説明

マイクロ電気機械スイッチ(MEMS)を基にした過電流モータ保護システム

【課題】マイクロ電気機械スイッチ(MEMS)を基にした過電流モータ保護システムを提供する。
【解決手段】過電流保護システム10が、電流の変化率が所定の値を超えていることを示す電気変化率信号を出力するように構成および配置された電流検知部材20と、電流検知部材20に機能的に接続された少なくとも1つのマイクロ電気機械スイッチ(MEMS)装置30と、電流検知部材20と少なくとも1つのMEMS装置30とのそれぞれに電気的に結合されたコントローラ40と、を含んでいる。コントローラ40は、電気変化率信号に応答して少なくとも1つのMEMS装置30を開くように構成および配置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書で開示する主題は、モータ制御の技術に関し、より詳細には、マイクロ電気機械スイッチ(MEMS)を基にした過電流モータ保護システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電動モータの多くはモータ・スタータに接続されている。モータ・スタータは、モータ動作を開始および停止させるためのメカニズムを与えるだけでなく、モータを過電流または短絡状態から保護する装置を含んでいる場合が多い。短絡電流によって、モータ巻線に対して損傷が生じる可能性がある。過電流損傷を防止するか少なくとも制限するために、多くのモータ・スタータでは、電流を検出し特定の電流振幅において反応する電流検知装置を用いている。電流検知装置は、電流が上昇して特定の電流振幅を超えたら、モータに対する電流を中断する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許第7,332,835号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし多くのモータは、始動時に、モータの公称上の定格電流よりも大きい初期の突入または始動電流を受ける。電流検知装置は、始動電流に付随する振幅ピークを無視してモータが始動できるようにすると同時に短絡保護を与えるようにデザインされている。その結果、既存のモータ・スタータの多くは、所定の時間(通常、ミリ秒で測定される)の間特定の振幅を超える電流をモニタしている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
典型的な実施形態の一態様によれば、過電流保護システムが、電流の変化率が所定の値を超えていることを示す電気変化率信号を出力するように構成および配置された電流検知部材と、電流検知部材に機能的に接続された少なくとも1つのマイクロ電気機械スイッチ(MEMS)装置と、電流検知部材および少なくとも1つのMEMS装置のそれぞれに電気的に結合されたコントローラと、を含んでいる。コントローラは、電気変化率信号に応答して少なくとも1つのMEMS装置を開くように構成および配置されている。
【0006】
典型的な実施形態の別の態様によれば、モータ・コントローラ・システムが、電気回路に結合された電動モータと、電気回路内の電流の変化率が所定の値を超えていることを示す電気変化率信号を出力するように構成および配置された電流検知部材と、電気回路内に配置され、電流検知部材電動モータに機能的に接続された少なくとも1つのマイクロ電気機械スイッチ(MEMS)装置と、電流検知部材と少なくとも1つのMEMS装置とのそれぞれに電気的に結合されたモータ・コントローラと、を含んでいる。モータ・コントローラは、電気変化率信号に応答して少なくとも1つのMEMS装置を開くように構成および配置されている。
【0007】
典型的な実施形態のさらに別の態様によれば、電気負荷を過電流状態から保護する方法が、パルス・アシスト・ターン・オン(PATO)パルスをPATO回路を通して発して、電気回路を通して負荷に電気的に結合されたマイクロ電気機械スイッチ(MEMS)装置を閉じることと、電気回路を通って電気負荷へ向かう電流を検知することと、電気回路内の電流の変化率をモニタすることと、電流の変化率が所定の値を超えていることを決定することと、電流の変化率が所定の値を超えていることを検出したら、信号を発して、電気回路に電気的に接続されたMEMS装置を開き、電流が電気負荷へ進むことを防止することと、を含んでいる。
【0008】
これらおよび他の優位性および特徴は、以下の説明とともに図面から明らかとなる。
【0009】
主題は、本発明とみなされるものであるが、明細書の終わりの請求項において詳細に指摘され明確に請求される。本発明の前述および他の特徴および優位性は、以下の詳細な説明とともに添付図面から明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】典型的な実施形態による過電流保護システムを例示するブロック図である。
【図2】図1の過電流保護システムを例示する概略図である。
【図3】典型的な実施形態による電気負荷を過電流状態から保護する方法を例示するフロー・チャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
詳細な説明では、本発明の実施形態とともに優位性および特徴を、一例として図面を参照して説明する。
【0012】
図1を参照して、典型的な実施形態によるモータ・コントローラ・システムを、大まかに2で示す。モータ・コントローラ・システム2は電動モータ4を含んでいる。電動モータ4は、電源6および過電流保護システム10に、電気回路13を通して電気的に結合されている。図示した典型的な実施形態では、過電流保護システム10は、電気回路13を通る電流の変化率(di/dt)を検出する電流検知部材20を含んでいる。典型的な実施形態の一態様によれば、電流検知部材20は、ホール効果センサ22という形態を取っている。しかし、当然のことながら、電流の変化率を検出することができる他のデバイスも用いることができる。以下でより十分に詳述するように、過電流保護システム10はまた、図示するように、マイクロ電気機械スイッチ(MEMS)装置30(少なくとも1つのスイッチ34を有するMEMSダイ33という形態を取っている)と、コントローラ40とを含んでいる。
【0013】
図2に最も良く示すように、MEMS装置30は、複数のコーナー・ダイオード55〜58によって形成される平衡ダイオード・ブリッジ50の中心点(別個に標示せず)にまたがって接続されている。典型的な実施形態によれば、MEMS装置30は、コーナー・ダイオード55〜58に密に結合されている。用語「密に結合する」は、MEMS装置30をコーナー・ダイオード55〜58に結合することを、ループ領域をできるだけ小さくしてループ領域に付随する浮遊インダクタンスによって形成される電圧が約1V以下に制限されるようにして行なうことを意味すると理解されたい。典型的な実施形態の一態様によれば、用語密に結合するは、MEMS装置30をコーナー・ダイオード55〜58に結合することを、浮遊インダクタンスによって形成される電圧が約1V未満に制限されたループ領域を伴って行なうことを意味すると解釈しなければならない。ループ領域は、MEMS装置30と平衡ダイオード・ブリッジ50との間の領域として画定される。典型的な実施形態の一態様によれば、スイッチング事象の間にMEMS装置30に渡って生じる誘導電圧降下は、MEMSダイ33とコーナー・ダイオード55〜58との間のループ・インダクタンスを小さい値に維持することによって制御される。スイッチングの間にMEMS装置30に渡って生じる誘導電圧は、3つの因子によって決まる。浮遊インダクタンスのレベルを確立するループ領域の長さ、平行脚当たり約1A〜約10AのMEMSスイッチ電流、および約1μ秒のMEMSスイッチング時間。
【0014】
さらにまた典型的な実施形態によれば、所望のループ領域は、たとえば、MEMS装置30を回路基板(別個に標示せず)の一方の側面に取り付けて、コーナー・ダイオード55〜58を回路基板の別の側面(MEMS装置30と正反対側)に取り付けることによって、実現することができる。別の例によれば、コーナー・ダイオード55〜58をMEMSダイ33内に一体形成することができる。いずれにしても、MEMS装置30とコーナー・ダイオード55〜58との詳細な配置は、ループ領域(引いては、インダクタンス)ができるだけ小さい値に維持される限り、変えることができることを理解されたい。また当然のことながら、MEMSデバイスの数とともに特定のMEMSダイが保持するスイッチの数は、変えることができる。本発明の実施形態をコーナー・ダイオード55〜58を用いて説明しているが、当然のことながら、用語「コーナー」は、ダイオードの物理的場所に限定されず、むしろダイオードをMEMSダイ33に対して配置することに向けられている。
【0015】
前述したように、コーナー・ダイオード55〜58を平衡ダイオード・ブリッジ50内に配置して、MEMS装置30を通る負荷電流に対して低いインピーダンス経路が実現されるようになっている。こうして、コーナー・ダイオード55〜58を配置してインダクタンスが制限され、その結果、電圧の経時変化(すなわち、MEMS装置30に渡る電圧スパイク)が制限される。図示した典型的な実施形態では、平衡ダイオード・ブリッジ50は、第1の分岐61と第2の分岐62とを含んでいる。本明細書で用いる場合、用語「平衡ダイオード・ブリッジ」によって記述されるダイオード・ブリッジは、第1および第2の分岐61および61両方における電圧降下が実質的に等しくなることが、各分岐61、62における電流が実質的に等しいときに起こるように構成されているものである。第1の分岐61では、ダイオード55およびダイオード56が互いに結合されて、第1の直列回路(別個に標示せず)を形成している。
【0016】
同様に、第2の分岐61はダイオード57とダイオード58とを含み、これらは機能的に互いに結合されて、第2の直列回路を形成している(やはり別個に標示せず)。また過電流保護システム10は、図示するように、電圧緩衝器70に接続されている。電圧緩衝器70は、MEMS装置30とともに電源6および電動モータ4に対して並列に接続されている。電圧緩衝器70は、各MEMSスイッチ34の高速接点分離の間に生じる電圧オーバー・シュートを制限している。電圧緩衝器70を金属酸化物バリスタ(MOV)74の形態で示している。MOV74は、図示するように、緩衝キャパシタ76に結合されている。緩衝キャパシタ76は、緩衝抵抗器78と直列に接続されている。緩衝キャパシタ76および緩衝抵抗器78は、MOV74と並列に電気的に接続されている。
【0017】
さらに典型的な実施形態によれば、過電流保護システムは、図示するように、単一のハイブリッド・アークレス制限技術(HALT)/パルス作動ターン・オン(PATO)回路90を含んでいる。HALT/PATO回路90は、第1の分岐93(平衡ダイオード・ブリッジ50の第1の分岐61に電気的に接続される)と、第2の分岐95(平衡ダイオード・ブリッジ50の第2の分岐62に電気的に接続される)とを含んでいる。HALT/PATO回路90では、HALT回路部分104およびPATO回路部分106が、第1および第2の分岐61および62の間に、共通のインダクタ108を通して電気的に接続されている。
【0018】
HALT回路部分104は、PATO回路部分106と並列に接続されている。HALT回路部分104は、スイッチング素子114の形態で示すHALTスイッチ112を含んでいる。スイッチング素子114は、HALTキャパシタ115と直列に接続されている。PATO回路部分106は、スイッチング素子122の形態で示すパルス・スイッチ120を含んでいる。パルス・スイッチ120は、パルスキャパシタ123とパルスダイオード124とに直列に接続されている。インダクタ108は、第1の分岐93においてHALTおよびPATO回路部分104および106と直列に接続されている。以下でより十分に明らかになるように、HALTスイッチ112を選択的に閉じてMEMSダイ33を開き、パルス・スイッチ120を選択的に閉じてMEMSダイ33を閉じる。すなわち、HALTスイッチ112を閉じてHALT回路部分104に電力を供給して、MEMS装置30を開き、パルス・スイッチ120を閉じてPATO回路部分106に電力を供給して、MEMS装置30を閉じる。MEMS装置30が閉じると、電気回路13が完結して、電流が電源6から電動モータ4へ流れることができる。逆に、MEMS装置30が開くと、電源6と電動モータ4との間の電流の流れが中断される。
【0019】
さらにまた典型的な実施形態によれば、コントローラ40は、短絡検出部分140を含んでいる。短絡検出部分140は、モータ駆動部分142に電気的に結合されている。モータ駆動部分142から選択的にPATO回路部分106およびHALT回路部分104に信号を送ってMEMS装置30を閉開することを、モータ始動信号およびモータ停止信号に応答して行なう。加えて、モータ駆動部分142からHALT回路部分104に信号を送ってMEMS装置30を開くことを、短絡検出部分140から過電流状態が信号で伝えられた場合に行なう。短絡検出部分140は、演算増幅器(オペ・アンプ)145を含んでいる。演算増幅器(オペ・アンプ)145は、整流器147、比較器149、およびマイクロ・コントローラ151に電気的に結合されている。オペ・アンプ145は、電流検知部材20からの入力を基にして変化率(di/dt)信号を生成する。変化率信号は整流器147に送られる。整流器147は、変化率信号を単極の変化率信号に変換して、比較器149に送る。比較器149は、単極の変化率信号を所定の閾値と比較する。単極の変化率信号が所定の閾値を上回ったら、出力信号がモータ駆動部分142にマイクロ・コントローラ151を介して送られて、HALT回路部分104を作動させてMEMS装置30を開き、電気回路13内の電流の流れを遮断して、電動モータ4を過電流または短絡電流から保護する。
【0020】
次に図3を参照して、電動モータ4を過電流または短絡状態から保護する方法200について説明する。最初に、コントローラ40がモータ始動信号/リクエストを受信する(ブロック220に示す)。始動信号を受信したら、モータ駆動部分142が、パルス・スイッチ120に信号を送って閉じさせ、またPATOパルスをPATO回路部分106を通して送って、MEMS装置30を閉じる(ブロック222に示す)。この時点で、短絡検出部分140が、電流の変化率のモニタリングを開始して(ブロック223)、短絡状態が存在するか否かを判定する(ブロック224)。検出された変化率が所定の閾値を超えていたら、モータ始動を中止して、パルス・スイッチ120に対する信号を中断し、信号をHALTスイッチ112に送ってMEMS装置30を開く(ブロック226に示す)。もちろん、当然のことながら、モータ始動に対する所定の閾値を、走行状態に対する所定の閾値と違うものにして、モータ始動電流に付随するわずかな違いも考慮するようにしても良い。
【0021】
始動時に短絡が検出されなかったら、第2のPATOパルスを発して(ブロック230に示す)、MEMS装置30をターン・オンするかまたは閉じて、電動モータを電源6に接続する(ブロック232に示す)。この時点で、短絡検出システム140は、電流の変化率をモニタして(ブロック234に示す)、始動後短絡状態が存在するか否かを判定する(ブロック236に示す)。ブロック236において短絡が検出されたら、HALTパルスをHALT回路104を通して送って、MEMS装置30に信号を送り、MEMSスイッチを開いてモータ動作を中止する(ブロック246に示す)。そうでなければ、電動モータ4は通常動作を続ける(ブロック250に示す)。
【0022】
この時点で、典型的な実施形態によって、過電流状態をモニタして電気負荷たとえば電動モータを保護するシステムが提供されることを理解されたい。従来技術の配置では電流の振幅の変化をモニタしているのとは対照的に、典型的な実施形態では電流変化率をモニタする。このように、典型的な実施形態では、応答時間が速くなり、電動モータが短絡電流にさらされる危険性が減る。加えて、MEMS装置を用いて電流フローを中断することによって、ほぼ既存のシステムよりも速いオーダーの応答時間が得られる。より具体的には、MEMSデバイスを用いることによって、回路反応時間が約16μ秒以下に短くなる。
【0023】
本発明を、限られた数の実施形態に関してのみ詳細に説明してきたが、本発明はこのような開示された実施形態には限定されないことが容易に理解されるはずである。むしろ、これまで説明してはいないが本発明の趣旨および範囲に見合う任意の数の変形、変更、置換、または均等な配置を取り入れるように、本発明を変更することができる。さらに加えて、本発明の種々の実施形態について説明してきたが、本発明の態様には、説明した実施形態の一部のみが含まれる場合があることを理解されたい。したがって本発明は、前述の説明によって限定されると考えるべきではなく、添付の請求項の範囲のみによって限定される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電流の変化率が所定の値を超えていることを示す電気変化率信号を出力するように構成および配置された電流検知部材(20)と、
前記電流検知部材(20)に機能的に接続された少なくとも1つのマイクロ電気機械スイッチ(MEMS)装置(30)と、
前記電流検知部材(20)と前記少なくとも1つのMEMS装置(30)とのそれぞれに電気的に結合されたコントローラ(40)であって、前記電流検知部材(20)からの前記電気変化率信号に応答して前記少なくとも1つのMEMS装置(30)を開くように構成および配置されたコントローラ(40)と、を含む過電流保護システム(10)。
【請求項2】
前記少なくとも1つのMEMS装置(30)に密に結合されたダイオード・ブリッジ(50)をさらに含む請求項1に記載の過電流保護システム(10)。
【請求項3】
前記ダイオード・ブリッジ(50)が、前記少なくとも1つのMEMS装置(30)に、浮遊インダクタンスが約1V以下に制限されたループ領域を通して結合される請求項2に記載の過電流保護システム(10)。
【請求項4】
前記ダイオード・ブリッジ(50)が、前記少なくとも1つのMEMS装置(30)に、浮遊インダクタンスが約1V未満に制限されたループ領域を通して結合される請求項2に記載の過電流保護システム(10)。
【請求項5】
前記ダイオード・ブリッジ(50)に電気的に結合されたパルス・アシスト・ターン・オン(PATO)回路(90)をさらに含む請求項2に記載の過電流保護システム(10)。
【請求項6】
前記ダイオード・ブリッジ(50)に電気的に結合されたハイブリッド・アークレス制限技術(HALT)回路(90)をさらに含む請求項2に記載の過電流保護システム(10)。
【請求項7】
前記コントローラ(40)は、少なくとも1つのマイクロ・コントローラ(151)と、演算増幅器(145)、整流器(147)、および比較器(149)のうちの少なくとも1つとを含み、前記マイクロ・コントローラ(151)は、前記少なくとも1つの演算増幅器(145)、整流器(147)、および比較器(149)に機能的に結合される請求項1に記載の過電流保護システム(10)。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−27303(P2013−27303A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2012−159146(P2012−159146)
【出願日】平成24年7月18日(2012.7.18)
【出願人】(390041542)ゼネラル・エレクトリック・カンパニイ (6,332)
【Fターム(参考)】