説明

ポリマー溶液の脱溶媒方法

【課題】ドープ切り替え時に、ドープ製造設備などから排出される廃棄物から、溶媒を効率よく抽出する。
【解決手段】ドープ製造設備10は、TAC300と溶媒301とを含むドープ306を調製する。ドープ306の組成と異なる新たなドープを作る場合には、制御部29により、ポンプ21、31を停止し、弁26a、28aを閉位置にし、ホッパ27からのTAC300の供給を停止した後、ドープ製造設備10をなす各装置に洗浄液310を導入する。各装置内に残留するドープ306を洗浄液310とともに、廃液320として排出される。脱溶媒装置43に設けられた乾燥加熱室51では、廃液320の液面が減率乾燥状態となるまで、乾燥気体400中で廃液320を加熱する。湿潤加熱室52では、湿潤気体410中で廃液320を加熱する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドープ製造設備や溶液製膜設備等から排出される廃棄物から溶媒を取り除くポリマー溶液の脱溶媒方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリマーフイルム(以下、フイルムと称する)は、優れた光透過性や柔軟性および軽量薄膜化が可能であるなどの特長から光学機能性フイルムとして多岐に利用されている。中でも、セルロースアシレート、特に57.5%〜62.5%の平均酢化度を有するセルローストリアセテート(以下、TACと称する)から形成されるTACフイルムは、その強靭性と難燃性とから写真感光材料のフイルム用の支持体として利用されている。また、TACフイルムは光学等方性に優れることから、市場が急激に拡大している液晶表示装置の偏光板の保護フイルムなどの光学機能性フイルムに用いられている。
【0003】
フイルムの主な製造方法としては、溶融押出方法と溶液製膜方法とがある。溶融押出方法とは、ポリマーをそのまま加熱溶解させた後、押出機で押し出してフイルムを製造する方法であり、生産性が高く、設備コストも比較的低額であるなどの特徴を有する。しかし、フイルムの厚さの精度を調節することが難しく、また、フイルム上に細かいスジ(ダイライン)ができやすいため、光学機能性フイルムとして使用することができるような高品質のフイルムを製造することが困難である。一方、溶液製膜方法は、ポリマーと溶媒とを含んだポリマー溶液(以下、ドープと称する)を支持体上に流延し、流延膜を形成し、流延膜が自己支持性を有するものとなった後、これを支持体から剥がして湿潤フイルムとし、湿潤フイルムを乾燥しフイルムとして巻き取る方法である。この溶液製膜方法は、溶融押出方法と比べて、光学等方性や厚み均一性に優れるとともに、含有異物の少ないフイルムを得ることができるため、フイルム、特に光学機能性フイルムの製造方法として、溶液製膜方法が採用されている(例えば、特許文献1)。
【0004】
ドープ製造設備や溶液製膜設備に用いられる各装置は定期的に洗浄する必要がある。例えば、濾過装置でいえば、濾過部材を交換する際には、濾過装置内に残留付着したドープや異物を除去するために、洗浄液を用いて、濾過装置内を洗浄する。また、濾過装置等の洗浄剤として、ドープに含まれる溶媒が用いられる。したがって、ドープ製造設備や溶液製膜設備に用いられる各装置の洗浄時には、溶媒、残留付着したドープや異物等を含む廃棄物が生成する。
【0005】
また、溶液製膜設備に設けられる流延室や乾燥室では、流延膜や湿潤フイルムを乾燥し、流延膜や湿潤フイルムから溶媒を蒸発させる。この乾燥工程により、溶媒を含有する気体が生成する。流延室や乾燥室に設けられた回収装置が、この気体を回収し、冷却すると、この気体から溶媒を含む廃棄物が生成する。
【0006】
溶液製膜方法で用いられる溶媒は、ジクロロメタン等、そのまま自然界に廃棄できない化合物が含まれることが多い。また、この溶媒を含む廃棄物は、濾過装置等の洗浄過程や溶液製膜方法の乾燥工程等にて大量に生成する。一方、溶液製膜方法では多量の溶媒が必要である。そこで、洗浄過程や乾燥工程等で生成した廃棄物から溶媒を抽出し、抽出された溶媒を溶液製膜方法等に再利用することにより、大気汚染などの環境汚染の抑制と、溶液製膜方法におけるコスト低減とを同時に実現している(例えば、特許文献2)。特許文献2に記載される方法は、新たなドープと成分の同じ廃棄ドープに、所定量のポリマーや溶媒などを添加して、所望の成分割合の新たなドープをつくる方法である。
【特許文献1】特開2006−306052号公報
【特許文献2】特開2003−236863号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、近年の液晶表示装置の開発により、TN方式やVA方式など様々な方式の液晶表示装置が登場したこと、及び,TACフイルムの用途が、保護フイルムのみならず、光学補償フイルムや視野角拡大フイルム等に拡大したことに伴い、多品種のTACフイルムが求められるようになった。したがって、同一の溶液製膜設備において、多品種のTACフイルムを製造する際には、洗浄剤等により濾過装置、配管や溶液製膜設備等に残留するドープ等を除去した後に、新たなドープを濾過装置、配管や溶液製膜設備等に流す、いわゆるドープ切り替えを行う必要がある。
【0008】
このドープ切り替えにおいて、異成分の廃棄ドープから新たなドープをつくる場合には、特許文献2に記載される方法をそのまま適用することができない。したがって、異成分の廃棄ドープから新たなドープに切り替える場合に、溶媒の再利用を行うためには、濾過装置、配管や溶液製膜設備等に設けられる各装置の洗浄を行い、洗浄にて生成した廃棄物から溶媒を抽出する必要がある。同様に、新たなドープから形成される流延膜や湿潤フイルムに、従前のドープに含まれる異成分等が混入することを防ぐために、流延室、乾燥室や、回収装置の洗浄を行い、洗浄にて生成した廃棄物から溶媒を取り除く(以下、脱溶媒と称する)必要がある。
【0009】
これらの廃棄物から脱溶媒する場合には、廃棄物に加熱処理等を行い、廃棄物に含まれる溶媒を蒸発させることが一般的である。しかし、廃棄物を高温で、長時間加熱すると、廃棄物に含まれる、ポリマー、添加剤及び溶媒の加水分解の進行により酸が生成し、結果として、ドープ調製の再利用に適した溶媒を回収することができない。一方、廃棄物を低温域で加熱すると、溶媒の蒸発に要する時間が長くなることから、大量の廃棄物から溶媒を効率よく脱溶媒する方法として十分ではない。
【0010】
更に、廃棄物に含まれる溶媒の蒸発効率の向上化の点から、支持体上に流れ延ばされた廃棄物を加熱してもよいが、大量の廃棄物から脱溶媒するためには、非常に大きな支持体が必要となってしまう。このような大きな支持体を用いることは、乾燥装置の設置スペースや、乾燥装置の規模が増大してしまうため好ましくない。一方、乾燥装置の設置スペース等の増大化を避けるために、所定の深さの槽に廃棄物を入れて、この廃棄物を乾燥すると、外気と接する廃棄物の表面及びその近傍に存在する溶媒から優先的に蒸発するため、最終的に、槽に貯留する廃棄物からすべての溶媒を蒸発させるまでに、長時間を要する。したがって、効率的に廃棄物から脱溶媒することができない。
【0011】
本発明は、上記課題を解決するものであり、ドープ等が調製される、または通過する装置や溶液製膜設備等から排出される廃棄物から、ドープ調製に再利用可能な溶媒を、効率よく除去するポリマー溶液の脱溶媒方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、ドープを調製する或いは前記ドープが通過するドープ調製通過装置内に残留し、第1ポリマーと第1溶媒と第1添加剤とを成分とする第1ドープから前記第1溶媒を取り除くポリマー溶液の脱溶媒方法において、前記第1ポリマーと異なる第2ポリマー、前記第1溶媒と異なる第2溶媒、及び前記第1添加剤と異なる第2添加剤のうちいずれかを成分とする第2ドープが導入される前記ドープ調製通過装置から、前記第1ドープを含む廃棄物を排出し、前記廃棄物を、前記第1溶媒をなす溶媒化合物よりもモル体積が小さい小体積物質中に配し、前記廃棄物から前記第1溶媒を蒸発させることを特徴とする。
【0013】
前記第1ドープを除去するための洗浄剤を前記ドープ調製通過装置内に導入し、前記洗浄剤を含む前記廃棄物を、前記ドープ調製通過装置から排出することが好ましい。また、前記廃棄物の表面及びその近傍が、減率乾燥状態であることが好ましい。
【0014】
前記小体積物質を含む気体中に、前記廃棄物を配することが好ましい。また、前記気体における前記小体積物質の飽和蒸気量をMSとするときに、前記気体が0.3MS以上MS以下の前記小体積物質を含むことが好ましい。更に、前記気体の温度が、前記小体積物質の沸点(℃)以上前記沸点の3倍(℃)以下であることが好ましい。
【0015】
前記小体積物質を含む液体中に、前記廃棄物を配することが好ましい。また、前記液体の温度が、前記第1溶媒の沸点(℃)以上前記小体積物質の沸点(℃)以下であることが好ましい。
【0016】
前記第1溶媒が、複数の化合物からなる場合には、前記複数の化合物のうち、モル体積が最も小さい化合物を、前記溶媒化合物とすることが好ましい。また、前記第1溶媒が、メチレンクロライド、メタノール、ブタノールのうち少なくとも1つを含み、前記小体積物質が水、メタノール、アセトン、メチルケトンのうち少なくとも1つを含むことが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明の溶液製膜方法によれば、廃棄物に含まれる溶媒をなす溶媒化合物よりもモル体積が小さい小体積物質中に廃棄物を配し、廃棄物から溶媒を蒸発させるため、溶媒を廃棄物から効率よく蒸発させることができる。特に、廃棄物の表面や表面近傍が、存在する溶媒化合物の量が微量の減率乾燥状態であっても、廃棄物内における溶媒化合物の拡散が促進されるため、廃棄物の内部に存在する溶媒化合物が表面や表面近傍に到達しやすくなる結果、廃棄物から容易に溶媒を蒸発させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下に、本発明の実施態様について詳細に説明する。ただし、本発明はここに挙げる実施態様に限定されるものではない。
【0019】
図1のように、ドープ製造設備10は、ドープ製造配管11を介して、ストックタンク12と接続する。また、ストックタンク12は、製膜配管13を介して、溶液製膜設備14と接続する。
【0020】
ドープ製造設備10は、溶解タンク20と、ポンプ21と、加熱装置22と、温調機23と、濾過装置24などを備え、これらはドープ製造配管11に、上流側から設けられる。また、溶解タンク20には、溶媒タンク26と、ホッパ27と、添加剤タンク28とが、それぞれ配管により接続する。また、溶媒タンク26と溶解タンク20とを接続する配管、及び、添加剤タンク28と溶解タンク20とを接続する配管には、弁26a、28aが設けられる。弁26a、28aは、制御部29の制御の下、開位置と閉位置とのいずれかの位置に変位する。
【0021】
ホッパ27は、制御部29の制御の下、TAC300を溶解タンク20に供給する。
溶媒タンク26には溶媒301が貯留し、添加剤タンク28には添加剤302が貯留する。弁26aが開位置になると、溶媒タンク26から溶解タンク20への溶媒301の供給が開始する。そして、弁26aが閉位置になると、溶媒タンク26から溶解タンク20への溶媒301の供給が停止する。同様にして、弁28aが開位置になると、添加剤タンク28から溶解タンク20への添加剤302の供給が開始し、弁26aが閉位置になると、添加剤タンク28から溶解タンク20への添加剤302の供給が停止する。
【0022】
溶解タンク20は、その外面を包み込むジャケット20aと、モータ20bにより回転する第1攪拌翼20cとが備えられている。さらに、溶解タンク20には、モータ20dにより回転する第2攪拌翼20eが取り付けられていることが好ましい。なお、第1攪拌翼20cは、アンカー翼であることが好ましく、第2攪拌翼20eは、ディゾルバータイプのものを用いることが好ましい。ジャケット20aに伝熱媒体を流して溶解タンク20内を所定の範囲の温度に調整することが好ましい。溶解タンク20は、TAC300、溶媒301及び添加剤302を含む液を所定の温度範囲で加熱し、第1攪拌翼20c,第2攪拌翼20eを適宜選択して回転させることで、TAC300が溶媒301中で膨潤した膨潤液305を得ることができる。
【0023】
ポンプ21は、溶解タンク20内の膨潤液305を、加熱装置22に送る。加熱装置22は、ジャケット付き配管を用いることが好ましく、更に膨潤液305を加圧できる構成であることが好ましい。加熱装置22は、膨潤液305を加熱し、TAC300が溶媒301に溶解したドープ306を調製する。温調機23は、調製されたドープ306の温度を所定の範囲内で略一定に保持する。その後、濾過装置24によりドープ306の濾過を行いドープ306中の不純物を取り除く。濾過装置24の濾過フィルタの平均孔径が100μm以下であることが好ましい。また、濾過流量は、50L/時以上であることが好ましい。
【0024】
ストックタンク12は、ドープ製造設備10で調製されたドープ306を貯留し、ドープ306の温度を所定の範囲内で略一定に保持する。また、製膜配管13には、ストックタンク12に貯留するドープ306を送り出すポンプ31と、濾過装置34とが設けられる。そして、溶液製膜設備14では、流延ダイが、流延室内で、ポンプ31によって送られ、濾過装置34を通過したドープ306を支持体上に流延し、支持体上に流延膜を形成し、流延膜を乾燥する。流延膜に自己支持性が発現すると、流延膜は支持体から剥ぎ取られ、湿潤フイルムとして乾燥室に送られる。湿潤フイルムは、乾燥室での乾燥処理を経て、フイルムとなる。
【0025】
洗浄装置37は、制御部29と接続する。洗浄装置37は、制御部29の制御の下、ドープ製造設備10、配管11、ストックタンク12、配管13、溶液製膜設備14、濾過装置24へ洗浄液310を供給する。以下、ドープ製造設備10及び溶液製膜設備14を構成する各装置、並びに、ストックタンク12、濾過装置24及び配管11、13等の装置の総称として、ドープ調製通過装置と称する。また、制御部29は、図示しない信号出力手段からのドープ切り替え信号を検出すると、弁26a、28aを閉位置にし、ホッパ27によるTAC300の供給を停止し、ポンプ21、31を停止する。その後、洗浄装置37は、洗浄液310をドープ調製通過装置へ供給する。
【0026】
廃液処理設備40は、廃液タンク42と、脱溶媒装置43と、蒸留塔44とを備える。廃液タンク42は、ドープ調製通過装置から、洗浄液310とドープ調製通過装置に残留していたドープ306とを含む廃液320を回収する。脱溶媒装置43は、廃液320に所定の処理を施すことにより、廃液320から、TAC300や添加剤302などを含む残留物321と、溶媒301を含む混合液322と、に分離する。蒸留塔44は、混合液322を蒸留し、混合液322から、新たなドープの調製に利用可能な精製溶媒330を分留する分留処理を行う。なお、残留物321は、そのまま廃棄するほか、所定の処理を経た後、セメントの材料、助燃剤や活性炭の原料、或いは、TAC300を分離した後、ドープの調製材料として用いることができる。
【0027】
図2のように、脱溶媒装置43には、乾燥加熱室51と湿潤加熱室52とが設けられる。そして、乾燥加熱室51には、図示しないダクトが設けられ、このダクトを介して、第1吸着回収部55と乾燥気体供給部56とが接続する。また、湿潤加熱室52には、図示しないダクトが設けられ、このダクトを介して、第2吸着回収部57と湿潤気体供給部58とが接続する。
【0028】
乾燥加熱室51の内部は、乾燥気体400で満たされている。第1吸着回収部55は、ダクトを介して、乾燥加熱室51内の乾燥気体400を回収気体401として回収する。次に、第1吸着回収部55は、活性炭などの吸着剤を用いて、回収気体401から溶媒301を吸着する吸着処理を行う。更に、第1吸着回収部55は、吸着処理により吸着剤に吸着された溶媒301を、蒸気を用いて脱着する脱着処理を行う。吸着処理及び脱着処理により、回収気体401から、水と溶媒301とを含む混合液322が生成し、混合液322は蒸留塔44(図1参照)へ送られる。一方、吸着処理により溶媒301が奪われた回収気体401は、残留気体402として乾燥気体供給部56に送られる。乾燥気体供給部56は、回収した残留気体402の温度や湿度などを所望の範囲内に調節した後、残留気体402を乾燥気体400として、ダクトを介して、乾燥加熱室51へ供給する。また、乾燥加熱室51には、廃液容器61が配され、廃液タンク42に貯留する廃液320は、廃液容器61に注がれる。こうして、乾燥加熱室51では、温度や湿度等が所望の範囲に調節された乾燥気体400中で廃液320が加熱される乾燥加熱処理が行われる。
【0029】
湿潤加熱室52の内部は、湿潤気体410で満たされている。第2吸着回収部57は、まず、ダクトを介して、湿潤加熱室52内の湿潤気体410を回収気体411として回収する。次に、第2吸着回収部57は、活性炭などの吸着剤を用いて、回収気体411から溶媒301を吸着する吸着処理を行う。更に、第2吸着回収部57は、吸着処理により吸着剤に吸着された溶媒301を、蒸気を用いて脱着する脱着処理を行う。吸着処理及び脱着処理により、回収気体411から、水と溶媒301とを含む混合液322が生成し、混合液322は蒸留塔44(図1参照)へ送られる。一方、吸着処理により溶媒が奪われた回収気体411は、残留気体412として湿潤気体供給部58に送られる。湿潤気体供給部58は、回収した残留気体402の温度や湿度などを所望の範囲内に調節した後、残留気体412を湿潤気体410として、ダクトを介して、湿潤加熱室52へ供給する。また、湿潤加熱室52には、乾燥加熱処理が施された廃液320を貯留する廃液容器61が配される。第2加熱室51では、温度や湿度等が所望の範囲に調節された湿潤気体410中で廃液320が加熱される湿潤加熱処理が行われる。
【0030】
図3のように、湿潤気体供給部58は、軟水420を加熱して、水蒸気421をつくるボイラ61と、空気422を送風するブロア62と、ブロア62によって送られた空気422を加熱する熱交換器63と、水蒸気421と熱交換器63を経た空気422とから湿潤気体410をつくる混合器64と、湿潤気体410を加熱して、湿潤加熱室52へ送る加熱器65と、第2吸着回収部57から回収した残留気体412を凝縮し、加熱気体425と凝縮液426とをつくる凝縮器69とを有する。
【0031】
また、ボイラ61と混合器64とを接続する配管には、水蒸気421の圧力を所定の値まで減圧する減圧弁72及び水蒸気421の流量の調節を行う流量調節弁73が設けられる。また、制御器75は、流量調節弁73と、加熱器65と接続し、湿潤気体410の湿度及び温度を所望の範囲に調節する。湿潤気体410の湿度及び温度の調節は、湿潤加熱室52に設けられる湿度センサ(図示しない)から読み取った値に基づいて行っても良いし、湿潤加熱処理における条件に応じて調節してもよい。
【0032】
凝縮器69には、冷却装置80が接続する。冷却装置80は、凝縮器69に冷水430を送る。凝縮器69に送られた冷水430は、残留気体412の凝縮に用いられる。残留気体412の凝縮により、冷水430は、温水431となる。冷却装置80は、回収した温水431に冷却処理を施して、再び、冷水430として、凝縮器69に送る。凝縮器69によって生成する加熱気体425の一部は、ブロア81により熱交換器63に送られ、熱の再利用が行われる。また、余剰の加熱気体425は廃棄される。
【0033】
凝縮器69にて生成した凝縮液426は、貯水タンク83へ送られる。貯水タンク83には、凝縮液426における溶媒の濃度を検出する濃度センサが設けられる。凝縮液426における溶媒の濃度が所定値以下である場合は、凝縮液426は、所定の後処理を経て廃棄される。なお、凝縮液426における溶媒の濃度が所定値を超える場合は、混合液322として、蒸留塔44(図1参照)に送ってもよい。
【0034】
図1を用いて、本発明の作用について説明する。始めに、制御部29により、弁26a、弁28aが開位置となって、溶媒タンク26から溶媒301が、添加剤タンク28から添加剤302が、ホッパ27からTAC300が、それぞれ、溶解タンク20に送られる。そして、ジャケット20aにより、溶解タンク20内を−10℃以上55℃以下の範囲に温度調整し、第1攪拌翼20c、第2攪拌翼20eを適宜選択して回転させることにより、TAC300、溶媒301そして添加剤302を含む液から、膨潤液305を得る。
【0035】
ポンプ21により、膨潤液305を加熱装置22に送液する。膨潤液305に加熱処理または加圧下での加熱処理を施し、TAC300を溶媒301に溶解させてドープ306を得る。なお、この場合に膨潤液305の温度は、−100℃以上−10℃以下、或いは0℃以上120℃以下であることが好ましい。加熱溶解法及び冷却溶解法を適宜選択して行うことでTACを溶媒に十分溶解させることが可能となる。温調機23によりドープ306の温度を0〜40℃とした後に、濾過装置24により濾過を行いドープ306中の不純物を取り除く。濾過後のドープ306は、図示しないバルブを介してストックタンク12に入れられる。
【0036】
これらの方法により、TAC濃度が5重量%〜40重量%であるドープ306を製造することができる。より好ましくはTAC濃度が15重量%以上30重量%以下であり、最も好ましくは17重量%以上25重量%以下の範囲とすることである。また、添加剤302(主には可塑剤である)の濃度は、ドープ中の固形分全体を100重量%とした場合に1重量%以上30重量%以下の範囲とすることが好ましい。
【0037】
ドープ製造設備10にて調製されたドープ306は、ストックタンク12に貯蔵される。ストックタンク12に貯蔵されたドープ306は、ポンプ31により濾過装置34を介して、溶液製膜設備14へ送られる。溶液製膜設備14では、溶液製膜方法により、ドープ306から最終製品となるフイルムを製造する。
【0038】
次に、ドープ306を調製していたドープ製造設備10において、ドープ306から、TAC300の代わりに他のポリマーが含まれる新たなドープへ切り替える場合の、各装置の詳細について説明する。まず、図示しない信号出力手段を用いて、制御部29にドープ切り替え信号を送信する。制御部29は、図示しない信号出力手段からのドープ切り替え信号を検出すると、弁26a、28aを閉位置にし、ホッパ27のTAC300の供給を停止し、ポンプ21、31を停止する。
【0039】
その後、洗浄装置37は、洗浄液310をドープ調製通過装置へ供給する。そして、ドープ調製通過装置に送られた洗浄液310は、ドープ調製通過装置に残留する膨潤液305やドープ306とともに、廃液320となって、ドープ調製通過装置から排出され、洗浄処理が行われる。そして、残留する膨潤液305やドープ306を十分に除去した後、洗浄液310のドープ調製通過装置への供給を停止して、洗浄処理が完了する。洗浄処理にて排出される廃液320の固形分濃度は、0.1重量%以上25重量%以下である。なお、固形分濃度とは、廃液320におけるポリマーや添加剤の濃度を指す。
【0040】
そして、洗浄装置37による洗浄処理が終わった後、再び、図示しない信号出力手段を用いて、制御部29にドープ切り替え信号を送信する。制御部29は、ドープ切り替え信号を検出すると、弁26a、28aを開位置にし、ホッパ27から新たなポリマーの供給を開始し、ポンプ21、31を運転する。こうして、ドープ製造装置10では、新たなドープを調製し、溶液製膜設備14では、従前のフイルムと異なる品種のフイルムを新たなドープから製造することができる。
【0041】
次に、洗浄処理にて生成した廃液320から精製溶媒330を抽出するまでの詳細について説明する。図1及び図2のように、洗浄処理の開始後、廃液タンク42は、ドープ調製通過装置から排出され、洗浄液310と、ドープ調製通過装置に残留する膨潤液305又はドープ306とを含む廃液320を回収する。
【0042】
廃液タンク42は、乾燥加熱室51内に配される廃液容器61に、廃液320を供給する。乾燥気体供給部56が、40℃以上150℃以下に調節した乾燥気体400を乾燥加熱室51に供給することにより、乾燥加熱室51では乾燥加熱処理が行われる。乾燥加熱処理により、廃液320から溶媒301が蒸発する。蒸発した溶媒301は、第1吸着回収部55により残留気体402として回収され、吸着処理及び脱着処理を経て、混合液322となる。
【0043】
乾燥加熱処理の後、廃液320を貯留する廃液容器61は、湿潤加熱室52へ案内される。湿潤気体供給部58が、温度及び湿度を所定の範囲内で略一定になるように調節した湿潤気体410を湿潤加熱室52に供給することにより、湿潤加熱室52では湿潤加熱処理が行われる。湿潤加熱処理により、廃液320から溶媒301が蒸発する。蒸発した溶媒301は、第2吸着回収部57により回収され、吸着処理及び脱着処理を経て、混合液322となる。
【0044】
また、第1吸着回収部55及び第2吸着回収部57における吸着処理及び脱着処理により生成した混合液322は、蒸留塔44に送られる。蒸留塔44では、混合液322に分留処理を施して、精製溶媒330を生成する。この精製溶媒330は、新たなドープの調製用の溶媒として用いられる。一方、乾燥加熱処理及び湿潤加熱処理により、廃液容器61内の廃液320から溶媒301が蒸発し、最終的に、廃液容器61には、残留物321が残留する。また、乾燥加熱処理及び湿潤加熱処理を経て生成した残留物321は、所定の処理を経て、廃棄或いは、再利用される。
【0045】
次に、乾燥加熱処理及び湿潤加熱処理における、溶媒301の蒸発の詳細について説明する。溶媒301をなす化合物(以下、溶媒化合物と称する)を十分に含む廃液320に乾燥加熱処理を施すと、廃液320の液面及び液面の近傍に存在していた溶媒化合物が外気に放出される。したがって、乾燥加熱処理を一定期間以上行うと、廃液320の液面及び液面の近傍は、微量の溶媒化合物が存在する状態、いわゆる減率乾燥状態になる。
【0046】
液面及び液面の近傍が減率乾燥状態にある廃液320から、溶媒化合物が蒸発するためには、廃液320の液面及び液面の近傍から離れた深層部に存在する溶媒化合物が、廃液320の液面及び液面の近傍まで拡散する必要がある。しかしながら、減率乾燥状態にある廃液320の液面及び液面近傍では、ポリマー分子などによって網目構造が形成され、この網目構造の目が、所定のモル体積を有する溶媒化合物が廃液320中を拡散するための十分な大きさを持っていない。したがって、乾燥加熱処理において、廃液320の深層部に存在する溶媒化合物が、減率乾燥状態にある液面及び液面の近傍まで拡散することは困難である。
【0047】
本発明では、水分子を含む湿潤気体410中で、液面及び液面の近傍が減率乾燥状態にある廃液320を加熱する湿潤加熱処理を行うため、液面及び液面近傍の廃液320に水分子が吸収する結果、廃液320から溶媒化合物を容易に蒸発させることができる。なぜならば、減率乾燥状態にある廃液320の液面から水分子が吸収されると、水分子により廃液320内の網目構造の目を押し広げられ、深層部に存在する溶媒化合物が廃液320の液面及び液面の近傍まで拡散到達しやすくなるためである。したがって、湿潤加熱処理により、廃液320から溶媒301を容易に蒸発させることができる。
【0048】
廃液320が、減率乾燥状態であるか否かの判断手法としては、残留溶媒量の規定で判断する方法などが挙げられる。条件が一定である加熱実験において、廃液320から溶媒301が蒸発する速度、すなわち図4のようなプロット図における勾配が略一定となる状態を恒率乾燥状態C1とし、恒率乾燥状態以降の状態を減率乾燥状態C2としてもよい。図4のプロット図は、ドープ調製通過装置から回収した直後の廃液320から残留物321になるまでに、乾燥加熱処理が施された時間及び湿潤加熱処理が施された時間の合計時間(経過時間)と残留溶媒量の変化を示すものである。図中の点P1は、ドープ調製通過装置から回収した直後の廃液320を表し、点P2は、乾燥加熱処理及び湿潤加熱処理を経て生成した残留物321を表す。なお、図4のようなプロット図を用いずに、例えば、残留溶媒量が乾量基準で100重量%以下の状態を減率乾燥状態C1としてもよい。この乾量基準による残留溶媒量は、サンプリング時における試料の重量をx、その試料を乾燥した後の重量をyとするとき{(x−y)/y}×100で算出される値である。
【0049】
通常、廃液320内における溶媒化合物の拡散を促進させるためには、廃液320の温度を一定値(略110℃)以上で、長時間(例えば、24時間以上)処理する必要があるが、本発明では、上記処理を長時間行わなくても、廃液320内における溶媒化合物の拡散を促進させて、廃液320からの溶媒301の蒸発を容易にすることができるため、エネルギー的にも効率がよい。また、高温下での長時間の湿潤加熱処理は、溶媒301の加水分解を誘発することとなるが、本発明では、溶媒301の加水分解を抑えることができるため、良質な溶媒330を得ることができる。
【0050】
洗浄液320としては、TAC300などポリマーを溶解できるものが好ましく、具体的には、ドープ306に含まれる溶媒301、或いは、新たなドープに含まれる溶媒を用いることが好ましい。
【0051】
湿潤加熱処理が施される際の、廃液320の液面から廃液容器61の内側の底面までの深さDは、水分子が廃液320に侵入し得る深さを超えないことが好ましく、具体的には、深さDは30cm以下であることが好ましい。なお、廃液320がゲル状のもの或いは、固体の場合も同様である。
【0052】
湿潤加熱室52で用いられる湿潤気体410の好ましい条件として、水分子をより多く含むこと、相対湿度が高いことなどがある。
【0053】
湿潤気体410における水分子の飽和蒸気量をMSとするときに、湿潤気体410に含まれる水分子の重量は、0.3MS以上MS以下であることが好ましく、0.31MS以上0.5MS以下であることがより好ましい。湿潤気体410に含まれる水分子の量が、0.3MS未満の場合には、ポリマー分子の網目が押し広げられなくなり、廃液320から溶媒301を容易に蒸発させることが困難となるため好ましくない
【0054】
湿潤気体410の温度は、小体積物質の沸点BP(℃)以上3BP(℃)以下であることが好ましく、BP(℃)以上2BP(℃)以下であることがより好ましく、1.1BP(℃)以上1.7BP(℃)以下であることが特に好ましい。湿潤気体410の温度が、200℃を超えると、溶媒301の加水分解が起こってしまうため好ましくない。
【0055】
上記実施形態では、湿潤気体の成分として軟水420を用いたが、本発明はこれに限られず、その他の小体積物質でもよい。ここで、小体積物質は、ドープ306に含まれる溶媒301をなす溶媒化合物より小さいモル体積の物質をいう。小体積物質のモル体積が、網目構造の目にくらべてより小さくなるほど、この網目構造の目を押し広げ、溶媒化合物の拡散を促進する効果がより顕著に発揮される。温度が0℃、1atm下における、小体積物質のモル体積は、ポリマーの組成にもよるが、5以上150以下であることが好ましく、10以上100以下であることがより好ましい。
【0056】
また、小体積物質が溶媒301と相溶する場合には、小体積物質への溶解により、減率乾燥状態の廃液320中における溶媒化合物の拡散が行われやすくなるため、好ましい。
【0057】
小体積物質として、具体的には、水分子、有機化合物、これらの混合物を用いることができる。水分子を含むものとして、軟水のほか、硬水、純水などを用いることができる。なお、本発明に明細書における純水とは、電気抵抗率が少なくとも1MΩ以上であり、特にナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウムなどの金属イオンの含有濃度は1ppm未満、塩素、硝酸などのアニオンは0.1ppm未満の含有濃度を指す。純水は、逆浸透膜、イオン交換樹脂、蒸留などの単体、あるいは組み合わせによって、容易に得ることができる。
【0058】
小体積物質として用いられる有機化合物としては、メタノール、アセトンやメチルエチルケトンなどが挙げられる。
【0059】
また、ドープ306等に含まれる溶媒301が、複数の化合物の混合物である場合には、抽出対象である当該化合物の中で最もモル体積の小さい化合物を溶媒化合物とすればよい。
【0060】
上記実施形態では、空気422を用いたが、本発明はこれに限られず、空気422に代えて、窒素やHeやArなどの不活性ガスを用いても良い。なお、空気422に含まれる不純物の量は、小体積物質と同様に、できるだけ少ないことが好ましい。
【0061】
上記実施形態では、乾燥加熱処理の後に、湿潤加熱処理を行ったが、本発明はこれに限られず、湿潤加熱処理のみを行ってもよい。また、乾燥加熱処理及び、湿潤加熱処理において、廃液320を加熱するとしたが、本発明はこれに限られず、廃液320から溶媒301が蒸発する雰囲気中に、廃液320を配すればよい。また、乾燥加熱室51では乾燥加熱処理を、湿潤加熱室52では湿潤加熱処理を、それぞれ行ったが、本発明はこれに限られず、加熱室内の雰囲気を、乾燥気体400や湿潤気体410と同等の条件に調節可能な調節装置を乾燥室に設けてもよい。この調節装置を有する乾燥室により、乾燥加熱処理と湿潤加熱処理とを連続的に行うことができる。
【0062】
上記実施形態では、洗浄液310とドープ306とを含む廃液320を回収し、廃液320から溶媒を取り除いたが、本発明はこれに限られず、溶媒を含む廃棄物から溶媒を取り除く場合にも、本発明を適用することができる。このような廃棄物として、例えば、流延膜や湿潤フイルムを乾燥する溶液製膜設備14内の乾燥室等から排気される空気を蒸着して生成する廃棄物や溶液製膜設備14から排出される廃棄フイルムなどがある。
【0063】
上記実施形態における、廃液320は、液体のものに限られず、廃棄物であればよい。この廃棄物としては、液面のみ、または、液面及び液面の近傍が、ゲル化または固化したものでもよいし、全体がゲル化または固化したものでもよい。
【0064】
乾燥加熱室51や湿潤加熱室52に、廃液320が貯留する複数の廃液容器61を配し、乾燥加熱処理或いは湿潤加熱処理を行ってもよい。
【0065】
上記実施形態では、ドープ調製通過装置に残留する第1ドープをドープ306としたが、本発明の第1ドープは、これに限れず、溶解タンク20に送られ、未だTAC300が溶媒301に溶解または膨潤していない液、或いは膨潤液305が含まれる。
【0066】
上記実施形態では、溶解タンク20に入れる順番が、溶媒301、添加剤302、TAC300であったが、この順番に限定されるものではない。TAC300を計量しながら溶解タンク20に送り込んだ後に、好ましい量の溶媒301を送液することもできる。また、添加剤302は必ずしも溶解タンク20に予め入れる必要はなく、後の工程でTAC300と溶媒301との混合物に混合させることもできる。
【0067】
なお、上記実施形態では、TAC300から新たなポリマーに変更して、ドープ製造設備10にて調製するドープを、新たな組成のものに切り替えたが、本発明はこれに限られず、溶媒301を新たな溶媒に切り替える場合や、添加剤302を新たな添加剤に切り替える場合でもよい。
【0068】
上記実施形態では、洗浄処理において、ドープ調製通過装置に洗浄液310を導入し、ドープ調製通過装置に残留するドープ306等を洗い流したが、本発明はこれに限られず、新たなドープを洗浄液310としてドープ調製通過装置に流し、ドープ調製通過装置内に残留するドープを押し流すようにしてもよい。例えば、溶解タンク20から導入された洗浄液310により、残留するドープ306を押し流し、ストックタンク12や、溶液製膜設備14の直前で、廃液320として回収してもよい。また、配管11、13の上流側から洗浄液310を導入し、残留するドープ306等を配管11、13の下流側まで押し流した後、配管11、13の下流側から廃液320を回収してもよい。
【0069】
上記実施形態では、湿潤気体410を用いて、湿潤加熱処理を行ったが、本発明はこれに限られない。次に、廃液320を軟水に接触させながら湿潤加熱処理を行なう、湿潤加熱室を説明するが、上記実施形態と同一の部材、装置には同一の符号を付し、その詳細の説明は省略する。図5のように、湿潤加熱室152には、廃液容器61が配される。廃液容器61には、表面320aが減率乾燥状態にある廃液320が入っている。図示しない軟水供給装置により、この表面320a上に、所定の温度に調節された軟水420が供給される。また、廃液容器61には、廃液320の温度を所定の範囲に調節する温調器156が設けられる。そして、温調機156により廃液320を所定の温度になるまで加熱することで、軟水420と廃液320とを接触させながら、湿潤加熱処理を行なうことができる。こうして、湿潤加熱処理において、減率乾燥状態にある廃液320の表面320aに水分子を吸収させることができるため、結果として、廃液320から溶媒化合物を容易に放出させることができる。
【0070】
軟水420の温度を、40℃以上100℃以下にすることが好ましく、70℃以上100℃以下にすることがより好ましい。また、温調機156は、廃液320の温度を40℃以上100℃以下にすることが好ましく、70℃以上100℃以下にすることがより好ましい。なお、湿潤乾燥室152に、第1吸着回収部55と乾燥気体供給部56とを設けて、湿潤乾燥室152の内部を乾燥気体400で満たした状態で湿潤加熱処理を行ってもよいし、湿潤乾燥室152に第2吸着回収部57と湿潤気体供給部58とを設けて、湿潤乾燥室152の内部を湿潤気体410で満たした状態で湿潤加熱処理を行ってもよい。
【0071】
上記実施形態において、凝縮器69(図3参照)とから生成する温水431を軟水420の代わりに設けてもよい。更に、凝縮器69と水槽155とを、及び冷却器80(図3参照)と水槽155とを、それぞれ配管で接続し、凝縮器69で残留気体412(図3参照)から得た熱エネルギーを、温水431を介して、軟水420の温度調節に利用してもよい。
【0072】
なお、ドープ製造設備10において、ドープ306の調製に用いるポリマーとしてTAC300を用いたが、本発明におけるポリマーとしては、TAC300に限らず、有機化合物やその他のセルロースアシレート等を用いてもよい。
【0073】
(ポリマー)
本実施形態においては、ポリマーとしてセルロースアシレートを用いており、セルロースアシレートとしては、トリアセチルセルロース(TAC)が特に好ましい。そして、セルロースアシレートの中でも、セルロースの水酸基の水素原子に対するアシル基の置換度が下記式(I)〜(III)の全てを満足するものがより好ましい。なお、以下の式(I)〜(III)において、A及びBは、セルロースの水酸基の水素原子に対するアシル基の置換度を表わし、Aはアセチル基の置換度、またBは炭素原子数3〜22のアシル基の置換度である。なお、TACの90重量%以上が0.1mm〜4mmの粒子であることが好ましい。
(I) 2.5≦A+B≦3.0
(II) 0≦A≦3.0
(III) 0≦B≦2.9
また、本発明に用いられるポリマーはセルロースアシレートに限定されるものではない。
【0074】
セルロースを構成するβ−1,4結合しているグルコース単位は、2位,3位及び6位に遊離の水酸基を有している。セルロースアシレートは、これらの水酸基の一部または全部を炭素数2以上のアシル基によりエステル化した重合体(ポリマー)である。アシル置換度は、2位,3位及び6位それぞれについて、セルロースの水酸基がエステル化している割合(100%のエステル化は置換度1である)を意味する。
【0075】
全アシル化置換度、即ち、DS2+DS3+DS6は2.00〜3.00が好ましく、より好ましくは2.22〜2.90であり、特に好ましくは2.40〜2.88である。また、DS6/(DS2+DS3+DS6)は0.28以上が好ましく、より好ましくは0.30以上、特に好ましくは0.31〜0.34である。ここで、DS2はグルコース単位の2位の水酸基のアシル基による置換度(以下、「2位のアシル置換度」とも言う)であり、DS3は3位の水酸基のアシル基による置換度(以下、「3位のアシル置換度」とも言う)であり、DS6は6位の水酸基のアシル基による置換度(以下、「6位のアシル置換度」とも言う)である。
【0076】
本発明のセルロースアシレートに用いられるアシル基は1種類だけでも良いし、あるいは2種類以上のアシル基が使用されていても良い。2種類以上のアシル基を用いるときは、その1つがアセチル基であることが好ましい。2位,3位及び6位の水酸基による置換度の総和をDSAとし、2位,3位及び6位の水酸基のアセチル基以外のアシル基による置換度の総和をDSBとすると、DSA+DSBの値は、より好ましくは2.22〜2.90であり、特に好ましくは2.40〜2.88である。また、DSBは0.30以上であり、特に好ましくは0.7以上である。さらにDSBはその20%以上が6位水酸基の置換基であるが、より好ましくは25%以上が6位水酸基の置換基であり、30%以上がさらに好ましく、特には33%以上が6位水酸基の置換基であることが好ましい。また更に、セルロースアシレートの6位の置換度が0.75以上であり、さらには0.80以上であり特には0.85以上であるセルロースアシレートも挙げることができる。これらのセルロースアシレートにより溶解性の好ましい溶液(ドープ)が作製できる。特に非塩素系有機溶媒において、良好な溶液の作製が可能となる。さらに粘度が低く、濾過性の良い溶液の作製が可能となる。
【0077】
セルロースアシレートの原料であるセルロースは、リンター,パルプのどちらから得られたものでも良い。
【0078】
本発明のセルロースアシレートの炭素数2以上のアシル基としては、脂肪族基でもアリール基でも良く特に限定されない。それらは、例えばセルロースのアルキルカルボニルエステル、アルケニルカルボニルエステルあるいは芳香族カルボニルエステル、芳香族アルキルカルボニルエステルなどであり、それぞれさらに置換された基を有していても良い。これらの好ましい例としては、プロピオニル、ブタノイル、ペンタノイル、ヘキサノイル、オクタノイル、デカノイル、ドデカノイル、トリデカノイル、テトラデカノイル、ヘキサデカノイル、オクタデカノイル、iso−ブタノイル、t−ブタノイル、シクロヘキサンカルボニル、オレオイル、ベンゾイル、ナフチルカルボニル、シンナモイル基などを挙げることができる。これらの中でも、プロピオニル、ブタノイル、ドデカノイル、オクタデカノイル、t−ブタノイル、オレオイル、ベンゾイル、ナフチルカルボニル、シンナモイルなどがより好ましく、特に好ましくはプロピオニル、ブタノイルである。
【0079】
(溶媒)
ドープを調製する溶媒としては、芳香族炭化水素(例えば、ベンゼン,トルエンなど)、ハロゲン化炭化水素(例えば、ジクロロメタン,クロロベンゼンなど)、アルコール(例えば、メタノール,エタノール,n−プロパノール,n−ブタノール,ジエチレングリコールなど)、ケトン(例えば、アセトン,メチルエチルケトンなど)、エステル(例えば、酢酸メチル,酢酸エチル,酢酸プロピルなど)及びエーテル(例えば、テトラヒドロフラン,メチルセロソルブなど)などが挙げられる。なお、本発明において、ドープとはポリマーを溶媒に溶解または分散して得られるポリマー溶液,分散液を意味している。
【0080】
これらの中でも炭素原子数1〜7のハロゲン化炭化水素が好ましく用いられ、ジクロロメタンが最も好ましく用いられる。TACの溶解性、流延膜の支持体からの剥ぎ取り性、フイルムの機械的強度など及びフイルムの光学特性などの物性の観点から、ジクロロメタンの他に炭素原子数1〜5のアルコールを1種ないし数種類混合することが好ましい。アルコールの含有量は、溶媒全体に対し2重量%〜25重量%が好ましく、5重量%〜20重量%がより好ましい。アルコールの具体例としては、メタノール,エタノール,n−プロパノール,イソプロパノール,n−ブタノールなどが挙げられるが、メタノール,エタノール,n−ブタノールあるいはこれらの混合物が好ましく用いられる。
【0081】
ところで、最近、環境に対する影響を最小限に抑えることを目的に、ジクロロメタンを使用しない場合の溶媒組成についても検討が進み、この目的に対しては、炭素原子数が4〜12のエーテル、炭素原子数が3〜12のケトン、炭素原子数が3〜12のエステル、炭素数1〜12のアルコールが好ましく用いられる。これらを適宜混合して用いることがある。例えば、酢酸メチル,アセトン,エタノール,n−ブタノールの混合溶媒が挙げられる。これらのエーテル、ケトン,エステル及びアルコールは、環状構造を有するものであってもよい。また、エーテル、ケトン,エステル及びアルコールの官能基(すなわち、−O−,−CO−,−COO−及び−OH)のいずれかを2つ以上有する化合物も、溶媒として用いることができる。
【0082】
なお、セルロースアシレートの詳細については、特開2005−104148号の[0140]段落から[0195]段落に記載されている。これらの記載も本発明にも適用できる。また、溶媒及び可塑剤,劣化防止剤,紫外線吸収剤(UV剤),光学異方性コントロール剤,レターデーション制御剤,染料,マット剤,剥離剤,剥離促進剤などの添加剤についても、同じく特開2005−104148号の[0196]段落から[0516]段落に詳細に記載されている。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】廃液から精製溶媒を抽出する廃液処理設備、ドープ製造設備、及び溶液製膜設備等の概要を示す説明図である。
【図2】脱溶媒装置の概要を示す説明図である。
【図3】湿潤気体供給部の概要を示す説明図である。
【図4】ドープ調製通過装置から回収直後の廃液が残留物になるまでに要する乾燥処理時間と残留溶媒量の推移の概要を示す説明図である。
【図5】第2の湿潤加熱室の概要を示す説明図である。
【符号の説明】
【0084】
10 ドープ製造設備
11、13 配管
12 ストックタンク
14 溶液製膜設備
40 廃液処理設備
43 脱溶媒装置
44 蒸留塔
51 乾燥加熱室
52 湿潤加熱室
300 TAC
301 溶媒
302 添加剤
305 膨潤液
306 ドープ
320 廃液
321 残留物
322 混合液
330 精製溶媒
410 湿潤気体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドープを調製する或いは前記ドープが通過するドープ調製通過装置内に残留し、第1ポリマーと第1溶媒と第1添加剤とを成分とする第1ドープから前記第1溶媒を取り除くポリマー溶液の脱溶媒方法において、
前記第1ポリマーと異なる第2ポリマー、前記第1溶媒と異なる第2溶媒、及び前記第1添加剤と異なる第2添加剤のうちいずれかを成分とする第2ドープが導入される前記ドープ調製通過装置から、前記第1ドープを含む廃棄物を排出し、
前記廃棄物を、前記第1溶媒をなす溶媒化合物よりもモル体積が小さい小体積物質中に配し、
前記廃棄物から前記第1溶媒を蒸発させることを特徴とするポリマー溶液の脱溶媒方法。
【請求項2】
前記第1ドープを除去するための洗浄剤を前記ドープ調製通過装置内に導入し、
前記洗浄剤を含む前記廃棄物を、前記ドープ調製通過装置から排出することを特徴とする請求項1記載のポリマー溶液の脱溶媒方法。
【請求項3】
前記廃棄物の表面及びその近傍が、減率乾燥状態であることを特徴とする請求項1または2記載のポリマー溶液の脱溶媒方法。
【請求項4】
前記小体積物質を含む気体中に、前記廃棄物を配することを特徴とする請求項1ないし3のうちいずれか1項記載のポリマー溶液の脱溶媒方法。
【請求項5】
前記気体における前記小体積物質の飽和蒸気量をMSとするときに、
前記気体が0.3MS以上MS以下の前記小体積物質を含むことを特徴とする請求項4記載のポリマー溶液の脱溶媒方法。
【請求項6】
前記気体の温度が、前記小体積物質の沸点(℃)以上前記沸点の3倍(℃)以下であることを特徴とする請求項4または5記載のポリマー溶液の脱溶媒方法。
【請求項7】
前記小体積物質を含む液体中に、前記廃棄物を配することを特徴とする請求項1ないし3のうちいずれか1項記載のポリマー溶液の脱溶媒方法。
【請求項8】
前記液体の温度が、前記第1溶媒の沸点(℃)以上前記小体積物質の沸点(℃)以下であることを特徴とする請求項7記載のポリマー溶液の脱溶媒方法。
【請求項9】
前記第1溶媒が、複数の化合物からなる場合には、
前記複数の化合物のうち、モル体積が最も小さい化合物を、前記溶媒化合物とすることを特徴とする請求項1ないし8のうちいずれか1つ記載のポリマー溶液の脱溶媒方法。
【請求項10】
前記第1溶媒が、メチレンクロライド、メタノール、ブタノールのうち少なくとも1つを含み、前記小体積物質が水、メタノール、アセトン、メチルケトンのうち少なくとも1つを含むことを特徴とする請求項1ないし9のうちいずれか1つ記載のポリマー溶液の脱溶媒方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−83219(P2009−83219A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−254309(P2007−254309)
【出願日】平成19年9月28日(2007.9.28)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】