説明

マイクロチップ

本発明は、複層のLTCCを備えたマイクロチップであって、リアクションチャンバが複数のトップ層に形成されて試料が投入される前記マイクロチップについてである。リアクションチャンバ層の下の少なくとも一層内にヒータが埋設され、ヒータと試料を分析するためのリアクションチャンバとの間の少なくとも一層内に温度センサが埋設される。温度センサは、チップ温度を測定するためにチップ外部に置かれてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この開示は、低温同時焼成セラミクス(LTCC)でできた複層を含むマイクロPCR(ポリメラーゼチェインリアクション)チップに関する。この開示は、また、ディスポーザブルLTCCマイクロPCRチップを持ったポータブルリアルタイムPCR装置を提供する。
【背景技術】
【0002】
最近の分子及び細胞生物学の進歩は、迅速かつ効率的な分析技術の発展の結果として起きている。小型化及び多重化技術のおかげで、遺伝子チップやバイオチップのような技術は、単一実験構成で全ゲノムの特徴付けが可能である。PCRは、核酸分子のin−vivo増幅のための分子生物学的方法である。PCR技術は、法医学、環境、臨床及び工業試料中の生物学的種及び病原体の同定について、時間を要しそして感度の低い他の技術と迅速に置き換わっている。バイオ技術の中でも、PCRは、大多数の分子及び臨床診断の際にライフサイエンス研究室内の最も重要な分析ステップとなっている。リアルタイムPCRのようなPCR技術でなされた重要な発展は、従来方法と比べて迅速な反応工程を導いてきた。ここ数年の間に、微細加工技術が、分析時間と試薬の消費のさらなる削減の意図をもってPCR分析のような反応及び分析システムの小型化を拡張している。いくつかの研究グループは、“ラボオンチップ”装置に取り組んでおり、小型化された分離及び反応システムの分野で数多くの進歩につながっている。
【0003】
現在入手可能なほとんどのPCRでは、試料、容器及びサイクラーの熱容量のために瞬時の温度変更ができず、その結果、2〜6時間という長期の増幅時間になる。試料温度が一の温度から別の温度へ移る間に、無関係で不所望な反応が生じ、貴重な試薬を消費し、かつ不所望な妨害化合物を生成する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、より迅速なPCRパフォーマンスが可能なマイクロチップを提供することである。
【0005】
本発明の別の目的は、改良されたマイクロチップを提供することである。
【0006】
本発明の主な目的の1つは、複層のLTCCを備えたマイクロチップを開発することである。
【0007】
さらに、本発明の別の目的は、マイクロチップの製作方法を開発することである。
【0008】
さらに、本発明の別の目的は、マイクロチップを供えたマイクロPCR装置を開発することである。
【0009】
さらに、本発明の別の目的は、マイクロPCR装置を用いて病気の状態を診断する方法を開発することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
したがって、本発明は、低温同時焼成セラミクス(LTCC)でできた複層を含むマイクロチップであって、ここでリアクションチャンバが試料を装填するための複数のリアクションチャンバ層内に形成され、コンダクタが該リアクションチャンバの下に置かれた少なくとも一のコンダクタ層に埋設され、そして、ヒータが該コンダクタ層の下に置かれた少なくとも一のヒータ層内に埋設された、前記マイクロチップ;マイクロチップの製作方法であって、以下の工程:(a)低温同時焼成セラミクス(LTCC)で作られ、そしてウエルを有する複層を配置してリアクションチャンバを形成し、(b)該チャンバの下にヒータを含む少なくとも一層のLTCCを置き、(c)該ヒータと該リアクションチャンバとの間に一又は数個のコンダクタ層を置き、そして、(d)これらの層を互いに連結してマイクロチップを形成する、を含む前記方法;(a)複層のLTCCを含むマイクロチップであって、ここでリアクションチャンバが試料を投入するための複数のリアクションチャンバ層内に形成され、コンダクタが該リアクションチャンバの下に置かれた少なくとも一層に埋設され、そして、ヒータが該コンダクタ層の下に置かれた少なくとも一のヒータ層内に埋設された前記マイクロチップ;(b)前記マイクロチップ内に埋設され又はチップ外に置かれる、チップ温度を測定するための温度センサ;(c)前記温度センサの入力値に基づいて前記ヒータを制御するための制御回路;及び(d)試料からの蛍光シグナルを検出するための光学システムを含むマイクロPCR装置;マイクロPCR装置を用いて試料内の分析物を検出し、又は病気の状態を診断する方法であって、以下の工程:(a)複数のLTCC層を備えたマイクロチップ上に核酸を含む試料を装填する、(b)前記マイクロPCR装置の運転により核酸を増幅する、そしてc)増幅した核酸の蛍光の読み取りに基づいて分析物の存在又は非存在を測定し、又は、増幅した核酸の蛍光の読み取りに基づいて病原体の存在又は非存在を測定して病気の状態を診断する、を含む前記方法を提供する。
【0011】
以下、添付の図面を参照して、本発明を説明する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】一実施態様のLTCCマイクロPCRチップの正投影図を示す。
【図2】一実施態様のLTCCマイクロPCRチップの断面図を示す。
【図3】一実施態様のLTCCマイクロPCRチップの各層毎の設計を示す。
【図4】ヒータ及びサーミスタを制御する一実施態様の回路のブロック図を示す。
【図5】作製されたチップリアクションチャンバ設計のモデルを示す。
【図6】ハンドヘルドユニットにより制御された集積ヒータ/サーミスタを用いたチップ上のλ−636 DNA断片の溶解を示す。
【図7】チップ上のλ−311DNA断片のPCR増幅であって、(a)チップからのリアルタイム蛍光シグナル;(b)増幅産物を識別するゲル写真を示す。
【図8】処理された血液及び血漿(processed blood and plasma)のサルモネラ菌の16SリボソームユニットについてのPCR増幅のゲル写真を示す。
【図9】全血(direct blood)のサルモネラ菌の16SリボソームユニットについてのPCR増幅のゲル写真を示す。
【図10】直接血漿(direct plasma)全血のサルモネラ菌の16SリボソームユニットについてのPCR増幅のゲル写真を示す。
【図11】マイクロチップを用いたサルモネラ菌遺伝子のPCR増幅であって;(a)チップからのリアルタイム蛍光シグナル、(b)増幅産物を識別するゲル写真を示す。
【図12】LTCCチップを用いてB型肝炎ウイルスDNAを増幅するのにかかった時間を示す。
【図13】λ−311DNAの溶解のための蛍光シグナルの微分(derivative)についてのLTCCチップの溶解曲線を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、低温同時焼成セラミクス(LTCC)でできた複層を含むマイクロチップであって、ここでリアクションチャンバが試料を装填するための複数のリアクションチャンバ層内に形成され、コンダクタが該リアクションチャンバの下に置かれた少なくとも一のコンダクタ層に埋設され、そして、ヒータが該コンダクタ層の下に置かれた少なくとも一のヒータ層内に埋設された、前記マイクロチップに関する。
【0014】
本発明の一実施態様では、該リアクションチャンバは、透明シーリングキャップでカバーされる。
【0015】
本発明の一実施態様では、該チップは、温度センサを備える。
【0016】
本発明の一実施態様では、該温度センサは、該チップの少なくとも一のセンサ層内に埋設されている。
【0017】
本発明の一実施態様では、該温度センサは、サーミスタである。
【0018】
本発明の一実施態様では、該チップは、外部制御回路を該温度センサ及び該ヒータに連結するためのコンタクトパッド(contact pads)を備える。
【0019】
本発明の一実施態様では、該温度センサは、チップ温度を測定するために該チップの外部に置かれる。
【0020】
本発明の一実施態様では、該リアクションチャンバは、コンダクタリングによって囲まれている。
【0021】
本発明の一実施態様では、該コンダクタリングは、該コンダクタ層にポスト(posts)で結合されている。
【0022】
本発明の一実施態様では、該コンダクタは、金、銀、白金及びパラジウム又はこれらの合金を含む群から選択される材料でできている。
【0023】
本発明の一実施態様では、該リアクションチャンバベースと該ヒータとの間に離隔が存在し、その離隔は、約0.2mm〜約0.7mmの範囲にある。
【0024】
本発明の一実施態様では、該試料は、食品、又は、血液、血清、血漿、組織、唾液、たん及び尿からなる群から選択される生物学的試料である。
【0025】
本発明の一実施態様では、該リアクションチャンバは、約1μl〜約25μlの範囲にある容積を有する。
【0026】
本発明は、また、マイクロチップの製作方法であって、以下の工程:
a)低温同時焼成セラミクス(LTCC)で作られ、そしてウエルを有する複層を配置してリアクションチャンバを形成し、
b)該チャンバの下にヒータを含む少なくとも一層のLTCCを置き、
c)該ヒータと該リアクションチャンバとの間に一又は数個のコンダクタ層を置き、そして、
d)これらの層を互いに連結してマイクロチップを形成する、
を含む前記方法に関する。
【0027】
本発明の一実施態様では、該ヒータと該リアクションチャンバ層内との間、あるいは該ヒータの下に、温度センサを備えた少なくとも一層のLTCCが置かれている。
【0028】
本発明の一実施態様では、該チャンバは、コンダクタリングによって囲まれている。
【0029】
本発明の一実施態様は、該コンダクタ層へ該コンダクタリングを結合するポストが設けられる。
【0030】
本発明は、また、
a)複層のLTCCを含むマイクロチップであって、ここでリアクションチャンバが試料を投入するための複数のリアクションチャンバ層内に形成され、コンダクタが該リアクションチャンバの下に置かれた少なくとも一層に埋設され、そして、ヒータが該コンダクタ層の下に置かれた少なくとも一のヒータ層内に埋設された前記マイクロチップ;
b)前記マイクロチップ内に埋設され又はチップ外に置かれる、チップ温度を測定するための温度センサ;
c)前記温度センサの入力値に基づいて前記ヒータを制御するための制御回路;及び
d)試料からの蛍光シグナルを検出するための光学システム
を含むマイクロPCR装置に関する。
【0031】
本発明の一実施態様では、該装置は、ハンドヘルド装置である。
【0032】
本発明の一実施態様では、該装置は、ポータブル計算プラットフォームを用いて制御される。
【0033】
本発明の一実施態様では、該装置は、多重PCRを実行するアレイ内に配置される。
【0034】
本発明の一実施態様では、該マイクロチップは、該装置から脱着可能である。
【0035】
本発明は、また、マイクロPCR装置を用いて試料内の分析物を検出し、又は病気の状態を診断する方法であって、以下の工程:
a)複数のLTCC層を備えたマイクロチップ上に核酸を含む試料を装填する、
b)前記マイクロPCR装置の運転により核酸を増幅する、そして
c)増幅した核酸の蛍光の読み取りに基づいて分析物の存在又は非存在を測定し、又は、増幅した核酸の蛍光の読み取りに基づいて病原体の存在又は非存在を測定して病気の状態を診断する、
を含む前記方法に関する。
【0036】
本発明の一実施態様では、該核酸は、DNA又はRNAのいずれかである。
【0037】
本発明の一実施態様では、該方法は、増幅産物の定性及び定量分析のためにある。
【0038】
本発明の一実施態様では、該試料は、食品又は生物学的試料である。
【0039】
本発明の一実施態様では、該生物学的試料は、血液、血清、血漿、組織、唾液、たん及び尿を含む群から選択される。
【0040】
本発明の一実施態様では、該病原体は、ウイルス、バクテリア、菌類、酵母及び原生動物を含む群から選択される。
【0041】
本開示内の用語“リアクションチャンバ層”は、試料と接触するようになり、リアクションチャンバの形成に関わるマイクロチップのすべての層を意味する。
【0042】
本開示内の用語“コンダクタ層”は、埋設されたコンダクタを有するマイクロチップのすべての層を意味する。
【0043】
本開示内の用語“ヒータ層”は、埋設されたヒータを有するマイクロチップのすべての層を意味する。
【0044】
ポリメラーゼチェインリアクション(PCR)は、テンプレートから特定のDNA断片の多重コピーを合成するために開発された技術である。初期のPCR法は、Thermus属由来の熱安定性DNAポリメラーゼ酵素(Taq)に基づき、これは、4つのDNA塩基及びターゲット配列の側面に配置する二つのプライマ断片を含む混合物中で所定のDNAストランドと相補なストランドを合成することができる。該混合物を加熱してターゲット配列を含有する二重鎖DNAストランドを分離し、次いで、冷却して、プライマが分離ストランド上でその相補配列を見つけて結合できるようにし、Taqポリメラーゼがプライマに新しい相補ストランドを伸長させる。繰り返される加熱及び冷却サイクルは、新しい二重ストランドのそれぞれが分離してさらなる合成のための二個のテンプレートになるため、ターゲットDNAを指数関数的に増殖させる。
【0045】
ポリメラーゼチェインリアクションの典型的な温度プロファイルは、以下のとおりである:
1.93℃、15〜30秒間での変性
2.55℃、15〜30秒間でのプライマのアニーリング
3.72℃、30〜60秒間でのプライマの伸長
【0046】
一例として、最初の工程において、溶液を90〜95℃に加熱して、二重ストランドのテンプレートを溶解(”変性”)して二個の単一ストランドを形成するようにする。次の工程では、それを50〜55℃へ冷却して、特別に合成した短いDNA断片(”プライマ”)がテンプレートの適切な相補部位と結合するようにする(”アニーリング”)。最後に、溶液を72℃に加熱し、その時、特別な酵素(”DNAポリメラーゼ”)が、溶液からの相補塩基を結合させることでプライマを伸長させる。こうして、二個の同一の二重ストランドが、単一の二重ストランドから合成される。
【0047】
数百塩基よりも長い産物を生成させるために、プライマ伸長工程を概ね60秒/kbaseまで増大しなけければならない。上記は、典型的な装置時間であり、実際、変性及びアニーリング工程は、ほとんど瞬時に起きる。しかし、メタルブロック又は水が温度平衡に用いられ、試料がプラスチック製微量遠心チューブに入れられる時、市販装置の温度速度は、通常、1℃/秒以下である。
【0048】
断熱低質量PCRチャンバをマイクロ加工することにより、もっと速く、エネルギー効率的で特効なPCR装置を量産することが可能である。さらに、一の温度から別の温度への迅速な遷移によれば、試料が不所望な中間温度に費やす時間が最小になり、その結果、増幅したDNAは最良の忠実度及び純度を有するようになる。
【0049】
低温同時焼成セラミクス(LTCC)は、自動車、防衛、航空機及び通信業界の電気部品のパッケージングに使用される厚膜テクノロジーの最新版である。それは、アルミナをベースとするガラスセラミクス材料であり、化学的安定、生体適合性、熱安定性(>600℃)であり、低い熱伝導度(<3W/mK)、良好な機械強度を有し、かつ良好なエルミート性(hermiticity)を有する。それは、従来、チップレベルの電気素子のパッケージングに使用され、そこで、構造及び電気機能の両方を担う。本発明者らの認識では、LTCCの適合性はマイクロPCRチップ用途に使用されるべきであり、そして、本発明者らの最高の知識では、LTCCはそのような目的には使用されていなかった。LTCC技術での基礎の基板(basic substrates)は、好ましくは、ポリマー結合材の付いたガラスセラミクス材料の未焼成(グリーン)層である。これらの層をカッティング/パンチング/ドリリングし多層を積み重ねることにより、構造的特徴が形成される。各層毎の工程でMEMS(Micro Electro Mechanical System)にとって重要な3次元構造を作製することができる。50ミクロンを下回る特徴がLTCC上に容易に作り上げられる。電気回路は、各層上に導電及び抵抗ペーストをスクリーン印刷することにより製作される。多層は、ビアの穴あけを行って(punching vias)、そこに導電ペーストを充填することにより相互に連結される。これらの層が積み重ねられ、加圧され、そして焼成される。最高80層の積み重ね工程が、文献1で報告されている。焼成された材料は、緻密かつ、良好な機械強度を有する。
【0050】
PCR産物は、典型的には、ゲル電気泳動を用いて分析される。この技術では、PCR後のDNA断片が電場内で分離され、蛍光染料で着色することにより観測される。より適したスキームは、二重ストランドDNAに特異的に結合して反応を継続的にモニタする蛍光染料を使用することである(リアルタイムPCR)。そのような染料の例は、490nmの青色光によって励起され、DNAと結合したときに520nmの緑色光を放出するSYBRグリーンである。蛍光強度は、PCR中に形成された二重ストランド産物の量に比例するので、サイクル数とともに増大する。
【0051】
図1に、リアクションチャンバ(11)又はウエルを示す一実施態様のマイクロPCRチップの正投影図を示す。図は、LTCCマイクロPCRチップ内部にあるヒータ(12)及び温度センササーミスタ(13)のアセンブリを示す。ヒータコンダクタライン(15)及びサーミスタコンダクタライン(14)もまた示す。これらのコンダクタラインは、ヒップ(hip)内に埋設されたヒータ及びサーミスタを外部回路構成と連結するのを助ける。
【0052】
一実施態様のLTCCマイクロPCRチップの断面図を示す図2を参照すると、16a及び16bは、ヒータ(12)のためのコンタクトパッドを示し、17a及び17bは、サーミスタ(13)のためのコンタクトパッドを示す。
【0053】
一実施態様のLTCCマイクロPCRチップの各層毎の設計を示す図3を参照すると、チップは12層のLTCCテープからなる。2個のベース層(31)、ヒータ層(32)、コンダクタ層(33)及びサーミスタ(34)を有する層を有する3個のミッド層が存在し、35がリアクションチャンバ(11)へのインターフェース層を形成する。リアクションチャンバ層は、図示のとおり、6層の36からなる。コンダクタ層(33)が、また、ヒータ層とサーミスタ層との間に設けられる。ヒータコンダクタライン(33)及びサーミスタコンダクタライン(32)もまた示す。図では、コンダクタライン(32)がサーミスタ層(34)のいずれかの側に置かれる。ヒータデザインは、”梯子”、”蛇行(serpentine)”、”線”、”板”などのようなあらゆる形状でよく、サイズは、0.2mm x 3mm〜2mm x 2mmの間で変更される。ヒータのサイズ及び形状は、要求に基づいて選択され得る。その要求は、リアクションチャンバ、試験される試料やコンダクタ層として使用される材料の大きさに依存する。
【0054】
図3に、一実施態様の製作されたチップパッケージの層状設計及びイメージを示す。LTCCチップは、1〜25μlのウエル容積、及び約50%の抵抗変動(ヒータ及びサーミスタ)を有する。ヒータの抵抗値(〜40Ω)及びサーミスタの抵抗値(〜1050Ω)は、予測値と一貫性があった。該ヒータは、汎用のLTCCパッケージに採用される厚膜抵抗素子をベースとする。アルミナを用いた該サーミスタ系が、埋設された温度センサの製作のために使用される。チップのTCR測定値は、1〜2Ω/℃の間であった。チップは、デュポン951グリーンシステム上に作製された。サーミスタ層は、チップ内のどこに置いてもよく、温度センサは、チップ内部のサーミスタの代わりにチップ外部に置かれ得る。
【0055】
図4は、ヒータ及びサーミスタを制御する一実施態様の回路のブロック図を示し、ここで、LTCCマイクロPCRチップ(10)内のサーミスタは、ブリッジ(46)内のアームの一つとして作用する。ブリッジ増幅器(41)からのブリッジの増幅出力は、PIDコントローラ(43)への入力として与えられ、ここで、デジタル化され、そして、PIDアルゴリズムは、制御されたデジタル出力を与える。出力は、再び、アナログ電圧に再変換され、そして、これが、ヒータドライバ(46)内に在るパワートランジスタを用いたヒータを駆動する。さらに、シリコン加工と比べてLTCCはより安価に加工される。
【0056】
本発明は、また、従来のPCRシステムを分析時間、可搬性、試料容積、及び分析及び定量化を行う能力を改善するためにある。これは、以下を有するPCR産物のリアルタイムin situ 検出/定量化をもったポータブルマイクロPCR装置により達成される:
■透明シーリングキャップを有し、リアクションチャンバ、埋設されたヒータ及び温度センサからなるディスポーザブルPCRチップ
■以下のユニットからなるハンドヘルド電子機器ユニット:
○ヒータ及び温度センサ用の制御回路
○蛍光光学検知システム
■該ハンドヘルドユニットを制御するためのプログラムを動かすスマートフォン又はPDA(携帯情報端末)
【0057】
ディスポーザブルPCRチップは、埋設されたヒータで加熱され、埋設されたサーミスタでモニタされるリアクションチャンバからなる。それは、低温同時焼成セラミクス(LTCC)システムで製作され、ヒータ及び温度センサと連結するためのコネクタで適当にパッケージされる。
【0058】
埋設されたヒータは、LTCCと適合するデュポン製CFシリーズのような抵抗ペースト(resistor paste)でできている。デュポン95、ESL(41XXXシリーズ)、Ferro(A6システム)やHaraeusのようなあらゆるグリーンセラミクステープ系を使用可能である。前記埋設された温度センサは、アルミナ基板のたためのPTC(Positive Temperature Coefficient)抵抗サーミスタペースト(例えば509X Dは、ESLエレクトロサイエンス製のESL2612である)を用いて作製されたサーミスタである。NTC4993(EMCA Remex製)のような抵抗ペーストのNTC(Negative Temperature Coefficient)もまた使用可能である。
【0059】
透明(波長300〜1000nm)なシーリングキャップは、試料のリアクションチャンバからの蒸発を防ぐためにあり、ポリマー材料でできている。
【0060】
制御回路は、オン/オフ又はPID(Proportional Integral Differential)制御回路からなり、これらは、埋設されたサーミスタが一部を形成するブリッジ回路からの出力に基づいてヒータを制御する。ここで開示したヒータを制御し、そしてサーミスタ値を読み取る方法は、ほんの一例である。これを制御や限定の唯一の方法と解釈するべきではない。ヒータを制御し、そしてサーミスタ値を読み取る他の手段は、本開示に十分に応用できる。
【0061】
蛍光光学検知システムは、LED(Light Emitting Diode)の励起源及び光ダイオードによって検知された蛍光を含む。このシステムは、光を試料上へ照射するのに使用する光ファイバを収容する。光ファイバは、また、光を光ダイオード上へ向ける(channel)のに使用される。LED及び光ダイオードは、光ファイバへ適当なバンドパスフィルタを介して結合される。光学検知器からの出力シグナルの正確な測定には、極めて良好なシグナル対ノイズ比(S/N比)を有する回路が必要である。ここで開示した蛍光検出システムは、ほんの一例である。これを唯一の検出や限定ととらえるべきではない。試料へ照射できない限りすべての蛍光検出器が動作する。
【0062】
本発明は、特定の診断用途のために市場性のあるハンドヘルドPCRシステムを提供する。PDAは、完全なハンドヘルドPCRシステムをリアルタイム検出及びソフトウエア制御をもって提供する制御ソフトウエアを有する。
【0063】
本装置を用いて熱容積を減少し、加熱/冷却速度を改善することにより、5〜25μlの適度な試料容積の場合でも30〜40サイクルの反応を終了するためにかかる2〜3時間の時間を、30分以下に削減する。図12は、本発明のLTCCチップを用いてB型肝炎ウイルス性DNAを増幅するのにかかる時間を示す。PCRを45サイクル実行し、そして、45分以内に増幅を達成できた。さらに、増幅は、PCRを20分及び15分で45サイクル行った場合にも観測された。HBV(45サイクル)のための汎用のPCR期間は、約2時間要する。
【0064】
ミニチュア化では、より小さい試料サイズでの正確な読み取りと、コスト高な試薬のより小容積の消費が可能になる。マイクロシステムの小さい熱容積及び小さい試料サイズによれば、迅速で低出力の熱サイクルが可能で、マイクロPCRを介するDNA複製のような多くのプロセスのスピードをアップする。さらに、マイクロスケールでの利用可能な表面対容積比の増大により、表面化学に依存する化学プロセスを大いに高める。マイクロ流体の利点が、化学分析のための集積マイクロシステムの開発の要望を促している。
【0065】
ハンドヘルド装置(109)内に移されたマイクロチップは、これにより、高度な研究室からPCR機械装置を除去し、こうしてこの極めて強力な技術の範囲を増大させ、臨床診断、食品検査、血液バンクでの血液スクリーニング、他の用途分野でのホスト(host)のためなる。
【0066】
多数のリアクションチャンバを有する既存のPCR装置は、すべてが同一の熱プロトコルを実行し、したがって時間的に能率的でない多数のDNA実験サイトを提供する。反応時間及び試料容積の摂取量を最小化する必要がでてくる。
【0067】
本PCRは、将来設計されるが、極めて迅速な熱応答を持つ装置のアレイを有し得、そして、多重反応を異なる熱プロトコロルを最小の混信をもって効率的かつ独立に実行し得るように隣接するPCRチップと高度に孤立している。
【0068】
PCR産物の分析又は定量化は、リアルタイム蛍光検出システムの実用的集積化によって実現する。このシステムは、また、B型肝炎(図12)、AIDS、結核などのような疾患を検出するための定量化及びセンサシステムを用いて集積化される。他の市場には、食品モニタリング、DNA分析、法科学及び環境モニタリングが含まれる。
【0069】
チップ内部の温度プロファイルの均一性を測定した後、PCR反応をこれらのチップ上で行った。λDNA断片及びサルモネラ菌DNAは、これらのチップを用いて上首尾に増幅された。図5に、ヒータ、コンダクタリング、サーミスタ、及び伝導リング(52)との様々な結合を示す3次元表示のマイクロチップを示す。それは、また、コンダクタリング(52)をコンダクタプレート(33)へ結合するポスト(51)を示す。
【0070】
図6に、集積化ヒータ及びサーミスタを用いたチップ上のλ−636DNA断片の溶解の比較プロットを示す。
【0071】
図7は、λ−311DNAの増幅に伴う蛍光シグナルの増大を示す。熱プロファイルは、ハンドヘルドユニットにより制御され、反応は、チップ上(3μlの反応混合物及び6μlのオイル)で行われた。蛍光を汎用ロックインアンプを用いてモニタした。
【0072】
本発明は、また、診断システムを提供する。診断システムを開発するために採用された手順は、初期には、二三の問題のためにサーマルプロトコルを規格化し、同一物をチップ上で機能化していた。16Sリボソームのために設計されたプライマは、E.coli及びサルモネラ菌から〜300−400bp断片を増幅し、一方、サチライシン遺伝子(stn gene)についてのプライマは、Salmonella typhiから〜200bp断片を増幅した。得られた産物を、SYBRグリーン蛍光検出とアガロースゲル電気泳動で確認した。図7及び11に、マイクロチップを用いて増幅したλ−311DNA及びサルモネラ菌遺伝子のゲル写真を示す。
【0073】
λ−311DNA増幅のための熱プロファイル:
変性:94℃(90秒)
94℃(30秒) − 50℃(30秒) − 72℃(45秒)
伸長:72℃(120秒)
【0074】
サルモネラ菌遺伝子増幅のための熱プロファイル:
変性:94℃(90秒)
94℃(30秒) − 55℃(30秒) − 72℃(30秒)
伸長:72℃(300秒)
【0075】
処理血液及び血漿を用いたPCR
血液又は血漿を、試料から主要なPCR阻害物質を沈殿させることのできる沈殿剤で処理した。透明な上清を、テンプレートとして用いた。このプロトコルを用いて、Salmonella typhiから〜200bp断片について増幅を得た(図8)。図8に、ゲル電気泳動写真を示す。
1.コントロール反応、
2.PCR産物−血液(未処理)、
3.PCR産物−処理血液、
4.PCR産物−処理血漿
【0076】
血液直接PCRバッファ
血液又は血漿試料を用いた直接PCRのためにユニークバッファを配合した。このユニークバッファシステムを用いて、血液及び血漿を用いた直接PCR増幅を達成した。本発明のLTCCチップを用いてこのバッファシステムを用いると、最高50%の血液、及び40%の血漿で増幅が達成された(図9及び10参照)。
図9にゲル電気泳動写真を示す。
1.PCR産物−20%血液、
2.PCR産物−30%血液、
3.PCR産物−40%血液、
4.PCR産物−50%血液、及び
図10にゲル電気泳動写真を示す。
1.PCR産物−20%血漿、
2.PCR産物−30%血漿、
3.PCR産物−40%血漿、
4.PCR産物−50%血漿、
5.コントロール反応
【0077】
ユニークバッファは、バッファの塩、二価イオンを含有する塩化物又は硫酸塩、非イオン性界面活性剤、安定剤及び糖アルコールを含む。
【0078】
図13に、λ−311DNAの溶解のための蛍光シグナルの微分のためのLTCCチップの溶解曲線を示す。図は、また、本発明(131)と汎用のPCR装置(132)との比較を提供する。
より鋭いピーク:ピーク値/幅(x軸)@ハーフピーク値=1.2/43
より浅いピーク:ピーク値/幅(x軸)@ハーフピーク値=0.7/63
【0079】
高い比率はより鋭いピークを示す。また、グラフにおいて、y軸は、微分(溶解曲線の傾き)であり、より高い傾きは、より急峻な溶解を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
低温同時焼成セラミクス(LTCC)でできた複層を含むマイクロチップであって、ここでリアクションチャンバが試料を装填するための複数のリアクションチャンバ層内に形成され、コンダクタが該リアクションチャンバの下に置かれた少なくとも一のコンダクタ層に埋設され、そして、ヒータが該コンダクタ層の下に置かれた少なくとも一のヒータ層内に埋設された、前記マイクロチップ。
【請求項2】
該リアクションチャンバは、透明シーリングキャップでカバーされる、請求項1に記載のマイクロチップ。
【請求項3】
該チップは、温度センサを備える、請求項1に記載のマイクロチップ。
【請求項4】
該温度センサは、該チップの少なくとも一のセンサ層内に埋設されている、請求項3に記載のマイクロチップ。
【請求項5】
該温度センサは、サーミスタである、請求項4記載のマイクロチップ。
【請求項6】
該チップは、外部制御回路を該温度センサ及び該ヒータに連結するためのコンタクトパッドを備える、請求項1及び4に記載のマイクロチップ。
【請求項7】
該温度センサは、チップ温度を測定するために該チップの外部に置かれる、請求項3記載のマイクロチップ。
【請求項8】
該リアクションチャンバは、コンダクタリングによって囲まれている、請求項1に記載のマイクロチップ。
【請求項9】
該コンダクタリングは、該コンダクタ層にポストで結合されている、請求項1及び8に記載のマイクロチップ。
【請求項10】
該コンダクタは、金、銀、白金及びパラジウム又はこれらの合金を含む群から選択される材料でできている、請求項1、8及び9に記載のマイクロチップ。
【請求項11】
該リアクションチャンバベースと該ヒータとの間に離隔が存在し、その離隔は、約0.2mm〜約0.7mmの範囲にある、請求項1に記載のマイクロチップ。
【請求項12】
該試料は、食品、又は、血液、血清、血漿、組織、唾液、たん及び尿からなる群から選択される生物学的試料である、請求項1に記載のマイクロチップ。
【請求項13】
該リアクションチャンバは、約1μl〜約25μlの範囲にある容積を有する、請求項1に記載のマイクロチップ。
【請求項14】
マイクロチップの製作方法であって、以下の工程:
a)低温同時焼成セラミクス(LTCC)で作られ、そしてウエルを有する複層を配置してリアクションチャンバを形成し、
b)該チャンバの下に、ヒータを含む少なくとも一層のLTCCを置き、
c)該ヒータと該リアクションチャンバとの間に一又は数個のコンダクタ層を置き、そして、
d)これらの層を互いに連結してマイクロチップを形成する、
を含む前記方法。
【請求項15】
該ヒータと該リアクションチャンバ層内との間、あるいは該ヒータの下に、温度センサを備えた少なくとも一層のLTCCが置かれている、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
該チャンバは、コンダクタリングによって囲まれている、請求項14に記載の方法。
【請求項17】
該コンダクタ層へ該コンダクタリングを結合するポストが設けられる、請求項14及び16に記載の方法。
【請求項18】
a)複層のLTCCを含むマイクロチップであって、ここでリアクションチャンバが試料を投入するための複数のリアクションチャンバ層内に形成され、コンダクタが該リアクションチャンバの下に置かれた少なくとも一層に埋設され、そして、ヒータが該コンダクタ層の下に置かれた少なくとも一のヒータ層内に埋設された前記マイクロチップ;
b)前記マイクロチップ内に埋設され又はチップ外に置かれる、チップ温度を測定するための温度センサ;
c)前記温度センサの入力値に基づいて前記ヒータを制御するための制御回路;及び
d)試料からの蛍光シグナルを検出するための光学システム
を含むマイクロPCR装置。
【請求項19】
該装置は、ハンドヘルド装置である、請求項18に記載のマイクロPCR装置。
【請求項20】
該装置は、ポータブル計算プラットフォームを用いて制御される、請求項18に記載のマイクロPCR装置。
【請求項21】
該装置は、多重PCRを実行するアレイ内に配置される、請求項18に記載のマイクロPCR装置。
【請求項22】
該マイクロチップは、該装置から脱着可能である、請求項18に記載のマイクロPCR装置。
【請求項23】
マイクロPCR装置を用いて試料内の分析物を検出し、又は病気の状態を診断する方法であって、以下の工程:
a)複数のLTCC層を備えたマイクロチップ上に核酸を含む試料を装填する、
b)前記マイクロPCR装置の運転により核酸を増幅する、そして
c)増幅した核酸の蛍光の読み取りに基づいて分析物の存在又は非存在を測定し、又は、増幅した核酸の蛍光の読み取りに基づいて病原体の存在又は非存在を測定して病気の状態を診断する、
を含む前記方法。
【請求項24】
該核酸は、DNA又はRNAのいずれかである、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
該方法は、増幅産物の定性及び定量分析のためにある、請求項23に記載の方法。
【請求項26】
該試料は、食品又は生物学的試料である、請求項23に記載の方法。
【請求項27】
該生物学的試料は、血液、血清、血漿、組織、唾液、たん及び尿を含む群から選択される、請求項24に記載の方法。
【請求項28】
該病原体は、ウイルス、バクテリア、菌類、酵母及び原生動物を含む群から選択される、請求項23に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公表番号】特表2011−501122(P2011−501122A)
【公表日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−528533(P2010−528533)
【出願日】平成20年10月13日(2008.10.13)
【国際出願番号】PCT/IN2008/000666
【国際公開番号】WO2009/047805
【国際公開日】平成21年4月16日(2009.4.16)
【出願人】(510101446)ビッグテック プライベート リミテッド (2)
【Fターム(参考)】