説明

マスクに加工する抗アレルゲンスプレー用組成物

【課題】
マスクに、簡便に抗アレルゲン機能を付与あるいは増強させることを可能とする。
【解決手段】
マスクに抗アレルゲン機能を付与するためのスプレー用組成物であって、アレルゲン低減化剤および1%以上30%以下のブチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン等の不揮発性溶剤を含有する抗アレルゲン組成物を、不織布や布ガーゼ等から成るマスクに噴霧することによって、マスクに抗アレルゲン機能を簡便に付与あるいは増強することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マスクに加工するための抗アレルゲンスプレーおよび抗アレルゲンスプレー用組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ハウスダストや花粉の飛散によるアレルギー性鼻炎や喘息は社会的な問題となっており、患者数は年々増加する傾向にある。花粉については春先に飛散するスギ花粉のみならず、ブタクサ、ヒノキ、カモガヤ等の花粉によりアレルギー症状は一年中発症する可能性がある。花粉の吸入を防止するためにマスクを着用することは一般に行われているが、マスクを着用していると結果的にマスクに花粉を集めることとなり、マスクを取り外したときに花粉を吸入する恐れがある。
【0003】
家屋内においては、ハウスダストに含まれるダニアレルゲンもアレルギー症状の大きな原因となっている。ダニの種類は30種類以上が一般に生息していると言われており、6月前後に最も多く繁殖するが、近年の空調の行き届いた室内においては一年中繁殖していると言って差し支えない。特にアレルギー症状に対して重要なのはヒョウヒダニ属に分類されるヤケヒョウヒダニ(Dermatophagoides pteronyssius)とコナヒョウヒダニ(Dermatophagoides farinae)である。これらのダニは室内にあるカーペット、畳、布団、枕等、多くの場所に生息していて、ダニが排泄する糞あるいはダニそのものの死骸が分解して粉体状になったものが強度のアレルゲン性を示す。これらの微細な粉体となったダニアレルゲンは室内中を浮遊することとなり、吸入によってアレルゲン症状を引き起こすこととなる。吸入を防ぐためにマスクを着用することは有用であるが、やはりマスクを取り外したり交換したりするときにダニアレルゲンを吸入する恐れがある。
【0004】
最近では抗アレルゲン機能を持つマスクも販売されているが、抗アレルゲン機能は長期に継続するものではなく、アレルゲン低減化剤の加工量を超えるアレルゲンが付着した場合や、また使用するうちに機能が低下して再び花粉やダニアレルゲンの吸入の危険にさらされる場合がある。
【0005】
抗アレルゲン機能を持つマスクあるいはスプレー剤としてはこれまでさまざまな提案が行われている。アレルゲン不活化剤及び/又はウイルス不活性化剤を包接したシクロデキストリンが添加されている使い捨てマスクが提案されている。また、アレルゲン低減化成分を有する繊維原料を紡糸した繊維からなるマスクが提案されている。しかし、これらのマスクはアレルゲンを不活化する性能を有しているものの、持続性が十分なものではなかった。また、アミノ酸誘導体を用いた花粉ブロックスプレーが提案されている。しかしマスクに抗アレルゲン機能を付与するには適していなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−191964号公報
【特許文献2】特開2003−79756号公報
【特許文献3】特開2006−152477号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
抗アレルゲン加工が行われていないマスクに抗アレルゲン機能を付与するため、あるいは抗アレルゲン加工されたマスクに抗アレルゲン機能をさらに増強するために、簡易に噴霧することにより加工できるスプレー用の製剤を提供することが本発明の課題である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、抗アレルゲンスプレー剤をマスクに噴霧することによって簡便に抗アレルゲン加工を行うことができること、さらにアレルゲン低減化剤として塩化セチルピリジニウム等のピリジニウム化合物および不揮発性溶剤を配合したスプレー剤を噴霧することによって抗アレルゲン加工が行えることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
すなわち本発明は、(1)マスクに抗アレルゲン機能を付与するためのスプレー用組成物であって、アレルゲン低減化剤および1%以上30%以下の不揮発性溶剤を含有する抗アレルゲンスプレー用組成物であり、(2)マスクにアレルゲン低減化機能を付与するためのスプレー用組成物であって、アレルゲン低減化剤、除菌剤および1%以上30%以下の不揮発性溶剤を含有する抗アレルゲンスプレー用組成物であり、(3)アレルゲン低減化剤が一般式(I)

(Rは炭素数12〜18のアルキル基、Xm−は対イオンを示す。mは対イオンの価数を示す。)
で示されるピリジニウム化合物である抗アレルゲンスプレー用組成物であり、(4)アレルゲン低減化剤が塩化セチルピリジニウムである抗アレルゲンスプレー用組成物であり、(5)不揮発性溶剤がブチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリンから選択される少なくとも一種類以上である抗アレルゲンスプレー用組成物であり、(6)抗アレルゲン組成物をマスクにスプレーすることにより、抗アレルゲン機能を付与あるいは増強する方法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明の抗アレルゲンスプレー用組成物を使用することにより、マスクに抗アレルゲン性能を任意に且つ簡便に付与あるいは増強することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の抗アレルゲンスプレー用組成物におけるアレルゲン低減化剤成分は、一般式(I)

(Rは炭素数12〜18のアルキル基、Xm−は対イオンを示す。mは対イオンの価数を示す。)に示される化合物で、Rは炭素数12〜18のアルキル基であり、特に炭素数16が好ましい。対イオンはフッ素イオン、塩素イオン、臭素イオン、ヨウ素イオン、炭酸イオン、リン酸イオン、硫酸イオン等の無機イオン、あるいは酢酸イオン、プロピオン酸イオン等の有機イオンいずれでも差し支えないが、塩素イオンが好ましい。本発明に用いられる化合物としては、例えば塩化セチルピリジニウム(R:C1633、X:Cl、m=1)、塩化ラウリルピリジニウム(R:C1225、X:Cl、m=1)等が挙げられる。抗アレルゲンスプレー用組成物中のこれらの成分の含有率は、0.01〜20重量%が好ましく、0.1〜5重量%がより好ましい。
【0012】
不揮発性溶剤は、抗アレルゲン組成物をマスクに噴霧した後に乾燥したときにアレルゲン低減化剤の粉立ちを防ぎマスクを湿潤に保持するものであり、不揮発性で安全な溶剤であれば特に制限されるものではないが、たとえばプロピレングリコール、ブチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール(分子量1000以下)、ポリプロピレングリコール(分子量4000以下)、グリセリン等のグリコール系溶剤が適しており、特にプロピレングリコール、ブチレングリコール、グリセリンが好ましい。またこれらの溶剤の二種類以上を混合して使用することも可能である。本発明の抗アレルゲンスプレー用組成物に配合する不揮発性溶剤の濃度は1%以上30%以下が適しており、好ましくは2%以上15%以下が望ましく、さらにより好ましくは3%以上10%以下が望ましい。1%以下であると噴霧後に乾燥した後でアレルゲン低減化剤の粉立ちを防ぐことが困難となり、30%以上であるとマスクに噴霧したときにべとつきを生じて通気性が損なわれるなどの弊害を生じる恐れがある。
【0013】
本発明の抗アレルゲンスプレー用組成物には、除菌剤を配合して除菌機能を付与することも可能である。除菌剤としては製剤に溶解する成分であれば特に制限はないが、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、グルコン酸クロルヘキシジン、グレープフルーツ種子抽出物、トリクロサン、ε−ポリリジン、イソプロピルメチルフェノール、カテキン、フラボノイド等が挙げられる。
【0014】
本発明の抗アレルゲンスプレー用組成物をマスクに噴霧したとき、変色を起こさないように、また容器が経時的に腐食しないようにpHを6〜8の中性の範囲にすることが望ましい。このためpH調整剤を添加することが可能である。このようなpH調節剤としては特に制限はなく従来公知のものが使用できるが、たとえばリン酸アンモニウム、リン酸水素アンモニウム、リン酸ナトリウム、リン酸水素ナトリウム、リン酸カリウム、リン酸水素カリウム、アミノ酸類、尿素、有機酸またはその塩等が挙げられる。これらのpH調節剤は二種類以上の成分を混合して使用しても差し支えなく、0.001〜5%の範囲、好ましくは0.01〜2%の範囲で使用される。
【0015】
製剤を行う場合、揮発性の溶媒として水を用いることが最も適しているが、他の極性溶剤も混合して使用することも可能である。例えばメチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコールなどのアルコール類を極性溶剤として適宜使用することができる。
【0016】
本発明の抗アレルゲンスプレー用組成物の製剤化に際しては、さらに必要に応じてキレート剤、防錆剤、増粘剤、香料、消臭剤、スケール防止剤、消泡剤、帯電防止剤、柔軟加工剤等を添加することも可能である。
【0017】
噴霧装置の方式については特に限定されないが、炭酸ガス、LPG、DME、窒素ガス等の噴射剤を用いたエアゾールタイプ、手動で加圧圧縮した空気と混合することによって噴霧するトリガータイプの噴霧装置等が挙げられるが、トリガータイプの噴霧装置が適している。
【0018】
本発明の抗アレルゲンスプレー用組成物を噴霧することができるマスクには種々のものがあるが、たとえば不織布や布ガーゼ製のマスクが挙げられる。不織布としてはポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタラート等の樹脂を布状に加工したものであり、布ガーゼ製には綿製のものがある。不織布製のマスクは通常使い捨てとされるが、布ガーゼ製のものは洗濯して再使用する可能性があり、本発明の抗アレルゲンスプレー用組成物を再び噴霧することによって繰り返し抗アレルゲン機能を付与することができる。
【0019】
本発明の抗アレルゲンスプレー用組成物のマスクへの加工はスプレーによる噴霧によって行われるのが通常であるが、浸漬処理、塗布による加工等を行うことも可能である。加工量は、マスク1枚あたり(約140cm)に乾燥前の重量として0.1g〜5gであり、好ましくは0.2〜2gが適している。0.1g以下であると付与する抗アレルゲン機能が不十分になり、5g以上になるとべとつきを生じて通気性を損なう恐れがある。
【実施例】
【0020】
次に本発明の実施例及び試験例をあげて説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。 表1、2に示す配合で実施例1〜12を、表3に比較例1〜4を、通常の攪拌による方法で調製した。
【0021】
【表1】

【0022】
【表2】

【0023】
【表3】

【0024】
(試験例1)
揮発性試験1
ガラス板に実施例1〜12、比較例1〜4を約0.1g滴下し、室温で風乾させた。5分後、1時間後、3時間後に外観を観察した。結果を表4に示した。
【0025】
【表4】

○:湿潤状態で粉末状結晶が析出しない
×:粉末状結晶の析出が認められる

【0026】
(試験例2)
揮発性試験2
ポリプロピレン製マスクに実施例1〜12、比較例1〜4を、トリガー式噴霧装置を用いて約1gを噴霧し、5分後に装着し通気性を確認した。結果を表5に示した。
【0027】
【表5】

○:通気性が良好
×:通気性不良でべとつきが認められる

【0028】
(試験例3)
スギ花粉アレルゲンCryj1に対するアレルゲン低減化効果の測定
ポリプロピレン製不織布(5cm×5cm)に実施例8または9を噴霧し、1g付着させた。1時間風乾後、アレルゲン低減化効果の評価を行った。ブランク布、実施例を加工した不織布をチャック付きポリ袋に投入し標準スギ花粉アレルゲン液(アレルゲン量10ng/mL)1mLを加え、試料とアレルゲンを接触させた。1時間後にチャック付きポリ袋からアレルゲン液を搾り出し、遠心分離後のこれら試料について Cryj1酵素免疫測定法(ELISA)のサンドイッチ法にてスギ花粉アレルゲン低減化効果の測定を行った。まず、リン酸緩衝液(pH7.4、0.1重量%NaN含有)で2μg/mLに希釈したCryj1 モノクローナル抗体013を、F16 MAXISORP NUNC−IMMUNO MODULEプレート(NUNC社製)の1ウェルあたり100μLずつ添加し、4℃にて1日以上感作させた。感作後、液を捨て、ブロッキング試薬{1重量%牛血清アルブミン+リン酸緩衝液(pH7.2、0.1重量%NaN含有)}を1ウェルあたり200μLずつ添加し、37℃、60分間反応させた。反応後、リン酸緩衝液{pH7.2、0.1重量%ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレート含有}にてプレートを洗浄した。次に、加工不織布と接触させたスギ花粉アレルゲン抽出液試料を1ウェルあたり100μLずつ滴下し、37℃、60分間反応させた。反応後、リン酸緩衝液{pH7.2、0.1重量%ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレート含有}にてプレートを洗浄した。ペルオキシダーゼ標識したCryj1モノクローナル抗体053を蒸留水で200μg/mLに溶解し、それをリン酸緩衝液{pH7.2、1重量%牛血清アルブミン及び0.1重量%ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレート含有}で1200倍希釈した液を、1ウェルあたり100μLずつ添加した。37℃、60分間反応させた後、まずリン酸緩衝液{pH7.2、0.1重量%ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレート含有}でプレートを洗浄した。0.1mol/Lリン酸緩衝液(pH6.2)13mLにオルト−フェニレンジアミンジヒドロクロライド(26mg Tablet、SIGMA CHEMICAL CO.製)と過酸化水素水13μLを加えたものを1ウェルあたり100μLずつ添加し、37℃、5分間反応させた。その後直ちに、2mol/L H2SO4を50μLずつ入れて反応を停止させ、マイクロプレート用分光光度計(テカンジャパン株式会社製)で吸光度(OD490nm)を測定した。結果を表6に示した。
【0029】
【表6】

【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明の抗アレルゲンスプレー用組成物によって、マスクに抗アレルゲン性能を任意に且つ簡便に付与あるいは増強することが可能となる。








【特許請求の範囲】
【請求項1】
マスクに抗アレルゲン機能を付与するためのスプレー用組成物であって、アレルゲン低減化剤および1%以上30%以下の不揮発性溶剤を含有する抗アレルゲンスプレー用組成物。
【請求項2】
マスクにアレルゲン低減化機能を付与するためのスプレー用組成物であって、アレルゲン低減化剤、除菌剤および1%以上30%以下の不揮発性溶剤を含有する請求項1に記載の抗アレルゲンスプレー用組成物。
【請求項3】
アレルゲン低減化剤が一般式(I)

(Rは炭素数12〜18のアルキル基、Xm−は対イオンを示す。mは対イオンの価数を示す。)
で示されるピリジニウム化合物である請求項1または2に記載の抗アレルゲンスプレー用組成物。
【請求項4】
アレルゲン低減化剤が塩化セチルピリジニウムである請求項1〜3に記載の抗アレルゲンスプレー用組成物。
【請求項5】
不揮発性溶剤がブチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリンから選択される少なくとも一種類以上である請求項1〜4に記載の抗アレルゲンスプレー用組成物。
【請求項6】
請求項1〜5に記載の抗アレルゲンスプレー用組成物をマスクにスプレーすることにより、抗アレルゲン機能を付与あるいは増強する方法。

【公開番号】特開2010−285402(P2010−285402A)
【公開日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−141809(P2009−141809)
【出願日】平成21年6月15日(2009.6.15)
【出願人】(000250018)住化エンビロサイエンス株式会社 (69)
【出願人】(595006201)岡村化成株式会社 (1)
【Fターム(参考)】