説明

ポリ乳酸含有ポリプロピレン系樹脂組成物

【課題】直射日光に直接照射され高い温度環境にさらされる自動車用内装部品を成形するのに適したポリ乳酸含有ポリプロピレン系樹脂組成物を提供する。
【解決手段】ポリプロピレン40〜55重量%、ポリ乳酸25〜35重量%およびスチレン系エラストマー16〜24重量%を含む主たる樹脂成分100重量部に対し、ポリプロピレンとの混合マスターバッチとしたカルボン酸アミド結晶核剤を0.04〜0.13重量部配合したことを特徴とするポリ乳酸含有ポリプロピレン系樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリ乳酸含有ポリプロピレン系樹脂組成物に関し、特にスチレン系熱可塑性エラストマーに加えて、カルボン酸系結晶核剤を配合して、耐衝撃性と耐熱変形温度を調和させることにより、特に自動車用内装部品成形樹脂材料としての使用に適した樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
BRICsをはじめとする新興産業発展国の経済規模の拡大もあって、石油需要が急増することにより、原油価格の高騰や化石資源の枯渇が予想されている。また、自動車には、CO削減や省エネルギー化のために燃費向上などの環境性能向上だけでなく、製品に使用される素材そのものに環境負荷を低減する環境性能が求められている。このような産業動向もあって、化石資源から再生可能資源への移行は必然的に要求されるものであり、中でも植物原料由来のプラスチックを利用することは大きな注目を集めている。
【0003】
ポリ乳酸は植物資源から発酵により得られる乳酸を原料としており、強度、剛性に優れるとともに、商業プラントで製造され市販化されていることからも、最も利用しやすいバイオマスプラスチックと言える。ただし、ポリ乳酸は自動車に使用される樹脂と比較して、耐熱性や耐衝撃性が劣るという課題を有している。耐熱性の改善に関しては、ポリ乳酸の光学異性体(L体、D体)制御技術や結晶核剤の添加など、さまざまな試みがなされている(特許文献1)。
【0004】
耐衝撃性の改善手法としては、樹脂、ゴム、熱可塑性エラストマーとポリマーブレンド、ポリマーアロイするのが一般的である。ポリプロピレンは安定した材料性能と安価な材料価格から、バンパ、インストルメントパネル、ドアトリムをはじめとして自動車内外装部品で多量に適用され、自動車用の樹脂材料の中で最も使用量が多いため、ポリ乳酸とのポリマーブレンドに適しており、自動車用の内装部品の一部に使用されている。ただし、ポリ乳酸を含有したポリプロピレン樹脂組成物は、ポリ乳酸単体と比較すると耐衝撃性は高いが、自動車用内装部品には不十分なものとなる。特許文献2にはポリ乳酸含有ポリプロピレンを用いて、耐熱性および衝撃性に優れた成形品が得られると記載されている。しかしながら、このようにして形成されるポリ乳酸含有ポリプロピレン系樹脂組成物は、自動車用部品に要求される剛性と耐衝撃性の調和には、未だ不十分である。この問題を解決するために、スチレン系エラストマーの配合が提案され(特許文献3)、また本発明者らも特定のスチレン含有量および熔融流動性(分子量)を有するスチレン系エラストマーの配合が、上述の問題の解決に有効であることを知見して一つの提案を行なっている(特許文献4)。しかしながら、上述のようにスチレン系エラストマーの配合により、剛性と耐衝撃性の調和を図ったポリ乳酸含有ポリプロピレン系樹脂組成物は、耐熱性が低下する傾向にあり、自動車のインストルメントパネルの天板やドアトリムの上部部品に代表されるように、日光が直接照射し高い温度環境下に晒される部品に要求されるような高い耐熱性と耐衝撃性を両立するのは難しい。耐熱性の向上には、結晶核剤の添加が安価で効率の良い解決方法であることが知られているが、耐衝撃性が著しく低下してしまうのが課題となっている。特許文献5には、カルボン酸アミドおよびN-置換尿素からなる群より選ばれる結晶核剤がポリ乳酸系フィルムおよび樹脂組成物の耐熱性に優れることが開示されているが、本発明者の研究によれば、ポリ乳酸含有ポリプロピレンの耐熱性と耐衝撃性の両立は困難である。また、結晶核剤効果と物性補強効果を有する無機系結晶核剤の添加は、樹脂組成物の比重上昇や耐スクラッチ特性が低下するため、軽量化や車室内の美観が求められる自動車部品にとっては避けたいところである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−146261号公報
【特許文献2】特開2010−265444号公報
【特許文献3】特開2008−260861号公報
【特許文献4】特願2011−131200号明細書
【特許文献5】特開2009−249443号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の主要な目的は、剛性、耐衝撃性の調和に優れるだけでなく、耐熱性も向上されることにより、高温にさらされる自動車用内装部品を成形するのに適したポリ乳酸含有ポリプロピレン系樹脂組成物を与えることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者の研究によれば、本発明者らが既に開発した特許文献4に示されるような、ポリプロピレン、ポリ乳酸およびスチレン系エラストマーを主成分とするポリ乳酸含有ポリプロピレン系樹脂組成物に、カルボン酸アミドからなる結晶核剤を、直接でなく、ポリプロピレンを主成分とするマスターバッチとして配合することにより、比較的少量の添加で、耐熱性の効果的な向上を図り、かつ耐衝撃性の低下も抑制可能であることが見出された。本発明のポリ乳酸含有ポリプロピレン系樹脂組成物は、上述の知見に基づくものであり、ポリプロピレン40〜55重量%、ポリ乳酸25〜35重量%およびスチレン系エラストマー16〜24重量%を含む主たる樹脂成分100重量部に対し、ポリプロピレンとの混合マスターバッチとしたカルボン酸アミド結晶核剤を0.04〜0.13重量部配合したことを特徴とするものである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明のポリプロピレン系樹脂組成物は、ポリプロピレン、ポリ乳酸、スチレン系エラストマーおよびポリプロピレンとの混合マスターバッチとした脂肪酸アミド結晶核剤を主成分とする。
【0009】
(ポリプロピレン)
本発明の組成物の主たる成分であるポリプロピレンは、共重合体に比べて剛性および表面硬度に優れたホモポリプロピレン(プロピレン単独重合体)であり、特に曲げ弾性率(ISO178:1993)が2000MPa以上のものが用いられる。曲げ弾性率が2000MPa未満であると、ポリ乳酸を含んだポリプロピレン樹脂組成物の曲げ弾性率が低下する傾向にある。メルトフロー値(MFR;JIS K7210に従い230℃、2.16kgfで測定;以下、特に断らない限り同様)は20g/10分以上が好ましく、より好ましくは30g/10分以上のものが用いられる。
【0010】
(ポリ乳酸)
ポリ乳酸は、D-乳酸ユニット(D体)が5モル%未満、特に、2モル%以下、のものが好ましい。D-乳酸ユニットが5モル%以上であると、樹脂組成物の曲げ弾性率が低下する傾向にある。MFR(JIS K7210、190℃、2.16kgf)が、20g/10分以上、特に30g/10分以上のものが好ましい。市販品の例としては、NatureWorks社製射出成形用グレード「3001D」;海正生物材料(株)製の「REVODE 110」などが挙げられる
【0011】
(スチレン系エラストマー)
スチレン系エラストマーとしては、スチレン−ブタジエン共重合体およびスチレン−イソプレン共重合体の水素添加物用いられる。その中でも、ブタジエンあるいはイソプレンに起因する二重結合の水素添加度が90モル%以上、特に95モル%以上であり、スチレン・エチレン・ブテン・スチレンブロック共重合体(SEBS)およびスチレン・エチレン・プロピレン・スチレンブロック共重合体(SEPS)と通称されるものが、例えば自動車使用環境下での耐候(光)性能に優れるために好ましい。
【0012】
水素添加スチレン系エラストマーは、それ自体でポリプロピレンとポリ乳酸との間の親和性を改良する効果を有する。スチレン含有量(より詳しくは、重合したブロック共重合体エラストマー中のポリスチレンセグメンの含有量)は、小なるほどエラストマー性が強く、大になるほどエラストマー性を失う。本発明では、スチレン含有量が、14〜21重量%、特に15〜18重量%のものが好ましく用いられる。スチレン含有量が21重量%を超えると、得られる樹脂組成物の耐衝撃性が低下する傾向を示し、スチレン含有量が14重量%を下回ると樹脂組成物の剛性が低下する傾向となる。
【0013】
水素添加スチレン系エラストマーは、分子量判定の目安となるメルトフロー値(MFR:JIS K7210、230℃、2.16kgf)が、2〜10g/10分、特に4〜6g/10分のものが好ましく用いられる。上記のメルトフロー値範囲内において、スチレン系エラストマーのポリプロピレンマトリクス中への分散粒子径が、曲げ弾性率と耐衝撃性の両立に寄与するに最適なサイズ、約0.3〜3μmとなる。
【0014】
(カルボン酸アミド)
本発明で結晶核剤として用いられるカルボン酸アミドとしては、ポリ乳酸に対する結晶核剤として特許文献5に開示される脂肪酸アミド、すなわち炭素数4〜30の脂肪族カルボン酸と、炭素数1〜30の脂肪族、脂環族または芳香族のモノアミンまたはジアミンとのアミドが用いられるが、より好ましくは、ポリプロピレンに対しても良好な結晶核剤作用を有する脂肪族カルボン酸と脂環族アミンとのアミドが用いられ、特に下式で示される構造を有するN,N’,N”−トリス(2−メチルへキシル)−(1,2,3−プロパントリカルボキサミド)(C2447,CAS No.16053−46−6)は、その好ましい一例である。
【化1】

【0015】
本発明においては、上記したカルボン酸アミドをポリプロピレンとの混合マスターバッチとして結晶核剤として用いる。混合すべきポリプロピレンとしては、形成すべき組成物の主成分としてのポリプロピレンと同等あるいは20g/10分以下の差でこれより小さなメルトフロー値を有するものを用いると組成物中への分散性が良好となり、ポリ乳酸およびポリプロピレンの分子運動性が向上し、両組成物が速やかに結晶化することを促進する。また、ハンドリング性が良好な結晶核剤が得られ、特にポリ乳酸ではなくポリプロピレンとマスターバッチ化することでより結晶化に好適となることも特徴のひとつとなる。マスターバッチ中でのカルボン酸アミド濃度は、5重量%未満とし、2〜3重量%であることが好ましい。
【0016】
(組成)
本発明のポリプロピレン系樹脂組成物における主たる樹脂三成分、すなわちポリプロピレン、ポリ乳酸およびスチレン系エラストマー、とマスターバッチ化したカルボン酸アミドの間で維持されるべき組成は、以下の通りである。
【0017】
ポリプロピレンは、上記樹脂三成分のうち40〜55重量%、好ましくは45〜55重量%、を占める量で用いられる。40重量%未満であると樹脂組成物においてポリプロピレンがマトリックス相とならず、成形性および耐久性の面で著しい低下が見られる。一方、55重量%を超えるとポリ乳酸系樹脂やスチレン系エラストマーの含有量が低下し、樹脂組成物の剛性、耐衝撃性の両立が困難となる。
【0018】
ポリ乳酸は25〜35重量%、好ましくは25〜30重量%である。25重量%未満であると樹脂組成物の剛性が低下し、35重量%を越えると成形加工性が著しく低下する。
【0019】
スチレン系エラストマーの含有量は、含まれるスチレン含有量の値により変化するエラストマー性の強弱により変化するが、16〜24重量%、好ましくは18〜23重量%の範囲とする。16重量%未満であると樹脂組成物の耐衝撃性が低下し、24重量%を超えると剛性が低下する。
【0020】
ポリプロピレンとの混合マスターバッチとしたカルボン酸アミド結晶核剤の含有量は、上記樹脂三成分の合計量100重量部に対して、カルボン酸アミド量として、0.04〜0.13重量部(2.5重量%濃度マスターバッチ量として約1.6〜5.2重量部)、好ましくは0.05〜0.12重量部とする。過少であれば耐熱性向上効果が乏しく、過大であると耐衝撃性の低下が無視できなくなる。
【0021】
(その他成分)
成形品の用途によっては、本発明のポリプロピレン系樹脂組成物に、滑剤、酸化防止剤、帯電防止剤、安定剤、紫外線吸収剤、着色剤(顔料、金属粉等)、発泡剤、難燃剤等の添加物が、当該目的を損なわない程度で含まれていても良い。
【0022】
(組成物)
本発明のポリプロピレン系樹脂組成物は、上記各成分を、一軸押出機、二軸押出機、バンバリーミキサー、ロールミキサー、ニーダー等の混練機を用いて、例えば180〜230℃の温度で混練し、造粒することにより形成できる。生産性を考慮すると、二軸混練押出機を用い、滞留時間を20分間以下とすることが好ましい。
【実施例】
【0023】
以下、実施例および比較例を参照して、本発明をより具体的に説明する。以下の記載において、組成の規定に関する「比」、「%」および「部」は、特に断らない限りいずれも重量基準とする。また、以下の記載を含めて本明細書に記載する物性値は、以下の方法による測定値に基づく。
【0024】
1)テストピースの成形
二軸押出機(神戸製鋼(株)製、スクリュー径D:32mm、スクリュー長L/D=44)を用いて、200℃、滞留時間20分で溶融混練してペレット化した後、型締め圧130トンの射出成形機を用いて、成形温度200℃の条件で、各種テストピース(荷重たわみ温度測定用、曲げ弾性率測定用、シャルピー衝撃強さ測定用)ならびに耐熱性評価用成形品を成形した。
【0025】
2)測定試験
<耐熱性(成形品評価)>
四輪自動車のインストルメントパネルの天板(概略寸法:横600mm×縦300mm×厚さ2mm×高さ50mm)を成形し、実車に組み付けた状態で、110℃の恒温槽に5時間放置し、その縦横方向の中央部において高さ方向の変形量が±2mm未満を合格、±2mm以上を不合格として、判定した。
【0026】
<荷重たわみ温度>
耐熱性の指標となる荷重たわみ温度は、JIS K7191−1「プラスチック―荷重たわみ温度の求め方」に準拠し、つかみ具間隔64mmで水平に保持した寸法80mm×10mm×4mmtのテストピースのつかみ具間隔の中央部に、下向き荷重0.45MPaを印加した状態で、周囲温度を120℃/時間の速度で上昇していって、荷重印加部での下方変位量が0.35mmに達した時点での周囲温度を、荷重たわみ温度として測定した。上記耐熱性(成形品評価)結果との対比により、荷重たわみ温度の合格基準値は、95℃以上と判定された。
【0027】
<曲げ弾性率>
曲げ弾性率は、ISO178(JIS K7171「プラスチック−曲げ特性の求め方-」)に準拠し、80mm×10mm×4mmtのテストピースを使用し、雰囲気温度23℃の環境下において曲げ速度2mm/分で測定した。曲げ弾性率は、自動車内装部品としての凹み変形防止のため、経験的に1500MPa以上が要求される。
【0028】
<シャルピー衝撃強さ>
シャルピー衝撃強さはJIS K7111−2「プラスチック−シャルピー衝撃特性の求め方-」に準拠し、タイプAノッチ(ISO 179/1eA)を設けた80mm×10mm×4mmtのテストピースを使用して、雰囲気温度23℃の環境下において評価した。衝突時における乗員保護の観点で好ましくない脆性破壊を避け、自動車用PP樹脂に代表される延性破壊形態、すなわち衝撃破壊の形態がYS(安定き裂によって起こる降伏)あるいはYD(深絞りによって起こる降伏)となるためには、経験的に、15kJ/m以上のシャルピー衝撃強さが要求される。
【0029】
[組成物の調製]
ポリ乳酸含有ポリプロピレン系脂組成物構成原料として下記を用意した。
・ポリプロピレン:市販のホモポリプロピレン((株)プライムポリマー製「J137M」;MFR=30g/10分、曲げ弾性率=2300MPa、シャルピー衝撃強さ(23℃)=1.0kJ/m)。
・ポリ乳酸:NatureWorks社製射出成形用グレード「3001D」;MFR=30g/10分、曲げ弾性率=3500MPa、シャルピー衝撃強さ(23℃)=2.0kJ/m)。
・スチレン系エラストマー(スチレン・エチレン・プロピレン・スチレンブロック共重合体(SEPS)(株)クラレ製「セプトン2004」;スチレン含量:18重量%、MFR=5g/10分)。
・結晶核剤マスターバッチ: N,N’,N”−トリス(2−メチルへキシル)−(1,2,3−プロパントリカルボキサミド)(新日本理化(株)製「リカクリアPC−1」)2.5重量部を、合計量が100重量部となるように残部のポリプロピレン(MFR=10g/10分)と混合し、ペレット化して得たカルボン酸アミドマスターバッチ(新日本理化(株)製「リカクリアPC25−HA」)。
【0030】
(比較例1)
上記ポリプロピレン50重量部、ポリ乳酸30重量部およびスチレン系エラストマー20重量部の基本の三樹脂の混合物を、二軸押出機(神戸製鋼(株)製、スクリュー径D:32mm、スクリュー長L/D=44)を用いて、200℃、滞留時間20分で溶融混練してペレット化した組成物を得た。
【0031】
(実施例1および2)
上記比較例1の樹脂混合物100重量部に対して、カルボン酸アミド結晶核剤マスターバッチを、それぞれ2および4重量部(カルボン酸アミド量として、0.05および0.1重量部)配合する以外は、比較例1と同様にして、ペレット化した実施例1および2の組成物を形成した。
【0032】
(参考例)
上記比較例1の樹脂混合物100重量部に対して、カルボン酸アミド結晶核剤マスターバッチを、6重量部(カルボン酸アミド量として、0.15重量部)配合する以外は、比較例1と同様にして、ペレット化した参考例の組成物を形成した。
【0033】
上記比較例、実施例および参考例の4種の組成物について、それぞれ前記の通り、荷重たわみ温度、曲げ弾性率、シャルピー衝撃強さおよび耐熱性を評価した結果をまとめて次表1に示す。
【表1】

【0034】
上記表1に示すように、本発明に従い、マスターバッチ化したカルボン酸アミド結晶核剤を配合することにより耐熱性の顕著な向上が得られるが、参考例に示すように過剰になるとシャルピー衝撃強さの低下が著しくなる。
【0035】
(比較例2〜4)
上記実施例2において、使用したマスターバッチ化した結晶核剤カルボン酸アミド0.1重量部(マスターバッチとして4重量部)の代わりに、カルボン酸アミドそのもの(新日本理化(株)製「リカクリアPC−1」)0.4重量部(比較例2)、ポリ乳酸用市販結晶核剤として代表的なフェニルスルホン酸亜鉛(日産化学(株)製「エコプロモート」)1重量部(パウダー状態で添加)(比較例3)およびポリプロピレン用市販結晶核剤として代表的な有機リン酸金属塩(旭電化(株)製「アデカスタブNA−11」)1重量部(パウダー状態で添加)(比較例4)、をそれぞれ使用して得られた3種のペレット化組成物について、上記と同様にして、荷重たわみ温度、曲げ弾性率およびシャルピー衝撃強さを測定した。
【0036】
上記比較例2〜4の結果を、既述した実施例2および比較例1の結果と並列して、次表2に示す。
【表2】

【0037】
上記表2に示すように、カルボン酸アミド結晶核剤をポリプロピレンによりマスターバッチ化せずに使用した場合(比較例2)には、配合量が多くても荷重たわみ温度の上昇効果は小さく、シャルピー衝撃強さの低下が顕著となって、不都合である。他方、公知のポリ乳酸用結晶核剤を使用した場合(比較例3)には荷重たわみ温度の上昇効果は得られるがシャルピー衝撃強さの低下が顕著となって不都合であり、公知のポリプロピレン用結晶核剤を使用した場合(比較例4)には荷重たわみ温度の上昇効果がとぼしくまたシャルピー衝撃強さの低下が顕著となって不都合である。
【産業上の利用可能性】
【0038】
上述したように、本発明に従い、ポリプロピレン、ポリ乳酸およびスチレン系エラストマーを主成分とするポリ乳酸含有ポリプロピレン系樹脂組成物に、カルボン酸アミドからなる結晶核剤をポリプロピレンを主成分とするマスターバッチとして配合することにより、比較的少量の添加で、耐衝撃性の低下を抑制しつつ、耐熱性の効果的な向上したポリプロピレン系樹脂組成物が得られる。このポリプロピレン系樹脂組成物は、従来の植物由来成分含有のポリプロピレン樹脂組成物と比較して、剛性と耐衝撃性のバランスに優れるほか、耐熱性が向上しているため、従来のバイオマスプラスチックでは使用できなかった、日光が直接入射して高い温度環境にさらされるため高い耐熱特性が要求されるインストルメントパネルの天板に好適である。上記部位にバイオマスプラスチックを適用した例は未だかつてなく、環境負荷を低減した樹脂組成物およびその成形体を提供できる。また、上記の部品例と併せて、インストルメントパネル、ドアトリム上部部材など高いレベルで機械物性の両立が求められる自動車部品についての従来のポリプロピレン樹脂組成物からの代替が可能となる。また、構成成分が市販品であり、特殊な化学変性処理を施していない成分でも効果が発揮されるため、一般的にコスト面が懸念されるバイオマスプラスチックにおいて安価な材料費で実現できる。よって、従来のバイオマスプラスチックよりもより汎用性が高い。また、本発明のポリプロピレン系樹脂組成物は、自動車内外装部品や二輪部品だけではなく、家電、AV機器、OA機器、化粧品、生活用品、事務用品など幅広い展開が期待される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリプロピレン40〜55重量%、ポリ乳酸25〜35重量%およびスチレン系エラストマー16〜24重量%を含む主たる樹脂成分100重量部に対し、ポリプロピレンとの混合マスターバッチとしたカルボン酸アミド結晶核剤を0.04〜0.13重量部配合したことを特徴とするポリ乳酸含有ポリプロピレン系樹脂組成物。
【請求項2】
ポリプロピレンは曲げ弾性率が2000MPa以上のホモポリプロピレンであり、ポリ乳酸のD体含有量は5モル%未満である請求項1に記載のポリプロピレン系樹脂組成物。
【請求項3】
スチレン系エラストマーは、スチレン含有量が15〜18重量%かつメルトフロー値が4〜6g/10分である請求項1または2に記載のポリプロピレン系樹脂組成物。
【請求項4】
スチレン系エラストマーは、スチレン・エチレン・プロピレン・スチレンブロック共重合体(SEPS)またはスチレン・エチレン・ブテン・スチレンブロック共重合体(SEBS)である請求項3に記載のポリプロピレン系樹脂組成物。
【請求項5】
カルボン酸アミド結晶核剤が、脂肪族カルボン酸と脂環族アミンとのアミドである請求項1〜4のいずれかに記載のポリプロピレン系樹脂組成物。
【請求項6】
カルボン酸アミド結晶核剤が、N,N’,N”−トリス(2−メチルへキシル)−(1,2,3−プロパントリカルボキサミド)である請求項5に記載のポリプロピレン系樹脂組成物。
【請求項7】
カルボン酸アミド結晶核剤と混合されてマスターバッチを形成するポリプロピレンが、組成物の主成分であるポリプロピレンと同等あるいは20g/10分以下の差でこれより小さなメルトフロー値を有する請求項1〜6のいずれかに記載のポリプロピレン系樹脂組成物。
【請求項8】
曲げ弾性率が1500MPa以上、シャルピー衝撃強さが15kg/cm以上且つ荷重たわみ温度が95℃以上である請求項1〜7のいずれかに記載のポリプロピレン系樹脂組成物。

【公開番号】特開2013−87160(P2013−87160A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−227276(P2011−227276)
【出願日】平成23年10月14日(2011.10.14)
【出願人】(000002082)スズキ株式会社 (3,196)
【Fターム(参考)】