説明

マイケル付加化合物フルオロケミカルシラン

フルオロケミカルシラン化合物及びそれから誘導されるコーティング組成物について記載する。化合物及び組成物は、基材、特に、セラミックス又はガラスなどの硬質表面を有する基材の処理に使用されて、それらに撥水性、撥油性、防染性、及び防汚性を与えてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、撥水性、撥油性、防染性、及び防汚性を与えるために、及び光学レンズなどの反射防止基材を処理するために、基材、特に、セラミックス又はガラスなどの硬質表面を有する基材の処理に使用され得る、フルオロケミカルシラン化合物及びそれから誘導されるコーティング組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
撥油性及び撥水性を与える基材処理のための多数のフッ素化組成物が当技術分野において既知であるが、基材、特に、セラミックス、ガラス、及び石などの硬質表面を有する基材を処理して、それらに撥水性、撥油性、及び洗浄の容易性を与えるための、更に改良された組成物を提供することへの要望は依然として存在している。特に光学分野において、汚れ、塵及び埃への耐性を提供するために、硬質表面としてのガラス及びプラスチックを処理する必要性もある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
望ましくは、このような組成物及びそれらを用いる方法により、改良された性質を有するコーティングを得ることができる。特に、コーティングの改良された摩耗耐性を含む、コーティングの耐久性を改良することが好ましい。更に、より少量の洗剤、水、又はより少ない手作業でありながら、このような基材の洗浄をより容易に行うことは、最終消費者の要望であるだけでなく、環境に対してもプラスの効果を有する。また、コーティング材は、特に良好な耐化学性及び耐溶剤性を示すことが望ましい。組成物は、容易かつ安全な方法で都合良く適用されるべきであると共に、現在の製造方法と適合性がある。好ましくは、組成物は、処理される基材を作製するために実施される製造工程に容易に適合する。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、式
【0005】
【化1】

【0006】
のフルオロケミカルシラン化合物であって、
式中、
は、フッ素含有基であり、
は、共有結合、多価アルキレン若しくはアリーレン基、又はこれらの組み合わせであり、該アルキレン基は、所望により1つ以上のカテナリーの酸素又は窒素原子を含有し、
は、フルオロケミカルアミンとアクリロイルシランとの間のマイケル反応から誘導されるシラン含有基であり、
x及びyは、それぞれ独立して、少なくとも1であり、zは1又は2である、フルオロケミカルシラン化合物を提供する。
【0007】
一態様においては、本発明は、少なくとも1つのフッ素含有基及び少なくとも1つのシラン含有部分を有する、1つ以上の化合物及び化合物の混合物、フルオロケミカルアミンとアクリロイルシランとの間のマイケル反応から誘導される化合物を含む化学組成物に関する。
【0008】
特に指示しない限り、本明細書及び本特許請求の範囲で使用される以下の用語は、以下の意味を有する。
【0009】
「アルキル」とは、例えば、メチル、エチル、1−プロピル、2−プロピル、ペンチル、などの1〜約12個の炭素原子を有する、直鎖又は分枝状の、環式又は非環式の、飽和した、一価の、炭化水素ラジカルを意味する。
【0010】
「アクリロイル」とは、アクリレート、チオアクリレート又はアクリルアミドを意味する。
【0011】
「アルキレン」とは、1〜約12個の炭素原子を有する直鎖状で飽和の2価の炭化水素基か、又は3〜約12個の炭素原子を有する分枝状で飽和の2価の炭化水素基を意味し、例えば、メチレン、エチレン、プロピレン、2−メチルプロピレン、ペンチレン、ヘキシレンなどである。
【0012】
「アルコキシ」とは、末端酸素原子、例えば、CH−O−、C−O−などを有するアルキルを意味する。
【0013】
「アラルキレン」とは、アルキレンラジカルに結合した芳香族基、例えばベンジル、ピリジルメチル、1−ナフチルエチルなどを有する上記定義のアルキレンラジカルを意味する。
【0014】
「アルカリーレン」とは、アルキル基が結合したアリーレン基を意味する。
【0015】
「アリーレン」とは、多価芳香族ラジカル、例えば、フェニレン、ナフタレンなどを意味する。
【0016】
「硬化化学組成物」とは、化学組成物が乾燥されること、即ち化学組成物から、周辺温度以上にて、乾燥するまで溶媒が蒸発したことを意味する。組成物は、シラン化合物間に形成されるシロキサン結合の結果として、更に架橋されてもよい。
【0017】
「求電子性フルオロケミカル化合物」とは、酸、ハロゲン化アシル又はエステルなどの1つ又は2つの求電子性官能基、及びペルフルオロアルキル、ペルフルオロアルキレン、ペルフルオロオキシアルキル又はペルフルオロオキシアルキレン基、例えば、CCHCHCOCH、CCOH、CO(CO)CFCOCl、c−C11COHなどを有する化合物を意味する。
【0018】
「硬質基材」とは、例えば、ガラス、セラミック、コンクリート、天然石、木材、金属、プラスチックなどの、その形状を維持する任意の硬質材料を意味する。
【0019】
「オキシアルコキシ」とは、本質的には先に挙げたアルコキシと同じ意味を有するが、ただし、1つ以上の酸素原子がアルキル鎖に存在してもよく、存在する炭素原子の総数が50までであってもよく、例えば、CHCHOCHCHO−、COCHCHOCHCHO−、CHO(CHCHO)1−100Hなどである。
【0020】
「オキシアルキル」とは、本質的には先に挙げたアルキルと同じ意味を有するが、ただし、1つ以上の酸素ヘテロ原子がアルキル鎖に存在してもよく、これらのヘテロ原子が、少なくとも1個の炭素によって互いに分離しており、例えば、CHCHOCHCH−、CHCHOCHCHOCH(CH)CH−、CCHOCHCH−などである。
【0021】
「オキシアルキレン」とは、本質的には先に挙げたアルキレンと同じ意味を有するが、ただし、1つ以上の酸素ヘテロ原子がアルキレン鎖に存在してもよく、これらのヘテロ原子が、少なくとも1個の炭素によって互いに分離しており、例えば、−CHOCHO−、−CHCHOCHCH−、−CHCHOCHCHCH−などである。
【0022】
「ハロ」とは、フルオロ、クロロ、ブロモ又はヨードを意味するが、フルオロ及びクロロが好ましい。
【0023】
「ペルフルオロアルキル」とは、本質的には先に挙げた「アルキル」と同じ意味を有するが、ただし、アルキルラジカルの水素原子の全部、又は本質的に全部がフッ素原子によって置換されており、炭素原子数が1〜約12個であり、例えば、ペルフルオロプロピル、ペルフルオロブチル、ペルフルオロオクチルなどである。
【0024】
「ペルフルオロアルキレン」とは、本質的には先に挙げた「アルキレン」と同じ意味を有するが、ただし、アルキレンラジカルの水素原子の全て又は本質的に全てがフッ素原子によって置換されており、例えば、ペルフルオロプロピレン、ペルフルオロブチレン、ペルフルオロオクチレンなどである。
【0025】
「ペルフルオロオキシアルキル」とは、本質的には先に挙げた「オキシアルキル」と同じ意味を有するが、ただし、オキシアルキルラジカルの水素原子の全部、又は本質的に全部がフッ素原子によって置換されており、炭素原子数が3〜約100個であり、例えば、CFCFOCFCF−、CFCFO(CFCFO)CFCF−、CO(CF(CF)CFO)CF(CF)CF−(式中、sは、(例えば)約1〜約50である)などである。
【0026】
「ペルフルオロオキシアルキレン」とは、本質的には先に挙げた「オキシアルキレン」と同じ意味を有するが、ただし、オキシアルキレンラジカルの水素原子の全部、又は本質的に全部がフッ素原子によって置換されており、炭素原子数が3〜約100であり、例えば、−CFOCF−、又は−[CF−CF−O]−[CF(CF)−CF−O]−であり、式中、r及びsは、(例えば)1〜50の整数である。
【0027】
「ペルフルオロ化基」とは、炭素に結合した水素原子の全て又は本質的に全てがフッ素原子で置換されている有機基、例えばペルフルオロアルキル、ペルフルオロオキシアルキルなどを意味する。
【0028】
「求核性アクリロイル化合物」とは、1分子当たり、少なくとも1つの一級又は二級の求核性基、並びにアクリレート及びアクリルアミド基を含む少なくとも1つのアクリロイル基を有する、有機化合物を意味する。
【0029】
「マイケル付加」とは、求核試薬(フルオロケミカルなど)が、(アクリロイルシランなどと共に)アクリロイル基へ1,4−付加する付加反応を意味する。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明は、上記式Iのフルオロケミカルシラン化合物であって、
【0031】
【化2】

【0032】
式中、
は、一価のペルフルオロアルキル含有基若しくはペルフルオロオキシアルキル含有基、又は二価のペルフルオロアルキレン含有基若しくはペルフルオロオキシアルキレン含有基を含む、フッ素含有基であり、
は、共有結合、多価アルキレン若しくはアリーレン基、又はこれらの組み合わせ(アラルキレン又はアルカリーレンなど)であり、該アルキレン基は、所望により1つ以上のカテナリーの酸素又は窒素原子を含有し、
は、フルオロケミカルアミンとアクリロイルシランとの間のマイケル反応から誘導されるシラン含有基であり、
x及びyは、それぞれ独立して、少なくとも1であり、zは1又は2である、フルオロケミカルシラン化合物を提供する。
【0033】
式Iに関して、Rは、式
【0034】
【化3】

【0035】
を有し、
式中、
は、−O−、−S−、又は−NR−であり、Rは、H又はC〜Cのアルキルであり、
は、H、C〜Cのアルキル又は−CHCH−C(O)−X−R−Si(Y)(R3−pであり、
は、二価のアルキレン基であり、該アルキレン基は、所望により1つ以上のカテナリー酸素原子を含有し、
Yは、加水分解性基であり、
は、一価のアルキル又はアリール基であり、
pは、1、2、又は3である。
【0036】
式Iの化合物を含むコーティング組成物から調製されるコーティング材は、化合物それ自体を含み、加えて、シロキサン形成による予め選択された基材表面への結合及びシロキサン形成による分子間架橋から生じたシロキサン誘導体を含む。コーティング材は、未反応又は未縮合の「Si−Y」基も更に含むことができる。組成物は、オリゴマー系ペルフルオロオキシアルキルモノハイドライドなどの非シラン材料、出発材料並びにペルフルオロオキシアルキルアルコール及びペルフルオロオキシアルキルエステルを更に含んでもよい。
【0037】
本発明者らは、理論に束縛されることを望むものではないが、上記式Iの化合物は、基材表面と縮合反応を生じて、式IIの加水分解性の「Y」基の加水分解又は変位によって、シロキサン層を形成すると考えられている。本文脈中、「シロキサン」とは、そこにIの化合物が結合している−Si−O−Si−結合を意味する。水の存在下で、「Y」基は「Si−OH」基へと加水分解して、更にシロキサンへと縮合する。
【0038】
一実施形態では、本発明は、式Iの化合物、溶媒、並びに所望により水及び酸を含むコーティング組成物を提供する。別の実施形態では、コーティング組成物は、式Iの化合物の水性懸濁液又は分散体を含む。セラミックスなどの数多くの基材のための良好な耐久性を得るために、本発明の組成物は好ましくは水を含む。したがって、本発明は、基材を式Iの化合物及び溶媒からなるコーティング組成物と接触させる工程を含むコーティング法を提供する。別の実施形態では、式Iの化合物は、化学蒸着法によって基材に、特に、光学的用途で使用する反射防止基材のために適用されてもよい。
【0039】
式Iに関して、R基は、一価のペルフルオロアルキル含有基若しくはペルフルオロオキシアルキル含有基、又は二価のペルフルオロアルキレン含有基若しくはペルフルオロオキシアルキレン含有基を含んでもよい。より具体的には、Rは、式III
【0040】
【化4】

【0041】
で表されてよく、
式中、
は、一価のペルフルオロアルキル若しくはペルフルオロオキシアルキル基、又は二価のペルフルオロアルキレン若しくはペルフルオロオキシアルキレン基であり、
は、−O−、−NR−又は−S−であり、Rは、H又はC〜Cのアルキルであり、
zは1又は2である。
【0042】
式IIIのR基は、直鎖、分枝鎖、若しくは環式フルオロケミカル基、又は任意のそれらの組み合わせを含有することができる。R基は、一価又は二価であることができ、所望により、炭素−酸素−炭素鎖(即ち、ペルフルオロオキシアルキレン基)が形成するように、炭素−炭素鎖中に1つ以上のカテナリー酸素原子を含有することができる。完全にフッ素化されている基が一般に好ましいものの、水素又はその他のハロ原子もまた置換基として存在してもよいが、ただし、2個の炭素原子ごとに、いずれかの原子が1個以下とする。
【0043】
任意のR基が、少なくとも約40重量%のフッ素、より好ましくは少なくとも約50重量%のフッ素を含有するのが更に好ましい。一価のR基の末端部分は、一般に完全にフッ素化されており、好ましくは少なくとも3つのフッ素原子を含有し、例えば、CF−、CFCF−、CFCFCF−、(CFN−、(CFCF−、SFCF−である。ある実施形態では、一価のペルフルオロアルキル基(即ち、式C2n+1−のもの)又は二価のペルフルオロアルキレン基(即ち、式−C2n−のもの)(式中、nは2〜12(2、12を含む))が、好ましいR基であり、n=3〜5であるものがより好ましく、n=4のものが最も好ましい。
【0044】
有用なペルフルオロオキシアルキル及びペルフルオロオキシアルキレンR基は、式
W−R−O−R−(R− (IV)に相当し、
式中、
Wは、一価のペルフルオロオキシアルキルの場合、Fであり、二価のペルフルオロオキシアルキレンの場合、自由原子価(「−」)であり、
は、ペルフルオロアルキレン基を表し、Rは、1、2、3若しくは4個の炭素原子を有するペルフルオロアルキレンオキシ基又はこのようなペルフルオロアルキレンオキシ基の混合物からなるペルフルオロアルキレンオキシ基を表し、Rは、ペルフルオロアルキレン基を表し、qは0又は1である。式(IV)におけるペルフルオロアルキレン基R及びRは、直鎖又は分枝鎖でもよく、1〜10個の炭素原子、好ましくは1〜6個の炭素原子を含んでもよい。典型的な一価のペルフルオロアルキル基は、CF−CF−CF−であり、典型的な二価のペルフルオロアルキレンは、−CF−CF−CF−、−CF−又は−CF(CF)CF−である。ペルフルオロアルキレンオキシ基Rの例としては、−CF−CF−O−、−CF(CF)−CF−O−、−CF−CF(CF)−O−、−CF−CF−CF−O−、−CF−O−、−CF(CF)−O−、及び−CF−CF−CF−CF−Oが挙げられる。
【0045】
ペルフルオロアルキレンオキシ基Rは、同一のペルフルオロオキシアルキレン単位、又は異なるペルフルオロオキシアルキレン単位の混合物から構成されてもよい。ペルフルオロオキシアルキレン基が、異なるペルフルオロアルキレンオキシ単位で構成される場合、それらは、ランダム構成、交互構成にて存在することができ、又はそれらはブロックとして存在することができる。ペルフルオロ化ポリ(オキシアルキレン)基の典型的な例としては、
−[CF−CF−O]−;−[CF(CF)−CF−O]−;−[CFCF−O]−[CFO]−、−[CFCFCFCF−O]、及び−[CF−CF−O]−[CF(CF)−CF−O]−が挙げられ、式中、r、s、t、及びuのそれぞれは、1〜50、好ましくは2〜25の整数である。式(V)に相当する好ましいペルフルオロオキシアルキル基は、CF−CF−CF−O−[CF(CF)−CFO]−CF(CF)CF−であり、sは、2〜25の整数である。
【0046】
ペルフルオロオキシアルキル及びペルフルオロオキシアルキレン化合物は、末端フッ化カルボニル基を生じるヘキサフルオロプロピレンオキシドのオリゴマー化によって得ることができる。このフッ化カルボニルは、当業者に周知の反応によって、酸、エステル又はアルコールに転化させることができる。次に、フッ化カルボニル又はそれから誘導される酸、エステル若しくはアルコールは更に反応されて、既知の手順にしたがって、所望の基を導入してもよい。
【0047】
フッ素含有基とRシリル含有基との間の式IのR部分としては、アルキレン、アリーレン、若しくはこれらの組み合わせ、及び任意のカテナリー酸素、若しくは窒素へテロ原子、又はこれらの組み合わせから選択される多価の基が挙げられる。Rは非置換であるか、又はアルキル、アリール、ハロ、若しくはこれらの組み合わせによって置換されることができる。R基は、通常、30個以下の炭素原子を有する。幾つかの化合物では、R基は、20個以下の炭素原子、10個以下の炭素原子、6個以下の炭素原子、又は4個以下の炭素原子を有する。例えば、Rは、アルキレン、アリール基で置換されたアルキレン、又はアルキル基で置換されたアリーレンであることができる。
【0048】
式IのR部分は、少なくとも1つのアミノ基及び少なくとも1つの求核性官能基(アミノ、ヒドロキシル及びチオール基を包含する)を有する脂肪族又は芳香族化合物から誘導してもよい。このような化合物は、式
(HRN)(XH) (V)
を有し、
式中、Rは、共有結合、多価アルキレン若しくはアリーレン基、又はこれらの組み合わせであり、該アルキレン基は、所望により1つ以上のカテナリーの酸素又は窒素原子を含有し、各Xは、独立して、−O−、−S−、又は−NR−であり、Rは、H又はC〜Cのアルキルであり、aは、少なくとも1であり、x+aは少なくとも2である。このような化合物としては、アミノポリオール、ポリアミン、及びヒドロキシアミンが挙げられる。
【0049】
有用なポリアミンとしては、例えば少なくとも2つのアミノ基を有するポリアミンが挙げられ、2つのアミノ基は、一級、二級、又はその組み合わせである。例としては、1,10−ジアミノデカン、1,12−ジアミノドデカン、9,9−ビス(3−アミノプロピル)フルオレン、2−(4−アミノフェニル)エチルアミン、1,4−ブタンジオールビス(3−アミノプロピル)エーテル、N(CHCHNH、1,8−ジアミノ−p−メンタン、4,4’−ジアミノジシクロヘキシルメタン、1,3−ビス(3−アミノプロピル)テトラメチルジシロキサン、1,8−ジアミノ−3,6−ジオキサオクタン、1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、並びに直鎖又は分枝状(デンドリマーを包含する)のエチレンイミンのホモポリマー及びコポリマー(即ち、アジリジン)などの高分子ポリアミンなどが挙げられる。
【0050】
幾つかの実施形態では、好ましいポリアミンとしては、式
(N(R)−RNRH (VI)
を有するものが挙げられ、
式中、各Rは、H、1〜4個の炭素原子を有するアルキル基、又は6〜10個の炭素原子を有するアリール基を表し、
各Rは、独立して、2〜8個の炭素原子を有するアルキレン基を表し、
vは2より大きく、この場合、組成物中の一級及び二級アミノ基の数は、少なくとも3である。式VII(下記参照)の化合物に対するより大きな反応性のゆえに、末端アミン基の少なくとも1つが一級アミン基であることが好ましい。
【0051】
有用なポリアミンの例としては、少なくとも3つのアミノ基を有するポリアミン(その際、この3つのアミノ基は、一級、二級、又はHN(CHCHNH)H、HN(CHCHNH)H、HN(CHCHNH)H、HN(CHCHNH)H、HN(CHCHCHNH)H、HN(CHCHCHNH)H、HN(CHCHCHCHNH)H、HN(CHCHCHCHCHCHNH)H、HN(CHNH(CHNH、HN(CHNH(CHNH(CHNH、HN(CHNH(CHNH(CHNH、HN(CHNH(CHNH(CHNH、HN(CHNH(CHNH、CNH(CHNH(CHNH、及びN(CHCHNHを含むそれらの組み合わせ)、並びに直鎖又は分枝状(デンドリマーを包含する)のエチレンイミンのホモポリマー及びコポリマー(即ち、アジリジン)などの高分子ポリアミンを含む。多くのこのような化合物は、例えば、アルドリッチケミカル社(ウィスコンシン州ミルウォーキー)、又はファルツアンドバウアー社(Pfaltz and Bauer, Inc.)(コネチカット州ウォーターベリー)などの一般の化学物質供給元から得ることができるか、あるいは入手可能である。上記ポリアミンに関して、末端及びカテナリーアミンの両方が、(後述のように)マイケル付加し得ると理解されるであろう。
【0052】
一実施形態では、式Iのフルオロケミカル化合物は、単官能性又は二官能性ペルフルオロ化基、及び少なくとも1つの求電子性官能基を有するフルオロケミカル化合物の反応生成物をある程度含んでよい。このような化合物としては、式
−[C(O)−X (VII)
を有するものが挙げられ、
式中、Rは、一価のペルフルオロアルキル若しくはペルフルオロオキシアルキル基、又は二価のペルフルオロアルキレン若しくはペルフルオロオキシアルキレン基であり、zは1又は2であり、Xはハロゲン原子又はORであり、RはH若しくはC〜Cのアルキル、又は即ち式Vの化合物は、エステル、酸又はハロゲン化アシルである。
【0053】
式VIIの化合物と、式(HRN)(XH)(V)、又はR(N(R)−RNRH(VI)のポリアミンとの反応生成物は、式
【0054】
【化5】

【0055】
の中間体を生じ、
式中、
は、一価のペルフルオロアルキル若しくはペルフルオロオキシアルキル基、又は二価のペルフルオロアルキレン若しくはペルフルオロオキシアルキレン基であり、
は、−O−、−NR−又は−S−であり、Rは、H又はC〜Cのアルキルであり、
は、共有結合、多価アルキレン若しくはアリーレン基、又はこれらの組み合わせであり、該アルキレン基は、所望により1つ以上のカテナリーの酸素又は窒素原子を含有し、
は、C〜Cのアルキル、又は(R−X−C(O)−CHCH−であり、
zは1又は2である。
【0056】
式Iの化合物は、式VIIIのフルオロケミカルアミンと式
【0057】
【化6】

【0058】
のアクリロイルシラン化合物とのマイケル付加反応生成物を含んでよく、
式中、
は、二価又は多価のアルキレン基であり、該アルキレン基は、所望により1つ以上のカテナリーの酸素又は窒素原子、及び1つ以上のエステル、アミド、尿素又はカルバメート連結を含有し、
Yは、加水分解性基であり、
は、一価のアルキル又はアリール基であり、
yは1〜4、好ましくは1であり、
pは、1、2又は3、好ましくは3である。
【0059】
式IXの化合物(式中、yは1より大きい)は、ポリアクリレート化ポリオールと、イソシアナトプロピルトリメトキシシランなどのイソシアナトシランとの反応から調製されてもよい。有用なポリアクリレート化化合物としては、譲受人の同時係属出願米国特許出願第11/683823号(2007年2月21日出願)中、「求核性アクリロイル化合物(nucleophilic acryloyl compounds)」として記載されるようなものが挙げられる。あるいは、式IXの化合物(式中、yは1より大きい)は、アミノシランのポリアクリレート化ポリオールへのマイケル付加によって調製されてもよい。有用なアミノシランについても、米国特許出願第11/683823号に記載されている。
【0060】
式Iのフルオロケミカル化合物は、2段階プロセスにて調製されてもよい。第1工程は、CC(O)OCHなどの式VIIの求電子性フルオロケミカル化合物と、少なくとも1つのアミノ基及びアルコール又は一級若しくは二級アミノ基などの少なくとも1つの追加の求核基を含有する式V又はVIのポリアミン化合物との反応によって、式VIIIの対応するフルオロケミカルアミンを生成する。次に、第2工程は、式VIIIのフルオロケミカルアミンを式IXのアクリロイルシランにマイケル付加する。
【0061】
一般的に、反応成分及び溶媒は、乾燥反応槽中に引き続いて直ちに充填するか、又は予め調製した混合物として充填する。均質な混合物又は溶液が得られると、触媒が任意に追加され、反応混合物は、ある温度で、反応が発生するのに十分な時間、加熱される。反応の進行は、IRを監視することによって判断できる。
【0062】
アミノシランのアクリロイル基へのマイケル付加には触媒は通常必要ではないが、マイケル反応に好適な触媒は、その共役酸が、好ましくは12〜14のpKaを有する塩基である。使用するのに最も好ましい塩基は、有機塩基である。このような塩基の例は、1,4−ジヒドロピリジン、メチルジフェニルホスファン、メチル−ジ−p−トリホスファン、2−アリル−N−アルキルイミダゾリン、テトラ−t−水酸化ブチルアンモニウム、DBU(1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカー7−エン)及びDBN(1,5−ジアザビシクロ[4.3.0]ノン−5−エン)、カリウムメトキシド、ナトリウムメトキシド、水酸化ナトリウムなどである。本発明に関連して好ましい触媒は、DBU及びテトラメチルグアニジンである。マイケル付加反応にて使用される触媒の量は、固形分に対して、好ましくは0.05重量%〜2重量%であり、より好ましくは0.1重量%〜1.0重量%である。
【0063】
式VIIのフッ素化化合物は、化合物(HRN)(XH)(V)の平均5〜50モル%の利用可能なアミン又はアルコール官能基と反応して、式VIIIの化合物を生成するのに十分な量にて使用される。好ましくは、式VIIの化合物を使用して、平均10〜30モル%の基と反応させる。式VIIIのアミン基は、本質的に全てがアクリロイルシラン(IX)へのマイケル付加により官能化されて、ペンダント(pendent)フルオロケミカル基及びペンダントシラン基の両方を有する化合物が得られる。
【0064】
式VIのポリアミンが使用される場合、複数のR基及び/又はシラン基を有するフルオロケミカルシランが生じることが理解されるであろう。このような化合物は、式
【0065】
【化7】

【0066】
を有してよく、式中、
は、一価のペルフルオロアルキル若しくはペルフルオロオキシアルキル基、又は二価のペルフルオロアルキレン若しくはペルフルオロオキシアルキレン基であり、
各Rは、H、1〜4個の炭素原子を有するアルキル基、又は6〜10個の炭素原子を有するアリール基を表し、
各Rは、独立して、2〜8個の炭素原子を有するアルキレン基を表し、
vは少なくとも1、好ましくは2より大きく、
zは1又は2であり、
各R10は、独立して、H、1〜4個の炭素原子を有するアルキル基、又は6〜10個の炭素原子を有するアリール基、R−C(O)−又は−CHCHC(O)−X−R−Si(Y)(R3−pであり、Xは、−O−、−NR−又は−S−であり、Rは、H又はC〜Cのアルキルであり、Rは二価のアルキレン基であり、該アルキレン基は、所望により1つ以上のカテナリー酸素原子を含有し、Yは、加水分解性基であり、Rは、一価のアルキル又はアリール基であり、pは、1、2、又は3であり、ここで、化合物は、少なくとも1つのフッ素化基及び少なくとも1つのシラン基を含有する。
【0067】
本発明の組成物は、基材上にコーティングされ、少なくとも部分的に硬化されて、コーティングされた物品を得てもよい。幾つかの実施形態では、重合したコーティングは、傷抵抗、落書き耐性、汚れ防止、接着剤剥離、低屈折率、及び撥水性のうち少なくとも1つを提供する保護コーティングを形成してもよい。本発明によるコーティング物品としては、例えば、眼鏡レンズ、鏡、窓、接着剤剥離ライナー、及び落書き防止フィルムが挙げられる。
【0068】
好適な基材としては、例えば、ガラス(例えば、窓並びにレンズ及び鏡などの光学素子類)、セラミック(例えば、セラミックタイル)、セメント、石、塗装表面(例えば、車体パネル、ボートの表面)、金属(例えば、建築用の支柱)、紙(例えば、接着剤剥離ライナー)、厚紙(例えば、食品容器)、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂(例えば、ポリカーボネート、アクリル、ポリオレフィン、ポリウレタン、ポリエステル、ポリアミド、ポリイミド、フェノール樹脂、セルロースジアセテート、セルローストリアセテート、ポリスチレン、及びスチレン−アクリロニトリルコポリマー)、並びにこれらの組み合わせが挙げられる。それらの基材はフィルムやシートであってもよいし、あるいはなにか他の形態であってもよい。基材は、所望によりセラマー(ceramer)ハードコートを上に有する、透明又は半透明のディスプレイ要素を含んでもよい。
【0069】
幾つかの実施形態では、フルオロケミカル化合物と溶媒との混合物を含むコーティング組成物が提供される。本発明のコーティング組成物は、本発明のフルオロケミカル化合物の溶媒懸濁液、分散体又は溶液を含む。コーティング材として適用する際、コーティング組成物は、多種多様な任意の基材に、撥油性及び撥水性、並びに/又は汚染放出性及び防染性を提供する。
【0070】
フルオロケミカル化合物は、種々の溶媒中に溶解、懸濁、又は分散して、基材上のコーティングに用いるのに好適なコーティング組成物を形成することができる。一般に、溶媒溶液は、(固体成分の総重量を基準にして)約0.1重量%〜約50重量%、又は更に約90重量%までの不揮発性固体を含有することができる。コーティング組成物は、好ましくは、総固形分を基準にして、約0.1〜約10重量%のフルオロケミカルシラン化合物を含有する。好ましくは、コーティングに使用されるフルオロケミカル化合物の量は、総固形分の約0.1〜約5重量%、最も好ましくは約0.2〜約1重量%である。好適な溶媒としては、アルコール、エステル、グリコールエーテル、アミド、ケトン、炭化水素、ヒドロフルオロカーボン、ヒドロフルオロエーテル、塩化炭化水素、クロロカーボン、及びこれらの混合物が挙げられる。
【0071】
コーティング組成物は、水及び酸を更に含んでもよい。一実施形態では、本方法は、基材を式Iのシランを含むコーティング組成物及び溶媒と接触させること、並びに引き続いて基材を酸水溶液と接触させることを含む。
【0072】
製造の容易さ及び費用上の理由から、本発明の組成物は、式Iの化合物のうちの1つ以上の濃縮物を希釈することにより、使用の少し前に調製することができる。濃縮物は一般に、有機溶媒中のフルオロケミカルシラン濃縮溶液を含む。濃縮物は、数週間、好ましくは少なくとも1ヶ月、より好ましくは少なくとも3か月、安定していなければならない。化合物は、有機溶媒内に高濃度で速やかに溶解させることができるということが見出された。
【0073】
本発明のコーティング組成物は、所望により、シルセスキオキサン又はオルトケイ酸塩を含有する。シルセスキオキサンは、コーティング組成物とブレンドしてもよく、あるいは式Iの化合物のコーティングを、予め適用したシルセスキオキサンのコーティングの上にコーティングしてもよい。有用なシルセスキオキサンとしては、式R10Si(OR11のジオルガノオキシシラン(又はそのヒドロシレート)と、式R10SiO3/2のオルガノシラン(又はそのヒドロシレート)との共縮合物が挙げられるが、ここで各R10は、1〜6個の炭素原子のアルキル基又はアリール基であり、R11は1〜4個の炭素原子を有するアルキルラジカルを表す。好適なシルセスキオキサンは、組成物に添加する前には、中性又はアニオン性のシルセスキオキサンである。有用なシルセスキオキサンは、米国特許第3,493,424号(モーロク(Mohrlok)ら)、米国特許第4,351,736号(スタインバーガー(Steinberger)ら)、米国特許第5,073,442号(ノウルトン(Knowlton)ら)、米国特許第4,781,844号(コートマン(Kortmann)ら)、及び米国特許第4,781,844号に記載されている技術によって製造することができる。総固形分に対して90〜99.9重量%の量でシルセスキオキサン(Silsequioxanes)を添加してもよい。
【0074】
シルセスキオキサンは、シランを、水、緩衝剤、界面活性剤及び所望により有機溶媒の混合物に添加し、その混合物を酸性又は塩基性条件下で攪拌することによって、調製することができる。200〜500オングストロームの狭い粒径範囲とするためには、シランを一定量でゆっくりと添加するのが好ましい。添加可能なシランの正確な量は、置換基Rや、界面活性剤にアニオン性のものを使用したかカチオン性のものを使用したかによって変わってくる。シルセスキオキサンの共縮合物は、その中の単位の分布がブロック状であってもランダムであってもよいが、シランの同時加水分解によって形成される。存在する、テトラアルコキシシラン(tetralkoxysilanes)及びそのヒドロシレート(例えば、式Si(OH)を有する)を含むテトラオルガノシランの量は、シルセスキオキサンの重量に対して、10重量%未満、好ましくは5重量%未満、より好ましくは2重量%未満である。
【0075】
本発明のシルセスキオキサンの調製において、以下のシラン類が有用である:メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリイソプロポキシオキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、プロピルトリメトキシシラン、イソブチルトリメトキシシラン、イソブチルトリエトキシシラン、2−エチルブチルトリエトシキシラン、及び2−エチルブトキシトリエトキシシラン。
【0076】
組成物は、従来技術、例えば、スプレー法、ナイフコーティング法、ノッチコーティング法、リバースロールコーティング法、グラビアコーティング法、ディップコーティング法、バーコーティング法、フラッドコーティング法、ディップコーティング法又はスピンコーティング法などによって、基材に適用してもよい。組成物は、任意の厚みに適用して、所望のレベルの水、油、染み、及び汚れに対する忌避性を提供してもよい。通常は、組成物は、乾燥硬化させた層が約40nm〜約60nmの範囲の厚みを有するように、基材に比較的薄い層として適用されるが、より薄い及びより厚い(例えば、厚みが100マイクロメートルまで、又はそれ以上)層も使用してもよい。次に、いかなる任意の溶媒も、通常は、少なくとも部分的に除去され(例えば、強制空気オーブンを使用して)、次に組成物が少なくとも部分的に硬化されて、耐久性コーティングを形成する。
【0077】
本発明のフルオロケミカルシランを適用するための好ましいコーティング方法としては、ディップコーティングが挙げられる。コーティングされるべき基材は、典型的には室温(通常、約20℃〜約25℃)にて、処理組成物と接触させることができる。あるいは、混合物は、例えば60℃〜150℃の温度に予熱された基材に適用することができる。これは、例えば、生産ラインの終わりに、ベーキングオーブン直後にセラミックタイルを処理できる工業生産にとって、特に興味深いことである。適用後、処理された基材は、乾燥させるのに十分な時間にわたり、室温又は高温、例えば、40℃〜300℃で乾燥させ硬化させることができる。このプロセスは、過剰な材料を除去するための研磨工程も必要とする場合がある。
【0078】
本発明は、比較的耐久性がありかつ汚染に対してより耐性がありかつ基材表面自体よりも洗浄がより容易な保護コーティングを、基材上に提供する。本発明は、一実施形態では、基材、好ましくは硬質基材、及び単層より厚い防汚性コーティング(通常、約15オングストロームよりも厚く上に堆積されている)を含むコーティング物品の調製に用いられる方法及び組成物を提供する。好ましくは、本発明の防汚性コーティングは、少なくとも約20オングストローム厚であり、より好ましくは少なくとも約30オングストローム厚である。一般に、コーティングの厚さは、10マイクロメートル未満、好ましくは5マイクロメートル未満である。コーティング材料は通常、物品の外観及び光学特性を実質的に変更しない量で存在する。
【0079】
請求項1に記載の化合物は、眼科用レンズに使用されているもののような反射防止基材のための防汚性コーティング材を調製するのに特に適している。コーティングは、蒸着、あるいはディップコーティング、フラッドコーティング、カーテンコーティング、スピンコーティング、バーコーティング、又はその他の溶剤若しくは水性由来の方法によって提供することができる。
【0080】
反射防止コーティングは、ガラス、石英、又はポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリチオウレタン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリイミド、及びポリエステル、特に、ポリエチレンテレフタレートを含む有機ポリマー基材のような透明(即ち、光透過性の)基材の上に配置された1つ以上の材料層を含んでもよい。最も単純な反射防止コートは、それが置かれている基材の屈折率より小さい屈折率を有する、透明材料の単一層である。多層反射防止コーティングは、基材上に2つ以上の誘電材料層を含み、その少なくとも1つの層は、基材の屈折率より高い屈折率を持つ。それらは、多くの場合、反射防止フィルムスタックと呼ばれる。
【0081】
反射防止コーティングは、多種多様な材料により提供されてもよい。好ましくは、反射防止コーティングは、金属酸化物薄膜により、更に好ましくはスパッタコーティングされた金属酸化物薄膜により提供される。本明細書中、「金属酸化物」としては、単一金属の酸化物(半金属を含む)、並びに合金の酸化物が含まれる。好ましい金属酸化物としては、シリコン酸化物が挙げられ、これは酸素が欠乏(即ち、酸化物中の酸素量が化学量論量より少ない)している場合がある。好ましくは、最外表面上の金属酸化物膜としては、シリコン酸化物(SiOx、式中xは2以下)が挙げられるが、他の好適な材料として、スズ、チタン、ニオビウム、亜鉛、ジルコニウム、タンタル、イットリウム、アルミニウム、セリウム、タングステン、ビスマス、インジウムの酸化物、及びこれらの混合物が挙げられる。具体例としては、SiO、SnO、TiO、Nb、ZnO、ZrO、Ta、Y、Al、CeO、WO、BiO、In、及びITO(酸化インジウムスズ)、並びにそれらの組み合わせ及び交互層が挙げられる。
【0082】
スパッタコーティングされた金属酸化物膜は、熱蒸着膜よりも高密度を有し、より硬質で、より滑らかで、より安定しているため、スパッタコーティングされた金属酸化物膜は、熱蒸着膜より好ましい。このようなスパッタコーティングされた金属酸化物膜は、比較的多孔質で、原子間力顕微鏡法による測定では、約5ナノメートル〜約30ナノメートルの直径を有する粒子クラスターからなるが、その機械的、電気的及び光学的性質を変更し得る水や気体に対して十分に不透過性である。
【0083】
好適な透明基材としては、ガラス、並びにポリ(メタ)アクリレート、ポリカーボネート、ポリチオウレタン、ポリスチレン、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレンコポリマーやアクリロニトリル−スチレンコポリマーのようなスチレンコポリマー、セルロースエステル、特に酢酸セルロースと酢酸セルロース−ブチレートとのコポリマー、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンやポリプロピレンのようなポリオレフィン、ポリイミド、ポリフェニレンオキサイド、及びポリエステル、特にポリエチレンテレフタレートのような、透明熱可塑性材料が挙げられる。用語「ポリ(メタ)アクリレート」(又は「アクリル樹脂」)は、一般にキャストアクリルシート、延伸アクリル樹脂、ポリ(メチルメタクリレート)「PMMA」、ポリ(メタクリレート)、ポリ(アクリレート)、ポリ(メチルメタクリレート−コ−エチルアクリレート)などと呼ばれている材料を含む。基材の厚みはさまざまであってもよいが、可撓性有機フィルムは、通常約0.1mm〜約1mmの範囲である。更に、有機ポリマー基材は、種々の異なった方法によって製造できる。例えば、熱可塑性材料を押出加工し、次に、所望の寸法に切断することができる。これを成形して、所望の形状及び寸法を形成することができる。またセルキャストを行い、次いで加熱延伸して、有機ポリマー基材を形成することもできる。
【0084】
反射防止コーティングが上に堆積される基材は、プライム化表面を含んでもよい。プライム化表面は、アクリル樹脂層のような化学プライマー層を適用することにより、あるいは化学的エッチング、電子ビーム照射、コロナ処理、プラズマエッチング、又は接着促進層の同時押出によって得ることができる。このようなプライム化基材は、市販されている。例えば、水性アクリレートラテックスによってプライム化したポリエチレンテレフタレート基材は、インペリアル・ケミカル・インダストリーズ・フィルムズ社(Imperial Chemical Industries Films)(ノースカロライナ州ホープウェル)から入手可能である。
【0085】
このため、本発明は、反射防止基材のための汚れ防止組成物、並びに汚れ防止組成物を蒸発させること及び汚れ防止組成物を反射防止基材上に堆積することからなる、汚れ防止組成物を反射防止基材上に堆積する方法を提供する。反射防止基材は、反射防止フィルムスタックの一部である任意の透明基材、又は全部若しくは一部が反射防止組成物によって被われた表面を有する任意の透明基材である。反射防止組成物は、好ましくは、反射防止金属酸化物、金属フッ化物、金属窒化物、金属硫化物などである。より好ましくは、反射防止組成物は反射防止金属酸化物であり、最も好ましくは、反射防止組成物はスパッタコーティングされた反射防止金属酸化物膜(好ましくはシリコン酸化物を含む)である。本発明の汚れ防止組成物は、例えば指紋からの皮脂などによる汚染に対するより大きな耐性を表面に与える。またこれにより、好ましくは乾燥ふき取りで、又は水と洗剤でのいずれかで、表面の洗浄がより簡単になる。更に、適用がなされる表面、特にフィルムスタックの反射防止表面の光学特性をほとんど又は全く崩壊しない。即ち、本発明の防汚性コーティングは、フィルムスタックの反射率を大幅に増大させない。
【0086】
本発明の方法によって作製される物品としては、ガラス又は有機ポリマー基材などの基材であって、所望により上に任意の接着強化コーティング材がコーティングされているプライム化表面を有する基材、反射防止組成物であって、好ましくは多層フィルムスタック、及び式Iの化合物を含む汚れ防止組成物が挙げられる。
【0087】
汚れ防止組成物の全体の厚さは、防汚性及び耐久性を向上させるための厚いコーティングに対する要望を、反射防止基材の反射防止性を維持するための薄いコーティングに対する要望と調和させることによって決定される。通常は、本発明の汚れ防止組成物の総コーティング厚は、約20〜500オングストローム、より好ましくは約40〜100オングストロームである。別の態様では、汚れ防止組成物は、好ましくは単層として堆積される。
【0088】
汚れ防止組成物が蒸発する条件は、汚れ防止組成物の構造及び分子量によって変化し得る。本発明の一態様では、蒸発は、約0.01mmHg未満の圧力で生じ得ることが好ましい。本発明の別の態様では、蒸発は、少なくとも約80℃の温度で生じ得る。
【0089】
本発明の別の実施形態では、蒸発は、汚れ防止組成物及び反射防止基材をチャンバ内に置くこと、チャンバを加熱すること(汚れ防止組成物を収容する)、及びチャンバ内の圧力を低下させて、当該技術分野において既知の蒸着方法に従うことからなる。本発明は、汚れ防止組成物及び反射防止基材をチャンバ内に設置するに先だってチャンバが加熱される方法もまた提供する。あるいは、汚れ防止組成物を第1チャンバ内に置き、反射防止コーティングされた眼科用メガネを、第1チャンバに連結された第2チャンバ内に置いて、第1チャンバからの蒸発した汚れ防止組成物が第2チャンバ内の反射防止コーティングされた眼科用メガネ上に付着するようにする。本発明の別の態様では、第1チャンバが加熱されている間、第2チャンバを周囲温度に維持してもよい。有用な真空チャンバは、当該技術分野において既知である。1つの市販の装置は、サティス・ヴァキューム・オブ・アメリカ(Satis Vacuum of America)(オハイオ州グローブポート)から入手可能な900 DLSである。
【実施例】
【0090】
本発明の目的及び利点は、下記の実施例によって更に例示されるが、これらの実施例において列挙された特定の材料及びその量は、他の諸条件及び詳細と同様に本発明を過度に制限するものと解釈すべきではない。これらの実施例は、単に例示のためのものに過ぎず、添付の請求項の範囲を限定することを意図するものではない。
【0091】
実施例及び明細書の他の箇所における全ての部、パーセント、比などは、他に記載がない限りにおいて、重量当たりである。使用される溶媒及び他の試薬は、特に記載のない限り、アルドリッチケミカル社(ウィスコンシン州ミルウォーキー)から入手した。
【0092】
実験
用語リスト:
別途注記のない限り、実施例にて使用される場合、「HFPO−」とは、メチルエステルF(CF(CF)CF0)CF(CF)C(O)OCHの末端基F(CF(CF)CFO)CF(CF)−を意味し、式中、aは平均すると4〜20であり、これは、米国特許第3,250,808号(ムーア(Moore)ら)に報告されている方法に従って調製することができ、分別蒸留により精製する。
【0093】
HFPOジメチルエステル:CHO(O)CCF(CF)(OCFCF(CFOCFCFCFCFO(CF(CF)CFO)CF(CF)COOCHは、HCO(O)C−HFPO−C(O)OCH又はHFPO−(C(O)OCHとも称され、式中、b+cの平均は約4〜15であり、FC(O)CFCFC(O)Fを出発物質として使用して、米国特許第3,250,807号(フリッツ(Fritz)ら)に報告されている方法(HFPOオリゴマービス−酸フッ化物を提供する)に従って調製でき、続いて、米国特許第6,923,921号(フリン(Flynn)ら)にて記載されているように、メタノリシス及び分別蒸留による低沸点材料の除去による精製を行う。HFPO−CONHCHCHOCOCH=CH(HFPO−AEA)は、米国特許出願公開第2006/0216500号(クラン(Klun)ら)の調製31Aに記載されているようにして調製した。
【0094】
3−アクリルオキシプロピルトリメトキシシランは、ゲレスト社(Gelest, Inc.)(ペンシルベニア州モリスビル)から入手した。
【0095】
以下の点に留意すること。
【0096】
CH=CHC(O)O(CHSi(OCHは、VWRインターナショナル社(ペンシルベニア州ウェストチェスター)から購入した。
【0097】
NHCHCH−NH−CHCH−NH−CHCH−NHは、VWRインターナショナル社(ペンシルベニア州ウェストチェスター)から購入した。
【0098】
NH(CH)−(CH−NHは、VWRインターナショナル社(ペンシルベニア州ウェストチェスター)から購入した。
【0099】
試験方法
核磁気共鳴(NMR)
バリアンユニティプラス(Varian UNITY plus)400フーリエ変換NMRスペクトロメーター(バリアンNMRインスツルメンツ社(Varian NMR Instruments)(カルフォルニア州パロアルト)から入手可能)にて、H&19F NMRスペクトルを実施した。
【0100】
IR分光法(IR)
IRスペクトルは、サーモ・ニコレー社(Thermo-Nicolet)製、アバター(Avatar)370 FTIR(サーモ・エレクトロン社(Thermo Electron Corporation)(マサチューセッツ州ウォルサム)から入手可能)にて実施した。
【0101】
眼科用レンズの化学蒸着(CVD)による処理:
蒸着チャンバ内で3×10−6トールの圧力にて、本発明のそれぞれの選択されたフルオロケミカルシランで、きれいなレンズを処理した。シランの蒸発温度は、350〜500℃の範囲であった。次に、コーティングを周囲条件下にて硬化させた。
【0102】
ポリカーボネートであるエアウェアクリザール(AirWear Crizal)(商標)反射防止レンズ半加工品(エシロールUSA(Essilor USA)(フロリダ州セントピータースバーグ)から入手)は、傷防止ハードコート、反射防止(AR)コーティング及び疎水性トップコートを有すると考えられている。ARコーティングは、酸化ジルコニウム/シリコン酸化物/酸化ジルコニウム/シリコン酸化物からなる4層CVDコーティングを含むと考えられている。
【0103】
疎水性トップコート、及び本発明のフルオロケミカルシランの許容された(allowed)付着を除去するために、市販のレンズ半加工品をイソプロパノールですすぎ、送風機で乾燥させ、次にハリック(Harrick)PDC−32Gクリーナー/滅菌器(ハリック・サイエンティフィック社(Harrick Scientific Corp.)(ニューヨーク州プレザントヴィル))内にて真空プラズマに3分間さらした。
【0104】
ドレイン時間試験:
この試験のために、処理済み眼科用メガネからの液体ドレイン時間を、ディップコーターを使用して決定した。処理済みレンズを液体(オレイン酸又はイソプロパノール(IPA)のいずれか)中に浸漬し、続いてそこから引き上げる。試験のための引き上げ速度は、毎秒5cm(2インチ)であった。液体が完全に流れ去るのに必要な時間は、タイマーにて測定した。
【0105】
表1は、イソプロパノールとオレイン酸に関して、選択されたCVDコーティング及びディップコーティングされたポリカーボネートレンズについての比較のために測定されたドレイン時間について示す。データによれば、一般的に、レンズのCVDコーティングでは、ディップコーティングよりも、IPA及びオレイン酸の両方について、より短いドレイン時間となる。ドレイン時間を使用して、処理したレンズの滑りを測定するが、液体が完全に排水されるのに必要な時間がより短くなるほど、表面がより滑りやすい。液体がより素早く排水される場合は更に、より優れた疎水性及び疎油性表面であることを示している。
【0106】
静的及び動的接触角:
静的な前進及び後退接触角試験は、コーティング材料の表面特性についての迅速かつ正確な予測を提供する。処理済み(乾燥及び硬化後)レンズの接触角を、クルス(Kruss)G120及びAST VCA 2500XEビデオ接触角システム(ASTプロダクツ社(AST Products, Inc.))(共に、制御及びデータ処理のためのコンピュータが装備されている)を使用して測定した。水及びn−ヘキサデカンの両方について、データを収集した。表2は、CVDコーティング及びディップコーティングプロセスの両方を使用して、各種シランで処理したレンズの、静的な前進接触角及び後退接触角についてまとめている。測定された接触角は、全ての処理済みレンズについて大きかったが、一般に、ディップコーティングにより処理されたレンズは、わずかであるがより大きな接触角となる。
【0107】
処理済みレンズのヒステリシス:
最大(前進)接触角値と最小(後退)接触角値との差は、接触角ヒステリシスと呼ばれ、これは、表面の不均質性、粗度及び移動度を特徴づける。コーティング表面の洗浄の容易性は、接触角ヒステリシスと関連している可能性がある。より大きな後退接触角は、染みをつける液体を処理表面から取り除く手助けをする。このため、より小さい接触角ヒステリシスほど、より高い性能となる。表1は、幾つかの処理済みレンズのヒステリシスを示す。
【0108】
耐久性試験:
レンズ上の耐久性シラン処理を、以下の方法で決定した:処理済みレンズには、レンズ・イレーサー・アブレーション・テスタ(Lens Eraser Abrasion Tester)(コルツ・ラボラトリーズ社(Colts Laboratories, Inc.)(フロリダ州クリアウォーター)から入手)及び3M高性能クロス(商標)(スコッチ−ブライト(Scotch-Brite)(商標)マイクロファイバーダスティングクロス、3M社(ミネソタ州セントポール)から入手)を使用して、2.27kg(5ポンド)荷重にて500サイクルの摩耗試験を実施した。次に、摩耗試験に続き、処理済みレンズの接触角を上記方法を使用して再度測定した。表2は、摩耗耐性試験後の処理済みレンズの接触角データを示す。表3は、ディップコートにより処理されたレンズの接触角データを、摩耗耐性試験前後各々について示す。
【0109】
接着性及びエッジング試験:
本試験は、パッドが切断作業(レンズの縁部又は周辺部を機械加工して、フレームの要求される寸法に一致させる)中にレンズをエッジャー内の所定位置に保持する能力を決定するために実施される。リープパッドIII(Leap Pad III)(3M社(ミネソタ州セントポール)から入手可能)の片面から、シーリング紙を剥離し、コーティングされたレンズの中央に適用した(レンズは、30cm(12 1/4インチ)バーを備えたトルク器具にしっかりと貼り付けられている)。
【0110】
レンズが回転する間、レンズを所定の位置に保持するデバイスであるブロックを、リープパッドIII(Leap Pad III)の他の側面に適用した。パッド及びレンズを有するトルク器具を、エッジャー内へ挿入し(ブロックフランジをブロッカー内に位置合わせすることが重要である)、290kPa(2.86気圧(42psi))の圧力にてパッド上にしっかりと押し付けた。トルク器具の先端は、トルクス(登録商標)ケール上で0度と並んだ。ばねばかりを使用して、0.45キログラム(6ポンド)の水平力を1分間適用し、トルクス(登録商標)ケール上のトルク器具の新しい位置を、ゼロ位置からの度合いとして記録した。トルクの度合いが5以下である場合、エッジングプロセス中に、適当な接着性及びレンズ保持能力を有すると考えられる。
【0111】
本発明のシラン処理の試験結果を表2に示す。比較用アリゼ(商標)レンズ半加工品(エシロールUSA(Essilor USA)から入手)のトルクの度合いは、15より大きかったが、これはエッジングプロセスのために特別な一時的コーティングを必要とする(国際公開第01/68384号及び米国特許出願公開第2004/0253369号を参照のこと)。本発明にて記載される新しいシラン処理は全て、本トルク試験に合格した。FCシランのCVDコーティングされたレンズを、トルク試験前に最初にイソプロパノールで洗浄した場合、接着力が向上し、試験に合格した。したがって、本発明のシラン処理は、エッジングプロセスのための特別な一時的コーティングを必要としない。
【0112】
調製例1:
HFPO−CO−NH−CHNH(CH)の合成
電磁攪拌棒及び入口アダプターを装備した1Lの一つ口丸底フラスコに、HFPO−C(O)OCH(分子量:1211、300g、0.2477モル)及びHN(CHNHCH(分子量:88.15、21.84g、0.2477モル)を充填し、窒素下にて50℃で16時間攪拌した。所望のアミドに関連付けられたピーク(約1710cm−1)の出現と共に、HFPO−C(O)OCHに関連付けられたピーク(約1790cm−1)の消失をFTIR分析にて確認した時点で、反応は終わった。ロータリーエバポレーター内にて75℃で加熱することにより、MeOHを生成物から除去した。生成物を、そのまま次の工程で使用した。
【0113】
(実施例1):
1の合成。HFPO−CO−NH−(CHN(CH)−(CHCO−O−(CH−Si(OCH
電磁攪拌棒、N入口及び還流凝縮器を装備した100mL三つ口丸底フラスコに、HFPO−CO−NH−(CHNH−CH(5g、0.00395モル)を窒素雰囲気下にて充填した。3−アクリロイルプロピルトリメトキシシラン(0.923g、0.00395モル)を15分にわたってフラスコに滴下して加えた。反応は発熱反応であり、室温にて30分間攪拌し、次に、55℃にて12時間加熱して透明で粘稠な油を得た。
【0114】
調製例2:
HFPO−CO−NHCHCH−NH−CHCH−NH−CHCH−NH−CO−HFPOの合成
電磁攪拌棒、N入口及び還流凝縮器を装備した100mL三つ口丸底フラスコに、HFPO−COOMe(2g、0.001579モル)及びNHCHCH−NH−CHCH−NH−CHCH−NH(0.1152g、0.0007895モル)を窒素雰囲気下にて充填した。反応混合物を、75℃にて12時間加熱した。反応はIRで監視し、エステルのピークが消失した後、得られた透明で粘稠な油を、そのまま次の工程で使用した。
【0115】
(実施例2)
2の合成.HFPO−CO−NH−CHCH−N[(CHCO−O−(CH−Si(OCH)]−CHCH−N[(CHCO−O−(CH−Si(OCH]−CHCH−NH−CO−HFPO
電磁攪拌棒、N入口及び還流凝縮器を装備した100mL三つ口丸底フラスコに、HFPO−CO−NH−CHCH−NH−CHCH−NH−CHCH−NH−CO−HFPO(10g、0.0038モル)を窒素雰囲気下にて充填した。3−アクリロイルプロピルトリメトキシシラン(1.79g、0.00763モル)を15分間にわたってフラスコに滴下して加えた。反応は発熱反応であり、室温にて30分間攪拌し、次に、55℃にて12時間加熱した。得られた透明で粘稠な油をCVD及び分析に供した。
【0116】
調製例3:
HFPO−(C(O)NH(CHNHCHの合成
電磁攪拌棒及び入口アダプターを装備した200mLの一つ口丸底フラスコに、HFPO−(C(O)OCH(分子量:2400、100g、0.0417モル)及びHN(CHNHCH(分子量:88.15、8.82g、0.1000モル)を充填し、窒素下にて75℃で24時間攪拌した。所望のアミドに関連付けられたピーク(約1710cm−1)の出現と共に、HFPO−(C(O)OCHに関連付けられたピーク(約1790cm−1)の消失をFTIR分析にて確認した時点で、反応は終わった。生成物は、ジクロロメタンのアリコート110gにて3回連続して洗浄し、分離するごとにジクロロメタンを廃棄して、過剰なHN(CHNHCHを除去した。HFPO−(C(O)NH(CHNHCHH−NMRは、所望の生成物が過剰なHN(CHNHCHを有さないことを示した。
【0117】
(実施例3):
3の合成.HFPO−(C(O)−NH−(CHN(CH)(CHCHC(O)O(CHSi(OCH
電磁攪拌棒及び入口アダプターを装備した100mLの一つ口丸底フラスコに、HFPO−(C(O)−NH−(CHNHCH(分子量:2512、15g、0.0060モル)を充填し、乾燥空気下65℃にて10分間攪拌した。CH=CHC(O)O(CHSi(OCH(分子量:233.96、2.79g、0.0119モル)を5分間にわたってフラスコに滴下して加えた。温度を55℃まで下げ、24時間攪拌した。HFPO(C(O)NH(CHN(CH)CHCHC(O)O(CHSi(OCHH−NMRによって、所望の生成物を確認した。
【0118】
【表1】

【0119】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】

【化1】

の化合物であって、
式中、
は、フッ素含有基であり、
は、共有結合、多価アルキレン若しくはアリーレン基、又はこれらの組み合わせであり、該アルキレン基は、所望により1つ以上のカテナリーの酸素又は窒素原子を含有し、
は、式
【化2】

を有し、
式中、
は、−O−、−S−、又は−NR−であり、Rは、H又はC〜Cのアルキルであり、
は、H、C〜Cのアルキル又は−CHCH−C(O)−X−R−Si(Y)(R3−pであり、
は、二価のアルキレン基であり、該アルキレン基は、所望により1つ以上のカテナリー酸素原子を含有し、
Yは、加水分解性基であり、
は、一価のアルキル又はアリール基であり、
pは、1、2、又は3であり、
x及びyは、それぞれ独立して、少なくとも1であり、zは1又は2である、化合物。
【請求項2】
が、式
【化3】

を有し、式中、
は、一価のペルフルオロアルキル若しくはペルフルオロオキシアルキル基、又は二価のペルフルオロアルキレン若しくはペルフルオロオキシアルキレン基であり、
は、−O−、−NR−、又は−S−であり、Rは、H又はC〜Cのアルキルであり、
zは1又は2である、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
フッ素含有アミンとアクリロイルシランとの間のマイケル反応から誘導される、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
が、一価のペルフルオロアルキル及びペルフルオロオキシアルキル基、並びに二価のペルフルオロアルキレン及びペルフルオロオキシアルキレン基から選択されるフッ素含有基を含む、請求項1に記載の化合物。
【請求項5】
が、−(C2nO)−、−(CF(Z)O)−、−(CF(Z)C2nO)−、−(C2nCF(Z)O)−、−(CFCF(Z)O)−、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される1つ以上のペルフルオロ化された繰返し単位を含む、一価のペルフルオロオキシアルキル基、又は二価のペルフルオロオキシアルキレン基であり、式中、nは1〜4であり、zはペルフルオロアルキル基、ペルフルオロアルコキシ基、又はペルフルオロオキシアルキル基である、請求項2に記載の化合物。
【請求項6】
が、式
W−R−O−R−(R
の基を含み、
式中、
Wは、一価のペルフルオロオキシアルキルの場合、Fであり、二価のペルフルオロオキシアルキレンの場合、自由原子価(「−」)であり、
は、ペルフルオロアルキレン基を表し、
は、1、2、3若しくは4個の炭素原子を有するペルフルオロオキシアルキレン基又はこのようなペルフルオロオキシアルキレン基の混合物からなるペルフルオロアルキレンオキシ基を表し、
は、ペルフルオロアルキレン基を表し、
qは0又は1である、請求項2に記載の化合物。
【請求項7】
前記ペルフルオロオキシアルキレン基が、−[CF−CF−O]−;−[CF(CF)−CF−O]−;−[CFCF−O]−[CFO]−、−[CFCFCFCF−O]、及び−[CF−CF−O]−[CF(CF)−CF−O]−のうちの1つ以上から選択され、式中、r、s、t、及びuのそれぞれが、1〜50の整数である、請求項4に記載の化合物。
【請求項8】
が、二価のペルフルオロオキシアルキレン基を含み、zは2である、請求項1に記載の化合物。
【請求項9】
が、一価のペルフルオロオキシアルキル基であり、zは1である、請求項2に記載の化合物。
【請求項10】
Yが、ハロゲン、C〜Cのアルコキシ基、又はC〜Cのアシルオキシ基である、請求項1に記載の化合物。
【請求項11】
シラン基対R基のモル比が1:1より大きい、請求項2に記載の化合物。
【請求項12】
フッ素含有アミンが、式
【化4】

を有し、式中、
は、一価のペルフルオロアルキル若しくはペルフルオロオキシアルキル基、又は二価のペルフルオロアルキレン若しくはペルフルオロオキシアルキレン基であり、
は、−O−、−NR−、又は−S−であり、式中、Rは、H又はC〜Cのアルキルであり、
は、共有結合、多価アルキレン若しくはアリーレン基、又はこれらの組み合わせであり、該アルキレン基は、所望により1つ以上のカテナリーの酸素又は窒素原子を含有し、
は、C〜Cのアルキル、又は(R−X−C(O)−CHCH−であり、
zは1又は2である、請求項3に記載の化合物。
【請求項13】

【化5】

のアクリロイルシランから誘導される、請求項1に記載の化合物であって、式中、
は、二価又は多価のアルキレン基であり、該アルキレン基は、所望により1つ以上のカテナリーの酸素又は窒素原子、及び1つ以上のエステル、アミド、尿素又はカルバメート連結を含有し、
は、−O−、−NR−又は−S−であり、式中、Rは、H又はC〜Cのアルキルであり、
Yは、加水分解性基であり、
は、一価のアルキル又はアリール基であり、
yは1〜4であり、
pは、1、2、又は3である、化合物。
【請求項14】
請求項1に記載の化合物の少なくとも1つ及び溶媒を含む、コーティング組成物。
【請求項15】
シルセスキオキサンを更に含む、請求項14に記載のコーティング組成物。
【請求項16】
アミノシランとペンダントアクリレート基を有するフッ素含有化合物とのマイケル付加反応生成物を含む化合物であって、該フッ素含有化合物が、求電子性フルオロケミカル化合物と求核性アクリロイル化合物との反応生成物を含む、化合物。
【請求項17】

【化6】

の、請求項1に記載の化合物であって、
式中、
は、一価のペルフルオロアルキル若しくはペルフルオロオキシアルキル基、又は二価のペルフルオロアルキレン若しくはペルフルオロオキシアルキレン基であり、
は、−O−、−NR−又は−S−であり、式中、Rは、H又はC〜Cのアルキルであり、
は、C〜Cのアルキル、又は−CHCHC(O)−X−R−Si(Y)(R3−p若しくは(R−X−C(O)−CHCH−であり、
は、二価のアルキレン基であり、該アルキレン基は、所望により1つ以上のカテナリー酸素原子を含有し、
Yは、加水分解性基であり、
は、一価のアルキル又はアリール基であり、
pは、1、2、又は3であり、
zは1又は2である、化合物。
【請求項18】

【化7】

の、請求項1に記載の化合物であって、式中、
は、一価のペルフルオロアルキル若しくはペルフルオロオキシアルキル基、又は二価のペルフルオロアルキレン若しくはペルフルオロオキシアルキレン基であり、
各Rは、H、1〜4個の炭素原子を有するアルキル基、又は6〜10個の炭素原子を有するアリール基を表し、
各Rは、独立して、2〜8個の炭素原子を有するアルキレン基を表し、
vは、少なくとも1であり、
zは1又は2であり、
各R10は、独立して、H、1〜4個の炭素原子を有するアルキル基、又は6〜10個の炭素原子を有するアリール基、R−C(O)−若しくは−CHCHC(O)−X−R−Si(Y)(R3−pであり、式中、Xは、−O−、−NR−又は−S−であり、Rは、H又はC〜Cのアルキルであり、Rは二価のアルキレン基であり、該アルキレン基は、所望により1つ以上のカテナリー酸素原子を含有し、Yは、加水分解性基であり、Rは、一価のアルキル又はアリール基であり、pは、1、2、又は3であり、
ここで、化合物は、少なくとも1つのフッ素化基及び少なくとも1つのシラン基を含有する、化合物。
【請求項19】
基の数が、シラン基の数より大きい、請求項18に記載の化合物。
【請求項20】
シラン基の数が、R基の数より大きい、請求項18に記載の化合物。
【請求項21】
基材を請求項14のコーティング組成物と接触させる工程を含む、コーティング法。
【請求項22】
請求項1に記載の化合物の硬化したコーティングを有する基材を含む、コーティングされた物品。
【請求項23】
前記基材が、1つ以上の金属酸化物を有する金属酸化物膜の反射防止表面を含む反射防止基材である、請求項22に記載のコーティングされた物品。
【請求項24】
前記反射防止表面が、真空蒸着させた金属酸化物膜を含む、請求項23に記載の物品。
【請求項25】
請求項1に記載の化合物が、蒸着によりコーティングされる、請求項22に記載の物品。
【請求項26】
第1表面の少なくとも一部の上の反射防止コーティング、及び該反射防止コーティング上に配置されたシランのコーティングを有する透明基材を含む、請求項22に記載の物品。
【請求項27】
前記透明基材が、可撓性有機高分子材料を含む、請求項26に記載の物品。

【公表番号】特表2010−522758(P2010−522758A)
【公表日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−501039(P2010−501039)
【出願日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【国際出願番号】PCT/US2008/055229
【国際公開番号】WO2008/121469
【国際公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【出願人】(505005049)スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニー (2,080)
【Fターム(参考)】