説明

ポンプ装置

【課題】ベローズに伝わる振動を簡易かつ調整可能な構造で低減可能なポンプ装置を提供する。
【解決手段】防振ダンパ350は、振動を減衰するためのゴム部材306と、大気と真空の境界を維持するベローズ302から構成される。ベローズ302の溝302aの一部には弾性材321a、321bが埋め込まれている。ゴム部材306はベローズ302の回りに巻かれた後、固定用バンド323で締結されており、ベローズ302とゴム部材306との間には隙間324が形成されている。ゴム部材306が存在することでターボ分子ポンプ本体100が真空引きされたときであってもベローズ302が大きく収縮することはない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポンプ装置に係わり、特にベローズに伝わる振動を簡易かつ調整可能な構造で低減可能なポンプ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年のエレクトロニクスの発展に伴い、メモリや集積回路といった半導体の需要が急激に増大している。
これらの半導体は、極めて純度の高い半導体基板に不純物をドープして電気的性質を与えたり、半導体基板上に微細な回路パターンを形成し、これを積層するなどして製造される。
【0003】
そして、これらの作業は空気中の塵等による影響を避けるため高真空状態のチャンバ内で行われる必要がある。このチャンバの排気には、一般に真空ポンプが用いられているが、特に残留ガスが少なく、保守が容易である等の点から真空ポンプの中の一つであるターボ分子ポンプが多用されている。
【0004】
また、半導体の製造工程では、さまざまなプロセスガスを半導体の基板に作用させる工程が数多くあり、ターボ分子ポンプはチャンバ内を真空にするのみならず、これらのプロセスガスをチャンバ内から排気するのにも使用される。
【0005】
さらに、ターボ分子ポンプは、電子顕微鏡等の設備において、粉塵等の存在による電子ビームの屈折等を防止するため、電子顕微鏡等のチャンバ内の環境を高度の真空状態にするのにも用いられている。
【0006】
このようなターボ分子ポンプは、半導体製造装置や電子顕微鏡等のチャンバからガスを吸引排気するためのターボ分子ポンプ本体と、このターボ分子ポンプ本体を制御する制御装置とから構成されている。
【0007】
ここで、ターボ分子ポンプ本体の縦断面図を図5に、このターボ分子ポンプ本体をチャンバ内の真空引き等に用いた場合の装置システム全体の構成図を図6に示す。
図5において、ターボ分子ポンプ本体100は、円筒状の外筒127の上端に吸気口101が形成されている。外筒127の内方には、ガスを吸引排気するためのタービンブレードとしての複数の回転翼102a,102b,102c・・・を周部に放射状かつ多段に形成した回転体103を備える。
【0008】
この回転体103の中心にはロータ軸113が取り付けられており、このロータ軸113は、例えば、いわゆる5軸制御の磁気軸受により浮上支持かつ位置制御されている。
【0009】
上側径方向電磁石104は、4個の電磁石が互いに直行するX軸とY軸とに対をなしロータ軸113を挟んで対向配置されている。このX軸とY軸は、ロータ軸113が磁気軸受の制御目標位置にあるときのロータ軸113の軸芯に対して直角な平面上に想定されている。また、この上側径方向電磁石104に近接かつ対応されコアに巻かれた4個のコイルからなる上側径方向センサ107が備えられている。この上側径方向センサ107は回転体103の径方向変位を検出し、その信号を制御装置に送るように構成されている。
ロータ軸113は、高透磁率材(鉄など)などにより形成され、上側径方向電磁石104の磁力により吸引されるようになっている。
【0010】
また、下側径方向電磁石105及び下側径方向センサ108が、上側径方向電磁石104及び上側径方向センサ107と同様に配置され、ロータ軸113の下側の径方向位置が、上側の径方向位置と同様に、制御装置において、磁気軸受フィードバック制御手段により調整されている。
【0011】
さらに、軸方向電磁石106A,106Bが、ロータ軸113の下部に備えた円板状の金属ディスク111を上下に挟んで配置されている。金属ディスク111は、鉄などの高透磁率材で構成されている。回転体103の軸方向変位を検出するために軸方向センサ109が備えられ、その軸方向変位信号が制御装置に送られるように構成されている。
【0012】
軸方向電磁石106Aは、磁力により金属ディスク111を上方に吸引し、軸方向電磁石106Bは、金属ディスク111を下方に吸引する。
【0013】
このように、制御装置では、磁気軸受フィードバック制御手段により、軸方向電磁石106A,106Bが金属ディスク111に及ぼす磁力を適当に調節し、ロータ軸113を軸方向に磁気浮上させ、空間に非接触で保持する。
【0014】
モータ121は、その回転子側にロータ軸113を取り囲むように周状に配置された複数の永久磁石の磁極を備えている。そして、これらの永久磁石の磁極には、モータ121の固定子側である電磁石から、ロータ軸113を回転させるトルク成分が加えられるようになっており、回転体103が回転駆動されるようになっている。
また、モータ121には、図示しない回転数センサ及びモータ温度センサが取り付けられており、これらの回転数センサ及びモータ温度センサの検出信号を受けて、制御装置においてロータ軸113の回転が制御されている。
【0015】
回転翼102a,102b,102c・・・とわずかの空隙を隔てて複数枚の固定翼123a,123b,123c・・・が配設されている。回転翼102a,102b,102c・・・は、それぞれ排気ガスの分子を衝突により下方向に移送するため、ロータ軸113の軸線に垂直な平面から所定の角度だけ傾斜して形成されている。
【0016】
また、固定翼123も、同様にロータ軸113の軸線に垂直な平面から所定の角度だけ傾斜して形成され、かつ外筒127の内方に向けて回転翼102の段と互い違いに配設されている。
そして、固定翼123の一端は、複数の段積みされた固定翼スペーサ125a,125b,125c・・・の間に嵌挿された状態で支持されている。
【0017】
固定翼スペーサ125はリング状の部材であり、例えばアルミニウム、鉄、ステンレス、銅などの金属、又はこれらの金属を成分として含む合金などの金属によって構成されている。
固定翼スペーサ125の外周には、わずかの空隙を隔てて外筒127が固定されている。外筒127の底部にはベース部129が配設され、固定翼スペーサ125の下部とベース部129の間にはネジ付きスペーサ131が配設されている。
【0018】
このベース部129中のネジ付きスペーサ131の下部には排気口133が形成されている。そして、排気口133には、図示しないドライポンプ通路が接続されており、排気口133は、このドライポンプ通路を介して、図示しないドライポンプと接続されている。
【0019】
ネジ付きスペーサ131は、アルミニウム、銅、ステンレス、鉄、又はこれらの金属を成分とする合金などの金属によって構成された円筒状の部材であり、その内周面に螺旋状のネジ溝131aが複数条刻設されている。
ネジ溝131aの螺旋の方向は、回転体103の回転方向に排気ガスの分子が移動したときに、この分子が排気口133の方へ移送される方向である。
【0020】
回転体103の回転翼102a,102b,102c・・・に続く最下部には円筒部102dが垂下されている。この円筒部102dの外周面は、ネジ付きスペーサ131の内周面に向かって張り出されており、このネジ付きスペーサ131の内周面と所定の隙間を隔てて近接されている。
【0021】
ベース部129は、ターボ分子ポンプ本体100の基底部を構成する円盤状の部材であり、一般には鉄、アルミニウム、ステンレスなどの金属によって構成されている。ベース部129はターボ分子ポンプ本体100を物理的に保持すると共に、熱の伝導路の機能も兼ね備えているので、鉄、アルミニウムや銅などの剛性があり、熱伝導率も高い金属が使用されるのが望ましい。
【0022】
また、ベース部129には、コネクタ160が配設されており、このコネクタ160には、ターボ分子ポンプ本体100と制御装置との間の信号線が接続されている。
【0023】
かかる構成において、回転翼102がロータ軸113と共にモータ121により駆動されて回転すると、回転翼102と固定翼123の作用により、吸気口101を通じて、図6に示すチャンバ300から排気ガスが吸気される。
【0024】
吸気口101から吸気された排気ガスは、回転翼102と固定翼123の間を通り、ベース部129へ移送される。そして、ベース部129に移送されてきた排気ガスは、ネジ付きスペーサ131のネジ溝131aに案内されつつ排気口133へと送られる。
【0025】
また、吸気口101から吸気された排気ガスが、モータ121、上側径方向電磁石104、上側径方向センサ107、下側径方向電磁石105、下側径方向センサ108などで構成される電装部側に侵入することのないよう、電装部は周囲をステータコラム122で覆われ、この電装部内はパージガスにて所定圧に保たれている。
【0026】
このため、ベース部129には図示しない配管が配設され、この配管を通じてパージガスが導入される。導入されたパージガスは、保護ベアリング120とロータ軸113間、モータ121のロータとステータ間、ステータコラム122と回転翼102間の隙間を通じて排気口133へ送出される。
【0027】
ここに、ターボ分子ポンプ本体100は、機種の特定と、個々に調整された固有のパラメータ(例えば、機種に対応する諸特性)に基づいた制御を要する。この制御パラメータを格納するために、ターボ分子ポンプ本体100は、その内部に電子回路部141を備えている。電子回路部141は、EEP−ROM等の半導体メモリ及びそのアクセスのための半導体素子等の電子部品、その実装用の基板143等から構成される。
【0028】
この電子回路部141は、ターボ分子ポンプ本体100の下部を構成するベース部129の中央付近の図示しない回転数センサの下部に収容され、気密性の底蓋145によって閉じられている。
【0029】
ところで、ターボ分子ポンプ本体100は、半導体製造装置や電子顕微鏡等のチャンバ300に用いられる性質上、その低振動化が望まれている。
即ち、半導体製造装置のチャンバ300において、回路パターンの露光を行っている最中に振動が発生してしまうと、下層の回路パターンとの合わせずれが生じてしまい、正常な回路動作ができなくなるおそれがあった。
また、電子顕微鏡のチャンバ300においても、対象物を観察しているときに振動が発生してしまうと、その焦点が合わなくなり、画像が乱れてしまうおそれがあった。
【0030】
そのため、図6に示すように、ターボ分子ポンプ本体100は、チャンバ300との間にポンプ用ダンパ301を介設されつつ、宙吊りにされている。
但し、近年の半導体製造プロセスの微細化や電子顕微鏡の高分解能化等に対応するため、ポンプ用ダンパ301は1段では足りず複数段直列に介設するなどされている。このように、ポンプ用ダンパ301を複数段直列に介設した例を図7(縦断面図)に示す。
【0031】
ここに、ポンプ用ダンパ301Aとポンプ用ダンパ301Bとは、直列に接続されている。ターボ分子ポンプ本体100はポンプ用ダンパ301A、301Bを介設されつつ、宙吊りにされている。
【0032】
図7に示すポンプ用ダンパ301A、301Bは、蛇腹状のベローズ302A、302Bを備えており、このベローズ302A、302Bの外周には、ゴム部材306A、306Bが巻かれている。そして、ターボ分子ポンプ本体100とチャンバ300との間で、回転体103の回転に伴う振動を吸収するようになっている。このとき、ベローズ302Bの上端は、装置側フランジ307Bを介してボルト309によりチャンバ300に締結固定され、ベローズ302Aの下端は、ポンプ側フランジ303Aを介してボルト311によりターボ分子ポンプ本体100の吸気口101と締結固定されている。
【0033】
また、ベローズ302Bの下端にはポンプ側フランジ303Bが固着され、ベローズ302Aの上端には装置側フランジ307Aが固着されている。そして、この装置側フランジ307Aとポンプ側フランジ303Bとはボルト313で締結固定されている。装置側フランジ307Aとポンプ側フランジ303Bの間には、Oリング315が装着され、また、装置側フランジ307Bとチャンバ300との間にはOリング317が装着されている。
【0034】
かかる構成において、ターボ分子ポンプ本体100から振動が発生しても、その振動は、ポンプ用ダンパ301A、301Bに吸収されるため、チャンバ300に伝わり難くなる。
以上により、チャンバ300は、その低振動化が図られていた(特許文献1参照)。
【0035】
一方、成形品であるゴム部材306A、306Bを導入することによる寸法上の制約をとり除くために、ゴム部材306A、306Bを配設せずにベローズの各溝にOリングを嵌入した例が開示されている(特許文献2参照)。
【特許文献1】特開2002−295581号公報
【特許文献2】特開平5−340497号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0036】
ところで、かかる装置側の性能向上に伴い、防振ダンパでは免振できない微振動を低減させるためポンプ用ダンパ301を複数段設けようとする場合、その分設置スペースも大きく必要で、かつ部品コストが上昇してしまうおそれがあった。
【0037】
また、特許文献2のようにゴム部材306A、306Bを省略すると、ベローズ内部が真空状態になるに連れベローズ302A、302Bが外気圧の影響を受け大きく収縮する。特許文献2では、ベローズのすべての溝に対しOリングが嵌入されているが、このようにOリングをすべての溝に対し埋め込んだ場合、真空引きされてベローズ302A、302Bが収縮すると、ベローズ302A、302Bの動きがOリングにより拘束されてしまう。このため、この状態では、ベローズ自身の弾性が損なわれて逆に振動は伝播しやすくなる。従って、Oリングをすべての溝に対し埋め込んだ構成においては、ターボ分子ポンプ本体100を床等に固定したような場合でベローズ302A、302Bの収縮が生じない環境下でなければ実用化できないおそれがあった。
【0038】
本発明はこのような従来の課題に鑑みてなされたもので、特にベローズに伝わる振動を簡易かつ調整可能な構造で低減可能なポンプ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0039】
このため本発明(請求項1)は、ポンプと、該ポンプに接続されたポンプ側フランジと、排気の対象である装置と、該装置に接続された装置側フランジと、該装置側フランジと前記ポンプ側フランジ間に取り付けられたベローズと、前記装置側フランジと前記ポンプ側フランジ間に設けられたゴム部材とを備え、前記ベローズの外回りに形成された溝の数をn個として、弾性材をその内のm個(1≦m≦n−1個)の溝に対して配設したことを特徴とする。
【0040】
ベローズの外回りに形成された溝の内の一部の溝に対して弾性材を配設する。弾性材は、それぞれの溝に対し一本ずつ、かつ集中させて配設してもよいし、距離を置いてばらして配設してもよい。即ち、振動のうち、ベローズを介して装置側フランジへ伝播する成分に関して、ベローズのばね性で振動を低減させることに加え、ベローズの溝に弾力性のある弾性材を埋め込むこととする。このことにより、ベローズを伝播する振動に対し、減衰効果向上が期待できる。この際、埋め込む弾性材の量を調節することで、ベローズ自身の弾性を損なうことなく、ベローズを伝播する振動成分を効率良く減衰させることができる。
【0041】
また、本発明(請求項2)は、前記弾性材の前記溝に対する配設率((m/n)×100%)が10%以上30%以下であることを特徴とする。
配設率は10%以上30%以下が望ましく、12.5%以上25%以下であればより一層好ましい。
【0042】
さらに、本発明(請求項3)は、前記ポンプ側フランジと前記装置側フランジ間が所定長以上離れることを規制する規制手段を備えて構成した。
規制手段により、真空引きされない状態においてポンプ側フランジと装置側フランジ間が所定長以上離れることを規制できる。このため、ベローズとしてばね定数の小さいものを選択可能で、より振動に対する減衰率の高いものにできる。
【0043】
さらに、本発明(請求項4)は、前記ポンプには回転体を磁気浮上支持する磁気軸受を備えて構成した。
【発明の効果】
【0044】
以上説明したように本発明によれば、ベローズの外回りに形成された溝の内の一部の溝に対して弾性材を配設したので、ベローズを伝播する振動に対し、減衰効果向上が期待できる。この際、埋め込む弾性材の量を調節することで、ベローズ自身の弾性を損なうことなく、ベローズを伝播する振動成分を効率良く減衰させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0045】
以下、本発明の実施形態について説明する。本発明の実施形態である防振ダンパの縦断面図(概念図)を図1に示す。また、図2には断面斜視図(概念図)を示す。但し、図1と図2とは、共に概念図を示しており、またOリングの配設例及び配設方法等を異ならせた例を示している。
なお、図7と同一要素のものについては同一符号を付して説明は省略する。また、ポンプ側フランジ303にはターボ分子ポンプ本体100が固定されているが図中省略されている。
【0046】
図1及び図2において、防振ダンパ350は、振動を減衰するためのゴム部材306と、大気と真空の境界を維持するベローズ302から構成される。
ベローズ302の溝302aの一部には弾性材321a、321bが埋め込まれている。弾性材321の材料は、例えば、Oリング、シリコンゴム、ゲルシート等であり、溝302aに対し流し込むことで構成されてもよいし、成型された部材として配設されてもよい。Oリングの場合には、一端を切断した後、溝302aに対し巻くだけで装着可能である。
【0047】
ゴム部材306はベローズ302の回りに巻かれた後、固定用バンド323で締結されており、ベローズ302とゴム部材306との間には隙間324が形成されている。ゴム部材306が存在することでターボ分子ポンプ本体100が真空引きされたときであってもベローズ302が大きく収縮することはない。なお、このゴム部材306は、環状に構成されているが、複数本の柱状とされてもよい。
【0048】
また、装置側フランジ307とポンプ側フランジ303には、山形に折り曲げられた保護用フック325、327の水平に張り出したそれぞれの底部片325a、327aが固定されている。そして、山形の頂部同士は装置側フランジ307とポンプ側フランジ303を互いに離そうとした際に当接されることで、真空引きされない状態においてターボ分子ポンプ本体100が自重により所定距離以上落下しないようになっている。
なお、図2においては、ターボ分子ポンプ本体100のポンプフランジ151とポンプ側フランジ303とがボルト153及びナット155により締結され、一方、装置フランジ351と装置側フランジ307とがボルト157及びナット159により締結されている。そして、ポンプフランジ151とポンプ側フランジ303、及び装置フランジ351と装置側フランジ307間には長足ボルト161が通され、ナット163で止められている。長足ボルト161とナット163の存在により、上下それぞれのフランジは長足ボルト161とナット163で規制された範囲内でのみ移動可能となっている。従って、真空引きされない状態においてターボ分子ポンプ本体100が自重により所定距離以上落下しないようになっている。また、この長足ボルト161により、上下それぞれのフランジ間の回り止めが可能になっている。
【0049】
次に、本発明の実施形態の動作を説明する。
ターボ分子ポンプ本体100が発生する振動は、吸気口101のフランジに接続された防振ダンパ350のポンプ側フランジ303へ伝播する。この振動はベローズ302側を伝わると共にゴム部材306側を介しても伝わる。このため、基本的にゴム部材306のばね定数を小さくすることで、振動の減衰効果を期待できるが、ポンプZ軸方向は、大気圧に耐える剛性が必要である。従って、ゴム部材306のばね定数を小さくするのには限界がある。
【0050】
そこで、振動のうち、ベローズ302を介して装置側フランジ307へ伝播する成分に関して、ベローズ302のばね性で振動を低減することに加え、ベローズ302の溝302aに弾力性のある弾性材321を埋め込む。このことにより、ベローズ302を伝播する振動に対し、減衰効果向上が期待できる。
なお、ゴム部材306が存在することでターボ分子ポンプ本体100が真空引きされたときであってもベローズ302が大きく収縮することはない。このため、ベローズ302のばね性を良好に保持できる。
【0051】
また、保護用フック325、327の当接により、あるいは、長足ボルト161とナット163による規制により、真空引きされない状態においてターボ分子ポンプ本体100が自重により所定距離以上落下しない。このため、ベローズ302としてばね定数の小さいものを選択可能で、より振動に対する減衰率の高いものにできる。
【実施例】
【0052】
本発明の実施例について説明する。弾性材321としてOリングを用いた。このOリングはJIS B2401の呼び番号「G95」(太さd2=3.1)のものである。一方、ベローズ302の溝302aの寸法は3.0mmである。Oリングの太さは、ベローズ302の溝302aの寸法より少し大きく、溝302aに対し埋め込まれる状態で溝302aに対し隙間無く一杯に充填されることが望ましい。
次に、ベローズ302の溝302aに対しOリングをどの程度配設するのが適当かを試験した。
【0053】
試験方法を図3に示す。図3において、除振台テーブル401は、床400に立設されたフレーム402によって支持されており、除振台テーブル401とフレーム402との間には、振動アイソレータ403が介設されている。そして、ターボ分子ポンプ本体100を防振ダンパ350を介して、振動アイソレータ403で床400から免振された除振台テーブル401に設置した。
【0054】
この除振台テーブル401のテーブル上部中央には加速度センサ405が取り付けられており、除振台テーブル401の振動を加速度センサ405を用いて測定した。加速度センサ405で測定された信号は、センサアンプ407で増幅された後、高速フーリエ変換(FFT)されるようになっている。
【0055】
試験結果を図4に示す。図中、Oリング配設率は、ベローズ302の溝302aの数を全部でn個として、Oリングをその内のm個の溝に対して配設したとして、(m/n)×100%で示したものである。
【0056】
例えば、8個の溝に対して4本のOリングを配設した場合には、(4/8)×100=50%となる。そして、それぞれのOリング配設率に対して振動加速度(ラジアル方向成分)を測定した。図4には、Oリングを全く配設しなかった場合をOリング配設率0%とし、このとき測定された加速度を100%として示す。
【0057】
なお、ベローズ302の真空側にはOリングは配設しないので、ベローズ302の溝302aのすべてに対してOリングを配設したときのOリング配設率は50%が最高値となる。試験の結果、すべての溝302aに対してOリングを配設することは、Oリングを全く配設しなかった場合に比べ少しの振動減衰効果(12%程度)しか得られないことが分かった。このことは、すべての溝302aに対してOリングを配設することでベローズ302の動きが拘束されてしまい、ベローズ302のばね性を損なってしまっていることが原因と推測される。試験の結果、Oリング配設率が10%〜30%が望ましく、12.5%〜25%であればより一層好ましい。このときの振動減衰効果は、Oリングを全く配設しなかった場合に比べ45〜61%程度にまで減衰される。
【0058】
このように、埋め込む弾性材321の量を調節することで、ベローズ302自身の弾性を損なうことなく、ベローズ302を伝播する振動成分を効率良く減衰させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明の実施形態である防振ダンパの縦断面図(概念図)
【図2】本発明の実施形態である防振ダンパの断面斜視図(概念図)
【図3】試験方法を示す図
【図4】試験結果を示す図
【図5】ターボ分子ポンプ本体の縦断面図
【図6】装置システム全体の構成図
【図7】ポンプ用ダンパを複数段直列に介設した例
【符号の説明】
【0060】
100 ターボ分子ポンプ本体
101 吸気口
103 回転体
300 チャンバ
301、301A、301B ポンプ用ダンパ
302、302A、302B ベローズ
302a 溝
303、303A、303B ポンプ側フランジ
306、306A、306B ゴム部材
307、307A、307B 装置側フランジ
321、321a、321b 弾性材
323 固定用バンド
324 隙間
325、327保護用フック
350 防振ダンパ
405 加速度センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポンプと、
該ポンプに接続されたポンプ側フランジと、
排気の対象である装置と、
該装置に接続された装置側フランジと、
該装置側フランジと前記ポンプ側フランジ間に取り付けられたベローズと、
前記装置側フランジと前記ポンプ側フランジ間に設けられたゴム部材とを備え、
前記ベローズの外回りに形成された溝の数をn個として、弾性材をその内のm個(1≦m≦n−1個)の溝に対して配設したことを特徴とするポンプ装置。
【請求項2】
前記弾性材の前記溝に対する配設率((m/n)×100%)が10%以上30%以下であることを特徴とする請求項1記載のポンプ装置。
【請求項3】
前記ポンプ側フランジと前記装置側フランジ間が所定長以上離れることを規制する規制手段を備えたことを特徴とする請求項1又は請求項2記載のポンプ装置。
【請求項4】
前記ポンプには回転体を磁気浮上支持する磁気軸受を備えたことを特徴とする請求項1、2又は3記載のポンプ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−232029(P2008−232029A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−73086(P2007−73086)
【出願日】平成19年3月20日(2007.3.20)
【出願人】(598021579)エドワーズ株式会社 (44)
【Fターム(参考)】