説明

マイクロ波処理装置

【課題】マイクロ波処理における問題点を解決するためになされたものであり、簡易で安価な構造で、マイクロ波装置と連動しながら、必要な時に十分に被処理液を冷却できる冷却手段を備えたマイクロ波処理装置を提供する。
【解決手段】反応容器11の内部の上部に触媒充填装置1を設置し、該容器の外部に、該触媒充填装置1にマイクロ波を照射するためのマイクロ波装置17を設置したマイクロ波処理装置であって、反応容器11内部の下部に、触媒充填装置1を流通した被処理液を貯留する液溜部13を有し、該液溜部に貯留した被処理液を冷却する冷却コイル20を備え、液溜部13で冷却された被処理液は、反応容器の外部に設けられた供給系統15,16により触媒充填装置1に供給されるようにしたマイクロ波処理装置である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、触媒とマイクロ波を用いて被処理物を処理する際に、好適に用いられるマイクロ波処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
触媒を用いて被処理物(気体、液体)を処理する場合、触媒を充填した触媒充填装置に被処理物を流通させるのが一般的である。
【0003】
近年、マイクロ波を用いた化学反応が注目されるようになってきた。被処理物が流通する触媒充填装置にマイクロ波を照射すれば、触媒を効率的に加熱できると共に、溶剤などを熱媒とする加熱反応とは異なる機構で反応が進行し、触媒反応を促進できる効果のあることが認められている。
【0004】
例えば、二酸化炭素の固定化やジメチルメーテルの合成反応において、マイクロ波を用いることにより、反応系に供給するエネルギー量の低減化が可能になることが報告されている(特許文献1〜3参照)。また、有機ハロゲン化合物の脱塩素化反応においても、反応用触媒にマイクロ波を照射することにより、短時間で有機ハロゲン化合物を無害化処理できることが報告されている(例えば、特許文献4参照)。
【0005】
マイクロ波を照射するにあたっては、安全上の観点から被処理物の異常加熱を防止する必要がある。そのため、温度センサを反応容器内に設け、温度センサの検出値に基づきマイクロ波出力を制御して反応容器内の温度を設定値に保持できる反応容器が報告されている(特許文献5参照)。しかし、特許文献5に記載の反応容器によれば、被処理物の異常加熱は避けられるものの、マイクロ波の出力が制限されて反応所要時間が長くなってしまう問題点がある。
【0006】
そこで、触媒充填装置に導入される被処理液を予め冷却する冷却手段を設ける方法が報告されている(特許文献6参照)。特許文献6によれば、マイクロ波照射により加熱された触媒と接触して温度上昇した被処理液を冷却するため、被処理液を配送する配管に冷却装置を設ける構成が示されている。しかし、被処理液を配送する配管に冷却装置を設ける構成では、配管を外側から冷却(例えば、被処理液をチラー管に導入)するのに必要かつ十分な長さを確保するのが難しく、また、冷却により液中に溶解している物質(無機塩など)が析出して詰まりが生じる危険性がある。一方、別途冷却用の循環ラインを設けた場合には装置構成が煩雑となる。
【0007】
また、触媒充填装置内にマイクロ波透過性の構造体を設置すると共に、その構造体を中空とし、空気もしくは冷媒を循環させることにより触媒層を冷却する装置も提案されていている(特許文献7参照)。この装置によれば、触媒層を内部から直接冷却することで、マイクロ波の照射時間を長くでき、これにより反応時間を短縮することが可能になる。しかし、この方法では冷却部の大きさが制限されるため、冷却能力には限界があると共に、当該冷却装置を設置するために触媒充填装置のコストが増加する可能性もある。
【0008】
さらに、特許文献6,7の方法では、被処理液を冷却する界面の面積が小さく、冷却された被処理液の温度とマイクロ波照射で加熱された被処理液の温度を連動させて制御することが難しいため、不必要な冷却が行われる可能性もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2006−169095号公報
【特許文献2】特開2006−216412号公報
【特許文献3】特開2006−225275号公報
【特許文献4】特開2007−105063号公報
【特許文献5】特開2002−113350号公報(請求項12)
【特許文献6】特開2007−105062号公報(段落[0027])
【特許文献7】特開2009−022855号公報(請求項6)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、マイクロ波処理における前記の問題点を解決するためになされたものであり、マイクロ波装置と連動して作動し、必要な時に十分に被処理液を冷却できる、簡便でかつ安価な冷却手段を備えたマイクロ波処理装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意検討した結果、被処理液を冷却するための冷却装置を、反応用の容器下部の液溜りに設けることで、マイクロ波の照射中に所望の冷却能力を確保できることを見出し、本発明に到達した。
【0012】
すなわち、本発明は、反応容器内部の上部に触媒充填装置を設置し、該容器の外部に、該触媒充填装置にマイクロ波を照射するためのマイクロ波装置を設置したマイクロ波処理装置であって、反応容器内部の下部に、触媒充填装置を流通した被処理液を貯留する液溜部を有し、該液溜部に貯留した被処理液を冷却する冷却コイルを備え、液溜部で冷却された被処理液は、反応容器の外部に設けられた供給系統により触媒充填装置に供給されるようにしたことを特徴とするマイクロ波処理装置を提供する。
【0013】
本構成によれば、触媒充填装置を流通した被処理液が、マイクロ波によって加熱される恐れがなく、十分に冷却された被処理液を触媒充填装置に供給することで、マイクロ波照射時間を増やせるため、処理能力の高いマイクロ波処理装置を提供することができる。
【0014】
上記の冷却コイルは、触媒充填装置の直下の投影領域に設置されていても良い。上記の冷却コイルが、触媒充填装置の直下の投影領域に設置されている場合には、触媒充填装置から溢流した被処理液が冷却用コイルによって、効率よく冷却される。
【0015】
上記の冷却コイルが、容器の中心から取出口に近い側に設置されていても良い。取出口近傍の被処理液を選択的に冷却することで、冷却に要する消費エネルギーを低減できる。
【0016】
本発明のマイクロ波処理装置は、触媒充填装置を流通する被処理液の液温を検知する温度センサと、マイクロ波照射中に被処理液の液温が設定値以上になった時にマイクロ波の照射強度を制御するマイクロ波制御装置と、を備えていることが好ましい。本構成によれば、被処理液の液温が設定値以上になった時には、マイクロ波の照射強度を制限することで異常加熱を防止することができる。
【0017】
本発明のマイクロ波処理装置は、被処理液の液温が設定値を超え、マイクロ波制御装置が作動した場合に、そのマイクロ波の照射強度の制限の程度に応じて冷却コイルによる冷却能力を増加させる冷却制御装置を備えていても良い。本構成によれば、マイクロ波の照射強度と冷却装置の冷却能力を連動させることで、冷却効果を高めることができる。
【0018】
本発明のマイクロ波処理装置は、マイクロ波制御装置によりマイクロ波の照射強度が制限されている間は、その制限の程度に応じて、液溜部からの被処理液の触媒充填装置への供給流量を増加できるようにしても良い。本構成によれば、マイクロ波の照射強度と被処理液の供給流量を連動させて変化させることにより、被処理液の供給量を増やすことで、処理速度を上げることができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明のマイクロ波処理装置は、簡易かつ安価な構造であり、しかも触媒充填装置を流通した被処理液を冷却できるので、マイクロ波の照射時間を長くすることが可能となり、その結果、処理時間を短縮できる。また、マイクロ波装置と連動させながら、被処理液の冷却温度や流量を変えられるので、マイクロ波照射量を平準化できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の請求項1に係るマイクロ波処理装置の一実施形態を示す正面透視図である。
【図2】図1のマイクロ波処理装置の平面図である。
【図3】本発明の請求項2に係るマイクロ波処理装置の一実施形態を示す正面透視図である。
【図4】本発明の請求項3に係るマイクロ波処理装置の一実施形態を示す正面透視図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明に係るマイクロ波処理装置について、図面を参照しつつ詳細に説明する。
【0022】
図1は、本発明の請求項1に係るマイクロ波処理装置の一実施形態を示す正面透視図であり、図2は平面図である。このマイクロ波処理装置は、触媒充填装置1を、反応容器11の内部の上部に設置し、該容器11の外部に、触媒充填装置1にマイクロ波を照射するためのマイクロ波装置17を設置したマイクロ波処理装置であって、反応容器11の内部の下部に、触媒充填装置1を流通した被処理液を貯留する液溜部13を有し、該液溜部に、貯留した被処理液を冷却する冷却コイル20を備え、液溜部13で冷却された被処理液を、反応容器の外部に設置された供給系統(ポンプ15および配管16)を通じて触媒充填装置1に供給するようにした、マイクロ波処理装置である。
【0023】
(a)触媒充填装置1は、被処理物の反応(例えば、PCBの脱塩素化反応)を促進させる、適宜な触媒2を充填した触媒カートリッジ3を、ケース4の中に収容し、触媒カートリッジ3とケース4との接触によるスパーク防止のため、ケース4の内側にはスペーサー5を設置した構造である。触媒カートリッジ3の底面には、触媒に流入する被処理液が上から下に流下できるように多数の流通孔が設けられている。さらに、被処理液の円滑な流下を補助すると共に、触媒カートリッジ3の高さ調整が可能なように、架台6が取付けられている。架台6により触媒カートリッジ3を、その高さ方向に反応に最適な位置に保持することができる。触媒カートリッジ3の下部から流出した被処理液は、一定の高さまで溜められた後、ケース4の側面に設けた溢流口7から、反応容器11の中に溢流する。触媒充填装置1は、触媒カートリッジ3を収容しているため、処理の途中で反応速度が低下した場合にも、簡単、迅速に触媒交換ができ、処理後の触媒の後処理も容易である。
ここで、溢流口7の数および配置は任意に設定可能であるが、2以上の溢流口7を触媒充填装置1の外周に略均等間隔で配置するのが好ましい。2以上の溢流口7を触媒充填装置1の外周に略均等間隔で配置することで、触媒充填装置1内の被処理液の流れをより均一化でき、触媒を有効に活用できるためである。
【0024】
触媒充填装置1は、反応容器11の内部の上部に設置する。図1では、触媒充填装置1を、容器11の上蓋12に取り付けた例を示している。これにより、マイクロ波処理装置の省スペース化を図ることができると共に、触媒充填装置1を流通した被処理液を、自重で容器内に戻すことができるので、反応容器11から触媒充填装置1への被処理液の供給系統を設けるだけで良く、被処理液を排出するための装置が不要となり、装置を簡素化できる。また、反応容器内の上部に設置することにより、触媒カートリッジを、液流通断面積をケースの内径に応じて大きく設計することができ、空間速度(SV)を一定にした場合に液流速が速くなるため、処理時間を短縮できる。
【0025】
一方、触媒充填装置1を反応容器11の内部の下部に設置した場合は、触媒充填装置1を流通した被処理液を冷却するための冷却槽が別途必要となるため、冷却槽から排出する被処理液と触媒充填装置へ供給する被処理液の流量バランスをとる必要が生じ、バランスが崩れた場合は、被処理液が触媒充填装置からオーバーフローするおそれがあり、液切れの場合はスパークもしくは触媒が異常加熱する恐れがある。
【0026】
触媒充填装置1の大きさは特に限定されるものではなく、それらの形状は円筒形、角筒形など任意の形状であって良い。
【0027】
触媒カートリッジ3には、マイクロ波を透過する耐熱性材料で形成された棒状の構造体8を、その一部が充填された触媒の層から突出するように分散して配置することが好ましい。この構造体は必須ではないが、構造体を設置することにより、充填された触媒の奥までマイクロ波が伝達されるようになる。構造体の形状は、特に限定されるものではなく、棒状、管状、ファイバー状、或いはこれらの組合せであって良い。また、構造体の内部は中空でも良い。大きさや配置形態、配置数も任意であるが、マイクロ波を万遍なく触媒に届かせるようにするためには、複数の構造体をできるだけ均等に配置し、マイクロ波到達円が細密充填に近づくように配置することが好ましい。
【0028】
上記の構造体の材質は、特に限定されるものではなく、マイクロ波を透過する材質であれば、セラミック;テフロン(登録商標)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリフェニレンサルフォン(PPSU)、ポリアリレート(PAR)、ポリサルフォン(PSF)、ポリエーテルサルフォン(PES)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、液晶ポリエステル(LCP)、液晶ポリマー(LCP)、ポリアセタール(POM)、ポリアミド(PA)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリカーボネート(PC)、変性ポリフェニレンエーテル等の耐熱性樹脂;ガラス等の双極子を持たない材料或いは双極子モーメントが小さい材料;等を用いることができる。
【0029】
(b)反応容器11は、触媒充填装置1を内部の上部に収容すると共に、反応容器の内部の下部に液溜部13を有している。この液溜部13は、触媒充填装置1を流通させた被処理液を貯留する。反応容器11の下部側面には、被処理液を取り出すための取出口14を設けてある。循環ポンプ15を介して、貯留した被処理液を取出口14から取り出し、配管16を通じて、触媒充填装置1に供給することによって、被処理液が触媒充填装置1と反応容器11の液溜部13との間を循環させることができる。
【0030】
(c)マイクロ波装置17は、反応容器11の外部に設置する。マイクロ波装置17は、触媒充填装置1にマイクロ波を照射するための装置であるため、触媒充填装置1の上方に設置することでマイクロ波処理装置全体の省スペース化が図れる。触媒充填装置1を流通する被処理液が、マイクロ波装置17から照射されるマイクロ波により加熱された触媒と接触することによって、反応が進行する。
【0031】
マイクロ波装置17は、触媒充填装置1を流通する被処理液の液温を検知する温度センサ18と、マイクロ波照射中に被処理液の液温が設定値以上になった時にマイクロ波の照射強度を制御するマイクロ波制御装置19と、を備えている。マイクロ波制御装置19は、触媒充填装置1内の被処理液および液溜部13の被処理液の温度を検知する温度検知機能と、該温度を制御する温度コントール機能(PID制御機能)を備え、被処理液の温度が設定温度以上になった場合に、自動的に電源が切れる、電源・計測・制御一体型装置である。このマイクロ波制御装置を設置することにより、温度センサ18により検知した温度と、マイクロ波制御装置19の設定温度に基づき、マイクロ波装置17のマイクロ波照射強度をPID制御できるため、マイクロ波を連続照射しながら、被処理液の液温をほぼ一定温度に保持することができる。
【0032】
触媒充填装置に照射するマイクロ波の周波数は1〜300GHzが望ましく、1GHz未満又は300GHzを超える周波数範囲では、触媒の加熱が不十分となる。マイクロ波発振器としては、マグネトロン等のマイクロ波発振器や、固体素子を用いたマイクロ波発振器等を適宜用いることができる。
【0033】
(d)冷却コイル20は、液溜部13に貯留した被処理液を効率よく冷却できるよう、反応容器11内部の液溜部13に設置する。図1に示す冷却コイル20では、チラーから冷却媒体を供給する熱交換器などの冷却水循環装置から、配管を通じて冷却コイル入口に冷水が供給され、冷水は液溜部13の中を周回した後、冷却コイル出口から再び、冷却水循環装置に戻る。液溜部13の被処理液の温度が低くなり過ぎると、触媒充填装置に供給する液が冷え過ぎてしまい、部材に浸透した有機ハロゲン化合物が液中に溶出しにくくなるなどの不都合が生じるので、使用に際しては、冷却水流量調整器などで冷却水の流量を調整するのが良い。
【0034】
冷却コイルの設置形態は、特に限定されるものではない。図1に示すように、触媒充填装置1を収容する反応容器11の液溜部13に、触媒充填装置1を周回するように多重状に配置すると、被処理液の冷却効率が良い。マイクロ波は、触媒充填装置によって遮られて液溜部13には届かないため、液溜部はマイクロ波により加熱される恐れがない。
【0035】
マイクロ波制御装置19でマイクロ波の照射強度が制限されている間、その制限の程度に応じて、冷却コイル20による冷却能力を増加させる冷却制御装置(図示を省略する)を備えていると、マイクロ波の照射強度と冷却装置の冷却能力を連動させて変化させることができるため、冷却効果を高めることができる。
【0036】
(e)被処理液の供給系統は、反応容器11の外部にポンプ15と配管16を設ければ良く、液溜部13で冷却された被処理液を、取出口14から、該供給系統を通じて触媒充填装置1に供給する。図1の矢印で示すように、始めに被処理液を配管16、循環ポンプ15を介して、触媒充填装置1の上部に設けられた導入口を通じて、触媒充填装置1の上部に導入し、導入した被処理液を、連続的に触媒槽を流通させ、触媒カートリッジ3の底部から流下させる。触媒カートリッジ3の底部から流下した被処理液は、触媒カートリッジ3を収容するケース4の中へ一旦流出した後、溢流口7から溢れ出し、反応容器11の液溜部13に溜められ、冷却コイル20により冷却される。その後、冷却された被処理液は取出口14から取り出され、供給系統により触媒充填装置1に供給される。
ここで、取出口14の配置位置は反応容器11の外周であれば任意に設定できるが、溢流口7の配置位置とずらして設定するのが好ましい。特に、2以上の溢流口7が触媒充填装置1の外周に略均等間隔で配置されている場合には、溢流口7の配置位置の略中間に取出口14を配置するのが好ましい。溢流口7から流下した被処理液が冷却コイル20に接する時間を長くでき、被処理液をより冷却できるためである。
【0037】
マイクロ波制御装置19でマイクロ波の照射強度が制限されている間は、その制限の程度に応じて、液溜部13から取り出した被処理液の触媒充填装置1への供給流量を増加できるように、循環ポンプの流量を調整できる装置(図示を省略する)を備えていると、マイクロ波の照射強度と被処理液の供給流量を連動させて変化させることができるため、被処理液の供給量を増やし、処理速度を上げることができる。
【0038】
図3および図4は、冷却コイルの設置形態が異なるほかは、図1と同じ構成のマイクロ波処理装置の正面透視図を示したものである。図1に示すマイクロ波処理装置と異ならない部分については、説明を省略する。
【0039】
図3のマイクロ波処理装置は、上記の冷却コイルが、触媒充填装置1の直下の投影領域に設置された一実施形態を示してある。このような装置によれば、触媒充填装置1から溢流した加熱された被処理液が、冷却コイル近傍に流下するため、被処理液の対流により、効率よく冷却できる。
【0040】
図4のマイクロ波処理装置は、上記の冷却コイルが、反応容器11の中心から取出口14に近い側に設置された一実施形態を示してある。このような設置形態によれば、取出口14近傍の被処理液を選択的に冷却することができるため、冷却に要する消費エネルギーを低減できる。
【0041】
なお、上記のマイクロ波処理装置では、液溜部13に貯留した被処理液を攪拌するために、マグネチックスターラーなどを用いることもできる。
【0042】
本発明のマイクロ波処理装置は、液液系および気液系の反応を伴う処理に用いることができる。例えば、液液系の反応を伴う処理を行う場合は、反応容器11の上蓋12に取付けたケース4に触媒カートリッジ3を所定の離隔を設けて固定し、触媒充填装置1を作製する。その後、処理対象物、反応試剤および溶媒などを混合した被処理液を触媒充填装置1に導入する。次いで、被処理液を、触媒の中を流通させた後、溢流口7から液溜部13に流下させる。触媒充填装置1を流通する際に触媒の上方からマイクロ波が照射されることによって、反応が促進される。液液系の処理を行う場合、反応温度は常温から400℃の間に設定することが可能であるが、40〜80℃の比較的低温の反応にも利用することができる。
【0043】
本発明のマイクロ波処理装置によれば、触媒充填装置に照射したマイクロ波によって加熱された被処理液を、液溜部で冷却した後、再び、触媒充填装置に供給するので、触媒充填装置に導入される被処理液の液温が低いため、マイクロ波照射量を増やすことが可能になり、被処理液を冷却しないで導入したときよりも、被処理液の処理速度が格段に向上する。
【実施例】
【0044】
次に、本発明に係るマイクロ波処理装置を用いた実施例を、具体例により説明する。なお、以下の実施例において、特に言及する場合を除き、「質量%」は「%」と略記する。
【0045】
(実施例1)
実機で使用した絶縁油であって、PCBとしてKC−400(4塩化ビフェニール)を21ppm含有する1種2号絶縁油10Lに、イソプロピルアルコール10L、KOH100gを添加し、攪拌して被処理液を調製した。
【0046】
内径210mm、高さ244mmの触媒カートリッジ3の中に、直径3cm×高さ180mmのテフロン(登録商標)棒を5本配置し(図2参照)、テフロン(登録商標)棒の隙間を埋めるようにして、Pd5%担持活性炭(ダイヤホープ008)2kgを充填し、高さ120mmの触媒層を調製した。この触媒カートリッジ3を、四隅にスペーサー5を設置したケース4の中に収容し、触媒充填装置1を作製した。この触媒充填装置1を、上蓋12に取り付けた後、この上蓋を、冷却コイル20を設置した反応容器11(外径300mm)に取り付けることで、触媒充填装置1を反応容器11内部の上部に配置するようにした。さらに反応容器11の周辺に、循環ポンプ15、マイクロ波装置17、電源・計測・制御一体型のマイクロ波制御装置19を設置し、配線および配管を施して、図1に示す構成のマイクロ波処理装置を作製した。
【0047】
上記で調製した被処理液3Lをポンプ15で抜き出し、触媒充填装置1に導入した後、溢れた該被処理液を、反応容器11の取出口14からポンプ15で抜き出し、触媒充填装置1に1L/分の速度で連続的に通液しながら、液溜部13に循環させた。その間、温度コントローラの設定温度を60℃にして、周波数2.45GHz、最大出力1.5kWのマイクロ波をPID制御しながら、触媒充填装置1に連続的に照射し、触媒充填装置1内における被処理液の温度を60℃に維持した。一方、液溜部13では、触媒充填装置を流通した被処理液を冷却コイル20で冷却したところ、被処理液の液温は約40℃まで低下した。
【0048】
被処理液の循環を実施している間、マイクロ波処理装置で処理した被処理液を、定期的にサンプリングし、サンプリングした被処理液中のPCB濃度を、DB1(J&Wサイエンティフィック製)をキャピラリーカラムとする(株)島津製作所製のガスクロマトグラフィー質量分析計QP5050AWを用いて分析した。
【0049】
被処理油中のPCB濃度が目標の0.5ppm以下にならなかった場合は、被処理液を再び触媒充填装置1に流通、循環させた後、液溜部13に戻して冷却する操作を繰り返した。その結果、約10時間で目標をクリアーできた。
【0050】
(比較例1)
図1に示すマイクロ波処理装置において、冷却コイルを設置しなかった他は、実施例1と同様の操作を実施した。その結果、約20時間で目標をクリアーできた。
【0051】
実施例および比較例の結果から、被処理液を液溜部で冷却する、本発明のマイクロ波処理装置を用いることにより、処理時間を大幅に短縮することができることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明に係るマイクロ波処理装置は、マイクロ波の照射時間を長くすることが可能で、処理時間を短縮できるため、ポリ塩化ビフェニール(PCB)およびダイオキシン類の無害化処理に好適に利用できる他、マイクロ波を用いた各種の化学反応、例えば、自動車の排ガス処理、排水処理、難分解性有機物、汚水処理、汚泥処理などにも幅広く利用することができる。
【符号の説明】
【0053】
1 触媒充填装置
2 触媒
3 触媒カートリッジ
4 ケース
5 スペーサー
6 架台
7 溢流口
8 テフロン(登録商標)棒
9 液面
11 反応容器
12 上蓋
13 液溜部
14 取出口
15 循環ポンプ
16 配管
17 マイクロ波装置
18 温度センサ
19 電源・計測・制御一体型装置
20 冷却コイル
21,22 開閉弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
反応容器内部の上部に触媒充填装置を設置し、該容器の外部に、該触媒充填装置にマイクロ波を照射するためのマイクロ波装置を設置したマイクロ波処理装置であって、反応容器内部の下部に、触媒充填装置を流通した被処理液を貯留する液溜部を有し、該液溜部に貯留した被処理液を冷却する冷却コイルを備え、液溜部で冷却された被処理液は、反応容器の外部に設けられた供給系統により触媒充填装置に供給されるようにしたことを特徴とするマイクロ波処理装置。
【請求項2】
前記冷却コイルが、触媒充填装置の直下の投影領域に設置したことを特徴とする、請求項1に記載のマイクロ波処理装置。
【請求項3】
前記冷却コイルが、容器の中心から取出口に近い側に設置したことを特徴とする、請求項1に記載のマイクロ波処理装置。
【請求項4】
触媒充填装置を流通する被処理液の液温を検知する温度センサと、マイクロ波照射中に被処理液の液温が設定値以上になった時にマイクロ波の照射強度を制御するマイクロ波制御装置と、を備えていることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載のマイクロ波処理装置。
【請求項5】
被処理液の液温が設定値を超え、マイクロ波制御装置が作動した場合に、そのマイクロ波の照射強度の制限の程度に応じて冷却コイルによる冷却能力を増加させる冷却制御装置を備えていることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載のマイクロ波処理装置。
【請求項6】
マイクロ波制御装置によりマイクロ波の照射強度が制限されている間は、その制限の程度に応じて、液溜部からの被処理液の触媒充填装置への供給流量を増加できるようにしたことを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載のマイクロ波処理装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−259973(P2010−259973A)
【公開日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−110869(P2009−110869)
【出願日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【出願人】(000003687)東京電力株式会社 (2,580)
【Fターム(参考)】