説明

マイクロリアクタ及びマイクロリアクタを用いた水素の製造方法

【課題】維持コストの増大を抑制しながら、触媒の交換作業を簡略化することが可能なマイクロリアクタ及びそのマイクロリアクタを用いた水素の製造方法を提供する。
【解決手段】このマイクロリアクタは、原料ガスが流通する流路Sを内部に有する流路構造体3と、流路S内に設置され、原料ガスから所定の生成物を製造するための触媒反応に用いられる触媒体4の触媒部4bとを備えている。そして、触媒体4の触媒部4bは、流路構造体3の一方端側の開口部3fから流路Sに挿脱可能に構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロリアクタ及びマイクロリアクタを用いた水素の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、微小な管状の流路部内に原料ガスを流通させるとともに、その流路部内における原料ガスの触媒反応により所望の生成物を生成させるマイクロリアクタが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
上記特許文献1に開示された改質ガス製造装置などのマイクロリアクタは、原料ガスが内部を流通する複数の管状の流路部を含む流路構造体を備えている。この流路構造体は、複数の板状部によって構成されており、上記流路部はこの板状部で四面が構成された断面矩形の角筒構造を有している。各流路部を構成する板状部の流路部内に位置する領域の表面には、無電解めっきにより触媒層が形成されており、その触媒層を用いて原料ガスの触媒反応が行われることにより所望の改質ガスが生成されるようになっている。なお、このような触媒反応では、反応時間の経過に伴って触媒の劣化が進行するため、所定時間が経過すると劣化した触媒を新しいものと交換する必要がある。
【0004】
上記特許文献1に開示されたマイクロリアクタでは、流路部を構成する板状部の表面に無電解めっきが施されることによって触媒層が形成されているので、触媒層と板状部からなる流路構造体とが一体化されている。これにより、触媒が劣化した際には流路構造体ごと交換する必要がある。このため、触媒が劣化するたびに流路構造体全体を交換するための費用が必要となり、触媒の交換のためのコストが増大するので、マイクロリアクタの維持コストが増大するという問題点がある。
【0005】
そこで、例えば特許文献2にそのような維持コストの増大の問題点を解消可能なマイクロリアクタが提案されている。この特許文献2に提案されたマイクロリアクタでは、複数のプレートからなる流路構造体と薄膜状の触媒とが別体に設けられており、薄膜状の触媒が一対の上記プレートにより所定の隙間を有した状態で両面側から挟持されている。この特許文献2に提案されたマイクロリアクタでは、触媒が流路構造体と別体に設けられているので、触媒が劣化した際には、触媒を挟持する一対のプレートを取り除いて劣化した触媒を取り出すとともに新しい触媒に交換可能となっている。これにより、特許文献2に提案されたマイクロリアクタでは、触媒が劣化した際にはその劣化した触媒のみを交換することが可能であり、流路構造体ごと交換する必要がないので、マイクロリアクタの維持コストの増大が抑制される。
【特許文献1】特開平3−119094号公報
【特許文献2】特開平5−155602号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献2に提案されたマイクロリアクタでは、劣化した触媒の交換時には触媒を挟持する一対のプレートを取り除いて劣化した触媒を取り出す必要がある。すなわち、触媒の交換のたびに流路構造体の分解及び組立てを行う必要があるので、触媒の交換作業が煩雑なものとなるという問題点がある。
【0007】
この発明は、上記の課題を解決するためになされたものであり、その目的は、維持コストの増大を抑制しながら、触媒の交換作業を簡略化することが可能なマイクロリアクタ及びそのマイクロリアクタを用いた水素の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、この発明のマイクロリアクタは、原料ガスが流通する第1流路を内部に有する流路構造体と、第1流路内に設置され、原料ガスから所定の生成物を製造するための触媒反応に用いられる触媒とを備えている。そして、触媒は、流路構造体の一方端側の開口部から第1流路に挿脱可能に構成されている。
【0009】
このマイクロリアクタでは、触媒が流路構造体の一方端側の開口部から第1流路に挿脱可能に構成されているので、触媒が劣化した際、第1流路から触媒を抜き出して触媒のみを交換することができる。これにより、触媒の交換にかかる費用は触媒のみの費用であるので、流路構造体ごと触媒を交換する場合に比べて、触媒の交換にかかる費用を抑制することができる。これにより、マイクロリアクタの維持コストの増大を抑制することができる。さらに、このマイクロリアクタでは、触媒が第1流路に挿脱可能に構成されていることによって、劣化した触媒を第1流路から引き抜くとともに新しい触媒を第1流路に挿入するだけで触媒の交換を行うことができる。このため、触媒の交換時に流路構造体の分解及び組立てを行う必要がないので、触媒の交換作業を簡略化することができる。
【0010】
上記マイクロリアクタにおいて、第1流路及び触媒は、共に所定の方向に直線的に延びるように形成されており、触媒は、その所定の方向に沿って第1流路に挿脱されるのが好ましい。このように構成すれば、所定の方向に直線的に延びる第1流路に対して、同じ方向に直線的に延びる触媒をこれらが延びる方向に沿って挿脱することができるので、触媒を第1流路に容易に挿脱可能な構成とすることができる。
【0011】
上記マイクロリアクタにおいて、流路構造体は、互いに略平行に配置された複数の第1流路を有し、複数の触媒が互いに略平行に設けられ、複数の触媒の第1流路への挿入側の端部と反対側の端部が相互に連結されている。このように構成すれば、複数の第1流路に対して、相互に連結された複数の触媒を一度に挿脱して交換することができる。これにより、複数の第1流路のそれぞれに個別に触媒を挿脱する場合に比べて、触媒の交換作業を簡略化することができる。
【0012】
上記マイクロリアクタにおいて、流路構造体の一方端側の開口部を封止する封止部材をさらに備え、触媒は、第1流路への挿入側の端部と反対側の端部が封止部材により支持されることによって第1流路内で保持されるのが好ましい。このように構成すれば、触媒の交換時に第1流路から触媒を引き抜く際、封止部材を流路構造体から引張りながら取り外すとともに、その封止部材に支持されている触媒を第1流路から引き抜くことができるので、触媒の長手方向中間部が所定の保持部材で挟持されることによって触媒が第1流路内で保持される場合と異なり、触媒を第1流路から引き抜く際に保持部材を取り外す作業を行う必要がない。これにより、保持部材の取り外し作業が不要な分、触媒の交換作業を簡略化することができる。
【0013】
この場合において、流路構造体は、互いに略平行に配置された複数の第1流路を有し、複数の触媒が互いに略平行に設けられ、複数の触媒の第1流路への挿入側の端部と反対側の端部が封止部材に連結されているのが好ましい。このように構成すれば、封止部材により、複数の触媒の第1流路への挿入側の端部と反対側の端部を相互に連結することができるので、封止部材を把持しながら複数の触媒を複数の第1流路に一度に挿脱して交換することができる。これにより、複数の第1流路のそれぞれに個別に触媒を挿脱する場合に比べて、触媒の交換作業を簡略化することができる。
【0014】
上記マイクロリアクタにおいて、触媒は、第1流路に挿入された状態で流路構造体の内壁面との間に所定の隙間を有するような構造に構成されているのが好ましい。このように構成すれば、第1流路に挿入された触媒と流路構造体の内壁面との間の所定の隙間を介して容易に原料ガスを流通させることができる。
【0015】
この場合において、所定の隙間の最大値は、30μm以上1mm以下の値に設定されているのが好ましい。このように構成すれば、良好な触媒反応に必要な十分な量の原料ガスを流通させる隙間を触媒と流路構造体の内壁面との間に確保しながら、第1流路の径があまり大きくならないようにすることができる。このため、触媒反応による生成物の生成効率を良好に保ちながら、第1流路を含む流路構造体のサイズが増大するのを抑制することができる。
【0016】
上記マイクロリアクタにおいて、第1流路内の原料ガスの温度を制御する温度制御部を備えているのが好ましい。このように構成すれば、温度制御部により、第1流路内の原料ガスの温度を触媒反応が有効に進行する所定の温度に設定して触媒反応による生成物の生成効率を向上させることができる。
【0017】
この場合において、流路構造体は、温度制御部を含み、温度制御部は、所定の温度に調節される流体が流通し、第1流路と熱交換可能な第2流路を有するのが好ましい。このように構成すれば、第2流路内を流通する流体の温度を調節することによって、第2流路内の流体と第1流路内の原料ガスとの間で熱交換して第1流路内の原料ガスを所定の温度に設定することができる。
【0018】
上記いずれかのマイクロリアクタの具体的な構成例として、原料ガスは、メタノールガスと水蒸気との混合ガスを含み、触媒を用いたメタノールガスの水蒸気改質反応により生成物として水素が製造される構成とすることができる。
【0019】
また、このマイクロリアクタを用いた水素の製造方法では、維持コストの増大を抑制しながら、触媒の交換作業を簡略化することができる。
【発明の効果】
【0020】
以上説明したように、本発明によるマイクロリアクタ及びそのマイクロリアクタを用いた水素の製造方法では、維持コストの増大を抑制しながら、触媒の交換作業を簡略化することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態を図面を参照して説明する。
【0022】
(第1実施形態)
図1は、本発明の第1実施形態によるマイクロリアクタの全体構成を示した斜視図、図2は、図1に示したマイクロリアクタに適用する反応ユニット2の構成を示した斜視図、図3は、その反応ユニット2の分解斜視図である。図4は、図3に示した反応ユニット2を構成する流路構造体3の下面側の構造を示した斜視図、図5は、触媒体4の構造を示した正面図、図6は、図2に示した反応ユニット2のVI−VI線に沿った断面図である。まず、図1〜図6を参照して、本発明の第1実施形態によるマイクロリアクタの構成について説明する。
【0023】
この第1実施形態によるマイクロリアクタは、図1に示すように、外装体1と、反応ユニット2とを備えている。外装体1は、平たい中空の箱型形状に形成されており、その内部に反応ユニット2が収容される。外装体1の長手方向一方端側の上面には、外装体1の内部に原料ガスを供給するための供給口1aが設けられているとともに、外装体1の長手方向他方端側の下面には、外装体1の内部から生成ガスを外部へ取り出すための取出口1bが設けられている。
【0024】
そして、外装体1の上側壁部1cの外装体1内側の面には、供給口1aに対応する位置から外装体1の短手方向に延びる原料ガス供給用の溝部(図示せず)が設けられている。また、外装体1の下側壁部1dの外装体1内側の面には、取出口1bに対応する位置から外装体1の短手方向に延びる生成ガス取出し用の溝部(図示せず)が設けられている。
【0025】
上記反応ユニット2は、原料ガスの触媒反応(改質反応)により所定の生成ガスを生成する機能を有する。この反応ユニット2は、図3に示すように、流路構造体3と、触媒体4と、封止部材5とを含んでいる。
【0026】
流路構造体3は、外装体1よりも一回り小さい箱形の形状を有している。この流路構造体3の外形は、上端に位置する上部壁3aと、下端に位置する下部壁3b(図4参照)と、左右両端にそれぞれ位置する側部壁3c及び3dと、流路構造体3の長手方向一方端側に位置する端部壁3eとによって構成されている。すなわち、流路構造体3は、上部壁3a、下部壁3b、側部壁3c及び3dによって構成された角筒構造の長手方向の一方端側が端部壁3eによって遮蔽された構造を有している。なお、流路構造体3の長手方向他方端側は遮蔽されておらず、この端部には開口部3fが形成されている。
【0027】
流路構造体3の内部には、流路構造体3の長手方向に沿って延びる複数の隔壁3gが流路構造体3の短手方向に所定間隔で設けられている。この複数の隔壁3gにより、流路構造体3の内部の空間が流路構造体3の長手方向に延びる細長い複数の空間に区画され、この各空間が原料ガスが流通する流路S(第1流路)となっている。複数の流路Sは、互いに平行に配置されているとともに、各流路Sは、断面矩形の空間となっている。そして、流路Sには、後述するように触媒体4の触媒部4bが挿入され、流路S内で触媒体4の触媒部4bを用いた原料ガスの触媒反応(改質反応)が行われることによって所定の生成ガスが生成される。また、流路構造体3は、上記の上部壁3a、下部壁3b、側部壁3c及び3d、端部壁3e、隔壁3gが一体成形されることによって形成されており、これらの各壁間に継ぎ目が存在しないように構成されている。このため、流路構造体3では、各壁間の継ぎ目から各流路S内の原料ガス及び生成ガスが漏出するという不都合が生じないようになっている。
【0028】
流路構造体3の上部壁3aの開口部3f近傍の領域には、上下に貫通する複数の流入孔3hが設けられている。流入孔3hは、流路構造体3の短手方向に沿って所定間隔で設けられており、各流路Sに対応する位置に設けられている。また、反応ユニット2が外装体1内に収容された状態で、流路構造体3の複数の流入孔3hの位置と外装体1の上側壁部1cにおける上記した原料ガス供給用の溝部(図示せず)の位置とが合致するようにこれらの位置がそれぞれ設定されている。そして、反応ユニット2が外装体1内に収容された状態で、上側壁部1cの外装体1内の面の原料ガス供給用の溝部(図示せず)以外の領域が反応ユニット2の上面と密着する。この際、原料ガス供給用の溝部(図示せず)の下側が反応ユニット2の上面で遮蔽されることによって、上記供給口1a及び各流入孔3hと繋がる空間が形成される。そして、供給口1aから供給される原料ガスは、この空間及び流路構造体3の各流入孔3hを介して各流路Sに導入される。
【0029】
また、図4に示すように、流路構造体3の下部壁3bの端部壁3e近傍の領域には、上下に貫通する複数の流出孔3iが設けられている。流出孔3iは、流路構造体3の短手方向に沿って所定間隔で設けられており、各流路Sに対応する位置に設けられている。また、反応ユニット2が外装体1内に収容された状態で、流路構造体3の複数の流出孔3iの位置と外装体1の下側壁部1dにおける上記した生成ガス取出し用の溝部(図示せず)の位置とが合致するようにこれらの位置がそれぞれ設定されている。そして、反応ユニット2が外装体1内に収容された状態で、下側壁部1dの外装体1内の面の生成ガス取出し用の溝部(図示せず)以外の領域が反応ユニット2の下面と密着する。この際、生成ガス取出し用の溝部(図示せず)の上側が反応ユニット2の下面で遮蔽されることによって、各流出孔3i及び上記取出口1bに繋がる空間が形成される。そして、各流路Sで生成されたガスは、各流出孔3i及びこの空間を介して外装体1の取出口1bから外部へ取り出される。
【0030】
上記触媒体4は、原料ガスから所定の生成ガスを製造するための触媒反応に用いられるものである。この触媒体4は、図5に示すように、単一の連結部4aと複数の触媒部4b(触媒)とによって構成されている。触媒体4のうち、触媒部4bの部分のみが流路Sに挿入され、原料ガスの触媒反応に用いられる。単一の連結部4aは、所定の方向へ直線的に延びるように形成されているとともに、複数の触媒部4bは、連結部4aに直交し、かつ、同じ方向に直線的に延びるようにそれぞれ形成されている。そして、複数の触媒部4bの流路Sへの挿入側の端部と反対側の端部が連結部4aによって相互に連結されている。すなわち、この触媒体4は、単一の連結部4aから複数の触媒部4bが分岐した櫛型形状に形成されており、連結部4aと複数の触媒部4bとは一体的に形成されている。また、複数の触媒部4bは、連結部4aに沿って所定間隔で互いに平行に配置されている。上記のように、複数の触媒部4bが単一の連結部4aにより相互に連結されているので、各触媒部4bが個別に分離して設けられている場合と異なり、複数の触媒部4bを後述する封止部材5に個別に取り付ける必要がなく、一度の取付作業で複数の触媒部4bを封止部材5に装着することが可能となっている。
【0031】
上記封止部材5は、図2に示すように、流路構造体3の開口部3fを封止するためのものである。この封止部材5は、流路構造体3の開口部3f側の端面全体を遮蔽可能な直方体形状を有している。封止部材5の流路構造体3側の側面には、図3に示すように、触媒体4が取り付けられる。封止部材5の流路構造体3側の側面には、封止部材5の長手方向に延びる溝部(図示せず)が形成されており、この溝部(図示せず)に触媒体4の連結部4a側が差し込まれるとともに固定されることによって、触媒体4が封止部材5に取り付けられる。したがって、触媒体4は、その触媒部4bが封止部材5から突出するように封止部材5に取り付けられる。なお、触媒体4は、封止部材5に対して着脱可能に構成されている。
【0032】
そして、封止部材5は、流路構造体3の開口部3f側の端部に対して着脱可能に構成されているとともに、触媒体4の触媒部4b(触媒)は、流路構造体3の開口部3f側から流路Sに挿脱可能に構成されている。具体的には、触媒体4の触媒部4bを流路Sに挿入する際は、封止部材5を把持しながら触媒部4bを流路構造体3の開口部3f側から流路Sの延びる長手方向に沿って流路Sに挿入するとともに、封止部材5を流路構造体3の開口部3f側の端部に押圧して開口部3fを封止部材5で封止する。一方、触媒体4の触媒部4bを流路Sから抜き出す際は、封止部材5を把持しながら触媒部4bを上記挿入の場合と反対側に流路Sの長手方向に沿って流路Sから抜き出す。このように、封止部材5の流路構造体3への着脱とともに、触媒体4の触媒部4bを流路Sに挿脱できるようになっている。
【0033】
また、流路構造体3の端部壁3eの流路構造体3内側の面の各流路Sに対応する領域には、丸形の凹部3j(図6参照)が1つずつ設けられている。封止部材5が流路構造体3の開口部3f側の端部に装着される際、触媒体4の触媒部4bの封止部材5と反対側の端部がこの凹部3jに挿嵌される。これにより、連結部4a側の端部が封止部材5によって支持されるとともに、触媒部4bの連結部4aと反対側の端部が流路構造体3の端部壁3eの凹部3jに支持されることによって、触媒体4の触媒部4bは流路S内で保持される。
【0034】
なお、封止部材5が流路構造体3に装着された状態で各触媒部4bが各流路Sの軸心に位置するように、触媒体4の封止部材5に対する取付位置が設定されている。また、上記流路構造体3の端部壁3eの凹部3jは、各流路Sの軸心に対応する位置に設けられている。これにより、触媒体4の触媒部4bが流路Sに挿入された状態で、触媒部4bは図6に示すように流路Sの軸心に位置する。そして、この状態で、触媒部4bは、流路構造体3の内壁面との間に所定の隙間を有する。そして、触媒部4bが流路Sの軸心に位置することに起因して、触媒部4bの周面と流路構造体3の内壁面との間の隙間の大きさは、触媒部4bの径方向における所定の側に偏らないように構成されている。
【0035】
また、触媒部4bの周面と流路構造体3の内壁面との間の隙間は、断面矩形の流路Sの角部とそれに対向する触媒部4bの周面との間において最大となる。第1実施形態では、この隙間の最大値d(図6参照)は、約30μm以上約1mm以下の値に設定されている。そして、この触媒部4bの周面と流路構造体3の内壁面との間の隙間を介して原料ガスが流通するとともに、触媒部4bを用いた触媒反応によって原料ガスから所定の生成ガスが生成されるようになっている。
【0036】
なお、触媒部4bは、原料ガスから所定の生成物を生成するのに適した触媒材料を用いて形成される。なお、触媒体4のうち、触媒部4bのみそのような触媒材料を用いて形成してもよいし、連結部4a及び触媒部4bを含めた触媒体4全体を触媒材料を用いて形成してもよい。
【0037】
原料ガスとしてメタノールガスと水蒸気との混合ガスを用い、メタノールガスの水蒸気改質反応により水素を生成ガスとして製造する場合には、銅−亜鉛系材料からなる触媒部4bが用いられる。なお、水素は次世代のクリーン燃料として注目されており、その製造方法として天然ガスやガソリンなどの種々の原料を用いた製造方法が知られているが、上記のマイクロリアクタを用いたメタノールガスの水蒸気改質反応による水素の製造方法は、安全性が高いとともに、比較的低温(200℃〜300℃)の吸熱反応によって水素を製造できるのであまり高温に加熱する必要がないという利点を有する。
【0038】
銅−亜鉛系材料からなる触媒部4bは、以下の種々の方法によって作成されるものである。例えば、銅の粉末と亜鉛の粉末との混合物を棒状に成形する方法や、金属、樹脂、セラミックスまたはカーボンなどからなる棒状の基材の表面に銅及び亜鉛をめっき(無電解めっき又は電気めっき)する方法や、棒状の基材を銅−亜鉛水溶液に浸漬する方法などによって、触媒部4bを作成することができる。また、棒状の基材の表面に銅−亜鉛水溶液を吹き付けることにより基材表面に銅−亜鉛系触媒層を担持させる方法や、アルミニウム基材または表面がアルミニウム層で被覆された所定の材料からなる基材にアルマイト処理を施すことにより基材表面を多孔質化した後、銅−亜鉛水溶液中で封孔処理することにより銅及び亜鉛を基材表面に担持させる方法などによっても触媒部4bを作成することができる。
【0039】
以上のように、第1実施形態では、触媒体4の触媒部4bが流路構造体3の一方端側の開口部3fから流路Sに挿脱可能に構成されているので、触媒部4bが劣化した際、流路Sから触媒部4bを抜き出して触媒体4のみを交換することができる。これにより、触媒の交換にかかる費用は触媒体4のみの費用であるので、流路構造体ごと触媒を交換する場合に比べて、触媒の交換にかかる費用を抑制することができる。これにより、マイクロリアクタの維持コストの増大を抑制することができる。
【0040】
また、第1実施形態では、触媒体4の触媒部4bが流路Sに挿脱可能に構成されていることによって、劣化した触媒部4bを流路Sから引き抜くとともに新しい触媒体4の触媒部4bを流路Sに挿入するだけで触媒の交換を行うことができる。このため、触媒の交換時に流路構造体3の分解及び組立てを行う必要がないので、触媒の交換作業を簡略化することができる。
【0041】
また、第1実施形態では、流路S及び触媒体4の触媒部4bは、共に所定の方向に直線的に延びるように形成されており、触媒体4の触媒部4bは、その所定の方向に沿って流路Sに挿脱されるので、流路Sに対して、その流路Sと同じ方向に延びる触媒部4bをこれらが延びる方向に沿って挿脱することができる。これにより、触媒部4bを流路Sに容易に挿脱可能な構成とすることができる。
【0042】
また、第1実施形態では、触媒体4の触媒部4bは、流路Sへの挿入側の端部と反対側の端部が封止部材5により支持されることによって流路S内で保持されるので、触媒体4の交換時に流路Sから触媒部4bを引き抜く際、封止部材5を流路構造体3から引張りながら取り外すとともに、その封止部材5に支持されている触媒体4の触媒部4bを流路Sから引き抜くことができる。これにより、触媒部4bの長手方向中間部が流路内で所定の保持部材により挟持されることによって保持される場合と異なり、触媒部4bを流路Sから引き抜く際に保持部材を取り外す作業を行う必要がない。このため、保持部材の取り外し作業が不要な分、触媒体4の交換作業を簡略化することができる。
【0043】
また、第1実施形態では、複数の触媒部4bの流路Sへの挿入側の端部と反対側の各端部が連結部4aによって相互に連結されているとともに、この各端部が封止部材5に連結されているので、封止部材5を把持しながら複数の触媒部4bを複数の流路Sに一度に挿脱して交換することができる。これにより、複数の流路Sのそれぞれに個別に触媒を挿脱する場合に比べて、触媒の交換作業を簡略化することができる。
【0044】
また、第1実施形態では、触媒部4bが流路Sに挿入された状態で流路構造体3の内壁面との間に所定の隙間を有するような構造に構成されているので、流路Sに挿入された触媒部4bと流路構造体3の内壁面との間の所定の隙間を介して容易に原料ガスを流通させることができる。
【0045】
また、第1実施形態では、触媒部4bの周面と流路構造体3の内壁面との間の所定の隙間の最大値は、約30μm以上約1mm以下の値に設定されているので、良好な触媒反応に必要な十分な量の原料ガスを流通させる隙間を触媒部4bの周面と流路構造体3の内壁面との間に確保しながら、流路Sの径があまり大きくならないようにすることができる。このため、触媒反応による生成ガスの生成効率を良好に保ちながら、流路Sを含む流路構造体3のサイズが増大するのを抑制することができる。また、上記のように流路Sの径があまり大きくならないことに起因して、流路構造体3の外部から流路S内の原料ガスに熱を供給して原料ガスの触媒反応を進行させる場合には、流路Sの径方向内側に存在する原料ガスまで容易に熱を伝えることが可能である。これにより、流路S内での原料ガスの反応温度のばらつきを抑制することが可能であるので、原料ガスの温度が設定温度範囲外の温度になることによる副反応の進行を抑制することができる。その結果、所望の生成ガスのみを選択して良好に生成することが可能であり、所望の生成ガスの選択性および生成効率を向上させることが可能である。
【0046】
(第2実施形態)
図7は、本発明の第2実施形態によるマイクロリアクタの全体構成を示した斜視図である。図8及び図9は、図7に示したマイクロリアクタに適用する反応ユニット12を長手方向の互いに逆側から見た構成をそれぞれ示した斜視図であり、図10は、その反応ユニット12の分解斜視図である。図11は、図8に示した反応ユニット12のXI−XI線に沿った断面図である。次に、図7〜図11を参照して、本発明の第2実施形態によるマイクロリアクタの構成について説明する。
【0047】
この第2実施形態によるマイクロリアクタでは、上記第1実施形態と異なり、原料ガスが流通する第1流路S1に隣接して温度制御部23bが設けられており、この温度制御部23bを用いて第1流路S1内の原料ガスの温度を制御するように構成されている。
【0048】
具体的には、この第2実施形態によるマイクロリアクタは、図7に示すように、中空の直方体形状の外装体11と、その外装体11よりも一回り小さい直方体形状の反応ユニット12とを有している。外装体11の一方側面の長手方向一方端側には、第1供給口21a及び第2供給口22aが設けられている。第1供給口21aは、外装体11内に原料ガスを供給するための供給口であり、第2供給口22aは、外装体11内に所定の温度に調節されたガス、例えば、ボイラーから排出される蒸気などを供給するための供給口である。そして、第2供給口22aと第1供給口21aとが下から上へ順番に交互に設けられており、これらは互いに所定の間隔を隔てて配置されている。
【0049】
一方、外装体11の第1供給口21a及び第2供給口22aが設けられた側面の長手方向他方端側には、第1取出口21b及び第2取出口22bが設けられている。第1取出口21bは、外装体11内から反応ユニット12で生成された生成ガスを取り出すための取出口であり、第2取出口22bは、外装体11内から上記所定の温度に調節されたガスを排出するためのものである。そして、第2取出口22bと第1取出口21bとが下から上へ順番に交互に設けられており、これらは互いに所定の間隔を隔てて配置されている。
【0050】
上記反応ユニット12は、流路構造体13と、触媒体14と、封止部材15とを備えている。流路構造体13は、角筒形状の長手方向一方端側が端部壁13eによって遮蔽されるとともに、その角筒形状の内部の空間が互いに直交する複数の隔壁13g(図10参照)によって断面矩形の複数の同形の空間に区画された構造を有する。なお、流路構造体13は、それを構成する各壁が一体成形されることによって形成されている。そして、流路構造体13の内部の複数の空間は、上下左右に均一に並んで配置されている。なお、流路構造体13の長手方向他方端側は遮蔽されておらず、この端部には開口部13fが形成されている。そして、上記複数の断面矩形の空間は、原料ガスを流通させる第1流路S1または上記所定の温度に調節されたガスを流通させる第2流路S2として用いられている。
【0051】
そして、図10に示すように、左右方向に並んで配設された複数(5つ)の第1流路S1により原料ガス流通部23aが構成されているとともに、左右方向に並んで配設された複数(5つ)の第2流路S2により温度制御部23bが構成されている。各原料ガス流通部23aの複数(5つ)の第1流路S1は、互いに平行に配置されているとともに、各温度制御部23bの複数の(5つ)の第2流路S2は、互いに平行に配置されている。そして、温度制御部23bと原料ガス流通部23aとが下から上へ順番に交互に設けられている。これにより、原料ガス流通部23aが隣接する2つの温度制御部23bによって上下から挟まれた構造となっている。
【0052】
原料ガス流通部23aの各第1流路S1には、触媒体4の触媒部4bが挿入され、第1流路S1内で触媒部4bを用いた原料ガスの改質反応(触媒反応)が行われることによって所定の生成ガスが生成される。触媒体4の構造は、上記第1実施形態による触媒体4の構造と同様であり、触媒体4は、封止部材15の流路構造体13側の面に上記第1実施形態と同様の取付構造で取り付けられる。
【0053】
封止部材15は、流路構造体13の開口部13f側の端面全体を遮蔽可能な直方体形状を有している。この封止部材15の流路構造体13側の側面に、上記原料ガス流通部23aに対応する数の触媒体4が上下に所定の間隔を隔てて取り付けられる。触媒体4は、封止部材15を流路構造体13の開口部13f側の端部に装着した状態で、それぞれの触媒部4bが対応する第1流路S1の軸心の位置に配置されるように封止部材15に取り付けられる。触媒体4の保持構造は、上記第1実施形態と同様である。すなわち、封止部材15の流路構造体13側の側面に設けられた溝部(図示せず)に連結部4a(図5参照)側が支持されるとともに、触媒部4bの封止部材15と反対側の端部が流路構造体13の端部壁13eの第1流路S1側の面に設けられた凹部13j(図11参照)により支持されることによって、触媒部4bが第1流路S1の軸心位置に挿入された状態で触媒体4が保持される。
【0054】
封止部材15には、複数の第1流入孔15aと複数の第2流入孔15bとが設けられている。第1流入孔15a及び第2流入孔15bは、封止部材15が流路構造体13の開口部13f側の端部に装着された状態で第1流路S1及び第2流路S2にそれぞれ対応する位置に設けられており、第1流路S1または第2流路S2の軸方向に沿って封止部材15を貫通している。そして、上記第1供給口21aから供給される原料ガスが第1流入孔15aを介して各第1流路S1に導入されるとともに、上記第2供給口22aから供給される上記所定の温度に調節されたガスが第2流入孔15bを介して各第2流路S2に導入されるようになっている。
【0055】
また、温度制御部23bは、原料ガス流通部23aの第1流路S1内の原料ガスの温度を制御する機能を有している。すなわち、原料ガス流通部23aの第1流路S1と温度制御部23bの第2流路S2とは、流路構造体13の隔壁13gを介して熱交換可能に構成されている。したがって、第2流路S2に流通させるガスの温度を調節することによって、第2流路S2内のガスと第1流路S1内の原料ガスとの熱交換により、第1流路S1内の原料ガスの温度を触媒反応が有効に進行する所定の温度に設定することが可能となっている。例えば第1流路S1内における原料ガスの触媒反応が吸熱反応である場合には、高温に設定されたガスを第2流路S2に流通させることにより第2流路S2から隔壁13gを介して第1流路S1内の原料ガスに熱を供給し、その触媒反応を良好に進行させることが可能である。
【0056】
また、流路構造体13の端部壁13eには、複数の第1流出孔33aと複数の第2流出孔33bとが設けられている。第1流出孔33a及び第2流出孔33bは、第1流路S1及び第2流路S2にそれぞれ対応する位置に設けられており、第1流路S1または第2流路S2の軸方向に沿って端部壁13eを貫通している。そして、各第1流路S1内で触媒反応により生成された生成ガスが第1流出孔33aを介して流出するとともに、その生成ガスが上記第1取出口21bから外装体11の外部へ取り出される。また、各第2流路S2を流通するガスが第2流出孔33bを介して流出するとともに、その流出したガスが上記第2取出口22bから外装体11の外部へ排出される。
【0057】
第2実施形態によるマイクロリアクタの上記以外の構成は、上記第1実施形態によるマイクロリアクタの構成と同様である。
【0058】
以上のように、第2実施形態によるマイクロリアクタでは、第1流路S1内の原料ガスの温度を制御する温度制御部23bを備えているので、温度制御部23bにより、第1流路S1内の原料ガスの温度を触媒反応が有効に進行する所定の温度に設定して触媒反応による生成ガスの生成効率を向上させることができる。
【0059】
また、第2実施形態では、温度制御部23bが所定の温度に調節されるガスが流通し、第1流路S1と熱交換可能な複数の第2流路S2によって構成されているので、第2流路S2内を流通するガスの温度を調節することによって、第2流路S2内のガスと第1流路S1内の原料ガスとの間で熱交換させて第1流路S1内の原料ガスを容易に所定の温度に設定することができる。
【0060】
なお、原料ガスとしてメタノールガスと水蒸気との混合ガスを用いるとともに、銅−亜鉛系材料からなる触媒体4を用いてメタノールの水蒸気改質反応により水素を製造する場合は、メタノールの水蒸気改質反応が上述したように比較的低温(200℃〜300℃)の吸熱反応であることから、第1流路S1内の原料ガスに熱を供給するために第2流路S2に流通させるガスとして、工場などで所定の目的で使用された後排気される温度の低下した蒸気などを再利用することが可能である。この場合、高温の加熱ガスを別途生成して第2流路S2に流通させる必要がないので、そのような高温の加熱ガスの生成のためにエネルギー消費が増大するのを抑制することが可能である。
【0061】
第2実施形態による上記以外の効果は、上記第1実施形態による効果と同様である。
【0062】
次に、上記第2実施形態と同様の構成を有するマイクロリアクタを用いて実際に水素の製造を行った実験について説明する。この実験では、マイクロリアクタを用いて水素を製造した場合の水素の生成効率(水素転化率)について調べた。以下、この実験について具体的に説明する。
【0063】
(触媒の作成)
直径0.6mm、長さ100mmの純アルミニウムからなる直線的な丸棒状のアルミニウム線を20℃の液温を有する40g/lのシュウ酸水溶液中に浸漬し、50A/mの定電流を用いて10時間のアルマイト処理を行った。その後、アルミニウム線を80℃の銅−亜鉛水溶液中に1時間浸漬して、アルミニウム線の表面に銅−亜鉛系触媒を担持させた。なお、銅−亜鉛水溶液は、溶媒としての水に塩化銅(II)二水和物を85.2g/l溶解させるとともに、塩化亜鉛を6.8g/l溶解させた後、アンモニア水を添加してpH10に調整したものを用いた。そして、銅−亜鉛系触媒を担持させたアルミニウム線を自然乾燥させた後、400℃の空気中で2時間加熱することによって触媒を作成した。
【0064】
(マイクロリアクタの作成)
まず、上記第2実施形態と同様の構造を有するアルミニウム製の流路構造体を作成した。ただし、流路構造体を構成する全ての壁部の厚みを0.2mmに設定し、流路構造体の長手方向の寸法を100mmに設定した。また、原料ガス流通部と温度制御部とをそれぞれ50個の第1流路と50個の第2流路とで構成し、この温度制御部及び原料ガス流通部を下から上へ交互に合計21段設けた。これにより、触媒を挿入する第1流路を500本有する構造に流路構造体を構成した。そして、このような構成で第1流路及び第2流路の径のみを変えた7種類の流路構造体を作成した。この7種類の流路構造体では、第1流路の軸心位置に上記直径0.6mmの触媒を挿入した場合に、その触媒の周面と流路構造体の内壁面との間の隙間の最大値d(図6参照)がそれぞれ2mm、1mm、400μm、200μm、50μm、30μm、10μmとなるように第1流路の径(矩形断面の大きさ)を設定した。そして、この7種類の流路構造体の各第1流路の軸心位置に上記のように作成した丸棒状の触媒を開口部側から挿入するとともに、その開口部を封止部材で封止することにより7つの反応ユニットを作成した。そして、この7つの反応ユニットをそれぞれ外装体内に収容することにより7つのマイクロリアクタを作成した。
【0065】
次に、上記のように作成したマイクロリアクタを用いて、水素の生成効率(水素転化率)を測定した。この際のプロセスとしては、まず、原料ガス流通部の各第1流路に250℃に予熱した水素とアルゴンとの混合ガス(水素:5%、アルゴン:95%)を4時間流通させて触媒の還元処理を行った。その後、温度制御部の第2流路に250℃に加熱した空気を流通させるとともに、原料ガス流通部の第1流路には250℃に予熱したメタノールガスと水蒸気との混合ガスを流通させた。なお、このメタノールガスと水蒸気との混合ガスは、2mmol/minの流量のメタノールガスと4mmol/minの流量の水蒸気とを混合させたものである。
【0066】
そして、第1流路内では、メタノールの水蒸気改質による水素生成反応が行われる。この水素生成反応は、以下の反応式(1)に基づいて行われる。
【0067】
CHOH+HO→3H+CO・・・(1)
上記反応式(1)から判るように、メタノールが100%水素に転化される場合には、1molのメタノールから3molの水素が生成することとなり、この場合の水素転化率は以下の式(2)で表される。
【0068】
水素転化率(%)=100×H/(3×M) (H:生成された水素のモル数、M:使用したメタノールのモル数)・・・(2)
この式(2)を用いて、上記の7つのマイクロリアクタにおける水素転化率をそれぞれ算出した。その結果が以下の表1に示されている。
【0069】
【表1】

【0070】
上記表1から、第1流路に挿入された触媒の周面と流路構造体の内壁面との間の隙間の最大値が30μm以上1mm以下の範囲で93%〜98%の高い水素転化率が得られる一方、上記隙間の最大値が2mmの場合には水素転化率が80%になり、上記隙間の最大値が30μm以上1mm以下の場合よりも水素転化率が低下することが判る。なお、上記隙間の最大値が10μmの場合はメタノールガスと水蒸気との混合ガスがほとんど流通せず、水素転化率のデータを取ることができなかった。この結果から、上記隙間の最大値を30μm以上1mm以下の値に設定することによって、水素の生成効率を良好に保つことができることが判明した。
【0071】
なお、今回開示された実施形態及び実験例は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態及び実験例の説明ではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれる。
【0072】
たとえば、上記第1及び第2実施形態では、複数の触媒部4bが連結部4aによって相互に連結された構造に触媒体4を構成したが、本発明はこれに限らず、各流路に挿入される棒状の触媒が個別に分離して設けられていてもよい。
【0073】
また、上記第1実施形態では、各流路Sに触媒部4bが1本ずつ挿入されるとともに、上記第2実施形態では、各第1流路S1に触媒部4bが1本ずつ挿入されるように構成したが、本発明はこれに限らず、図12に示すように、1つの流路S(第1流路S1)に複数の触媒24が挿入されるようにしてもよい。
【0074】
また、上記第1及び第2実施形態では、流路Sまたは第1流路S1に挿入される触媒部4bを断面円形に形成したが、これ以外の種々の形状を有する触媒を用いてもよい。たとえば、図13に示すような多数の突起部34aが周面に形成された触媒34、図14に示すような断面円形の周面に複数の板状のフィン部44aが設けられた形状を有する触媒44、図15に示すような断面矩形の触媒54、図16に示すような断面八角形などの断面多角形の触媒64、図17に示すような互いに交差する複数の板状のフィン部74aからなる触媒74、または、図18に示すような円筒形状の触媒84などの種々の形状の触媒を用いることができる。これらの図13〜図18に示した形状に触媒体を形成すれば、原料ガスの触媒反応に寄与する触媒体の表面積を増加させることができるので、原料ガスの触媒反応をより良好に進行させることができる。なお、上記図13〜図18に示した形状以外の形状を有する触媒を本発明のマイクロリアクタに適用することも可能である。
【0075】
また、上記第1及び第2実施形態では、流路S、第1流路S1及び第2流路S2を断面矩形に構成したが、本発明はこれに限らず、流路S、第1流路S1及び第2流路S2を断面矩形以外の形状に構成してもよい。たとえば、四角形以外の多角形の断面や、断面円形などの種々の断面形状を有するように流路S、第1流路S1及び第2流路S2を構成してもよい。
【0076】
また、上記第2実施形態では、所定の温度に設定されたガスを流通させる第2流路S2からなる温度制御部23bを用いて、第2流路S2内のガスと第1流路S1内の原料ガスとの熱交換により、第1流路S1内の原料ガスの温度を制御したが、本発明はこれに限らず、上記以外の構成を有する温度制御部を用いて流路内の原料ガスの温度を制御してもよい。たとえば、流路の上下に設置した電熱シートからなる温度制御部を用いて、流路内の原料ガスの温度を制御してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】本発明の第1実施形態によるマイクロリアクタの全体構成を示した斜視図である。
【図2】図1に示したマイクロリアクタに適用する反応ユニットの構成を示した斜視図である。
【図3】図2に示した反応ユニットの分解斜視図である。
【図4】図3に示した反応ユニットを構成する流路構造体の下面側の構造を示した斜視図である。
【図5】図3に示した触媒体の構造を示した正面図である。
【図6】図2に示した反応ユニットのVI−VI線に沿った断面図である。
【図7】本発明の第2実施形態によるマイクロリアクタの全体構成を示した斜視図である。
【図8】図7に示したマイクロリアクタに適用する反応ユニットの構成を示した斜視図である。
【図9】図7に示したマイクロリアクタに適用する反応ユニットの構成を示した斜視図である。
【図10】図8に示した反応ユニットの分解斜視図である。
【図11】図8に示した反応ユニットのXI−XI線に沿った断面図である。
【図12】本発明の実施形態の変形例による流路内の触媒の構成を示した断面図である。
【図13】本発明の実施形態の変形例による触媒の構造を示した断面図である。
【図14】本発明の実施形態の変形例による触媒の構造を示した断面図である。
【図15】本発明の実施形態の変形例による触媒の構造を示した断面図である。
【図16】本発明の実施形態の変形例による触媒の構造を示した断面図である。
【図17】本発明の実施形態の変形例による触媒の構造を示した断面図である。
【図18】本発明の実施形態の変形例による触媒の構造を示した断面図である。
【符号の説明】
【0078】
3、13 流路構造体
3f、13f 開口部
4b 触媒部(触媒)
5、15 封止部材
23b 温度制御部
24、34、44、54、64、74、84 触媒
S 流路(第1流路)
S1 第1流路
S2 第2流路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料ガスが流通する第1流路を内部に有する流路構造体と、
前記第1流路内に設置され、前記原料ガスから所定の生成物を製造するための触媒反応に用いられる触媒とを備え、
前記触媒は、前記流路構造体の一方端側の開口部から前記第1流路に挿脱可能に構成されている、マイクロリアクタ。
【請求項2】
前記第1流路及び前記触媒は、共に所定の方向に直線的に延びるように形成されており、前記触媒は、その所定の方向に沿って前記第1流路に挿脱される、請求項1に記載のマイクロリアクタ。
【請求項3】
前記流路構造体は、互いに略平行に配置された複数の前記第1流路を有し、
複数の前記触媒が互いに略平行に設けられ、
前記複数の触媒の前記第1流路への挿入側の端部と反対側の端部が相互に連結されている、請求項1または2に記載のマイクロリアクタ。
【請求項4】
前記流路構造体の一方端側の開口部を封止する封止部材をさらに備え、
前記触媒は、前記第1流路への挿入側の端部と反対側の端部が前記封止部材により支持されることによって前記第1流路内で保持される、請求項1〜3のいずれか1項に記載のマイクロリアクタ。
【請求項5】
前記流路構造体は、互いに略平行に配置された複数の前記第1流路を有し、
複数の前記触媒が互いに略平行に設けられ、
前記複数の触媒の前記第1流路への挿入側の端部と反対側の端部が前記封止部材に連結されている、請求項4に記載のマイクロリアクタ。
【請求項6】
前記触媒は、前記第1流路に挿入された状態で前記流路構造体の内壁面との間に所定の隙間を有するような構造に構成されている、請求項1〜5のいずれか1項に記載のマイクロリアクタ。
【請求項7】
前記所定の隙間の最大値は、30μm以上1mm以下の値に設定されている、請求項6に記載のマイクロリアクタ。
【請求項8】
前記第1流路内の前記原料ガスの温度を制御する温度制御部を備えた、請求項1〜7のいずれか1項に記載のマイクロリアクタ。
【請求項9】
前記流路構造体は、前記温度制御部を含み、
前記温度制御部は、所定の温度に調節される流体が流通し、前記第1流路と熱交換可能な第2流路を有する、請求項8に記載のマイクロリアクタ。
【請求項10】
前記原料ガスは、メタノールガスと水蒸気との混合ガスを含み、前記触媒を用いた前記メタノールガスの水蒸気改質反応により前記生成物として水素が製造される、請求項1〜9のいずれか1項に記載のマイクロリアクタ。
【請求項11】
請求項10に記載のマイクロリアクタを用いて水素を製造する、水素の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2007−237044(P2007−237044A)
【公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−61131(P2006−61131)
【出願日】平成18年3月7日(2006.3.7)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】