説明

マイタケ抽出物及びノビレチンを含有する血管新生抑制および/または細胞増殖抑制組成物

【課題】シークワーサーなどの柑橘系植物由来のポリメトキシフラボノイドである、ノビレチン(nobiletin:(5,6,7,8,3',4'-hexamethoxyflavone))の細胞増殖抑制作用および/または血管新生抑制作用を増強した組成物を提供する。
【解決手段】朽木などに生え、分岐した多数の扁平な菌体が重なり合って大きな塊状となり、全体は重さ数キログラムに達する担子菌類のきのこである、マイタケを純エタノールにより抽出して得られるマイタケ抽出物と該ノビレチンを含む組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイタケ抽出物及びノビレチンを含有する血管新生抑制および/または細胞増殖抑制組成物に関する。
【0002】
また、本発明は、上記血管新生抑制および/または細胞増殖抑制組成物を用いた、血管新生および/または細胞増殖を抑制することが有効な疾患や心身機能障害の治療法または予防法にも関する。
【背景技術】
【0003】
血管新生とは、新しい血管の増殖、成長のことを意味する。血管新生は、様々な生理的、病的な状態で重要な役割を果たしている。
健康体においては、創傷治癒における細胞の増殖期に、受傷後の組織への血流回復のために、そして女性の月経期や妊娠期に血管新生が起こる。
健康体では、血管新生の促進や抑制は、「on」「off」の切り替えにより制御されており、「on」のスイッチは、血管新生刺激因子であり、「off」スイッチは、血管新生抑制因子と呼ばれている。
通常の健康体においては、血管新生の促進や抑制を制御するために、血管新生因子と血管新生抑制因子のバランスがとられている。
【0004】
血管新生のコントロールの欠如は、多くの深刻な疾患を引き起こす。いわゆる「血管新生過剰」が引き起こす疾患は数多く知られている。これらの疾患には、乾癬、関節炎、網膜症、緑内障、黄斑変性症、歯周病およびがんなどがある。例えば、がんは、正常な成長や臓器と比べて高い代謝効率を有している。従って、がんはより高い栄養供給を得る為に、より多くの血液を必要とするので、血管形成の抑制は、がんの成長を抑制または制御する1つのメカニズムとなりうる。このように、血管新生抑制因子はこれら疾患の進展を遅延させることができる。
【0005】
ノビレチン(nobiletin(5,6,7,8,3',4'-hexamethoxy flavone))は、次式:


で示す、柑橘由来ポリメトキシフラボノイドである。
【0006】
ノビレチンは、in vivoおよびin vitroにおいて抗腫瘍および抗がん転移作用を併せもつことが知られている(非特許文献1〜5)。また、ノビレチンを含む柑橘類のシークワーサーはがん予防や抗老化などの健康食品として知られている。
【0007】
一方、マイタケのエタノール抽出物としては、チロシナーゼ阻害効果、α−アミラーゼ阻害効果、皮膚湿潤効果、免疫低下抑制効果が知られている(特許文献1〜3)。しかし、マイタケ抽出物に、ノビレチンの血管新生抑制作用および細胞増殖抑制作用を増強する効果があることは知られていなかった。
【特許文献1】特開平2−121905号公報
【特許文献2】特開2000−319192号公報
【特許文献3】特開平11−263732号公報
【非特許文献1】Murakami A, Nakamura Y, Torikai K, Tanaka T, Koshiba T, Koshimizu K, Kuwahara S, Takahashi Y, Ogawa K, Yano M, Tokuda H, Nishino H, Mimaki Y, Sashida Y, Kitanaka S, Ohigashi H. Inhibitory effect of citrus nobiletin on phorbol ester-induced skin inflammation, oxidative stress, and tumor promotion in mice. Cancer Res. 60:5059-5066, 2000.
【非特許文献2】Minagawa A, Otani Y, Kubota T, Wada N, Furukawa T, Kumai K, Kameyama K, Okada Y, Fujii M, Yano M, Sato T, Ito A, Kitajima M. The citrus flavonoid, nobiletin, inhibits peritoneal dissemination of human gastric carcinoma in SCID mice. Jpn. J. Cancer Res. 92:1322-1328, 2001.
【非特許文献3】Sato T, Koike L, Miyata Y, Hirata M, Mimaki Y, Sashida Y, Yano M, Ito A. Inhibition of activator protein-1 binding activity and phosphatidylinositol 3-kinase pathway by nobiletin, a polymethoxy flavonoid, results in augmentation of tissue inhibitor of metalloproteinases-1 production and suppression of production of matrix metalloproteinases-1 and -9 in human fibrosarcoma HT-1080 cells. Cancer Res. 62:1025-1029, 2002.
【非特許文献4】Miyata Y, Sato T, Yano M, Ito A. Activation of protein kinase C βII/ε-c-Jun NH2-terminal kinase pathway and inhibition of mitogen-activated protein/extracellular signal-regulated kinase 1/2 phosphorylation in antitumor invasive activity induced by the polymethoxy flavonoid, nobiletin. Mol. Cancer Ther. 3:839-847, 2004.
【非特許文献5】Yoshimizu N, Otani Y, Saikawa Y, Kubota T, Yoshida M, Furukawa T, Kumai K, Kameyama K, Fujii M, Yano M, Sato T, Ito A, Kitajima M. Anti-tumour effects of nobiletin, a citrus flavonoid, on gastric cancer include: antiproliferative effects, induction of apoptosis and cell cycle deregulation. Aliment. Pharmacol. Ther. Suppl 1:95-101, 2004.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、ノビレチンの血管新生抑制作用(抗血管新生作用)および細胞増殖抑制作用を増強することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、マイタケ抽出物とノビレチンとの混合物が、ノビレチンの抗血管新生効果および細胞増殖抑制効果を増強することを見出し、本発明を完成した。
【0010】
よって、
(1)本発明は、マイタケ抽出物とノビレチンを含有する組成物に関する。
(2)本発明は、マイタケ抽出物が、乾燥マイタケを純エタノールにより抽出して得られる、上記(1)に記載の組成物に関する。
(3)本発明は、血管新生抑制および/または細胞増殖抑制のための上記(1)または(2)に記載の組成物に関する。
(4)本発明は、血管新生および/または細胞増殖を抑制することが有益な疾患もしくは障害を治療または予防するための、上記(3)に記載の組成物を含有する医薬組成物に関する。
(5)本発明は、血上記(4)に記載の医薬組成物を製造するための、上記(3)に記載の組成物の使用に関する。
(6)本発明は、上記(4)に記載の医薬組成物を哺乳動物に投与することを含む、血管新生および/または細胞増殖を抑制することが有益な疾患もしくは障害を治療または予防するための方法に関する。
【発明の効果】
【0011】
驚くべきことに、本発明である、マイタケ抽出物とノビレチンとの混合物は、ノビレチン単独の場合と比較し、顕著に血管新生抑制および細胞増殖抑制作用を増強する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明で用いるノビレチン(nobiletin(5,6,7,8,3',4'-hexamethoxy flavone))とは、次式:


の化合物を意味し、自ら調製しても市場より入手してもよい。ノビレチンの起源は、特に限定されないが、植物、好ましくはシークワーサー(Citrus depressa)、タチバナ(C. tachibana)、コウジ(C. leiocarpa)、ギリミカン(C. tardiva)、ジミカン(C. succosa)、シカイカン(C. suhuensis hort. Ex Tanaka)、キシュウ(C. kinokuni)、コベニミカン(C. erythrosa)、スンキ(C. sunki)、チチュウカイマンダリン(C. deliciosa)、キング(C. nobilis)、ポンカン(C. retuculata)、ダンシータンジェリン(C. tangerina)、ユズ区に属するハナユ(C. hanayu)、コウライタチバナ(C. nippokoreana)などの柑橘類、より好ましくはシークワーサー(Citrus depressa)由来である。また、合成品であっても良い。
【0013】
本発明におけるマイタケは、サルノコシカケ科マイタケ属(Polyporaceae Grifola)のきのこをいい、マイタケ(Grifola frondosa)、白マイタケ(Grifola albicans)、チョレイマイタケ(Grifola umbellatus)、トンビマイタケ(Grifola gigantean)等が例示できる。本発明におけるマイタケは、好ましくはグリフォラ・フロンドーサである。マイタケは、子実体及び菌糸体のいずれでもよいが、子実体が好ましい。マイタケは市場より入手することができる。
【0014】
抽出原料の乾燥マイタケは、10重量%以下の水分含量を有するマイタケをいう。乾燥マイタケは、好ましくは8重量%以下、より好ましくは7重量%以下の水分含量を有する。乾燥マイタケは、生マイタケを任意の方法(例えば、天日乾燥、加熱乾燥、真空乾燥、凍結乾燥等)により脱水・乾燥することにより得ることができる。乾燥マイタケは、粉末の形態にあるものが好ましい。
【0015】
本発明における純エタノールは、15℃でエタノールを98.0容量%以上含有するエタノールをいう。純エタノールは、好ましくは99.0容量%以上、より好ましくは99.5容量%以上のエタノールを含む。
【0016】
乾燥マイタケの純エタノールによる抽出は、原料である乾燥マイタケに純エタノールを加えた後、常温で又は加熱下で、一定時間攪拌することにより行う。加熱温度は、通常エタノールの沸点以下の温度であるが、密閉容器中では120℃以下の温度とすることもできる。好ましい抽出温度は、常温(室温)である。抽出時間は、特に限定されないが、例えば5分〜10時間程度である。抽出は、1回又は2回以上行うことができる。
【0017】
抽出における乾燥マイタケに対する純エタノールの使用量は、乾燥マイタケ100重量部に対して、純エタノールを100〜1000重量部、好ましくは200〜600重量部、より好ましくは300〜500重量部である。
【0018】
抽出処理後、濾紙又は濾布による濾過又は遠心分離などの分離手段により純エタノール抽出液を得ることができる。
【0019】
本発明におけるマイタケの純エタノール抽出物は、上記のエタノール抽出液の状態であってもよい。あるいは、純エタノール抽出物は、抽出液から常法によりエタノールを全面的に又は部分的に除去した状態であってもよい。すなわち、エタノールを実質的に含まない状態でも、エタノールを1〜50重量%含む状態でもよい。10〜15重量%のエタノールを含む抽出物は、保存性がよいことから、好ましい態様である。純エタノール抽出物は、乾燥マイタケに対して2〜10重量%、より特定的には3〜5重量%(固形分として)の収量で得られる。純エタノール抽出物中の有効成分は不明であるが、純エタノール抽出物は、リン脂質、植物性ステロイドが含まれている。
【0020】
本発明の組成物中のマイタケ抽出物(エタノールを実質的に含まない状態)とノビレチンの重量に基づく比率は、どのような重量比率でも良いが、ノビレチン100重量部に対して、マイタケ抽出物が200〜100000重量部、好ましくは1000〜50000重量部、より好ましくは4000〜30000重量部の範囲である。
【0021】
本発明の組成物は、さらに慣用の担体、賦形剤、または添加剤等を含んでもよい。慣用の担体、賦形剤、または添加剤等には、溶媒、植物油、鉱油、脂肪油、流動パラフィン、緩衝剤、保存剤、湿潤剤、キレート剤、抗酸化剤、安定化剤、乳化剤、懸濁化剤、ゲル形成剤、軟膏基剤、坐剤基剤、浸透促進剤、芳香剤、甘味料、着色料、香料および皮膚保護剤などが挙げられる。
【0022】
溶媒には、水、アルコール、BG(1,3−ブチレングリコール)、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセロール、液体ポリアルキルシロキサンおよびそれらの混合物などが挙げられるが、これらに限定されることはない。
【0023】
植物油には、アーモンド油、ヒマシ油、カカオ脂、ココナツ油、トウモロコシ油、綿実油、亜麻仁油、オリーブ油、パーム油、落花生油、ケシの実油、菜種油、ゴマ油、ダイズ油、ヒマワリ油、小麦胚芽油、米油および茶の実油およびそれらの混合物などが挙げられるが、これらに限定されることはない。これら食用油は、市販のものであっても自分で調製したものであっても良い。好ましくは、オリーブ油である。
【0024】
緩衝剤には、クエン酸、酢酸、酒石酸、乳酸、リン酸水素、ジエチルアミンンおよびそれらの混合物などが挙げられるが、これらに限定されることはない。
湿潤剤には、グリセリン、プロピレングリコール、ペンチレングリコール、ソルビトール、乳酸、尿素、BG(1,3−ブチレングリコール)、ダイズステロールおよびそれらの混合物などが挙げられるが、これらに限定されることはない。
【0025】
キレート剤には、EDTAナトリウム、クエン酸およびそれらの混合物などが挙げられるが、これらに限定されることはない。
抗酸化剤には、ブチル化ヒドロキシアニソール(BHA)、アスコルビン酸およびその誘導体、α−、β−、γ−、δ−トコフェロール(tocopherol)およびその誘導体、α−、β−、γ−、δ−トコトリエノール(tocotrienol)およびその誘導体、システインならびにそれらの混合物などが挙げられるが、これらに限定されることはない。
【0026】
乳化剤には、天然ゴム(例えば、アカシアゴム)、トラガカントゴム、キサンタンガム;天然ホスファチド(例えば、ダイズレシチン);モノオレイン酸ソルビタン誘導体;羊毛脂;羊毛アルコール;ソルビタンエステル;モノグリセリド;脂肪アルコール(例えばベヘニルアルコール);脂肪酸エステル(例えばトリ(カプリル/カプリン酸)グリセリル、ステアリン酸グリセリル(SE)のような脂肪酸のトリグリセリド);およびそれらの混合物などが挙げられるが、これらに限定されることはない。
【0027】
懸濁化剤には、セルロースおよびその誘導体(例えばカルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースなど)、カラゲナン、アカシアゴム、アラビアゴム、トラガカントおよびそれらの混合物などが挙げられるが、これらに限定されることはない。
【0028】
ゲル基剤および増粘成分には、流動パラフィン、ポリエチレン、脂肪油、コロイドシリカまたはアルミニウム、亜鉛セッケン、グリセロール、プロピレングリコール、トラガカント、カルボキシビニルポリマー、ケイ酸マグネシウム−アルミニウム、親水性ポリマー(例えば、デンプン、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロースおよび他のセルロース誘導体などのセルロース誘導体)、水膨潤性親水コロイド、カラゲナン、ヒアルロン酸塩(例えば、塩化ナトリウムを選択的に含むヒアルロン酸ゲル)、アルギン酸エステル(例えば、アルギン酸プロピレングリコール)およびそれらの混合物などが挙げられるが、これらに限定されることはない。
【0029】
軟膏基剤には、蜜蝋、パラフィン、セタノール、パルミチン酸セチル、セテアリルアルコール ステアリン酸ポリグリセリル−10、ステアリン酸、ステアリン酸PEG−150、植物油、脂肪酸のソルビタンエステル、ポリエチレングリコール、脂肪酸のソルビタンエステルと酸化エチレンとの間の縮合生成物(例えば、モノオレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン)およびそれらの混合物などが挙げられるが、これらに限定されることはない。
【0030】
疎水性軟膏基剤には、パラフィン、植物油、動物脂、合成グリセリド、ろう、ラノリン、液体ポリアルキルシロキサンおよびそれらの混合物などが挙げられるが、これらに限定されることはない。
【0031】
親水性軟膏基剤には、固体マクロゴール(ポリエチレングリコール)などが挙げられるが、これに限定されることはない。さらに、慣用の担体、賦形剤、または添加剤等には、スクワラン、レシチン、水添レシチン、テトラへキシルデカン酸アスコルビル、アラントイン、グリチルリチン酸2K、グリコシルトレハロース、加水分解水添デンプン 加水分解コラーゲン バラエキス、ジメチコン、カプリリルグリコール、ベタイン、ステアロイルグルタミン酸Na、ノバラ油、バチルアルコール、ハイドロプロキシプロリンなどが挙げられる。
【0032】
組成物中における、マイタケ抽出物(エタノールを実質的に含まない状態)とノビレチンをあわせた合計量の含有率は、例えば0.1〜99.9重量%、好ましくは1〜99%である。残りの部分は、上記の慣用の担体、賦形剤、または添加剤等である。
【0033】
本発明の組成物には、食品(特に、血管新生および/または細胞増殖を抑制するための機能性食品)、化粧品、医薬品の形態の組成物が含まれる。
【0034】
本発明で用いられる、血管新生抑制とは、新しい血管の形成や成長を阻害または抑制する作用を意味する。
【0035】
本発明で用いられる、細胞増殖抑制とは、動物細胞、好ましくは動物細胞の異常増殖や成長を阻害または抑制する作用、より好ましくは悪性腫瘍細胞(がん細胞)の増殖や成長を阻害または抑制する作用を意味する。
【0036】
本発明で用いられる、血管新生および/または細胞増殖を抑制することが有益な疾患もしくは障害とは、血管新生および/または細胞増殖を抑制することにより、疾患もしくは障害の進行が抑制されたり、または症状が改善もしくは軽減されたりする疾患もしくは障害を意味し、例えば、がん、網膜症、緑内障、黄斑変性症、歯周病、乾癬および関節炎などが挙げられる。好ましくは、がん、乾癬、関節炎である。
【0037】
本発明で用いられる、乾癬は、好ましくは尋常性乾癬、 膿疱性乾癬、乾癬性紅皮症、関節症性乾癬、滴状乾癬などである。
【0038】
本発明で用いられる、関節炎は、好ましくは変形性関節症、顎関節症やリウマチ性関節症などである。より好ましくは、滑膜炎を伴うリウマチ性関節症などである。
本発明で用いられる、網膜症は、好ましくは糖尿病網膜症、高血圧網膜症などである。
本発明で用いられる、緑内障は、好ましくは原発緑内障、先天緑内障、続発緑内障、正常眼圧緑内障などである。
本発明で用いられる、黄斑変性症は、好ましくは加齢黄斑変性症などである。より好ましくは、滲出型の加齢黄斑変性症などである。
本発明で用いられる、歯周病は、好ましくは歯肉炎、歯周炎である。
【0039】
本発明で用いられる、がんとは、悪性腫瘍を意味し、好ましくは皮膚がん、肺癌、乳癌、胃癌、大腸癌、子宮癌、卵巣癌、喉頭癌、咽頭癌、舌癌、骨肉腫、軟骨肉腫、横紋筋肉腫、平滑筋肉腫、線維肉腫、脂肪肉腫、血管肉腫、白血病、悪性リンパ腫、骨髄腫などである。より好ましくは、メラノーマなどの皮膚がん、乳癌である。
【0040】
本発明で用いられる、治療とは、既に発症している疾患もしくは障害の進行を抑制したり、または症状を改善もしくは軽減することを意味する。また、本発明で用いられる、予防とは、疾患もしくは障害の発症を防ぐことまたは遅らせることを意味する。
【0041】
本発明で用いられる、治療や予防の対象は、哺乳動物、例えば、ヒト、犬、猫等の愛玩動物、ウシ、ブタ、ニワトリ等の家畜動物であるが、特にヒトであることが望ましい。
【0042】
本発明で用いられる、投与とは、全身投与、局所投与であってよく、全身投与、局所投与は、経皮投与、舌下投与、経口投与、経腸投与、筋肉内投与、皮下投与、静脈投与、経鼻投与、点眼などいずれの投与形態であってもよい。好ましくは、経皮投与、舌下投与である。
【0043】
本発明で用いられる、疾患もしくは障害を治療または予防するために有効な投与量は、疾患もしくは障害の程度、投与方法によって異なり、血管新生および/または細胞増殖を抑制するために有効な量であれば限定されないが、ノビレチンの量が、0.1〜1000 mg/体重kg・日、好ましくは1〜500 mg/体重kg・日、より好ましくは10〜100 mg/体重kg・日である。
【0044】
本発明の組成物は、これら疾患もしくは障害の治療や予防のための医薬の製造のために用いることができる。医薬の形態は、たとえば、クリーム、舌下剤、マッサージ油、溶液、懸濁液、ローション、軟膏、ゲル、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、シロップ剤、坐剤を挙げることができる。好ましくは、クリーム、舌下剤、マッサジ油である。
【0045】
本発明の組成物は、さらに血管新生抑制作用および/または細胞増殖抑制作用を有する他の薬剤を含んでもよい。
【0046】
本発明について、以下の例によって更に説明する。ただし本発明は以下に示す例に限られたものではないことを理解されたい。
【実施例1】
【0047】
1.マイタケ由来エタノール抽出物(マイタケ抽出物)の製造
マイタケの滅菌乾燥粉末(水分含量:6重量%、ホクト(株)の「乾燥舞茸B−1−A」)1000gに純エタノール(水分含量:99.5容量%以上)4000gを加え、20℃にて18時間にわたり攪拌しながら抽出した。残渣を遠心分離により除去し、得られた上澄みを濾紙により濾過した。得られた濾液からエタノールを蒸発・除去して、マイタケの純エタノール抽出物(収量43.2g、内固形分37.2g及びエタノール6.0g)を得た。
【0048】
2.ヒトメラノーマ細胞Mewoの培養方法
ヒトメラノーマ細胞Mewo(JCRB0066)は、(財)ヒューマンサイエンス振興財団より購入した。Mewo細胞は、10容量%ウシ胎仔血清(FBS)含有Dulbecco's modified Eagle's medium(DMEM、インビトロジェンより購入)を用いて培養した。
【0049】
3.細胞増殖活性測定
Mewo細胞(5 x 103cells/well)を96-well細胞培養プレートに播種し, 24時間培養することで細胞を接着させた。 次に、Mewo細胞をマイタケ抽出物(400 μg/ml)、ノビレチン(4〜32 μM(1.61〜12.88 μg/mlに相当する)、和光純薬工業より購入)またはゲネステイン(4〜32 μM(1.08〜8.65 μg/mlに相当する)、シグマ・アルドリッチより購入)を含む2容量%FBS/DMEMにてさらに24時間処理した。処理終了3時間前に、細胞にAlamar blue染色液(和光純薬工業より購入)を最終濃度10容量%になるように添加した。細胞に取り込まれたAlamar blue染色液の蛍光強度(励起波長:540 nm、蛍光波長:590 nm)を蛍光マイクロプレートリーダー(スペクトラフルオロプラス、テカン社製)を用いて測定することにより細胞増殖活性とした。
【0050】
4.ヒト微小血管内皮細胞(HMVEC)による管腔形成
正常ヒト微小血管内皮細胞(HMVEC)および5容量%FBS、10 ng/mlヒト組換え型上皮成長因子、1 μg/mlハイドロコルチゾン、50 μg/mlゲンタマイシン、50 ng/mlアンフォテリシン、5 ng/mlヒト組換え型塩基性繊維芽細胞増殖因子、10 μg/mlヘパリンおよび39.3 μg/ml dibutyl cyclic AMPを含む培養液(HuMedia-MvG、製品番号:KE-2550)は、クラボウより購入した。また、in vitro血管新生解析キット(ECMatrixTM)は、Chemicon Internationalより購入した。血管新生実験は、購入したキットの添付文書に従い実施した。すなわち、予めラミニン、IV型コラーゲン、ヘパラン硫酸プロテオグリカン、エンタクチンおよびニドゲンなどの基底膜構成成分から成るECMatrixTMを96-well細胞培養プレートにコートし、このプレートの各wellにHMVEC(3 x 104 cells/well)を播種した。次に、マイタケ抽出物(400 μg/ml)、ノビレチン(4〜32 μM)、ゲネステイン(4〜32 μM)またはマトリックスメタロプロテアーゼ阻害剤のGM6001(5〜20 μM(1.94〜7.77 μg/mlに相当する)、カルビオ・ノババイオケムより購入)を含むHuMedia-MvG にて16時間培養した。培養(薬物処理)後、倒立型光学顕微鏡下(x40倍率、CKX41、オリンパス社製)において撮影した管腔形成の状態をキット添付文書に記載の分類方法に基づき、0〜5の6段階評価を行った。
【0051】
なお、本ヒト微小血管内皮細胞(HMVEC)による管腔形成は、本キットを用いなくとも、基底膜再構成基質(MatrigelTM、日本ベクトン・ディッキンソンより購入可能である;Oikawa, T., Sasaki, M., Inose, M., Shimamura, M., Kuboki, H., Hirano, S., Kumagai, H., Ishizuka, M., and Takeuchi, T. Effects of cytogenin, a novel microbial product, on embryonic and tumor cell-induced angiogenic responses in vivo. Anticancer Res. 17:1881-1886(1997))、またはコラーゲン(新田ゼラチンより購入可能である;林 純子, 及川 勉(1996):IV. 血管新生実験法, 血管新生のメカニズムと疾患(室田誠逸, 井藤英樹 編集), p255-266, 医薬ジャーナル社, 東京;Nakashima, T., Hirano, S., Agata, N., Kumagai, H., Isshiki, K., Yoshioka, T., Ishizuka, M., Maeda, K., and Takeuchi, T. Inhibition of angiogenesis by a new isocoumarin, NM-3. J. Antibiot.(Tokyo)52:426-428(1999))を用いても可能である。
【0052】
5.統計処理
Fisherの多変量分散分析法により各処理間の有意差検定を実施した。
【0053】
6.実験結果
6−1.図1に示したように、マイタケ抽出物(400 μg/ml)それ自体はヒトメラノーマ細胞Mewoの細胞増殖活性には影響しなかった(未処理の細胞増殖活性が1931 ± 21.1蛍光/ウェルあるのに対し、マイタケ抽出物処理の細胞増殖活性は1977 ± 48.1蛍光/ウェルであった)。また、ノビレチンは32 μMにおいて弱いながらMewo細胞の増殖活性を抑制した。マイタケ抽出物とノビレチンを同時に処理したところ、ノビレチンの細胞増殖抑制作用はマイタケ抽出物により増強することが初めて明らかとなった。すなわち、32 μMのノビレチン単独での細胞増殖活性(1565 ± 72.8蛍光/ウェル)に対し、マイタケ抽出物(400 μg/ml)とノビレチン(32 μM)での細胞増殖活性は 1327 ± 103.2蛍光/ウェルであり、16 μMのノビレチン単独での細胞増殖活性 (1921 ± 152.2蛍光/ウェル)に対し、マイタケ抽出物(400 μg/ml)とノビレチン(16 μM)での細胞増殖活性は1576 ± 60.1蛍光/ウェルであり、8 μMノビレチンでの細胞増殖活性(2005 ± 128.7蛍光/ウェル)に対し、マイタケ抽出物(400 μg/ml)とノビレチン(8 μM)での細胞増殖活性は1690 ± 63.5蛍光/ウェルである(図1で示すb)。
【0054】
6−2.種々のガン細胞に対し抗腫瘍効果が報告されているゲネステイン(Kodama N, Komuta K, Nanba H. Can maitake MD-fraction aid cancer patients? Altern. Med. Rev. 7:236-239, 2002.Mayell M. Maitake extracts and their therapeutic potential. Altern. Med. Rev. 6:48-60, 2001)を用いて検討したところ、ノビレチンと同濃度のゲネステイン(8〜32 μM)はMewo細胞の増殖活性には影響を及ぼさなかった(図1、ゲネステイン8 μMの細胞増殖活性は1912 ± 103.4蛍光/ウェル、16 μMの細胞増殖活性は1878 ± 198.8蛍光/ウェル、32 μMの細胞増殖活性は1645 ± 29.8蛍光/ウェル)。また、マイタケ抽出物は、32 μMのゲネステインにおいてそのMewo細胞の細胞増殖抑制を増強した(細胞増殖活性は1645 ± 29.8蛍光/ウェル、図1で示すa)。しかしながら、ゲネステインに対するマイタケ抽出物の増強効果は、ノビレチンに対するそれよりも有意に弱いことが判明した(p<0.001)(図 1)。
【0055】
6−3.図2および3に示したように、ノビレチンは8 μM以上においてヒト血管内皮細胞の管腔形成を抑制した(p<0.001)。また、マイタケ抽出物(400μg/ml)はノビレチンの管腔形成抑制作用を増強し、より低濃度のノビレチン(4〜16 μM)においてその抑制作用が有意に増強した(4および16 μM、p<0.05)。すなわち、4 μMのノビレチン単独での管腔形成スコア4.33 ± 0.58に対し、マイタケ抽出物(400 μg/ml)とノビレチン(4 μM)での管腔形成スコアは3.00 ± 0.00であり、16 μMのノビレチン単独での管腔形成スコア2.33 ± 0.58に対し、マイタケ抽出物(400 μg/ml)とノビレチン(16 μM)での管腔形成スコアは1.00 ± 1.00である(図3に示すa)。
【0056】
6−4.血管内皮細胞による管腔形成促進には、マトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)が関与することが示唆されていること(Davis GE, Saunders WB. Molecular balance of capillary tube formation versus regression in wound repair: role of matrix metalloproteinases and their inhibitors. J. Invest. Dermatol. Symp. Proc. 11:44-56, 2006.)、また、ノビレチンは(MMP)産生抑制作用を有することが報告されていること(非特許文献2〜4)から、本実験におけるHMVECによる管腔形成にMMPが関与するか否かをMMP活性阻害物質であるGM6001(Galardy RE, Grobelny D, Foellmer HG, Fernandez LA. Inhibition of angiogenesis by the matrix metalloprotease inhibitor N-[2R-2-(hydroxamidocarbonymethyl)- 4-methylpentanoyl)]-L-tryptophan methylamide. Cancer Res. 54:4715-4718, 1994.)を用いて検討した。図4に示したように、GM6001(5〜20 μM)はHMVECによる管腔形成に影響を及ぼさないことが判明した。すわなち、HMVECによる管腔形成にはMMPは関与しないことが判明した。
【0057】
6−5.既知の血管新生抑制物質である天然物由来イソフラボンのゲネステインを用いてノビレチンの抗血管新生作用と比較したところ、4〜32 μMにおけるゲネステインの管腔形成阻害作用は、ノビレチンのそれよりも弱いことが判明した(図 5)。また、ノビレチンの場合とは異なり、マイタケ抽出物(400 μg/ml)は、4〜32 μMにおけるゲネステインの管腔形成阻害作用を増強しなかった(図 6)。
【0058】
7.考察
マイタケ抽出物は、それ自体ガン細胞増殖抑制および血管新生抑制作用を示さないが、天然物由来のガン抑制(細胞増殖抑制および血管新生抑制)物質であるノビレチンとの併用により、ノビレチンの抗腫瘍活性(細胞増殖抑制活性)のみならず抗血管新生作用をも増強する薬理作用を有することが強く示唆された。さらに、これらマイタケ抽出物の増強効果は抗腫瘍(細胞増殖抑制および血管新生抑制)活性を有する既知フラボノイドのゲネステイン(4〜32 μMの濃度)では観察されないことから、マイタケ抽出物は、ノビレチンと併用することで新規抗腫瘍薬の開発素材になるものと期待される。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明の、マイタケ抽出物とノビレチンを含む細胞増殖抑制および/または血管新生抑制組成物(細胞増殖抑制剤および/または血管新生抑制剤)は幅広い様々な疾患に対する治療、予防に有益である。これらの疾患には、乾癬、関節炎、網膜症、緑内障、黄斑変性症、歯周病、およびがんなどの細胞増殖および/または血管新生が関与する疾患が含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】ヒトメラノーマ細胞の細胞増殖活性に対するノビレチンの抑制作用とマイタケ抽出物によるその抑制作用の増強効果を示す。**:対未処理群(p<0.01)。#および###:対マイタケ抽出物処理群(それぞれ、p<0.05 および 0.001)。aおよびb:対各濃度の単独処理(それぞれ、p<0.05 および 0.001)。
【図2】ノビレチンによる血管新生抑制作用とマイタケ抽出物によるノビレチンの抗血管新生作用の増強を示す。
【図3】ノビレチンの抗血管新生作用に対するマイタケ抽出物の増強作用を示す。***:対未処理群(p<0.001)。###:対マイタケ抽出物処理群(p<0.001)。a:対ノビレチン単独処理(p<0.05)。
【図4】ヒト微小血管内皮細胞による管腔形成はマトリックスメタロプロテアーゼ酵素活性は依存しないことを示す。GM6001:マトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)活性阻害剤。
【図5】ノビレチンとゲネステインの抗血管新生作用の比較を示す。
【図6】ゲネステインによる血管新生抑制作用に対するマイタケ抽出物の作用を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイタケ抽出物とノビレチンを含む組成物。
【請求項2】
マイタケ抽出物が、乾燥マイタケを純エタノールにより抽出して得られる、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
血管新生抑制および/または細胞増殖抑制のための、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
血管新生および/または細胞増殖を抑制することが有益な疾患もしくは障害を治療または予防するための、請求項3に記載の組成物を含有する医薬組成物。
【請求項5】
請求項4に記載の医薬組成物を製造するための、請求項3に記載の組成物の使用。
【請求項6】
請求項4に記載の医薬組成物を哺乳動物に投与することを含む、血管新生および/または細胞増殖を抑制することが有益な疾患もしくは障害を治療または予防するための方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−137948(P2009−137948A)
【公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−290480(P2008−290480)
【出願日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【出願人】(500452385)株式会社ハイマート (4)
【出願人】(506190267)
【出願人】(506189582)
【出願人】(506188611)
【Fターム(参考)】