説明

マスク構造体およびそれを用いた蒸着方法、並びに有機発光素子の製造方法

【課題】 本発明の目的は、高寸法精度の蒸着パターンを得ることができ、マスクフレームの変形を防止しつつマスクを張力が加えられた状態でマスクフレームに固定した高精度なマスク構造体およびそれを用いた蒸着方法、並びに有機発光素子の製造方法を提供することにある。
【解決手段】 マスク構造体10は、マスク12とマスクフレーム16を備える。マスク12は、開口領域14を有する。マスクフレーム16は、少なくとも互いに対向する一対の辺を有し、マスク12が張力を印加した状態でマスク12の端部が固定される枠体18と、一対の辺を互いに接続し、開口領域14同士の間の直下に配置される桟20を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は有機エレクトロルミネッセンス素子(以後、有機EL素子と記載)の製造におけるマスク構造体とこれを用いた蒸着方法、並びに有機発光素子の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
有機EL素子は、一対の電極とその電極間に挟まれた発光層とからなり、電極間に電圧を印加することによって自発光する。有機EL素子は、薄型ディスプレイとして現在広く普及している液晶ディスプレイに比較して、高輝度、高コントラスト、広視野角、薄型、少部品数などの長所を持ち、次世代のディスプレイとして注目されている。近年、有機EL素子が、発光効率の向上と寿命の向上が図られ実用領域に入りつつある。
【0003】
有機EL素子は、ガラスやプラスチック等の基板に第1の電極を設け、この第1の電極上にホール注入層・ホール輸送層・発光層・電子輸送層・電子注入層などで構成される有機層及び第2の電極薄膜を堆積することにより作製される。第1の電極と第2の電極の少なくともどちらか一方は透明な電極とする。
【0004】
電極間に電圧を印加して電流を供給すると、陽極側からホール、陰極側から電子が有機層に注入される。有機層中でのホールと電子との再結合によって発光体分子が励起され、励起分子が失活する際に発生した光が透明電極側から外部へ取り出される。
【0005】
このような有機EL素子の製作において、有機層および第2の電極薄膜の成膜は真空蒸着法が多用される。その際、蒸着すべき領域にのみ蒸着物が堆積するような開口領域を金属薄板に形成したマスクを用いて真空蒸着を行い所望のパターンが形成される。
【0006】
近年、有機EL素子はフルカラー化、高精細化が図られており、フルカラーの場合RGB別に3色の有機層のパターニングが必要である。また、有機EL素子の高精細化のためには高精細なパターニングが求められる。従って、マスクを用いた真空蒸着法には、微細な開口領域と高い寸法精度を持つ高精度なマスクとそれを用いた高精度な真空蒸着パターニングが必要とされる。
【0007】
特許文献1では、基板を保持する工程と、基板上に第1電極層、少なくとも1層の有機層及び第2電極層を順次形成する工程と、を有し、上記第1電極層、少なくとも1層の有機層及び第2電極層のうち少なくとも1層を形成する工程は、磁性体マスクを用いて蒸着する蒸着工程を含む。蒸着工程は、基板及び磁性体マスクを所定間隔だけ隔てるスペーサを基板及び磁性体マスク間に介在せしめかつ磁性体マスクを磁気吸着しつつ実行する。このことにより、基板と蒸着マスクとの接触による有機EL媒体層や電極の損傷を避けつつマスクの密着性を高め、高精度なパターニングを簡便に行うことが可能となる。
【0008】
特許文献2では、薄板よりなり、所定パターンの開口領域が形成されたマスクと、前記マスクの一つの面にて前記マスクに引張り力が加えられた状態を支持するフレームと、前記マスクの他面にて前記フレームに対応するマスクの部分を支持するカバーマスクとを含んでなるメタルマスク構造体が提案されている。これにより、マスクとフレームとの溶接時に生じるクラックなどの溶接不良を最小化してマスクの変形を最小化でき、開口領域幅の精度、トータルピッチの精度及び表面平滑性を同時に高めることができるというものである。
【0009】
特許文献3では、蒸着範囲を規制するウインドウを複数個備えた第一金属マスクを兼ねるベースプレートの上に、多数の微細なスリットを微小間隔で平行に配列した構成のすだれ部を備えた第二金属マスクを配置し、その一端をマスククランプでベースプレートに固定し、他端をスライダに固定し、そのスライダに圧縮コイルバネでばね力を付与することで第二金属マスクのすだれ部に張力を付与し、スリットを真っ直ぐな状態で且つ所定のピッチに維持する構成とすることが提案されている。この第二金属マスクの上に基板を配して蒸着を行うことで、基板に高精細なパターンを多面付けで形成することができるとされている。
【0010】
特許文献4では、シート状物質に少なくとも1つ以上の開口領域が存在するシャドーマスクであって、マスク部分の一方の面に前記開口領域を横切るようにして補強線が接続され、前記マスク部分の補強線が存在していない面と前記補強線との間に隙間が存在することを特徴とするシャドーマスクについて述べられている。シート状物質の面内に複数の開口領域が存在し、シート状物質からなるマスク部分に開口領域を横切るように設けられた補強線が接続されている。この補強線はマスク部分がたわみなどによって所定の位置から動き、開口領域の形状が変化することを防止するというものである。マスク部分の厚さに対して補強線幅が細く、また、高い平面性を保った状態で使用可能なシャドーマスクを比較的容易に製造することができるので、高い精度が要求されるパターン加工に対して効果的であるとされている。
【0011】
このように、マスクを用いた高精度な真空蒸着パターニングに関して種々の提案がされている。
【0012】
一般的にこのようなマスクはエッチング法またはエレクトロフォーミング法により作製される。エッチング法ではフォトレジストパターンを金属薄板に形成した後に金属薄板をエッチングして開口を形成するものである。また、エレクトロフォーミング法は、開口の元となる母型に電気めっき法で所要の厚さの金属層を電着させた後にこれを母型から剥離するものである。
【0013】
このようなマスクは高い寸法精度の開口を得るためにその厚さは数10μm程度である。真空蒸着時にたわむことなく支持するためにマスクは張力が加えられた状態でマスクフレームに固定支持される。この際、マスクに形成された開口寸法やそれらのトータルピッチが十分な精度となるように張力の大きさや方向、分布、マスクフレームへの固定方法などに注意が払われる。
【0014】
また、真空蒸着の際には、基板とマスク間に隙間がある場合には蒸着材料の回り込みが生じてパターンボケやパターンの位置ずれが起こるため、基板とマスクとの間の密着を良好にするために板状のマグネットによりマスクを基板側に吸着する手段が用いられている。
【0015】
【特許文献1】特開2001−273976号公報
【特許文献2】特開2004−169169号公報
【特許文献3】特開2003−68454号公報
【特許文献4】特開平10−330910号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
マスクをマスクフレームに固定したマスク構造体を作製する場合、マスクの張力によってマスクフレームが変形する。寸法精度が良好なマスク構造体を得るためには、マスクの張力とマスク自体の伸びの他に、マスクフレームの変形量も考慮する必要がある。
【0017】
マスクの張力と伸びとマスクフレームの変形量とを制御してマスクの開口寸法やそれらのトータルピッチなどの寸法精度を高くすることが困難であった。マスクの張力を小さくした場合には、マスクの伸びやマスクフレームの変形が小さくなるためマスクの寸法精度は良くなるが、マスク中央付近が垂れ下がったり、フレーム角部付近のマスクにたるみが生じたり、真空蒸着時の熱によりマスクが膨張してしわが生じたりすることによって、蒸着パターンに寸法ずれやパターンボケが生じたりするという問題点があった。
【0018】
また、実際に有機EL素子を作製する際にはできるだけ大面積のマスクで多数の有機EL素子を一括蒸着して生産性良く有機EL素子を作製したいため、寸法精度の高い大面積のマスクが望まれる。
【0019】
近年、携帯電話に搭載される小型有機EL素子などでは170ppi(pixels per inch)程度の精細度のものが利用されつつある。図8は170ppiの精細度となるような蒸着パターンを形成する場合に必要とされる蒸着パターンの幅の偏差(ΔW)と位置ずれの偏差(ΔX)の許容値を示した線図である。横方向の画素有効開口率が40%と60%の場合を示した。例えば、画素有効開口率が40%の場合、蒸着パターンの幅の偏差が7μm程度あるときには、位置ずれは6μm程度しか許容されない。さらに高輝度化、低消費電力、長寿命化のためにはより大きな開口率とすることが望まれ、要求される蒸着パターンの寸法精度もより高いものとなる。
【0020】
さらに、蒸着時の蒸着粒子は必ずしも基板表面に対して鉛直に入射するのではなくある広がりをもった角度で入射して基板表面に堆積するために、マスクと基板間にギャップがある場合には蒸着パターンに広がりが生じる。さらに、蒸着粒子の飛来角度が基板鉛直線に対して非対称である場合には蒸着パターンがマスクの開口領域直下からずれて位置ずれが生じる。通常、蒸着源は10cmから100cm程度の距離を隔てて基板の下方にあり、蒸着源の直上では蒸着粒子の飛来角度が基板鉛直線に対して対称となるのでマスクの開口中心と蒸着パターン中心とに位置ずれは生じない。基板の端部では蒸着源から水平方向に離れるため、蒸着粒子の飛来角度が基板鉛直線に対して非対称となりマスクの開口中心と蒸着パターン中心とに位置ずれが生じる。これは基板が大きいほど起きやすい。有機EL素子の製造に使用する基板の大きさは30cmから60cm程度であり、基板端に近いところでは、基板表面に入射する蒸着粒子の角度は45度を超えることがある。図9はマスク−基板間ギャップと蒸着パターンの広がり及び位置ずれを示した線図である。図9は、蒸着粒子が基板表面に入射する最大角度が45度の実際の蒸着の典型例を示している。マスク−基板間ギャップが10μmの場合には、14μm程度の蒸着パターン広がり(ΔW)と、3μm程度の位置ずれ(ΔX)が生じ、図8で示した画素有効開口率が40%の例の許容値を満足することはできない。マスク−基板間ギャップを小さくすれば蒸着パターン広がりと、位置ずれ(ΔX)を小さくすることができる。例えば、マスク−基板間ギャップが5μmの場合には、蒸着パターン広がり(ΔW)を7μm程度、位置ずれ(ΔX)を1.5μm程度にすることができ、図8で示した画素有効開口率が40%の例の許容値内となる。
【0021】
本発明は上記問題点に鑑み案出されたものであり、その目的は、高寸法精度の蒸着パターンを得ることができ、マスクフレームの変形を防止しつつマスクを張力が加えられた状態でマスクフレームに固定した高精度なマスク構造体およびそれを用いた蒸着方法、並びに有機発光素子の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明のマスク構造体は、1以上の開口からなる開口領域を有するシート状のマスクと、少なくとも互いに対向する一対の辺を有し、前記マスクが張力を加えられながら該マスクの端部が固定される枠体、および、前記一対の辺を互いに接続し、前記開口領域同士の間の直下に配置される接続部材を有するマスクフレームと、を備える。
【0023】
前記接続部材は前記マスクに接触していることが好ましい。
【0024】
前記枠体と前記接続部材は互いに同一材料で一体的に形成されていることが好ましい。
【0025】
前記マスクフレームは、互いに直交する複数の接続部材を有し、前記枠体と該接続部材の間または該接続部材同士の間の領域に形成される穴部が格子状に配置されることが好ましい。
【0026】
前記開口領域と前記穴部とがN(Nは1以上の整数)対1に対応していることが好ましい。
【0027】
前記マスクは蒸着用マスクであり、かつ前記接続部材の断面形状は前記マスクより離れるにしたがって幅狭に形成されていることが好ましい。
【0028】
前記穴部の形成密度は前記マスクの長手方向よりも短手方向の方が大きいことが好ましい。
【0029】
本発明の蒸着方法は、上記のマスク構造体を基板上に配置する工程と、蒸発源からの蒸発物を前記マスク構造体の前記開口領域を介して基板上に堆積させる工程と、を含む。
また本発明の有機発光素子の製造方法は、上記のマスク構造体を基板上に配置する工程と、蒸発源からの蒸発物を前記マスク構造体の前記開口領域を介して基板上に堆積させ、有機発光層及び/または電極層を形成する工程と、を含む。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、マスク構造体のマスクの開口領域が所望の位置からずれにくくなる。したがって、マスク構造体を用いた蒸着によって形成される蒸着パターンの不良が抑えられ、高精細な有機EL素子の製造が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
本発明のマスク構造体およびそのマスク構造体を用いた蒸着方法の実施形態について図面を用いて説明する。
【0032】
図1および図2に示すマスク構造体10は、マスク12とマスクフレーム16を備える。マスク12は、開口領域14を有するシート状のものである。マスクフレーム16は、少なくとも互いに対向する一対の辺を有し、マスク12が張力を加えられながらマスク12の端部が固定される枠体18と、枠体18の一対の辺を互いに接続し、開口領域14同士の間の直下に配置される桟20(接続部材に対応)を有する。
【0033】
マスク12は、金属磁性体からなる。金属磁性体の一例としては、ニッケルまたはニッケル系合金からなるものである。ニッケル系合金としては、例えばニッケル−コバルト合金がある。マスク12は電鋳法により製造されたものである。マスク12の厚みは10μm〜30μmである。マスク12が金属磁性体であるので、蒸着時にマスク12と板状のマグネットによって基板を挟むことができ、マグネットの磁力によってマスク12を基板に密着させることができる。
【0034】
図1および図2に示すマスク12の開口領域14は、いわゆるセルと言われているものである。開口領域14は、図3に示すように開口14aが縦横に並べられたものである。開口14aは、有機EL素子のサブピクセルに対応している(なお、本発明は開口領域14に開口14aが1つしか存在しない場合を含む)。
【0035】
桟20はマスク12に接触している。桟20がマスク12を下方から支えるように接触することによって、マスク12が重力によってたれ下がるのを防止する。マスク12がたれ下がらないので、マスク12と基板との密着度が増す。大型のマスク12であっても蒸着不良が発生しにくくなる。
【0036】
枠体18と桟20とは、同一材料で一体的に形成されていることが好ましく、その材料の種類としては、SUS、アルミニウム、インバー合金などの金属である。桟20は、枠体18で形成される仮想平面よりも上方に飛び出さないようになっている。枠体18と桟20とを一体的に形成することによって、マスクフレーム16の平坦度が高い。平坦度としては、±60μm(高低のレンジが120μm)以下になるようにする。なお、枠体18と桟20とを別体として、ねじ止めなどで枠体18と桟20とを接続すると、枠体18や桟20にひずみが生じやすく、両者を一体的に形成する場合と比較して平坦度の低いマスクフレーム16となりやすい。枠体18および桟20の厚さおよび幅、形状は、蒸着プロセスに使用する上で十分な精度、剛性が得られるように、構造シミュレーションや実験等により適切に設計、製作すればよい。凡その枠体18および桟20の厚さおよび幅としては、厚さが1mm〜10mm、幅が2mm〜50mmの間で利用される。
【0037】
また、図1や図4に示されるように、マスクフレーム16は、互いに直交する複数の桟20を有し、桟20と枠体18の間または桟20同士の間の領域に形成される穴部22は格子状に配置される。開口領域14と穴部22とは、N(Nは1以上の整数)対1に対応している(図1ではNは7、図4ではNは2)。図1や図4のようにNを2以上に設定すれば、穴部22よりも開口領域14の方が多くなる。また図4の場合、穴部22が複数列(3列)に配置されており、この場合、桟20が格子状により密に形成されるので、マスクフレーム16の剛性をより高いものとすることができ、より寸法精度の高いマスク構造体を容易に製作できる。
【0038】
また、桟20は、枠体18の対向する辺の中点同士を結ぶ線に対して対称になるように桟20を設けてもよい。枠体18にマスク12を固定した際のマスクフレーム16の変形が対称的とすることができ、マスク12が非対称にゆがみにくくなる。
【0039】
マスク12は蒸着用マスクである。桟20の断面形状はマスク12より離れるにしたがって幅狭に形成されているため、真空蒸着の際、桟20側に配置された蒸発源からの蒸発物が桟20に遮断されて基板に到達することが良好に防止される。なお、桟20の断面形状は、図2、図5に示すように、桟20の断面形状は、台形、三角形、半円形であり、その他にも半楕円形など任意である。
【0040】
穴部22の形成密度はマスク12の長手方向よりも短手方向の方が大きい。これは、枠体18の長手方向の辺がマスク12の張力によってたわみやすいために、短手方向の辺と平行になる桟20を設けるためである。枠体18の内側への変形量は3μm以下になるようにする。変形量が大きくなると、マスク12にしわが発生したりするためである。
【0041】
以上のように、本発明は、枠体18の辺同士をつなげる桟20によって枠体18の剛性が増している。したがって、張力を加えられながら枠体18に固定されたマスク12によって枠体18が変形しにくくなっている。変形量が小さく、所望の位置にマスク12の開口領域14が配置されるため、蒸着時に蒸着不良が発生しにくくなる。
【0042】
次に、マスク構造体10の製造方法について説明する。(1)マスクフレーム16を製造するために、金属の板状体を準備する。(2)準備した板状体を切削またはエッチングすることによって、枠体18および桟20を形成する。この枠体18と桟20が形成されたものがマスクフレーム16となる。(3)次に、開口領域14を有するマスク12を準備する。(4)マスク12をマスクフレーム16の枠体18の上面に取り付ける。
【0043】
上記(2)の工程では、エッチングをおこなうのであれば、板状体の上面にレジストパターンを形成し、エッチングをおこなった後、レジストパターンを除去する。レジストパターンは、枠体18および桟20の形状をしたものとなる。
【0044】
また、桟20の断面の幅は上面から離れるにしたがって狭くなるように加工する。断面形状は、例えば三角形、台形、半円形、半楕円形などである。エッチングで加工をおこなうのであれば、レジストパターンと板状体のエッチングスピードが異なるようにする。枠体18と桟20とは直交するように形成する。これによって枠体18の強度が増す。
【0045】
上記(2)の工程では、形成される枠体18の上面と桟20の上面が略同一平面上に位置するようにし、枠体18の上面を延長した仮想面よりも桟20の上面が突出しないようにする。枠体18の上面と桟20との上面を略同一平面上に位置させることによって、上記(4)の工程で固定されたマスク12を桟20と枠体18とで支えることができる。
【0046】
上記(4)の工程では、マスク12に張力をかけながらマスク12の開口領域14の位置をアライメントする。その状態で枠体18にマスク12を取り付ける。張力によるマスク12の伸びは20μm以下になるようにする。20μm以下とすることにより、画素をマトリクス状に高密度に配置した表示素子を作製するのに必要な寸法精度となるように、例えば、図8で示したような画素有効開口率が40%、170ppiの精細度の蒸着パターンに必要とされる位置ずれの偏差(ΔX)の許容値を満たすような寸法精度のマスク構造体10を、マスク12の張力と伸びを容易に制御しつつ、マスク12を所要の張力で寸法精度良くマスクフレーム16に固定したマスク構造体10を得ることができる。
【0047】
また、張力による枠体18の内側への変形量は3μm以下になるようにする。取り付け方としてはマスク12の端部の複数のポイントをスポット溶接する方法がある。3μm以下であることにより、マスクフレーム16にマスク12を所定の張力を保持しつつマスクフレーム16の枠体上面部分に固定した後にマスク12の張力によってマスクフレーム16が変形することによるマスク12の寸法変化が小さく無視できる程度のものとなる。
【0048】
上記(4)の工程では、マスクフレーム16の矯正をおこなう手段によって、マスクフレーム16を上下から挟持しながらマスク12の固定をおこなう。挟持はマスクフレーム16の長辺となる2辺でおこなう。挟持された2辺が同一平面上で平行になるようにする。マスクフレーム16で形成される仮想面の平坦度は±60μm(高低のレンジ120μm)以下になるようにする。
【0049】
以上、上記(1)、(2)の工程で、マスクフレーム16は一枚の板状体から製造されるため、マスクフレーム16の強度が高くゆがみが発生しにくくなる。したがって、真空蒸着時に蒸着不良が発生しにくくなる。
【0050】
次に、上記マスク構造体10を用いた蒸着方法について説明する。(1)上記マスク構造体10および基板を準備する。(2)マスク構造体10と基板とのアライメントをおこない、マスク構造体10を基板上に配置する。(3)図6に示すように、板状のマグネット26とマスク構造体10によって基板24を挟み込み、磁力によってマスク12を基板24に密着させる(マグネットチャック)。(4)真空チャンバー内で蒸発源からの蒸発物をマスク12の開口14aを介して基板24に堆積させる。なお、このような蒸着方法は、例えば、有機EL素子の発光層や電極層の形成に用いることができる。この場合、蒸発源に設置される材料は発光層や電極層を形成する有機材料や導電材料となる。
【0051】
上記(2)のアライメントは、マスク構造体10と基板24とにアライメントマークを設け、両方のアライメントマークをCCDカメラで撮影し、CCDカメラで得られたアライメントマークの位置のずれを算出し、算出された値を基に基板24の位置を調節する。
【0052】
上記(3)の工程によってマスク12が基板24に密着するため、上記(4)の工程で蒸着不良が発生しにくくなる。
【0053】
また、図7はマスク12の平坦性とマグネットチャック時の位置ずれを示した線図である。横軸はマスク12の平坦性としてマスク表面の高さのレンジ、縦軸はマスク12を基板24側にマグネットで吸引してマスク12と基板24とを密着した時のマスク12と基板24との相対的な位置ずれを示したものである。図7に示されるようにマスク12の平坦性とマグネットチャック時の位置ずれには相関があり、平坦度が±60μmつまり高さのレンジが120μm以下の場合には、マスク12と基板24との相対的な位置あわせを行った後にマスク12と基板24とを接触させてマグネットで吸引密着した際のマスク12と基板24との相対的な位置ずれを1μm程度以下に小さくすることができ、良好なアライメント状態で真空蒸着ができるので、寸法位置精度の高い良好な蒸着パターンを得ることができる。
【0054】
矯正されたマスクフレーム16で形成される仮想面の平坦度が±60μm(高低のレンジが120μm)以下である場合には、真空蒸着の際にマグネット26を用いてマスク12を基板24側に吸引して密着させた場合にマスク12と基板24との隙間を5μm程度以下と小さくすることができ、良好に密着させた状態で蒸着を行うことができ、寸法ずれやパターンボケが小さい良好な蒸着パターンを得ることができる。また、先述のようにマスク12と基板24との相対的な位置あわせを行った後にマスク12と基板24とを接触させてマグネット26で吸引密着しようとした際のマスク12と基板24との相対的な位置ずれを1μm程度以下に小さくすることができ、良好なアライメント状態で真空蒸着ができるので、寸法位置精度の高い良好な蒸着パターンを得ることができる。
【0055】
上記(4)の工程では、マスク構造体10の温度が上昇するが、桟20によってマスク構造体10が変形しにくくなっている。したがって、マスク12の開口領域14、開口14aの位置が所望の位置からずれが小さく、蒸着不良の発生が少ない。
【0056】
本発明は、大型の基板であっても、マスク12が桟20によって支えられることによって、マスク12が下方にたれ下がることがなく、マスク12と基板との間に隙間が発生しにくい。
【0057】
その他、本発明は、その主旨を逸脱しない範囲で当業者の知識に基づき種々の改良、修正、変更を加えた態様で実施できるものである。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明のマスクフレームにマスクが固定されたマスク構造体の上面図である。
【図2】図1のA−A線断面図である。
【図3】開口領域を示す図である。
【図4】図1の変形例を示すマスク構造体の上面図である。
【図5】桟(接続部材)を示す断面図である。
【図6】マスク構造体の上に基板を配置し、マグネットで固定したときの断面図である。
【図7】マスクの平坦性とマグネットチャック時の開口領域の位置ずれを示す図である。
【図8】170ppiの精細度となるような蒸着パターンを形成する場合に必要とされる蒸着パターンの幅の偏差(ΔW)と位置ずれの偏差(ΔX)の許容値を示した図である。
【図9】マスク−基板間ギャップと蒸着パターンの広がり、位置ずれを示す図である。
【符号の説明】
【0059】
10:マスク構造体
12:マスク
14:開口領域
14a:開口
16:マスクフレーム
18:枠体
20:桟(接続部材)
22:穴部
24:基板
26:マグネット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1以上の開口からなる開口領域を有するマスクと、
少なくとも互いに対向する一対の辺を有し、前記マスクに張力を印加した状態で該マスクの端部を固定する枠体、および、前記一対の辺を互いに接続し、前記開口領域同士の間の直下に配置される接続部材を有するマスクフレームと、
を備えたことを特徴とするマスク構造体。
【請求項2】
前記接続部材は前記マスクに接触していることを特徴とする請求項1に記載のマスク構造体。
【請求項3】
前記枠体と前記接続部材とが同一材料で一体的に形成されていることを特徴とする請求項1または2に記載のマスク構造体。
【請求項4】
前記マスクフレームは、互いに直交する複数の接続部材を有し、前記枠体と該接続部材の間または該接続部材同士の間の領域に形成される穴部が格子状に配置されることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載のマスク構造体。
【請求項5】
前記開口領域と前記穴部とがN(Nは1以上の整数)対1に対応していることを特徴とする請求項4に記載のマスク構造体。
【請求項6】
前記マスクは蒸着用マスクであり、かつ前記接続部材の断面形状は前記マスクより離れるにしたがって幅狭に形成されていることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載のマスク構造体。
【請求項7】
前記穴部の形成密度は前記マスクの長手方向よりも短手方向の方が大きいことを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載のマスク構造体。
【請求項8】
請求項1乃至7に記載のマスク構造体を基板上に配置する工程と、
蒸発源からの蒸発物を前記マスク構造体の前記開口領域を介して基板上に堆積させる工程と、
を含む蒸着方法。
【請求項9】
請求項1乃至7に記載のマスク構造体を基板上に配置する工程と、
蒸発源からの蒸発物を前記マスク構造体の前記開口領域を介して基板上に堆積させ、有機発光層及び/または電極層を形成する工程と、
を含む有機発光素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−244746(P2006−244746A)
【公開日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−55581(P2005−55581)
【出願日】平成17年3月1日(2005.3.1)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】