは、乳酸の2量体から分子量5万程度までの乳酸重合物を含む概念であるが、ラクチドの製造において解重合装置に投入される乳酸オリゴマーの分子量は、数平均分子量で、通常150〜1万、好ましくは500〜5,000である。
【0014】
本発明においてラクチドとは、乳酸2分子から水2分子を脱水することにより生じる環式エステルを意味する。乳酸には、L−乳酸、D−乳酸のいずれも包含される。
【0015】
ポリ乳酸は、乳酸を主成分とする重合体を意味し、ポリL−乳酸ホモポリマー、ポリD−乳酸ホモポリマー、ポリL/D−乳酸共重合物、これらのポリ乳酸に他のエステル結合形成性成分、例えば、ヒドロキシカルボン酸、ラクトン類、ジカルボン酸とジオールなどを共重合した共重合ポリ乳酸およびそれらに副次成分として添加物を混合したものを包含する。添加物の例としては、酸化防止剤、安定剤、紫外線吸収剤、顔料、着色剤、無機粒子、各種フィラー、離型剤、可塑剤、その他類似のものが挙げられる。これらの共重合成分および添加剤の添加率は任意であるが、主成分は乳酸または乳酸由来のもので、共重合成分および添加剤は50重量%以下、特に30%以下とすることが好ましい。
【0016】
本発明において、連続的または間欠的にとは、当技術分野において通常用いられる意味を有し、原料の供給と生成物の排出を行う時間帯が少なくとも一部重なる場合や、原料の供給を連続的または間欠的に行い、生成物を連続的または間欠的に排出する場合を含むものである。
【0017】
本発明のラクチドの製造方法は、
a)解重合装置において乳酸オリゴマーを解重合反応させてラクチドを合成する工程、
b)解重合装置内の残渣を、解重合装置の反応容器よりも単位液量あたりの蒸発面積が大きい反応容器で解重合反応に付し、残渣に含まれる乳酸オリゴマーの分子量を低下させる工程、および
c)解重合反応により気体として生成したラクチドを凝縮して回収する工程、
を含む。
【0018】
本発明のラクチド製造方法は、
乳酸オリゴマーを解重合反応するための解重合装置、
解重合装置内の残渣を解重合反応に付して残渣に含まれる乳酸オリゴマーの分子量を低下するための、解重合装置の反応容器よりも単位液量あたりの蒸発面積が大きい反応容器を有する触媒再生装置、および
解重合反応により気体として生成したラクチドを凝縮するための蒸留塔
を有する、ラクチド装置により実施できる。
【0019】
解重合装置は、少なくとも反応器、乳酸オリゴマー供給口、ラクチド排出口および残渣排出口を有する。また、通常温度計も設置される。反応器としては特に制限されず、縦型反応器、横型反応器またはタンク型反応器を用いることができる。攪拌翼としてはパドル翼、タービン翼、アンカー翼、ダブルモーション翼、ヘリカルリボン翼などを使用することができる。
【0020】
反応器における加熱方法としては、当技術分野において通常用いられる方法を使用することができ、例えば、反応器外周部に熱媒のジャケットを設置し、反応器壁面を通して伝熱により反応液を加熱する方法、または攪拌翼の回転軸内部に熱媒を通して伝熱により加熱する方法等があり、これらを単独で使用しても組み合わせて使用してもよい。
【0021】
解重合装置には通常減圧装置が設置されており、通常100Torr以下、好ましくは10Torr以下の減圧環境下、通常120〜250℃、好ましくは120〜200℃で加熱することにより乳酸オリゴマーの解重合反応を実施する。当該解重合反応によりラクチドが気体として生成する。
【0022】
解重合反応においては、必要に応じて、解重合反応のための触媒を添加してもよい。触媒としては、従来公知のものを使用することができ、例えば、周期律表IA族、IIIA族、IVA族、IIB族およびVA族からなる群から選択される金属または金属化合物からなる触媒を使用できる。
【0023】
IA族に属するものとしては、例えば、アルカリ金属の水酸化物(例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム等)、アルカリ金属と弱酸の塩(例えば、乳酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、オクチル酸ナトリウム、ステアリン酸ナトリウム、乳酸カリウム、酢酸カリウム、炭酸カリウム、オクチル酸カリウム等)、アルカリ金属のアルコキシド(例えば、ナトリウムメトキシド、カリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウムエトキシド等)等を挙げることができる。
【0024】
IIIA族に属するものとしては、例えば、アルミニウムエトキシド、アルミニウムイソプロポキシド、アルミナ、塩化アルミニウム等を挙げることができる。
【0025】
IVA族に属するものとしては、例えば、有機スズ系の触媒(例えば、2−エチルヘキサン酸スズ、乳酸スズ、酒石酸スズ、ジカプリル酸スズ、ジステアリン酸スズ、ジオレイン酸スズ、α−ナフトエ酸スズ、β−ナフトエ酸スズ、オクチル酸スズ等)の他、粉末スズ、酸化スズ、ハロゲン化スズ等を挙げることができる。
【0026】
IIB族に属するものとしては、例えば、亜鉛粉末、ハロゲン化亜鉛、酸化亜鉛、有機亜鉛系化合物を挙げることができる。
【0027】
IVB族に属するものとしては、例えば、テトラプロピルチタネート等のチタン系化合物、ジルコニウムイソプロポキシド等のジルコニウム系化合物等を挙げることができる。
【0028】
これらの中でも、オクチル酸スズ等のスズ系化合物または三酸化アンチモン等のアンチモン系化合物を使用するのが好ましい。
【0029】
これら触媒の使用量は、乳酸オリゴマーに対して0.01〜20重量%、好ましくは0.05〜15重量%、より好ましくは0.1〜10重量%程度である。
【0030】
解重合装置内では、乳酸オリゴマーの解重合反応と同時に、逆反応である開環重合反応も進行している。そのため、反応が進行すると乳酸オリゴマーの分子量の増大し、反応液の粘度が増大する。反応液の粘度が増大すると、反応液に混入されている解重合触媒の分散性が悪化し、解重合反応の反応速度が低下するため、ラクチドの生成効率が低下する。そこで分子量の増大した乳酸オリゴマーを含む残渣を排出し、別の反応装置で解重合反応に付すことにより乳酸オリゴマーの分子量を低下させる。乳酸オリゴマーの分子量を低下させるための解重合反応は、前段の解重合装置と同様の圧力および温度条件であるが、前段の解重合装置の反応容器よりも単位液量あたりの蒸発面積が大きい反応容器で実施する。
【0031】
解重合装置の反応容器よりも単位液量あたりの蒸発面積(比表面積)が大きい反応容器を有する反応装置で、残渣を解重合反応に付すことにより、残渣から生成したラクチドが迅速に脱揮される。その結果、化学平衡から開環重合反応の速度が低下し、分子量増大効果が低下する。そして、残渣に含まれる乳酸オリゴマーの分子量が低下する。残渣に含まれる乳酸オリゴマーの分子量が低下すると粘度が低下し、触媒活性に対する拡散速度の影響が小さくなるため触媒活性が向上する。そのため、解重合反応の反応速度が向上する。従って、残渣に含まれる乳酸オリゴマーの分子量を低下させる工程に使用する反応装置、すなわち解重合装置の反応容器よりも単位液量あたりの蒸発面積(比表面積)が大きい反応容器を有する反応装置を、触媒再生装置と称する。
【0032】
ここで残渣は、解重合装置における解重合反応の結果として反応器に残存する、比較的高分子量の乳酸オリゴマーおよび解重合触媒を含む粘度の高い反応液をさす。より具体的には、数平均分子量が通常5000〜30000、好ましくは5000〜10000の乳酸オリゴマーを含む反応液をさす。残渣は、乳酸オリゴマーおよび触媒に加えて、未反応の乳酸、ポリ乳酸、水、ラクチド等を含みうる。残渣は、「解重合装置へ投入した乳酸オリゴマーの質量−生成したラクチドの質量=残渣の質量」となるような量で解重合装置から抜き取り触媒再生装置に送ればよい。
【0033】
触媒再生装置は、解重合装置より比表面積が大きいものであれば何を用いてもよいが、少なくとも反応器、残渣供給口、ラクチド排出口および残渣排出口を有する。また、通常温度計も設置される。反応器としては縦型でも横型でもよいが、外力を用いて溶融物である残渣を薄層化させる手段を有する装置が好ましい。外力を用いて溶融物である残渣を薄層化させる手段は、換言すれば遠心力を与える手段であり、具体的には翼が設置された回転子が挙げられる。触媒再生装置の一例として遠心薄膜蒸発器等が挙げられる。本発明において遠心薄膜蒸発器とは、固定された装置ケーシング内で翼を回転させて遠心力を与える装置であり、装置内に供給された反応液を遠心力により装置ケーシング内部に当てて液膜を形成し、装置ケーシング外面からの加熱により蒸発を促すものである。遠心力は、翼が設置された回転子が設置された固定された装置ケーシング内において、回転する翼を通じて乳酸オリゴマーに与えられる。遠心薄膜蒸発器は、設備規模を小さくできる、翼とケーシングとの間のギャップ幅および翼の回転制御により液膜厚さを制御できる等の長所を有する。遠心薄膜蒸発器の概略図を図2に示す。翼は、通常、回転軸に平行な板状のもので回転軸から放射状に設置される。上記翼にねじれを加えスクリュー状にしたものを用いる場合もある。遠心薄膜蒸発器は回転軸が地面に対して水平なもの、垂直なもの、その中間の角度のもののいずれでもよい。
【0034】
横型の遠心薄膜蒸発装置については装置内に触媒を滞留させ、回転子、翼の稼動により触媒を溶融した乳酸オリゴマーに分散させることが可能である。従って、装置の一端から溶融乳酸オリゴマーを連続供給しても、それがラクチド蒸気の排出量に見合っていれば滞留量を一定に保てるので、必ずしも他端から連続排出を行う必要はない。溶融乳酸オリゴマーの解重合後の残渣蓄積により滞留量が増大してきた場合は、断続的に装置内の液を排出し、新規に触媒を装置内に添加して運転を再開してもよい。
【0035】
遠心薄膜蒸発器は、特に以下の利点を備えている。まず、蒸発能力が大きいため、比較的高粘度の物質の処理に適している。これは、回転翼によって液が均一な薄膜にされ、かつ強力に攪拌されるため高粘度物質でも伝熱係数が大きく取れるためである。次に、滞留時間を短くできるため、熱不安定物質の処理に適している。これは、液が薄膜で処理され、ごく短時間で所定の濃度まで濃縮されるためである。そして、真空蒸発に対応可能であり、熱不安定物質や高沸点物質の処理に適している。これは、液が薄膜で処理されることで液ヘッドによる沸点上昇がなく、系内の真空度における沸点で蒸発させることができるためである。また、スケール(付着物)がつかず連続運転が可能である。これは、液が回転翼により攪拌され、伝熱面が常に新しい液と更新されるためである。また、回転翼により遠心薄膜蒸発器内に飛散した液滴がたたかれ遠心力により回転翼上の液膜に押し戻されることで吸収されるため、触媒が触媒再生装置から液滴となって飛散し排出されることを防止できる。
【0036】
本発明において触媒再生装置として遠心薄膜蒸発器を用いると、タンク式反応器と比較して、装置体積に対する蒸発面積が大きいため装置を小型化できる。そして、短時間で乳酸オリゴマーの温度が上がりやすく解重合反応を数分から数十分で完了することが可能である。また液膜が薄いため生成したラクチドの気化が非常に早い。そのため、乳酸オリゴマーの異性化反応により生成する光学異性体および乳酸オリゴマーの熱分解で生成する不純物が少なく、純度の高いラクチドを得ることができる。また、開環重合反応よりも解重合反応の反応速度が速くなることで乳酸オリゴマーの分子量が低下し粘度が低下する。その結果、触媒の活性が回復し、さらに解重合反応が促進される。
【0037】
場合により、触媒再生装置から排出された残渣を、送液ポンプ等を用いて解重合装置に戻すことで反応の収率をさらに向上することができる。触媒再生装置から排出された残渣は、分子量が低下した乳酸オリゴマーおよび解重合反応の触媒を含む反応液であり、乳酸、水、ポリ乳酸およびラクチドなども含みうる。当該残渣は粘度が低いことから触媒活性が回復している。この残渣に含まれる分子量が低下した乳酸オリゴマーは、通常2000〜10000、好ましくは2000〜5000の数平均分子量を有する。
【0038】
触媒再生装置には通常減圧装置が設置されており、通常100Torr以下、好ましくは10Torr以下の減圧環境下、通常120〜250℃、好ましくは120〜200℃で加熱することにより残渣の解重合反応を実施する。当該解重合反応によりオリゴマーの分子量が減少し、残渣の粘度が低下することで、残渣に含まれる触媒の活性が回復し、解重合反応が促進される。また、ラクチドが気体として生成する。また、解重合装置における反応液が高粘度になりすぎることがなく、連続的な反応を実施する上でも有利である。
【0039】
触媒再生装置において解重合反応が進行しラクチドが蒸発すると相対的に触媒濃度が増大するため、ラクチドの光学純度が低下する。これは、ラクチドの光学純度低下が触媒濃度および滞留時間に比例するためである。そのため、必要に応じて残渣の粘度がある程度低下した時点で残渣を排出し、廃棄するかまたは解重合装置へ還流させてもよい。触媒再生装置は複数段設置してもよく、その場合、最後段の触媒再生装置から排出される残渣は解重合装置もしくは最後段より前段の触媒再生装置に還流することができる。この、触媒再生装置の比表面積は後段に行くほど大きいものであることが好ましい。
【0040】
解重合装置または触媒再生装置で気体として生成したラクチドを含む蒸気は解重合装置の外に排出され、蒸留塔に導入される。蒸留塔においてラクチドは凝縮されて回収され、好ましくはラクチド精製装置に移送される。冷媒の温度を適切に制御することにより、一段目の蒸留塔では乳酸オリゴマーのみを凝縮させてラクチド蒸気を通過させ、より下段の蒸留等(蒸留塔下段)でラクチドを凝縮し回収してもよい。ここで凝縮した乳酸オリゴマーは還流させて、乳酸縮合装置、乳酸濃縮装置、解重合装置、触媒再生装置等に戻してもよい。
【0041】
蒸留塔については、金属管を隔てて蒸気と冷媒が間接的に接触する表面凝縮器が望ましい。これはラクチドおよび乳酸オリゴマーが水を含む冷媒と直接接触すると分解して酸を生成するためである。これは酸触媒として開環重合反応の進捗を阻害する上、蒸留塔等の材料腐食を引き起こす可能性がある。冷媒としてラクチドおよび乳酸オリゴマーに対し不活性なものを用いる場合は上記の限りではないが、その場合でも、冷媒を十分乾燥させ湿分を低下することが好ましい。
【0042】
蒸留塔で分離された乳酸オリゴマーは、乳酸濃縮装置、濃縮乳酸バッファタンク、乳酸縮合装置、オリゴマーバッファタンク、解重合装置入口等のいずれに戻してもよい。しかし、蒸留塔においてラクチドと分離された乳酸オリゴマーは、解重合反応によって分子量が非常に小さくなっている場合がある。このような低分子量乳酸オリゴマーを解重合装置にそのまま投入することは望ましくないが、再度縮合させて分子量を向上させることでラクチドの収率を向上させることが望ましい。すなわち、低分子量乳酸オリゴマーは乳酸縮合装置に戻して縮合反応に付すことが望ましい。また、乳酸オリゴマーを分子量に応じて分離させた後に還流させるために、蒸留塔を多段化してもよい。そして、低分子量乳酸オリゴマーを乳酸濃縮装置、濃縮乳酸バッファタンク、乳酸縮合装置の少なくとも一つに、高分子量乳酸オリゴマーを乳酸縮合装置、乳酸オリゴマーバッファタンク、解重合装置入口の少なくとも一つに戻すことが望ましい。
【0043】
本発明のラクチドの製造方法は、原料となる乳酸オリゴマーを合成する工程、すなわち乳酸を縮合することにより乳酸オリゴマーを合成する工程をさらに含んでいてもよい。その場合、乳酸は従来公知の方法により製造されたもののいずれを用いてもよいが、水分含量の少ない乳酸が好ましい。このような乳酸を使用することにより、乳酸に含まれる水分を蒸発させて濃縮するための工程を短縮することができ、コストの面からも有利となる。
【0044】
乳酸にもともと含まれている水分は、加熱して蒸発させることにより除去することが好ましい。原料乳酸に含まれる水分は、乳酸縮合工程において、乳酸の縮合反応よって生成する水分と一緒に除去してもよいが、原料乳酸から予め水分を除去し、乳酸を濃縮した後で、これを乳酸縮合工程に付してもよい。
【0045】
前者の場合は、原料乳酸を乳酸縮合装置に直接輸送して乳酸縮合反応を行うが、後者の場合は、乳酸濃縮装置と乳酸縮合装置を直列に接続し、前段の乳酸濃縮装置で乳酸を加熱して水分を蒸発させた後、得られた乳酸濃縮物を乳酸縮合装置に輸送して乳酸縮合反応を行う。乳酸縮合装置または乳酸濃縮装置の前段に、乳酸供給装置を設置して、ここからいずれかの装置に乳酸を供給してもよい。
【0046】
乳酸縮合装置において、乳酸を加熱することにより乳酸オリゴマーを生成する。乳酸縮合反応においては、得られる乳酸オリゴマーの分子量が、上述の解重合装置に投入するのに適する分子量となるようにする。すなわち、得られる乳酸オリゴマーの分子量が数平均分子量で通常150〜1万、好ましくは500〜5,000となるように反応を行う。乳酸縮合反応は、通常圧力100Torr以下、好ましくは10Torr以下、さらに好ましくは1Torr以下で、通常160〜220℃、好ましくは170〜200℃まで徐々に昇温させることにより実施する。加熱時間を可能な限り短くすることで、乳酸およびオリゴマーの熱分解を抑制することができる。
【0047】
乳酸縮合反応においては、必要に応じて、乳酸縮合反応のための触媒を添加してもよい。触媒としては、従来公知のものを使用することができ、例えば、有機スズ系の触媒(例として、乳酸スズ、酒石酸スズ、ジカプリル酸スズ、ジラウリル酸スズ、ジパルミチン酸スズ、ジステアリン酸スズ、ジオレイン酸スズ、α−ナフトエ酸スズ、β−ナフトエ酸スズ、オクチル酸スズ等)および粉末スズ等が挙げられる。上記乳酸供給装置が設置されている場合は、予め乳酸供給装置においてこれらの触媒を添加してもよい。
【0048】
乳酸縮合装置は、少なくとも反応器、供給口および排出口を有する。また、乳酸縮合装置には、通常反応器内部を減圧するための減圧装置および温度計が設置される。反応器としては、特に制限されず、縦型反応器、横型反応器またはタンク型反応器でもよい。攪拌翼としてはパドル翼、タービン翼、アンカー翼、ダブルモーション翼、ヘリカルリボン翼なども使用可能である。
【0049】
反応器における加熱方法としては、当技術分野において通常用いられる方法を使用することができ、例えば、反応器外周部に熱媒のジャケットを設置し、反応器壁面を通して伝熱により反応液を加熱する方法、または攪拌翼の回転軸内部に熱媒を通して、伝熱により加熱する方法等、様々な方法があり、これらを単独で使用しても組み合わせて使用してもよい。
【0050】
縮合反応によって得られた乳酸オリゴマーは、一度バッファタンクとしての乳酸オリゴマー供給装置等に蓄積してから解重合装置に輸送してもよいし、解重合装置に直接輸送してもよい。解重合反応を連続的に実施する場合は、乳酸オリゴマーを乳酸オリゴマー供給装置に蓄積してから解重合装置に連続的に輸送することが好ましい。
【0051】
一実施形態において本発明は、上記の方法によりラクチドを製造し、得られたラクチドを開環重合することを含む、ポリ乳酸の製造方法に関する。
【0052】
開環重合装置において、不活性ガス雰囲気下、通常120〜250℃、好ましくは120〜200℃で加熱することによりラクチドの開環重合反応を実施する。当該開環重合反応によりポリ乳酸が生成する。開環重合反応によって得られるポリ乳酸の分子量は、重量平均分子量で、通常10万〜50万、好ましくは20〜30万である。
【0053】
開環重合装置は、少なくとも反応器、ラクチド供給口およびポリ乳酸排出口を有する。また、通常温度計も設置される。反応器としては特に制限されず、縦型反応器、横型反応器またはタンク型反応器を用いることができ、2つ以上の反応器を直列されていても構わない。攪拌翼としてはパドル翼、タービン翼、アンカー翼、ダブルモーション翼、ヘリカルリボン翼などを使用することができる。
【0054】
反応器における加熱方法としては、当技術分野において通常用いられる方法を使用することができ、例えば、反応器外周部に熱媒のジャケットを設置し、反応器壁面を通して伝熱により反応液を加熱する方法、または反応器内部の伝熱管(コイル)を通して伝熱により加熱する方法等があり、これらを単独で使用しても組み合わせて使用してもよい。
【0055】
開環重合反応の触媒としては、必要に応じて解重合反応のための触媒と同じものを用いてもよい。触媒としては、従来公知のものを使用することができ、例えば、周期律表IA族、IIIA族、IVA族、IIB族およびVA族からなる群から選択される金属または金属化合物からなる触媒を使用できる。
【0056】
IA族に属するものとしては、例えば、アルカリ金属の水酸化物(例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム等)、アルカリ金属と弱酸の塩(例えば、乳酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、オクチル酸ナトリウム、ステアリン酸ナトリウム、乳酸カリウム、酢酸カリウム、炭酸カリウム、オクチル酸カリウム等)、アルカリ金属のアルコキシド(例えば、ナトリウムメトキシド、カリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウムエトキシド等)等を挙げることができる。
【0057】
IIIA族に属するものとしては、例えば、アルミニウムエトキシド、アルミニウムイソプロポキシド、アルミナ、塩化アルミニウム等を挙げることができる。
【0058】
IVA族に属するものとしては、例えば、有機スズ系の触媒(例えば、乳酸スズ、酒石酸スズ、ジカプリル酸スズ、ジステアリン酸スズ、ジオレイン酸スズ、α−ナフトエ酸スズ、β―ナフトエ酸スズ、オクチル酸スズ等)の他、粉末スズ、酸化スズ、ハロゲン化スズ等を挙げることができる。
【0059】
IIB族に属するものとしては、例えば、亜鉛粉末、ハロゲン化亜鉛、酸化亜鉛、有機亜鉛系化合物を挙げることができる。
【0060】
IVB族に属するものとしては、例えば、テトラプロピルチタネート等のチタン系化合物、ジルコニウムイソプロポキシド等のジルコニウム系化合物等を挙げることができる。
【0061】
これらの中でも、オクチル酸スズ等のスズ系化合物または三酸化アンチモン等のアンチモン系化合物を使用するのが好ましい。
【0062】
これら触媒の使用量は、ラクチドに対して1〜2000ppm、好ましくは5〜1500ppm、より好ましくは10〜1000ppm程度である。
【0063】
開環重合反応においては、分子量の調整等を目的として、必要に応じて開環重合反応のための重合開始剤を添加してもよい。重合開始剤としては1−ドデカノール等のアルコール類のように水酸基を有する物質を用いることができる。
【0064】
本発明のラクチド製造装置およびポリ乳酸製造装置は、当技術分野で慣用の構成とすることができ、当業者であればその他必要な装置を適宜組み合わせることができる。従って、本発明のラクチド製造装置は、上述の解重合装置、触媒再生装置、蒸留塔、液送ポンプおよび乳酸縮合装置の他にも、乳酸供給装置、乳酸濃縮装置、濃縮乳酸バッファタンク、オリゴマーバッファタンク、蒸留塔下段およびラクチド精製装置などを有しうる。
【0065】
図1に本発明のラクチド製造装置を含むポリ乳酸製造装置の一実施形態を示す。当該装置は反応経路上流側から、乳酸供給装置1、液送ポンプ2、乳酸濃縮装置3、液送ポンプ4、濃縮乳酸バッファタンク5、液送ポンプ6、乳酸縮合装置7、液送ポンプ8、オリゴマーバッファタンク9、液送ポンプ10、解重合装置11、蒸留塔12、蒸留塔下段13、液送ポンプ14、ラクチド精製装置15、液送ポンプ16、開環重合装置17の順番で配置され、解重合装置11の残渣排出口から触媒再生装置27、蒸留塔28、蒸留塔下段29の順番で配置されて成る。
【0066】
図1に示されるポリ乳酸製造装置は、乳酸濃縮装置において乳酸中に含まれる水分を蒸発させて濃縮乳酸とし、乳酸縮合装置において濃縮乳酸を縮合して乳酸オリゴマーを生成させ、得られた乳酸オリゴマーを解重合装置において減圧下で解重合させることによりラクチドを生成させた後、精製したラクチドを開環重合させポリ乳酸を製造するものである。
【0067】
乳酸は乳酸供給装置1から供給され、乳酸濃縮装置3において水分を除去され濃縮乳酸となる。濃縮乳酸は濃縮乳酸バッファタンク5を経て乳縮合装置7に供給され、縮合反応により乳酸オリゴマーとなる。乳酸オリゴマーはオリゴマーバッファタンク9を経て解重合装置11に送られ、解重合反応によりラクチドとなり、蒸留塔12でオリゴマーと分離された後蒸留塔下段13で凝縮・回収される。ラクチド精製装置15から排出されたラクチドは開環重合装置17に移送される。開環重合装置17において、不活性ガス雰囲気下、ラクチドの開環重合反応が行われ、ポリ乳酸が製造される。解重合装置11から排出された残渣は触媒再生装置27へ移送される。触媒再生装置27から排出されたラクチドは蒸留塔28、蒸留塔下段29を経て開環重合装置17に移送される。
【0068】
以下、図1に示す実施形態についてより詳細に説明する。
【0069】
乳酸濃縮装置3では、加熱により乳酸に含まれる水分を蒸発させる。加熱は窒素ガス流通下、120〜150℃で行う。乳酸濃縮反応では水分および乳酸が気体として発生する。これらの気体は還流器18に入り、乳酸が気体から除去され、乳酸濃縮装置3に還流される。
【0070】
乳酸濃縮装置3で製造された濃縮乳酸は濃縮乳酸バッファタンク5を経て乳酸縮合装置7へ送られる。
【0071】
乳酸縮合装置7では乳酸の縮合反応を進め、これに伴い発生する水分を蒸発させる。反応は10torr以下まで減圧し、120〜250℃の温度で行う。乳酸縮合反応では水分、乳酸、低分子量乳酸オリゴマーおよびその分解で発生するラクチドが気体として発生する。これらは乳酸縮合装置7から減圧装置23に向かって移動する。これらの気体は還流器21に入り、乳酸、低分子量乳酸オリゴマー、ラクチドが気体から除去され、乳酸縮合装置7に還流される。
【0072】
乳酸縮合装置7で生成した乳酸オリゴマーは解重合装置11へ送られる。
【0073】
解重合装置11ではオリゴマーの解重合反応を進める。反応は10torr以下まで減圧し、120〜250℃の温度で、乳酸オリゴマーを解重合触媒に接触させて行う。この反応により生成した気体ラクチドは蒸留塔12に送られる。
【0074】
蒸留塔12では気体ラクチドを冷却することでラクチドに含まれる乳酸オリゴマー等の不純物を液化し、気体であるラクチドは蒸留塔下段13に送られる。ラクチドと分離された乳酸オリゴマーは解重合反応によって分子量が小さくなっているものが多い。ラクチドの収率を向上させるためにはこのような低分子量乳酸オリゴマーを再度縮合させて利用することが望ましいので、これを乳酸縮合装置7に還流する。
【0075】
気体ラクチドは蒸留塔下段13において冷却・凝縮された後ラクチド精製装置15に送られる。ラクチドと分離された水蒸気を多く含む気体は凝縮器24に入り、乳酸、低分子量乳酸オリゴマー、ラクチドが気体から除去され、蒸留塔下段13に還流される。
【0076】
凝縮器24において凝縮されなかった蒸気は不純物冷却器25に入り、ここで凝縮・液化される。液化された不純物は通常廃棄される場合が多い。不純物冷却器25で凝縮されなかったガスは減圧装置26を経て、系外に放出される。
【0077】
ラクチド精製装置15から排出されたラクチドは開環重合装置17に移送される。開環重合装置17ではラクチドの開環重合反応を進める。反応は10torr以下まで減圧し、120〜250℃の温度で、ラクチドを開環重合触媒および重合開始剤に接触させて行う。
【0078】
触媒再生装置27では解重合装置11から排出される残渣の分子量を低下させるため、解重合反応を進める。反応は10torr以下まで減圧し、120〜250℃の温度で行う。残渣にはすでに解重合触媒が含まれているため、上記環境下に置くことで解重合反応が進行する。この反応により生成した気体ラクチドは蒸留塔28に送られ、触媒を含む残渣は解重合装置11に還流されるが、不純物が多く含まれている等解重合反応に寄与しないと判断される場合は廃棄してもよい。
【0079】
次に図3に示す実施形態について説明する。
【0080】
乳酸濃縮装置3では、加熱により乳酸に含まれる水分を蒸発させる。加熱は窒素ガス流通下、120〜150℃で行う。
【0081】
乳酸濃縮反応では水分、乳酸が気体として発生する。これらの気体は還流器18に入り、乳酸が気体から除去され、乳酸濃縮装置3に還流される。
【0082】
乳酸濃縮装置3で製造された濃縮乳酸は濃縮乳酸バッファタンク5を経て乳酸縮合装置7へ送られる。
【0083】
乳酸縮合装置7では乳酸の縮合反応を進め、これに伴い発生する水分を蒸発させる。反応は10torr以下まで減圧し、120〜250℃の温度で行う。乳酸縮合反応では水分、乳酸、低分子量乳酸オリゴマーおよびその分解で発生するラクチドが気体として発生する。これらは乳酸縮合装置7から減圧装置23に向かって移動する。これらの気体は還流器21に入り、乳酸、低分子量乳酸オリゴマー、ラクチドが気体から除去され、乳酸縮合装置7に還流される。
【0084】
乳酸縮合装置7で生成したオリゴマーは解重合装置11へ送られる。
【0085】
解重合装置11ではオリゴマーの解重合反応を進める。反応は10torr以下まで減圧し、120〜250℃の温度で、乳酸オリゴマーを解重合触媒に接触させて行う。この反応により生成した気体ラクチドは蒸留塔12に送られる。
【0086】
蒸留塔12では気体ラクチドを冷却することでラクチドに含まれる乳酸オリゴマー等の不純物を液化し、気体であるラクチドは蒸留塔下段13に送られる。ラクチドと分離された乳酸オリゴマーは解重合反応によって分子量が小さくなっているものが多い。ラクチドの収率を向上させるためには分子量の小さいオリゴマーを再度縮合させて利用することが望ましいので、ラクチドと分離された低分子量オリゴマーは乳酸縮合装置7に還流される。
【0087】
気体ラクチドは蒸留塔下段13において冷却・凝縮された後ラクチド精製装置15に送られる。ラクチドと分離された水蒸気を多く含む気体は凝縮器24に入り、乳酸、低分子量乳酸オリゴマー、ラクチドが気体から除去され、蒸留塔下段13に還流される。
【0088】
凝縮器24において凝縮されなかった蒸気は不純物冷却器25に入り、ここで凝縮・液化される。液化された不純物は通常廃棄される場合が多い。不純物冷却器25で凝縮されなかったガスは減圧装置26を経て、系外に放出される。
【0089】
ラクチド精製装置15から排出されたラクチドは開環重合装置17に移送される。
開環重合装置17ではラクチドの開環重合反応を進める。反応は10torr以下まで減圧し、120〜250℃の温度で、ラクチドを開環重合触媒および重合開始剤に接触させて行う。
【0090】
触媒再生装置27では解重合装置11から排出される残渣の分子量を低下させるため、解重合反応を進める。反応は10torr以下まで減圧し、120〜250℃の温度で行う。残渣にはすでに解重合触媒が含まれているため、上記環境下に置くことで解重合反応が進行する。この反応により生成した気体ラクチドは蒸留塔28に送られ、触媒を含む残渣は触媒再生装置34に送られるが、不純物が多く含まれている等解重合反応に寄与しないと判断される場合は廃棄してもよい。
【0091】
触媒再生装置34では触媒再生装置27から排出される残渣の分子量をさらに低下させるため、解重合反応を進める。反応は10torr以下まで減圧し、120〜250℃の温度で行う。残渣にはすでに解重合触媒が含まれているため、上記環境下に置くことで解重合反応が進行する。この反応により生成した気体ラクチドは蒸留塔35に送られ、触媒を含む残渣は解重合装置11もしくは触媒再生装置27に送られるが、不純物が多く含まれている等解重合反応に寄与しないと判断される場合は廃棄してもよい。
【実施例】
【0092】
[実施例1]
図1に示すポリ乳酸製造装置を用いて、ポリ乳酸の製造を行った。原料として、数平均分子量630の乳酸オリゴマーを解重合装置11に投入した。解重合装置11での反応は、10torr以下まで減圧し、200℃の温度で行った。解重合装置11における乳酸オリゴマーの滞留時間を5時間、液膜厚さ(液深)を5cm、触媒(2−エチルヘキサン酸スズ)濃度を0.7kg/mとした。
【0093】
触媒再生装置27での反応は、10torr以下まで減圧し、200℃の温度で行った。
【0094】
解重合工程での光学異性体化率の増加は0.9%であった(ラクチド精製装置15の直前で測定)。
【0095】
ここでオリゴマーの滞留時間は溶融オリゴマーの供給流量と解重合装置から排出される蒸気の凝縮物流量が等しく、液膜厚さが安定化した時の溶融オリゴマー供給流量/オリゴマー解重合装置11における溶融オリゴマー滞留量で定義した。
【0096】
また、得られたラクチドを開環重合反応に付すことにより得られたポリ乳酸は、その品質を表す着色がb値で2.5であり、解重合時におけるラクチドおよびオリゴマーの熱分解の影響は小さいと考えられる。開環重合装置17での反応は、10torr以下まで減圧し、200℃の温度で行った。開環重合における重合開始剤の濃度は、700ppmとした。得られたポリ乳酸の重量平均分子量は200000程度であった。
【0097】
以上から、本発明では解重合反応が効率的に進み、ラクチドの光学純度低下が少なく純度の高いラクチドが得られることがわかる。また、従来廃棄されていた残渣の粘度を低下させ触媒活性を再生させることにより解重合装置への残渣の還流が可能になり、かつ残渣からラクチドを生成させることにより収率の向上及びプラントの安定運転が可能となる。そして、これらの結果として品質の高いポリ乳酸が得られることがわかる。
【0098】
[実施例2]
図3に示すポリ乳酸製造装置を用いて、ポリ乳酸の製造を行った。
【0099】
原料として、数平均分子量630の乳酸オリゴマーを解重合装置11に投入した。解重合装置11での反応は、10torr以下まで減圧し、200℃の温度で行った。解重合装置11における乳酸オリゴマーの滞留時間を5時間、液膜厚さ(液深)を5cm、触媒(2−エチルヘキサン酸スズ)濃度を0.7kg/mとした。
【0100】
触媒再生装置27での反応は、10torr以下まで減圧し、200℃の温度で行った。
【0101】
解重合工程での光学異性体化率の増加は0.9%であった(ラクチド精製装置15の直前で測定)。
【0102】
ここでオリゴマーの滞留時間は溶融オリゴマーの供給流量と解重合反応器から排出される蒸気の凝縮物流量が等しく、液膜厚さが安定化した時の溶融オリゴマー供給流量/オリゴマー解重合装置11における溶融オリゴマー滞留量で定義した。
【0103】
また、得られたラクチドを開環重合反応に付すことにより得られたポリ乳酸の着色はb値で2.5であり、解重合時におけるラクチドおよびオリゴマーの熱分解の影響は小さいと考えられる。開環重合装置17での反応は、10torr以下まで減圧し、200℃の温度で行った。開環重合における重合開始剤の濃度は、700ppmとした。得られたポリ乳酸の重量平均分子量は200000程度であった。
【0104】
以上から、本発明では解重合反応が効率的に進み、ラクチドの光学純度低下が少なく純度の高いラクチドが得られることがわかる。また、従来廃棄されていた残渣の粘度を低下させ触媒活性を再生させることにより解重合装置への残渣の還流が可能になり、かつ残渣からラクチドを生成させることにより収率の向上及びプラントの安定運転が可能となる。そして、これらの結果として品質の高いポリ乳酸が得られることがわかる。
【0105】
[比較例]
実施例1および2と同じ数平均分子量630の乳酸オリゴマーを用いて、触媒再生装置を有しない従来の装置でバッチ方式による解重合を行った。解重合時間10時間、初期液面高さ80cm、初期触媒濃度5kg/mの条件で解重合反応を実施した。解重合反応は、10torr以下まで減圧し、200℃の温度で行った。その結果、生成したラクチドについて、解重合工程での光学異性体化率の増加は9%であった。
【0106】
得られたラクチドを開環重合反応に付すことにより得られたポリ乳酸の着色はb値で4.4であった。開環重合装置での反応は、10torr以下まで減圧し、200℃の温度で行った。開環重合における重合開始剤の濃度は、700ppmとした。
【0107】
これらの結果から、触媒再生装置を有しない態様では、解重合反応が効率的に進まず、乳酸オリゴマーの異性化反応が生じやすいこと、乳酸オリゴマーの熱分解で不純物が生成し、結果としてポリ乳酸の品質が低下することがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0108】
本発明によれば、触媒再生装置を用いて解重合装置から排出される残渣の粘度を低下させることにより触媒の活性を回復させ、残渣からラクチドを回収するとともに、場合によりこれを解重合装置に還流させることができるため、高い原料収率で、かつ安定してポリ乳酸を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0109】
【図1】本発明のポリ乳酸製造装置の一実施形態を示す概略図である。
【図2】遠心薄膜蒸発器の概略図である。
【図3】本発明のポリ乳酸製造装置の一実施形態を示す概略図である。
【符号の説明】
【0110】
1 乳酸供給装置
2 液送ポンプ
3 乳酸濃縮装置
4 液送ポンプ
5 濃縮乳酸バッファタンク
6 液送ポンプ
7 乳酸縮合装置
8 液送ポンプ
9 オリゴマーバッファタンク
10 液送ポンプ
11 解重合装置
12 蒸留塔
13 蒸留塔下段
14 液送ポンプ
15 ラクチド精製装置
16 液送ポンプ
17 開環重合装置
18 還流器
19 冷却器
20 減圧装置
21 還流器
22 冷却器
23 減圧装置
24 凝縮器
25 不純物冷却器
26 減圧装置
27 触媒再生装置
28 蒸留塔
29 蒸留塔下段
30 凝縮器
31 不純物冷却器
32 減圧装置
33 液送ポンプ
34 触媒再生装置
35 蒸留塔
36 蒸留塔下段
37 凝縮器
38 不純物冷却器
39 減圧装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳酸オリゴマーを解重合することによりラクチドを連続的または間欠的に製造する方法であって、
a)解重合装置において乳酸オリゴマーを解重合反応させてラクチドを合成する工程、
b)解重合装置内の残渣を、解重合装置の反応容器よりも単位液量あたりの蒸発面積が大きい反応容器で解重合反応に付し、残渣に含まれる乳酸オリゴマーの分子量を低下させる工程、および
c)解重合反応により気体として生成したラクチドを凝縮して回収する工程、
を含む、前記ラクチド製造方法。
【請求項2】
bの工程において生成した分子量が低下した乳酸オリゴマーを解重合装置に戻す工程をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
bの工程において、外力を用いて溶融物である残渣を薄層化させる、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
bの工程において、遠心薄膜蒸発器を用いて解重合反応を行う、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
乳酸を縮合することにより乳酸オリゴマーを合成する工程をさらに含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法を用いて乳酸オリゴマーを解重合することによりラクチドを製造し、得られたラクチドを開環重合することを含む、ポリ乳酸の製造方法。
【請求項7】
ラクチドを連続的または間欠的に製造するためのラクチド製造装置であって、
乳酸オリゴマーを解重合反応するための解重合装置、
解重合装置内の残渣を解重合反応に付して残渣に含まれる乳酸オリゴマーの分子量を低下するための、解重合装置の反応容器よりも単位液量あたりの蒸発面積が大きい反応容器を有する触媒再生装置、および
解重合反応により気体として生成したラクチドを凝縮するための蒸留塔
を有する、前記装置。
【請求項8】
触媒再生装置で生成した分子量が低下した乳酸オリゴマーを解重合装置に送るための液送ポンプをさらに有する、請求項7に記載の装置。
【請求項9】
触媒再生装置が、溶融物である残渣を薄層化させる手段を有する、請求項7または8に記載の装置。
【請求項10】
触媒再生装置が遠心薄膜蒸発器である、請求項7〜9のいずれか1項に記載の装置。
【請求項11】
乳酸を縮合して乳酸オリゴマーを製造するための乳酸縮合装置をさらに有する、請求項7〜10のいずれか1項に記載の装置。
【請求項12】
ポリ乳酸を連続的または間欠的に製造するためのポリ乳酸製造装置であって、
請求項7〜11のいずれか1項に記載のラクチド製造装置、および
ラクチドを開環重合するための開環重合装置を有する、
前記装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−114353(P2009−114353A)
【公開日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−289664(P2007−289664)
【出願日】平成19年11月7日(2007.11.7)
【出願人】(000005452)株式会社日立プラントテクノロジー (1,767)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】