説明

ポーラスコンクリート製造用型枠とポーラスコンクリートの製造方法、およびポーラス領域を具備するコンクリート部材の製造方法

【課題】所望する気孔率のポーラスコンクリートを製造することができ、さらには、製造されたポーラスコンクリートを使用して所望する部位にポーラス領域を備えたコンクリート部材を容易に製造することのできる、ポーラスコンクリート製造用型枠とポーラスコンクリートの製造方法、およびポーラス領域を具備するコンクリート部材の製造方法を提供すること。
【解決手段】底板1と側板2,3とからなり、底板1と側板2,3がそれぞれ連結具6を介して分解自在に箱状に組み立てられてなるポーラスコンクリート製造用型枠10であって、少なくとも底板1には孔13が設けてあり、型枠10内に注入されたコンクリートのうち、少なくともそのモルタル成分の一部が孔13を介して型枠10外へ排出されることでポーラスコンクリートPcを製造するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポーラスコンクリートを製造する際に使用される型枠と、この型枠を使用するポーラスコンクリートの製造方法、および、この製造方法で製造されたポーラスコンクリートをその内部に組み込むコンクリート部材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ビルやマンション、港湾施設、空港施設、ダム、高速道路や鉄道、地下道をはじめとする地下インフラ施設など、我々を取り巻く住環境施設の多くはコンクリートから造られている。
【0003】
この各種施設を構成するコンクリート部材には、所望の剛性を担保しながらもその軽量化を図るべく、気泡コンクリート、発泡コンクリート、軽量コンクリートなど、材料面からのアプローチで部材の軽量化を図ろうとする試みが一般におこなわれている。
【0004】
この材料面からのアプローチに対して本発明者等は、構造面からのアプローチで、所望の剛性(曲げ剛性、せん断剛性、ねじり剛性、引張および圧縮剛性など)を担保しながらも、部材の軽量化を図ろうとする開発を進めている。
【0005】
ところで、コンクリート部材には、構造物全体の中でその部材が使用される部位等によって要求される剛性が相違することが多く、これとの関連で、一つのコンクリート部材の中でも構造的に弱部とすることのできる箇所は少なからず存在する。
【0006】
たとえば、部材内の所望部位を所定の気孔率(空隙率)からなるポーラス領域とすることにより、コンクリート部材に要求される剛性を担保しながら、構造面からのアプローチで軽量化を図ることが可能となる。
【0007】
しかし、実際にこのようなポーラス領域を具備するコンクリート部材を製造しようとすると、現状の技術では、所望部位に所定の気孔率のポーラス領域を形成し、それ以外の領域を密実なコンクリートからなる領域とするようにして、双方の領域が一体化されたコンクリート部材を容易に製造することは極めて困難である。
【0008】
また、このポーラス領域を具備するコンクリート部材の製造は、その軽量化を図ることだけでなく、ひび割れの進展をこのポーラス領域にて制御できるコンクリート部材としても有用である。
【0009】
ここで、従来の公開技術として、ポーラスコンクリートを製造する際に使用される成形具が特許文献1に開示されている。この成形具は、上部が開口した容器状の受け型枠に充填したコンクリートを所定の空隙率のポーラスコンクリートに成形するに際し、加圧体が規制手段によって停止するまで受け型枠内に挿入されるようになっていて、この構成により、受け型枠内に所定レベルまで充填されたコンクリートに対して所定の容積変化が与えられ、所定の空隙率を有するポーラスコンクリートが成形される、というものである。
【0010】
しかし、この成形具は、ポーラスコンクリートのみを成形するに留まるものであり、この成形具を利用したところで、ポーラス領域を具備するコンクリート部材、すなわち、ポーラス領域と、密実な領域とが一体とされたコンクリート部材を製造することは到底できない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2008−279677号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は上記する問題に鑑みてなされたものであり、所望する気孔率のポーラスコンクリートを製造することができ、さらには、製造されたポーラスコンクリートを使用して所望する部位にポーラス領域を備えたコンクリート部材を容易に製造することのできる、ポーラスコンクリート製造用型枠とポーラスコンクリートの製造方法、およびポーラス領域を具備するコンクリート部材の製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記目的を達成すべく、本発明によるポーラスコンクリート製造用型枠は、底板と側板とからなり、底板と側板がそれぞれ連結具を介して分解自在に箱状に組み立てられてなる型枠であって、少なくとも前記底板には孔が設けてあり、前記型枠内に注入されたコンクリートのうち、少なくともそのモルタル成分の一部が前記孔を介して型枠外へ排出されることでポーラスコンクリートを製造するものである。
【0014】
本発明のポーラスコンクリート製造用型枠は、ポーラスコンクリートからなる試験体の製造や、ポーラスコンクリートを製造するとともに、この型枠を脱型することなくコンクリート部材製造用型枠に組み込んでポーラス領域を具備するコンクリート部材を製造する際に適用されるものである。
【0015】
その基本構成は、たとえば複数の孔の開いた底板と、この底板から立ち上がるたとえば4つの側板と、が、ピン、ビス、フック、蝶番、ボルトナットなどの連結具を介して分解自在に組み立てられたものである。
【0016】
ここで、「分解自在」とは、たとえば、このポーラスコンクリート製造用型枠内でポーラスコンクリートを製造し、この型枠を分解しない状態でコンクリート部材製造用型枠に組み込み、このコンクリート製造用型枠内にコンクリートを注入した際に、ポーラスコンクリート製造用型枠のみを容易に分解して抜き取ることができるような構成であることを意味している。
【0017】
なお、このポーラスコンクリート製造用型枠のみを分解する際には、たとえば、孔を有する底板と、たとえば4つの側板のうちの2つの側板を分解してコンクリート部材製造用型枠から抜き取る等することができる。この場合、4つの側板のうちで残された2つの側板は、コンクリート部材製造用型枠の一部として使用され、このコンクリート部材が製造された段階で脱型されることになる。
【0018】
また、このポーラスコンクリート製造用型枠では、底板のみならず、側板の全部もしくは一部にも孔が設けられていてもよい。尤も、本発明者等の知見によれば、側板に孔が設けてあっても、排出されるモルタルのほとんどは底板の孔を介して排出されることが特定されている。さらに、底板のみに孔が設けてある型枠を使用してポーラスコンクリートを製造した際に、たとえば直方体形状の内部及び6つの面において、ほぼ均一に空隙が形成されることが特定されている。
【0019】
ここで、少なくとも前記孔の数と孔径が調整されることでポーラスコンクリートの気孔率が制御されている。「少なくとも孔の数と孔径」とは、たとえば底板に設けられる孔の数とその孔径(孔の大きさ)のみならず、水セメント比(W/C)や、細骨材率(s/a)、型枠内にコンクリートを注入し、これを振動台にて振動させる際の振動時間や周波数などが気孔率決定要因であることを意味している。なお、この孔径の調整は、たとえば粗骨材の寸法との関係で、少なくとも粗骨材の排出を回避でき、モルタルや細骨材の一部のみを排出できる大きさに調整されるのがよい。
【0020】
また、ポーラスコンクリート製造用型枠の一実施の形態として、前記底板は、平板とその端部からリブが立ち上がる断面コの字状の2以上の分割板から形成されており、隣接する分割板のリブ同士が当接して底板を成し、当接した2つのリブが底板のたわみ防止手段となっている形態を挙げることができる。
【0021】
孔を有する底板を2つ以上の分割板を組み合わせて形成することで、同面積を有する一枚の底板に比して、コンクリート部材製造用型枠内にコンクリートが注入され、ポーラスコンクリート製造用型枠を分解して底板を抜き取る際に、よりスムースな抜き取りを実現できる。このことにより、底板の抜き取りに時間を要していたり、抜き取りが困難である場合に、底板が抜き取られた箇所のコンクリートに悪影響が与えられ、ポーラス領域以外のコンクリート領域の強度低下の原因になるといった問題も生じ得ない。
【0022】
また、2つ以上の分割板から底板を構成することによって抜き取りが容易となること、各分割板がリブを有し、隣接する分割板同士のリブによって底板のたわみが防止されるという効果をも奏するものである。
【0023】
上記する本発明のポーラスコンクリート製造用型枠によれば、少なくとも底板に複数の孔を具備し、これら底板と側板が分解自在に組み付けられているという極めて簡易な構成であるにもかかわらず、所望の気孔率に制御され、しかも内部に均一に気孔が形成されたポーラスコンクリートを得ることができる。
【0024】
また、本発明によるポーラス領域を具備するコンクリート部材の製造方法は、前記ポーラスコンクリート製造用型枠内にコンクリートを注入してポーラスコンクリートを製造し、前記ポーラスコンクリート製造用型枠を分解することなくコンクリート部材製造用型枠の一部に組み込み、この段階で、ポーラスコンクリートはコンクリート部材製造用型枠の内部に収容されており、コンクリート部材製造用型枠内にコンクリートを注入し、前記ポーラスコンクリート周りに注入されたコンクリートが充填された段階で連結具を解除し、前記ポーラスコンクリート製造用型枠を分解して少なくとも底板と側板の一部をコンクリート部材製造用型枠から抜き取り、注入されたコンクリートが硬化してポーラスコンクリートと一体化することにより、その一部にポーラス領域を具備するコンクリート部材を製造するものである。
【0025】
本発明のポーラス領域を具備するコンクリート部材の製造方法は、上記する本発明のポーラスコンクリート製造用型枠を使用してまずポーラスコンクリートを製造するとともに、この型枠を分解することなく、したがって、製造されたポーラスコンクリートと型枠が一体となっている状態でコンクリート部材製造用型枠にこれを組み込み、このコンクリート部材製造用型枠内にコンクリートを注入後に、ポーラスコンクリート製造用型枠を分解してその一部を抜き取る方法である。
【0026】
この方法によれば、所望の気孔率に制御されたポーラスコンクリートを予め製造し、この製造で使用された型枠をコンクリート部材製造用型枠の一部に使用しながら、不要な型枠部材を臨機に抜き取ることにより、所望する箇所(一箇所であっても複数箇所であってもよい)に所望の気孔率のポーラス領域を具備するコンクリート部材を効率的に製造することができる。
【0027】
なお、ポーラスコンクリート製造用型枠内にコンクリートを充填してポーラスコンクリートを製造するに際し、振動台上にポーラスコンクリート製造用型枠を載置しておき、コンクリート充填後に該型枠を振動させて少なくともモルタル成分の一部を排出してポーラスコンクリートを製造するのが好ましい。この際、所望する気孔率を実現するべく、振動時間や周波数が所望に調整される。
【0028】
また、本発明によるポーラス領域を具備するコンクリート部材の製造方法の好ましい実施の形態は、前記ポーラスコンクリート製造用型枠をコンクリート部材製造用型枠の一部に組み込む際に、底板の裏側に孔を具備しない防護板を取り付けておき、この防護板により、コンクリート部材製造用型枠内に注入されたコンクリートが底板の孔を介してポーラスコンクリートのポーラスを閉塞するのを防止するようになっているものである。
【0029】
コンクリート部材製造用型枠内にコンクリートが注入されると、該型枠内に収容されたポーラスコンクリートと抜き取り前の底板の周りに注入されたコンクリートが充填してくる。単にコンクリートが充填されただけでは、コンクリート内に形成された孔表面の表面張力等により、底板の孔を介してこのフレッシュコンクリートがポーラスコンクリートの気孔内に進入することはない。しかし、コンクリートを注入後にバイブレータ等によって振動を付与して型内充填を促進させる際に、この振動によって気孔内へのコンクリートの進入が促され、これがポーラスコンクリートのポーラスを閉塞することで気孔率も変動してしまう。
【0030】
そこで、底板の裏面に孔を具備しない防護板を取り付けておき、バイブレータ等による振動付与の間はポーラスコンクリート製造用型枠の分解と底板等の抜き取りをおこなわず、底板の孔を防護板にて塞いでおき、振動付与の後に、ポーラスコンクリート製造用型枠の分解と底板および防護板の抜き取りを実施することで、気孔の閉塞と気孔率の変動が抑止できる。
【0031】
また、ポーラスコンクリート製造用型枠のうち、製造されたポーラスコンクリートの天井面が開放されている側板の端部であって底板と反対側の端部に孔を具備しない天板をさらに取り付け、この天板により、コンクリート部材製造用型枠内に注入されたコンクリートがポーラスコンクリートの上面のポーラスを閉塞するのを防止するようになっている形態がより好ましい。
【0032】
この形態の製造方法によれば、ポーラスコンクリート製造用型枠の底板と開放された天井とを完全に閉塞し、バイブレータ等による振動付与の後に、ポーラスコンクリート製造用型枠の分解と、底板、防護板、天板および側板の一部の抜き取りを実施することで、気孔の閉塞と気孔率の変動をより確実に抑止できる。
【発明の効果】
【0033】
以上の説明から理解できるように、本発明のポーラスコンクリート製造用型枠によれば、少なくとも底板に複数の孔を具備し、分解自在に組み付けられているという極めて簡易な構成の型枠により、所望の気孔率に制御され、しかも内部に均一に気孔が形成されたポーラスコンクリートを得ることができる。また、本発明のポーラス領域を具備するコンクリート部材の製造方法によれば、所望の気孔率に制御されたポーラスコンクリートを予め製造し、この製造の際に使用された型枠をコンクリート部材製造用型枠の一部に使用しながら、コンクリート注入後に不要な型枠部材は臨機に抜き取ることにより、所望する箇所に所望の気孔率のポーラス領域を具備するコンクリート部材を効率的に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明のポーラスコンクリート製造用型枠の一実施の形態の分解図である。
【図2】本発明のポーラスコンクリート製造用型枠の組立図である。
【図3】振動台上にポーラスコンクリート製造用型枠が載置され、コンクリート注入後に振動している状態を示した図である。
【図4】(a)は脱型後のポーラスコンクリートを示した斜視図であり、(b)は図4aのb−b矢視図である。
【図5】本発明のポーラスコンクリート製造用型枠の底板の他の実施の形態を示した斜視図である。
【図6】本発明のポーラスコンクリート製造用型枠の他の実施の形態を示した斜視図であって、その内部にはポーラスコンクリートが硬化しているものを示した図である。
【図7】図6で示すポーラスコンクリート製造用型枠がコンクリート部材製造用型枠の一部に組み込まれた状態で、コンクリート部材製造用型枠内にコンクリートが注入されている状態を示した図である。
【図8】コンクリート部材製造用型枠内にコンクリートが注入され、コンクリートへの振動付与が終了し、ポーラスコンクリート製造用型枠のうち側板の一部以外が抜き取られた状態を示した斜視図である。
【図9】所望部位にポーラス領域を具備するコンクリート部材を示した斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。なお、図示する連結具は、底板と側板を組み付けるバンドとビスから構成されるものであるが、側板および底板を繋ぐボルト孔とボルト等、その他の形態の連結具であってもよいことは勿論のことである。
【0036】
図1は、本発明のポーラスコンクリート製造用型枠の一実施の形態の分解図であり、図2は、本発明のポーラスコンクリート製造用型枠の組立図である。
【0037】
図示するポーラスコンクリート製造用型枠10は、端辺にリブ11,11を具備する底板1と、このリブ11に沿って立ち上がる側板2,2と、リブ11の端辺に沿って立ち上がる側板3,3と、底板1から側板2,2に亘って一連に延びるコの字状のバンド4と、バンド4および底板1、側板2のそれぞれに開設されたビス孔41,14,22に嵌め込まれるビス5と(バンド4とビス5から連結具6が構成される)、から大略構成されている。
【0038】
底板1、側板2にはそれぞれビス孔14,22が開設されており、コの字状のバンド4にもこれらに対応する位置にビス孔41が開設されており、図2で示す組み立て姿勢において、連通するビス孔14,41とビス孔22、41とにビス5が嵌め込まれるようになっている。
【0039】
ここで、底板1、側板2,3と、バンド4はともに、木製、金属製(アルミ、鉄、金物など)のいずれであってもよい。
【0040】
底板1、側板2にはそれぞれ、手持ち開口12,21が開設されており、後述するように、これがコンクリート部材用型枠内に組み込まれ、コンクリート注入後に底板1や側板2を抜き取る際の手持ち部を形成するものである。
【0041】
底板1にはさらに、ポーラスコンクリート製造用型枠10内に注入されたコンクリート(粗骨材、細骨材、セメント、水等からなり、セメントと水もしくはセメントと水と細骨材からモルタルが形成される)のうち、少なくとも粗骨材を型枠内に残し、少なくともモルタル成分の一部を型枠外へ排出するための孔(モルタル排出孔13)が開設されている。
【0042】
このモルタル排出孔13の数や孔径は、所望するポーラスコンクリートの気孔率に応じて制御されており、より具体的には、振動を付与してモルタル成分の一部を排除する際の、振動数や振動時間などをも勘案してモルタル排出孔13の数や孔径が設定される。
【0043】
図3は、振動台上にポーラスコンクリート製造用型枠が載置され、コンクリート注入後に振動している状態を示した図である。
【0044】
この振動台20は、2次元平面を形成する2軸を往復動(X1方向、X2方向)させるアクチュエータ21,22と、垂直方向を往復動(Z1方向)させるアクチュエータ23とを有し、ポーラスコンクリート製造用型枠10が振動台上に載置され、ストッパー24で固定された後に、フレッシュコンクリートFCが型枠内に注入され、注入が完全に終了した段階で、もしくは注入と同時に各アクチュエータが駆動して所定の振動数を所定時間作用させる。なお、振動台の形態、たとえば振動台を構成するアクチュエータの形態などは図示例に限定されるものではない。
【0045】
この振動付与の過程で、底板1のモルタル排出孔13から少なくともモルタル成分の一部(モルタル成分のみ、もしくは、モルタル成分と細骨材成分の一部)が排出されて、その内部に多数の気泡(ポーラス)を有するポーラスコンクリートが得られる。
【0046】
図4aは脱型後のポーラスコンクリートを示した斜視図であり、図4bは図4aのb−b矢視図である。
【0047】
同図で示すように、少なくとも底板1に所定数で所定寸法のモルタル排出孔13を設けておき、これに振動を所定時間付与することで、硬化後のコンクリートは、その内部および6側面のすべてにおいて均一な気孔率のポーラスPが形成されたポーラスコンクリートCpが得られる。
【0048】
図示するポーラスコンクリートCpは、それ自体が各種試験用のテストピースとなり得るし、高い剛性が不要であって軽量なコンクリート部材の設置を要する構造物内の任意箇所へ適用可能な構造部材となり得る。
【0049】
図5は、ポーラスコンクリート製造用型枠の底板の他の実施の形態を示した図である。後述するように、ポーラスコンクリート製造用型枠はコンクリート部材用型枠内に組み込まれ、コンクリート注入後にその底板や側板の一部が抜き取られるものである。
【0050】
この抜き取りの際の抜き取り容易性をより一層高めるべく、図5で示すように、底板1Aを2枚の分割板1’から構成させ、それぞれの分割板1’は、図2で示す底板1と同様に、モルタル排出孔13、手持ち開口12、ビス孔14、端辺リブ11を具備するものである。
【0051】
底板1を2枚の分割板1’に分割することで、一枚当たりの面積が小さくなり、コンクリートとの間の摩擦力が低減され、その抜き取りが容易となる。なお、本発明者等によれば、分割板1'の面積を390cm程度かそれよりも小さくすることで、抜き取りが極めて容易になるとの知見が得られている。
【0052】
また、2枚の分割板1’それぞれの端辺リブ11,11を当接させて底板1Aを形成することで、これら端辺リブ11,11が底板1Aのたわみ防止手段11Aとなり、底板1Aの剛性も向上する。なお、この端辺リブ11の高さは20cm程度とすることができる。
【0053】
次に、図6〜9を参照して、本発明のポーラス領域を具備するコンクリート部材の製造方法を概説する。
【0054】
図6は、図5で示す底板1Aを具備するポーラスコンクリート製造用型枠10Aを使用してポーラスコンクリートが製造され、この製造されたポーラスコンクリートがこの型枠10A内に収容された状態を示したものである。
【0055】
このポーラスコンクリート製造用型枠10Aは、モルタル排出孔13の開設された2枚の分割板1’からなる底板1Aの下面に、孔を具備しない防護板7を配し、モルタル排出孔13を外部から遮断している。
【0056】
さらに、側板2,3で形成された上方開口を孔を具備しない天板8で塞ぎ、この天板8と防護板7を底板1A,側板2とともに連結具6にて連結している。
【0057】
まず、図3のようにして振動台20上でフレッシュコンクリートを注入しながら振動を所定時間付与した段階で、天板8と防護板7が底板1A,側板2とともに連結具6にて連結されて図6の状態となる。
【0058】
次に、図6で示すポーラスコンクリート製造用型枠10Aを、図7で示すように、長尺なコンクリート部材を製造するためのコンクリート部材製造用型枠Kの一部に組み込む。
【0059】
このコンクリート部材製造用型枠Kは、通常一般に使用される複数の型枠パネルMと、対向する型枠パネル同士を繋いで所望寸法を保証するセパレータSと、型枠パネル同士を繋ぐ根太材Nと、から大略構成されており、そのうちの所望する一箇所に、ポーラスコンクリートを内部に備えたポーラスコンクリート製造用型枠10Aが設置されている。
【0060】
ここで、図示例においては、側板3,3が型枠パネルMと面一となるように設置されており、これがコンクリート部材製造用型枠Kの最終脱型まで残置される側板となる。
【0061】
ポーラスコンクリート製造用型枠10Aを一部に備えたコンクリート部材製造用型枠Kが形成されたら、ホースHを介してフレッシュコンクリートFCがコンクリート部材製造用型枠K内に注入される(X3方向)。
【0062】
この注入の際には、フレッシュコンクリートFCが十分に型内に充填されるように、バイブレータV等によるコンクリートへの振動付与がおこなわれる(X4方向)。
【0063】
ポーラスコンクリート製造用型枠10Aは、その下面で防護板7が底板1Aのモルタル排出孔13を塞ぎ、その上面で天板8が硬化したポーラスコンクリートPcの上面を塞いでいる。したがって、コンクリート部材製造用型枠Kに注入され、振動が付与されたフレッシュコンクリートFCがポーラスコンクリートPcの上面のポーラスや、モルタル排出孔13を介して下面のポーラスに進入し、これを閉塞するのが抑止される。したがって、ポーラスコンクリートPcの気孔率が変動されることはなく、所望の気孔率のポーラスコンクリートPcを具備するコンクリート部材を得ることが可能となる。
【0064】
コンクリート部材製造用型枠K内へのコンクリートの注入とコンクリートへの十分な振動付与がおこなわれた段階で、コンクリートが硬化する前に連結具6を解除し、ポーラスコンクリート製造用型枠10Aを構成している底板1Aの分割板1’、防護板7、側板2、天板8を引抜き、側板3のみをコンクリート部材製造用型枠Kの一部としてそのまま残して図8の状態となる。
【0065】
図8の状態において、ポーラスコンクリートPcの表面のポーラスは、表面凹凸となり、型内に注入されたフレッシュコンクリートがこの表面のポーラスに若干入り込んで硬化することで、ポーラスコンクリートPcとその周囲のコンクリートが強固に結び付いてなる、ポーラス領域を具備するコンクリート部材Cmが形成される(図9参照)。
【0066】
上記する本発明のポーラスコンクリート製造用型枠10,10Aを使用することで、その内部にポーラスが均一に分散形成されたポーラスコンクリートを得ることができる。さらに、このポーラスコンクリート製造用型枠内でポーラスコンクリートを製造し、型枠を脱型することなくコンクリート部材製造用型枠に組み込み、ポーラスコンクリート周りに型内注入されたコンクリートが充填された段階で連結具を解除し、ポーラスコンクリート製造用型枠を分解して少なくとも底板と側板の一部をコンクリート部材製造用型枠から抜き取ることにより、その一部に所望の気孔率のポーラス領域を具備するコンクリート部材を容易に得ることができる。
【0067】
[振動時間、モルタル排出孔の孔径と気孔率の関係に関する実験とその結果]
本発明者等は、モルタルが流れ出し易いモルタル排出孔の孔径、振動付与の時間等により、所望する気孔率(空隙率)のポーラスコンクリートが得られるか否かに関して実験をおこなった。
【0068】
まず、図3で示すように振動台上にポーラスコンクリート製造用型枠を設置し、コンクリートを2層詰めにしてコンクリートの気孔率が20%となるように、各層のコンクリートに対して80秒間振動を付与した。なお、この実験における水セメント比(W/C)は40%、細骨材率(s/a)は5%である。
【0069】
この結果、振動時間を短くすることでコンクリートの気孔率を小さくすることができることが特定された。また、コンクリート中に存在する空気泡も気孔の一部と見なした場合には、気孔率を4.5%まで下げられることが実証された。
【0070】
底板に開設されるモルタル排出孔の孔径に関し、本実験では、細骨材の最大径が5mmであり、孔径が5mm以下であるとモルタル成分が流れ出し難いことに鑑み、コンクリート中のモルタル成分が底板のモルタル排出孔からスムースに流れ出すことができる孔径として、φ8mmを設定した。
【0071】
また、モルタル排出孔のピッチ(このピッチは、孔の数に直結する)に関し、12.2cmごとに1個のモルタル排出孔を設けて振動を付与した。
【0072】
上記する各種条件の下でポーラスコンクリートを製造した結果、所望する気孔率20%のポーラスコンクリートを得ることができた。
【0073】
なお、モルタル排出孔のピッチを小さくすることで、あるいは振動時間を長くすることでコンクリートの気孔率を大きくすることはできるが、その気孔率にも限界はある。通常一般に粗骨材の実績率は60%程度であることから、モルタル成分、細骨材成分のほぼ全部が排出されたとして最大気孔率はせいぜい40%程度となる。
【0074】
この範囲内の所望気孔率のポーラスコンクリートを得るべく、気孔率ごとに、気孔径、気孔ピッチ(基数)、W/C、s/a、付与する振動数や振動時間などを求めておくことで、精緻に気孔率が調整されたポーラスコンクリートを得ることができる。そして、本発明の製造方法を適用することで、所望部位に所望気孔率のポーラス領域を具備するコンクリート部材を得ることができ、コンクリート部材に要求される強度や剛性を確保しながら、その軽量化を実現したり、ひび割れ進展制御を実現することが可能となる。
【0075】
以上、本発明の実施の形態を図面を用いて詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における設計変更等があっても、それらは本発明に含まれるものである。
【符号の説明】
【0076】
1,1A…底板、1’…分割板、11…端辺リブ、11A…たわみ防止手段、12…手持ち開口、13…孔(モルタル排出孔)、14…ビス孔、2…側板、21…手持ち開口、22…ビス孔、3…側板、4…バンド、5…ビス、6…連結具、7…防護板、8…天板(防護板)、10,10A…ポーラスコンクリート製造用型枠、20…振動台、21,22,23…アクチュエータ、Cp…ポーラスコンクリート、P…ポーラス、FC…フレッシュコンクリート、Cm…ポーラス領域を具備するコンクリート部材、K…コンクリート部材製造用型枠

【特許請求の範囲】
【請求項1】
底板と側板とからなり、底板と側板がそれぞれ連結具を介して分解自在に箱状に組み立てられてなる型枠であって、
少なくとも前記底板には孔が設けてあり、
前記型枠内に注入されたコンクリートのうち、少なくともそのモルタル成分の一部が前記孔を介して型枠外へ排出されることでポーラスコンクリートを製造する、ポーラスコンクリート製造用型枠。
【請求項2】
少なくとも前記孔の数と孔径が調整されて、ポーラスコンクリートの気孔率が制御されている、請求項1に記載のポーラスコンクリート製造用型枠。
【請求項3】
前記底板は、平板とその端部からリブが立ち上がる断面コの字状の2以上の分割板から形成されており、隣接する分割板のリブ同士が当接して底板を成し、当接した2つのリブが底板のたわみ防止手段となっている、請求項1または2に記載のポーラスコンクリート製造用型枠。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載のポーラスコンクリート製造用型枠内にコンクリートを注入してポーラスコンクリートを製造する、ポーラスコンクリートの製造方法。
【請求項5】
請求項4に記載の製造方法でポーラスコンクリートを製造し、
前記ポーラスコンクリート製造用型枠を分解することなくコンクリート部材製造用型枠の一部に組み込み、この段階で、ポーラスコンクリートはコンクリート部材製造用型枠の内部に収容されており、
コンクリート部材製造用型枠内にコンクリートを注入し、
前記ポーラスコンクリート周りに注入されたコンクリートが充填された段階で連結具を解除し、前記ポーラスコンクリート製造用型枠を分解して少なくとも底板と側板の一部をコンクリート部材製造用型枠から抜き取り、
注入されたコンクリートが硬化してポーラスコンクリートと一体化することにより、その一部にポーラス領域を具備するコンクリート部材を製造する、ポーラス領域を具備するコンクリート部材の製造方法。
【請求項6】
ポーラスコンクリート製造用型枠内にコンクリートを注入してポーラスコンクリートを製造するに際し、振動台上にポーラスコンクリート製造用型枠を載置しておき、コンクリート注入後に該型枠を振動させて少なくともモルタル成分の一部を排出する、請求項5に記載のポーラス領域を具備するコンクリート部材の製造方法。
【請求項7】
前記ポーラスコンクリート製造用型枠をコンクリート部材製造用型枠の一部に組み込む際に、底板の裏側に孔を具備しない防護板を取り付けておき、この防護板により、コンクリート部材製造用型枠内に注入されたコンクリートが底板の孔を介してポーラスコンクリートのポーラスを閉塞するのを防止するようになっている、請求項5または6に記載のポーラス領域を具備するコンクリート部材の製造方法。
【請求項8】
前記ポーラスコンクリート製造用型枠をコンクリート部材製造用型枠の一部に組み込む際に、ポーラスコンクリート製造用型枠の側板の端部であって底板と反対側に孔を具備しない天板をさらに取り付け、この天板により、コンクリート部材製造用型枠内に注入されたコンクリートがポーラスコンクリートのポーラスを閉塞するのを防止するようになっている、請求項7に記載のポーラス領域を具備するコンクリート部材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−91453(P2012−91453A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−242438(P2010−242438)
【出願日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【出願人】(000206211)大成建設株式会社 (1,602)
【出願人】(000221616)東日本旅客鉄道株式会社 (833)
【Fターム(参考)】