説明

マイクロ波発熱体及びそれによる溶着方法

【課題】マイクロ波エネルギの吸収に若干の乱れがあっても、周囲の熱容量が均一でなくても合成樹脂成型体の溶着を均一に高精度で行うことができ、かつ、当該合成樹脂成型体に歪を与えることのないこと。
【解決手段】マイクロ波発熱体21,・・・,25を介して合成樹脂成型体としてのバルブボディ樹脂成型体11,・・・,16の各層を積層させ、マイクロ波をこの積層してなるマイクロ波発熱体21,・・・,25に照射する。その際、バルブボディ樹脂成型体11,・・・,16の各層の間で十分に溶着することができるよう、バルブボディ樹脂成型体11,・・・,16の各層間は0.1〜5.0MPaの加圧力で加圧される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂製成型体相互間を溶着可能なマイクロ波発熱体に関するものであり、特に、複数箇所の樹脂製成型体相互間を溶着するのに使用可能なマイクロ波発熱体及びマイクロ波発熱体による溶着方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
2つの樹脂成形品を溶着させることは公知の技術であり、その加熱手段として、例えば、レーザ、超音波等の熱源による溶着面の加熱による方法が採用されてきた。
しかし、このような方法は2つの樹脂成形品を溶着させる手段として採用することができても、3つ以上の樹脂成形品を一度に溶着することはできない。
したがって、従来のAT車のバルブボディ等については、合成樹脂で、しかも溶着によって製造することは困難であった。
【0003】
合成樹脂の溶着方法には熱風溶着、振動溶着等が知られ、原理的には接合面を加熱することで樹脂を溶融させて接着させる技術である。ここで接合面の加熱手段としてマイクロ波の照射を行うことにより、2つの樹脂成形品を溶着する方法が考えられる。特許文献1に記載の方法は、まさにその方法であり、溶着媒体である熱可塑性樹脂の紐状物を、該樹脂成形品の溶着面に設けた溝に配置し、2つの樹脂成形品の溶着面同士を密着させて、マイクロ波を照射することにより2つの樹脂成形品の溶着を行っている。
【0004】
また、特許文献2に記載の方法は、発泡剤とマイクロ波吸収体を混合してなる組成物を、表皮材と基材の間に設置し、加熱して発泡させると同時に、該表皮材と該基材を溶着させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−233450号公報
【特許文献2】特開2000−229328号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の方法では、発熱体である溶着媒体を押し出し成形で製造するので、2つ以上に分岐した複雑形状の溶着媒体を得ることが困難であり、また、紐状物を使用した場合には、マイクロ波エネルギの吸収が均一でなく、そして、マイクロ波エネルギの吸収が均一であっても、周囲の熱容量が均一でないために両者を均一に溶着させることが困難であった。
また、特許文献2は、発泡剤とマイクロ波吸収体を混合してなる組成物を、表皮材と基材の間に設置し、加熱して発泡すると同時に、該表皮材と該基材を溶着させる方法であるから、マイクロ波を吸収体させる全体的な接合には適しているが、成形物に歪を残さないように、接合面の一部を溶着したい場合には使用できない。
【0007】
そこで、本発明は、上記問題点を解消すべく、樹脂製成型体の熱容量が均一でなくても、また、樹脂製成型体相互間の溶着を均一に高精度で行うことができるマイクロ波発熱体及びそれによる溶着方法の提供を課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1の発明にかかるマイクロ波発熱体においては、導電体である金属粉末を混練して2mm以下の厚みとしたマイクロ波によって誘電加熱自在な熱可塑性樹脂フィルムとし、この熱可塑性樹脂フィルムが複数の合成樹脂成型体相互間に配置され、前記合成樹脂成型体相互間に押圧力を加えて溶着するものである。
ここで、上記合成樹脂成型体相互間に配置され、マイクロ波によって誘電加熱自在な熱可塑性樹脂フィルムのマイクロ波発熱体は、マイクロ波を照射することによって熱可塑性樹脂フィルムが溶融するものであればよい。
【0009】
請求項2の発明にかかるマイクロ波発熱体においては、金属薄膜をコーティングして2mm以下の厚みとしたマイクロ波によって誘電加熱自在な熱可塑性樹脂フィルムとし、この熱可塑性樹脂フィルムが複数の合成樹脂成型体相互間に配置され、前記合成樹脂成型体相互間に押圧力を加えて溶着するものである。
ここで、上記合成樹脂成型体相互間に配置され、マイクロ波によって誘電加熱自在な熱可塑性樹脂フィルムのマイクロ波発熱体は、マイクロ波を照射することによって熱可塑性樹脂フィルムが溶融するものであればよい。
【0010】
請求項3の発明にかかるマイクロ波発熱体においては、複数の合成樹脂成型体相互間に配置された0.5mm以下の厚みの金属箔に対して、マイクロ波によって誘電加熱自在とし、前記合成樹脂成型体相互間に押圧力を加えて溶着するものである。
ここで、上記樹脂成型体相互間に挟まれたマイクロ波によって誘電加熱自在なマイクロ波発熱体は、マイクロ波を照射することによって金属箔が自己加熱し、合成樹脂製成型体が溶融するものであればよい。
【0011】
請求項4の発明にかかるマイクロ波発熱体は、前記合成樹脂成型体相互の接合面の形状に沿って形成されているものである。ここで合成樹脂成型体の接合面に沿った形状とは、合成樹脂成型体を2以上に分割した合成樹脂成型体の接合面の外周側及び内周側に所定の幅を残して接合面に沿った形状である。勿論、接合面と同じ大きさの形状に形成することを除外するものではない。
【0012】
請求項5の発明にかかるマイクロ波発熱体は、全角が面取り処理されているものである。
ここで、全角の面取り処理とは、マイクロ波発熱体の平面の角を円弧状または斜めに加工することを意味し、マイクロ波のエネルギが集中し火花の発生に繋がらなければよく、それによって角の面取りが決定される。
【0013】
請求項6の発明にかかるマイクロ波発熱体は、位置決めする貫通孔が穿設されているものである。
ここで、位置決めする貫通孔とは、合成樹脂成型体側に突起を設け、そこにマイクロ波発熱体を位置決めするものであればよく、複数の突起による基準点を設けることでマイクロ波発熱体の合成樹脂成型体相互における位置精度を上げることができる。
【0014】
請求項7の発明にかかるマイクロ波発熱体による溶着方法においては、導電体粉末を混練して、若しくは金属薄膜をコーティングしてなる2mm以下の厚みの熱可塑性樹脂フィルムを、または0.5mm以下の金属箔を合成樹脂成型体相互間に配置し、前記熱可塑性樹脂フィルムまたは前記金属箔を挟持する方向に外力を加えながら、マイクロ波によって前記熱可塑性樹脂フィルムまたは前記金属箔を誘電加熱し、前記合成樹脂成型体相互間を溶着するものである。
ここで、上記合成樹脂成型体相互間に挟まれたマイクロ波によって誘電加熱自在なマイクロ波発熱体は、導電体である金属粉末を混練した熱可塑性樹脂フィルム若しくは金属薄膜を有する熱可塑性樹脂フィルムまたはマイクロ波によって誘電加熱自在な金属箔としたものであればよい。そして、導電体である金属粉末を混練した熱可塑性樹脂フィルムの場合はマイクロ波によって誘電加熱自在なマイクロ波発熱体と合成樹脂成型体相互間は、同一合成樹脂材料が望ましい。
【発明の効果】
【0015】
請求項1の発明のマイクロ波発熱体においては、導電体粉末を混練して2mm以下の厚みとしたマイクロ波によって誘電加熱自在な熱可塑性樹脂フィルムとし、それを複数の合成樹脂成型体相互間に配置し、前記合成樹脂成型体相互間に押圧力を加え、前記熱可塑性樹脂フィルムのマイクロ波による発熱によって溶着するものである。
したがって、マイクロ波を照射して誘電加熱自在なマイクロ波発熱体を加熱する際、誘電加熱自在なマイクロ波発熱体が薄く、発熱温度を一様に高く制御することができるので、安定した溶着が可能であり、溶着によって複数の合成樹脂成型体を一体化した合成樹脂成型体をより容易に製造することが可能となる。したがって、直接一体化した合成樹脂成型体を得るために行う切削加工、その切削加工の加工屑等の除去が不要となり、それらの加工及び清掃を簡略化できるので生産性が向上する。また、導電体粉末の混入量やマイクロ波発熱体としての熱可塑性樹脂フィルムの厚みによって任意のマイクロ波照射-温度特性が得られる。
また、溶着時に上記マイクロ波発熱体を挟んだ合成樹脂成型体相互間に、合成樹脂成型体相互を接合する接合方向に押圧力を加えることで合成樹脂成型体相互間の間隙を減少することができ仕上がり精度を上げることができる。ここで、マイクロ波発熱体の厚みは、マイクロ波エネルギの制御(マイクロ波発熱体の温度制御)及び接合面に加わる押圧力によって決定され、押圧力は自重に置き換えることもできる。
そして、マイクロ波によって誘電加熱自在なマイクロ波発熱体の熱容量が小さいから、発熱時間が極めて短時間で済み、量産化が可能である。
更に、3個以上の合成樹脂成型体相互間を一度に溶着させる際でも、マイクロ波発熱体を調整することによって、各溶着部の加熱の程度を均一にする等の調整が可能となる。また、マイクロ波によって誘電加熱自在なマイクロ波発熱体の形状を、熱容量を基に設定すれば均一な溶融状態が得られ、合成樹脂樹脂成型体に熱的に変形する歪を残すことはない。
よって、合成樹脂製成型体の熱容量が均一でなくても、また、樹脂製成型体相互間の溶着を均一に高精度で行うことができるマイクロ波発熱体が得られる。
【0016】
請求項2の発明のマイクロ波発熱体においては、金属薄膜をコーティングして2mm以下の厚みとしたマイクロ波によって誘電加熱自在な熱可塑性樹脂フィルムとし、それを複数の合成樹脂成型体相互間に配置し、前記合成樹脂成型体相互間に押圧力を加え、前記熱可塑性樹脂フィルムのマイクロ波による発熱によって溶着するものである。
したがって、マイクロ波を照射して誘電加熱自在なマイクロ波発熱体を加熱する際、誘電加熱自在なマイクロ波発熱体が薄く、発熱温度を一様に高く制御することができるので、安定した溶着が可能であり、溶着によって合成樹脂成型体をより容易に製造することが可能となり、切削加工、その切削加工の加工屑等の除去が不要となり、それらの加工及び清掃を簡略化できるので生産性が向上する。また、金属薄膜のコーティング厚によって任意のマイクロ波照射-温度特性が得られる。
また、溶着時に上記マイクロ波発熱体を挟んだ合成樹脂成型体相互間に、合成樹脂成型体相互の接合方向に押圧力を加えることで合成樹脂成型体相互間の間隙を減少することができ、仕上がり精度を上げることができる。ここで、マイクロ波発熱体の厚みは、マイクロ波エネルギの制御(マイクロ波板状発熱体の温度制御)及び接合面に加える押圧力によって決定され、押圧力は自重に置き換えることもできる。
そして、マイクロ波によって誘電加熱自在なマイクロ波発熱体の熱容量が小さいから、発熱時間が極めて短時間で済み、量産化が可能である。
更に、3個以上の合成樹脂成型体相互間を一度に溶着させる際でも、マイクロ波発熱体を調整することによって、各溶着部の加熱の程度を均一にする等の調整が可能となる。また、マイクロ波によって誘電加熱自在なマイクロ波発熱体の形状を、熱容量を基に設定すれば均一な溶融状態が得られ、合成樹脂樹脂成型体に熱的に変形する歪を残すことはない。
よって、合成樹脂製成型体の熱容量が均一でなくても、また、樹脂製成型体相互間の溶着を均一に高精度で行うことができるマイクロ波発熱体が得られる。
【0017】
請求項3の発明のマイクロ波発熱体においては、金属箔を0.5mm以下の厚みとし、それを複数の合成樹脂成型体相互間に配置し、前記合成樹脂成型体相互間に押圧力を加え、前記金属箔のマイクロ波による発熱によって溶着するものである。
したがって、マイクロ波を照射して誘電加熱自在なマイクロ波発熱体を加熱する際、誘電加熱自在なマイクロ波発熱体が非常に薄く、発熱温度を一様に高く制御することができるので、安定した溶着が可能であり、溶着によって合成樹脂成型体をより容易に製造することが可能となり、切削加工、その切削加工の加工屑等の除去が不要となり、それらの加工及び清掃を簡略化できるので生産性が向上する。
また、溶着時に上記マイクロ波発熱体を挟んだ合成樹脂成型体相互間に、合成樹脂成型体相互の接合方向に押圧力を加えることで合成樹脂成型体相互間の間隙を減少すことができ仕上がり精度を上げることができる。ここで、マイクロ波発熱体の厚みは、マイクロ波エネルギの制御(マイクロ波板状発熱体の温度制御)及び接合面に加える押圧力によって決定され、押圧力は自重に置き換えることもできる。
そして、マイクロ波によって誘電加熱自在なマイクロ波発熱体の熱容量が小さいから、発熱時間が極めて短時間で済み、量産化が可能である。
更に、3個以上の合成樹脂成型体相互間を一度に溶着させる際でも、マイクロ波発熱体を調整することによって、各溶着部の加熱の程度を均一にする等の調整が可能となる。また、マイクロ波によって誘電加熱自在なマイクロ波発熱体の形状を、熱容量を基に設定すれば均一な溶融状態が得られ、合成樹脂樹脂成型体に熱的に変形する歪を残すことはない。
よって、合成樹脂製成型体の熱容量が均一でなくても、また、樹脂製成型体相互間の溶着を均一に高精度で行うことができるマイクロ波発熱体が得られる。
【0018】
請求項4の発明のマイクロ波発熱体は、前記合成樹脂成型体相互の接合面の形状に沿って形成されている。したがって、請求項1乃至請求項3の何れか1つに記載の効果に加えて、合成樹脂成型体相互間の接合面が複雑な形状であっても、その形状に適合した複雑な形状のマイクロ波発熱体を得ることができるので、その複雑な形状に対しても溶着が可能である。
【0019】
請求項5の発明のマイクロ波発熱体は、全角に面取り処理をされているものであるから、請求項1乃至請求項4の何れか1つに記載の効果に加えて、マイクロ波のエネルギの集中が生じないので、火花が入ったり、合成樹脂成型体を焼いたりすることがない。
【0020】
請求項6の発明のマイクロ波発熱体は、位置決めする貫通孔が穿設されているものであるから、請求項1乃至請求項5の何れか1つに記載の効果に加えて、合成樹脂成型体の接合面に対するマイクロ波発熱体の位置決めを正確に行うことができる。
【0021】
請求項7の発明のマイクロ波発熱体による溶着方法においては、導電体粉末を混練して、若しくは金属薄膜をコーティングしてなる2mm以下の厚みの熱可塑性樹脂フィルム、または0.5mm以下の金属箔を複数の合成樹脂成型体相互間に配置し、前記熱可塑性樹脂フィルムまたは前記金属箔を挟持する方向に押圧力を加えると共に、マイクロ波によって前記熱可塑性樹脂フィルムまたは前記金属箔を誘電加熱して前記前記合成樹脂成型体相互間を溶着するものである。
したがって、マイクロ波を照射して誘電加熱自在なマイクロ波発熱体を加熱する際、誘電加熱自在なマイクロ波発熱体が薄く、発熱温度を一様に高く制御することができるので、安定した溶着が可能であり、溶着によって複数の合成樹脂成型体を一体化した合成樹脂成型体をより容易に製造することが可能となる。したがって、直接一体化した合成樹脂成型体を得るために行う切削加工、その切削加工の加工屑等の除去が不要となり、それらの加工及び清掃を簡略化できるので生産性が向上する。また、導電体粉末の混入量または金属薄膜の厚みによって任意のマイクロ波照射-温度特性が得られ、最適な溶着方法が選択できる。
また、また、溶着時に上記マイクロ波発熱体を挟んだ合成樹脂成型体相互間に、合成樹脂成型体相互の接合方向に押圧力を加えることで合成樹脂成型体相互間の間隙を減少すことができ仕上がり精度を上げることができる。ここで、マイクロ波発熱体の厚みは、マイクロ波エネルギの制御マイクロ波エネルギの制御(マイクロ波板状発熱体の温度制御)及び接合面に加える押圧力によって決定され、自重に置き換えることもできる。
そして、マイクロ波によって誘電加熱自在なマイクロ波発熱体の熱容量が小さいから、発熱時間が極めて短時間で済み、量産化が可能である。
更に、3個以上の合成樹脂成型体相互間を一度に溶着させる際でも、マイクロ波発熱体を調整することによって、各溶着部の加熱の程度を均一にする等の調整が可能となる。また、マイクロ波によって誘電加熱自在なマイクロ波発熱体の形状を、熱容量を基に設定すれば均一な溶融状態が得られ、合成樹脂樹脂成型体に熱的に変形する歪を残すことはない。
したがって、樹脂製成型体の熱容量が均一でなくても、また、樹脂製成型体相互間の溶着を均一に高精度で行うことができるマイクロ波発熱体による溶着方法となる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】図1は本発明の実施の形態にかかる合成樹脂成型体としての樹脂製バルブボディの組み立て工程の概念図であり、(a)は組み付け概念図、(b)は組み付け溶着前完成図を説明する製造工程を示すものである。
【図2】図2は本発明の実施の形態にかかる合成樹脂成型体としての樹脂製バルブボディの一部断面図である。
【図3】図3は本発明の実施の形態にかかるマイクロ波発熱体の平面図で、基本形状の平面図(a)、穿孔形状の平面図(b)、長円形状の平面図(c)、メッシュ形状の平面図(d)を示すものである。
【図4】図4は本発明の実施の形態にかかるマイクロ波発熱体と合成樹脂成型体の溶着面との関係を説明する説明図で、(a)は溶着面が狭い場合(b)は溶着面が広い場合である。
【図5】図5は本発明の実施の形態にかかるマイクロ波発熱体にマイクロ波を照射した場合の時間−温度特性図である。
【図6】図6は本発明の実施の形態にかかるマイクロ波発熱体にマイクロ波を照射するマイクロ波の出力パターンを示す説明図である。
【図7】図7は本発明の実施の形態にかかるマイクロ波発熱体の時間−温度特性図である。
【図8】図8は本発明の実施の形態にかかるマイクロ波発熱体を用いて製造した樹脂製バルブボディの製造過程の工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
[実施の形態]
以下、本発明の実施の形態について、図面に基づいて説明する。なお、図中、本実施の形態における同一記号及び同一符号は、同一または相当する機能部分であるから、ここでは重複する説明を省略する。
図1乃至図5において、まず、本発明の実施の形態にかかるマイクロ波発熱体を合成樹脂成型体としての樹脂製バルブボディに使用する場合の全体の構成を概略的に説明する。
合成樹脂成型体としては、オートマチックトランスミッションにおける自動変速を行う油圧や油量を制御する複数のコントロールバルブが収容された後リニアソレノイド(図示では1個)を収容する樹脂製バルブボディ100を2個以上に、コントロールバルブ収容部位の中心線に沿って分割して形成し、前記複数の本実施の形態では、6個に分割してなるバルブボディ樹脂成型体11,12,13,14,15,16から構成されている。この実施の形態で示すコントロールバルブとしてのリニアソレノイドバルブAは、電磁制御部A1とバルブ部A2で構成されている。
【0024】
それら合成樹脂成型体としてのバルブボディ樹脂成型体11,12,13,14,15,16の相互間には、マイクロ波によって誘電加熱自在なマイクロ波発熱体21,22,23,24,25が配置され、マイクロ波発熱体21,22,23,24,25間を狭める方向に、即ち、積載方向に外力を与えて、そこにマイクロ波を照射することによって両者を溶着するものである。
【0025】
次に、本実施の形態にかかる合成樹脂成型体としての樹脂製バルブボディを仔細に説明する。
合成樹脂成型体としてのバルブボディ樹脂成型体11,12,13,14,15,16は、オートマチックトランスミッションにおける自動変速を行う油圧や油量を制御する複数のコントロールバルブ収容部位の中心線に沿って開口面(端面)を形成し、前記複数のコントロールバルブを収容する樹脂製バルブボディ100を、本実施の形態では6個、即ち、上から順にアッパー(U)、ミドル(1)、ミドル(2)、ミドル(3)、ミドル(4)、ロアー(L)に分割したものである。
なお、この樹脂製バルブボディ100は、従来は金属製であり、鋳込み、切削加工等を経て製造されたものを、本実施の形態では、合成樹脂製とし6個に分割して成型し、その後溶着して一体化したものである。
【0026】
なお、図1に示すように、バルブボディ樹脂成型体11,12,13,14,15,16は、積層させて、この各層間を溶着させるために、各層間に本発明の実施の形態のマイクロ波発熱体21,22,23,24,25を配置するが、各層の両面には必要に応じて、凹部や溝、孔部、凸部を設け、全ての層を溶着させた後には、これらの凹部、溝、孔部、凸部が互いに接続され、目的とする機能を発揮させることになる。
したがって、後述するマイクロ波発熱体21,22,23,24,25は、当該形状に合致した形状に形成される。
【0027】
マイクロ波板状発熱体21,22,23,24,25は、バルブボディ樹脂成型体11,12,13,14,15,16の相互間に挟まれ、マイクロ波を照射されることによってマイクロ波板状発熱体21,22,23,24,25が発熱し、バルブボディ樹脂成型体11,12,13,14,15,16を溶着するもので、全体が均一の厚みの板状であり、被溶着物であるバルブボディ樹脂成型体11,12,13,14,15,16の接合面の間に挟んだ状態で、押圧力を加え、マイクロ波を照射して加熱するものである。マイクロ波板状発熱体21,22,23,24,25は厚すぎると、バルブボディ樹脂成型体11,12,13,14,15,16間に空隙を生じる恐れ、バリが発生する恐れがあるので、導電性の板状合成樹脂からなるマイクロ波板状発熱体21,22,23,24,25は厚さが2mm以下、好ましくは1mm以下とすることが好ましい。勿論、全体が均一の厚みでなくても、その接合面積及び機械的強度等を考慮し、厚みの変化を持たせることもできる。
【0028】
特に、マイクロ波板状発熱体21,22,23,24,25の厚さが2mm以下、好ましくは1mm以下とは、マイクロ波板状発熱体21,22,23,24,25を挟み込んだ際のバルブボディ樹脂成型体11,12,13,14,15,16相互間の隙間が2mm以下、好ましくは1mm以下となるので、できるだけ薄いマイクロ波板状発熱体21,22,23,24,25を使用するのが好適である。そしてマイクロ波板状発熱体21,22,23,24,25の発熱によってマイクロ波板状発熱体21,22,23,24,25に接するバルブボディ樹脂成型体11,12,13,14,15,16の接合面内の接触面及びその接触面近傍が溶融または軟化するとともにバルブボディ樹脂成型体11,12,13,14,15,16に加えられた押圧力によってバルブボディ樹脂成型体11,12,13,14,15,16相互間の隙間が減少する。発明者等の実験においては、溶着の実施により、0.01mm以下または0.005mm以下の接合誤差が生ずる程度であり、所定の押圧力を確保すれば、精度のよい接合を行うことができた。
なお、このときの溶着する際の押圧力は、バルブボディ樹脂成型体11,12,13,14,15,16相互間に挟まれたマイクロ波板状発熱体21,22,23,24,25の体積を少なくする方向に押圧力を加えるものである。ここで、2mmを超えるとマイクロ発熱体を合成樹脂成型体間に配置したときの間隙が大きく、押圧を加えて溶着した後に合成樹脂成型体間に間隙が残りやすい。
【0029】
また、本実施の形態で使用するマイクロ波板状発熱体21,22,23,24,25は、例えば、図3(a)〜(d)に示されているように、マイクロ波板状発熱体20(21,22,23,24,25)として、その平面の角は面取りとしてのR(アール)が形成されている。この面取りにより、照射するマイクロ波エネルギの集中が生じないので、スパークの発生、バルブボディ樹脂成型体11,12,13,14,15,16の焼け等が防止される。面取りは大きいほうが好ましく、溶着する製品の幅とマイクロ波板状発熱体の幅から設定される。また、面取りはR形状以外にもにスパークの発生が生じないのであれば平面の角度が90度以上の斜めの直線状に面取りすることも有り得る。そして全体の平面形状は図1(a)のマイクロ波板状発熱体21,22,23,24,25として示されているように、バルブボディ樹脂成型体11,12,13,14,15,16の接合面に沿った形状であり、その幅は図4(a)または図4(b)に示したようにバルブボディ樹脂成型体11,12,13,14,15,16の接合面の幅より狭い幅に設定されている。このようにマイクロ波板状発熱体21,22,23,24,25の幅をバルブボディ樹脂成型体11,12,13,14,15,16の接合面の幅より小さくすることで溶着時に接合面から溶融した樹脂がはみ出すことを防止している。
【0030】
勿論、本発明の実施の形態のマイクロ波発熱体21,22,23,24,25の大きさや形状は、合成樹脂成型体としてのバルブボディ樹脂成型体11,12,13,14,15,16の形状や構造などによって決定されるが、バルブボディ樹脂成型体11,12,13,14,15,16の形状や構造が複雑化する程、溶着部の溶着面も複雑な形状となり、より高精度な溶着が必要とされることになる。このような場合には、図4(b)〜(d)に示されるように、マイクロ波発熱体20(21,22,23,24,25)に貫通孔としての穿設孔20aを設けたり、特定方向に貫通孔が長い長円穿設形状20bを設けたり、または、マイクロ波発熱体21,22,23,24,25自体を網状に貫通孔を形成したメッシュ形状20cで形成することができる。網状に貫通孔を形成したメッシュ形状20cは、図4(d)においては、長方形の開口としているが、円形または三角形、平行四辺形等の開口とすることができる。
【0031】
殊に、マイクロ波発熱体20(21,22,23,24,25)の図3(d)のメッシュ形状20cは、全体に孔の行及び列を複数とし、そのマトリックスで接合するものである。接合面積が広い場合に使用すると好適である。
特に、図3(b)及び(c)のマイクロ波発熱体20(21,22,23,24,25)の穿設孔20a、長円穿設形状20bは、その空間にマイクロ波エネルギを使用しないので、周囲の温度上昇が高い効率的な制御となり、マイクロ波発熱体20(21,22,23,24,25)の溶着作業速度を早めることができる。
【0032】
また、このようにマイクロ波板状発熱体21,22,23,24,25に穿設孔20a、長円穿設形状20bを設けたり、メッシュ形状20cとすることによって、予め接合面に形成される図示しない微小な突起等の位置決め突部に、穿設孔20a、長円穿設形状20b、メッシュ形状20cの目を挿入することによって、接合面の所定の位置にマイクロ波板状発熱体21,22,23,24,25を正確に位置決めしながら溶着することが可能となる。特に、マイクロ波板状発熱体21,22,23,24,25として特定の複雑形状のシートを挟む場合等に好適である。なお、微小な位置決め突部は、マイクロ波板状発熱体21,22,23,24,25の厚みの2/3〜1/3程度の高さが、溶着に影響を与え難く、かつ、取り付け作業性を良くしている。
【0033】
また、このような穿設孔20a、長円穿設形状20b、メッシュ形状20cの貫通孔を利用し、バルブボディ樹脂成型体11,12,13,14,15,16に形成した図示しない微小な突起を挿入させて、バルブボディ樹脂成型体11,12,13,14,15,16とマイクロ波板状発熱体21,22,23,24,25の平面形状の位置合わせを行い、その後に溶着させることによって、精度が高い組み付け溶着を行うことができる。
【0034】
このようなマイクロ波板状発熱体21,22,23,24,25に設けた穿設孔20a、長円穿設形状20b、メッシュ形状20c等の貫通孔等は、対応するバルブボディ樹脂成型体11,12,13,14,15,16の接合面、即ち、各層の溶着部の表面に貫通孔等に対応する突起を設けることによって、接合面にマイクロ波板状発熱体21,22,23,24,25を正確に位置決めする精度の向上や、マイクロ波板状発熱体21,22,23,24,25のセットに要する時間を短縮させることができる。
【0035】
この際マイクロ波板状発熱体21,22,23,24,25が導電体である金属粉末を混練した熱可塑性樹脂フィルムである場合、バルブボディ樹脂成型体11,12,13,14,15,16に由来する樹脂と、マイクロ波板状発熱体21,22,23,24,25を形成している樹脂が、互いに同一材料であると、十分に溶融・混合されることによって、溶着後の接着強度を向上させることが可能となり、そのような機械的強度の向上は溶着により得た各種部材自体の強度を向上させることになり、バルブボディ樹脂成型体11,12,13,14,15,16が一体化でき、本発明の実施の形態にかかる樹脂製バルブボディ100としての信頼性を高めることになる。ここで参考までに記載するが、図3に示したマイクロ波板状発熱体20の形状は本発明の実施の形態に使用するマイクロ波板状発熱体21,22,23,24,25の一部分に適用するものとして説明のために記載したものであり、この形状のままで使用するものではない。したがって、本発明の実施の形態である樹脂製バルブボディ以外の合成樹脂成型体相互間を溶着する場合は図3に示したマイクロ波板状発熱体20が使用できる。
【0036】
マイクロ波発熱体21,22,23,24,25は、基本的には熱可塑性樹脂と金属粉末からなる。熱可塑性材料としては、公知の熱可塑性材料、例えば、エンジニアリング・プラスチック、スーパー・エンジニアリング・プラスチックを用いることができる。具体的には、ポリアミド(ナイロン、芳香族ポリアミド等)、ポリアセタール、ポリカーボネート、変性ポリフェニレンエーテル、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ガラス繊維強化ポリエチレンテレフタレート、環状ポリオレフィン等がある。そして、スーパーエンプラとしては、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリスルホン、ポリエーテルサルフォン、非晶ポリアレート、液晶ポリマー、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、熱硬化性ポリイミド、ポリアミドイミド等がある。
【0037】
本発明の実施の形態にかかる樹脂製バルブボディ100で、どのような熱可塑性材料を使用するかは、バルブボディ樹脂成型体11,12,13,14,15,16との相溶性を考慮して決定される。
例えば、バルブボディ樹脂成型体11,12,13,14,15,16の材料がポリエチレンであれば、マイクロ波発熱体21,22,23,24,25に使用する樹脂もポリエチレンとし、バルブボディ樹脂成型体11,12,13,14,15,16の材料がPPS樹脂であれば、マイクロ波発熱体21,22,23,24,25に使用する樹脂材料も同様にPPS樹脂を使用する等、バルブボディ樹脂成型体11,12,13,14,15,16を構成する樹脂と同じ樹脂を用いて成形して得たマイクロ波発熱体21,22,23,24,25を使用することが、バルブボディ樹脂成型体11,12,13,14,15,16とマイクロ波発熱体21,22,23,24,25との樹脂の相溶性を最適なものとするのが好ましい。なお、バルブボディ樹脂成型体11,12,13,14,15,16の材料とマイクロ波板状発熱体21,22,23,24,25に使用する樹脂材料が異なっていても溶着性に影響を与えない限り使用可能である。
通常、本実施の形態のマイクロ波発熱体21,22,23,24,25を構成する材料としは、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、PPS樹脂、ポリアミド樹脂等をマイクロ波発熱体21,22,23,24,25に使用される樹脂として選択される。
【0038】
本実施の形態のマイクロ波発熱体21,22,23,24,25に使用される金属粉末となる金属としては、図7に示したように銅、酸化鉄、アルミニウム等の金属を選択し使用することができる。更に、金属粉末として金属を酸化してなる粉末も使用することができる。これらの金属粉末はレーザ回折・散乱法によって測定した中位径、即ち、粉体の粒径分布において、ある粒子径より大きい個数または質量が全粉体の50%をしめるときの粒子径が1〜100μmであり、更には、中位径が3μm〜30μmのものを好ましく使用することができる。
当然ながら、ふるい分け試験で測定した粒子径の値が1μm〜100μmの範囲内とすることもできる。
【0039】
なお、ここで、「ふるい分け試験」とは、JIS−Z−8801によって規定された目開きをもつ標準ふるいを用いて、測定対象となる粉末をふるい分けることによって粒度分布を測定する試験方法をいうものである。標準ふるいなどを用いて行う粒径,粒径分布を測定する方法のことである。粒径と、粒径分布の表現は、使用したふるいの目開き(μm )とふるい上残量(オーバサイズ)またはふるい下通過量(アンダーサイズ)の全体に対する比率で表される。
【0040】
本実施の形態のマイクロ波発熱体21,22,23,24,25は、熱可塑性樹脂フィルム上にコートした金属薄膜や金属箔としても、金属粉末を使用した場合と同じ金属を採用することができる。また、これらの金属薄膜や金属箔としては、熱可塑性樹脂フィルム上に担持され得る程度の薄さでよく、通常、金属薄膜や金属箔として使用される範囲内の厚さを有する熱可塑性樹脂フィルムで、約0.01mm以下の蒸着、スパッタリングされた金属薄膜や金属箔が形成されていればよい。
また、熱可塑性樹脂フィルム上に担持させることなく、金属箔単独にて金属薄膜に代えて、板状のマイクロ波発熱体とすることもできる。特に、このときには合成樹脂成型体としてのバルブボディ樹脂成型体11,12,13,14,15,16が、熱可塑性樹脂である必要がある。
何れにせよ、本発明の実施の形態にかかる樹脂製バルブボディ100においては、マイクロ波によって誘電加熱自在なマイクロ波板状発熱体21,22,23,24,25が、導電体である金属粉末を混練した熱可塑性樹脂フィルム若しくは金属薄膜を有する熱可塑性樹脂フィルムとして形成したもの、または金属箔であればよい。
【0041】
本実施の形態のマイクロ波発熱体21,22,23,24,25によって溶着されるバルブボディ樹脂成型体11,12,13,14,15,16としては、基本的には熱可塑性樹脂からなる成形体であれば良い。熱可塑性樹脂としては、公知の熱可塑性樹脂を使用することが可能であるが、どのような熱可塑性樹脂を使用するかは、熱可塑性樹脂成形体の用途や形状等、従来の考え方によって決定される。
実際には、合成樹脂成型体としてのバルブボディ樹脂成型体11,12,13,14,15,16を構成する材料としては、ポリエチレン樹脂やポリプロピレン樹脂等のポリオレフィン樹脂、PPS樹脂、ポリアミド樹脂等をバルブボディ樹脂成型体11,12,13,14,15,16に使用される樹脂として選択される。本実施の形態のマイクロ波発熱体21,22,23,24,25はその発熱温度を高温とすることができるので、PPS等の高融点の樹脂にも対応することが可能である。
また、バルブボディ樹脂成型体11,12,13,14,15,16は、熱可塑性樹脂に対して、公知の樹脂用添加剤を配合されたものでよい。着色材、可塑剤、酸化防止剤、充填材等を含有させることができる。
【0042】
即ち、マイクロ波発熱体21,22,23,24,25としては、銅粉等の金属粉を含有する熱可塑性樹脂を採用する場合には、その熱可塑性樹脂としては、バルブボディ樹脂成型体11,12,13,14,15,16を構成する熱可塑性樹脂と同じ樹脂が好ましい。同じ樹脂であれば、マイクロ波発熱体21,22,23,24,25を構成する樹脂との相溶性に優れるので、溶着後の溶着強度に優れた製品とすることができる。
【0043】
本発明の実施の形態の合成樹脂成型体としてのバルブボディ樹脂成型体11,12,13,14,15,16の積層形状は、任意の積層でよいが、例えば、図1に示すように、6層程度までの薄板であってそれを重ねて形成されるものでもよい。この場合、各層の両面には凹部や溝が設けられ、これらの層を重ねることによって、内部に流路等が形成された成形体とすることができる。
【0044】
本実施の形態で使用するマイクロ波発熱体21,22,23,24,25を加熱するマイクロ波発生装置としては、マイクロ波を照射することができる形態であればよく、市販の産業用マイクロ波発生装置が使用できる。また、均一にマイクロ波を照射するために、内部に載置したバルブボディ樹脂成型体11,12,13,14,15,16に対して、収容装置の壁面構造、マイクロを拡販するための構造、バルブボディ樹脂成型体11,12,13,14,15,16を載置するターンテーブルの構造、形状、回転条件等を最適化させるのが望ましい。
【0045】
次に、具体的な本発明の実施の形態にかかる樹脂製バルブボディの溶着について説明する。
溶着方法としては、例えば、図4に示すように、実施例を説明するための溶着部分の要部断面を示す。
合成樹脂成型体としてのバルブボディ樹脂成型体11,12,13,14,15,16の各層は、例えば、PPSのような熱可塑性樹脂からなり、必要に応じて各種樹脂用添加剤が配合されている。
【0046】
図4(a)に示すように、バルブボディ樹脂成型体11,12の幅3mmの接合面の溶着部11a、12a相互を溶着する場合には、その溶着部の中心にマイクロ波板状発熱体21を設けることになる。例えば、該溶着部11a、12aの相互の幅が3mmであれば、その中心に設置するマイクロ波板状発熱体21の幅は0.5〜2.0mm程度が好ましい。0.5mm未満であれば十分に加熱溶着することができない場合もあるし、2mmを超えるとバルブボディ樹脂成型体11,12の接合面の樹脂が溶融しすぎて、バリが発生する可能性がある。
【0047】
同じく、図4(b)に示すように、バルブボディ樹脂成型体11,12の幅が5mm程度の厚肉部を溶着する場合には、マイクロ波発熱体21の幅は1.5〜4mm程度が好ましく、マイクロ波発熱体21の幅が狭すぎたり、広すぎたりする場合には、前者と同様の問題が生じる。
【0048】
本実施の形態のマイクロ波発熱体21,22,23,24,25に含有される金属粉末は30〜80重量%であり、特に、50〜70重量%とすることが好ましい。30重量%未満であれば、十分に効率よく加熱されない可能性があり、80重量%を超えると使用する樹脂量が少なくなるために、マイクロ波発熱体21,22,23,24,25とバルブボディ樹脂成型体11,12,13,14,15,16との間で樹脂を相溶させることによる強力な溶着強度を発揮することが困難になる可能性がある。
このような金属粉末含有樹脂からなるマイクロ波発熱体21,22,23,24,25は、金属粉末含有熱可塑性樹脂を押し出し成型または射出成型等によりシート状のマイクロ波発熱体21,22,23,24,25とした後、必要に応じてさらに加圧して延ばすことによって薄膜化することもできる。
【0049】
このように、被溶着物である合成樹脂成型体としてのバルブボディ樹脂成型体11,12,13,14,15,16と、バルブボディ樹脂成型体11,12,13,14,15,16の各層間にマイクロ波発熱体21,22,23,24,25を設置させて、マイクロ波発熱体21,22,23,24,25を解してバルブボディ樹脂成型体11,12,13,14,15,16の各層を積層させ、マイクロ波をこの積層してなるマイクロ波発熱体21,22,23,24,25に照射するものである。その際、バルブボディ樹脂成型体11,12,13,14,15,16の各層の間で十分に溶着することができるよう、バルブボディ樹脂成型体11,12,13,14,15,16の各層間は0.1〜5.0MPaの加圧力で加圧されることが好ましい。このような加圧された状態にてマイクロ波を0.5〜10KWの出力で照射すると、マイクロ波発熱体21,22,23,24,25が発熱されてバルブボディ樹脂成型体11,12,13,14,15,16の溶着表面が溶融を始めるから、加圧力を弱くする等の調整を行うことによって、バリの発生防止や溶着後の製品の寸法精度を良好にすることができる。
【0050】
このとき、マイクロ波発生装置の出力は、図6に示すように、急激に出力を上げ、その出力でマイクロ波発熱体21,22,23,24,25の軟化及び溶融状態に変化させ、その溶融状態を出力の調整によって制御し、マイクロ波発熱体21,22,23,24,25を均一温度とするものである。
このとき、図5に示すように、マイクロ波発熱体21,22,23,24,25の温度特性は、速やかに溶融温度に上昇し、所定の融着温度となり、通常、30秒以内に融着温度となる。但し、マイクロ波発熱体21,22,23,24,25の立ち上げの温度特性は、白抜き矢印に示すように、出力を大きくすると早期に立ち上がることになる。
マイクロ波発熱体21,22,23,24,25が融着温度となると、その接着方向に対する押圧力によってバルブボディ樹脂成型体11,12,13,14,15,16相互が密に融着される。
【0051】
このようなマイクロ波発生装置によりバルブボディ樹脂成型体11,12,13,14,15,16を加熱して溶着を行った後、バルブボディ樹脂成型体11,12,13,14,15,16をマイクロ波発生装置から取り出し放冷することによって、溶着工程を終了させる。或いは、加熱工程を2回以上行う必要がある場合には、放冷前後のいずれかにおいて、2回目以降のマイクロ波照射を行うことになる。
【0052】
また、図6に示すように、マイクロ波照射後、一定時間を経過(例えば、30秒)した後に、出力を上下させる等の制御を行うのが好適である。
【0053】
このように構成された合成樹脂成型体の溶着方法は、図8に示されているように、成形された合成樹脂成型体としてのバルブボディ樹脂成型体11,12,13,14,15,16の中から、まず、ロアー(L)バルブボディ樹脂成型体11を基にして、マイクロ波発熱体21をロアー(L)バルブボディ樹脂成型体11の最適な位置に配置し、そして、そのマイクロ波発熱体21を挟むようにミドル(4)バルブボディ樹脂成型体12を載置する。
【0054】
また、ミドル(4)バルブボディ樹脂成型体12の上の最適な位置にマイクロ波発熱体22を配置し、そのマイクロ波発熱体22を挟むようにミドル(3)バルブボディ樹脂成型体13を載置する。同様に、ミドル(3)バルブボディ樹脂成型体13の上にマイクロ波発熱体23をミドル(3)バルブボディ樹脂成型体13の最適な位置に配置し、そのマイクロ波発熱体23を挟むようにミドル(2)バルブボディ樹脂成型体14を載置する。同様に、ミドル(2)バルブボディ樹脂成型体14の上にマイクロ波発熱体24をミドル(2)バルブボディ樹脂成型体14の最適な位置に配置し、そして、その上にミドル(1)バルブボディ樹脂成型体15を載置する。
【0055】
更に、ミドル(1)バルブボディ樹脂成型体15の上にマイクロ波発熱体25を最適な位置に配置し、その上にアッパー(U)バルブボディ樹脂成型体16を載置する。この間、この間、チェックボール、サブストレーナ、バイパスルブ等の部品をバルブボディ樹脂成型体11,12,13,14,15,16で挟み込む所定の位置に配置する。
【0056】
最後に、全体をボルト等で仮止めして各種組み込み部品の組付けを完了する。そして、部品の組付けを完了した樹脂製バルブボディ100に対して、バルブボディ樹脂成型体11,12,13,14,15,16の積載方向に平行な押圧力を加え、同時に、部品の組付けを完了した樹脂製バルブボディ100に対してマイクロ波を照射させて溶着する。
次に、各油圧系統等の漏れの存在を確認し、各油圧系統に漏れが存在していないとき、次の部品取り付け工程、即ち、後工程に入る。後工程では、スリーブの圧入、カラーの圧入、複数のコントロールバルブの挿入、リニアソレノイドの組付け、他のバルブの取付け等を行い、動作チェックの後に出荷される。
【0057】
[実施例]
本発明の実施例として、マイクロ波板状発熱体21,22,23,24,25を製造し、これを用いた樹脂製バルブボディ及びその製造方法を説明する。
オートマチックトランスミッションにおける自動変速を行う油圧や油量を制御する複数のコントロールバルブを収容する樹脂製バルブボディ100を、コントロールバルブ収容部位の中心線に沿って6個に分割して形成する。ここで、樹脂製バルブボディ100に収容するコントロールバルブ収容部位の中心線に沿って6個に分割とは、樹脂製バルブボディ100の分割できるパーティングラインを意味し、バルブボディ樹脂成型体11,12,13,14,15,16に円筒状のコントロールバルブを収容できることを意味する。ここで使用した樹脂はPPS樹脂である。
【0058】
金属粉としては、レーザ回折・散乱法によって測定した中位径(粉体の粒径分布において、ある粒子径より大きい個数または質量が全粉体の50%をしめるときの粒子径)が10μmの銅粉を採用し、PPS樹脂に70重量%となるように混合し、マイクロ波発熱体21,22,23,24,25を0.1mmの薄いPPS樹脂シートとした。PPS樹脂からなるバルブボディ樹脂成型体11,12,13,14,15,16は、6層を形成する樹脂部品とし、それらを積層させ、内部に流路等が形成されるように各層の片面または両面を合わせている。
【0059】
合成樹脂成型体としてのバルブボディ樹脂成型体11,12,13,14,15,16の層の構成は、図1に示すとおりである。これらの6層のバルブボディ樹脂成型体11,12,13,14,15,16を積層させる際に生じる各層の計5か所の間にマイクロ波発熱体21,22,23,24,25を配置した。これらの5枚のマイクロ波発熱体21,22,23,24,25と6層のバルブボディ樹脂成型体11,12,13,14,15,16を積層させ、更にこの積層させた樹脂製バルブボディ100に対して、マイクロ波により加熱されないセラミックの治具により固定し、この積層させてなるバルブボディ樹脂成型体11,12,13,14,15,16及びマイクロ波発熱体21,22,23,24,25を0.1〜5.0MPa程度の圧力で加圧し、その状態でマイクロ波を照射し、溶着を行った。
【0060】
即ち、図1(b)として示すように、マイクロ波発熱体21,22,23,24,25は、加熱により樹脂が溶解するから、各層のバルブボディ樹脂成型体11,12,13,14,15,16が互いに沈み込むから、加える荷重を調整することによって、寸法精度を上げることができ、かつ、溶着によるバリの発生を防止することができる。
その溶着後の各層を拡大した状態を図2に示す。この図2においては、6層を形成するバルブボディ樹脂成型体11,12を断面として見たもので、それらの間にはマイクロ波発熱体21が挟まれている。
【0061】
ここで、マイクロ波発熱体21,22,23,24,25は、各層を積層させることによって形成される作動油の流路等にはみ出すことがないように、各層が溶着される樹脂面に正確に設置されていることが必要である。前述したように、各層が溶着される樹脂面の幅が3mmの場合、発熱体の幅を1mmとするようにし、必要に応じて、マイクロ波発熱体21,22,23,24,25の樹脂が直接溶着できるよう、マイクロ波発熱体21,22,23,24,25をその条件に応じた形状または貫通孔を穿設する。
【0062】
このように、被溶着物を構成するバルブボディ樹脂成型体11,12,13,14,15,16と、バルブボディ樹脂成型体11,12,13,14,15,16の各層間にマイクロ波板状発熱体21,22,23,24,25を設置させて、マイクロ波板状発熱体21,22,23,24,25を介してバルブボディ樹脂成型体11,12,13,14,15,16の各層を積層させ、マイクロ波をこの積層してなるマイクロ波板状発熱体21,22,23,24,25に照射するものである。その際、バルブボディ樹脂成型体11,12,13,14,15,16の各層の間で十分に溶着することができるよう、バルブボディ樹脂成型体11,12,13,14,15,16の各層間は0.1〜5.0MPaの加圧力で加圧されることが必要である。このような加圧された状態にてマイクロ波を0.5〜10KWの出力で照射すると、マイクロ波板状発熱体21,22,23,24,25が発熱されてバルブボディ樹脂成型体11,12,13,14,15,16の接合面の溶着表面が溶融を始めるから、加圧力を弱くする等の調整を行うことによって、バリの発生防止や溶着後の製品の寸法精度を良好にすることができる。
【0063】
また、マイクロ波を照射してマイクロ波発熱体21,22,23,24,25を加熱する際、マイクロ波発熱体21,22,23,24,25の発熱温度を、マイクロ波の照射エネルギを制御することで、高精度に制御することが可能であり、安定した溶着が可能であり、樹脂製バルブボディ100をより容易に製造することが可能である。そして、マイクロ波発熱体21,22,23,24,25の形状を任意の形状に設定することによって、緻密で、均一な溶着が可能となる。特に、バルブボディ樹脂成型体11,12,13,14,15,16の溶着面の一部分を加熱することができ、溶着工程によるバリの発生を防止することができる。
【0064】
更に、マイクロ波板状発熱体21,22,23,24,25が、バルブボディ樹脂成型体11,12,13,14,15,16の接合面の形状に則して形成されているから、 バルブボディ樹脂成型体11,12,13,14,15,16に対してマイクロ波発熱体21,22,23,24,25をセットする時間が極めて短時間で済み作業性がよい。
また、バルブボディ樹脂成型体11,12,13,14,15,16の溶着面には、特許文献1のように、マイクロ波発熱体21,22,23,24,25を収納するための溝を形成する必要はない。
そして、バルブボディ樹脂成型体11,12,13,14,15,16の溶着面が複雑な形状であっても、その形状に適合した複雑な形状のマイクロ波発熱体21,22,23,24,25を得ることができるので、いかなる複雑な形状に対しても溶着が可能である。
【0065】
加えて、マイクロ波発熱体21,22,23,24,25は金属粉末を含有させることによって発熱させるので、一度加熱した後の再加熱が可能である。また、被溶着物のバルブボディ樹脂成型体11,12,13,14,15,16を複数層一度に溶着させる際には、金属粉末と熱可塑性樹脂のそれぞれの含有比率を調整することによって、各溶着部の加熱の程度を均一にする等の調整が可能となる。
【0066】
以上説明してきたように、本発明のマイクロ波発熱体及びこのマイクロ波発熱体に押圧力を加えながら行う溶着方法は、樹脂製バルブボディの製作に例示されるような複数の合成樹脂成型体の溶着に、特に、3以上の合成樹脂成型体を同時に溶着するのに有効である。そして、図3(a)〜図3(d)に示したようにマイクロ波発熱体の基本形状は角が面取りされてマイクロ波の角部への集中が起き難い形状となっていてスパーク等による不具合の発生を抑制している。さらに本発明のマイクロ波発熱体の平面内部には孔やメッシュ形状の切り欠きを設けることで、これらの切り欠きを使用して合成樹脂成型体の接合面の溶着部位にマイクロ波発熱体を正確に配置することが可能となる。更に、これら切り欠き部を通してマイクロ波発熱体に接して対面する合成樹脂成型体相互の樹脂が溶融接着し接合強度を上げることも期待できる。また本発明のマイクロ波発熱体は図3(a)〜図3(d)に示したような長方形等の規定の形状を用いて溶着させることができるが、合成樹脂成型体の接合面の形状に沿った特定の形状に形成して使うことができる。このように接合面の形状に沿った特定形状にすることで合成樹脂成型体の接合面にマイクロ波発熱体を短時間で設置することが可能となる。更に、合成樹脂成型体相互をより確実な接合が得られる。
【0067】
このような本発明の実施の形態にかかるマイクロ波発熱体による溶着方法の適用にはオートマッチックトランスミッション用樹脂製バルブボディ以外にも、例えば、自動車用としてCVT、HV等用のバルブボディや溶着を複数回繰り返して製品化していたインテークマニホールド、リザーバタンク等が例示される。また、自動車用以外では、油圧制御が必要な装置用の樹脂製バルブボディ、燃料電池のセパレータ等の多層の樹脂部品を固定してなるものにも適用可能である。勿論、これらに限定されるものではなく、2つ以上の熱可塑性樹脂からなる部材を一体化させてなる部材等の製造に使用することも可能である。
【符号の説明】
【0068】
A リニアソレノイドバルブ
A1 電磁制御部
A2 バルブ部
11,12,13,14,15,16 バルブボディ樹脂成型体
20、21,22,23,24,25 マイクロ波発熱体
100 樹脂製バルブボディ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電体粉末を混練して、2mm以下の厚みとし、複数の合成樹脂成型体相互間に配置され、マイクロ波によって誘電加熱自在な熱可塑性樹脂フィルムとし、前記合成樹脂成型体相互間に押圧力を加えて溶着することを特徴とするマイクロ波発熱体。
【請求項2】
金属薄膜をコーティングして、2mm以下の厚みとし、複数の合成樹脂成型体相互間に配置され、マイクロ波によって誘電加熱自在な熱可塑性樹脂フィルムとし、前記合成樹脂成型体相互間に押圧力を加えて溶着することを特徴とするマイクロ波発熱体。
【請求項3】
金属箔を0.5mm以下の厚みとし、複数の合成樹脂成型体相互間に配置され、マイクロ波によって誘電加熱自在とし、前記合成樹脂成型体相互間に押圧力を加えて溶着することを特徴とするマイクロ波発熱体。
【請求項4】
前記マイクロ波発熱体は、前記合成樹脂成型体相互の接合面の形状に沿って形成されていることを特徴とする請求項1乃至請求項3の何れか1つに記載のマイクロ波発熱体。
【請求項5】
前記マイクロ波発熱体は、全角が面取り処理されていることを特徴とする請求項1乃至請求項4の何れか1つに記載のマイクロ波発熱体。
【請求項6】
前記マイクロ波発熱体は、位置決めする貫通孔が穿設されていることを特徴とする請求項1乃至請求項5の何れか1つに記載のマイクロ波発熱体。
【請求項7】
導電体粉末を混練して、若しくは金属薄膜をコーティングしてなる2mm以下の厚みの熱可塑性樹脂フィルムとし、または金属箔を0.5mm以下の厚みとし、それを合成樹脂成型体相互間に配置し、前記熱可塑性樹脂フィルムを挟持する方向に押圧力を加えると共に、マイクロ波によって前記熱可塑性樹脂フィルムを誘電加熱して前記前記合成樹脂成型体相互間を溶着することを特徴とするマイクロ波発熱体による溶着方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−84438(P2012−84438A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−230812(P2010−230812)
【出願日】平成22年10月13日(2010.10.13)
【出願人】(000100780)アイシン化工株式会社 (171)
【Fターム(参考)】