説明

ポンプの軸受診断装置およびその方法

【課題】短時間で軸受を簡単かつ確実に空気中に露出させ、その軸受の異常を容易かつ正確に判定する。
【解決手段】ポンプ11のケーシング13の下流側に排水経路を開閉可能な仕切弁19を設けるとともに、仕切弁19を開弁状態から閉弁状態に切り換えた状態で、空気供給管路(50,52,53)を介して空気供給部42から軸受26A〜26Cと主軸20の隙間に空気を供給し、ケーシング13内で軸受26A〜26Cを空気中に露出させる露出制御部(制御盤65)を設け、露出制御部65によって軸受26A〜26Cの空気中に露出させた状態で、検出部(圧力計62または差圧計64)および判定部(端末65)によって軸受26A〜26Cの異常を判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポンプのケーシング内に配置された主軸を支持する軸受の診断装置およびその方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、吸水槽に短時間かつ多量に流入する雨水に対処するために、種々の先行待機型立軸ポンプが提案されている。この先行待機型立軸ポンプは、降雨情報等に基づいて予め始動しておいて吸水槽への雨水流入と同時に排水を開始し、かつ、吸水槽内の水位が低下しても運転状態を維持する。この先行待機型立軸ポンプは、ケーシング内に水が存在しない状態での運転(気中運転)を行う必要がある。よって、ポンプの主軸を支持する軸受としては、無注水軸受が採用されている。そして、この無注水軸受の磨耗や破損の発生を監視する種々の方法が提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、主軸と軸受との間に空気を供給する空気供給管路内の空気圧と、ケーシング内の吐出側圧力の差圧を検出し、その検出値に基づいて軸受の異常を判定するようにした軸受診断装置が記載されている。しかし、この診断装置は、軸受が水に浸かっている場合には異常を正確に判定できない。
【0004】
また、特許文献2には、ケーシング外の圧力タンクから空気供給管路を介してケーシング内の主軸と軸受との間に空気を供給し、空気供給管路の空気圧の変化勾配に基づいて軸受の異常を判定するようにした診断装置が記載されている。この診断装置では、吸水槽内に溜められた水を排水し、排水停止状態で軸受を空気中に露出させ、この状態で診断処理を実行する構成としている。そのため、軸受の異常を正確に判定することができる。
【0005】
しかし、特許文献2に記載の診断装置では、診断処理を実行する際に、吸水槽内に溜められた水量を確認し、軸受が空気中に露出するまで排水処理を実行し、その状態で始めて診断処理を実行できるため、処理に要する作業時間が長くなるという難点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−218578号公報
【特許文献2】特開2009−74530号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、短時間で軸受を簡単かつ確実に空気中に露出させ、その軸受の異常を容易かつ正確に判定できる軸受診断装置およびその方法を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するため、本発明のポンプの軸受診断装置は、ポンプのケーシング内に主軸を支持する軸受を設け、これら軸受と主軸の隙間に、前記ケーシング外に配設した空気供給部から空気供給管路を介して空気を供給しながら、前記空気供給管路内の空気圧または前記空気供給管路内の空気圧と前記ケーシングの吐出側圧力の差圧を検出部によって検出し、その検出値に基づいて判定部によって前記軸受の異常を判定するようにしたポンプの軸受診断装置において、前記ポンプのケーシングの下流側への排水経路を開閉可能な仕切弁を設けるとともに、前記仕切弁を開弁状態から閉弁状態に切り換えた状態で、前記空気供給管路を介して空気供給部から前記軸受と前記主軸の隙間に空気を供給し、前記ケーシング内で前記軸受を空気中に露出させる露出制御部を設け、前記露出制御部によって前記軸受の空気中に露出させた状態で、前記検出部および前記判定部によって前記軸受の異常を判定する構成としている。
【0009】
この診断装置では、仕切弁を開弁状態から閉弁状態に切り換えることにより、ポンプのケーシングの吐出側から空気が漏出することを防止する。この状態で、空気供給管路を介して空気供給部から軸受と主軸の隙間に空気を供給する。その結果、吸水槽内に溜められた水量に拘わらず、ケーシング内の軸受を短時間で簡単かつ確実に空気中に露出させることができる。
【0010】
軸受を空気中に露出させると、更に空気供給管路を介して空気供給部から軸受と主軸の隙間に空気を供給しながら、検出部によって空気供給管路内の空気圧または空気供給管路内とケーシング内の差圧を検出する。そして、その検出値に基づいて判定部が軸受の異常を判定するため、軸受の異常を容易かつ正確に判定することができる。しかも、軸受と主軸の隙間に空気を供給するため、これらの隙間に侵入した砂や塵等の異物を除去する清掃機能を得ることができる。
【0011】
このポンプの軸受診断装置では、前記空気供給部は、第1および第2圧力容器と、これら圧力容器内に圧縮空気を供給する空気供給源とを備え、前記露出制御部によって前記第1圧力容器から空気を前記ポンプのケーシング内に供給して前記軸受を露出させ、前記検出部によって前記第2圧力容器から空気を前記軸受と前記主軸の隙間に空気を供給しながら、前記圧力計の検出圧力に基づいて圧力低下時間を測定することが好ましい。このようにすれば、軸受を露出させるためにケーシング内に供給する空気の量を計測する必要がない。よって、装置の簡素化を図り、コストダウンを図ることができる。また、診断時にも空気を安定した空気圧で供給できるため、軸受の異常を判定できる。
【0012】
また、前記軸受の筒状をなす軸受ケーシングに、内部に位置する前記主軸との隙間に侵入した異物を排出する排出孔を設けることが好ましい。このようにすれば、軸受と主軸との間に異物が侵入することを抑制できるため、軸受の摩耗を抑制できる。
【0013】
そして、本発明のポンプの軸受診断方法は、ポンプのケーシング内に配置された主軸を支持する軸受の診断方法であって、前記ポンプのケーシングの下流側に設けた仕切弁を閉弁し、前記軸受と前記主軸の間の隙間に、前記ケーシング外の空気供給部から空気供給管路を介して空気を供給して、前記ケーシング内で前記軸受を空気中に露出させ、更に、前記空気供給部から前記空気供給管路を介して前記軸受と前記主軸の隙間に空気を供給しながら、前記空気供給管路内の空気圧または前記空気供給管路内の空気圧と前記ケーシングの吐出側圧力の差圧を検出し、その検出値に基づいて前記軸受の異常を判定するものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明のポンプの軸受診断装置では、吸水槽内の水量に拘わらず、空気供給管路を介して空気供給部から軸受と主軸の隙間に空気を供給することにより、ケーシング内で軸受を短時間で簡単かつ確実に空気中に露出させることができる。そして、引き続いて空気供給管路を介して空気供給部から軸受と主軸の隙間に空気を供給しながら、検出部の検出値に基づいて判定部が軸受の異常を判定するため、軸受の異常を容易かつ正確に判定することができる。よって、診断処理に要する作業時間を大幅に短縮できる。しかも、軸受と主軸の隙間に空気を供給するため、侵入した異物を除去する清掃機能も得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施形態に係る軸受診断装置を備える先行待機型立軸ポンプを示す概念図である。
【図2】図1の立軸ポンプを示す断面図である。
【図3】図2の第1および第2無注水軸受を示す拡大断面図である。
【図4】図2の第3無注水軸受を示す拡大断面図である。
【図5】差圧と隙間の関係を示すグラフである。
【図6】排水時のインペラ揚程と全揚程の流量の関係を示すグラフである。
【図7】空気圧と圧力低下時間の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態を図面に従って説明する。
【0017】
図1は、本発明の実施形態に係る軸受診断装置10を備える先行待機型立軸ポンプ(以下、単に立軸ポンプという)11を示す。この軸受診断装置10は、立軸ポンプ11内に配設した無注水軸受26A〜26Cの異常を判定するためのもので、空気供給部42と、検出部(差圧計64)と、制御盤65と、端末66とを配設したものである。
【0018】
立軸ポンプ11は、図示しない流入側管路から排水ポンプ場の吸水槽12内に流入する雨水等の水を下流側に排水するためのものである。図2に示すように、この立軸ポンプ11のケーシング13は、直管状の揚水管14a〜14eと、下側の揚水管14eの下端に連結されたインペラケーシング15a,15bと、インペラケーシング15bの下端に連結された吸込ベル16と、揚水管14aの上端に連結された吐出ケーシング17を備えている。上端の揚水管14aは、立軸ポンプ11が設置される吸水槽12の据付床(図示せず)に固定するための固定フランジを備えている。吐出ケーシング17は、鉛直方向から水平方向に湾曲したもので、その端部に吐出管18が連結されている。この吐出管18には、下流側への排水経路と連通および遮断(開閉)可能な仕切弁19が設けられている。
【0019】
立軸ポンプ11のケーシング13には、鉛直方向に延びるように主軸20が配設されている。この主軸20の下端はインペラケーシング15b内に位置し、その下端にインペラ21が固定されている。主軸20の上端側は、スラスト軸受22および軸封装置23によって回転可能に支持されている。また、主軸20の上端はケーシング13の外部に突出され、その上端に減速機構24が連結されている。この減速機構24には、駆動手段として内燃機関の1つであるディーゼル機関25が連結されている。
【0020】
ケーシング13内において主軸20は、ラジアル軸受として機能する水中軸受としての無注水軸受26A,26B,26Cによって回転可能に支持されている。上側の無注水軸受26Aは、揚水管14bの内面から突出するリブに取り付けられ、中間の無注水軸受26Bは、揚水管14dの内面から突出するリブに取り付けられ、下側の無注水軸受26Cは、インペラケーシング15aの内面から突出するリブに取り付けられている。
【0021】
無注水軸受26A,26Bは同様の構造を有するので、無注水軸受26Aについて説明する。図3に示すように、無注水軸受26Aは、両端開口の軸受ホルダ27を備え、この軸受ホルダ27が揚水管14bのリブに固定されている。軸受ホルダ27内には、略円筒状をなす軸受ケーシング28が配設され、この軸受ケーシング28にセラミックからなる2個の摺動体29A,29Bを有するセラミック軸受29が配設されている。これら摺動体29A,29Bは、主軸20の軸線方向に間隔をあけて配置され、その間に円筒状の空気室30が形成されている。軸受ホルダ27、軸受ケーシング28およびセラミック軸受29には、貫通した空気孔31が設けられ、この空気孔31によって空気室30が無注水軸受26Aの外部と連通される。
【0022】
無注水軸受26Cは、無注水軸受26A,26Bと略同様の構成である。具体的には図4に示すように、無注水軸受26Cは、軸受ホルダ27より大型の軸受ホルダ32を備え、この軸受ホルダ32がインペラケーシング15aのリブに固定されている。軸受ホルダ32内には、軸受ケーシング28より軸方向の寸法が長い軸受ケーシング33が配設され、この軸受ケーシング33の下部にセラミックからなる2個の摺動体34A,34Bを有するセラミック軸受34が配設されている。これら摺動体34A,34Bの間には、円筒状の空気室35が形成されている。そして、軸受ホルダ32、軸受ケーシング33およびセラミック軸受34には、貫通した空気孔36が設けられ、この空気孔36によって空気室35が無注水軸受26Cの外部と連通される。また、無注水軸受26Cの軸受ケーシング33には、セラミック軸受34の上側の筒状部33aに、内部に貫通配置した主軸20との間の空間(隙間)に連通する排出孔37が設けられている。この排出孔37は、水に混入した砂や塵等の異物を排出可能な直径であり、周方向に所定間隔をもって複数(例えば3個)形成されている。
【0023】
ケーシング13には3本の空気注入配管38A,38B,38Cが配設されている。これら空気注入配管38A〜38Cは、それぞれ下流側の端部が無注水軸受26A〜26Cの空気孔31,36に接続され、上流側の端部が吸水槽12の据付床の上方に配管されている。個々の空気注入配管38A〜38Cの上端には、後述する空気供給部42の第1ホース55を着脱可能に接続するためのコネクタ39A〜39Cが配設されている。
【0024】
また、図1に示すように、ケーシング13には1本の差圧測定配管40が配設されている。この差圧測定配管40は、一端が無注水軸受26A〜26Cよりも下流側であるケーシング13内の吐出側に連通するように配管され、他端が据付床の上方に配管されている。差圧測定配管40の他端には、第2ホース57を着脱可能に接続するためのコネクタ41が配設されている。
【0025】
図1に示すように、空気供給部42は、立軸ポンプ11のケーシング13外に配設された第1および第2の圧力タンク(圧力容器)43A,43Bと、圧縮空気を供給する空気供給源であるコンプレッサ46とを備えている。
【0026】
本実施形態の第1の圧力タンク43Aは予備タンクであり、無注水軸受26A〜26Cを空気中に露出させるために、内部に充填した空気がケーシング13内に供給される。圧力タンク43Aに対する圧縮空気の充填可能容量は、ケーシング13の下流側に位置する仕切弁19から無注水軸受26Cまでの容積より多い。第2の圧力タンク43Bは常用タンクであり、ディーゼル機関25を起動する際に内部に充填した空気が供給されるとともに、無注水軸受26A〜26Cの異常を診断する際に内部に充填した空気が供給される。
【0027】
圧力タンク43Aの入口(上)側および出口(下)側には第1ボール弁44A,44Bが配設され、圧力タンク43Bの入口側および出口側には第2ボール弁45A,45Bが配設されている。これらボール弁44A,44B,45A,45Bは、開閉信号の入力によって空気供給管路を開閉する電動式のものである。また、圧力タンク43A,43Bには、内部の空気圧を検出するタンク内圧力計(図示せず)が設けられている。コンプレッサ46は、圧搾空気を吐出して圧力タンク43A,43Bに空気を充填するものである。
【0028】
これら圧力タンク43A,43Bとコンプレッサ46とは、金属製の硬質な配管である第1空気供給管47によって接続されている。具体的には、第1空気供給管47は、一端がコンプレッサ46に接続され、分岐した一対の他端が圧力タンク43A,43Bの上流側のボール弁44A,45Aに接続されている。また、第1空気供給管47には、逆止弁48と空気供給管路を開閉可能な電動式のボール弁49が設けられている。
【0029】
この空気供給部42は、圧力タンク43A,43Bの下流側のボール弁44B,45Bが第2空気供給管50に接続されている。この第2空気供給管50は、第3空気供給管51と第4空気供給管52に分岐され、第3空気供給管51がディーゼル機関25に接続され、第4空気供給管52がケーシング13の側に接続される。具体的には、第4空気供給管52は、更に第5空気供給管53と検出用配管54に分岐されている。そして、第5空気供給管53は、可撓性を有する配管である第1ホース55を介して空気注入配管38A〜38Cに接続される。また、検出用配管54は、第2ホース57を介して差圧測定配管40に接続される。第1ホース55にはコネクタ56が設けられ、このコネクタ56が空気注入配管38A〜38Cのいずれかのコネクタ39A〜39Cに接続される。第2ホース57にはコネクタ58が設けられ、このコネクタ58が差圧測定配管40のコネクタ41に接続される。第2、第4および第5空気供給管50,52,53と空気注入配管38A〜38Cが、空気供給部42をケーシング13内の無注水軸受26A〜26Cと主軸20の隙間に連通させる空気供給管路を構成する。
【0030】
第4空気供給管52には、圧力タンク43A,43Bの側から順に、遮断弁59、減圧弁60、ボール弁61、圧力計62およびオリフィス63が設けられている。また、検出用配管54には差圧計64が設けられている。
【0031】
遮断弁59は手動式であり、閉弁状態とすることにより圧力タンク43Bからの空気をディーゼル機関25へ供給し、開弁状態とすることにより圧力タンク43A,43Bからの空気をケーシング13へ供給するものである。減圧弁60は圧力タンク43A,43B内の圧力を減圧して第4空気供給管52に供給するレギュレータとして機能するものである。ボール弁61は手動式であり、開弁により第4空気供給管52へ圧縮空気を供給する状態と、閉弁により圧縮空気の供給を停止する状態とを切り換えるものである。圧力計62は、第4空気供給管52内の圧縮空気の空気圧を検出する検出部である。オリフィス63は、圧力タンク43Bの空気を開放した際に、減圧に要する時間を一定にするためのものである。差圧計64は、ケーシング13内の無注水軸受26A〜26Bよりも下流側の圧力と、第4空気供給管52内の圧縮空気の空気圧(圧力タンク43Bから無注水軸受26A〜26Bと主軸20の隙間への圧縮空気の供給圧)の差圧を検出する検出部である。
【0032】
制御盤65は、空気供給部42のタンク内圧力計、圧力計62および差圧計64から入力される検出信号、端末66に記憶されたプログラムからの指令、端末66から入力されるオペレータの指令等に基づいて、空気供給部42のコンプレッサ46やボール弁44A,44B,45A,45B,49の動作を制御して、無注水軸受26A〜26Cの異常検出のための診断処理を実行する。そして、この診断処理では、ケーシング13内の無注水軸受26A〜26Cを空気中に露出させる露出制御部として機能する。また、無注水軸受26A〜26Cを露出させた後は、検出部である圧力計62および差圧計64による検出時に圧力タンク43Bから無注水軸受26A〜26Cと主軸20との隙間に空気を供給し続ける測定制御部として機能する。
【0033】
端末66は、ノート型PC、各種の携帯情報端末等である。端末66に要求される機能としては、軸受診断のためのプログラムを記憶および実行可能であること、オペレータが制御盤65にアクセスするためのインターフェースを提供すること、オペレータに対して診断結果等を視覚的に表示できること、制御盤65と有線又は無線で通信可能であること等がある。オペレータによって診断処理が実行されると、端末66は、無注水軸受26A〜26Cの露出工程を実行した後、判定工程を実行する。
【0034】
判定工程では、端末66は、無注水軸受26A〜26Cの判定部として機能する。この判定工程は、差圧計64によって検出した検出値に基づいて無注水軸受26A〜26Cの異常の有無を判定する。図5は、差圧と隙間の関係を示すグラフである。この図に示すように、無注水軸受26A〜26Cは、摩耗が少なく主軸20との間の隙間が小さければ差圧計64による検出値ΔPが大きく、摩耗が進んで隙間が大きくなるにつれて差圧計64による検出値ΔPが小さくなる。そのため、端末66には、交換準備が必要な状態の差圧値ΔPa、および、交換が必要な状態の差圧値ΔPbが判定値として記憶されている。そして、差圧計64による検出値ΔPと、これら判定値ΔPa,ΔPbとを比較することにより、無注水軸受26A〜26Cの異常を判定する。
【0035】
次に、軸受診断装置10を備える立軸ポンプ11の動作について具体的に説明する。
【0036】
まず、圧力タンク43A,43B内には、コンプレッサ46によって予め設定した圧力で圧縮空気が充填されている。そして、手動式の仕切弁19は開弁状態とされ、下流側に連通した状態とされている。また、遮断弁59およびボール弁61は閉弁状態とされ、圧力タンク43A,43B内の空気は、第2および第3空気供給管50,51を通してディーゼル機関25に供給可能な状態となっている。
【0037】
この状態で制御盤65は、降雨情報等に基づいて吸水槽12内に雨水が流入する前にディーゼル機関25を起動させ、立軸ポンプ11を気中運転させる。このディーゼル機関25の起動時には、常用の圧力タンク43Bの第2ボール弁45Bを閉弁状態から開弁状態し、ディーゼル機関25が起動すると第2ボール弁45Bを再び閉弁状態とする。また、コンプレッサ46を起動させるとともにボール弁49,45Aを閉弁状態から開弁状態とし、圧力タンク43B内に圧縮空気を供給して、再び設定圧力まで昇圧させる。そして、圧力タンク43Bへの圧縮空気の充填が完了すると、ボール弁49,45Aを開弁状態から閉弁状態とするとともに、コンプレッサ46を停止させる。
【0038】
吸水槽12に雨水が流入すると、吸水槽12内に溜められた雨水をインペラ21によって揚水し、吐出管18から下流側の吐出水槽などへ排水する。この排水処理時には、インペラ21の上部に位置する無注水軸受26Cのセラミック軸受34には、立軸ポンプ11の全揚程の約10%の圧力が加わる。ここで、インペラ揚程および全揚程と流量の関係を図6に示す。全揚程に対するインペラ揚程の割合H/Hは略一定で、流量の変化に大きく依存はしない。その値は約90%であり、インペラ21によって発生する圧力が、立軸ポンプ11で得られる圧力の大半で、全揚程の約10%に相当する圧力変換に寄与していることが解る。
【0039】
この圧力により図4中一点鎖線で示すように、ケーシング13によって汲み上げた排水の一部が、無注水軸受26Cの軸受ケーシング33と主軸20との間に流入してインペラ21へ向けて流れる。その結果、排水に含まれた細かい砂・シルト等の異物が無注水軸受26Cに注入されることになる。しかし、本実施形態では、無注水軸受26Cの軸受ケーシング33に排出孔37を設けている。そのため、軸受ケーシング33と主軸20との間に流入した排水は、図示のように、排出孔37を通して無注水軸受26Cの外部へ排出される。よって、細かい砂・シルト等の異物がセラミック軸受34の配設部分に侵入することを抑制できる。その結果、セラミック軸受34の摩耗を抑制できる。
【0040】
次に、無注水軸受26A〜26Cの異常の有無を診断する診断処理について説明する。
【0041】
まず、オペレータは、立軸ポンプ11が設置された吸水槽12に端末66を持参し、制御盤65と端末66の通信を確立する。また、空気供給部42の第1ホース55を無注水軸受26A〜26Cのいずれかに対応する空気注入配管38A〜38Cに接続する。以下の説明では、図1に示すように、第1ホース55を無注水軸受26Cの空気注入配管38Cに接続したものとする。また、第2ホース57を差圧測定配管40に接続する。さらに、オペレータは、仕切弁19を開弁状態から閉弁状態とするとともに、遮断弁59およびボール弁61を閉弁状態から開弁状態とする。この状態で、端末66の操作によって診断処理を実行することにより、露出工程および判定工程が実行される。
【0042】
露出工程では、制御盤65は、圧力タンク43Aの第1ボール弁44Bを閉弁状態から開弁状態とする。これにより、圧力タンク43A内に充填された空気が、第2、第4、第5空気供給管50,52,53、第1ホース55および空気注入配管38Cを通してケーシング13内の無注水軸受26Cに供給される。そして、この無注水軸受26C内では、空気孔36を通して空気室35に空気が供給された後、主軸20との隙間を通ってケーシング13内に放出される。
【0043】
このようにして圧力タンク43A内の空気をケーシング13内に供給すると、仕切弁19を閉弁状態としているため、ケーシング13の吐出側から空気が漏出することが防止される。そのため、ケーシング13内の水位が低下し、例えば図2に示すように、吸水槽12内には中間の無注水軸受26Bより高い水位WL1まで排水が溜められていても、圧力タンク43A内の全ての空気の供給することにより、ケーシング13内では下側の無注水軸受26Cより低い水位WL2まで低下させることができる。そして、圧力タンク43A内の圧縮空気を全て放出すると、第1ボール弁44Bを開弁状態から閉弁状態とするとともに、第1ボール弁44Aを閉弁状態から開弁状態とする。
【0044】
この露出工程では、無注水軸受26C内に侵入した異物を除去する清掃機能も得ることができる。即ち、本実施形態の無注水軸受26Cは、軸受ケーシング33に排出孔37を設けているため、空気室35への異物の侵入を抑制することは可能であるが、全ての侵入を防止できるものではない。しかし、この露出工程にて圧力タンク43A内の空気をケーシング13内に供給することにより、無注水軸受26Cを空気中に露出させることができる。そして、この露出状態で更に空気が空気室35に供給されるため、主軸20やセラミック軸受34の周辺の異物を、無注水軸受26Cの外部に除去することができる。よって、セラミック軸受34の摩耗を抑制できる。
【0045】
このようにして露出工程が終了すると、制御盤65は引き続いて判定工程を実行する。この判定工程では、圧力タンク43Bの第2ボール弁45Bを閉弁状態から開弁状態とし、圧力タンク43B内の空気を第2、第4、第5空気供給管50,52,53、第1ホース55および空気注入配管38Cを通してケーシング13内の無注水軸受26Cに供給する。そして、この無注水軸受26C内では、空気孔36を通して空気室35に空気が供給された後、主軸20との隙間を通ってケーシング13内に放出される。
【0046】
また、制御盤65は、圧力タンク43Bから供給される空気の圧力(圧力計62の検出値)が予め設定したしきい値を維持するように、第2ボール弁45Aを閉弁状態から開弁状態とするとともに、ボール弁49を閉弁状態から開弁状態とし、コンプレッサ46を起動させる。そして、差圧計64によって第4空気供給管52内の空気圧と、ケーシング13内の吐出側圧力の差圧を検出する。
【0047】
差圧計64による検出値は、制御盤65を介して端末66に保存される。そして、端末66は、入力された差圧と予め設定された判定値ΔPa,ΔPbとを比較し、無注水軸受26Cの異常の有無を判定する。そして、その判定結果を端末66のモニタに表示して、オペレータに知らせる。なお、この判定工程でも露出工程と同様に、無注水軸受26C内に侵入した異物を除去する清掃機能を得ることができる。
【0048】
無注水軸受26Cの診断処理が終了すると、第2ボール弁45Bを開弁状態から閉弁状態に切り換える。そして、残りの無注水軸受26B,26Aについて軸受診断を実行する場合には、第1ホース55の接続を変更する。そして、残りの無注水軸受26B,26Aの診断処理では、露出工程を実行することなく、判定工程のみを実行する。
【0049】
無注水軸受26A〜26Cの診断処理が終了すると、遮断弁59およびボール弁61を開弁状態から閉弁状態とするとともに、仕切弁19を閉弁状態から開弁状態とする。また、第1および第2ボール弁44B,45Bを閉弁状態とするとともに、第1および第2ボール弁44A,45Aを開弁状態とし、コンプレッサ46からの圧縮空気を圧力タンク43A,43B内に充填する。但し、圧力タンク43Aへの圧縮空気の充填は、無注水軸受26A〜26Cの判定工程の実行時に並行して実行してもよい。
【0050】
このように、本発明の軸受診断装置10では、仕切弁19を閉弁状態として圧力タンク43A内の空気をケーシング13に供給することにより、吸水槽12内に溜められた水量に拘わらず、ケーシング13内の無注水軸受26A〜26Cを短時間で簡単かつ確実に空気中に露出させることができる。しかも、本実施形態では、圧力タンク43Aの充填可能容量を、ケーシング13の下流側に位置する仕切弁19から無注水軸受26Cまでの容積より多くしているため、無注水軸受26A〜26Cを露出させるためにケーシング13内に供給する空気の量を計測する必要がない。よって、装置の簡素化を図り、コストダウンを図ることができるうえ、診断処理に要する作業時間を大幅に短縮できる。
【0051】
また、無注水軸受26A〜26Cを空気中に露出させると、圧力タンク43Bから無注水軸受26A〜26Cと主軸20の隙間に空気を供給しながら、差圧計64によって第4空気供給管52内の空気圧とケーシング13内の差圧を検出し、その検出値に基づいて無注水軸受26A〜26Cの異常の有無を判定するため、無注水軸受26A〜26Cの異常を容易に判定することができる。さらに、診断時には圧力タンク43Bから安定した空気圧で空気を供給できるため、無注水軸受26A〜26Cの異常を正確に判定できる。
【0052】
しかも、本実施形態では、インペラ21の直上の無注水軸受26Cの軸受ケーシング28に、主軸20との隙間に侵入した異物を排出する排出孔37を設けているため、排水処理時に無注水軸受26Cと主軸20との間に異物が侵入することを抑制できる。また、診断処理時には、空気中に露出させた無注水軸受26Cに対して更に空気を供給するため、主軸20との隙間に侵入した砂や塵等の異物を除去する清掃機能を得ることができる。よって、無注水軸受26Cの摩耗を大幅に抑制できる。
【0053】
さらに、本実施形態では、立軸ポンプ11の駆動手段としてディーゼル機関25を用いているため、このディーゼル機関25の起動用のコンプレッサ46を圧力タンク43A,43Bに対する圧縮空気の充填に兼用できる。よって、装置の簡素化を図り、コストダウンを図ることができる。
【0054】
診断処理の判定工程は、第4空気供給管52内の空気圧とケーシング13の吐出側圧力の差圧を差圧計64の検出値に基づいて判定する構成に限られず、種々の変更が可能である。
【0055】
例えば、圧力計62によって検出した検出値に基づいて無注水軸受26A〜26Cの異常を判定してもよい。具体的には、図7は、空気圧と圧力低下時間の関係を示すグラフである。この図において、a1は無注水軸受26A〜26Cの隙間が設計値である場合、a2は隙間が摺動体29A,29B,34A,34Bの交換を要する程度まで拡大している場合、a3は摺動体29A,29B,34A,34Bが破損して隙間が大きく拡大している場合を示している。この図から解るように、圧力低下時間t1〜t3は、隙間の拡大に伴って短くなる。そのため、端末66には、時間計測を開始する圧力値P1と時間計測を終了する圧力値P2を予め記憶しておく。また、端末66には、交換が必要な状態a2,a3の圧力低下時間t2,t3を判定値として予め記憶しておく。そして、圧力計62によって所定時間毎に第4空気供給管52内の空気圧を検出し、その検出値に基づいて圧力値P1からP2に低下するのに要した時間tを検出し、その検出時間と判定値とを比較することにより、無注水軸受26A〜26Cの異常を判定してもよい。
【0056】
また、第4空気供給管52に、ケーシング13への空気の供給流量を検出する検出部として流量計を配設し、この流量計と差圧計64の検出値と予め設定した判定値とで無注水軸受26A〜26Cの異常の有無を判定する構成としてもよい。
【0057】
即ち、本発明では、空気供給部42によってケーシング13内に空気を供給する露出工程を実行することにより、短時間で無注水軸受26A〜26Cを簡単かつ確実に空気中に露出させる。その後、所定の判定工程を実行することにより、無注水軸受26A〜26Cの異常の有無を容易かつ正確に判定することができる。
【0058】
なお、本発明のポンプの軸受診断装置10は、前記実施形態の構成に限定されるものではなく、種々の変更が可能である。
【0059】
例えば、前記実施形態では、立軸ポンプ11の駆動手段としてディーゼル機関25を用いたが、モータを適用してもよい。また、前記実施形態では、一対の圧力タンク43A,43Bを用い、圧力タンク43A内の空気によって露出工程を実行し、圧力タンク43B内の空気によって判定工程を実行したが、大容量の1個の圧力タンクによって構成してもよい。勿論、コンプレッサ46から直接空気を供給する構成としてもよい。
【0060】
さらに、前記実施形態では、先行待機型立軸ポンプ11の無注水軸受26A〜26Cを例に本発明を説明したが、本発明は他の立軸ポンプや横軸ポンプが備える水中軸受にも適用できる。また、無注水軸受26A〜26C以外の水中軸受にも適用可能である。さらに、診断対象の軸受はセラミック軸受29,34に限定されない。さらにまた、端末66の全部または一部の機能を制御盤65に組み込んでもよく、逆に制御盤65の機能の一部を端末66に組み込んでもよい。
【符号の説明】
【0061】
10…軸受診断装置
11…立軸ポンプ
13…ケーシング
18…吐出管(排水経路)
19…仕切弁
20…主軸
21…インペラ
26A〜26C…無注水軸受
27,32…軸受ホルダ
29,33…セラミック軸受
30,35…空気室
31,36…空気孔
37…排出孔
38A〜38C…空気注入配管
40…差圧測定配管
42…空気供給部
43A,43B…圧力タンク
46…コンプレッサ
47,50〜53…空気供給管
54…検出用配管
55…第1ホース
57…第2ホース
62…圧力計(検出部)
64…差圧計(検出部)
65…制御盤(露出制御部)
66…端末(判定部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポンプのケーシング内に主軸を支持する軸受を設け、これら軸受と主軸の隙間に、前記ケーシング外に配設した空気供給部から空気供給管路を介して空気を供給しながら、前記空気供給管路内の空気圧または前記空気供給管路内の空気圧と前記ケーシングの吐出側圧力の差圧を検出部によって検出し、その検出値に基づいて判定部によって前記軸受の異常を判定するようにしたポンプの軸受診断装置において、
前記ポンプのケーシングの下流側への排水経路を開閉可能な仕切弁を設けるとともに、
前記仕切弁を開弁状態から閉弁状態に切り換えた状態で、前記空気供給管路を介して空気供給部から前記軸受と前記主軸の隙間に空気を供給し、前記ケーシング内で前記軸受を空気中に露出させる露出制御部を設け、
前記露出制御部によって前記軸受の空気中に露出させた状態で、前記検出部および前記判定部によって前記軸受の異常を判定するようにしたことを特徴とするポンプの軸受診断装置。
【請求項2】
前記空気供給部は、第1および第2圧力容器と、これら圧力容器内に圧縮空気を供給する空気供給源とを備え、
前記露出制御部によって前記第1圧力容器から空気を前記ポンプのケーシング内に供給して前記軸受を露出させ、
前記検出部によって前記第2圧力容器から空気を前記軸受と前記主軸の隙間に空気を供給しながら、前記圧力計の検出圧力に基づいて圧力低下時間を測定する
ことを特徴とする請求項1に記載のポンプの軸受診断装置。
【請求項3】
前記軸受の筒状をなす軸受ケーシングに、内部に位置する前記主軸との隙間に侵入した異物を排出する排出孔を設けたことを特徴とする請求項1または請求項2のいずれか1項に記載のポンプの軸受診断装置。
【請求項4】
ポンプのケーシング内に配置された主軸を支持する軸受の診断方法であって、
前記ポンプのケーシングの下流側に設けた仕切弁を閉弁し、
前記軸受と前記主軸の間の隙間に、前記ケーシング外の空気供給部から空気供給管路を介して空気を供給して、前記ケーシング内で前記軸受を空気中に露出させ、
更に、前記空気供給部から前記空気供給管路を介して前記軸受と前記主軸の隙間に空気を供給しながら、前記空気供給管路内の空気圧または前記空気供給管路内の空気圧と前記ケーシングの吐出側圧力の差圧を検出し、
その検出値に基づいて前記軸受の異常を判定する
ことを特徴とするポンプの軸受診断方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−219697(P2012−219697A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−85532(P2011−85532)
【出願日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【出願人】(000152170)株式会社酉島製作所 (89)
【Fターム(参考)】