説明

ポリ乳酸生産システムおよび生産方法ならびにポリ乳酸生産支援システムおよび生産支援方法

【課題】在庫管理費用の抑制と生産の効率化を図ることができるポリ乳酸生産システムおよび生産方法ならびにポリ乳酸生産支援システムおよび生産支援方法を提供する。
【解決手段】複数の乳酸発酵工場で、一連の乳酸発酵工程、乳酸エステル合成工程および前記ラクチド合成工程のうち少なくとも乳酸発酵工程を実施する。ポリ乳酸生産工場で、各乳酸発酵工場により製造されたポリ乳酸原料を搬入して、一連の乳酸エステル合成工程、ラクチド合成工程およびポリ化合成工程のうち各乳酸発酵工場において実施される工程より後の工程をすべて実施する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乳酸発酵工程と乳酸エステル合成工程とラクチド合成工程とポリ化合成工程とを実施するポリ乳酸生産システムおよび生産方法ならびにポリ乳酸生産支援システムおよび生産支援方法に関する。
【背景技術】
【0002】
図1に従来のポリ乳酸生産の工程を示す。原料としては1種類の農産物、一般的にはとうもろこしまたはビートを使用し、乳酸発酵を経て得られた乳酸を精製濃縮し、そこに、95%以上の濃度のブタノール、通常は工業用ブチルアルコールを混合するエステル合成により乳酸エステルとし、さらにラクチド合成によってラクチドにしてから、最後にポリ化合成によりポリ乳酸を製造する。従来の生産では、これら全ての工程をひとつの工場で行っている。従って、生産量は原料となる1種類の農産物の出来高に大きく左右され、農産物の種類に依存しない全国規模での生産調整を行なうことはない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
従来の技術では、原料の農作物は地方に分散しており、工場へその農作物原料を運ぶための輸送費用、および集められた農産物を保存するための在庫管理費用が高額になるといった問題点があった。
【0004】
ポリ乳酸製造において、前半部の乳酸発酵工程までは食品製造、醸造、発酵といった食品工業に類するものであり、ことに発酵工程は中小規模でのバッチ生産が適しているといえる。対して、後半部のエステル合成、ラクチド合成、ポリ化合成の工程は化学合成で旧来の石油精製に類するものであり、加熱蒸留と触媒反応、濃縮といった熱エネルギーを要する工程を有し、比較的連続生産と大量処理に向き、大規模な工場であるほうがエネルギー効率の点からみて有利といえる。従って、従来のように全てをひとつの工場で行うと、製造規模の差や生産方式の違いがネックとなり、工程フローがスムーズとならず、非効率的であるといった問題点があった。
【0005】
そして、従来技術では、生産量は原料となる1種類の農産物の出来高に大きく左右され、不作の場合は原料の調達が困難になるといった問題点があった。
【0006】
なお、この問題に対応して、原料の農産物を多様化した場合、発酵前の処理は農産物によって条件が変わるために、ひとつの工場で生産すると製造工程が複雑化するといった新たな問題が発生する。
【0007】
ところで、医薬品製造企業の統合生産システムに関しては、生産計画を策定して、複数事業所を統合した生産システムを構築する技術がある(例えば、特許文献1参照)。
【0008】
【特許文献1】特開平11−306233号公報
【0009】
そこで本発明は、在庫管理費用の抑制と生産の効率化を図ることができるポリ乳酸生産システムおよび生産方法ならびにポリ乳酸生産支援システムおよび生産支援方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するため、本発明に係るポリ乳酸生産システムは、
農産物原料を発酵させ乳酸を生産する乳酸発酵工程と、前記乳酸発酵工程により生産された乳酸とアルコールとを合成し乳酸エステルを生産する乳酸エステル合成工程と、前記乳酸エステル合成工程により生産された乳酸エステルからラクチドを生産するラクチド合成工程と、前記ラクチド合成工程により生産されたラクチドからポリ乳酸を生産するポリ化合成工程とを実施するポリ乳酸生産システムであって、
一連の前記乳酸発酵工程、前記乳酸エステル合成工程および前記ラクチド合成工程のうち少なくとも前記乳酸発酵工程を実施する複数の乳酸発酵工場と、
各乳酸発酵工場により製造されたポリ乳酸原料を搬入して、一連の前記乳酸エステル合成工程、前記ラクチド合成工程および前記ポリ化合成工程のうち各乳酸発酵工場において実施される工程より後の工程をすべて実施するポリ乳酸生産工場と、
から成ることを特徴とする。
【0011】
本発明に係るポリ乳酸生産支援システムは、
前述のポリ乳酸生産システムにおいて使用されるポリ乳酸生産支援システムであって、複数の乳酸発酵工場コンピュータとポリ乳酸生産工場サーバーとを有し、各乳酸発酵工場コンピュータはそれぞれ各乳酸発酵工場に設けられ、前記ポリ乳酸生産工場サーバーは前記ポリ乳酸生産工場に設けられ、各乳酸発酵工場コンピュータおよび前記ポリ乳酸生産工場サーバーは通信ネットワークに接続されており、
各乳酸発酵工場コンピュータは、
対応する乳酸発酵工場による前記ポリ乳酸原料の生産能力データを前記ポリ乳酸生産工場サーバーに送信する生産データ送信手段と、
前記ポリ乳酸生産工場サーバーから生産計画情報および発注情報を受信する端末側受信手段と、
前記端末側受信手段により受信した生産計画情報に基づき、対応する乳酸発酵工場による前記ポリ乳酸原料の製造スケジュールを作成する端末側処理手段と、
前記端末側受信手段により受信した発注情報に基づき出荷情報を管理する出荷管理手段とをそれぞれ備え、
前記ポリ乳酸生産工場サーバーは、
各乳酸発酵工場コンピュータから前記生産能力データを受信する生産能力受信手段と、
前記生産能力受信手段により受信した前記生産能力データを、送信した乳酸発酵工場と対応させて記憶する生産能力記憶手段と、
ポリ乳酸の需要予測データを記憶する需要予測記憶手段と、
前記需要予測記憶手段に記憶された需要予測データと、前記生産能力記憶手段に記憶された各乳酸発酵工場ごとの前記生産能力データとに基づいて各乳酸発酵工場ごとの生産計画情報を作成する計画作成手段と、
前記計画作成手段により作成した生産計画情報を各乳酸発酵工場コンピュータに送信する生産計画送信手段と、
前記計画作成手段により作成した生産計画情報に基づき前記ポリ乳酸生産工場サーバーによるポリ乳酸の製造スケジュールを作成するサーバー側処理手段と、
各乳酸発酵工場に発注情報を送信する発注情報送信手段とを備えたことを、
特徴とする。
【0012】
本発明に係るポリ乳酸生産支援システムでは、
前記ポリ乳酸生産工場は前記乳酸エステル合成工程、前記ラクチド合成工程および前記ポリ化合成工程の実施設備を有し、
前記ポリ乳酸生産工場の前記製造スケジュールは前記乳酸エステル合成工程、前記ラクチド合成工程および前記ポリ化合成工程の実施スケジュールを含み、
各乳酸発酵工場コンピュータは、
対応する乳酸発酵工場による前記ポリ乳酸原料の生産進捗データを前記ポリ乳酸生産工場サーバーに送信する進捗データ送信手段と、
前記ポリ乳酸生産工場サーバーから送信された販売指示を受信して前記ポリ乳酸原料の販売情報を管理する販売処理手段とを備え、
前記ポリ乳酸生産工場サーバーは、
各乳酸発酵工場コンピュータから前記生産進捗データを受信する生産進捗受信手段と、
前記生産進捗受信手段により受信した前記生産進捗データを、送信した乳酸発酵工場と対応させて記憶する生産進捗記憶手段と、
前記生産進捗記憶手段により記憶された生産進捗データを前記計画作成手段により作成した生産計画情報と比較して、その生産進捗データに対応する乳酸発酵工場で生産された前記ポリ乳酸原料の過剰量を求める過剰量計算手段と、
前記過剰量計算手段により求めた各乳酸発酵工場ごとの前記過剰量に基づき、その乳酸発酵工場の乳酸発酵工場コンピュータに販売指示を送信する販売指示送信手段とを備えたことが好ましい。
なお、さらに、各乳酸発酵工場コンピュータは、前記端末側処理手段により作成した製造スケジュールを前記ポリ乳酸生産工場サーバーに送信するスケジュール送信手段を備え、前記ポリ乳酸生産工場サーバーは、各乳酸発酵工場コンピュータから前記製造スケジュールを受信する処理内容受信手段と、前記処理内容受信手段により受信した前記製造スケジュールを、送信した乳酸発酵工場と対応させて記憶する製造スケジュール記憶手段と、前記製造スケジュール記憶手段により記憶された製造スケジュールの出力手段とを備えてもよい。
【0013】
本発明に係るポリ乳酸生産方法は、農産物原料を発酵させ乳酸を生産する乳酸発酵工程と、前記乳酸発酵工程により生産された乳酸とアルコールとを合成し乳酸エステルを生産する乳酸エステル合成工程と、前記乳酸エステル合成工程により生産された乳酸エステルからラクチドを生産するラクチド合成工程と、前記ラクチド合成工程により生産されたラクチドからポリ乳酸を生産するポリ化合成工程とを有するポリ乳酸生産方法であって、
複数の乳酸発酵工場において、一連の前記乳酸発酵工程、前記乳酸エステル合成工程および前記ラクチド合成工程のうち少なくとも前記乳酸発酵工程を実施し、
ポリ乳酸生産工場において、各乳酸発酵工場により製造されたポリ乳酸原料を搬入して、一連の前記乳酸エステル合成工程、前記ラクチド合成工程および前記ポリ化合成工程のうち各乳酸発酵工場において実施される工程より後の工程をすべて実施することを、
特徴とする。
【0014】
本発明に係るポリ乳酸生産支援方法は、前述のポリ乳酸生産システムにおいて使用されるポリ乳酸生産支援方法であって、複数の乳酸発酵工場コンピュータとポリ乳酸生産工場サーバーとを有し、各乳酸発酵工場コンピュータはそれぞれ各乳酸発酵工場に設けられ、前記ポリ乳酸生産工場サーバーは前記ポリ乳酸生産工場に設けられ、各乳酸発酵工場コンピュータおよび前記ポリ乳酸生産工場サーバーは通信ネットワークに接続されており、
各乳酸発酵工場コンピュータにより、
対応する乳酸発酵工場による前記ポリ乳酸原料の生産能力データを前記ポリ乳酸生産工場サーバーに送信する生産データ送信ステップと、
前記ポリ乳酸生産工場サーバーから生産計画情報および発注情報を受信する端末側受信ステップと、
前記端末側受信ステップにより受信した生産計画情報に基づき、対応する乳酸発酵工場による前記ポリ乳酸原料の製造スケジュールを作成する端末側処理ステップと、
前記端末側受信ステップにより受信した発注情報に基づき出荷情報を管理する出荷管理ステップとを実施し、
前記ポリ乳酸生産工場サーバーにより、
各乳酸発酵工場コンピュータから前記生産能力データを受信する生産能力受信ステップと、
前記生産能力受信ステップにより受信した前記生産能力データを、送信した乳酸発酵工場と対応させて記憶する生産能力記憶ステップと、
記憶されたポリ乳酸の需要予測データと、前記生産能力記憶ステップで記憶された各乳酸発酵工場ごとの前記生産能力データとに基づいて各乳酸発酵工場ごとの生産計画情報を作成する計画作成ステップと、
前記計画作成ステップにより作成した生産計画情報を各乳酸発酵工場コンピュータに送信する生産計画送信ステップと、
前記計画作成ステップにより作成した生産計画情報に基づき前記ポリ乳酸生産工場サーバーによるポリ乳酸の製造スケジュールを作成するサーバー側処理ステップと、
各乳酸発酵工場に発注情報を送信する発注情報送信ステップとを実施することを、
特徴とする。
【0015】
本発明に係るポリ乳酸生産支援方法では、
前記ポリ乳酸生産工場は前記乳酸エステル合成工程、前記ラクチド合成工程および前記ポリ化合成工程の実施設備を有し、
前記ポリ乳酸生産工場の前記製造スケジュールは前記乳酸エステル合成工程、前記ラクチド合成工程および前記ポリ化合成工程の実施スケジュールを含み、
各乳酸発酵工場コンピュータにより、
各乳酸発酵工場による前記ポリ乳酸原料の生産進捗データを前記ポリ乳酸生産工場サーバーに送信する進捗データ送信ステップと、
前記ポリ乳酸生産工場サーバーから送信された販売指示を受信して前記ポリ乳酸原料の販売情報を管理する販売処理ステップとを実施し、
前記ポリ乳酸生産工場サーバーにより、
各乳酸発酵工場コンピュータから前記生産進捗データを受信する生産進捗受信ステップと、
前記生産進捗受信ステップにより受信した前記生産進捗データを、送信した乳酸発酵工場と対応させて記憶する生産進捗記憶ステップと、
前記生産進捗記憶ステップにより記憶された生産進捗データを前記計画作成ステップにより作成した生産計画情報と比較して、その生産進捗データに対応する乳酸発酵工場で生産された前記ポリ乳酸原料の過剰量を求める過剰量計算ステップと、
前記過剰量計算ステップにより求めた各乳酸発酵工場ごとの前記過剰量に基づき、その乳酸発酵工場の乳酸発酵工場コンピュータに販売指示を送信する販売指示送信ステップとを実施することが好ましい。
なお、さらに、各乳酸発酵工場コンピュータにより、前記端末側処理ステップにより作成した製造スケジュールを前記ポリ乳酸生産工場サーバーに送信するスケジュール送信ステップを実施し、前記ポリ乳酸生産工場サーバーにより、各乳酸発酵工場コンピュータから前記製造スケジュールを受信する処理内容受信ステップと、前記処理内容受信ステップにより受信した前記製造スケジュールを、送信した乳酸発酵工場と対応させて記憶する製造スケジュール記憶ステップと、前記製造スケジュール記憶ステップにより記憶された製造スケジュールの出力ステップとを実施してもよい。
【0016】
本発明によれば、生産物の流れがスムーズとなり、在庫管理費用を抑制することができる。また、発酵工程と合成工程とを工場別に分離したことにより、従来のような製造規模や生産方式の差による工程の停滞がなくなり、生産の効率化を図ることができる。
【0017】
本発明は、好適には以下のように実施される。
乳酸発酵工程を含み、米穀類、サツマイモ、ジャガイモ、とうもろこし、ビート、サトウキビ、麦類、そして雑穀などの農産物から乳酸、乳酸エステル、またはラクチドを製造する乳酸発酵工場をその農産物生産各地に設ける。そして、各地の乳酸発酵工場で生産された乳酸、乳酸エステル、またはラクチドを原料として合成・精製工程を行うポリ乳酸生産工場を全国に2〜3箇所の生産拠点として設ける。ポリ乳酸生産工場は大規模に熱エネルギー効率よく製造を行う最終製品工場である。そして、ポリ乳酸生産工場のサーバーコンピュータと各地の乳酸発酵工場のコンピュータを通信ネットワークで結ぶ。
【0018】
ポリ乳酸生産工場サーバーでは、乳酸発酵工場コンピュータからポリ乳酸生産工場サーバーに送られた生産能力データ、ポリ乳酸生産工場サーバーが算出したポリ乳酸生産工場の生産能力データ、および需要予測データから、生産能力を需要予測に合うよう調整する生産能力計画を立案する。この時、ポリ乳酸の原料のうちの乳酸エステル、またはラクチドの供給不足が予測された場合、ポリ乳酸生産工場で乳酸から乳酸エステル、乳酸または乳酸エステルからラクチドを生産することで、生産調整を行う。また、乳酸、乳酸エステル、またはラクチドの供給量が需要量を超える場合、これら乳酸誘導体をポリ乳酸生産工場または乳酸発酵工場から製品として販売する販売計画を作成し、調整を行う。
【0019】
これらの調整の後、ポリ乳酸生産工場サーバーでは、さらに全体の生産計画情報を作成し、各地の乳酸発酵工場コンピュータに送る。各地の乳酸発酵工場コンピュータおよびポリ乳酸生産工場サーバーでは、生産計画情報に基づいた自工場の製造スケジュールを作成する。乳酸発酵工場コンピュータからポリ乳酸生産工場サーバーに、定期的に進捗報告が送られ、ポリ乳酸生産工場サーバーは原料供給の予測管理を行い、必要ならば生産計画の見直しを行う。
【0020】
ポリ乳酸生産工場サーバーは自工場の生産状況および乳酸発酵工場の生産状況に従い、乳酸発酵工場コンピュータに発注依頼を送る。乳酸発酵工場の生産状況に基づいた発注であるので、乳酸発酵工場コンピュータは発注依頼を受けると、即受注確認し、製品出荷指示を発行する。また、ポリ乳酸生産工場のサーバーは、余った乳酸誘導体の販売先等の販売管理情報を、ポリ乳酸生産工場だけでなく全ての乳酸発酵工場を統括して一元管理する。乳酸発酵工場の乳酸誘導体がポリ乳酸生産の原料として必要な量を超えて生産されている場合、販売指示を乳酸発酵工場のコンピュータに送り、乳酸発酵工場のコンピュータはそれに基づいて販売、製品出荷・納品を行う。
【0021】
農産物は生産地の乳酸発酵工場ですぐに原料として投入することができ、輸送費用を削減することができる。そして、原料に合致した工程と装置・機械で処理され、生産物の流れがスムーズとなるので、在庫管理費用を削減することができる。農産物は保管のための冷蔵管理費用が発生するが、乳酸、乳酸エステル、ラクチドであれば冷蔵管理が不要なので、そうした管理費用も削減できる。
【0022】
また、発酵工程と合成工程を工場別に分離したことにより、従来のような製造規模や生産方式の差による工程の停滞がなくなり、スムーズなフローが実現できる。
さらに、ポリ乳酸生産の原料である乳酸誘導体の生産能力を考慮した生産計画を立てることにより、安定した原料供給が実現できる。乳酸誘導体の生産状況を把握しているので、生産計画の見直しや中間製品として販売するなどの対処が容易に行え、また、発注から納品までのリードタイムが短縮できる。ポリ乳酸生産を大きな工場に集中させ、不足原料をも、乳酸、乳酸エステルよりポリ乳酸生産工場で生産することにより、1種類の農産物の出来高に左右されなくなり、ポリ乳酸の生産量が安定する。
そして、農産物原料の多様化した場合に発生する発酵前の処理条件の違いによる工程の複雑化も、乳酸発酵工場に発酵工程を集約することにより避けることができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、在庫管理費用の抑制と生産の効率化を図ることができるポリ乳酸生産システムおよび生産方法ならびにポリ乳酸生産支援システムおよび生産支援方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本発明の実施の形態のポリ乳酸生産システムおよび生産方法ならびにポリ乳酸生産支援システムおよび生産支援方法の概要について説明する。
全国各地の農産物生産地に、乳酸発酵工程を中心としてポリ乳酸生産の原料となる乳酸誘導体を生産する乳酸発酵工場を置き、乳酸発酵工場で生産された乳酸誘導体からポリ乳酸を生産するポリ乳酸生産工場を全国で2〜3箇所に設ける。各地の乳酸発酵工場のコンピュータと、ポリ乳酸生産工場のサーバーをネットワークで結ぶ。
【0025】
ポリ乳酸生産工場のサーバーでは、乳酸発酵工場のコンピュータからポリ乳酸生産工場のサーバーに送られた生産能力データとポリ乳酸生産工場のサーバー側の需要予測データから生産能力計画を行う。生産能力計画時に原材料の過不足が予測された場合、一般的には、労働時間、作業パターンまたは工程等を調整することにより生産能力を需要に一致するよう増加または低下させる生産能力調整や、価格、マーケッティング方法、またはリードタイムを変更したり、購買意欲を刺激したりする需要調整などの短期的な調整を行う。
【0026】
本実施の形態では、ポリ乳酸の原料である乳酸誘導体の過不足が予測された場合、ポリ乳酸生産工場で不足分の原料を乳酸又は乳酸エステルより生産する、または余った乳酸誘導体を中間製品としてポリ乳酸生産工場や乳酸発酵工場で販売するなどの調整を行う。ポリ乳酸生産工場のサーバーでは、さらに全体の生産計画を作成し、各地の乳酸発酵工場のコンピュータに送る。各地の乳酸発酵工場のコンピュータおよびポリ乳酸生産工場のサーバーでは、全体の生産計画に基づいた自工場の製造スケジュールを作成する。
【0027】
乳酸発酵工場のコンピュータからポリ乳酸生産工場のサーバーに、定期的に進捗報告が送られ、ポリ乳酸生産工場のサーバーは原料供給の予測管理を行う。ポリ乳酸生産工場のサーバーは自工場の生産状況および乳酸発酵工場の生産状況に従い、乳酸発酵工場のコンピュータに発注依頼を送る。乳酸発酵工場のコンピュータは発注依頼を受け付けると、受注確認し、すぐに製品出荷指示を発行する。また、ポリ乳酸生産工場のサーバーは、乳酸誘導体販売指示を乳酸発酵工場のコンピュータに送り、乳酸発酵工場のコンピュータはそれに基づいて販売、製品出荷・納品を行う。
【0028】
これにより、米穀類や転作農産物を原料とするポリ乳酸生産において、全国各地に分散する乳酸発酵工場と、それらを統括するポリ乳酸生産工場を生産支援システムで結び、乳酸発酵工場で製造されるポリ乳酸生産原料である乳酸誘導体の生産能力を考慮した生産計画や、ポリ乳酸生産工場における原料供給過不足の調整、ポリ乳酸生産工場の生産状況に従った乳酸誘導体の製品発送を可能となる。
【0029】
以下、本発明の一実施の形態を図面にしたがって詳細に説明する。
図2は、本発明の実施の形態のポリ乳酸生産システムにより、ポリ乳酸の生産を、乳酸発酵を中心とする乳酸発酵工場とポリ化合成を中心とするポリ乳酸生産工場で分担して行った場合の工程を示す。乳酸発酵工場では、それぞれの工場の規模、ポリ乳酸工場までの製品輸送事情、ポリ乳酸生産工場からの生産計画により、ポリ乳酸生産の原料となる乳酸、乳酸エステル、またはラクチドを製造する。ポリ乳酸生産工場では、納品された乳酸、乳酸エステル、またはラクチドを原料として、ポリ乳酸を製造する。
【0030】
図2の工程Aでは乳酸発酵工場で乳酸発酵まで行って乳酸を製造し、ポリ乳酸生産工場ではエステル合成、ラクチド合成、ポリ合成を行って乳酸からポリ乳酸を製造する場合を示す。工程Bでは乳酸発酵工場でエステル合成まで行って乳酸エステルを製造し、ポリ乳酸生産工場ではラクチド合成とポリ合成を行って乳酸エステルからポリ乳酸を製造する場合を示す。工程Cでは乳酸発酵工場でラクチド合成まで行ってラクチドを製造し、ポリ乳酸生産工場ではポリ合成を行ってラクチドからポリ乳酸を製造する場合を示す。
【0031】
このように、ポリ乳酸生産システムは、農産物原料を発酵させ乳酸を生産する乳酸発酵工程と、乳酸発酵工程により生産された乳酸とアルコールとを合成し乳酸エステルを生産する乳酸エステル合成工程と、乳酸エステル合成工程により生産された乳酸エステルからラクチドを生産するラクチド合成工程と、ラクチド合成工程により生産されたラクチドからポリ乳酸を生産するポリ化合成工程とを全体で実施するシステムである。このシステムは、一連の乳酸発酵工程、乳酸エステル合成工程およびラクチド合成工程のうち少なくとも乳酸発酵工程を実施する複数の乳酸発酵工場と、各乳酸発酵工場により製造されたポリ乳酸原料を搬入して、一連の乳酸エステル合成工程、ラクチド合成工程およびポリ化合成工程のうち各乳酸発酵工場において実施される工程より後の工程をすべて実施するポリ乳酸生産工場とから成っている。但し、ポリ乳酸生産工場は、乳酸エステル合成工程およびラクチド合成工程の実施設備についても備えている。
【0032】
図3は本実施の形態のポリ乳酸の生産支援システムのブロック図であり、乳酸発酵工場コンピュータ10は全国の農産物の生産地に散らばっている乳酸発酵工場A〜Gのそれぞれのコンピュータを表し、ポリ乳酸生産工場サーバー20は乳酸発酵工場を統括するポリ乳酸生産工場のサーバーコンピュータを表している。そして、乳酸発酵工場コンピュータ10とポリ乳酸生産工場サーバー20とはネットワーク30で結合しており、常時、ネットワーク30に接続することが可能である。
【0033】
ポリ乳酸の生産支援システムは、前述のポリ乳酸生産システムにおいて使用される。ポリ乳酸生産支援システムは、複数の乳酸発酵工場コンピュータ10とポリ乳酸生産工場サーバー20とを有し、各乳酸発酵工場コンピュータ10はそれぞれ各乳酸発酵工場に設けられ、ポリ乳酸生産工場サーバー20はポリ乳酸生産工場に設けられている。前述のとおり、各乳酸発酵工場コンピュータ10およびポリ乳酸生産工場サーバー20は通信ネットワークに接続されている。通信ネットワークは、例えば、インターネットであり、電話回線などを経由して各乳酸発酵工場コンピュータ10およびポリ乳酸生産工場サーバー20が接続される。各乳酸発酵工場コンピュータ10およびポリ乳酸生産工場サーバー20は、CPUにより構成される制御手段、プログラムを記憶したハードディスクメモリ、各種ファイルを記憶したメモリ、キーボードやマウスなどの入力手段、モニタやプリンタなどの出力手段および通信手段を有している。
【0034】
図4に示すように、各乳酸発酵工場コンピュータ10は、生産データ送信手段11と、端末側受信手段12と、端末側処理手段13と、スケジュール送信手段14と、出荷管理手段15と、進捗データ送信手段16と、販売処理手段17とを機能として備えている。
【0035】
生産データ送信手段11は、対応する乳酸発酵工場によるポリ乳酸原料の生産能力データをポリ乳酸生産工場サーバー20に送信する。生産能力データは、生産物の種類とその生産量からなるデータである。端末側受信手段12は、ポリ乳酸生産工場サーバー20から生産計画情報および発注情報を受信する。生産計画情報は、各ポリ乳酸生産工場および各乳酸発酵工場ごとの月度ごとの原料、生産品目、計画量、引合量の各データから成っている。発注情報は、ポリ乳酸原料の発注量、納品時期のデータから成っている。端末側処理手段13は、端末側受信手段12により受信した生産計画情報に基づき、対応する乳酸発酵工場によるポリ乳酸原料の製造スケジュールを作成する。その製造スケジュールは、そのポリ乳酸発酵工場の月度ごとの予定生産品目、予定生産量、予定生産時期から成る。スケジュール送信手段14は、端末側処理手段13により作成した製造スケジュールをポリ乳酸生産工場サーバー20に送信する。出荷管理手段15は、端末側受信手段12により受信した発注情報に基づき出荷情報を管理する。出荷情報は、出荷・納品した種類、量、時期に関する情報である。進捗データ送信手段16は、対応する乳酸発酵工場によるポリ乳酸原料の生産進捗データをポリ乳酸生産工場サーバー20に送信する。販売処理手段17は、ポリ乳酸生産工場サーバー20から送信された販売指示を受信してポリ乳酸原料の販売情報を管理する。販売情報は、ポリ乳酸原料の販売予定、販売完了、販売時期に関する情報である。
【0036】
ポリ乳酸生産工場サーバー20は、生産能力受信手段21と、生産能力記憶手段22と、需要予測記憶手段23と、計画作成手段24と、生産計画送信手段25と、サーバー側処理手段26と、発注情報送信手段27と、生産進捗受信手段28と、生産進捗記憶手段29と、過剰量計算手段30と、販売指示送信手段31と、処理内容受信手段32と、製造スケジュール記憶手段33とを備えている。
【0037】
生産能力受信手段21は、各乳酸発酵工場コンピュータ10から生産能力データを受信する。生産能力記憶手段22は、生産能力受信手段21により受信した生産能力データを、送信した乳酸発酵工場と対応させて記憶する。需要予測記憶手段23は、入力されたポリ乳酸の需要予測データを記憶する。需要予測データは、ポリ乳酸の過去の需要パターンに関するデータや市場動向に基づいたポリ乳酸の需要量に関する予測データである。計画作成手段24は、需要予測記憶手段23に記憶された需要予測データと、生産能力記憶手段に記憶された各乳酸発酵工場ごとの生産能力データとに基づいて各乳酸発酵工場ごとの生産計画情報を作成する。生産計画送信手段25は、計画作成手段24により作成した生産計画情報を各乳酸発酵工場コンピュータ10に送信する。サーバー側処理手段26は、計画作成手段24により作成した生産計画情報に基づきポリ乳酸生産工場サーバーによるポリ乳酸の製造スケジュールを作成する。その製造スケジュールは、そのポリ乳酸生産工場の月度ごとの、ポリ乳酸およびその他の予定生産品目、予定生産量、予定生産時期から成る。そのポリ乳酸生産工場の製造スケジュールには、乳酸エステル合成工程、ラクチド合成工程およびポリ化合成工程の実施スケジュールを含む。すなわち、その実施スケジュールは、各工程の実施による各ポリ乳酸原料の予定生産量、予定生産時期を含む。発注情報送信手段27は、各乳酸発酵工場に発注情報を送信する。
【0038】
生産進捗受信手段28は、各乳酸発酵工場コンピュータ10から生産進捗データを受信する。生産進捗データは、各乳酸発酵工場のポリ乳酸原料の生産状況を日時と生産量とで示したデータである。生産進捗記憶手段29は、生産進捗受信手段28により受信した生産進捗データを、送信した乳酸発酵工場と対応させて記憶する。過剰量計算手段30は、生産進捗記憶手段29により記憶された生産進捗データを計画作成手段24により作成した生産計画情報と比較して、その生産進捗データに対応する乳酸発酵工場で生産されたポリ乳酸原料の過剰量を求める。販売指示送信手段31は、過剰量計算手段30により求めた各乳酸発酵工場ごとの過剰量に基づき、その乳酸発酵工場の乳酸発酵工場コンピュータ10に販売指示を送信する。処理内容受信手段32は、各乳酸発酵工場コンピュータ10から製造スケジュールを受信する。製造スケジュール記憶手段33は、処理内容受信手段32により受信した製造スケジュールを、送信した乳酸発酵工場と対応させて記憶する。製造スケジュール記憶手段33により記憶された製造スケジュールは、任意の出力手段により出力することができる。
【0039】
図5と図6は生産調整を計画的に実施するために必要となる情報の一例である。ただし、ここでの生産量、計画量、引当量についての具体的な値は、本実施の形態にとって重要な意味を示すところではない。
【0040】
ポリ乳酸生産工場サーバー20では過去の需要パターンに関するデータや市場動向に基づいてポリ乳酸の需要予測を行い、需要予測データを作成する。また、乳酸、乳酸エステル、ラクチドの3つの原料を使用した場合の、それぞれのポリ乳酸の最大生産能力を算出する。乳酸発酵工場コンピュータ10は原料となる農産物の供給量または予定供給量に基づいた自工場の生産能力を算出し、生産物と生産量からなる生産能力データをポリ乳酸生産工場サーバー20に送る。ポリ乳酸生産工場サーバー20のデータベースには、図5に示すように、生産能力データと送信した乳酸発酵工場を格納する乳酸発酵工場生産能力情報が構築されている。ポリ乳酸生産工場サーバー20は乳酸発酵工場生産能力情報と自工場の最大生産能力を元にポリ乳酸の可能生産能力を算出する。
【0041】
可能生産能力と需要予測データの予測需要の比較を行い、不一致箇所を検出する。不一致箇所のうち、予測需要が可能生産能力を上回る場合、最大生産能力と可能生産能力を比較し、最大生産能力が可能生産能力より大きければ、ボトルネックとなる不足原料を検出する。不足原料が乳酸エステル、またはラクチドの場合は、ポリ乳酸生産工場で乳酸から乳酸エステル、乳酸または乳酸エステルからラクチドを生産するよう、生産調整を行い、可能生産能力を再計算する。それでも可能生産能力が予測需要に達しない場合は、乳酸発酵工場生産能力情報から余剰原料のある乳酸発酵工場を検出し、作業パターンや工程等を調整するなどの生産調整依頼をし、最大生産能力と再度送られてきた生産能力データを元に可能生産能力を再計算する。
【0042】
予測需要が可能生産能力を上回り、最大生産能力が可能生産能力と等しい場合は、乳酸発酵工場生産能力情報から余剰原料のある乳酸発酵工場を検出し、作業パターンや工程等を調整するなどの生産調整依頼をし、かつ、ポリ乳酸生産工場側でも作業パターンや工程等を調整した場合の最大生産能力を算出する。新たに算出した最大生産能力と再度送られてきた生産能力を元に可能生産能力を再計算する。
【0043】
予測需要が可能生産能力を下回る場合、乳酸、乳酸エステル、またはラクチドのうち供給量が需要量を超えるものを中間製品として販売するよう計画を立てる。乳酸発酵工場の販売計画情報は該当する乳酸発酵工場に送られる。
【0044】
これらの生産調整の後、ポリ乳酸生産工場サーバー20では可能生産能力に基づいて、図6に示すように、全工場の生産品目、計画量、そして乳酸発酵工場の計画量のうちのポリ乳酸生産工場で使用予定となっている分を引当量として、生産計画情報を作成する。生産計画情報は、各ポリ乳酸生産工場および各乳酸発酵工場ごとの月度ごとの原料、生産品目、計画量、引合量の各データから成っている。生産計画情報の乳酸発酵工場の計画量から引当量を引いた量が中間製品の販売予定量となり、前期販売計画情報に格納されている。ポリ乳酸生産工場サーバー20は、生産計画情報を各地の乳酸発酵工場コンピュータ10に送る。各地の乳酸発酵工場コンピュータ10およびポリ乳酸生産工場サーバー20では、生産計画情報に基づいた自工場の製造スケジュールを作成する。乳酸発酵工場コンピュータ10は製造スケジュールをポリ乳酸生産工場サーバー20に送信する。
【0045】
乳酸発酵工場コンピュータ10からポリ乳酸生産工場サーバー20に、製造スケジュールに対する進捗報告が定期的に送られる。ポリ乳酸生産工場サーバー20は、ポリ乳酸生産の原料供給の過不足発生に関する予測を行い、必要なら生産計画の見直しを行う。乳酸発酵工場コンピュータ10に作業パターンや工程等を調整するなどの生産調整依頼をし、再度送られてきた生産能力データを元に生産計画を再作成する。ポリ乳酸生産工場ポリ乳酸生産工場のサーバーは、余った乳酸誘導体の販売先等の販売管理情報を、ポリ乳酸生産工場および全ての乳酸発酵工場に関し一元管理する。乳酸発酵工場の乳酸誘導体がポリ乳酸生産の原料として必要な量を超えて生産されている場合は、販売指示を乳酸発酵工場コンピュータ10に送り、乳酸発酵工場コンピュータ10はそれに基づいて販売、製品出荷・納品を行う。
【0046】
また、ポリ乳酸生産工場サーバー20は、自工場の生産進捗データにより乳酸誘導体が余ることを検出した場合は、ポリ乳酸生産工場において中間製品として販売、製品出荷・納品を行う。ポリ乳酸生産工場サーバー20は自工場の生産状況および乳酸発酵工場の生産状況に従い、乳酸発酵工場コンピュータ10に原料である乳酸、乳酸エステル、またはラクチドの発注を送る。乳酸発酵工場の生産状況に基づいた発注であるので、乳酸発酵工場コンピュータ10は発注を受けるとすぐに受注確認し、製品出荷指示を発行する。発注から納品までのリードタイムはほとんど輸送にかかる日数だけですむ。ポリ乳酸生産工場サーバー20が受入処理を実施した後、直ちに原料として投入が可能である。
【0047】
本発明の実施形態の動作を図7と図8にフローチャートで示す。ただし、一般的な生産計画管理や進捗実績管理等の詳細は、本実施の形態にとって重要ではないとみなし、省略してある。
【0048】
図7は生産計画と製造スケジュールの作成までの動作を示す。まず、ポリ乳酸生産工場サーバー20ではポリ乳酸の需要予測を行い、需要予測データを作成する(ステップ201)。また、乳酸、乳酸エステル、ラクチドの3つの原料を使用した場合の、それぞれのポリ乳酸の最大生産能力を算出する(ステップ202)。そして、乳酸発酵工場コンピュータ10に生産能力データ要求を送信する(ステップ203)。乳酸発酵工場コンピュータ10は自工場の生産能力を算出し、生産物と生産量からなる生産能力データをポリ乳酸生産工場サーバー20に送信する(ステップ101)。ポリ乳酸生産工場サーバー20は乳酸発酵工場生産能力情報と自工場の最大生産能力を元にポリ乳酸の可能生産能力を算出する(ステップ204)。
【0049】
つぎに、可能生産能力と需要予測データの予測需要の比較を行い、不一致箇所を検出する(ステップ205)。不一致箇所のうち、予測需要が可能生産能力を下回る場合、供給量が需要量を超える乳酸誘導体を中間製品として販売するよう計画を立てる(ステップ206)。予測需要が可能生産能力を上回る場合、最大生産能力と可能生産能力を比較し(ステップ207)、最大生産能力が可能生産能力より大きければ、ボトルネックとなる不足原料を検出する(ステップ208)。不足原料が乳酸の場合は、余剰原料のある乳酸発酵工場に生産調整依頼を送信し(ステップ209)、最大生産能力と再度送られてきた生産能力データ(ステップ103)を元に可能生産能力を計算する(ステップ210)。
【0050】
不足原料が乳酸エステル、またはラクチドの場合は、ポリ乳酸生産工場で乳酸から乳酸エステル、乳酸または乳酸エステルからラクチドを生産するよう生産調整を行い、可能生産能力を再計算する(ステップ211)。それでも可能生産能力が予測需要に達しない場合(ステップ212)は、余剰原料のある乳酸発酵工場に生産調整依頼を送信し(ステップ213)、最大生産能力と再度送られてきた生産能力データ(ステップ104)を元に可能生産能力を再計算する(ステップ214)。
【0051】
予測需要が可能生産能力を上回り、最大生産能力が可能生産能力と等しい場合は、余剰原料のある乳酸発酵工場に生産調整依頼を送信し(ステップ215)、かつ、ポリ乳酸生産工場側でも生産調整した場合の最大生産能力を算出する(ステップ216)。新たに算出した最大生産能力と再度送られてきた生産能力(ステップ102)を元に可能生産能力を再計算する(ステップ217)。
【0052】
これらの生産調整の後、ポリ乳酸生産工場サーバー20では生産計画情報を作成し、該当する販売計画と一緒に乳酸発酵工場に送信する(ステップ218)。各地の乳酸発酵工場コンピュータ10およびポリ乳酸生産工場サーバー20では、生産計画情報に基づいた自工場の製造スケジュールを作成する(ステップ105,219)。乳酸発酵工場コンピュータ10は製造スケジュールをポリ乳酸生産工場サーバー20に送信する。
【0053】
図8は乳酸発酵工場での生産開始から納品までの動作を示し、図7で作成された1つの生産計画に対し繰り返し行われる。乳酸発酵工場コンピュータ10はポリ乳酸生産工場サーバー20に進捗報告を定期的に送信する(ステップ106)。ポリ乳酸生産工場サーバー20は、進捗管理を行い(ステップ220)、ポリ乳酸生産の原料供給の過不足発生に関する予測を行い(ステップ221)、必要なら生産計画の見直しを行う。乳酸発酵工場コンピュータ10に生産調整依頼を送信し、再度送られてきた生産能力データ(ステップ107)を元に生産計画を再作成する(ステップ222)。
【0054】
乳酸発酵工場の乳酸誘導体がポリ乳酸生産の原料として必要な量を超えて生産されている場合(ステップ223)は、乳酸誘導体販売指示を乳酸発酵工場コンピュータ10に送信する(ステップ224)。乳酸発酵工場コンピュータ10はそれに基づいて販売、製品出荷・納品を行い(ステップ108)、販売実績データをポリ乳酸生産工場サーバー20に送信する(ステップ109)。ポリ乳酸生産工場サーバー20は、乳酸発酵工場コンピュータ10に原料である乳酸誘導体の発注を送信する(ステップ225)。乳酸発酵工場コンピュータ10は発注を受信するとポリ乳酸生産工場サーバー20に受注確認を送信し(ステップ110)、製品出荷指示を発行する。製品は乳酸発酵工場から発送され(ステップ111)、ポリ乳酸生産工場で受入となる(ステップ226)。これにより、乳酸発酵工場コンピュータ10およびポリ乳酸生産工場サーバー20の処理が終了する(ステップ112,227)。
【0055】
前述の農産物を原料とするポリ乳酸の生産支援システムによれば、乳酸発酵工程が全国各地の乳酸発酵工場で行われ、輸送費用や在庫管理費用の削減が可能となる。また、ポリ化合成工程を大規模なポリ乳酸生産工場に集約させ、製造規模や生産方式の差による工程の停滞がなくなり、スムーズなフローが実現できる。さらに、ポリ乳酸生産の原料である乳酸誘導体の生産能力を考慮した生産計画を立て、生産状況を定期的に、必要ならば常時監視することにより、リードタイムの短い、安定した原料供給が実現できる。ポリ乳酸生産工場は、3種類の乳酸誘導体を投入原料として処理し、かつ、不足原料を乳酸、または乳酸エステルから製造するので、原料不足にも柔軟に対処でき、生産量を安定させることが可能となる。
【0056】
したがって、農産物を原料とするポリ乳酸生産における、生産的な経済性の向上に寄与する方法であるうえに、備蓄米、古米や規格外農産物など、食用に供さない余剰農産物を活用することにより食品廃棄物の回収利用といった環境問題の解決にも貢献するであろう。さらに、休耕田活用、転作農産物利用といった農業の活性化にも役立ち、産業的にも、社会的にも、有益な技術の提供となる。
【0057】
また、従来の生産のように全ての工程を数箇所の大工場に集中せずに、地方の農産物生産地に分散して中小の工場を配置することによって、農業の全国的な活性化と地方産業の振興につながるものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】従来のポリ乳酸生産の工程を示す工程図である。
【図2】本発明の実施の形態のポリ乳酸生産システムによるポリ乳酸生産の工程を示す工程図である。
【図3】本発明の実施の形態のポリ乳酸生産支援システムの全体構成を示すブロック図である。
【図4】図3に示すポリ乳酸生産支援システムの機能ブロック図である。
【図5】図3に示すポリ乳酸生産支援システムによる乳酸発酵工場生産能力情報の説明図である。
【図6】図3に示すポリ乳酸生産支援システムによる生産計画情報の説明図である。
【図7】図3に示すポリ乳酸生産支援システムによるポリ乳酸生産支援方法のフローチャートである。
【図8】図7に示すフローチャートの以下の工程を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0059】
10 乳酸発酵工場コンピュータ
20 ポリ乳酸生産工場サーバー
30 ネットワーク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
農産物原料を発酵させ乳酸を生産する乳酸発酵工程と、前記乳酸発酵工程により生産された乳酸とアルコールとを合成し乳酸エステルを生産する乳酸エステル合成工程と、前記乳酸エステル合成工程により生産された乳酸エステルからラクチドを生産するラクチド合成工程と、前記ラクチド合成工程により生産されたラクチドからポリ乳酸を生産するポリ化合成工程とを実施するポリ乳酸生産システムであって、
一連の前記乳酸発酵工程、前記乳酸エステル合成工程および前記ラクチド合成工程の少なくとも前記乳酸発酵工程を実施する複数の乳酸発酵工場と、
各乳酸発酵工場により製造されたポリ乳酸原料を搬入して、一連の前記乳酸エステル合成工程、前記ラクチド合成工程および前記ポリ化合成工程のうち各乳酸発酵工場において実施される工程より後の工程をすべて実施するポリ乳酸生産工場と、
から成ることを特徴とするポリ乳酸生産システム。
【請求項2】
請求項1記載のポリ乳酸生産システムにおいて使用されるポリ乳酸生産支援システムであって、複数の乳酸発酵工場コンピュータとポリ乳酸生産工場サーバーとを有し、各乳酸発酵工場コンピュータはそれぞれ各乳酸発酵工場に設けられ、前記ポリ乳酸生産工場サーバーは前記ポリ乳酸生産工場に設けられ、各乳酸発酵工場コンピュータおよび前記ポリ乳酸生産工場サーバーは通信ネットワークに接続されており、
各乳酸発酵工場コンピュータは、
対応する乳酸発酵工場による前記ポリ乳酸原料の生産能力データを前記ポリ乳酸生産工場サーバーに送信する生産データ送信手段と、
前記ポリ乳酸生産工場サーバーから生産計画情報および発注情報を受信する端末側受信手段と、
前記端末側受信手段により受信した生産計画情報に基づき、対応する乳酸発酵工場による前記ポリ乳酸原料の製造スケジュールを作成する端末側処理手段と、
前記端末側受信手段により受信した発注情報に基づき出荷情報を管理する出荷管理手段とをそれぞれ備え、
前記ポリ乳酸生産工場サーバーは、
各乳酸発酵工場コンピュータから前記生産能力データを受信する生産能力受信手段と、
前記生産能力受信手段により受信した前記生産能力データを、送信した乳酸発酵工場と対応させて記憶する生産能力記憶手段と、
ポリ乳酸の需要予測データを記憶する需要予測記憶手段と、
前記需要予測記憶手段に記憶された需要予測データと、前記生産能力記憶手段に記憶された各乳酸発酵工場ごとの前記生産能力データとに基づいて各乳酸発酵工場ごとの生産計画情報を作成する計画作成手段と、
前記計画作成手段により作成した生産計画情報を各乳酸発酵工場コンピュータに送信する生産計画送信手段と、
前記計画作成手段により作成した生産計画情報に基づき前記ポリ乳酸生産工場によるポリ乳酸の製造スケジュールを作成するサーバー側処理手段と、
各乳酸発酵工場に発注情報を送信する発注情報送信手段とを備えたことを、
特徴とするポリ乳酸生産支援システム。
【請求項3】
前記ポリ乳酸生産工場は前記乳酸エステル合成工程、前記ラクチド合成工程および前記ポリ化合成工程の実施設備を有し、
前記ポリ乳酸生産工場の前記製造スケジュールは前記乳酸エステル合成工程、前記ラクチド合成工程および前記ポリ化合成工程の実施スケジュールを含み、
各乳酸発酵工場コンピュータは、
対応する乳酸発酵工場による前記ポリ乳酸原料の生産進捗データを前記ポリ乳酸生産工場サーバーに送信する進捗データ送信手段と、
前記ポリ乳酸生産工場サーバーから送信された販売指示を受信して前記ポリ乳酸原料の販売情報を管理する販売処理手段とを備え、
前記ポリ乳酸生産工場サーバーは、
各乳酸発酵工場コンピュータから前記生産進捗データを受信する生産進捗受信手段と、
前記生産進捗受信手段により受信した前記生産進捗データを、送信した乳酸発酵工場と対応させて記憶する生産進捗記憶手段と、
前記生産進捗記憶手段により記憶された生産進捗データを前記計画作成手段により作成した生産計画情報と比較して、その生産進捗データに対応する乳酸発酵工場で生産された前記ポリ乳酸原料の過剰量を求める過剰量計算手段と、
前記過剰量計算手段により求めた各乳酸発酵工場ごとの前記過剰量に基づき、その乳酸発酵工場の乳酸発酵工場コンピュータに販売指示を送信する販売指示送信手段とを備えたことを、
特徴とする請求項2記載のポリ乳酸生産支援システム。
【請求項4】
農産物原料を発酵させ乳酸を生産する乳酸発酵工程と、前記乳酸発酵工程により生産された乳酸とアルコールとを合成し乳酸エステルを生産する乳酸エステル合成工程と、前記乳酸エステル合成工程により生産された乳酸エステルからラクチドを生産するラクチド合成工程と、前記ラクチド合成工程により生産されたラクチドからポリ乳酸を生産するポリ化合成工程とを有するポリ乳酸生産方法であって、
複数の乳酸発酵工場において、一連の前記乳酸発酵工程、前記乳酸エステル合成工程および前記ラクチド合成工程のうち少なくとも前記乳酸発酵工程を実施し、
ポリ乳酸生産工場において、各乳酸発酵工場により製造されたポリ乳酸原料を搬入して、一連の前記乳酸エステル合成工程、前記ラクチド合成工程および前記ポリ化合成工程のうち各乳酸発酵工場において実施される工程より後の工程をすべて実施することを、
特徴とするポリ乳酸生産方法。
【請求項5】
請求項1記載のポリ乳酸生産システムにおいて使用されるポリ乳酸生産支援方法であって、複数の乳酸発酵工場コンピュータとポリ乳酸生産工場サーバーとを有し、各乳酸発酵工場コンピュータはそれぞれ各乳酸発酵工場に設けられ、前記ポリ乳酸生産工場サーバーは前記ポリ乳酸生産工場に設けられ、各乳酸発酵工場コンピュータおよび前記ポリ乳酸生産工場サーバーは通信ネットワークに接続されており、
各乳酸発酵工場コンピュータにより、
対応する乳酸発酵工場による前記ポリ乳酸原料の生産能力データを前記ポリ乳酸生産工場サーバーに送信する生産データ送信ステップと、
前記ポリ乳酸生産工場サーバーから生産計画情報および発注情報を受信する端末側受信ステップと、
前記端末側受信ステップにより受信した生産計画情報に基づき、対応する乳酸発酵工場による前記ポリ乳酸原料の製造スケジュールを作成する端末側処理ステップと、
前記端末側受信ステップにより受信した発注情報に基づき出荷情報を管理する出荷管理ステップとを実施し、
前記ポリ乳酸生産工場サーバーにより、
各乳酸発酵工場コンピュータから前記生産能力データを受信する生産能力受信ステップと、
前記生産能力受信ステップにより受信した前記生産能力データを、送信した乳酸発酵工場と対応させて記憶する生産能力記憶ステップと、
記憶されたポリ乳酸の需要予測データと、前記生産能力記憶ステップで記憶された各乳酸発酵工場ごとの前記生産能力データとに基づいて各乳酸発酵工場ごとの生産計画情報を作成する計画作成ステップと、
前記計画作成ステップにより作成した生産計画情報を各乳酸発酵工場コンピュータに送信する生産計画送信ステップと、
前記計画作成ステップにより作成した生産計画情報に基づき前記ポリ乳酸生産工場サーバーによるポリ乳酸の製造スケジュールを作成するサーバー側処理ステップと、
各乳酸発酵工場に発注情報を送信する発注情報送信ステップとを実施することを、
特徴とするポリ乳酸生産支援方法。
【請求項6】
前記ポリ乳酸生産工場は前記乳酸エステル合成工程、前記ラクチド合成工程および前記ポリ化合成工程の実施設備を有し、
前記ポリ乳酸生産工場の前記製造スケジュールは前記乳酸エステル合成工程、前記ラクチド合成工程および前記ポリ化合成工程の実施スケジュールを含み、
各乳酸発酵工場コンピュータにより、
対応する乳酸発酵工場による前記ポリ乳酸原料の生産進捗データを前記ポリ乳酸生産工場サーバーに送信する進捗データ送信ステップと、
前記ポリ乳酸生産工場サーバーから送信された販売指示を受信して前記ポリ乳酸原料の販売情報を管理する販売処理ステップとを実施し、
前記ポリ乳酸生産工場サーバーにより、
各乳酸発酵工場コンピュータから前記生産進捗データを受信する生産進捗受信ステップと、
前記生産進捗受信ステップにより受信した前記生産進捗データを、送信した乳酸発酵工場と対応させて記憶する生産進捗記憶ステップと、
前記生産進捗記憶ステップにより記憶された生産進捗データを前記計画作成ステップにより作成した生産計画情報と比較して、その生産進捗データに対応する乳酸発酵工場で生産された前記ポリ乳酸原料の過剰量を求める過剰量計算ステップと、
前記過剰量計算ステップにより求めた各乳酸発酵工場ごとの前記過剰量に基づき、その乳酸発酵工場の乳酸発酵工場コンピュータに販売指示を送信する販売指示送信ステップとを実施することを、
特徴とする請求項5記載のポリ乳酸生産支援方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2005−143320(P2005−143320A)
【公開日】平成17年6月9日(2005.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2003−381815(P2003−381815)
【出願日】平成15年11月11日(2003.11.11)
【出願人】(303036326)株式会社シー・シー・ワイ (7)
【Fターム(参考)】