説明

ポンプ装置

【課題】いかなる流体種別、流体温度、吐出圧力等であっても、その使用に十分な安全性を確保できるポンプ装置を提供する。
【解決手段】第1ピストン連結軸9の両端部に各々第1ピストン11,13を固着し、各第1ピストン11,13を各々第1シリンダ3,5内に収容し、前記第1ピストン連結軸を駆動手段35で往復駆動することにより、各第1ピストン11,13を第1シリンダ3,5内で各々往復駆動させると共に、当該各第1ピストン11,13の押し退け側に吸込口19及び吐出口21を備えたポンプ室15a,17aを形成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体(液体/気体)を圧送あるいは循環させるポンプ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、流体を圧送あるいは循環させるポンプに対する要求は、次第に厳しさを増している。吐出圧力では、直接噴射式ガソリン・エンジンの10MPa以上、ディーゼル・エンジンの200MPa以上等の要求がある(特許文献1参照)。流体温度では、超伝導のための−50℃〜−273℃以下、化学反応のための800℃以上等の要求がある。流体種別では、「半導体関連の不純物のない流体」、「浸透・拡散性の高い超臨界流体」、「高濃度硫酸や塩酸等の腐食性流体」、あるいは「将来燃料としてのDME等の高圧可燃性流体」等の要求がある。また、原子力の発生熱を用いて次世代燃料である「水素」を「水」から生成する技術が、独立法人日本原子力研究開発機構で研究されている。その実用化のためには、「≦500℃、98%硫酸」や「≦500℃、溶融沃素」の流体(気体/液体)をライン圧力≧2MPaの状態で循環させる必要があり、この場合には、可燃性の「水素」を取り扱う関係から、ポンプには「防爆性」が要求される。
従来、上述した「様々な極限環境」で使用可能な「同一形式(=同一構造)のポンプ/ブロワー」は存在しない。そのため、それぞれの要求に合わせるべく、その都度、「カスケード(遠心)式ポンプ」や「歯車(容積)式ポンプ」等の多くのポンプ(ブロワー)型式の中から構造選択し、特注製作してきた。
【特許文献1】特開平10−288145
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで「腐食性流体(液体)」や「広い温度範囲の流体」に関しては、「吐出機構」部分が非接触であり、シールが不要であることから、セラミックス系材料を用いた「カスケード(遠心式)式ポンプ」が用いられている。その中には使用温度≦450℃で、吐出圧力≦5.5MPaに至る性能のものも市販されている。しかし、このような「カスケード(遠心式)式ポンプ」で、上述した「水素」製造に必要な、「≦450℃、98%硫酸」や「≦450℃、溶融沃素」等の流体に対応可能な、高温・耐食性の複合した要求に応えられるポンプは存在しない。しかも、この種の「カスケード(遠心式)式ポンプ」で、「10MPa」を越える液体吐出圧力性能を発揮させることは不可能である。殊に、「カスケード(遠心式)式ポンプ」は、「気体の圧送能力」で、「≧0.2MPa」の吐出圧力は不可能である。また、吐出のための「インペラ」形状が特殊なため、使用条件や要求仕様が変更された時のポンプ製造が極めて困難である。吐出圧力≧0.02MPaの場合には、「ルーツ式」や「スクリュー(ネジ)式」等のギヤ式ポンプが用いられる。このギヤ式ポンプは、液体用ポンプとしても、吐出圧力性能に優れているが、歯車の2箇所の側面、歯先の3箇所のシールを維持する間隙設定が困難なため、広い温度範囲の流体への適用は困難である。また、「特殊なギヤ形状と副ギヤ等の必要性」から、腐食性流体への適用は勿論、≧450℃の高温度、あるいは−273℃に至る超低温流体への適用は困難である。また、「ポンプ」の駆動系としては、「電動モータ」、「マグネット・ドライブ」、「電磁駆動」等々、電気を用いて駆動されるため、「可燃性流体」への適用が困難である。このため、「電気側」を「安増防爆」や「耐圧防爆」等の対応をとることが必要で、駆動系に電気を用いる限り、「本質安全防爆」は困難である。
【0004】
そこで、本発明の目的は、上述した従来の技術が有する課題を解消し、いかなる流体種別、流体温度、吐出圧力等であっても、その使用に十分な安全性を確保できるポンプ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、第1ピストン連結軸の両端部に各々第1ピストンを固着し、各第1ピストンを各々第1シリンダ内に収容し、前記第1ピストン連結軸を駆動手段で往復駆動することにより、各第1ピストンを第1シリンダ内で各々往復駆動させると共に、当該各第1ピストンの押し退け側に吸込口及び吐出口を備えたポンプ室を形成したことを特徴とする。
この場合において、前記第1ピストン連結軸を前記第1シリンダ内に配置し、各第1ピストンの背圧側に交互に圧力流体を導いて前記第1ピストン連結軸を往復駆動するようにしてもよい。また、各第1ピストンのピストン長さをピストンストロークの1.5倍以上としてもよい。
【0006】
正逆回転自在な作動流体ポンプを備え、前記作動流体ポンプの吸排口と各第1ピストンの背圧側とを接続し、該作動流体ポンプを正逆回転させて各第1ピストンの背圧側に作動流体を交互に供給可能としてもよい。また、一方向に回転する作動流体ポンプを備え、前記作動流体ポンプの吸排口に流路切替弁を介して各第1ピストンの背圧側を接続し、該作動流体ポンプを一方向に回転し、前記流路切替弁を切り替えることにより、各第1ピストンの背圧側に作動流体を交互に供給可能としてもよい。
第2ピストン連結軸の両端部に各々第2ピストンを固着し、各第2ピストンを各々第2シリンダ内に収容し、各第2ピストンの押し退け側に吸排口を有するポンプ室を形成した直動ポンプを備え、前記直動ポンプの吸排口と前記各第1ピストンの背圧側とを接続し、該直動ポンプの第2ピストン連結軸を往復駆動することにより、各第2ピストンを第2シリンダ内で各々往復駆動させて、前記各第1ピストンの背圧側に作動流体を交互に供給可能としてもよい。
【0007】
前記第2ピストン連結軸にラックギヤを形成し、該ラックギヤに噛み合うピニオンギヤを備え、該ピニオンギヤを駆動モータで回転駆動して、第2ピストン連結軸を往復駆動するようにしてもよい。
前記第1ピストンの背圧側に出入りする作動流体冷却用の熱交換器を備えてもよい。
前記第1ピストンの内部を真空構造としてもよい。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、「−273℃〜800℃」に至る広い温度範囲の腐食性流体等の各種流体を、液体で例えば≧30MPa、気体で例えば≧1MPaに至る吐出圧力性能で、安全、確実且つ容易に移送を実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の一実施の形態を、添付した図面を参照して説明する。
図1において、1は「極限環境ポンプシステム」に適用されるポンプ本体を示す。このポンプ本体1は、外周に放熱フィン5aを有した左右一対の第1シリンダ(以下、単にシリンダとする。)3,5と、各シリンダ3,5を連結する連結体7と、連結体7の貫通孔7aを貫通し、その両端が各シリンダ3,5内に延出した、一本の剛性の高い中空軸からなる第1ピストン連結軸(以下、単にピストン連結軸とする。)9と、ピストン連結軸9の両端部に固着された第1ピストン(以下、単にピストンとする。)11,13と、ピストン11,13の押し退け室側に形成されたポンプ部15,17とを備えて構成されている。ポンプ部15,17は、ポンプ室15a,17aと、ポンプ室15a,17aに連通自在に構成した、流体の吸込口19、及び吐出口21とを備える。吸込口19、及び吐出口21には、各々吸込弁23、吐出弁25が配置されている。
【0010】
ポンプ部15,17は高温、腐食流体接液部であり、その構成部材は例えば炭化珪素(SiC)等で形成される。ピストン11,13のピストンクラウン11a,13aは、同じく炭化珪素(SiC)等の耐食材料で構成され、ピストンの内部空間は、流体温度損失の低減と熱伝達を遮断するため、真空とされている。
【0011】
ピストン11,13の外周にはピストンリング14が嵌められ、ピストンリング14の摺動部での吐出流体混合による漏洩防止のため、ピストン11,13の長さは、ピストンストロークの1.5倍長以上、望ましくは2倍長以上に設定される。ピストンリング14は三段階に亘って配置される。「吐出流体側リング14a」材質には、耐熱・耐食性の例えば「ファインカーボン」等を用い、「中央部リング14b」材質には、ベスペルやTI樹脂等の耐熱・耐食性樹脂を用い、「ピストン下部リング14c」材質には、テフロン(登録商標)系シールを用いて、吐出流体の漏洩を完全防止している。「ピストン/ピストンリング」により「吐出流体」と完全遮断された結果、ポンプ室15a,17aを「高温・腐食性流体」が循環しても、ピストン11,13の摺動部、すなわち連結体7の貫通孔は「高温・腐食性流体」に暴露されない。ピストン(ダイアフラム)下部の摺動作動部分(ピストン連結軸9)は、常温・非腐食性環境を確保できるため、例えば、SUS316等の一般的な金属材料の適用を可能としている。但し、「98%硫酸や塩酸」等の危険な腐食性吐出流体を取扱う場合のみ、フェイル・セーフのために、「ピストン連結軸9摺動部分」にはテフロン(登録商標)・コートされたSUS316等の一般的な金属が使用される。フェイル・セーフ設計で耐食性を施す場合であっても、連結体7は純粋炭化水素系潤滑剤等を含浸した材料で形成されており、連結体7の貫通孔を摺動するピストン連結軸9の外周部には安価なテフロン(登録商標)・コート処理が行われている。
【0012】
上記連結体7には、ピストン11,13の背圧側に各々連通した一対の流路27,29が穿孔形成されている。流路27,29には配管31,33を介して正逆回転可能なギヤポンプ35(駆動手段)が接続され、該ギヤポンプ35にはカップリング37を介して正逆回転駆動自在にACサーボモータ39が連結されている。ギヤポンプ35を正逆回転させる手段はACサーボモータ39に限定されない。また、配管31,33間は配管30で接続され、配管30には二方電磁弁32が接続され、さらに、配管31,33間は配管81で接続され、配管81には三方電磁弁82が接続され、三方電磁弁82には作動流体を貯留した作動流体リザーブ・タンク83が連結されている。41は、作動流体冷却用の熱交換器であり、外部冷熱源との熱交換により配管31,33内を流れる流体を冷却してピストン11,13の背圧側に供給する。上記総ての部品は、旋盤とフライス加工等の一般加工により、安価に製造されている。右側のシリンダ5には、右側のピストン13の下死点位置を検出するための検出センサ91が配置され、上記連結体7には、ピストン連結軸9の中間位置を検出するための検出センサ92が配置されており、各検出センサ91,92はコントローラ90に接続され、コントローラ90はACサーボモータ39及び三方電磁弁82に接続されている。
【0013】
本構成では、シリンダ3,5内を左右に直動する「摺動軸/軸受構造」と、一本のピストン軸9に連接された左右2つのピストン11,13から構成される。
左右のピストン11,13(ストロークの小さい場合は、吐出流体の漏洩=ゼロの、SUS316、ハステロイ、タンタル製のダイアフラムの使用も可)の背圧側には、吐出流体に無反応な“潤滑油等の液”で満たされた「独立した部屋42,43」が構成され、独立した左右の部屋42,43は接続配管31,33によりギヤポンプ35の吸排口に接続されている。そして、ACサーボモータ39(ステッピングモータ等でも可)によりギヤポンプ35を正逆回転駆動し、一方のピストン11の背圧側42から他方のピストン13の背圧側43に充填液体を移動し、他方のピストン13の背圧側43から一方のピストン11の背圧側42に充填液体を移動し、これを繰り返すことで、ピストン11,13を直動し、これによりポンプ部15,17がポンプ動作する。
【0014】
本構成では、左右のピストン11,13が、一本の剛性の高いピストン連結軸9で連接されているため、ピストンクラウン11a,13aに負荷される「吐出ライン圧力」が相殺される。この結果、「ライン圧力」の大きさに関わらず、吐出圧力と吐出流量に対応した仕事で済むため、「ピストン11,13」作動のための必要駆動トルクが小さい。ピストン11,13は、シリンダ・ライナー3,5とは非接触で(=ある一定の間隙を保って)ポンプ作用を行なう。このため、「吐出ライン温度」において「−273℃〜800℃」に至る広い温度範囲でのポンプ作用を約束している。すなわち、「ピストン」/「シリンダ・ライナー」の間隙は充分な広さを有しているため、例えば厳寒のシベリア等におけるエンジン始動時の「−50℃」から、稼動時の、その燃焼温度が3,000℃に至る温度で円滑に作動する「自動車用エンジン」に匹敵する「−273℃〜800℃」に至る広い範囲での流体等に適用可能である。
【0015】
本構成では、「非圧縮性流体の“液体”」を用いて、「ACサーボモータ39の回転方向制御」により、左右のピストン11,13の背圧側に供給する流体の方向を切り替えているため、ピストン11,13を等速運動で作動させることができ、無脈動のポンプを構成することができる。「ACサーボ・モータ39」による「駆動流体用ポンプ」は、等速で作動され、左右のピストン11,13の一方が「吐出作用」を行なっている時、他方は、「吸入作用」を行ない、吐出を完了し、ピストン11,13が上死点に達すると同時に、当該ピストン11,13は「吸入作用」に移行し、他方は「吸入から吐出作用」に移行する。例えば、右側のピストン13の下死点を検知する下死点位置検出センサ91が該ピストン13の下死点を検出した場合(その時、左側のピストン11は上死点位置にある。)に、「コントローラ90」に信号を出力し、「ACサーボ・モータ39」を逆回転させ、ギヤポンプ35を逆回転させ、「吐出ポンプ」の「左右のピストン11,13」にそれぞれ逆の動作を行なわせる。本構成では、クランクを用いたピストン・ポンプが正弦波形状の吐出流量挙動を呈するのに対し、等速でピストン11,13を作動させるため、「定流量」特性且つ脈動の無い、優れた流量特性を有する。
【0016】
尚、ギヤポンプ35の始動時には、図1の配管31,33間を連結する配管30に設けた二方電磁弁32を、配管31,33間の連通位置に切り替えておき、ギヤポンプ35の吐出をショートカットして吸込みに戻し、無負荷運転し、ポンプ本体1側の準備が整った段階で、二方電磁弁32を図1の状態に切り替え、配管31,33間の連通を断ち、ギヤポンプ35の吐出を、左右のピストン11,13の背圧側に供給する。また、本システムに異常が発生した場合、二方電磁弁32を配管31,33間の連通位置に切り替えることで、ギヤポンプ35の吐出をショートカットして吸込みに戻し、無負荷運転し、いわばシステムを緊急停止することも可能である。
【0017】
また、「吐出流体」周りには、「ポンプを駆動するための流体」のみのため、“完全防爆環境”を実現でき、このことにより、「水素」、「ガソリン」、「DME」等々の可燃性流体環境での使用を約束させる。本構成では、ピストン11,13の内部を「真空断熱構造」としたため、「吐出流体の温度低下の防止(=吐出流体を冷却させない)」が図れ、しかも「ピストン背圧側への熱伝達の抑制」が図れる。
【0018】
「ピストン11,13」摺動部は、上述したように、耐食性対応が不要で常温環境に有るため、吐出流体に関わらず、一般的な最適材料が使用可能である。接液部部品であるピストン、シリンダ・ライナー、シリンダ・ヘッド等に関しては、吐出流体に対応した最適な材質選定により、あらゆる流体に対応が可能である。
【0019】
この構造方式では、吐出流体に暴露される、「ピストン11,13」、「シリンダ3,5」、「シリンダ・ヘッド15,17」、「吸・吐出バルブ23,25」、「ピストンリング14」、「ガスケット」の6部品は、一般加工機械である「旋盤とフライス盤」のみでの加工が容易なため、「吐出流体」に合わせた最適な耐食材料での製造が簡単に行なえる。また、構成部品が旋盤やフライス盤等の一般的な製造機器で製造が可能なため、ポンプの大型化も容易で、比較的安価に製造できる。
【0020】
上記構成では、ギヤポンプ35の左右の吸排口から吐出される駆動用流体温度が不均衡変化した場合に、駆動流体のライン圧力が変化する恐れがある。これを解消するため、本構成では、配管31,33に作動流体冷却用の熱交換器41が設けられ、ピストン駆動流体の温度管理が行われる。万一、左右の「駆動用流体温度」が不均衡変化した場合でも、「ピストン11,13」駆動を、「ピストン」位置(=例えば、下死点)検出センサ91で管理して動作させるため、大きな問題に至ることがない。但し、長期稼動で、「左右の圧力バランスが崩れたり」、あるいは、「駆動流体温度が異常に高くなったり」、「駆動流体の漏洩により」、駆動流体のライン圧力が変化する場合が想定される。このため、本実施の形態では、ピストン駆動流体を流す2つの配管31,33同士を配管81で接続し、配管81に三方電磁弁82を設け、該三方電磁弁82に駆動流体リザーブ・タンク83を接続して構成される。そして、本構成では、上記連結体7に設けた検出センサ92が、ピストン連結軸9の中間位置を検出し、左右ピストン11,13位置が等しくなった時に、コントローラ90を介して三方電磁弁82を連通し、左右の圧力差を均質にさせる機能が付加されている。また、リザーブ・タンク83上部は、真空に保持され、「駆動流体」内部に発生した“気泡”を同時且つ瞬時に除去できる。この結果、「駆動流体」の移送に伴い、応答遅れの無い「ピストン」作動が約束される。なお、「駆動流体」充填時には、「流体の真空気泡除去」が行なわれるため、「リザーブ・タンク83」上部には、He、N2、CO2等の不活性気体を充填させてもよい。
【0021】
ポンプ本体1の作動は、「ピストン駆動流体」を介して行なわれるため、「可燃性流体」や「腐食性流体」等の吐出流体が、万一、「ピストンリング14」を介して漏洩した場合であっても、当該領域は「常温」且つ「完全防爆環境」である。従って、構成材質は「テフロン(登録商標)・コート」処理程度の対応で済む。また、上述したように、左右の「ピストン11,13」は直動軸9を介して連接されているため、吐出流体のライン圧力に影響されずに、「吐出圧力と流量」のみに比例した“最小の仕事”でポンプ作用を行なえる。この「ポンプ/ブロワー」の実現は、2つの社会的な意義と効果を有する。
(イ)その一つは、石油系燃料の枯渇に対応して、可搬エネルギとしての「水素」を、原子炉での反応熱を利用して「水」から生成させる場合において、そこでの中核技術である高温、耐腐食性「≦450℃、98%硫酸や溶融沃素」ポンプを容易に実現できる。そのため、「本発明」の技術の実現は、次世代燃料の「水素製造技術」を確立させる重要な意義がある。(ロ)「ポンプやブロワー」は、我々の心臓(ポンプ)や肺(ブロワー)に見られるように、機械要素技術として重要な技術であり、例えば、超伝導のための「―273℃に至る低温流体移送」や超臨界流体のための「高温・高圧流体移送」、次世代自動車用燃料の一つであるDME等の「高圧可燃性流体」等の極限環境対応のポンプ・ブロワーを、本提案の技術は、安価且つ安全に提供可能なため、社会に対する影響も大きく、要素技術故に、他の技術への波及効果も大である。
【0022】
本構成では、「駆動流体用ポンプ」の一つである、市販の「ギヤポンプ35」を使用できる。一般のギヤポンプ35では、20MPaの吐出圧力性能を有するため、「20MPa≧」を超える、自由な吐出圧力性能を有するポンプを提供可能である。
今、「吐出ポンプ」の「ピストン上面の面積」を「Au」、「ピストン下面の面積」を「Ad」とすると、吐出圧力「Pmax」は、次式で与えられる。
Pmax=20(Ad/Au) ・・・・・(1)
「吐出ポンプ」の大きさによっても異なるが、凡そ、通常の「(Ad/Au)≒〜(3/4)」から、逆に、「ピストン」の径を小さくして「Au≪Ad」とした構造が可能であるので、仮に、「Ad=4・Au」とした場合は、「Pmax=〜15MPa〜80MPa」程度が期待される。
【0023】
「気体」の場合は、圧縮比の影響を受けるため、行程容積を「Vs」、下死点における容積を「Vs+Vc」、その時の「吸入終わりのシリンダ内圧力」を「P1」、上死点における容積を「Vc」とすると、吐出圧力「Pmax」は次式で与えられる。
Pmax={(Vs+Vc)/Vc}P1
=ε・P1 ・・・・・(2)
(2)式中の「ε」は圧縮比であり、ストロークや「吐出ポンプ」の大きさによっても異なるが、凡そ、「ε≒〜20」が可能で、「気体」の場合は、「Pmax≦2MPa」程度が期待される。
【0024】
図2及び図3は、別の実施形態を示す。尚、図2及び図3において、図1と同一部分には同一符号を付して示し、その説明を省略する。本実施の形態では、ギヤポンプ35の代わりに、一方向にのみ回転するポンプ100が使用される。ポンプ100の吸入及び吐出には、三方電磁弁(流路切替弁)101,102が各々接続され、三方電磁弁101,102を介して、配管31,33に接続されている。41は、作動流体冷却用の熱交換器であり、外部冷熱源との熱交換により配管31,33内を流れる流体を冷却してピストン11,13の背圧側に供給する。左右のシリンダ3,5には、ピストン13,15の下死点位置を検出する検出センサ103,104が配置され、各々の検出センサ103,104はコントローラ105に接続され、該コントローラ105は三方電磁弁101,102に接続されている。106は駆動用モータである。
【0025】
左右のピストン11,13の背圧側には、吐出流体に無反応な“潤滑油等の液”で満たされた部屋42,43が構成され、左右の部屋42,43は接続配管31,33によりポンプ100の吸入及び吐出口に接続されている。そして、駆動用モータ106によりポンプ100を一方向に回転駆動すると、充填液体が、図2に示すように、一方のピストン11の背圧側42から三方電磁弁101を経てポンプ100の吸い込みに至り、ポンプ100で吐出され、三方電磁弁102を経て他方のピストン13の背圧側43に移動し、他方のピストン13を上死点に向けて押動する。この場合、一方のピストン11は下死点に至り、検出センサ103が下死点を検出すると、コントローラ105が三方電磁弁101,102を、図3に示す位置に切り替える。すると、充填液体は、図3に示すように、他方のピストン13の背圧側43から三方電磁弁101を経てポンプ100の吸い込みに至り、ポンプ100で吐出され、三方電磁弁102を経て一方のピストン11の背圧側42に移動し、一方のピストン11を上死点に向けて押動する。
【0026】
本構成では、ポンプ100が一方向にのみ回転し、三方電磁弁101,102の切り替えにより充填流体の流れが切り替わり、これを繰り返し、ピストン11,13を直動し、これによりポンプ部15,17をポンプ動作させる。
【0027】
図4は、別の実施形態を示す。尚、図4において、図1と同一部分には同一符号を付して示し、その説明を省略する。
本実施の形態では、ギヤポンプ35の代わりに直動ポンプ(駆動手段)50が使用される。直動ポンプ50は本体部51を備え、この本体部51の内側を一対の軸受け52,53により支持した第2ピストン連結軸55が貫通している。第2ピストン連結軸55の両端部には、各々第2ピストン56,57が固着され、各第2ピストン56,57は本体部51の両端に固定した第2シリンダ58,59内に各々収容されている。各第2ピストン56,57の押し退け側には吸排口60,61を有するポンプ室62,63が形成され、この吸排口60,61と上述した連結体7の流路27,29とが配管72,73を介して接続され、該閉ループ内には作動流体が封入される。64は、作動流体冷却用熱交換器であり、外部冷熱源との熱交換により、配管72,73内を流れる作動流体を冷却してピストン11,13の背圧側42,43に供給する。
【0028】
第2ピストン連結軸55には軸方向に延びるラックギヤ65が形成され、ラックギヤ65にはピニオンギヤ66が噛み合う。ピニオンギヤ66は軸受け67で支持した回転軸68に固定され、回転軸68はカップリング69を介してACサーボモータ70の出力軸71に連結されている。そして、ACサーボモータ70が駆動されるとピニオンギヤ66が回転し、ラックギヤ65と一体の第2ピストン連結軸55が往復駆動し、第2ピストン56,57が第2シリンダ58,59内で各々往復駆動する。これによりポンプ室63の吸排口60,61を通じて各第1ピストン11,13の背圧側に作動流体が交互に供給され、第1ピストン連結軸9が往復運動する。
【0029】
すなわち、直動ポンプ50の動作により、一方のポンプ室62の作動流体が排出されると、その作動流体が供給される側のポンプ本体1のピストン11が上死点側に移動し、圧縮作用をして吐出を行なう。この時、ポンプ本体1の他方のピストン13は、「作動流体」を排出するため、ポンプ本体1の「ピストン13」は下死点側に移動し、膨張作用をして吸入を行なう。この動作を連続的且つ等速で行なうため、吐出脈動の小さい特徴を有するポンプが構成される。
【0030】
「ラック&ピニオン」による「直動ポンプ」では、自由な供給圧力を提供できるため、液体吐出の場合は、「Pmax≧50MPa」を越えて、≧100MPaの吐出圧力も可能である。但し、気体の場合、前述の「ε」によって一義的に決定されるので、「Pmax≦2MPa」程度となる。なお、ポンプ本体1の駆動源としては、上記「ラック&ピニオン」に拠らず、「クランク軸とプランジャ」から構成される「プランジャポンプ」型の「駆動流体移送ポンプ」を用いてもよい。但し、クランク軸駆動の場合には、クランクの回転方向に、プランジャがシリンダ・ライナーに押し付けられる力を生じるため、摩擦・磨耗の面で劣る欠点がある。
【0031】
工業的利用価値
(1)「−273℃〜800℃」の広い温度範囲で、その流体温度を低下させることなく、吐出・循環させるポンプを提供可能。このため、「A.超伝導のための低温流体」、「B.高温溶融金属流体」、「C.高温反応流体」、「D.高温・高圧の超臨界流体」等々の「極限環境流体」の搬送や循環ポンプの提供が可能となる。
(2)「流体(液体)」を用いてポンプを駆動する「完全防爆構造」のため、「水素」、「ガソリン」、「DME」等の可燃性流体に適用できる。
(3)「ピストン駆動流体用ポンプ」の供給圧力、「吐出用ピストンの外径/駆動ピストンの外径」比を変更することにより、吐出液体の圧力を「Pmax≧30MPa」、吐出気体の圧力を「Pmax≧1MPa」の性能を有するポンプを提供できる。しかも、左右のピストンが機械的に連接されているため、「高いライン圧力環境」でもそれに影響されず、「吐出圧力と吐出流量」のみに対応した最小仕事で効率良いポンプを実現できる。
(4)吐出流体に暴露される、「ピストン」、「シリンダ」、「シリンダ・ヘッド」、「吸・吐出バルブ」、「ピストンリング」、「ガスケット」等の6部品が、一般加工機械である「旋盤とフライス盤」のみで加工でき、該加工が容易なため、「吐出流体」に合わせた最適材料で構成された「A.98%硫酸や塩酸等の腐食性流体」、「B.浸透・拡散性の強い、水素や超臨界流体」、「C.超純水等のコンタミを嫌う流体」等々の、あらゆる流体に対応したポンプを実現できる。
【0032】
別の実施形態
(1)「ピストン11,13」の背圧側に充填された流体の、「吐出流体」への混入を防止するために、「シリンダ・ヘッド」と「シリンダ」間に、「ダイアフラム」を挟んで構成し、当該「ダイアフラム」を「ピストン」上面に機械的に接合してもよい。
(2)「500℃、98%硫酸」のような吐出流体の場合、「ピストン」背圧側充填流体には、当該硫酸と無反応の「CnH2n+2」の純粋な潤滑剤等を、あるいは、「食品等の吐出流体」の場合には、「ピストン」背圧側充填流体として、「水」等の「吐出流体」に不活性な流体を使用してもよい。
(3)「ピストン」背圧側充填流体の移動に、「ACサーボ・モータやステッピングモータ」等により駆動された「ギヤポンプ」や「ピストン・ポンプ」、あるいは「プランジャポンプ」を用い、一方のピストンが上死点(あるいは、他方のピストンが下死点)に達すると同時に、当該ピストン下部の充填流体を他方のピストン下部に供給し、当該ピストンが上死点(あるいは、他方のピストンが下死点)に達すると同時に、逆に、他方のピストン背圧側に充填流体を供給し、連続稼動させてもよい。
【0033】
別の実施形態
(4)「ピストン」背圧側充填流体の温度を一定に管理するために、「極限環境吐出ポンプ」と「駆動流体供給ポンプ」の間に、熱交換器41を連接させてもよい。
(5)「極限環境吐出ポンプ」の左右のピストン下部の「駆動流体の温度上昇や温度差」による「駆動流体の配管内圧力上昇や圧力不均衡」の抑制のため、「左右ピストン位置が同じ(=中間位置)」に達した瞬間に、「駆動流体リザーバー・タンク83」と連通する「電磁弁82」を開放し、「左右ピストン」下部の充填圧力を均一にしてもよい。
(6)「駆動流体リザーバー・タンク83」上部を「真空」とし、「駆動流体温度上昇により発生した“気泡”」等を除去して、極限環境吐出ポンプの運動特性を最適に保持させるように構成してもよい。
(7)閉ループへの「駆動流体」充填時に、流体内部の気泡を「真空脱泡」した場合は、「リザーバー・タンク83」上部に、He、N2、CO2等の「駆動流体」に不活性な気体を充填してもよい。
【0034】
別の実施形態
(8)「ピストン11,13」上面に、SUS316、ハステロイ、タンタル等の耐食性ダイアフラムを機械的に接合構成してもよい。この場合、吐出流体「漏れゼロ」を実現できる。「ダイアフラム」は、「シリンダ上面」と「シリンダ・ヘッド」とにより挟んで構成してもよい。「吐出流体」温度が、「−50〜250℃」の場合、「真空断熱構造ピストン」を省略し、「駆動流体」で「ダイアフラム」を直接稼動してもよい。
(9)「ピストン11,13」の長さは、「ストローク」の1.5倍以上が望ましい。「ピストンリング14」の摺動部には、必ず、吐出流体の残渣があり、「残渣領域」を、ピストンリング14が摺動すると、「吐出流体」と「ピストン駆動流体」とが混在してしまう。これを避けるには、吐出流体側「ピストンリング14a」は、「吐出流体側」のみで摺動し、駆動流体側「ピストンリング14c」は「駆動流体側」のみで摺動させる必要がある。これを実現すべく、ストロークの1.5倍以上のピストン長さが必要となる。有効最小長さが、ストロークの1.5倍となる。
【0035】
別の実施形態
(10)圧力は一様に伝達される。
すなわち、「一方のピストン11の面積をA1」、「他方のピストン13の面積をA2」とした場合、「A1」側に、「PIN」の駆動圧力を負荷すると、力は同じため、「A2」側には、「POUT」の駆動圧力が発生する。
OUT=(A1/A2)PIN ・・・・・・(3)
仮に、「(A1/A2)=4」の段付きピストンを構成し、
上記市販のギヤポンプ35を駆動流体ポンプとして使用した場合、「POUT=4×20=80MPa」の吐出圧力性能を有するポンプを実現できる。
このように、「吐出ポンプ」駆動に「駆動流体」を用いれば、「吐出圧力性能」を自由設計することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の一実施形態を示す回路図である。
【図2】本発明の別の実施形態を示す回路図である。
【図3】本発明の別の実施形態を示す回路図である。
【図4】本発明の別の実施形態を示す回路図である。
【符号の説明】
【0037】
1 ポンプ本体
3,5 シリンダ
7 連結体
9 第1ピストン連結軸
11,13 第1ピストン
15,17 ポンプ部
15a,17a ポンプ室
19 吸込口
21 吐出口
23 吸込弁
25 吐出弁
35 ギヤポンプ(駆動手段)
39 ACサーボモータ
50 直動ポンプ(駆動手段)
55 第2ピストン連結軸
56,57 第2ピストン
58,59 第2シリンダ
65 ラックギヤ
66 ピニオンギヤ
83 作動流体リザーブ・タンク
100 ポンプ
101,102 三方電磁弁
103,104 検出センサ
105 コントローラ
106 駆動用モータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1ピストン連結軸の両端部に各々第1ピストンを固着し、
各第1ピストンを各々第1シリンダ内に収容し、
前記第1ピストン連結軸を駆動手段で往復駆動することにより、各第1ピストンを第1シリンダ内で各々往復駆動させると共に、当該各第1ピストンの押し退け側に吸込口及び吐出口を備えたポンプ室を形成したことを特徴とするポンプ装置。
【請求項2】
前記第1ピストン連結軸を前記第1シリンダ内に配置し、
各第1ピストンの背圧側に交互に圧力流体を導いて前記第1ピストン連結軸を往復駆動することを特徴とする請求項1記載のポンプ装置。
【請求項3】
各第1ピストンのピストン長さをピストンストロークの1.5倍以上としたことを特徴とする請求項1又は2記載のポンプ装置。
【請求項4】
正逆回転自在な作動流体ポンプを備え、
前記作動流体ポンプの吸排口と各第1ピストンの背圧側とを接続し、
該作動流体ポンプを正逆回転させて各第1ピストンの背圧側に作動流体を交互に供給可能としたことを特徴とする請求項2記載のポンプ装置。
【請求項5】
一方向に回転する作動流体ポンプを備え、
前記作動流体ポンプの吸排口に流路切替弁を介して各第1ピストンの背圧側を接続し、
該作動流体ポンプを一方向に回転し、前記流路切替弁を切り替えることにより、各第1ピストンの背圧側に作動流体を交互に供給可能としたことを特徴とする請求項2記載のポンプ装置。
【請求項6】
第2ピストン連結軸の両端部に各々第2ピストンを固着し、
各第2ピストンを各々第2シリンダ内に収容し、各第2ピストンの押し退け側に吸排口を有するポンプ室を形成した直動ポンプを備え、
前記直動ポンプの吸排口と前記各第1ピストンの背圧側とを接続し、
該直動ポンプの第2ピストン連結軸を往復駆動することにより、各第2ピストンを第2シリンダ内で各々往復駆動させて、前記各第1ピストンの背圧側に作動流体を交互に供給可能としたことを特徴とする請求項2記載のポンプ装置。
【請求項7】
前記第2ピストン連結軸にラックギヤを形成し、該ラックギヤに噛み合うピニオンギヤを備え、該ピニオンギヤを駆動モータで回転駆動して、第2ピストン連結軸を往復駆動することを特徴とする請求項6記載のポンプ装置。
【請求項8】
前記第1ピストンの背圧側に出入りする作動流体冷却用の熱交換器を備えたことを特徴とする請求項2乃至7のいずれか一項記載のポンプ装置。
【請求項9】
前記第1ピストンの内部を真空構造としたことを特徴とする請求項1乃至8のいずれか一項記載のポンプ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−184902(P2008−184902A)
【公開日】平成20年8月14日(2008.8.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−16336(P2007−16336)
【出願日】平成19年1月26日(2007.1.26)
【出願人】(591160338)株式会社技術開発総合研究所 (12)
【出願人】(506147744)榎本工業株式会社 (3)
【Fターム(参考)】