説明

マイクロ化学チップ

【課題】構成を大型化することなく、異なる複数の流体を効率よく混合することができるマイクロ化学チップを提供する。
【解決手段】供給部13a,13bから流路12に2種類の被処理流体をそれぞれ流入させ、流入された2種類の被処理流体を合流させて予め定める処理を施すマイクロ化学チップ1において、供給部13a,13bが接続される位置22よりも被処理流体の流通方向下流側の流路12、たとえば領域23の流路12に屈曲部分R1〜R4を形成する。屈曲部分R1〜R4を通過する際に、合流された2種類の被処理流体に乱流を発生させることができるので、混合に必要な流路を短くしても、合流された複数の被処理流体を効率よく混合させることができる。これによって、小型のマイクロ化学チップ1を実現することができ、マイクロ化学チップを用いたマイクロ化学システムの小型化を図ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微小な流路を流通する基質や試薬などの被処理流体に対して、反応や分析などの予め定める処理を施すことのできるマイクロ化学チップに関し、さらに詳しくは、たとえば血液と試薬を混合して反応させる場合のように、異なる複数の被処理流体を混合させて予め定める処理を施すことができるマイクロ化学チップに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、化学技術やバイオ技術の分野では、試料に対する反応や試料の分析などを微小な領域で行うための研究が行われており、マイクロ・エレクトロ・メカニカル・システム(Micro Electro Mechanical Systems;略称:MEMS)技術を用いて化学反応や生化学反応、試料の分析などのシステムを小型化したマイクロ化学システムが研究開発されている。
【0003】
マイクロ化学システムにおける反応や分析は、マイクロ流路、マイクロポンプおよびマイクロリアクタなどが形成されたマイクロ化学チップと呼ばれる1つのチップを用いて行われる。たとえば、シリコン、ガラスまたは樹脂から成る1つの基体に、試料や試薬などの流体を供給するための供給口と、処理後の流体を導出するための採取口とを形成し、この供給口と採取口とを断面積が微小なマイクロ流路で接続し、流路の適当な位置に送液のためのマイクロポンプを配置したマイクロ化学チップが提案されている(特許文献1参照)。また、送液の手段として、マイクロポンプに代えて、電気浸透現象を利用したキャピラリ泳動型のものも提案されている(特許文献2参照)。これらのマイクロ化学チップでは、流路は所定の位置で合流しており、合流部で流体の混合が行われる。
【0004】
マイクロ化学システムでは、従来のシステムに比べ、機器や手法が微細化されているので、試料の単位体積あたりの反応表面積を増大させ、反応時間を大幅に削減することができる。また流量の精密な制御が可能であるので、反応や分析を効率的に行うことができる。さらに反応や分析に必要な試料や試薬の量を少なくすることができる。
【特許文献1】特開2002−214241号公報(第4−5頁,第1図)
【特許文献2】特開2001−108619号公報(第4−5頁,第1図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したマイクロ化学チップでは、流路を流れる被処理流体は層流となる。そのため、複数の供給部からそれぞれ異なる複数の被処理流体を流路に流入させて混合させる場合は、流路を流れる間に生じる拡散現象を利用して複数の被処理流体を混合させるようにしている。したがって、複数の被処理流体を充分に混合させるためには、供給部が流路に接続される接続位置よりも下流側の流路を長く形成する必要がある。
【0006】
しかし、被処理流体を充分に混合させるために流路を長く形成すると、マイクロ化学チップが大型化するという問題が生じる。
【0007】
一方、マイクロ化学チップを小型化するために流路を短く形成すると、被処理流体の混合が不充分になるという問題が生じる。また、被処理流体の混合が不充分な状態では、反応等の予め定める処理を施しても、処理が不充分になる可能性が高くなるという問題も生じる。
【0008】
本発明の目的は、構成を大型化することなく、異なる複数の被処理流体を効率よく混合することができるマイクロ化学チップを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係るマイクロ化学チップは、被処理流体を流通させる流路と、流路に接続され且つ該流路に複数の被処理流体をそれぞれ流入させる複数の供給部とが設けられた基体を有し、複数の供給部から流路に複数の被処理流体をそれぞれ流入させ、流入された複数の被処理流体を合流させて処理を施すものであって、流路は、基体の表面に対して平行に延びる流路と、基体の表面に対して垂直に延びる流路とを接続してなる立体的な屈曲部分を有することを特徴とする。
【0010】
本マイクロ化学チップの流路は、立体的な屈曲部分より被処理流体の流通方向下流側に、基体の表面に対して平行な一平面上で屈曲してなる平面的な屈曲部を有するのが好適である。
【0011】
本マイクロ化学チップの基体は、その内部にヒータを備え、このヒータは、平面的な屈曲部の直下に位置するのが好適である。
【0012】
本マイクロ化学チップの立体的な屈曲部は、基体表面からの距離が異なる位置で、該基体表面に対して平行に延びる複数の流路と、基体の厚み方向に延びる流路とを接続してなるのが好適である。
【0013】
本マイクロ化学チップの基体はセラミック材料からなるのが好適である。
【0014】
本マイクロ化学チップの基体は、積層したセラミックグリーンシートを焼成一体化してなるのが好適である。
【0015】
本マイクロ化学チップは、基体に対してセラミックグリーンシートを焼成一体化してなる蓋体を備えるのが好適である。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係るマイクロ化学チップの流路は、基体の表面に対して平行に延びる流路と、基体の表面に対して垂直に延びる流路とを接続してなる立体的な屈曲部分を有している。基質や試薬などの複数の被処理流体は、複数の供給部から流路にそれぞれ流入され、合流されて流路の屈曲部分を流通し、分析や反応などの予め定める処理を施されるが、本発明の構成によると、流路の屈曲部分を合流された複数の被処理流体が流通するとき、合流された複数の被処理流体に乱流を発生させることができる。このように合流した被処理流体内に乱流を発生させることによって、複数の被処理流体を混合することができる。これによって、従来のように拡散のみによって混合させる場合に比べて短い流路であっても、複数の被処理流体を充分に混合させることができる。また、複数の被処理流体が充分に混合された状態で予め定める処理が施されるので、混合が不充分な場合に比べて、予め定める処理を確実に施すことができる。さらに、拡散のみによって混合させる場合に比べて流路の長さを短くすることができるので、マイクロ化学チップの小型化を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
図1(a)は、本発明の実施の一形態であるマイクロ化学チップ1の構成を簡略化して示す平面図である。図1(b)は、図1(a)に示すマイクロ化学チップ1の切断面線I−I、II−IIおよびIII−IIIにおける断面構成を示す部分断面図である。なお、図1(b)では、切断面線I−I、II−IIおよびIII−IIIにおける断面構成を並べて示す。
【0018】
マイクロ化学チップ1は、被処理流体を流通させる流路12と、流路12に被処理流体をそれぞれ流入させる2つの供給部13a,13bと、処理部14と、処理後の流体を外部に導出する採取部15とが設けられた基体11を有する。基体11は、一表面に溝部が形成された基体本体20と被覆部である蓋体21とを含み、基体本体20の溝部33,34の形成された表面を蓋体21で覆うことによって流路12が形成されている。流路12のうち、供給部13a,13bが接続される位置22よりも被処理流体の流通方向下流側の参照符23で示される領域に、屈曲部分R1,R2,R3,R4を有している。屈曲部分R1〜R4は、基体11の表面からの距離のそれぞれ異なる2つの流路12a,12bを、基体表面に対して垂直方向に延びる2つの流路12c,12dで接続することによって形成されている。
【0019】
供給部13aは、流路12に接続される供給流路17aと、供給流路17aの端部に設けられる供給口16aと、流路12に接続する位置22よりも被処理流体の流通方向上流側に設けられるマイクロポンプ18aとを含む。同様に、供給部13bは、供給流路17bと、供給口16bと、マイクロポンプ18bとを含む。供給口16a,16bは、外部から供給流路17a,17bに被処理流体を注入することができるように開口されている。また採取部15は、流路12から被処理流体を外部に取出すことができるように開口で実現されている。
【0020】
基体本体20の内部であって、処理部14の流路12の下方には、ヒータ19が設けられる。処理部14の流路12は、ヒータ19の上方を複数回数通過するように屈曲して形成される。基体11の表面には、ヒータ19と外部電源とを接続するための図示しない配線がヒータ19から導出されている。この配線は、ヒータ19よりも抵抗値の低い金属材料で形成される。
【0021】
マイクロ化学チップ1では、2つの供給部13a,13bから流路12に2種類の被処理流体をそれぞれ流入させて合流させ、必要に応じて処理部14においてヒータ19を用いて流路12を所定の温度で加熱し、流入された2種類の被処理流体を反応させ、得られた反応生成物を採取部15から導出させる。
【0022】
流路12および供給流路17a,17bの断面積は、供給部13a,13bから流入される検体、試薬または洗浄液などを効率よく送液し混合するためには、2.5×10−3mm以上1mm以下であることが好ましい。しかしながら、断面積が2.5×10−3mm〜1mm程度の流路を流通する流体は、一般に層流状態で流れるので、2つの供給流路17a,17bを合流させただけでは、供給部13a,13bから流路12にそれぞれ流入され合流された2種類の被処理流体は、拡散のみによって混合される。したがって、合流された2種類の被処理流体を完全に混合させるためには長い流路を設ける必要があり、マイクロ化学チップの小型化には限界がある。
【0023】
これに対し、本実施形態では、前述のように供給部13a,13bからそれぞれ流入されて合流された2種類の被処理流体が流通する領域23の流路12は屈曲部分R1〜R4を有しているので、合流された被処理流体が屈曲部分R1〜R4を通過する際に乱流を発生させることができる。これによって、合流された被処理流体を効率よく混合させることができ、混合に必要な流路12を短くすることができる。したがって、構成を大型化することなく、複数の被処理流体を効率よく混合することができるマイクロ化学チップ1を実現することができる。これによって、マイクロ化学チップを用いたマイクロ化学システムの小型化を図ることができる。
【0024】
また本実施形態では、流路12は、処理部14よりも被処理流体の流通方向上流側の領域23に屈曲部分R1〜R4を有しているので、合流された被処理流体は、処理部14に達する際には充分に混合されている。したがって、たとえば供給部13aから原料となる化合物を流入させ、供給部13bから試薬を流入させ、化合物と試薬とを合流させて処理部14のヒータ19で加熱することによって反応させる場合、化合物と試薬とが充分に混合された状態で加熱することができるので、化合物と試薬とを効率良く反応させ、採取部15から取出される反応生成物の収率を向上させることができる。
【0025】
また前述のように、流路12の屈曲部分R1〜R4は、基体表面からの距離のそれぞれ異なる2つの流路12a,12bを、基体表面に対して垂直方向に延びる2つの流路12c,12dで接続することによって形成されている。すなわち、屈曲部分R1〜R4は、基体11の表面に対して平行な一平面上に形成されるのではなく、基体11の内部に立体的に形成されるので、流路12は領域23において立体的に屈曲して形成されることになる。この場合、屈曲部分を基体11の表面に対して平行な一平面上に平面的に形成することによって領域23の流路12を平面的に屈曲して形成した場合に比べ、領域23で屈曲した流路12の投影像が基体表面上で占める面積を小さくすることができる。したがって、マイクロ化学チップ1をさらに小型化することができる。
【0026】
基体本体20には、セラミック材料、シリコン、ガラスまたは樹脂などから成るものを用いることができ、これらの中でもセラミック材料から成るものを用いることが好ましい。セラミック材料は、樹脂などに比べ、耐薬品性に優れるので、基体本体20がセラミック材料から成ることによって、耐薬品性に優れ、種々の条件で使用することのできるマイクロ化学チップ1を得ることができる。基体本体20を構成するセラミック材料としては、たとえば酸化アルミニウム質焼結体、ムライト質焼結体またはガラスセラミックス焼結体などを用いることができる。
【0027】
蓋体21には、ガラスまたはセラミック材料から成るものを用いることができる。
【0028】
流路12および供給流路17a,17bの断面積は、前述のように、供給部13a,13bから流入される検体、試薬または洗浄液などを効率よく送液し混合するために、2.5×10−3mm以上1mm以下であることが好ましい。流路12および供給流路17a,17bの断面積が1mmを超えると、送液される検体、試薬または洗浄液の量が多くなり過ぎるので、単位体積あたりの反応表面積を増大させ、反応時間を大幅に削減させるというマイクロ化学チップの効果を充分に得ることができない。また流路12および供給流路17a,17bの断面積が2.5×10−3mm未満であると、マイクロポンプ18a,18bによる圧力の損失が大きくなり、送液に問題が生じる。したがって、流路12および供給流路17a,17bの断面積を2.5×10−3mm以上1mm以下とした。
【0029】
また、流路12および供給流路17a,17bの幅wは、50〜1000μmであることが好ましく、より好ましくは100〜500μmである。また流路12および供給流路17a,17bの深さdは、50〜1000μmであることが好ましく、より好ましくは100〜500μmであって、上記断面積の範囲となるようにすればよい。そして、幅と深さの関係は、短辺長/長辺長≧0.4が好ましく、より好ましくは短辺長/長辺長≧0.6である。短辺長/長辺長<0.4では、圧力損失が大きくなり、送液に問題が生じる。
【0030】
マイクロ化学チップ1の外形寸法は、たとえば、幅Aが約40mmであり、奥行きBが約70mmであり、高さCが1〜2mmであるが、これにかかわらず、必要に応じて適切な外形寸法とすればよい。
【0031】
なお、使用後のマイクロ化学チップ1は、供給部13a,13bから洗浄液を流入させて洗浄すれば、再度使用することができる。
【0032】
次に、図1に示すマイクロ化学チップ1の製造方法を説明する。本実施形態では、基体本体20がセラミック材料から成る場合について説明する。図2は、セラミックグリーンシート31,32の加工状態を示す平面図である。図3は、セラミックグリーンシート31,32を積層した状態を示す部分断面図である。
【0033】
まず、原料粉末に適当な有機バインダおよび溶剤を混合し、必要に応じて可塑剤または分散剤などを添加して泥漿にし、これをドクターブレード法またはカレンダーロール法などによってシート状に成形することによって、セラミックグリーンシート(別称:セラミック生シート)を形成する。原料粉末としては、たとえば、基体本体20が酸化アルミニウム質焼結体から成る場合には、酸化アルミニウム、酸化珪素、酸化マグネシウムおよび酸化カルシウムなどを用いる。
【0034】
本実施形態では、このようにして形成されるセラミックグリーンシートを2枚用いて基体本体20を形成する。まず、図2(a)に示すように、1枚目のセラミックグリーンシート31の表面に型を押圧し、溝部33,34を形成する。また図2(b)に示すように、2枚目のセラミックグリーンシート32の表面に型を押圧し、溝部37を形成する。このとき、型には、セラミックグリーンシート31の場合は所望の溝部33,34の形状が転写された形状の型を用い、セラミックグリーンシート32の場合は所望の溝部37の形状が転写された型を用いる。また型を押圧する際の押圧力は、セラミックグリーンシートに成形される前の泥漿の粘度に応じて調整される。たとえば、泥漿の粘度が1〜4Pa・sである場合には、2.5〜7MPaの押圧力で押圧する。なお、型の材質は特に制限されるものではなく、金型であっても木型であってもよい。
【0035】
また、図2(a)に示すように、セラミックグリーンシート31に、セラミックグリーンシート31の溝部33,34とセラミックグリーンシート32の溝部37とを連通するための貫通孔35,36を形成する。貫通孔35,36は、セラミックグリーンシート31をパンチで打ち抜くことによって形成することができる。またレーザやマイクロドリルなどを用いて形成することもできる。なお、この貫通孔35,36が、前述した基体表面に対して垂直方向に延びる流路12c,12dに対応するものである。
【0036】
また、図2(b)に示すように、セラミックグリーンシート32の溝部37の形成された表面に、導電性ペーストをスクリーン印刷法などによって所定の形状に塗布することによって、ヒータ19および外部電源接続用の配線パターン38を形成する。導電性ペーストは、タングステン、モリブデン、マンガン、銅、銀、ニッケル、パラジウムまたは金などの金属材料粉末に、適当な有機バインダおよび溶剤を混合して得られる。なお、ヒータ19を形成する導電性ペーストには、焼成後に所定の抵抗値になるように、前述の金属材料粉末にセラミック粉末が5〜30重量%添加されたものが用いられる。
【0037】
次に、図3に示すように、溝部37の形成されたセラミックグリーンシート32の表面に、溝部33,34の形成されたセラミックグリーンシート31を積層する。このとき、セラミックグリーンシート32の溝部37がセラミックグリーンシート31で覆われ、かつセラミックグリーンシート31の溝部33,34とセラミックグリーンシート32の溝部37とが、セラミックグリーンシート31に形成された貫通孔35,36で連通するように積層する。積層されたセラミックグリーンシート31,32を温度約1600℃で焼結させる。以上のようにして、図1に示す基体本体20を形成する。
【0038】
図4は、蓋体21の構成を簡略化して示す平面図である。図4に示すように、たとえばガラスまたはセラミック材料などから成る基板41の供給口16a,16bおよび採取部15となるべく予め定められる位置に、図2(a)に示すセラミックグリーンシート31の溝部33に連通する貫通孔42a,42bおよび溝部34に連通する貫通孔43を形成し、蓋体21を得る。
【0039】
基体本体20の溝部33,34が露出した表面に、蓋体21を接着する。蓋体21と基体本体20とは、たとえば蓋体21がガラスから成る場合には加熱および加圧によって接着され、蓋体21がセラミック材料から成る場合にはガラス接着剤などによって接着される。
【0040】
蓋体21の表面の予め定められる位置に、たとえばチタン酸ジルコン酸鉛(PZT;組成式:Pb(Zr,Ti)O)などの圧電材料44a,44bを貼り付けるとともに、圧電材料44a,44bに電圧を印加するための図示しない配線を形成する。圧電材料44a,44bは、印加された電圧に応じて伸縮することによって供給流路17a,17bの上方の蓋体21を振動させることができるので、圧電材料44a,44bを供給流路17a,17bの上方の蓋体21に貼り付けることによって、送液を行うマイクロポンプ18a,18bを形成することができる。
【0041】
以上のようにして、図1に示す基体11を形成し、マイクロ化学チップ1を得る。このように、基体11の表面からの距離のそれぞれ異なる複数の流路12a,12bが基体表面に対して垂直方向に延びる流路12c,12dで接続されて成る立体的な流路12を基体11の内部に形成することによって、供給部13a,13bが接続される位置22よりも被処理流体の流通方向下流側の領域23で流路12が屈曲しているマイクロ化学チップ1を製造することができる。
【0042】
また本実施形態では、セラミックグリーンシート31,32の表面に型を押圧して溝部33,34,37を形成し、溝部37を覆うようにセラミックグリーンシート31を積層し、積層したセラミックグリーンシート31,32を焼結させることによって基体本体20を形成し、基体本体20の表面の溝部33,34を蓋体21で覆うことによって、流路12を有する基体11を形成する。したがって、シリコン、ガラスまたは樹脂から成る基体に流路を形成する際に必要となるエッチング加工のような複雑な加工を行うことなく、簡単な加工を行うだけでマイクロ化学チップ1を製造することができる。
【0043】
以上に述べたように、本実施形態のマイクロ化学チップ1は、2つの供給部13a,13bを有するけれども、これに限定されることなく、3つ以上の供給部を有してもよい。供給部が2つ以上設けられる場合、供給部は、1点で合流するように設けられる必要はなく、流路12の異なる位置に接続されるように設けられてもよい。この場合、各供給部が接続される位置よりも被処理流体の流通方向下流側の流路は、図1に示す領域23の流路12と同様に、屈曲していることが好ましい。
【0044】
またヒータ29は、1箇所に設けられる構成であるけれども、これに限定されることなく、2箇所以上に設けられてもよい。このように、3つ以上の供給部を設け、ヒータを2箇所以上に設けることによって、複雑な反応を制御することができる。なお、ヒータ29は、加熱しなくても反応が進行するような場合には、設ける必要はない。
【0045】
また、本実施形態では、供給部13a,13bの接続される位置22よりも被処理流体の流通方向下流側の領域23の流路12は、基体11の表面からの距離のそれぞれ異なる2つの流路12a,12bが接続されることによって屈曲されるけれども、これに限定されることなく、基体11の表面からの距離のそれぞれ異なる3つ以上の流路が接続されることによって屈曲されてもよい。なお、流路12の屈曲される領域は、領域23に限定されるものではない。
【0046】
また、本実施形態では、被処理流体の流通方向下流側である処理部14の流路12も屈曲部分を有しているので、合流された被処理流体には、処理部14の流路12を流通する際に乱流が発生するので、被処理流体を効率よく混合させることができる。
【0047】
また、本実施形態のマイクロ化学チップ1では、採取部15を設け、反応生成物を採取部15から導出させるけれども、採取部15または採取部15よりも被処理流体の流通方向上流側に検出部を設ければ、化学反応や抗原抗体反応、酵素反応などの生化学反応の反応生成物を検出することができる。この場合には、検出部よりも被処理流体の流通方向上流側の流路12に屈曲部分を形成することが好ましい。
【0048】
また、本実施形態では、送液手段として、マイクロポンプ18a,18bを設ける構成であるけれども、マイクロポンプ18a,18bを設けない構成も可能である。この場合には、供給口16a,16bから被処理流体を注入する際に、マイクロシリンジなどで被処理流体を押込むことによって、被処理流体を供給口16a,16bから採取部15まで送液することができる。また注入する際に、外部に設けられるポンプなどで被処理流体に圧力を加えながら注入することによって送液することもできる。また供給口16a,16bから被処理流体を注入した後に、開口で実現されている採取部15からマイクロシリンジなどで吸引することによって送液することもできる。
【0049】
また、蓋体21は基体本体20に接着されているけれども、これに限定されることなく、基体本体20から取外し可能に取り付けられていてもよい。たとえば、基体本体20と蓋体21との間にシリコーンゴムなどを挟み、マイクロ化学チップ全体に圧力を加えるような構成であってもよい。このように蓋体21を基体本体20から取り外せるようにすることによって、再利用する際の洗浄が容易になる。
【0050】
また、本実施形態のマイクロ化学チップ1の製造方法では、基体本体20は、溝部33,34および貫通孔35,36の形成されたセラミックグリーンシート31と溝部37の形成されたセラミックグリーンシート32との2枚のセラミックグリーンシートから形成されるけれども、これに限定されることなく、3枚以上のセラミックグリーンシートから形成されてもよい。たとえば、セラミックグリーンシート31とセラミックグリーンシート32との間に、貫通孔の形成されたセラミックグリーンシートを積層し、このセラミックグリーンシートの貫通孔とセラミックグリーンシート31の貫通孔によって、セラミックグリーンシート31の溝部33,34とセラミックグリーンシート32の溝部37とを連通させて基体本体20を形成すれば、基体11の表面からより深い位置に流路12aを形成することができる。
【0051】
また、本実施形態のマイクロ化学チップ1の製造方法では、基体11は、セラミックグリーンシート31の表面の溝部33,34を露出させたまま焼成して基体本体20を形成した後、基体本体20の表面の溝部33,34を蓋体21で覆うことによって形成されるけれども、これに限定されることなく、セラミックグリーンシート31の表面に、溝部33,34に連通する蓋体21と同様の貫通孔が形成されたセラミックグリーンシートをさらに積層して焼成することによって形成されてもよい。このようにして基体を形成すれば、基体本体20を形成した後に蓋体21を取り付ける必要がなくなるので、生産性を向上させることができる。また、マイクロポンプ18a,18bを構成する圧電材料44a,44bに前述のPZTのようなセラミック圧電材料を用いる場合には、溝部33,34に連通する貫通孔が形成されたセラミックグリーンシートの予め定められる位置にセラミック圧電材料を取り付けた後、同時に焼成することもできる。
【0052】
以上のように本発明によれば、合流された複数の被処理流体を流路の屈曲部分を流通させることによって乱流を発生させて混合するので、従来のように拡散のみによって混合させる場合に比べて短い流路であっても、複数の被処理流体を高い混合効率で混合させることができる。また、複数の被処理流体が高い混合効率で充分に混合された状態で予め定める処理が施されるので、混合が不十分な場合に比べて、予め定める処理を確実に施すことができる。さらに、拡散のみによって混合させる場合に比べて流路の長さを短くすることができるので、マイクロ化学チップの小型化を図ることができる。
【0053】
また本発明によれば、供給部が流路に接続される位置よりも被処理流体の流通方向下流側であって、採取部が流路に接続される位置よりも被処理流体の流通方向上流側に屈曲部分を有しているので、たとえば2つの供給部を有し、一方の供給部から原料となる化合物を流入させ、他方の供給部から試薬を流入させ、化合物と試薬とを充分に混合させて反応させた後、得られた化合物を採取部から取出すことのできる小型のマイクロ化学チップを得ることができる。
【0054】
また本発明によれば、供給部が流路に接続される位置よりも被処理流体の流通方向下流側であって処理部よりも被処理流体の流通方向上流側に屈曲部分を有しているので、たとえば2つの供給部を設け、一方の供給部から原料となる化合物を流入させ、他方の供給部から試薬を流入させ、化合物と試薬とを合流させて処理部において加熱することによって反応させる場合に、化合物と試薬とを効率良く反応させ、反応生成物の収率を向上させることができる。
【0055】
また本発明によれば、流路の屈曲部分は基体表面からの距離のそれぞれ異なる複数の流路を、基板表面に対して垂直方向に延びる流路で接続することによって形成されるので、流路の屈曲部分の投影像が基体表面上で占める面積を小さくすることができ、マイクロ化学チップをさらに小型化することができる。
【0056】
また本発明によれば、溝部が形成されたセラミックグリーンシートと、その表面の溝部を覆うとともに異なるセラミックグリーンシートにそれぞれ形成された溝部を貫通孔で連通させる別のセラミックグリーンシートとを積層したものを、焼結させることによって基体を形成するので、供給部が接続される位置よりも被処理流体の流通方向下流側に屈曲部分が形成された流路を有するマイクロ化学チップを製造することができる。
【0057】
また本発明によれば、溝部が形成されたセラミックグリーンシートと、その表面の溝部を覆うとともに異なるセラミックグリーンシートにそれぞれ形成された溝部を貫通孔で連通させる別のセラミックグリーンシートとを積層したものを、焼結させることによって基体本体を形成した後に、基体本体の表面の溝部を被覆部で覆うことによって基体を形成するので、供給部が接続される位置よりも被処理流体の流通方向下流側に屈曲部分が形成された流路を有するマイクロ化学チップを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】図1(a)は、本発明の実施の一形態であるマイクロ化学チップ1の構成を簡略化して示す平面図である。図1(b)は、図1(a)に示すマイクロ化学チップ1の切断面線I−I、II−IIおよびIII−IIIにおける断面構成を示す部分断面図である。
【図2】セラミックグリーンシート31,32の加工状態を示す平面図である。
【図3】セラミックグリーンシート31,32を積層した状態を示す部分断面図である。
【図4】蓋体21の構成を簡略化して示す平面図である。
【符号の説明】
【0059】
1 マイクロ化学チップ
11 基体
12,12a,12b,12c,12d 流路
13a,13b 供給部
14 処理部
15 採取部
16a,16b 供給口
17a,17b 供給流路
18a,18b マイクロポンプ
19 ヒータ
20 基体本体
21 蓋体
31,32 セラミックグリーンシート
33,34,37 溝部
35,36,42a,42b,43 貫通孔
38 配線パターン
41 基板
44a,44b 圧電材料
R1〜R4 屈曲部分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理流体を流通させる流路と、前記流路に接続され且つ該流路に複数の被処理流体をそれぞれ流入させる複数の供給部とが設けられた基体を有し、前記複数の供給部から前記流路に複数の被処理流体をそれぞれ流入させ、流入された複数の被処理流体を合流させて処理を施すマイクロ化学チップであって、
前記流路は、前記基体の表面に対して平行に延びる流路と、前記基体の表面に対して垂直に延びる流路とを接続してなる立体的な屈曲部分を有することを特徴とするマイクロ化学チップ。
【請求項2】
前記流路は、前記立体的な屈曲部分より被処理流体の流通方向下流側に、前記基体の表面に対して平行な一平面上で屈曲してなる平面的な屈曲部を有することを特徴とする請求項1に記載のマイクロ化学チップ。
【請求項3】
前記基体は、その内部にヒータを備え、
前記ヒータは、前記平面的な屈曲部の直下に位置することを特徴とする請求項2に記載のマイクロ化学チップ。
【請求項4】
前記立体的な屈曲部は、前記基体表面からの距離が異なる位置で、該基体表面に対して平行に延びる複数の流路と、前記基体の厚み方向に延びる流路とを接続してなることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のマイクロ化学チップ。
【請求項5】
前記基体はセラミック材料からなることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載のマイクロ化学チップ。
【請求項6】
前記基体は、積層したセラミックグリーンシートを焼成一体化してなることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載のマイクロ化学チップ。
【請求項7】
前記基体に対してセラミックグリーンシートを焼成一体化してなる蓋体を備えることを特徴とする請求項6に記載のマイクロ化学チップ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−130502(P2006−130502A)
【公開日】平成18年5月25日(2006.5.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−316785(P2005−316785)
【出願日】平成17年10月31日(2005.10.31)
【分割の表示】特願2003−114821(P2003−114821)の分割
【原出願日】平成15年4月18日(2003.4.18)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】