説明

マイクロマシンデバイス

【課題】 結露による短絡や動作不良を防止するための結露センサを備え、安価かつ小型に構成できるマイクロマシンデバイスを提供する。
【解決手段】 基板61上に絶縁層62を介して配置されたデバイス層63がエッチングされてデバイスを構成する各構造体A,Bが形成されているマイクロマシンデバイスにおいて、微小間隙gを隔てて配置された一対のセンサ構造体C1,C2間の絶縁抵抗値の変化によって結露を検出する結露センサを具備し、一対のセンサ構造体C1,C2がデバイス層63によって形成されているものとする。結露センサを別途用意して取り付けるといったことが不要となり、また各構造体A,Bと同一工程で結露センサを形成することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明はフォトリソグラフィーやエッチングといったマイクロマシニング技術によって作製されるマイクロマシンデバイスに関し、特に結露を防止すべく、結露センサを内蔵したマイクロマシンデバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
マイクロマシンデバイスは一般にパッケージに収容密封されて使用されるが、パッケージの完全なる密封構造の実現は難しく、経時的にパッケージ内に水分が侵入し、環境温度の変化によっては結露が発生するといった状況が起こりうる。
マイクロマシンデバイスにおいて結露が発生すると、電位差を与える構造体間や電極間が結露によって短絡したり、あるいは微細な可動構造体が結露した水の表面張力により変形したり、お互いが張り付いて可動しなくなるといった不具合が発生する虞れがある。
一方、結露の発生を防止するためには結露の発生を予知又は検出することができるセンサと、結露しないように加熱するためのヒータが一般に必要であり、それらを結露を防止すべき物に取り付けるといったことが行われている。
【0003】
図6は結露を防止すべく、センサやヒータが取り付けられた従来構成例として、特許文献1に記載されている構成を示したものであり、この例では屋外監視用カメラにセンサやヒータ等が取り付けられたものとなっている。
屋外監視用カメラ10のケース11の上面には太陽電池21aを有する電源部21が取り付けられ、ケース11の側面には加熱体制御部22、外気温度センサ23及び外気湿度センサ24が取り付けられている。レンズカバーガラス12にはガラス温度センサ25及び面状発熱体26が取り付けられ、さらに結露センサ27が取り付けられている。図6中、13はカメラレンズを示し、14は屋外監視カメラ10を回転可能に支持する支持体を示す。
【0004】
加熱体制御部22は外気温度センサ23、外気湿度センサ24及びガラス温度センサ25からの情報に基づき結露条件の成立を判断し、面状発熱体26に電源部21から通電し、これによりレンズカバーガラス12表面に結露が生じるのを防止できるものとなっている。なお、結露条件が成立していないと判断されるのに実際には結露が生じている場合には結露センサ27からの結露を示す信号に基づき、面状発熱体26に通電されるものとなっている。
【特許文献1】特開平8−220252号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したように、従来においては結露を防止するためには、センサやヒータ等を別途用意して結露を防止すべき物に取り付けるといったことが行われており、その分、部品点数及び組み立て工数が増え、コストがかかるものとなっていた。
一方、結露を防止すべく、センサやヒータ等をマイクロマシンデバイスに取り付けることを考えた場合、上記のような問題に加え、センサやヒータ等の取り付けによって全体として大型になってしまい、小型化が阻害されるという問題が生じる。
この発明の目的はこのような問題を解決すべく、結露センサを内蔵したマイクロマシンデバイスを提供することにあり、さらに結露センサに加え、ヒータをも内蔵したマイクロマシンデバイスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1の発明によれば、基板上に絶縁層を介して配置されたデバイス層がエッチングされてデバイスを構成する各構造体が形成されているマイクロマシンデバイスは、微小間隙を隔てて配置された一対のセンサ構造体間の絶縁抵抗値の変化によって結露を検出する結露センサを具備する構造とされ、それら一対のセンサ構造体は上記デバイス層によって形成されているものとされる。
請求項2の発明によれば、基板上に絶縁層を介して配置されたデバイス層がエッチングされてデバイスを構成する各構造体が形成されているマイクロマシンデバイスは、上記デバイス層によって形成されたセンサ構造体と上記基板とによって結露センサが構成され、上記センサ構造体は上記絶縁層を介して上記基板上に位置し、上記センサ構造体の回りにおいて上記基板表面が露出され、上記結露センサは上記センサ構造体と上記基板間の絶縁抵抗値の変化によって結露を検出する構造とされる。
【0007】
請求項3の発明では請求項1又は2の発明において、上記結露センサの検出に基づき作動されるヒータが上記デバイス層によって形成されているものとされる。
請求項4の発明では請求項1乃至3のいずれかの発明において、上記基板が単結晶シリコン基板よりなり、上記デバイス層が単結晶シリコン層よりなるものとされる。
【発明の効果】
【0008】
この発明によれば、結露センサを別途用意して取り付けるといったことが不要となり、デバイスを構成する各構造体と同じデバイス層によって結露センサが形成されて内蔵されるため、結露センサを備えたマイクロマシンデバイスを小型かつ安価に構成することができる。また、結露センサを備えることによって結露しそうな状態を検知でき、結露による短絡や動作不良の発生を回避することができるものとなる。
さらに、請求項3の発明によれば、結露センサに加え、ヒータもデバイス層によって形成されるため、ヒータを別途用意して取り付けるといったことが不要となり、その点でより小型かつ安価な結露防止機能を有するマイクロマシンデバイスを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
この発明を光スイッチに適用した実施形態を図面を参照して説明する。
図1は光スイッチの平面図であり、まず光スイッチとしての構成について説明する。
板状の基体31の上面に4本のファイバ溝32a〜32dが十字状に形成され、これらファイバ溝32a〜32dにより4分割された1つの領域が駆動体形成部31aとされる。駆動体形成部31aにはこれを2分するようにファイバ溝32a〜32dの中心部33と連通したロッド溝34が形成され、さらに凹部35がこのロッド溝34の他端と連通して形成されている。
【0010】
ロッド溝34には可動ロッド36が配され、可動ロッド36の中心部33側の一端にはミラー37が設けられている。可動ロッド36の凹部35内に位置する部分の両側には板ばねヒンジ38a,38bが連結され、これら板ばねヒンジ38a,38bにより可動ロッド36はその延伸方向に移動自在に駆動体形成部31aに支持されている。
凹部35内には櫛歯型静電アクチュエータが設けられ、その可動櫛歯電極41が可動ロッド36に固定され、可動櫛歯電極41と組み合わされる固定櫛歯電極42が凹部35底面に絶縁層62(図2参照)を介して固定されている。
【0011】
各ファイバ溝32a〜32dには光ファイバ(図示せず)がそれぞれ配置され、ミラー37が中心部33に位置するか否かによって光ファイバ間の光の進行が切り替わり、スイッチング動作が行われるものとなっている。なお、可動櫛歯電極41と固定櫛歯電極42との間に電圧を印加すれば、可動櫛歯電極41と固定櫛歯電極42との間に静電吸引力が働き、これによりミラー37は中心部33から退避した状態となる。
図2はこの光スイッチの断面構造を模式的に示したものであり、基体31は基板61上に絶縁層62を介してデバイス層63が配置されてなる三層構造を有するものとされ、デバイス(光スイッチ)を構成する各構造体はデバイス層63によって形成されている。基板61はこの例では単結晶シリコン基板とされ、デバイス層63は単結晶シリコン層よりなるものとされる。また、絶縁層62はシリコン酸化膜よりなるものとされる。絶縁層62は例えば2μm程度の厚さとされる。
【0012】
可動ロッド36、ミラー37、板ばねヒンジ38a,38b、可動櫛歯電極41といった基板61板面と平行に変位する可動構造体は基板61上に空隙を介して位置され、つまり絶縁層62が除去されてなる空隙が可動構造体下に設けられているものとされ、これに対し、ファイバ溝32a〜32dを規定する構造体や固定櫛歯電極42等、可動構造体以外の固定構造体は絶縁層62を介して基板61上に固定配置されているものとされる。図2中、A,Bはこれら可動構造体及び固定構造体を例示的に示している。
上記のような構成に加え、この例ではデバイス層63によって形成された結露センサとヒータとを具備するものとされる。結露センサは図2に示したように微小間隙gを隔てて配置された一対のセンサ構造体C1,C2によって構成され、これらセンサ構造体C1,C2は絶縁層62を介して基板61上に位置されている。微小間隙gは例えば20μm程度とされる。
【0013】
一方、図2中、Dはヒータを示したものであり、ヒータDは幅の狭い構造体とされ、基板61上に空隙を介して位置するものとされている。
図2において模式的に示した結露センサ及びヒータは具体的には図1中に示したような構成・配置とされる。即ち、結露センサは駆動体形成部31aに形成された凹部43内に固定配置されたセンサ構造体44と、そのセンサ構造体44を微小間隙gを介して囲んでいるセンサ構造体45とによって構成され、これらの上面にはそれぞれ電極46,47が形成されている。
【0014】
ヒータは基体31の駆動体形成部31aと対向する領域(ファイバ溝32c,32dで挟まれた領域)31bに形成された凹部51内に位置されており、図1に示したように折り返し形状とされたヒータ52の両端が凹部51に絶縁層62を介して固定配置された支持構造体53,54に連結支持された構造となっている。このように折り返し形状とすることにより、コンパクトにヒータ52を形成することができる。支持構造体53,54の上面にはそれぞれ電極55,56が形成されている。なお、図1中、48は固定櫛歯電極42上に形成されている電極を示す。各電極46〜48,55,56には図2に例示したようにワイヤボンディングによりワイヤ49が接続される。
【0015】
次に、結露センサ及びヒータの原理について図2を参照して説明する。
結露センサは微小間隙gを介して配置され、電気的に互いに絶縁されている一対のセンサ構造体C1,C2間に水分がトラップされ、基板61の表面に水分層が形成されると、水分層を通してセンサ構造体C1,C2間の絶縁抵抗値が低下することを利用するものであり、ヒータDは幅狭とされて断面積が小とされたシリコンよりなる構造体に電流を流して抵抗発熱させるものである。
デバイスが結露する前兆としてデバイス表面に薄い水分層が形成される。水分層を通してセンサ構造体C1とC2との絶縁抵抗値が低下するが、この抵抗変化はデバイスに致命的な短絡や可動構造体の張り付きが生じる前の段階で発生するため、結露しそうな状況を予知でき、その場合ヒータDによりデバイス及びデバイスが収容されているパッケージ内の雰囲気を加熱し、雰囲気温度を上げることにより結露を回避することができる。
【0016】
上記のような構成とされた結露センサ及びヒータは他の構造体の形成と同一工程で形成される。図3−1及び3−2は図2に示した構造と対応させて作製工程を工程順に示したものであり、以下、各工程について説明する。
(1)単結晶シリコンよりなる基板61上にシリコン酸化膜よりなる絶縁層62を介して単結晶シリコン層よりなるデバイス層63が配置されてなる三層構造のSOI(Silicon on Insulator)基板60を用意し、熱酸化して酸化膜よりなるマスク層64をデバイス層63上に形成する。65は基板61の裏面に同時に形成された酸化膜を示す。
【0017】
(2)マスク層64をフォトリソグラフィ及びエッチングによってパターニングし、可動構造体A、固定構造体B、センサ構造体C1,C2及びヒータD用の各マスク66〜69を形成する。
(3)デバイス層63のマスク66〜69から露出している部分を絶縁層62が露出するまでICP(Inductively Coupled Plasma)装置を用い、深掘りの反応性イオンエッチング(RIE)によって除去する。
(4)弗酸により絶縁層62をエッチングする。可動構造体A及び幅狭とされたヒータD下の絶縁層62はサイドエッチングにより完全に除去される。また、固定構造体B及びセンサ構造体C1,C2下の絶縁層62はサイドエッチングにより若干えぐられた形状となる。なお、マスク66〜69及び裏面の酸化膜65もエッチング除去され、可動構造体A、固定構造体B、センサ構造体C1,C2及びヒータDがデバイス層63によって形成された構造が完成する。
【0018】
(5)スパッタにより電極(図では電極46,47を例示)を形成する。なお、この例では基板61の裏面にも電極57がスパッタによって形成される。電極膜は例えばAu/Pt/Ti膜とされる。
最後にワイヤ49をボンディングし、図2に示した構成が完成する。
このように結露センサを構成するセンサ構造体C1,C2及びヒータDはデバイスを構成する可動構造体A及び固定構造体Bと同一工程で作製されるため、追加工程が不要であり、よってコストアップを招くことはない。また、デバイス層63によってこのような結露センサ及びヒータが形成され、それらがデバイスに内蔵された構造となるため、部品点数を削減でき、かつ小型化を図ることができる。
【0019】
上述した例ではデバイス層63によって形成されたセンサ構造体C1,C2によって結露センサが構成されているが、例えば一方のセンサ構造体C1と基板61とによって結露センサを構成することもでき、つまりセンサ構造体C1と基板61間の絶縁抵抗値の変化により結露を検出することもできる。
この場合、センサ構造体C1の回りにおいて、つまりデバイス層63よりなる構造体が位置しない部分において基板61表面が露出されているため、基板61表面に水分層が形成されると、水分層を通してセンサ構造体C1、基板61間の絶縁抵抗値が低下することになる。
【0020】
なお、絶縁層62の厚さは前述したように2μm程度であり、よってセンサ構造体C1と基板61とで結露センサを構成した場合、前述の微小間隙gに相当する微小間隙は2μm程度となり、より狭い微小間隙を容易に得ることができ、結露に敏感で絶縁抵抗値の変化が大きい結露センサを構成することができる。
図4は上記のように結露センサ及びヒータを内蔵する光スイッチ(マイクロマシンデバイス)に対し、結露を判断し、ヒータを作動させるための構成をブロック図で示したものであり、図4中、71は結露センサ、72はヒータを示し、73は電源、74は結露判断部、75は電流制御部を示す。
【0021】
結露判断部74は結露センサ71の絶縁抵抗値の変化に基づき結露を判断し、電流制御部75は結露判断部74の判断によりヒータ72に通電して発熱させる。なお、結露判断を一例として数値で示せば、絶縁抵抗値が1kΩ以下になったら結露直前と判断する。
図1及び図2に示した構成では結露センサ及びヒータが共にデバイス層によって形成され、光スイッチは結露センサ及びヒータを内蔵する構造となっているが、例えば結露センサのみ内蔵する構造としてもよい。
図5はこのように結露センサのみ内蔵し、ヒータを内蔵しない場合の構成例の概略を示したものであり、図5中、81は結露センサを内蔵した光スイッチ、82はヒータ、83はパッケージを示す。パッケージ83は本体83aと蓋83bとによって構成されている。ヒータ82は例えばニクロム線等を用い、通電により抵抗発熱する構造のものとされる。図5(1)中、84は光ファイバを示す。なお、図5(2)では光ファイバの図示を省略している。
【0022】
この例ではヒータ82は光スイッチ81と別体とされてパッケージ83内に収容された構成となっており、このような構成を採用することもでき、これによっても結露を防止することができる。なお、ヒータ82は例えばパッケージ83の外面に設けることもできる。
以上、光スイッチを例に説明したが、マイクロマシンデバイスは光スイッチに限らず、他のデバイスであってもよく、各種マイクロマシンデバイスに本発明を適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】この発明によるマイクロマシンデバイスの一実施例を示す平面図。
【図2】図1に示したマイクロマシンデバイスの断面構造を説明するための図。
【図3−1】この発明によるマイクロマシンデバイスの作製工程を説明するための図。
【図3−2】この発明によるマイクロマシンデバイスの作製工程を説明するための図。
【図4】結露センサの検出に基づき、ヒータを作動させるための構成を示すブロック図。
【図5】マイクロマシンデバイスとヒータを別体としてパッケージに収容した構成を説明するための図。
【図6】結露を防止するための従来構成例を示す斜視図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に絶縁層を介して配置されたデバイス層がエッチングされてデバイスを構成する各構造体が形成されているマイクロマシンデバイスであって、
微小間隙を隔てて配置された一対のセンサ構造体間の絶縁抵抗値の変化によって結露を検出する結露センサを具備する構造とされ、
上記一対のセンサ構造体が上記デバイス層によって形成されていることを特徴とするマイクロマシンデバイス。
【請求項2】
基板上に絶縁層を介して配置されたデバイス層がエッチングされてデバイスを構成する各構造体が形成されているマイクロマシンデバイスであって、
上記デバイス層によって形成されたセンサ構造体と上記基板とによって結露センサが構成され、
上記センサ構造体は上記絶縁層を介して上記基板上に位置し、上記センサ構造体の回りにおいて上記基板表面が露出され、
上記結露センサは上記センサ構造体と上記基板間の絶縁抵抗値の変化によって結露を検出する構造とされていることを特徴とするマイクロマシンデバイス。
【請求項3】
請求項1又は2記載のマイクロマシンデバイスにおいて、
上記結露センサの検出に基づき作動されるヒータが上記デバイス層によって形成されていることを特徴とするマイクロマシンデバイス。
【請求項4】
請求項1乃至3記載のいずれかのマイクロマシンデバイスにおいて、
上記基板が単結晶シリコン基板よりなり、上記デバイス層が単結晶シリコン層よりなることを特徴とするマイクロマシンデバイス。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3−1】
image rotate

【図3−2】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2006−35374(P2006−35374A)
【公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−219039(P2004−219039)
【出願日】平成16年7月27日(2004.7.27)
【出願人】(000231073)日本航空電子工業株式会社 (1,081)
【Fターム(参考)】