説明

マルチアンテナ通信装置およびセル選択方法

【課題】 回路規模の増大を防止しつつ高速セル選択を実行し、スループットを確実に改善してセルカバレッジを拡大すること。
【解決手段】 セル分離部104は、逆拡散信号を接続セルの信号と観測セルの信号とに分離する。接続セル受信処理部105は、接続セルの信号に対する受信処理の過程で特異値分解処理を行うとともに、接続セルのチャネル容量を算出する。観測セル受信処理部106は、観測セルの信号に対して受信処理を施し、観測セルのチャネル容量を算出する。観測セルに関しては、総受信電力が高いサンプリングタイミングについてのみチャネル容量を算出する。セル選択部107は、接続セルのチャネル容量および観測セルのチャネル容量を大小比較し、チャネル容量が大きいセルの基地局装置を通信相手の基地局装置とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マルチアンテナ通信装置およびセル選択方法に関し、特に、セルの境界付近に位置する際にスロットなどの短時間周期で通信相手となる基地局装置を選択するマルチアンテナ通信装置およびセル選択方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、移動局装置が複数のセルの境界付近の領域に位置する際に、通信相手となる基地局装置を瞬時の受信レベル変動に応じて、例えばスロットなどの短時間周期で高速に切り替える高速セル選択(FCS:Fast Cell Selection)を行うことが検討されている(例えば非特許文献1参照)。
【0003】
図13(a)は、FCSによるセルの選択動作の例を示す図である。同図に示すように、移動局装置10は、基地局装置20および基地局装置30を先頭スロット40から順に通信相手を切り替えている。
【0004】
具体的には、移動局装置10は、基地局装置20および基地局装置30から送信されている共通パイロットチャネルの信号(以下、「共通パイロット信号」という)を受信し、受信SIR(Signal to Interference Ratio:信号波対干渉波比)を測定する。この測定結果を図13(b)に示す。同図においては、実線が基地局装置20からの信号の受信SIRを示し、点線が基地局装置30からの信号の受信SIRを示している。
【0005】
そして、移動局装置10は、スロットごとに受信SIRが大きい基地局装置を選択し、選択された基地局装置(以下、「選択基地局装置」という)に関する情報を基地局装置20および基地局装置30へ送信する。ここで、スロットごとの選択基地局装置を図13(b)の下段に実線(すなわち基地局装置20)および点線(すなわち基地局装置30)で示す。
【0006】
基地局装置20および基地局装置30は、選択基地局装置に関する情報を移動局装置10から受信し、スロットごとの選択基地局装置がそれぞれ図13(a)に斜線で示すスロットで個別チャネルや高速パケットチャネルなどのデータ信号(以下、「個別データ信号」という)を送信する。
【0007】
このようにセルの境界付近の領域に位置する移動局装置10が短時間周期で選択基地局装置を切り替える(すなわち、セルを選択する)ことにより、移動局装置10における受信品質およびスループットを改善することができる。
【0008】
一方、スループットを改善する技術としては、MIMO(Multi Input Multi Output)通信なども盛んに検討されている。MIMO通信においては、複数の送受信アンテナ間で異なるデータ系列を同時に伝送することにより、高い伝送レートを実現することができる(例えば非特許文献2参照)。
【非特許文献1】"Physical layer aspects of UTRA High Speed Downlink Packet Access"(6.4節)、3GPP TR25.848 V4.4.0(2001-03)
【非特許文献2】「MIMOシステムにおける信号処理」、北海道大学、2003年電子情報通信学会ソサイエティ大会TB−2−3、2003年9月
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、MIMO通信においては、上述したようなFCSによって選択基地局装置を切り替えても、必ずしも受信品質およびスループットを改善することができるとは限らない。
【0010】
すなわち、互いに相関が低い複数のパスを用いて信号を伝送するMIMO通信においては、受信信号中にすべてのパスの信号が混在しているため、各パスの信号が互いに弱め合ったり強め合ったりすることがある。したがって、単に受信信号の受信SIRを基準として基地局装置を選択しても、受信品質やスループットの改善が図られないことがあるという問題がある。そして、受信品質やスループットの改善が図られなければ、目標とするスループットを達成することができる基地局装置からの距離が大きくならず、結果として各基地局装置がカバーする領域(以下、「セルカバレッジ」という)の拡大が困難となる。
【0011】
さらに、MIMO通信においては、空間多重された信号を受信側で分離するため、複雑な受信処理が行われる。このため、高速セル選択に要する回路規模の増大を最低限に抑制するのが望ましい。
【0012】
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、回路規模の増大を防止しつつ高速セル選択を実行し、スループットを確実に改善してセルカバレッジを拡大することができるマルチアンテナ通信装置およびセル選択方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明に係るマルチアンテナ通信装置は、現在の時間単位における通信相手がカバーする接続セルの信号および前記接続セルに隣接する観測セルの信号を所定のサンプルタイミングで複数のアンテナを介してサンプリングする受信手段と、前記接続セルの信号を用いて前記接続セルのチャネル容量を算出する第1算出手段と、前記観測セルの信号がサンプリングされる複数のサンプルタイミングから1以上のサンプルタイミングを選択するタイミング選択手段と、選択されたサンプルタイミングを対象として前記観測セルのチャネル容量を算出する第2算出手段と、前記接続セルのチャネル容量および前記観測セルのチャネル容量を比較し、チャネル容量が最大のセルを次の時間単位における接続セルとして選択するセル選択手段と、を有する構成を採る。
【0014】
本発明に係るセル選択方法は、現在の時間単位における通信相手がカバーする接続セルの信号および前記接続セルに隣接する観測セルの信号を所定のサンプルタイミングで複数のアンテナを介してサンプリングするステップと、前記接続セルの信号を用いて前記接続セルのチャネル容量を算出するステップと、前記観測セルの信号がサンプリングされる複数のサンプルタイミングから1以上のサンプルタイミングを選択するステップと、選択されたサンプルタイミングを対象として前記観測セルのチャネル容量を算出するステップと、前記接続セルのチャネル容量および前記観測セルのチャネル容量を比較し、チャネル容量が最大のセルを次の時間単位における接続セルとして選択するステップと、を有するようにした。
【0015】
これらによれば、接続セルのチャネル容量を算出するとともに、観測セルの信号のサンプルタイミングから1以上のサンプルタイミングを選択して観測セルのチャネル容量を算出し、チャネル容量が最大のセルを次の接続セルとするため、観測セルのチャネル容量算出に必要とする処理量を削減することができ、回路規模の増大を防止しつつ高速セル選択を実行し、スループットを確実に改善してセルカバレッジを拡大することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、回路規模の増大を防止しつつ高速セル選択を実行し、スループットを確実に改善してセルカバレッジを拡大することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明の骨子は、受信信号のサンプリング区間から受信電力が高いサンプルタイミングを選択し、選択されたサンプリングタイミングのみの信号を用いてMIMO通信に利用可能な互いに独立したパスが多いセルの基地局装置を選択することである。
【0018】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0019】
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1に係る移動体通信システムの構成の一例を示す図である。同図に示すように、基地局装置200がカバーするセル200aと基地局装置300がカバーするセル300aとの境界付近の領域に位置するマルチアンテナ通信装置100は、基地局装置200および基地局装置300双方の複数のアンテナから送信される共通パイロットチャネルの信号(共通パイロット信号)を受信している。また、マルチアンテナ通信装置100は、例えばスロットなどの短い時間単位ごとに基地局装置200および基地局装置300のいずれか一方を通信相手として切り替えている。
【0020】
図2は、本実施の形態に係るマルチアンテナ通信装置100の要部構成を示すブロック図である。図2に示すマルチアンテナ通信装置100は、RF(Radio Frequency:無線周波数)受信部101−1、101−2、パスサーチ部102、逆拡散部103−1、103−2、セル分離部104、接続セル受信処理部105、観測セル受信処理部106、セル選択部107、多重部108、誤り訂正符号化部109、変調部110、拡散部111−1、111−2、およびRF送信部112−1、112−2を有している。なお、本実施の形態においては、マルチアンテナ通信装置100が2本のアンテナを有する構成としているが、アンテナが3本以上の場合は、RF受信部、逆拡散部、拡散部、およびRF送信部の各処理部がアンテナに対応して設けられる構成となる。
【0021】
RF受信部101−1、101−2は、所定のサンプリングレートのサンプルタイミングで受信信号をサンプリングし、受信信号に対して所定の無線受信処理(ダウンコンバート、A/D変換など)を施す。
【0022】
パスサーチ部102は、複数のパスからRF受信部101−1、101−2に受信される信号の到来方向を推定して分離するパスサーチを行う。
【0023】
逆拡散部103−1、103−2は、パスサーチの結果から、各セルに対応した拡散符号およびスクランブリング符号を用いて各パスの信号を逆拡散し、得られた逆拡散信号をセル分離部104へ出力する。
【0024】
セル分離部104は、逆拡散信号をセルごとの信号に分離する。具体的には、セル分離部104は、現在マルチアンテナ通信装置100の通信相手となっている基地局装置のセル(以下、「接続セル」という)の信号と、接続セルに隣接しておりマルチアンテナ通信装置100の位置付近に接続セルとの境界があるセル(以下、「観測セル」という)の信号とに逆拡散信号を分離する。なお、セル分離部104は、複数の観測セルがある場合には、逆拡散信号をそれぞれの観測セルの信号に分離する。
【0025】
接続セル受信処理部105は、接続セルの信号に対して受信処理を施し、受信データを出力する。また、接続セル受信処理部105は、接続セルの信号から無線品質を測定し、無線品質情報を多重部108へ出力する。さらに、接続セル受信処理部105は、接続セルの信号に対する受信処理の過程で特異値分解処理を行うとともに、接続セルのチャネル容量を算出してセル選択部107へ出力する。
【0026】
ここで、特異値とは、MIMO通信において空間多重された信号が伝送される独立したパスごとの受信品質を示す指標であり、特異値分解処理とは、MIMO通信における受信処理の過程で、チャネル推定結果を用いて独立したパスごとの特異値を算出する処理のことをいう。また、チャネル容量とは、各セルがMIMO通信を行うのに適しているか否かを示す指標である。MIMO通信においては、互いに相関が無く受信品質が高い独立したパスが多いほど、空間多重された信号を受信側で分離できる可能性が高くなる。したがって、特異値が大きいパスが多いセルほどチャネル容量が大きくなり、MIMO通信に適したセルと言える。なお、特異値、チャネル容量、および接続セル受信処理部105の詳細な構成については、後に詳述する。
【0027】
観測セル受信処理部106は、観測セルの信号に対して受信処理を施し、観測セルのチャネル容量を算出してセル選択部107へ出力する。ここで、観測セルの基地局装置はマルチアンテナ通信装置100の通信相手ではないため、観測セル受信処理部106は、観測セルにおける共通パイロット信号に対する受信処理を施す。また、観測セルに関しては、サンプリングされた共通パイロット信号の全区間を対象としてチャネル容量を求めるのではなく、総受信電力が高いサンプリングタイミングについてのみチャネル容量を算出する。このため、観測セル受信処理部106におけるチャネル容量算出の処理負荷を軽減することができる。なお、観測セル受信処理部106の詳細な構成については、後に詳述する。
【0028】
セル選択部107は、接続セルのチャネル容量および観測セルのチャネル容量を大小比較し、チャネル容量が大きいセルの基地局装置を通信相手の基地局装置(選択基地局装置)とする。すなわち、セル選択部107は、チャネル容量が最大のセルを次の時間単位における接続セルとする。そして、セル選択部107は、選択基地局装置に関するセル選択情報を多重部108へ出力する。
【0029】
多重部108は、セル選択情報、無線品質情報、および送信データなどを多重し、得られた多重データを誤り訂正符号化部109へ出力する。
【0030】
誤り訂正符号化部109は、多重データを誤り訂正符号化し、得られた符号化データを変調部110へ出力する。
【0031】
変調部110は、符号化データを変調し、得られた変調データを拡散部111−1、111−2へ出力する。
【0032】
拡散部111−1、111−2は、変調データを拡散し、得られた拡散信号をRF送信部112−1、112−2へ出力する。
【0033】
RF送信部112−1、112−2は、拡散信号に対して所定の無線送信処理(D/A変換、アップコンバートなど)を施し、それぞれ対応するアンテナから送信する。
【0034】
図3は、本実施の形態に係る接続セル受信処理部105の内部構成を示すブロック図である。
【0035】
チャネル推定部1051は、接続セルの共通パイロット信号を用いて送受信側のアンテナ対に対応するパスごとのチャネル推定を行う。ここで、マルチアンテナ通信装置100(受信側)のアンテナ数をMR本、基地局装置200および基地局装置300(送信側)のアンテナ数をMT(≧MR)本とすれば、チャネル推定の結果として、RF受信部101−1、101−2におけるサンプルタイミングごとにサイズがMR×MTのチャネル行列が得られる。すなわち、サンプルタイミングiに対応する基地局装置からの送信信号ベクトルをxi(t)、伝搬路における雑音信号ベクトルをni(t)とすれば、マルチアンテナ通信装置100におけるサンプルタイミングiの受信信号ベクトルri(t)は、チャネル行列Aiを用いて以下の式(1)のように表すことができる。
【0036】
i(t)=Aii(t)+ni(t) ・・・(1)
チャネル推定部1051は、接続セルについて上式(1)を満たすサンプルタイミングごとのチャネル行列Aiを求める。なお、基地局装置200のアンテナ数と基地局装置300のアンテナ数とは異なっていても良いが、ここでは説明の便宜上、いずれの基地局装置もMT個のアンテナを有しているものとする。
【0037】
復調部1052は、特異値分解処理部1052aを有しており、接続セルの個別データ信号を復調する。復調部1052は、送信側(基地局装置200または基地局装置300)における変調方式に対応した復調を行うとともに、復調後の個別データ信号を誤り訂正復号部1053および無線品質測定部1055へ出力する。特異値分解処理部1052aは、復調の過程でチャネル行列Aiを用いた特異値分解処理を行い、すべてのサンプルタイミングの信号に関して、接続セルにおける独立したパスごとの特異値を算出する。具体的には、特異値分解処理部1052aは、サンプルタイミングiにおける接続セルの独立したパスごとの特異値を以下の式(2)によって算出する。
【0038】
【数1】

上式(2)において、AiHはチャネル行列Aiの共役転置行列、Uiは固有ベクトルを並べて得られるユニタリ行列、UiHはユニタリ行列Uiの共役転置行列を示している。また、diag()は対角行列を示しており、上式(2)においては行列Λiの対角成分にMR個の特異値λi,1〜λi,MRが現れている。なお、ここではMT≧MRと仮定したため、MR個の特異値が求められるが、MT<MRの場合は、MT個の特異値が求められる。
【0039】
誤り訂正復号部1053は、復調後の個別データ信号を送信側(基地局装置200または基地局装置300)における符号化率に対応して誤り訂正復号し、誤り訂正復号後の個別データ信号を分離部1054へ出力する。
【0040】
分離部1054は、誤り訂正復号後の個別データ信号を受信データと送信側(基地局装置200または基地局装置300)における変調方式および符号化率を示す無線リソース割当情報とに分離し、受信データを出力するとともに無線リソース割当情報を復調部1052および誤り訂正復号部1053へ出力する。
【0041】
無線品質測定部1055は、接続セルの共通パイロット信号を用いて接続セルにおける無線品質を測定し、無線品質情報を多重部108へ出力する。
【0042】
特異値加工部1056は、サンプルタイミングごと、かつ独立したパスごとに求められた特異値を加工し、それぞれの独立したパスを代表する特異値を算出する。すなわち、特異値加工部1056は、例えばN個のサンプルタイミング1〜Nに関して求められたすべての特異値λ1,1〜λ1,MR、λ2,1〜λ2,MR、・・・、λi,1〜λi,MR、・・・、λN,1〜λN,MRについて、独立したパスjごとの特異値λ1,j〜λN,jの和を総サンプルタイミング数Nで除算して平均値を求めることにより、それぞれの独立したパスを代表する特異値λ1〜λMRを算出する。これにより、1つの独立したパスjには、1つの特異値λjが対応することになる。
【0043】
チャネル容量算出部1057は、特異値加工部1056によって求められた独立したパスごとの特異値λ1〜λMRを所定の閾値と比較し、所定の閾値以上の特異値の数を接続セルのチャネル容量として算出する。上述したように、特異値は、MIMO通信において独立したパスそれぞれの受信品質を示している。そして、MIMO通信においては、受信品質が高いパスが多いほど、複数のアンテナから同時に送信された信号を正確に分離することができるため、所定の閾値以上の特異値の数が多いほど、スループットが高いことになる。チャネル容量算出部1057は、算出した接続セルのチャネル容量(すなわち、所定の閾値以上の特異値の数)をセル選択部107へ出力する。
【0044】
図4は、本実施の形態に係る観測セル受信処理部106の内部構成を示すブロック図である。
【0045】
チャネル推定部1061は、観測セルの共通パイロット信号を用いて送受信側のアンテナ対に対応するパスごとのチャネル推定を行い、観測セルのチャネル行列を求める。
【0046】
タイミング選択部1062は、チャネル推定部1061によるチャネル推定結果から、マルチアンテナ通信装置100(受信側)のアンテナと観測セルの基地局装置(送信側)のアンテナとの各アンテナ対におけるサンプルタイミングごとの受信電力を算出し、すべてのアンテナ対の総受信電力が所定の閾値以上であるサンプルタイミングを特異値分解処理用のサンプルタイミングとして選択する。すなわち、タイミング選択部1062は、1サンプルタイミングについて、MR本の受信側のアンテナにおいてそれぞれ受信されるMT本の送信側のアンテナからの信号の受信電力(すなわち、1サンプルタイミングについてMR×MT通りの受信電力)を加算してサンプルタイミングごとの総受信電力を算出し、総受信電力が所定の閾値以上のサンプルタイミングを選択する。
【0047】
接続セルの信号とは異なり観測セルの信号としては、共通パイロット信号のみが受信されており、復調が行われないので、観測セルの信号の受信処理の段階で特異値分解処理が行われることはない。したがって、観測セルについては、セル選択のためだけに特異値分解処理を行う必要がある。このとき、上述したように所定の閾値以上のサンプルタイミングを選択し、このサンプルタイミングについてのみ特異値分解処理を行うことにより、特異値分解処理の処理負荷を軽減することができる。
【0048】
また、総受信電力が所定の閾値以上のサンプルタイミングに関しては、チャネル行列が正確に求められているため、特異値分解処理の結果も正確になると考えられる。結果として、観測セルのチャネル容量を少ない処理量で正確に算出することができる。
【0049】
なお、タイミング選択部1062は、総受信電力が所定の閾値以上のサンプルタイミングを選択するのではなく、総受信電力が高い方から所定数のサンプルタイミングを選択しても良い。この場合には、特異値分解処理の対象とするサンプルタイミングの数が常に一定であり、全体的に受信電力が低い場合でも、特異値分解処理の対象とするサンプルタイミングが確実に選択される。
【0050】
パス合成部1063は、選択されたサンプルタイミングに対応するパスの信号を合成した場合のチャネル行列を求め、このチャネル行列を特異値分解処理部1064へ出力する。
【0051】
特異値分解処理部1064は、パス合成部1063から出力されたチャネル行列を用いて接続セルと同様に式(2)による特異値分解処理を行い、タイミング選択部1062によって選択されたサンプルタイミングのみに関して、観測セルにおける独立したパスごとの特異値を算出する。
【0052】
チャネル容量算出部1065は、特異値分解処理部1064から出力された独立したパスごとの特異値を所定の閾値と比較し、所定の閾値以上の特異値の数を観測セルのチャネル容量として算出する。
【0053】
図5は、本実施の形態に係る基地局装置200の要部構成を示すブロック図である。図5に示す基地局装置200は、RF受信部201−1、201−2、パスサーチ部202、逆拡散部203−1、203−2、復調部204、誤り訂正復号部205、分離部206、リソース割当部207、送信制御部208、多重部209、誤り訂正符号化部210、変調部211、拡散部212−1、212−2、およびRF送信部213−1、213−2を有している。なお、基地局装置300も基地局装置200と同様の構成を有している。
【0054】
RF受信部201−1、201−2は、それぞれ対応するアンテナから信号を受信し、受信信号に対して所定の無線受信処理(ダウンコンバート、A/D変換など)を施す。
【0055】
パスサーチ部202は、複数のパスからRF受信部201−1、201−2に受信される信号の到来方向を推定して分離するパスサーチを行う。
【0056】
逆拡散部203−1、203−2は、パスサーチの結果から各パスの信号を逆拡散し、得られた逆拡散信号を復調部204へ出力する。
【0057】
復調部204は、逆拡散信号を復調し、得られた復調信号を誤り訂正復号部205へ出力する。
【0058】
誤り訂正復号部205は、復調信号を誤り訂正復号し、誤り訂正復号後の信号を分離部206へ出力する。
【0059】
分離部206は、誤り訂正復号後の信号を受信データとセル選択情報および無線品質情報とに分離し、受信データを出力するとともにセル選択情報および無線品質情報をリソース割当部207へ出力する。
【0060】
リソース割当部207は、セル選択情報を参照して自装置(基地局装置200)が選択基地局装置となったか否かを判定し、選択基地局装置となっていれば無線品質情報を参照してマルチアンテナ通信装置100宛ての送信データに対して割り当てる無線リソースを決定する。
【0061】
送信制御部208は、マルチアンテナ通信装置100および他の通信装置などに対する送信データの送信順序を制御し、送信データに対応する変調方式および符号化率を示す無線リソース割当情報を生成する。
【0062】
多重部209は、送信データ、無線リソース割当情報、および図示しない共通パイロット信号などを多重し、得られた多重データを誤り訂正符号化部210へ出力する。
【0063】
誤り訂正符号化部210は、それぞれの送信先に応じた符号化率で多重データを誤り訂正符号化し、得られた符号化データを変調部211へ出力する。
【0064】
変調部211は、それぞれの送信先に応じた変調方式で符号化データを変調し、得られた変調データを拡散部212−1、212−2へ出力する。
【0065】
拡散部212−1、212−2は、変調データを拡散し、得られた拡散信号をRF送信部213−1、213−2へ出力する。
【0066】
RF送信部213−1、213−2は、拡散信号に対して所定の無線送信処理(D/A変換、アップコンバートなど)を施し、それぞれ対応するアンテナから送信する。
【0067】
次いで、上記のように構成されたマルチアンテナ通信装置100によるセルの選択について、通信開始時および通信中の動作に分けて図6(a)、(b)に示すシーケンス図を参照しながら説明する。
【0068】
まず、マルチアンテナ通信装置100の電源投入時など、通信開始時の動作について図6(a)を参照して説明する。マルチアンテナ通信装置100が基地局装置200のセル200aと基地局装置300のセル300aとの境界付近に位置する時、マルチアンテナ通信装置100のRF受信部101−1、101−2によって、基地局装置200からの共通パイロット信号401および個別データ信号402と基地局装置300からの共通パイロット信号403および個別データ信号404とが所定のサンプルタイミングでサンプリングされる。
【0069】
サンプリングされて得られた受信信号は、RF受信部101−1、101−2によって所定の無線受信処理が施され、パスサーチ部102によってパスサーチが行われ、逆拡散部103−1、103−2によって逆拡散されることにより、自装置(マルチアンテナ通信装置100)宛ての逆拡散信号が抽出される。
【0070】
逆拡散信号は、セル分離部104によって接続セルの信号と観測セルの信号とに分離されるが、ここでは、通信開始時であるため接続セルはなく、セル200aおよびセル300aの双方が観測セルである。したがって、セル200aおよびセル300a双方の信号が観測セル受信処理部106のチャネル推定部1061へ出力される。
【0071】
そして、チャネル推定部1061によって、セル200aのチャネル行列およびセル300aのチャネル行列がそれぞれ求められ、タイミング選択部1062によって、それぞれのセルにおいて総受信電力が所定の閾値以上のサンプルタイミングが選択される(405)。
【0072】
具体的には、例えば基地局装置200が送信アンテナ#1および送信アンテナ#2の2本のアンテナを有し、マルチアンテナ通信装置100が受信アンテナ#1および受信アンテナ#2の2本のアンテナを有している場合、タイミング選択部1062によって、図7に示すように、各送信アンテナと受信アンテナとの対のサンプルタイミングごとの受信電力が加算され、総受信電力が求められる。そして、タイミング選択部1062によって、総受信電力が所定の閾値以上であるサンプルタイミングPおよびサンプルタイミングQが選択される。同様に、タイミング選択部1062によって、基地局装置300のセル300aについても総受信電力が所定の閾値以上のサンプルタイミングが選択される。
【0073】
それぞれのセルについて選択されたサンプルタイミングは、パス合成部1063へ通知され、パス合成部1063によって、選択されたサンプルタイミングに対応するパスの信号を合成した場合のチャネル行列が求められる。換言すれば、パス合成部1063によって、総受信電力が大きいサンプルタイミングの信号を1つの信号と仮定した場合のチャネル行列が求められる。求められたチャネル行列は、特異値分解処理部1064へ出力される。
【0074】
そして、特異値分解処理部1064によって、パス合成部1063から出力されたチャネル行列が用いられて式(2)による特異値分解処理が行われ、セル200aおよびセル300aそれぞれについて、独立したパスごとの特異値が求められる。
【0075】
このように、特異値分解処理の対象とするサンプルタイミングを選択して限定することにより、特異値分解処理による処理負荷の増大を最低限に抑制することができ、回路規模の増大を防止しつつ高速セル選択を実行することができる。また、サンプルタイミングの選択に際して、総受信電力が所定の閾値以上のサンプルタイミングを選択することにより、正確なチャネル行列を用いた特異値分解処理を行うことができ、求められた特異値も正確なものになる。
【0076】
そして、チャネル容量算出部1065によって、所定の閾値以上の特異値の数がセル200aおよびセル300aそれぞれのチャネル容量として算出される(406)。算出されたチャネル容量は、セル選択部107へ出力され、セル200aおよびセル300aのうちチャネル容量が大きい方が次の時間単位における接続セルとして選択され(407)、接続セルに対応する基地局装置が選択基地局装置となる。そして、セル選択部107によって、接続セルに選択されたセルに関するセル選択情報が多重部108へ出力される。ここでは、セル200aが接続セルとして選択され、基地局装置200が選択基地局装置となったものとして説明を続ける。
【0077】
ここで、本実施の形態においては、上述したように総受信電力が所定の閾値以上のサンプルタイミングを対象として特異値分解処理を行っているため、求められる特異値が正確なものとなり、結果としてチャネル容量の信頼度も高くなる。したがって、接続セルとして選択されたセル200aは、確実にセル300aよりもMIMO通信に適しており、スループットを改善してセルカバレッジを拡大することができる。
【0078】
セル選択情報が多重部108へ入力されると、多重部108によって、送信データとセル選択情報とが多重され、多重データが生成される。そして、多重データは、誤り訂正符号化部109によって誤り訂正符号化され、変調部110によって変調され、変調データが得られる。
【0079】
変調データは、拡散部111−1、111−2によって拡散され、RF送信部112−1、112−2によって所定の無線送信処理が施され、送信データおよびセル選択情報を含む拡散信号408がアンテナを介して送信される。なお、図6(a)では、選択されなかった基地局装置300へは何の信号も送信されていないが、基地局装置300に対してセル選択情報が送信されるようにしても良い。
【0080】
マルチアンテナ通信装置100から送信された拡散信号408は、基地局装置200のRF受信部201−1、201−2によってアンテナを介して受信される。そして、受信信号は、RF受信部201−1、201−2によって所定の無線受信処理が施され、パスサーチ部202によってパスサーチが行われ、逆拡散部203−1、203−2によって逆拡散されることにより、自装置(基地局装置200)宛ての逆拡散信号が抽出される。
【0081】
逆拡散信号は、復調部204によって復調され、誤り訂正復号部205によって誤り訂正復号され、分離部206によって送信データとセル選択情報に分離される。そして、セル選択情報がリソース割当部207へ出力されると、リソース割当部207によって、自装置(基地局装置200)がマルチアンテナ通信装置100の選択基地局装置となったと判断され、マルチアンテナ通信装置100宛ての送信データに対して割り当てる変調方式および符号化率などの無線リソースが決定される(409)。決定された無線リソースの情報は、送信制御部208へ出力され、マルチアンテナ通信装置100宛ての信号の送信処理が開始される(410)。
【0082】
すなわち、送信制御部208によって、マルチアンテナ通信装置100宛ての送信データとマルチアンテナ通信装置100に割り当てられる符号化率および変調方式を示す無線リソース情報とが多重部209へ出力される。
【0083】
そして、多重部209によって、マルチアンテナ通信装置100宛ての送信データと無線リソース情報とが多重され、多重データが生成される。そして、多重データは、誤り訂正符号化部210によって誤り訂正符号化され、変調部211によって変調され、変調データが得られる。
【0084】
変調データは、拡散部212−1、212−2によって拡散され、RF送信部213−1、213−2によって所定の無線送信処理が施され、送信データおよび無線リソース情報を含む個別データ信号411がアンテナを介して送信される。
【0085】
このようにして選択基地局装置である基地局装置200から送信された信号は、マルチアンテナ通信装置100によって受信され、接続セル受信処理部105によって受信処理されることにより受信データが得られる。
【0086】
次に、マルチアンテナ通信装置100が基地局装置200を選択基地局装置として通信している(すなわち、セル200aが接続セル、セル300aが観測セル)状態の動作について図6(b)を参照して説明する。マルチアンテナ通信装置100がセル200aを接続セルとしている時、マルチアンテナ通信装置100のRF受信部101−1、101−2によって、基地局装置200からの共通パイロット信号451および個別データ信号452が所定のサンプルタイミングでサンプリングされる。
【0087】
サンプリングされて得られた受信信号は、RF受信部101−1、101−2によって所定の無線受信処理が施され、パスサーチ部102によってパスサーチが行われ、逆拡散部103−1、103−2によって逆拡散されることにより、自装置(マルチアンテナ通信装置100)宛ての逆拡散信号が抽出される。
【0088】
逆拡散信号は、セル分離部104によって接続セルの信号と観測セルの信号とに分離されるが、ここでは、接続セルであるセル200aの信号が接続セル受信処理部105へ出力され、接続セルの信号の受信処理が行われる(453)。
【0089】
すなわち、チャネル推定部1051によって、セル200aのサンプルタイミングごとのチャネル行列が求められ、復調部1052によって、基地局装置200においてマルチアンテナ通信装置100に割り当てられた変調方式で受信信号が復調され、この復調の過程で特異値分解処理部1052aによる特異値分解処理が行われる。特異値分解処理によって得られた接続セルにおける独立したパスごとの特異値は、特異値加工部1056へ出力される一方、復調された個別データ信号が誤り訂正復号部1053へ出力され、共通パイロット信号が無線品質測定部1055へ出力される。
【0090】
誤り訂正復号部1053へ出力された個別データ信号は、基地局装置200においてマルチアンテナ通信装置100に割り当てられた符号化率で誤り訂正復号され、分離部1054によって受信データと無線リソース情報とに分離され、無線リソース情報が復調部1052および誤り訂正復号部1053へ出力される。
【0091】
また、特異値加工部1056へは、すべてのサンプルタイミングにおける独立したパスごとの特異値が出力されているが、特異値加工部1056によって、例えば独立したパスごとの平均値が求められることにより、それぞれの独立したパスを代表する特異値が算出される。
【0092】
そして、チャネル容量算出部1057によって、所定の閾値以上の特異値の数がセル200aのチャネル容量として算出され、セル選択部107へ出力される。以上で、接続セルの信号の受信処理が完了する。
【0093】
なお、無線品質測定部1055へ出力された共通パイロット信号は、接続セルであるセル200aの無線品質測定に用いられ、無線品質測定部1055によって無線品質情報が生成される。生成された無線品質情報は、受信確認応答などと多重され、受信確認応答信号454として基地局装置200へ送信されるようにしても良い。
【0094】
一方、観測セルであるセル300aの基地局装置300から送信されている共通パイロット信号455は、RF受信部101−1、101−2によって随時サンプリングされ、所定の無線受信処理が施され、パスサーチ部102にパスサーチされ、逆拡散部103−1、103−2によって逆拡散されることにより、自装置(マルチアンテナ通信装置100)宛ての逆拡散信号が抽出される。
【0095】
逆拡散信号は、セル分離部104によって接続セルの信号と観測セルの信号とに分離されるが、ここでは、観測セルであるセル300aの信号が観測セル受信処理部106のチャネル推定部1061へ出力される。
【0096】
そして、チャネル推定部1061によって、セル300aのチャネル行列が求められ、タイミング選択部1062によって、図7に示したように、総受信電力が所定の閾値以上のサンプルタイミングが選択される(456)。
【0097】
選択されたサンプルタイミングは、パス合成部1063へ通知され、パス合成部1063によって、選択されたサンプルタイミングに対応するパスの信号を合成した場合のチャネル行列が求められる。求められたチャネル行列は、特異値分解処理部1064へ出力される。
【0098】
そして、特異値分解処理部1064によって、パス合成部1063から出力されたチャネル行列が用いられて式(2)による特異値分解処理が行われ、セル300aについて、独立したパスごとの特異値が求められる。
【0099】
そして、チャネル容量算出部1065によって、所定の閾値以上の特異値の数が観測セルであるセル300aのチャネル容量として算出される(457)。算出されたセル300aのチャネル容量は、セル選択部107へ出力され、セル200aおよびセル300aのうちチャネル容量が大きい方が次の時間単位における接続セルとして選択され(458)、接続セルに対応する基地局装置が選択基地局装置となる。そして、セル選択部107によって、接続セルに選択されたセルに関するセル選択情報が多重部108へ出力される。ここでは、観測セルであったセル300aが接続セルとして選択され、基地局装置300が選択基地局装置となったものとして説明を続ける。
【0100】
セル選択情報が多重部108へ入力されると、多重部108によって、送信データとセル選択情報とが多重され、多重データが生成される。そして、多重データは、誤り訂正符号化部109によって誤り訂正符号化され、変調部110によって変調され、変調データが得られる。
【0101】
変調データは、拡散部111−1、111−2によって拡散され、RF送信部112−1、112−2によって所定の無線送信処理が施され、送信データおよびセル選択情報を含む拡散信号459がアンテナを介して送信される。なお、図6(b)では、選択されなかった基地局装置200へは何の信号も送信されていないが、基地局装置200に対してセル選択情報が送信されるようにしても良い。
【0102】
マルチアンテナ通信装置100から送信された拡散信号459は、基地局装置300のRF受信部201−1、201−2によってアンテナを介して受信される。そして、受信信号は、RF受信部201−1、201−2によって所定の無線受信処理が施され、パスサーチ部202によってパスサーチが行われ、逆拡散部203−1、203−2によって逆拡散されることにより、自装置(基地局装置300)宛ての逆拡散信号が抽出される。
【0103】
逆拡散信号は、復調部204によって復調され、誤り訂正復号部205によって誤り訂正復号され、分離部206によって送信データとセル選択情報に分離される。そして、セル選択情報がリソース割当部207へ出力されると、リソース割当部207によって、自装置(基地局装置300)がマルチアンテナ通信装置100の選択基地局装置となったと判断され、マルチアンテナ通信装置100宛ての送信データに対して割り当てる変調方式および符号化率などの無線リソースが決定される(460)。決定された無線リソースの情報は、送信制御部208へ出力され、マルチアンテナ通信装置100宛ての信号の送信処理が開始される(461)。
【0104】
すなわち、送信制御部208によって、マルチアンテナ通信装置100宛ての送信データとマルチアンテナ通信装置100に割り当てられる符号化率および変調方式を示す無線リソース情報とが多重部209へ出力される。
【0105】
そして、多重部209によって、マルチアンテナ通信装置100宛ての送信データと無線リソース情報とが多重され、多重データが生成される。そして、多重データは、誤り訂正符号化部210によって誤り訂正符号化され、変調部211によって変調され、変調データが得られる。
【0106】
変調データは、拡散部212−1、212−2によって拡散され、RF送信部213−1、213−2によって所定の無線送信処理が施され、送信データおよび無線リソース情報を含む個別データ信号462がアンテナを介して送信される。
【0107】
このようにして選択基地局装置である基地局装置300から送信された信号は、マルチアンテナ通信装置100によって受信され、接続セル受信処理部105によって受信処理されることにより受信データが得られる。
【0108】
以上のように、本実施の形態によれば、通信相手となっていない基地局装置から送信された共通パイロット信号のサンプルタイミングのうち、総受信電力が所定の閾値以上のサンプルタイミングを対象として特異値分解処理を行い、所定の閾値以上の特異値の数をチャネル容量として、チャネル容量が最大の基地局装置を選択基地局装置とする。このため、高速セル選択のための特異値分解処理による処理負荷の増大を最低限に抑制することができ、回路規模の増大を防止しつつ高速セル選択を実行し、スループットを確実に改善してセルカバレッジを拡大することができる。
【0109】
(実施の形態2)
本発明の実施の形態2の特徴は、受信信号のサンプリング区間から受信電力が最大のサンプルタイミングを選択し、選択されたサンプルタイミングのみを対象として特異値分解処理を行う点である。
【0110】
本実施の形態に係る移動体通信システムの構成は、図1に示す移動体通信システムと同様であるため、その説明を省略する。また、本実施の形態に係るマルチアンテナ通信装置100および基地局装置200の要部構成は図2および図5に示すマルチアンテナ通信装置100および基地局装置200の要部構成と同様であるため、その説明を省略する。
【0111】
本実施の形態においては、マルチアンテナ通信装置100の観測セル受信処理部106の内部構成のみが実施の形態1と異なっている。したがって、観測セル受信処理部106の内部構成について説明する。
【0112】
図8は、本実施の形態に係る観測セル受信処理部106の内部構成を示すブロック図である。同図において、図4と同じ部分には同じ符号を付し、その説明を省略する。図8に示す観測セル受信処理部106は、図4のタイミング選択部1062およびパス合成部1063に代えて電力最大タイミング選択部5001を有する構成を採る。
【0113】
電力最大タイミング選択部5001は、チャネル推定部1061によるチャネル推定結果から、マルチアンテナ通信装置100(受信側)のアンテナと観測セルの基地局装置(送信側)のアンテナとの各アンテナ対におけるサンプルタイミングごとの受信電力を算出し、すべてのアンテナ対の総受信電力が最大のサンプルタイミングを特異値分解処理用のサンプルタイミングとして選択する。
【0114】
具体的には、例えば観測セルの基地局装置が送信アンテナ#1および送信アンテナ#2の2本のアンテナを有し、マルチアンテナ通信装置100が受信アンテナ#1および受信アンテナ#2の2本のアンテナを有している場合、電力最大タイミング選択部5001は、図9に示すように、各送信アンテナと受信アンテナとの対のサンプルタイミングごとの受信電力を加算して総受信電力を求める。そして、電力最大タイミング選択部5001は、総受信電力が最大であるサンプルタイミングRを選択する。
【0115】
本実施の形態においては、電力最大タイミング選択部5001は、総受信電力が最大のサンプルタイミングのみを特異値分解処理用のサンプルタイミングとして選択するため、常に1つのサンプルタイミングのみが選択され、実施の形態1のように複数のサンプルタイミングに対応するパスの信号を合成する必要がない。したがって、観測セルに関する特異値分解処理の際の処理負荷をさらに軽減することができる。
【0116】
以上のように、本実施の形態によれば、通信相手となっていない基地局装置から送信された共通パイロット信号のサンプルタイミングのうち、最も総受信電力が高いサンプルタイミングを対象として特異値分解処理を行い、所定の閾値以上の特異値の数をチャネル容量として、チャネル容量が最大の基地局装置を選択基地局装置とする。このため、高速セル選択のための特異値分解処理による処理負荷の増大を最低限に抑制することができ、回路規模の増大を防止しつつ高速セル選択を実行し、スループットを確実に改善してセルカバレッジを拡大することができる。また、選択されるサンプルタイミングが常に1つであるため、特異値分解処理の際の処理負荷をさらに軽減することができる。
【0117】
(実施の形態3)
本発明の実施の形態3の特徴は、セル選択に用いるチャネル容量として行列式を用い、行列式の大小によって通信相手となる基地局装置を選択する点である。
【0118】
本実施の形態に係る移動体通信システムの構成は、図1に示す移動体通信システムと同様であるため、その説明を省略する。また、本実施の形態に係るマルチアンテナ通信装置100および基地局装置200の要部構成は図2および図5に示すマルチアンテナ通信装置100および基地局装置200の要部構成と同様であるため、その説明を省略する。
【0119】
本実施の形態においては、マルチアンテナ通信装置100の接続セル受信処理部105および観測セル受信処理部106の内部構成のみが実施の形態1と異なっている。したがって、接続セル受信処理部105および観測セル受信処理部106の内部構成について説明する。
【0120】
図10は、本実施の形態に係る接続セル受信処理部105の内部構成を示すブロック図である。同図において、図3と同じ部分には同じ符号を付し、その説明を省略する。図10に示す接続セル受信処理部105は、図3の特異値加工部1056およびチャネル容量算出部1057に代えて行列式算出部6001および行列式加工部6002を有する構成を採る。
【0121】
行列式算出部6001は、接続セルのサンプルタイミングiにおけるチャネル行列Aiを用いて、すべてのサンプルタイミングについて、接続セルにおける独立したパスごとの行列式を算出する。具体的には、行列式算出部6001は、接続セルの独立したパスごとの受信品質の指標となる行列式Ciを以下の式(3)によって算出する。
【0122】
【数2】

上式(3)において、det()は行列式を示し、IMRはMR×MRのサイズの単位行列を示している。上式(3)によって求められる行列式Ciは、サンプルタイミングごとに求められるスカラー量であり、MIMO通信における独立したパスの受信品質の総和を示す数値である。したがって、セル内に受信品質が高い独立したパスが多ければ多いほど行列式Ciは大きくなり、行列式Ciが大きいセルほど、スループットが高いことになる。
【0123】
行列式加工部6002は、サンプルタイミングごとに求められる行列式Ciを加工し、接続セルを代表する行列式を算出して接続セルのチャネル容量とする。すなわち、行列式加工部6002は、例えばN個のサンプルタイミング1〜Nに関して求められたすべての行列式C1〜CNの和を総サンプルタイミング数Nで除算して平均値を求めることにより、接続セルを代表する行列式Cを算出する。上述したように、算出された行列式Cが大きければ接続セルの独立したパスの受信品質が高く、MIMO通信に適していることになるため、行列式加工部6002は、行列式Cを接続セルのチャネル容量としてセル選択部107へ出力する。
【0124】
図11は、本実施の形態に係る観測セル受信処理部106の内部構成を示すブロック図である。同図において、図4と同じ部分には同じ符号を付し、その説明を省略する。図11に示す観測セル受信処理部106は、図4の特異値分解処理部1064およびチャネル容量算出部1065に代えて特異値分解処理部1064aおよび行列式算出部6003を有し、さらに空間多重情報生成部6004を追加した構成を採る。
【0125】
行列式算出部6003は、パス合成部1063から出力されたチャネル行列を用いて接続セルと同様に式(3)の演算を行い、タイミング選択部1062によって選択されたサンプルタイミングのみに関する行列式を観測セルのチャネル容量として算出する。
【0126】
特異値分解処理部1064aは、セル選択部107によって接続セルおよび観測セルのチャネル容量が比較された結果、観測セルが次の時間単位における接続セルとして選択された場合にのみ、式(2)による特異値分解処理を行い、タイミング選択部1062によって選択されたサンプルタイミングのみにおける独立したパスごとの特異値を算出する。すなわち、特異値分解処理部1064aは、セル選択部107から出力されるセル選択情報を参照して、観測セルが接続セルとなる場合にのみ、独立したパスごとの受信品質を判定するために特異値分解処理を行う。
【0127】
空間多重情報生成部6004は、特異値分解処理部1064aによって特異値分解処理が行われると、特異値分解処理の結果に応じてMIMO通信またはSTC(Space Time Coding:時空間符号化)通信のいずれを行うかを示す空間多重情報を生成する。
【0128】
ここで、MIMO通信は、複数のアンテナから異なるデータ系列が同時に送信されるのに対し、STC通信は、複数のアンテナから同一のデータ系列が同時に送信される。したがって、たとえ行列式の比較によって選択された接続セルの独立したパスごとの受信品質が比較的低く、MIMO通信を行うことができないと考えられる場合でも、STC通信に切り替えることで受信品質の劣化を防止し、ダイバーシチ利得を得ることができる。
【0129】
本実施の形態においては、セル選択に用いる観測セルのチャネル容量算出において、特異値分解処理よりも処理負荷が大幅に小さい行列式の演算が行われる。そして、観測セルが次の時間単位における接続セルに選択された場合にのみ、特異値分解処理が行われるため、観測セルのチャネル容量算出のために常に特異値分解処理が必要となる実施の形態1よりも処理負荷を軽減することができる。
【0130】
次いで、上記のように構成されたマルチアンテナ通信装置100によるセルの選択について、図12に示すシーケンス図を参照しながら説明する。なお、本実施の形態においては、マルチアンテナ通信装置100が基地局装置200を選択基地局装置として通信している(すなわち、セル200aが接続セル、セル300aが観測セル)状態の動作について説明する。図12において、図6(b)と同じ部分には同じ符号を付し、詳しい説明を省略する。マルチアンテナ通信装置100がセル200aを接続セルとしている時、マルチアンテナ通信装置100のRF受信部101−1、101−2によって、基地局装置200からの共通パイロット信号451および個別データ信号452が所定のサンプルタイミングでサンプリングされる。
【0131】
サンプリングされて得られた受信信号は、逆拡散部103−1、103−2を経て、自装置(マルチアンテナ通信装置100)宛ての逆拡散信号が抽出される。
【0132】
逆拡散信号は、セル分離部104によって接続セルの信号と観測セルの信号とに分離されるが、ここでは、接続セルであるセル200aの信号が接続セル受信処理部105へ出力され、接続セルの信号の受信処理が行われる(701)。
【0133】
すなわち、チャネル推定部1051によって、サンプルタイミングごとのチャネル行列が求められ、復調部1052によって、基地局装置200においてマルチアンテナ通信装置100に割り当てられた変調方式で受信信号が復調される。復調された個別データ信号は、誤り訂正復号部1053によって、基地局装置200においてマルチアンテナ通信装置100に割り当てられた符号化率で誤り訂正復号され、分離部1054によって受信データと無線リソース情報とに分離される。
【0134】
これらの処理と並行して、チャネル推定部1051によって求められたチャネル行列は、行列式算出部6001へ出力され、行列式算出部6001によって、サンプルタイミングごとの行列式が算出され、行列式加工部6002によって、サンプルタイミングごとの行列式が加工され、例えばサンプルタイミングごとの行列式の平均値などの接続セルを代表する行列式が算出される。算出された行列式は、接続セルのチャネル容量としてセル選択部107へ出力される。以上で、接続セルの信号の受信処理が完了する。
【0135】
なお、復調部1052から無線品質測定部1055へ出力された共通パイロット信号は、接続セルであるセル200aの無線品質測定に用いられ、無線品質測定部1055によって無線品質情報が生成される。生成された無線品質情報は、受信確認応答などと多重され、受信確認応答信号454として基地局装置200へ送信されるようにしても良い。
【0136】
一方、観測セルであるセル300aの基地局装置300から送信されている共通パイロット信号455は、RF受信部101−1、101−2によって随時サンプリングされ、逆拡散部103−1、103−2を経て、自装置(マルチアンテナ通信装置100)宛ての逆拡散信号が抽出される。
【0137】
逆拡散信号は、セル分離部104によって接続セルの信号と観測セルの信号とに分離されるが、ここでは、観測セルであるセル300aの信号が観測セル受信処理部106のチャネル推定部1061へ出力される。
【0138】
そして、実施の形態1と同様に、タイミング選択部1062によって、総受信電力が所定の閾値以上のサンプルタイミングが選択される(456)。
【0139】
選択されたサンプルタイミングは、パス合成部1063へ通知され、パス合成部1063によって、選択されたサンプルタイミングに対応するパスの信号を合成した場合のチャネル行列が求められる。求められたチャネル行列は、行列式算出部6003および特異値分解処理部1064aへ出力される。
【0140】
そして、行列式算出部6003によって、パス合成部1063から出力されたチャネル行列が用いられて式(3)の演算が行われ、セル300aの行列式が求められる(702)。求められた行列式は、観測セルのチャネル容量としてセル選択部107へ出力され、セル200aおよびセル300aのうちチャネル容量が大きい方が次の時間単位における接続セルとして選択され(458)、接続セルに対応する基地局装置が選択基地局装置となる。そして、セル選択部107によって、接続セルに選択されたセルに関するセル選択情報が特異値分解処理部1064aおよび多重部108へ出力される。ここでは、観測セルであったセル300aが接続セルとして選択され、基地局装置300が選択基地局装置となったものとして説明を続ける。
【0141】
観測セルであったセル300aが接続セルに選択された旨のセル選択情報が特異値分解処理部1064aへ出力されると、特異値分解処理部1064aによって、パス合成部1063から出力されたチャネル行列が用いられて式(2)による特異値分解処理が行われる(703)。なお、引き続きセル200aが接続セルに選択された場合は、特異値分解処理は行われない。
【0142】
特異値分解処理の結果、所定の閾値より大きい特異値が所定数より多ければ、空間多重情報生成部6004によって、セル300aにおけるMIMO通信が可能であると判断され、MIMO通信を行う旨の空間多重情報が生成される。また、所定の閾値より大きい特異値が所定数より少なければ、空間多重情報生成部6004によって、セル300aにおいてはSTC通信を行う方が良いと判断され、STC通信を行う旨の空間多重情報が生成される。生成された空間多重情報は、セル選択部107を経由して、多重部108へ出力される。
【0143】
セル選択情報および空間多重情報が多重部108へ入力されると、多重部108によって、送信データ、セル選択情報、および空間多重情報が多重され、多重データが生成される。そして、多重データは、誤り訂正符号化部109からRF送信部112−1、112−2を経て、送信データ、セル選択情報、および空間多重情報を含む拡散信号704がアンテナを介して送信される。なお、図12では、選択されなかった基地局装置200へは何の信号も送信されていないが、基地局装置200に対してセル選択情報が送信されるようにしても良い。
【0144】
マルチアンテナ通信装置100から送信された拡散信号704は、基地局装置300のRF受信部201−1、201−2によってアンテナを介して受信される。そして、受信信号は、逆拡散部203−1、203−2を経て、自装置(基地局装置300)宛ての逆拡散信号が抽出される。
【0145】
逆拡散信号は、復調部204によって復調され、誤り訂正復号部205によって誤り訂正復号され、分離部206によって送信データ、セル選択情報、および空間多重情報に分離される。そして、セル選択情報および空間多重情報がリソース割当部207へ出力されると、リソース割当部207によって、自装置(基地局装置300)がマルチアンテナ通信装置100の選択基地局装置となったと判断され、マルチアンテナ通信装置100宛ての送信データに対して割り当てる変調方式および符号化率などの無線リソースが決定される(460)。本実施の形態においては、無線リソースの決定に際して空間多重情報が参照され、MIMO通信またはSTC通信のいずれが行われるかが考慮される。決定された無線リソースの情報は、送信制御部208へ出力され、マルチアンテナ通信装置100宛ての信号の送信処理が開始される(705)。
【0146】
すなわち、送信制御部208によって、マルチアンテナ通信装置100宛ての送信データとマルチアンテナ通信装置100に割り当てられる符号化率および変調方式を示す無線リソース情報とが多重部209へ出力される。また、送信制御部208によって、空間多重情報に従ってMIMO通信またはSTC通信のいずれの空間多重を行うかが判断される。
【0147】
そして、多重部209によって、マルチアンテナ通信装置100宛ての送信データと無線リソース情報とが多重され、多重データが生成される。そして、多重データは、誤り訂正符号化部210によって誤り訂正符号化され、変調部211によって変調され、変調データが得られる。
【0148】
変調データは、拡散部212−1、212−2からRF送信部213−1、213−2を介して個別データ信号462としてアンテナから送信される。このとき、個別データ信号462は、空間多重情報に応じてMIMO通信またはSTC通信によって送信される。
【0149】
このようにして選択基地局装置である基地局装置300から送信された信号は、マルチアンテナ通信装置100によって受信され、接続セル受信処理部105によって受信されることにより受信データが得られる。
【0150】
以上のように、本実施の形態によれば、通信相手となっていない基地局装置から送信された共通パイロット信号のサンプルタイミングのうち、総受信電力が所定の閾値以上のサンプルタイミングを対象として行列式を求め、この行列式をチャネル容量として、チャネル容量が最大の基地局装置を選択基地局装置とする。このため、高速セル選択のための特異値分解処理による処理負荷の増大を最低限に抑制することができ、回路規模の増大を防止しつつ高速セル選択を実行し、スループットを確実に改善してセルカバレッジを拡大することができる。また、セル選択に際して、常に特異値分解処理を行うよりも処理負荷を軽減することができる。
【0151】
なお、上記各実施の形態においては、送受信側のすべてのアンテナ対における総受信電力を用いてチャネル容量算出に用いるサンプルタイミングを選択するものとしたが、送信側または受信側のアンテナを限定した総受信電力を用いても良い。すなわち、例えば送信側のアンテナをいずれか1つに固定して、当該アンテナからのみの受信電力を用いてサンプルタイミングを選択するようにしても良い。こうすることにより、セル選択による処理負荷をさらに軽減することができる。
【0152】
本発明の第1の態様に係るマルチアンテナ通信装置は、現在の時間単位における通信相手がカバーする接続セルの信号および前記接続セルに隣接する観測セルの信号を所定のサンプルタイミングで複数のアンテナを介してサンプリングする受信手段と、前記接続セルの信号を用いて前記接続セルのチャネル容量を算出する第1算出手段と、前記観測セルの信号がサンプリングされる複数のサンプルタイミングから1以上のサンプルタイミングを選択するタイミング選択手段と、選択されたサンプルタイミングを対象として前記観測セルのチャネル容量を算出する第2算出手段と、前記接続セルのチャネル容量および前記観測セルのチャネル容量を比較し、チャネル容量が最大のセルを次の時間単位における接続セルとして選択するセル選択手段と、を有する構成を採る。
【0153】
この構成によれば、接続セルのチャネル容量を算出するとともに、観測セルの信号のサンプルタイミングから1以上のサンプルタイミングを選択して観測セルのチャネル容量を算出し、チャネル容量が最大のセルを次の接続セルとするため、観測セルのチャネル容量算出に必要とする処理量を削減することができ、回路規模の増大を防止しつつ高速セル選択を実行し、スループットを確実に改善してセルカバレッジを拡大することができる。
【0154】
本発明の第2の態様に係るマルチアンテナ通信装置は、上記第1の態様において、前記タイミング選択手段は、前記複数のサンプルタイミングのうち、受信電力が所定の閾値以上のサンプルタイミングを選択する構成を採る。
【0155】
この構成によれば、受信電力が所定の閾値以上のサンプルタイミングを選択するため、受信電力の相対比較ではなく、受信電力が絶対的に大きいサンプルタイミングを選択することができ、観測セルのチャネル容量をより正確に算出することができる。
【0156】
本発明の第3の態様に係るマルチアンテナ通信装置は、上記第1の態様において、前記タイミング選択手段は、前記複数のサンプルタイミングのうち、受信電力が最大のサンプルタイミングを選択する構成を採る。
【0157】
この構成によれば、受信電力が最大のサンプルタイミングを選択するため、チャネル容量の算出に用いるチャネル行列が正確に求められており、観測セルのチャネル容量を正確に算出することができる。
【0158】
本発明の第4の態様に係るマルチアンテナ通信装置は、上記第1の態様において、前記タイミング選択手段は、前記複数のサンプルタイミングのうち、受信電力が大きい方から所定数のサンプルタイミングを選択する構成を採る。
【0159】
この構成によれば、受信電力が大きい方から所定数のサンプルタイミングを選択するため、チャネル容量算出の対象とするサンプルタイミングの数が常に一定であり、全体的に受信電力が低い場合でも、サンプルタイミングが確実に選択される。
【0160】
本発明の第5の態様に係るマルチアンテナ通信装置は、上記第1の態様において、前記タイミング選択手段は、前記複数のアンテナのうちいずれか1つのアンテナにおける受信電力に応じてサンプルタイミングを選択する構成を採る。
【0161】
この構成によれば、1つのアンテナにおける受信電力に応じてサンプルタイミングを選択するため、受信電力の算出などの演算量が削減され、セル選択に必要な処理負荷をさらに軽減することができる。
【0162】
本発明の第6の態様に係るマルチアンテナ通信装置は、上記第1の態様において、前記第1算出手段は、前記接続セルの信号がサンプリングされる複数のサンプルタイミングそれぞれを対象に特異値分解処理を行って、前記接続セルにおける独立したパスごとの受信品質を示す特異値を前記独立したパスごとに前記複数のサンプルタイミング数ずつ求める特異値分解処理部と、求められた特異値に対して所定の加工を施し、前記接続セルにおける独立したパスごとに1つの特異値を得る特異値加工部と、前記特異値加工部によって得られた前記接続セルにおける独立したパスごとの特異値のうち、所定の閾値以上の特異値の数を前記接続セルのチャネル容量として算出するチャネル容量算出部と、を有する構成を採る。
【0163】
本発明の第7の態様に係るマルチアンテナ通信装置は、上記第1の態様において、前記第2算出手段は、前記選択されたサンプルタイミングを対象に特異値分解処理を行って、前記観測セルにおける独立したパスごとに1つの特異値を求める特異値分解処理部と、前記観測セルにおける独立したパスごとの特異値のうち、所定の閾値以上の特異値の数を前記観測セルのチャネル容量として算出するチャネル容量算出部と、を有する構成を採る。
【0164】
これらの構成によれば、特異値分解処理結果から独立したパスごとの特異値を求め、所定の閾値以上の特異値の数をセルのチャネル容量とするため、受信品質が高い独立したパスが多いセルほどチャネル容量が大きくなる。このため、チャネル容量が大きいセルほどMIMO通信に適していることになり、スループットを確実に改善できるセルを選択することができる。
【0165】
本発明の第8の態様に係るマルチアンテナ通信装置は、上記第1の態様において、前記第1算出手段は、前記接続セルの信号がサンプリングされる複数のサンプルタイミングそれぞれを対象に演算を行って、前記接続セルにおける独立したパスごとの受信品質の総和を示す行列式を前記独立したパスごとに前記複数のサンプルタイミング数ずつ算出する行列式算出部と、算出された行列式に対して所定の加工を施し、前記接続セルにおける独立したパスごとに1つの行列式を前記接続セルのチャネル容量として得る行列式加工部と、を有する構成を採る。
【0166】
本発明の第9の態様に係るマルチアンテナ通信装置は、上記第1の態様において、前記第2算出手段は、前記選択されたサンプルタイミングを対象に演算を行って、前記観測セルにおける独立したパスごとに1つの行列式を前記観測セルのチャネル容量として算出する行列式算出部、を有する構成を採る。
【0167】
これらの構成によれば、独立したパスごとの受信品質の総和を示す行列式をセルのチャネル容量とするため、独立したパスの受信品質の総和が大きいセルほどチャネル容量が大きくなる。このため、特異値分解処理を行わずにMIMO通信に適したセルを選択することができ、セル選択に必要な処理負荷を軽減することができる。
【0168】
本発明の第10の態様に係るマルチアンテナ通信装置は、上記第9の態様において、前記セル選択手段によって現在の時間単位における観測セルが次の時間単位における接続セルとして選択された場合に、前記タイミング選択手段によって選択されたサンプルタイミングを対象に特異値分解処理を行って、前記観測セルにおける独立したパスごとの1つの特異値を求める特異値分解処理手段と、前記観測セルにおける独立したパスごとの特異値のうち、所定の閾値以上の特異値の数が所定数以上であればMIMO通信を行う旨の空間多重情報を生成し、所定の閾値以上の特異値の数が所定数未満であればSTC通信を行う旨の空間多重情報を生成する生成手段と、をさらに有する構成を採る。
【0169】
この構成によれば、行列式の比較によって観測セルが接続セルとなる場合にのみ特異値分解処理を行って、この結果に基づいてMIMO通信またはSTC通信のいずれを行うかを示す空間多重情報を生成するため、必要な場合にのみ特異値分解処理を行うことで処理負荷を軽減することができるとともに、MIMO通信が不可能な場合でも受信品質の劣化を防止し、ダイバーシチ利得を得ることができる。
【0170】
本発明の第11の態様に係るセル選択方法は、現在の時間単位における通信相手がカバーする接続セルの信号および前記接続セルに隣接する観測セルの信号を所定のサンプルタイミングで複数のアンテナを介してサンプリングするステップと、前記接続セルの信号を用いて前記接続セルのチャネル容量を算出するステップと、前記観測セルの信号がサンプリングされる複数のサンプルタイミングから1以上のサンプルタイミングを選択するステップと、選択されたサンプルタイミングを対象として前記観測セルのチャネル容量を算出するステップと、前記接続セルのチャネル容量および前記観測セルのチャネル容量を比較し、チャネル容量が最大のセルを次の時間単位における接続セルとして選択するステップと、を有するようにした。
【0171】
この方法によれば、接続セルのチャネル容量を算出するとともに、観測セルの信号のサンプルタイミングから1以上のサンプルタイミングを選択して観測セルのチャネル容量を算出し、チャネル容量が最大のセルを次の接続セルとするため、観測セルのチャネル容量算出に必要とする処理量を削減することができ、回路規模の増大を防止しつつ高速セル選択を実行し、スループットを確実に改善してセルカバレッジを拡大することができる。
【産業上の利用可能性】
【0172】
本発明のマルチアンテナ通信装置およびセル選択方法は、回路規模の増大を防止しつつ高速セル選択を実行し、スループットを確実に改善してセルカバレッジを拡大することができ、例えばセルの境界付近に位置する際にスロットなどの短時間周期で通信相手となる基地局装置を選択するマルチアンテナ通信装置およびセル選択方法として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0173】
【図1】本発明の実施の形態1に係る移動体通信システムの構成を示す図
【図2】実施の形態1に係るマルチアンテナ通信装置の要部構成を示すブロック図
【図3】実施の形態1に係る接続セル受信処理部の内部構成を示すブロック図
【図4】実施の形態1に係る観測セル受信処理部の内部構成を示すブロック図
【図5】実施の形態1に係る基地局装置の要部構成を示すブロック図
【図6】(a)通信開始時のマルチアンテナ通信装置によるセル選択動作を示すシーケンス図(b)通信中のマルチアンテナ通信装置によるセル選択動作を示すシーケンス図
【図7】実施の形態1に係るサンプルタイミング選択の例を示す図
【図8】本発明の実施の形態2に係る観測セル受信処理部の内部構成を示すブロック図
【図9】実施の形態2に係るサンプルタイミング選択の例を示す図
【図10】本発明の実施の形態3に係る接続セル受信処理部の内部構成を示すブロック図
【図11】実施の形態3に係る観測セル受信処理部の内部構成を示すブロック図
【図12】通信中のマルチアンテナ通信装置によるセル選択動作を示すシーケンス図
【図13】(a)FCSによるセル選択動作の一例を示す図(b)受信SIRの測定結果の一例を示す図
【符号の説明】
【0174】
104 セル分離部
105 接続セル受信処理部
1051 チャネル推定部
1052 復調部
1052a 特異値分解処理部
1053 誤り訂正復号部
1054 分離部
1055 無線品質測定部
1056 特異値加工部
1057 チャネル容量算出部
6001 行列式算出部
6002 行列式加工部
106 観測セル受信処理部
1061 チャネル推定部
1062 タイミング選択部
1063 パス合成部
1064、1064a 特異値分解処理部
1065 チャネル容量算出部
5001 電力最大タイミング選択部
6003 行列式算出部
6004 空間多重情報生成部
107 セル選択部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
現在の時間単位における通信相手がカバーする接続セルの信号および前記接続セルに隣接する観測セルの信号を所定のサンプルタイミングで複数のアンテナを介してサンプリングする受信手段と、
前記接続セルの信号を用いて前記接続セルのチャネル容量を算出する第1算出手段と、
前記観測セルの信号がサンプリングされる複数のサンプルタイミングから1以上のサンプルタイミングを選択するタイミング選択手段と、
選択されたサンプルタイミングを対象として前記観測セルのチャネル容量を算出する第2算出手段と、
前記接続セルのチャネル容量および前記観測セルのチャネル容量を比較し、チャネル容量が最大のセルを次の時間単位における接続セルとして選択するセル選択手段と、
を有することを特徴とするマルチアンテナ通信装置。
【請求項2】
前記タイミング選択手段は、
前記複数のサンプルタイミングのうち、受信電力が所定の閾値以上のサンプルタイミングを選択することを特徴とする請求項1記載のマルチアンテナ通信装置。
【請求項3】
前記タイミング選択手段は、
前記複数のサンプルタイミングのうち、受信電力が最大のサンプルタイミングを選択することを特徴とする請求項1記載のマルチアンテナ通信装置。
【請求項4】
前記タイミング選択手段は、
前記複数のサンプルタイミングのうち、受信電力が大きい方から所定数のサンプルタイミングを選択することを特徴とする請求項1記載のマルチアンテナ通信装置。
【請求項5】
前記タイミング選択手段は、
前記複数のアンテナのうちいずれか1つのアンテナにおける受信電力に応じてサンプルタイミングを選択することを特徴とする請求項1記載のマルチアンテナ通信装置。
【請求項6】
前記第1算出手段は、
前記接続セルの信号がサンプリングされる複数のサンプルタイミングそれぞれを対象に特異値分解処理を行って、前記接続セルにおける独立したパスごとの受信品質を示す特異値を前記独立したパスごとに前記複数のサンプルタイミング数ずつ求める特異値分解処理部と、
求められた特異値に対して所定の加工を施し、前記接続セルにおける独立したパスごとに1つの特異値を得る特異値加工部と、
前記特異値加工部によって得られた前記接続セルにおける独立したパスごとの特異値のうち、所定の閾値以上の特異値の数を前記接続セルのチャネル容量として算出するチャネル容量算出部と、
を有することを特徴とする請求項1記載のマルチアンテナ通信装置。
【請求項7】
前記第2算出手段は、
前記選択されたサンプルタイミングを対象に特異値分解処理を行って、前記観測セルにおける独立したパスごとに1つの特異値を求める特異値分解処理部と、
前記観測セルにおける独立したパスごとの特異値のうち、所定の閾値以上の特異値の数を前記観測セルのチャネル容量として算出するチャネル容量算出部と、
を有することを特徴とする請求項1記載のマルチアンテナ通信装置。
【請求項8】
前記第1算出手段は、
前記接続セルの信号がサンプリングされる複数のサンプルタイミングそれぞれを対象に演算を行って、前記接続セルにおける独立したパスごとの受信品質の総和を示す行列式を前記独立したパスごとに前記複数のサンプルタイミング数ずつ算出する行列式算出部と、
算出された行列式に対して所定の加工を施し、前記接続セルにおける独立したパスごとに1つの行列式を前記接続セルのチャネル容量として得る行列式加工部と、
を有することを特徴とする請求項1記載のマルチアンテナ通信装置。
【請求項9】
前記第2算出手段は、
前記選択されたサンプルタイミングを対象に演算を行って、前記観測セルにおける独立したパスごとに1つの行列式を前記観測セルのチャネル容量として算出する行列式算出部、
を有することを特徴とする請求項1記載のマルチアンテナ通信装置。
【請求項10】
前記セル選択手段によって現在の時間単位における観測セルが次の時間単位における接続セルとして選択された場合に、前記タイミング選択手段によって選択されたサンプルタイミングを対象に特異値分解処理を行って、前記観測セルにおける独立したパスごとの1つの特異値を求める特異値分解処理手段と、
前記観測セルにおける独立したパスごとの特異値のうち、所定の閾値以上の特異値の数が所定数以上であればMIMO通信を行う旨の空間多重情報を生成し、所定の閾値以上の特異値の数が所定数未満であればSTC通信を行う旨の空間多重情報を生成する生成手段と、
をさらに有することを特徴とする請求項9記載のマルチアンテナ通信装置。
【請求項11】
現在の時間単位における通信相手がカバーする接続セルの信号および前記接続セルに隣接する観測セルの信号を所定のサンプルタイミングで複数のアンテナを介してサンプリングするステップと、
前記接続セルの信号を用いて前記接続セルのチャネル容量を算出するステップと、
前記観測セルの信号がサンプリングされる複数のサンプルタイミングから1以上のサンプルタイミングを選択するステップと、
選択されたサンプルタイミングを対象として前記観測セルのチャネル容量を算出するステップと、
前記接続セルのチャネル容量および前記観測セルのチャネル容量を比較し、チャネル容量が最大のセルを次の時間単位における接続セルとして選択するステップと、
を有することを特徴とするセル選択方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2006−135882(P2006−135882A)
【公開日】平成18年5月25日(2006.5.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−325231(P2004−325231)
【出願日】平成16年11月9日(2004.11.9)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】