説明

マスクブランク用基板、マスクブランク及び転写用マスクの製造方法

【課題】マスクブランク用基板に表面欠陥が発生した場合でも、簡便にかつ基板の平坦度及び表面粗さに悪影響を及ぼすことなくマスクブランク用基板の表面欠陥を修正することのできる、低コストかつ高い歩留まりのマスクブランク用基板の製造方法、並びにマスクブランク及び転写用マスクの製造方法を提供する。
【解決手段】対向する2つの主表面を有する基板からなるマスクブランク用基板の製造方法であって、前記基板の2つの主表面を研磨する工程と、前記基板の主表面に存在する表面欠陥に対して、前記基板の軟化点以上の燃焼温度の火炎を接触させて前記表面欠陥を修正する工程とを有することを特徴とするマスクブランク用基板の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マスクブランク用基板の製造方法、並びにそのマスクブランク用基板を用いるマスクブランク及び転写用マスクの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、半導体装置の製造工程では、フォトリソグラフィー法を用いて微細パターンの形成が行われている。また、この微細パターンの形成には通常何枚もの転写用マスクと呼ばれている基板が使用される。この転写用マスクは、一般に透光性のマスクブランク用基板上に、金属薄膜等からなる微細パターンを設けたものである。転写用マスクの金属薄膜等に微細パターンを設ける際には、フォトリソグラフィー法が用いられている。転写用マスクは、通常、透明なマスクブランク用基板上に遮光膜が形成されたマスクブランクから作られる。微細パターンを有する転写用マスクを得るために、マスクブランク用基板には、高平坦度及び高平行度が要求されている。また、マスクブランク用基板上に欠陥(傷や異物等)があると、それを用いて製造される転写用マスクにも欠陥が存在することになり、微細パターンの形成の際に欠陥を引き起こしてしまう。したがって、マスクブランク用基板には、欠陥がないことが要求されている。
【0003】
従来のマスクブランク用基板の製造方法として、例えば、特許文献1には、研磨布を貼り付けた定盤と、マスクブランク用基板とを、一定荷重をかけた状態で相対的に移動させ、その際研磨液を研磨布とマスクブランク用基板との接触面間に供給してマスクブランク用基板の研磨を行う工程を有するマスクブランク用基板の製造方法であって、定盤の研磨布貼り付け面に所定の形状の溝を有する、マスクブランク用基板の製造方法が開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、電子デバイス用基板であって、該基板主表面の平坦度が0μmを超え0.25μm以下であることを特徴とする電子デバイス用基板が開示されている。また、特許文献2には、所定の平坦度の電子デバイス用基板を製造するための装置として、所定の研磨定盤、研磨パッド、研磨剤供給手段及び基板加圧手段を有する研磨装置が開示されている。
【0005】
また、特許文献3には、石英ガラス加工品の寸法修正方法が開示されている。具体的には、特許文献3には、寸法修正すべき石英ガラス加工品を石英ガラス溶接棒に対して所定距離だけ離間して配置し、バーナーの可燃ガス火炎を該石英ガラス溶接棒の端部に放射して該石英ガラス溶接棒を加熱し石英を昇華してガス状石英とし、このガス状石英をバーナーの可燃ガス火炎の放射方向に飛ばすことによって該石英ガラス加工品の寸法修正すべき部位にガス状石英を付着堆積せしめた後、該付着堆積した不透明な石英堆積層を加熱して溶着した透明な石英ガラス層とし当該石英ガラス加工品の寸法修正を行うようにしたことを特徴とする石英ガラス加工品の寸法修正方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−54944号公報
【特許文献2】特開2004−29735号公報
【特許文献3】特開2002−326828号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
マスクブランク用基板は、高い平坦性、高い平滑性、さらに傷等の欠陥のないものに仕上げるため、通常、ラッピング(研削)工程、研磨(ポリッシング)工程が複数段階に分けて行われる。ラッピング工程は、主表面の加工歪み層を均一化し、所定の板厚寸法に整え、平坦度を良化させる目的で行われる。また、研磨工程は、ラッピング工程によって得られた平坦度を維持・向上させつつ、基板主表面の平滑性をさらに向上させる目的、及び基板主表面に付着しているパーティクルを除去することを目的として行われる。研磨工程においては、段階的に研磨砥粒の粒径を小さくしながら複数段階にわたって研磨加工が行われる。例えば、平均粒径が0.3〜3μmの酸化セリウムの研磨砥粒による研磨を行った後、平均粒径が300nm以下のコロイダルシリカによる研磨砥粒による精密研磨が行われる。その後、検査工程において、マスクブランク用基板の表面欠陥の有無等を検査する。
【0008】
近年、半導体装置のさらなる微細化の要求のため、マスクブランク用基板の平行度、平坦度、表面粗さ及び表面欠陥に対する要求も高まっている。特に、表面欠陥に関しては、そのマスクブランク用基板を用いて製造されるマスクブランクのグレードによって、許容される欠陥サイズが定められ、その定められたサイズ以上の表面欠陥の存在は許容されない。最先端の半導体デバイスを製造するために使用されるマスクブランク用基板の場合、許容されうる表面欠陥のサイズは非常に厳しい。
【0009】
一方、液晶表示装置(薄膜トランジスタ:TFT等)やカラーフィルタ(CF)製造用マスク等に用いられる大型のマスクブランク用基板(330mm×450mm以上)の場合、半導体デバイス用のマスクブランクに比べ、主表面が大面積であることもあり、主表面の平行度、平坦度、表面粗さの精度の要求は比較的緩い。また、許容されうる表面欠陥のサイズについても比較的緩い。しかし、近年ではTFTパターンの微細化が進んできており、大型のマスクブランクにおいても、平行度、平坦度、表面粗さ及び表面の無欠陥性に対する要求が高まっている。表面欠陥は、異物が研磨装置の定盤上の研磨布と基板主表面との間に入り込むことによって発生する場合が非常に多い。しかし、外部からの異物の侵入を抑制する対策を施しても、研磨砥粒が固化してできる異物も表面欠陥の発生要因となってしまうため、研磨工程時に表面欠陥が発生することを皆無にすることは困難である。大面積のマスクブランク用基板の場合、表面欠陥が存在する場合の廃棄による製造コストへの増加の影響は、小面積のマスクブランク用基板の場合より大きい。
【0010】
研磨工程で研磨されたマスクブランク用基板に対しては、検査工程において、表面欠陥等の欠陥検査が行われる。この検査工程において基板主表面に許容値以上のサイズの表面欠陥が発見されたマスクブランク用基板は、通常、不合格品として、研磨工程まで戻され、再度、主表面が研磨されることになる。表面欠陥は、凸状欠陥と凹状欠陥に大きく分けられる。凹状欠陥を取り除く研磨の場合、平行度や平坦度を維持するには、主表面を局所的にではなく全体的に取り除いていかなければならないため、必要な研磨取り代が多くなる。また、何度も精密研磨の段階に戻されたマスクブランク用基板であって、規定値の基板の厚さよりも薄くなってしまった場合には、マスクブランク用基板としての使用が不可となり、廃棄される。
【0011】
特許文献3には、寸法修正すべき部位にガス状石英を付着堆積させる技術を用いる石英ガラス加工品の寸法修正方法が記載されている。しかしながら、ガス状の石英を付着堆積させる技術を、マスクブランク用基板の凹状欠陥部分に適用すると、凹状欠陥の周囲にも石英が堆積し、平坦度及び表面粗さに悪影響を及ぼすことは避けられない。凹状欠陥のサイズは、μmオーダーのものが多く非常に小さいためである。そのため、余分に堆積した石英を除去するための研磨工程が必要になってしまう。凹状欠陥は、研磨工程において、研磨砥粒が固化したもの等の異物が、加工圧力が掛かった状態で回転運動行っている定盤上の研磨布と基板の主表面との間に侵入してしまい、主表面を傷つけることで生じる場合が多い。余分に堆積した石英を除去する研磨工程を行うことによって、マスクブランク用基板に新たな表面欠陥の発生リスクが生じるという問題がある。さらに、凹状欠陥は、その幅が非常に小さく、底部にまでガス状石英を堆積させることは非常に難しい。したがって、マスクブランク用基板の表面欠陥を修正するために、特許文献3に開示された発明を用いることは困難である。
【0012】
そこで、本発明は、マスクブランク用基板に表面欠陥が発生した場合でも、簡便にかつ基板の平坦度及び表面粗さに悪影響を及ぼすことなくマスクブランク用基板の表面欠陥を修正することのできる、低コストかつ高い歩留まりのマスクブランク用基板の製造方法、並びにマスクブランク及び転写用マスクの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、マスクブランク用基板の表面欠陥を修正するための様々な方法を検討した。その結果、基板の軟化点以上の燃焼温度の火炎を接触させることにより、マスクブランク用基板の表面欠陥を修正することができることを見出し、本発明を完成したものである。すなわち、上記課題を解決するため、本発明は以下の構成を有する。
【0014】
本発明は、下記の構成1〜4であるマスクブランク用基板の製造方法、下記の構成5であるマスクブランクの製造方法、及び下記の構成6である転写用マスクの製造方法である。
【0015】
(構成1)
対向する2つの主表面を有する基板からなるマスクブランク用基板の製造方法であって、前記基板の2つの主表面を研磨する工程と、前記基板の主表面に存在する表面欠陥に対して、前記基板の軟化点以上の燃焼温度の火炎を接触させて前記表面欠陥を修正する工程とを有することを特徴とするマスクブランク用基板の製造方法である。
【0016】
(構成2)
前記表面欠陥が、凹状欠陥であることを特徴とする、構成1に記載のマスクブランク用基板の製造方法である。
【0017】
(構成3)
前記基板が、合成石英ガラスからなることを特徴とする、構成1又は2に記載のマスクブランク用基板の製造方法である。
【0018】
(構成4)
前記火炎が、1600℃以上の燃焼温度であることを特徴とする、構成3に記載のマスクブランク用基板の製造方法である。
【0019】
(構成5)
構成1〜4のいずれか1項記載のマスクブランク用基板の製造方法で製造されたマスクブランク用基板の主表面上にパターン形成用の薄膜を成膜する工程を有することを特徴とする、マスクブランクの製造方法である。
【0020】
(構成6)
構成5に記載のマスクブランクの製造方法で製造されたマスクブランクの薄膜に転写パターンを形成する工程を有することを特徴とする、転写用マスクの製造方法である。
【0021】
次に、本発明の転写用マスクの製造方法の構成1〜4について説明する。
【0022】
本発明は、構成1にあるように、対向する2つの主表面を有する基板からなるマスクブランク用基板の製造方法であって、前記基板の2つの主表面を研磨する工程(研磨工程)と、前記基板の主表面に存在する表面欠陥に対して、前記基板の軟化点以上の燃焼温度の火炎を接触させて前記表面欠陥を修正する工程(表面欠陥修正工程)とを有することを特徴とするマスクブランク用基板の製造方法である。
【0023】
構成1にあるように、本発明のマスクブランク用基板の製造方法では、基板の主表面に存在する表面欠陥に対して、基板の軟化点以上の燃焼温度の火炎を接触させて表面欠陥を修正する。「基板の軟化点」とは、基板を構成する基板材料の軟化点のことであり、その基板材料の粘性率(粘度)をη(poise)とした場合、log η=7.6を満たす粘性率になるときの温度をいう。なお、粘性率(粘度)の測定は貫入法を用いて行うことができる。また、必要に応じて、ビーム曲げ法又は球引き上げ法等の測定法を用いて粘度測定を行うことができる。また、基板の「主表面」とは、図3に例示するように、基板周縁部(端面72及び面取面73)を除く表面のことをいう。すなわち、基板の「主表面」とは、図3において、対向する2つの「主表面71」として示される表面をいう。
【0024】
本発明者は、マスクブランク用基板の表面欠陥が存在する部分(表面欠陥部分)に、局所的に基板の軟化点以上の燃焼温度の火炎を接触させると、表面欠陥部分の基板材料が軟化し、表面欠陥部分を修正する方向に基板材料を流動させることができ、その結果、表面欠陥を修正することができることを見出したのである。なお、本明細書において、この表面欠陥の修正方法を、「火炎欠陥修正」という。本発明の製造方法では、表面欠陥部分に合成石英ガラスのような基板材料を付着させる必要はなく、マスクブランク用基板に対して局所的に所定の燃焼温度以上の火炎を接触させることによって、表面欠陥の周囲の基板材料をわずかに流動させることにより平坦化することができる。例えば、表面欠陥として凹状欠陥が存在する場合は、基板材料が表面欠陥部分を埋めるように流動させることにより平坦化することができる。また、表面欠陥として凸状欠陥が存在する場合は、基板材料が表面欠陥部分から広がるように流動させることにより平坦化することができる。
【0025】
火炎欠陥修正を用いることにより、表面欠陥部分の修正によって影響を受ける主表面の領域を最小限にとどめることができる。また、火炎欠陥修正の影響を受ける部分においても平坦度変化や表面粗さの変化もわずかである。そのため、火炎欠陥修正後の平坦度の修正のための研磨工程の繰り返し回数を減らすことができる。すなわち、本発明の製造方法によると、簡便にかつ基板の平坦度及び表面粗さに悪影響を及ぼすことなくマスクブランク用基板の表面欠陥を修正することができる。特に、平坦度や表面粗さの制限の比較的緩いFPD製造用途のマスクブランク用基板の場合には、表面欠陥の火炎欠陥修正後に研磨工程を行わなくても所定の仕様を満足することができる場合がある。また、半導体デバイス製造用途のマスクブランク用基板の場合においても、火炎欠陥修正を行った箇所に対し、凹状欠陥が生じにくい非接触研磨を局所的に行うことで、所定の仕様を満足することができる場合もある。適用可能な非接触研磨としては、例えば、特開2004−291209号公報に記載のフロートポリッシング、EEM、ハイドロプレーンポリッシング等が挙げられる。
【0026】
(構成2)
また、構成2にあるように、本発明のマスクブランク用基板の製造方法において、前記表面欠陥が、凹状欠陥であることを特徴とすることが好ましい。
【0027】
構成2にあるように、本発明のマスクブランク用基板の製造方法は、凹状欠陥に対して行われると好適である。従来の凹状欠陥を修正する方法では、主表面全体の再研磨を行うときの研磨取り代を大きくとる必要があるのに対し、本発明における凹状欠陥を修正する方法の場合、研磨取り代が不要であるか、非常に小さくて済むためである。
【0028】
また、構成3にあるように、本発明のマスクブランク用基板の製造方法において、前記基板が、合成石英ガラスからなることを特徴とすることが好ましい。
【0029】
構成3にあるように、基板の材料として合成石英ガラスを用いることが好ましい。合成石英ガラスは化学的に安定で、他の工業材料と比較して熱膨張係数が極めて小さいなどの特徴を有する。また、合成石英ガラスは、FPD製造用途の転写用マスクで使用される超高圧水銀灯の露光光に対する光透過性も高い。さらには、合成石英ガラスは、半導体デバイス製造用途の転写用マスクで使用されるKrFエキシマレーザ(波長:約248nm)やArFエキシマレーザ(波長:約193nm)の露光光に対する光透過性も高い。これらのことからもわかるように、マスクブランク用基板の材料として、合成石英ガラスを好適に用いることができる。
【0030】
また、構成4にあるように、本発明のマスクブランク用基板の製造方法において、前記火炎が、1600℃以上の燃焼温度であることを特徴とすることが好ましい。
【0031】
構成4にあるように、火炎は、1600℃以上の燃焼温度であることが好ましい。合成石英ガラスの軟化点は、その種類によるものの一般的に1600℃以上であるので、1600℃以上の燃焼温度の火炎を用いることにより、表面欠陥の周囲の合成石英ガラスをわずかに流動させ、表面欠陥を平坦化することができる。なお、合成石英ガラスの流動を確実にするためには、火炎は、1700℃以上の燃焼温度であることがより好ましく、1800℃以上の燃焼温度であることさらに好ましい。また、火炎の燃焼温度の上限は、合成石英ガラスに対して悪影響を及ぼさない程度の温度であることが好ましく、例えば、2800℃以下、好ましくは2500℃以下、より好ましくは2300℃以下である。
【0032】
次に、本発明のマスクブランクの製造方法の構成5について説明する。
【0033】
本発明は、構成5にあるように、上記構成1〜4いずれか1つのマスクブランク用基板の製造方法で製造されたマスクブランク用基板の主表面上にパターン形成用の薄膜を成膜する工程を有することを特徴とする、マスクブランクの製造方法である。
【0034】
構成5にあるように、上記構成1〜4のいずれか1つのマスクブランク用基板の製造方法では、火炎欠陥修正によって表面欠陥を容易に修正することにより、低コストかつ高い歩留まりのマスクブランク用基板を得ることができる。そのため、構成1〜3のいずれか1つのマスクブランク用基板にパターン形成用の薄膜を成膜したマスクブランクも、低コストかつ高い歩留まりとすることができる。なお、マスクブランク用基板へのパターン形成用薄膜の成膜は、公知の方法を用いて行うことができる。
【0035】
次に、本発明の転写用マスクの製造方法の構成6について説明する。
【0036】
本発明は、構成6にあるように、上記構成5のマスクブランクの製造方法で製造されたマスクブランクの薄膜に転写パターンを形成する工程を有することを特徴とする、転写用マスクの製造方法である。
【0037】
構成6にあるように、本発明による構成5のマスクブランクの製造方法は、低コストかつ高い歩留まりとすることができる。そのため、構成5のマスクブランクの薄膜に転写パターンを形成した転写用マスクも、低コストかつ高い歩留まりとすることができる。なお、マスクブランクの薄膜への転写パターンの形成は、公知の方法を用いて行うことができる。
【発明の効果】
【0038】
本発明によれば、マスクブランク用基板に表面欠陥が発生した場合でも、簡便にかつ基板の平坦度及び表面粗さに悪影響を及ぼすことなくマスクブランク用基板の表面欠陥を修正することのできる、低コストかつ高い歩留まりのマスクブランク用基板の製造方法並びにマスクブランク及び転写用マスクの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】マスクブランクを火炎欠陥修正している様子の一例を示す断面模式図である。
【図2】本発明のマスクブランク用基板の製造方法の工程を示す図である。
【図3】本発明の製造方法に用いることのできるマスクブランク用基板を示す模式図である。
【図4】火炎欠陥修正をしている場所を光学顕微鏡観察しながら火炎欠陥修正を行うための火炎欠陥修正装置の一例の概略構成図である。
【図5】マスクブランクを用いて転写用マスクを製造する工程を示す断面模式図である。
【図6】両面研磨装置の一例を示す模式図である。
【図7】片面研磨装置の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
<マスクブランク用基板の製造方法の説明>
以下、本発明のマスクブランク用基板1の製造方法について説明する。以下、合成石英ガラスをマスクブランク用基板1の材料として用いる場合を例に説明するが、本発明はそれに限定されるものではない。
【0041】
本発明のマスクブランク用基板1の製造方法は、図2に示す工程、すなわち、切り出し工程(S101)、ラッピング工程(S102)、研磨工程(S103)、検査工程(S104)及び表面欠陥修正工程(S105)を有することができる。
【0042】
なお、研磨工程(S103)と検査工程(S104)との間などの各工程の間に、次工程に前工程に使用した例えば研磨砥粒等が持ちこまれないように、基板に付着した研磨砥粒等を除去するための洗浄工程を適宜設けることができる。
【0043】
(1)切り出し工程(S101)
まず、合成石英ガラスのインゴットから、シート形状の合成石英ガラス(シートガラス)を切り出す。次に、合成石英ガラスからなるシートガラスから研削砥石で切り出して、長方形状の基板1を得ることができる。なお、長方形状の寸法は用途により異なるが、例えば、大型のマスクブランク用基板1の場合には、330mm×450mm以上、例えば、500mm×800mm、厚さ10mmの形状、800mm×920mm、厚さ10mmの形状、1220mm×1400mm、厚さ13mmの形状、2140mm×2460mm、厚さ15mmの形状などを用いることができる。以下、各工程の加工条件については、800mm×920mmで厚さ10mmの基板形状の場合について記載する。
【0044】
(2)ラッピング工程(S102)
次いで、基板1にラッピング工程を施す。ラッピング工程は、粗ラッピング工程、形状加工工程及び精ラッピング工程の三つの工程を含むことができる。
【0045】
粗ラッピング工程は、寸法精度及び形状精度の向上を目的としている。粗ラッピング工程は、両面ラッピング装置を用いて行い、例えば砥粒の粒度を#400で行うことができる。具体例としては、粒度#400のアルミナ砥粒を用い、荷重Lを100kg程度に設定して、キャリアに収納した基板1の両面を所定の精度に仕上げることができる。
【0046】
次に、形状加工工程により、基板1の形状を加工する。具体的には、外周端面を研削して外形寸法を整えた後、外周端面及び内周面に所定の面取り加工を施すことができる。
【0047】
次に、精ラッピング工程により、基板1の2つの主表面71を所定の精度に仕上げる。具体的には、砥粒の粒度を#1000に変え、基板1の主表面71をラッピングすることにより、基板1の両面を所定の精度に仕上げることができる。砥粒等を次の工程に持ち込まないように、上記精ラッピング工程を終えた基板1を、中性洗剤、水の各洗浄槽に順次浸漬して洗浄することが好ましい。
【0048】
(3)研磨工程(S103)
次に、研磨工程(S103)により、上述のラッピング工程(S102)で得られた基板1の平坦度を維持しつつ、ラッピング工程の際に形成された傷や歪みを除去する。研磨工程は、さらに基板1の主表面71の鏡面化を目的として行われる。通常、研磨工程においては、傷や歪みの除去と、鏡面化とは別々の研磨により行う。したがって、研磨工程では複数回の研磨を行うことが一般的である。
【0049】
研磨工程(S103)は、公知の方法で行うことができる。研磨工程は、例えば、図6に示す大型マスクブランク用両面研磨装置を用いて行うことができる。なお、図6に示す大型マスクブランク用両面研磨装置においては、上下定盤(22、23)の回転軸aと基板20の回転軸bとの距離は、基板20が回転軸bを軸として回転した場合であっても、基板20のいずれの箇所も回転軸aの箇所を通過することのないようにすることが好ましい。なお、この研磨工程については、これに限らず、特開2010−76047号公報に記載の大型マスクブランク用両面研磨装置を用いる研磨工程などを適用してもよい。
【0050】
(4)検査工程(S104)
次に、検査工程(S104)によって、研磨工程(S103)により得られた基板1の平坦度、表面粗さ並びに表面欠陥5の有無及びその位置を検査する。上述の工程(S101〜S103)によって得られた基板1は、高い平坦性及び高い平滑性を有するが、少なくない頻度で表面欠陥5が存在することが知られている。許容される表面欠陥5のサイズは、マスクブランク用基板1から製造されるマスクブランク及び転写用マスクの用途により異なる。表面欠陥5は、光学顕微鏡を用いた表面検査装置により、寸法、形状及び位置を測定することができる。また、このほかにもレーザー散乱光方式の欠陥検査装置やコンフォーカル光学系の欠陥検査装置なども適用可能である。例えば、FPD製造用途のマスクブランク用基板の場合、凹状の表面欠陥5では、幅が1μmよりも大きなサイズのものは許容されないと判定する場合が多い。この検査工程では、基板1を検査した結果、主表面71が所定以上の平坦度及び表面粗さを有し、かつ、検出された表面欠陥5の中で許容されないサイズがないものを良品のマスクブランク用基板1として選定する作業をまず行う。良品のマスクブランク用基板1については、次工程(洗浄後、パターン形成用の薄膜を成膜する工程が行われる)に送られる。
【0051】
次に、主表面71が平坦度及び表面粗さのうち少なくともいずれかが所定値を満たさない基板1は、修正可能な段階の研磨工程まで戻されて再研磨される。一方、平坦度及び表面粗さがともに所定条件を満たしているが、許容されないサイズの表面欠陥5が存在する基板1については、表面欠陥5の種類(凹状欠陥、凸状欠陥)、位置、サイズ、深さ(又は高さ)を特定することが行われた後、表面欠陥修正工程に送られる。
【0052】
(5)表面欠陥修正工程(S105)
許容されないサイズの表面欠陥5が存在する基板1について、その表面欠陥5を表面欠陥修正工程(S105)で行うべきか、研磨工程に戻すべきかをまず判定する。火炎欠陥修正により、表面欠陥5が凹状欠陥の場合、深さが0.5μm程度までは主表面の平坦度を維持しつつ、表面欠陥5を修正することが可能である。しかし、それよりも深い凹状欠陥の場合、平坦度の悪化が避けられない。よって、このような深さの凹状欠陥を有する基板1は、研磨工程に戻されるか、廃棄される。なお、マスクブランク用基板の主表面71に非常に高い平坦度が求められており、かつ、表面欠陥修正工程後に非接触研磨を行わない場合においては、火炎欠陥修正で修正可能な表面欠陥5の深さは0.1μm程度までとすることが望ましい。そして、火炎欠陥修正を行うことが望ましいと判定された基板1に対してのみ、この表面欠陥修正工程が行われる。本発明のマスクブランク用基板1の製造方法では、表面欠陥修正工程において、マスクブランク用基板1の主表面71に存在する表面欠陥5に対して、マスクブランク用基板1の材料の軟化点以上の燃焼温度の火炎52を接触させる方法(火炎欠陥修正)によって表面欠陥5を修正することに特徴がある。
【0053】
図1に、基板1の表面欠陥5を火炎欠陥修正している様子の一例の断面模式図を示す。基板1の表面欠陥5は、火炎照射装置50から照射する火炎52によって加熱されることで火炎欠陥修正される。表面欠陥5を火炎欠陥修正することによって、許容されないサイズの表面欠陥5がないマスクブランク用基板1を得ることができる。火炎欠陥修正の際に火炎52を適切な大きさにすることによって、基板1を必要以上に加熱することを抑えつつ、表面欠陥5だけを火炎欠陥修正することができる。また、火炎欠陥修正をするためには大規模な設備の必要はないため、簡易かつ低コストで表面欠陥5の火炎欠陥修正を行うことができる。
【0054】
火炎欠陥修正を行うための火炎照射装置50としては、引火性ガスを燃焼することによって火炎52を発生するバーナー等を用いることができる。火炎照射装置50に用いる引火性ガスとしては、メタン、プロパン、ブタン及びアセチレン等の炭化水素、水素並びに酸素及び水素の混合気体等から選択して用いることが好ましい。より高温で火炎欠陥修正を行うことができるため、ブタン又は水素と、酸素との混合気体の引火性ガスを用いることがより好ましい。
【0055】
火炎欠陥修正の際の火炎照射装置50と基板1との間の距離は、火炎52の発生が妨げられず、表面欠陥5に対する火炎52の接触が有効に行われる範囲で適宜選択することができる。火炎欠陥修正の際の火炎照射装置50と表面欠陥5との間の距離は、表面欠陥5に対する火炎52の接触を妨げられずに有効に行う点から、1mm〜50mmとすることが好ましく、2mm〜20mmとすることがより好ましい。
【0056】
基板1の加熱を抑えつつ、表面欠陥5だけを火炎欠陥修正するために、比較的小さな火炎52を発生する装置を用い、表面欠陥5が存在する場所に局所的に火炎52を照射することによって、表面欠陥5の火炎欠陥修正を行うことが好ましい。局所的な火炎欠陥修正をする場合、表面欠陥5に対する火炎52の照射径は、0.1mm〜10mmとすることが好ましく、0.2mm〜5mmとすることがより好ましく、0.5mm〜4mmとすることがより好ましい。
【0057】
本発明の製造方法に用いる火炎欠陥修正において、火炎52の部分の温度は、基板1の材料の軟化点により異なる。基板1の材料が合成石英ガラスの場合には、火炎52の部分の温度は、好ましくは1600℃以上、より好ましくは1700℃以上、さらに好ましくは1700℃以上である。このような温度範囲の火炎52を表面欠陥5が存在する基板1の局所的部分と接触させることにより、表面欠陥5が存在する部分の温度が火炎52の部分の温度と同程度となる。その結果、基板1が局所的に軟化し、表面欠陥5の火炎欠陥修正を行うことができる。なお、基板1の火炎欠陥修正を行った部分は、それ以外の部分に比べて、OH基の濃度分布が変化する傾向がある。
【0058】
本発明の製造方法において、火炎欠陥修正の際に、表面欠陥5を光学顕微鏡108で観察しながら火炎52を照射することが好ましい。図4に、表面欠陥5を光学顕微鏡108で観察しながら火炎欠陥修正を行うための火炎欠陥修正装置100の概略構成図を示す。なお、観察用の照射光としては、集光ランプ等(図示せず)を光源とする照射光を用いることにより、基板1に対して顕微鏡観察に十分な強度の光を照射することができる。表面欠陥5からの観察光126が光学顕微鏡108に入射し、表面欠陥5の光学顕微鏡画像を得ることができる。この光学顕微鏡画像から表面欠陥5を識別するための画像処理部110を設けることにより、表面欠陥5の有無、寸法及び位置の検出を自動化することができる。図4に示すような火炎欠陥修正装置100を用いるならば、基板1の表面欠陥5に対して火炎を照射後、光学顕微鏡108で観察し、火炎欠陥修正による表面欠陥5の修正の程度を評価することができる。そのため、もし火炎欠陥修正が不十分であるならば、さらに火炎欠陥修正を行う等のフィードバックを伴う処理が可能となるので、表面欠陥5の修正を確実に行うことができる。
【0059】
基板1に表面欠陥5が複数存在する場合には、ステージコントローラ112及びステージ102を用いて、表面欠陥5が火炎52の照射位置となるように基板1を移動させることができる。引火性ガス105の流量等を制御して火炎52を制御するための火炎制御部104、画像処理部110並びにステージコントローラ112に接続された制御部114を設けた火炎欠陥修正装置100を用いることにより、火炎欠陥修正を自動的に行うことができる。また、火炎欠陥修正を行う位置は、検査工程で用いる表面検査装置により測定された寸法、形状及び位置の情報から特定することも可能である。また、火炎欠陥修正装置100がステージコントローラ112及び自動的に移動することのできるステージ102を備える場合には、表面欠陥5が存在する位置等の情報を表面検査装置から得ることにより、火炎照射装置50の火炎欠陥修正のための移動を自動的に行うことができる。
【0060】
なお、火炎欠陥修正を行った影響によって、基板主表面の平坦度や表面粗さが所定の範囲を満たさなくなった場合においては、凹状欠陥が生じにくい非接触研磨を局所的に行って、所定の平坦度や表面粗さにすることも可能である。適用可能な非接触研磨としては、フロートポリッシング、EEM、ハイドロプレーンポリッシング等が挙げられる。この場合の、研磨砥粒には小粒径のコロイダルシリカが好適である。特に、基板主表面の平坦度や表面粗さの条件が厳しい半導体デバイス製造用途のマスクブランク用基板に対して有効である。
【0061】
<マスクブランク用基板の説明>
本発明の製造方法によって得られるマスクブランク用基板1は、その用途に応じて高い平坦度を有し、さらに高い平行度を有するものであることが好ましい。例えば、マスクブランク用基板1は、図3に示すように互いに対向して設けられた一組の主表面71と、該主表面と直交する2組の端面72と、前記主表面と端面とによって挟まれた面取面73を有する角型(方形状)の基板であって、マスクブランク用基板1の主表面(好ましくは両主表面)の平坦度(マスクブランク用基板1の主表面において、端面から30mmを除いた内側の領域の平坦度を指す。よって、面取面73は、必然的に除かれる。)が、小型のマスクブランク用基板1(330mm×450mm未満)では0μmを超え5μm以下、大型のマスクブランク用基板1(330mm×450mm以上)では0μmを超え30μm以下の高い平坦度を有する基板である。
【0062】
また、マスクブランク用基板1の両主表面71は、精密研磨によって鏡面に仕上げられており、その表面粗さは、平均表面粗さRaで0.3nm以下に仕上げられている。主表面71の表面粗さは、欠陥の検出及び、成膜後の膜表面の均一性の点から小さい方が好ましく、Raで0.2nm以下、さらに好ましくは0.15nm以下に鏡面仕上げしていることが好ましい。また、マスクブランク用基板1の端面72及び面取面73もパーティクルの発生防止の点から、ブラシ研磨等によって鏡面に仕上げられている方が好ましく、その表面粗さは、平均表面粗さRaで0.3nm以下、より好ましくは0.2nm以下、さらに好ましくは0.15nm以下とすることが望ましい。
【0063】
<転写用マスク及び転写用マスクの説明>
以下、本発明のマスクブランク10及び転写用マスクの製造方法の実施の形態を説明する。
【0064】
本発明は、上述の本発明のマスクブランク用基板1上に、転写パターンを形成するためのパターン形成用薄膜を有するマスクブランク10の製造方法である。本発明の製造方法では、上述の本発明のマスクブランク用基板1上にパターン形成用薄膜を成膜する。本発明のマスクブランク用基板1の表面欠陥5は修正されているので、マスクブランク用基板1に起因する表面欠陥5が存在しないマスクブランク10を得ることができる。
【0065】
転写パターンを形成するためのパターン形成用薄膜は、半導体デバイス製造用途のマスクブランクの場合と、FPD製造用途のマスクブランクの場合で大きく相違する。詳しくは後述する。マスクブランク用基板1上にパターン形成用薄膜を成膜する方法としては、例えばスパッタ成膜法が好ましく挙げられるが、本発明はスパッタ成膜法に限定する必要はない。
【0066】
マスクブランク10のパターン形成用薄膜に対して、公知のフォトリソグラフィー法により所定の微細パターンを形成することによって、転写用マスクを得ることができる。
【0067】
半導体デバイス製造用途のマスクブランクの場合、パターン形成用の薄膜には、例えば、遮光膜、ハーフトーン型位相シフト膜等の光半透過膜がある。遮光膜は、露光光に対して高い遮光性能を有する薄膜である。遮光膜は、露光光をほとんど透過しない(一般に透過率が約0.1%以下)。この遮光膜が適用されたマスクブランクは、バイナリマスクブランクともいわれる。また、このマスクブランクから作製された転写用マスクは、バイナリマスクともいわれる。
【0068】
光半透過膜の1種であるハーフトーン型位相シフト膜は、実質的に露光に寄与しない強度の光(例えば、露光波長に対して1%〜20%)を透過させるものであって、所定の位相差(例えば180度)を有するものであり、このハーフトーン型位相シフト膜をパターニングした位相シフト部と、位相シフト部が形成されていない実質的に露光に寄与する強度の光を透過させる光透過部とによって、位相シフト部を透過して光の位相が光透過部を透過した光の位相に対して実質的に反転した関係になるようにすることによって、位相シフト部と光透過部との境界部近傍を通過し回折現象によって互いに相手の領域に回り込んだ光が互いに打ち消しあうようにし、境界部における光強度をほぼゼロとし境界部のコントラスト、すなわち解像度を向上させるものである。
【0069】
ハーフトーン型位相シフト膜以外の光半透過膜としては、パターン転写を行うレジスト膜が感光されない程度の所定の透過率で露光光を透過させる薄膜であるが、薄膜を透過した露光光に、薄膜のない部分を透過した露光光との間で位相差を生じないように調整されている薄膜であるものもある。このタイプの光半透過膜が適用されたマスクブランクは、エンハンサマスクを作製する際に使用されることが多い。ハーフトーン型位相シフト膜、光半透過膜ともに、露光光に対して所定の透過率を有しているため、露光装置での転写対象物のレジスト膜への露光時に重ね露光を行うと、レジスト膜が感光してしまう場合がある。このため、ハーフトーン型位相シフト膜や光半透過膜の上に遮光帯を形成するための遮光膜を積層させた膜構成とする場合が多い。
【0070】
一方、FPD製造用途のマスクブランクの場合、このマスクブランクから作製された転写用マスクは、超高圧水銀灯を光源(露光光)とする露光装置で使用されることが一般的である。超高圧水銀灯の露光光は、ArFエキシマレーザ等のような単一波長の光ではなく、多色光になる。超高圧水銀灯の露光光は、i線(365nm)、h線(405nm)、g線(436nm)の3つの波長で特に光強度が強い光である。このような多色光では、位相シフト効果は得られにくいため、ハーフトーン型位相シフト膜はFPD製造用途のマスクブランクではほとんど使用されない。FPD製造用途のマスクブランクの場合、半導体デバイス製造用途のマスクブランクと同様、パターン形成用の薄膜に遮光膜が適用されたマスクブランク(バイナリマスクブランク)が使用されている。
【0071】
FPD製造用途の転写用マスクには、透過率の異なる複数のパターン形成用薄膜にそれぞれ転写パターンが形成された構成の多階調マスクがある。この多階調マスクを用いて、転写対象物のレジスト膜に転写露光を行い、現像処理を行うと、レジスト膜に、レジストが全て溶解した抜け領域と、ある程度の膜厚が溶解している領域と、ほとんど溶解していない領域が形成される。よって、複数のパターンがレジスト膜に形成されていることになる。このようなレジストパターンは、まず、レジストが全て溶解している抜け領域とその他のレジストが残っている残存領域とからなる第1のパターンをマスクとして、レジスト膜の下の薄膜をパターニングが行うことができる。次に、レジスト膜をある程度の溶解している領域のレジストが消滅するまでレジスト膜を全面で所定膜厚だけ除去する処理を行う。これによって、最初の段階でレジストがほとんど溶解していない領域以外の領域は、レジストが全て溶解した抜け領域となっており、第2のパターンができる。この第2のパターンをマスクとして、レジスト膜の下の薄膜に第1のパターンとは異なるパターンを形成することができる。このようなプロセスを使用することで、本来2枚の転写用マスクが必要なところを、1枚の多階調マスクで済むことになる。
【0072】
多階調マスクを作製する方法としては、パターン形成用薄膜の成膜と、パターン形成のエッチング処理とを繰り返して多階調マスクを完成させる方法がまず挙げられる。そのほかに、あらかじめ、マスクブランク用基板1上に光半透過膜(1段又は2段以上)と遮光膜を積層した構造の多階調マスクブランクを製造し、この多階調マスクブランクに対してエッチング処理を行い、多階調マスクを完成させる方法がある。
【0073】
なお、前記以外のパターン形成用の薄膜としては、エッチングマスク(ハードマスク)膜やエッチングストッパー膜がある。
【0074】
また、遷移金属及びケイ素を主成分とする材料(遷移金属シリサイドを主成分とする材料)も適用可能である。遷移金属シリサイドを主成分とする材料には、遷移金属シリサイド単体のほか、遷移金属シリサイドに酸素、窒素、炭素、水素、ホウ素等の元素を添加した遷移金属シリサイド化合物がある。遷移金属シリサイドの遷移金属には、モリブデン、タンタル、タングステン、チタン、ハフニウム、ニッケル、バナジウム、ジルコニウム、ニオブ、パラジウム、ルテニウム、ロジウム等が適用可能である。
【0075】
このほか、パターン形成用薄膜に適用可能な材料としては、タンタルを主成分とする材料が挙げられる。タンタルを主成分とする材料には、タンタル単体のほか、タンタルに酸素、窒素、炭素、水素、ホウ素等の元素を添加したタンタル化合物がある。
【0076】
遮光膜の場合、高い遮光性を有するため、露光光に対する反射率が高くなる傾向がある。これを抑制するために、遮光膜を遮光性能の高い金属(遷移金属シリサイド)の含有量が多い遮光層の上に反射率を抑制するための反射防止層を形成した積層構造とする場合が多い。さらに、遮光膜の基板側の反射率も抑制する必要がある場合は、基板と遮光層の間にさらに裏面反射防止層を形成した積層構造とする場合もある。反射防止層や裏面反射防止層の材料としては、金属(遷移金属シリサイド)に酸素や窒素を含有した金属(遷移金属シリサイド)化合物材料が好適である。これに対し、遮光層は、高い遮光性能を有する必要があるため、金属(遷移金属シリサイド)や酸素や窒素は極力少ない金属化合物(遷移金属シリサイド化合物)材料が好ましい。
【0077】
このハーフトーン型位相シフト膜等の光半透過膜に適用可能な材料としては、前記のクロム化合物、タンタル化合物、遷移金属シリサイド化合物が挙げられる。特に、透過率等を調整するため、酸素や窒素を含有する前記化合物が好ましい。
【実施例】
【0078】
次に、本発明の実施例によって、本発明をより具体的に説明する。
【0079】
(実施例1)
マスクブランク用基板1の製造は、(1)切り出し工程、(2)ラッピング工程、
(3)研磨工程、(4)検査工程及び(5)表面欠陥修正工程の各工程によって行った。以下、各工程を詳細に説明する。
【0080】
(1)切り出し工程
合成石英ガラスインゴットから、平板上に切り出した合成石英ガラスを用意した。次に、合成石英ガラスからなるシートガラスから研削砥石で切り出して、長方形状の大型の基板1(330mm×450mm以上、具体的には800mm×920mm、厚み10mm)を得た。
【0081】
(2)ラッピング工程
次いで、基板1にラッピング工程を施した。このラッピング工程は、寸法精度及び形状精度の向上を目的としている。ラッピング工程は、粗ラッピング工程、形状加工工程及び精ラッピング工程の三つの工程からなることができる。
【0082】
(2−1)粗ラッピング工程
粗ラッピング工程は、両面ラッピング装置を用いて行い、砥粒の粒度を#400で行った。詳しくは、粒度#400のアルミナ砥粒を用い、荷重Lを100kg程度に設定して、キャリアに収納した基板1の両面を所定の精度に仕上げた。
【0083】
(2−2)形状加工工程
次に、外周端面も研削して外形寸法を整えた後、外周端面及び内周面に所定の面取り加工を施した。
【0084】
(2−3)精ラッピング工程
次に、砥粒の粒度を#1000に変え、マスクブランク用基板1表面をラッピングすることにより、基板1の両面を所定の精度に仕上げた。上記精ラッピング工程を終えた基板1を、中性洗剤、水の各洗浄槽に順次浸漬して洗浄した。
【0085】
(3)研磨工程
次に、研磨工程を施した。この研磨工程は、上述したラッピング工程で残留した傷や歪みの除去を目的とするもので、第一研磨工程、第二研磨工程及び第三研磨工程の複数の研磨工程からなることができる。また、所定の研磨の後、所定の洗浄を行うための洗浄工程を有することができる。
【0086】
(3−1)第一研磨工程
特許文献1に記載された図6に示すような大型マスクブランク用両面研磨装置を用いて行った。ポリシャとして硬質ポリシャを用い、以下の研磨条件で実施した。
研磨液:酸化セリウム(平均粒径2〜3μm)砥粒に水を加えた遊離砥粒
研磨布:硬質ポリシャ、厚さ2mm
溝にのみ直接的に供給する研磨液量:5リットル/分
定盤上に供給する研磨液量:2リットル/分
上定盤回転数:1〜50rpm(装置上面から見て時計回り回転)
下定盤回転数:1〜50rpm(装置上面から見て反時計回り回転)
キャリア(基板20)回転数:1〜50rpm(装置上面から見て反時計回り回転)
荷重(付圧):80〜100g/cm
研磨時間:30〜100分
除去量:35〜75μm
【0087】
上記研磨工程を終えた基板1を、中性洗剤、純水、純水、IPA、IPA(蒸気乾燥)の各洗浄槽に順次浸漬して、洗浄した。なお、各洗浄槽には超音波を印加した。また、この洗浄工程は、次の第二研磨工程において使用する研磨液が同一のものである場合、省略することもできる。
【0088】
(3−2)第二研磨工程
次に、特許文献1に記載された図7に示す大型マスクブランク用片面研磨装置を用い、第二研磨工程を実施した。ポリシャとして超軟質ポリシャを用い、以下の研磨条件で実施した。
研磨液:コロイダルシリカ(平均粒径50〜80nm)砥粒に水を加えた遊離砥粒
研磨布:超軟質ポリシャ(スウェードタイプ)、厚さ2mm
溝にのみ直接的に供給する研磨液量:5リットル/分
定盤上に供給する研磨液量:2リットル/分
下定盤回転数:1〜50rpm(装置上面から見て反時計回り回転)
キャリア(基板20)回転数:1〜50rpm(装置上面から見て反時計回り回転)
荷重(付圧):80〜100g/cm
研磨時間:30〜50分
除去量:35〜45μm
【0089】
(3−3)第三研磨工程(鏡面研磨加工工程)
次に、図6に示す大型マスクブランク用両面研磨装置を用い、第三研磨工程(鏡面研磨加工工程;ファイナルポリッシング)を実施した。ポリシャとして超軟質ポリシャを用い、以下の研磨条件で実施した。
研磨液:コロイダルシリカ(平均粒径50〜80nm)砥粒に水を加えた遊離砥粒
研磨布:超軟質ポリシャ(スウェードタイプ)、厚さ2mm
溝にのみ直接的に供給する研磨液量:5リットル/分
定盤上に供給する研磨液量:2リットル/分
上定盤回転数:1〜50rpm(装置上面から見て時計回り回転)
下定盤回転数:1〜50rpm(装置上面から見て反時計回り回転)
キャリア(基板20)回転数:1〜50rpm(装置上面から見て反時計回り回転)
荷重(付圧):80〜100g/cm
研磨時間:30〜50分
除去量:35〜45μm
【0090】
(3−4)洗浄工程
上記第三研磨工程を終えた基板1を、アルカリ溶液(NaOH溶液)、硫酸に順次浸漬して、洗浄を行った。なお、各洗浄槽には超音波を印加した。さらに、中性洗剤、純水、純水、IPA、IPA(蒸気乾燥)の各洗浄槽に順次浸漬して、洗浄した。
【0091】
(4)検査工程
次に、得られた基板1の平坦度、表面粗さ並びに表面欠陥5の有無及びその位置を検査行った。表面欠陥5の有無については、レーザー散乱光方式の欠陥検査装置で検査された。ここで、マスクブランク用基板1に求められる平坦度は20μm以下とし、表面粗さは算術平均粗さRaで0.25nm以下とした。また、表面欠陥5については、幅が1μmよりも大きなサイズのものは許容されないと判定することとした。ここでは、本発明の火炎欠陥修正の有効性を検証するため、検査後の基板1について、平坦度及び表面粗さはともに前記条件を満たしているが、許容されないサイズの表面欠陥5(凹状欠陥)であり、その深さが0.5μm以下であるものが存在する基板1を選定することとした。
【0092】
(5)表面欠陥修正工程
検査工程にて選定された基板1の表面欠陥5に対して、火炎欠陥修正を施した。表面欠陥5の修正に用いた火炎52は以下の通りである。
・火炎温度: 2200℃
・火炎照射装置50とマスクブランク用基板1との距離: 15mm
・火炎径: 3mm
・火炎照射時間: 10分
・引火性ガスの種類: ブタンと酸素との混合気体
【0093】
以上のようにして得られた基板1について、表面欠陥5が存在していた部分を光学顕微鏡によって顕微鏡観察を行ったところ、表面欠陥5は消えていた。また、この基板1について、再度、主表面17の平坦度と表面粗さを測定したところ、ともに前記の判定閾値以下であり、良品のマスクブランク用基板1として使用可能なレベルで修正することができていた。
【0094】
次に、表面欠陥5が修正されて良品となったマスクブランク用基板1を用い、FPD製造用途の多階調マスクブランクの製造を行った。マスクブランク用基板1の主表面17に、最初にモリブデンとケイ素からなる光半透過膜2を成膜した。
具体的には、モリブデン(Mo)とケイ素(Si)との混合ターゲット(Mo:Si=20at%:80at%)を用い、アルゴン(Ar)ガス雰囲気で、DCスパッタリングにより、モリブデンとケイ素からなるMoSi膜(光半透過膜2)を10nmの膜厚で形成した。この光半透過膜2は、i線(365nm)の波長において、透過率が15%となるように調整されている。
【0095】
次に、光半透過膜2の上にクロム系材料からなる遮光膜3を成膜した。
具体的には、スパッタターゲットにクロム(Cr)ターゲットを用い、アルゴン(Ar)と窒素(N)との混合ガス雰囲気で、反応性スパッタリング(DCスパッタリング)により、膜厚15nmのCrN層を成膜し、次いで、アルゴン(Ar)とメタン(CH)と窒素(N)との混合ガス雰囲気で、反応性スパッタリング(DCスパッタリング)により、膜厚65nmのCrCN層を成膜し、次いで、アルゴン(Ar)と一酸化窒素(NO)との混合ガス雰囲気で、反応性スパッタリング(DCスパッタリング)により、膜厚25nmのCrON層を成膜し、合計膜厚105nmの遮光膜3を形成した。この遮光膜3は、各層が組成傾斜した構造の膜であり、前記光半透過膜2との積層構造でi線(365nm)の波長において光学濃度3.0となるように調整されている。
以上のようにして、マスクブランク用基板1上に光半透過膜2と遮光膜3とがこの順に積層した多階調マスクブランク10を製造した。
【0096】
次に、上記の多階調マスクブランクを用いて多階調マスク(転写用マスク)を作製した。図5は、多階調マスクブランクを用いて多階調マスクを製造する工程を示す断面模式図である。まず、マスクブランク10上に、レジスト膜4を形成した(同図(a)参照)。
【0097】
次に上記マスクブランク10上に形成されたレジスト膜4に対し、レーザー描画装置を用いて、多階調マスクの透光部パターンの描画を行った後、所定の現像液で現像してレジストパターン4aを形成した(同図(b)参照)。
次に、上記レジストパターン4aをマスクとして、遮光膜3のエッチングを行い、遮光膜3に透光部パターンを形成した(同図(c)参照)。ここでは、Cr用エッチング液(硫酸第2セリウムアンモニウムと過塩素酸を含む水溶液)を用いたウェットエッチングを適用した。
【0098】
次に、残存するレジストパターン4aを剥離した(同図(d)参照)。上記遮光膜3に形成された透光部パターンをマスクとして、光半透過膜2のエッチングを行い、透光部パターンを形成した(同図(e)参照)。ここでは、MoSi用エッチング液(フッ化水素アンモニウムと過酸化水素を含む水溶液)を用いたウェットエッチングを適用した。
【0099】
次に、マスクブランク10上にレジスト膜4を再度形成した。レーザー描画装置を用いて、多階調マスクの遮光部パターンの描画を行った後、所定の現像液で現像してレジストパターン4bを形成した(同図(f)参照)。
次に、上記レジストパターン4bをマスクとして、遮光膜3のエッチングを行い、遮光膜3に遮光部パターンを形成した(同図(f)参照)。ここでも、前記と同様のCr用エッチング液を用いたウェットエッチングを適用した。
【0100】
次に、残存するレジストパターン4bを剥離して、多階調マスク(転写用マスク)15を得た。この多階調マスク15は、マスクブランク用基板1上に、主表面17が露出した透光部17、光半透過膜2からなる半透光部18、光半透過膜2と遮光膜3の積層構造からなる遮光部16が形成された構成となっている。なお、主表面17の表面欠陥5が存在していた部分が、透光部17と半透光部18が掛かるようなパターン配置をあえて行っている。
【0101】
この多階調マスク15を用い、超高圧水銀灯を光源とする露光装置で、転写対象物のレジスト膜に対してパターンの露光転写を行った。転写対象物のレジスト膜に対して、現像処理を行ったところ、表面欠陥5を修正した部分も含めて正常にレジストパターンが形成されていることが確認できた。
【0102】
(比較例1)
この比較例1では、(4)検査工程で、平坦度及び表面粗さはともに所定条件を満たしているが、許容されないサイズの表面欠陥5(凹状欠陥)であり、その深さが0.5μm以下であるものが存在する基板1を選定するところまでは、実施例1と同様である。比較例1では、選定された基板1の表面欠陥5を修正する(5)表面欠陥修正工程を行わないままで、マスクブランク用基板1として、実施例1と同様の条件で光半透過膜2、遮光膜3を成膜して、マスクブランク10を製造した。さらに、このマスクブランク10を用いて、実施例1と同様の手順で、光半透過膜2、遮光膜3のパターニングを行い、多階調マスク15を作製した。
【0103】
この多階調マスク20を用い、超高圧水銀灯を光源とする露光装置で、転写対象物のレジスト膜に対してパターンの露光転写を行った。転写対象物のレジスト膜に対して、現像処理を行ったところ、表面欠陥5が存在する部分の透光部17と半透光部18が露光転写された部分は転写不良を起こしており、正常にパターンが形成されていなかった。このレジストパターンを用いて、その下の金属膜にパターン転写をするエッチングを行っても設計通りのパターンを形成することはできない。よって、比較例1のマスクブランク用基板1、多階調マスクブランク10、多階調マスク15は、使用に適さない。
【符号の説明】
【0104】
1 マスクブランク用基板
2 光半透過膜(パターン形成用薄膜)
3 遮光膜(パターン形成用薄膜)
4 レジスト膜
4a、4b レジストパターン
5 表面欠陥
10 多階調マスクブランク
15 多階調マスク
16 遮光部
17 透光部
18 半透光部
20 研磨装置に取り付けられたマスクブランク用基板
21 キャリア
22 上定盤
23 下定盤
30 研磨布を貼り付けてなる定盤
50 火炎照射装置
52 火炎
71 主表面
72 側面
73 面取面
100 火炎欠陥修正装置
102 ステージ
104 火炎制御部
105 引火性ガス
108 顕微鏡
110 画像処理部
112 ステージコントローラ
114 制御部
126 観察光

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対向する2つの主表面を有する基板からなるマスクブランク用基板の製造方法であって、
前記基板の2つの主表面を研磨する工程と、
前記基板の主表面に存在する表面欠陥に対して、前記基板の軟化点以上の燃焼温度の火炎を接触させて前記表面欠陥を修正する工程と
を有することを特徴とするマスクブランク用基板の製造方法。
【請求項2】
前記表面欠陥が、凹状欠陥であることを特徴とする、請求項1に記載のマスクブランク用基板の製造方法。
【請求項3】
前記基板が、合成石英ガラスからなることを特徴とする、請求項1又は2に記載のマスクブランク用基板の製造方法。
【請求項4】
前記火炎が、1600℃以上の燃焼温度であることを特徴とする、請求項3に記載のマスクブランク用基板の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項記載のマスクブランク用基板の製造方法で製造されたマスクブランク用基板の主表面上にパターン形成用の薄膜を成膜する工程を有することを特徴とする、マスクブランクの製造方法。
【請求項6】
請求項5に記載のマスクブランクの製造方法で製造されたマスクブランクの薄膜に転写パターンを形成する工程を有することを特徴とする、転写用マスクの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−42499(P2012−42499A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−180848(P2010−180848)
【出願日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【出願人】(000113263)HOYA株式会社 (3,820)
【Fターム(参考)】