マルチビーム半導体レーザ装置
【課題】各レーザ素子のサーマルクロストーク特性を均一なものにし、レーザ素子間のレーザ光出力差を低減することができるマルチビーム半導体レーザ装置を提供する。
【解決手段】ストライプ状のリッジ部を有するレーザ発光部LD1〜LD4が、並列配置されている。素子間分離溝配線層22a、22b、22c、22dの各領域における斜線部が、配線層22a、22b、22c、22dと各レーザ発光部LD1〜LD4のリッジ部上のリッジ電極とが電気的に接続される。内側レーザ発光部LD2、LD3よりも、外側レーザ発光部LD1、LD4の両側に形成される2つの素子分離溝間の幅を狭くしていくことにより、サーマルクロストークの差を低減することができる。
【解決手段】ストライプ状のリッジ部を有するレーザ発光部LD1〜LD4が、並列配置されている。素子間分離溝配線層22a、22b、22c、22dの各領域における斜線部が、配線層22a、22b、22c、22dと各レーザ発光部LD1〜LD4のリッジ部上のリッジ電極とが電気的に接続される。内側レーザ発光部LD2、LD3よりも、外側レーザ発光部LD1、LD4の両側に形成される2つの素子分離溝間の幅を狭くしていくことにより、サーマルクロストークの差を低減することができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数個のレーザストライプを備え、各レーザストライプからレーザ光を出射させるマルチビーム半導体レーザ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体レーザは、色々な用途に用いられており、光ディスク装置、レーザビームプリンタ、複写機などの装置では、近年、動作の高速化や情報処理の大容量化が求められている。そこで、装置の高速化や大容量化に応じて、光源として複数個のレーザビーム(以下、マルチビーム)を出射するいわゆるマルチビーム半導体レーザ装置を用いることが提案されている。
【0003】
マルチビーム半導体レーザ装置は、ストライプ構造を有する半導体レーザ素子が、複数個アレイ状に並べられた構造を有している。そして、複数個の半導体レーザ素子にレーザ光を発生させて使用している。
【0004】
また、マルチビーム半導体レーザ装置では、各々のレーザ素子を独立に駆動することを目的として、互いに隣り合うレーザ素子の間に、レーザ素子を電気的に分離する分離溝が設けられている。高密度集積化が高められるにつれ、隣り合うレーザ素子間の間隔が狭められることにより、レーザ素子間の電気的クロストークが発生する。
【0005】
そこで、例えば、特許文献1に示すように、各発光部間と、発光部とリード部となる導電層との間に、高抵抗分離領域を設けて、電気的クロストークを低減することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−212538号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、従来のマルチビーム半導体レーザ装置では、電気的クロストークの問題以外に、サーマルクロストークの問題が発生する。サーマルクロストークとは、1つの半導体レーザ素子への電流注入による発熱が、他の半導体レーザ素子に影響を及ぼし、個々の半導体レーザ素子についてレーザ光出力の変動が発生することである。並列配置されたレーザ素子のうち、外側レーザ素子よりも内側レーザ素子の方が熱が蓄積されやすいため、温度が上昇しやすく、サーマルクロストーク特性は悪くなるという問題があった。
【0008】
本発明は、上述した課題を解決するために創案されたものであり、各レーザ素子のサーマルクロストーク特性を均一なものにし、レーザ素子間のレーザ光出力差を低減することができるマルチビーム半導体レーザ装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明のマルチビーム半導体レーザ装置は、基板上に並列配置された3以上のストライプ状の半導体レーザ発光部と、前記各半導体レーザ発光部を分離する分離溝と、前記並列配置された半導体レーザ発光部の両側に配置されたパッド電極と、前記パッド電極と隣り合う半導体レーザ発光部との間に形成された前記分離溝とを備え、前記半導体レーザ発光部のうち内側に配置された半導体レーザ発光部の両側に形成された2つの分離溝間の距離よりも、外側に配置された半導体レーザ発光部の両側に形成された2つの分離溝間の距離の方が小さいことを特徴とするマルチビーム半導体レーザ装置を主要な特徴とする。
【0010】
また、本発明のマルチビーム半導体レーザ装置は、基板上に並列配置された3以上のストライプ状の半導体レーザ発光部と、前記各半導体レーザ発光部を分離する分離溝と、前記並列配置された半導体レーザ発光部の両側に配置されたパッド電極と、前記パッド電極と隣り合う半導体レーザ発光部との間に形成された前記分離溝とを備え、前記分離溝のうち内側に形成された分離溝の深さよりも、外側に形成された分離溝の深さの方が大きいことを主要な特徴とする。
【0011】
また、本発明のマルチビーム半導体レーザ装置は、基板上に並列配置された3以上の半導体レーザ発光部と、前記各半導体レーザ発光部に設けられたストライプ状のリッジ部と、前記ストライプ状の各リッジ部上に形成されるリッジ電極と、前記各リッジ電極と電気的に接続するために、前記リッジ部のストライプ方向を横切る方向に形成された複数の配線層とを備え、前記並列配置された半導体レーザ発光部のうち内側に配置された半導体レーザ発光部では、前記配線層とは電気的に分離した位置における前記リッジ電極上に、金メッキ層を形成していることを主要な特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の一の構成では、基板上に並列配置された3以上のストライプ状の半導体レーザ発光部と、各半導体レーザ発光部を分離する分離溝と、並列配置された半導体レーザ発光部の両側に配置されたパッド電極と、パッド電極と隣り合う半導体レーザ発光部との間に形成された前記分離溝とを備えており、内側に配置された半導体レーザ発光部の両側に形成された2つの分離溝間の距離よりも、外側に配置された半導体レーザ発光部の両側に形成された2つの分離溝間の距離の方が小さく構成されている。
【0013】
また、他の構成では、分離溝のうち内側に形成された分離溝の深さよりも、外側に形成された分離溝の深さの方を大きく形成している。
【0014】
さらに、他の構成では、並列配置された半導体レーザ発光部のうち内側に配置された半導体レーザ発光部では、配線層とは電気的に分離した位置におけるリッジ電極上に、金メッキ層を形成している。
【0015】
このため、内側の半導体レーザ発光部の放熱性は良くなり、外側の半導体レーザ発光部では放熱性が悪くなる。これにより、サーマルクロストーク特性の個体差を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明のマルチビーム半導体レーザ装置を上側から見た平面図である。
【図2】図1のA−A’の断面を示す図である。
【図3】図1のB−B’の断面を示す図である。
【図4】図1のC−C’の断面を示す図である。。
【図5】マルチビーム半導体レーザ装置において、レーザ発光部1個分の半導体積層構造例を示す図である。
【図6】30mAのレーザ駆動電流を流したときのレーザ発光部の抵抗と電極配線距離との関係を示す図である。
【図7】30mAのレーザ駆動電流を流したときのレーザ発光部の抵抗と電極配線接触幅との関係を示す図である。
【図8】マルチビーム半導体レーザ装置の一製造工程を示す図である
【図9】マルチビーム半導体レーザ装置の一製造工程を示す図である
【図10】マルチビーム半導体レーザ装置の一製造工程を示す図である。
【図11】マルチビーム半導体レーザ装置の一製造工程を示す図である。
【図12】サーマルクロストークの測定方法示す図である。
【図13】4つのレーザ発光部を有するマルチビーム半導体レーザ装置の模式的断面を示す図である。
【図14】素子間分離溝とレーザ発光部との位置関係を示す模式図である。
【図15】素子間分離溝の溝幅3μmとし、素子間分離溝の深さとレーザ発光部の温度との関係を、外側レーザ発光部と内側レーザ発光部について示した図である。
【図16】素子間分離溝の溝幅5μmとし、素子間分離溝の深さとレーザ発光部の温度との関係を、外側レーザ発光部と内側レーザ発光部について示した図である。
【図17】素子間分離溝の位置を変化させた場合、素子間分離溝の深さとレーザ発光部の温度との関係を、外側レーザ発光部と内側レーザ発光部について示した図である。
【図18】素子間分離溝の位置を変化量とレーザ発光部の温度との関係を、外側レーザ発光部と内側レーザ発光部について示した図である。
【図19】内側レーザ発光部に関する素子間分離溝の深さとレーザ発光部の温度との関係を、外側レーザ発光部と内側レーザ発光部について示した図である。
【図20】外側レーザ発光部に関する素子間分離溝の深さとレーザ発光部の温度との関係を、外側レーザ発光部と内側レーザ発光部について示した図である。
【図21】中央の素子間分離溝以外は、溝の深さを同じように変化させた場合、素子間分離溝の深さとレーザ発光部の温度との関係を、外側レーザ発光部と内側レーザ発光部について示した図である。
【図22】内側のレーザ発光部のリッジ部上に配線層以外の領域に金メッキ層を形成した構成を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照して本発明の一実施形態を説明する。以下の図面の記載において、同一または類似の部分には同一または類似の符号を付している。構造に関する図面は模式的なものであり、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれている場合がある。
【0018】
図1は、マルチビーム半導体レーザ装置を上から見た平面図を示す。図2は、図1のA−A’断面を、図3は図1のB−B’断面を、図4はC−C’断面を示す。本実施例では、マルチビーム半導体レーザ装置は、レーザ発光部LD1、レーザ発光部LD2、レーザ発光部LD3、レーザ発光部LD4を有している。なお、図1では、図をわかりやすくするために、絶縁膜15を省いている。
【0019】
レーザ発光部LD1、LD2、LD3、LD4は、各々、図1の太い斜線で示すようなストライプ状のリッジ部を有している。これらの各リッジ部の横幅をx1とする。また、配線層22aは、リッジ部のストライプ方向の長さLa、横幅l1で形成されている。配線層の横幅とは、リッジ部のストライプ方向を横切る方向の長さを表わしており、図1の例では、ストライプ方向と直交する方向の長さになる。また、配線層22bは、リッジ部のストライプ方向の長さLb、横幅l1で形成されている。配線層22cは、リッジ部のストライプ方向の長さLb、横幅l2で、配線層22dは、リッジ部のストライプ方向の長さLd、横幅l2で形成されている。
【0020】
マルチビーム半導体レーザ装置の積層構造体20上にパッド電極21a、21b、21c、21dが形成されており、これらのパッド電極は、LD1〜LD4までのレーザ発光部に電流を供給するため、ワイヤーボンディング用の電極等に用いられる。また、リッジ部のストライプ方向を揃えて、並列配置されたレーザ発光部LD1、LD2、LD3、LD4の両側に、パッド電極が設けられている。
【0021】
図2では、パッド電極21aとパッド電極21bが示されているが、いずれもパッド電極から伸びた配線層は示されていない。図3では、LD2のリッジ部上部に形成されたp電極14とパッド電極21aが配線層22aで接続されている。LD3のリッジ部上部に形成されたp電極14とパッド電極21bが配線層22bで接続されている。また、積層構造体20は、平坦に積層された半導体積層体31とリッジ部と埋め込み層とで構成された半導体積層体32とで構成される。パッド電極21bと配線層22bは、金属層16上にメッキ層17が積層された多層構造で構成される。同様に、パッド電極21aと配線層22aは、金属層16上にメッキ層17が積層された多層構造で構成される。
【0022】
一方、図4に示されるように、LD1のリッジ部上部に形成されたp電極14とパッド電極21cが配線層22cで接続されている。LD4のリッジ部上部に形成されたp電極14とパッド電極21dが配線層22dで接続されている。パッド電極21cと配線層22cは、金属層16上にメッキ層17が積層された多層構造で構成される。同様に、パッド電極21dと配線層22dは、金属層16上にメッキ層17が積層された多層構造で構成される。LD1〜LD4におけるp電極上を覆う絶縁膜15の開口面積(目抜き面積)の横幅は、図1で示したLD1〜LD4のリッジ部の横幅x1と等しく形成される。
【0023】
上記のように、4つのレーザ発光部のうち、内側に存在するLD2とLD3に対する配線層22a、22bの長さl1は、外側に存在するLD1とLD4に対する配線層22c、22dの長さl2よりも長く形成される。
【0024】
図1の配線層22a、22b、22c、22dの各領域における斜線部が、配線層22a、22b、22c、22dと各レーザ発光部のp電極との接触面積を示す。配線層22aはLD2のp電極と、配線層22bはLD3のp電極と、配線層22cはLD1のp電極と、配線層22dはLD4のp電極と接触している。
【0025】
また、内側レーザ発光部のLD2、LD3のLa、Lbは、外側レーザ発光部のLD1、LD4のLc、Ldよりも長く形成されている。
【0026】
図1の実施例では、LD1〜LD4の4個のレーザ発光部が並列配置された装置を示しているが、これに限定されるものではなく、N個のレーザ発光部が並列配置された装置にまで拡張することができる。
【0027】
上記のようなレーザ発光部LD1〜LD4は、積層構造体における層構造は同じように形成されている。例えば、各レーザ発光部の構造を図5のようにすることができる。n型GaAs基板に,n型GaAsバッファ層2、n型AlGaAsクラッド層3、n型AlGaAsガイド層4、AlGaAs活性層5、p型AlGaAsガイド層6、第1p型AlGaAsクラッド層7、p型InGaPエッチングストップ層8が順に積層される。p型InGaPエッチングストップ層8上には、ストライプ構造を有する第2p型AlGaAsクラッド層9とp型GaAsキャップ層10が順に形成されており、第2p型AlGaAsクラッド層9とp型GaAsキャップ層10でリッジ部を構成する。また、第2p型AlGaAsクラッド層9とp型GaAsキャップ層10の側面には、n型AlGaAs埋め込み層11が形成されており、このn型AlGaAs埋め込み層11上にn型GaAs埋め込み層12が積層されてレーザ発光部の上面が平坦になるように構成される。
【0028】
次に、図8〜図11を用いて、図1〜図4に示されるマルチビーム半導体レーザ装置の製造方法を以下に説明する。なお、マルチビーム半導体レーザ装置における4つのレーザ発光部の製造方法は同じであるため、図8〜図11には、1つのレーザ発光部の周辺部分の製造方法のみを示している。
【0029】
まず、図8(a)に示すように、n型GaAs基板1上に,n型GaAsバッファ層2、n型AlGaAsクラッド層3、n型AlGaAsガイド層4、AlGaAs活性層5、p型AlGaAsガイド層6、第1p型AlGaAsクラッド層7、p型InGaPエッチングストップ層8、第2p型AlGaAsクラッド層9Aとp型GaAsキャップ層10Aを順に積層する。
【0030】
次に、酒石酸を用いてウエットエッチングを行い、ストライプ状のリッジ部を作製する(図8(b))。このとき、p型InGaPエッチングストップ層8が存在するため、リッジエッチングは、p型InGaPエッチングストップ層8で停止し、リッジ部を構成する第2p型AlGaAsクラッド層9とp型GaAsキャップ層10が形成される。
【0031】
図8(c)に示すように、第2p型AlGaAsクラッド層9とp型GaAsキャップ層10の側面に、n型AlGaAs埋め込み層11、n型GaAs埋め込み層12を順に積層し、平坦化する。
【0032】
図9(d)に示すように、LD1〜LD4の各レーザ発光部を分離する素子分離溝19をドライエッチングにより、形成する。
【0033】
次に、素子分離溝19に、素子間絶縁膜13を形成する(図9(e))。素子間絶縁膜13は、例えば、感光性ポリイミド樹脂等を用い、これを熱硬化させて作製する。p電極14を蒸着により作製する。p電極14は、例えば、チタン層の上に金層を積層したTi/Auの積層構造で構成される。
【0034】
次に、素子間絶縁膜13及びp電極14の上に、絶縁膜を形成し、配線層22a〜22dとp電極14とを接触させるための領域を形成するために、絶縁膜を目抜きエッチングを行い、図10(g)に示すような目抜き開口部を有する絶縁膜15を作製する。絶縁膜15には、SiO2等を用い、BHF等によるウエットエッチングにより、接触領域に相当するSiO2を取り除く。
【0035】
図10(i)に示すように、配線層22a〜22d及びパッド電極を構成する金属層16を、全面に蒸着する。金属層16には、Ti等が用いられる。配線層の領域からパッド電極の領域について、メッキ層17を形成する。メッキ層17は、Au等により形成される。
【0036】
図11(j)に示すように、メタルエッチングを行い、金属層16の配線層、パッド電極の領域に相当する部分を残し、他の部分を取り除く。n型GaAs基板1の裏面をを研磨し、n電極30を蒸着により形成する。n電極30は、例えば、AuGeの合金上に、Ni、Ti、Auの各金属が順に積層された多層金属膜(AuGe/Ni/Ti/Au)が用いられる(図11(k))。
【0037】
次に、サーマルクロストーク特性とドループ特性について説明する。図1のように、レーザ発光部が複数配列されていると、1つのレーザ発光部への電流注入による発熱が、他のレーザ発光部に影響を及ぼし、レーザ光出力の変動が個々のレーザ発光部に発生する。これがサーマルクロストークである。また、短い駆動時間と長い駆動時間ではレーザ光出力が変動する。この差がドループ量と呼ばれている。
【0038】
図13は、図1〜図4に示される4つのレーザ発光部を有するマルチビーム半導体レーザ装置の断面を模式的に示したものである。図13に示される素子間絶縁膜13a〜13eのうちの2つで挟まれたリッジ部を含む領域が1つのレーザ発光部に相当するものであり、向かって左側からLD1、LD2、LD3、LD4と4つのレーザ発光部が構成されている。図13(a)は、素子間絶縁膜13aと13bとの間の距離、素子間絶縁膜13bと13cとの間の距離、素子間絶縁膜13cと13dとの間の距離、素子間絶縁膜13dと13eとの間の距離がすべてWで、等しい場合を示す。
【0039】
図13(b)は、外側のレーザ発光部LD1の両側の素子間絶縁膜13aと13bの間の距離及び、LD4の両側の素子間絶縁膜13dと13eの間の距離とを短くするために、素子間絶縁膜13bと素子間絶縁膜13dを各々外側に1.5μmずらした位置に配置した構成を示す。図13(c)は、図13(b)よりもさらに、外側のレーザ発光部LD1とLD4の隣合う素子間絶縁膜の間の距離を短縮するために、素子間絶縁膜13aと13eをそれぞれ内側に1.5μmずらした位置に配置した構成を示す。
【0040】
各レーザ発光部LD1、LD2、LD3、LD4のドループ特性は、各レーザ発光部を単体で駆動させ、短時間による駆動と長時間による駆動とのレーザ光出力の差から測定できる。一方、サーマルクロストークは、以下のようにして測定することができる。図12に示すように、LD1、LD2、LD3、LD4のレーザ発光部を順に駆動していった後、順にレーザ発光部の駆動を停止していくことにより、サーマルクロストークとドループが足し合わされたデータを測定し、このデータからドループを引き算すれば、サーマルクロスロークが求められる。
【0041】
まず、図12に示すように、LD1のみを駆動して、レーザ光を発光させる。図12では、5μsの期間、LD1を駆動しているが、その期間のうち、中間の期間に当たる3μs(t1)の期間のレーザ光出力の時間平均P1を算出する。
【0042】
LD1の駆動開始から5μsの時間経過後、LD2も駆動させてレーザ光を出力させる。LD1+LD2の期間は、LD1及びLD2のレーザ発光部が駆動していることを示す。LD2の駆動開始から、所定時間経過後、LD3を駆動させる。LD1+LD2+LD3の期間は、LD1、LD2及びLD3のレーザ発光部が駆動していることを示す。LD3の駆動開始から、所定時間経過後、LD4を駆動させる。
【0043】
LD1+LD2+LD3+LD4の期間は、LD1、LD2、LD3及びLD4のレーザ発光部が駆動していることを示す。LD4の駆動開始した後、最初のLD1の駆動開始から500μs経過後、LD1の駆動のみを停止させる。この駆動停止前4μsの期間のうち、手前の3μs(t2)の期間におけるLD1〜LD4までの全体のレーザ光出力の時間平均P2を算出する。
【0044】
LD1の駆動停止後、LD2、LD3及びLD4が駆動中の状態であり、これを5μs継続させた後、LD2のみ駆動を停止させる。5μsの駆動継続期間中のうち、中間の3μs(t3)の期間におけるLD2〜LD4までの全体のレーザ光出力の時間平均P3を算出する。
【0045】
LD2の駆動停止後、所定の時間、LD3及びLD4の駆動を継続した後、LD3の駆動を停止する。LD3の駆動停止後、所定の時間、LD4の駆動を継続した後、LD4の駆動を停止し、LD1〜LD4のすべてのレーザ発光部の駆動をすべて停止する。
【0046】
以上のようにして、測定したP1、P2、P3により、レーザ発光部LD1に関するサーマルクロストークとドループとが加算された値SDを算出することができる。
すなわち、SD(%)=(1−(P2−P3)/P1)×100
SDには、LD1のサーマルクロストーク特性成分とドループ特性成分が含まれている。
以上のようにして、各LD1〜LD4までのSDを算出することができる。
【0047】
上記のようにして、各LD1〜LD4までのSDと、ドループ特性、SDからドループ特性を引いてサーマルクロストーク特性を算出したデータとをそれぞれ示した数値を図13(d)に示す。ドループ+サーマルクロストークからドループを引いたものが、サーマルクロストークとなっている。
【0048】
上記の熱解析には、以下の構造のものを用いた。熱源が1個のレーザ発光部について、60mWとなるようにした。熱源=投入電力−光出力=2V×40mA−10mW×2
この熱源は、リッジ下5μm×500um×112nmの領域である。マルチビーム半導体レーザ装置の大きさは、各レーザ発光部の共振器長は500μm、チップ幅は450μmとした。基板裏面熱伝達率は60000W/m2Kである。
【0049】
各レーザ発光部を構成するリッジ部と隣のリッジ部との間の距離は、28μmとなるように構成した。素子間絶縁膜はポリイミドで構成した。熱伝導率は、GaAs基板が55W/mK、熱源に相当する活性層部分はAl0.35GaAsで構成し、熱伝導率11.18W/mK、クラッド層はAl0.53GaAsで構成し、熱伝導率12.318 W/mK、 埋め込み層はGaAsで構成し、熱伝導率55W/mK、素子間絶縁膜を構成するポリイミドは熱伝導率0.2049W/mK、電極は金で構成し、熱伝導率315W/mKとした。
【0050】
図13(d)からわかるように、外側レーザ発光部LD1、LD4に対して、内側レーザ発光部LD2、LD3のサーマルクロストーク特性が悪い。図13(e)では、内側レーザ発光部LD2及びLD3のサーマルクロストークと、外側レーザ発光部LD1及びLD4のサーマルクロストークとを、図13(a)〜図13(c)の各構造について求めた。ここで、構造の欄のA、B、Cは、それぞれ図13(a)、図13(b)、図13(c)の構造に対応している。
【0051】
隣り合う素子間絶縁膜の間の距離が等しい構造A(隣り合う素子分離溝の間の距離が等しい構造A)では、内側レーザ発光部と外側レーザ発光部とのサーマルクロストーク差は、3.45となっている。しかし、最も外側に位置するレーザ発光部の両側に形成された素子分離溝間の距離を小さくするにしたがい、内側レーザ発光部と外側レーザ発光部とのサーマルクロストーク差は小さくなっていくことがわかる。構造Bでは、内側レーザ発光部と外側レーザ発光部とのサーマルクロストーク差は2.52、構造Cでは1.07である。これにより、素子分離溝の間の距離、すなわち素子分離溝19の位置を変更することで、サーマルクロストーク特性個体差を低減することができる。
【0052】
以下に、詳細に検討した結果を示す。図14は、図13(a)〜図13(c)に示したマルチビーム半導体レーザ装置をさらに簡略化した構造を示す。マルチビーム半導体レーザ装置における積層構造体の中に、素子間分離溝19a〜19eと、これによって分離されたレーザ発光部LD1〜LD4の活性層付近を示したものである。
【0053】
Dは、素子分離溝の深さ(μm)を示す。また、素子分離溝の溝幅は、3μmである。また、最初は、各レーザ発光部を分離するためにレーザ発光部の両側に形成された2つの素子間分離溝の間の距離が、各々等しいとして、この時点から素子間分離溝の位置を外側に移動させる場合の移動量を、Xμm、Yμmとしている。すなわち、素子分離溝19aと素子分離溝19bとの距離、素子分離溝19bと素子分離溝19cとの距離、素子分離溝19cと素子分離溝19dとの距離は、最初はすべて等しい。
【0054】
図15は、図14において、X=0、Y=0とし、Dを変化させた場合の内側レーザ発光部LD2、LD3の温度変化と、外側レーザ発光部LD1、LD4の温度変化を計算した結果を示す。内側レーザ発光部LD2、LD3の温度はLD2とLD3の平均温度を、外側レーザ発光部LD1、LD4の温度はLD1とLD4の平均温度を示す。
【0055】
ISが内側レーザ発光部LD2、LD3の温度変化を、OSが外側レーザ発光部LD1、LD4の温度変化を示す。ISとOSとを比較すればわかるように、素子間分離溝の位置を変えずに、各素子間分離溝の深さを深くしてみても、内側レーザ発光部の方が常に温度が高くなっていることがわかり、サーマルクロストークの差を低減することができない。
【0056】
図16は、図15と同様、素子分離溝の位置を変えずに、各素子分離溝の深さを深くした場合の内側レーザ発光部と外側レーザ発光部の温度変化を示しているが、各素子間分離溝の幅が3μmから5μmに変更した場合を示す。
【0057】
各素子分離溝の幅を5μmと広くした場合でも、各素子分離溝の深さを深くしてみても、内側レーザ発光部の方が常に温度が高くなっていることがわかり、サーマルクロストークの差を低減することができない。
【0058】
次に、図17(a)に示すように、素子分離溝の位置X及びYを変化させて、レーザ発光部を挟んで形成される2つの素子分離溝間の距離を、内側レーザ発光部と外側レーザ発光部とで変更した。内側レーザ発光部の2つの素子分離溝間の距離をW2、外側レーザ発光部の2つの素子分離溝間の距離、すなわち素子分離溝19aと19bとの間の距離及び素子分離溝19dと19eとの間の距離をW1とした。最初の位置から、X=1.5μm、Y=−1.5μmと素子分離溝の位置を移動させた。これにより、最初よりもW1は、3μm短くなり、W2は、最初よりも1.5μm長くなった。このとき、素子分離溝の深さを深くしていったときの温度特性を図17(b)に示す。IS1は、内側レーザ発光部の温度特性を、OS1は外側レーザ発光部の温度特性を示す。なお、IS1及びOS1は、素子分離溝幅が3μmである。一方、四角で示されたIS2は、素子分離溝幅が5μmの場合の内側レーザ発光部の温度特性を、菱形で示されたOS2は、素子分離溝幅が5μmの場合の外側レーザ発光部の温度特性を示す。
【0059】
これからわかるように、外側レーザ発光部における素子分離溝の位置の移動量が左右合わせて3μm程度では、素子分離溝の深さを変更しても、常に、内側のレーザ発光部の方が温度が高くなっており、サーマルクロストークの差を低減することができない。
【0060】
外側レーザ発光部における素子分離溝の位置の移動量をさらに増加させた場合の温度特性を図18に示す。図18(a)に示すように、外側レーザ発光部LD1の両側に形成されている2つの素子分離溝19aと19bを同じ移動量St移動させて、よりLD1に近づけるようにする。同時に、外側レーザ発光部LD4の両側に形成されている2つの素子分離溝19dと19eを同じ移動量St移動させて、よりLD4に近づけるようにする。このとき、内側レーザ発光部LD2の両側に形成されている2つの素子分離溝19bと19cとの間の幅、内側レーザ発光部LD3の両側に形成されている2つの素子分離溝19cと19dとの間の幅は、それぞれ移動量Stだけ広がることなる。
【0061】
このときの移動量St(μm)と、レーザ発光部の温度(℃)との関係を示すのが図18(b)である。IS1は、内側レーザ発光部の温度特性を、OS1は外側レーザ発光部の温度特性を示す。ここでは、素子分離溝の幅は3μm、深さは10μmとした。移動量Stが大きくなって、外側レーザ発光部を挟んで形成される2つの素子分離溝間の距離が小さくなるほどに、外側レーザ発光部の温度は上昇し、内側レーザ発光部の温度は低下する。
【0062】
そして、移動量Stが、4.5μm〜5μmの間で、ISとOSとが交わっており、内側レーザ発光部と外側レーザ発光部との温度差がなくなる移動量が現れていることがわかる。このように、内側レーザ発光部よりも、外側レーザ発光部の両側に形成される2つの素子分離溝間の幅を狭くしていくことにより、サーマルクロストークの差を低減することができる。
【0063】
ここで、上述したように、リッジ部間は28μmに形成されているので、外側レーザ発光部の2つの隣り合う素子分離溝間の距離は28μmである。ISとOSとが交わったときの移動量Stはおよそ4.75であるから、2つの隣り合う素子分離溝間の距離は28−9.5=18.5である。また、内側レーザ発光部の2つの隣り合う素子分離溝間の距離は、28+4.75=32.75である。この比率は、18.5/32.75=56(%)となる。
【0064】
図19では、素子分離溝の位置によって溝の深さを変えて、レーザ発光部の温度特性を調べた。図19(a)に示すように、レーザ発光部LD1、LD2、LD3、LD4を分離している素子分離溝を順にD1、D2、D3、D4、D5とする。素子分離溝D1〜D5の溝幅はすべて5μmとした。レーザ発光部LD4の両側の素子分離溝D4及びD5の移動量St(図18(a)のSt)を5μmとした。その他の素子分離溝についての移動はない。したがって、D1とD2の間の内側の幅は23μm、D2とD3の間の内側の幅も23μmである。しかし、D3とD4の間の内側の幅は28μmとなり、D4とD5の間の内側の幅は13μmとなった。また、素子分離溝D1、D3、D5の深さは5μmとし、内側レーザ発光部に関する素子分離溝であるD2、D4の深さを変化させて、温度特性を調べた。
【0065】
ISは内側レーザ発光部LD2、LD3の温度特性を、OSは外側レーザ発光部LD1、LD4の温度特性を示す。グラフの起点は、D1、D3、D5の深さである5μmと同じところから始まっているが、内側レーザ発光部を分離しているD2及びD4の深さが、外側レーザ発光部を分離しているD1、D3、D5の深さよりも深く形成した場合でも、内側レーザ発光部の温度の方が、外側レーザ発光部よりも常に高くなっており、サーマルクロストークの差を低減することができない。
【0066】
一方、図20は、外側レーザ発光部を分離している素子分離溝の深さを変化させて、温度特性を調べた。図20(a)に示すように、D1〜D5の溝幅は、すべて5μmに形成した。内側レーザ発光部の素子分離溝D2、D3、D4の深さは、5μmに形成した。また、図19(a)と同様、レーザ発光部LD4の両側の素子分離溝D4及びD5の移動量Stを5μmとした。その他の素子分離溝についての移動はない。これにより、D1とD2の間の内側の幅は23μm、D2とD3の間の内側の幅も23μmである。しかし、D3とD4の間の内側の幅は28μmとなり、D4とD5の間の内側の幅は13μmとなった。
【0067】
ここで、D1とD5の深さを、D2、D3、D4と同じ深さの5μmから順に大きくして行き、温度特性を調べた。ISは内側レーザ発光部LD2、LD3の温度特性を、OSは外側レーザ発光部LD1、LD4の温度特性を示す。
【0068】
内側レーザ発光部を分離しているD2、D3、及びD4の深さよりも、外側レーザ発光部を分離している2つの素子分離溝のうち外側の分離溝D1、D5の深さを深く形成していった場合、外側レーザ発光部の温度上昇率が内側レーザ発光部の温度上昇率よりも大きくなり、OSとISとが交わる点が出現する。約6.5μm程度の深さでOSとISとが交わる。このように、外側レーザ発光部を分離している2つの素子分離溝のうち外側の分離溝、すなわち最も外側に形成された2つの素子分離溝の深さを、内側レーザ発光部の両側に形成された素子分離溝よりも大きくすることで、サーマルクロストークの差を低減することができる。
【0069】
次に、素子分離溝の配置は、図19(a)、図20(a)と同じで、溝の深さを変化させる素子分離溝を変える。素子分離溝D1〜D5の溝幅は、すべて5μmである。中央の素子分離溝D3の深さは5μmに形成されている。ここで、素子分離溝D1、D2、D4、D5の深さを、D3と同じ深さの5μmから順に大きくして行き、温度特性を調べた。ISは内側レーザ発光部LD2、LD3の温度特性を、OSは外側レーザ発光部LD1、LD4の温度特性を示す。中央のD3の深さのみを固定して、他の4つの素子分離溝の深さを同様に深くしていくと、OSとISの曲線に示されるように、内側レーザ発光部よりも外側レーザ発光部の方が温度上昇率が高くなり、OSとISは6μm付近で交わり、その後は、外側レーザ発光部の温度の方が高くなっていく。
【0070】
このように、外側レーザ発光部の両側に形成された素子分離溝の深さを両方ともに、内側レーザ発光部に関する他の素子分離溝よりも深くすることで、サーマルクロストークの差を低減することができる。
【0071】
一方、サーマルクロストークの差を低減するために、図22に示すように、内側のレーザ発光部LD2、LD3の配線層の金メッキ層の面積を広げた構成を、図22に示す。配線層22a〜22dは、図2〜図4に示すように、金属層16の上にメッキ層17が積層された多層構造で構成されている。図22では、配線層22a、22bについてメッキ層17のみをリッジ部のストライプ方向に拡張して形成している。23a、23bの領域(点々で示される領域)が、この拡張された領域であり、特に、放熱性の高い金メッキで形成されている。
【0072】
金メッキ層23a、23bは、リッジ部上に積層されている絶縁膜15上に形成される。LD2に対する金メッキ層23aは、金属層の上に金メッキが施されたもので、絶縁膜15を取り除いて、リッジ部最上部の半導体であるp型GaAsキャップ層10上に形成されている。また、LD3に対する金メッキ層23bも、金属層の上に金メッキが施されたもので、絶縁膜15を取り除いて、リッジ部上部のリッジ電極であるp電極14上に形成されている。
【0073】
金メッキ層23aは、配線層22aと接触しておらず、配線層22aから離れたLD2のリッジ部上に形成される。同様に、金メッキ層23bは、配線層22bと接触しておらず、配線層22bから離れたLD3のリッジ部上に形成される。
【0074】
以上のように、熱が蓄積されやすい内側レーザ発光部のリッジ部上において、配線層に影響の無い領域に、金メッキ層を形成することにより、放熱性を高め、各レーザ発光部におけるサーマルクロストークの差を低減することができる。
【0075】
次に、配線層の長さの違いによるレーザ発光部の発光特性の変動について説明する。図1に示すように、4つのレーザ発光部のうち、内側に存在するLD2とLD3に対する配線層22a、22bの長さl1は、外側に存在するLD1とLD4に対する配線層22c、22dの長さl2よりも長く形成される。したがって、この配線層長さの違いにより、パッド電極から見た抵抗値は内側のLD2、LD3の方が高くなるので、LD1〜LD4まで同じ電圧を印加した場合は、レーザ駆動電流に変動が生じ、発光特性が悪くなっていた。また、同じレーザ駆動電流を流した場合は、内側レーザ発光部の方が発熱量が多くなるため、発光特性が悪くなっていた。
【0076】
そこで、LD1とLD4におけるp電極と配線層との接触面積よりもLD2とLD3におけるp電極と配線層との接触面積の方を大きくするように構成している。すなわち、p電極上を覆う絶縁膜15の開口面積(目抜き面積)を内側レーザ発光部(LD2、LD3)の方が、外側レーザ発光部(LD1、LD4)よりも大きくして、p電極14と配線層22a、22bとの接触面積を大きくしている。
【0077】
図1の配線層22a、22b、22c、22dの各領域における斜線部が、配線層22a、22b、22c、22dと各レーザ発光部のp電極との接触面積を示す。配線層22aはLD2のp電極と、配線層22bはLD3のp電極と、配線層22cはLD1のp電極と、配線層22dはLD4のp電極と接触している。
【0078】
上記のように、配線層とリッジ部上のp電極との接触面積を大きくすることにより、接触抵抗を低減することができる。これにより、内側のレーザ発光部全体の抵抗と外側のレーザ発光部全体の抵抗とをほぼ同じ程度にすることができるので、外側レーザ発光部の発光特性と内側レーザ発光部の発光特性を均一なものとすることができる。
【0079】
具体的には、LD1〜LD4におけるp電極上を覆う絶縁膜15の開口面積(目抜き面積)の横幅x1は、同じ長さになるので、開口面積を変えるためには、開口面積のストライプ方向の長さLa、Lb、Lc、Ldを変えれば良い。通常は、配線層のストライプ方向はすべてp電極と接触するように形成されるので、開口面積のストライプ方向の長さLa、Lb、Lc、Ldは、配線層22a、22b、22c、22dの長さと一致するような構成となる。
【0080】
したがって図1に示すように、配線層22aのストライプ方向の長さとp電極と配線層22aが接触する開口面積のストライプ方向の長さLaは一致している。配線層22bのストライプ方向の長さとp電極と配線層22bが接触する開口面積のストライプ方向の長さLbは一致している。配線層22cのストライプ方向の長さとp電極と配線層22cが接触する開口面積のストライプ方向の長さLcは一致している。配線層22dのストライプ方向の長さとp電極と配線層22aが接触する開口面積のストライプ方向の長さLdは一致している。
【0081】
また、内側レーザ発光部のLD2、LD3のLa、Lbは、外側レーザ発光部のLD1、LD4のLc、Ldよりも長く形成されている。これにより、内側レーザ発光部のLD2、LD3の開口面積を大きくして、接触抵抗を低減している。図1の場合、配線層22aのパッド電極21aからの距離l1と配線層22bのパッド電極21bからの距離l1は、等しいので、配線距離による抵抗の増加分は同じであると考えられるので、開口面積も等しくしておけば良く、La=Lbとしている。同様に、配線層22cのパッド電極21cからの距離l2と、配線層22dのパッド電極21dからの距離l2との関係も同じであるので、Lc=Ldとしている。
【0082】
図1の実施例では、LD1〜LD4の4個のレーザ発光部が並列配置された装置を示しているが、これに限定されるものではなく、N個のレーザ発光部が並列配置された装置にまで拡張することができる。この場合、N個の配線層が形成されることになるが、配線層とレーザ発光部のリッジ上の電極とを接触させる面積は、並列配置された半導体レーザ発光部の中央に近づくにしたがい、次第に大きく形成するようにすれば良い。
【0083】
配線層のパッド電極からの距離(電極配線距離)が長くなると、どのように抵抗が増加するのかを示すのが、図6である。これは、図1の構造、図5の層構造を持つレーザ発光部により測定した。レーザ発光部には一定の電流30mAを流すようにして測定した。図6の縦軸は抵抗(Ω)、横軸は電極配線距離(μm)を示す。電極配線距離が、長くなるにしたがって、抵抗値は、上昇している、電極配線距離50μm〜250μmの範囲で、4.9Ω程度から5.2Ω程度まで上昇している。
【0084】
図7は、リッジ部上に設けられたp電極と配線層との接触面積とレーザ発光部の抵抗との関係を示す。リッジ部上に設けられたp電極と配線層との接触面積の増減は、上述したように、配線層におけるストライプ方向の長さに相当する配線層幅La〜Ldを変化させることにより行なった。図7の縦軸は、レーザ発光部に一定の電流30mAを流した場合の抵抗値(Ω)を、横軸はp電極と配線層との接触面積(電極配線接触面積)に相当する電極配線接触幅(μm)を示す。
【0085】
配線距離に対する抵抗変化量は、図6より0.00004Ω/μm2であり、電極配線接触面積による抵抗値変化量は、図7より0.0005Ω/μm2である。4つのレーザ発光部が並列配置された
構造において、外側レーザ発光部と内側レーザ発光部の配線距離は28umである。このため、電極配線接触面積の面積比を
外側LD:内側LD=1:1.16〜1.40
とすることで、外側LDと内側LDの抵抗差を小さくすることができる。
【0086】
具体的には、電極配線接触面幅を220μm、電極配線接触面積を6160μm2とすると、内側レーザ発光部の配線抵抗増加分=6160×0.00004=0.2464である。10%以内差にするためには、0.2218〜0.2710である。この中間値を用いれば、必要な電極配線接触面積=0.2464/0.0005=492.8μm2である。ここで、10%以内差にするためには、443.6〜542である。外側レーザ発光部LD:内側レーザ発光部=1760(220×8より):1760+492.8(443.6〜542の中間値)=1:1.28(1.25〜1.31)となる。
【0087】
一方で、特性個体差を0.1Ωにすることが望ましいという観点から計算すると以下のようになる。電極配線接触面幅を220μm、電極配線接触面積を6160μm2とすると、内側レーザ発光部の配線抵抗増加分=6160×0.00004=0.2464である。これを0.1Ω以下の差にするためには、0.1464〜0.3464とする必要がある。この中間値を用いれば、必要な電極配線接触面積=0.2464/0.0005=492.8μm2である。ここで、0.1Ω以内の差にするためには、292.8〜692.8である。外側レーザ発光部:内側レーザ発光部=1760(220×8):1760+492.8(292.8〜692.8の中間値)=1:1.28(1.16〜1.40)となる。
【0088】
なお、配線層22a〜22dとp電極14とを接触させるための目抜き開口部の形状は、長方形よりも楕円形状の方が良い。長方形のように、角が存在すると、電界集中が角部で局所的に発生し、好ましくないためである。
【産業上の利用可能性】
【0089】
本発明のマルチビーム半導体レーザ装置は、特に、光ディスク装置、レーザビームプリンタ、複写機などの光源に適用することができる。
【符号の説明】
【0090】
20 積層構造体
21a パッド電極
21b パッド電極
21c パッド電極
21d パッド電極
22a 配線層
22b 配線層
22c 配線層
22d 配線層
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数個のレーザストライプを備え、各レーザストライプからレーザ光を出射させるマルチビーム半導体レーザ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体レーザは、色々な用途に用いられており、光ディスク装置、レーザビームプリンタ、複写機などの装置では、近年、動作の高速化や情報処理の大容量化が求められている。そこで、装置の高速化や大容量化に応じて、光源として複数個のレーザビーム(以下、マルチビーム)を出射するいわゆるマルチビーム半導体レーザ装置を用いることが提案されている。
【0003】
マルチビーム半導体レーザ装置は、ストライプ構造を有する半導体レーザ素子が、複数個アレイ状に並べられた構造を有している。そして、複数個の半導体レーザ素子にレーザ光を発生させて使用している。
【0004】
また、マルチビーム半導体レーザ装置では、各々のレーザ素子を独立に駆動することを目的として、互いに隣り合うレーザ素子の間に、レーザ素子を電気的に分離する分離溝が設けられている。高密度集積化が高められるにつれ、隣り合うレーザ素子間の間隔が狭められることにより、レーザ素子間の電気的クロストークが発生する。
【0005】
そこで、例えば、特許文献1に示すように、各発光部間と、発光部とリード部となる導電層との間に、高抵抗分離領域を設けて、電気的クロストークを低減することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−212538号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、従来のマルチビーム半導体レーザ装置では、電気的クロストークの問題以外に、サーマルクロストークの問題が発生する。サーマルクロストークとは、1つの半導体レーザ素子への電流注入による発熱が、他の半導体レーザ素子に影響を及ぼし、個々の半導体レーザ素子についてレーザ光出力の変動が発生することである。並列配置されたレーザ素子のうち、外側レーザ素子よりも内側レーザ素子の方が熱が蓄積されやすいため、温度が上昇しやすく、サーマルクロストーク特性は悪くなるという問題があった。
【0008】
本発明は、上述した課題を解決するために創案されたものであり、各レーザ素子のサーマルクロストーク特性を均一なものにし、レーザ素子間のレーザ光出力差を低減することができるマルチビーム半導体レーザ装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明のマルチビーム半導体レーザ装置は、基板上に並列配置された3以上のストライプ状の半導体レーザ発光部と、前記各半導体レーザ発光部を分離する分離溝と、前記並列配置された半導体レーザ発光部の両側に配置されたパッド電極と、前記パッド電極と隣り合う半導体レーザ発光部との間に形成された前記分離溝とを備え、前記半導体レーザ発光部のうち内側に配置された半導体レーザ発光部の両側に形成された2つの分離溝間の距離よりも、外側に配置された半導体レーザ発光部の両側に形成された2つの分離溝間の距離の方が小さいことを特徴とするマルチビーム半導体レーザ装置を主要な特徴とする。
【0010】
また、本発明のマルチビーム半導体レーザ装置は、基板上に並列配置された3以上のストライプ状の半導体レーザ発光部と、前記各半導体レーザ発光部を分離する分離溝と、前記並列配置された半導体レーザ発光部の両側に配置されたパッド電極と、前記パッド電極と隣り合う半導体レーザ発光部との間に形成された前記分離溝とを備え、前記分離溝のうち内側に形成された分離溝の深さよりも、外側に形成された分離溝の深さの方が大きいことを主要な特徴とする。
【0011】
また、本発明のマルチビーム半導体レーザ装置は、基板上に並列配置された3以上の半導体レーザ発光部と、前記各半導体レーザ発光部に設けられたストライプ状のリッジ部と、前記ストライプ状の各リッジ部上に形成されるリッジ電極と、前記各リッジ電極と電気的に接続するために、前記リッジ部のストライプ方向を横切る方向に形成された複数の配線層とを備え、前記並列配置された半導体レーザ発光部のうち内側に配置された半導体レーザ発光部では、前記配線層とは電気的に分離した位置における前記リッジ電極上に、金メッキ層を形成していることを主要な特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の一の構成では、基板上に並列配置された3以上のストライプ状の半導体レーザ発光部と、各半導体レーザ発光部を分離する分離溝と、並列配置された半導体レーザ発光部の両側に配置されたパッド電極と、パッド電極と隣り合う半導体レーザ発光部との間に形成された前記分離溝とを備えており、内側に配置された半導体レーザ発光部の両側に形成された2つの分離溝間の距離よりも、外側に配置された半導体レーザ発光部の両側に形成された2つの分離溝間の距離の方が小さく構成されている。
【0013】
また、他の構成では、分離溝のうち内側に形成された分離溝の深さよりも、外側に形成された分離溝の深さの方を大きく形成している。
【0014】
さらに、他の構成では、並列配置された半導体レーザ発光部のうち内側に配置された半導体レーザ発光部では、配線層とは電気的に分離した位置におけるリッジ電極上に、金メッキ層を形成している。
【0015】
このため、内側の半導体レーザ発光部の放熱性は良くなり、外側の半導体レーザ発光部では放熱性が悪くなる。これにより、サーマルクロストーク特性の個体差を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明のマルチビーム半導体レーザ装置を上側から見た平面図である。
【図2】図1のA−A’の断面を示す図である。
【図3】図1のB−B’の断面を示す図である。
【図4】図1のC−C’の断面を示す図である。。
【図5】マルチビーム半導体レーザ装置において、レーザ発光部1個分の半導体積層構造例を示す図である。
【図6】30mAのレーザ駆動電流を流したときのレーザ発光部の抵抗と電極配線距離との関係を示す図である。
【図7】30mAのレーザ駆動電流を流したときのレーザ発光部の抵抗と電極配線接触幅との関係を示す図である。
【図8】マルチビーム半導体レーザ装置の一製造工程を示す図である
【図9】マルチビーム半導体レーザ装置の一製造工程を示す図である
【図10】マルチビーム半導体レーザ装置の一製造工程を示す図である。
【図11】マルチビーム半導体レーザ装置の一製造工程を示す図である。
【図12】サーマルクロストークの測定方法示す図である。
【図13】4つのレーザ発光部を有するマルチビーム半導体レーザ装置の模式的断面を示す図である。
【図14】素子間分離溝とレーザ発光部との位置関係を示す模式図である。
【図15】素子間分離溝の溝幅3μmとし、素子間分離溝の深さとレーザ発光部の温度との関係を、外側レーザ発光部と内側レーザ発光部について示した図である。
【図16】素子間分離溝の溝幅5μmとし、素子間分離溝の深さとレーザ発光部の温度との関係を、外側レーザ発光部と内側レーザ発光部について示した図である。
【図17】素子間分離溝の位置を変化させた場合、素子間分離溝の深さとレーザ発光部の温度との関係を、外側レーザ発光部と内側レーザ発光部について示した図である。
【図18】素子間分離溝の位置を変化量とレーザ発光部の温度との関係を、外側レーザ発光部と内側レーザ発光部について示した図である。
【図19】内側レーザ発光部に関する素子間分離溝の深さとレーザ発光部の温度との関係を、外側レーザ発光部と内側レーザ発光部について示した図である。
【図20】外側レーザ発光部に関する素子間分離溝の深さとレーザ発光部の温度との関係を、外側レーザ発光部と内側レーザ発光部について示した図である。
【図21】中央の素子間分離溝以外は、溝の深さを同じように変化させた場合、素子間分離溝の深さとレーザ発光部の温度との関係を、外側レーザ発光部と内側レーザ発光部について示した図である。
【図22】内側のレーザ発光部のリッジ部上に配線層以外の領域に金メッキ層を形成した構成を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照して本発明の一実施形態を説明する。以下の図面の記載において、同一または類似の部分には同一または類似の符号を付している。構造に関する図面は模式的なものであり、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれている場合がある。
【0018】
図1は、マルチビーム半導体レーザ装置を上から見た平面図を示す。図2は、図1のA−A’断面を、図3は図1のB−B’断面を、図4はC−C’断面を示す。本実施例では、マルチビーム半導体レーザ装置は、レーザ発光部LD1、レーザ発光部LD2、レーザ発光部LD3、レーザ発光部LD4を有している。なお、図1では、図をわかりやすくするために、絶縁膜15を省いている。
【0019】
レーザ発光部LD1、LD2、LD3、LD4は、各々、図1の太い斜線で示すようなストライプ状のリッジ部を有している。これらの各リッジ部の横幅をx1とする。また、配線層22aは、リッジ部のストライプ方向の長さLa、横幅l1で形成されている。配線層の横幅とは、リッジ部のストライプ方向を横切る方向の長さを表わしており、図1の例では、ストライプ方向と直交する方向の長さになる。また、配線層22bは、リッジ部のストライプ方向の長さLb、横幅l1で形成されている。配線層22cは、リッジ部のストライプ方向の長さLb、横幅l2で、配線層22dは、リッジ部のストライプ方向の長さLd、横幅l2で形成されている。
【0020】
マルチビーム半導体レーザ装置の積層構造体20上にパッド電極21a、21b、21c、21dが形成されており、これらのパッド電極は、LD1〜LD4までのレーザ発光部に電流を供給するため、ワイヤーボンディング用の電極等に用いられる。また、リッジ部のストライプ方向を揃えて、並列配置されたレーザ発光部LD1、LD2、LD3、LD4の両側に、パッド電極が設けられている。
【0021】
図2では、パッド電極21aとパッド電極21bが示されているが、いずれもパッド電極から伸びた配線層は示されていない。図3では、LD2のリッジ部上部に形成されたp電極14とパッド電極21aが配線層22aで接続されている。LD3のリッジ部上部に形成されたp電極14とパッド電極21bが配線層22bで接続されている。また、積層構造体20は、平坦に積層された半導体積層体31とリッジ部と埋め込み層とで構成された半導体積層体32とで構成される。パッド電極21bと配線層22bは、金属層16上にメッキ層17が積層された多層構造で構成される。同様に、パッド電極21aと配線層22aは、金属層16上にメッキ層17が積層された多層構造で構成される。
【0022】
一方、図4に示されるように、LD1のリッジ部上部に形成されたp電極14とパッド電極21cが配線層22cで接続されている。LD4のリッジ部上部に形成されたp電極14とパッド電極21dが配線層22dで接続されている。パッド電極21cと配線層22cは、金属層16上にメッキ層17が積層された多層構造で構成される。同様に、パッド電極21dと配線層22dは、金属層16上にメッキ層17が積層された多層構造で構成される。LD1〜LD4におけるp電極上を覆う絶縁膜15の開口面積(目抜き面積)の横幅は、図1で示したLD1〜LD4のリッジ部の横幅x1と等しく形成される。
【0023】
上記のように、4つのレーザ発光部のうち、内側に存在するLD2とLD3に対する配線層22a、22bの長さl1は、外側に存在するLD1とLD4に対する配線層22c、22dの長さl2よりも長く形成される。
【0024】
図1の配線層22a、22b、22c、22dの各領域における斜線部が、配線層22a、22b、22c、22dと各レーザ発光部のp電極との接触面積を示す。配線層22aはLD2のp電極と、配線層22bはLD3のp電極と、配線層22cはLD1のp電極と、配線層22dはLD4のp電極と接触している。
【0025】
また、内側レーザ発光部のLD2、LD3のLa、Lbは、外側レーザ発光部のLD1、LD4のLc、Ldよりも長く形成されている。
【0026】
図1の実施例では、LD1〜LD4の4個のレーザ発光部が並列配置された装置を示しているが、これに限定されるものではなく、N個のレーザ発光部が並列配置された装置にまで拡張することができる。
【0027】
上記のようなレーザ発光部LD1〜LD4は、積層構造体における層構造は同じように形成されている。例えば、各レーザ発光部の構造を図5のようにすることができる。n型GaAs基板に,n型GaAsバッファ層2、n型AlGaAsクラッド層3、n型AlGaAsガイド層4、AlGaAs活性層5、p型AlGaAsガイド層6、第1p型AlGaAsクラッド層7、p型InGaPエッチングストップ層8が順に積層される。p型InGaPエッチングストップ層8上には、ストライプ構造を有する第2p型AlGaAsクラッド層9とp型GaAsキャップ層10が順に形成されており、第2p型AlGaAsクラッド層9とp型GaAsキャップ層10でリッジ部を構成する。また、第2p型AlGaAsクラッド層9とp型GaAsキャップ層10の側面には、n型AlGaAs埋め込み層11が形成されており、このn型AlGaAs埋め込み層11上にn型GaAs埋め込み層12が積層されてレーザ発光部の上面が平坦になるように構成される。
【0028】
次に、図8〜図11を用いて、図1〜図4に示されるマルチビーム半導体レーザ装置の製造方法を以下に説明する。なお、マルチビーム半導体レーザ装置における4つのレーザ発光部の製造方法は同じであるため、図8〜図11には、1つのレーザ発光部の周辺部分の製造方法のみを示している。
【0029】
まず、図8(a)に示すように、n型GaAs基板1上に,n型GaAsバッファ層2、n型AlGaAsクラッド層3、n型AlGaAsガイド層4、AlGaAs活性層5、p型AlGaAsガイド層6、第1p型AlGaAsクラッド層7、p型InGaPエッチングストップ層8、第2p型AlGaAsクラッド層9Aとp型GaAsキャップ層10Aを順に積層する。
【0030】
次に、酒石酸を用いてウエットエッチングを行い、ストライプ状のリッジ部を作製する(図8(b))。このとき、p型InGaPエッチングストップ層8が存在するため、リッジエッチングは、p型InGaPエッチングストップ層8で停止し、リッジ部を構成する第2p型AlGaAsクラッド層9とp型GaAsキャップ層10が形成される。
【0031】
図8(c)に示すように、第2p型AlGaAsクラッド層9とp型GaAsキャップ層10の側面に、n型AlGaAs埋め込み層11、n型GaAs埋め込み層12を順に積層し、平坦化する。
【0032】
図9(d)に示すように、LD1〜LD4の各レーザ発光部を分離する素子分離溝19をドライエッチングにより、形成する。
【0033】
次に、素子分離溝19に、素子間絶縁膜13を形成する(図9(e))。素子間絶縁膜13は、例えば、感光性ポリイミド樹脂等を用い、これを熱硬化させて作製する。p電極14を蒸着により作製する。p電極14は、例えば、チタン層の上に金層を積層したTi/Auの積層構造で構成される。
【0034】
次に、素子間絶縁膜13及びp電極14の上に、絶縁膜を形成し、配線層22a〜22dとp電極14とを接触させるための領域を形成するために、絶縁膜を目抜きエッチングを行い、図10(g)に示すような目抜き開口部を有する絶縁膜15を作製する。絶縁膜15には、SiO2等を用い、BHF等によるウエットエッチングにより、接触領域に相当するSiO2を取り除く。
【0035】
図10(i)に示すように、配線層22a〜22d及びパッド電極を構成する金属層16を、全面に蒸着する。金属層16には、Ti等が用いられる。配線層の領域からパッド電極の領域について、メッキ層17を形成する。メッキ層17は、Au等により形成される。
【0036】
図11(j)に示すように、メタルエッチングを行い、金属層16の配線層、パッド電極の領域に相当する部分を残し、他の部分を取り除く。n型GaAs基板1の裏面をを研磨し、n電極30を蒸着により形成する。n電極30は、例えば、AuGeの合金上に、Ni、Ti、Auの各金属が順に積層された多層金属膜(AuGe/Ni/Ti/Au)が用いられる(図11(k))。
【0037】
次に、サーマルクロストーク特性とドループ特性について説明する。図1のように、レーザ発光部が複数配列されていると、1つのレーザ発光部への電流注入による発熱が、他のレーザ発光部に影響を及ぼし、レーザ光出力の変動が個々のレーザ発光部に発生する。これがサーマルクロストークである。また、短い駆動時間と長い駆動時間ではレーザ光出力が変動する。この差がドループ量と呼ばれている。
【0038】
図13は、図1〜図4に示される4つのレーザ発光部を有するマルチビーム半導体レーザ装置の断面を模式的に示したものである。図13に示される素子間絶縁膜13a〜13eのうちの2つで挟まれたリッジ部を含む領域が1つのレーザ発光部に相当するものであり、向かって左側からLD1、LD2、LD3、LD4と4つのレーザ発光部が構成されている。図13(a)は、素子間絶縁膜13aと13bとの間の距離、素子間絶縁膜13bと13cとの間の距離、素子間絶縁膜13cと13dとの間の距離、素子間絶縁膜13dと13eとの間の距離がすべてWで、等しい場合を示す。
【0039】
図13(b)は、外側のレーザ発光部LD1の両側の素子間絶縁膜13aと13bの間の距離及び、LD4の両側の素子間絶縁膜13dと13eの間の距離とを短くするために、素子間絶縁膜13bと素子間絶縁膜13dを各々外側に1.5μmずらした位置に配置した構成を示す。図13(c)は、図13(b)よりもさらに、外側のレーザ発光部LD1とLD4の隣合う素子間絶縁膜の間の距離を短縮するために、素子間絶縁膜13aと13eをそれぞれ内側に1.5μmずらした位置に配置した構成を示す。
【0040】
各レーザ発光部LD1、LD2、LD3、LD4のドループ特性は、各レーザ発光部を単体で駆動させ、短時間による駆動と長時間による駆動とのレーザ光出力の差から測定できる。一方、サーマルクロストークは、以下のようにして測定することができる。図12に示すように、LD1、LD2、LD3、LD4のレーザ発光部を順に駆動していった後、順にレーザ発光部の駆動を停止していくことにより、サーマルクロストークとドループが足し合わされたデータを測定し、このデータからドループを引き算すれば、サーマルクロスロークが求められる。
【0041】
まず、図12に示すように、LD1のみを駆動して、レーザ光を発光させる。図12では、5μsの期間、LD1を駆動しているが、その期間のうち、中間の期間に当たる3μs(t1)の期間のレーザ光出力の時間平均P1を算出する。
【0042】
LD1の駆動開始から5μsの時間経過後、LD2も駆動させてレーザ光を出力させる。LD1+LD2の期間は、LD1及びLD2のレーザ発光部が駆動していることを示す。LD2の駆動開始から、所定時間経過後、LD3を駆動させる。LD1+LD2+LD3の期間は、LD1、LD2及びLD3のレーザ発光部が駆動していることを示す。LD3の駆動開始から、所定時間経過後、LD4を駆動させる。
【0043】
LD1+LD2+LD3+LD4の期間は、LD1、LD2、LD3及びLD4のレーザ発光部が駆動していることを示す。LD4の駆動開始した後、最初のLD1の駆動開始から500μs経過後、LD1の駆動のみを停止させる。この駆動停止前4μsの期間のうち、手前の3μs(t2)の期間におけるLD1〜LD4までの全体のレーザ光出力の時間平均P2を算出する。
【0044】
LD1の駆動停止後、LD2、LD3及びLD4が駆動中の状態であり、これを5μs継続させた後、LD2のみ駆動を停止させる。5μsの駆動継続期間中のうち、中間の3μs(t3)の期間におけるLD2〜LD4までの全体のレーザ光出力の時間平均P3を算出する。
【0045】
LD2の駆動停止後、所定の時間、LD3及びLD4の駆動を継続した後、LD3の駆動を停止する。LD3の駆動停止後、所定の時間、LD4の駆動を継続した後、LD4の駆動を停止し、LD1〜LD4のすべてのレーザ発光部の駆動をすべて停止する。
【0046】
以上のようにして、測定したP1、P2、P3により、レーザ発光部LD1に関するサーマルクロストークとドループとが加算された値SDを算出することができる。
すなわち、SD(%)=(1−(P2−P3)/P1)×100
SDには、LD1のサーマルクロストーク特性成分とドループ特性成分が含まれている。
以上のようにして、各LD1〜LD4までのSDを算出することができる。
【0047】
上記のようにして、各LD1〜LD4までのSDと、ドループ特性、SDからドループ特性を引いてサーマルクロストーク特性を算出したデータとをそれぞれ示した数値を図13(d)に示す。ドループ+サーマルクロストークからドループを引いたものが、サーマルクロストークとなっている。
【0048】
上記の熱解析には、以下の構造のものを用いた。熱源が1個のレーザ発光部について、60mWとなるようにした。熱源=投入電力−光出力=2V×40mA−10mW×2
この熱源は、リッジ下5μm×500um×112nmの領域である。マルチビーム半導体レーザ装置の大きさは、各レーザ発光部の共振器長は500μm、チップ幅は450μmとした。基板裏面熱伝達率は60000W/m2Kである。
【0049】
各レーザ発光部を構成するリッジ部と隣のリッジ部との間の距離は、28μmとなるように構成した。素子間絶縁膜はポリイミドで構成した。熱伝導率は、GaAs基板が55W/mK、熱源に相当する活性層部分はAl0.35GaAsで構成し、熱伝導率11.18W/mK、クラッド層はAl0.53GaAsで構成し、熱伝導率12.318 W/mK、 埋め込み層はGaAsで構成し、熱伝導率55W/mK、素子間絶縁膜を構成するポリイミドは熱伝導率0.2049W/mK、電極は金で構成し、熱伝導率315W/mKとした。
【0050】
図13(d)からわかるように、外側レーザ発光部LD1、LD4に対して、内側レーザ発光部LD2、LD3のサーマルクロストーク特性が悪い。図13(e)では、内側レーザ発光部LD2及びLD3のサーマルクロストークと、外側レーザ発光部LD1及びLD4のサーマルクロストークとを、図13(a)〜図13(c)の各構造について求めた。ここで、構造の欄のA、B、Cは、それぞれ図13(a)、図13(b)、図13(c)の構造に対応している。
【0051】
隣り合う素子間絶縁膜の間の距離が等しい構造A(隣り合う素子分離溝の間の距離が等しい構造A)では、内側レーザ発光部と外側レーザ発光部とのサーマルクロストーク差は、3.45となっている。しかし、最も外側に位置するレーザ発光部の両側に形成された素子分離溝間の距離を小さくするにしたがい、内側レーザ発光部と外側レーザ発光部とのサーマルクロストーク差は小さくなっていくことがわかる。構造Bでは、内側レーザ発光部と外側レーザ発光部とのサーマルクロストーク差は2.52、構造Cでは1.07である。これにより、素子分離溝の間の距離、すなわち素子分離溝19の位置を変更することで、サーマルクロストーク特性個体差を低減することができる。
【0052】
以下に、詳細に検討した結果を示す。図14は、図13(a)〜図13(c)に示したマルチビーム半導体レーザ装置をさらに簡略化した構造を示す。マルチビーム半導体レーザ装置における積層構造体の中に、素子間分離溝19a〜19eと、これによって分離されたレーザ発光部LD1〜LD4の活性層付近を示したものである。
【0053】
Dは、素子分離溝の深さ(μm)を示す。また、素子分離溝の溝幅は、3μmである。また、最初は、各レーザ発光部を分離するためにレーザ発光部の両側に形成された2つの素子間分離溝の間の距離が、各々等しいとして、この時点から素子間分離溝の位置を外側に移動させる場合の移動量を、Xμm、Yμmとしている。すなわち、素子分離溝19aと素子分離溝19bとの距離、素子分離溝19bと素子分離溝19cとの距離、素子分離溝19cと素子分離溝19dとの距離は、最初はすべて等しい。
【0054】
図15は、図14において、X=0、Y=0とし、Dを変化させた場合の内側レーザ発光部LD2、LD3の温度変化と、外側レーザ発光部LD1、LD4の温度変化を計算した結果を示す。内側レーザ発光部LD2、LD3の温度はLD2とLD3の平均温度を、外側レーザ発光部LD1、LD4の温度はLD1とLD4の平均温度を示す。
【0055】
ISが内側レーザ発光部LD2、LD3の温度変化を、OSが外側レーザ発光部LD1、LD4の温度変化を示す。ISとOSとを比較すればわかるように、素子間分離溝の位置を変えずに、各素子間分離溝の深さを深くしてみても、内側レーザ発光部の方が常に温度が高くなっていることがわかり、サーマルクロストークの差を低減することができない。
【0056】
図16は、図15と同様、素子分離溝の位置を変えずに、各素子分離溝の深さを深くした場合の内側レーザ発光部と外側レーザ発光部の温度変化を示しているが、各素子間分離溝の幅が3μmから5μmに変更した場合を示す。
【0057】
各素子分離溝の幅を5μmと広くした場合でも、各素子分離溝の深さを深くしてみても、内側レーザ発光部の方が常に温度が高くなっていることがわかり、サーマルクロストークの差を低減することができない。
【0058】
次に、図17(a)に示すように、素子分離溝の位置X及びYを変化させて、レーザ発光部を挟んで形成される2つの素子分離溝間の距離を、内側レーザ発光部と外側レーザ発光部とで変更した。内側レーザ発光部の2つの素子分離溝間の距離をW2、外側レーザ発光部の2つの素子分離溝間の距離、すなわち素子分離溝19aと19bとの間の距離及び素子分離溝19dと19eとの間の距離をW1とした。最初の位置から、X=1.5μm、Y=−1.5μmと素子分離溝の位置を移動させた。これにより、最初よりもW1は、3μm短くなり、W2は、最初よりも1.5μm長くなった。このとき、素子分離溝の深さを深くしていったときの温度特性を図17(b)に示す。IS1は、内側レーザ発光部の温度特性を、OS1は外側レーザ発光部の温度特性を示す。なお、IS1及びOS1は、素子分離溝幅が3μmである。一方、四角で示されたIS2は、素子分離溝幅が5μmの場合の内側レーザ発光部の温度特性を、菱形で示されたOS2は、素子分離溝幅が5μmの場合の外側レーザ発光部の温度特性を示す。
【0059】
これからわかるように、外側レーザ発光部における素子分離溝の位置の移動量が左右合わせて3μm程度では、素子分離溝の深さを変更しても、常に、内側のレーザ発光部の方が温度が高くなっており、サーマルクロストークの差を低減することができない。
【0060】
外側レーザ発光部における素子分離溝の位置の移動量をさらに増加させた場合の温度特性を図18に示す。図18(a)に示すように、外側レーザ発光部LD1の両側に形成されている2つの素子分離溝19aと19bを同じ移動量St移動させて、よりLD1に近づけるようにする。同時に、外側レーザ発光部LD4の両側に形成されている2つの素子分離溝19dと19eを同じ移動量St移動させて、よりLD4に近づけるようにする。このとき、内側レーザ発光部LD2の両側に形成されている2つの素子分離溝19bと19cとの間の幅、内側レーザ発光部LD3の両側に形成されている2つの素子分離溝19cと19dとの間の幅は、それぞれ移動量Stだけ広がることなる。
【0061】
このときの移動量St(μm)と、レーザ発光部の温度(℃)との関係を示すのが図18(b)である。IS1は、内側レーザ発光部の温度特性を、OS1は外側レーザ発光部の温度特性を示す。ここでは、素子分離溝の幅は3μm、深さは10μmとした。移動量Stが大きくなって、外側レーザ発光部を挟んで形成される2つの素子分離溝間の距離が小さくなるほどに、外側レーザ発光部の温度は上昇し、内側レーザ発光部の温度は低下する。
【0062】
そして、移動量Stが、4.5μm〜5μmの間で、ISとOSとが交わっており、内側レーザ発光部と外側レーザ発光部との温度差がなくなる移動量が現れていることがわかる。このように、内側レーザ発光部よりも、外側レーザ発光部の両側に形成される2つの素子分離溝間の幅を狭くしていくことにより、サーマルクロストークの差を低減することができる。
【0063】
ここで、上述したように、リッジ部間は28μmに形成されているので、外側レーザ発光部の2つの隣り合う素子分離溝間の距離は28μmである。ISとOSとが交わったときの移動量Stはおよそ4.75であるから、2つの隣り合う素子分離溝間の距離は28−9.5=18.5である。また、内側レーザ発光部の2つの隣り合う素子分離溝間の距離は、28+4.75=32.75である。この比率は、18.5/32.75=56(%)となる。
【0064】
図19では、素子分離溝の位置によって溝の深さを変えて、レーザ発光部の温度特性を調べた。図19(a)に示すように、レーザ発光部LD1、LD2、LD3、LD4を分離している素子分離溝を順にD1、D2、D3、D4、D5とする。素子分離溝D1〜D5の溝幅はすべて5μmとした。レーザ発光部LD4の両側の素子分離溝D4及びD5の移動量St(図18(a)のSt)を5μmとした。その他の素子分離溝についての移動はない。したがって、D1とD2の間の内側の幅は23μm、D2とD3の間の内側の幅も23μmである。しかし、D3とD4の間の内側の幅は28μmとなり、D4とD5の間の内側の幅は13μmとなった。また、素子分離溝D1、D3、D5の深さは5μmとし、内側レーザ発光部に関する素子分離溝であるD2、D4の深さを変化させて、温度特性を調べた。
【0065】
ISは内側レーザ発光部LD2、LD3の温度特性を、OSは外側レーザ発光部LD1、LD4の温度特性を示す。グラフの起点は、D1、D3、D5の深さである5μmと同じところから始まっているが、内側レーザ発光部を分離しているD2及びD4の深さが、外側レーザ発光部を分離しているD1、D3、D5の深さよりも深く形成した場合でも、内側レーザ発光部の温度の方が、外側レーザ発光部よりも常に高くなっており、サーマルクロストークの差を低減することができない。
【0066】
一方、図20は、外側レーザ発光部を分離している素子分離溝の深さを変化させて、温度特性を調べた。図20(a)に示すように、D1〜D5の溝幅は、すべて5μmに形成した。内側レーザ発光部の素子分離溝D2、D3、D4の深さは、5μmに形成した。また、図19(a)と同様、レーザ発光部LD4の両側の素子分離溝D4及びD5の移動量Stを5μmとした。その他の素子分離溝についての移動はない。これにより、D1とD2の間の内側の幅は23μm、D2とD3の間の内側の幅も23μmである。しかし、D3とD4の間の内側の幅は28μmとなり、D4とD5の間の内側の幅は13μmとなった。
【0067】
ここで、D1とD5の深さを、D2、D3、D4と同じ深さの5μmから順に大きくして行き、温度特性を調べた。ISは内側レーザ発光部LD2、LD3の温度特性を、OSは外側レーザ発光部LD1、LD4の温度特性を示す。
【0068】
内側レーザ発光部を分離しているD2、D3、及びD4の深さよりも、外側レーザ発光部を分離している2つの素子分離溝のうち外側の分離溝D1、D5の深さを深く形成していった場合、外側レーザ発光部の温度上昇率が内側レーザ発光部の温度上昇率よりも大きくなり、OSとISとが交わる点が出現する。約6.5μm程度の深さでOSとISとが交わる。このように、外側レーザ発光部を分離している2つの素子分離溝のうち外側の分離溝、すなわち最も外側に形成された2つの素子分離溝の深さを、内側レーザ発光部の両側に形成された素子分離溝よりも大きくすることで、サーマルクロストークの差を低減することができる。
【0069】
次に、素子分離溝の配置は、図19(a)、図20(a)と同じで、溝の深さを変化させる素子分離溝を変える。素子分離溝D1〜D5の溝幅は、すべて5μmである。中央の素子分離溝D3の深さは5μmに形成されている。ここで、素子分離溝D1、D2、D4、D5の深さを、D3と同じ深さの5μmから順に大きくして行き、温度特性を調べた。ISは内側レーザ発光部LD2、LD3の温度特性を、OSは外側レーザ発光部LD1、LD4の温度特性を示す。中央のD3の深さのみを固定して、他の4つの素子分離溝の深さを同様に深くしていくと、OSとISの曲線に示されるように、内側レーザ発光部よりも外側レーザ発光部の方が温度上昇率が高くなり、OSとISは6μm付近で交わり、その後は、外側レーザ発光部の温度の方が高くなっていく。
【0070】
このように、外側レーザ発光部の両側に形成された素子分離溝の深さを両方ともに、内側レーザ発光部に関する他の素子分離溝よりも深くすることで、サーマルクロストークの差を低減することができる。
【0071】
一方、サーマルクロストークの差を低減するために、図22に示すように、内側のレーザ発光部LD2、LD3の配線層の金メッキ層の面積を広げた構成を、図22に示す。配線層22a〜22dは、図2〜図4に示すように、金属層16の上にメッキ層17が積層された多層構造で構成されている。図22では、配線層22a、22bについてメッキ層17のみをリッジ部のストライプ方向に拡張して形成している。23a、23bの領域(点々で示される領域)が、この拡張された領域であり、特に、放熱性の高い金メッキで形成されている。
【0072】
金メッキ層23a、23bは、リッジ部上に積層されている絶縁膜15上に形成される。LD2に対する金メッキ層23aは、金属層の上に金メッキが施されたもので、絶縁膜15を取り除いて、リッジ部最上部の半導体であるp型GaAsキャップ層10上に形成されている。また、LD3に対する金メッキ層23bも、金属層の上に金メッキが施されたもので、絶縁膜15を取り除いて、リッジ部上部のリッジ電極であるp電極14上に形成されている。
【0073】
金メッキ層23aは、配線層22aと接触しておらず、配線層22aから離れたLD2のリッジ部上に形成される。同様に、金メッキ層23bは、配線層22bと接触しておらず、配線層22bから離れたLD3のリッジ部上に形成される。
【0074】
以上のように、熱が蓄積されやすい内側レーザ発光部のリッジ部上において、配線層に影響の無い領域に、金メッキ層を形成することにより、放熱性を高め、各レーザ発光部におけるサーマルクロストークの差を低減することができる。
【0075】
次に、配線層の長さの違いによるレーザ発光部の発光特性の変動について説明する。図1に示すように、4つのレーザ発光部のうち、内側に存在するLD2とLD3に対する配線層22a、22bの長さl1は、外側に存在するLD1とLD4に対する配線層22c、22dの長さl2よりも長く形成される。したがって、この配線層長さの違いにより、パッド電極から見た抵抗値は内側のLD2、LD3の方が高くなるので、LD1〜LD4まで同じ電圧を印加した場合は、レーザ駆動電流に変動が生じ、発光特性が悪くなっていた。また、同じレーザ駆動電流を流した場合は、内側レーザ発光部の方が発熱量が多くなるため、発光特性が悪くなっていた。
【0076】
そこで、LD1とLD4におけるp電極と配線層との接触面積よりもLD2とLD3におけるp電極と配線層との接触面積の方を大きくするように構成している。すなわち、p電極上を覆う絶縁膜15の開口面積(目抜き面積)を内側レーザ発光部(LD2、LD3)の方が、外側レーザ発光部(LD1、LD4)よりも大きくして、p電極14と配線層22a、22bとの接触面積を大きくしている。
【0077】
図1の配線層22a、22b、22c、22dの各領域における斜線部が、配線層22a、22b、22c、22dと各レーザ発光部のp電極との接触面積を示す。配線層22aはLD2のp電極と、配線層22bはLD3のp電極と、配線層22cはLD1のp電極と、配線層22dはLD4のp電極と接触している。
【0078】
上記のように、配線層とリッジ部上のp電極との接触面積を大きくすることにより、接触抵抗を低減することができる。これにより、内側のレーザ発光部全体の抵抗と外側のレーザ発光部全体の抵抗とをほぼ同じ程度にすることができるので、外側レーザ発光部の発光特性と内側レーザ発光部の発光特性を均一なものとすることができる。
【0079】
具体的には、LD1〜LD4におけるp電極上を覆う絶縁膜15の開口面積(目抜き面積)の横幅x1は、同じ長さになるので、開口面積を変えるためには、開口面積のストライプ方向の長さLa、Lb、Lc、Ldを変えれば良い。通常は、配線層のストライプ方向はすべてp電極と接触するように形成されるので、開口面積のストライプ方向の長さLa、Lb、Lc、Ldは、配線層22a、22b、22c、22dの長さと一致するような構成となる。
【0080】
したがって図1に示すように、配線層22aのストライプ方向の長さとp電極と配線層22aが接触する開口面積のストライプ方向の長さLaは一致している。配線層22bのストライプ方向の長さとp電極と配線層22bが接触する開口面積のストライプ方向の長さLbは一致している。配線層22cのストライプ方向の長さとp電極と配線層22cが接触する開口面積のストライプ方向の長さLcは一致している。配線層22dのストライプ方向の長さとp電極と配線層22aが接触する開口面積のストライプ方向の長さLdは一致している。
【0081】
また、内側レーザ発光部のLD2、LD3のLa、Lbは、外側レーザ発光部のLD1、LD4のLc、Ldよりも長く形成されている。これにより、内側レーザ発光部のLD2、LD3の開口面積を大きくして、接触抵抗を低減している。図1の場合、配線層22aのパッド電極21aからの距離l1と配線層22bのパッド電極21bからの距離l1は、等しいので、配線距離による抵抗の増加分は同じであると考えられるので、開口面積も等しくしておけば良く、La=Lbとしている。同様に、配線層22cのパッド電極21cからの距離l2と、配線層22dのパッド電極21dからの距離l2との関係も同じであるので、Lc=Ldとしている。
【0082】
図1の実施例では、LD1〜LD4の4個のレーザ発光部が並列配置された装置を示しているが、これに限定されるものではなく、N個のレーザ発光部が並列配置された装置にまで拡張することができる。この場合、N個の配線層が形成されることになるが、配線層とレーザ発光部のリッジ上の電極とを接触させる面積は、並列配置された半導体レーザ発光部の中央に近づくにしたがい、次第に大きく形成するようにすれば良い。
【0083】
配線層のパッド電極からの距離(電極配線距離)が長くなると、どのように抵抗が増加するのかを示すのが、図6である。これは、図1の構造、図5の層構造を持つレーザ発光部により測定した。レーザ発光部には一定の電流30mAを流すようにして測定した。図6の縦軸は抵抗(Ω)、横軸は電極配線距離(μm)を示す。電極配線距離が、長くなるにしたがって、抵抗値は、上昇している、電極配線距離50μm〜250μmの範囲で、4.9Ω程度から5.2Ω程度まで上昇している。
【0084】
図7は、リッジ部上に設けられたp電極と配線層との接触面積とレーザ発光部の抵抗との関係を示す。リッジ部上に設けられたp電極と配線層との接触面積の増減は、上述したように、配線層におけるストライプ方向の長さに相当する配線層幅La〜Ldを変化させることにより行なった。図7の縦軸は、レーザ発光部に一定の電流30mAを流した場合の抵抗値(Ω)を、横軸はp電極と配線層との接触面積(電極配線接触面積)に相当する電極配線接触幅(μm)を示す。
【0085】
配線距離に対する抵抗変化量は、図6より0.00004Ω/μm2であり、電極配線接触面積による抵抗値変化量は、図7より0.0005Ω/μm2である。4つのレーザ発光部が並列配置された
構造において、外側レーザ発光部と内側レーザ発光部の配線距離は28umである。このため、電極配線接触面積の面積比を
外側LD:内側LD=1:1.16〜1.40
とすることで、外側LDと内側LDの抵抗差を小さくすることができる。
【0086】
具体的には、電極配線接触面幅を220μm、電極配線接触面積を6160μm2とすると、内側レーザ発光部の配線抵抗増加分=6160×0.00004=0.2464である。10%以内差にするためには、0.2218〜0.2710である。この中間値を用いれば、必要な電極配線接触面積=0.2464/0.0005=492.8μm2である。ここで、10%以内差にするためには、443.6〜542である。外側レーザ発光部LD:内側レーザ発光部=1760(220×8より):1760+492.8(443.6〜542の中間値)=1:1.28(1.25〜1.31)となる。
【0087】
一方で、特性個体差を0.1Ωにすることが望ましいという観点から計算すると以下のようになる。電極配線接触面幅を220μm、電極配線接触面積を6160μm2とすると、内側レーザ発光部の配線抵抗増加分=6160×0.00004=0.2464である。これを0.1Ω以下の差にするためには、0.1464〜0.3464とする必要がある。この中間値を用いれば、必要な電極配線接触面積=0.2464/0.0005=492.8μm2である。ここで、0.1Ω以内の差にするためには、292.8〜692.8である。外側レーザ発光部:内側レーザ発光部=1760(220×8):1760+492.8(292.8〜692.8の中間値)=1:1.28(1.16〜1.40)となる。
【0088】
なお、配線層22a〜22dとp電極14とを接触させるための目抜き開口部の形状は、長方形よりも楕円形状の方が良い。長方形のように、角が存在すると、電界集中が角部で局所的に発生し、好ましくないためである。
【産業上の利用可能性】
【0089】
本発明のマルチビーム半導体レーザ装置は、特に、光ディスク装置、レーザビームプリンタ、複写機などの光源に適用することができる。
【符号の説明】
【0090】
20 積層構造体
21a パッド電極
21b パッド電極
21c パッド電極
21d パッド電極
22a 配線層
22b 配線層
22c 配線層
22d 配線層
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に並列配置された3以上のストライプ状の半導体レーザ発光部と、
前記各半導体レーザ発光部を分離する分離溝と、
前記並列配置された半導体レーザ発光部の両側に配置されたパッド電極と、
前記パッド電極と隣り合う半導体レーザ発光部との間に形成された前記分離溝とを備え、
前記半導体レーザ発光部のうち内側に配置された半導体レーザ発光部の両側に形成された2つの分離溝間の距離よりも、外側に配置された半導体レーザ発光部の両側に形成された2つの分離溝間の距離の方が小さいことを特徴とするマルチビーム半導体レーザ装置。
【請求項2】
基板上に並列配置された3以上のストライプ状の半導体レーザ発光部と、
前記各半導体レーザ発光部を分離する分離溝と、
前記並列配置された半導体レーザ発光部の両側に配置されたパッド電極と、
前記パッド電極と隣り合う半導体レーザ発光部との間に形成された前記分離溝とを備え、
前記分離溝のうち内側に形成された分離溝の深さよりも、外側に形成された分離溝の深さの方が大きいことを特徴とするマルチビーム半導体レーザ装置。
【請求項3】
前記外側に形成された分離溝は、前記パッド電極に最も近い分離溝であることを特徴とする請求項2に記載のマルチビーム半導体レーザ装置。
【請求項4】
前記外側に形成された分離溝は、中央に形成された分離溝以外のすべての分離溝が含まれることを特徴とする請求項2に記載のマルチビーム半導体レーザ装置。
【請求項5】
基板上に並列配置された3以上の半導体レーザ発光部と、
前記各半導体レーザ発光部に設けられたストライプ状のリッジ部と、
前記ストライプ状の各リッジ部上に形成されるリッジ電極と、
前記各リッジ電極と電気的に接続するために、前記リッジ部のストライプ方向を横切る方向に形成された複数の配線層とを備え、
前記並列配置された半導体レーザ発光部のうち内側に配置された半導体レーザ発光部では、前記配線層とは電気的に分離した位置における前記リッジ電極上に、金メッキ層を形成していることを特徴とするマルチビーム半導体レーザ装置。
【請求項1】
基板上に並列配置された3以上のストライプ状の半導体レーザ発光部と、
前記各半導体レーザ発光部を分離する分離溝と、
前記並列配置された半導体レーザ発光部の両側に配置されたパッド電極と、
前記パッド電極と隣り合う半導体レーザ発光部との間に形成された前記分離溝とを備え、
前記半導体レーザ発光部のうち内側に配置された半導体レーザ発光部の両側に形成された2つの分離溝間の距離よりも、外側に配置された半導体レーザ発光部の両側に形成された2つの分離溝間の距離の方が小さいことを特徴とするマルチビーム半導体レーザ装置。
【請求項2】
基板上に並列配置された3以上のストライプ状の半導体レーザ発光部と、
前記各半導体レーザ発光部を分離する分離溝と、
前記並列配置された半導体レーザ発光部の両側に配置されたパッド電極と、
前記パッド電極と隣り合う半導体レーザ発光部との間に形成された前記分離溝とを備え、
前記分離溝のうち内側に形成された分離溝の深さよりも、外側に形成された分離溝の深さの方が大きいことを特徴とするマルチビーム半導体レーザ装置。
【請求項3】
前記外側に形成された分離溝は、前記パッド電極に最も近い分離溝であることを特徴とする請求項2に記載のマルチビーム半導体レーザ装置。
【請求項4】
前記外側に形成された分離溝は、中央に形成された分離溝以外のすべての分離溝が含まれることを特徴とする請求項2に記載のマルチビーム半導体レーザ装置。
【請求項5】
基板上に並列配置された3以上の半導体レーザ発光部と、
前記各半導体レーザ発光部に設けられたストライプ状のリッジ部と、
前記ストライプ状の各リッジ部上に形成されるリッジ電極と、
前記各リッジ電極と電気的に接続するために、前記リッジ部のストライプ方向を横切る方向に形成された複数の配線層とを備え、
前記並列配置された半導体レーザ発光部のうち内側に配置された半導体レーザ発光部では、前記配線層とは電気的に分離した位置における前記リッジ電極上に、金メッキ層を形成していることを特徴とするマルチビーム半導体レーザ装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【公開番号】特開2012−204364(P2012−204364A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−64458(P2011−64458)
【出願日】平成23年3月23日(2011.3.23)
【出願人】(000116024)ローム株式会社 (3,539)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年3月23日(2011.3.23)
【出願人】(000116024)ローム株式会社 (3,539)
【Fターム(参考)】
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