説明

マスキング部材及びマスキング部材を用いた被膜形成方法

【課題】加工負担を増加させなくても取り外しに伴う被膜の剥離を抑制できるマスキング部材を提供する。
【解決手段】第1,第2マスキング部材2,3を用意し、第2マスキング部材3の孔内周面6aを、第1マスキング部材2の孔内周面5aよりも溶射層8形成領域側に突出させて、第1,第2マスキング部材2,3に対してアンダーカット加工等の特別な加工を施さなくても、その第1,第2マスキング部材2,3の孔内周部をもって実質上のアンダーカット形状を形成する。これにより、溶射層8形成時に、溶射層8が第1,第2マスキング部材2,3の孔内周面5a,6aに付着することを抑え、被膜形成後、当該マスキング部材(第1,第2マスキング部材)を取り外す際、被膜が剥離することを抑制する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マスキング部材及びマスキング部材を用いた被膜形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
被膜を的確に形成するためにマスキングが用いられる。例えば特許文献1には、マスキング部材として、円形孔部を有し、その円形孔部内面に階段形状の皮膜脱落防止手段を設けたものが示されている。このマスキング部材をシリンダブロックの上端に配置して、そのマスキング部材の円形孔部をシリンダブロックのシリンダボアに連通するようにすれば、マスキング部材の円形孔部内面に溶滴が吹き付けられても、その吹き付けにより形成される溶射皮膜は、皮膜脱落防止手段により脱落することが防止され、シリンダボア内壁の溶射皮膜の品質が高められる。
【0003】
ところで、被膜形成部材(ワーク)上に被膜を形成するに際しては、一般に、先ず、被膜形成部材上にマスキング部材を配置し、そのマスキング部材により、被膜形成部材上に被膜形成領域が区画される。その上で、その被膜形成領域に対して溶射、メッキ等が行われて、被膜が形成され、その被膜形成後、マスキング部材は取り除かれる。
この場合、マスキング部材を被膜形成部材上に配置したときに、そのマスキング部材の被膜形成領域に臨む被膜形成領域側端面が垂直に立上がっているとすると、被膜がその被膜形成領域側端面に付着することになり、被膜形成後のマスキング部材の取り外しの際、その被膜が引張られて剥離するおそれがある。このため、マスキング部材の被膜形成領域側端面は、被膜形成部材上に配置したときに、アンダーカット形状、すなわち、被膜形成部材から外側に離れるほど被膜形成領域側に向けて突出する傾斜形状とされている。これにより、マスキング部材の被膜形成領域側端面に対する被膜の付着が抑制され、マスキング部材の取り外しに際して、被膜の剥離が抑制される。
【特許文献1】特開2008−75096号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、マスキング部材における被膜形成領域側端面のアンダーカット形状は、単にプレス装置による素材の打ち抜きだけでは加工することはできず、その後、特別に、アンダーカット加工が必要となる。このため、マスキング部材の取り外しに伴う被膜の剥離を抑制するには、マスキング部材に対する加工負担の増加が伴うことになっている。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、その第1の技術的課題は、加工負担を増加させなくても取り外しに伴う被膜の剥離を抑制できるマスキング部材を提供することにある。
第2の技術的課題は、上記マスキング部材を用いて、マスキング部材の取り外しに伴う被膜の剥離を簡単に抑制できるマスキング部材を用いた被膜形成方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記第1の技術的課題を達成するために本発明(請求項1に係る発明)においては、
被膜形成部材上に設置して該被膜形成部材上に被膜形成領域を区画するマスキング部材であって、
前記被膜形成部材上に設置される第1マスキング部材と、
前記第1マスキング部材上に交換可能に設置され、前記被膜形成領域に臨む被膜形成領域側端面が該第1マスキング部材の被膜形成領域側端面よりも突出した状態とされている第2マスキング部材と、
を備えている構成としてある。この請求項1の好ましい態様としては、請求項2,3の記載の通りとなる。
【0007】
前記第2の技術的課題を達成するために本発明(請求項4に係る発明)においては、
請求項1〜3のいずれか1項に係るマスキング部材を被膜形成部材上に設置して、該マスキング部材により該被膜形成部材上に区画される被膜形成領域に被膜を形成するマスキング部材を用いた被膜形成方法であって、
前記マスキング部材を前記被膜形成部材上に設置するに際して、該マスキング部材の第2マスキング部材の被膜形成領域側端面により前記被膜形成領域を区画する構成としてある。この請求項4の好ましい態様としては、請求項5以下の記載の通りとなる。
【発明の効果】
【0008】
請求項1に係る発明によれば、第1,第2マスキング部材に対してアンダーカット加工等の特別な加工を施さなくても、第2マスキング部材の被膜形成領域側端面を、第1マスキング部材の被膜形成領域側端面よりも被膜形成領域側に突出させて、その第1,第2マスキング部材の被膜形成領域側端面等をもって実質上のアンダーカット形状を形成することができ、被膜形成時に、被膜が第1,第2マスキング部材の被膜形成領域側端面に付着することを抑制できる。このため、マスキング部材の加工負担を増加させなくても、被膜形成後、当該マスキング部材(第1,第2マスキング部材)を取り外す際、被膜が剥離することを抑制できる。
また、マスキング部材が、第1マスキング部材上に第2マスキング部材が交換可能に設けられていることから、第2マスキング部材を最後(使用限度)まで有効に活用できるだけでなく、被膜処理に伴い、マスキング部材の表面が使用限度に達したときには、そのマスキング部材全体(第1,第2マスキング部材の両方)を交換しなくても、第2マスキング部材だけを新たなものに交換することができる。このため、マスキング部材の廃棄量(交換量)を、全体交換する場合に比べて減らすことができる。
【0009】
請求項2に係る発明によれば、第2マスキング部材が、複数層の積層構造として形成され、第2マスキング部材の各層が、上側から順次、取り外し可能とされていることから、第2マスキング部材(表面)が使用限度に達したときには、第2マスキング部材全体を交換しなくても、その第2マスキング部材の最上層のみを交換することができる。このため、第2マスキング部材の廃棄量(交換量)を、前記請求項1の場合よりもさらに減らすことができ、第2マスキング部材を有効に利用できる。
【0010】
請求項3に係る発明によれば、第2マスキング部材が、基材層と、該基材層上に設けられて該基材層よりも高硬度とされた表面層とにより形成されていることから、第2マスキング部材の表面が被膜形成粒子の噴射圧力により荒れることを抑えることができ、第2マスキング部材の表面の荒れに基づき第2マスキング部材の表面に被膜形成粒子が堆積し易くなることを抑制することができる。
【0011】
請求項4に係る発明によれば、請求項1〜3のいずれか1項に係るマスキング部材を被膜形成部材上に設置して、該マスキング部材により該被膜形成部材上に区画される被膜形成領域に被膜を形成するマスキング部材を用いた被膜形成方法であって、マスキング部材を被膜形成部材上に設置するに際して、マスキング部材の第2マスキング部材の被膜形成領域側端面により被膜形成領域を区画することから、第1,第2マスキング部材の被膜形成領域側端面等をもって実質上のアンダーカット形状が形成され、被膜形成時に、被膜が第1,第2マスキング部材の被膜形成領域側端面に付着することを抑制できる。このため、請求項1〜3のいずれか1項に係るマスキング部材を用いて、マスキング部材の取り外しに伴う被膜の剥離を簡単に抑制できる。
【0012】
請求項5に係る発明によれば、マスキング部材を、新たな被膜形成部材に対して順次、使い回し、マスキング部材の第2マスキング部材が使用限界に達したとき、第2マスキング部材を新たなものに交換することから、マスキング部材全体(第1,第2マスキング部材の両方)を交換しなくても、第2マスキング部材だけを新たなものに交換することができ、マスキング部材の廃棄量(交換量)を、全体交換する場合に比べて減らすことができる。
【0013】
請求項6に係る発明によれば、マスキング部材を、新たな被膜形成部材に対して順次、使い回し、第2マスキング部材として、複数層の積層構造からなるものを用いているときであって、第2マスキング部材の最上層が使用限界に達したとき、第2マスキング部材の最上層を取り除くことから、第2マスキング部材の廃棄量(交換量)を、前記請求項5の場合よりもさらに減らすことができ、第2マスキング部材を有効に利用できる。
【0014】
請求項7に係る発明によれば、第2マスキング部材として、その表面に複数の突条部が順次、形成されて、該表面が凹凸面とされているものを用い、マスキング部材を被膜形成部材に設置するに際して、マスキング部材の第2マスキング部材の複数の突条部が被膜形成領域に向けて順次、並ぶようにすることから、各突条部の形成面に基づき、被膜形成時に、被膜形成粒子が、第2マスキング部材が平坦面である場合よりも付着しにくくすることができ、第2マスキング部材の表面への被膜形成粒子の堆積を抑制できる。
【0015】
請求項8に係る発明によれば、各突条部を形成する一対の形成面のうち、前記被膜形成領域側の一方の形成面全体が、該一対の形成面のうちの他方の形成面の下方領域に位置するように形成されていることから、被膜形成粒子が一方の形成面に直接、当たらない一方、被膜形成粒子は、他方の形成面により、被膜形成領域側とは反対側にはじき飛ばされる。このため、被膜形成粒子が被膜面に飛散することを抑えて被膜面の性状が悪化することを抑制できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について、図面に基づいて説明する。
先ず、マスキング部材について、ロータリエンジンのサイドハウジングに被膜(溶射被膜)を形成する場合に用いるものを例にとり説明する。サイドハウジングにおいては、耐摩耗性を向上させるべく、その側面における凹所面に対して溶射による被膜形成が行われる。このため、本実施形態に係るマスキング部材1は、溶射による被膜形成に際して、図1,図2に示すように、必要部位以外への被膜の形成を防止すべく、サイドハウジングWの側面Ws上に配置(セット)される。
【0017】
前記マスキング部材1は、図1〜図3に示すように、第1マスキング部材2と、第2マスキング部材3とを積層した積層構造とされている。第1マスキング部材2及び第2マスキング部材3には、金属製の板材が用いられており、その両者2,3の板面2a,3aは、積層構造を構成すべく、合わさった状態で保持されている。このマスキング部材1には、サイドハウジングWの凹所Whが外部に臨んで溶射が行えるようにすべく、その板面中央において大きめの貫通孔4が形成されている。
【0018】
前記第1マスキング部材2は、図1〜図3に示すように、前記サイドハウジングWの側面Ws上に直接、配置されて溶射に必要な部位以外を覆う役割を有している。この第1マスキング部材2には、鉄板等、種々の板材が用いられており、その第1マスキング部材2には、前記貫通孔4を構成する孔5が形成されている。この孔5はプレス装置による打ち抜き加工により形成されており、その孔5の内周面(肉厚面)5aは、その第1マスキング部材2の板面2aに対して垂直となっている。この第1マスキング部材2の孔5は、サイドハウジングWの凹所Wh開口径よりも若干、大きい相似形状とされており、第1マスキング部材2をサイドハウジングWの側面Ws上にセットしたときには、第1マスキング部材2の孔内周面5aは、サイドハウジングWの凹所Wh開口周縁よりも、若干、径方向外方に引っ込むことになる。
【0019】
前記第2マスキング部材3は、図1〜図3に示すように、前記第1マスキング部材2上に配置されて必要部位以外への溶射を受け止める役割を有している。このため、この第2マスキング部材3においても、鉄板を初めとして、種々の板材が用いられている。しかし、溶射を受け止める役割からすれば、寿命を向上させるべく溶射粒子が付着しにくい銅板を用いることが好ましい。この第2マスキング部材3にも、前記貫通孔4を構成する孔6が形成されており、この孔6もプレス装置による打ち抜き加工により形成されて、その内周面(肉厚面)6aは、その第2マスキング部材3の板面3aに対して垂直となっている。この第2マスキング部材3の孔6は、サイドハウジングWの凹所Wh開口(径)とほぼ等しくされており、この第2マスキング部材3が第1マスキング部材2上にセットされたときには、図1,図2に示すように、第2マスキング部材3の孔内周面6aは、第1マスキング部材2の孔内周面5aよりも、若干、縮径された状態となっている。このため、マスキング部材1の貫通孔4は、第1,第2マスキング部材2,3における両孔5,6の内周部(両内周面5a,6a、その両内周面5a,6aを連絡する第2マスキング部材3の板面3a)により、第1マスキング部材2側から第2マスキング部材3側(図2中、上方側)に向かうに従って階段状に(段差をもって)縮径されることになっており、第1,第2マスキング部材2,3の両内周部より、実質上のアンダーカット形状が形成されることになっている。
【0020】
前記第1マスキング部材2及び前記第2マスキング部材3は、図1,図2に示すように、その外形が、前記サイドハウジングWの側面Wsを覆うべく、同じ大きさの矩形形状とされており、その第1マスキング部材2と第2マスキング部材3とは、それらの四隅において、位置決めを兼ねて、ボルト、ナット等の留め具7により一体化されている。このため、第2マスキング部材3は、溶射材料の堆積量が所定以上になったこと、変形により寸法変化が所定以上になったこと等の理由により、使用限度に達したときには適宜交換できることになっており、その第2マスキング部材3の交換が行われても、その新たな第2マスキング部材3を第1マスキング部材2に留め具7を用いて一体化する限り、上述のアンダーカット形状等を形成する関係が的確に得られることになっている。
【0021】
次に、上記マスキング部材1を用いた被膜形成方法について説明する。
ワークであるサイドハウジングWに対して被膜である溶射層を形成するに際しては、図4に示すように、脱脂洗浄(アルカリ洗浄)、乾燥(エアブロー)、ショットブラスト用マスキング部材1のセット、ショットブラスト、マスキングの取外し、エアブロー、溶射用マスキング部材のセット、溶射(HVOF溶射)、溶射用マスキング部材の取外し、乾燥(エアブロー)、検査の各工程を経ることになる。前述の本実施形態に係るマスキング部材1は、溶射工程の直前工程として行われるマスキング工程において用いられ、溶射層の付着を高めるために、ワークとしてのサイドハウジングWの必要部位表面(溶射を行う領域面)を粗くするショットブラスト工程の前工程として行われるマスキング工程においては用いられない。
【0022】
本実施形態に係る前記マスキング部材1は、溶射用マスキング部材1として用いるべく、ショットブラスト工程、エアブロー工程を経ると、図1,図2に示すように、サイドハウジングW上にセットされる。
このとき、図示を略す治具等により、サイドハウジングWとマスキング部材1とが所定の位置決め状態に位置決め固定され、マスキング部材1は、第2マスキング部材3が第1マスキング部材2の上側となるように配置されると共に、第2マスキング部材3の孔6がサイドハウジングWの凹所Wh開口に対して上下に合致するようにされる。
【0023】
サイドハウジングWに対するマスキング部材1のセットを終えると、溶射が開始される(溶射工程)。溶射としては、本実施形態においては、高速フレーム溶射(HVOF)が用いられ、その溶射を用いることにより、溶射材料は、マスキング部材1の貫通孔4を介してサイドハウジングWの凹所Wh内に進入することになる。
これにより、サイドハウジングWの凹所Wh内全体が溶射層8により覆われ、その一部は、図3に示すように、サイドハウジングWの凹所Wh周縁部にまで至る。しかし、第1,第2マスキング部材2,3の孔5,6内周部は、実質上のアンダーカット形状を形成しており、このとき、第1,第2マスキング部材2,3の孔内周面5a,6a(端面)、特に第1マスキング部材2の孔内周面5aに溶射層8は付着しない。
【0024】
溶射工程が終了すると、マスキング部材1が取り外される(マスキング部材1の取外し工程)。このときには、第1,第2マスキング部材2,3の孔5,6内周部の実質上のアンダーカット形状に基づき、溶射層8が第1,第2マスキング部材2,3の孔内周面に付着していないことから、マスキング部材1を取り外しても、それに伴って、従前同様、溶射層8は剥離しない。この後、前述した如く、乾燥工程、検査工程を経て、一連の工程は終了することになる。
【0025】
したがって、この第1実施形態においては、第1,第2マスキング部材2,3を用意し、その各マスキング部材1に大小の孔5,6を打ち抜き加工により形成して、それらを積層することにより、実質上のアンダーカット形状(第2マスキング部材3の孔内周面6aを第1マスキング部材2の孔孔内周面5aよりも突出させること)を形成することから、特別のアンダーカット加工が不要となり、マスキング部材1に対する加工負担を増加させることなく実質上のアンダーカット形状を得ることができることになる。このため、マスキング部材1に対する加工負担を増加させなくても、そのマスキング部材1の取外しに際して、溶射層8が剥離することを抑制できることになる。
【0026】
また、本実施形態においては、溶射に曝されることにない第1マスキング部材2が交換不要である一方、溶射を受け止める第2マスキング部材3が交換可能であることから、第2マスキング部材3の表面が使用限度に達したときには、第1,第2マスキング部材2,3全体ではなく、第2マスキング部材3だけを新たなものに交換することができ、マスキング部材1の材料交換量を、全体交換する場合に比べて減らすことができる。
【0027】
図5〜図7は第2実施形態、図8は第3実施形態、図9は第4実施形態、図10は第5実施形態、図11は第6実施形態をを示す。この各実施形態において、前記第1実施形態と同一構成要素については同一符号を付してその説明を省略する。
【0028】
図5〜図7に示す第2実施形態は、第1マスキング部材2上において、第2マスキング部材3を複数の層をなす複数の金属製薄板9をもって積層構造に形成して、その各薄板9を、上側から順次、除去可能としたものを示している。この場合、図6に示すように、第1,第2マスキング部材2,3の四隅において、長ボルト10を下側から上方に向けて貫通させて、その各長ボルト10の先端部にナット11を螺合することにより、第1,第2マスキング部材2,3の積層構造が保持されているが、第2マスキング部材3における各薄板9の四隅には、前記長ボルト10を挿通させるための特有の挿通孔12がそれぞれ形成されている。この各挿通孔12は、前記ナット11の径よりも大きい径とされた大径部13と、ナット11の径よりも細くされた状態で大径部13から連続して延びるスリット部14とを有しており、その各挿通孔12のスリット部14は、大径部13から同方向に向けて延ばされている。そして、通常時において、各長ボルト10とナット11とは、第2マスキング部材3においては、各挿通孔12のうちのスリット部14に位置されることになっている。しかも、各長ボルト10の頭部10aと第1マスキング部材2との間にはバネ15が介装されており、そのバネ15の付勢力により、第1マスキング部材2及び第2マスキング部材3の各薄板9は各ナット11に向けて押し付けられている。
【0029】
このため、第2マスキング部材3が、溶射により使用限度に達したときには、最上層をなす第2マスキング部材3のうちの一部、すなわち最上段の薄板9のみを取り除けば、新たな薄板9が現れることになり、前記第1実施形態の場合よりもさらに、第2マスキング部材3の廃棄量(交換量)を少なくして第2マスキング部材3を有効に利用することができる。
さらに、第2マスキング部材3の最上段の薄板9を廃棄するに際しては、その最上段の薄板9をその下側段の薄板9に対してずらして、その最上段の薄板9の各大径部13内が長ボルト10が入るようにすれば、各ナット11による上側移動規制が解除され、最上段の薄板9を容易に取り除くことができることになる。このため、最上段の薄板9の交換を円滑且つ迅速に行うことができる。
【0030】
図8に示す第3実施形態においては、第2マスキング部材3の本体(基材層)3Aの表面(上面)に硬質層16が形成されている。この硬質層16は、セラミックコーティング(PVDコーティング、TiN,CrN等)、表面窒化処理等により形成される。
これにより、溶射材料(粒子)の噴射圧力により第2マスキング部材3上面が荒らされることが抑えられ、溶射材料(粒子)が第2マスキング材料上面に堆積されることが抑制される。この結果、第2マスキング部材3の寿命を高めることができる。
【0031】
図9に示す第4実施形態においては、第2マスキング部材3の表面に複数の突条部17が孔6に対して同心状となるように順次、形成されている。各突条部17は、孔6側に配置される一方の形成面18(傾斜面)と、その一方の形成面18よりも孔6から径方向に遠い側(図9中、左側)に配置される他方の形成面19(傾斜面)とにより、外形が鋭角となるように形成されている。
これにより、溶射粒子を、その各突条部17の形成面18,19に基づき、第2マスキング部材3が平坦面である場合よりも付着しにくくすることができ、第2マスキング部材3の表面への溶射材料の堆積を抑制できる(第2マスキング部材3の寿命向上)。
【0032】
図10に示す第5実施形態は、前記第4実施形態の変形例を示す。この第5実施形態においては、各突条部17の一方の形成面18だけが孔内周面6aと平行な状態(第2マスキング部材3の板面3aに垂直)とされている。
これにより、溶射粒子は、図10に示すように、他方の形成面19により、孔6(サイドハウジングWの凹所Wh)とは反対側にはじき飛ばされることになり、溶射粒子がサイドハウジングWの溶射層8に飛散することを抑えて溶射被膜面の性状が悪化することを抑制できる。この場合、一方の形成面18は、本実施形態においては、孔内周面6aと平行な状態となっているが、一方の形成面18を、さらに他方の形成面に近づけるように傾けて、その一方の形成面18が他方の形成面19の下方領域内により収まるようにしてもよい。
【0033】
図11に示す第6実施形態は、第4実施形態の変形例を示す。この第6実施形態においては、第2マスキング部材3の肉厚が、孔6に向かうに従って厚くされており、これに伴い、突条部17についても、孔6に近い側’図11中、右側)が、孔6の径方向において、遠い側(左側)に比べて高く突出している。これによっても、溶射粒子を、孔6側(サイドハウジングWの凹所Wh側)から遠のく側にはじき飛ばし、溶射粒子がサイドハウジングWの溶射層8に飛散することを抑制できる。これにより、溶射層8の溶射被膜面の性状が悪化することを抑制できる。
【0034】
以上実施形態について説明したが本発明にあっては、次の態様を包含する。
(1)各実施形態の内容を適宜、組み合わせること。
(2)被膜形成としては、溶射の他に、メッキ等が含まれること。
(3)溶射被膜形成部材は、耐摩耗性の向上を図りたいものであれば、サイドハウジングWに限らず、どのようなものでもよいこと。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】第1実施形態に係るマスキング部材を示す平面図。
【図2】図1のX2−X2線断面図。
【図3】第1実施形態を説明する説明図。
【図4】第1実施形態に係るマスキング部材を用いてサイドハウジングに溶射を行う一連の工程を示す工程図。
【図5】第2実施形態を説明する説明図。
【図6】第2実施形態に係るマスキング部材を示す図。
【図7】第2実施形態に係る第2マスキング部材に用いられる薄板を示す平面図。
【図8】第3実施形態を説明する説明図。
【図9】第4実施形態を説明する説明図。
【図10】第5実施形態を説明する説明図。
【図11】第6実施形態を説明する説明図。
【符号の説明】
【0036】
1 マスキング部材
2 第1マスキング部材
3 第2マスキング部材
3A 第2マスキング部材の本体(基材層)
5a 第1マスキング部材の孔内周面(被膜形成領域側端面)
6a 第2マスキング部材の孔内周面(被膜形成領域側端面)
9 薄板(層)
17 突条部
18 一方の形成面
19 他方の形成面
W サイドハウジング(被膜形成部材)


【特許請求の範囲】
【請求項1】
被膜形成部材上に設置して該被膜形成部材上に被膜形成領域を区画するマスキング部材であって、
前記被膜形成部材上に設置される第1マスキング部材と、
前記第1マスキング部材上に交換可能に設置され、前記被膜形成領域に臨む被膜形成領域側端面が該第1マスキング部材の被膜形成領域側端面よりも突出した状態とされている第2マスキング部材と、
を備えている、
ことを特徴とするマスキング部材。
【請求項2】
請求項1において、
前記第2マスキング部材が、複数層の積層構造として形成され、
前記第2マスキング部材の各層が、上側から順次、取り外し可能とされている、
ことを特徴とするマスキング部材。
【請求項3】
請求項1又は2において、
前記第2マスキング部材が、基材層と、該基材層上に設けられて該基材層よりも高硬度とされた表面層とにより形成されている、
ことを特徴とするマスキング部材。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に係るマスキング部材を被膜形成部材上に設置して、該マスキング部材により該被膜形成部材上に区画される被膜形成領域に被膜を形成するマスキング部材を用いた被膜形成方法であって、
前記マスキング部材を前記被膜形成部材上に設置するに際して、該マスキング部材の第2マスキング部材の被膜形成領域側端面により前記被膜形成領域を区画する、
ことを特徴とするマスキング部材を用いた被膜形成方法。
【請求項5】
請求項4において、
前記マスキング部材を、新たな被膜形成部材に対して順次、使い回し、
前記マスキング部材の第2マスキング部材が使用限界に達したとき、該第2マスキング部材を新たなものに交換する、
ことを特徴とするマスキング部材を用いた被膜形成方法。
【請求項6】
請求項4において、
前記マスキング部材を、新たな被膜形成部材に対して順次、使い回し、
前記第2マスキング部材として、複数層の積層構造からなるものを用いているときであって、該第2マスキング部材の最上層が使用限界に達したとき、該第2マスキング部材の最上層を取り除く、
ことを特徴とするマスキング部材を用いた被膜形成方法。
【請求項7】
請求項4において、
前記第2マスキング部材として、その表面に複数の突条部が順次、形成されて、該表面が凹凸面とされているものを用い、
前記マスキング部材を前記被膜形成部材に設置するに際して、該マスキング部材の前記第2マスキング部材の複数の突条部が前記被膜形成領域に向けて順次、並ぶようにする、
ことを特徴とするマスキング部材を用いた被膜形成方法。
【請求項8】
請求項7において、
前記各突条部を形成する一対の形成面のうち、前記被膜形成領域側の一方の形成面全体が、該一対の形成面のうちの他方の形成面の下方領域に位置するように形成されている、
ことを特徴とするマスキング部材を用いた被膜形成方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2010−95779(P2010−95779A)
【公開日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−269881(P2008−269881)
【出願日】平成20年10月20日(2008.10.20)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】