説明

マイクロピラー構造体及びその製造方法

【課題】簡単な構成により先端側から改質度が徐々に変化しているマイクロピラー構造体及びその製造方法を提供する。
【解決手段】マイクロピラー構造体10は、基板11と基板11の表面に形成された複数本のマイクロピラー12とから成り、マイクロピラー12の表面特性は、マイクロピラー12の先端側から根元方向に向かって改質度が低下するように改質されている。マイクロピラー構造体10は、基板11の表面に複数本のマイクロピラー12を形成して、マイクロピラー12の表面における先端側から根元方向に向かって改質度が低下するように、波長172nm以下の真空紫外線を照射することによって形成することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロピラー構造体及びその製造方法に関する。さらに、詳しくは、基板の表面に形成された複数本のマイクロピラーから成るマイクロピラー構造体及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、化学反応用のマイクロ流路や細胞培養等で使用されるマイクロピラー構造体(特許文献1参照)は、例えば図10に示すように構成されている。
図10に示すように、マイクロピラー構造体51は、基板52と、この基板52の表面に形成された複数本のマイクロピラー53と、から構成されている。
ここで、個々のマイクロピラー53は、基板52の表面に対して、例えばナノインプリント法等により成形されており、基板52と同じ材料から構成されている。
【0003】
このような構成のマイクロピラー構造体51によれば、表面に例えば細胞培養のための培養液54を付着させた状態で保持することができると共に、個々のマイクロピラー53の先端を細胞に当接させて、細胞を培養することができる。
【0004】
ところで、上述したマイクロピラー構造体51は、基板52及びマイクロピラー53が同じ材料から形成されており、表面における親水性がほぼ一様である。
従って、培養液54を付着させたとき、図10において、反応液54は、マイクロピラー53の間の間隙内に侵入し、基板52の表面まで均一に分布することになる。
このため、個々のマイクロピラー53の先端を細胞に当接させたとき、マイクロピラー53の間の間隙内で基板52の表面付近に位置する培養液54は、離反しにくくなり、残存してしまうことがある。これにより、細胞を培養するための培養液54の量が少なくなって、正しい量の培養液54の投与を行うことができなくなってしまう。
【0005】
これに対して、特許文献2には、細胞を培養するための微小突起物集合体に紫外線を照射することにより、微小突起物集合体の表面を親水化又は疎水化した背景技術が開示されている。
【0006】
【特許文献1】特開2008−55556号公報
【特許文献2】特開2005−312343号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1によるマイクロピラー構造体51においては、基板52及びマイクロピラー53は一様な親水性を有しているので、基板52及びマイクロピラー53には培養液54が均一に付着することになる。このため、マイクロピラー53の間の間隙内で基板52の表面付近に位置する培養液54が離反しにくくなり、残存してしまうことがある。
【0008】
特許文献2では、紫外線を照射することにより、マイクロピラー構造体のマイクロピラーの表面及び基板の表面に親水性又は疎水性に改質することが開示されている。
しかしながら、このような紫外線の照射では、マイクロピラーの表面及び基板表面の全体の改質を行うことは可能であるが、これらの表面を部分的に改質することはできない。従って、前述した親水性による培養液の付着を表面部分の位置に応じて変化させることはできなかった。
【0009】
さらに、このようなマイクロピラー構造体においては、上述した親水性だけでなく、例えば反射特性等の他の表面特性についても、マイクロピラーの表面及び基板表面の全体が均一な特性を有することになる。
しかしながら、マイクロピラー構造体の種々の用途によっては、このような全体が均一な表面特性では好ましくないことがある。
【0010】
本発明は、上記課題に鑑み、簡単な構成により先端側から改質度が徐々に変化しているマイクロピラー構造体及びその製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記第1の目的を達成するため、本発明のマイクロピラー構造体は、基板と基板の表面に形成された複数本のマイクロピラーとから成るマイクロピラー構造体であって、マイクロピラーの表面特性は、マイクロピラーの先端側から根元方向に向かって改質度が低下するように改質されていることを特徴とする。
【0012】
本発明の第二の構成によるマイクロピラー構造体は、基板と、基板の表面に形成された複数本のマイクロピラーと、マイクロピラーの表面に形成されたコーティング層と、から成るマイクロピラー構造体であって、コーティング層の表面特性は、マイクロピラーの先端側から根元方向に向かって改質度が低下するように改質されていることを特徴とする。
【0013】
上記構成において、マイクロピラーの表面又はコーティング層は、好ましくは、少なくとも酸素が存在する雰囲気中で先端側から真空紫外線が照射されることによって、親水性,付着性,反射特性等の表面特性が改質されている。この雰囲気は大気とすることができる。
上記構成によれば、例えば波長172nm以下の真空紫外線が大気雰囲気中を進んだとき、大気中の酸素分子に吸収され、光源からの距離に対応して光量が減衰することを利用して、マイクロピラーの先端側から波長172nm以下の真空紫外線を照射する。
これにより、マイクロピラーの表面領域又はコーティング層においては、先端側から照射される真空紫外線の光量が根元方向に向かって徐々に低下し、これに伴って紫外線照射による表面特性の改質度も根元方向に向かって徐々に低下する。
【0014】
この場合、真空紫外線の照射によって、マイクロピラーの表面領域又はコーティング層は、根元方向に向かって光源からの距離の差に基づいて、真空紫外線の照射光量が徐々に低下する。
これにより、マイクロピラーは、その長手方向に関して先端からの距離に応じて表面領域又はコーティング層の改質度が変化し、例えば親水性や反射特性等の表面特性が変化する。例えば、マイクロピラー構造体により培養液を保持する場合、マイクロピラーの先端側がより強い親水性を備えることによって、マイクロピラー構造体の表面付近に培養液が残存するようなことがなく、容易に離反するので、培養液の取り出しを容易に行うことができる。
【0015】
上記第2の目的を達成するため、本発明のマイクロピラー構造体の製造方法は、基板の表面に複数本のマイクロピラーを形成して、マイクロピラー構造体を構成する第一の段階と、マイクロピラー構造体のマイクロピラーの表面における先端側から根元方向に向かって改質度が低下するように、マイクロピラーの表面特性を改質する第二の段階と、を含んでいることを特徴とする。
上記構成において、第一の段階で形成されるマイクロピラーを、0.1mm以上の高さとし、第二の段階で、マイクロピラーの先端側から1cm以内の距離で波長172nm以下の真空紫外線を照射することによってマイクロピラーの表面特性を改質してもよい。
第二の段階で、少なくとも酸素が存在する雰囲気中で真空紫外線の照射によって、マイクロピラーの表面特性として親水性を改質してもよい。この雰囲気は大気とすることができる。
【0016】
本発明の第二の構成によるマイクロピラー構造体の製造方法は、基板の表面に複数本のマイクロピラーを形成して、マイクロピラー構造体を構成する第一の段階と、マイクロピラー構造体の少なくともマイクロピラーの表面に、所定の表面特性を有するコーティング膜を形成する第二の段階と、マイクロピラーの表面に形成されたコーティング層の先端側から根元方向に向かって改質度が低下するように、コーティング層の表面特性を改質する第三の段階と、を含んでいることを特徴とする。
上記構成において、第一の段階で形成されるマイクロピラーを、0.1mm以上の高さとし、第三の段階で、マイクロピラー構造体のマイクロピラーの先端側から1cm以内の距離で波長172nm以下の真空紫外線を照射することによって、コーティング層の表面特性を改質してもよい。
第三の段階で、少なくとも酸素が存在する雰囲気中で真空紫外線の照射によって、コーティング層の表面特性として反射特性,付着性等を改質してもよい。この雰囲気は大気とすることができる。
【0017】
上記構成において、第一の段階で、基板上に樹脂層を形成し、樹脂層のパターンエッチングによってマイクロピラーを形成してもよい。
第一の段階で、Siからなる基板上にポリイミド層を形成し、ポリイミド層をパターンエッチングすることによってマイクロピラーを形成してもよい。
第一の段階で、リソグラフィ法によって作製されパターン転写された金型を使用して、マイクロピラーを、射出成形法によって樹脂成形してもよい。
第一の段階で、基板及びマイクロピラーを、PMMAから形成してもよい。
第一の段階で、光造形法によって作製されパターン転写された金型を使用し、樹脂からなる基板にナノインプリント法によってマイクロピラーを形成してもよい。
第一の段階で、PMMAからなる基板にナノインプリント法によってマイクロピラーを形成してもよい。
【0018】
上記構成によれば、マイクロピラーの先端側から根元方向に向かって改質度が低下するようなマイクロピラー構造体を、容易に製造することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明のマイクロピラー構造体によれば、簡単な構成でマイクロピラーの先端側から改質度が徐々に変化しているマイクロピラー構造体を提供することができる。
【0020】
本発明のマイクロピラー構造体の製造方法によれば、マイクロピラーの先端側から改質度が徐々に変化するマイクロピラー構造体を、容易に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について詳細に説明する。各図において同一又は対応する部材には同一符号を用いる。
(第一の実施形態)
図1は、本発明により形成されたマイクロピラー構造体の第一の実施形態の構成を示す模式的な断面図である。
図1において、マイクロピラー構造体10は、基板11と、この基板11の表面に形成された複数本のマイクロピラー12と、から構成されている。
【0022】
基板11は、例えば樹脂材料から構成されており、平板状に形成されている。
ここで、基板11の材料としては、表面にマイクロピラー12を備えることができれば、如何なる材料でもよい。
【0023】
マイクロピラー12は、基板11の表面に対してほぼ垂直に且つ互いにほぼ平行に延びるように形成されており、基板11と同じ材料又は基板11とは異なる材料で構成されている。基板11としては、Siやガラス等のような無機材料や樹脂基板を用いることができる。基板11の樹脂材料としては、ポリイミド,PMMA(アクリル樹脂),PS(ポリスチレン),PET(ポリエチレンテレフタレート),PLA(ポリ乳酸),PC(ポリカーボネート),COP(環状ポリオレフィン)等を用いることができる。マイクロピラー12の材料としては、基板11の材料と同じ材質でも異なる材料でもよく、基本的には特に制約はない。
ここで、マイクロピラー12は、四角柱,多角柱,円柱等の柱状又は四角錐,多角錐,円錐等の錐状の形状を有しており、0.1mm以上の高さを有している。
【0024】
図2は、図1のマイクロピラー構造体10における真空紫外線の照射によるマイクロピラー表面の改質状態を示す概略断面図である。
図2に示すように、マイクロピラー12の先端側の直上から少なくとも酸素を含む雰囲気中において真空紫外線(Vaccum Ultra Violet、VUVと呼ばれている)が照射される。少なくとも酸素を含む雰囲気としては、大気を用いることができる。より具体的には、波長172nmの真空紫外線が、マイクロピラー12の先端の上方1cm以内の距離から照射されることによって、表面特性としての親水性等が改質されている。これは、真空紫外線照射によって、マイクロピラー12を構成する材料中の−C−H結合が切れて、−C−OOHのような親水性の基ができるためと推察される。
ここで、マイクロピラー12の材料は、真空紫外線の照射によって親水性が増大するような材料が選定されている。
【0025】
ここで、真空紫外線は大気中を進むにつれて、大気中の酸素に吸収され減衰することが知られている。そして真空紫外線の透過距離と減衰率は、酸素に対する真空紫外線の吸収係数の大きさによって決まる。即ち、Iを放射強度(mW/cm),pを大気中の酸素分圧(atm),αを吸収係数(/atm・cm)とすると、放射強度Iの光源からLcmの距離にある真空紫外線の放射強度Iは、下記(1)式で表わされる。
I=I0 ×exp(−pαL/100) (1)
【0026】
従って、高さ0.1mm以上のマイクロピラー12に対して、先端側から波長172nm以下の真空紫外線が照射されると、マイクロピラー12の表面領域に関して、先端と根元では、照射光量が異なる。これにより、マイクロピラー12の表面領域への真空紫外線の照射による改質度即ち親水性等が、先端側から根元方向に向かって徐々に低下することになる。
【0027】
図3は、図1のマイクロピラー構造体10における親水性の改質による培養液13の付着状態を示す概略断面図である。
図3に示すように、マイクロピラー12の先端に培養液13を付着させた場合、マイクロピラー12の表面領域の先端側で最も高い親水性を有していることから、培養液13は、マイクロピラー12の先端付近では多く付着するが、根元方向に向かって徐々に付着する量が減少し、マイクロピラー12の間の間隙内に培養液13が進入しにくくなり、基板11の表面付近では培養液13は殆ど付着しない。
従って、培養液13をマイクロピラー構造体10から取り出す場合、培養液13が容易にマイクロピラー12から離反し、マイクロピラー12の間の間隙内や基板11の表面には、培養液13が残存しないようになる。
【0028】
(第一の実施形態の製造方法)
図4は、上述したマイクロピラー構造体10の製造方法の一例を示している。
まずステップST1において、マイクロピラー構造体10の基板11及びマイクロピラー12即ち柱状微小構造体が形成される。
【0029】
続いて、ステップST2において、マイクロピラー構造体10のマイクロピラー12の上方から図2に示すように172nm以下の真空紫外線が照射される。
ここで、真空紫外線の照射は、大気中で行われるが、酸素や窒素等の任意のガス雰囲気中で行うことも可能である。
これにより、マイクロピラー12の表面領域は、真空紫外線の照射によって先端側から徐々に真空紫外線照射による改質度が低下するように改質され、親水性が高められる。
さらに、改質に伴って、マイクロピラー12の表面への選択的な吸着や表面張力の低下による毛細管現象の発生等によって、選択的且つ特異な機能が得られることになる。
【0030】
図5は、図1のマイクロピラー構造体10における真空紫外線の照射距離及びマイクロピラー12の高さを変化させた場合のマイクロピラー先端及び底部の光量差の変動を示す図である。
図5に示すように、前述した(1)式において、例えばエキシマランプを使用して、波長172nmの真空紫外線をマイクロピラー12の直上から大気中で照射する場合に、例えばマイクロピラー12の先端からエキシマランプまでの距離L(cm)を0,0.1,0.2,0.8,1cmとしたとき、マイクロピラー12の先端における光量I(mW/cm)は、50.00,37.04,27.44,4.54,2.49mW/cmとなる。
ここで、高さ0.3mmのマイクロピラー12では、その底部(根元)における光量I1(mW/cm)は、45.70,33.85,25.08,4.15,2.28mW/cmとなる。従って、各距離Lにおけるマイクロピラー12の先端と底部との光量差(I−I1)は、それぞれ4.30,3.19,2.38,0.39,0.21mW/cmとなる。
また、高さ0.1mmのマイクロピラー12では、その底部(根元)における光量I2(mW/cm)は、48.52,35.95,26.63,4.40,2.42mW/cmとなる。従って、各距離Lにおけるマイクロピラー12の先端と底部との光量差(I−I2)は、それぞれ1.48,1.09,0.81,0.13,0.07mW/cmとなる。
【0031】
図6は、波長172nm及び185nmの真空紫外線の大気中における減衰特性を示している。図6の横軸は透過距離(mm)であり、縦軸は光強度比(%)である。
図6から明らかなように、特に、波長が172nmの真空紫外線は、大気中での減衰が大きく、例えば距離8mmで約10%の強度になることが分かる。
【0032】
また、真空紫外線の照射は、酸素を含む雰囲気である大気中でエキシマランプを使用することによって行われる。
図7は、大気中におけるマイクロピラー構造体10へのエキシマランプによる真空紫外線の照射時間と、マイクロピラー構造体10における純水との接触角の関係を示す図である。図7の横軸はエキシマランプの照射時間(秒)であり、縦軸は純水の接触角(°)である。符号Aは、エキシマランプを距離3mmの位置に配置した場合、符号Bは、エキシマランプを距離1.3mmの位置に配置した場合、そして符号Cは、参考として低圧水銀ランプを距離30mmの位置に配置した場合を示している。
接触角はマイクロピラー構造体10の親水性を示すものであり、図7から明らかなように、特に符号Bで示すように、エキシマランプを距離1.3mmの位置に配置して真空紫外線を照射した場合に、親水性が効果的に改質されることが分かる。
【実施例1】
【0033】
上述したマイクロピラー構造体10は、具体的には以下のようにして形成される。
まず、実施例1では、Siウェハー11上に300μm厚のポリイミド層を塗工し、その上にフォトレジスト層を形成し、フォトリソグラフィー法によってマイクロピラー12のパターンを形成した後、酸素プラズマ等のドライエッチングによってポリイミド層を除去する。これにより、例えば底辺100μm,高さ300μmのポリイミド層からなる四角柱状のマイクロピラー12が800本/cmで配列したマイクロピラー構造体10が得られた。
【実施例2】
【0034】
実施例2では、実施例1のマイクロピラー構造体10と同じ形状のマスターをX線リソグラフィー法によって作製した。このマスターに対して、例えば厚さ2mmでNi電鋳によってマイクロピラー12のパターンを転写した金型を作製した。この金型を使用して、マイクロ射出成形法によって、PMMAからなるマイクロピラー12を作製し、マイクロピラー構造体10を得た。
【実施例3】
【0035】
実施例3では、底辺100μm,高さ300μmの円錐形マイクロピラー12が800本/cmで配列した構造体と同じ形状のマスターをマイクロ光造形法によって作製し、このマスターに対して、例えば厚2mmでNi電鋳によってマイクロピラーのパターンを転写した金型を作製した。この金型を使用して、PMMA基板11に熱ナノインプリント法によって、マイクロピラー構造体10を作製した。
【0036】
これらの実施例1〜3のマイクロピラー構造体10について、それぞれ波長172nmの真空紫外線エキシマランプによって、光源からマイクロピラー12の先端までの距離を2mm,処理時間2秒として、紫外線照射処理を行った。
【0037】
(比較例1〜3)
比較例1〜3として、それぞれ上述した各実施例1〜3において真空紫外線照射処理を行わないものを作製した。
【0038】
実施例1〜3及び比較例1〜3による各マイクロピラー構造体10に関して、染料(Mitsui Acid Fast Yellow GR)を1%含む染料入り水溶液を、滴下して、染色状態を観察した。
実施例1〜3では、マイクロピラー12の部分のみが染色された様子が観察された。これは、真空紫外線照射によってマイクロピラー12の部分のみが改質され、親水性が高められると共に、基板11の表面は真空紫外線が照射されず、親水性が高められなかったためであると考えられる。
これに対して、比較例1〜3では、マイクロピラー12及び基板11の表面共に染色されていた。これは、マイクロピラー12及び基板11の表面全体が同じ親水度を有していることを表わしている。
このようにして、172nmの真空真空紫外線の照射によるマイクロピラー構造体10におけるマイクロピラー12の表面領域のみの選択的な改質を行うことが可能であり、マイクロピラー12の表面領域の親水性が高められることが確認された。
【0039】
(第二の実施形態)
図8は、マイクロピラー構造体の第二の実施形態の構成を示す模式的な断面図である。
図8において、マイクロピラー構造体20は、基板11と、この基板11の表面に形成された複数本のマイクロピラー12と、マイクロピラー12及び基板11の表面に形成されたコーティング層21と、から構成されている。
【0040】
基板11及びマイクロピラー12は、図1に示したマイクロピラー構造体10における基板11及びマイクロピラー12と同じ構成であるので、その説明を省略する。
なお、この場合、マイクロピラー12の表面領域はコーティング層21によって覆われるので、材料としては、任意の材料、好ましくはコーティング層21の付着性の良好な材料から構成される。
【0041】
コーティング層21は、基板11及びマイクロピラー12の表面全体に亘って、結晶成長あるいはスパッタリング法等の適宜の方法によって、例えば厚さ0.1μmから1μmに形成されている。コーティング層21は、図示の場合、基板11及びマイクロピラー12の表面全体に形成されているが、これに限らず、マイクロピラー12の表面領域にのみ形成されていてもよい。コーティング層21は、その材料や表面形状によって固有の表面特性、例えば反射特性,付着性,吸着性等を備えていると共に、真空紫外線照射によってその表面特性が改質され、その改質度が真空紫外線照射光量に応じて変化する。
ここで、コーティング層21の材料としては、例えばパーヒドロポリシラザン、ポリビニルアルコール、TiOゲル膜等が使用される。
【0042】
これにより、高さ0.1mm以上のマイクロピラー12に対して、先端側から波長172nm以下の真空紫外線が照射されると、マイクロピラー12の表面に形成されたコーティング層21に関して、先端と根元では、照射光量が異なる。このため、コーティング層21の表面領域の真空紫外線の照射による表面特性の改質度が、先端側から根元方向に向かって徐々に低下することになる。
従って、表面特性の改質によって、反射特性あるいは付着性,吸着性がマイクロピラー12の先端から根元方向に向かって徐々に低下又は上昇する。
【0043】
(第二の実施形態の製造方法)
図9は、上述したマイクロピラー構造体20の製造方法の一例を示している。
まずステップST11において、マイクロピラー構造体20の基板11及びマイクロピラー12即ち柱状微小構造体が形成される。
次に、ステップST12において、基板11及びマイクロピラー12の表面全体に亘って、コーティング層21が形成される。
【0044】
最後に、ステップST13において、マイクロピラー構造体20のマイクロピラー12の上方から172nm以下の真空紫外線が照射される。
これにより、マイクロピラー12の表面に形成されたコーティング層21は、真空紫外線の照射によってマイクロピラー12の先端側から根元方向に向かって徐々に紫外線照射による改質度が低下するように、例えば反射特性,付着性又は吸着性が変化する。
【0045】
このような構成のマイクローラー構造体20によれば、コーティング層21による表面特性が真空紫外線の照射によって改質され、その改質度がマイクロピラー12の先端側から根元方向に向かって徐々に低下する勾配を有している。
従って、マイクロピラー12の表面領域における先端側から根元方向への改質度の勾配によって、表面特性による機能が徐々に変化するので、特異な機能が得られることになる。
【0046】
上述した実施形態においては、マイクロピラー12の表面領域が真空紫外線の照射によって親水性が改質され、またコーティング層21の表面領域が真空紫外線の照射によって反射特性,付着性又は吸着性等の表面特性が改質されるようになっているが、これに限らず、他の表面特性が改質されるようにしてもよいことは明らかである。
【0047】
本発明に係るマイクロピラー構造体10,20は、真空紫外線の照射によって、マイクロピラー12又はマイクロピラー12の表面に被覆したコーティング層21に表面のみを先端から根元方向に向かって改質度を低減させることができるので、親水性だけでなく、反射特性,付着性,吸着性等の特異な機能性をマイクロピラー12やコーティング層21の表面に付与することができる。
【0048】
本発明は、上記実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した発明の範囲内で種々の変形が可能であり、例えば、マイクロピラー12の形状は、柱状又は錐状であれば任意の形状を有していてもよい。
さらに、マイクロピラー構造体10,20の作製方法も前述した実施例1〜3による方法だけでなく、他の任意の方法で作製することも可能であり、それらも本発明の範囲内に含まれることはいうまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明により形成されたマイクロピラー構造体の第一の実施形態の構成を示す模式的な断面図である。
【図2】図1のマイクロピラー構造体における真空紫外線の照射によるマイクロピラー表面の改質状態を示す概略断面図である。
【図3】図1のマイクロピラー構造体における親水性の改質による培養液の付着状態を示す概略断面図である。
【図4】図1のマイクロピラー構造体の製造方法を示すフローチャートである。
【図5】図1のマイクロピラー構造体における真空紫外線の照射距離及びマイクロピラーの高さを変化させた場合のマイクロピラー先端及び底部の光量差の変動を示す図である。
【図6】真空紫外線の大気中による減衰特性を示すグラフである。
【図7】大気中におけるマイクロピラー構造体へのエキシマランプによる真空紫外線の照射時間と、マイクロピラー構造体における純水との接触角の関係を示す図である。
【図8】マイクロピラー構造体の第二の実施形態の構成を示す模式的な断面図である。
【図9】図8のマイクロピラー構造体の製造方法を示すフローチャートである。
【図10】従来のマイクロピラー構造体の構成を示す模式的な断面図である。
【符号の説明】
【0050】
10,20:マイクロピラー構造体
11:基板
12:マイクロピラー
13:培養液
21:コーティング層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と該基板の表面に形成された複数本のマイクロピラーとから成るマイクロピラー構造体であって、
上記マイクロピラーの表面特性は、該マイクロピラーの先端側から根元方向に向かって改質度が低下するように改質されていることを特徴とする。
【請求項2】
前記マイクロピラーは、少なくとも酸素が存在する雰囲気中で先端側から真空紫外線が照射されることによって表面特性が改質されていることを特徴とする、請求項1に記載のマイクロピラー構造体。
【請求項3】
前記雰囲気が大気であることを特徴とする、請求項2に記載のマイクロピラー構造体。
【請求項4】
基板と、該基板の表面に形成された複数本のマイクロピラーと、マイクロピラーの表面に形成されたコーティング層と、から成るマイクロピラー構造体であって、
上記コーティング層の表面特性は、上記マイクロピラーの先端側から根元方向に向かって改質度が低下するように改質されていることを特徴とする、マイクロピラー構造体。
【請求項5】
前記コーティング層は、少なくとも酸素が存在する雰囲気中で先端側から真空紫外線が照射されることによって表面特性が改質されていることを特徴とする、請求項4に記載のマイクロピラー構造体。
【請求項6】
前記雰囲気が大気であることを特徴とする、請求項5に記載のマイクロピラー構造体。
【請求項7】
基板の表面に複数本のマイクロピラーを形成して、マイクロピラー構造体を構成する第一の段階と、
上記マイクロピラー構造体のマイクロピラーの表面における先端側から根元方向に向かって改質度が低下するように、上記マイクロピラーの表面特性を改質する第二の段階と、
を含んでいることを特徴とする、マイクロピラー構造体の製造方法。
【請求項8】
前記第一の段階で形成される前記マイクロピラーを、0.1mm以上の高さとし、
前記第二の段階で、前記マイクロピラーの先端側から1cm以内の距離で波長172nm以下の真空紫外線を照射することによって前記マイクロピラーの表面特性を改質することを特徴とする、請求項7に記載のマイクロピラー構造体の製造方法。
【請求項9】
前記第二の段階で、少なくとも酸素が存在する雰囲気中で真空紫外線の照射によって、前記マイクロピラーの表面特性として親水性を改質することを特徴とする、請求項7又は8に記載のマイクロピラー構造体の製造方法。
【請求項10】
前記雰囲気を大気とすることを特徴とする、請求項9に記載のマイクロピラー構造体の製造方法。
【請求項11】
基板の表面に複数本のマイクロピラーを形成して、マイクロピラー構造体を構成する第一の段階と、
上記マイクロピラー構造体の少なくともマイクロピラーの表面に、所定の表面特性を有するコーティング膜を形成する第二の段階と、
上記マイクロピラーの表面に形成されたコーティング層の先端側から根元方向に向かって改質度が低下するように、上記コーティング層の表面特性を改質する第三の段階と、
を含んでいることを特徴とする、マイクロピラー構造体の製造方法。
【請求項12】
前記第一の段階で形成されるマイクロピラーを、0.1mm以上の高さとし、
前記第三の段階で、マイクロピラー構造体のマイクロピラーの先端側から1cm以内の距離で波長172nm以下の真空紫外線を照射することによって、前記コーティング層の表面特性を改質することを特徴とする、請求項11に記載のマイクロピラー構造体の製造方法。
【請求項13】
前記第三の段階で、少なくとも酸素が存在する雰囲気中で真空紫外線の照射によって、前記コーティング層の表面特性として反射特性,付着性等を改質することを特徴とする、請求項11又は12に記載のマイクロピラー構造体の製造方法。
【請求項14】
前記雰囲気を大気とすることを特徴とする、請求項13に記載のマイクロピラー構造体の製造方法。
【請求項15】
前記第一の段階で、前記基板上に樹脂層を形成し、該樹脂層のパターンエッチングによって前記マイクロピラーを形成することを特徴とする、請求項7〜14の何れかに記載のマイクロピラー構造体の製造方法。
【請求項16】
前記第一の段階で、Siからなる前記基板上にポリイミド層を形成し、該ポリイミド層をパターンエッチングすることによって前記マイクロピラーを形成することを特徴とする、請求項15に記載のマイクロピラー構造体の製造方法。
【請求項17】
前記第一の段階で、リソグラフィ法によって作製されパターン転写された金型を使用して、前記マイクロピラーを、射出成形法によって樹脂成形することを特徴とする、請求項7〜14の何れかに記載のマイクロピラー構造体の製造方法。
【請求項18】
前記第一の段階で、前記基板及び前記マイクロピラーを、PMMAから形成することを特徴とする、請求項17に記載のマイクロピラー構造体の製造方法。
【請求項19】
前記第一の段階で、光造形法によって作製されパターン転写された金型を使用し、樹脂からなる前記基板にナノインプリント法によって前記マイクロピラーを形成することを特徴とする、請求項7〜14の何れかに記載のマイクロピラー構造体の製造方法。
【請求項20】
前記第一の段階で、PMMAからなる前記基板にナノインプリント法によってマイクロピラーを形成することを特徴とする、請求項19に記載のマイクロピラー構造体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−131725(P2010−131725A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−311614(P2008−311614)
【出願日】平成20年12月5日(2008.12.5)
【出願人】(000162113)共同印刷株式会社 (488)
【Fターム(参考)】