説明

マイクロ化学チップ

【課題】従来のマイクロ化学チップでは化学反応部を温度調節しながら、透過光により一般的に行う観察や分析の方法を行うことができないという問題があった。
【解決手段】化学反応部と、収納部と、温度調節手段と、熱交換手段とをマイクロ化学チップが形成する上面または下面と平行な方向にマイクロ化学チップに内蔵するように配置し、収納部の内側に温度調節手段を収納して固定し、温度調節手段の温度調節端と化学反応部とを熱伝導可能に接続し、温度調節手段の熱交換端と熱交換手段とを熱伝導可能に接続し、温度調節手段によって化学反応部を温度調節する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は熱電素子を用いた温度調節に関し、特にマイクロ化学チップの熱電素子による局所的な温度調節に関する。
【背景技術】
【0002】
熱電素子は、熱エネルギーを電気エネルギーに直接変換することができるデバイスであるとともに、電気エネルギーを熱エネルギーに直接変換することができるデバイスである。熱電素子は、複数の熱電対により構成されている。熱電対は、ほぼ同じ長さの柱状をしたp型熱電半導体およびn型熱電半導体を、それらの両端部で対にしたものである。
【0003】
一般的な熱電素子では、複数の熱電対が、そのp型熱電半導体とn型熱電半導体とが交互に規則的に並ぶように、平面的に配置されている。そして、そのように並べられた複数の熱電対は、電気的に直列に接続されている。熱電素子は、その両端の間に温度差が与えられると、ゼーベック効果により電圧を発生する。また、熱電素子に直流電流を流すと、ペルチェ効果により、熱電素子の一端では熱の吸収が起こり、他端では放熱(発熱)が起こる。
【0004】
このように、熱電素子は、可逆の効果を併せ持っており、熱エネルギーと電気エネルギーの変換素子として応用されている。特に、熱電素子に流す電流の量や向き(極性)を制御することによって、熱電素子の一端の面の温度を正確に制御することができる。そのため、熱電素子は、温度調節装置として用いられ得る。
【0005】
一方、このような熱電素子で局所的な温度調節が必要となる対象部材としては、例えばマイクロ化学チップが挙げられる。マイクロ化学チップには、DNAチップと呼ばれるDNA(ゲノム)解析用のチップ、タンパク質解析用のチップ、通常は実験室で行う様々な化学プロセスを数cm角の大きさのチップ上で行うマイクロTAS(Total Analysis System)、ラボオンチップ(lab−on−a−chip)、またはマイクロリアクターなどと呼ばれるチップなどがある。本明細書では、チップ上またはチップ内部で何らかの化学プロセスを生じるものを全てマイクロ化学チップと呼ぶこととする。また、チップ上またはチップ内部において化学プロセスが生じる部分を化学反応部と呼ぶこととする。
【0006】
化学反応部で生じる化学的変化には、例えば混合、反応、抽出、分離または濃縮などの様々な化学プロセスがある。そして、それぞれの化学プロセスに対して、例えば反応速度を高めたり、反応系を安定化または活性化させたり、反応効率を上げたりするためには、温度を最適な状態にする必要がある。
【0007】
そのためにマイクロ化学チップ内の化学反応部に対して局所的に温度調節を行うことが可能な構成とする必要がある。従来より、局所的な温度調節を行う構成を有するマイクロ化学チップが提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0008】
図12の(a)、(b)は上記特許文献1に開示されたマイクロ化学チップの構成を模式的に示す平面図(a)およびF−F’断面図(b)である。図12に示すように、マイクロ化学チップ101の化学反応部105の下側に、順番に熱伝導体107、熱電素子108、熱交換部材1201が設けられ、それぞれ熱伝導可能に接続した構成をとっている。この構成によれば、熱電素子108によって、化学反応部105を加熱したり、冷却したり、あるいは温度調節を行うことによって、化学反応部105での反応速度を速めたり
、反応を停止したり、反応を最適に制御したりすることができる。
【0009】
【特許文献1】特開2003−43052号公報 (図11)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ここで、上記特許文献1に開示された従来技術では、マイクロ化学チップ101の形成する平面に対してほぼ垂直方向に熱伝導体107、熱電素子108、熱交換部材1201を配置して化学反応部105を温度調節する構造をとっている。
【0011】
一方、マイクロ化学チップ101では、例えば細胞を培養した化学反応部105を透過光で観察したり、各種化学プロセスを行う化学反応部105を透過光で分析したりすることは非常に一般的な方法である。
【0012】
したがって、マイクロ化学チップ101において、化学反応部105は様々な最適な温度に温度調節する必要があること、また一般的には透過光を用いて様々な観察や分析を行う必要があること、からマイクロ化学チップ101の化学反応部105を温度調節しながら、同時に化学反応部105を透過光を用いて観察や分析を行う必要性が生じる。
【0013】
しかしながら、上記従来技術では、化学反応部105をマイクロ化学チップの形成する平面に対してほぼ垂直な方向からは、熱伝導体107,熱電素子108、熱交換部材1201が透過光を遮断してしまうため、透過光で観察することはできない。つまり、化学反応部105を温度調節しながら、透過光により一般的に行う観察や分析の方法を行うことができないという問題点が生じる。
【0014】
〔発明の目的〕
この発明は、上述した従来技術による問題点を解消して、マイクロ化学チップの目的の化学反応部を温度調節しながら、透過光による観察や測定や分析を行うことができる温度調節機能付きマイクロ化学チップを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上述した課題を解決し目的を達成するためにマイクロ化学チップは、化学プロセスを行う化学反応部と、熱電素子を備え温度調節端と熱交換端とを両端に有する温度調節手段と、熱交換手段と、収納部とを備え、化学反応部と、収納部と、温度調節手段と、熱交換手段とが、上面または下面と平行な方向に配置されており、収納部は化学反応部と熱交換手段との間に隣接して配置され、温度調節手段の温度調節端と収納部の化学反応部近傍の一端とが熱伝導可能に接続して固定され、温度調節手段の熱交換端と収納部の熱交換手段近傍の他端とが熱伝導可能に接続して固定され、熱交換手段が熱交換専用流路であることを特徴とする。
【0016】
または、マイクロ化学チップは、化学プロセスを行う化学反応部と、熱電素子を備え温度調節端と熱交換端とを両端に有する温度調節手段と、熱交換手段と、収納部とを備え、化学反応部と、収納部と、温度調節手段と、熱交換手段とが、上面または下面とほぼ平行な方向に配置されており、収納部は化学反応部に隣接して配置され、温度調節手段の温度調節端と収納部の化学反応部近傍の一端とが熱伝導可能に接続して固定され、温度調節手段の熱交換端と熱交換手段とが熱伝導可能に接続して固定され、熱交換手段が周囲の空気と熱交換するヒートシンクであることを特徴とする。
【0017】
また、収納部と、温度調節手段と、熱交換手段と、がそれぞれ複数有り、化学反応部の両側を挟み込んで対向する位置に収納部と、温度調節手段と、熱交換手段とを配置しても
よい。
【0018】
また、マイクロ化学チップは、温度調節端が熱電素子の一端に設けた温度測定手段を内蔵する熱伝導体であることが好ましい。
【0019】
また、マイクロ化学チップは、温度測定手段により測定された温度に基づいて熱電素子に流す電流を制御する温度制御手段を有することが好ましい。
【0020】
また、熱電素子および温度測定手段から外部に接続する電気配線を内部または表面に設けることが好ましい
【0021】
また、熱電素子と、温度測定手段と、熱電素子の電極と、熱電素子および該温度測定手段と電気配線とをつなぐリード線と、を覆う密閉手段を有することが好ましい。
【発明の効果】
【0022】
本発明にかかるマイクロ化学チップによれば、化学反応部と、熱電素子を有する温度調節手段と、熱交換手段をマイクロ化学チップが形成する上面または下面と平行な方向に順番にマイクロ化学チップに内蔵するように配置し、温度調節手段の温度調節端と化学反応部とを熱伝導可能に接続し、温度調節手段の熱交換端と熱交換手段とを熱伝導可能に接続することによって、化学反応部はマイクロ化学チップが形成する平面(上面または下面)と平行な方向から温度調節を行うことができる。その結果、化学反応部を温度調節しながら、マイクロ化学チップが形成する平面に垂直な方向の透過光による観察や測定や分析を行うことができるという効果を持つ。
【0023】
さらに本発明にかかるマイクロ化学チップによれば、温度調節手段と、熱交換手段がマイクロ化学チップに内蔵されるので、マイクロ化学チップの外部に別の温度調節手段を設ける必要がないため、非常にコンパクトになる。
【0024】
また、熱電素子および温度測定手段からマイクロ化学チップの外側に接続する電気配線を内部または表面に設けることによって、マイクロ化学チップの中央付近からリード線を引き回す必要が無くなるので、マイクロ化学チップの取り扱いが非常に簡単になり、また化学反応部とリード線が干渉することも無くなる。
【0025】
また、熱電素子と、温度測定手段と、熱電素子の電極と、熱電素子および温度測定手段と電気配線までをつなぐリード線と、を覆う密閉手段を有することによって、熱電素子や温度測定手段の電気的な部分に実験で使用する溶液などがかかってしまうことを防ぐことができ、電気的ショートや、電極の腐食を防ぐことができる。そのため、安全性や耐久性が向上する。
【0026】
その結果として、マイクロ化学チップを観察したり測定したり分析する顕微鏡などの外部装置に容易に設置可能になり、任意に温度調節をしながら任意の外部装置でより安全に透過光により各種の観察、測定、分析などが簡単に可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下に添付図面を参照して、この発明にかかるマイクロ化学チップの好適な実施の形態を詳細に説明する。なお、以下の各実施の形態の説明において、他の実施の形態と同様の構成については同一の符号を付して説明を省略する。
【0028】
〔第1の実施の形態〕
図1の(a)、(b)は本発明の第1の実施の形態にかかるマイクロ化学チップの構成
を模式的に示す平面図(a)およびA−A’断面図(b)である。また、図2は本発明の第1の実施の形態にかかるマイクロ化学チップを用いた測定、分析などのシステム全体の構成を模式的に示すシステム図である。
【0029】
第1の実施の形態のマイクロ化学チップ101は、図1に示すように、化学プロセスを行うための薬液等を導入する導入口102、薬液を流す流路103、化学プロセスを行う化学反応部105、化学プロセスを行った薬液等を回収する回収口104、熱伝導体107、109、および熱電素子108から成る温度調節手段113、温度調節手段113を収納する収納部106、熱交換手段として熱交換専用流路110、熱交換専用流路110に熱交換用の液体等を導入する導入口111、熱交換用の液体等を回収する回収口112を備えている。
【0030】
そして、収納部106の一端114を化学反応部105近傍に配置し、収納部106の他端115を熱交換専用流路110近傍に配置し、熱電素子108の両端に熱伝導体107、109を設けて構成した温度調節手段113を収納部106に収納する。
【0031】
マイクロ化学チップ101は、例えばガラス、樹脂、シリコン、セラミックス、半導体または金属などの材料で構成されており、導入口102、流路103、化学反応部105、回収口104、収納部106、導入口111、熱交換専用流路110、回収口112などの構造は、例えば機械加工、化学的エッチング、リソグラフィなどの微細加工法によって、マイクロ化学チップ101の内部または上部に作り込まれている。
【0032】
まず、マイクロ化学チップの内部または上部に少なくとも1つ以上の化学反応部105が形成されている。化学反応部105は図1では流路103の一部分としたが、図示はしないが、化学反応を促進させるような構造を有した液漕形状や、複数の小さな凹部がアレイ状に集まった形状など、チップ内部で化学プロセスが行われる場所であればよい。
【0033】
マイクロ化学チップ101は化学反応部105において、貯蔵、搬送、混合、反応、抽出、分離、濃縮、回収などの各種化学プロセスが行われる。各種化学プロセスにおいては、例えば安定に貯蔵したり、迅速に混合したり、活性化したり、反応速度を高めたり、反応効率を高めたり、反応を止めて安定化させるための最適な温度条件がある。
【0034】
例えば、導入口102から導入された各薬液A、Bが流路103で運ばれて、化学反応部105で薬液AとBが混合され反応する。そして化学反応部105で反応した薬液が回収口104で回収される。このとき、例えば化学プロセスとして酵素反応を行う場合、最適な温度条件で反応させることが多い。そして酵素反応の様子を観察あるいは測定、分析する必要がある。
【0035】
また例えば、化学反応部105において細胞を培養して、試薬に対する細胞の応答などを観察する場合、細胞を培養しながら試薬の応答を観るために、細胞培養に最適な体温37℃に温度調節しながら、細胞の動きなどを観察する必要がある。
【0036】
このような場合に、化学反応部105を任意の温度に温度調節しながら化学反応部105を通過する透過光によって観察、測定、分析する必要がある。
【0037】
温度調節手段113は熱電素子108の両端に熱伝導体107、109を熱伝導可能に接続して固定して形成している。
【0038】
ここで、温度調節手段113の両端において、化学反応部105近傍側の熱伝導体107を温度調節端と定義する。また熱交換手段近傍側の熱伝導体109を熱交換端と定義す
る。
【0039】
収納部106はマイクロ化学チップに機械加工やリソグラフィなどで設けた長方形の穴形状を有するものである。収納部106の内側に温度調節手段113を収納する。ここで、収納部106の長方形の穴を構成する面のうち、化学反応部105近傍側の面を収納部106の一端114と定義し、熱交換専用流路110近傍側の面を収納部106の他端115と定義する。
【0040】
収納部106に温度調節手段113を固定する方法を説明する。まず収納部106の一端114と温度調節手段113の温度調節端である熱伝導体107を熱伝導可能に接続して固定する。また、熱交換専用流路110近傍の収納部106の他端115と温度調節手段113の熱交換端である熱伝導体109を熱伝導可能に接続して固定する。
【0041】
ここで、熱伝導可能とは、熱伝導性グリースや熱伝導性シートによる接続固定、またはハンダや熱伝導性接着剤による接合を意味し、接続固定または接合により固定される面と面との熱抵抗が極めて小さいことを意味する。具体的には、熱抵抗率が1×10-42℃/W以下であるのが望ましい。
【0042】
熱伝導性グリースは例えば、銅やアルミニウムなどの金属、あるいは窒化アルミニウムやアルミナやボロンナイトライドなどのセラミックスの微粒子(フィラー)などをシリコングリースなどに混ぜて熱伝導性を高めた熱伝導性グリースにより構成されている。また熱伝導性シートは例えば、上記微粒子(フィラー)を混ぜた厚さ方向に弾性を有するシリコン樹脂やシロキサン樹脂などの熱伝導性シートにより構成されている。また熱伝導性接着剤は例えば、エポキシ樹脂接着剤やシリコン樹脂接着剤に上記微粒子を混ぜたものを使用する。
【0043】
また、マイクロ化学チップの内部に熱交換専用流路110を設け、導入口111から液体等を導入し、温度調節手段113の熱交換端から流入または流出する熱を液体等に熱伝導させて回収口112から外部に運び出す。運び出した熱については図5で後述する。
【0044】
熱電素子108は一端において冷却、加熱、または温度調節するためには、他端に十分に熱交換が可能な構成が必要である。図1の構成では熱電素子108を有する温度調節手段113によって化学反応部105を温度調節(または加熱冷却)するために、熱交換手段として熱交換専用流路110を設けている。この構成によって化学反応部105を任意の温度に温度調節したり、加熱冷却したりすることが可能となる。熱電素子108については図3の説明で後述する。
【0045】
また、熱伝導体107は温度測定手段401を内蔵しており、化学反応部105近傍の温度を測定し、温度制御手段210によって測定した温度に基づいて熱電素子108に流す電流を制御する。温度測定手段401については図4で、温度制御手段210については図6で後述する。
【0046】
マイクロ化学チップ101による観察や測定や分析は、実際には図2に示すようなマイクロ化学チップにおける化学プロセスと温度調節とを併せたシステムによって行う。システム構成は、薬液等をマイクロ化学チップに供給する導入ポンプ201、203、および導入チューブ202、204と、薬液等を回収する回収液漕205および回収チューブ206と、温度調節手段113から配線のために出る熱電素子108と温度測定手段401のリード線211と、リード線211とつないで温度を制御する温度制御手段210と、熱交換専用流路110に熱交換用の液体を導入する熱交換用導入チューブ208と、熱交換用の液体を回収する熱交換用回収チューブ209と、熱交換用の液体を常に同じ温度に
保つ恒温装置207とから構成される。
【0047】
導入ポンプ201、203としては例えば注射器のようなシリンジをゆっくりと低速で押し出すようなタイプのものが市販されている。各チューブとしては樹脂製で様々な太さのチューブが市販されている。熱交換用導入チューブ208、熱交換用回収チューブ209は熱交換量を大きくするために太めのものを使用したほうがよい。恒温装置207としては、温度を一定に保つサーキュレーターが市販されている。温度制御手段210に関しては図6で後述するが、様々なコントローラーが市販されている。以上、このような周辺機器を使えばシステムを構築することができる。
【0048】
ここで、本発明の最も特徴的な構造は、図1の(b)に示すように、化学反応部105、温度調節手段113、熱交換専用流路110がマイクロ化学チップ101の構成する上面、または下面に平行な方向(以下チップ平面)に順番に並ぶ構成を取っていることである。
【0049】
上記の上面および下面とは、例えばマイクロ化学チップ101が直方体の場合では、直方体が有する6面のうちの任意の対向する2面を表す。すなわち直方体ではその2面の組合せは3通り存在し、どれでもよい。またマイクロ化学チップが薄い板状の場合では、板を構成する最も広い対向する2面を表す。それら2面のうち一方を上面、他方を下面と定義する。図面で簡潔に説明する都合上から紙面における上下の概念で単純に上面、下面ということばを用いた。
【0050】
この構造によって、化学反応部105は図1においてチップ平面と平行な方向から温度調節することが可能となる。そのため化学反応部105のチップ平面と垂直な方向には光をさえぎる部材が無くなり、透過光、つまり化学反応部105をチップ平面と垂直な方向に通過する光を通すことが可能となる。その結果、温度調節しながら同時に透過光によって観察、測定、分析をすることが可能となる。
【0051】
温度調節手段113は、図1の(b)に示すようにマイクロ化学チップの厚さ(上面と下面との距離)以下に構成し、なおかつマイクロ化学チップ内部に収めるようにすることが好ましい。このことによって、マイクロ化学チップの外部に突出する部材が無くなるため非常にコンパクトになる。そのためマイクロ化学チップを観察したり分析したりする顕微鏡などの外部装置に容易に設置可能になる。
【0052】
これらのことから、マイクロ化学チップ101において、化学反応部105を任意の温度に温度調節をしながら任意の外部装置で透過光により各種の観察、測定、分析することが可能となる。
【0053】
次に、熱電素子108の一例について説明する。図3は熱電素子108の一例を示す断面図である。図3に示す熱電素子108では、p型熱電半導体301とn型熱電半導体302が交互に規則的になるように配置されている。そして、各々の熱電半導体301、302の両端は、その隣の熱電半導体302、301に配線電極303を介して接続されている。つまり、複数のp型熱電半導体301とn型熱電半導体302が交互に電気的に直列に接続されている。
【0054】
そして、熱電半導体301、302の直列接続体の両端に位置する熱電半導体301、302は、それぞれ引き出し電極304に接続されている。各引き出し電極304には、リード線307が接続されている。このような構成の熱電半導体301、302の直列接続体は、一対の熱伝導板305、306に挟まれており、配線電極303および引き出し電極304は、熱伝導板305、306に接合されている。
【0055】
これら熱伝導板305、306のうち、一端は温接点となり、他端は冷接点となる。熱電半導体301、302の直列接続体に流す電流の向きを変えることによって、熱伝導板305、306のいずれも温接点または冷接点になり得る。
【0056】
一方の熱伝導板305側が冷接点となるように熱電素子108に電流を流して、この熱伝導板305が接触している物体を冷却する場合、冷接点で吸収された熱と熱電素子108を流れる電流によって生じたジュール熱は、温接点となるもう一方の熱伝導板306側に伝わる。そのため、温接点となる熱伝導板306側では、伝わってきた熱が放散され得る構造になっていないと、熱電素子108に熱が溜まり、熱電素子108の温度が上昇してしまう。その結果、冷接点側の温度が上昇してしまう。
【0057】
また、熱電素子108に逆向きの電流を流して、一方の熱伝導板305側を温接点とし、この熱伝導板305が接触している物体を加熱する場合、もう一方の熱伝導板306側は冷接点となる。そのため、冷接点となる熱伝導板306側で熱電素子108に必要な熱を与える構造にして温度を保つようにしないと、熱電素子108の温度が下がってしまう。その結果、加熱したい熱伝導板305側の温度が下がってしまう。
【0058】
つまり、熱電素子108の一方の端部を冷却したり加熱したりして温度調節を行うためには、熱電素子108の他方の端部で十分に熱交換することができる熱交換手段が必要不可欠である。そのため、本実施の形態では、熱交換手段である熱交換専用流路110によって熱電素子108に不可欠な熱交換を行っている(図1参照)。熱交換専用流路110については図5の説明で後述する。
【0059】
ここで、特に限定しないが、熱伝導板305、306の材料は、例えば窒化アルミニウムやアルミナなどの熱伝導の良いセラミックスである。また、p型熱電半導体301の材料は、例えばBiTeSbからなる合金であり、n型熱電半導体302の材料は、BiTeSeからなる合金である。ただし、熱電材料としては、これらに制限されるものではなく、例えば他のBiTe系など、用途に応じて様々な材料が用いられ得る。
【0060】
過不足する熱を熱交換専用流路110により適切に交換することができる条件下では、熱電素子108に流す電流を制御して逆転させたり、または調節することにより、熱電素子108は、その一方の面をマイナス数十℃からプラス百数十℃の範囲内で一定の温度に保つことができる。また、ある程度の速さで温度を変化させることも可能である。そして、熱電素子108の一方の面(各化学反応部に近い面)の温度を上述したようにして一定温度に保つ場合、プラスマイナス0.1℃程度の精度で調節することができるので、化学反応部105の温度を十分に高い精度で調節することができる。
【0061】
なお、熱電素子108は、図3に示す構成の他に、p型熱電半導体301とn型熱電半導体302の間を樹脂などで充填し、熱伝導板305、306の一方または両方を省いた構成としてもよい。熱伝導板305、306を省いた場合には、例えば、配線電極303と熱伝導体107、109との間に絶縁層を設ければよい。また、複数の熱電素子を上下に重ね、それらを合わせて一つの熱電素子108として用いることにより、より一層、調節可能な温度範囲が広がり、また温度調節の精度もより高くなる。
【0062】
本実施の形態で用いられる熱電素子108の大きさは、例えば1mm×数mm程度である。このような小さい熱電素子を製造するにあたっては、本出願人による特許第3225049号公報に記載の製造方法を適用することができる。すなわち、特許第3225049号公報に記載の製造方法を適用することによって、1mm×数mm程度の大きさの熱電素子が得られるので、例えば1mm厚以上のマイクロ化学チップ101であれば、マイク
ロ化学チップ101にはみ出すことなく内蔵することができ、微小な化学反応部105を温度調節することができる。
【0063】
次に、温度調節手段113について説明する。図4は本発明にかかる温度調節手段113の一例を示す断面図である。図4に示すように、本実施の形態では、温度測定手段401は熱伝導体107に一体化して設けられている。熱伝導体107と温度測定手段401を一体化させるため、熱伝導体107は穴部402を有しており、温度測定手段401は、穴部402内に挿入されている。また、熱伝導体107、109と熱電素子108は、熱伝導可能に熱伝導性接着剤で接着固定するかハンダなどで接合固定されている。
【0064】
熱伝導体107、109は、例えば銅やアルミニウム、窒化アルミニウムなどの材料、またはヒートパイプや熱伝導率に異方性がある材料などの熱伝導率が高く、熱が非常に伝わりやすい材料で構成されている。熱伝導率が高い材料とは例えば熱伝導率が100〜400W/mK程度の材料をさしている。
【0065】
温度測定手段401のリード線403は、穴部402から外部に引き出されている。そして、穴部402は熱伝導性接着剤などの充填により塞がれており、それによって温度測定手段401は熱伝導体107に固定されている。このように、温度測定手段401が熱伝導体107に内蔵されていることによって、温度測定手段401がマイクロ化学チップ101の化学反応部105の近傍に接続されるので、熱伝導体107、つまりは化学反応部105の温度を精度良く測定することができる。ここで、温度測定手段401としては、例えばサーミスター、白金測温抵抗体(Pt100Ω、Pt1000Ω)または熱電対などの温度センサーを用いる。
【0066】
また、熱伝導体107は熱電素子108と収納部106の一端114(図1参照)との間に設けられており、かつ熱伝導性に優れるので、熱伝導体107が接続されている部分、すなわち化学反応部105の温度分布のバラツキを少なくし、化学反応部105の温度を均一化する機能を有する。従って、温度測定手段401は化学反応部105の均一化した温度を測定することができる。
【0067】
なお、温度測定手段401を熱伝導体107と一体化させずに、温度測定手段401を熱伝導体107から独立させてもよい。この場合、温度測定手段401を、マイクロ化学チップ101の化学反応部105の近傍の面に設置してもよいし、化学反応部105に突出するようにしてもよいし、マイクロ化学チップ101に内蔵する構成としてもよい。
【0068】
つまり、温度測定手段401が化学反応部105の温度を測定することができれば、如何なる構成であってもよい。従って、温度測定手段401として、例えば非接触で温度を測定することができる放射温度計を設置してもよい。この場合、マイクロ化学チップ101から離れた位置で、化学反応部105の温度を測定することができる。
【0069】
また、熱伝導体109は熱電素子108と収納部106の他端115(図1参照)との間に設けられており、かつ熱伝導性に優れるので、熱伝導体107が接続されている部分、すなわち熱交換専用流路110との熱伝導がよくなるため、熱交換しやすくなる。
【0070】
温度測定手段401で測定された温度に基づく信号は、図4には表されていないが、温度制御手段210に送られる(図6参照)。温度制御手段210は、温度測定手段401から送られてきた信号に基づいて、温度測定手段401での測定温度が目標値となるように、PID制御などにより熱電素子108に流す電流の制御を行う。温度制御手段210の構成については図6の説明で後述する。
【0071】
また、熱伝導体107および熱伝導体109は化学反応部105および熱交換専用流路110の壁面の一部を成すように、つまり熱伝導体107、109が化学反応部105内部の液体、熱交換専用流路110内部の液体にそれぞれ直接接触するような構造をとってもよい。
【0072】
また、熱電素子108の熱伝導板305、306を熱伝導体107、109の代わりとして熱伝導体107、109を省略する構造としてもよい。さらにまた、化学反応部105を温度調節する必要が無く、単に加熱冷却するだけであれば、温度測定手段も省略することができる。
【0073】
次に、熱交換手段について説明する。図5は、本発明にかかる熱交換手段の一例を示す断面図である。図5に示すように、熱交換手段として熱交換専用流路110を備えている。恒温装置207から液体、例えば水や不凍液を熱交換用導入チューブ208を通して導入口111からマイクロ化学チップ101内の熱交換専用流路110に流し込み、回収口112から熱交換用回収チューブを通って恒温装置207に戻して循環させるしくみとなっている。液体で熱交換することによって温度調節範囲が広く、特に恒温装置207によってゼロ℃以下に液体の温度をコントロールすることによって、マイナス数十℃に冷やす必要がある場合に有効である。
【0074】
また、熱交換専用流路110はある程度太くして液体が流れる流量を大きくすることによって、さらに熱交換量が大きくなりさらに温度調節範囲が広くなる効果がある。
【0075】
恒温装置としては、コンプレッサーや熱電素子などによって空気と熱交換して液体の温度を一定にコントロールするサーキュレーターが市販されている。簡単には熱交換機器とポンプと水槽で市販品と同じ機能のものを作成することができる。
【0076】
次に、温度制御手段210について説明する。図6は、本発明にかかる温度制御手段210の制御システムの一例を説明するためのブロック図である。図6に示すように、温度制御手段210は、温度変換回路601、電流制御回路602、外部コンセント604を有する電源回路603、およびコンソール605を備えている。
【0077】
図6において温度測定手段401は、リード線403を介して温度変換回路601に接続されている。温度変換回路601は、温度測定手段401の測定温度に基づいて温度測定手段401から出力された電気的な信号を温度の情報に変換する。電流制御回路602は、温度変換回路601に接続されている。電流制御回路602は、温度測定手段401の測定温度が予め設定された温度になるように、温度測定手段401により測定された温度のフィードバック制御、例えば温度調節を行う際に一般的に用いられるPID制御などによって、熱電素子108に流す電流の向きや電流量の制御を行う。このような制御を行うことよって、温度測定手段401の測定温度が設定温度に対してプラスマイナス0.1℃程度の温度範囲におさまるようにすることができる。
【0078】
電源回路603は、外部コンセント604を介して外部より供給された商用電源電圧を所望の直流電圧などに変圧して、電流制御回路602に供給する。コンソール605は、電流制御回路602に接続されており、リアルタイムの温度、すなわち温度測定手段401の測定温度と設定温度とを表示する表示部や、設定を変更するスイッチ等を有し、使用者に測定温度や設定温度などを知らせる。
【0079】
第1の実施の形態においては、温度調節手段113によって化学反応部105を任意の温度に温度調節することを目的に説明したが、第1の実施の形態と同様の構造において、化学反応部105を備える流路103と、熱交換専用流路110とに異なる温度の液体を
流すことによって、温度調節手段113の内部の熱電素子108が電圧を発生する発電装置としても利用できる。例えば、化学反応部105には発熱する化学プロセス、熱交換専用流路には冷却水を流すか、または吸熱する化学プロセスを起こす薬液を流すことによって熱電素子108に温度差を与えて電気エネルギーを得ることができる。
【0080】
さらに、第1の実施の形態と同様の構造において、化学反応部105で熱変化を伴うような化学プロセスを行った場合、その化学反応の微小な発熱あるいは吸熱を熱電素子108によって感知して化学反応が起こったかどうか、あるいは化学反応がどの程度進んだかなどを検出する化学反応センサーとしても利用できる。
【0081】
上述したように、第1の実施の形態によれば、化学反応部105、温度調節手段113、熱交換専用流路110がマイクロ化学チップ101の構成するチップ平面に平行な方向に並ぶ構成を取るため、化学反応部105はチップ平面と平行な方向から温度調節することが可能となり、そのため化学反応部105のチップ平面と垂直な方向には光をさえぎる部材が無くなる。そのため、透過光、つまりは化学反応部105をチップ平面と垂直な方向に通過する光を通すことが可能となる。その結果、化学反応部105を任意の温度に温度調節をしながら任意の外部装置で透過光により各種の観察、測定、分析することが可能となる効果が得られる。
【0082】
実際に本発明者らは、1mm×2mmの大きさ、1mm厚さの熱電素子108に1mm×2mm×0.5mmの大きさの熱伝導体107、109とを接合して温度調節手段113を作成した。
【0083】
そして、数cm角、1.4mm厚のマイクロ化学チップ101に流路103、化学反応部105、収納部106、熱交換専用流路110を作り込み、作成した温度調節手段113を熱伝導可能に接続し、熱伝導体107の温度を37℃に設定したところ、設定温度に調節することができた。この実験結果より、マイクロ化学チップ101のうち、2mmの長さ部分の化学反応部105を温度調節することが可能なことを確認した。
【0084】
〔第2の実施の形態〕
図7の(a)、(b)は本発明の第2の実施の形態にかかるマイクロ化学チップの構成を模式的に示す平面図(a)およびB−B’断面図(b)である。
【0085】
第2の実施の形態のマイクロ化学チップ101は、図7に示すように、化学プロセスを行うための薬液等を導入する導入口102、薬液を流す流路103、化学プロセスを行う化学反応部105、化学プロセスを行った薬液等を回収する回収口104、熱伝導体107、109、および熱電素子108から成る温度調節手段113、温度調節手段113と熱交換手段としてフィンを有する銅やアルミニウムなどで構成されたヒートシンク702を収納する収納部701を備えている。
【0086】
つまり、熱交換手段としてヒートシンク702を用いて、温度調節手段113の熱交換端とヒートシンク702を熱伝導可能に接続して固定し、収納部701の一端114と温度調節手段113の温度調節端を熱伝導可能に接続して固定する。そしてヒートシンク702を介して周囲の空気と熱交換を行う。ヒートシンク702に小型の冷却ファンを取り付けるか、外部からファンで空冷してもよい。
【0087】
この構造により、熱交換専用流路などを作り込む必要が無いため、熱交換手段の構造が簡素であるため非常にコンパクトとなる効果を持つ。これは温度調節範囲がそれほど広くない場合に適している。
【0088】
〔第3の実施の形態〕
図8の(a)、(b)は本発明の第3の実施の形態にかかるマイクロ化学チップの構成を模式的に示す平面図(a)およびC−C’断面図(b)である。
【0089】
第3の実施の形態のマイクロ化学チップ101は、図8に示すように、化学反応部105の両側に熱伝導体107a、109a、熱電素子108aを備える温度調節手段113aと、収納部106aと、熱交換用専用流路110aと、導入口111aと、回収口112a、および熱伝導体107b、109b、熱電素子108bを備える温度調節手段113bと、収納部106bと、熱交換用専用流路110bと、導入口111bと、回収口112bと、を備えている。つまり、化学反応部105の両側に温度調節手段を備える構造である。
【0090】
この構造により、両側から温度調節を行うことができるため、熱が熱伝導によってマイクロ化学チップ内に拡散して逃げることを極力抑えることができるため、化学反応部105をより精密に温度調節することが可能となる効果を持つ。
【0091】
〔第4の実施の形態〕
図9は本発明の第4の実施の形態にかかるマイクロ化学チップの構成を模式的に示す平面図である。
【0092】
第4の実施の形態のマイクロ化学チップ101は、図9に示すように、2つの化学反応部105a、105bに対応して、化学反応部105aを温度調節する熱伝導体107c、109c、熱電素子108cを備える温度調節手段113cと、収納部106cと、化学反応部105bを温度調節する熱伝導体107d、109d、熱電素子108dを備える温度調節手段113dと、収納部106dと、温度調節手段113c、113dの熱交換を行う熱交換専用流路110cと、導入口111cと、回収口112cと、を備えている。
【0093】
この構造により、2つの化学反応部をそれぞれ任意の温度に温度調節することができる。図9では2つの化学反応部を温度調節する例で示したが、同じように任意の数の温度調節手段を設ければ任意の数の化学反応部をそれぞれ任意の温度に温度調節することができる。そのため、1つのマイクロ化学チップに複数の化学プロセスを集積し、その化学反応部を温度調節しながら透過光で観察、測定、分析することが可能となる効果を持つ。
【0094】
〔第5の実施の形態〕
図10の(a)、(b)、(c)は本発明の第5の実施の形態にかかるマイクロ化学チップの構成を模式的に示す平面図(a)、D−D’断面図(b)および収納部106の拡大図(c)である。
【0095】
第5の実施の形態のマイクロ化学チップ101は、図10の(a)に示すように、電気配線1001が収納部106からマイクロ化学チップ101の外周部までマイクロ化学チップ101の内部または表面に設けられている。
【0096】
また、図示はしないがこの電気配線1001はマイクロ化学チップ101の外周部の側面または外周部近傍の表面に設けた接続電極に電気的に接続されている。
【0097】
また、マイクロ化学チップ101はホルダー1003によって顕微鏡など観察装置の所定の場所に保持される。このホルダー1003にも図示はしないが接続電極が設けられており、マイクロ化学チップ101をホルダー1003で保持すると、マイクロ化学チップ側の接続電極とホルダー側の接続電極が電気的に接続するようになっている。またホルダ
ー1003側の接続電極と電気的に接続されている電気配線1004は外部の温度制御手段210に温度制御可能なように接続されている。
【0098】
また、図10の(c)に示すように収納部106の内側の側面には、電気配線1001の端と電気的に接続されている側面電極1005が設けられており、電気配線1001とリード線307、403とは側面電極1005を介して、ハンダや導電性接着剤などで電気的に接続されている。したがって熱電素子108および温度測定手段は、収納部106の内側で電気配線1001に電気的に接続している。
【0099】
マイクロ化学チップ101に設ける電気配線1001、側面電極1005、接続電極はマイクロ化学チップ101の作成工程でメッキや蒸着、スパッタなどの手法でニッケル、クロム、金、アルミ、銅など金属膜をマイクロ化学チップ内部、側面、表面に作成している。
【0100】
そして、熱電素子108と、温度測定手段と、熱電素子108の配線電極や引き出し電極と、リード線307、403とを覆って密閉するようにガラスや樹脂などの材質でできた密閉蓋1002をマイクロ化学チップ101に接着剤などで接続してシーリングしている。
【0101】
上記以外の構造は第1の実施の形態と同様である。
【0102】
この構造により、第1の実施の形態のようにマイクロ化学チップの化学反応部105付近(マイクロ化学チップの中央付近)から図2に示すようなリード線211を引き出す必要が無くなり、マイクロ化学チップ101における電気的な配線の引き回しが非常に簡単になり、また化学反応部105と電気的配線が干渉しないので、透過光を遮ることがなくなるため観察しやすくなる。
【0103】
また、マイクロ化学チップ101をホルダー1003で保持することによって、マイクロ化学チップ101を観察装置の所定の場所に保持すると同時に温度調節手段と温度制御手段210とを電気的に接続することができるので、マイクロ化学チップ101の着脱や電気的配線の取り回しがシンプルになり、取り扱いが非常に簡単になる。
【0104】
また、電気配線1001をマイクロ化学チップ内部に設けた場合は、マイクロ化学チップ101の大部分において、熱電素子や温度測定手段の電気的な配線部分を覆って密閉することにより、マイクロ化学チップを使って実験をする場合、使用する溶液などが電気的配線部分にかかってしまうことを防ぐことができ、電気的ショートや、熱電素子の電極の腐食を防ぐことができる。そのため、安全性や耐久性が向上し、使い勝手も向上する。
【0105】
〔第6の実施の形態〕
図11の(a)、(b)、(c)は本発明の第6の実施の形態にかかるマイクロ化学チップの構成を模式的に示す平面図(a)、E−E’断面図(b)および収納部701の拡大図(c)である。
【0106】
第6の実施の形態のマイクロ化学チップ101は、第5の実施の形態における熱交換手段として熱交換専用流路110の代わりにヒートシンク702を用いた例である。
【0107】
ヒートシンク702を用いる場合は、熱電素子108と、温度測定手段と、熱電素子108の配線電極や引き出し電極と、リード線307、403とを覆って密閉する構造として、ガラスや樹脂などの材質でできた密閉蓋1002および密閉部材1101をマイクロ化学チップ101とヒートシンク702に接着剤などで接続してシーリングしている。
【0108】
密閉部材1101はヒートシンク702の一部分と収納部701の間の隙間を密閉するように位置し、密閉蓋1002はヒートシンク702の一部分と密閉部材1101に密着するように位置して収納部701の熱電素子108の部分を密閉している。
【0109】
上記以外の構造は第5の実施の形態と同様である。
【0110】
第6の実施の形態から熱交換手段がヒートシンク702の場合でも同様に第5の実施の形態と同様の効果を得ることができる。
【0111】
上記第5の実施の形態、第6の実施の形態では密閉する方法として密閉蓋1002と密閉部材1101を設けたが、樹脂などで埋め込んで固めてシーリングしてもよい。
【0112】
以上、本発明の実施の形態の説明で明らかなように、本発明のマイクロ化学チップは、化学反応部と、熱電素子を有する温度調節手段と、熱交換手段をマイクロ化学チップが形成する上面または下面とほぼ平行な方向にマイクロ化学チップに内蔵するように配置し、温度調節手段の温度調節端と化学反応部とを熱伝導可能に接続し、温度調節手段の熱交換端と熱交換手段とを熱伝導可能に接続することによって、化学反応部はマイクロ化学チップが形成する平面方向に平行な方向から温度調節を行うことができる。そのため、化学反応部を温度調節しながら、マイクロ化学チップが形成する平面に垂直な方向の透過光による観察や測定や分析を行うことができるマイクロ化学チップを実現することができる。
【産業上の利用可能性】
【0113】
以上のように、本発明にかかるマイクロ化学チップは、DNAチップ、たんぱく質解析用チップ、マイクロTAS、ラボオンチップまたはマイクロリアクターなどに有効であり、特にそれらのマクロ化学チップの目的の化学反応部を温度調節しながら、透過光によって観察や測定や分析に用いられるマイクロ化学チップに適している。
【図面の簡単な説明】
【0114】
【図1】本発明の第1の実施の形態にかかるマイクロ化学チップの構成を模式的に示す平面図および断面図である。
【図2】本発明の第1の実施の形態にかかるマイクロ化学チップを用いた測定、分析などのシステム全体の構成を模式的に示すシステム図である。
【図3】本発明にかかる熱電素子の一例を示す断面図である。
【図4】本発明にかかる温度調節手段の一例を示す断面図である。
【図5】本発明にかかる熱交換手段の一例を示す断面図である。
【図6】本発明にかかる温度制御手段の制御システムの一例を説明するためのブロック図である。
【図7】本発明の第2の実施の形態にかかるマイクロ化学チップの構成を模式的に示す平面図および断面図である。
【図8】本発明の第3の実施の形態にかかるマイクロ化学チップの構成を模式的に示す平面図および断面図である。
【図9】本発明の第4の実施の形態にかかるマイクロ化学チップの構成を模式的に示す平面図である。
【図10】本発明の第5の実施の形態にかかるマイクロ化学チップの構成を模式的に示す平面図、断面図および拡大図である。
【図11】本発明の第6の実施の形態にかかるマイクロ化学チップの構成を模式的に示す平面図、断面図および拡大図である。
【図12】従来のマイクロ化学チップの外部に温度調節装置を備えた平面図および断面図である。
【符号の説明】
【0115】
101 マイクロ化学チップ
102 導入口
103 流路
104 回収口
105 化学反応部
106 収納部
107、107a、107b、107c、107d 熱伝導体
108、108a、108b、108c、108d 熱電素子
109、109a、109b、109c、109d 熱伝導体
110、110a、110b、110c 熱交換専用流路
111、111a、111b、111c 導入口
112、112a、112b、112c 回収口
113、113a、113b、113c、113d 温度調節手段
114 一端
115 他端
201、203 導入ポンプ
202、204 導入チューブ
205 回収液漕
206 回収チューブ
207 恒温装置
208 熱交換用導入チューブ
209 熱交換用回収チューブ
210 温度制御手段
211 リード線
301 p型熱電半導体
302 n型熱電半導体
303 配線電極
304 引き出し電極
305、306 熱伝導板
307 リード線
401 温度測定手段
402 穴部
403 リード線
601 温度変換回路
602 電流制御回路
603 電源回路
604 外部コンセント
605 コンソール
701 収納部
702 ヒートシンク
1001 電気配線
1002 密閉蓋
1003 ホルダー
1004 電気配線
1005 側面電極
1101 密閉部材
1201 熱交換部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学プロセスを行う化学反応部と、
熱電素子を備え、温度調節端と、熱交換端とを両端に有する温度調節手段と、
熱交換手段と、
収納部と、
を備えるマイクロ化学チップであって、
前記化学反応部と、前記収納部と、前記温度調節手段と、前記熱交換手段とが、上面または下面と平行な方向に配置されており、
前記収納部が前記化学反応部と前記熱交換手段との間に隣接して配置され、
前記温度調節端と、前記収納部の前記化学反応部側近傍の一端とが熱伝導可能に接続して固定され、
前記熱交換端と、前記収納部の前記熱交換手段側近傍の他端とが熱伝導可能に接続して固定され、
前記熱交換手段が熱交換専用流路であるマイクロ化学チップ。
【請求項2】
化学プロセスを行う化学反応部と、
熱電素子を備え、温度調節端と、熱交換端とを両端に有する温度調節手段と、
熱交換手段と、
収納部と、
を備えるマイクロ化学チップであって、
前記化学反応部と、前記収納部と、前記温度調節手段と、前記熱交換手段とが、上面または下面と平行な方向に配置されており、
前記収納部が前記化学反応部に隣接して配置され、
前記温度調節端と、前記収納部の前記化学反応部側近傍の一端とが熱伝導可能に接続して固定され、
前記熱交換端と、前記熱交換手段とが熱伝導可能に接続して固定され、
前記熱交換手段が周囲の空気と熱交換するヒートシンクであるマイクロ化学チップ。
【請求項3】
前記収納部と、前記温度調節手段と、前記熱交換手段とがそれぞれ複数有り、前記化学反応部の両側を挟み込んで対向する位置に前記収納部と、前記温度調節手段と、前記熱交換手段とが配置されることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のマイクロ化学チップ。
【請求項4】
前記温度調節端が前記熱電素子の一端に設けた温度測定手段を内蔵する熱伝導体であることを特徴とする請求項1、請求項2または請求項3に記載のマイクロ化学チップ。
【請求項5】
前記温度測定手段により測定された温度に基づいて前記熱電素子に流す電流を制御する温度制御手段を有することを特徴とする請求項4に記載のマイクロ化学チップ。
【請求項6】
前記熱電素子および前記温度測定手段から外部に接続する電気配線を内部または表面に有することを特徴とする請求項4または請求項5に記載のマイクロ化学チップ。
【請求項7】
前記熱電素子と、前記温度測定手段と、該熱電素子の電極と、該熱電素子および該温度測定手段と前記電気配線とをつなぐリード線とを覆う密閉手段を有することを特徴とする請求項6に記載のマイクロ化学チップ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2006−305557(P2006−305557A)
【公開日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−78910(P2006−78910)
【出願日】平成18年3月22日(2006.3.22)
【出願人】(000001960)シチズン時計株式会社 (1,939)
【Fターム(参考)】