説明

マスクブランクス及び転写用マスク

【課題】レジスト膜の面内膜厚均一性の悪化を抑制する。
【解決手段】転写パターンとなる薄膜が形成された薄膜付き基板上にレジスト膜が形成されたマスクブランクスである。レジスト膜は、前記基板の周縁部におけるレジスト膜の不要部分が除去されている。また、レジスト膜は、転写パターンが形成される領域において、膜厚の最も厚い位置におけるレジスト膜の膜厚と、膜厚の最も薄い位置におけるレジスト膜の膜厚との差異が50オングストローム以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄膜付き基板に形成されたレジスト膜のうち、基板の周縁部に形成された不要部分の除去を可能としたマスクブランクス及び転写用マスクに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、マスクブランクス用の基板上にレジストなどの塗布膜を形成する場合、基板を回転させながら、レジスト液を塗布する回転塗布方法が一般に用いられている(例えば、特公平4−29215号公報(特許文献1)(第2−3頁、第2図)参照)。
【0003】
この公報に示される回転塗布方法は、基板の薄膜表面上にレジスト液を滴下し、基板を所定の回転数で所定の時間回転させて、レジスト液の膜厚を均一化させる均一化処理工程と、均一化処理工程の後、基板を所定の回転数で所定の時間回転させて、レジスト液の膜を予備乾燥させる予備乾燥処理工程とを有し、これらの工程を経て、基板上にレジスト膜を形成するものである。この回転塗布方法によれば、レジスト膜の面内膜厚均一性(基板面内における膜厚最大値と膜厚最小値の差)を50Å以下に抑えることが可能である。
【0004】
ところで、上記のような回転塗布方法を用いて、基板上にレジスト液を塗布した場合には、レジスト液が基板表面の周縁部に溜まるため、基板の側面だけでなく、基板の裏面までレジスト液が回り込む可能性がある。このような領域に形成されたレジスト膜は、基板を取り扱う際に、剥離・脱落などが発生しやすいため、製品の欠陥原因になるだけでなく、後工程において基板を支持する際の妨げとなる。そのため、基板に形成されたレジスト膜のうち、基板の周縁部に形成された不要部分を除去するための方法が提案されている(例えば、特開2001−259502号公報(特許文献2)(第5頁、第1図)参照)。
【0005】
この公報に示される不要膜除去方法は、レジスト膜が形成された基板を、周縁部に微細な孔が多数形成されたカバー部材で覆うと共に、このカバー部材の上方から溶媒を供給し、基板及びカバー部材を一体的に回転させながら、前記微細な孔を介して、基板の周縁部に溶媒を供給する。このようにして、レジスト膜の不要部分を溶解除去する。
【0006】
また、上述の不要膜除去方法では、カバー部材からの熱伝達によるレジストの感度むらを抑えるために、カバー部材を熱伝達しにくい材料(例えば、樹脂材料、ガラス材料など)で形成すると共に、カバー部材の内壁と基板表面との間隔を、カバー部材から基板への熱伝達を抑制できる大きさに設定している。
【0007】
ところで、液晶基板などの大型基板を製造する際には、不要膜除去処理の前に減圧乾燥処理が行われることがある(例えば、特許第3309079号公報(特許文献3)(第2頁、第2図)参照)。
【0008】
大型基板は、通常、密閉型の塗布装置内でレジスト液の塗布が行われており、塗布装置内でレジスト液を十分に予備乾燥することが不可能である。このため、減圧乾燥によりレジスト膜をある程度まで乾燥させ、その後の基板搬送処理においてレジスト膜が流動することを抑える必要がある。つまり、大型基板の製造工程における減圧乾燥は、マスクブランクスなどの小型基板の製造工程に例えると、回転塗布工程の予備乾燥処理に相当するものと考えられる。
【0009】
近年では、転写パターンの微細化に伴い、マスクブランクスにおけるレジスト膜の面内膜厚均一性に対する要求も厳しくなってきている。具体的には、CDばらつき(クリティカルディメンジョンばらつき)を抑制するために、レジスト膜の面内膜厚均一性を50Å以下にすることが要求されている。
【0010】
しかしながら、回転塗布後におけるレジスト膜の面内膜厚均一性を50Å以下に抑えることができたとしても、不要膜除去工程において膜厚の均一性が悪化し、面内膜厚均一性が100Åを超えてしまうという問題が起こった。この問題の原因としては、以下のことが考えられる。
【0011】
上記特許文献2に開示されている不要膜除去方法では、基板を覆うカバー部材上に溶媒が供給される。このため、カバー部材の中央部が比較的温度が高く、カバー部材の周辺に向かって温度が低くなるという温度分布が発生し、これが基板のレジスト膜に熱伝達される。このような熱伝達は、カバー部材の材料選択や、カバー部材と基板との間隔設定により抑制することは可能であるが、完全に排除することは困難である。
【0012】
また、基板に形成されたレジスト膜は、回転塗布工程で予備乾燥されているものの、不要膜除去処理の段階では多くの溶剤が含まれている。そのため、基板を回転させながら不要膜を除去すると、温度分布や遠心力の影響により、比較的温度の高い基板中央部から比較的温度の低い基板周縁部に向かってレジストが流動し、それにともなう局所的な膜厚変動によって面内膜厚均一性が悪化したと考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特公平4−29215号公報
【特許文献2】特開2001−259502号公報
【特許文献3】特許第3309079号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
そこで、本発明の目的は、レジスト膜の不要部分を溶解除去するにあたり、不要膜除去処理における温度分布及び遠心力の影響でレジスト膜の膜厚が局所的に変動することを抑制し、レジスト膜の面内膜厚均一性の悪化を抑制することができるマスクブランクスを提供することにある。
【0015】
また、本発明の他の目的は、転写パターンが形成される領域にあるレジスト膜が均一な膜厚であるマスクブランクスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記目的を達成するため、本発明は、以下のような構成を有する。
【0017】
(構成1)
転写パターンとなる薄膜が形成された薄膜付き基板上にレジスト膜が形成されたマスクブランクスであって、
前記レジスト膜は、前記基板の周縁部におけるレジスト膜の不要部分が除去されており、
前記レジスト膜は、転写パターンが形成される領域において、膜厚の最も厚い位置におけるレジスト膜の膜厚と、膜厚の最も薄い位置におけるレジスト膜の膜厚との差異が50オングストローム以下であることを特徴とするマスクブランクス。
【0018】
(構成2)
前記レジスト膜は、前記基板の表面をカバー部材で覆い、このカバー部材の上方から溶媒を供給し、前記基板及び前記カバー部材を一体的に回転させながら、前記溶媒を前記基板の周縁部に供給することによって、前記レジスト膜の不要部分が除去されることを特徴とする構成1のマスクブランクス。
【0019】
(構成3)
前記レジスト膜は、転写パターンが形成される領域において、マスクブランクスの中央部分のレジスト膜が、周縁近傍のレジスト膜に比べて凹状に形成されないようにすることを特徴とする構成1又は2のマスクブランクス。
【0020】
(構成4)
前記マスクブランクスは、ArFエキシマレーザー露光型マスク、F2エキシマレーザー露光型マスク又はEUV露光型マスクの転写用マスク用マスクブランクスであることを特徴とする構成1〜3のいずれかのマスクブランクス。
【0021】
(構成5)
構成1〜4のいずれかのマスクブランクスを用いて作製された転写用マスク。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、マスクブランクス上の転写パターンが形成される領域にあるレジスト膜を均一な膜厚とすることができる。この結果、該領域において、膜厚の最も厚い位置におけるレジスト膜の膜厚と、膜厚の最も薄い位置におけるレジスト膜の膜厚との差異(面内膜厚均一性)を50オングストローム以下とすることができる。
【0023】
特に、本発明は、ArFエキシマレーザー露光型マスク、Fエキシマレーザー露光型マスク、EUV(extreme ultraviolet rays)露光型マスクなどの転写マスク用マスクブランクスとして好適に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】マスクブランクスの製造工程を示すフローチャートである。
【図2】回転塗布装置の基本構造を示す概略図である。
【図3】減圧乾燥装置の基本構造を示す概略図である。
【図4】不要膜除去装置の基本構造を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明では、パターン形成領域のレジスト膜が、不要膜除去処理の前に行われる減圧乾燥処理によって、不要膜除去処理における温度分布や遠心力の影響で流動しない程度まで乾燥される。このため、不要膜除去処理におけるレジスト膜の局所的な膜厚変動を抑制して、レジスト膜の面内膜厚均一性の悪化を抑制することができる。
【0026】
この減圧乾燥処理における真空度、時間、雰囲気温度などの処理条件は、レジストの材料や膜厚に応じて適宜調整される。この際、真空度は、10kPa以下、好ましくは5kPa以下、さらに好ましくは2kPa以下とする。
【0027】
また、減圧乾燥処理は、レジスト膜の周縁部分がある程度乾燥し、パターン形成領域のレジスト膜が安定した状態で行われることが好ましい。このように減圧乾燥処理を行えば、レジスト膜におけるパターン形成領域の平坦度を向上させることが可能になる。
【0028】
また、本発明におけるマスクブランクスの製造方法では、前記回転塗布処理が、上方が開放されたカップ内で行われる処理であって、前記基板の表面にレジスト液を滴下し、前記基板を所定の回転数で所定の時間回転させて、前記レジスト液の膜厚を均一化させた後、前記基板を所定の回転数で所定の時間回転させて、前記レジスト液の膜を予備乾燥させる。
【0029】
このような方法にすれば、レジスト液の回転塗布を、上方が開放されたカップ内で処理することにより、回転塗布工程におけるレジスト膜の予備乾燥を促進させることができる。このため、その後の基板搬送処理におけるレジスト膜の流動を抑制できるだけでなく、減圧乾燥処理の処理時間を短縮することができる。
【0030】
また、本発明におけるマスクブランクスの製造方法では、前記回転塗布処理において、前記レジスト液の膜を予備乾燥するための基板回転数が、前記レジスト液の膜厚を均一化するための基板回転数よりも低い回転数に設定される。
【0031】
このような方法にすれば、均一化された膜厚を維持しながら、レジスト液の膜を予備乾燥させることができる。さらに、四角形状(正方形や矩形)の基板にも、膜厚が均一なレジスト膜を形成することができる。
【0032】
また、本発明におけるマスクブランクスの製造方法では、前記回転塗布処理において、前記カップの下方で排気を行うことにより、前記カップの上方から前記基板に向けて気流を発生させる。
【0033】
このような方法にすれば、カップの上方から基板に向けて発生させた気流により、回転塗布処理における膜厚の均一化や、回転によるレジスト膜の予備乾燥をさらに促進させることができる。
【0034】
また、本発明におけるマスクブランクスの製造方法では、前記減圧乾燥処理において、基板収容空間の真空度を段階的に変化させる。
【0035】
このような方法にすれば、急激な圧力変化を回避しながら、レジスト膜に含まれる溶剤を均一に乾燥させることができる。このため、レジスト膜における膜厚の均一性を向上させることができる。
【0036】
例えば、真空度を段階的に下げて、ある一定の真空度に保った後、逆に真空度を段階的に上げて、大気圧に戻すようにすることが好ましい。
【0037】
本発明によれば、薄膜付き基板に滴下されたレジスト液を回転塗布により成膜し、該成膜されたレジスト液の膜を回転乾燥処理により乾燥させてレジスト膜を形成し、該レジスト膜を減圧乾燥処理により乾燥させ、レジスト膜が形成されたマスクブランクスの周縁部に、レジスト膜を溶解させる溶媒を供給し、マスクブランクスを回転させることにより、前記周縁部のレジスト膜を除去するマスクブランクスの製造方法が提供される。
【0038】
レジスト膜の周縁部が溶媒により除去される前に、レジスト膜を減圧環境に曝す。これにより、レジスト液に含有される溶剤の蒸発を促進せしめ、乾燥を促進することができる。また、この減圧乾燥処理を行った後に、レジスト膜周縁部に溶媒を供給し、回転除去処理を行う。このため、この除去処理において、基板の中央部から基板の周縁部に向かってレジストが流動することを防止できる。従って、マスクブランクスの中央部分のレジスト膜が凹状に形成されてしまうことを防止できる。
【0039】
また、前記除去処理後において、マスクブランクス上の転写パターンが形成される領域にあるレジスト膜を、均一な膜厚とすることができる。この結果、該領域において、膜厚の最も厚い位置におけるレジスト膜の膜厚と、膜厚の最も薄い位置におけるレジスト膜の膜厚との差異(面内膜厚均一性)を50オングストローム以下とすることができる。
【0040】
なお、以下、マスクブランクス上の転写パターンが形成される領域のことを有効領域と呼称する。
【0041】
本発明においては、静止させた基板に減圧乾燥処理を行うことができる。このように減圧乾燥処理をすることで本発明の作用が促進される。
【0042】
本発明においては、減圧乾燥処理の前に、回転乾燥処理を行うことが好適である。
【0043】
減圧乾燥処理に先立って行われる回転乾燥処理における基板の回転数は、レジスト液の膜を成膜する回転塗布における基板の回転数よりも低い回転数とすることができる。このように、予め回転乾燥をしておくことで、減圧乾燥に供されるマスクブランクス上のレジスト膜の膜厚を均一なものとすることができる。さらに、方形、例えば、四角形状、正方形や矩形の基板に対しても、膜厚が均一なレジスト膜を形成することができる。
【0044】
本発明においては、減圧乾燥に供するマスクブランクス上のレジスト膜の膜厚は、前記有効領域において、膜厚の最も厚い位置におけるレジスト膜の膜厚と、膜厚の最も薄い位置におけるレジスト膜の膜厚との差異(面内膜厚均一性)を50オングストローム以下としておくことが特に好ましい。
【0045】
本発明においては、周縁部のレジスト膜が除去された後に、マスクブランクスを熱処理し、レジスト膜を乾燥することにより、乾燥を確実なものとすることが好ましい。
【0046】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。
【0047】
図1は、マスクブランクスの製造工程を示すフローチャートである。
図1に示すように、マスクブランクスの製造工程は、マスクブランクス用基板の表面に、転写パターンとなる薄膜を形成する薄膜形成工程(P−1)と、薄膜が形成された基板1の表面に、回転塗布によりレジスト膜を形成する回転塗布工程(P−2)と、不要膜除去工程におけるレジスト膜の膜厚変動を抑制するための減圧乾燥工程(P−3)と、基板の周縁部に形成された不要なレジスト膜を除去する不要膜除去工程(P−4)と、レジスト膜を加熱・冷却して乾燥させる加熱・冷却工程(P−5)とを有する。
【0048】
本発明は、主に、減圧乾燥工程(P−3)と不要膜除去工程(P−4)に特徴がある。また、回転塗布工程(P−2)を所定の処理条件で行うことにより、レジスト膜の膜厚ばらつきをさらに抑制することができる。以下、各工程(P−1〜P−5)について説明する。
【0049】
[薄膜形成工程(P−1)]
転写パターンとなる薄膜は、スパッタリング法、真空蒸着法、CVD法などで成膜される。転写パターンとなる薄膜の材料は、マクブランクスの種類に応じて適宜選定される。
【0050】
マスクブランクスは、透過型マスクブランクスと反射型マスクブランクスとに分類することができる。
【0051】
透過型マスクブランクスでは、基板としてガラス基板などの透光性基板が使用される。また、転写パターンとなる薄膜は、被転写体に転写する際の露光光に対して光学的変化をもたらす薄膜が使用される。ここで、露光光に対して光学的変化をもたらす薄膜とは、露光光を遮断する遮光膜や、露光光の位相差を変化させる位相シフト膜などを指す。
【0052】
したがって、本発明でいうマスクブランクスは、遮光機能を有する薄膜として遮光膜が形成された通常のフォトマスクブランクスだけでなく、遮光機能を有する薄膜としてハーフトーン膜が形成された位相シフトマスクブランクス(ハーフトーン型位相シフトマスクブランクス)、位相シフト膜が形成された位相シフトマスクブランクスなどを含む。
【0053】
一方、反射型マスクブランクスは、基板として低膨張基板を使用し、その基板上に、光反射多層膜と、転写パターンとなる光吸収体膜とを有する。
【0054】
また、マスクブランクスには、上述の薄膜以外に、レジスト下地反射防止膜(BARC:Bottom Anti−Reflective Coating)、レジスト上層反射防止膜(TARL:ToP Anti−Reflective Layer)、レジスト上層保護膜、導電性膜などの膜が形成されても良い。
【0055】
[回転塗布工程(P−2)]
回転塗布工程では、後述する回転塗布装置を使用し、薄膜付き基板の表面にレジスト膜を均一に塗布する。マスクブランス用の基板は、通常、四角形などの正方形であるため、回転塗布工程は、少なくとも以下の二処理を含む。
【0056】
すなわち、基板上にレジスト液を滴下し、基板を所定の回転数(主回転数)で所定の時間(主回転時間)回転させ、レジスト液の膜厚を主に均一化させる均一化処理と、均一化処理の後、基板を所定の回転数(乾燥回転数)で所定の時間(乾燥回転時間)回転させ、均一化されたレジスト液の膜を主に乾燥させる予備乾燥処理とが含まれる。
【0057】
これらの主回転数、主回転時間、乾燥回転数及び乾燥回転時間は、レジスト液を均一に塗布できるように、レジストの種類に応じて適宜設定される。
【0058】
具体的には、回転塗布されたレジスト膜の面内膜厚均一性が50Å以下となるように、以下の条件範囲内で設定される。
主回転数R1:750〜1800rpm
主回転時間T1:1〜30sec
乾燥回転数R2:50〜1500rpm
乾燥回転時間T2:10sec以上
【0059】
図2は、回転塗布装置の基本構造を示す概略図である。
この図に示すように、回転塗布装置10は、薄膜が形成された基板1を固定するためのチャック11と、レジスト液を滴下するためのノズル12と、チャック11を回転させるためのモータ13と、滴下されたレジスト液が回転によって周辺に飛散することを防ぐためのカップ14と、カップ14の上方から基板1に向けて気流を発生させるために、カップ14の下方で排気を行う排気機構15とを備えている。
【0060】
回転塗布装置10において、薄膜付きの基板1にレジスト液を塗布する場合には、まず、チャック11上に基板1を載置して固定する。つぎに、ノズル12からレジスト液を滴下した後、基板1を、予め設定しておいた主回転数R1で主回転時間T1回転させ、滴下されたレジスト液を基板1上に均一に広げる。
【0061】
主回転時間T1が経過した後、回転数を乾燥回転数R2としてレジスト液を乾燥させ、乾燥回転時間T2が経過した時点でこの処理を終了する。この予備乾燥処理では、基板1上に塗布されたレジスト膜は完全に乾燥されず、基板1の周縁部に形成されたレジスト膜が流動性を持たない程度に乾燥される。これにより、パターン形成領域のレジスト膜が安定状態となる。
【0062】
なお、レジスト液が滴下され、基板1が回転し始めてから回転が停止するまで、カップ14の下方で排気機構15により排気を行い、カップ14の上方から基板1に対して気流が当たるようにしている。気流の風速は、排気機構15の排気条件によって決まるが、レジスト膜の均一化のために、風速1m/sec以上とすることが好ましい。
【0063】
[減圧乾燥工程(P−3)]
図3は、減圧乾燥装置の基本構造を示す概略図である。
この図に示すように、減圧乾燥装置20は、内部の基板収容空間を減圧雰囲気に保持可能なチャンバー21と、このチャンバー21内に設けられ、基板1を載置保持するための基板保持手段22と、チャンバー21の下部で排気を行い、基板収容空間を減圧状態に保持する排気機構23とを備えている。
【0064】
回転塗布工程において、基板1に塗布されたレジスト膜を減圧乾燥装置20で減圧乾燥する場合は、その基板1を基板保持手段22にセットし、所定の処理条件でチャンバー21内の減圧を行う。この減圧乾燥工程は、基板1上に塗布されたレジスト膜を完全に乾燥させるものではなく、つぎの不要膜除去工程において、パターン形成領域のレジスト膜が、温度分布及び遠心力によって流動することを抑制できる程度までレジスト膜を乾燥させるものである。
【0065】
なお、減圧乾燥装置20に、基板1を加熱させる加熱手段を設け、基板1を加熱しながら減圧乾燥を行っても良い。
【0066】
減圧乾燥工程においては、基板収容空間の真空度を段階的に変化させることが好ましい。例えば、真空度を段階的に高くして、ある一定の真空度に保った後、逆に真空度を段階的に低くして、大気圧に戻すようにすることが好ましい。このようにすれば、急激な圧力変化を回避しながら、レジスト膜に含まれる溶剤を均一に蒸発させることにより、レジスト膜の面内膜厚均一性の悪化を抑制することが可能になる。
【0067】
また、レジスト膜の周縁部分がある程度乾燥し、パターン形成領域のレジスト膜が安定した状態で減圧乾燥するようにすれば、パターン形成領域の面内膜厚均一性をさらに向上させることができる。
【0068】
[不要膜除去工程(P−4)]
図4は、不要膜除去装置の基本構造を示す概略図である。
この図に示すように、不要膜除去装置30は、基板1を保持し、これを回転させる回転台31と、回転台31に保持された基板1を上方から覆い、回転台31と同期して回転するカバー部材32と、カバー部材32上に溶媒を供給するノズル33とを備えている。
【0069】
不要膜除去工程では、レジスト膜が形成された基板1をカバー部材32で覆い、このカバー部材32の上方から溶媒を供給し、基板1及びカバー部材32を一体的に回転させながら、溶媒を基板1の周縁部に供給する。このようにして、レジスト膜の不要部分を溶解除去する。
【0070】
カバー部材32は、基板1を上方から覆うもので、その上面は全体として平坦であるが、周縁部には円環状の溝部32aが形成されている。ノズル33から供給される溶媒は、カバー部材32の上面中央部32bから傾斜部32cを経て溝部32aに到達し、ここに溜められる。
【0071】
溝部32aの底面部には、貫通孔である溶媒供給孔32dが多数形成されている。この溶媒供給孔32dを介して、基板1の周縁部に溶媒が供給される。
【0072】
溶媒供給孔32dのうち、適宜の数ヵ所には、溶媒に耐性のある糸32eが通される。この糸32eは、カバー部材32の天井面周縁部(不要膜対向部)と基板1の表面(周縁部)との間に介在し、これらの間隔d1を設定するようになっている。この糸32eは、溶媒供給孔32dを通った後、カバー部材32の天井面周縁部と基板1の表面との間を通るとともに、カバー部材32の内側面と基板1の側面との間を通り、さらにカバー部材32の外周部を通ってループ状に形成されている。
【0073】
糸32eの太さは、カバー部材32の天井面周縁部と基板1の表面との間隙d1を決めて、この間隙に溶媒を供給したとき、溶媒の広がる範囲がメニスカス作用によって規定されるように設定してある。例えば、間隙d1を0.05〜3mmとする。
【0074】
また、カバー部材32の天井面のうち、周縁部を除く部分は、基板1のパターン形成領域と対向しており、この領域においては、カバー部材32の天井面と基板1の表面との間の間隙d2が天井面周縁部と基板1の表面との間隙d1よりも大きく設定されている。つまり、間隙d2は、カバー部材32の温度分布が基板1のレジスト膜に熱伝達されることを避け、かつ、この間隙で気体の対流が生じて、基板1のレジスト膜に温度分布が発生することを避けることができる値とすることが好ましい。例えば、間隙d2を0.05〜20mmの範囲で設定する。
【0075】
カバー部材32によって覆われた基板1は、回転台31とともに回転されながら処理される。図面では省略しているが、回転台31は、回転軸31aに取り付けられ、水平方向に放射状に延びる4本の支持腕と、各支持腕の先端部に設けられた一対の保持台座とを有し、保持台座上に基板1の四隅を配置して保持するものである。また、回転軸31aは、図示しない回転駆動装置に結合され、所定の回転数で回転されるようになっている。
【0076】
なお、基板1の下方にも、溶媒供給用の下部ノズル(図示せず)が設けられており、この下部ノズルから溶媒を供給することによって、不要膜の除去を確実にしている。
【0077】
上述の不要膜除去装置30を用い、以下のようにして基板1の周縁部に形成された不要なレジスト膜を除去する。
【0078】
まず、基板1を回転台31にセットしてカバー部材32を被せ、供給量を調整しながら、ノズル33から溶媒を供給する。同時に、回転台31を回転数100〜1000rpmで1〜60秒間回転させる。これにより、溶媒を、溶媒供給孔32dを通じて不要膜部分に浸透させ、これを溶解除去する。さらに、処理が終わりに近くなった時点で、下部ノズルから溶媒を噴出させて、溶解除去を確実なものにする。
【0079】
[加熱・冷却工程(P−5)]
不要膜除去工程を終えたら、以下の熱処理装置に基板1を搬送して、加熱・冷却処理を行い、レジスト膜を完全乾燥させ、周縁部の不要なレジスト膜が除去されたマスクブランクスを得る。
【0080】
熱処理装置は、隣接して配置される複数の加熱プレートと、冷却プレートと、基板1を搬送する搬送手段とを備えている。加熱・冷却処理は、基板1を開閉自在な一対の搬送手段により把持し、複数の加熱プレートに順次搬送して、各加熱プレート上で加熱処理をした後、冷却プレートに搬送して、前工程で加熱された基板1を冷却することにより行われる。
【0081】
加熱プレートの加熱温度及び加熱時間、冷却プレートの冷却温度及び冷却時間は、レジスト種類に応じて適宜調整される。
【実施例1】
【0082】
基板サイズが、152.4mm×152.4mm×6.25mmの合成石英ガラス基板上に、スパッタリング法によりクロム膜と酸化クロム膜を順次積層し、遮光膜と反射防止膜が形成されたフォトマスクブランクスを得た。
【0083】
その後、上述の回転塗布装置10を用いて、ポジ型化学増幅型電子線描画用レジストであるFEP171(富士フィルムアーチ社製)を、以下の塗布条件で回転塗布し、平均膜厚が4000Åのレジスト膜を形成した。
FEP171(濃度6.2%)
主回転数:1500rpm
主回転時間:2sec
乾燥回転数:300rpm
乾燥回転時間:120sec
基板に当たる気流の風速:1m/sec
【0084】
その結果、レジスト膜の面内膜厚均一性は40Åであった。面内膜厚均一性は、基板中央の有効領域132mm×132mm内の全体に均等に配置した11×11=121点で、分光反射型膜厚計(ナノメトリックスジャパン社製:AFT6100M)を用いて膜厚測定し、面内膜厚分布(各測定点における膜厚データ)を求めた。この面内膜厚分布データから、(膜厚の最大値)−(膜厚の最小値)=(面内膜厚均一性)と定義した。
また、風速は、風速計によって測定した。
【0085】
つぎに、上述の減圧乾燥装置20にレジスト膜付きの基板をセットし、以下の減圧乾燥条件で、減圧乾燥処理を行った。
第1段階:真空度:10kPa、時間:1〜10sec
第2段階:真空度:1kPa、時間:10〜20sec
第3段階:真空度:20kPa、時間:1〜10sec
【0086】
つぎに、上述の不要膜除去装置30に搬送し、基板の周縁部に形成された不要なレジスト膜を除去した。除去幅は、基板の側面より1.5mmとした。なお、使用した溶媒は、FEP171が溶解される溶剤であれば何でも良いが、本実施例ではFEP171の溶媒(シンナー)であるペグミア(PGMEA:プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート)と、ペグメ(PGME:プロピレングリコールモノメチルエーテル)の混合液を使用した。
【0087】
つぎに、上述の熱処理装置に搬送し、レジスト膜を加熱・冷却して、周縁部の不要なレジスト膜が除去されたマスクブランクスを得た。
【0088】
得られたマスクブランクスの面内膜厚均一性を測定したところ、50Åとなり、レジスト塗布後の面内膜厚均一性と殆ど変化なく良好であった。
【0089】
[比較例1]
上述の実施例1において、減圧乾燥処理を行わずにマスクブランクスを作製した。他の条件は実施例1と同様とした。
【0090】
加熱・冷却処理を終えて得られたマスクブランクスにおいて、レジスト膜の面内膜厚均一性を測定したところ、110Åとなり、レジスト塗布後の面内膜厚均一性よりも70Åだけ悪化した。
【実施例2】
【0091】
上述の実施例1において、レジストをZEP7000(日本ゼオン社製)としたマスクブランクスを作製した。なお、不要膜除去工程における溶媒(シンナー)は、ジグライム(Diglyme:ジエチレングリコールジメチルエーテル)を使用した。
【0092】
回転塗布条件は、
主回転数:1500rpm
主回転時間:10sec
乾燥回転数:200rpm
乾燥回転時間:120sec
基板に当たる気流の風速:1m/sec
とした。
【0093】
その結果、レジスト膜の面内膜厚均一性は20Åであり、不要膜除去し、加熱・冷却処理を終えて得られたマスクブランクスにおけるレジスト膜の面内膜厚均一性は、30Åと極めて良好であった。
【0094】
[比較例2]
上述の実施例2において、減圧乾燥処理を行わずにマスクブランクスを作製した。他の条件は実施例2と同様とした。
【0095】
その結果、加熱・冷却処理を終えて得られたマスクブランクスにおいて、レジスト膜の面内膜厚均一性を測定したところ、150Åとなり、レジスト塗布後の面内膜厚均一性よりも120Åだけ悪化した。
【0096】
実施例1と比較例1、実施例2と比較例2における面内膜厚均一性の悪化度の違いは、レジスト種の違い(粘度等)によるものと考えられる。
【0097】
上述の結果から、実施例1,2では、不要膜除去工程でのレジスト膜の面内膜厚均一性の悪化を抑制でき、レジスト膜の面内膜厚均一性が50Å以下のマスクブランクスを得られた。一方、比較例1,2では、不要膜除去工程でのレジスト膜の面内膜厚均一性が悪化し、レジスト膜の面内膜厚均一性が100Åを超えた。
【産業上の利用可能性】
【0098】
本発明によれば、基板上に回転塗布によりレジスト液の膜を形成した後、基板の表面をカバー部材で覆い、このカバー部材の上方から溶媒を供給し、基板及びカバー部材を一体的に回転させながら、溶媒を基板の周縁部に供給して、レジスト膜の不要部分を溶解除去する。この際、不要膜除去処理における温度分布及び遠心力の影響でレジスト膜の膜厚が局所的に変動することを抑制し、レジスト膜の面内膜厚均一性の悪化を抑制することができる。
【符号の説明】
【0099】
1 基板
10 回転塗布装置
11 チャック
12 ノズル
13 モータ
14 カップ
15 排気機構
20 減圧乾燥装置
21 チャンバー
22 基板保持手段
23 排気機構
30 不要膜除去装置
31 回転台
32 カバー部材
32d 溶媒供給孔
33 ノズル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
転写パターンとなる薄膜が形成された薄膜付き基板上にレジスト膜が形成されたマスクブランクスであって、
前記レジスト膜は、前記基板の周縁部におけるレジスト膜の不要部分が除去されており、
前記レジスト膜は、転写パターンが形成される領域において、膜厚の最も厚い位置におけるレジスト膜の膜厚と、膜厚の最も薄い位置におけるレジスト膜の膜厚との差異が50オングストローム以下であることを特徴とするマスクブランクス。
【請求項2】
前記レジスト膜は、前記基板の表面をカバー部材で覆い、このカバー部材の上方から溶媒を供給し、前記基板及び前記カバー部材を一体的に回転させながら、前記溶媒を前記基板の周縁部に供給することによって、前記レジスト膜の不要部分が除去されることを特徴とする請求項1に記載のマスクブランクス。
【請求項3】
前記レジスト膜は、転写パターンが形成される領域において、マスクブランクスの中央部分のレジスト膜が、周縁近傍のレジスト膜に比べて凹状に形成されないようにすることを特徴とする請求項1又は2に記載のマスクブランクス。
【請求項4】
前記マスクブランクスは、ArFエキシマレーザー露光型マスク、F2エキシマレーザー露光型マスク又はEUV露光型マスクの転写用マスク用マスクブランクスであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のマスクブランクス。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載のマスクブランクスを用いて作製された転写用マスク。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−198032(P2010−198032A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−94663(P2010−94663)
【出願日】平成22年4月16日(2010.4.16)
【分割の表示】特願2005−504200(P2005−504200)の分割
【原出願日】平成16年3月26日(2004.3.26)
【出願人】(000113263)HOYA株式会社 (3,820)
【Fターム(参考)】