説明

マスタシリンダ

【課題】製造コストの増大を抑制することができるマスタシリンダの提供。
【解決手段】カップシール35は、シール溝30のシリンダ本体開口側に配置される環状のベース部90と、ベース部90の内周側および外周側からそれぞれシリンダ本体底部側に延びるリップ部91,92とが一体に形成され、ベース部90のシリンダ本体開口側の少なくとも径方向中間部に凹部95が形成され、凹部95には、カップシール35とシリンダ本体軸方向に並んでシール溝30に配置されるOリング99が埋設され、Oリング99の直径は、シリンダ本体軸方向におけるカップシール35とシール溝30との間の隙間よりも大きくなっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の制動用シリンダへ液圧を供給するマスタシリンダに関する。
【背景技術】
【0002】
マスタシリンダには、シール溝に配置されるカップシールの変形を抑制するため、カップシールの背面に突起を設け、この突起をカップシールの背面に対向するピストンガイドの凹所に嵌合させるものがある(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実開昭63−53862号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の構造では、カップシールの変形抑制のためにシール溝を複数の部材で形成する必要があり、シール溝を形成するためのコストが増大してしまう。
【0005】
したがって、本発明は、製造コストの増大を抑制することができるマスタシリンダの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明は、カップシールのベース部のシリンダ本体開口側の少なくとも径方向中間部に凹部を形成し、該凹部に、前記カップシールとシリンダ本体軸方向に並んでシール溝に配置されるOリングを埋設し、該Oリングの直径を、シリンダ本体軸方向における前記カップシールと前記シール溝との間の隙間よりも大きくした。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、製造コストの増大を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】一実施形態のマスタシリンダを示す断面図である。
【図2】一実施形態のマスタシリンダの要部を示す組み付け時の部分断面図である。
【図3】一実施形態のマスタシリンダに用いられる自由状態にあるカップシールおよびOリングを示す部分断面図である。
【図4】一実施形態のマスタシリンダの要部を示す部分断面図であって、正常なピストン戻し行程時を示すものである。
【図5】一実施形態のマスタシリンダの要部を示す部分断面図であって、ピストン押し行程にてカップシールが反転しようとした時の状態を示すものである。
【図6】一実施形態のマスタシリンダの要部を示す部分断面図であって、ピストン戻し行程にてカップシールが反転しようとした時の状態を示すものである。
【図7】一実施形態のマスタシリンダに用いられるカップシールの第1変形例を示すもので、(a)は部分断面図、(b)は部分背面図である。
【図8】一実施形態のマスタシリンダに用いられるカップシールの第2変形例を示すもので、(a)は部分断面図、(b)は部分背面図である。
【図9】一実施形態のマスタシリンダに用いられるカップシールの第3変形例を示すもので、(a)は部分断面図、(b)は部分背面図である。
【図10】一実施形態のマスタシリンダに用いられるカップシールの第4変形例を示すもので、(a)は部分断面図、(b)は部分背面図である。
【図11】一実施形態のマスタシリンダに用いられるカップシールの第5変形例を示すもので、(a)は部分断面図、(b)は部分背面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明に係る一実施形態のマスタシリンダを図面を参照して説明する。図1は、図示せぬブレーキブースタを介して導入されるブレーキペダルの操作量に応じた力でブレーキ液圧を発生させるマスタシリンダ11を示している。このマスタシリンダ11には、鉛直方向上側にブレーキ液を給排するリザーバ12が取り付けられている。なお、本実施形態においては、マスタシリンダ11に直接リザーバ12を取り付けているが、マスタシリンダ11から離間した位置にリザーバを配して配管で接続するようにしても良い。
【0010】
マスタシリンダ11は、底部13と筒部14とを有する有底筒状に一つの素材から加工されて形成されるとともに長手方向が車両前後方向に沿う姿勢で車両に配置されるシリンダ本体15を有している。このシリンダ本体15の開口部16側には、摺動可能に挿入されるプライマリピストン(ピストン)18が設けられている。また、このプライマリピストン18よりもシリンダ本体15の底部13側には、シリンダ本体15に摺動可能に挿入されるセカンダリピストン(ピストン)19が設けられている。プライマリピストン18およびセカンダリピストン19は、シリンダ本体15の筒部14の軸線(以下、シリンダ軸と称す)に直交する断面が円形状の摺動内径部20に摺動可能に案内される。プライマリピストン18およびセカンダリピストン19には、それぞれ底面を有する内周孔18a,19aが形成されており、マスタシリンダ11は、いわゆるプランジャ型のものとなっている。このように、本実施形態におけるマスタシリンダ11は、2つのピストンを有するタンデムタイプのものとなっている。なお、本発明は、上記タンデムタイプのマスタシリンダへの適用に限られるものではなく、プランジャ型のマスタシリンダであれば、シリンダ本体に1つのピストンを配したシングルタイプのマスタシリンダや、3つ以上のピストンを有するマスタシリンダ等のいかなるプランジャ型のマスタシリンダにも適用できるものである。
【0011】
シリンダ本体15には、筒部14の径方向(以下、シリンダ径方向と称す)外側に突出する取付台部22が筒部14の円周方向(以下、シリンダ円周方向と称す)における所定位置に一体に形成されている。この取付台部22には、リザーバ12を取り付けるための取付穴24,25が形成されている。なお、本実施形態においては、取付穴24,25は、互いにシリンダ円周方向における位置を一致させた状態でシリンダ軸方向における位置をずらして形成されている。
【0012】
シリンダ本体15の筒部14の取付台部22側には、ブレーキ液を図示せぬブレーキ装置に供給するための図示せぬブレーキ配管が取り付けられるセカンダリ吐出路26およびプライマリ吐出路27が形成されている。なお、本実施形態においては、これらセカンダリ吐出路26およびプライマリ吐出路27は、互いにシリンダ円周方向における位置を一致させた状態でシリンダ軸方向における位置をずらして形成されている。
【0013】
シリンダ本体15の摺動内径部20には、シリンダ軸方向における位置をずらして複数具体的には4カ所のいずれも円環状をなすシール溝30、シール溝31、シール溝32およびシール溝33が底部13側から順に形成されている。これらシール溝30〜33は、シリンダ円周方向に環状をなしてシリンダ径方向外側に凹む形状をなしており、いずれも全体が切削加工により形成されている。
【0014】
最も底部13側にあるシール溝30は、底部13側の取付穴24の近傍に形成されており、このシール溝30内に円環状のカップシール35が配置されている。
【0015】
シリンダ本体15におけるシール溝30よりも開口部16側には、底部13側の取付穴24から穿設される連通穴36を筒部14内に開口させるように、筒部14の摺動内径部20からシリンダ径方向外側に凹む環状の開口溝37が形成されている。ここで、この開口溝37と連通穴36とが、シリンダ本体15とリザーバ12とを連通可能に結ぶとともにリザーバ12に常時連通するセカンダリ補給路38を主に構成している。
【0016】
シリンダ本体15の摺動内径部20には、シリンダ円周方向における取付台部22側に、シール溝30内に開口するとともにシール溝30からシリンダ軸方向に直線状に底部13側に向け若干延出する連通溝41が、シリンダ径方向外側に凹むように形成されている。この連通溝41は、底部13とシール溝30との間であって底部13の近傍となる位置に形成されたセカンダリ吐出路26とシール溝30とを後述のセカンダリ圧力室68を介して連通させるものである。
【0017】
シリンダ本体15には、シリンダ軸線方向における上記開口溝37のシール溝30に対し反対側つまり開口部16側に、上記シール溝31が形成されており、このシール溝31内に、円環状の区画シール42が配置されている。
【0018】
シリンダ本体15のシール溝31よりも開口部16側であって開口部16側の取付穴25の近傍に、上記したシール溝32が形成されている。このシール溝32内には、シール溝32に保持されるように、円環状のカップシール45が配置されている。
【0019】
シリンダ本体15におけるこのシール溝32の開口部16側には、開口部16側の取付穴25から穿設される連通穴46を筒部14内に開口させるように、筒部14の摺動内径部20からシリンダ径方向外側に凹む環状の開口溝47が形成されている。ここで、この開口溝47と連通穴46とが、シリンダ本体15とリザーバ12とを連通可能に結ぶとともにリザーバ12に常時連通するプライマリ補給路48を主に構成している。
【0020】
シリンダ本体15の摺動内径部20のシール溝32の底部13側には、シリンダ円周方向における取付台部22側に、シール溝32に開口するとともにシール溝32からシリンダ軸方向に直線状に底部13側に向け若干延出する連通溝51が、シリンダ径方向外側に凹むように形成されている。この連通溝51は、シール溝31の近傍となる位置に形成されたプライマリ吐出路27とシール溝32とを後述するプライマリ圧力室85を介して連通させるものである。
【0021】
シリンダ本体15における上記開口溝47のシール溝32に対し反対側つまり開口部16側にシール溝33が形成されており、このシール溝33内に円環状の区画シール52が配置されている。
【0022】
シリンダ本体15の底部13側に嵌合されるセカンダリピストン19は、円筒部55と、円筒部55の軸線方向における一側に形成された底部56とを有する有底円筒状をなしている。上記内周孔19aは、これら円筒部55と底部56とにより形成されている。セカンダリピストン19は、円筒部55をシリンダ本体15の底部13側に配置した状態で、シリンダ本体15の摺動内径部20に設けられたカップシール35および区画シール42のそれぞれの内周に摺動可能に嵌合されている。また、円筒部55の底部56に対し反対側の端部の外周側には、他の部分よりも外径寸法が若干小さい環状の段部59が形成されている。この段部59には、その底部56側にシリンダ径方向に貫通するポート60が複数放射状に形成されている。
【0023】
セカンダリピストン19とシリンダ本体15の底部13との間には、図示せぬブレーキペダル側(図1における右側)から入力がない非制動状態でこれらの間隔を決めるセカンダリピストンスプリング62を含む間隔調整部63が設けられている。この間隔調整部63は、シリンダ本体15の底部13に当接する係止部材64と、セカンダリピストン19の底部56に当接する係止部材65と、係止部材64に一端部が固定されるとともに係止部材65を所定範囲内でのみ摺動自在に支持する軸部材66とを有している。上記セカンダリピストンスプリング62は、両側の係止部材64,65間に介装されている。
【0024】
ここで、シリンダ本体15の底部13および筒部14の底部13側とセカンダリピストン19とで囲まれて形成される部分が、ブレーキ液圧を発生してセカンダリ吐出路26にブレーキ液を供給するセカンダリ圧力室(圧力室)68となっている。このセカンダリ圧力室68は、セカンダリピストン19がポート60を開口溝37に開口させる位置にあるとき、セカンダリ補給路38に連通するようになっている。
【0025】
シリンダ本体15の底部13側のシール溝30に保持されるカップシール35は、シール溝30の開口部16側に配置される円環板状のベース部90と、ベース部90の内周側からベース部90の軸線方向にほぼ沿って底部13側に延出する円環状の内周リップ部(リップ部)91と、ベース部90の外周側から内周リップ部91と同じく底部13側に延出する円環状の外周リップ部(リップ部)92とを有する一体成形品であり、その中心線を含む径方向断面の片側形状がC字状をなしている。
【0026】
カップシール35は、内周リップ部91の内周がセカンダリピストン19の外周に摺接することになっている。このカップシール35により、セカンダリピストン19がポート60をカップシール35よりも底部13側に位置させた状態では、セカンダリ補給路38とセカンダリ圧力室68との間を密封可能、つまり、セカンダリ圧力室68と、セカンダリ補給路38およびリザーバ12との連通を遮断可能となっている。この状態で、セカンダリピストン19が、シリンダ本体15の摺動内径部20およびシリンダ本体15に保持されたカップシール35および区画シール42の内周で摺動することによって、セカンダリ圧力室68内のブレーキ液を加圧してセカンダリ吐出路26からブレーキ装置に供給することになる。
【0027】
なお、図示せぬブレーキペダル側から入力がなく、上述のセカンダリピストン19がポート60を開口溝37に開口させる位置(非制動位置)にあるときには、カップシール35のベース部90の内周側が上記セカンダリピストン19の段部59内で段部59に接触しない位置に配されるようになっている。そして、セカンダリピストン19がシリンダ本体15の底部13側へ移動してカップシール35のベース部90の内周側が段部59に当接することで、セカンダリ圧力室68とリザーバ12との連通が遮断されるようになっている。このようなっていることで、ピストンが移動し始めてから圧力室の圧力が発生するまでの、いわゆる無効ストロークの短縮化を図ることができる。
【0028】
シリンダ本体15の開口部16側に嵌合されるプライマリピストン18は、第1円筒部71と、第1円筒部71の軸線方向における一側に形成された底部72と、底部72の第1円筒部71に対し反対側に形成された第2円筒部73とを有する形状をなしている。上記内周孔18aは、これらのうちの第1円筒部71と底部72とにより形成されている。プライマリピストン18は、第1円筒部71をシリンダ本体15内のセカンダリピストン19側に配置した状態で、シリンダ本体15の摺動内径部20に設けられたカップシール45および区画シール52のそれぞれの内周に摺動可能に嵌合されている。ここで、第2円筒部73の内側には図示せぬブレーキブースタの出力軸が挿入され、この出力軸によって底部72が押圧されることになる。
【0029】
第1円筒部71の底部72に対し反対側の端部の外周側は、他の部分よりも外径寸法が若干小さい環状の凹部75が形成されている。さらに、第1円筒部71の凹部75には、その底部72側に径方向に貫通するポート76が複数放射状に形成されている。
【0030】
セカンダリピストン19とプライマリピストン18との間には、図示せぬブレーキペダル側(図1における右側)から入力がない非制動状態でこれらの間隔を決めるプライマリピストンスプリング78を含む間隔調整部79が設けられている。この間隔調整部79は、セカンダリピストン19の底部56に当接する係止部材81と、プライマリピストン18の底部72に当接する係止部材82と、係止部材82に一端部が固定されるとともに係止部材81を所定範囲内でのみ摺動自在に支持する軸部材83とを有している。上記プライマリピストンスプリング78は、両側の係止部材81,82間に介装されている。
【0031】
ここで、シリンダ本体15の筒部14の開口部16側とプライマリピストン18とセカンダリピストン19とで囲まれて形成される部分が、ブレーキ液圧を発生してプライマリ吐出路27にブレーキ液を供給するプライマリ圧力室(圧力室)85となっている。このプライマリ圧力室85は、プライマリピストン18がポート76を開口溝47に開口させる位置にあるとき、プライマリ補給路48に連通するようになっている。
【0032】
シリンダ本体15のシール溝32に保持されるカップシール45も、カップシール35と同様、シール溝32の開口部16側に配置される円環板状のベース部90と、ベース部90の内周側からベース部90の軸線方向にほぼ沿って底部13側に延出する円環状の内周リップ部91と、ベース部90の外周側から内周リップ部91と同じく底部13側に延出する円環状の外周リップ部92とを有する一体成形品であり、その中心線を含む径方向断面の片側形状がC字状をなしている。
【0033】
カップシール45は、内周リップ部91の内周がプライマリピストン18の外周に摺接することになっている。このカップシール45により、プライマリピストン18がポート76をカップシール45よりも底部13側に位置させた状態では、プライマリ補給路48とプライマリ圧力室85との間を密封可能、つまり、プライマリ圧力室85と、プライマリ補給路48およびリザーバ12との連通を遮断可能となっている。この状態で、プライマリピストン18が、シリンダ本体15の摺動内径部20およびシリンダ本体15に保持されたカップシール45および区画シール52の内周で摺動することによって、プライマリ圧力室85内のブレーキ液を加圧してプライマリ吐出路27からブレーキ装置に供給することになる。
【0034】
なお、図示せぬブレーキペダル側から入力がなく、上述のプライマリピストン18がポート76を開口溝47に開口させる位置(非制動位置)にあるときには、カップシール45のベース部90の内周側が上記プライマリピストン18の凹部75内で凹部75に接触しない位置に配されるようになっている。そして、プライマリピストン18がシリンダ本体15の底部13側へ移動してカップシール45のベース部90の内周側が凹部75に当接することで、プライマリ圧力室85とリザーバ12との連通が遮断されるようになっている。このようなっていることで、ピストンが移動し始めてから圧力室の圧力が発生するまでの、いわゆる無効ストロークの短縮化を図ることができる。
【0035】
ここで、図1に示されるシリンダ本体15のシール溝30の近傍部分、カップシール35およびセカンダリピストン19のカップシール35の摺接部分とからなるセカンダリ側のシール構造部SSと、シリンダ本体15のシール溝32の近傍部分、カップシール45およびプライマリピストン18のカップシール45の摺接部分とからなるプライマリ側のシール構造部SPとは、同様の構造となっており、以下においては、これらの詳細を、セカンダリ側のシール構造部SSを例にとり、主に図2〜図6を参照して説明する。
【0036】
シール溝30は、最もシリンダ径方向外側にあってシリンダ軸方向に沿う円筒状の溝底部30aと、溝底部30aのシリンダ本体底部13側(図2における左側)の端縁部の位置でシリンダ軸方向に直交する環状壁30bと、溝底部30aのシリンダ本体開口部16側(図2における右側)の端縁部の位置でシリンダ軸方向に直交する環状壁30cとを有している。これら溝底部30a、環状壁30bおよび環状壁30cは、シリンダ本体15に一体的に形成されており、すべてシリンダ本体15に対する切削加工により形成されている。
【0037】
カップシール35は、内周リップ部91の内周面91aにて、セカンダリピストン19の外周面19bに摺接することになり、ベース部90のシリンダ本体開口部16側の背面90aにて、その背後にあるシール溝30の環状壁30cに対向し、外周リップ部92の外周面92aにて、シール溝30の溝底部30aに当接する。
【0038】
カップシール35には、そのベース部90の背面90aの径方向中間部に、ベース部90と同軸状をなして軸方向に凹む円環溝からなる凹部95が形成されている。これにより、ベース部90には、凹部95の径方向外側にシリンダ本体開口部16側に突出する円環状の凸部96が形成されており、凹部95の径方向内側にシリンダ本体開口部16側に突出する円環状の凸部97が形成されている。よって、凹部95は、径方向の内外両側が閉塞され、軸方向一側のみ外側に開放されている。凹部95は、ベース部90の背面90aの外周リップ部92側に近接して形成されている。
【0039】
そして、カップシール35の凹部95には、中心線を含む径方向断面の片側形状が円形状をなすOリング99が埋設されている。このOリング99は、凹部95に埋設されることで、カップシール35とシリンダ本体15の軸方向に並んでシール溝30に配置されている。
【0040】
ここで、図3に示すように、自然状態における、カップシール35の軸方向長さをLcup、凹部95の深さをHcup、凹部95の小側の内径(凸部97の外径)をDcup1、凹部95の大側の外径(凸部96の内径)をDcup2とし、自然状態における、Oリング99の軸方向長さつまり直径をHring、内径をDring1、外径をDring2とし、図2に示すように、シール溝30の軸方向幅(環状壁30b,30c間の距離)をLmizoとすると、カップシール35、Oリング99およびシール溝30は、以下の関係を満足する寸法関係に設定されている。
【0041】
Hcup>Hring
Dcup1<Dring1
Dcup2>Dring2
Lmizo>Lcup
Hring>(Lmizo−Lcup)
【0042】
ここで、Lmizo−Lcupは、シリンダ本体15の軸方向におけるカップシール35とシール溝30との間の隙間であり、Oリング99の直径Hringは、この隙間よりも大きくなっている。
【0043】
そして、セカンダリピストン19がシリンダ本体底部13側(図2における左側)に移動するピストン押し行程において、セカンダリピストン19がカップシール35に対して円滑に摺動している状態では、Oリング99は凹部95の中から外へ移動するような力を外部から受けることがなく、Oリング99は凹部95内でカップシール35と一体に変形することになり、カップシール35がOリング99および凹部95がない状態と同様の働きをする。このピストン押し行程では、カップシール35の外周リップ部92の外周面92aがシール溝30の溝底部30aに密着し、カップシール35の内周リップ部91の内周面91aがセカンダリピストン19の外周面19bに密着して、シリンダ本体15とセカンダリピストン19との隙間を密封して、図1に示す大気圧のリザーバ12およびセカンダリ補給路38へのセカンダリ圧力室68からの液圧の逃げを規制する。
【0044】
また、セカンダリピストン19がシリンダ本体開口部16側(図2における右側)に移動するピストン戻し行程において、セカンダリピストン19がカップシール35に対して円滑に摺動している状態では、Oリング99は凹部95の中から外へ移動するような力を外部から受けることがなく、ピストン押し行程と同様、カップシール35と一体に変形することになり、カップシール35がOリング99および凹部95がない状態と同様の働きをする。このピストン戻し行程では、図1に示すセカンダリ圧力室68が負圧となることから、図4に示すように、カップシール35の外周リップ部92の外周面92aがシール溝30の溝底部30aから離間して、シリンダ本体15とセカンダリピストン19との隙間を介して図1に示す大気圧のリザーバ12およびセカンダリ補給路38からセカンダリ圧力室68への液補給を可能とする。
【0045】
また、図5に矢印A1で示すように、セカンダリピストン19がシリンダ本体底部13側に移動するピストン押し行程において、引っ掛かりや付着等の何らかの理由で摩擦係数が高くなって、セカンダリピストン19がカップシール35に対して円滑に摺動できない状態になると、カップシール35の内周リップ部91がセカンダリピストン19とともに移動しようとしてシリンダ本体底部13側(図5の左側)に引っ張られ、これに伴ってベース部90が径方向内側に変形を開始する。つまり、カップシール35に図5にR1で示す反転する方向の力が生じる。すると、カップシール35の凹部95が径方向内側に移動しようとしてその外径が縮小し全体として窄まるような変形をすることになる。このカップシール35の反転開始直後は、凹部95内に嵌合するようにセットされているOリング99も外径が縮小するように変形する。
【0046】
そして、カップシール35の反転がさらに進み、凹部95が径方向内側にさらに移動すると、Oリング99の内部に蓄えられていく、径縮小による圧縮の弾性エネルギが増大し、この弾性エネルギによってOリング99には、図5にf1で示すように元の径に戻ろうとする復元力が働く。このとき、Oリング99とシール溝30との間には、液補給のためのシリンダ本体15の軸方向の隙間が形成されているため、Oリング99は復元力によって凹部95からこの隙間の方向へ環状壁30cに接触するまで移動する。Oリング99は、直径が、シリンダ本体15の軸方向におけるカップシール35とシール溝30との間の隙間よりも大きくなっているため、図5に示すように環状壁30cに接触すると、凹部95と環状壁30cとの間に止まり、その復元力を凹部95の径方向内側への移動を拘束する方向に作用させることになり、カップシール35の反転を規制する。
【0047】
また、図6に矢印A2で示すように、セカンダリピストン19がシリンダ本体開口部16側に移動するピストン戻し行程において、セカンダリピストン19がカップシール35に対して円滑に摺動しない状態になると、カップシール35の内周リップ部91がセカンダリピストン19とともに移動しようとしてシリンダ本体開口部16側(図6の右側)に引っ張られ、これに伴ってベース部90が径方向外側に変形を開始する。つまり、カップシール35にピストン押し行程とは逆向きの図6にR2で示す反転する方向の力が生じる。すると、カップシール35の凹部95が径方向外側に移動しようとしてその内径が拡大することになる。このカップシール35の反転開始直後は、凹部95内に嵌合するようにセットされているOリング99も内径が拡大するように変形する。
【0048】
そして、カップシール35の反転がさらに進み、凹部95が径方向外側にさらに移動すると、Oリング99の内部に蓄えられていく、径拡大による引っ張りの弾性エネルギが増大し、この弾性エネルギによってOリング99には、図6にf2で示すように元の径に戻ろうとする復元力が働く。Oリング99はこの復元力によって凹部95から、Oリング99とシール溝30との間のシリンダ本体15の軸方向の隙間の方向へ環状壁30cに接触するまで移動する。Oリング99は、直径が、シリンダ本体15の軸方向におけるカップシール35とシール溝30との間の隙間よりも大きくなっているため、図6に示すように環状壁30cに接触すると、凹部95と環状壁30cとの間に止まり、その復元力を凹部95の径方向外側への移動を拘束する方向に作用させることになり、カップシール35の反転を規制する。
【0049】
このように、カップシール35のベース部90のシリンダ本体開口部16側の径方向中間部に凹部95が形成され、この凹部95に、カップシール35とシリンダ本体15の軸方向に並んでシール溝30に配置されるOリング99が埋設され、このOリング99の直径が、シリンダ本体15の軸方向におけるカップシール35とシール溝30との間の隙間よりも大きくなっている。このため、シール溝30の全体をシリンダ本体15への切削加工により形成するようにしても、Oリング99でカップシール35の反転を規制することができる。したがって、製造コストの増大を抑制しつつマスタシリンダの信頼性を向上することができる。
【0050】
なお、リザーバ12からセカンダリ圧力室68への液補給時の補給性を向上させるために、図7に示す第1変形例のカップシール135のように、凸部196を、円周方向に断続的に形成される円弧状の複数の凸部196Aにより構成し、隣り合う凸部196Aの間に径方向に貫通する通路溝196Bを形成するとともに、凸部197を、円周方向に断続的に形成される円弧状の複数の凸部197Aにより構成し、隣り合う凸部197Aの間に径方向に貫通する通路溝197Bを形成しても良い。
【0051】
つぎに、以上の説明では、カップシール35のベース部90のシリンダ本体開口部16側に、径方向の内外両側が閉塞され軸方向のシリンダ本体開口部16側が外側に開放されている凹部95,195を有する場合を例にとり説明した。しかし、カップシールは、そのベース部のシリンダ本体開口部16側の少なくとも径方向中間部にベース部端面よりも軸方向に凹んだ部部分が形成されていれば良い。
【0052】
例えば、図8に示す第2変形例のカップシール235のように、凹部295が、径方向の外側が閉塞され径方向内側および軸方向のシリンダ開口部16側が外側に開放される形状をなしていても良い。言い換えれば、凹部295は径が縮小する方向に広げられた形状であり、ベース部290の内周側の凸部297は形成されず、ベース部290の外周側にシリンダ本体開口部16側に突出する円環状の凸部296が形成された形状となっている。凹部295は、上記したDcup1に関連する関係式以外を満たすことにより、Oリング99によってピストン押し行程での反転を防止できることになる。
【0053】
この場合、リザーバ12からセカンダリ圧力室68への液補給時の補給性を向上させるために、図9に示す第3変形例のカップシール335のように、凸部396を、円周方向に断続的に形成される円弧状の複数の凸部396Aにより構成し、隣り合う凸部396Aの間に径方向に貫通する通路溝396Bを形成しても良い。
【0054】
また、図10に示す第4変形例のカップシール435のように、凹部495が、径方向の内側が閉塞され径方向外側および軸方向のシリンダ開口部16側が外側に開放される形状をなしていても良い。言い換えれば、凹部495は径が拡大する方向に広げられた形状であり、ベース部490の外周側の凸部496は形成されず、ベース部490の内周側にシリンダ本体開口部16側に突出する円環状の凸部497が形成された形状となっている。凹部495は、上記したDcup2に関連する関係式以外を満たすことにより、Oリング99によってピストン戻し行程での反転を防止できることになる。
【0055】
この場合も、リザーバ12からセカンダリ圧力室68への液補給時の補給性を向上させるために、図11に示す第5変形例のカップシール535のように、凸部597を、円周方向に断続的に形成される円弧状の複数の凸部597Aにより構成し、隣り合う凸部597Aの間に径方向に貫通する通路溝597Bを形成しても良い。
【0056】
なお、以上においては、セカンダリ側のシール構造部SSを例にとり説明したが、プライマリ側のシール構造部SPも、同様の構造となっているため、同様の効果を奏することができる。
【符号の説明】
【0057】
11 マスタシリンダ
15 シリンダ本体
18 プライマリピストン(ピストン)
19 セカンダリピストン(ピストン)
30,32 シール溝
35,45,135,235,335,435,535 カップシール
68 セカンダリ圧力室(圧力室)
85 プライマリ圧力室(圧力室)
90 ベース部
91 内周リップ部(リップ部)
92 外周リップ部(リップ部)
95 凹部
99 Oリング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有底筒状のシリンダ本体に形成された環状のシール溝内に保持されるカップシールの内周でピストンが摺動し、該ピストンと前記シリンダ本体とで形成される圧力室でブレーキ液圧を発生するマスタシリンダにおいて、
前記カップシールは、前記シール溝のシリンダ本体開口側に配置される環状のベース部と、該ベース部の内周側および外周側からそれぞれシリンダ本体底部側に延びるリップ部とが一体に形成され、
前記ベース部のシリンダ本体開口側の少なくとも径方向中間部に凹部が形成され、
該凹部には、前記カップシールとシリンダ本体軸方向に並んで前記シール溝に配置されるOリングが埋設され、
該Oリングの直径は、シリンダ本体軸方向における前記カップシールと前記シール溝との間の隙間よりも大きくなっていることを特徴とするマスタシリンダ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−71753(P2012−71753A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−219255(P2010−219255)
【出願日】平成22年9月29日(2010.9.29)
【出願人】(509186579)日立オートモティブシステムズ株式会社 (2,205)
【Fターム(参考)】