説明

ポリマー組成物からのフッ素含有界面活性剤の除去方法

【課題】 フッ素含有界面活性剤およびフッ素含有ポリマーを含むポリマー組成物からフッ素含有界面活性剤を除去するための新規な方法を提供する。
【解決手段】 フッ素含有界面活性剤およびフッ素含有ポリマーを含むポリマー組成物を不活性な流体(気体、液体、亜臨界流体および超臨界流体からなる群から選択され、好ましくは亜臨界流体、およびより好ましくは超臨界流体)と加熱および加圧下にて接触させ、その後、該ポリマー組成物と接触している流体の相をポリマー組成物から分離することにより、フッ素含有界面活性剤の濃度が低下したポリマー組成物を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリマー組成物の精製方法に関し、より詳細には、フッ素含有界面活性剤およびフッ素含有ポリマーを含むポリマー組成物からフッ素含有界面活性剤を除去する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フッ素含有界面活性剤は、フッ素含有ポリマーを製造する際の乳化重合のための乳化剤、凝析安定剤などとして利用されている。近時、製品中におけるフッ素含有界面活性剤の濃度を低減する技術について盛んに研究開発がなされており、例えば、水溶液中のフッ素含有界面活性剤を回収する方法として、逆浸透膜法、イオン交換膜法などが検討されてきた(例えば特許文献1および2を参照のこと)。
【0003】
【特許文献1】特開2002−58966号公報
【特許文献2】特開2002−59160号公報
【特許文献3】特開2002−355880号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述のような方法では膜が汚染され易く、その度に膜の交換が必要となり、コスト面に問題があった。
【0005】
本発明の目的は、フッ素含有界面活性剤およびフッ素含有ポリマーを含むポリマー組成物からフッ素含有界面活性剤を除去する新規な方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、ポリマー組成物からフッ素含有界面活性剤を除去する方法であって、
(a)フッ素含有界面活性剤およびフッ素含有ポリマーを含むポリマー組成物を、気体、液体、亜臨界流体および超臨界流体からなる群から選択される不活性な流体(以下、本明細書において単に「流体」とも言う)と加熱および加圧下にて接触させ、および
(b)ポリマー組成物と接触している流体の相をポリマー組成物から分離することにより、フッ素含有界面活性剤の濃度が低下したポリマー組成物を得る
ことを含む方法が提供される。
【0007】
本発明において「加熱および加圧下」とは、標準環境温度および圧力(即ち25℃および0.1Mpa)を基準とし、これらよりも高い温度および圧力条件下に配置することを意味する。「超臨界流体」とは、一般的に知られているように、温度Tおよび圧力Pがその臨界点(臨界温度(Tc)および臨界圧力(Pc)の双方)を超える条件下(P−T線図では、T>TcかつP>Pcである領域)にある流体を意味する。また、「亜臨界流体」は一般的には必ずしも明確に規定されるものではないが、本発明においては、温度Tおよび圧力Pが、T/Tc≧0.7かつP/Pc≧0.7であって、T/Tc≦1およびP/Pc≦1の少なくとも一方を満たす条件下(P−T線図では、T≧0.7TcかつP≧0.7Pcである領域から、T>TcかつP>Pcである超臨界領域を除いたL字形の領域)にある流体を意味する。
【0008】
このような方法においては、ポリマー組成物を不活性な流体と加熱および加圧下にて接触させ、その後、流体の相を分離しているので、ポリマー組成物中のフッ素含有界面活性剤を不活性な流体の相に移してポリマー組成物から除去することができ、よって、フッ素含有界面活性剤の濃度が低下したポリマー組成物を得ることができる。ポリマー組成物中のフッ素含有界面活性剤が流体の相に移るのは、本発明はいずれの理論によっても拘束されないが、加熱によってポリマー組成物を可塑化でき、加圧によって不活性な流体を可塑化したポリマー組成物中に効果的に導入でき、導入された流体が流体の相に戻るときにフッ素含有界面活性剤を同伴するためであると考えられる。
【0009】
このような本発明の方法は、ポリマー組成物の精製方法またはフッ素含有界面活性剤の濃度が低減されたポリマー組成物の製造方法としても理解され得るであろう。
【0010】
本発明の上記工程(a)におけるポリマー組成物の温度は、例えば約90〜300℃、好ましくは約130〜200℃とし得る。ポリマー組成物は一般的に常温にて塑性を有さないが、このような温度で加熱することにより可塑化し得る。ここで「可塑化」とは、一般的に知られているように、ポリマー組成物が塑性変形または塑性流動可能となることを意味する。
【0011】
本発明の上記工程(a)における流体の圧力は、例えば約1〜30MPa、好ましくは約3〜20MPaとし得る。このような高い圧力を有する流体をポリマー組成物と接触させることにより、流体をポリマー組成物中により効果的に導入できる。
【0012】
また、上記工程(a)における流体の圧力はポリマー組成物の内部圧力より高いことが好ましい。このような圧力差により、流体はポリマー組成物中に導入され易くなる。しかしながらこのことは本発明の実施に必ずしも要さず、例えば流体の圧力とポリマー組成物の内部圧力とが同程度であってよい。
【0013】
本発明の1つの態様において、上記工程(a)における接触はポリマー組成物を流体と共に混練押出することにより実施される。このような混練押出操作の間、ポリマー組成物の表面は常時更新され、流体はポリマー組成物の内部に巻き込まれて十分に混合される。この結果、ポリマー組成物中のフッ素含有界面活性剤を流体の相により効果的に移すことができ、フッ素含有界面活性剤をポリマー組成物から一層効率的に除去できる。
【0014】
このような混練押出を実施する態様においては、ポリマー組成物に圧縮応力が働くので、ポリマー組成物の内部圧力はその分上昇する。この場合、ポリマー組成物の内部圧力は樹脂の混練押出の際に一般的に用いられる樹脂内部圧力(いわゆる樹脂圧)と同様にして測定され、例えば約1〜15MPa、好ましくは約2〜10MPaとなり得る。この態様においても、流体の圧力はポリマー組成物の内部圧力(樹脂圧)より高く、例えば約0.1〜15MPa程度高いことが好ましい。
【0015】
本発明の上記工程(a)において流体は接触時の温度および圧力に応じて気体、液体、亜臨界流体および超臨界流体であってよいが、液体に比べて気体が好ましく、また、気体に比べて亜臨界流体が好ましく、超臨界流体がより好ましい。液体よりも気体のほうが拡散係数が4桁ほど高いためポリマー組成物中へより容易に導入されるからである。また、亜臨界流体および超臨界流体は、ポリマー組成物と混合した場合にポリマー組成物の可塑化を助長する。特に、ポリマー組成物を亜臨界流体、より好ましくは超臨界流体と共に混練押出するとポリマー組成物は膨潤し、より一層可塑化が促進される。この結果、フッ素含有界面活性剤の濃度が一層低下したポリマー組成物を得ることができる。特に、超臨界流体は、同じ物質から成る同一温度条件下の亜臨界流体と比較すると圧力がより高いので、ヘンリーの法則によってポリマー組成物への流体の溶解度がより高くなり、その結果、ポリマー組成物を膨潤させる効果がより高く、同伴されるフッ素含有界面活性剤の量がより多くなる。
【0016】
本発明の1つの態様において、上記工程(b)における分離は、流体の相をより低圧の気相として取り出すことにより実施される。このように圧力差を利用することにより、フッ素含有界面活性剤が移った流体の相を簡単に分離できる。特に、工程(a)において流体が亜臨界流体または超臨界流体である場合、ポリマー組成物に対する溶解度は液体、亜臨界流体および超臨界流体よりも気体の方がかなり小さいので、工程(b)にて圧力低下させて流体の相を気相として取り出すと、流体の相とポリマー組成物との高い分離効率が得られる。
【0017】
本発明において「不活性」とは、ポリマー組成物の構成成分と反応しないことを意味する。不活性な流体として、例えば窒素(N)、アルゴン(Ar)および二酸化炭素(CO)からなる群から選択される1種の流体または2種以上の流体混合物を使用できる。なかでも二酸化炭素は化学的に安定で、安価であり、比較的低い温度および圧力条件下にて超臨界流体が得られるので好ましい。
【0018】
上記に例示した不活性な流体は標準環境温度および圧力下にて気体であり、温度および圧力条件によって亜臨界流体または超臨界流体となる。例えば二酸化炭素の超臨界流体(本明細書において単に「超臨界CO」とも表記する)は、Tc=約31.1℃より高い温度およびPc=約7.38MPaより高い圧力条件下にある二酸化炭素を言う。また、二酸化炭素の亜臨界流体は、必ずしも明確に規定できないが、概略的には約20〜300℃および約5〜30MPaの温度および圧力条件下にある二酸化炭素を言う。また、窒素の超臨界流体は、Tc=約−147℃より高い温度およびPc=約3.4MPaより高い圧力条件下にある窒素を言い、亜臨界流体は、概略的には約−184〜300℃および約2.4〜30MPaの温度および圧力条件下にある窒素を言う。またアルゴンの超臨界流体は、Tc=約−122℃より高い温度およびPc=約4.9MPaより高い圧力条件下にあるアルゴンを言い、亜臨界流体は、概略的には約−167〜300℃および約3.4〜30MPaの温度および圧力条件下にあるアルゴンを言う。尚、本発明の方法においてポリマー組成物を亜臨界流体または超臨界流体と接触させる場合、流体が亜臨界流体または超臨界流体となる上記のような温度および圧力条件に加え、加熱および加圧条件下とする必要があることに留意されたい。
【0019】
ポリマー組成物中に含まれるフッ素含有ポリマーは、フッ素含有モノマーの重合ならびにフッ素含有モノマーとフッ素含有または非含有モノマーとの共重合により得られるポリマーであってよい。フッ素含有モノマーは少なくとも1つのフッ素原子を有するモノマーを意味し、フッ素非含有モノマーとはフッ素原子を有さないモノマーを意味するものである。
【0020】
フッ素含有ポリマーは、例えば熱可塑性フッ素樹脂およびフッ素ゴムからなる群から選択される少なくとも1種のポリマーを含む。本発明に利用可能な熱可塑性フッ素樹脂には、例えばテトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリフッ化ビニル、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、エチレン−クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(EFEP)およびそれらの誘導体などが含まれる。また、本発明に利用可能なフッ素ゴムには、例えばビニリデンフルオライド−ヘキサフルオロプロピレン(VDF−HFP)系、ビニリデンフルオライド−ヘキサフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレン(VDF−HFP−TFE)系、ビニリデンフルオライド−ペンタフルオロプロピレン(VDF−PFP)系、ビニリデンフルオライド−ペンタフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレン(VDF−PFP−TFE)系、ビニリデンフルオライド−パーフルオロメチルビニルエーテル−テトラフルオロエチレン(VDF−PFMVE−TFE)系、プロピレン−テトラフルオロエチレン(TFE−P)系、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル(TFE−PFAVE)系のフッ素ゴムおよびそれらの誘導体が含まれる。このようなフッ素ゴムは未架橋であるか、または架橋の程度があまり高くないほうが、流体がその内部に導入され易く、特に亜臨界流体または超臨界流体との混合により膨潤し易いので好ましい。しかし本発明はこれに限定されず、高度に架橋されたフッ素ゴムを用いてもよい。
【0021】
また、ポリマー組成物中に含まれるフッ素含有界面活性剤は、フッ素元素を有する化合物であって、1つの分子中に親水性部分および疎水性部分を有し、物質の界面に作用して性質を変化させるものであればよい。このようなフッ素含有界面活性剤は、フッ素含有ポリマーの製造において一般的に乳化剤または凝析補助剤などとして使用されている。
【0022】
本発明に用いる処理前のフッ素ポリマー組成物は、フッ素含有界面活性剤を例えば約100〜10000重量ppm、より詳細には約500〜3000重量ppmで含んでいてよい。
【0023】
本発明の1つの態様において、フッ素含有界面活性剤は1分子あたりの炭素数が38個以下であるフッ素含有化合物から成る。1分子あたりの炭素数が38個を超えると界面活性能が低下する場合がある。1分子あたりの炭素数は14個以下が好ましく、より好ましくは10個以下である。また、1分子あたりの炭素数は4個以上が好ましく、より好ましくは6個以上である。フッ素含有界面活性剤はヘテロ原子、すなわち炭素でも水素でもない原子、例えば酸素、窒素、フッ素、塩素、臭素およびヨウ素などの原子を1個またはそれ以上有していてもよい。酸素原子を有する場合、酸素原子はエーテル結合を形成していてよい。
【0024】
このフッ素含有化合物は、例えば、
下記一般式(1):
【化1】

(式中、YはHまたはFを示す。x1は4〜13の整数およびy1は0〜3の整数を示し、好ましくはx1は6〜10の整数およびy1は0〜2の整数を示し、より好ましくはx1は6〜10の整数およびy1は0の整数を示す。Aは−SOMまたは−COOMを示し、MはH、NH、Li、Na、Mg、Al、KまたはCaを示す。)で表されるエーテル酸素を有しないアニオン性化合物、および
下記一般式(2):
【化2】

(式中、x2は1〜5の整数およびy2は0〜10の整数を示し、好ましくはx2は1〜5の整数およびy2は0〜3の整数を示し、より好ましくはx2は1〜3の整数およびy2は0〜3の整数を示す。XはFまたはCF、好ましくはCFを示す。Aは−SOM’または−COOM’、好ましくは−COOM’を示し、M’はH、NH、Li、Na、Mg、Al、KまたはCaを示す。)で表されるエーテル酸素を有するアニオン性化合物からなる群から選択される少なくとも1種の化合物であってよい。
【0025】
より詳細には、上記一般式(1)で表されるフッ素含有界面活性剤はパーフルオロカルボン酸(例えばパーフルオロオクタン酸(PFOA))およびその塩類(例えばアンモニウムパーフルオロオクタン酸(APFO))であってよい。
【0026】
本発明に使用されるポリマー組成物はフッ素含有界面活性剤およびフッ素含有ポリマーに加えて他の成分、例えば水および/または有機溶媒を含んでいてもよい。水ならびに例えばアルコール(より詳細にはメタノール、エタノール、ブタノールなど)およびヘキサンなどの有機溶媒はフッ素含有界面活性剤を溶かし、加熱および/または減圧などによって蒸発する際にフッ素含有界面活性剤を同伴し、この結果、フッ素含有界面活性剤の除去を促進するので好ましい。このような水および/または有機溶媒は、接触状態においてポリマー組成物中に存在する場合には加熱によるポリマー組成物の可塑化が認められる範囲において、フッ素含有界面活性剤の除去を促進し得るような量、例えば約1〜20重量%以下、好ましくは約1〜5重量%以下の量で含まれ得る。しかし、本発明においてポリマー組成物は必ずしも水および/または有機溶媒を含んでいなくてよい点に留意されるべきである。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、フッ素含有界面活性剤およびフッ素含有ポリマーを含むポリマー組成物からフッ素含有界面活性剤を除去する新規な方法が提供される。本発明の方法においては、ポリマー組成物を不活性な流体と加熱および加圧下にて十分に接触させ、その後、流体の相を分離しているので、ポリマー組成物中のフッ素含有界面活性剤を不活性な流体の相に効果的に移すことができ、この相に移ったフッ素含有界面活性剤をポリマー組成物から除去できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
【0029】
(実施形態1)
本実施形態は本発明の方法をバッチ式で実施するプロセスに関する。このバッチ式プロセスは適当な装置を用いて実施できるが、例示的に図1に示す撹拌混合機を用いる場合について説明する。
【0030】
まず、容器1内にポリマー組成物7を図示するように配置する。容器1はヒータ3によりほぼ均一に加熱される。容器1内の温度は25℃より高く、好ましくはポリマー組成物7が可塑化するように約90〜300℃とされる。
【0031】
ポリマー組成物7はフッ素含有界面活性剤およびフッ素含有ポリマーを含む。フッ素含有界面活性剤は、例えば上述の一般式(1)または(2)で表されるような、1分子あたりの炭素数が38個以下であるフッ素含有化合物であってよい。フッ素含有ポリマーは、例えば上述のような熱可塑性フッ素樹脂およびフッ素ゴムからなる群から選択される少なくとも1種のポリマーであってよい。また、ポリマー組成物7は水を含んでいてもよいが、加熱により蒸発し得る。
【0032】
そして、不活性な流体9を加圧ポンプ(図示せず)により容器1内に供給し、容器1内の流体9の圧力を0.1MPaより大きく、好ましくはポリマー組成物7中に多く導入されるように約1〜30MPaとして、密閉する。
【0033】
不活性な流体9は、例えば窒素(N)、アルゴン(Ar)または二酸化炭素(CO)、好ましくは二酸化炭素から成る。この流体9は容器1内において気体、液体、亜臨界流体または超臨界流体であってよく、好ましくは亜臨界流体、より好ましくは超臨界流体である。流体9の状態は容器1内の温度および圧力条件に応じて決まるので、気体、液体、亜臨界流体または超臨界流体のうち所望の状態となるように適当に設定する。
【0034】
本実施形態において加熱および加圧を開始する順序は特に限定されない。例えば、ポリマー組成物7を入れる前または後に容器1を加熱し、ポリマー組成物7が入っている容器1を加熱しながら加圧した流体9を供給してよい。また例えば、ポリマー組成物7が入っている容器1に加圧した流体9を供給した後、容器1を加熱してもよい。ポリマー組成物7および流体9は容器1に入れる前に予め加熱されていてもよい。
【0035】
このような加熱および加圧条件下にて、ポリマー組成物7を流体9と接触させた状態で維持する。ポリマー組成物7に含まれていたフッ素含有界面活性剤は、流体9に対して露出しているポリマー組成物7の表面から流体9の相に移るだけでなく、ポリマー組成物7中に導入された流体9に同伴されて流体9の相に移ると考えられる。特に、流体9が液体、亜臨界流体または超臨界流体である場合、液体、亜臨界流体および超臨界流体は気体に比べてポリマー組成物7に対する溶解度が高いので、ポリマー組成物7中により多くの流体9が導入され、ポリマー組成物7に含まれていたフッ素含有界面活性剤を流体9の相により効率的に移すことができる。
【0036】
接触状態を維持する間、回転翼5を回転させて、図1中に矢印で示すように流体9をポリマー組成物7に向けて流す(または吹き付ける)ことが好ましい。このような操作により、ポリマー組成物7の表面近傍にある流体9の圧力は、特に接触の初期においてポリマー組成物7の内部圧力よりも高くなり、このことは圧力損失のためにポリマー組成物7の表面から内部に向かうにつれてより明瞭に表れる。この圧力差により、流体9はポリマー組成物7中に導入され易くなる。しかしながら、このような圧力差は必ずしも存在しなくてよく、ポリマー組成物7の内部圧力は接触時間が長くなるにつれて流体9の圧力と実質的に等しくなり得るであろう。また、本実施形態はこれに限定されず、回転翼5を用いずにポリマー組成物7を流体9と単に接触させてもよい。この場合、ポリマー組成物7の内部圧力は流体9の圧力と実質的に等しくなる。
【0037】
その後、ポリマー組成物7と接触している流体9の相を容器1から排出し、ポリマー組成物7から分離する。このとき、例えば真空または減圧ポンプ(図示せず)などを用いて、流体9の相をより低圧の気相として取り出すと、流体9をポリマー組成物7から容易に分離できる。特に、流体9が亜臨界流体または超臨界流体である場合、亜臨界流体または超臨界流体を気相に変えることにより、流体9のポリマー組成物7に対する溶解度が低下するので、流体9をポリマー組成物7から効率的に分離できる。
【0038】
これにより、処理前に比べてフッ素含有界面活性剤の濃度が低下したポリマー組成物7を得ることができる。
【0039】
(実施形態2)
本実施形態は本発明の方法を連続式で実施するプロセスに関する。この連続式プロセスは適当な装置を用いて実施できるが、例示的に図2に示す混練押出機を用いる場合について説明する。尚、本実施形態に用いるポリマー組成物および流体は実施形態1にて説明したものと同様であってよい。
【0040】
概略的には、ヒータ13により予め加熱したシリンダ11にポリマー組成物(図示せず)を供給ライン21から供給し、シリンダ11内に配置されたスクリュー等(図示せず)により混練押出してシリンダ11内を下流側へ(図2の右方向に)移動させ、取出ライン29からシリンダ11の外部に取り出す。また、このシリンダ11に加熱および加圧した不活性な流体(図示せず)を供給ライン23から供給し、下流側ベント27を通じて真空または減圧ポンプ15により強制排出する。シリンダ11に供給した流体は上流側にも流れ得るが、これは上流側ベント25を通じて排出し得る。
【0041】
より詳細には、ポリマー組成物はシリンダ11内にて25℃より高い温度に加熱され、好ましくはポリマー組成物が可塑化するように約90〜300℃に加熱される。このような加熱はヒータ13が設けられたシリンダ11のほぼ全体に亘って実施される。混練押出操作におけるポリマー組成物の内部圧力は、樹脂の混練押出の際に一般的に用いられる樹脂圧と同様にして測定でき、例えば約1〜15MPaであり得る。
【0042】
また、供給ライン23から供給されたシリンダ11のシール17bおよび17cの間の区画における流体の圧力は0.1MPaより大きく、例えば約1〜30MPaとする。流体がポリマー組成物中に多く導入されるように、この区画における流体の圧力をポリマー組成物の内部圧力(または樹脂圧)よりも高く、例えば約0.1〜15MPa程度高いことが好ましい。流体の圧力は、流体が供給されるシール17bおよび17cの区画において、これらシールによって高く維持され、シール17aおよび17bの間の区画および17cより下流側の区画において低下する。シール17a〜17cはポリマー組成物の混練押出を可能にしつつ、シールの前後にて圧力差を形成するものであり、例えばシールリングなどであってよい。ポリマー組成物と接触する流体の状態はシリンダ11内、特にシール17bおよび17cの間の区画における温度および圧力条件に応じて決まるので、気体、液体、亜臨界流体または超臨界流体のうち所望の状態となるように適当に設定または調節する。
【0043】
このような温度および圧力条件において、供給ライン21からシリンダ11に供給されたポリマー組成物は、まず、シール17aより上流側の区画にて可塑化する。そして、ポリマー組成物はシール17aを横切り、シール17aおよび17bの間の区画を通ってシール17bおよび17cの間の区画に移動し、供給ライン23から供給された流体と接触する。このとき、ポリマー組成物は流体と共に混練押出されてポリマー組成物の表面が常時更新されるので、流体はポリマー組成物の内部に巻き込まれて混合される。この接触状態において、ポリマー組成物に含まれていたフッ素含有界面活性剤は、ポリマー組成物内部に巻き込まれた流体に同伴されて、流体の相に移ると考えられる。特に、ポリマー組成物と共に混練押出する流体が亜臨界流体または超臨界流体である場合、亜臨界流体または超臨界流体がポリマー組成物中に溶解してポリマー組成物が膨潤し、より一層可塑化が促進されるので、ポリマー組成物中に流体が導入され易くなり、ポリマー組成物に含まれていたフッ素含有界面活性剤を流体の相により効率的に移すことができる。
【0044】
そして、ポリマー組成物が流体と共に混練押出されてシール17cを横切った後、ポリマー組成物と接触している流体の相は下流側ベント27を通じてポリマー組成物から分離される。この流体の相は、図示するように、真空または減圧ポンプ15によりシリンダ11から強制排出され、より低圧の気相として取り出される。特に、ポリマー組成物を亜臨界流体または超臨界流体と接触させていた場合、亜臨界流体または超臨界流体を気相に変えることにより、流体のポリマー組成物に対する溶解度が低下するので、流体の相をポリマー組成物から容易に分離できる。
【0045】
ポリマー組成物が流体と接触する時間は適当に設定してよいが、その目安として、ポリマー組成物が図2に示す流体供給ライン23を通過してから下流側ベント27を通過するまでに要する時間は、例えば約10秒〜40分としてよい。
【0046】
その後、流体の相が分離されたポリマー組成物が取出ライン29から取り出される。これにより、処理前に比べてフッ素含有界面活性剤の濃度が低下したポリマー組成物を得ることができる。
【0047】
本実施形態においては図2に示す混練押出機を用いる場合について例示的に説明したが、本発明はこれに限定されず、他の適当な装置、例えば特許文献3に示されるような装置を利用することも可能である。
【実施例1】
【0048】
本実施例は実施形態1にて図1を参照して上述したバッチ式プロセスに関する。
【0049】
本実施例においてはポリマー組成物のサンプルとして、以下のフッ素含有界面活性剤およびフッ素含有ポリマーを含む押出乾燥品(約2.0g)を準備した。
・フッ素含有界面活性剤:アンモニウムパーフルオロオクタン酸(APFO)
・フッ素含有ポリマー:ビニリデンフルオロエチレン(VdF)、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)およびテトラフルオロエチレン(TFE)の共重合体(VdF:HFP:TFE=60:20:20(重量比))
【0050】
まず、処理前のポリマー組成物サンプル中のAPFO濃度を調べた。1つのポリマー組成物サンプルの一部(約0.2g)をその10倍量のアセトンに溶解させ、このアセトン溶液を約2倍量の水にゆっくり滴下した。これにより得られた水溶液を高速液体クロマトグラフ〔HPLC〕(東ソー社製 本体ユニットSC8010)にて分析し、ポリマー組成物中のAPFO濃度を求めた。この処理前のポリマー組成物サンプル中のAPFO濃度は263.05ppmであった。結果を接触時間ゼロとして図3に示す。
【0051】
他の同様のポリマー組成物サンプルをそれぞれ実施形態1にて図1を参照しつつ説明したバッチ式プロセスに従って不活性な流体と接触させ、その後、流体の相を分離した。不活性な流体には二酸化炭素を用い、接触状態における流体の圧力(図1に示す圧力計Pにて測定)は約15MPa、ポリマー組成物の温度(図1に示す温度計Tにて測定)は約150℃とした。即ち、このような圧力および温度条件下において二酸化炭素を超臨界COとしてポリマー組成物と接触させた。接触時間は10分および30分とした。
【0052】
また、比較例として、超臨界CO(約150℃、約15MPa)に代えて加熱した空気雰囲気(約150℃、約0.1MPa)を用い、接触時間を30分のみとしたこと以外は上記と同様に実施した。
【0053】
実施例および比較例により得られた各ポリマー組成物サンプルを、上記の処理前のポリマー組成物サンプルの場合と同様にして高速液体クロマトグラフで分析し、ポリマー組成物中のAPFO濃度を求めた。結果を図3に示す。
【0054】
超臨界COを用いた本実施例によれば、APFO濃度は接触時間10分および30分のいずれの場合でも処理前の1/5未満(50ppm未満)にまで低減された。これに対して、加熱した空気雰囲気を用いた比較例(加圧なし)では、APFO濃度は接触時間30分で処理前の4/5程度に低減されるに留まった。本実施例のように短い接触時間でも(接触時間10分の場合でさえも)フッ素含有界面活性剤を効果的に除去できたのは、高密度の超臨界流体がポリマー組成物中に十分に入り込み、フッ素含有界面活性剤(本実施例ではAPFO)を流体の相に速やかに移すことができたためであると考えられる。
【実施例2】
【0055】
本実施例は実施形態2にて図2を参照して上述した連続式プロセスに関する。
【0056】
本実施例においてはポリマー組成物のサンプルとして、以下のフッ素含有界面活性剤およびフッ素含有ポリマーを含むクラム状物を準備した。
・フッ素含有界面活性剤:アンモニウムパーフルオロオクタン酸(APFO)
・フッ素含有ポリマー:ビニリデンフルオロエチレン(VdF)およびヘキサフルオロプロピレン(HFP)の共重合体(VdF:HFP=78:22(重量比))
【0057】
処理前のポリマー組成物サンプル中のAPFO濃度を実施例1と同様にして測定したところ1238ppmであった。結果をCO割合ゼロとして図4に示す。
【0058】
このようなポリマー組成物サンプルを実施形態2にて図2を参照しつつ説明した連続式プロセスに従って不活性な流体と接触させ、その後、流体の相を分離した(本実施例においては2軸式混練押出機を用いるものとした)。不活性な流体には二酸化炭素を用い、高圧および高温条件下にて超臨界COとしてポリマー組成物と接触させた。ポリマー組成物に対する超臨界COの割合(以下、単に「CO割合」と言う)は、超臨界COとポリマー組成物との供給比を調節して約5、10、15重量%とした。また、ヒータを調節してポリマー組成物の温度を変化させた。接触状態におけるポリマー組成物の温度(図2に示す温度計Tにて測定)および装置出口におけるポリマー組成物の温度(図2に示す温度計Tにて測定)は表1の通りであった。また、接触状態における流体の圧力(図2に示す圧力計PおよびPにて測定)は表1の通りであった。このときのポリマー組成物の内部圧力(いわゆる樹脂圧)は約4MPaであり、よって、表1に示す流体の圧力のほうがポリマー組成物の内部圧力より約6MPa高かった。本実施例において、ポリマー組成物が図2に示す流体供給ライン23を通過してから下流側ベント27を通過するまでに要する時間は約1分であった。
【0059】
【表1】

【0060】
本実施例により表1に示す番号1〜5の条件で得られた各ポリマー組成物サンプルを実施例1と同様にして高速液体クロマトグラフで分析し、ポリマー組成物中のAPFO濃度を求めた。結果を図4に示す。
【0061】
超臨界COを用いた本実施例によれば、APFO濃度はいずれの条件でも処理前の約1/10未満(130ppm未満)にまで低減され、特に条件6(接触状態における温度および圧力:約160℃、約11MPa)の場合には処理前の1/15未満(約70ppm)にまで低減できた。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明は、ポリマー組成物からフッ素含有界面活性剤を除去できる新規な方法を提供するものである。本発明を限定する意図ではないが、本発明によればフッ素含有ポリマーの重合用乳化剤として使用されているパーフルオロカルボン酸、とりわけパーフルオロオクタン酸(PFOA)およびその塩類、例えばアンモニウムパーフルオロオクタン酸(APFO)を除去することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明の第1の実施形態を説明するための模式図である。
【図2】本発明の第2の実施形態を説明するための模式図である。
【図3】実施例1の結果を示すグラフである。
【図4】実施例2の結果を示すグラフである。
【符号の説明】
【0064】
1 容器
3 ヒータ
5 回転翼
7 ポリマー組成物
9 流体
10 撹拌混合機
11 シリンダ
13 ヒータ
15 ポンプ
17a、17b、17c シール
21 ポリマー組成物供給ライン
23 流体供給ライン
25 上流側ベント
27 下流側ベント
29 ポリマー組成物取出ライン
30 混練押出機
P、P、P 圧力計
T、T、T 温度計

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマー組成物からフッ素含有界面活性剤を除去する方法であって、
(a)フッ素含有界面活性剤およびフッ素含有ポリマーを含むポリマー組成物を、気体、液体、亜臨界流体および超臨界流体からなる群から選択される不活性な流体と加熱および加圧下にて接触させ、および
(b)ポリマー組成物と接触している流体の相をポリマー組成物から分離することにより、フッ素含有界面活性剤の濃度が低下したポリマー組成物を得る
ことを含む方法。
【請求項2】
工程(a)におけるポリマー組成物の温度は90〜300℃である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
工程(a)における流体の圧力は1〜30MPaである、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
工程(a)における流体の圧力はポリマー組成物の内部圧力より高い、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
工程(a)における接触はポリマー組成物を流体と共に混練押出することにより実施される、請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
工程(a)におけるポリマー組成物の内部圧力は1〜15MPaである、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
工程(a)において流体は超臨界流体である、請求項1〜6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
工程(b)における分離は、流体の相をより低圧の気相として取り出すことにより実施される、請求項1〜7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
不活性な流体は窒素(N)、アルゴン(Ar)および二酸化炭素(CO)からなる群から選択される少なくとも1種を含む、請求項1〜8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
フッ素含有ポリマーは熱可塑性フッ素樹脂およびフッ素ゴムからなる群から選択される少なくとも1種のポリマーを含む、請求項1〜9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
フッ素含有界面活性剤は1分子あたりの炭素数が38個以下であるフッ素含有化合物から成る、請求項1〜10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
フッ素含有化合物は、
一般式(1):
【化1】


(式中、YはHまたはFを示す。x1は4〜13の整数を示し、y1は0〜3の整数を示す。Aは−SOMまたは−COOMを示し、MはH、NH、Li、Na、Mg、Al、KまたはCaを示す。)で表されるアニオン性化合物、および
一般式(2):
【化2】


(式中、x2は1〜5の整数を示し、y2は0〜10の整数を示す。XはFまたはCFを示す。Aは−SOM’または−COOM’を示し、M’はH、NH、Li、Na、Mg、Al、KまたはCaを示す。)で表されるアニオン性化合物からなる群から選択される少なくとも1種の化合物である、請求項11に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−131656(P2006−131656A)
【公開日】平成18年5月25日(2006.5.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−318886(P2004−318886)
【出願日】平成16年11月2日(2004.11.2)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】