説明

マルチパス真空コーティングシステム

システムを横断して搬送される基板に複数のコーティングを塗布するマルチパスコーティングシステムおよび方法。本システムは、システム内で大気圧より低い圧力を確立すべく本システムに結合された少なくとも1個の真空ポンプを含んでいる。本システムはまた、基板にコーティング層を塗布するための少なくとも1個のコーティングゾーンを含み、基板が通過することによりシステム外部の大気圧とシステム内部の大気圧より低い圧力との間を遷移する少なくとも1個の転送ロックを含んでいる。本システムは、システムを通過して基板を搬送するために、基板がシステムから出る前にコーティングゾーンを少なくとも2回通過して基板を搬送すべく構成された搬送機構を含んでいる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は一般にコーティングシステムに関する。より具体的には、本発明は蒸着処理を介してコーティング層を塗布するマルチパスコーティングシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチック基板は、化学蒸着システム、特に、特許文献1および特許文献2の図9、10に記載されている熱膨張プラズマ(ETP)コーティングシステム等のプラズマ強化化学蒸着(PECVD)システムを用いて大気圧以下の圧力でコーティングすることができる。このような真空コーティングシステムにおいて、1個以上のコーティングゾーンを収納する真空チャンバ内におけるアレイとしてプラズマ源または発生器が提供される。これらのプラズマ源は、コーティングシステム内でコーティングされる基板の高さに対応する高さを有する垂直なアレイに構成できる。通常、コーティング層を蒸着する間に一連の基板が加熱ゾーンとコーティングゾーン、または連続するコーティングゾーンを通過して順次搬送される。複数のコーティング層、または複数の副層を有するコーティング層を基板に形成する場合は通常、各層または副層毎に別々のコーティングゾーンが必要である。
【0003】
キャリアまたは搬送機構を通過して共通の経路に沿って単一方向に連続的且つ順次的に移動している基板を有する真空コーティングシステムを連続インライン真空コーティングシステムと呼ぶ。第1のコーティングゾーンの前および最終コーティングゾーンの後の両方に配置された転送ロックを用いて、基板およびキャリアを(例えば大気圧である)真空コーティングシステムの外部から、大気圧より低い圧力の下である内部へ能動的に搬送し、次いで真空コーティングシステム外へ再び戻す。各々が基板に特定のコーティング層または副層を塗布しながら連続的なコーティングゾーンを横断する、一連の互いに近接する基板キャリアを有する連続インライン真空コーティングシステムを通過して、最大限可能な年間スループット能力が得られ、従って単位能力当たり最小限の期待設備投資が実現される。
【0004】
しかし状況によっては、コーティング基板に対する需要が、連続インライン真空コーティングシステムの潜在能力を完全に使い切るには不十分な場合がある。そのような状況の例として、1)新規真空コーティングシステムの初期立ち上げ、および2)ニーズが限られた市場、すなわちニッチ市場を有する基板のコーティングが含まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第6,397,776号明細書
【特許文献2】米国特許第6,872,428号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
真空コーティングシステム内の各プラズマ源に関連して必要とされる投資は、必要な電力供給、およびマスフローコントローラ、真空ポンプ、並びにプラズマ源自体を構成する機械部品の数が寄与するコストを反映するものである。プラズマ源の数を(アレイの全体にわたり一様に)減らし、その結果、アレイの実質的な高さが一様に低くなることにより全体的な投資を減らすことができる。この方式の長所は、後でフルハイトのアレイおよび最大能力まで比較的短期間に拡張できる点である。この方式の短所として、コーティング可能部分の高さの範囲が相応に減少し、必要な投資の削減可能性がさほど大きくない(50%を大幅に下回る)点が含まれる。コーティングシステムのインフラ(転送ロックおよび真空チャンバ)の高さを下げることでも更に投資が削減されるが、これは上述の拡張効果に帳消しにする。
【0007】
真空コーティングシステムの構築、設置、および運転に必要な初期資金投資を制限するために、能力を下げるべく初期設定可能であるが、必要に応じて能力を上げるべく容易に修正可能な真空コーティングシステムが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、連続的なインライン真空コーティングシステムの代替方式を提供するとともに、より少ない初期投資で、大気圧より低い圧力においてプラスチック基板をコーティングする一方、必要に応じて最小コストでシステムの全体的なコーティング能力を向上させることが可能な手段を提示する。本発明の真空コーティングシステムは従って、システムの全体的なコーティング能力を段階的に増強させる必要がある場合に、コーティングシステムにおける既存のインフラおよび構成要素を大幅に入れ替える必要なしに、それらの継続的使用を可能にする。
【0009】
従って、本発明は、マルチパスコーティングシステム、すなわち当該システムを横断して搬送される基板に複数のコーティングを塗布するマルチパスコーティングシステムおよび方法を提供する。本システムは、システム内で大気圧より低い圧力を確立すべく本システムに結合された少なくとも1個の真空ポンプを含んでいる。本システムはまた、基板にコーティング層を塗布するための少なくとも1個のコーティングゾーンを含み、基板が通過することによりシステム外部の大気圧とシステム内部の大気圧より低い圧力との間を遷移する少なくとも1個の転送ロックを含んでいる。本システムは、システムを通過して基板を搬送するために、基板がシステムから排出される前にコーティングゾーンを少なくとも2回通過して基板を搬送すべく構成された搬送機構を含んでいる。
【0010】
本発明はその一態様において、マルチパスコーティングシステム、すなわち当該システムを横断して搬送される基板に複数のコーティングを塗布するマルチパスコーティングシステムを提供する。本システムは、システム内で大気圧より低い圧力を確立すべく本システムに結合された少なくとも1個の真空ポンプと、基板にコーティング層を塗布するための少なくとも1個のコーティングゾーンを含む複数のゾーンであって、基板が通過することによりシステム外部の大気圧とシステム内部の大気圧より低い圧力との間を遷移する少なくとも1個の転送ロックをも含む複数のゾーンと、1個以上の基板を、これらの基板がシステムから出る前に、コーティングゾーンを少なくとも2回通過して搬送すべく構成された搬送機構とを含んでいる。
【0011】
本発明の別の態様において、搬送機構は、コーティングゾーンを通過して基板を第1の移動方向に搬送し、続いて移動の方向を反転させ、コーティングゾーンを通過して基板を第2の方向に搬送すべく構成されている。
【0012】
更なる態様において、複数のゾーンのうち1個は、搬送機構の一部として取り込みモジュールを更に含んでいて、取り込みモジュールはシステム内における基板の移動方向を反転させる。
【0013】
更に別の態様において、取り込みモジュールは、コーティングシステム内に複数の基板を同時に配置できるように、複数の基板を受容、保持、および排出すべく構成されている。
【0014】
別の態様において、取り込みモジュールは、カセット機構を更に含んでいて、カセット機構は複数の基板を別々に受容および保持すべく構成されている。
【0015】
更に別の態様において、複数のゾーンのうち1個は、基板にコーティング層を塗布する前に基板の温度を調整すべく構成されたヒーターを含む加熱ゾーンモジュールを含んでいる。
【0016】
更なる態様において、転送ロックは搬送機構の一部として取り込みモジュールを含んでいて、取り込みモジュールはシステム内における基板の移動方向を反転させ、転送ロックの取り込みモジュールは、コーティングシステム内に複数の基板を同時に配置できるように複数の基板を受容、保持、および排出すべく構成されている。
【0017】
別の態様において、転送ロックは取り入れ転送ロックであり、本システムはまた、取り出し転送ロックを含んでいて、取り入れおよび取り出し転送ロックは各々、システム内へ基板を受容し、システムから基板を排出すべく構成されている。
【0018】
更に別の態様において、複数のゾーンは再循環モジュールを含んでいて、再循環モジュールは、コーティングゾーンから排出された基板をコーティングゾーンに再投入して更なるコーティング層を塗布すべく搬送するように構成されている。
【0019】
更なる態様において、再循環モジュールはスプリッタモジュールに接続されていて、スプリッタモジュールは、基板を交互に再循環モジュールへ向けるかまたはシステムから排出させるべく構成されていて、再循環モジュールはマージモジュールにも接続されていて、マージモジュールは再循環モジュールから基板をコーティングゾーンに進入中の基板の列に再び加えるべく構成されている。
【0020】
また更なる態様において、モジュール群の少なくともいくつかは、冷却システムに結合された壁を有し、冷却システムはモジュールを通過する基板に対する温度効果を弱めるためにモジュールの壁を能動的に冷却すべく構成されている。
【0021】
別の態様において、本発明は、複数のコーティング層を有する基板をコーティングする方法を提供する。本方法は、システム内で大気圧より低い圧力を確立するステップと、各基板をコーティングシステムの外部から転送ロックを通過してコーティングシステムの内部へ搬送するステップと、加熱ゾーン内で各基板をコーティングに適した温度に加熱するステップと、コーティングゾーンを第1の移動方向に横断してコーティングゾーン内で各基板に第1のコーティング層を塗布するステップと、コーティングゾーンを2回目に横断してコーティングゾーン内で各基板に第2のコーティング層を塗布するステップと、転送ロックを通過して各基板をコーティングシステム内からシステム外へ搬送するステップとを含んでいる。
【0022】
別の態様において、コーティングゾーンを2回目に横断するステップは第2の移動方向において実行され、第2の移動方向は第1の移動方向とは異なる。
【0023】
更なる態様において、第2の移動方向は、第1の移動方向とは反対方向である。
【0024】
更に別の態様において、コーティングゾーンを2回目に横断するステップは第2の移動方向において実行され、第2の移動方向は第1の移動方向と同一である。
【0025】
更に別の態様において、コーティングゾーンを2回目に横断するステップは、システムを通過する基板の移動方向を反転させるステップを含んでいる。
【0026】
まだ更なる態様において、反転させるステップは、複数の基板を受容および保持し、次いで基板を第2の方向に排出するステップを含んでいる。
【0027】
また更なる態様において、複数の基板はシステムを同時に通過して搬送される。
【0028】
別の態様において、本方法はコーティングゾーンを2回より多く横断して、基板に2個より多くのコーティング層を塗布するステップを含んでいる。
【0029】
更なる態様において、コーティングゾーンを2回より多く横断するステップは、対応するコーティングを基板に塗布することなく、コーティングゾーンを少なくとも1回横断するステップを含んでいる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】2個のコーティング層または副層を塗布可能なように2個のコーティングゾーンを有する従来のインライン連続コーティングシステムを示す模式図である。
【図2】一度に1個の基板または基板キャリアだけがコーティングシステムを占有する、本発明の原理を実施したコーティングシステムを示す模式図である。
【図3】複数の基板または基板キャリアが同時にコーティングシステムを占有する、本発明の原理を実施したコーティングシステムを示す模式図である。
【図4】複数の基板または基板キャリアが同時にコーティングシステムを占有し、且つ基板の方向を反転させる取り込みモジュールとしても動作可能な単一の転送ロックを備え、本発明の原理を実施したコーティングシステムを示す模式図である。
【図5】複数の基板または基板キャリアが同時にコーティングシステムを占有し、且つ基板の方向を反転させる取り込みモジュールとして機能できる2個の転送ロックを備え、本発明の原理を実施したコーティングシステムを示す模式図である。
【図6】本発明の原理によるハイブリッドインライン真空コーティングシステムを示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明はその一態様において、複数のコーティング層、または複数の副層を含むコーティング層を塗布できるETPコーティングシステムに関する。以下の説明から、本明細書に記述する各種の真空コーティングシステムの構成は各々、構成、能力および投資に関する比較において、同様のサイズおよび形状の基板に対してほぼ同様のコーティング層を形成すると予想されることを理解されたい。本発明により実施されるETPコーティングシステムの構成は、従来の連続インラインETPコーティングシステムより大幅に少ない投資で済み、投資の減少は能力を代償に得られる。
【0032】
別の態様において、本発明は一般に、大気圧より低い圧力の下でコーティング層または副層を基板に塗布できるコーティングシステムに関する。当業者には、本発明の記述がETPコーティングシステム(例:ミシガン州ウィクソム(Wixom)のエグザテック社(ExatecLLC)製のExatec(登録商標)E900光沢剤)を通過して塗布されたコーティング層または副層に関してなされているが、本発明が一般に大気圧より低い圧力の下で基板に塗布されたあらゆるコーティングに応用できることが理解されよう。従って、本発明を実施する真空コーティングシステムは、必ずしもETPプラズマ源を含んでいなくてもよい。また、以下の説明で用いる「基板」および「基板群」という用語が、コーティングシステムの搬送機構が直接扱う個々の基板と、1個以上の基板を支持する基板キャリアであって自身(キャリア)もまたコーティングシステムの搬送機構により直接扱われる基板キャリアの両方を包含することも理解されたい。
【0033】
ここで図1を参照するに、現時点での技術水準に従い、一連の近接する基板を支持することにより高性能なコーティング基板を提供する連続インライン真空コーティングシステムを示す。基板は各種のコーティングゾーンを通過して一方向に連続的に搬送され、各コーティングゾーンは専ら基板に単一のコーティング層または副層を塗布する。このような従来の連続インラインコーティングシステムを以下では「基準」コーティングシステム10と呼ぶ。図示するように、基準コーティングシステム10は、2個のコーティングゾーンを用いて、2個の層コーティングまたは2個の副層によるコーティングを塗布すべく構成されている。2個のコーティングゾーン18と合わせて、基準コーティングシステム10は2個の転送ロック12、各種バッファゾーン14、少なくとも1個の加熱ゾーン16、分離ゾーン20を含んでいて、その各々は別個のモジュラーユニットと見なすことができる。
【0034】
基板を支持している基板またはキャリアは、取り入れ転送ロック12において矢印22方向からシステム10に入る。システム10の他の部分と同様に、システムが動作する真空状態を確立する1個以上の真空ポンプ24が取り入れ転送ロック12に結合されている。取り入れ転送ロック12から、連続的な基板の列がバッファゾーン14を通過する加熱ゾーン16に入り、コーティングに適した温度まで基板が加熱される。基板は加熱ゾーン16から第1のコーティングゾーン18に入り、第1層または副層が基板に蒸着される。次いで、基板は分離ゾーン20に入る。分離ゾーン20は、第1のコーティングゾーン18を後続のコーティングゾーンから分離すべく機能することにより、各種の層または副層の成分が互いに混合して蒸着するのを防止する。分離ゾーン20から、基板は第2のコーティングゾーン18’に入り、第1層の上に第2個の層または副層が蒸着される。この第2個の層または副層は、先に塗布された層または副層と同じであっても異なっていてもよい。システム10内で追加的な層または副層を塗布する場合、システム10は適当な数の追加的な分離モジュール20およびコーティングゾーン18を含めるが、その数は追加的な層または副層の所望の数に一致するであろう。最後の層または副層が塗布された後で、コーティング済みの基板は次いでバッファゾーン14’へ搬送される、次いで取り出し転送ロック12’に入る。コーティング済みの基板は取り出し転送ロック12’からシステム10を出て、矢印26で示すように、いずれかのコーティング後処理ステーションへ搬送される。
【0035】
残りの図面、すなわち図2〜6は、本発明の原理を実施しているコーティングシステムの各種実施形態を示す。そのようなシステムが基準コーティングシステム10と異なるのは、各基板がシステム内で方向が少なくとも1回反転されて、少なくとも1個のコーティングゾーンを2回通過する点である。従って、本発明において、基板は少なくとも1個のコーティングゾーンを複数回通過する。本明細書において、本発明を実施しているシステムは従ってマルチパスコーティングシステムと呼ばれる。
【0036】
本明細書に記述するマルチパスコーティングシステムのインフラを含むモジュラーユニットの多くは、基準コーティングシステム10で用いるモジュラーユニットと同様である。従って、いくつかの同一モジュールを用いて本明細書において実施されるマルチパスコーティングシステムを構築することができる。同様に、本発明の各種のモジュールは基準コーティングシステム10で利用可能である。
【0037】
本発明のマルチパスコーティングシステムは、以下の実施形態において単一のコーティングゾーンを含むものとして記述されている。しかし、これらのマルチパスコーティングシステムが複数のコーティング層またはコーティング副層(以下では単に「層」と呼ぶ)を塗布すべく構成されていることは以下の説明から明らかとなる。より具体的には、図2、3に示すマルチパスコーティングシステムは2個のコーティング層の塗布に適している一方、図4、5、6のマルチパスコーティングシステムは2個より多くのコーティング層の塗布に適している。
【0038】
本発明のマルチパスコーティングシステムは、基準コーティングシステム10よりも名目能力が低いが、これは式1に示す2個の要因による。
Cm/Cr=(Zm/SL)×(Um/Ur) −−−− (式1)
ここに、
Cm=マルチパスコーティングシステムの名目能力
Cr=基準コーティングシステムの名目能力
Zm=マルチパスコーティングシステム内のコーティングゾーンの数
SL=コーティング層内の層の数
Um=マルチパスシステム内におけるコーティングゾーンの利用率
Ur=基準コーティングシステム内におけるコーティングゾーンの利用率
である。
【0039】
式1における因数(Zm/SL)は、能力が利用可能なコーティングゾーンの数、すなわちマルチパスコーティングシステムでは(Zm)であって基準コーティングシステム10では(SL)に比例することを認識する。第2の因数(Um/Ur)は、能力がコーティングゾーンの利用率にも比例することを認識する。換言すれば、能力は各々のコーティングゾーンが能動的に基板をコーティングしている時間の長さにも比例する。便宜上、この利用時間は、層の塗布に用いられる全てのコーティングゾーンについて同一であると仮定する。基準コーティングシステム10内のコーティングゾーンには連続的に基板が供給されるため、Urは式2が与える値にほぼ等しい。
Ur=L/(L+Gr) −−−− (式2)
ここに、
Lは移動方向における基板の長さ
Grは連続する基板同士の間隔
である。
現実的なケースにおいてGrは、Urが1に近づくように搬送機構が許す限りLに比べて小さい値とされる。
【0040】
ここで図2を参照するに、本発明の原理を実施しているマルチパスコーティングシステム30を示す。システム30は、図1に示す基準コーティングシステム10と同じく2個のコーティング層を塗布できる。しかし設備投資は、基準システム10よりもマルチパスコーティングシステム30の方が少ない。これは、システム30に含まれるコーティングゾーンの数が、付随するインフラ、ETP源のアレイ、電源、マスフローコントローラ等と合わせて基準システム10の半分であることによる。また、マルチパスコーティングシステム30は、基準コーティングシステム10で必要とされる分離モジュール20および4組の真空ポンプ24のうち2組を除外する。第2のコーティングゾーン18’および取り出し転送ロック12’に付随する真空ポンプ24はマルチパスコーティングシステム30では完全に除外されている。
【0041】
より具体的には、マルチパスコーティングシステム30は、2個のコーティング層を塗布すべく構成されている。矢印32で示すにように、基板は転送ロック34を通過して直接またはキャリア(図示しないが従来技術では公知)を通過してシステム30に入る。転送ロック34は、取り入れおよび取り出し転送ロックの両方として動作することを除いて、基準システム10のものと同様である。真空ポンプ36が転送ロック34に接続されていて、転送ロック34内で真空状態を確立すべく動作する。真空ポンプおよび蒸着システムでのそれらの利用は公知であり、従って本明細書ではこれ以上詳細に議論しない。
【0042】
基板は転送ロック34からバッファゾーン38を通過して、オプションの加熱ゾーン40へ搬送される。バッファゾーン38は、転送ロック34を通過して周期的に搬送される基板が、先にシステム内へ搬送されている基板に追い付き、従って基板同士の間隔を最小に(およびコーティングゾーン42の利用率が最大に)なるように動作する。加熱ゾーン40内では、ヒーター(任意の適当な種類の公知のヒーターであってよい)が基板をコーティングに適した温度に加熱する。
【0043】
これも好適には真空ポンプ36に結合されているコーティングゾーン42において、第1のコーティング層が従来の方法、すなわち化学蒸着およびプラズマ蒸着技術を含むがこれに限定されない任意の公知の蒸着技術により、基板の一方または両方の面に蒸着される。1回コーティングされた基板がコーティングゾーン42から別のバッファゾーン38’を横断して、取り込みモジュール44に達する。バッファゾーン38’は、取り込みモジュール44と基板の周期的な相互作用の予備領域を提供し、コーティングゾーン42と基板(取り込みモジュール44内にある間)と距離を広げる一方、コーティングゾーン42を経由する基板の第2のパスを予想してコーティングパラメータが調整される。
【0044】
取り込みモジュール44は基板を受容して、基板がバッファゾーン38’を通過することから始めて、システム30を逆向きに進むよう基板の方向を反転させる。基板はバッファゾーン38’からコーティングゾーン42へ戻って2回目の通過を行ない、当該ゾーンで基板の一方または両方の面に第2のコーティング層が塗布される。上述のように、第2のコーティング層は第1のコーティング層と同じであっても異なっていてもよい。
【0045】
基板はコーティングゾーン42から加熱ゾーン40を通過する。加熱ゾーン40は、システム30を通過した基板の第1の通過に比べて同一または低い温度で機能していてよい。低いとは、上で述べたように、加熱ゾーン40が「オフ」状態にあって、基板が2回目に通過する間は能動的に加熱しないことも含まれる。
【0046】
2回コーティングされた基板は次に、バッファゾーン38を通過して転送ロック34へ戻る。基板は転送ロック34から、矢印46で示すようにシステム30を出る。
【0047】
単一の転送ロック34への投入および排出動作を統合することに加え、マルチパスコーティングシステム30の本実施形態はまた、基準コーティングシステム10で必要とされる2個のロボットではなく、単一のロボットによる基板の積み降ろしを考慮している。このように積み降ろし機能を1ヶ所へ統合することにより、基板のキャリア(使用する場合)をシステムの排出位置から投入位置へ戻したり循環させたりするための外部機構が一切必要でなくなるという利点が加わる。
【0048】
構成要素および/またはモジュールの数が減っているにもかかわらず、マルチパスコーティングシステム30は、基準コーティングシステム10が行なうのと同様に、基板に2個のコーティング層を塗布することが可能である。単一のコーティングステーションを介したこのような2個の層の塗布は、システム30に固有な更に3個の自由度を利用することにより行なわれる。
【0049】
第一に、転送ロック34を通過する基板の移動方向を含む、基板の移動方向は反転可能である。第二に、コーティングゾーン42は、基板に異なるコーティング層を塗布するために必要な処理を実施できるように構成されている。これは、マルチパスコーティングシステム30のコーティングゾーン42が、コーティングシステム30を通過する基板遷移時間に比べて短い時間尺度でガス流および/または蒸気流速度並びにETP源出力を変更できるために可能である。第三に、加熱ゾーン40の加熱要素、例えば石英灯は、同様に速い時間尺度でスイッチオン/オフすることができる。
【0050】
上述の内容からわかるように、図2のマルチパスコーティングシステム30は一般に、各基板を下記の一連の処理を受けさせることにより所望のコーティング層を塗布する。
(1)転送ロック34を通過して基板をコーティングシステム30に搬送する
(2)取り込みモジュール44へ向かって、ヒーターがオン状態の加熱ゾーン40を横断する
(3)取り込みモジュール44へ向かって進みながら、コーティングゾーン42を横断して第1のコーティング層が塗布される
(4)一般に転送ロック34から離れる方向へ進みながら、取り込みモジュール44に入る
(5)一般に転送ロック34へ向かって進みながら、取り込みモジュール44から出る
(6)基板に第2のコーティング層を塗布しながら、コーティングゾーン42の2回目の横断を行なう
(7)オプションとしてヒーターがオフの状態で加熱ゾーン40を横断して、転送ロック34へ向かって進む
(8)コーティングシステム30の内部から外部へ、転送ロック34を通過してコーティング済みの基板を搬送する。
【0051】
図2のマルチパスコーティングシステム30を通過して基板に実施された加熱およびコーティング処理のシーケンスは、名目的には図1の基準コーティングシステム10において実施されたシーケンスと同様である。しかし、これら2種の異なるコーティングシステムの差異に起因して、後述のようにマルチパスコーティングシステム30がこれらの差異を考慮しない限り、基板の効果的処理において微妙な差異が生じる恐れがある。
【0052】
第一に、個々の副層の塗布に際して生じる時間遅延は、マルチパスコーティングシステム30の方が長くなりがちである。この時間遅延が増大することで、第2個の層を塗布する間に基板の温度が下がる場合がある。必要に応じて取り込みモジュール44内の基板を能動的に加熱することでこの熱損失を容易に補償することができる。
【0053】
第二に、マルチパスコーティングシステム30において、完全にコーティング済みである基板は、コーティングシステム30を通過して戻る途中で加熱ゾーン40を横断する。これは上述のステップ(7)である。たとえヒーター(例:石英灯ヒーター)がスイッチオフされていても、加熱ゾーン40の壁は依然として熱を放射してコーティング済み基板の温度を上昇させることができる。この温度上昇により、コーティング済みの基板に対し潜在的に熱的損傷を与える恐れがある。加熱ゾーン40の壁、およびコーティングシステム30の他の箇所を能動的に冷却(例:水冷)することがこの懸念を除去するために望ましい。また、基準コーティングシステム10よりも本システムから基板(およびそれらが運ぶ熱エネルギー)が除去される頻度が少ないため、マルチパスコーティングシステム30の他の壁または構成要素が余分な熱を吸収して再放射することができる。能動的な冷却により、コーティングシステムのこのような壁または構成要素も同様に補償できる。
【0054】
第三に、各基板は、次の基板がコーティングシステム30に入る前に、コーティングシステム30を出入りするため、コーティングゾーン42の利用率(Um)、すなわちマルチパスコーティングシステム30内の基板によりコーティングゾーン42が占有されている時間の割合が1を大幅に下回る。このため、コーティングゾーン42は、基板がシステム30を通過する各サイクルの大半において空き状態である。コーティングゾーン42内におけるコーティングサイクルを通じてコーティング剤が連続的に流れる場合、コーティングゾーンの外部にある間に漂流コーティング前駆体が基板を汚染する恐れがある。少なくとも2種の削減策を講じてこの懸念を払拭することができる。
【0055】
上記に対する一つの削減策は、コーティングゾーン42のETP源を通過して流れるものと同一の不活性ガス(例:アルゴン)により加熱およびバッファモジュール40、38を浄化することである。コーティングゾーン42の近くまたは内部にコーティングゾーンからプロセスガスをポンプで排出するポートを配置し、加熱およびバッファモジュール40、38からの浄化ガスがコーティング前駆体をコーティングゾーン42に閉じ込めるようにする。
【0056】
別の削減策は、コーティングゾーンが占有されているか空いているかに応じて、コーティング剤の流れの開放/遮断を切り替えることである。
【0057】
取り込みモジュール44に隣接するバッファモジュール38’はまた、漂流コーティング前駆体を通過して取り込みモジュール44内の基板の汚染を最小化するのを助ける。これは、図3〜5に示す本発明の実施形態の拡張された取り込みモジュールとの関連でより重要になる機能である。
【0058】
基準コーティングシステム10に比べてマルチパスコーティングシステム30の能力が低いことは式1により容易に説明される。図2に示す実施形態および図1に示す基準コーティングシステム10を用いて、式1の第1の因数(Zm/SL)は0.5である。上で説明した理由によりUmが単位元を大幅に下回り、且つUrは式2に従い現実のケースにおいて単位元に近づくため、第2の因数(Um/Ur)もまた1より小さい。Umが、実際的且つ現実的な値である約0.2に等しいと仮定すれば、式1は基準コーティングシステム10の能力の約10%であるマルチパスコーティングシステム30の名目能力を与える。Um、更にはマルチパスコーティングシステム30の能力は、各動作サイクルにおいて単一の基板ではなく基板のグループまたは列をコーティングすることにより、大幅に向上させることができる。基板のグループまたは列のコーティングは、図3〜5に示す実施形態において実行され、これについて以下に述べる。
【0059】
ここで図3を参照するに、本発明の原理を実施しているマルチパスコーティングシステム230の更なる実施形態を示しており、これは図2に関して先に記述した実施形態より大幅に向上した能力を提供するものである。このような能力の向上は、比較的小規模な設備投資の追加で実現される。図2の実施形態に比べて、図3の新機能は、「N」個の基板のグループを収容可能にすべく取り込みモジュール244を拡張したものであり、「N」は1より大きい数(N>1)である。本実施形態の他のモジュールは図2の実施形態と実質的に同一であるため、これらのモジュールには先の実施形態に関して用いたのと同一の参照番号が付されている。
【0060】
取り込みモジュール244は、「N」個の基板のグループ全体を格納するまで搬送メカニズムを通過して基板を1個ずつ取り込む。取り込みモジュール244は次いで、「N」個の基板全てを1個ずつ排出してコーティングゾーン42に至るバッファゾーン38’内へ戻す。取り込みモジュール244内のこれら「N」個の基板がトランプカードの組のように積み重ねられるか、回転可能なカルーセルのように扇形に広げられるか、または他の何らかの仕方で配置されるか否かは、当業者には公知であるように工学的な裁量の問題である。従って、取り込みモジュール244は、各基板を受容して排出するカセット機構のスロットを順次整列配置するためのカセット機構(図示せず)、または類似の機構を含んでいる。当該カセット機構は、先入れ先出し(FIFO)方式で基板の取り入れおよび排出行なうことが好適である。これにより、各基板における一連のコーティング層の塗布に要する時間が同一であることが保証される。これ以外の場合、システム230は図2に関して概説したものと同じ一般的な処理により動作する。
【0061】
図3に示すマルチパスコーティングシステム230の実施形態に必要とされる設備投資は、図2に示すコーティングシステム30の実施形態よりも高い。これは、取り込みモジュール244のサイズがそのカセット機構と合わせてより大きいためである。しかし、他の面では、図2、3に記述するコーティングシステムの実施形態はほぼ同じである。従って、2個のシステム30と230との間の投資の差異は、どちらの実施形態のコーティングシステムに要する総投資額のわずかな部分に過ぎないことが理解されよう。
【0062】
図3に見られるようにマルチパスコーティングシステム230が提供する能力がより大きいのは、そのコーティングゾーン42の利用率(Um)がより高いためである。第1実施形態のコーティングシステム30では、コーティングゾーン42は一度に1個の基板だけにより占有されている。第1実施形態のコーティングゾーン42のアイドル(空き)時間は、基板が取り込みモジュールへ向かう途中でコーティングゾーン42を出た後、取り込みモジュール244へ方向を反転させてコーティングゾーン42の方へ戻る間、およびコーティング済み基板が転送ロック34を通過して未コーティング基板と交換される際に生じる。
【0063】
図3の実施形態において、N個の基板は全て同じ方向にコーティングゾーン42を通過して連続的に移動する。アイドル時間は、全ての基板がコーティングゾーン42を通過し終えるまで生じない。アイドル時間の長さは基本的にNには依存しないが、能動的コーティング時間が長くなるほどアイドル時間が中断されるため、Nが増大するにつれてアイドル時間が生じる頻度が少なくなる。従って、Nが増大するにつれて利用率Umも増大する。Nが極めて大きい限界においてUmはUrに近づくことができるが、取り込みモジュールの規模および複雑さもNと共に増大するため、これはシステムの設置面積および投資を代償として生じる。Nが5に等しい場合、Umの現実的な値は0.5である。従って式1から、マルチパスコーティングシステム230の名目能力が基準コーティングシステム10の能力の約25%として得られる。これは、マルチパスコーティングシステムの第1実施形態、すなわち図2に関して記述するシステム30の10%との評価より大幅に高い。
【0064】
図4にマルチパスコーティングシステム330の第3の実施形態を示す。ここでは、上述のように取り込みモジュール244だけでなく、転送ロック334もN個の基板のグループをカセット機構により収容できるように構成されている。第2の実施形態に比べて、このような転送ロック334の拡張が第3の実施形態の新たな特徴である。図3の取り込みモジュールと同様に、基板は、転送ロック334のカセット機構からコーティングゾーン42を通過して取り込みモジュール244へ向かって移動し、再び戻って来ることにより、各基板がコーティングゾーン42を通過する度にその両面にコーティングを実施することができる。N個の基板は、転送ロック334と外界との間をグループとして、または個々に搬送できる。いずれの場合も、N個の基板は全て同一サイクルの間に搬送される。これ以外の場合、システム330は従来の実施形態に関して記述したのと同様に動作する。
【0065】
図3に示すマルチパスコーティングシステム230の実施形態が基板に2個の層しか塗布できないのに対し、図4に示す実施形態は基板に2個より多くの層を塗布できるが、2個の層しか塗布しない場合、後者の実施形態は、図3の実施形態に対して、図4の転送ロック334の拡張に付随して増大する設備投資に見合う追加的な能力を提供しない。しかし、基板に2個より多くの層をコーティングする必要がある場合、図4に示すマルチパスコーティングシステム330を構築することが好適であろう。2個より多くの層が必要な場合、単一コーティングゾーン42はコーティングの全ての層を実施する。基板に2個より多くの層を塗布する場合、拡張された転送ロック334は取り込みモジュールとして動作して、コーティングゾーン42を通過する3回目の横断のためにN個の基板の方向を再び反転させる。奇数個の層を塗布する場合、図4のコーティングゾーン42は、コーティングゾーン42を通過する横断のうち1回、例えば最後の横断では基板が通過する際に層が塗布されないように動作する。このような場合、取り込みモジュール244を、追加的な変更された転送ロック334のように転送ロックと取り込みモジュールの両方として機能するモジュールで代替することが好適であろう。これを図5に示す。
【0066】
この第4の実施形態のコーティングシステム430(図5)は、無意味且つ時間を要するためアイドルコーティングゾーンを最後に通過することは回避する。そのようなアイドル横断は、図4の実施形態において、奇数番目のコーティング層の塗布を行なう間、基板の取り入れおよび取り出しの両方の機能を果たす単一転送ロック334へ基板を逆向きに搬送するためだけに必要とされる。
【0067】
副層の全てに対するコーティング処理が、全て共通のコーティングゾーンで実施可能であるという意味で互いに互換性を有する場合、単一のコーティングゾーン42を含むマルチパスコーティングシステム30、230、330、430の実施形態は(例えば図2〜5に示すもの)は、基準コーティングシステム10で必要とされる投資に比べて設備投資を減らす目的を果たす。投資を最小限にすることが最終的な目標である場合、図2の実施形態が好適である。能力、および単位能力当たりの投資等の基準が投資コスト全体と同程度ならば、特定の用途に応じて図3〜5の実施形態の一つが好適である。例えば、2個の層を含むコーティングの用途には図3のマルチパスコーティングシステム230が好適であろう。同様に、基板に偶数個のコーティング層が形成される用途では図4のマルチパスコーティングシステム330が好適であろう。基板に奇数個の層がコーティングされる用途では図5のマルチパスコーティングシステム430がより好適であろう。
【0068】
例えば二次汚染の恐れがあるために、共通コーティングゾーン42において2個以上の層のコーティング処理を行なうことができない場合、本発明の原理を実施しているマルチパスコーティングシステムは複数のコーティングゾーン42を含んでいてよい。この構成では、マルチパスコーティングシステムが依然として、同じ数のコーティング層を塗布できる基準コーティングシステム10よりも少ないコーティングゾーン42を含んでいるように、互いに互換性を有する任意の数の処理を単一のコーティングゾーンだけで実施することが好適である。しかし、転送ロックおよび取り込みモジュールの好適な構成は、従前通り投資および能力基準の重み付けに依存するが、基板に塗布される特定のコーティング層にも依存する。
【0069】
図2〜5に示すマルチパスコーティングシステムの各種の構成に比べて特段の利点を提供しないものの、図6にハイブリッドマルチパスコーティングシステム630を示す。基準システム10と異なり、ハイブリッドコーティングシステム630は基板に塗布されるコーティング層の数より少ないコーティングゾーン42を含んでいる。ハイブリッドコーティングシステム630は、単一のコーティングゾーン42を通過して基板に複数のコーティング層を、これら各種のコーティング層が互いに互換性を有すると仮定して塗布する。ハイブリッドコーティングシステム630において、従来の実施形態と同様に、基板はコーティングゾーンを複数回通過するが、基準コーティングシステム10の場合と同様に全ての通過は常に同じ方向を向いている。システム630の両端に2個の転送ロック34、34’を含めると共に、コーティングゾーン42の出力側から再循環モジュール648を通過する独立経路を通過してコーティングゾーン42の入力側へ基板が戻れるようにすることにより、方向の反転が回避される。基板の方向を反転させなければ、標準の転送ロックに代えて拡張された転送ロックを用いることに能力面での利点が無い。
【0070】
ハイブリッドコーティングシステム630において、単一コーティングゾーン42が、例えばA、B、C、A、B、Cのような反復的なシーケンスで基板にコーティング層の全てを塗布する。基板は、様々な数のコーティング層または副層を有するコーティングゾーン42に連続的に入ることができる。コーティング層の数はコーティング層の所望の数より少ない。コーティングゾーン42へ再循環されている基板は次いで、各基板が要求する次の層に応じてコーティングゾーン42を通過して並べられ、処理シーケンスと協調してコーティングゾーン42を横断している各基板に適切なコーティング層が形成されるようにする。X個の層を含むコーティングの図6に示す構造では、コーティングゾーン42から出る部分的にコーティング済みの基板が、再循環モジュール648を通過して、スプリッタモジュール650によりコーティングゾーン42の入力側へX−1回向きを変えられる。この時点で、基板はマージモジュール652において、取り入れ転送ロック34により新たにシステム630内へ搬送された未コーティング基板と合体する。全ての所望のコーティング層を有する完全にコーティング済みの基板はコーティングゾーン42を出て、新規の未コーティング基板が取り入れ転送ロック34を通過してシステム630に入る速度に等しい速度で取り出し転送ロック34’へ向かって進む。
【0071】
上述の基板のシーケンスを維持するために、基板は、基準コーティングシステム10内への搬送速度をX”で除算した値に等しい名目速度で取り入れ転送ロック34を通過する。しかし、連続する基板同士の間隔は実際には基準コーティングシステム10よりもハイブリッドコーティングシステム630内の方が大きいため、ハイブリッドコーティングシステム630内の実際の搬送速度はこの名目速度より遅くなる。このように間隔が大きいことにより、各基板が通過した後で、且つ次の基板がコーティング可能な位置に来る前に、コーティングゾーン42内でのコーティング処理の調整および安定化が可能になる。基準コーティングシステム10において、各コーティングゾーンは連続的に行なわれる単一のコーティング処理しか実施しないため、搬送機構が許す限り基板同士の間隔を狭めることができる。基準コーティングシステム10と同様に、基板はハイブリッドマルチパスコーティングシステム630のコーティングゾーン42を通過して連続的に移動し、従って基準コーティングシステム10の利用率(Ur)に対するハイブリッドシステム630の利用率(Uh)は式3で表われる。
Uh/Ur=(L+Gr)/(L+Gh) −−−− (式3)
ここに、Ghはハイブリッドコーティングシステム630における連続する基板同士の間隔、LおよびGrは式2と同様に定義される。実際には、Ghは連続する層の処理が異なるほど大きくなる。これは、次のコーティング処理のための安定化に必要な時間が長くなった結果である。例えば、GrがLの極めて小さい分数であってGhがLに等しい場合、UhはUrの約0.5倍である。(図3〜5に示すような)マルチパスコーティングシステムが比較し得る利用率を達成した場合、そのようなマルチパスコーティングシステムは実用的な見地からシステム630よりも好適であろう。ある場合には巨大なカセット機構が必要とされ、他の場合には再循環、スプリッタ、およびマージモジュールが必要とされるように、部品搬送の機械的複雑さはシステム間で比較可能と考えられる。しかし、ハイブリッドコーティングシステム630は、各基板がコーティングゾーン42を横断した後でコーティング層処理を切り替える点で更に複雑且つ材料効率が悪化するのに対し、先に述べた実施形態のマルチパスコーティングシステムでは、この切り替えはN個の基板がコーティングゾーンを横断した後で生じる。
【0072】
ハイブリッドコーティングシステム630のその他のモジュールおよびゾーンが従来の実施形態と概ね同様に動作することが理解されよう。
【0073】
好適な実施形態に関する上の説明は本来例示的に過ぎず、本発明またはその用途あるいは利用法を一切限定するものではない。当業者には、上述の説明から、添付の請求項にて定義されるように、本発明の範囲および本来の意味から逸脱することなく、好適な実施形態に対して修正および変更が可能であることが理解されよう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マルチパスコーティングシステム、すなわち前記システムを横断して搬送される基板に複数のコーティングを塗布するマルチパスコーティングシステムであって、
前記システム内で大気圧より低い圧力を確立すべく前記システムに結合された少なくとも1個の真空ポンプと、
前記基板にコーティング層を塗布するための少なくとも1個のコーティングゾーンを含む複数のゾーンであって、前記基板が通過することにより前記システム外部の大気圧と前記システム内部の大気圧より低い圧力との間を遷移する少なくとも1個の転送ロックをも含む複数のゾーンと、
1個以上の基板を、前記基板が前記システムから出る前に、前記コーティングゾーンを少なくとも2回通過して搬送すべく構成された搬送機構と、を含むマルチパスコーティングシステム。
【請求項2】
前記搬送機構が、前記コーティングゾーンを通過して前記基板を第1の移動方向に搬送し、続いて移動の方向を反転させ、前記コーティングゾーンを通過して前記基板を第2の方向に搬送すべく構成されている、請求項1に記載のマルチパスコーティングシステム。
【請求項3】
前記複数のゾーンのうち1個が、前記搬送機構の一部として取り込みモジュールを更に含んでいて、前記取り込みモジュールが前記システム内における前記基板の移動方向を反転させる、請求項2に記載のマルチパスコーティングシステム。
【請求項4】
前記取り込みモジュールが、コーティングシステム内に複数の基板を同時に配置できるように、複数の基板を受容、保持、および排出すべく構成されている、請求項3に記載のマルチパスコーティングシステム。
【請求項5】
前記取り込みモジュールが、カセット機構を更に含んでいて、前記カセット機構が複数の基板を別々に受容および保持すべく構成されている、請求項3に記載のマルチパスコーティングシステム。
【請求項6】
前記複数のゾーンのうち1個が、前記基板にコーティング層を塗布する前に前記基板の温度を調整すべく構成されたヒーターを含む加熱ゾーンモジュールを更に含む、請求項1に記載のマルチパスコーティングシステム。
【請求項7】
前記転送ロックが前記搬送機構の一部として取り込みモジュールを含んでいて、前記取り込みモジュールが前記システム内における前記基板の移動方向を反転させ、前記転送ロックの前記取り込みモジュールが、前記コーティングシステム内に複数の基板を同時に配置できるように複数の基板を受容、保持、および排出すべく構成されている、請求項1に記載のマルチパスコーティングシステム。
【請求項8】
前記転送ロックが取り入れ転送ロックであり、前記システムもまた、取り出し転送ロックを更に含んでいて、前記取り入れおよび取り出し転送ロックが各々、前記システム内へ基板を受容し、前記システムから基板を排出すべく構成されている、請求項1に記載のマルチパスコーティングシステム。
【請求項9】
前記複数のゾーンが再循環モジュールを含んでいて、前記再循環モジュールが、前記コーティングゾーンから排出された基板を前記コーティングゾーンに再投入して更なるコーティング層を塗布すべく搬送するように構成されている、請求項1に記載のマルチパスコーティングシステム。
【請求項10】
前記再循環モジュールがスプリッタモジュールに接続されていて、前記スプリッタモジュールが、基板を前記再循環モジュールおよび前記システムの出口のうち一方へ向けるべく構成されていて、前記再循環モジュールがマージモジュールにも接続されていて、前記マージモジュールが前記再循環モジュールから基板を前記コーティングゾーンに進入中の基板の列に再び加えるべく構成されている、請求項9に記載のマルチパスコーティングシステム。
【請求項11】
前記モジュール群の少なくともいくつかが、冷却システムに結合された壁を有し、前記冷却システムがモジュールを通過する基板に対する温度効果を弱めるために前記モジュールの壁を能動的に冷却すべく構成されている、請求項1に記載のマルチパスコーティングシステム。
【請求項12】
複数のコーティング層を有する基板をコーティングする方法であって、
システム内で大気圧より低い圧力を確立するステップと、
各基板をコーティングシステムの外部から転送ロックを通過して前記コーティングシステムの内部へ搬送するステップと、
前記コーティングゾーンを第1の移動方向に横断して前記コーティングゾーン内で各基板に第1のコーティング層を塗布するステップと、
前記コーティングゾーンを2回目に横断して前記コーティングゾーン内で各基板に第2のコーティング層を塗布するステップと、
前記転送ロックを通過して各基板を前記コーティングシステム内からシステム外へ搬送するステップと、を含む方法。
【請求項13】
前記コーティングゾーンを2回目に横断するステップが、第2の移動方向において実行され、前記第2の移動方向が前記第1の移動方向とは異なる、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記第2の移動方向が前記第1の移動方向とは反対方向である、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記コーティングゾーンを2回目に横断するステップが、第2の移動方向において実行され、前記第2の移動方向が前記第1の移動方向と同一である、請求項12に記載の方法。
【請求項16】
前記コーティングゾーンを2回目に横断するステップが、前記システムを通過する基板の移動方向を反転させるステップを更に含む、請求項12に記載の方法。
【請求項17】
前記反転させるステップが、複数の基板を受容および保持し、次いで前記基板を前記第2の方向に排出するステップを含む、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
複数の基板が前記システムを同時に通過して搬送される、請求項12に記載の方法。
【請求項19】
前記コーティングゾーンを2回より多く横断して、前記基板に2個より多くのコーティング層を塗布するステップを更に含む、請求項12に記載の方法。
【請求項20】
前記コーティングゾーンを2回より多く横断するステップが、対応するコーティングを前記基板に塗布することなく、前記コーティングゾーンを少なくとも1回横断するステップを含む、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
加熱ゾーン内で各基板をコーティングに適した温度に加熱するステップを更に含む、請求項12に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2011−509347(P2011−509347A)
【公表日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−540917(P2010−540917)
【出願日】平成20年12月29日(2008.12.29)
【国際出願番号】PCT/US2008/088392
【国際公開番号】WO2009/086494
【国際公開日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【出願人】(501080424)エグザテック・リミテッド・ライアビリティー・カンパニー (7)
【氏名又は名称原語表記】Exatec,LLC.
【住所又は居所原語表記】31220 Oak Creek Drive,Wixom,MICHIGAN,USA
【Fターム(参考)】