説明

マグネシウム合金鍛造ピストンの製造方法およびマグネシウム合金鍛造ピストン

【課題】ピストンの頂面部の耐力を十分に向上させることができるマグネシウム合金鍛造ピストンの製造方法およびマグネシウム合金鍛造ピストンを提供する。
【解決手段】鍛造により製造されるマグネシウム合金鍛造ピストン15の製造方法であって、マグネシウム合金からなる丸棒状の鋳塊素材1を鍛造する鍛造工程において、ピストン鍛造用金型11の内径をD、鋳塊素材1の外径をdとしたときに、前記外径dを前記内径Dで割った値(d/D)が85%以下、且つ、鍛造時における鋳塊素材1の温度が250〜400℃となる条件で鍛造することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マグネシウム合金素材を鍛造してピストンを製造するマグネシウム合金鍛造ピストンの製造方法およびこの製造方法により得られたマグネシウム合金鍛造ピストンに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、内燃機関用のピストンとして、鍛造により形成された鍛造ピストンが採用されつつある。鍛造ピストンは、高温における強度、耐摩耗性に優れているので、鍛造ピストンを採用すると、爆発圧力を高くして高出力化を図ったり、ピストンスカートを小さく(あるいは薄く)して軽量化を図ったりすることができる。
【0003】
また、近年、地球環境保全の意識の高まりから、自動車の燃費向上の要請が強まり、自動車用軽量材料の開発が強く求められようになっている。マグネシウム合金は現在実用化されている金属材料の中で最も低密度であり、マグネシウム合金を用いた鍛造ピストンも多く開発されている(例えば、特許文献1、2参照)。
これらのようなピストンの鍛造においては、通常、鍛造工程を短縮するために1ブローで成形されており、そのために鍛造金型の内径とほぼ等しい素材を金型内に投入し、素材の外形を拘束して、スカート部、ボス部へのメタル流動を形成させるのが通常の方法である。
【0004】
ここで、ピストンにおいては、その頂面部はピストンの稼働時に最も高温に暴露され、熱負荷が厳しいことから、特性として最も強度が要求される部位である。そのため、頂面部の強度を向上させることが必要である。鍛造材における強度の向上に関しては、鍛造圧下率を高める(歪み量を増やす)ことにより、強度が向上することが知られている(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平09−263871号公報
【特許文献2】特開2008−036710号公報
【特許文献3】特許第2763175号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の技術においては以下に示す問題がある。
特許文献3の記載から、歪みを高めることにより高強度化が可能であるが、本発明者らが検討したところによると、通常の鍛造加工においては、鍛造材の頂面部の歪みを高めることは難しく、頂面部の強度を向上させることは困難である。
【0007】
具体的には、鍛造時の素材メタルの流動は、円筒状金型の拘束によって、頂面部となる部位はデッドメタルとなって大きな歪みは加わらず、外周部のメタルがスカート方向やボス部に向かって流動してしまう。そのために、頂面部の強度はスカート部に比較して低くなり、優れた特性を十分に発揮することができない。
【0008】
本発明は、前記問題点に鑑みてなされたものであり、ピストンの頂面部の耐力を十分に向上させることができるマグネシウム合金鍛造ピストンの製造方法およびマグネシウム合金鍛造ピストンを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するために、本発明に係るマグネシウム合金鍛造ピストン(以下、適宜、ピストンという)の製造方法は、鍛造により製造されるマグネシウム合金鍛造ピストンの製造方法であって、マグネシウム合金からなる丸棒状の鋳塊素材を鍛造する鍛造工程において、ピストン鍛造用金型の内径をD、前記鋳塊素材の外径をdとしたときに、前記外径dを前記内径Dで割った値(d/D)が85%以下、且つ、鍛造時における前記鋳塊素材の温度が250〜400℃となる条件で鍛造することを特徴とする。なお、d/Dの値は百分率として示している(以下同じ)。
【0010】
このような製造方法によれば、鍛造工程において、d/Dを所定に規定することで、径方向へメタルが流動し、鍛造材(ピストン)の頂面部の加工歪みが増大する。また、鋳塊素材の温度が250〜400℃となる条件で鍛造することで、鍛造材(ピストン)に割れが生じることなく、鍛造材(ピストン)の頂面部の加工歪みが増大する。これらの作用により、ピストンの頂面部の強度が向上する。
【0011】
また、前記鍛造時における前記鋳塊素材の温度が250℃以上350℃未満となる条件で鍛造することが好ましい。
このような製造方法によれば、頂面部の加工歪みがより増大しやすくなり、ピストンの頂面部の強度がより向上しやすくなる。
【0012】
本発明に係るマグネシウム合金鍛造ピストンの製造方法は、鍛造により製造されるマグネシウム合金鍛造ピストンの製造方法であって、マグネシウム合金からなる丸棒状の鋳塊素材を鍛造する鍛造工程が、荒鍛造を行った後、仕上げ鍛造を行う工程からなり、前記鍛造工程において、前記荒鍛造に使用する荒鍛造用金型の内径をD、前記鋳塊素材の外径をdとしたときに、前記外径dを前記内径Dで割った値(d/D)が85%以下であり、前記荒鍛造用金型における、前記マグネシウム合金鍛造ピストンの頂面部となる部位が接する部位が凸形状であり、且つ、前記荒鍛造時における前記鋳塊素材の温度が250〜400℃となる条件で鍛造することを特徴とする。
【0013】
このような製造方法によれば、鍛造工程において、荒鍛造時にd/Dを所定に規定することで、径方向へメタルが流動し、荒鍛造材(および鍛造材(ピストン))の頂面部の加工歪みが増大する。また、前記荒鍛造用金型のピストンの頂面部となる部位が接する部位を凸形状とすることで、荒鍛造材(および鍛造材(ピストン))の頂面部に歪みが集中し、頂面部の加工歪みが増大する。さらに、荒鍛造時における鋳塊素材の温度が250〜400℃となる条件で鍛造することで、荒鍛造材に割れが生じることなく、荒鍛造材(および鍛造材(ピストン))の頂面部の加工歪みが増大する。これらの作用により、ピストンの頂面部の強度が向上する。
【0014】
また、前記荒鍛造時における前記鋳塊素材の温度が250℃以上350℃未満となる条件で鍛造することが好ましい。
このような製造方法によれば、頂面部の加工歪みがより増大しやすくなり、ピストンの頂面部の強度がより向上しやすくなる。
【0015】
さらに、前記鍛造時、あるいは、前記荒鍛造時において、前記外径dを前記内径Dで割った値(d/D)が60%以上70%未満であることが好ましい。
このような製造方法によれば、d/Dをさらにこの範囲とすることで、鍛造欠陥や座屈変形がより生じにくくなるとともに頂面部の加工歪みがより向上しやすくなり、ピストンの頂面部の強度がより向上しやすくなる。
【0016】
本発明に係るマグネシウム合金鍛造ピストンは、前記記載のマグネシウム合金鍛造ピストンの製造方法により得られたことを特徴とする。
【0017】
このような構成によれば、ピストンは前記製造方法により製造されたものであるため、頂面部の強度に優れたものとなる。
【0018】
また、前記マグネシウム合金鍛造ピストンの材料である合金が、Mg-Gd-Zn系合金、あるいは、Mg-Gd-Zn-Zr系合金であるピストンとすることができる。
このような構成によれば、Mg-Gd-Zn系合金や、Mg-Gd-Zn-Zr系合金のピストンにおいて、耐熱性に優れたものとなる。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係るマグネシウム合金鍛造ピストンの製造方法によれば、頂面部の耐力が十分に向上し、頂面部の強度に優れたピストンを製造することができる。
本発明に係るマグネシウム合金鍛造ピストンは、頂面部の耐力が250MPa以上と高く、頂面部の強度に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明に係るマグネシウム合金鍛造ピストンの製造方法の鍛造工程における第1の鍛造方法を説明するための模式図である。
【図2】本発明に係るマグネシウム合金鍛造ピストンの製造方法の鍛造工程における第2の鍛造方法を説明するための模式図である。
【図3】本発明に係るマグネシウム合金鍛造ピストンの模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明に係るマグネシウム合金鍛造ピストンの製造方法およびマグネシウム合金鍛造ピストンについて、図面を参照して詳細に説明する。
【0022】
まず、図1、2を参照して本発明に係るピストンの製造方法に用いる鍛造装置について説明する。なお、本実施形態では、図1、2の鍛造材15、25は、マグネシウム合金鍛造ピストンでもあるとして説明する。
≪鍛造装置≫
図1に示すように、鍛造装置10は、鋳塊素材1を配置するピストン鍛造用金型11と、ピストン鍛造用金型11内に配置した鋳塊素材1を鍛造するためのポンチ12を備えている。なお、鍛造装置10は、後記する鍛造工程での所定条件を満たすものであれば、特に限定されるものではない。
ピストン鍛造用金型11は、鍛造工程における第1の鍛造方法に用いるものであり、ピストン鍛造用金型11としては、円筒状の金型を用いる。よって、金型内部は、平面視において円形である。
【0023】
図2に示すように、鍛造装置20は、鋳塊素材2を配置する荒鍛造用金型21と、荒鍛造用金型21内に配置した鋳塊素材2を荒鍛造するためのポンチ22を備えている。なお、鍛造装置20は、後記する鍛造工程での所定条件を満たすものであれば、特に限定されるものではない。
荒鍛造用金型21は、鍛造工程における第2の鍛造方法に用いるものであり、最終的に製造されるマグネシウム合金鍛造ピストン25の頂面部Aとなる部位(すなわち、前段階で製造される荒鍛造材24あるいは鍛造材25(図2では、ピストン25としても示している)の頂面部Aとなる部位)が接する部位aが凸形状をしている。この凸形状により、後記するように頂面部Aの加工歪みが増大し、頂面部Aの強度がさらに向上したものとなる。なお、その他の荒鍛造用金型21の形状については、前記ピストン鍛造用金型11での説明と同様であるため、ここでは説明を省略する。
また、荒鍛造で成形された荒鍛造材24は、図示しない鍛造装置により仕上げ鍛造されるが、仕上げ鍛造に用いる鍛造装置の構成は、ピストン鍛造用金型11の構成とほぼ同様であるため、ここでは説明を省略する。
【0024】
≪マグネシウム合金鍛造ピストンの製造方法≫
本発明に係るマグネシウム合金鍛造ピストンの製造方法(ピストンの製造方法)は、鍛造により製造されるピストンの製造方法であって、鍛造工程を含む。さらに必要に応じて、鋳塊素材作製工程、均質化熱処理工程、調質処理工程を含んでもよい。以下、各工程について説明する。
【0025】
<鋳塊素材作製工程>
鋳塊素材作製工程は、マグネシウム合金からなる丸棒状の鋳塊素材を作製する工程である。
鋳塊素材作製工程は、マグネシウム合金を溶解、鋳造して鋳塊を作製する溶解鋳造工程と、鋳塊を所定の長さに切断する切断工程とからなる。
【0026】
用いるマグネシウム合金としては特に限定されるものではなく、どのような合金種でもよいが、例えば、Mg-Zn系合金、Mg-Al系合金、Mg-Re系合金、Mg-Re-Zn系合金等が挙げられる。ここで、Reは、Y,Sm,Gd,Er,Ce,La,Nd,Hoのうち1種または2種以上からなり、含有量は2〜15質量%である。また、これらの合金においては、結晶粒微細化剤としてのZrを0〜1質量%程度含む場合もある。これらの具体例としては、Mg-Gd-Zn系合金、Mg-Gd-Zn-Zr系合金や、WE54合金が挙げられる。
【0027】
溶解鋳造工程では、所定の組成を有するマグネシウム合金を溶解した溶湯から、例えば、直径が50〜70mmの長尺の丸棒状鋳塊を作製する。マグネシウム合金を溶解、鋳造する方法は、特に限定されるものではなく、従来公知の方法を用いればよい。例えば、真空誘導炉を用いて溶解し、連続鋳造法や、半連続鋳造法を用いて鋳造することができる。
【0028】
切断工程では、鋳塊(長尺の丸棒状鋳塊)を切断機によって、鍛造素材として必要な長さに切断し、鋳塊素材(丸棒素材)とする。なお、この切断の前に、鋳塊にピーリングを行ってもよい。
【0029】
<均質化熱処理工程>
均質化熱処理工程は、鋳塊素材に均質化熱処理を行う工程である。
鋳塊素材に均質化熱処理を施すことによって、鋳造時に晶出した金属間化合物を拡散固溶させて組織が均質化される。均質化熱処理は、加熱炉において、固相線以下の温度、例えば、400〜500℃で数時間〜数十時間保持する条件で行えばよい。この条件で熱処理を行うことで、十分な均質化を行うことができる。なお、均質化熱処理には、空気炉、誘導加熱炉、硝石炉等が適宜用いられる。但し、特に必要がない場合には省略する。
【0030】
<鍛造工程>
鍛造工程は、マグネシウム合金からなる丸棒状の鋳塊素材を鍛造する工程である。なお、前記均質化熱処理を行う場合は、均質化熱処理された鋳塊素材を鍛造する。
鋳塊素材は、鍛造開始温度まで加熱される。均質化熱処理を施した場合には、均質化熱処理後に一旦室温まで冷却された鋳塊素材が、鍛造開始温度まで再加熱される。そして、メカニカルプレスによる鍛造や油圧プレスによる鍛造等により熱間鍛造して、ピストンの形状に鍛造加工される。
ここで、本発明においては、鍛造工程において、以下の2通りの方法を用いることができる。
【0031】
[第1の鍛造方法]
第1の鍛造方法は、1回の鍛造、すなわち1ブローで鍛造を行うものである。図1に示すように、鋳塊素材1に対して所定の方向(図中に白い矢印で示す方向)に応力を印加しながら鍛造を行うことによって、最終的に、例えば図3に示すような形状のピストン30が得られる。この鍛造は、鋳塊素材1を鍛造装置10におけるピストン鍛造用金型11内に配置した後にポンチ12を下降させることによって行われる。
そして、この鍛造において、ピストン鍛造用金型11の内径をD、鋳塊素材1の外径をdとしたときに、外径dを内径Dで割った値(d/D)が85%以下、且つ、鍛造時における鋳塊素材1の温度が250〜400℃となる条件で鍛造する。
【0032】
(d/D:85%以下)
鋳塊素材1の外径dをピストン鍛造用金型11の内径Dよりも大幅に小さくすることで、鍛造加工時に径方向へメタルが流動する。これにより、鍛造材(ピストン)15の頂面部Aの加工歪みが増大し、頂面部Aの強度が向上する。しかしながら、d/Dが85%を超えると、歪み増大効果(高強度化)が得られない。したがって、d/Dを85%以下とする。好ましくは、80%以下である。
なお、鋳塊素材1の外径dは、ピストン鍛造用金型11の内径Dに対して小さいほど頂面部Aの加工歪みが増大して強度特性が向上するが、小さすぎると鍛造時にボス部(図3参照)においてスロースルー等の鍛造欠陥が生成しやすくなる。さらには、鍛造時に鋳塊素材1が座屈変形して鍛造が困難となりやすい。したがって、d/Dは50%以上とすることが好ましい。さらには、d/Dは60%以上70%未満であることが好ましい。d/Dがこの範囲であれば、鍛造欠陥や座屈変形がより生じにくくなるとともに頂面部Aの加工歪みがより向上しやすくなる。
【0033】
(鋳塊素材の温度:250〜400℃)
頂面部Aの加工歪みを増大させて強度を向上させるためには、鍛造温度も所定範囲に制御することが必要である。具体的には、鍛造時における鋳塊素材1の温度を250〜400℃とする。鋳塊素材1の温度が250℃未満では、鍛造材(ピストン)15に割れが発生する。一方、400℃を超えると、歪み増大効果(高強度化)が得られない。したがって、鍛造時における鋳塊素材1の温度は250〜400℃とする。好ましくは、250℃以上350℃未満である。この温度範囲であれば、歪み増大効果がより向上しやすくなる。
【0034】
[第2の鍛造方法]
第2の鍛造方法は、図2に示すように、鍛造工程を、荒鍛造を行った後、仕上げ鍛造を行う工程とする。図2に示すように、鋳塊素材2に対して所定の方向(図中に白い矢印で示す方向)に応力を印加しながら鍛造を行うことによって、最終的に、例えば図3に示すような形状のピストン30が得られる。
荒鍛造は、鋳塊素材2を鍛造装置20における荒鍛造用金型21内に配置した後にポンチ22を下降させることによってプレスする工程(荒鍛造工程)であり、この工程により荒鍛造材24が成形される。仕上げ鍛造は、荒鍛造材24を鍛造装置(図示省略)における仕上げ鍛造用金型内に配置した後にポンチを下降させることによってプレスする工程であり(仕上げ鍛造工程)、この工程により、荒鍛造材24の頂面部Aが平らに成形され、鍛造材(ピストン)25が製造される。これら荒鍛造、仕上げ鍛造は、途中で再加熱を行うことなく、一貫して行われる。ただし、場合によっては再加熱を行ってもよい。
【0035】
そして、この鍛造において、荒鍛造に使用する荒鍛造用金型21の内径をD、鋳塊素材2の外径をdとしたときに、外径dを内径Dで割った値(d/D)が85%以下であり、荒鍛造用金型21における、マグネシウム合金鍛造ピストン25の頂面部Aとなる部位(すなわち、荒鍛造材24あるいは鍛造材25の頂面部Aとなる部位)が接する部位aが凸形状であり、且つ、荒鍛造時における鋳塊素材2の温度が250〜400℃となる条件で鍛造する。
【0036】
(d/D:85%以下)
前記第1の鍛造方法と同様に、d/Dが85%を超えると、荒鍛造材24および鍛造材(ピストン)25の頂面部Aの歪み増大効果(高強度化)が得られない。したがって、d/Dを85%以下とする。好ましくは、80%以下である。
なお、前記第1の鍛造方法と同様の理由から、d/Dは50%以上とすることが好ましい。ただし、荒鍛造用金型21を使用して中間形状の素材である荒鍛造材24の製造を経ることにより、仕上げ鍛造における鍛造欠陥の生成が抑制される。さらには、d/Dは60%以上70%未満であることが好ましい。d/Dがこの範囲であれば、鍛造欠陥や座屈変形がより生じにくくなるとともに頂面部Aの加工歪みがより向上しやすくなる。なお、仕上げ鍛造の条件は、基本的には荒鍛造と同様であるが、強度向上を図る意味では、荒鍛造時よりも鍛造温度を低くする方が望ましい。
【0037】
(頂面部となる部位が接する部位が凸形状)
荒鍛造用金型21における、ピストン25の頂面部Aとなる部位が接する部位aを凸形状とすることで、荒鍛造材24の頂面部A(すなわち、鍛造材(ピストン)25の頂面部A)に歪みが集中し、頂面部Aの加工歪みが増大する。これにより、頂面部Aの強度がさらに向上したものとなる。
なお、荒鍛造用金型21の凸形状は、ピストン25の頂面部Aにおける加工歪みが、塑性流動解析による相当歪み値で、2.5以上となるように設計する。相当歪み値が2.5以上となるように凸形状を設計することで、部位aを凸形状とすることによる歪み増大効果(高強度化)が達成される。相当歪み値は、例えばFORGE3D(トランスベーラー製)により算出することができる。
【0038】
(鋳塊素材の温度:250〜400℃)
前記第1の鍛造方法と同様に、荒鍛造時における鋳塊素材2の温度が250℃未満では、荒鍛造材24に割れが発生する。一方、400℃を超えると、歪み増大効果(高強度化)が得られない。したがって、鋳塊素材2の温度は250〜400℃とする。好ましくは、250℃以上350℃未満である。この温度範囲であれば、歪み増大効果がより向上しやすくなる。
【0039】
<調質処理工程>
調質処理工程は、前記鍛造された鍛造材に調質処理を行う工程である。具体的には、前記鍛造された鍛造材に時効硬化処理を行う、あるいは、鍛造材に溶体化処理を行った後、焼き入れ処理を行い、その後、時効硬化処理を行う。
鍛造後、強度、靱性、および耐食性の向上を図るため、T5、T6、T7等の調質処理を行うことが好ましい。T5は、高温加工からの冷却後の人工時効硬化処理である。T6は、溶体化および焼き入れ処理後、最大強さを得る人工時効硬化処理である。T7は、溶体化および焼き入れ処理後、最大強さを得る人工時効硬化処理条件を超えた条件にて行う過剰時効硬化処理である。すなわち、調質処理工程は、時効硬化処理工程から、あるいは、溶体化処理工程と、焼き入れ処理工程と、時効硬化処理工程とからなる。
【0040】
溶体化処理は、通常の条件、例えば、400〜570℃の温度範囲に1〜7時間保持する条件で行えばよい。なお、溶体化処理には、空気炉、誘導加熱炉、硝石炉等が適宜用いられる。また、焼き入れ処理も、通常の条件で行えばよい。
【0041】
時効硬化処理は通常の条件、例えば、170〜400℃の温度範囲と、1〜6時間の保持時間の範囲から、前記T5、T6、T7等の調質処理の条件を選択すればよい。なお、時効硬化処理には、空気炉、誘導加熱炉、オイルバス等が適宜用いられる。
なお、T6、T7の調質処理は、ここでは鍛造後に行うものとして説明したが、鍛造前に行うこととしてもよい。
【0042】
なお、本発明を行うにあたり、前記各工程に悪影響を与えない範囲において、前記各工程の間あるいは前後に、他の工程を含めてもよい。例えば、ごみ等の異物を除去する異物除去工程や、鍛造工程の後(調質処理を行う場合は調質処理工程の前後)に、ピストンとして必要な、機械加工や表面処理等を適宜施す機械加工工程、表面処理工程等を含めてもよい。機械加工としては、ピストンの用途に応じて、例えば、コンプレッションリング、オイルリング等を保持する溝や、ピストンピンを通すための孔(ピストンピン孔)等を形成することが挙げられる。
【0043】
≪マグネシウム合金鍛造ピストン≫
本発明に係るマグネシウム合金鍛造ピストン(ピストン)は、前記記載のマグネシウム合金鍛造ピストンの製造方法により得られたものである。本発明のピストンの一例について、図3を参照して説明する。
図3に示すように、ピストン30は、その頂部に位置し、燃焼室に面する頂面部(ピストンヘッド)31と、摺動面(シリンダブロックと接触する面)を構成するピストン側壁(ピストンウォール)32とを備えている。ピストン30は、さらに、ピストンピンの軸受けとなるボス部(ピストンボス)33を備えている。
【0044】
ピストン側壁32の上部(頂面部31に近い部分)には、コンプレッションリングやオイルリングを保持するための溝34が形成されている。ピストン側壁32の裾の部分(ピストンピンよりも下の部分)は、軽量化のために薄肉に形成されており、スカート部(ピストンスカート)35と呼ばれる。
【0045】
このピストン30は、前記製造方法によって製造されたものであるため、頂面部31の耐力は250MPa以上と高いものであり、耐疲労性(耐久性)に優れたものである。なお、本発明の製造方法によりピストン30を製造した場合、スカート部35の耐力は、頂面部31の耐力に比べて高いか、もしくは同等となる。耐力は、例えばJIS Z 2241により測定することができる。また、このピストン30の材料である合金の一例として、Mg-Gd-Zn系合金、Mg-Gd-Zn-Zr系合金や、WE54合金が挙げられ、これらの合金からなるピストン30とすることができる。
【0046】
そして、ピストン30は、高い強度および耐疲労性を有しているので、乗用車、バス、トラック、オートバイ、トラクター、飛行機、モーターボート、土木車両等の種々の輸送機器用の内燃機関に好適に用いることができる。
なお、前記説明したピストン30は、本発明のピストンの形態の一例を示したものであり、本発明は前記形態に限定されるものではない。
【0047】
以上説明したように、本発明のピストンの製造方法によれば、頂面部の耐力が向上したピストンを得ることができる。ここで、ピストンに要求される強度(耐力)は、頂面部で250MPa以上であるが、マグネシウム合金種によっては、通常の製造方法で頂面部の耐力が比較的高いピストンを製造することができるとも考えられる。しかしながら、通常の製造方法を用いると頂面部の耐力が低くなる合金(250MPa未満になる合金)に対して、頂面部の耐力を向上させる製造方法は存在していない。本発明によれば、このようなマグネシウム合金種であっても、頂面部の耐力が250MPa以上のピストンを製造することができる。
また、本発明のピストンは、頂面部の耐力が250MPa以上であり、従来のピストンとは特段の差異がある特性を備えたものである。
【実施例】
【0048】
以上、本発明を実施するための形態について述べてきたが、以下に、本発明の効果を確認した実施例を、本発明の要件を満たさない比較例と対比して具体的に説明する。なお、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
なお、材料としては、例えば、Mg-Gd-Zn系合金、Mg-Gd-Zn-Zr系合金や、WE54合金等のいずれにおいても、本発明における所望の効果においては特に顕著な差異はないため、ここではMg-Gd-Zn-Zr系合金を代表として用いた。
【0049】
<供試材の作製>
まず、Mg-9%Gd-4%Zn-0.7%Zr(質量%)合金の鋳塊を溶解、連続鋳造して、丸棒状の鋳塊素材を作製した。この鋳塊素材を所定の大きさに切断して丸棒素材とした。そして、この丸棒素材に、500℃で2hr保持した後、400℃で1hr保持する条件で熱処理を施した後、表1に示す条件で熱間鍛造を行い、試験材のピストンを作製した。
なお、熱間鍛造は、仕上げ鍛造のみ(1ブロー)の場合と、荒鍛造後、仕上げ鍛造を行う場合との2通りの方法で行った(表1中、荒鍛造の有無で示す)。荒鍛造用金型は、ピストンの頂面部となる部位が接する部位を、試験材の製造において、全て同一条件の凸形状とした。
【0050】
<評価方法>
試験材のピストンの頂面部の耐力をJIS Z 2241により測定した。また、頂面部の相当歪み値を、FORGE3D(トランスベーラー製)を用いた塑性流動解析により算出した。
そして、頂面部の耐力が250MPa以上のものを合格、250MPa未満のもの、または、割れが発生したものを不合格とした。
これらの結果を表1に示す。なお、表1において、d/Dは、ピストン鍛造用金型あるいは荒鍛造用金型の内径をD、鋳塊素材(丸棒素材)の外径をdとしたときに、外径dを内径Dで割った値であり、鍛造温度は、鍛造時(荒鍛造を行う場合は荒鍛造時)における鋳塊素材(丸棒素材)の温度である。また、本発明の範囲を満たさないものについては、数値に下線を引いて示す。
【0051】
【表1】

【0052】
表1に示すように、実施例1〜12は、本発明の範囲を満たすため、頂面部の耐力が250MPa以上であり、頂面部の強度に優れていた。なお、鋳造温度がより好ましい値のものである実施例1は、d/Dが同一条件で、鋳造温度がより好ましい値から外れるものである実施例2に比べて頂面部の強度が特に優れていた。また、d/Dがより好ましい値のものである実施例1は、鋳造温度が同一条件で、d/Dがより好ましい値から外れるものである実施例4に比べて頂面部の強度が特に優れていた。
【0053】
一方、比較例1〜9は、本発明の範囲を満たさないため、以下の結果となった。
比較例1、2は、d/D、および、鍛造温度が上限値を超えるため、頂面部の耐力に劣った。比較例3〜5は、d/Dが上限値を超えるため、頂面部の耐力に劣った。比較例6、7は、鍛造温度が上限値を超えるため、頂面部の耐力に劣った。比較例8、9は、鍛造温度が下限値未満のため、試験材に割れが生じた。
【0054】
なお、比較例4の試験材は、特許文献1、2に記載された従来のピストンを想定したものである。本実施例で示すように、従来のピストンは、前記の評価において一定の水準を満たさないものである。従って、本実施例によって、本発明に係るピストンが従来のピストンと比較して、優れていることが客観的に明らかとなった。
【0055】
以上、本発明について実施の形態および実施例を示して詳細に説明したが、本発明の趣旨は前記した内容に限定されることなく、その権利範囲は特許請求の範囲の記載に基づいて広く解釈しなければならない。なお、本発明の内容は、前記した記載に基づいて広く改変・変更等することが可能であることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0056】
1、2 鋳塊素材
10、20 鍛造装置
11 ピストン鍛造用金型
12、22 ポンチ
15、25 鍛造材(ピストン)
21 荒鍛造用金型
24 荒鍛造材
30 ピストン(マグネシウム合金鍛造ピストン)
31 頂面部
32 ピストン側壁
33 ボス部
34 溝
35 スカート部
A 頂面部
a ピストンの頂面部となる部位が接する部位
D ピストン鍛造用金型または荒鍛造用金型の内径
d 鋳塊素材の外径

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鍛造により製造されるマグネシウム合金鍛造ピストンの製造方法であって、
マグネシウム合金からなる丸棒状の鋳塊素材を鍛造する鍛造工程において、ピストン鍛造用金型の内径をD、前記鋳塊素材の外径をdとしたときに、前記外径dを前記内径Dで割った値(d/D)が85%以下、且つ、鍛造時における前記鋳塊素材の温度が250〜400℃となる条件で鍛造することを特徴とするマグネシウム合金鍛造ピストンの製造方法。
【請求項2】
前記鍛造時における前記鋳塊素材の温度が250℃以上350℃未満となる条件で鍛造することを特徴とする請求項1に記載のマグネシウム合金鍛造ピストンの製造方法。
【請求項3】
鍛造により製造されるマグネシウム合金鍛造ピストンの製造方法であって、
マグネシウム合金からなる丸棒状の鋳塊素材を鍛造する鍛造工程が、荒鍛造を行った後、仕上げ鍛造を行う工程からなり、
前記鍛造工程において、前記荒鍛造に使用する荒鍛造用金型の内径をD、前記鋳塊素材の外径をdとしたときに、前記外径dを前記内径Dで割った値(d/D)が85%以下であり、前記荒鍛造用金型における、前記マグネシウム合金鍛造ピストンの頂面部となる部位が接する部位が凸形状であり、且つ、前記荒鍛造時における前記鋳塊素材の温度が250〜400℃となる条件で鍛造することを特徴とするマグネシウム合金鍛造ピストンの製造方法。
【請求項4】
前記荒鍛造時における前記鋳塊素材の温度が250℃以上350℃未満となる条件で鍛造することを特徴とする請求項3に記載のマグネシウム合金鍛造ピストンの製造方法。
【請求項5】
前記外径dを前記内径Dで割った値(d/D)が60%以上70%未満であることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のマグネシウム合金鍛造ピストンの製造方法。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか一項に記載のマグネシウム合金鍛造ピストンの製造方法により得られたことを特徴とするマグネシウム合金鍛造ピストン。
【請求項7】
前記マグネシウム合金鍛造ピストンの材料である合金が、Mg-Gd-Zn系合金であることを特徴とする請求項6に記載のマグネシウム合金鍛造ピストン。
【請求項8】
前記マグネシウム合金鍛造ピストンの材料である合金が、Mg-Gd-Zn-Zr系合金であることを特徴とする請求項6に記載のマグネシウム合金鍛造ピストン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−6074(P2012−6074A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−5467(P2011−5467)
【出願日】平成23年1月14日(2011.1.14)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】