説明

マグネシウム合金基板におけるニッケル系積層構造の作成方法、該方法による表面処理マグネシウム合金物及び該方法に用いる清浄溶液と表面処理溶液

【課題】 マグネシウム合金基板上にニッケル系の積層構造を形成する方法、該方法による表面処理マグネシウム合金物及び該方法に用いる清浄溶液と表面処理溶液を提供する。
【解決手段】 本発明は、マグネシウム合金基板(1)上にマグネシウムと所定の金属(32)との固溶体を含む境界層と、ニッケル系の積層構造とを形成する方法に関する。前記方法により表面処理されたマグネシウム合金物、及び、前記方法に用いる清浄溶液と表面処理溶液も開示されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マグネシウム合金基板の表面処理方法に関し、具体的に、マグネシウム合金基板上にニッケル系積層構造を形成する方法、この方法により形成される表面処理マグネシウム合金物、及び、この方法に用いる清浄溶液と表面処理溶液に関する。
【背景技術】
【0002】
マグネシウム合金は、軽量と高構造強度などの優れた特性を有するため、素材産業で重要な役割を果たしている。しかし、マグネシウム合金は、表面処理が必要であり、また、その表面処理が容易ではないため、効率的に大量生産されることが依然できない。具体的に言えば、第一は、マグネシウムとマグネシウム合金が化学的に活性的ものであり、また、通常大気下又はpH値が10より小さい場合でアニオンにより腐食されやすい。酸化マグネシウム層が腐食過程中においてマグネシウム合金に形成される時に、形成された酸化マグネシウム層が緩んだ構造を有し、また、下部にある腐食されていないマグネシウム合金を有効的に覆うことができない。第二は、マグネシウム合金が16〜40HREのような低値の硬度を有する。マグネシウム合金が腐食しやすい環境に使用される時に、マグネシウム合金の表面が破壊されやすく、また、マグネシウム合金が一層酷く腐食される。そのため、マグネシウム合金の耐食性が良くない。第三は、マグネシウムが六方稠密構造(HCP)の結晶構造を有し、また、リチウム(Li)、アルミニウム(Al)、亜鉛(Zn)、ジルコニウム(Zr)及びトリウム(Th)以外の金属と共に固溶体を形成することが困難である。そのため、マグネシウム合金の耐食性を改善し、又は、マグネシウム合金物を他のものに付着するために、十分な厚みを持つ保護被膜をマグネシウム合金物の表面に形成することが難しい。
【0003】
マグネシウム合金の耐食性を改善するために、特許文献1には、アルカリ溶液中において水酸化アルミニウムでマグネシウム又はマグネシウム合金物の表面に対して陽極酸化処理を行うことによりマグネシウム又はマグネシウム合金物に耐食性を与える方法が開示されている。しかし、その表面に形成された陽極酸化膜が該表面に密接に付着することができないので、陽極酸化膜の厚みは、この陽極酸化膜が前記表面から剥離することを避けるよう制限される。これにより、陽極酸化膜の靱性と強度が不十分になってしまう。
【0004】
特許文献2には、マグネシウム又はマグネシウム合金の表面に形成される陽極酸化膜と、この陽極酸化膜に形成される熱硬化性樹脂膜と、この熱硬化樹脂膜に真空蒸着法、イオンプレーティング法又はスパッタリング法により形成される導電性膜とを含む表面処理マグネシウム又はマグネシウム合金が開示されている。前述した特許文献1に開示されている方法と同様に、マグネシウム又はマグネシウム合金に形成される陽極酸化膜がこのマグネシウム又はマグネシウム合金に密接に付着することができない。また、熱硬化樹脂膜がマグネシウム又はマグネシウム合金の膨張係数より高い膨張係数を有するので、熱硬化樹脂膜が一定の期間後に破壊しやすい。よって、このようなものは、マグネシウム又はマグネシウム合金の長期間の耐食性を確保することができない。
【0005】
特許文献3には、マグネシウム合金製品に被膜を付着し、マグネシウム合金製品を脱脂し、高濃度アルカリ溶液でマグネシウム合金製品を清浄し、マグネシウム合金製品を酸洗いし、リン酸、フッ化物イオン及び酸性フッ化物ナトリウムを含む溶液にマグネシウム合金製品を浸すなどのステップを有する非電解プロセスが開示されている。前述した特許文献1に開示されている方法と同様に、マグネシウム合金製品に形成される被膜がこのマグネシウム合金製品に密接に付着することができない。よって、マグネシウム又はマグネシウム合金の長期間の耐食性を得ることができない。
【0006】
特許文献4には、マグネシウム又はマグネシウム合金部品の耐食性を改善するためのプロセスが開示されている。このプロセスは、表面処理剤によりマグネシウム又はマグネシウム合金部品を逐次的に処理するステップを有し、そのうち、表面処理剤は、合金部品上に第一層を形成するために用いるリン酸、第一層上に第二層を形成するために用いるアルカノールアミン又は脂肪族アミンなどを含むプリ処理剤と、防蝕剤とを有する。しかし、表面処理剤により形成された第一層が結合水を有するので、イオンの移動が生じやすく、第一層がマグネシウム又はマグネシウム合金部品に密接に結合することができない。また、第二層が不安定な有機材料を含有する化学剤により形成されるので、マグネシウム又はマグネシウム合金部品が防蝕剤で逐次的に処理されても長期間の耐食性を得ることができない。
【0007】
特許文献5には、マグネシウム合金の耐食性と塗膜密着性を改善するために酸化バナジウム又は酸化セリウムを有する化成被覆剤でマグネシウム合金を処理する方法が開示されている。しかし、前述した特許文献1に開示されている方法と同様に、マグネシウム合金に形成される被膜が該マグネシウム合金に密接に付着することができない。よって、マグネシウム合金の長期間の耐食性を得ることができない。
【0008】
特許文献6には、超音波処理の補助によりマグネシウム又はマグネシウム合金からなる物体に下部被膜を形成し、そして、この下部被膜上に上部被膜を形成するプロセスが開示されている。下部被膜は、上部被膜と比べるともっとノーブルな金属(Nobel Metal)からなっても良い。しかし、下部被膜と上部被膜を含む被膜が一時的に耐食的である。下部被膜が銅などの貴金属からなるので、同様にその物体に密接に付着することが難しく、また、マグネシウム合金と反応し内部ミクロセル効果(Internal Microcell Effect)を誘発しやすい。よって、被膜により提供される耐食性が著しく低下し、また、マグネシウム合金の長期間の耐食性を得ることもできない。
【0009】
特許文献7には、少なくとも一つの重合可能なシリコーン成分と、少なくとも一つのアミン含有シラン接着促進剤と、少なくとも一つの充填剤とを含むシリコーン組成物が開示されている。このシリコーン組成物は、マグネシウム合金部品を他のマグネシウム合金部品又は基板に付着するための接着剤としての機能を有する。しかし、硬化された後のシリコーン組成物の硬度が低く、また、この組成物より形成される被膜が破裂に敏感的であるので、形成された被膜がマグネシウム合金に密接に結合することができない。従って、そのような被膜を有するマグネシウム合金が他のマグネシウム部品又は基板に十分に付着することができず、また、マグネシウム合金部品の長期間の耐食性を得ることもできない。
【0010】
ゆえに、マグネシウム又はマグネシウム合金に耐食性のある被膜を形成し、且つ、このマグネシウム又はマグネシウム合金にしっかりと付着することができ、これにより、マグネシウム又はマグネシウム合金の耐食性を十分に改善できる方法が当業界で依然要求されている。
【特許文献1】米国特許第4,551,211号
【特許文献2】米国特許第4,770,946号
【特許文献3】米国特許第5,683,522号
【特許文献4】米国特許第6,787,192号
【特許文献5】米国特許第6,755,918号
【特許文献6】米国特許第6,669,997号
【特許文献7】米国特許第6,645,339号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、マグネシウム合金基板にニッケル系積層構造を形成する方法、この方法により形成される表面処理マグネシウム合金物、及び、この方法に用いられる清浄溶液と表面処理溶液を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の一側面によれば、マグネシウム(Mg)合金基板にニッケル系の積層構造を形成する方法が提供される。この方法は、(a)Zn、Co、Cd及びそれらの合金を含む所定の金属の結晶とニッケルの結晶を有する遷移層をマグネシウム合金基板に形成するステップと、(b)第一のニッケル系層を遷移層に形成するステップと、(c)遷移層とマグネシウム合金基板の界面にマグネシウム固溶体と所定の金属を有する境界層を形成するよう、マグネシウム合金基板と遷移層と第一のニッケル系層からなる集合体に対して熱処理を行うステップとを有する。
【0013】
本発明の他の側面によれば、表面処理マグネシウム合金物が提供される。このマグネシウム合金物は、マグネシウム合金基板と、マグネシウム合金基板に形成され、Zn、Co、Cd又はそれらの合金を含む所定の金属及びマグネシウム固溶体を有する境界層と、境界層に形成される第一のニッケル系層とを含む。
【0014】
本発明の他の側面によれば、マグネシウム合金物の表面を処理するために用いられる清浄溶液が提供される。この清浄溶液は、乳酸、酢酸、シュウ酸、コハク酸、アジピン酸、クエン酸又はリンゴ酸を有する有機酸と、陰イオン界面活性剤と、極性有機溶媒とを含む。
【0015】
また、本発明の他の側面によれば、水と、フッ化物イオンと、アンモニウムイオンと、ニッケルイオンとを含む表面処理溶液が提供される。
【発明の効果】
【0016】
本発明は、マグネシウム合金基板上にニッケル系積層構造を形成する方法、この方法により形成される表面処理マグネシウム合金物、及び、この方法に用いられる清浄溶液と表面処理溶液を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
次に、添付した図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態を詳細に説明する。
【0018】
本発明の好適な一実施例により、マグネシウム合金基板にニッケル系の積層構造を形成する方法は、(a)Zn、Co、Cd又はそれらの合金を含む所定の金属の結晶とニッケルの結晶を有する遷移層をマグネシウム合金基板に形成するステップと、(b)第一のニッケル系層を遷移層に形成するステップと、(c)遷移層とマグネシウム合金基板の界面にマグネシウム固溶体と所定の金属を有する境界層を形成するよう、この界面における所定の金属とマグネシウムの液相(例えば、溶融体)を形成可能な温度で、マグネシウム合金基板と遷移層と第一のニッケル系層からなる集合体に対して熱処理を行うステップとを含む。
【0019】
図1を参照する。好適な一実施例において、マグネシウム合金基板1は、HCP結晶構造を有するマグネシウム合金固溶体11と、固溶体11の粒界12に存在する複数の金属間化合物とを有する。
【0020】
図2乃至図5を参照する。粒界12が緩んだ構造を有し、また、金属間化合物が結合欠陥と酷い腐食を起こしやすい相対的に高い表面エネルギーを有するので、好ましくは、マグネシウム合金基板に遷移層3と第一のニッケル系層4を形成する前に、マグネシウム合金基板に複数の凹部14を形成するよう金属間化合物を少なくとも複数的に除去する。他の好適な実施例において、遷移層3と第一のニッケル系層がリベットのように凹部14に延伸し、これにより、マグネシウム合金基板1と遷移層3との間の接触領域が大きくなり、また、遷移層3とマグネシウム合金基板1との間の結合強度が強くなる。
【0021】
好ましくは、マグネシウム合金基板1に遷移層13を形成する前に、マグネシウム合金基板1を清浄し、HCP結晶構造をマグネシウム合金基板1の固溶体11の外表面13に露出させる。
【0022】
より好ましくは、マグネシウム合金基板1の清浄がマグネシウム合金基板1に清浄溶液を与えることにより行われ、この清浄溶液が有機酸(Organic Acid)、陰イオン界面活性剤(Anionic Surfactant)及び極性有機溶媒(Polar Organic Solvnent)を含む。清浄溶液は、残留物2を生成するよう粒界12に存在する金属間化合物と反応する。最も好ましくは、マグネシウム合金基板1の清浄がマグネシウム合金基板1に凹部14を生成するよう洗剤で残留物2をマグネシウム合金基板1から除去する洗いステップを更に含み、これにより、残留物の実質的にないマグネシウム合金基板1の表面を生成することができる。
【0023】
本発明に係わる方法による処理に適用するマグネシウム合金基板1の実施例が制限されない。例えば、Al、Zn、Zr、Li、Th、Mn又はこれらの合金を含む所定の金属と安定なマグネシウム固溶体11からなるマグネシウム合金基板1であっても良い。また、マグネシウム合金基板1の可能な実施例は、AZ31B、AZ61A、ZK60A、LA141A、HM21A、HK31A及びEZ33Aを含んでも良いが、これらに限られない。好適な一実施例において、マグネシウム合金基板1におけるマグネシウム含有量が83wt%以上である。
【0024】
清浄溶液の有機酸が粒界12に存在する金属間化合物を除去するために用いられる。しかし、このような有機酸は、乳酸(Lactic Acid)、酢酸(Acetic Acid)、シュウ酸(Oxalic Acid)、コハク酸(Succinic Acid)、アジピン酸(Adipic Acid)、クエン酸(Citric Acid)又はリンゴ酸(Malic Acid)を含むものに限られない。好ましくは、有機酸が乳酸であり、また、形成された残留物2が乳酸マグネシウムと、マグネシウムと共に固溶体11を生成する金属の乳酸物を含む。
【0025】
陰イオン界面活性剤が疎水性分子をより疎水的にさせるために用いられる。このような陰イオン界面活性剤は、ラウリル硫酸ナトリウム(Sodium Lauryl Sulfate)、イソアルキル硫酸ナトリウム(Sodium Iso−alkyl Sulfate)、ラウリルPVE硫酸ナトリウム(Sodium Lauryl Polyvinylether Sulfate)、グリセロールモノラウレート硫酸ナトリウム(Sodium Glycerol Monolaurate Sulfate)、ポリグリセリン縮合リシノール酸エステルナトリウム塩(Polyglycerol Esters Of Interesterified Acid Sodium Salt)、ラウリルスルホン酸塩ナトリウム(Sodium Lauryl Sulfonate)又は1,2−アルキルリン酸(1,2−alkyl Phosphate)を含むが、これらに限られない。好ましくは、陰イオン界面活性剤が、ラウリルスルホン酸塩ナトリウムと1,2−アルキルリン酸とを含む。
【0026】
他の好適な実施例において、清浄溶液に含まれる極性有機溶媒は、有機酸により溶解される残留物2の溶出速度を減少するために使用される。従って、残留物12が除去される前における所定の期間内で粒界12に残留することができ、これにより、粒界12までのエッチング深度と金属間化合物の溶出速度の制御を可能にする。好適な一実施例において、エッチング深度の好ましい範囲が5―10μmである。極性有機溶媒は、メタノール(Methanol)、エタノール(Ethanol)、プロパノール(Propanol)又はイソプロパノール(Isopropanol)を含むが、これらに限られない。
【0027】
他の好適な実施例において、マグネシウム合金基板1は、MgとAlの固溶体より作られ、このMgとAlの固溶体の粒界にMg17Al12超微細結晶が存在する。清浄溶液は、乳酸、イソプロパノール(Isopropanol)及び陰イオン界面活性剤を含む。また、形成された残留物2は、乳酸マグネシウムと乳酸アルミニウムを含む。
【0028】
好適の一実施例において、清浄溶液内に含まれる有機酸と陰イオン界面活性剤の濃度範囲が、それぞれ、0.1−2Mと0.001−0.01Mである。より好ましくは、清浄溶液内に含まれる有機酸と陰イオン界面活性剤の濃度範囲が、それぞれ、0.4−0.7Mと0.002−0.004Mである。最も好ましくは、清浄溶液内に含まれる有機酸と陰イオン界面活性剤の濃度範囲が、それぞれ、0.5−0.6Mと0.0025−0.0035Mである。
【0029】
他の好適な実施例において、マグネシウム合金基板1の清浄は、300−360Khzの超音波周波数を清浄溶液に与えることにより行われる。超音波周波数は、300−360Khz、150−180Khz又は20−45Khzを含む周波数範囲内で調和振動技術により発生される。
【0030】
又は、マグネシウム合金基板1の清浄は、まず、外表面13の疎水性分子を除去するよう、陰イオン界面活性剤と極性有機溶媒を含む第一の清浄溶液をマグネシウム合金基板1に与え、次に、金属間化合物を溶解するよう、有機酸と極性有機溶媒を含む第二の清浄溶液を使うことにより行われる。
【0031】
好適な一実施例において、洗剤は、水と、炭素数が4より小さいアルコールとを含む。より好ましくは、洗剤は水である。他の好適な実施例において、残留物2の除去は、300−360KHzの超音波周波数を洗剤に与えることにより行われる。超音波周波数は、300−360Khz、150−180Khz又は20−45Khzを含む周波数範囲で調和振動技術により発生される。
【0032】
熱処理中に遷移層3の構造強度を更に向上するために、遷移層3に含まれる所定の金属32は、ニッケルの原子半径と同じ原子半径を有する。より好ましくは、所定の金属がZnである。
【0033】
遷移層3は、第一のニッケル系層4を形成するための触媒層として機能する。よって、厚い遷移層3は不要である。好適な一実施例において、遷移層3の厚み範囲が20−200nmであり、より好ましくは、30−100nmであり、最も好ましくは、40−60nmである。
【0034】
好適な一実施例において、遷移層3の形成は、遷移層の組成物をマグネシウム合金基板1に印加することにより行われる。遷移層の組成物は、水、フッ化物イオン、アンモニウムイオン、所定の金属イオン又はニッケルイオンを含む。
【0035】
他の好適な実施例において、所定の金属イオンが亜鉛イオンであるときに、遷移層の組成物は、0−85℃の温度範囲と0.1−2のpH値範囲内に保持される。フッ化物イオン、アンモニウムイオン、亜鉛イオン及びニッケルイオンの濃度範囲が、それぞれ、0.1−5M、0.1−5M、0.02−2M及び0.05−2Mである。より好ましくは、遷移層の組成物が0−30℃の温度範囲と0.2−1.5のpH値範囲内に保持され、また、フッ化物イオン、アンモニウムイオン、亜鉛イオン及びニッケルイオンの濃度範囲が、それぞれ、0.7−1.4M、0.5−0.9M、0.12−0.25M及び0.2−0.25Mである。最も好ましくは、遷移層の組成物が20−25℃の温度範囲と0.5−1のpH値範囲内に保持され、また、フッ化物イオン、アンモニウムイオン、亜鉛イオン及びニッケルイオンの濃度範囲が、それぞれ、0.9−1.2M、0.65−0.75M、0.16−0.2M及び0.22−0.24Mである。
【0036】
図4と図5を参照する。所定の金属32がZnであるときに、マグネシウム合金基板1に形成された遷移層2は、好ましくは、Ni結晶31、Zn結晶32とフッ化物マグネシウム(MgF)33を含む。遷移層3に含まれるMgF33が遷移層3に第一のニッケル系層4を形成する時に取り替えられる。よって、第一のニッケル系層4の一部がマグネシウム合金基板1の残留物のない表面15に直接形成される。
【0037】
好ましくは、マグネシウム合金基板1の凹部14を部分的に充填するよう第一のニッケル系層4の形成を制御する。他の好適な実施例において、第一のニッケル系層4の厚み範囲が2−10μmであり、より好ましくは3−8μmであり、最も好ましくは4−6μmである。
【0038】
また、他の好適な実施例において、第一のニッケル系層4の形成は無電解メッキ法により行われる。好適の一実施例において、第一のニッケル系層4には、ニッケルと所定の金属32が主要な成分とされ、リン(P)がドーパントとしてドーピングされる。
【0039】
好適な一実施例において、第一のニッケル系層4の形成は、第一のニッケル系層の組成物を遷移層3に与えることにより行われる。第一のニッケル系層の組成物は、水、フッ化物イオン、アンモニウムイオン、所定の金属イオン、ニッケルイオン、次亜リン酸イオン、及び、C2−C8有機酸イオンを含むバッファを有する。即ち、第一のニッケル系層の組成物は、次亜リン酸イオンと緩衝剤を遷移層の組成物に添加することにより形成される。
【0040】
他の好適な実施例において、所定の金属イオンが亜鉛イオンであるときに、第一のニッケル系層の組成物は、70−100℃の温度範囲と2−6.5のpH値範囲内に保持される。フッ化物イオン、アンモニウムイオン、亜鉛イオン、ニッケルイオン、次亜リン酸イオン、C−C8有機酸イオンの濃度は、それぞれ、0.1−5M、0.1−5M、0.02−2M、0.02−2M、0.05−1M、及び、0.02−2Mである。より好ましくは、第一のニッケル系層の組成物が80−97℃の温度範囲と3−4.5のpH値範囲内に保持され、また、フッ化物イオン、アンモニウムイオン、亜鉛イオン、ニッケルイオン、次亜リン酸イオン、C−C8有機酸イオンの濃度は、それぞれ、0.35−0.53M、0.35−0.53M、0.06−0.09M、0.127−0.155M、0.1−0.2M、及び、0.07−0.1Mである。最も好ましくは、第一のニッケル系層の組成物が90−95℃の温度範囲と3。5−4のpH値範囲内に保持され、また、フッ化物イオン、アンモニウムイオン、亜鉛イオン、ニッケルイオン、次亜リン酸イオン、C−C8有機酸イオンの濃度は、それぞれ、0.4−0.5M、0.4−0.5M、0.07−0.08M、0.135−0.145M、0.14−0.16M、及び、0.08−0.09Mである。
【0041】
他の好適な実施例において、マグネシウム合金基板1と遷移層3と第一のニッケル系層4からなる集合体の熱処理は、140−250℃の温度範囲内に行われる。より好ましくは、その温度範囲が170−190℃である。最も好ましくは、マグネシウム合金基板1と遷移層3と第一のニッケル系層4からなる集合体の熱処理が、まず、約150℃/hrの加熱速度で約180℃に加熱し、この温度に60分間保持し、次に、約170−190℃の温度範囲に60分間保持し、それから、約−150℃/hrの冷却速度で室温まで冷却することにより行われる。
【0042】
図6と図7を参照する。マグネシウム合金基板1と遷移層3と第一のニッケル系層4からなる集合体が境界層52を形成するために熱処理されるときに、遷移層3にあるニッケル結晶31と所定の金属結晶32がマグネシウム合金基板1に浸透し、遷移層3とマグネシウム合金基板の界面に所定の金属32とマグネシウム固溶体を形成する。また、遷移層3にあるニッケル結晶31と所定の金属結晶32が第一のニッケル系層4にも浸透し、遷移層3と第一のニッケル系層の界面にNiとMgの固溶体を形成する。その後、境界層52が形成される。境界層52は、そのように形成された所定の金属とマグネシウム固溶体を含み、この固溶体は、HCP結晶構造を有する。さらに、所定の金属32、Ni及びPのうち、少なくとも二つを含む金属間化合物が境界層52に形成される。
【0043】
他の好適な実施例において、境界層52にあるニッケル対所定の金属32の濃度比が、境界層52の層厚に沿って、マグネシウム合金基板1と境界層52の界面から境界層52と第一のニッケル系層4の界面へ次第に増加する。より好ましくは、境界層52は、マグネシウム合金基板1に密接に結合するために20nm以上の厚みを有する。
【0044】
他の好適な実施例において、境界層52に含まれる所定の金属32は亜鉛であり、また、境界層52は、第一のニッケル系層4に隣接するように配置されるNi51Zn21の固溶体を有する。
【0045】
より好ましくは、遷移層の組成物にあるイオンと第一のニッケル系層の組成物にあるイオンの濃度及び熱処理温度が、境界層52にHCP結晶構造を有する所定の金属32の超微細結晶を更に含ませるように適当に制御され、これにより、転位欠陥の発生を避けることができる。
【0046】
好適な一実施例において、第一のニッケル系層4に含まれる所定の金属32が亜鉛であるときに、形成された第一のニッケル系層4がPをドーピングする非晶質Ni−Zn合金であり、はんだ付け技術により他の物体に直接溶接されることができる。他の実施例において、第一のニッケル系層4に含まれる所定の金属32がコバルトであるときに、第一のニッケル系層がPをドーピングした非晶質のNi−Co合金である。形成された第一のニッケル系層4は、高硬度と低内部応力を有するのみならず、良い耐食性も有する。同様に、第一のニッケル系層4に含まれる所定の金属32がCdであるときに、第一のニッケル系層4がPをドーピングした非晶質Ni−Cd合金である。形成された第一のニッケル系層4は、はんだ付け技術により他の物体に直接溶接されることもできる。
【0047】
図8と図9を参照する。他の好適な実施例において、第二のニッケル系層5が、マグネシウム合金基板1と遷移層2と第一のニッケル系層4からなる集合体に対しての熱処理を行う前に、無電解メッキ技術により第一のニッケル系層4上に形成される。
【0048】
より好ましくは、第二のニッケル系層5は、面心立方(FCC)構造を有するNi結晶と、体心正方(BCT)構造を有するNiP合金と、非晶質Niと、非晶質NiとFCCまたはBCC構造との粒界にドーピングされたPとを含む。更に好ましくは、第一と第二のニッケル系層4、5の形成が、第一と第二のニッケル系層4、5をマグネシウム合金基板1の凹部14に延長させる方式により制御される。最も好ましくは、第一のニッケル系層4は、凹部16を含む表面を有し、第二のニッケル系層5は、第一のニッケル系層4のその表面にある凹部16に延伸する。
【0049】
他の好適な実施例において、第二のニッケル系層5の形成は、第二のニッケル系層の組成物を第一のニッケル系層4に与えることにより行われる。
【0050】
他の好適な実施例において、第一のニッケル系層4に第二のニッケル系層5を形成するのは、無電解メッキ技術により行われる。
【0051】
より好ましくは、第二のニッケル系層の組成物が、水と、フッ化物イオンと、アンモニウムイオンと、ニッケルイオンと、次亜リン酸イオンと、キレート剤と、緩衝剤とを含み、このキレート剤がジエチレンアミン、エチレンジアミン及びトリエチレンテトラアミンを含み、この緩衝剤がC2−C8有機酸イオンを含む。更に好ましくは、C2−C8有機酸イオンがクエン酸塩イオンである。
【0052】
好適な一実施例において、第二のニッケル系層の組成物は、70−100℃の温度範囲と2−6.5のpH値範囲内に保持される。フッ化物イオン、アンモニウムイオン、ニッケルイオン、次亜リン酸イオン、キレート剤及び緩衝剤の濃度範囲は、それぞれ、0.1−5M、0.1−5M、0.02−2M、0.05−1M、0.001−0.1M及び0.02−2Mである。より好ましくは、第二のニッケル系層の組成物が、80−97℃の温度範囲と3−5のpH値範囲内に保持され、フッ化物イオン、アンモニウムイオン、ニッケルイオン、次亜リン酸イオン、キレート剤及び緩衝剤の濃度範囲が、それぞれ、0.35−0.53M、0.35−0.53M、0.13−0.15M、0.1−0.2M、0.005−0.1M及び0.07−0.1Mである。最も好ましくは、第二のニッケル系層の組成物が、90−95℃の温度範囲と3.2−4のpH値範囲内に保持され、フッ化物イオン、アンモニウムイオン、ニッケルイオン、次亜リン酸イオン、キレート剤及び緩衝剤の濃度範囲が、それぞれ、0.4−0.5M、0.4−0.5M、0.135−0.145M、0.14−0.16M、0.006−0.008M及び0.08−0.09Mである。
【0053】
第二のニッケル系層の組成物の前記最も好ましい実施例が応用されるときに、第二のニッケル系層5は、相対的に低いpH値の原因で相対的に高いリン含有量を有する。第二のニッケル系層5にドーピングされたリンの存在は、第二のニッケル系層5にドーピングされた水素の量を減少させる。よって、熱処理中に第二のニッケル系層5からの水素フリーラジカルの放出による好ましくない圧縮応力を抑えることができる。また、無電解メッキ技術により第一のニッケル系層4を形成した後に、大量の結晶が第一のニッケル系層4の表面に形成され、これは、第一のニッケル系層4の表面活性を向上し、また、第二のニッケル系層5の密度と強度も向上する。第二のニッケル系層5を形成するための無電解メッキプロセスに、電子が次亜リン酸イオンの反応により放出され、第一のニッケル系層4の表面に付着し、第一のニッケル系層4の表面に負電荷を与える。小分子アミンのような陽イオンキレート剤が第二のニッケル系層の組成物にあるニッケルイオンとキレートし、それは、キレートNi化合物の、第一のニッケル系層4の負電荷のある表面への移動速度を増加させる。また、高い移動速度は、第二のニッケル系層5の内部引張応力も向上する。
【0054】
マグネシウム合金基板1が25−30μm/(m×℃)の熱膨張係数を有し、また、第二のニッケル系層5が15−15μm/(m×℃)の熱膨張係数を有するので、マグネシウム合金基板1からの第二のニッケル系層5の剥離が生じる可能性がある。しかし、第二のニッケル系層5にある相対的に高い内部引張応力は、前記剥離の発生を避けることができる。
【0055】
他の好適な実施例において、表面処理マグネシウム合金基板1の硬度、耐食性、輝度を強化するために、第三のニッケル系層が電気メッキ、無電解メッキ、はけ塗りまたは粉体塗りにより第二のニッケル系層5上に形成される。より好ましくは、第三のニッケル系層は、FCC構造を有するニッケル結晶を含む。
【0056】
他の好適な実施例において、第二のニッケル系層5に第三のニッケル系層を形成するのが、第三のニッケル系層の組成物を第二のニッケル系層5に与えることにより行われる。第三のニッケル系層の組成物は、フッ化物イオン、アンモニウムイオン、ニッケルイオン、及び、C2−C8有機酸イオンを含む緩衝剤を有する。より好ましくは、緩衝剤がクエン酸塩イオンである。
【0057】
他の好適な実施例において、第三のニッケル系層の組成物は、25−70℃の温度範囲と0.5−5.0のpH値範囲内に保持される。フッ化物イオン、アンモニウムイオン、ニッケルイオン、C2−C8有機酸イオンの濃度が、それぞれ、0.1−5M、0.1−5M、0.1−2M、0.02−2Mである。より好ましくは、第三のニッケル系層の組成物が、40−60℃の温度範囲と1.5−3.0のpH値範囲内に保持され、フッ化物イオン、アンモニウムイオン、ニッケルイオン、C2−C8有機酸イオンの濃度が、それぞれ、1.75−2.1M、1.75−2.1M、1−1.3M、0.48−0.72Mである。最も好ましくは、第三のニッケル系層の組成物が、45−55℃の温度範囲と2−3のpH値範囲内に保持され、フッ化物イオン、アンモニウムイオン、ニッケルイオン、C2−C8有機酸イオンの濃度が、それぞれ、1.8−2M、1.8−2M、1.1−1.2M、0.56−0.64Mである。
【0058】
他の好適な実施例において、第三のニッケル系層は、1−10A/dmの電流密度で電気メッキにより形成される。より好ましくは、その電流密度の範囲が2−3A/dmである。
【0059】
好適な一実施例において、本発明の表面処理溶液が水、フッ化物イオン、アンモニウムイオン、ニッケルイオンを含む。導電アニオンとしてフッ化物イオンの使用は、マグネシウム金基板1の腐食を防止することができる。また、フッ化物イオンが相対的に小さいイオン半径及び相対的に高い負電気と伝導率を有する。表面処理溶液は、遷移層の組成物、第一、第二と第三のニッケル系層の組成物を形成するために使用される。好適な一実施例において、表面処理溶液が亜鉛イオン、コバルトイオン、カドミウムイオンを有する所定の金属イオンを更に含むときに、形成された表面処理溶液が遷移層の組成物を形成するための溶液とされても良い。他の好適な実施例において、表面処理溶液が次亜リン酸イオン、C2−C8有機酸イオンを含む緩衝剤、前記のような所定の金属イオンを更に含むときに、形成された溶液が第一のニッケル系層の組成物を形成するための溶液とされても良い。また、他の好適な実施例において、表面処理溶液が次亜リン酸イオン、C2−C8有機酸イオンを含む緩衝剤、前述したような所定の金属イオン、前記のようなキレート剤を更に含むときに、形成された溶液が第二のニッケル系層の組成物を形成するための溶液とされても良い。
【0060】
より好ましくは、表面処理溶液が1,4−ブチンジオールとクマリンのような無硫黄光沢剤を含み、硫黄による腐食を防止する。また、表面処理溶液がニッケルイオンのキレート剤としてのアンモニウムイオンを含み、これにより、表面処理溶液のフッ化物ニッケルの溶解度を向上することができる。
【0061】
マグネシウム合金基板1の孔隙が、マグネシウム合金基板1を清浄するときに露出されることができる。好適な一実施例においてマグネシウム合金基板1は、遷移層3を形成する前に化学的に研磨されても良い。より好ましくは、マグネシウム合金基板に対して化学研磨を行った後に、マグネシウム合金基板1に対して清浄工程を再び行う。他の実施例において、マグネシウム合金基板1の化学研磨は、酸性溶液をマグネシウム合金基板に与えることにより行われた。酸性溶液は、フッ化物イオン、アンモニウムイオン、硝酸イオンを含む。より好ましくは、酸性溶液にあるフッ化物イオン、アンモニウムイオン、硝酸イオンの濃度範囲が、それぞれ、50−70cc/l、30−50g/l、30−50g/lである。フッ化物イオンは、フッ化物酸、フッ化アンモニウム、フッ化ナトリウム、フッ化カリウムを含むフッ化物源から提供されてもよい。硝酸イオンは、硝酸、硝酸アンモニウム、硝酸ナトリウム、硝酸カリウムを含む硝酸源から提供されてもよい。アンモニウムイオンは、フッ化アンモニウム、硝酸アンモニウムを含むアンモニウム源から提供されても良い。更に好ましくは、マグネシウム合金基板1の化学研磨処理は、300―360KHzである超音波周波数を清浄溶液に与えることにより行われる。超音波周波数は、300−360Khz、150−180Khz又は20−45Khzを含む周波数範囲内で調和振動技術により発生される。
【0062】
また、本発明の好適な実施例によれば、清浄用組成物、化学研磨用組成物、遷移層の組成物、第一のニッケル系層の組成物、第二のニッケル系層の組成物及び第三のニッケル系層の組成物を含む本発明のすべての組成物は、フッ化物イオンを含み、また、同様な基本配合も有する。本発明の方法において、ただ一つの洗いステップが残留物2の除去に求められるが、従来技術において、数多くの洗いステップが無電解メッキまたは電気メッキに要求される。従って、マグネシウム合金基板1を他の物体に付着するときの洗いステップによる悪影響を避けることができる。
【0063】
本発明の前記組成物にあるフッ化物イオンを提供するためのフッ化物源は、フッ化物酸、フッ化アンモニウム、フッ化ナトリウム、フッ化カリウム、フッ化亜鉛、フッ化ニッケルを含むが、これらに限られない。前記組成物にあるアンモニウムイオンを提供するためのアンモニウム源は、フッ化アンモニウム、次亜リン酸アンモニウムを含むが、これらに限られない。前記組成物にある亜鉛イオンを提供するための亜鉛源は、炭酸亜鉛、水酸化亜鉛、次亜リン酸亜鉛を含むが、これらに限られない。前記組成物にあるニッケルイオンを提供するためのニッケル源は、水酸化ニッケル、フッ化ニッケル、クエン酸ニッケル、次亜リン酸ニッケルを含むが、これらに限られない。前記組成物にある次亜リン酸イオンを提供するための次亜リン酸源は、次亜リン酸、次亜リン酸ナトリウムカリウム、次亜リン酸カリウム、次亜リン酸アンモニウムを含むが、これらに限られない。また、C2−C8有機酸イオンを提供するためのC2−C8有機酸源は、乳酸、コハク酸、リング酸、シュウ酸を含む。
【0064】
なお、それぞれのイオンの提供源は、それぞれの組成物による所望の効果に基づいて決定される。例えば、次亜リン酸イオンの存在が電気メッキセル(Electroplating Cell)に対してのクラックダウン(Crack Down)を引き起こしやすいため、その存在が遷移層の組成物には避けられるべきである。よって、遷移層の組成物において、次亜リン酸亜鉛または次亜リン酸ニッケルの存在は避けられるべきである。また、亜鉛イオンなどの金属イオンの存在が第二と第三のニッケル系層の組成物には避けられるので、フッ化亜鉛の存在がこれらの組成物に避けられるべきである。
【0065】
また、前記組成物に与える振動周波数については、例えば、前記組成物を有する容器に超音波を与えること、当該容器に超音波プローブ(Sonicating Probe)を置くこと、または、当該容器に超音波発生器(Ultrasonator)を置くことにより実現されるが、これらの方法に限られない。
【0066】
実施例
実施例に用いる化学物質
1、ジエチレントライアミン:100%の液体、製品番号111−40−1、Aldrich社の市販品。
2、炭酸ニッケル:27wt%のニッケル含有量、製品番号123987Al、奥野製薬工業株式会社の市販品。
3、ラウリルスルホン酸ナトリウム:製品番号151−21−3、Fluka社の市販品。
4、クマリン:製品番号2543、Merck社の市販品。
5、実施例に用いるマグネシウム合金基板の組成物と性質は、以下通りである。
【0067】
【表1】

実施例1
七個のLA141A−T7合金基板(米国産)から試料1−7がそれぞれ作られ、そして、本発明のマグネシウム合金基板におけるニッケル系の積層構造の形成方法で以下のように表面処理される。
【0068】
(1)50g/Lの乳酸塩を含有するイソプロパノール(1L)溶液と0.5g/Lのラウリルスルホン酸ナトリウムを含有するイソプロパノール(1L)溶液を室温で形成し、そして、第一の超音波発生器(Ultrasonator)に入れて清浄浴を形成する。七個の試料1−7を第一の超音波発生器にある清浄浴に入れて約330KHzの周波数で5分清浄する。その後、第一の超音波発生器から七個の試料1−7を取り出して水で洗う。
【0069】
(2)60cc/Lのフッ化物酸(Fluoric Acide)、40g/Lのフッ化アンモニウム、40g/Lの硝酸を含有する化学研磨溶液を形成し、そして、第二の超音波発生器(Ultrasonator)に入れて化学研磨浴を形成する。清浄された七個の試料1−7を第二の超音波発生器にある化学研磨浴に入れて約330KHzの周波数で0.5分化学研磨する。第二の超音波発生器から試料1−7を取り出して、再び第一の超音波発生器にある清浄浴に入れて5分清浄する。その後、第一の超音波発生器から試料1−7を取り出す。これにより、HCP結晶構造が各々の試料の表面に露出され、また、5−10μmの深度範囲を有する凹部も各々の試料のHCP結晶構造の粒界に形成される。
【0070】
(3)水、15cc/Lのフッ化物酸(Fluoric Acid)、40g/Lのフッ化アンモニウム、15g/Lの酸化亜鉛、45g/Lの炭酸ニッケルを含有する第一の表面処理溶液(pH値が約0.5)を形成し、そして、第三の超音波発生器に入れて遷移層の組成物浴を形成する。前記ステップ(2)により得られた試料1−7を第三の超音波発生器にある遷移層の組成物浴に入れて約330KHzの周波数で5分処理する。これにより、亜鉛結晶、ニッケル結晶、フッ化マグネシウムを含み、5−10nmの厚み範囲を有する遷移層が各々の試料上に形成される。
【0071】
(4)水、25g/Lのフッ化アンモニウム、6g/Lの酸化亜鉛、30g/Lの炭酸ニッケル、20g/Lのクエン酸、20g/Lの次亜リン酸ナトリウムを含有する第二の表面処理溶液(pH値が約3.5)を形成し第一のニッケル系層の組成物浴を形成する。前記ステップ(3)の遷移層の組成物浴から取り出された試料1−7を、95℃の第一のニッケル系層の組成物浴に入れて、空気かくはんしながら5分置く。これにより、2−3μmの厚み範囲を有する第一のニッケル系層が各々の試料の遷移層上に形成される。前記ステップ(3)により形成されたフッ化マグネシウムが第一のニッケル系層に取り替えられ、各々の試料から剥離される。
【0072】
(5)水、25g/Lのフッ化アンモニウム、1.0g/Lのジエチレントライアミン、30g/Lの炭酸ニッケル、20g/Lのクエン酸、20g/Lの次亜リン酸ナトリウムを含有する第三の表面処理溶液(pH値が約3.2)を形成し第二のニッケル系層の組成物浴を形成する。前記ステップ(4)の第一のニッケル系層の組成物浴から取り出された試料1−7を、95℃の第二のニッケル系層の組成物浴に入れて、空気かくはんしながら15分置く。これにより、5−7μmの厚み範囲を有する第二のニッケル系層が各々の試料の第一のニッケル系層上に形成される。
【0073】
(6)水、120g/Lのフッ化アンモニウム、250g/Lの炭酸ニッケル、150g/Lのクエン酸、10g/Lの1,4−ブチンジオール、2g/Lのクマリンを含有する第四の表面処理溶液(pH値が約2.5)を形成し第三のニッケル系層の組成物浴を形成する。前記ステップ(5)の第二のニッケル系層の組成物浴から取り出された試料1−7を、50℃の第三のニッケル系層の組成物浴に入れて、約2.5A/dmの電流密度の下で空気かくはんしながら30分置く。これにより、第三のニッケル系層が各々の試料の第二のニッケル系層上に形成される。
【0074】
(7)前記ステップ(6)の第三のニッケル系層の組成物浴から試料1−7を取り出して、そして、約150℃/hr−180℃/hrの加熱速度で60分加熱する。次に、試料1−7を、170℃―190℃の温度範囲内に60分保持し、そして、約―150℃/hrの冷却速度で室温まで冷却させる。各々の試料に形成された、境界層と、第一、第二、第三のニッケル系層を含む被覆物が約36.6μmの平均厚みを有する。試料1−7の各々は、図9に示されるような断面構造を有する。そのうち、各々の試料のHCP結晶構造の粒界にある凹部14が第二のニッケル系層5に隣接し且つ第二のニッケル系層5により充填される。
【0075】
試料1−7の被覆物の構造と組成物
X線回折の分析によれば、前記ステップ(7)の熱処理を行う前に、試料1−7の各々が、境界層と第一のニッケル系層の界面において10:1の亜鉛対ニッケルの比を有し、第一と第二のニッケル系層の界面において1:9の亜鉛対ニッケルの比を有し、同時に、境界層に存在する結晶が超微細なものであるので、特定の結晶構造の吸収ピークがこれらのレイヤーに観察されなかった。第一と第二のニッケル系層の両方は、FCCニッケル、非晶質ニッケル、及び、FCCニッケルと非晶質ニッケルの粒界に存在するドープリンを含み、同時に、第三のニッケル系層は、FCCニッケルを含む。
【0076】
前記ステップ(7)の熱処理を行った後に、マグネシウムと亜鉛の液相が遷移層と各々の試料との界面に形成され、また、遷移層に存在する亜鉛が試料に浸透する。従って、熱処理後に形成された境界層は、HCP結晶構造を有するマグネシウム及び亜鉛の固溶体と、HCP亜鉛超微細結晶と、亜鉛、ニッケル及びリンの内の少なくとも二つを含む少なくとも一つの金属間化合物とを有する。特に、HCP ZnNiが各々の試料に隣接する境界層の下部に観察され、また、δ相のHCP ZnNi21が第一のニッケル系層に隣接する境界層の上部に観察された。このような現象が、被膜と各々の試料との結合に役立つことができる“マルテンサイト変態(Martensitic Transformation)”と呼ばれる。
【0077】
また、前記ステップ(7)の熱処理を行った後に、第一のニッケル系層は、リンがドーピングされる非晶質構造を有し、この非晶質構造がニッケルと亜鉛を含む。また、第二のニッケル系層は、FCCニッケルと、ニッケルとリンのBCT合金と、非晶質ニッケルと、リンとを有し、このリンは、該非晶質ニッケルにドーピングされ、また、該FCCニッケルとびニッケル及びリンのBCT合金との粒界にもドーピングされる。
【0078】
被膜が形成される試料1−7の物理特性
本発明の方法に基づいて表面処理を行った後に得られた試料1−7は、ASTM D3359、CNS 7094 Z8017、内部応力テスト、及び、ASTM B368−61Tを含む実験を受けた。
【0079】
(1)曲げと接着実験
試料1−7の各々が90度の角度で強制的に曲げられる。各々の試料の被膜の接着強度がASTM D3359に基づいてテストされる。テストの結果が表(1)に示されている。実験中、被膜の剥離が発見されなかった。よって、各々の試料に形成された被膜は、各々の試料に対しての優れた接着強度を有する。
【0080】
(2)ヴィッカース硬度実験
ダイヤモンドプローブ(Diamond Probe)が硬度を測定するために100gの力で各々の試料の被膜に圧入される。その結果は、単位“Hv”で表示され、また、表(1)に示されている。
【0081】
(3)内部応力実験
各々の試料の被膜の内部応力の測定が、内部応力のみで被膜を変形させ、そして、最初の形状を十分に回復できる力(単位がkgf/mm)を加えることにより行われる。加えられた力の値が正であれば、引張応力を示すが、負であれば、圧縮応力を示す。試料1−7の各々の内部応力実験の結果が表(1)に示されている。この結果によれば、各々の試料の被膜が引張応力を示し、これにより、試料1―7の熱膨張と収縮プロセスにおける被膜の剥離問題を抑えることができる。
【0082】
(4)ASTM B368−61Tによる腐食実験
(Copper−Accelerated Acetic Acid Salt Spary(Fog)Test、即ち、酢酸と塩水を混ぜたスプレーにさらす実験)
本発明の方法により表面処理された試料1−7は、ASTM B368−61Tによる耐食性実験を受けた。得られた結果がダービン標準(Durbin‘s Standard)に基づいて10個のレベルに分けられる。レベルが高ければ高いほど、耐食性が良い。低いレベルは、試料の被膜が間隙を有することを示す。耐食性実験の結果が表(1)に示されている。この結果によれば、表面処理された試料1−7のほとんどはレベル10の耐食性を有し、言い換えると、試料1−7のほとんどは、160時間の耐食性実験を耐えられる。
【0083】
【表2】

実施例2
10個のLA141A−T7合金基板(米国製)から試料8−17が作られ、また、実施例1の方法とほぼ同様な方法で表面処理されるが、その相違点は、第三のニッケル系層がハルセルに形成されることにある。そのうち、高電流領域は5A/dmの電流密度を有し、低電流領域は1A/dmの電流密度を有する。
【0084】
試料8−17に形成される被膜の厚みと様子
高と低電流密度領域に形成された各々の試料の被膜の厚みと様子が測定された。各々の試料に形成された被膜の厚みは、厚みクランプ(ドイツのINOX社の市販品)を使うことにより評価され、また、各々の試料に形成された被膜の様子は、裸眼で評価された。各々の試料の被膜の厚みと様子の結果が表(2)に示されている。
【0085】
表(2)に示されている結果は、試料8−17の各々の被膜が良い金属光沢を有し、また、20−40μmの厚み範囲内に所望の装飾性を実現することを示す。また、高電流領域に形成された被膜の膜厚が低電流領域に形成された被膜の膜厚に対する比が相対的に小さく、その比の範囲が1.4―2.2である。これは、第三のニッケル系層の組成物にあるフッ化物イオンが優れた伝導性を持ち、これにより、高電流領域に形成された被膜の膜厚と低電流領域に形成された被膜の膜厚との差を抑えることができるとのことを示す。
【0086】
【表3】

実施例3−8
実施例3−8の試料が作成された。試料の仕様が次の表(3)に示されている。試料が実施例1とほぼ同様な方法で表面処理された。表面処理された試料は、実施例1と同様な方法で、曲げと付着強度実験及び腐食実験を受け、また、実施例3−8の各々の試料に形成された被膜の厚みが測定された。実験と厚み測定の結果が表(3)に示されている。
【0087】
【表4】

表(3)に示されている結果によれば、マグネシウム合金基板が異なる仕様を有しても、本発明の方法に基づいてマグネシウム合金基板に形成された被膜(境界層と、第一、第二及び第三のニッケル系層を含む)が、40μmまでの相対的に大きい厚みを有し、また、各々のマグネシウム合金基板に対しての良い接着強度(例えば、剥離無し)も有する。これにより、各々のマグネシウム合金基板に形成された被膜は、良好な耐食性を有し、耐食性実験のレベル10に達することができる。
【0088】
ゆえに、マグネシウム合金基板に、該マグネシウム合金基板と同様な結晶構造を有する境界層を形成することによって第一、第二及び第三のニッケル系層を含む機能層を、該境界層を介して前記マグネシウム合金基板に密接的に形成し、前記マグネシウム合金基板の耐食性を向上することができる。
【0089】
以上、本発明の好ましい実施形態を説明したが、本発明はこの実施形態に限定されず、本発明の趣旨を離脱しない限り、本発明に対するあらゆる変更は本発明の範囲に属する。
【図面の簡単な説明】
【0090】
【図1】本発明の好適な実施例により、マグネシウム合金基板におけるニッケル系の積層構造の形成方法により処理されたマグネシウム合金基板の一部を示す概略図である。
【図2】本発明の好適な実施例により、清浄工程が行われる前に残留物が形成された状態のマグネシウム合金基板の一部を示す概略図である。
【図3】本発明の好適な実施例により、清浄工程が行われた後に残留物が除去された状態のマグネシウム合金基板の一部を示す概略図である。
【図4】本発明の好適な実施例により、清浄されたマグネシウム合金基板上に形成された遷移層の一部を示す概略図である。
【図5】本発明の好適な実施例により、遷移層上に形成された第一のニッケル系層の一部を示す概略図である。
【図6】本発明の好適な実施例により、熱処理中において遷移層とマグネシウム合金基板及び第一のニッケル系層との反応を示す概略図である。
【図7】本発明の好適な実施例により、マグネシウム合金基板と第一のニッケル系層の界面に形成された境界層の一部を示す概略図である。
【図8】本発明の好適な実施例により、第一のニッケル系層上に形成された第二のニッケル系層の一部を示す概略図である。
【図9】本発明の好適な実施例により、第二のニッケル系層上に形成された第三のニッケル系層の一部を示す概略図である。
【符号の説明】
【0091】
1 マグネシウム合金基板
2 残留物
3 遷移層
4 第一のニッケル系層
5 第二のニッケル系層
11 固溶体
12 粒界
13 外表面
14 凹部
15 残留物のない表面
16 凹部
31 ニッケル結晶
32 所定の金属
33 フッ化物マグネシウム
52 境界層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マグネシウム(Mg)合金基板(1)上にニッケル(Ni)系積層構造を形成するための形成方法であって、
(a)ニッケルの結晶と、亜鉛(Zn)、コバルト(Co)、カドミウム(Cd)及びその合金からなるグループから選択された所定の金属(32)の結晶とを有する遷移層(3)を前記マグネシウム合金基板(1)上に形成する工程と、
(b)前記遷移層(3)上に第一のニッケル系層(4)を形成する工程と、
(c)前記マグネシウム合金基板(1)と前記遷移層(3)との界面に、前記所定の金属(32)とマグネシウムの固溶体を含む境界層を生成するように前記マグネシウム合金基板(1)と前記遷移層(3)と前記第一のニッケル系層(4)との集合体に対して熱処理を行う工程と、
を有する、
ニッケル系積層構造の形成方法。
【請求項2】
前記所定の金属(32)は、亜鉛である、
請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記マグネシウム合金基板(1)上に遷移層(3)を形成する前に、前記マグネシウム合金基板(1)を清浄し、前記マグネシウム合金基板(1)の外表面(13)に六方稠密構造(HCP)結晶構造を露出させる工程を更に含む、
請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記マグネシウム合金基板(1)の清浄は、前記マグネシウム合金基板(1)の前記HCP結晶構造の粒界において前記マグネシウム合金基板(1)に凹部(14)を形成することにより行われ、
前記遷移層(3)は、前記マグネシウム合金基板(1)の前記凹部(14)に延伸するように形成され、
前記第一のニッケル系層(4)は、前記マグネシウム合金基板(1)の前記凹部(14)にも延伸するように形成される、
請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記マグネシウム合金基板(1)の清浄は、有機酸と、陰イオン界面活性剤と、極性有機溶媒とを含む清浄溶液を前記マグネシウム合金基板(1)に与えることにより行われる、
請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記有機酸は、乳酸、酢酸、シュウ酸、コハク酸、アジピン酸、クエン酸、リンゴ酸及びその組み合わせからなるグループから選択される、
請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記有機酸は、乳酸である、
請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記陰イオン界面活性剤は、ラウリル硫酸ナトリウム、イソアルキル硫酸ナトリウム、ラウリルPVE硫酸ナトリウム、グリセロールモノラウレート硫酸ナトリウム、ポリグリセリン縮合リシノール酸エステルナトリウム塩、ラウリルスルホン酸塩ナトリウム、1,2−アルキルリン酸及びその組み合わせからなるグループから選択される、
請求項5に記載の方法。
【請求項9】
前記陰イオン界面活性剤は、ラウリル硫酸ナトリウム、1,2−アルキルリン酸及びその組み合わせからなるグループから選択される、
請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記極性有機溶媒は、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール及びその組み合わせからなるグループから選択される、
請求項5に記載の方法。
【請求項11】
前記清浄溶液に含まれる有機酸と陰イオン界面活性剤の濃度範囲が、それぞれ、0.1−2Mと0.001−0.01Mである、
請求項5に記載の方法。
【請求項12】
前記清浄溶液に含まれる有機酸と陰イオン界面活性剤の濃度範囲が、それぞれ、0.4−0.7Mと0.002−0.04Mである、
請求項5に記載の方法。
【請求項13】
前記マグネシウム合金基板(1)の清浄は、更に、前記清浄溶液と前記マグネシウム合金基板(1)との反応により生成された残留物(2)を除去するための洗剤を使用することにより行われる、
請求項5に記載の方法。
【請求項14】
前記洗剤は、水と、4より小さい炭素数を有するアルコールとからなるグループから選択される、
請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記洗剤は、水である、
請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記残留物(2)の除去は、300−360KHzの範囲内の超音波周波数を前記洗剤に印加することにより補助される、
請求項13に記載の方法。
【請求項17】
前記超音波周波数の印加は、300−360KHz、150−180KHz及び20−45KHzを含む周波数の範囲内に調和振動技術により行われる、
請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記マグネシウム基板(1)の清浄は、300−360KHzの範囲内の超音波周波数を前記洗剤に印加することにより補助される、
請求項5に記載の方法。
【請求項19】
前記超音波周波数の印加は、300−360KHz、150−180KHz及び20−45KHzを含む周波数の範囲内に調和振動技術により行われる、
請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記遷移層(3)の形成は、水と、フッ化物イオンと、アンモニウムイオンと、前記所定の金属のイオンと、ニッケルイオンとを含む遷移層の組成物を、前記マグネシウム合金基板(1)に与えることにより行われる、
請求項1に記載の方法。
【請求項21】
前記遷移層(3)の形成は、300−360KHzの範囲内の超音波周波数を前記遷移層の組成物に印加することにより補助される、
請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記超音波周波数の印加は、300−360KHz、150−180KHz及び20−45KHzを含む周波数の範囲内に調和振動技術により行われる、
請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記所定の金属のイオンは、亜鉛イオンである、
請求項20に記載の方法。
【請求項24】
前記遷移層の組成物は、0−85℃の温度範囲と0.1−2のpH値範囲内に保持され、
前記遷移層の組成物のフッ化物イオン、アンモニウムイオン、亜鉛イオン及びニッケルイオンの濃度範囲が、それぞれ、0.1−5M、0.1−5M、0.02−2M及び0.05−2Mである、
請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記遷移層の組成物は、0−30℃の温度範囲と0.2−1.5のpH値範囲内に保持され、
前記遷移層の組成物のフッ化物イオン、アンモニウムイオン、亜鉛イオン及びニッケルイオンの濃度範囲は、それぞれ、0.7−1.4M、0.5−0.9M、0.12−0.25M及び0.2−0.25Mである、
請求項23に記載の方法。
【請求項26】
前記遷移層(3)は、フッ化マグネシウム(MgF)を更に含む、
請求項20に記載の方法。
【請求項27】
前記第一のニッケル系層(4)は、主要な成分としてのニッケル及び前記所定の金属(32)と、ドーパントとしてのリン(P)とを含む、
請求項1に記載の方法。
【請求項28】
前記第一のニッケル系層(4)の形成は、水と、フッ化物イオンと、アンモニウムイオンと、前記所定の金属のイオンと、ニッケルイオンと、次亜リン酸イオンと、C2−C8有機酸イオンを含む緩衝剤とを有する第一のニッケル系層の組成物を前記遷移層(3)に与えることにより行われる、
請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記所定の金属のイオンは、亜鉛イオンである、
請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記第一のニッケル系層の組成物は、70−100℃の温度範囲と2−6.5のpH値範囲内に保持され、
前記第一のニッケル系層の組成物のフッ化物イオン、アンモニウムイオン、亜鉛イオン、ニッケルイオン、次亜リン酸イオン、及び、C2−C8有機酸イオンを含む緩衝剤の濃度範囲は、それぞれ、0.1−5M、0.1−5M、0.02−2M、0.02−2M、0.05−1M、及び、0.02−2Mである、
請求項29に記載の方法。
【請求項31】
前記第一のニッケル系層の組成物は、80−97℃の温度範囲と3−4.5のpH値範囲内に保持され、
前記第一のニッケル系層の組成物のフッ化物イオン、アンモニウムイオン、亜鉛イオン、ニッケルイオン、次亜リン酸イオン、及び、C2−C8有機酸イオンを含む緩衝剤の濃度範囲は、それぞれ、0.35−0.53M、0.35−0.53M、0.06−0.09M、0.127−0.155M、0.1−0.2M、及び、0.07−0.1Mである、
請求項29に記載の方法。
【請求項32】
前記第一のニッケル系層(4)の形成は、前記マグネシウム合金基板(1)の前記凹部(4)を部分的に充填するよう制御される、
請求項4に記載の方法。
【請求項33】
前記第一のニッケル系層(4)の形成は、無電解メッキ技術により形成される、
請求項1に記載の方法。
【請求項34】
前記マグネシウム合金基板(1)と前記遷移層(3)と前記第一のニッケル系層(4)との集合体に対しての熱処理は、140℃―250℃の温度範囲内に行われる、
請求項1に記載の方法。
【請求項35】
前記熱処理の温度範囲は、170℃−190℃である、
請求項34に記載の方法。
【請求項36】
前記マグネシウム合金基板(1)と前記遷移層(3)と前記第一のニッケル系層(4)との集合体に対しての熱処理を行う前に、無電解メッキ技術により、前記第一のニッケル系層(4)上に第二のニッケル系層(5)を形成する工程を更に含む、
請求項1に記載の方法。
【請求項37】
前記第二のニッケル系層(5)の形成は、水と、フッ化物イオンと、アンモニウムイオンと、ニッケルイオンと、次亜リン酸イオンと、ジエチレンアミン、エチレンジアミンまたはトリエチレンテトラアミンを含むキレート剤と、C2−C8有機酸イオンを含む緩衝剤とを有する第二のニッケル系層の組成物を前記第一のニッケル系層(4)に与えることにより行われる、
請求項36に記載の方法。
【請求項38】
前記C2−C8有機酸イオンは、クエン酸イオンである、
請求項37に記載の方法。
【請求項39】
前記第二のニッケル系層の組成物は、70−100℃の温度範囲と2−6.5のpH値範囲内に保持され、
前記第二のニッケル系層の組成物のフッ化物イオン、アンモニウムイオン、ニッケルイオン、次亜リン酸イオン、キレート剤、及び、緩衝剤の濃度範囲は、それぞれ、0.1−5M、0.1−5M、0.02−2M、0.05−1M、0.001−0.1M、及び、0.02−2Mである、
請求項37に記載の方法。
【請求項40】
前記第二のニッケル系層の組成物は、80−97℃の温度範囲と3−5のpH値範囲内に保持され、
前記第二のニッケル系層の組成物のフッ化物イオン、アンモニウムイオン、ニッケルイオン、次亜リン酸イオン、キレート剤、及び、緩衝剤の濃度範囲は、それぞれ、0.35−0.53M、0.35−0.53M、0.13−0.15M、0.1−0.2M、0.005−0.01M、及び、0.07−0.1Mである、
請求項37に記載の方法。
【請求項41】
前記マグネシウム合金基板(1)と前記遷移層(3)と前記第一のニッケル系層(4)との集合体に対して熱処理を行う前に、無電解メッキ技術により、前記第一のニッケル系層(4)上に第二のニッケル系層(5)を形成する工程を更に含む、
請求項4に記載の方法。
【請求項42】
前記第一と第二のニッケル系層(4,5)は、共に前記マグネシウム合金基板(1)の前記凹部に延伸するように制御される、
請求項41に記載の方法。
【請求項43】
前記マグネシウム合金基板(1)と前記遷移層(3)と前記第一のニッケル系層(4)との集合体に対して熱処理を行う前に、電気メッキ法、無電解メッキ法、はけ塗り法及び粉体塗り法のうちの一つにより、前記第二のニッケル系層(5)上に第三のニッケル系層を形成する工程を更に含む、
請求項36に記載の方法。
【請求項44】
前記第三のニッケル系層の形成は、フッ化物イオンと、アンモニウムイオンと、ニッケルイオンと、C2−C8有機酸イオンを含む緩衝剤とを有する第三のニッケル系層の組成物を前記第二のニッケル系層(5)に与えることにより行われる、
請求項43に記載の方法。
【請求項45】
前記緩衝剤は、クエン酸である、
請求項44に記載の方法。
【請求項46】
前記第三のニッケル系層の組成物は、25−70℃の温度範囲と0.5−5.0のpH値範囲内に保持され、
前記第三のニッケル系層の組成物のフッ化物イオン、アンモニウムイオン、ニッケルイオン、及び、C2−C8有機酸の濃度範囲は、それぞれ、0.1−5M、0.1−5M、0.1−2M、及び、0.02−2Mである、
請求項44に記載の方法。
【請求項47】
前記第三のニッケル系層の組成物は、40−60℃の温度範囲と1.5−3.0のpH値範囲内に保持され、
前記第三のニッケル系層の組成物のフッ化物イオン、アンモニウムイオン、ニッケルイオン、及び、C2−C8有機酸の濃度範囲は、それぞれ、1.75−2.1M、1.75−2.1M、1−1.3M、及び、0.48−0.72Mである、
請求項44に記載の方法。
【請求項48】
前記遷移層(3)を形成する前に、前記マグネシウム合金基板(1)を化学的に研磨する工程を更に含む、
請求項1に記載の方法。
【請求項49】
前記マグネシウム合金基板(1)の化学研磨は、フッ化物イオンと、アンモニウムイオンと、硝酸イオンとを含む酸性溶液を前記マグネシウム合金基板(1)に与えることにより行われる、
請求項48に記載の方法。
【請求項50】
表面処理が行われたマグネシウム(Mg)合金物であって、
マグネシウム合金基板(1)と、
前記マグネシウム合金基板(1)上に形成され、マグネシウムと、亜鉛(Zn)、コバルト(Co)、カドミウム(Cd)及びその合金からなるグループから選択される所定の金属とを有する固溶体の境界層と、
前記境界層上に形成される第一のニッケル系層(4)と、
を含む、
表面処理マグネシウム合金物。
【請求項51】
前記マグネシウムと前記所定の金属を含む固溶体の境界層は、前記所定の金属(32)、ニッケル及びリン(P)のうちの少なくとも二つを含む金属間化合物を更に有し、
前記第一のニッケル系層(4)は、主要な成分としてのニッケル及び前記所定の金属(32)と、ドーパントとしてのリンとを含む、
請求項50に記載の表面処理マグネシウム合金物。
【請求項52】
前記境界層の層厚に沿って前記境界層に含まれるニッケル対前記所定の金属(32)の濃度比が、前記マグネシウム合金基板(1)と前記境界層の界面から、前記第一のニッケル系層(4)と前記境界層の界面へ次第に増加する、
請求項50に記載の表面処理マグネシウム合金物。
【請求項53】
前記所定の金属(32)は、亜鉛である、
請求項50に記載の表面処理マグネシウム合金物。
【請求項54】
前記第一のニッケル系層(4)に隣接に形成されるNiZn21の固溶体を更に含む、
請求項53に記載の表面処理マグネシウム合金物。
【請求項55】
前記マグネシウム合金基板(1)は、六方稠密構造(HCP)結晶構造を有し、当該HCP結晶構造の粒界には、複数の凹部(14)が形成され、
前記境界層と前記第一のニッケル系層(4)は、前記マグネシウム合金基板(1)の前記凹部(14)に延伸する、
請求項50に記載の表面処理マグネシウム合金物。
【請求項56】
前記第一のニッケル系層(4)は、非晶質であり、ニッケルと、前記所定の金属(32)と、リンとを含む、
請求項50に記載の表面処理マグネシウム合金物。
【請求項57】
前記境界層は、20nm以上の厚みを有する、
請求項50に記載の表面処理マグネシウム合金物。
【請求項58】
前記第一のニッケル系層(4)上には、第二のニッケル系層(5)が形成される、
請求項50に記載の表面処理マグネシウム合金物。
【請求項59】
前記第二のニッケル系層(5)は、面心立方(FCC)構造を有するニッケルの結晶と、体心正方(BCT)構造を有するNiP合金と、非晶質のニッケルと、当該FCC及びBCT構造と当該非晶質のニッケルとの粒界にドーピングされるリン(P)とを含む、
請求項58に記載の表面処理マグネシウム合金物。
【請求項60】
前記第一のニッケル系層(4)は、表面と、当該表面からインデントされる凹部(16)とを有し、
前記第二のニッケル系層(5)は、前記第一のニッケル系層の前記凹部(16)に延伸する、
請求項58に記載の表面処理マグネシウム合金物。
【請求項61】
前記第二のニッケル系層(5)上には、FCC構造を有するニッケルの結晶を含む第三のニッケル系層が形成される、
請求項58に記載の表面処理マグネシウム合金物。
【請求項62】
前記境界層は、HCP構造を有する前記所定の金属(32)の超微細結晶を含む、
請求項50に記載の表面処理マグネシウム合金物。
【請求項63】
マグネシウム合金物の表面を処理するために用いる清浄溶液であって、
乳酸、酢酸、シュウ酸、コハク酸、アジピン酸、クエン酸又はリンゴ酸を有する有機酸と、陰イオン界面活性剤と、極性有機溶媒と、を含む、
清浄溶液。
【請求項64】
前記有機酸は、乳酸である、
請求項63に記載の清浄溶液。
【請求項65】
前記陰イオン界面活性剤は、ラウリル硫酸ナトリウム、イソアルキル硫酸ナトリウム、ラウリルPVE硫酸ナトリウム、グリセロールモノラウレート硫酸ナトリウム、ポリグリセリン縮合リシノール酸エステルナトリウム塩、ラウリルスルホン酸塩ナトリウム、1,2−アルキルリン酸及びその組み合わせからなるグループから選択される、
請求項63に記載の清浄溶液。
【請求項66】
前記陰イオン界面活性剤は、ラウリル硫酸ナトリウム、1,2−アルキルリン酸及びその組み合わせからなるグループから選択される、
請求項65に記載の清浄溶液。
【請求項67】
前記極性有機溶媒は、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール及びその組み合わせからなるグループからなるグループから選択される、
請求項63に記載の清浄溶液。
【請求項68】
前記清浄溶液に含まれる前記有機酸と前記陰イオン界面活性剤の濃度範囲が、それぞれ、0.1−2Mと0.001−0.01Mである、
請求項63に記載の清浄溶液。
【請求項69】
前記清浄溶液に含まれる前記有機酸と前記陰イオン界面活性剤の濃度範囲が、それぞれ、0.4−0.7Mと0.002−0.04Mである、
請求項63に記載の清浄溶液。
【請求項70】
水と、フッ化物イオンと、アンモニウムイオンと、ニッケルイオンと、を含む、
表面処理溶液。
【請求項71】
亜鉛イオンと、コバルトイオンと、カドミウムとを含む所定の金属のイオンを更に含む、
請求項70に記載の表面処理溶液。
【請求項72】
前記所定の金属のイオンは、亜鉛イオンである、
請求項71に記載の表面処理溶液。
【請求項73】
前記表面処理溶液の組成物が、0.1−2の範囲のpH値を有し、
前記表面処理溶液のフッ化物イオン、アンモニウムイオン、亜鉛イオン、及び、ニッケルイオンの濃度範囲が、それぞれ、0.1−5M、0.1−5M、0.02−2M、及び、0.05−2Mである、
請求項72に記載の表面処理溶液。
【請求項74】
前記表面処理溶液の組成物が、0.2−1.5の範囲のpH値を有し、
前記表面処理溶液のフッ化物イオン、アンモニウムイオン、亜鉛イオン、及び、ニッケルイオンの濃度範囲が、それぞれ、0.7−1.4M、0.5−0.9M、0.12−0.25M、及び、0.2−0.25Mである、
請求項72に記載の表面処理溶液。
【請求項75】
次亜リン酸イオンと、C2−C8有機酸イオンを含む緩衝剤とを更に含む、
請求項71に記載の表面処理溶液。
【請求項76】
前記緩衝剤は、クエン酸である、
請求項75に記載の表面処理溶液。
【請求項77】
次亜リン酸イオンと、C2−C8有機酸イオンを含む緩衝剤とを更に含む、
請求項72に記載の表面処理溶液。
【請求項78】
前記表面処理溶液の組成物が、2−6.5の範囲のpH値を有し、
前記表面処理溶液のフッ化物イオン、アンモニウムイオン、亜鉛イオン、ニッケルイオン、次亜リン酸イオン、及び、C2−C8有機酸の濃度範囲が、それぞれ、0.1−5M、0.1−5M、0.02−2M、0.02−2M、0.05−1、及び、0.02−2Mである、
請求項77に記載の表面処理溶液。
【請求項79】
前記表面処理溶液の組成物が、3−4.5の範囲のpH値を有し、
前記表面処理溶液のフッ化物イオン、アンモニウムイオン、亜鉛イオン、ニッケルイオン、次亜リン酸イオン、及び、C2−C8有機酸の濃度範囲が、それぞれ、0.35−0.53M、0.35−0.53M、0.06−0.09M、0.127−0.155M、0.1−0.2、及び、0.07−0.1Mである、
請求項77に記載の表面処理溶液。
【請求項80】
次亜リン酸イオンと、C2−C8有機酸イオンと、ジエチレンアミン、エチレンジアミン、トリエチレンテトラアミンおよびその組み合わせからなるグループから選択されるキレート剤と、を更に有する、
請求項70に記載の表面処理溶液。
【請求項81】
前記表面処理溶液の組成物が、2−6.5の範囲のpH値を有し、
前記表面処理溶液のフッ化物イオン、アンモニウムイオン、ニッケルイオン、次亜リン酸イオン、キレート剤、及び、有機酸の濃度範囲が、それぞれ、0.1−5M、0.−5M、0.02−2M、0.05−1M、0.001−0.1、及び、0.02−2Mである、
請求項80に記載の表面処理溶液。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−308802(P2007−308802A)
【公開日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2007−133025(P2007−133025)
【出願日】平成19年5月18日(2007.5.18)
【出願人】(507163976)
【Fターム(参考)】