説明

マイクロ放電検出器方法及び装置

差動マイクロ放電検出器システム。当該システムは2つのマイクロ放電検出器(MDD)を含む。MDDのうちの一方は、測定されるサンプル分析物を受け入れるように接続され、他方のMDDは、干渉するガスを含むと共に、測定されるサンプル分析物を全く含まないか、又ははるかに低い濃度で含む基準サンプルを取り込むように接続される。2つのMDDの出力は、2つのMDDの測定値間の差又は比のいずれかを生成する回路に供給される。さらに、2つのMDDの電極間の電流、インピーダンス又は電圧を測定及び処理して、差又は比のいずれかの信号を生成し、それにより、サンプルガス分析物についての付加情報を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、たとえば、独立型のセンサとして、又はガスクロマトグラフ内の検出器として用いることができるマイクロ放電検出器に関する。
【背景技術】
【0002】
マイクロ放電検出器(MDD)又はセンサは、その放電によって励起及び放射される光放射スペクトルに基づいて、気体サンプル内の分子の存在を検出するために用いることができる。
【0003】
マイクロ放電検出器はチャンバを備えており、サンプル(たとえば、気体流体又は蒸気流体)が、近接して配置される2つの電極間に流れるようにチャンバ内に導入される。電極は典型的には、概ね20〜200μだけ離して配置され得る。電極間に電圧が生成されると、それらの電極間に放電が引き起こされる。マイクロ放電検出器の電圧は、典型的には、約200〜600ボルトであり得る。この電圧及び関連する電流は、直流(すなわち、DC)又は交流ACであり得る。サンプル流体が、電極の間を通過し、放電に当たるとき、流体の元素成分が電磁波を放射するであろう。すべての元素が特徴的な放射スペクトル又は特性スペクトルを有する。1つ又は複数の光検出器がその放射スペクトルを検出する。典型的には、マイクロ放電検出器は、それぞれの光検出器が異なる狭帯域幅の放射を受け取るようにフィルタリングされる複数のフォトダイオードからなるアレイを有する。その放射スペクトルを分析して、サンプルを構成する1つ又は複数の成分を決定することができる。
【0004】
マイクロ放電検出器が用いられる、1つの特定の科学的な測定機器がガスクロマトグラフ(GC)である。ガスクロマトグラフでは、サンプルガスのパルスが、別のガスからなるキャリア流の中に導入される。キャリア流は典型的には、ヘリウム、水素又は窒素を含む。しかしながら、特にPHASED(たとえば、米国特許第6,393,894号を参照)のようなマイクロガスクロマトグラフでは、空気(環境内、又は患者の呼吸内)のような他のキャリアガスもキャリアガスとしての役割を果たすことができる。
【0005】
気体の分子を吸着及び脱着するポリマーを含む蛇行した毛管経路を通して、ポンプによってキャリアガスが出し入れされる。そのポリマーは、たとえば、毛管経路の内壁上のコーティングとすることができる。その組成を決定すべきサンプルガスは、毛管経路の注入口において、キャリアガスの中にパルスとして導入される。ポリマーコーティングがガス混合物(キャリアガスの分子及びサンプルパルスガスの分子を含む)内の分子を吸着及び脱着する。混合物内の分子が重いほど、吸着及び脱着が遅くなる。したがって、重い分子ほど、注入口から排出口まで毛管内を通過するのに長い時間がかかる。毛管の排出口はマイクロ放電検出器に接続される。それゆえ、マイクロ放電検出器は、ピークが電極間を通過するときの電磁放射スペクトルだけでなく、ピークが電極間を通過する時刻も検出する。したがって、マイクロ放電検出器からの出力情報は、サンプルガス内に存在する原子及び/又は分子を求めるために用いることができる2次元のデータ、すなわち1)ピーク毎の毛管を通過する時間遅延、及び2)各ピークの放射スペクトルを提供する。
【0006】
ポリマーはキャリアガスも吸着及び脱着するので、マイクロ放電検出器によって、キャリアの特性放射スペクトルも検出される。この背景信号、すなわちキャリアガスの電磁放射線/帯域及び/又は電気プラズマ特性は、サンプルガスによって検出及び搬送される分析物の測定を妨害する性質がある。これは特に、キャリアガス又はサンプルガスが空気である場合に問題になる。なぜなら、空気は、N、O、HO、Ar、CO、NO及びさらなる微量のガスを含む混合物であり、その全てが放射スペクトルを有するためである。これらの全ての分子の放射帯域が、対象となる分析物のサンプルガスマイクロ放電放射特性及び「識別特性(signatures)」を隠すおそれがある。また、それらの分子は、圧力、時間及び温度に応じて変化することがあり、正確な測定値を得る能力をさらに低下させる。
【0007】
従来、活性放射帯域間のスペクトル放射がない部分が、分光器の参照基線(reference baseline)として用いられる。その1つの改善として、Ocen Opticsによって市販されるような市販の分光器は、サンプルガス又はピークガスの放射スペクトルから、キャリアガススペクトルを減算して、対象となる帯域をさらに良好に視覚化及び測定するための手段を提供する。しかしながら、そのような分光器は、2つのスペクトルを時間的に順次に記録してから、一方から他方を減算する。
【特許文献1】米国特許第6,393,894号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって、本発明の目的は、改善されたマイクロ放電検出器システムを提供することである。
本発明の別の目的は、改善されたガスクロマトグラフを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は差動マイクロ放電検出器システムである。当該システムは、2つのマイクロ放電検出器(MDD)を備えており、その出力の測定値信号が合成されて、雑音成分が低減又は除去された差動測定値信号が生成される。たとえば、ガスクロマトグラフとの関連で用いられる場合には、MDDの一方は、ガスクロマトグラフの中を通過して、個々の成分に分離された後に測定されるガスサンプル(キャリアガスを含む)を受け入れるように接続される。測定されるサンプルは、分離された分析物を表す一連のピークであり、それらの分析物は、ポリマーコーティングされた毛管の排出口から溶離される。溶離しているピークはそれぞれ、放電空間に入るときに、その分子成分の特性を示す光スペクトル放射を放射し、キャリアガスもスペクトルを放射する。他方のMDDは、基準ガスサンプルを取り込むように接続される。基準サンプルは、サンプルパルスを含まないキャリアガスとすることができる。しかしながら、予め濃縮も分離もされていない状態で、分析されるサンプルガスを含むキャリアガスとすることもできる。基準サンプルは、測定されるスペクトル放射と干渉することがあるか、又はそのスペクトル放射を隠すことがある放射スペクトルを有する。
【0010】
2つのMDDの出力は、差動回路に供給され、その差動回路は、2つのMDDからの信号間の差又は比を出力し、それにより、サンプルガスパルスの測定値からキャリアガスの干渉信号を抑圧するか、又は概ね除去する。
【0011】
さらに、本発明の好ましい実施の形態では、2つのMDDの電極間の電流、インピーダンス又は電圧が、別の差動回路に入力され、そこから得られる差動信号が、サンプルガスに関するさらに多くの情報を提供する第3の次元の測定値として取り込まれる。
【0012】
ガスの温度、時間と共に変化する組成及び圧力、並びに電極間の速度が全て、そのガスの放射スペクトルに関係する。したがって、本発明の好ましい実施の形態では、MDDチャンバは互いに、そのチャンバ内のガスの圧力、時間、温度及び速度が互いに等しいことを保証するように設計される。
【0013】
本発明の好ましい実施の形態では、時間の問題は、基準MDDへのガスの経路内の遅延がガスクロマトグラフの毛管内の遅延と等しくなるように、その経路を選択することによって解決される。これは、キャリアガスの組成が時間にわたって均一でないことがあるので望ましく、それゆえ、可能な限り正確な結果を保証するために、2つのMDDの電極間を通過するキャリアガスの部分が、元のキャリアガス源から時間的に可能な限り近いことを保証することが好都合である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
図1は、本発明の特定の一実施形態による、マイクロ放電検出システムを利用するガスクロマトグラフシステム100の概略図である。キャリアガス供給源112が、入力導管113を通して、空気、水素又はヘリウムのようなキャリアガスをシステムに供給する。ポンプ114が、システムを通じてキャリアガスを汲み出す。そのポンプはシステムの出口に示されており、システムを通じてガスを吸い込む。一方で、システムの入口にあり、キャリアガスをシステムを通じて押し出すことも同じように容易に実現することができる。116において、ガスクロマトグラフのポリマーコーティングされた毛管が示される。サンプルガス供給源117が、導管118を介して接続されており、開口弁115を用いて、毛管116への注入口又はその近くにおいて、入力導管113内のキャリア流の中に、数ミリ秒間、サンプルガスのミリ秒幅のパルスが導入される。そのようなサンプルガスパルスを与えるために、たとえば、米国特許第6,393,894号に記載されるような予備濃縮器注入パルスを用いること等の、他の手段を用いることもできる。毛管116の排出口は、別の導管124を介して、第1のマイクロ放電検出器128の注入口に接続される。マイクロ放電検出器の排出口は、別の導管132によって、ポンプ114に接続される。
【0015】
サンプルガス入力導管118の直前に、入力導管113にバイパス導管134が接続される。バイパス導管は、毛管内のポリマーでコーティングされない。バイパス導管134は、第2のマイクロ放電検出器130の注入口に接続される排出口を有する。第2のマイクロ放電検出器130の排出口は、出力導管132に接続される。
【0016】
各MDD128、130は、対象となる2つの測定値信号を提供する。第1の信号は、電極の中を通過するガスの放射スペクトルを求めることができる光検出器の出力である。第2の信号は、電極の中の電流である。既に言及されたように、第1の測定値信号は、2つの異なる形の情報、すなわち、1)スペクトル情報自体と、2)スペクトルピークのタイミングとを含む。
【0017】
キャリアガスが第1のMDD128によって出力される測定値信号に及ぼす影響は、サンプルガスの分析物の所望の測定値と干渉する性質があるため、キャリアガスによって引き起こされる測定データを第1のMDD128の出力信号から減算するか、又は、そのような基準ガス識別特性の比率を下げる(ratio out)ことが望ましいであろう。第1のMDD128の中を流れるガスは、サンプルパルス及びキャリアガスを含むのに対して、第2のMDD130の中を流れるガスは、分析物ガスを含まないか、又は分離されないまま濃縮された分析物ガスを希釈したものだけを含むキャリアガスを含むことが明確であるべきである。
【0018】
こうして、第1のMDD128の光検出器の出力信号及び第2のMDD130の光検出器の出力信号が差動回路142に入力され、差動回路は、その出力において、第1のMDD128の出力信号と第2のMDD130の出力信号との間の差又は比を生成する。各MDDの光検出器の出力は、各MDDの図において1本の線として示されるが、実際には、数百(すなわち異なる狭帯域幅を検出する各光検出器から1つずつ)の別個の出力を含むことがあることは当業者には理解されよう。差動回路の出力信号は基本的には、サンプルガスの放射スペクトルを含んでおり、差動回路がキャリアガスの放射スペクトルを概ね相殺するので、キャリアガスのスペクトルは除去又は抑圧されている。
【0019】
図中の差動回路142及び144は、本発明の原理に従って実行される機能を例示することを目的としており、限定するものではない。本明細書及び特許請求の範囲において、用語「差動回路」は、2つの入力信号間の差又は比を生成することができる任意の回路を指している。2つの測定値信号の差又は比を生成する機能は、差動演算増幅器、デジタルプロセッサ、適切にプログラムされた汎用コンピュータ、状態機械、適切なアナログ回路、ASIC等を含む、任意の適切なアナログ回路又はデジタル回路によって実行することができることは理解されたい。また、本明細書において、用語「差動化する」、「差動の」、及び他の全ての変化形は、2つの信号間の差又は2つの信号の比を広く意味するように用いられる。これは、キャリアガスから雑音を取り除き、2つのガスの環境条件(たとえば、圧力、温度、速度)の差に起因する雑音を取り除き、2つのMDDの回路内の差を取り除き、且つ/又は測定値信号内の他の誤差発生源を取り除く、2つの信号のさらに複雑な多項式関数又は数学関数を開発することができる可能性を除外するものではない。
【0020】
差動回路142からの出力信号は、サンプルガスパルスの組成を分析するために、測定システム150に与えられる。その測定システムは、スペクトルを分析してガスの組成を求めるように適切にプログラムされるコンピュータ又はマイクロプロセッサとすることができる。
【0021】
各MDDの電極間の間隙のインピーダンスは、2つの電極間のガスの組成によって影響を及ぼされる。したがって、電極間の電流及び電圧は、MDDの電極間を通過するガスの組成によって影響を及ぼされることになる。それゆえ、本発明の好ましい実施形態では、第1のMDD及び第2のMDDの電極間の電流、電圧及び/又はインピーダンスも第2の差動回路230に入力され、第2の差動回路230は、2つの差又は比である出力信号を生成する。2つのMDD間の差動信号は、測定システム150によって取り込まれ、分析されて、サンプルガスに関するさらなる有用な情報が与えられる。サンプルが電極間を通過するときに電極間を通過する電流を測定することによって、サンプルガスの識別情報(溶離時間による)及び組成(光出力に関連する電流振幅による)についての付加情報を与えることができる。
【0022】
たとえば、図2は、従来の火炎イオン化検出器(Flame Ionization Detector、FID)において検出されるインピーダンスの変化に対する、従来の非差動MDDの場合の、ヘリウムキャリアガスに含まれる空気、プロパン及びブタンのピークが溶離するときのインピーダンス変化の比較を示す。MDDの電極間の電圧又は電流のいずれかをプロットすることによって、インピーダンスをプロットするのと概ね同じ情報が与えられるであろう。MDDからの電流、電圧又はインピーダンスの測定値は、FID機器と概ね同じ情報を与える。MDD電流/電圧/インピーダンスは空気に反応するのに対して、FID機器によって空気は検出することはできないので、実際には、それははるかに有用な情報を与える。この情報は、スペクトル放射データに加えて、光検出システムから得られる。空気、プロパン及びブタン溶離時間におけるスペクトル放射データは、注入されるガス混合物パルス内のN、O、CH及びC分子によって引き起こされるスペクトル放射を同時に含むことに留意されたい。
【0023】
図3は、図1のMDD128、130及び後続の回路の構造をさらに詳細に示す概略図である。図3に示されるように、高電圧源212が、第1のマイクロ放電検出器128及び第2のマイクロ放電検出器130のそれぞれの電極214a、214b及び216a、216bの間に電圧を供給する。電極中の電流は、可変抵抗器244及び246によってタッピングされ、差動回路144の入力端子に入力される。差動回路144の出力信号は、測定システム150に入力される。同様に、マイクロ放電検出器128、130のそれぞれの光検出器アレイ252及び254の出力は、たとえば、光ファイバを介して、他方の差動回路142の入力端子に入力される。この差動出力は、測定システム150に供給される。
【0024】
ガスクロマトグラフの出力とバイパス経路の出力(電流及び/又は光)との間の差動信号を用いて、キャリアガスによって引き起こされる雑音/干渉信号が除去されるか、又は最小限に抑えられる。
【0025】
ガスの温度及び圧力、並びにMDDの電極を通過する速度は全て、ガスの放射スペクトルに影響を及ぼすので、2つのMDDのチャンバ内の圧力、温度及び速度が同じであることを保証することが望ましい。また、キャリアガス流の異なる点におけるキャリアガスの組成の任意の変動によって引き起こされる任意の誤差を最小限に抑えるか、又は除去するために、それぞれ第1のMDD及び第2のMDDまでの2つの代替経路の中のガスの時間遅延が同じであることを保証することが望ましい。
【0026】
したがって、バイパス導管の直径及び長さは、バイパス導管134の中の遅延がガスクロマトグラフ116の中の遅延に等しいことを保証するように選択されるべきである。適切な長さ及び直径は、以下に示されるように計算することができる。
【0027】
=ガスクロマトグラフ毛管を通じてMDD128に至る経路の長さ
=バイパス導管を通じてMDD130に至る代替経路の長さ
=ガスクロマトグラフ毛管の半径
=バイパス導管の半径
=ガスクロマトグラフ経路の中のガスの時間遅延
=バイパス経路の中のガスの時間遅延
=第1のMDD128のチャンバの容積
=第2のMDD130のチャンバの容積
=第1のMDD128の中のガスの流量
=第2のMDD130の中のガスの流量
=第1のMDD128の中のガスの速度
=第2のMDD130の中のガスの速度
=第1のMDD128のチャンバの断面積
=第2のMDD130のチャンバの断面積
以上のことを仮定すると、
【0028】
【数1】

【0029】
且つ
【0030】
【数2】

【0031】
である。
=tすなわちt/t=1にしたいので、
【0032】
【数3】

【0033】
又は
【0034】
【数4】

【0035】
である。
それに応じて、毛管の長さL及び半径rに対して、バイパス導管の長さL及び半径rを選択することは簡単なことである。
【0036】
また、各MDDチャンバの中のガス流速を等しく設定したい。それゆえ、以下の比を設定する。
【0037】
【数5】

【0038】
この条件は以下の式が成り立つ場合に満たされる。
【0039】
【数6】

【0040】
したがって、一例にすぎないが、L/L=5且つr/r=5(t=tに設定するため)であるようにバイパス導管寸法を選択した場合には、2つのMDDのチャンバの断面積は、同じ比に、すなわちs/s=5に設定されなければならない。
【0041】
さらに、図1に示されるように、142において2つの導管を接続することによって、2つの経路の入力と出力との間の圧力差を概ね等しく設定することができる。
MDD内のセンサのようなスペクトル放射センサは一般的に、放射のない状態を基準にするものと仮定されるので、本発明は直観に反している。
【0042】
図4A及び図4Bは本発明の利点のいくつかを示す。図4Aは、2つの重ね合わせられたMDDスペクトルの一例を示し(Caviton社による)、一方は空気のスペクトル識別特性(破線301)であり、他方は空気中のトリクロロエタン分析物のスペクトル特性(実線302)である。図示されるように、対象となる(トリクロロエタンの)正味の識別特性は、空気MDD放射スペクトルによって不明瞭にされる。しかしながら、図4Bでは、2つの識別特性間の差(線304)又は比(線306)のいずれかを形成することによって、両方に共通である基準信号が大きく抑圧されるか、又は除去されることが見て取れる。2つの手法のうち、実際には、比信号306の方が鮮明であることが図4A及び図4Bから見て取れる。詳細には、比プロット306内のN帯(基準空気による)が、差プロット304内のN帯よりも、O及びClのような特定の分析物の影響によって、影響を受けにくいように見える。
【0043】
比信号の基線は、「0」ではなく、「1」にある(差信号の場合には、0である)。用途によっては、直線的な比の代わりに、対数の比が、さらに役に立つことがある。
正確な測定をさらに確実にするために、2つのMDDの温度は、可能な限り等しくすべきである。これは、適切に大きな熱伝導係数のMDD支持基板を設けることによって果たすことができる。MDD内の任意の浮遊容量を等しくするためのステップも行われるべきである。これは、2つのMDD内の浮遊容量が概ね等しくなるのを保証するために、MDDの回路レイアウト(図示せず)を注意深く観察し、そのレイアウトを対称にすることによって果たすことができる。
【0044】
回路が対称である場合であっても、2つのMDDが非対称な出力を有することがある。一例にすぎないが、2つのMDDは異なるガスに曝露されるので、それらのMDDは時間と共に異なる経時変化を生じることがあり、結果として、差動信号に雑音が生じる(すなわち、同じガスに曝露される場合であっても、2つのMDDのスペクトル出力が同じでなくなる)ことがある。2つの信号の比を用いることは、差を用いる場合よりも、このタイプの雑音へのより良好な耐性を与えるように思われる。しかしながら、このタイプの雑音に対してより良好な耐性を与える、本発明のさらなる変形では、2つのMDDの回路内の差を補正するように、プロセッサ150又は他の回路を適合させることができる。たとえば、研究室で使用する前の製品の最終試験中に(又は、その耐用年数中でも周期的に)、好ましくは同じ圧力、温度、速度及び時間において、同じサンプルガスに2つのMDDの中を通過させ、その出力をデジタル形式で記録することができる。その後、2つの出力間のあらゆる差を計算及び記憶して、後に、機器の使用中に、差動測定値信号に適用する(例えば、差動測定値信号から減算する)ことができる。さらなる方策として、2つのMDDを同じ条件下で動作させることによって、経時変化の差を最小限に抑えるように努めることができる。
【0045】
代替的な実施形態では、2つのMDDではなく、ただ1つのMDDを用いることが可能である。詳細には、図1のMDD128のような、ただ1つのMDDを、ガスクロマトグラフの出力に接続することができる。その測定システムは、その中に、サンプルパルスが溶離されていない時間中に得られるような、キャリアガス(又はキャリアガスと、未分離で、予め濃縮もされていないサンプルガス)の特性スペクトル放射を記憶しておくことができる。その後、測定システムは、2つの測定値の差及び/又は比を数学的に計算することができる。しかしながら、この手法は、そのようにして生成された背景放射が誤って1つ又は複数の分析物ピークを含むことがあるため、対象となる分析物の放射が見落とされる可能性を増大するため、望ましいとは言い切れない。また、それは、経時的に圧力、温度及び流量が変化すること、又は経時的にキャリアガスの組成が変化することを考慮に入れることができない。
【0046】
差動MDDを用いることは、溶離しているガスクロマトグラフピークの場合にそうであるように、記録時間が短いときに特に好都合である。記録時間は従来、1〜10秒かかることがあるが、上記のPHASEDのようなマイクロガスクロマトグラフの場合、わずか10〜100ミリ秒である。
【0047】
本発明の利点は、その複雑な構成に起因して、以前には空気を使用できないことがあったいくつかの実験において、差動出力にすることによって、キャリアガスとしてヘリウム又は水素ではなく空気を使用することを可能にすることができるという事実を含む。さらに、差動測定値信号は、キャリアガスそのものによって引き起こされる干渉信号を除去するか、又は最小限に抑えるだけでなく、経時変化によってMDDの出力が変化するときに引き起こされる誤差、又はサンプル又はキャリアガスの温度、絶対圧力、流量、組成及び/若しくは駆動電圧の変化によって基線が変更されるときに引き起こされる誤差も補償する。本発明の差動の概念によれば、イオン化及び光MDD出力の改善に繋がることもある。
【0048】
このように本発明のいくつかの特定の実施形態が説明されてきたが、種々の改変、変更及び改善が、当業者には容易に思い浮かぶであろう。本開示によって明らかになるような、そのような改変、変更及び改善は、本明細書において明らかには述べられないが、本明細書の一部であることを意図しており、本発明の精神及び範囲内にあることを意図している。したがって、これまでの説明は例示にすぎず、限定するものではない。本発明は、添付の特許請求の範囲及びその均等物に規定されるようにのみ限定される。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明の一実施形態を組み込むガスクロマトグラフの概略図である。
【図2】従来の火炎イオン化検出器(FID)において検出されるインピーダンスの変化に対する、空気、プロパン及びブタンが溶離するときの従来の非差動マイクロ放電(イオン化)検出器(MDID)からのインピーダンスの変化を示すグラフである。
【図3】図1のマイクロ放電検出器及び後続の回路のさらに詳細な概略図である。
【図4A】それぞれ空気、及び空気中のトリクロロエタン分析物の、2つのマイクロ放電検出スペクトルを重ね合わせた図である。
【図4B】空気、及び空気中のトリクロロエタン分析物の、マイクロ放電検出スペクトル間の差及び比を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイクロ放電検出システムであって、
第1の測定値信号を生成する第1のマイクロ放電検出器と、
第2の測定値信号を生成する第2のマイクロ放電検出器と、
前記第1の測定値信号及び前記第2の測定値信号を受信し、出力信号を生成するように接続される回路とを備え、該出力信号は、前記第1の測定値信号と前記第2の測定値信号との間の差、及び該第1の測定値信号と該第2の測定値信号との間の比のうちの一方である、マイクロ放電検出システム。
【請求項2】
前記第1の測定値信号及び前記第2の測定値信号はスペクトル放射測定値である、請求項1に記載のマイクロ放電検出器システム。
【請求項3】
前記第1の測定値信号及び前記第2の測定値信号は、前記マイクロ放電検出器の電極間のインピーダンス、電圧及び電流のうちのいずれか1つの形態の電気信号である、請求項1に記載のマイクロ放電検出器システム。
【請求項4】
前記第1のマイクロ放電検出器及び前記第2のマイクロ放電検出器はそれぞれ一対の電極を備え、該一対の電極間に電流が流れ、前記第1のマイクロ放電検出器は、スペクトル放射測定値信号と、前記電極間の電流、電圧及びインピーダンスのうちの少なくとも1つの測定値信号とを生成し、前記第2のマイクロ放電検出器は、スペクトル放射測定値信号と、前記電極間の電流、電圧及びインピーダンスのうちの少なくとも1つの測定値信号とを生成し、さらに、前記回路は、前記スペクトル放射測定値信号を受信するように接続される第1の回路と、前記電流、電圧及びインピーダンスのうちの少なくとも1つの測定値信号を受信するために接続される第2の回路とを含む、請求項1に記載のマイクロ放電検出器システム。
【請求項5】
前記回路は、前記第1の測定値信号と前記第2の測定値信号との間の比である出力信号を生成する、請求項1に記載のマイクロ放電検出器システム。
【請求項6】
ガスクロマトグラフシステムであって、
その中を通過するガスを吸着及び脱着する毛管を通じて、キャリアガスにサンプルガスのパルスを搬送させるガスクロマトグラフと、
前記サンプルガスパルスを含まないか、又は未分離の希釈された形で前記サンプルガスパルスを含む前記キャリアガスを通過させるバイパス経路と、
その中に電流が流れるように形成される間隙を画定する一対の電極を含む第1のマイクロ放電検出器であって、前記毛管の排出口に接続され、前記毛管の中を流れてきたガスを受け入れ、該ガスに前記間隙の中を通過させて該間隙の中を通過する該ガスが電磁放射を放射するようにし、該第1のマイクロ放電検出器は、該放射された電磁放射のスペクトルを検出して該スペクトルの第1の測定値信号を生成するための検出器システムをさらに含む、第1のマイクロ放電検出器と、
その中に電流が流れるように形成される間隙を画定する一対の電極を含む第2のマイクロ放電検出器であって、該第2のマイクロ放電検出器は、前記バイパス経路の排出口に接続され、前記バイパス経路の中を流れてきたガスを受け入れ、該ガスに前記間隙の中を通過させて該間隙の中を通過する該ガスが電磁放射を放射するようにし、該第2のマイクロ放電検出器は、該放射された電磁放射のスペクトルを検出して該スペクトルの第2の測定値信号を生成するための検出器システムをさらに含む、該第2のマイクロ放電検出器と、
前記第1の測定値信号及び前記第2の測定値信号を受信して差動スペクトル出力信号を生成するように結合される第1の差動回路と、
前記差動スペクトル出力信号を分析してそこから前記サンプルガスパルスの物理的特性を求めるように接続される測定システムとを備える、ガスクロマトグラフシステム。
【請求項7】
前記第1のマイクロ放電検出器及び前記第2のマイクロ放電検出器のそれぞれの前記電極の中の前記電流を受信すると共に差動電流出力信号を生成するように接続される第2の差動回路をさらに備え、
前記測定システムはさらに、前記差動電流出力信号を分析すると共に、そこから前記サンプルガスパルスの物理的特性を求めるために接続される、請求項6に記載のガスクロマトグラフシステム。
【請求項8】
前記毛管を通じて前記第1のマイクロ放電検出器に至るガスの時間遅延及び前記バイパス経路を通じて前記第2のマイクロ放電検出器に至るガスの時間遅延が等しくなるように、前記毛管に対して、前記バイパス経路の長さ及び断面積が選択される、請求項7に記載のガスクロマトグラフシステム。
【請求項9】
前記第1のマイクロ放電検出器及び前記第2のマイクロ放電検出器は、前記第1のマイクロ放電検出器の前記間隙の中を通過するガスの速度が前記第2のマイクロ放電検出器の前記間隙の中を通過するガスの速度に等しくなるように断面積を選択されたチャンバを有する、請求項7に記載のガスクロマトグラフシステム。
【請求項10】
前記第1のマイクロ放電検出器及び前記第2のマイクロ放電検出器内の等しいガス温度を維持するための温度制御システムをさらに備える、請求項7に記載のガスクロマトグラフシステム。
【請求項11】
前記第1のマイクロ放電検出器及び前記第2のマイクロ放電検出器は、前記間隙の中をガスが通過した後に、前記検出器からガスを放出するための排出口を有し、前記第1のマイクロ放電検出器の該排出口及び前記第2のマイクロ放電検出器の該排出口は互いに接続される、請求項7に記載のガスクロマトグラフシステム。
【請求項12】
前記第1の差動回路は、前記第1の測定値信号と前記第2の測定値信号との間の比を表す信号を生成する、請求項7に記載のガスクロマトグラフ。
【請求項13】
ガスクロマトグラフィを実行する方法であって、
キャリアガス内で搬送されるサンプルガスを、ガスクロマトグラフ毛管を通じて、第1のマイクロ放電検出器の中に送るステップと、
前記キャリアガスを、バイパス導管を通じて、第2のマイクロ放電検出器の中に送るステップと、
前記第1のマイクロ放電検出器で、背景雑音を含む放射スペクトル測定値を得るステップと、
前記第2のマイクロ放電検出器で前記背景雑音の第2の測定値を得るステップと、
前記第1の測定値及び前記第2の測定値の差動測定値信号を生成するステップと、
前記差動測定値信号を分析して前記サンプルガスの物理的特性を検出するステップとを含む、ガスクロマトグラフィを実行する方法。
【請求項14】
前記マイクロ放電デバイスはそれぞれ、その間に間隙を画定する一対の電極を備え、該間隙を通じて電流が流されて、該間隙にわたって放電が形成され、前記方法は、
前記第1のマイクロ放電検出器の前記電極対間の電流、電圧及びインピーダンスのうちの1つの測定値を得るステップと、
前記第2のマイクロ放電検出器の前記電極対間の電流、電圧及びインピーダンスのうちの1つの測定値を得るステップと、
前記第1の電流測定値及び前記第2の電流測定値の差動測定値信号を生成するステップと、
前記差動電流測定値信号を分析して前記サンプルガスの物理的特性を検出するステップとをさらに含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記ガスクロマトグラフを通じて前記第1のマイクロ放電検出器の前記間隙までガスが通過する時間遅延は、前記バイパス導管を通じて前記第2のマイクロ放電検出器の前記間隙まで該ガスが通過する時間遅延に等しい、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
前記生成するステップは、前記第2の測定値信号と前記第1の測定値信号との間の比を得るステップを含む、請求項13に記載の方法。
【請求項17】
前記第2の送るステップは、前記バイパス導管を通じて前記サンプルガスを含まない前記キャリアガスを送るステップを含む、請求項13に記載の方法。
【請求項18】
前記第2の送るステップは、前記バイパス導管を通じて、未分離の希釈された形で前記サンプルガスを含む前記キャリアガスを送るステップを含む、請求項13に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【公表番号】特表2009−513989(P2009−513989A)
【公表日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−538942(P2008−538942)
【出願日】平成18年10月30日(2006.10.30)
【国際出願番号】PCT/US2006/042200
【国際公開番号】WO2007/053510
【国際公開日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【出願人】(500575824)ハネウェル・インターナショナル・インコーポレーテッド (1,504)
【Fターム(参考)】